説明

車両の走行制御装置

【課題】車両を目標走行ラインに沿って走行させるため操舵輪の舵角が目標舵角になるよう舵角可変装置を制御する方法を提供する。
【解決手段】操舵輪の舵角δが目標舵角δtになるよう舵角可変装置を制御することにより車両を目標走行ラインに沿って走行させる車両の走行制御装置に於いて、操舵輪の目標舵角に対する実舵角の追従性悪化の指標値δerrが基準値δcよりも大きいときには、車両の目標状態量γtは目標舵角に基づく車両の目標状態量に設定され、これにより舵角の追従性悪化に起因する車両の走行ラインの目標走行ラインからのずれが車両の目標状態量に基づく走行運動の制御によって低減される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の走行制御装置に係り、更に詳細には操舵輪の舵角が目標舵角になるよう制御することにより車両を目標走行ラインに沿って走行させる走行制御装置に係る。
【背景技術】
【0002】
ステアリングホイールの如き操舵入力手段の操舵操作位置に対する操舵輪の舵角の関係を変更可能な舵角可変装置を備えた車両に於いて、操舵輪の舵角が目標舵角になるよう制御することにより車両の走行を制御する走行制御装置は既に知られている。例えば車両を目標走行ラインに沿って走行させるための操舵輪の目標舵角を演算し、操舵輪の舵角を目標舵角に制御することにより車両を目標走行ラインに沿って走行させる走行制御装置がよく知られている。
【0003】
また車両のヨーレートの如き状態量が車両の目標状態量になるよう各車輪の制駆動力を制御することにより車両の走行運動を制御することもよく知られている。特に舵角可変装置の作動による挙動制御中には操舵輪の目標舵角に基づいて車両の目標状態量を演算し、舵角可変装置の作動による挙動制御の非実行中又は舵角可変装置の故障時には操舵輪の実舵角に基づいて車両の目標状態量を演算することが既に知られている。例えば本願出願人により出願され既に特許された下記の特許文献1には、上述の如く車両の目標状態量の演算を切替える車両の挙動制御装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−255107号公報
【発明の概要】
【0005】
〔発明が解決しようとする課題〕
舵角可変装置を備えた車両に於いて、舵角可変装置の対処能力を越える速さや大きさの操舵操作が行われる場合や、操舵輪の舵角の変更に対する路面の反力が高いような場合には、操舵輪の目標舵角に対する操舵輪の実舵角の追従性が悪化する。操舵輪の舵角の追従性が悪化すると、操舵輪の舵角が目標舵角に制御されなくなるため、車両を目標走行ラインに沿って走行させることができなくなり、車両の走行ラインが目標走行ラインよりずれてしまう。
【0006】
上記特許文献1に記載された車両の挙動制御装置の如く車両の目標状態量の演算を切替えても、操舵輪の舵角の追従性の悪化に起因する車両の走行ラインの目標走行ラインよりのずれを低減することはできない。
【0007】
即ち操舵輪の実舵角に基づいて車両の目標ヨーレートの如き目標状態量が演算される場合には、車輪のグリップ低下に起因する車両の横すべり等を検出し、これに対処する車両の走行運動制御を行うことができる。また操舵輪の目標舵角に基づいて車両の目標状態量が演算される場合には、目標状態量と実際の状態量との比較により車両の目標走行運動状況からのずれの程度を判定することができる。
【0008】
しかし操舵輪の舵角の追従性が悪化した状況を舵角可変装置の故障時であると判定し、操舵輪の実舵角に基づいて車両の目標状態量を演算し、その目標状態量に基づいて車両の走行運動を制御しても、車両の走行ラインのずれを低減することはできない。
【0009】
本発明は、操舵輪の舵角を目標舵角に制御することにより車両を目標走行ラインに沿って走行させる従来の車両の走行制御装置に於ける上述の如き問題に鑑みてなされたものである。そして本発明の主要な課題は、操舵輪の目標舵角に対する操舵輪の実舵角の追従性が悪化した場合にも車両をできるだけ目標走行ラインに沿って走行させることである。
〔課題を解決するための手段及び発明の効果〕
【0010】
上述の主要な課題は、本発明によれば、操舵入力手段の操舵操作位置に対する操舵輪の舵角の関係を変更可能な舵角可変装置と、車両の走行運動を示す車両の状態量が操舵輪の実舵角に基づく目標状態量になるよう車両の走行運動を制御する走行運動制御装置とを備えた車両に適用され、操舵輪の舵角が目標舵角になるよう前記舵角可変装置を制御することにより車両を目標走行ラインに沿って走行させる車両の走行制御装置に於いて、操舵輪の目標舵角に対する操舵輪の実舵角の追従性悪化の指標値が基準値よりも大きいときには、車両の目標状態量は目標舵角に基づく車両の目標状態量に設定されることを特徴とする車両の走行制御装置(請求項1の構成)によって達成される。
【0011】
上記の構成によれば、操舵輪の目標舵角に対する操舵輪の実舵角の追従性悪化の指標値が基準値よりも大きいときには、車両の目標状態量は目標舵角に基づく車両の目標状態量に設定される。よって操舵輪の舵角の追従性が悪化していないときには車両の目標状態量を実舵角に基づく目標状態量に設定し、操舵輪の舵角の追従性が悪化しているときには車両の目標状態量を目標舵角に基づく目標状態量に設定することができる。
【0012】
従って操舵輪の舵角の追従性が悪化していないときには、車両の横すべり等に対処する車両の走行運動制御を効果的に行うことができ、操舵輪の舵角の追従性が悪化しているときには、車両の目標走行運動状況からのずれの程度を効果的に判定することができる。そして操舵輪の舵角の追従性が悪化しているときには、車両の走行運動の制御によって車両の状態量を目標状態量に近づけることができ、これにより車両の走行ラインを目標走行ラインに近づけることができる。換言すれば目標状態量に基づく車両の走行運動の制御により、操舵輪の舵角の追従性の悪化に起因する車両の走行ライン制御の制御性の低下を補填し、車両の走行ラインのずれを低減することができる。
