車両の衝突を回避するための装置
【課題】交差点の見通し範囲を把握し、的確なタイミングで他車両との衝突回避動作を発動する。
【解決手段】車両の周辺の障害物の位置に基づいて、車両から前方を見通せる見通し範囲を算出する。見通し範囲外から車両に向けて接近してくる移動物体と衝突することなく、交差点を該車両が通過することが可能な通過可能速度VTを、見通し範囲に基づいて算出する。通過可能速度VTよりも車両の現在の速度VNが小さいとき、衝突回避のための制御を発動する。また、車両が交差点に進入するまでに停止可能な最大速度VSを算出し、車両の現在の速度VNが該停止可能速度VSより小さいときには、該現在の速度が通過可能速度VTより小さくても、衝突回避のための制御の発動を抑制する。見通し範囲の大きさに応じた通過可能速度VTを算出するので、見通し範囲に応じて運転者が取り得る速度を考慮しつつ、衝突回避の制御を適切なタイミングで発動させる。
【解決手段】車両の周辺の障害物の位置に基づいて、車両から前方を見通せる見通し範囲を算出する。見通し範囲外から車両に向けて接近してくる移動物体と衝突することなく、交差点を該車両が通過することが可能な通過可能速度VTを、見通し範囲に基づいて算出する。通過可能速度VTよりも車両の現在の速度VNが小さいとき、衝突回避のための制御を発動する。また、車両が交差点に進入するまでに停止可能な最大速度VSを算出し、車両の現在の速度VNが該停止可能速度VSより小さいときには、該現在の速度が通過可能速度VTより小さくても、衝突回避のための制御の発動を抑制する。見通し範囲の大きさに応じた通過可能速度VTを算出するので、見通し範囲に応じて運転者が取り得る速度を考慮しつつ、衝突回避の制御を適切なタイミングで発動させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両の衝突を回避するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両が他の車両等の移動物体と衝突することを回避するための様々な装置が提案されている。下記の特許文献1には、車両の前方にT字路があると判断すると、フロントカメラにより撮像された画像データを用いて、見通しの良いT字路かどうかを判別する。見通しの悪いT字路と判別すると、車両の側方を撮像可能なブラインドコーナカメラを起動させて、その撮像した画像をディスプレイに表示する。また、下記の特許文献2には、車両に搭載された端末器が他車両との衝突可能性を判定し、衝突可能性がある場合に、他車両側で衝突の報知が既に行われている場合には、自車両における衝突の報知を抑制することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−140992号公報
【特許文献2】特開2005−10937号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
自車両が交差点に進入するとき、自車両から見通せる範囲の大きさに応じて、運転者は交差点に進入する自車両の速度を選択している。すなわち、見通せる範囲が小さいほど、接近してくる移動物体が近づかないと認識できないため、速度を下げる。一方、見通せる範囲が大きい場合は、見通しが小さい場合と比べて交差点手前側で接近物体の存在有無を確認できるので、上記ほど速度を下げない場合が多い。このような場合に自車速度や交差点までの距離といった条件のみから危険性判断を行い、衝突回避の動作を発動させると、衝突回避の動作が過剰に発動されるおそれがあり、運転者にわずらわしさを感じさせるおそれがある。
【0005】
また、自車両から見通せる範囲の大きさは、障害物の存在によって左右されることが多いが、上記の特許文献1および2では、見通せる範囲の大きさを精細に判別することはなされていない。
【0006】
したがって、見通しの範囲の程度をより正確に把握し、運転者が取り得る速度範囲を考慮することで、運転者をわずらわせることなく、より的確なタイミングで衝突回避の動作を発動することのできる手法が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の一つの側面によると、車両に搭載され、衝突を回避するための装置は、前記車両の前部に配置され、該車両の周辺の障害物を検出する障害物検出手段と、前記検出された障害物の位置に基づいて、該車両から前方を見通すことのできる見通し範囲を算出する手段と、前記見通し範囲外から該車両に向けて接近してくる移動物体と衝突することなく、該車両の進行経路と該移動物体が接近してくる道路との交差点を該車両が通過することが可能な通過可能速度を、前記算出した見通し範囲に基づいて算出する手段と、前記通過可能速度よりも該車両の現在の速度が小さいとき、衝突回避のための制御を発動する手段と、を備える。
【0008】
この発明によれば、車両の周辺にある障害物の位置に基づいて、該車両から見通せる範囲を求め、該見通せる範囲に基づいて、衝突回避可能な速度(通過可能速度)を算出することにより、衝突の可能性を判断している。したがって、見通せる範囲に応じて運転者が取り得る速度範囲を考慮しつつ、衝突回避の制御を発動することができ、よって、衝突回避の制御の過剰な発動を抑制し、運転者をわずらわせることなく、より的確なタイミングで衝突回避の制御を発動することができる。たとえば、見通しが良いときには、見通せる範囲が大きく算出される。運転者は、遠くから接近してくる移動物体を認識することができるため、通過可能速度は小さく算出される。それに対し、見通しが悪いときには、見通せる範囲が小さく算出される。運転者は、移動物体が近づかないと認識することができないため、通過可能速度は大きく算出される。該算出された通過可能速度に応じた衝突回避制御の発動となるので、運転者をわずらわせることを防止することができる。
【0009】
この発明の一実施形態によると、前記車両が前記交差点に進入するまでに停止可能な最大速度を算出する手段を備え、前記車両の現在の速度が該停止可能速度より小さいときには、該現在の速度が前記通過可能速度より小さくても、前記衝突回避のための制御の発動を抑制する。
【0010】
自車両の現在の速度が通過可能速度より小さい場合でも、交差点に進入する前に停止できる場合には衝突を回避できるので、この場合には衝突回避のための制御の発動を抑制し、よって該制御が過剰に発動されるのを回避することができる。
【0011】
この発明の一実施形態によると、前記障害物検出手段は、車両の前部に配置された撮像装置であり、該撮像装置によって取得された画像についてオプティカルフローを算出し、該オプティカルフローの大きさが所定値以上変化する画像上の点に基づいて、前記障害物の端点を判定する。前記見通し範囲は、該障害物の端点の位置に基づいて算出される。
【0012】
この発明によれば、障害物の端点をオプティカルフローに基づいて見極めるので、見通し範囲をより良好な精度で特定することができる。また、撮像装置によって得られた画像に基づいて見通しを判別することができるため、コスト高を抑制することができる。
本発明のその他の特徴及び利点については、以下の詳細な説明から明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】この発明の一実施例に従う、衝突回避のための装置のブロック図。
【図2】この発明の一実施例に従う、撮像範囲、障害物の端点および見通し範囲を説明するための図。
【図3】この発明の一実施例に従う、撮像画像と、該撮像画像に基づいて算出されるオプティカルフローの一例を示す図。
【図4】この発明の一実施例に従う、障害物の距離とオプティカルフローとの関係を示す図。
【図5】この発明の一実施例に従う、障害物の傾きとオプティカルフローとの関係を示す図。
【図6】この発明の一実施例に従う、撮像画像から得られたオプティカルフローに基づいて障害物の距離および傾きを求める手法を説明するための図。
【図7】この発明の一実施例に従う、障害物までの距離および傾きに基づいて障害物の端点を判定する手法を説明するための図。
【図8】この発明の一実施例に従う、通過可能速度および停止可能速度を算出する手法を説明するための図。
【図9】この発明の一実施例に従う、見通しが良好な状況での、通過可能速度および停止可能速度の事例を示す図。
【図10】この発明の一実施例に従う、通過可能速度、停止可能速度および自車両の速度に基づいて衝突可能性を判定する手法を説明するための図。
【図11】この発明の一実施例に従う、見通しが良好でない状況での、通過可能速度および停止可能速度の事例を示す図。
【図12】この発明の一実施例に従う、衝突回避制御のプロセスのフローチャート。
【図13】この発明の一実施例に従う、衝突回避制御のプロセスのフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に図面を参照してこの発明の実施の形態を説明する。図1は、この発明の一実施形態に従う、車両に搭載され、該車両の衝突を回避するための装置10を示す。該装置10は、外界センサ11と、車両状態センサ12と、処理装置13と、衝突回避支援装置15とを備えている。
【0015】
外界センサ11は、この実施形態では、車両の前端中央部に設けられ、車両の前方を撮像する撮像装置である。好ましくは、撮像装置は、車両の前方を運転者が見通せる範囲を算出することができるように、広い画角(たとえば、180度以上の画角)を有する広角レンズを備えたカメラである。撮像装置により撮像された画像データは、処理装置13に渡される。
【0016】
車両状態センサ12は、自車両の速度を検出するためのセンサを備えている。該センサ12は、任意の既知の適切な手段により実現されることができ、たとえば、自車両の駆動輪の回転速度(車輪速)を検出する車輪速センサや、自車両の速度を検出する車速センサや、車体に作用する加速度を検知する加速度センサにより実現されることができる。
【0017】
処理装置13は、中央処理装置(CPU)およびメモリを備えるコンピュータである電子制御装置(ECU)に実現されることができる。図には、処理装置13によって実現される機能がブロックとして表されている。この実施形態では、処理装置13は、障害物判定部31、自車両情報取得部33、見通し範囲算出部35、通過可能速度算出部37、停止可能速度算出部39、衝突可能性判定部41、および衝突回避制御部43を備える。
【0018】
障害物判定部31は、外界センサ11の出力信号(画像データ)を所定時間間隔で取得し、該出力信号に基づいて、車両周辺に存在する障害物を判定すると共に、該障害物の端点の位置を判定する。
【0019】
ここで、図2を参照すると、道路101と道路103が交差する交差点が示されている。自車両Aが、道路101上を交差点に向けて走行しており、自車両の前端中央部に設けられた外界センサ11(撮像装置)によって撮像される範囲111が示されている。道路101の両側には、障害物D1およびD2が存在している。自車両Aの運転者が前方を見ると、障害物D1,D2の端点E1,E2が視界の妨げとなるため、見通せる範囲は、運転者と障害物の端点E1を結ぶラインL1と、運転者と障害物の端点E2を結ぶラインL2との間に制限される。そのため、見通せる範囲外に存在する他の車両Bを、運転者は視認することができない。
【0020】
見通せる範囲をより正確に算出するには、図に示すような障害物D1およびD2を判定すると共に、その端点E1,E2の位置を検出することが必要とされる。したがって、障害物判定部31は、外界センサ11から受け取った撮像画像に、所定の画像処理を施すことにより、このような障害物とその端点の位置を判定する。
【0021】
図1に戻り、見通し範囲算出部35は、判定された障害物の端点に基づいて、自車両の運転者が見通せる範囲を算出する。図2を参照して説明したように、障害物の端点E1,E2の位置が判明することにより、ラインL1およびL2の位置が定まり、よって見通し範囲を算出することができる。
【0022】
通過可能速度算出部37は、算出された見通し範囲に基づいて、見通し範囲外から接近する移動物体(たとえば、図2に示す他の車両B)と衝突(接触)することなく交差点を通過することのできる自車両の速度(通過可能速度と呼ぶ)VTを算出する。
【0023】
他方、自車両情報取得部33は、車両状態センサ12の出力信号を、上記の所定時間間隔で取得し、該出力信号に基づいて、自車両の現在の速度VNを取得する。
【0024】
