説明

車両の運転支援装置

【課題】停止保持制御から追従走行制御への移行を違和感なく実現することができる車両の運転支援装置を提供する。
【解決手段】走行制御ユニット5は、停止中にドライバによる操作入力が行われ且つ操作入力から設定時間Tth0が経過するまでの間に先行車との車間距離Lが判定閾値Dthを超えたとき発進を許可する。この場合において、停止中の前記先行車との車間距離Lが大値側に変化したとき車間距離Lの変化に伴って大値側に更新される第1の閾値Dth1と、先行車の車速Vfが高くなるほど大値側に変更される第2の閾値Dth2とを演算し、これらの何れか大きい値に基づいて前記判定閾値Dthを可変設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自車両の前方に認識した先行車に対して追従走行制御等を行う車両の運転支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、車載したミリ波レーダや赤外線レーザレーダ等のレーダ手段、ステレオカメラや単眼カメラ等の撮像手段、或いは、これらレーダ手段と撮像手段との併用によって車両前方の車外情報を認識し、認識した車外情報に基づいて車両の各種制御等を行う運転支援装置については様々な提案がされている。このような運転支援装置の機能の一つとして、自車両の前方で先行車を検出(捕捉)したとき、検出した先行車に対する追従走行制御を行う機能が広く知られている。
【0003】
この追従走行制御は車間距離制御付クルーズコントロール(ACC;Adaptive Cruise Control)の一環として広く実用化されており、このACCでは、自車速が設定車速以上の高速領域(例えば、40Km/h以上の領域)において、先行車を検出している場合には追従走行制御が行われ、先行車を検出していない(ロストした)場合にはドライバが設定したセット車速での定速走行制御が行われることが一般的である。
【0004】
一方で、近年では、この追従走行制御の適用範囲が極低速まで拡張される傾向にあり、さらには、先行車が停止した際に車間距離を所定に保ったまま自車両を停止(追従停止制御)させる技術や、追従停止後の停止保持状態において先行車の発進を検出したとき、当該先行車に追従して発進させる技術等が提案されている。
【0005】
この場合、この種の運転支援装置では、安全性確保等の観点から、停止状態からの発進は、ドライバが明確な意図を持って所定の操作入力を行ったことを条件として実行を許可することが一般的である。例えば、特許文献1には、追従停止後の停止保持中において、ドライバによる発進・停止スイッチの押下が行われてから設定時間(例えば、2秒)が経過するまでの間に、自車両と先行車との車間距離が予め設定されたミニマム停止目標距離以上であり、且つ、先行車が発進したとき、追従走行制御への移行を許可する技術が開示されている。さらに、特許文献1には、ドライバによる発進・停止スイッチの押下が行われた際に、先行車が発進していない場合であっても、自車両と先行車との車間距離がミニマム停止目標距離以上である場合に、予め設定された距離(例えば、0.5m)だけ車両を前進させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−247197号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述の特許文献1に開示された技術は、基本的には、先行車の車速に基づいて停止状態からの発進の可否を判定するものであるため、例えば、停止保持中の自車両と先行車との間を歩行者等が横切った場合等に、ドライバが意図しないタイミングで自車両が発進する虞がある。すなわち、例えば、停止保持中の自車両と先行車との間を歩行者等が横切った場合、自車両から歩行者までの距離が車間距離として一時的に誤認識される場合があり、このような場合、運転支援装置で検出される車間距離は、見かけ上、一時的に縮まってから直ぐに元の距離まで戻るよう変化する。そして、このように、見かけ上の車間距離が急激に変化すると、制御上、先行車が急発進したものと誤認識され、先行車が停止しているにも拘わらず意図しない自車両の発進が行われ、その後即座に追従停止制御が開始される等、ドライバに違和感を与える虞がある。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、自車両の停止状態からの発進を違和感なく実現することができる車両の運転支援装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、自車進行路前方の先行車を検出する先行車検出手段と、前記先行車が検出されているとき、走行中の前記先行車に対して自車両を追従走行させる追従走行制御と、前記追従走行制御中の前記走行車の停止に伴って自車両を追従停止させる追従停止制御と、前記追従停止制御によって停止した自車両の停止状態を保持する停止保持制御と、を含む制御の何れかを自動追従制御として選択的に実行可能な自動追従制御手段と、前記停止保持制御中にドライバによる予め設定された操作入力が行われ且つ当該操作入力から設定時間が経過するまでの間に前記先行車との車間距離が判定閾値を超えたとき、自車両の停止状態からの発進を許可する発進許可判定手段と、停止中の前記先行車との車間距離が大値側に変化したとき当該車間距離の変化に伴って大値側に更新される第1の閾値と、前記先行車の車速が高くなるほど大値側に変更される第2の閾値とを演算し、これらの何れか大きい値に基づいて前記判定閾値を可変設定する閾値設定手段と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の車両の運転支援装置によれば、自車両の停止状態からの発進を違和感なく実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】車両に搭載した運転支援装置の概略構成図
【図2】追従発進許可判定ルーチンのフローチャート
【図3】判定閾値設定サブルーチンのフローチャート
