説明

車両の牽引用フック支持装置

【課題】所定の支持強度を確保しつつ簡単且つコンパクトで安価に構成できる牽引用フック支持装置を提供する。
【解決手段】クラッシュボックス14Rの一対の側壁36、38にはそれぞれ内側へ軸対称に突き出す凹溝40、42が軸方向に設けられ、ナット部材24はクラッシュボックス14Rの軸心Oと同心に凹溝40、42の内側に配設されて、アーク溶接等によりその凹溝40、42に直接一体的に溶接される。その場合に、凹溝40、42が設けられることでクラッシュボックス14Rの強度が高められるとともに、その凹溝40、42を介してクラッシュボックス14Rに牽引荷重が偏りを生じることなく効率的に伝達されるため、牽引用フック22に対する所定の支持強度を確保しつつ、クラッシュボックス14Rを含む牽引用フック支持装置20を簡単且つコンパクトで安価に構成できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両の牽引用フック支持装置に係り、特に、所定の支持強度を確保しつつ簡単且つコンパクトで安価に構成できる牽引用フック支持装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
(a) 筒形状の側壁を有するとともに、その筒形状の軸方向が車両の前後方向となる姿勢で車体に一体的に設けられている車両構造物と、(b) その車両構造物の先端に前記筒形状の軸方向と平行に一体的に設けられたナット部材と、を有し、(c) そのナット部材に牽引用フックが螺合されて着脱可能に取り付けられる車両の牽引用フック支持装置が知られている。特許文献1に記載の装置はその一例で、ナット部材は、所定の取付用ブラケットを介して車両構造物であるサイドメンバーの先端部分に一対のボルトにより一体的に取り付けられるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−122863号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載の牽引用フック支持装置においては、直方体の箱形状を成す比較的大型の取付用ブラケットが用いられるとともに、その取付用ブラケットがサイドメンバーおよびクロスメンバーの両方に跨がるように取り付けられることにより、牽引用フックに対して所定の支持強度が得られるようになっており、構造が複雑で大掛かりになり重量が重くなるとともにコストが高くなるという問題があった。
【0005】
本発明は以上の事情を背景として為されたもので、その目的とするところは、所定の支持強度を確保しつつ簡単且つコンパクトで安価に構成できる牽引用フック支持装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成するために、第1発明は、(a) 筒形状の側壁を有するとともに、その筒形状の軸方向が車両の前後方向となる姿勢で車体に一体的に設けられている車両構造物と、(b) その車両構造物の先端に前記筒形状の軸方向と平行に一体的に設けられたナット部材と、を有し、(c) そのナット部材に牽引用フックが螺合されて着脱可能に取り付けられる車両の牽引用フック支持装置において、(d) 前記車両構造物の前記筒形状の側壁には、その筒形状の軸心Oまわりにその筒形状の内側または外側へ突き出すように折り曲げられた複数の溝が前記軸方向に設けられており、(e) 前記ナット部材は、前記軸心Oと同心に、またはその軸心Oと平行に前記複数の溝の内側に配設され、その複数の溝に一体的に固設されていることを特徴とする。
【0007】
第2発明は、第1発明の車両の牽引用フック支持装置において、(a) 前記溝の底部または頂部は、少なくとも前記ナット部材の外周面に面接触させられる部分がそのナット部材の外周面形状に対応した形状とされており、(b) 前記ナット部材は前記溝の内側に接するように配設され、溶接によりその溝に直接一体的に固設されていることを特徴とする。
【0008】
第3発明は、第1発明または第2発明の車両の牽引用フック支持装置において、(a) 前記溝は、前記筒形状の内側へ前記軸心Oに向かって突き出すように設けられた一対の凹溝で、(b) 前記ナット部材は、前記軸心Oと同心に配設されて前記一対の凹溝に一体的に固設されていることを特徴とする。
【0009】
第4発明は、第1発明〜第3発明の何れかの車両の牽引用フック支持装置において、前記複数の溝は、前記軸心Oに関して軸対称または面対称となるように設けられていることを特徴とする。
【0010】