【0013】
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記の構成に於いて、車速及び操舵輪の目標舵角の大きさの少なくとも一方が大きいときには車速及び操舵輪の目標舵角の大きさの少なくとも一方が小さいときに比して前記基準値が小さい値になるよう、車速及び操舵輪の目標舵角の大きさの少なくとも一方に応じて前記基準値を可変設定するよう構成される(請求項2の構成)。
【0014】
一般に、前輪の目標舵角に対する前輪の実舵角の追従性の悪化が車両を目標走行ラインに沿って走行させることができなくなることに与える影響は、車速が高いほど大きくなる。よって車速が高いほど操舵輪の実舵角の追従性悪化の指標値が小さくても前輪の舵角の追従性が悪化していると判定されることが好ましい。
【0015】
また緊急操舵時等に於いては、通常の走行時に比して前輪の目標舵角の大きさが大きくなり、目標舵角に対する前輪の実舵角の追従の遅れが顕著になり易い。よって前輪の目標舵角の大きさが大きいほど操舵輪の実舵角の追従性悪化の指標値が小さくても前輪の実舵角の追従性が悪化していると判定されることが好ましい。
【0016】
上記の構成によれば、車速及び操舵輪の目標舵角の大きさの少なくとも一方が大きいときには車速及び操舵輪の目標舵角の大きさの少なくとも一方が小さいときに比して基準値が小さい値に設定され、操舵輪の舵角の追従性が悪化していると判定され易くなる。よって操舵輪の舵角の追従性の判定に当たり、追従性が悪化していると判定されることのされ易さを車速や操舵輪の目標舵角の大きさの状況に応じて変化させることができる。
【0017】
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記の構成に於いて、車両の状態量及び目標状態量はそれぞれ車両のヨーレート及び目標ヨーレート、車両のスリップ角及び目標スリップ角、車両の横加速度及び目標横加速度の少なくとも何れかであるよう構成される(請求項3の構成)。
【0018】
上記の構成によれば、車両のヨーレート、車両のスリップ角、車両の横加速度の少なくとも何れかが対応する目標状態量になるよう車両の走行運動を制御し、これにより車両の走行運動を目標の走行運動に制御することができる。
【0019】
また本発明によれば、上記の構成に於いて、前記追従性悪化の指標値は操舵輪の実舵角と操舵輪の目標舵角との偏差の大きさ、車両の実ヨーレートと操舵輪の目標舵角に対応する車両のヨーレートとの偏差の大きさ、車両の実スリップ角と操舵輪の目標舵角に対応する車両のスリップ角との偏差の大きさの少なくとも何れかであるよう構成される(請求項4の構成)。
【0020】
操舵輪の舵角の追従性が悪化すると、実舵角と目標舵角との偏差の大きさ、実ヨーレートと目標舵角に対応する車両のヨーレートとの偏差の大きさ、実スリップ角と目標舵角に対応する車両のスリップ角との偏差の大きさの少なくとも何れかが大きくなる。
【0021】
上記の構成によれば、操舵輪の舵角の偏差の大きさ、車両のヨーレートの偏差の大きさ、車両のスリップ角の偏差の大きさの少なくとも何れかに基づいて操舵輪の舵角の追従性の悪化が判定されるので、舵角の追従性の悪化を確実に判定することができる。
【0022】
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記の構成に於いて、操舵輪の実舵角と操舵輪の目標舵角との重み和として制御用舵角を演算し、前記追従性悪化の指標値が前記基準値以下であるときには、前記追従性悪化の指標値が大きいほど操舵輪の目標舵角の重みを大きくし、前記制御用舵角に基づいて車両の目標状態量を演算するよう構成される(請求項5の構成)。
【0023】
上記の構成によれば、追従性悪化の指標値が基準値以下であるときには、追従性悪化の指標値が大きいほど操舵輪の目標舵角の重みを大きくして制御用舵角を演算し、その制御用舵角に基づいて車両の目標状態量を演算することができる。よって追従性悪化の指標値が基準値以下であるときには、追従性悪化の指標値の大きさに応じた車両の目標状態量を演算することができる。また追従性悪化の指標値が基準値の上下に変化しても車両の目標状態量が急激に変化することを防止することができる。
【0024】
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記の構成に於いて、操舵輪の実舵角に基づく第一の目標状態量と目標舵角に基づく第二の目標状態量との重み和として車両の目標状態量を演算し、前記追従性悪化の指標値が前記基準値以下であるときには、前記追従性悪化の指標値が大きいほど前記第二の目標状態量の重みを大きくするよう構成される(請求項6の構成)。
【0025】
上記の構成によれば、追従性悪化の指標値が基準値以下であるときには、追従性悪化の指標値が大きいほど操舵輪の実舵角に基づく目標状態量よりも目標舵角に基づく目標状態量の重みを大きくしてそれらの重み和として車両の目標状態量を演算することができる。よってこの構成の場合にも、追従性悪化の指標値が基準値以下であるときには、追従性悪化の指標値の大きさに応じた車両の目標状態量を演算することができる。また追従性悪化の指標値が基準値の上下に変化しても車両の目標状態量が急激に変化することを防止することができる。
〔課題解決手段の好ましい態様〕
【0026】
本発明の一つの好ましい態様によれば、上記の構成に於いて、走行運動制御装置は各車輪の制駆動力を制御することにより車両の走行運動を示す車両の状態量が操舵輪の実舵角に基づく目標状態量になるよう車両の走行運動を制御するよう構成される。