衝突可能性判定部41は、通過可能速度VTと、自車両の現在の速度VNとを比較する。通過可能速度VTが車両の速度VN以下であれば(VT≦VN)、自車両は、見通し範囲外から進入する移動物体が存在するとしても、運転者が交差点状況を正しく理解して走行することで、該移動物体との接触を避けて走行を続けることができると判定する。他方、通過可能速度VTが、車両の現在の速度VNより大きければ(VT>VN)、自車両は、見通し範囲外から進入する移動物体が存在した場合、現在の走行を維持することによって、該移動物体と交差点で接触するおそれがあることを示すので、衝突可能性があると判定する。
【0025】
好ましくは、停止可能速度算出部39が設けられる。停止可能速度算出部39は、自車両が交差点に進入するまでに停止することが可能な最大速度(停止可能速度と呼ぶ)VSを算出する。この場合、衝突可能性判定部41は、停止可能速度VSと、車両の現在の速度VNとを比較する。停止可能速度VSが、車両の速度VNより大きければ(VS>VN)、通過可能速度VTが車両の速度VNより大きくても、自車両は、運転者が交差点状況を正しく理解して走行すれば交差点に到達する前に停止することが可能であるので、該移動物体との衝突を運転者自身による対応によって回避可能であると判定する。停止可能速度VSが、車両の速度VN以下であれば(VS≦VN)、運転者自身による対応によって自車両が交差点に到達する前に停止することが困難であるため、衝突の可能性はあると判定する。
【0026】
衝突回避制御部43は、衝突可能性があると判定されたならば、衝突回避支援装置15を起動して、衝突回避のための制御を発動する。衝突回避のための制御には、任意の適切な制御を含めることができる。一実施形態では、衝突回避のための制御として、報知が行われ、衝突回避支援装置15は、報知装置である。
【0027】
報知装置15は、任意の既知の適切な手法で実現されることができ、たとえば、触覚的伝達装置、視覚的伝達装置、聴覚的伝達装置のうち、任意の1つまたは複数の装置を用いて実現することができる。触覚的伝達装置は、たとえばシートベルト装置や操舵制御装置などであって、衝突回避制御部43から出力される制御信号に応じて、たとえばシートベルトに所定の張力を発生させて運転者が触覚的に知覚可能な締め付け力を作用させたり、ステアリングホイールに運転者が触覚的に知覚可能な振動を発生させることにより、運転者に報知する。
【0028】
視覚的伝達装置は、たとえば表示装置などであって、衝突回避制御部43からの制御信号に応じて、所定の警報情報を表示したり、所定の警告灯を点滅ないし点灯させることによって、運転者に報知する。聴覚的伝達装置は、たとえばスピーカなどであって、衝突回避制御部43からの制御信号に応じて所定の警報音や音声を出力することによって、運転者に報知する。
【0029】
他の実施形態では、衝突回避支援装置15は、ブレーキアクチュエータである。衝突回避制御部43は、衝突回避のための制御として、ブレーキアクチュエータに制御信号を送り、該ブレーキアクチュエータを介して車両のブレーキを作動させる。この場合、交差点に達する前に車両が停止するのに必要な減速度が生じるようブレーキを作動させることができる。
【0030】
なお、上記の報知およびブレーキ制御のいずれか一方を実施してもよいし、両方を実施してもよい。
【0031】
以下、障害物判定部31、見通し範囲算出部35、通過可能速度算出部37、停止可能速度算出部39のより詳細な動作について説明する。
【0032】
まず、障害物判定部31による処理内容を説明する。図3の(a)の符号120は、外界センサ11である撮像装置によって撮像された画像の一例を示す。たとえば図2を参照して説明したような障害物D1およびD2が自車両の道路101の左右両側に存在する状況において、撮像装置によって車両前方を撮像すると、該障害物D1、D2が、撮像画像120の左および右側にそれぞれ撮像される。図2の端点E1およびE2は、該撮像画像に示されるように、障害物D1およびD2のエッジ全体(図の121および122)をそれぞれ表している。また、点Oは、いわゆる遠近法において平行線が交わる点である消失点を示しており、自車両の進行方向を表している。また、撮像画像に対し、便宜上、図のように消失点を原点Oとしてxy座標系を設定する。
【0033】
障害物判定部31は、時間的に連続して取得された撮像画像(たとえば、今回撮像された画像と前回撮像された画像)を用いて、今回取得された撮像画像の各点(各画素)について、オプティカルフローを算出する。オプティカルフローは、周知の如く、時間的に連続する画像の中での物体の動きをベクトルで現したものであり、オプティカルフローの大きさは、物体の動きベクトルの大きさによって表されることができる。オプティカルフローの算出には、既知の手法を用いることができる。この実施例では、画像上の各点のオプティカルフローを算出し、これを、列(x方向)毎に平均する。
【0034】
なお、オプティカルフローの算出は、広角カメラで撮像したことにより発生する画像周辺部の歪みを、予め画像処理により除去した上で行うことが好ましい。
【0035】
図3の(b)は、こうして得られたオプティカルフローVの結果の一例を示す。横軸のx値は、(a)の画像と対応づけられており、撮像画像120の左端をxLで表し、右端をxRで表している。縦軸はオプティカルフローVの大きさ(動きベクトルの大きさ)を表している。ここで、オプティカルフローVのx成分の向きがxの正方向であるときには、該オプティカルフローVの大きさを正の値として表し、オプティカルフローVのx成分の向きがxの負の方向であるときには、オプティカルフローVの大きさを負の値として表している。したがって、左側に撮像されている障害物D1を構成する画像上の各点のオプティカルフローVのx成分は、xの負の方向を向いているので、負値を取るものとなり、右側に撮像されている障害物D2を構成する画像上の各点のオプティカルフローVのx成分は、xの正の方向を向いているので、正値を取るものとなっている。
【0036】
自車両Aが移動しているために、時間的に連続して取得された撮像画像において、障害物は見かけ上自車両Aに近づいてくるように見える。したがって、障害物のオプティカルフローの大きさは大きい。他方、背景(障害物D1とD2の間の領域)は遠くに存在しているため、そのオプティカルフローの大きさは小さい。したがって、(b)に示すように、撮像画像について得られるオプティカルフローVの大きさは、障害物D1の画像上の右端121に対応するx値すなわちx1を境に急変すると共に、障害物D2の画像上の左端122に対応するx値すなわちx2を境に急変している。
【0037】
障害物判定部31は、こうして算出されたオプティカルフローの大きさを調べ、これが所定値以上変化しているかどうかを判断し、いずれかのx値において所定値以上変化しているならば、障害物が存在すると判定する。
【0038】
次に、障害物判定部31は、x1より小さいx値の領域(すなわち、x1とxLの間の領域)のオプティカルフローVの挙動と、x2より大きいx値の領域(すなわち、x2とxRの間の領域)のオプティカルフローVの挙動に基づいて、障害物D1およびD2の端点E1およびE2の位置を算出する。この手法について、具体的に説明する。
【0039】
まず、図4および図5を参照して、障害物の配置に依存して、オプティカルフローがどのような特性を持つかについて説明する。
【0040】
図4の(a)には、一例として、障害物131が、位置P1、P2およびP3のいずれかに、該障害物131の側面133が自車両Aの進行方向(Z軸方向)に平行となるよう存在していると仮定する。Z軸から障害物の側面133までの距離が、dで表されている。符号111は、前述したように、外界センサ11(図示せず)により撮像される範囲を示す。
【0041】
(b)には、図3(b)で説明したような手法で算出された、障害物131が位置P1に存在した場合、位置P2に存在した場合および位置P3に存在した場合のそれぞれについて、消失点Oからの距離(x値の絶対値で表される)に対する、オプティカルフローVの大きさ(ここでは、絶対値で表される)が示されている。ここで、実線は、実際の撮像画像から得られるオプティカルフローの部分であり(図3の例で言えば、x1とxLの間のオプティカルフローの部分だけ切り取ったもの)、この実線を延長した線が、点線で表されている。これらのオプティカルフローの大きさ|V|は、消失点Oからの距離の大きさ|x|に比例する。また、障害物131の側面133は自車両Aの進行方向に平行に位置しているため、これらのオプティカルフローを延長すると、点線で示すように消失点Oに収束する。
【0042】
位置P1〜P3のオプティカルフロー間で異なる点は、オプティカルフローの大きさ|V|を表す直線の傾きであり、図には、位置P1〜P3のオプティカルフローについて、角度α1〜α3で表されている。距離dが短いほど、障害物が自車両近くに存在しているため、オプティカルフローの大きさ|V|が大きくなる。このように、距離dに応じて、オプティカルフロー|V|を表す直線の傾きが決まり、距離dが大きくなるほど、該傾きは大きくなる(すなわち、x値の変化に対するオプティカルフローの変化の大きさが大きくなる)。
【0043】
次に、図5を参照すると、(a)には、一例として、障害物136が、位置P4、P2およびP5のいずれかに存在していると仮定する。なお、位置P2は、図4のものと同じである。図4と異なり、位置P4ないしP5に障害物136が存在したときの側面137は、車両Aの進行方向(Z軸)に対して傾いている。この傾きを、θで表す。図には、位置P4に障害物136が存在したときの傾きθが示されている。位置P5に障害物136が存在したときの傾きθは、位置P4の場合と同じ大きさの傾きθを持つが、その方向が異なる(ここでは、負値の−θで表す)。
【0044】
(b)には、図4(b)と同様に、障害物136が位置P4に存在した場合、位置P2に存在した場合および位置P5に存在した場合のそれぞれについて、消失点Oからの距離(x値の絶対値で表される)に対する、オプティカルフローVの大きさ(絶対値で表される)が示されている。位置P2に存在した場合の障害物136のオプティカルフローは、図4(b)に示されるものと同じであり、その延長線は消失点Oに収束する。
【0045】
これらのオプティカルフローの大きさ|V|は、図4の(b)と同様に、消失点Oからの距離の大きさ|x|に比例する。しかしながら、位置P4ないしP5に障害物136が存在した場合については、該障害物136の側面137が、自車両Aの進行方向に対して傾きθを有しているため、オプティカルフローを延長しても、消失点Oには収束しない。位置P4のオプティカルフローの直線の切片は、β4で表され、位置P5のオプティカルフローの直線の切片は、β5で表されている。
【0046】
このように、位置P4、P2、P5のオプティカルフロー間で異なる点は、オプティカルフローの大きさ|V|を表す直線の切片である。傾きθの大きさが小さくなるほど、切片の値は原点(消失点)Oに近づく。ここで、位置P4のように、Z軸に対して時計回りの方向に傾いているときには、切片はβ4で示すように正値となるが、反時計回りの方向に傾いているときには、切片はβ5で示すように負値となる。このように、傾きθの大きさと方向に応じて、オプティカルフロー|V|を表す直線の切片が決まり、傾きθの大きさが小さくなるほど、該切片の値はゼロに近づく。
【0047】
以上のように、障害物の配置とオプティカルフローとの間には相関があることが判明したので、この相関を利用して、撮像画像から得られたオプティカルフローから、障害物の傾きθおよび距離dを求めればよい。ここで、撮像画像からオプティカルフローを算出し、障害物に対応するオプティカルフローの部分(図3の(b)の例では、たとえば、x1とxLの領域のオプティカルフロー)を直線で近似する。
【0048】
図6には、こうして近似されたオプティカルフローの一例が、直線141(実線で表される)で示されている。この直線141を、点線で示すように延長し、延長した線の縦軸との交点である切片βを算出する。切片βの値と、障害物の傾きθとは、上で述べたように相関があるので、切片βの値毎に、対応する障害物の傾きθを、シミュレーション等を介して予め算出してマップとして記憶装置に記憶しておくことができる。今回算出された切片βの値に基づいて該マップを参照することにより、対応する障害物の傾きθを求めることができる。
【0049】