上記「軸心Oに関して軸対称」とは、複数の溝が軸心Oまわりにおいて等角度間隔で軸心Oからの距離が等しい位置に設けられ、その配置が回転対称性を有することを意味し、軸心Oに対して対称的に一対設けられる場合の他、軸心Oまわりにおいて等角度間隔で3つ以上設けられる場合でも良い。また、「軸心Oに関して面対称」とは、軸心Oを通る任意の一平面に対して対称形状(面対称)であることを意味し、上記軸対称と同じになる場合もあるが軸対称でない場合を含む。
【0011】
第5発明は、第1発明の車両の牽引用フック支持装置において、前記ナット部材には取付用ブラケットが一体的に固設され、その取付用ブラケットを介して前記溝に一体的に固設されていることを特徴とする。
【0012】
第6発明は、第1発明〜第5発明の何れかの車両の牽引用フック支持装置において、(a) 前記車両構造物は、前記筒形状の先端に一体的に固設される先端カバーを備えている一方、(b) その先端カバーにはナット挿通穴が設けられ、前記ナット部材がそのナット挿通穴内を挿通させられるとともに、そのナット部材は前記溝の他にそのナット挿通穴の周縁部にも一体的に固設されていることを特徴とする。
【0013】
第7発明は、第1発明〜第6発明の何れかの車両の牽引用フック支持装置において、(a) 前記車両構造物は、軸方向に圧縮荷重を受けて蛇腹状に圧壊させられることにより衝撃エネルギーを吸収するクラッシュボックスで、(b) 前記溝は、前記クラッシュボックスの軸方向の全域に設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
このような車両の牽引用フック支持装置においては、車両構造物の筒形状の側壁に筒形状の内側または外側へ突き出す複数の溝が軸方向に設けられ、ナット部材は軸心Oと同心或いは平行に複数の溝の内側に配設されて、その溝に一体的に固設される。その場合に、複数の溝は折り曲げられて軸方向に設けられるため、車両構造物の稜線の数が多くなり、その車両構造物の軸方向荷重に対する強度が高くなるので、牽引用フックの支持強度を高めることができる。これにより、牽引用フックに対する所定の支持強度を確保しつつ、上記車両構造物およびナット部材を主体として牽引用フック支持装置を簡単且つコンパクトで安価に構成することができる。
【0015】
第2発明では、溝の底部または頂部のうち少なくともナット部材の外周面に面接触させられる部分はナット部材の外周面形状に対応した形状とされており、ナット部材は、その溝の内側に接するように配設されて溶接によりその溝に直接一体的に固設されるため、取付用ブラケットを用いることなくナット部材が溝に対して強固に固設されるとともに、牽引用フック支持装置が一層簡単且つコンパクトで安価に構成される。
【0016】
第3発明では、筒形状の内側へ軸心Oに向かって突き出すように一対の凹溝が設けられ、ナット部材は軸心Oと同心に配設されてその一対の凹溝に一体的に固設されるため、凹溝を3つ以上設けたり筒形状の外側へ突き出す凸溝を設けたりする場合に比較して、牽引用フック支持装置が一層簡単で且つコンパクトに構成される。
【0017】
第4発明では、複数の溝が軸心Oに関して軸対称または面対称となるように設けられているため、牽引時に牽引用フックからナット部材に加えられる牽引荷重が複数の溝から車両構造物に対して偏りを生じることなく効率的に伝達されるようになり、その牽引荷重が車両構造物によって適切に受け止められる。これにより、牽引用フックに対する所定の支持強度を確保しつつ、車両構造物およびナット部材を主体として牽引用フック支持装置を一層簡単且つコンパクトで安価に構成することができる。
【0018】
第5発明は、ナット部材が取付用ブラケットを介して溝に一体的に固設される場合で、取付用ブラケットを変更するだけで種々の車両構造物に対して所定の大きさのナット部材を簡単に取り付けることができる。
【0019】
第6発明は、車両構造物が先端カバーを備えている場合で、その先端カバーにはナット挿通穴が設けられ、ナット部材がそのナット挿通穴内を挿通させられるとともにナット挿通穴の周縁部に一体的に固設されるため、車両構造物に対してナット部材を一層強固に一定の姿勢で固設できるようになり、ナット部材から車両構造物に対して牽引荷重が一層適切に効率良く伝達されるとともに、その先端カバーと車両構造物双方の板厚を薄くして軽量化を図ることができる。
【0020】