【0027】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記の構成に於いて、走行制御装置は車両前方の走行路を判定し、判定された走行路に基づいて目標走行ラインを設定し、設定された目標走行ラインに基づいて操舵輪の目標舵角を演算するよう構成される。
【0028】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記の構成に於いて、操舵アシスト力が低下しているときには、操舵輪の目標舵角に対する操舵輪の実舵角の追従性悪化の指標値が基準値よりも大きい場合と同様に、車両の目標状態量は目標舵角に基づく車両の目標状態量に設定されるよう構成される。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】前輪の舵角の制御が可能な車両に適用された本発明による車両の走行制御装置の第一の実施形態を示す概略構成図である。
【図2】第一の実施形態に於ける車両の走行制御の舵角制御及び目標ヨーレート演算ルーチンを示すフローチャートである。
【図3】本発明による車両の走行制御装置の第二の実施形態に於ける車両の走行制御の舵角制御及び目標ヨーレート演算ルーチンを示すフローチャートである。
【図4】第一の実施形態の修正例として構成された本発明による車両の走行制御装置の第三の実施形態に於ける車両の走行制御の舵角制御及び目標ヨーレート演算ルーチンを示すフローチャートである。
【図5】本発明による車両の走行制御装置の第四の実施形態に於ける車両の走行制御の舵角制御及び目標ヨーレート演算ルーチンを示すフローチャートである。
【図6】第四の実施形態の修正例として構成された本発明による車両の走行制御装置の第五の実施形態に於ける車両の走行制御の舵角制御及び目標ヨーレート演算ルーチンを示すフローチャートである。
【図7】車速V及び前輪の目標舵角δtの絶対値に基づいて基準値δcを演算するためのマップを示す図である。
【図8】ヨーレート偏差γerrに基づいて重みωを演算するためのマップを示す図である。
【図9】車両が旋回する際の車両の走行コースに与える第一の実施形態の効果を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下に添付の図を参照しつつ、本発明を幾つかの好ましい実施形態について詳細に説明する。
[第一の実施形態]
【0031】
図1は前輪の舵角の制御が可能な車両に適用された本発明による車両の走行制御装置の第一の実施形態を示す概略構成図である。
【0032】
図1に於いて、走行制御装置10は車両12に搭載され、前輪用操舵制御装置14と、制動力制御装置16と、駆動力制御装置80とを有している。前輪用操舵制御装置14は運転者の操舵操作とは無関係に前輪を操舵可能な操舵制御手段を構成している。また制動力制御装置16及び駆動力制御装置は互いに共働して運転者の制駆動操作とは無関係に各車輪の制駆動力を個別に制御可能な制駆動力制御手段を構成している。
【0033】
また図1に於いて、18FL及び18FRはそれぞれ車両12の操舵輪である左右の前輪を示し、18RL及び18RRはそれぞれ左右の後輪を示している。操舵輪である左右の前輪18FL及び18FRは運転者によるステアリングホイール20の操作に応答して駆動されるラック・アンド・ピニオン型のパワーステアリング装置22によりラックバー24及びタイロッド26L及び26Rを介して転舵される。
【0034】
ステアリングホイール20はアッパステアリングシャフト28、舵角可変装置30、ロアステアリングシャフト32、ユニバーサルジョイント34を介してパワーステアリング装置22のピニオンシャフト36に駆動接続されている。図示の第一の実施形態に於いては、舵角可変装置30はハウジング30Aの側にてアッパステアリングシャフト28の下端に連結され、回転子30Bの側にてロアステアリングシャフト32の上端に連結された補助転舵駆動用の電動機38を含んでいる。
【0035】
かくして舵角可変装置30はアッパステアリングシャフト28に対し相対的にロアステアリングシャフト32を回転駆動することにより、左右の前輪18FL及び18FRをステアリングホイール20に対し相対的に補助転舵駆動する。舵角可変装置30は電子制御装置40の操舵制御部により制御される。
【0036】
パワーステアリング装置22はラック同軸型の電動式のパワーステアリング装置であり、電動機42と、電動機42の回転トルクをラックバー24の往復動方向の力に変換する例えばボールねじ式の変換機構44とを有する。パワーステアリング装置22は電子制御装置40の操舵アシストトルク制御部によって制御され、ハウジング46に対し相対的にラックバー24を駆動する操舵アシストトルクを発生する。操舵アシストトルクは運転者の操舵負担を軽減し、また必要に応じて舵角可変装置30による左右前輪の転舵駆動を補助する。
【0037】
かくして舵角可変装置30はパワーステアリング装置22と共働してステアリングホイール20に対する左右前輪の舵角の関係を変更すると共に、運転者の操舵操作とは無関係に前輪を操舵する前輪用操舵制御装置14の主要部を構成している。
【0038】
尚パワーステアリング装置22及び舵角可変装置30の構造自体は本発明の要旨を構成するものではなく、これらの装置はそれぞれ上述の機能を果たすものである限り、当技術分野に於いて公知の任意の構成のものであってよい。
【0039】