次に、直線141の端点142、すなわち、撮像画像の左端xLに対応している直線141上の点142から、消失点Oに直線143を引き、該直線143の傾きαを算出する。なお、この実施例では、図3に示すように、撮像画像の左端xLにまで障害物が撮像されているために、点142は直線141上にある。左端xLに障害物が撮像されていない場合には、直線141を撮像画像の左端xLに向けて延長して、xLに対応する直線141の延長線上の点から、消失点Oに向けて直線143を引けばよい。この直線143は、障害物がZ軸に対して傾いていない場合のオプティカルフローを示している。上で述べたように、直線143の傾きαの値と障害物の距離dとは相関があるので、傾きαの値毎に、対応する障害物の距離dを、シミュレーション等を介して予め算出してマップとして記憶装置に記憶しておくことができる。今回算出された傾きαの値に基づいて該マップを参照することにより、対応する障害物の距離dを求めることができる。
【0050】
なお、切片βに代えて、直線141の、直線143に対する角度γを用いてもよい。直線143は、障害物がZ軸に対して傾いていない場合のオプティカルフローを示す、基準となる直線である。図5を参照しても明らかなように、障害物のZ軸に対する傾きに依存して、切片βの値と同様に、基準直線に対する角度γも変化する。この場合、切片βと同様に、障害物がZ軸に対して時計回りの方向に傾いているときには、角度γは正値となり、反時計回りの方向に傾いているときには、角度γは負値となる。
【0051】
こうして、図7に示すように、障害物D1の距離dおよび傾きθが算出された(なお、図2の障害物D1は傾きを持っているようには示されていないが、ここでは例として、障害物D1が傾きを持っている場合を説明している)。次に、障害物D1の端点E1の位置を求める手法について説明する。実空間上の座標系として、自車両Aの外界センサ11が搭載されている位置を原点Oとして、自車両Aの車幅方向にX軸をとり、進行方向にZ軸を取る。端点E1について、その撮像画像上のx座標値は、x1であると判明している。他方、撮像画像において、x1というx値を持つ点(列となる)が、実空間のどの位置に対応するかは予め決まっており、これが、ライン151によって表されている。
【0052】
距離dおよび傾きθにより、ライン153が決定される。ライン151とライン153の交点を求めることにより、端点E1の位置(実空間上の位置)を算出することができる。ここでは、端点E1は、実空間の座標系で表され、x1に対応するX座標値と、自車両からのZ軸方向の距離を表すZ座標値とに基づいて表される。
【0053】
障害物D2の端点E2についても、同様の手法で算出されることができる。障害物判定部31によって算出された障害物の端点E1およびE2の位置は、見通し範囲算出部35に渡される。
【0054】
なお、この実施形態では、図3を参照して説明したように、撮像画像の各点についてオプティカルフローを算出しているが、上で述べたように、見通しを遮る障害物の端点の位置を判定することが目的であるので、撮像画像の上方の所定領域中の各点についてのみオプティカルフローを算出するようにしてもよい。たとえば、撮像画像の上半分の領域の各点についてのみ、オプティカルフローを算出することができる。このようにすることにより、たとえば縁石等の、視界を遮るおそれのない、地表からの高さが低い物体について計算する必要がなくなり、よって、計算負荷を低減して、処理速度を向上させることができる。
【0055】
次に、見通し範囲算出部35および通過可能速度算出部37について説明する。図8を参照すると、図2と同様の図が示されており、前述したように、障害物D1およびD2の端点E1およびE2の位置は判明している。この図では、便宜上、自車両Aの外界センサ11の位置を原点として、自車両Aの進行方向にy軸を取り、該y軸に垂直な方向にx軸を取る。ここで、y軸は、図7のZ軸に対応しており、よって、端点E1およびE2の位置は、この図ではxおよびy座標値で表される。
【0056】
原点に対する自車両Aの運転者の位置は、予めわかっている。見通し範囲算出部35は、該運転者の位置と、端点E1の位置とを結ぶラインL1を算出すると共に、運転者の位置と端点E2の位置を結ぶラインL2を算出し、これらのラインで囲まれた領域を、見通し範囲として算出する。代替的に、運転者の位置に代えて、外界センサ11の位置を用いてもよい。また、この例では、自車両Aの左右両側に障害物が存在する場合を説明したが、いずれか一方のみに障害物が存在している場合には、障害物が存在しない側については、予め設定された範囲を見通し範囲とすることができ、たとえば撮像範囲(図2)を見通し範囲と設定してもよい。
【0057】
通過可能速度算出部37は、自車両Aが、現在の進行方向に一定の加速度で走行した場合に、見通し範囲外から移動物体が進入した場合でも、該移動物体と接触することなく交差点を通過できる通過可能速度(すなわち、移動物体よりも先に交差点を通過するのに必要な最低速度)VTを、以下の式(1)に従って算出する。
【数1】
【0058】
ここで、図には、自車両Aが現在の進行方向を維持して道路101上を走行した場合の進行経路105が示されている。y2は、自車両Aが、交差点を通過し終えるまでの距離であり、道路103(以下、交差道路と呼ぶ)との交差点に進入するまでの距離y1と、交差道路103の幅yWと、車両Aの車両長yAとを加算することにより算出されることができる。交差点に進入するまでの距離y1は、任意の適切な手法により取得することができ、たとえば、ナビゲーション装置を車両Aに搭載して、ナビゲーション装置が備える地図情報から、交差点までの距離を取得することができる。または、外界センサ11を介して撮像された画像から、任意の適切な画像処理を介して交差点を検出することにより、該交差点までの距離を取得してもよい。
【0059】
交差道路103の幅ywについても、ナビゲーション装置が備える地図情報に含まれる道路情報から取得することができる。または、外界センサ11を介して撮像された画像から、任意の適切な画像処理を介して交差道路103を検出することにより、その幅を算出してもよい。
【0060】
Tは、見通し範囲外に移動物体が存在すると仮定した場合に、該移動物体が、見通し範囲に進入してから、自車両Aの進行経路105に到達するまでの時間であり、これは、見通し範囲の大きさと移動物体の速度に基づいて算出される。
【0061】
ここで、この実施形態では、移動物体として、図に示すように、左方向から見通し範囲に進入する他の車両B1と、右方向から見通し範囲に進入する他の車両B2と、左方向から見通し範囲に進入する自転車C1と、右方向から見通し範囲に進入する自転車C2とが存在すると仮定する。
【0062】
他の車両B1については、自車両に遠い側の車線を走行してくると考えて、該車両B1の右側側面がラインL1を横切る位置として想定されうる点、すなわち、ラインL1上の、交差道路103の道幅の中心付近の点161を選択し、該点161から、自車両Aの進行経路105(具体的には、自車両Aの左側側面を延長した線)までのx軸方向の距離dcを、見通し範囲の大きさを表す数値として算出する。
【0063】
他の車両B2については、自車両に近い側の車線を走行してくると考えて、該車両B2の左側側面がラインL2を横切る位置として想定されうる点、すなわち、ラインL2上の、交差道路103の道路端109より所定距離(たとえば、1m)の点163を選択し、該点163から、自車両Aの進行経路105(具体的には、自車両Aの右側側面を延長した線)までのx軸方向の距離dcを、見通し範囲の大きさを表す数値として算出する。
【0064】
自転車C1については、交差道路103の道路端109近くを走行してくると考えて、自転車C1がラインL1を横切る位置として想定されうる点、すなわち、ラインL1上の、道路端109すぐの点165を選択し、該点165から、自車両Aの進行経路105までのx軸方向の距離dcを、見通し範囲の大きさを表す数値として算出する。自転車C2についても同様に、ラインL2上の、道路端109すぐの点167を選択し、該点167から、自車両Aの進行経路105までのx軸方向の距離dcを、見通し範囲の大きさを表す数値として算出する。
【0065】
また、他の車両B1およびB2の速度には、所定値を用いる。ここで、該所定値は、道路種別に応じて決定してもよい。たとえば、ナビゲーション装置の地図情報に含まれる道路情報から、交差道路103の法定速度を取得し、法定速度に余裕値αを加算した値を、該所定値として用いることができる。または、リアルタイムに交差道路103の現在の平均車速を算出し、これに、余裕値を加えた値を該所定値としてもよい。このリアルタイムの算出には、たとえば、走行中の各車両がセンサ(プローブ)となり、該車両で計測された走行状態に関するプローブ情報が、所定のサーバ(センター)に集められるプローブシステムを利用してもよい。プローブ情報として、たとえば道路の各地点毎に、該道路における各車両の速度を収集し、該収集した値を平均することにより、道路103の交差点付近の平均車速を算出することができる。自車両Aには、該サーバとの通信機能を備えた装置(ナビゲーション装置でもよい)を搭載し、該サーバから平均車速を取得して、これを該所定値として用いることができる。または、外界センサ11によって、交差点内を通過する交差車両を1台以上検出することができれば、直接その速度を算出し、最大値もしくは平均値を該所定値として用いても良い。
【0066】
自転車C1およびC2の速度には所定値が設定され、該所定値には、自転車について予め想定される速度が設定される。たとえば、該想定される速度は、予め実験等で自転車の平均速度を計測することにより取得されることができる。
【0067】
こうして、仮定される移動物体B1、B2、C1およびC2のそれぞれについて、対応する距離dcを、対応する速度で除算することにより、上記の到達時間Tを算出することができる。
【0068】
また、aは、自車両Aが、交差点を通過するときに発生しうる加速度として予め設定された値である。これは、実験等を介して予め設定することができる。
【0069】
このように、仮定される移動物体B1、B2、C1およびC2のそれぞれについて、通過可能速度VTが算出されることとなる。これらの算出された通過可能速度の中で、最も高い値を持つ通過可能速度VTを選択し、これを、後続の衝突可能性判定処理に用いる。
【0070】
なお、上記の仮定する移動物体の種類および距離dcの算出に用いる各点161〜167の位置は、一例であり、必ずしも限定されるものではない。たとえば、交差道路103が一方通行である場合には、左右のいずれか一方から見通し範囲に進入してくる自動車および自転車についてのみ考慮するようにしてもよい。また、交差道路103が、自転車の走行しないような道路であれば、自動車についてのみ考慮するようにしてもよい。
【0071】
次に、停止可能速度算出部39について説明する。停止可能速度算出部39は、次の式(2)に従って、自車両Aが交差点に進入するまでに停止可能な最大速度を示す停止可能速度VSを算出する。
【数2】
【0072】
ここで、y1は、前述したように、自車両Aの現在位置から、交差点に進入するまでの距離である。GBRKは、自車両Aが停止する際に通常発生しうる減速度(負の値で表される加速度)であり、実験等を介して予め設定されることができる。
【0073】
以下、図9〜図11に示される具体的な計算事例を参照して、通過可能速度VT、自車両の現在の速度VNおよび停止可能速度VSを用いた、衝突可能性判定部41による衝突可能性の判定手法を説明する。
【0074】
図9の(a)には、事例に用いた数値が示されており、図8と同様の座標軸(図示せず)が設定されているものとする。障害物D1およびD2の端点E1およびE2の自車両Aに対するx方向の位置が比較的遠いために、見通しが比較的良好な状況を表している。(b)は、(a)のような状況下における、距離y1の各値に対する通過可能速度VTと停止可能速度VSの値をプロットしたものである。距離y1は、前述したように、自車両Aの交差点に進入するまでの距離を示している。この例では、距離y1の値は、交差に進入する地点でゼロ値を取り、交差点から自車両Aの現在位置に向かうほど(すなわち、y軸の負の方向に向かうほど)、絶対値が大きくなる負値を取る。たとえば、y1が「−2」mということは、自車両Aが交差点に進入するまでの距離が2メートルという意味である。