第7発明は、車両構造物がクラッシュボックスの場合で、溝がクラッシュボックスの軸方向の全域に設けられて軸方向強度が高められることにより、牽引用フックに対する支持強度および衝撃エネルギー吸収性能が共に向上させられ、或いはそれ等の性能を確保しつつクラッシュボックスの板厚を薄くして軽量化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施例である車両の牽引用フック支持装置を説明する図で、(a) は牽引用フックが取り付けられた先端側部分を示す平面図、(b) は(a) の下側から見た側面図である。
【図2】図1の牽引用フック支持装置が配設されるクラッシュボックスを説明する図で、車両の上方から見た平面図である。
【図3】図1の牽引用フック支持装置を説明する図で、(a) は左斜め前上方から見た斜視図、(b) は溶接等により一体的に組み立てられる前の分解状態の各部品を示す斜視図である。
【図4】図1の牽引用フック支持装置を示す断面図で、(a) は図1(a) における IVA−IVA 断面図、(b) は図1(b) における IVB−IVB 断面図、(c) は図1(b) における IVC−IVC 断面図である。
【図5】本発明の他の実施例を説明する図で、図1に対応する図であり、(a) は牽引用フックが取り付けられた先端側部分を示す平面図、(b) は(a) の下側から見た側面図である。
【図6】図5の牽引用フック支持装置を説明する図で、(a) は左斜め前上方から見た斜視図、(b) は溶接等により一体的に組み立てられる前の分解状態の各部品を示す斜視図である。
【図7】図5の牽引用フック支持装置を示す断面図で、(a) は図5(a) におけるVIIA−VIIA断面図、(b) は図5(b) におけるVIIB−VIIB断面図、(c) は図5(b) におけるVIIC−VIIC断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の車両の牽引用フック支持装置は、車両前側に取り付けられるものでも車両後側に取り付けられるものでも良く、その前後の両方に適用することもできるが、前後の何れか一方のみに適用するだけでも差し支えない。また、このような牽引用フック支持装置は、一般に車両の左右の何れか一方に設けられるが、左右の両側に配設することも可能である。
【0023】
車両構造物としては、車体のサイドメンバー或いはそのサイドメンバーの先端部分などに一体的に設けられるクラッシュボックスが適当であるが、その他の車両構造物を利用することもできる。車両構造物の筒形状は、軸心Oまわりに複数の平板状の側壁を有する正方形や長方形等の断面が多角形の角筒形状が適当であるが、側壁の一部が円弧等の湾曲した形状とされていても差し支えない。また、この車両構造物は、例えば軸方向の全長に亘って一定の断面形状で構成されるが、一端から他端に向かうに従ってテーパ状に断面変化しているものでも良く、種々の態様が可能である。
【0024】
上記車両構造物は、筒形状の軸方向が車両の前後方向となる姿勢で車体に一体的に設けられるが、必ずしも厳密に前後方向である必要はなく、例えば前後方向に対して10°程度以下の角度で左右或いは上下方向へ傾斜する姿勢で配設されても良い。
【0025】
筒形状の側壁の断面形状は、例えば軸心Oに関して軸対称或いは面対称に構成することが望ましいが、軸対称や面対称以外の形状であっても良い。その場合の筒形状の軸心Oは、例えば断面形状の重心位置が適当である。
【0026】
車両構造物の側壁に設けられる溝は、筒形状の内側へ突き出すように折り曲げられた凹溝が適当であるが、細長い長方形断面の車両構造物でナット部材がその幅寸法よりも大径の場合には、ナット部材を嵌め入れることができるように外側へ突き出すように折り曲げられた凸溝を採用することもできる。これ等の溝は、例えば車両構造物の軸方向の全長に亘って設けられるが、少なくともナット部材が配設される部分に設けられれば良い。なお、内側へ突き出す凹溝のその内側の先端部分を底部といい、外側へ突き出す凸溝のその外側の先端部分を頂部という。
【0027】
ナット部材は、例えば円柱形状や角柱形状の部材にて構成され、その中心線上に牽引用フックを螺合できるめねじのねじ穴が設けられる。ねじ穴は、ナット部材を貫通するように設けられても良いが、ナット部材の途中まで設けるだけでも良い。
【0028】
溝の底部や頂部に直接ナット部材を溶接や接着剤等によって固設する場合、その底部や頂部は、ナット部材の外周面に面接触させられるようにナット部材の外周面形状に対応した形状(円弧形状など)とすることが望ましいが、例えば円柱形状のナット部材に対して平坦な平板状の底部や頂部とし、ナット部材の外周面に線接触させられるものでも良い。溝には、必要に応じて切欠や開口が設けられ、その切欠や開口の端縁に沿ってアーク溶接等によりナット部材が一体的に固設される。