制動力制御装置16は制動装置50を含み、各車輪の制動力は制動装置50の油圧回路52によりホイールシリンダ54FL、54FR、54RL、54RR内の圧力Pi(i=fl、fr、rl、rr)、即ち制動圧が制御されることによって制御される。図1には示されていないが、油圧回路52はオイルリザーバ、オイルポンプ、種々の弁装置等を含み、各ホイールシリンダの制動圧は通常時には運転者によるブレーキペダル56の踏み込み操作に応じて駆動されるマスタシリンダ58により制御される。また各ホイールシリンダの制動圧は必要に応じて油圧回路52が電子制御装置40の制動力制御部によって制御されることにより個別に制御される。かくして制動装置50は運転者の制動操作とは無関係に各車輪の制動力を個別に制御可能であり、制動力制御装置16の主要な装置として機能する。
【0040】
駆動力制御装置80は図には示されていないエンジンの出力及びトランスミッションの変速比を制御することにより駆動輪の駆動力を制御し、電子制御装置40の駆動力制御部によって制御される。
【0041】
図示の実施形態に於いては、車両12の前部には車両12の前方を撮影するCCDカメラ60が設けられており、車両12の前方の画像情報を示す信号がCCDカメラ60より電子制御装置40へ入力される。アッパステアリングシャフト28には該アッパステアリングシャフトの回転角度を操舵角θとして検出する操舵角センサ62及び操舵トルクTsを検出する操舵トルクセンサ64が設けられており、操舵角θ及び操舵トルクTsを示す信号も電子制御装置40へ入力される。また電子制御装置40には回転角度センサ66により検出された舵角可変装置30の相対回転角度θre、即ちアッパステアリングシャフト28に対するロアステアリングシャフト32の相対回転角度を示す信号が入力される。
【0042】
また電子制御装置40には車速センサ68により検出された車速Vを示す信号及びヨーレートセンサ70により検出された車両のヨーレートγを示す信号が入力される。更に電子制御装置40には圧力センサ72により検出されたマスタシリンダ圧力Pmを示す信号及び圧力センサ74FL〜74RRにより検出された各車輪の制動圧Piを示す信号が入力される。
【0043】
尚電子制御装置40の上述の各制御部及び後述の車両運動制御部はそれぞれCPUとROMとRAMと入出力ポート装置とを有し、これらが双方向性のコモンバスにより互いに接続されたマイクロコンピュータを含むものであってよい。また操舵角センサ62、操舵トルクセンサ64、回転角度センサ66はそれぞれ車両の左旋回方向への操舵又は転舵の場合を正として操舵角θ、操舵トルクTs、相対回転角度θreを検出する。
【0044】
電子制御装置40の操舵制御部はレーンキープアシスト制御(LKA制御)を行う。即ち操舵制御部はCCDカメラ60により取得された車両12の前方の画像情報に基づいて走行路を判定し、走行路の判定結果に基づいて目標走行ラインを設定する。そして操舵制御部は車両12を目標走行ラインに沿って走行させるための左右前輪の目標舵角δtを演算し、左右前輪の舵角δが目標舵角δtになるよう舵角可変装置30を制御する。
【0045】
電子制御装置40の操舵制御部は左右前輪の実舵角δと目標舵角δtとの偏差δerr(=δ−δt)を演算する。そして操舵制御部は偏差δerrの大きさが基準値δc(正の定数)未満であるときには、左右前輪の実舵角δに基づいて下記の式1に従って車両の目標状態量として車両の目標ヨーレートγtを演算する。
γt=V・δ(1+Kh・V)L ……(1)
【0046】
これに対し偏差δerrの大きさが基準値δc以上であるときには、操舵制御部は左右前輪の目標舵角δtに基づいて下記の式2に従って車両の目標状態量として車両の目標ヨーレートγtを演算する。尚上記式1及び下記の式2等に於いて、Khは車両のスタビリティファクタであり、Lは車両のホイールベースである。
γt=V・δt(1+Kh・V)L ……(2)
【0047】
また電子制御装置40は車両の走行運動を制御する車両運動制御部を有している。車両運動制御部はヨーレートセンサ70により検出された車両の実ヨーレートγと車両の目標ヨーレートγtとの偏差Δγを演算する。そして車両運動制御部はヨーレートの偏差Δγの大きさが基準値以上であるときには、ヨーレートの偏差Δγの大きさを小さくするための各車輪の目標制駆動力を演算する。更に車両運動制御部は各車輪の制駆動力がそれぞれ対応する目標制駆動力になるよう各車輪の制駆動力を制御する。
【0048】
次に図2に示されたフローチャートを参照して第一の実施形態に於ける車両の走行制御の舵角制御及び目標ヨーレート演算ルーチンについて説明する。尚図2に示されたフローチャートによる制御は図には示されていないイグニッションスイッチの閉成により開始され、所定の時間毎に繰返し実行される。
【0049】
まずステップ10に於いては必要な信号の読み込みが行われた後、LKA制御の前輪の目標舵角δt、即ち車両12を目標走行ラインに沿って走行させるための左右前輪の目標舵角δtが演算される。
【0050】
ステップ20に於いては前輪の舵角δが目標舵角δtになるよう舵角可変装置30及びパワーステアリング装置22が制御されることにより前輪の舵角が制御され、これによりLKA制御が実行される
【0051】
ステップ30に於いては操舵角θ、相対回転角度θre、ステアリング系のギヤ比等に基づいて前輪の実舵角δが推定される。尚前輪の実舵角δは検出手段により検出されてもよい。
【0052】
ステップ40に於いては前輪の実舵角δと目標舵角δtとの差δ−δtが前輪の舵角偏差δerrとして演算され、ステップ40が完了すると制御はステップ80へ進む。前輪の舵角偏差δerrの大きさは前輪の目標舵角に対する前輪の実舵角の追従性の悪化の指標値である。
【0053】
ステップ80に於いては前輪の舵角偏差δerrの絶対値が基準値δc(正の定数)以上であるか否かの判別により、舵角可変装置30等による前輪操舵の追従性が悪化しているか否かの判別が行われる。そして肯定判別が行われたときには制御はステップ110へ進み、否定判別が行われたときには制御はステップ100へ進む。
【0054】