【0075】
ここで、通過可能速度VTおよび停止可能速度VSを算出する式(1)および(2)の所定値等について、GBRKは0.3Gとし、aは0.2Gとしている。また、仮定される移動物体のそれぞれについての到達時間Tは、自動車の場合には速度を時速60キロメートルとし、自転車の場合には時速20キロメートルとして算出している。前述したように、仮定される移動物体が複数ある場合には、通過可能速度が複数算出されることとなるが、それらのうちの最も高い値を、通過可能速度VTとして選択し、図にプロットしている。
【0076】
さらに、図10は、図9の(b)のグラフ上に、C1〜C5で表される各ケースについて、自車両の速度VNを黒丸でプロットしたものである。ケースC3〜C5は、黒丸から直線が伸長しており、これは、自車両Aが、現在の速度VNから、減速ないし加速によって速度が変化した場合を表している。
【0077】
まず、C1で示される黒丸は、自車両の速度VNが、通過可能速度VTおよび停止可能速度VSよりも大きい状況(第1のケース)を示している。このような状況では、安全確認は必要とされるものの、自車両が、現在の速度で走行すれば、もしくは現在の速度から加速すれば、移動物体が交差点に到達する前に交差点を通過し終えることができる。したがって、衝突可能性は低いと判定され、衝突回避の制御は行われない。
【0078】
C2で示される黒丸は、自車両の速度VNが、停止可能速度VSより大きく、通過可能速度VTより小さい状況(第2のケース)を示している。このような状況では、自車両が、交差点に到達する前に停止することができず、また、移動物体が交差点に到達する前に交差点を通過することができない状況を示している。したがって、衝突可能性が高いと判定され、衝突回避のための何らかの制御を行う。
【0079】
C3で示される黒丸およびラインは、車両の現在の速度VN(黒丸)が、通過可能速度VTおよび停止可能速度VSよりも小さく、かつ、たとえば現在アクセルペダルが踏まれておらず、交差点に近づくにつれて減速していく状況を示している。このような状況は、車両が加速しておらず、交差点に到達する前に停止することができる状況を示している。したがって、衝突可能性は低いと判定され、衝突回避の制御は行われない。
【0080】
C4で示される黒丸およびラインは、車両の現在の速度VN(黒丸)が、通過可能速度VTおよび停止可能速度VSより小さく、かつ、たとえば現在アクセルペダルが踏まれていて加速しており、その結果、交差点に近づくにつれて、通過可能速度VTを上回り、その後に停止可能速度VSを上回るであろう状況を示す。すなわち、C4で示すラインと通過可能速度VTの交点に対応する距離y1の値dTF4が、C4で示すラインと停止可能速度VSの交点に対応する距離y1の値dSF4より小さい(dTF4<dSF4)。このような状況では、加速しているものの、停止可能な状況下で(停止可能速度VSより下の範囲で)通過可能速度VTに達している。したがって、加速が正しく行われている状況であるので、衝突可能性は低いと判定され、衝突回避の制御は行われない。
【0081】
C5で示される黒丸およびラインは、車両の現在の速度VN(黒丸)が、通過可能速度VTおよび停止可能速度VSより小さく、かつ、たとえば現在アクセルペダルが踏まれていて加速しており、その結果、交差点に近づくにつれて、停止可能速度VSを上回り、その後に通過可能速度VTを上回るであろう状況を示す。すなわち、C5で示すラインと通過可能速度VTの交点に対応する距離y1の値dTF5が、C5で示すラインと停止可能速度VSの交点に対応する距離y1の値dSF5より大きい(dTF5>dSF5)。このような状況では、加速しつつあるが、通過可能速度VTに達する前に、停止不可能な状態になってしまう。したがって、衝突可能性は高いと判定され、何らかの衝突回避の制御が行われる。
【0082】
他方、図11(a)は、他の事例に用いた数値が示されており、障害物D1およびD2の端点E1およびE2の自車両Aに対するx方向の位置が比較的近いために、見通しが悪い状況を表している。(b)は、(a)のような状況下における、距離y1の各値に対する通過可能速度VTと停止可能速度VSの値をプロットしたものである。ここで、通過可能速度VTおよび停止可能速度VSを算出する式(1)および(2)の所定値等については、図9の所で述べたものと同じである。また、通過可能速度の選択手法についても、同じである。
【0083】
図9の(b)と比較して明らかなように、停止可能速度VSの挙動は同じであるが、見通し範囲が狭くなっているがために、通過可能速度VTの挙動が異なっている。衝突回避制御が行われるのは、図10に示すような第2のケースC2および第5のケースC5である。第2のケースC2は、車両の現在の速度VNが、通過可能速度VTと停止可能速度VSの間にある場合である。図11の(b)の場合、見通し範囲が狭いために、通過可能速度VTと停止可能速度VSの間の範囲がかなり大きくなっており、よって、自車両の速度VNが、この範囲内に入る可能性が高まり、衝突回避制御が、図9の見通しが良い状況に比べて発動されやすくなっている。
【0084】
また、第5のケースC5は、車両の現在の速度VNが、通過可能速度VTおよび停止可能速度VSより小さく、かつ、加速することで、通過可能速度VTを上回る前に、停止可能速度VSを上回る状況を示す。見通しが悪いために、通過可能速度VTと停止可能速度VSの間の範囲がかなり大きくなっており、加速しても、通過可能速度を上回る前に、停止可能速度を上回ることが起こりやすい。したがって、このケースについても、衝突回避制御が発動されやすくなっている。
【0085】
このように、通過可能速度VTおよび自車両の速度VNに基づいて、移動物体が交差点に到達する前に自車両が交差点を通過し終えることができるかどうかを判断することができる。通過可能速度VTは、上で述べたように、見通し範囲の大きさ(図8の例では、距離dcで表される)に基づいて算出されているので、自車両が、移動物体と接触することなく交差点を通過できるかどうかの判定精度を向上させることができる。したがって、衝突回避の制御について、過剰な発動を抑制し、運転者をわずらわせることなく、より的確なタイミングで発動させることができる。また、停止可能速度VSを算出することにより、交差点前で停止可能な状態にあるかどうかを判断することができ、不必要な衝突回避制御を抑制することができる。さらに、現在加速しているかどうかを考慮することにより、加速した場合の移動物体との衝突可能性について、より良好な精度で判定することができる。
【0086】
図12および図13は、この発明の一実施形態に従う、衝突回避のための装置10の動作のフローチャートである。このプロセスは、所定の時間間隔で実行されることができる。
【0087】
ステップS11において、外界センサ(撮像装置)11によって撮像された画像を取得する。ステップS12において、前述したように、今回撮像された画像と、たとえば前回撮像された画像に基づいて、画像の各点のオプティカルフローを算出する。ステップS13において、図3を参照して説明したように、オプティカルフローにおいて、その大きさが所定値以上に変化する点が抽出されたならば、障害物が存在すると判定する。
【0088】
ステップS14において、ステップS12において算出されたオプティカルフローと、ステップS13において抽出された変化点とに基づいて、図6を参照して説明したような手法で、障害物の距離dおよび傾きθを算出する。ステップS15において、障害物の距離dおよび傾きθに基づいて、図7を参照して説明したような手法で、障害物の端点を判定する。
【0089】
ステップS16において、前述した式(1)および(2)に従い、通過可能速度VTおよび停止可能速度VSをそれぞれ算出する。前述したように、複数の通過可能速度が算出された場合には、その中で最も高い値の通過可能速度VTを、後続の処理で用いる。他方、ステップS17において、車両状態センサ12を介して、自車両の現在の速度VNを取得する。
【0090】
ステップS21〜S31は、図10を参照して説明した、衝突可能性を判定する処理である。
【0091】
ステップS21において、通過可能速度VTと車両の速度VNとを比較する。車両の速度VNが、通過可能速度VT以上ならば、前述した第1のケースC1を示しており、この場合には、衝突回避の制御は行われず、当該プロセスを抜ける。
【0092】
ステップS21において、車両の速度VNが通過可能速度VTより小さければ、ステップS22において、停止可能速度VSと車両の速度VNとを比較する。車両の速度VNが、停止可能速度VS以上ならば、停止可能でもなく、通過可能でもない、前述した第2のケースC2を示している。これは、衝突可能性があることを示しているので、ステップS31に進み、衝突回避のための制御を発動する。前述したように、衝突回避のための制御として、報知を行ってもよいし、ブレーキ制御を実行してもよい。
【0093】
ステップS22において、車両の速度VNが、停止可能速度VSより小さければ、ステップS23に進み、アクセルペダルが踏まれているかどうかを判断する。これは、アクセルペダルに設けられたセンサにより、任意の既知の手法で検出されることができる。アクセルペダルが踏まれていなければ、これは、現在の速度VNが停止可能な速度であり、かつ加速していない、前述した第3のケースC3を示している。この場合には、衝突回避の制御は発動されず、当該プロセスを抜ける。
【0094】
ステップS23において、アクセルペダルが踏まれていれば、ステップS24に進み、アクセルペダルの開度から、車両の今後の速度VFを推定する。たとえば、アクセルペダルの開度に基づいて、任意の既知の手法で加速度を算出し、現在の速度VNと該加速度に基づいて、車両の速度が、交差点に近づくにつれて(すなわち、距離y1が変化するにつれて)、どのように推移するかを推定することができる。アクセルペダルの開度に代えて、たとえば内燃機関の場合にはスロットル弁の開度を用いてもよい。こうして、図10の第4および第5のケースC4およびC5で示すような、車速の推定ラインを取得することができる。
【0095】
ステップS25において、図10を参照して説明したように、通過可能速度VTを示す曲線と自車両の車速について推定したラインとの交点に対応する第1の距離値dTFと、停止可能速度VSを示す曲線と自車両の車速について推定したラインとの交点に対応する第2の距離値dSFをそれぞれ算出する。
【0096】
ステップS26において、算出した第1の距離値dTFおよび第2の距離値dSFを比較する。第1の距離値dTFが、第2の距離値dSF以下であれば、前述した、加速しているが、停止可能な状況下で通過可能速度に達している第4のケースC4を示す。これは、衝突可能性がないことを示しているので、この場合には、衝突回避の制御は発動されず、当該プロセスを抜ける。
【0097】
ステップS26において、第1の距離値dTFが、第2の距離値dSFより大きければ、前述した、加速しているが、通過可能速度に達する前に停止不可能な状態になる第5のケースC5を示す。この場合には、ステップS31に進み、衝突回避の制御を発動する。
【0098】
以上のように、この発明の特定の実施形態について説明したが、本願発明は、これら実施形態に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0099】
10 衝突回避装置
11 外界センサ
12 車両状態センサ
13 処理装置
15 衝突回避支援装置
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両の衝突を回避するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両が他の車両等の移動物体と衝突することを回避するための様々な装置が提案されている。下記の特許文献1には、車両の前方にT字路があると判断すると、フロントカメラにより撮像された画像データを用いて、見通しの良いT字路かどうかを判別する。見通しの悪いT字路と判別すると、車両の側方を撮像可能なブラインドコーナカメラを起動させて、その撮像した画像をディスプレイに表示する。また、下記の特許文献2には、車両に搭載された端末器が他車両との衝突可能性を判定し、衝突可能性がある場合に、他車両側で衝突の報知が既に行われている場合には、自車両における衝突の報知を抑制することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−140992号公報