【0029】
複数の溝が軸対称に設けられる場合、ナット部材を筒形状の軸心Oと同心に配設できる。複数の溝が面対称に設けられる場合、それ等の溝が軸心Oを挟んで設けられればナット部材を軸心Oと同心に配設できるが、一対の溝が軸心Oからずれた位置に設けられると、ナット部材も軸心Oからずれた位置に配設される。その場合でも、一対の溝に対して牽引荷重が偏りを生じることなく均一に伝達され、車両構造物によって適切に受け止められる。軸対称或いは面対称以外の形態で複数の溝を設けることも可能である。なお、ナット部材は複数の溝の内側に配設されてそれ等の溝に一体的に固設されるが、この場合の「内側」は個々の溝の内部を意味するのではなく、複数の溝の間であって車両構造物の内部側を意味する。
【0030】
第5発明では、ナット部材が取付用ブラケットを介して溝に一体的に固設されるが、例えば車両構造物が軸心Oに対して対称的に一対の溝を備えている場合、取付用ブラケットは断面がコの字形状の板材にて構成され、コの字形状の中央の平坦部に軸心Oと同心に設けられたナット挿通穴内にナット部材を挿通させて、そのナット挿通穴の周縁部に溶接等により一体的に固設するとともに、コの字形状の両側部において上記一対の溝に溶接等により一体的に固設すれば良い。ナット挿通穴として、比較的短い円筒部を有するバーリング穴等を設けることもできる。第6発明に記載の先端カバーに設けられるナット挿通穴についても、短い円筒部を有するバーリング穴等を設けるようにしても良い。
【0031】
第6発明では先端カバーが設けられ、その先端カバーのナット挿通穴の周縁部にもナット部材が一体的に固設されるが、先端カバーの有無に拘らず車両構造物に設けられた溝のみにナット部材を固設するようにしても良い。その場合は、ナット部材の姿勢が安定するように、ナット部材の軸方向の所定の長さ範囲を溝に固設したり、軸方向に離間した複数箇所を溝に固設したりすることが望ましい。
【0032】
筒形状の側壁を有する車両構造物は、例えば筒形状を軸方向と略平行に2分割した断面が略M字形状等の一対の半割体を薄板材にてプレス加工等により形成し、該一対の半割体の開口側の両側端縁部をそれぞれ重ね合わせた状態で一体的に接合することによって筒形状とすることができる。1枚の薄板材を所定の断面多角形状となるように曲げ加工して、その両側端縁部を互いに重ね合わせて一体的に接合しても良い。筒形状とするために側端縁部を重ね合わせて接合する手段としては、スポット溶接が適当であるが、アーク溶接等の他の溶接手段を採用することもできるし、リベット等の接合部材を用いて接合することも可能である。
【実施例1】
【0033】
以下、本発明の実施例を、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施例である車両の牽引用フック支持装置20を説明する図で、(a) は牽引用フック22が取り付けられた先端側部分を示す平面図、(b) は(a) の下側から見た側面図である。この牽引用フック支持装置20は、図2に示す右側のクラッシュボックス14Rに組み込まれたものであるが、左側のクラッシュボックス14Lに組み込むこともできるし、それ等のクラッシュボックス14R、14Lを備えていない場合は、サイドメンバー12R、12Lの先端部分に直接組み込むことも可能である。図1の(a) は車両のフロント側のバンパービーム10の近傍を車両の上方から見た概略平面図であり、左右のサイドメンバー12L、12Rの前端部にはそれぞれクラッシュボックス14L、14Rが配設されているとともに、バンパービーム10は、その左右の両端部においてクラッシュボックス14L、14Rに固定されている。
【0034】
クラッシュボックス14R、14Lは筒形状の側壁を備えており、車両前方から衝撃が加えられて軸圧縮荷重を受けると蛇腹状に圧壊させられ、この時の変形で衝撃エネルギーを吸収し、サイドメンバー12R、12L等の車両の構造部材に加えられる衝撃を緩和する。この蛇腹状の圧壊は、クラッシュボックス14R、14Lが軸方向の多数箇所で連続的に座屈(「く」の字状の折れ曲がり)することによって生じる現象で、通常はバンパービーム10側すなわち入力側から座屈が開始し、時間の経過と共に車体側へ進行する。バンパービーム10は、バンパーのリインフォースメント(補強部材)および取付部材として機能するもので、合成樹脂等から成るバンパー本体16が一体的に取り付けられるようになっている。