ステップ100に於いては前輪の実舵角δに基づいて上記式1に従って車両の目標ヨーレートγtが演算され、ステップ110に於いては前輪の目標舵角δtに基づいて上記式2に従って車両の目標ヨーレートγtが演算される。
【0055】
ステップ100又は110が完了すると制御はステップ200へ進み、ステップ200に於いては目標ヨーレートγtを示す信号が電子制御装置40の操舵制御部から車両運動制御部へ送信される。
【0056】
かくして第一の実施形態によれば、ステップ10及び20に於いて前輪の舵角δが目標舵角δtになるよう舵角可変装置30及びパワーステアリング装置22が制御されることにより車両12を目標走行ラインに沿って走行させるLKA制御が実行される。
【0057】
またステップ40及び80に於いて前輪の舵角偏差δerrに基づいて舵角可変装置30等による前輪操舵の追従性が悪化しているか否かの判別が行われる。追従性が悪化していないと判定されたときにはステップ100に於いて前輪の実舵角δに基づいて車両の目標ヨーレートγtが演算される。これに対し追従性が悪化していると判定されたときにはステップ110に於いて前輪の目標舵角δtに基づいて車両の目標ヨーレートγtが演算される。
【0058】
また車両の実ヨーレートγと車両の目標ヨーレートγtとの偏差Δγの大きさが基準値以上であるときには、ヨーレートの偏差Δγの大きさを小さくするための各車輪の目標制駆動力が演算される。そして各車輪の制駆動力が対応する目標制駆動力になるよう各車輪の制駆動力が制御され、これにより車両のヨーレートγが目標ヨーレートγtになるよう車両の走行運動が制御される。
【0059】
従って第一の実施形態によれば、前輪の舵角δを目標舵角δtに制御することにより車両12を目標走行ラインに沿って走行させることができ、また車両のヨーレートγが目標ヨーレートγtになるよう車両の走行運動を制御することができる。尚この作用効果は後述の他の実施形態に於いても同様に得られる。
【0060】
舵角可変装置30等による前輪操舵の追従性が悪化すると、前輪の舵角δを目標舵角δtに制御することができなくなるので、車両12を目標走行ラインに沿って走行させることができなくなる。そして車両12の走行ラインが目標走行ラインからずれる量は前輪の舵角δと目標舵角δtとの偏差に対応している。従って前輪の舵角δと目標舵角δtとの偏差の大きさに基づいて前輪操舵の追従性の悪化の度合を判定することができる。
【0061】
第一の実施形態によれば、前輪の舵角偏差δerr、即ち前輪の実舵角δと目標舵角δtとの差δ−δtの絶対値が基準値δc以上であるか否かの判別により、前輪操舵の追従性が悪化しているか否かの判別が行われる。従って前輪操舵の追従性が悪化しているか否かを確実に判定することができる。
【0062】
また前輪操舵の追従性が悪化すると、運転者により操舵操作が行われ、操舵角θが変化する状況に於いて、前輪の実舵角δは目標舵角δtと一致しなくなる。従って前輪操舵の追従性が悪化しているときには、目標ヨーレートγtを目標舵角δtに基づいて演算することにより、目標ヨーレートγtを実舵角δに基づいて演算する場合に比して、目標ヨーレートγtを本来あるべき値に近い値に演算することができる。
【0063】
第一の実施形態によれば、車両の目標ヨーレートγtは、前輪操舵の追従性が悪化していないときには前輪の実舵角δに基づいて演算され、追従性が悪化しているときには前輪の目標舵角δtに基づいて演算される。従って前輪操舵の追従性が悪化していないときには前輪の実舵角δに応じた目標ヨーレートγtを演算することができ、追従性が悪化しているときには目標ヨーレートγtを本来あるべき値に近い値に演算することができる。
【0064】
また車両の実ヨーレートγと前輪の目標舵角δtに基づいて演算された目標ヨーレートγtとの偏差Δγの大きさを小さくするよう各車輪の制駆動力が制御される。従って車両のヨーレートγが目標ヨーレートγtになるよう車両の走行運動が制御されるので、前輪操舵の追従性が悪化しているときにも車両の走行運動を目標ヨーレートγtに対応する運動に制御することができる。よって前輪操舵の追従性が悪化し、前輪の舵角δが目標舵角δtに一致しなくなったことに起因する車両12の走行ラインと目標走行ラインとのずれ量が低減されるよう車両の走行運動を制御することができる。
【0065】
図9は車両が旋回する際の車両の走行コースに与える第一の実施形態の効果を示す説明図である。図9に於いて、80は車両12の目標走行ラインを示し、82は前輪操舵の追従性が悪化した場合の車両12の走行ラインを示している。前輪操舵の追従性が悪化すると、車両12は図示の如く目標走行ライン80に対しアンダーステア状態の走行ライン82に沿って走行する。この場合目標ヨーレートγtは目標走行ライン80に対応する目標舵角δtに基づいて演算され、車両のヨーレートγが目標ヨーレートγtになるよう車両の走行運動が制御されることにより、車両のアンダーステア状態が低減される。よって第一の実施形態に於ける車両12の走行ライン84は第一の実施形態による制御が行われない場合の車両12の走行ライン82よりも目標走行ライン80に近くなり、車両12の走行ラインと目標走行ラインとのずれ量を低減することができる。
[第二の実施形態]
【0066】
図3は本発明による車両の走行制御装置の第二の実施形態に於ける車両の走行制御の舵角制御及び目標ヨーレート演算ルーチンを示すフローチャートである。尚図3に於いて図2に示されたステップと同一のステップには図2に於いて付されたステップ番号と同一のステップ番号が付されている。このことは後述の他の実施形態のフローチャートについても同様である。
【0067】
この第二の実施形態に於いては、ステップ40の次にステップ50が実行される。ステップ50に於いては車速Vが高いほど基準値δcが小さくなり、また前輪の目標舵角δtの絶対値が大きいほど小さくなるよう、車速V及び前輪の目標舵角δtの絶対値に基づいて基準値δcが演算される。