【特許文献2】特開2005−10937号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
自車両が交差点に進入するとき、自車両から見通せる範囲の大きさに応じて、運転者は交差点に進入する自車両の速度を選択している。すなわち、見通せる範囲が小さいほど、接近してくる移動物体が近づかないと認識できないため、速度を下げる。一方、見通せる範囲が大きい場合は、見通しが小さい場合と比べて交差点手前側で接近物体の存在有無を確認できるので、上記ほど速度を下げない場合が多い。このような場合に自車速度や交差点までの距離といった条件のみから危険性判断を行い、衝突回避の動作を発動させると、衝突回避の動作が過剰に発動されるおそれがあり、運転者にわずらわしさを感じさせるおそれがある。
【0005】
また、自車両から見通せる範囲の大きさは、障害物の存在によって左右されることが多いが、上記の特許文献1および2では、見通せる範囲の大きさを精細に判別することはなされていない。
【0006】
したがって、見通しの範囲の程度をより正確に把握し、運転者が取り得る速度範囲を考慮することで、運転者をわずらわせることなく、より的確なタイミングで衝突回避の動作を発動することのできる手法が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の一つの側面によると、車両に搭載され、衝突を回避するための装置は、前記車両の前部に配置され、該車両の周辺の障害物を検出する障害物検出手段と、前記検出された障害物の位置に基づいて、該車両から前方を見通すことのできる見通し範囲を算出する手段と、前記見通し範囲外から該車両に向けて接近してくる移動物体と衝突することなく、該車両の進行経路と該移動物体が接近してくる道路との交差点を該車両が通過することが可能な通過可能速度を、前記算出した見通し範囲に基づいて算出する手段と、前記通過可能速度よりも該車両の現在の速度が小さいとき、衝突回避のための制御を発動する手段と、を備える。
【0008】
この発明によれば、車両の周辺にある障害物の位置に基づいて、該車両から見通せる範囲を求め、該見通せる範囲に基づいて、衝突回避可能な速度(通過可能速度)を算出することにより、衝突の可能性を判断している。したがって、見通せる範囲に応じて運転者が取り得る速度範囲を考慮しつつ、衝突回避の制御を発動することができ、よって、衝突回避の制御の過剰な発動を抑制し、運転者をわずらわせることなく、より的確なタイミングで衝突回避の制御を発動することができる。たとえば、見通しが良いときには、見通せる範囲が大きく算出される。運転者は、遠くから接近してくる移動物体を認識することができるため、通過可能速度は小さく算出される。それに対し、見通しが悪いときには、見通せる範囲が小さく算出される。運転者は、移動物体が近づかないと認識することができないため、通過可能速度は大きく算出される。該算出された通過可能速度に応じた衝突回避制御の発動となるので、運転者をわずらわせることを防止することができる。
【0009】
この発明の一実施形態によると、前記車両が前記交差点に進入するまでに停止可能な最大速度を算出する手段を備え、前記車両の現在の速度が該停止可能速度より小さいときには、該現在の速度が前記通過可能速度より小さくても、前記衝突回避のための制御の発動を抑制する。
【0010】
自車両の現在の速度が通過可能速度より小さい場合でも、交差点に進入する前に停止できる場合には衝突を回避できるので、この場合には衝突回避のための制御の発動を抑制し、よって該制御が過剰に発動されるのを回避することができる。
【0011】
この発明の一実施形態によると、前記障害物検出手段は、車両の前部に配置された撮像装置であり、該撮像装置によって取得された画像についてオプティカルフローを算出し、該オプティカルフローの大きさが所定値以上変化する画像上の点に基づいて、前記障害物の端点を判定する。前記見通し範囲は、該障害物の端点の位置に基づいて算出される。
【0012】
この発明によれば、障害物の端点をオプティカルフローに基づいて見極めるので、見通し範囲をより良好な精度で特定することができる。また、撮像装置によって得られた画像に基づいて見通しを判別することができるため、コスト高を抑制することができる。
本発明のその他の特徴及び利点については、以下の詳細な説明から明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】この発明の一実施例に従う、衝突回避のための装置のブロック図。
【図2】この発明の一実施例に従う、撮像範囲、障害物の端点および見通し範囲を説明するための図。
【図3】この発明の一実施例に従う、撮像画像と、該撮像画像に基づいて算出されるオプティカルフローの一例を示す図。
【図4】この発明の一実施例に従う、障害物の距離とオプティカルフローとの関係を示す図。
【図5】この発明の一実施例に従う、障害物の傾きとオプティカルフローとの関係を示す図。
【図6】この発明の一実施例に従う、撮像画像から得られたオプティカルフローに基づいて障害物の距離および傾きを求める手法を説明するための図。
【図7】この発明の一実施例に従う、障害物までの距離および傾きに基づいて障害物の端点を判定する手法を説明するための図。
【図8】この発明の一実施例に従う、通過可能速度および停止可能速度を算出する手法を説明するための図。
【図9】この発明の一実施例に従う、見通しが良好な状況での、通過可能速度および停止可能速度の事例を示す図。
【図10】この発明の一実施例に従う、通過可能速度、停止可能速度および自車両の速度に基づいて衝突可能性を判定する手法を説明するための図。
【図11】この発明の一実施例に従う、見通しが良好でない状況での、通過可能速度および停止可能速度の事例を示す図。
【図12】この発明の一実施例に従う、衝突回避制御のプロセスのフローチャート。
【図13】この発明の一実施例に従う、衝突回避制御のプロセスのフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に図面を参照してこの発明の実施の形態を説明する。図1は、この発明の一実施形態に従う、車両に搭載され、該車両の衝突を回避するための装置10を示す。該装置10は、外界センサ11と、車両状態センサ12と、処理装置13と、衝突回避支援装置15とを備えている。
【0015】
外界センサ11は、この実施形態では、車両の前端中央部に設けられ、車両の前方を撮像する撮像装置である。好ましくは、撮像装置は、車両の前方を運転者が見通せる範囲を算出することができるように、広い画角(たとえば、180度以上の画角)を有する広角レンズを備えたカメラである。撮像装置により撮像された画像データは、処理装置13に渡される。
【0016】
車両状態センサ12は、自車両の速度を検出するためのセンサを備えている。該センサ12は、任意の既知の適切な手段により実現されることができ、たとえば、自車両の駆動輪の回転速度(車輪速)を検出する車輪速センサや、自車両の速度を検出する車速センサや、車体に作用する加速度を検知する加速度センサにより実現されることができる。
【0017】
処理装置13は、中央処理装置(CPU)およびメモリを備えるコンピュータである電子制御装置(ECU)に実現されることができる。図には、処理装置13によって実現される機能がブロックとして表されている。この実施形態では、処理装置13は、障害物判定部31、自車両情報取得部33、見通し範囲算出部35、通過可能速度算出部37、停止可能速度算出部39、衝突可能性判定部41、および衝突回避制御部43を備える。
【0018】
障害物判定部31は、外界センサ11の出力信号(画像データ)を所定時間間隔で取得し、該出力信号に基づいて、車両周辺に存在する障害物を判定すると共に、該障害物の端点の位置を判定する。
【0019】
ここで、図2を参照すると、道路101と道路103が交差する交差点が示されている。自車両Aが、道路101上を交差点に向けて走行しており、自車両の前端中央部に設けられた外界センサ11(撮像装置)によって撮像される範囲111が示されている。道路101の両側には、障害物D1およびD2が存在している。自車両Aの運転者が前方を見ると、障害物D1,D2の端点E1,E2が視界の妨げとなるため、見通せる範囲は、運転者と障害物の端点E1を結ぶラインL1と、運転者と障害物の端点E2を結ぶラインL2との間に制限される。そのため、見通せる範囲外に存在する他の車両Bを、運転者は視認することができない。
【0020】
見通せる範囲をより正確に算出するには、図に示すような障害物D1およびD2を判定すると共に、その端点E1,E2の位置を検出することが必要とされる。したがって、障害物判定部31は、外界センサ11から受け取った撮像画像に、所定の画像処理を施すことにより、このような障害物とその端点の位置を判定する。
【0021】
図1に戻り、見通し範囲算出部35は、判定された障害物の端点に基づいて、自車両の運転者が見通せる範囲を算出する。図2を参照して説明したように、障害物の端点E1,E2の位置が判明することにより、ラインL1およびL2の位置が定まり、よって見通し範囲を算出することができる。
【0022】
通過可能速度算出部37は、算出された見通し範囲に基づいて、見通し範囲外から接近する移動物体(たとえば、図2に示す他の車両B)と衝突(接触)することなく交差点を通過することのできる自車両の速度(通過可能速度と呼ぶ)VTを算出する。
【0023】
他方、自車両情報取得部33は、車両状態センサ12の出力信号を、上記の所定時間間隔で取得し、該出力信号に基づいて、自車両の現在の速度VNを取得する。
【0024】
衝突可能性判定部41は、通過可能速度VTと、自車両の現在の速度VNとを比較する。通過可能速度VTが車両の速度VN以下であれば(VT≦VN)、自車両は、見通し範囲外から進入する移動物体が存在するとしても、運転者が交差点状況を正しく理解して走行することで、該移動物体との接触を避けて走行を続けることができると判定する。他方、通過可能速度VTが、車両の現在の速度VNより大きければ(VT>VN)、自車両は、見通し範囲外から進入する移動物体が存在した場合、現在の走行を維持することによって、該移動物体と交差点で接触するおそれがあることを示すので、衝突可能性があると判定する。
【0025】
好ましくは、停止可能速度算出部39が設けられる。停止可能速度算出部39は、自車両が交差点に進入するまでに停止することが可能な最大速度(停止可能速度と呼ぶ)VSを算出する。この場合、衝突可能性判定部41は、停止可能速度VSと、車両の現在の速度VNとを比較する。停止可能速度VSが、車両の速度VNより大きければ(VS>VN)、通過可能速度VTが車両の速度VNより大きくても、自車両は、運転者が交差点状況を正しく理解して走行すれば交差点に到達する前に停止することが可能であるので、該移動物体との衝突を運転者自身による対応によって回避可能であると判定する。停止可能速度VSが、車両の速度VN以下であれば(VS≦VN)、運転者自身による対応によって自車両が交差点に到達する前に停止することが困難であるため、衝突の可能性はあると判定する。
【0026】
衝突回避制御部43は、衝突可能性があると判定されたならば、衝突回避支援装置15を起動して、衝突回避のための制御を発動する。衝突回避のための制御には、任意の適切な制御を含めることができる。一実施形態では、衝突回避のための制御として、報知が行われ、衝突回避支援装置15は、報知装置である。
【0027】
報知装置15は、任意の既知の適切な手法で実現されることができ、たとえば、触覚的伝達装置、視覚的伝達装置、聴覚的伝達装置のうち、任意の1つまたは複数の装置を用いて実現することができる。触覚的伝達装置は、たとえばシートベルト装置や操舵制御装置などであって、衝突回避制御部43から出力される制御信号に応じて、たとえばシートベルトに所定の張力を発生させて運転者が触覚的に知覚可能な締め付け力を作用させたり、ステアリングホイールに運転者が触覚的に知覚可能な振動を発生させることにより、運転者に報知する。
【0028】
視覚的伝達装置は、たとえば表示装置などであって、衝突回避制御部43からの制御信号に応じて、所定の警報情報を表示したり、所定の警告灯を点滅ないし点灯させることによって、運転者に報知する。聴覚的伝達装置は、たとえばスピーカなどであって、衝突回避制御部43からの制御信号に応じて所定の警報音や音声を出力することによって、運転者に報知する。