【0035】
牽引用フック支持装置20は、上記クラッシュボックス14Rにナット部材24を一体的に固設したもので、図1、図3、および図4を参照して具体的に説明する。図3は、牽引用フック支持装置20を説明する図で、(a) は左斜め前上方から見た斜視図、(b) は溶接等により一体的に組み立てられる前の分解状態の各部品を示す斜視図である。また、図4は、牽引用フック支持装置20の各部の断面図で、(a) は図1(a) における IVA−IVA 断面図、(b) は図1(b) における IVB−IVB 断面図、(c) は図1(b) における IVC−IVC 断面図である。図3および図4は、ナット部材24に螺合されて着脱可能に取り付けられる牽引用フック22が取り外された状態である。
【0036】
クラッシュボックス14Rは、平板状の複数の側壁を有する断面多角形状の中空の筒形状の筒体30を備えており、その筒体30の後端部には取付プレート32(図2参照)が一体的に溶接されている。そして、筒体30の軸方向が車両の前後方向と略平行となる姿勢で、取付プレート32を介して図示しないボルト等により右サイドメンバー12Rの先端部分に一体的に固定される。また、筒体30の先端部には、先端カバー34がスポット溶接等により一体的に固設されており、その先端カバー34にバンパービーム10が一体的に固定されるようになっている。本実施例では、このクラッシュボックス14Rが車両構造物に相当する。
【0037】
上記筒体30は、軸方向に対して直角な断面が上下方向に長い長方形状を成しているとともに、その長方形断面において互いに平行な2辺を構成している幅広の平板状の左右の一対の側壁36、38には、その中央部分すなわち筒体30の軸心Oに対して軸対称の部分にそれぞれ内側へ台形状に突き出すように左右対称的に折り曲げられた凹溝40、42が軸方向の全長に亘って設けられている。凹溝40、42の断面形状は略等脚台形で、軸心Oに関して軸対称であり且つ軸心Oを通る上下方向の一平面に対して面対称である。本実施例では、筒体30についても、軸心Oに関して軸対称であり且つ面対称である。そして、このように凹溝40、42が設けられると、筒体30の軸方向に延びる稜線の数が多くなるため、クラッシュボックス14Rの軸方向荷重に対する強度が高くなる。
【0038】
このような筒体30は、図3(b) の分解斜視図から明らかなように、軸方向と略平行に略対称的に左右に2分割した断面が略M字形状の一対の半割体44および46にて構成されている。一対の半割体44、46は、それぞれ薄板材にプレスによる曲げ加工等が施されることによって形成されるとともに、それ等の一対の半割体44、46の開口側の上下の両側端縁部をそれぞれ重ね合わせてスポット溶接等により一体的に接合することにより筒体30が構成されている。この筒体30は、断面形状が軸方向において一定のストレート形状を成しているが、前記先端カバー34が固設される先端縁は、バンパービーム10の形状に合わせて軸心Oに対して傾斜させられている。先端カバー34は、筒体30の先端形状に対応する長方形の前板部48と、その前板部48の周縁部から筒体30側へ折り曲げられた複数の折曲げ部50とを備えており、前板部48が筒体30の先端縁に対応して軸心Oに対して傾斜する姿勢で複数の折曲げ部50がそれぞれ筒体30の先端部の内側へ略平行に嵌め入れられた状態で、スポット溶接、アーク溶接等によりその筒体30に一体的に固設されている。上記筒体30の軸心Oは、クラッシュボックス14Rの軸心でもある。
【0039】
前記ナット部材24は円柱形状の部材で、その中心線上に前記牽引用フック22のねじ軸が螺合されるねじ穴52が設けられているとともに、クラッシュボックス14Rの軸心Oと同心に前記凹溝40、42の内側に配設され、ねじ穴52が設けられた前端側の一部が前記先端カバー34から前方へ突き出す状態でクラッシュボックス14Rに一体的に固設されている。凹溝40、42は、ナット部材24の外径寸法に対応して内側への突出寸法が定められており、その底部40e、42eがナット部材24の外周面に接している。底部40e、42eは、それぞれナット部材24の外周面に面接触させられるようにナット部材24の外周面形状に対応した形状、具体的には断面が円弧の部分円筒形状とされており、ナット部材24がこれ等の底部40e、42e間に嵌合されることにより軸心Oと同心に位置決めされる。そして、その底部40e、42eのうちナット部材24に接触する部分にはそれぞれ開口40h、42hが設けられており、その開口40h、42hの上端縁および下端縁にそれぞれアーク溶接等が施されることにより、ナット部材24が凹溝40、42に直接一体的に溶接されている。開口40h、42hの軸方向寸法は、所定の接合強度が得られるように定められており、その軸方向にアーク溶接等が連続的または断続的に施される。第1溶接部W1は、上記ナット部材24と凹溝40、42との溶接部で、凹溝40、42が設けられた左右の側壁36、38はナット取付用側壁である。