【0068】
またステップ80に於いて否定判別か行われると、即ち前輪の舵角偏差δerrの絶対値が基準値δc未満であると判定されると、制御はステップ90へ進む。ステップ90に於いてはパワーステアリング装置22の操舵アシストトルクが不足しているか否かの判別が行われる。そして否定判別が行われたときには制御はステップ100へ進み、肯定判別が行われたときには制御はステップ110へ進む。尚左右前輪の転舵駆動を補助する操舵アシストトルクが不足しているか否かの判別は、操舵トルクTs及び目標操舵アシストトルクTst等に基づいて行われてよい。
【0069】
一般に、前輪の目標舵角δtに対する前輪の実舵角δの追従性の悪化が車両12を目標走行ラインに沿って走行させることができなくなることに与える影響は、車速Vが高いほど大きくなる。よって車速Vが高いほど前輪の舵角偏差δerrの絶対値が小さくても前輪の実舵角δの追従性が悪化していると判定されることが好ましい。
【0070】
第二の実施形態によれば、基準値δcは一定ではなく、車速Vが高いほど小さくなるよう車速Vに応じて可変設定されるので、車速Vが高いほどステップ80に於いて肯定判別が行われ易くなる。よって車速Vが高いほど前輪の実舵角δの追従性が悪化したと判定され易くすることができる。
【0071】
また緊急操舵時等に於いては、通常の走行時に比して前輪の目標舵角δtの大きさが大きくなり、目標舵角δtに対する前輪の実舵角δの追従の遅れが顕著になり易い。よって前輪の目標舵角δtの大きさが大きいほど前輪の舵角偏差δerrの絶対値が小さくても前輪の実舵角δの追従性が悪化していると判定されることが好ましい。
【0072】
第二の実施形態によれば、基準値δcは前輪の目標舵角δtの大きさが大きいほど小さくなるよう目標舵角δtの大きさにも応じて可変設定されるので、目標舵角δtの大きさが大きいほどステップ80に於いて肯定判別が行われ易くなる。よって目標舵角δtの大きさが大きいほど前輪の実舵角δの追従性が悪化したと判定され易くすることができる。
【0073】
また第二の実施形態によれば、ステップ80に於いて否定判別が行われると、ステップ90に於いてパワーステアリング装置22の操舵アシストトルクが不足しているか否かの判別が行われる。そして肯定判別が行われたときには制御はステップ110へ進む。即ち前輪の舵角偏差δerrの絶対値が基準値δc未満であると判定されても、操舵アシストトルクが不足していると判定されると、車両の目標ヨーレートγtは前輪の目標舵角δtに基づいて演算される。
【0074】
操舵アシストトルクが不足すると、操舵アシストトルクが不足していない場合に比して運転者が操舵操作をし難いことに起因して運転者が希望する操舵角の変化の大きさよりも実際の操舵角の変化の大きさが小さくなることがある。かかる状況に於いては、前輪の目標舵角δtは前輪の実舵角δよりも運転者の操舵意思を反映した値になる
【0075】
第二の実施形態によれば、操舵アシストトルクが不足していると判定された場合にも、前輪の舵角偏差δerrの絶対値が基準値δc以上である場合と同様に、車両の目標ヨーレートγtは前輪の目標舵角δtに基づいて演算される。従って前輪の舵角偏差δerrの絶対値が基準値δc未満であれば、操舵アシストトルクが不足していても車両の目標ヨーレートγtが前輪の実舵角δに基づいて演算される場合に比して、運転者の操舵意思を反映させて目標ヨーレートγtを演算することができる。よって車両の目標ヨーレートγtが前輪の実舵角δに基づいて演算される場合に比して、運転者の操舵意思が反映するよう車両の走行運動を制御することができる。
【0076】
第二の実施形態に於いては、ステップ50及び90の両方が実行されるようになっているが、ステップ50及び90の一方が省略されてもよい。またステップ50に於いては車速V及び前輪の目標舵角δtの絶対値に基づいて基準値δcが演算されるようになっているが、車速V及び前輪の目標舵角δtの絶対値の一方に基づいて基準値δcが演算されるよう修正されてもよい。
[第三の実施形態]
【0077】
図4は第一の実施形態の修正例として構成された本発明による車両の走行制御装置の第三の実施形態に於ける車両の走行制御の舵角制御及び目標ヨーレート演算ルーチンを示すフローチャートである。
【0078】
この第三の実施形態に於いては、ステップ40が完了すると、ステップ80に先立ってステップ60及び70が実行される。ステップ60に於いては前輪の実舵角δに基づいて下記の式3に従って車両の目標ヨーレートγaが演算され、ステップ70に於いては前輪の目標舵角δtに基づいて下記の式4に従って車両の基準ヨーレートγsが演算される。
γa=V・δ(1+Kh・V)L ……(3)
γs=V・δt(1+Kh・V)L ……(4)
【0079】
またステップ80に於いて否定判別が行われたときには、ステップ120に於いて車両の目標ヨーレートγtが目標ヨーレートγaに設定され、肯定判別が行われたときには、ステップ130に於いて車両の目標ヨーレートγtが目標ヨーレートγsに設定される。
【0080】
従ってこの第三の実施形態によれば、車両の目標ヨーレートγtは、前輪操舵の追従性が悪化していないときには前輪の実舵角δに基づいて演算される値であり、追従性が悪化しているときには前輪の目標舵角δtに基づいて演算される値である。よって上述の第一の実施形態の場合と同様の作用効果が得られる。
[第四の実施形態]
【0081】
図5は本発明による車両の走行制御装置の第四の実施形態に於ける車両の走行制御の舵角制御及び目標ヨーレート演算ルーチンを示すフローチャートである。
【0082】
この第四の実施形態に於いては、ステップ30が完了すると、ステップ70が実行された後、ステップ140〜170が実行される。