【0029】
他の実施形態では、衝突回避支援装置15は、ブレーキアクチュエータである。衝突回避制御部43は、衝突回避のための制御として、ブレーキアクチュエータに制御信号を送り、該ブレーキアクチュエータを介して車両のブレーキを作動させる。この場合、交差点に達する前に車両が停止するのに必要な減速度が生じるようブレーキを作動させることができる。
【0030】
なお、上記の報知およびブレーキ制御のいずれか一方を実施してもよいし、両方を実施してもよい。
【0031】
以下、障害物判定部31、見通し範囲算出部35、通過可能速度算出部37、停止可能速度算出部39のより詳細な動作について説明する。
【0032】
まず、障害物判定部31による処理内容を説明する。図3の(a)の符号120は、外界センサ11である撮像装置によって撮像された画像の一例を示す。たとえば図2を参照して説明したような障害物D1およびD2が自車両の道路101の左右両側に存在する状況において、撮像装置によって車両前方を撮像すると、該障害物D1、D2が、撮像画像120の左および右側にそれぞれ撮像される。図2の端点E1およびE2は、該撮像画像に示されるように、障害物D1およびD2のエッジ全体(図の121および122)をそれぞれ表している。また、点Oは、いわゆる遠近法において平行線が交わる点である消失点を示しており、自車両の進行方向を表している。また、撮像画像に対し、便宜上、図のように消失点を原点Oとしてxy座標系を設定する。
【0033】
障害物判定部31は、時間的に連続して取得された撮像画像(たとえば、今回撮像された画像と前回撮像された画像)を用いて、今回取得された撮像画像の各点(各画素)について、オプティカルフローを算出する。オプティカルフローは、周知の如く、時間的に連続する画像の中での物体の動きをベクトルで現したものであり、オプティカルフローの大きさは、物体の動きベクトルの大きさによって表されることができる。オプティカルフローの算出には、既知の手法を用いることができる。この実施例では、画像上の各点のオプティカルフローを算出し、これを、列(x方向)毎に平均する。
【0034】
なお、オプティカルフローの算出は、広角カメラで撮像したことにより発生する画像周辺部の歪みを、予め画像処理により除去した上で行うことが好ましい。
【0035】
図3の(b)は、こうして得られたオプティカルフローVの結果の一例を示す。横軸のx値は、(a)の画像と対応づけられており、撮像画像120の左端をxLで表し、右端をxRで表している。縦軸はオプティカルフローVの大きさ(動きベクトルの大きさ)を表している。ここで、オプティカルフローVのx成分の向きがxの正方向であるときには、該オプティカルフローVの大きさを正の値として表し、オプティカルフローVのx成分の向きがxの負の方向であるときには、オプティカルフローVの大きさを負の値として表している。したがって、左側に撮像されている障害物D1を構成する画像上の各点のオプティカルフローVのx成分は、xの負の方向を向いているので、負値を取るものとなり、右側に撮像されている障害物D2を構成する画像上の各点のオプティカルフローVのx成分は、xの正の方向を向いているので、正値を取るものとなっている。
【0036】
自車両Aが移動しているために、時間的に連続して取得された撮像画像において、障害物は見かけ上自車両Aに近づいてくるように見える。したがって、障害物のオプティカルフローの大きさは大きい。他方、背景(障害物D1とD2の間の領域)は遠くに存在しているため、そのオプティカルフローの大きさは小さい。したがって、(b)に示すように、撮像画像について得られるオプティカルフローVの大きさは、障害物D1の画像上の右端121に対応するx値すなわちx1を境に急変すると共に、障害物D2の画像上の左端122に対応するx値すなわちx2を境に急変している。
【0037】
障害物判定部31は、こうして算出されたオプティカルフローの大きさを調べ、これが所定値以上変化しているかどうかを判断し、いずれかのx値において所定値以上変化しているならば、障害物が存在すると判定する。
【0038】
次に、障害物判定部31は、x1より小さいx値の領域(すなわち、x1とxLの間の領域)のオプティカルフローVの挙動と、x2より大きいx値の領域(すなわち、x2とxRの間の領域)のオプティカルフローVの挙動に基づいて、障害物D1およびD2の端点E1およびE2の位置を算出する。この手法について、具体的に説明する。
【0039】
まず、図4および図5を参照して、障害物の配置に依存して、オプティカルフローがどのような特性を持つかについて説明する。
【0040】
図4の(a)には、一例として、障害物131が、位置P1、P2およびP3のいずれかに、該障害物131の側面133が自車両Aの進行方向(Z軸方向)に平行となるよう存在していると仮定する。Z軸から障害物の側面133までの距離が、dで表されている。符号111は、前述したように、外界センサ11(図示せず)により撮像される範囲を示す。
【0041】
(b)には、図3(b)で説明したような手法で算出された、障害物131が位置P1に存在した場合、位置P2に存在した場合および位置P3に存在した場合のそれぞれについて、消失点Oからの距離(x値の絶対値で表される)に対する、オプティカルフローVの大きさ(ここでは、絶対値で表される)が示されている。ここで、実線は、実際の撮像画像から得られるオプティカルフローの部分であり(図3の例で言えば、x1とxLの間のオプティカルフローの部分だけ切り取ったもの)、この実線を延長した線が、点線で表されている。これらのオプティカルフローの大きさ|V|は、消失点Oからの距離の大きさ|x|に比例する。また、障害物131の側面133は自車両Aの進行方向に平行に位置しているため、これらのオプティカルフローを延長すると、点線で示すように消失点Oに収束する。
【0042】
位置P1〜P3のオプティカルフロー間で異なる点は、オプティカルフローの大きさ|V|を表す直線の傾きであり、図には、位置P1〜P3のオプティカルフローについて、角度α1〜α3で表されている。距離dが短いほど、障害物が自車両近くに存在しているため、オプティカルフローの大きさ|V|が大きくなる。このように、距離dに応じて、オプティカルフロー|V|を表す直線の傾きが決まり、距離dが大きくなるほど、該傾きは大きくなる(すなわち、x値の変化に対するオプティカルフローの変化の大きさが大きくなる)。
【0043】
次に、図5を参照すると、(a)には、一例として、障害物136が、位置P4、P2およびP5のいずれかに存在していると仮定する。なお、位置P2は、図4のものと同じである。図4と異なり、位置P4ないしP5に障害物136が存在したときの側面137は、車両Aの進行方向(Z軸)に対して傾いている。この傾きを、θで表す。図には、位置P4に障害物136が存在したときの傾きθが示されている。位置P5に障害物136が存在したときの傾きθは、位置P4の場合と同じ大きさの傾きθを持つが、その方向が異なる(ここでは、負値の−θで表す)。
【0044】
(b)には、図4(b)と同様に、障害物136が位置P4に存在した場合、位置P2に存在した場合および位置P5に存在した場合のそれぞれについて、消失点Oからの距離(x値の絶対値で表される)に対する、オプティカルフローVの大きさ(絶対値で表される)が示されている。位置P2に存在した場合の障害物136のオプティカルフローは、図4(b)に示されるものと同じであり、その延長線は消失点Oに収束する。
【0045】
これらのオプティカルフローの大きさ|V|は、図4の(b)と同様に、消失点Oからの距離の大きさ|x|に比例する。しかしながら、位置P4ないしP5に障害物136が存在した場合については、該障害物136の側面137が、自車両Aの進行方向に対して傾きθを有しているため、オプティカルフローを延長しても、消失点Oには収束しない。位置P4のオプティカルフローの直線の切片は、β4で表され、位置P5のオプティカルフローの直線の切片は、β5で表されている。
【0046】
このように、位置P4、P2、P5のオプティカルフロー間で異なる点は、オプティカルフローの大きさ|V|を表す直線の切片である。傾きθの大きさが小さくなるほど、切片の値は原点(消失点)Oに近づく。ここで、位置P4のように、Z軸に対して時計回りの方向に傾いているときには、切片はβ4で示すように正値となるが、反時計回りの方向に傾いているときには、切片はβ5で示すように負値となる。このように、傾きθの大きさと方向に応じて、オプティカルフロー|V|を表す直線の切片が決まり、傾きθの大きさが小さくなるほど、該切片の値はゼロに近づく。
【0047】
以上のように、障害物の配置とオプティカルフローとの間には相関があることが判明したので、この相関を利用して、撮像画像から得られたオプティカルフローから、障害物の傾きθおよび距離dを求めればよい。ここで、撮像画像からオプティカルフローを算出し、障害物に対応するオプティカルフローの部分(図3の(b)の例では、たとえば、x1とxLの領域のオプティカルフロー)を直線で近似する。
【0048】
図6には、こうして近似されたオプティカルフローの一例が、直線141(実線で表される)で示されている。この直線141を、点線で示すように延長し、延長した線の縦軸との交点である切片βを算出する。切片βの値と、障害物の傾きθとは、上で述べたように相関があるので、切片βの値毎に、対応する障害物の傾きθを、シミュレーション等を介して予め算出してマップとして記憶装置に記憶しておくことができる。今回算出された切片βの値に基づいて該マップを参照することにより、対応する障害物の傾きθを求めることができる。
【0049】
次に、直線141の端点142、すなわち、撮像画像の左端xLに対応している直線141上の点142から、消失点Oに直線143を引き、該直線143の傾きαを算出する。なお、この実施例では、図3に示すように、撮像画像の左端xLにまで障害物が撮像されているために、点142は直線141上にある。左端xLに障害物が撮像されていない場合には、直線141を撮像画像の左端xLに向けて延長して、xLに対応する直線141の延長線上の点から、消失点Oに向けて直線143を引けばよい。この直線143は、障害物がZ軸に対して傾いていない場合のオプティカルフローを示している。上で述べたように、直線143の傾きαの値と障害物の距離dとは相関があるので、傾きαの値毎に、対応する障害物の距離dを、シミュレーション等を介して予め算出してマップとして記憶装置に記憶しておくことができる。今回算出された傾きαの値に基づいて該マップを参照することにより、対応する障害物の距離dを求めることができる。
【0050】
なお、切片βに代えて、直線141の、直線143に対する角度γを用いてもよい。直線143は、障害物がZ軸に対して傾いていない場合のオプティカルフローを示す、基準となる直線である。図5を参照しても明らかなように、障害物のZ軸に対する傾きに依存して、切片βの値と同様に、基準直線に対する角度γも変化する。この場合、切片βと同様に、障害物がZ軸に対して時計回りの方向に傾いているときには、角度γは正値となり、反時計回りの方向に傾いているときには、角度γは負値となる。
【0051】
こうして、図7に示すように、障害物D1の距離dおよび傾きθが算出された(なお、図2の障害物D1は傾きを持っているようには示されていないが、ここでは例として、障害物D1が傾きを持っている場合を説明している)。次に、障害物D1の端点E1の位置を求める手法について説明する。実空間上の座標系として、自車両Aの外界センサ11が搭載されている位置を原点Oとして、自車両Aの車幅方向にX軸をとり、進行方向にZ軸を取る。端点E1について、その撮像画像上のx座標値は、x1であると判明している。他方、撮像画像において、x1というx値を持つ点(列となる)が、実空間のどの位置に対応するかは予め決まっており、これが、ライン151によって表されている。
【0052】
距離dおよび傾きθにより、ライン153が決定される。ライン151とライン153の交点を求めることにより、端点E1の位置(実空間上の位置)を算出することができる。ここでは、端点E1は、実空間の座標系で表され、x1に対応するX座標値と、自車両からのZ軸方向の距離を表すZ座標値とに基づいて表される。
【0053】