【0040】
前記先端カバー34の前板部48には、筒体30の軸心Oと同心にナット挿通穴54が設けられている。ナット挿通穴54は、ナット部材24の外径と同じか僅かに大きい径寸法で設けられており、ナット部材24は、このナット挿通穴54内を挿通させられて一部が先端カバー34よりも前方に突き出しているとともに、アーク溶接等により外周面がナット挿通穴54の周縁部に一体的に溶接されている。第2溶接部W2は、このナット部材24と先端カバー34との溶接部である。先端カバー34の前板部48にはまた、上記ナット挿通穴54よりも外周側に円錐状に筒体30側へ凹んだテーパ凹部56が筒体30の軸心Oと同心に設けられており、ナット挿通穴54はテーパ凹部56の底部に設けられている。このようなテーパ凹部56が設けられることにより、先端カバー34の軸心Oと平行な軸方向荷重に対する強度が高められ、ナット部材24の支持強度、更には牽引用フック22の支持強度が高くなる。
【0041】
ここで、本実施例の牽引用フック支持装置20は、クラッシュボックス14Rの複数の平板状の側壁の中で軸対称に設けられた左右の一対の側壁36、38がナット取付用側壁として用いられ、その一対の側壁36、38にはそれぞれ筒体30の内側へ軸対称に突き出す凹溝40、42が軸方向に設けられ、ナット部材24はクラッシュボックス14Rの軸心Oと同心に凹溝40、42の内側に配設されて、その凹溝40、42に一体的に溶接される。その場合に、一対の凹溝40、42は折り曲げられて軸方向に設けられるため、筒形状を成すクラッシュボックス14Rの稜線の数が多くなり、そのクラッシュボックス14Rの軸方向荷重に対する強度が高くなるとともに、一対の凹溝40、42は軸対称に設けられてナット部材24はクラッシュボックス14Rと同心に配設されるため、牽引時に牽引用フック22からナット部材24に加えられる牽引荷重がクラッシュボックス14Rに対して偏りを生じることなく効率的に伝達されるようになり、その牽引荷重がクラッシュボックス14R、更には右サイドメンバー12Rによって適切に受け止められる。
【0042】
このように、本実施例の牽引用フック支持装置20によれば、凹溝40、42が設けられることでクラッシュボックス14Rの強度が高められるため、牽引用フック22の支持強度を高めることができる。これにより、牽引用フック22に対する所定の支持強度を確保しつつ、クラッシュボックス14Rおよびナット部材24を主体として牽引用フック支持装置20を簡単且つコンパクトで安価に構成することができる。
【0043】
また、本実施例では、凹溝40、42の底部40e、42eがナット部材24の外周面に面接触させられるようにナット部材24の外周面形状に対応した部分円筒形状とされており、ナット部材24は、その凹溝40、42の内側に接するように配設されて溶接によりそれ等の凹溝40、42に直接一体的に固設されるため、取付用ブラケットを用いることなくナット部材24が凹溝40、42に対して強固に固設されるとともに、牽引用フック支持装置20が一層簡単且つコンパクトで安価に構成される。
【0044】
また、本実施例では、軸心Oを挟んで対称的に位置する互いに平行な左右の一対の側壁36、38がナット取付用側壁で、その一対の側壁36、38にそれぞれ筒形状の内側へ軸心Oに向かって突き出すように一対の凹溝40、42が設けられ、その凹溝40、42にナット部材24が固設されるため、3つ以上の凹溝を設けたり筒形状の外側へ突き出す凸溝を設けたりする場合に比較して、牽引用フック支持装置20が一層簡単で且つコンパクトに構成される。
【0045】