【0083】
ステップ140に於いては車両の実ヨーレートγと車両の基準ヨーレートγsとの偏差γ−γsとしてヨーレート偏差γerrが演算される。ヨーレート偏差γerrの大きさも前輪の舵角偏差δerrの大きさと同様に前輪の目標舵角に対する前輪の実舵角の追従性の悪化の指標値である。
【0084】
ステップ150に於いてはヨーレート偏差γerrの絶対値が大きいほど大きくなるよう、ヨーレート偏差γerrの絶対値に基づいて図8に示されたマップより重みωが演算される。特に重みωはヨーレート偏差γerrの絶対値が第一の基準値γerr1以下であるときには0に演算され、ヨーレート偏差γerrの絶対値が第二の基準値γerr2以上であるときには1に演算される。そしてヨーレート偏差γerrの絶対値が第一の基準値γerr1よりも大きく第二の基準値γerr2よりも小さい範囲にあるときには、重みωはヨーレート偏差γerrの絶対値が大きいほど大きくなるよう演算される。
【0085】
ステップ160に於いては下記の式5に従って重みωに基づく前輪の実舵角δと目標舵角δtとの重み和として制御用舵角δvscが演算される。
δvsc=(1−ω)δ+ω・δt ……(5)
【0086】
ステップ170に於いては制御用舵角δvscに基づいて下記の式6に従って車両の目標ヨーレートγtが演算され、ステップ150が完了すると制御はステップ200へ進む。
γt=V・δvsc(1+Kh・V)L ……(6)
【0087】
第四の実施形態によれば、ステップ140に於いて前輪の目標舵角に対する前輪の実舵角の追従性の悪化の指標値としてヨーレート偏差γerrが演算される。またステップ150に於いてヨーレート偏差γerrの大きさが大きいほど大きくなるようヨーレート偏差γerrに基づく目標舵角δtの重みωが演算される。そしてステップ160に於いて重みωを使用して前輪の実舵角δと目標舵角δtとの重み和として制御用舵角δvscが演算され、ステップ170に於いて制御用舵角δvscに基づいて車両の目標ヨーレートγtが演算される。
【0088】
従って第四の実施形態によれば、前輪の目標舵角に対する前輪の実舵角の追従性が悪化するほど前輪の実舵角δに比して目標舵角δtの影響度が高い制御用舵角δvscに基づいて車両の目標ヨーレートγtを演算することができる。よって前輪の実舵角の追従性が悪化するほど目標舵角δtの影響度を高くして車両の走行運動制御を行うことができ、これにより車両の走行コースの目標走行コースよりのずれを車両の走行運動制御によって補填する度合を高くすることができる。
【0089】
また第四の実施形態によれば、前輪の舵角の追従性の変化に伴う車両の目標ヨーレートγtの変化は重みωの変化によって徐々に行われるので、上述の第一乃至第三の実施形態の場合の如く目標ヨーレートγtの急激な変化に起因して車両の乗員が異和感を覚える虞れを確実に低減することができる。尚この作用効果は後述の第五の実施形態に於いても同様に得られる。
[第五の実施形態]
【0090】
図6は第三の実施形態の修正例として構成された本発明による車両の走行制御装置の第五の実施形態に於ける車両の走行制御の舵角制御及び目標ヨーレート演算ルーチンを示すフローチャートである。
【0091】
この第五の実施形態に於いては、ステップ30が完了すると、ステップ60及び70が実行され、更に上述の第四の実施形態の場合と同様にステップ140及び150が実行され、しかる後ステップ180が実行される。
【0092】
ステップ180に於いては下記の式7に従って重みωに基づく車両の目標ヨーレートγaと車両の基準ヨーレートγsとの重み和として車両の目標ヨーレートγtが演算され、ステップ170が完了すると制御はステップ200へ進む。
γt=(1−ω)γa+ω・γs ……(7)
【0093】
第五の実施形態によれば、ステップ140及び150に於いてヨーレート偏差γerrの大きさが大きいほど大きくなるようヨーレート偏差γerrに基づく基準ヨーレートγsの重みωが演算される。そしてステップ180に於いて重みωを使用して実舵角δに基づく目標ヨーレートγaと目標舵角δtに基づく基準ヨーレートγsとの重み和として車両の目標ヨーレートγtが演算される。
【0094】
従って第五の実施形態によれば、前輪の目標舵角に対する前輪の実舵角の追従性が悪化するほど車両の目標ヨーレートγtに対する基準ヨーレートγsの寄与度合が高くなるよう車両の目標ヨーレートγtを演算することができる。よって前輪の実舵角の追従性が悪化するほど基準ヨーレートγsの影響度を高くして車両の走行運動制御を行うことができ、これにより車両の走行コースの目標走行コースよりのずれを車両の走行運動制御によって補填する度合を高くすることができる。
【0095】
以上に於いては本発明を特定の実施形態について詳細に説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内にて他の種々の実施形態が可能であることは当業者にとって明らかであろう。
【0096】
例えば前輪の目標舵角に対する前輪の実舵角の追従性の悪化の指標値は、第一乃至第三の実施形態に於いては前輪の舵角偏差δerrの絶対値であり、第四及び第五の実施形態に於いてはヨーレート偏差γerrの絶対値である。第一乃至第三の実施形態に於ける追従性の悪化の指標値がヨーレート偏差γerrの絶対値に置き換えられてもよく、また第四及び第五の実施形態に於ける追従性の悪化の指標値が前輪の舵角偏差δerrの絶対値に置き換えられてもよい。
【0097】
また追従性の悪化の指標値として車両の実横加速度等に基づく車両のスリップ角βと車両の目標ヨーレートγtに対応する車両の目標横加速度等に基づく車両の目標スリップ角βtとの偏差βerr(=β−βt)の絶対値が採用されてもよい。更に追従性の悪化の指標値として前輪の舵角偏差δerrの絶対値、ヨーレート偏差γerrの絶対値、車両のスリップ角偏差βerrの絶対値の任意の組合せが採用されてもよい。