障害物D2の端点E2についても、同様の手法で算出されることができる。障害物判定部31によって算出された障害物の端点E1およびE2の位置は、見通し範囲算出部35に渡される。
【0054】
なお、この実施形態では、図3を参照して説明したように、撮像画像の各点についてオプティカルフローを算出しているが、上で述べたように、見通しを遮る障害物の端点の位置を判定することが目的であるので、撮像画像の上方の所定領域中の各点についてのみオプティカルフローを算出するようにしてもよい。たとえば、撮像画像の上半分の領域の各点についてのみ、オプティカルフローを算出することができる。このようにすることにより、たとえば縁石等の、視界を遮るおそれのない、地表からの高さが低い物体について計算する必要がなくなり、よって、計算負荷を低減して、処理速度を向上させることができる。
【0055】
次に、見通し範囲算出部35および通過可能速度算出部37について説明する。図8を参照すると、図2と同様の図が示されており、前述したように、障害物D1およびD2の端点E1およびE2の位置は判明している。この図では、便宜上、自車両Aの外界センサ11の位置を原点として、自車両Aの進行方向にy軸を取り、該y軸に垂直な方向にx軸を取る。ここで、y軸は、図7のZ軸に対応しており、よって、端点E1およびE2の位置は、この図ではxおよびy座標値で表される。
【0056】
原点に対する自車両Aの運転者の位置は、予めわかっている。見通し範囲算出部35は、該運転者の位置と、端点E1の位置とを結ぶラインL1を算出すると共に、運転者の位置と端点E2の位置を結ぶラインL2を算出し、これらのラインで囲まれた領域を、見通し範囲として算出する。代替的に、運転者の位置に代えて、外界センサ11の位置を用いてもよい。また、この例では、自車両Aの左右両側に障害物が存在する場合を説明したが、いずれか一方のみに障害物が存在している場合には、障害物が存在しない側については、予め設定された範囲を見通し範囲とすることができ、たとえば撮像範囲(図2)を見通し範囲と設定してもよい。
【0057】
通過可能速度算出部37は、自車両Aが、現在の進行方向に一定の加速度で走行した場合に、見通し範囲外から移動物体が進入した場合でも、該移動物体と接触することなく交差点を通過できる通過可能速度(すなわち、移動物体よりも先に交差点を通過するのに必要な最低速度)VTを、以下の式(1)に従って算出する。
【数1】
【0058】
ここで、図には、自車両Aが現在の進行方向を維持して道路101上を走行した場合の進行経路105が示されている。y2は、自車両Aが、交差点を通過し終えるまでの距離であり、道路103(以下、交差道路と呼ぶ)との交差点に進入するまでの距離y1と、交差道路103の幅yWと、車両Aの車両長yAとを加算することにより算出されることができる。交差点に進入するまでの距離y1は、任意の適切な手法により取得することができ、たとえば、ナビゲーション装置を車両Aに搭載して、ナビゲーション装置が備える地図情報から、交差点までの距離を取得することができる。または、外界センサ11を介して撮像された画像から、任意の適切な画像処理を介して交差点を検出することにより、該交差点までの距離を取得してもよい。
【0059】
交差道路103の幅ywについても、ナビゲーション装置が備える地図情報に含まれる道路情報から取得することができる。または、外界センサ11を介して撮像された画像から、任意の適切な画像処理を介して交差道路103を検出することにより、その幅を算出してもよい。
【0060】
Tは、見通し範囲外に移動物体が存在すると仮定した場合に、該移動物体が、見通し範囲に進入してから、自車両Aの進行経路105に到達するまでの時間であり、これは、見通し範囲の大きさと移動物体の速度に基づいて算出される。
【0061】
ここで、この実施形態では、移動物体として、図に示すように、左方向から見通し範囲に進入する他の車両B1と、右方向から見通し範囲に進入する他の車両B2と、左方向から見通し範囲に進入する自転車C1と、右方向から見通し範囲に進入する自転車C2とが存在すると仮定する。
【0062】
他の車両B1については、自車両に遠い側の車線を走行してくると考えて、該車両B1の右側側面がラインL1を横切る位置として想定されうる点、すなわち、ラインL1上の、交差道路103の道幅の中心付近の点161を選択し、該点161から、自車両Aの進行経路105(具体的には、自車両Aの左側側面を延長した線)までのx軸方向の距離dcを、見通し範囲の大きさを表す数値として算出する。
【0063】
他の車両B2については、自車両に近い側の車線を走行してくると考えて、該車両B2の左側側面がラインL2を横切る位置として想定されうる点、すなわち、ラインL2上の、交差道路103の道路端109より所定距離(たとえば、1m)の点163を選択し、該点163から、自車両Aの進行経路105(具体的には、自車両Aの右側側面を延長した線)までのx軸方向の距離dcを、見通し範囲の大きさを表す数値として算出する。
【0064】
自転車C1については、交差道路103の道路端109近くを走行してくると考えて、自転車C1がラインL1を横切る位置として想定されうる点、すなわち、ラインL1上の、道路端109すぐの点165を選択し、該点165から、自車両Aの進行経路105までのx軸方向の距離dcを、見通し範囲の大きさを表す数値として算出する。自転車C2についても同様に、ラインL2上の、道路端109すぐの点167を選択し、該点167から、自車両Aの進行経路105までのx軸方向の距離dcを、見通し範囲の大きさを表す数値として算出する。
【0065】
また、他の車両B1およびB2の速度には、所定値を用いる。ここで、該所定値は、道路種別に応じて決定してもよい。たとえば、ナビゲーション装置の地図情報に含まれる道路情報から、交差道路103の法定速度を取得し、法定速度に余裕値αを加算した値を、該所定値として用いることができる。または、リアルタイムに交差道路103の現在の平均車速を算出し、これに、余裕値を加えた値を該所定値としてもよい。このリアルタイムの算出には、たとえば、走行中の各車両がセンサ(プローブ)となり、該車両で計測された走行状態に関するプローブ情報が、所定のサーバ(センター)に集められるプローブシステムを利用してもよい。プローブ情報として、たとえば道路の各地点毎に、該道路における各車両の速度を収集し、該収集した値を平均することにより、道路103の交差点付近の平均車速を算出することができる。自車両Aには、該サーバとの通信機能を備えた装置(ナビゲーション装置でもよい)を搭載し、該サーバから平均車速を取得して、これを該所定値として用いることができる。または、外界センサ11によって、交差点内を通過する交差車両を1台以上検出することができれば、直接その速度を算出し、最大値もしくは平均値を該所定値として用いても良い。
【0066】
自転車C1およびC2の速度には所定値が設定され、該所定値には、自転車について予め想定される速度が設定される。たとえば、該想定される速度は、予め実験等で自転車の平均速度を計測することにより取得されることができる。
【0067】
こうして、仮定される移動物体B1、B2、C1およびC2のそれぞれについて、対応する距離dcを、対応する速度で除算することにより、上記の到達時間Tを算出することができる。
【0068】
また、aは、自車両Aが、交差点を通過するときに発生しうる加速度として予め設定された値である。これは、実験等を介して予め設定することができる。
【0069】
このように、仮定される移動物体B1、B2、C1およびC2のそれぞれについて、通過可能速度VTが算出されることとなる。これらの算出された通過可能速度の中で、最も高い値を持つ通過可能速度VTを選択し、これを、後続の衝突可能性判定処理に用いる。
【0070】
なお、上記の仮定する移動物体の種類および距離dcの算出に用いる各点161〜167の位置は、一例であり、必ずしも限定されるものではない。たとえば、交差道路103が一方通行である場合には、左右のいずれか一方から見通し範囲に進入してくる自動車および自転車についてのみ考慮するようにしてもよい。また、交差道路103が、自転車の走行しないような道路であれば、自動車についてのみ考慮するようにしてもよい。
【0071】
次に、停止可能速度算出部39について説明する。停止可能速度算出部39は、次の式(2)に従って、自車両Aが交差点に進入するまでに停止可能な最大速度を示す停止可能速度VSを算出する。
【数2】
【0072】
ここで、y1は、前述したように、自車両Aの現在位置から、交差点に進入するまでの距離である。GBRKは、自車両Aが停止する際に通常発生しうる減速度(負の値で表される加速度)であり、実験等を介して予め設定されることができる。
【0073】
以下、図9〜図11に示される具体的な計算事例を参照して、通過可能速度VT、自車両の現在の速度VNおよび停止可能速度VSを用いた、衝突可能性判定部41による衝突可能性の判定手法を説明する。
【0074】
図9の(a)には、事例に用いた数値が示されており、図8と同様の座標軸(図示せず)が設定されているものとする。障害物D1およびD2の端点E1およびE2の自車両Aに対するx方向の位置が比較的遠いために、見通しが比較的良好な状況を表している。(b)は、(a)のような状況下における、距離y1の各値に対する通過可能速度VTと停止可能速度VSの値をプロットしたものである。距離y1は、前述したように、自車両Aの交差点に進入するまでの距離を示している。この例では、距離y1の値は、交差に進入する地点でゼロ値を取り、交差点から自車両Aの現在位置に向かうほど(すなわち、y軸の負の方向に向かうほど)、絶対値が大きくなる負値を取る。たとえば、y1が「−2」mということは、自車両Aが交差点に進入するまでの距離が2メートルという意味である。
【0075】
ここで、通過可能速度VTおよび停止可能速度VSを算出する式(1)および(2)の所定値等について、GBRKは0.3Gとし、aは0.2Gとしている。また、仮定される移動物体のそれぞれについての到達時間Tは、自動車の場合には速度を時速60キロメートルとし、自転車の場合には時速20キロメートルとして算出している。前述したように、仮定される移動物体が複数ある場合には、通過可能速度が複数算出されることとなるが、それらのうちの最も高い値を、通過可能速度VTとして選択し、図にプロットしている。
【0076】
さらに、図10は、図9の(b)のグラフ上に、C1〜C5で表される各ケースについて、自車両の速度VNを黒丸でプロットしたものである。ケースC3〜C5は、黒丸から直線が伸長しており、これは、自車両Aが、現在の速度VNから、減速ないし加速によって速度が変化した場合を表している。
【0077】
まず、C1で示される黒丸は、自車両の速度VNが、通過可能速度VTおよび停止可能速度VSよりも大きい状況(第1のケース)を示している。このような状況では、安全確認は必要とされるものの、自車両が、現在の速度で走行すれば、もしくは現在の速度から加速すれば、移動物体が交差点に到達する前に交差点を通過し終えることができる。したがって、衝突可能性は低いと判定され、衝突回避の制御は行われない。
【0078】
C2で示される黒丸は、自車両の速度VNが、停止可能速度VSより大きく、通過可能速度VTより小さい状況(第2のケース)を示している。このような状況では、自車両が、交差点に到達する前に停止することができず、また、移動物体が交差点に到達する前に交差点を通過することができない状況を示している。したがって、衝突可能性が高いと判定され、衝突回避のための何らかの制御を行う。
【0079】
C3で示される黒丸およびラインは、車両の現在の速度VN(黒丸)が、通過可能速度VTおよび停止可能速度VSよりも小さく、かつ、たとえば現在アクセルペダルが踏まれておらず、交差点に近づくにつれて減速していく状況を示している。このような状況は、車両が加速しておらず、交差点に到達する前に停止することができる状況を示している。したがって、衝突可能性は低いと判定され、衝突回避の制御は行われない。
【0080】
C4で示される黒丸およびラインは、車両の現在の速度VN(黒丸)が、通過可能速度VTおよび停止可能速度VSより小さく、かつ、たとえば現在アクセルペダルが踏まれていて加速しており、その結果、交差点に近づくにつれて、通過可能速度VTを上回り、その後に停止可能速度VSを上回るであろう状況を示す。すなわち、C4で示すラインと通過可能速度VTの交点に対応する距離y1の値dTF4が、C4で示すラインと停止可能速度VSの交点に対応する距離y1の値dSF4より小さい(dTF4<dSF4)。このような状況では、加速しているものの、停止可能な状況下で(停止可能速度VSより下の範囲で)通過可能速度VTに達している。したがって、加速が正しく行われている状況であるので、衝突可能性は低いと判定され、衝突回避の制御は行われない。