また、本実施例では、一対の凹溝40、42が軸対称に設けられているため、牽引時に牽引用フック22からナット部材24に加えられる牽引荷重が一対の凹溝40、42からクラッシュボックス14Rに対して偏りを生じることなく効率的に伝達されるようになり、その牽引荷重がクラッシュボックス14R、更には右サイドメンバー12Rによって適切に受け止められる。これにより、牽引用フック22に対する所定の支持強度を確保しつつ、クラッシュボックス14Rおよびナット部材24を主体として牽引用フック支持装置20を一層簡単且つコンパクトで安価に構成することができる。特に、本実施例ではナット部材24が軸心Oと同心に配設されるため、牽引時に牽引用フック22からナット部材24に加えられる牽引荷重が一層バランス良くクラッシュボックス14Rに対して伝達されるようになり、そのクラッシュボックス14Rによって適切に受け止められる。
【0046】
また、クラッシュボックス14Rは先端カバー34を一体的に備えているとともに、その先端カバー34にはナット挿通穴54が設けられ、ナット部材24がそのナット挿通穴54内を挿通させられるとともにナット挿通穴54の周縁部にアーク溶接等により一体的に溶接されるため、クラッシュボックス14Rに対してナット部材24を一層強固に軸心Oと同心の一定の姿勢で固設できるようになり、ナット部材24からクラッシュボックス14Rに対して牽引荷重が一層適切に効率良く伝達されるとともに、それ等の先端カバー34およびクラッシュボックス14Rの双方の板厚を薄くして軽量化を図ることができる。
【0047】
また、本実施例の牽引用フック支持装置20は、車両構造物としてクラッシュボックス14Rに組み込まれた場合で、凹溝40、42がクラッシュボックス14Rの軸方向の全域に設けられて軸方向強度が高められることにより、牽引用フック22に対する支持強度および衝撃エネルギー吸収性能が共に向上させられ、或いはそれ等の性能を確保しつつクラッシュボックス14Rの板厚を薄くして軽量化を図ることができる。
【実施例2】
【0048】
次に、本発明の他の実施例を説明する。なお、以下の実施例において前記実施例と実質的に共通する部分には同一の符号を付して詳しい説明を省略する。
【0049】
図5〜図7の牽引用フック支持装置60は、取付用ブラケット62を用いてナット部材24が一対の凹溝40、42に固設される場合で、図5〜図7はそれぞれ前記図1、図3、図4に対応する図である。すなわち、図5は牽引用フック支持装置60を示す図で、(a) は牽引用フック22が取り付けられた先端側部分を示す平面図、(b) は(a) の下側から見た側面図である。図6の(a) は、牽引用フック支持装置60を左斜め前上方から見た斜視図で、(b) は溶接等により一体的に組み立てられる前の分解状態の各部品を示す斜視図である。図7は、牽引用フック支持装置60の各部の断面図で、(a) は図5(a) におけるVIIA−VIIA断面図、(b) は図5(b) におけるVIIB−VIIB断面図、(c) は図5(b) におけるVIIC−VIIC断面図である。
【0050】
凹溝40、42の底部40e、42eは、前記実施例とは異なり、平坦な平板形状を成しているとともに、ナット部材24の径寸法よりも大きな離間寸法を隔てて互いに平行に設けられている。また、この底部40e、42eには、前記開口40h、42hの代わりに前端部に矩形の切欠40c、42cが設けられており、この切欠40c、42cが設けられた部分に取付用ブラケット62が固設される。取付用ブラケット62は、図6の(b) から明らかなように、断面がコの字形状の板材にて構成されており、コの字形状の中央の平坦な前板部64と、その前板部64の両端から略直角に筒体30側へ折り曲げられた一対の折曲げ部66とを有し、前板部64には筒体30の軸心Oと同心にナット挿通穴68が設けられている。ナット挿通穴68は、ナット部材24の外径と同じか僅かに大きい径寸法で設けられており、ナット部材24は、このナット挿通穴68内を挿通させられているとともに、アーク溶接等により外周面がナット挿通穴68の周縁部に一体的に溶接されている。図7に示す第3溶接部W3は、このナット部材24と取付用ブラケット62との溶接部である。
【0051】
そして、このようにナット部材24が一体的に固設された取付用ブラケット62は、その両側部の折曲げ部66が筒体30の一対の凹溝40、42の内側に接するように略平行に嵌め入れられ、上記切欠40c、42cの端縁に沿ってアーク溶接等が施されることにより、その凹溝40、42の底部40e、42eに一体的に溶接される。これにより、ナット部材24が、一対の凹溝40、42の内側であって筒体30の軸心Oと同心となる位置に一体的に配設される。第4溶接部W4は、この取付用ブラケット62と凹溝40、42との溶接部である。
【0052】