【0098】
尚車両の目標スリップ角βtは例えば以下の如く演算されてよい。まず車両の横加速度Gyと車速V及び目標ヨーレートγtの積V・γtとの偏差Gy−V・γtとして横加速度の偏差、即ち車両の目標横すべり加速度Vydtが演算される。また目標横すべり加速度Vydtが積分されることにより車体の目標横すべり速度Vytが演算され、車体の前後速度Vx(=車速V)に対する車体の横すべり速度Vytの比Vyt/Vxとして車両の目標スリップ角βtが演算される。
【0099】
また上述の各実施形態に於いては、車両の目標状態量は車両の目標ヨーレートγtであるが、車両の目標横加速度又は車両の目標スリップ角又はこれらの任意の組合せであってもよい。
【0100】
また上述の各実施形態に於いては、前輪の目標舵角δtは車両を目標走行コースに沿って走行させるための目標舵角であるが、所定のステアリングギヤ比を達成するよう操舵角θに基づいて演算される目標舵角であってもよい。
【0101】
また上述の各実施形態に於いては、車両の走行制御はCCDカメラ60により撮影された車両の前方の画像情報に基づいて判定される目標走行ラインに沿って車両を走行させるようになっている。しかし目標走行ラインはナビゲーション装置からの情報に基づく設定の如く任意の要領にて設定されてよい。
【0102】
また上述の各実施形態に於いては、パワーステアリング装置はラック同軸型の電動式パワーステアリング装置22である。しかしパワーステアリング装置はラック同軸型以外の電動式パワーステアリング装置であってもよく、また油圧式のパワーステアリング装置であってもよい。
【0103】
また上述の各実施形態に於いては、舵角可変装置30が制御されることによって前輪の舵角が制御されるようになっているが、本発明の走行制御装置は後輪操舵装置を備え必要に応じて後輪の舵角も制御される車両に適用されてもよい。
【0104】
更に上述の各実施形態に於いては、舵角可変装置30は操舵入力手段としてのステアリングホイール20の回転位置に対する前輪の舵角の関係を変更するようになっているが、操舵入力手段はジョイスティックの如き操舵レバーであってもよく、その場合の操作位置は往復操作位置であってよい。
【符号の説明】
【0105】
10…走行制御装置、14…前輪用操舵制御装置、16…制動力制御装置、22…電動式パワーステアリング装置、30…舵角可変装置、40…電子制御装置、60…CCDカメラ、62…操舵角センサ、64…操舵トルクセンサ、68…車速センサ、70…ヨーレートセンサ、80…駆動力制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
操舵入力手段の操舵操作位置に対する操舵輪の舵角の関係を変更可能な舵角可変装置と、車両の走行運動を示す車両の状態量が操舵輪の実舵角に基づく目標状態量になるよう車両の走行運動を制御する走行運動制御装置とを備えた車両に適用され、操舵輪の舵角が目標舵角になるよう前記舵角可変装置を制御することにより車両を目標走行ラインに沿って走行させる車両の走行制御装置に於いて、操舵輪の目標舵角に対する操舵輪の実舵角の追従性悪化の指標値が基準値よりも大きいときには、車両の目標状態量は目標舵角に基づく車両の目標状態量に設定されることを特徴とする車両の走行制御装置。
【請求項2】
車速及び操舵輪の目標舵角の大きさの少なくとも一方が大きいときには車速及び操舵輪の目標舵角の大きさの少なくとも一方が小さいときに比して前記基準値が小さい値になるよう、車速及び操舵輪の目標舵角の大きさの少なくとも一方に応じて前記基準値を可変設定することを特徴とする請求項1に記載の車両の走行制御装置。
【請求項3】
車両の状態量及び目標状態量はそれぞれ車両のヨーレート及び目標ヨーレート、車両のスリップ角及び目標スリップ角、車両の横加速度及び目標横加速度の少なくとも何れかであることを特徴とする請求項1又は2に記載の車両の走行制御装置。
【請求項4】
前記追従性悪化の指標値は操舵輪の実舵角と操舵輪の目標舵角との偏差の大きさ、車両の実ヨーレートと操舵輪の目標舵角に対応する車両のヨーレートとの偏差の大きさ、車両の実スリップ角と操舵輪の目標舵角に対応する車両のスリップ角との偏差の大きさの少なくとも何れかであることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一つに記載の車両の走行制御装置。
【請求項5】
操舵輪の実舵角と操舵輪の目標舵角との重み和として制御用舵角を演算し、前記追従性悪化の指標値が前記基準値以下であるときには、前記追従性悪化の指標値が大きいほど操舵輪の目標舵角の重みを大きくし、前記制御用舵角に基づいて車両の目標状態量を演算することを特徴とする請求項1乃至4の何れか一つに記載の車両の走行制御装置。
【請求項6】
操舵輪の実舵角に基づく第一の目標状態量と目標舵角に基づく第二の目標状態量との重み和として車両の目標状態量を演算し、前記追従性悪化の指標値が前記基準値以下であるときには、前記追従性悪化の指標値が大きいほど前記第二の目標状態量の重みを大きくすることを特徴とする請求項1乃至4の何れか一つに記載の車両の走行制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−82319(P2013−82319A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−223564(P2011−223564)
【出願日】平成23年10月11日(2011.10.11)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】