【0081】
C5で示される黒丸およびラインは、車両の現在の速度VN(黒丸)が、通過可能速度VTおよび停止可能速度VSより小さく、かつ、たとえば現在アクセルペダルが踏まれていて加速しており、その結果、交差点に近づくにつれて、停止可能速度VSを上回り、その後に通過可能速度VTを上回るであろう状況を示す。すなわち、C5で示すラインと通過可能速度VTの交点に対応する距離y1の値dTF5が、C5で示すラインと停止可能速度VSの交点に対応する距離y1の値dSF5より大きい(dTF5>dSF5)。このような状況では、加速しつつあるが、通過可能速度VTに達する前に、停止不可能な状態になってしまう。したがって、衝突可能性は高いと判定され、何らかの衝突回避の制御が行われる。
【0082】
他方、図11(a)は、他の事例に用いた数値が示されており、障害物D1およびD2の端点E1およびE2の自車両Aに対するx方向の位置が比較的近いために、見通しが悪い状況を表している。(b)は、(a)のような状況下における、距離y1の各値に対する通過可能速度VTと停止可能速度VSの値をプロットしたものである。ここで、通過可能速度VTおよび停止可能速度VSを算出する式(1)および(2)の所定値等については、図9の所で述べたものと同じである。また、通過可能速度の選択手法についても、同じである。
【0083】
図9の(b)と比較して明らかなように、停止可能速度VSの挙動は同じであるが、見通し範囲が狭くなっているがために、通過可能速度VTの挙動が異なっている。衝突回避制御が行われるのは、図10に示すような第2のケースC2および第5のケースC5である。第2のケースC2は、車両の現在の速度VNが、通過可能速度VTと停止可能速度VSの間にある場合である。図11の(b)の場合、見通し範囲が狭いために、通過可能速度VTと停止可能速度VSの間の範囲がかなり大きくなっており、よって、自車両の速度VNが、この範囲内に入る可能性が高まり、衝突回避制御が、図9の見通しが良い状況に比べて発動されやすくなっている。
【0084】
また、第5のケースC5は、車両の現在の速度VNが、通過可能速度VTおよび停止可能速度VSより小さく、かつ、加速することで、通過可能速度VTを上回る前に、停止可能速度VSを上回る状況を示す。見通しが悪いために、通過可能速度VTと停止可能速度VSの間の範囲がかなり大きくなっており、加速しても、通過可能速度を上回る前に、停止可能速度を上回ることが起こりやすい。したがって、このケースについても、衝突回避制御が発動されやすくなっている。
【0085】
このように、通過可能速度VTおよび自車両の速度VNに基づいて、移動物体が交差点に到達する前に自車両が交差点を通過し終えることができるかどうかを判断することができる。通過可能速度VTは、上で述べたように、見通し範囲の大きさ(図8の例では、距離dcで表される)に基づいて算出されているので、自車両が、移動物体と接触することなく交差点を通過できるかどうかの判定精度を向上させることができる。したがって、衝突回避の制御について、過剰な発動を抑制し、運転者をわずらわせることなく、より的確なタイミングで発動させることができる。また、停止可能速度VSを算出することにより、交差点前で停止可能な状態にあるかどうかを判断することができ、不必要な衝突回避制御を抑制することができる。さらに、現在加速しているかどうかを考慮することにより、加速した場合の移動物体との衝突可能性について、より良好な精度で判定することができる。
【0086】
図12および図13は、この発明の一実施形態に従う、衝突回避のための装置10の動作のフローチャートである。このプロセスは、所定の時間間隔で実行されることができる。
【0087】
ステップS11において、外界センサ(撮像装置)11によって撮像された画像を取得する。ステップS12において、前述したように、今回撮像された画像と、たとえば前回撮像された画像に基づいて、画像の各点のオプティカルフローを算出する。ステップS13において、図3を参照して説明したように、オプティカルフローにおいて、その大きさが所定値以上に変化する点が抽出されたならば、障害物が存在すると判定する。
【0088】
ステップS14において、ステップS12において算出されたオプティカルフローと、ステップS13において抽出された変化点とに基づいて、図6を参照して説明したような手法で、障害物の距離dおよび傾きθを算出する。ステップS15において、障害物の距離dおよび傾きθに基づいて、図7を参照して説明したような手法で、障害物の端点を判定する。
【0089】
ステップS16において、前述した式(1)および(2)に従い、通過可能速度VTおよび停止可能速度VSをそれぞれ算出する。前述したように、複数の通過可能速度が算出された場合には、その中で最も高い値の通過可能速度VTを、後続の処理で用いる。他方、ステップS17において、車両状態センサ12を介して、自車両の現在の速度VNを取得する。
【0090】
ステップS21〜S31は、図10を参照して説明した、衝突可能性を判定する処理である。
【0091】
ステップS21において、通過可能速度VTと車両の速度VNとを比較する。車両の速度VNが、通過可能速度VT以上ならば、前述した第1のケースC1を示しており、この場合には、衝突回避の制御は行われず、当該プロセスを抜ける。
【0092】
ステップS21において、車両の速度VNが通過可能速度VTより小さければ、ステップS22において、停止可能速度VSと車両の速度VNとを比較する。車両の速度VNが、停止可能速度VS以上ならば、停止可能でもなく、通過可能でもない、前述した第2のケースC2を示している。これは、衝突可能性があることを示しているので、ステップS31に進み、衝突回避のための制御を発動する。前述したように、衝突回避のための制御として、報知を行ってもよいし、ブレーキ制御を実行してもよい。
【0093】
ステップS22において、車両の速度VNが、停止可能速度VSより小さければ、ステップS23に進み、アクセルペダルが踏まれているかどうかを判断する。これは、アクセルペダルに設けられたセンサにより、任意の既知の手法で検出されることができる。アクセルペダルが踏まれていなければ、これは、現在の速度VNが停止可能な速度であり、かつ加速していない、前述した第3のケースC3を示している。この場合には、衝突回避の制御は発動されず、当該プロセスを抜ける。
【0094】
ステップS23において、アクセルペダルが踏まれていれば、ステップS24に進み、アクセルペダルの開度から、車両の今後の速度VFを推定する。たとえば、アクセルペダルの開度に基づいて、任意の既知の手法で加速度を算出し、現在の速度VNと該加速度に基づいて、車両の速度が、交差点に近づくにつれて(すなわち、距離y1が変化するにつれて)、どのように推移するかを推定することができる。アクセルペダルの開度に代えて、たとえば内燃機関の場合にはスロットル弁の開度を用いてもよい。こうして、図10の第4および第5のケースC4およびC5で示すような、車速の推定ラインを取得することができる。
【0095】
ステップS25において、図10を参照して説明したように、通過可能速度VTを示す曲線と自車両の車速について推定したラインとの交点に対応する第1の距離値dTFと、停止可能速度VSを示す曲線と自車両の車速について推定したラインとの交点に対応する第2の距離値dSFをそれぞれ算出する。
【0096】
ステップS26において、算出した第1の距離値dTFおよび第2の距離値dSFを比較する。第1の距離値dTFが、第2の距離値dSF以下であれば、前述した、加速しているが、停止可能な状況下で通過可能速度に達している第4のケースC4を示す。これは、衝突可能性がないことを示しているので、この場合には、衝突回避の制御は発動されず、当該プロセスを抜ける。
【0097】
ステップS26において、第1の距離値dTFが、第2の距離値dSFより大きければ、前述した、加速しているが、通過可能速度に達する前に停止不可能な状態になる第5のケースC5を示す。この場合には、ステップS31に進み、衝突回避の制御を発動する。
【0098】
以上のように、この発明の特定の実施形態について説明したが、本願発明は、これら実施形態に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0099】
10 衝突回避装置
11 外界センサ
12 車両状態センサ
13 処理装置
15 衝突回避支援装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載され、衝突を回避するための装置は、
前記車両の前部に配置され、該車両の周辺の障害物を検出する障害物検出手段と、
前記検出された障害物の位置に基づいて、該車両から前方を見通すことのできる見通し範囲を算出する手段と、
前記見通し範囲外から該車両に向けて接近してくる移動物体と衝突することなく、該車両の進行経路と該移動物体が接近してくる道路との交差点を該車両が通過することが可能な通過可能速度を、前記算出した見通し範囲に基づいて算出する手段と、
前記通過可能速度よりも該車両の現在の速度が小さいとき、衝突回避のための制御を発動する手段と、
を備える、衝突回避装置。
【請求項2】
前記車両が前記交差点に進入するまでに停止可能な最大速度を算出する手段を備え、
前記車両の現在の速度が該停止可能速度より小さいときには、該現在の速度が前記通過可能速度より小さくても、前記衝突回避のための制御の発動を抑制する、
請求項1に記載の衝突回避装置。
【請求項3】
前記障害物検出手段は、車両の前部に配置された撮像装置であり、該撮像装置によって取得された画像についてオプティカルフローを算出し、該オプティカルフローの大きさが所定値以上変化する画像上の点に基づいて、前記障害物の端点を判定し、
前記見通し範囲は、該障害物の端点の位置に基づいて算出される、
請求項1または2に記載の衝突回避装置。
【請求項1】
車両に搭載され、衝突を回避するための装置は、
前記車両の前部に配置され、該車両の周辺の障害物を検出する障害物検出手段と、
前記検出された障害物の位置に基づいて、該車両から前方を見通すことのできる見通し範囲を算出する手段と、
前記見通し範囲外から該車両に向けて接近してくる移動物体と衝突することなく、該車両の進行経路と該移動物体が接近してくる道路との交差点を該車両が通過することが可能な通過可能速度を、前記算出した見通し範囲に基づいて算出する手段と、
前記通過可能速度よりも該車両の現在の速度が小さいとき、衝突回避のための制御を発動する手段と、
を備える、衝突回避装置。
【請求項2】
前記車両が前記交差点に進入するまでに停止可能な最大速度を算出する手段を備え、
前記車両の現在の速度が該停止可能速度より小さいときには、該現在の速度が前記通過可能速度より小さくても、前記衝突回避のための制御の発動を抑制する、
請求項1に記載の衝突回避装置。
【請求項3】
前記障害物検出手段は、車両の前部に配置された撮像装置であり、該撮像装置によって取得された画像についてオプティカルフローを算出し、該オプティカルフローの大きさが所定値以上変化する画像上の点に基づいて、前記障害物の端点を判定し、
前記見通し範囲は、該障害物の端点の位置に基づいて算出される、
請求項1または2に記載の衝突回避装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2011−118570(P2011−118570A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−274248(P2009−274248)
【出願日】平成21年12月2日(2009.12.2)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年12月2日(2009.12.2)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
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