本実施例の牽引用フック支持装置60においても、凹溝40、42が設けられることでクラッシュボックス14Rの強度が高められるとともに、取付用ブラケット62から凹溝40、42を介してクラッシュボックス14Rに牽引荷重が偏りを生じることなく効率的に伝達されるため、牽引用フック22に対する所定の支持強度を確保しつつ、クラッシュボックス14Rを含む牽引用フック支持装置60を簡単且つコンパクトで安価に構成できるなど、前記実施例と同様の作用効果が得られる。加えて、本実施例では、ナット部材24が取付用ブラケット62を介して凹溝40、42に一体的に固設されるため、取付用ブラケット62を変更するだけで種々の車両の車両構造物に対して所定の大きさのナット部材24を簡単に取り付けることができる。
【0053】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これ等はあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0054】
14R:クラッシュボックス(車両構造物) 20、60:牽引用フック支持装置 22:牽引用フック 24:ナット部材 34:先端カバー 40、42:凹溝 40e、42e:底部 54:ナット挿通穴 62:取付用ブラケット O:軸心

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒形状の側壁を有するとともに、該筒形状の軸方向が車両の前後方向となる姿勢で車体に一体的に設けられている車両構造物と、
該車両構造物の先端に前記筒形状の軸方向と平行に一体的に設けられたナット部材と、
を有し、該ナット部材に牽引用フックが螺合されて着脱可能に取り付けられる車両の牽引用フック支持装置において、
前記車両構造物の前記筒形状の側壁には、該筒形状の軸心Oまわりに該筒形状の内側または外側へ突き出すように折り曲げられた複数の溝が前記軸方向に設けられており、
前記ナット部材は、前記軸心Oと同心に、または該軸心Oと平行に前記複数の溝の内側に配設され、該複数の溝に一体的に固設されている
ことを特徴とする車両の牽引用フック支持装置。
【請求項2】
前記溝の底部または頂部は、少なくとも前記ナット部材の外周面に面接触させられる部分が該ナット部材の外周面形状に対応した形状とされており、
前記ナット部材は前記溝の内側に接するように配設され、溶接により該溝に直接一体的に固設されている
ことを特徴とする請求項1に記載の車両の牽引用フック支持装置。
【請求項3】
前記溝は、前記筒形状の内側へ前記軸心Oに向かって突き出すように設けられた一対の凹溝で、
前記ナット部材は、前記軸心Oと同心に配設されて前記一対の凹溝に一体的に固設されている
ことを特徴とする請求項1または2に記載の車両の牽引用フック支持装置。
【請求項4】
前記複数の溝は、前記軸心Oに関して軸対称または面対称となるように設けられている
ことを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の車両の牽引用フック支持装置。
【請求項5】
前記ナット部材には取付用ブラケットが一体的に固設され、該取付用ブラケットを介して前記溝に一体的に固設されている
ことを特徴とする請求項1に記載の車両の牽引用フック支持装置。
【請求項6】
前記車両構造物は、前記筒形状の先端に一体的に固設される先端カバーを備えている一方、
該先端カバーにはナット挿通穴が設けられ、前記ナット部材が該ナット挿通穴内を挿通させられるとともに、該ナット部材は前記溝の他に該ナット挿通穴の周縁部にも一体的に固設されている
ことを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の車両の牽引用フック支持装置。
【請求項7】
前記車両構造物は、軸方向に圧縮荷重を受けて蛇腹状に圧壊させられることにより衝撃エネルギーを吸収するクラッシュボックスで、
前記溝は、前記クラッシュボックスの軸方向の全域に設けられている
ことを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載の車両の牽引用フック支持装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−156987(P2011−156987A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−20902(P2010−20902)
【出願日】平成22年2月2日(2010.2.2)
【出願人】(000241496)豊田鉄工株式会社 (104)
【Fターム(参考)】