【図4】道路勾配及び先行車速と第2の閾値との関係を示すマップ
【図5】第1の閾値についての説明図
【図6】判定閾値と先行車位置との関係を示す説明図
【図7】追従発進のキャンセル判定についての説明図
【図8】追従発進が許可される状況を示す図表
【図9】先行車速と目標車間距離との関係を示す特性図
【図10】追従停止制御時に設定される領域の説明図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の形態を説明する。図面は本発明の一実施形態に係わり、図1は車両に搭載した運転支援装置の概略構成図、図2は追従発進許可判定ルーチンのフローチャート、図3は判定閾値設定サブルーチンのフローチャート、図4は道路勾配及び先行車速と第2の閾値との関係を示すマップ、図5は第1の閾値についての説明図、図6は判定閾値と先行車位置との関係を示す説明図、図7は追従発進のキャンセル判定についての説明図、図8は追従発進が許可される状況を示す図表、図9は先行車速と目標車間距離との関係を示す特性図、図10は追従停止制御時に設定される領域の説明図である。
【0013】
図1において、符号1は自動車等の車両(自車両)であり、この自車両1には、運転支援装置の一例として、車間距離制御機能付クルーズコントロールシステム(ACC(Adaptive Cruise Control)システム)2が搭載されている。
【0014】
このACCシステム2は、ステレオカメラ3、ステレオ画像認識装置4、走行制御ユニット5等を有して主要部が構成され、このACCシステム2では、基本的に、先行車が存在しないときはドライバが設定した車速を保持する定速走行制御を行い、先行車が存在する場合には当該先行車に対する自動追従制御を行う。
【0015】
ステレオカメラ3は、ステレオ光学系として例えば電荷結合素子(CCD)等の個体撮像素子を用いた1組のCCDカメラで構成されている。これら左右のCCDカメラは、それぞれ車室内の天井前方に一定の間隔を持って取り付けられ、車外の対象を異なる視点からステレオ撮像する。なお、以下の説明において、ステレオ撮像された画像のうち一方の画像(例えば、右側の画像)を基準画像と称し、他方の画像(例えば、左側の画像)を比較画像と称する。
【0016】
ステレオ画像認識装置4には、ステレオカメラ3で撮像されたステレオ画像データ、及び、車速センサ11で検出された自車速Vo等が入力される。
【0017】
そして、ステレオ画像認識装置4は、先ず、基準画像を例えば4×4画素の小領域に分割し、それぞれの小領域の輝度或いは色のパターンを比較画像と比較して対応する領域を見つけ出し基準画像全体に渡る距離分布を求める。また、ステレオ画像認識装置4は、基準画像上の各画素について隣接する画素との輝度差を調べ、これらの輝度差が閾値を超えているものをエッジとして抽出すると共に、抽出した画素(エッジ)に距離情報を付与することで距離情報を備えたエッジの分布画像(距離画像)を生成する。さらに、ステレオ画像認識装置4は、生成した距離画像に基づいて、自車前方の白線、側壁、立体物等を認識し、認識した各データに、それぞれ異なるIDを割り当て、これらをID毎にフレーム間で連続して監視する。これらに基づき、ステレオ画像認識装置4は、自車両1前方の進行路(自車進行路)を推定すると共に、自車進行路前方の先行車検出を行い、先行車が存在する場合には、先行車距離(車間距離)L、先行車速((車間距離Lの変化の割合)+自車速Vo))Vf、先行車減速度(先行車速Vfの微分値)af等の各種先行車情報を認識する。このように、本実施形態において、ステレオ画像認識装置4は、ステレオカメラ3等と共に、先行車検出手段としての機能を実現する。
【0018】
走行制御ユニット5には、ステレオ画像認識装置4からの認識情報、車速センサ11で検出された自車速Vo、前後加速度センサ12で検出された前後加速度ao、定速走行スイッチ13に対してドライバが入力した操作入力信号等が入力される。ここで、定速走行スイッチ13は、例えば、ステアリングコラムの側部等に設けられた定速走行操作レバーに連結される複数のスイッチ類で構成され、具体的には、定速走行時の目標車速を設定する車速セットスイッチ、主に目標車速を下降側へ変更設定するコーストスイッチ、主に目標車速を上昇側へ変更設定するリジュームスイッチ等を備えて構成されている。更に、この定速走行操作レバーの近傍には、定速走行制御及び自動追従制御のON/OFFを行うメインスイッチ(図示せず)が配設されている。
【0019】
そして、定速走行スイッチ13に対するドライバの操作入力によってメインスイッチがONされ、希望する車速がセットされると、走行制御ユニット5は、車速センサ11で検出された車速Voが、ドライバのセットした設定車速に収束するように、スロットル弁制御装置15に信号出力してスロットル弁16の開度をフィードバック制御し、或いは、自動ブレーキ制御装置17に減速信号を出力して自動ブレーキを作動させる。
【0020】
また、走行制御ユニット5は、定速走行制御を行っている際に、ステレオ画像認識装置4で先行車が認識された場合には、走行制御を、先行車に対する自動追従制御へと切り換える。ここで、本実施形態の自動追従制御には、主として、走行中の先行車に対して自車両1を追従走行させる追従走行制御(車間距離制御)と、追従走行制御中の先行車の停止に伴って自車両1を追従停止させる追従停止制御と、追従停止制御によって停止した自車両1の停止状態を保持する停止保持制御とが設定されており、走行制御ユニット5は、これらの制御を選択的に用いて自動追従制御を行う。
【0021】
具体的に説明すると、先行車が略停止状態と推定されず、走行状態にあると判定した場合、走行制御ユニット5は、追従走行制御を実行する。すなわち、走行制御ユニット5は、先行車速Vfに応じた目標車間距離Ltを設定し、この目標車間距離Ltを達成するための目標減速度atを設定する。そして、走行制御ユニット5は、スロットル弁制御装置15及び自動ブレーキ制御装置17に対し、目標減速度atに応じた制御信号を適宜出力することで車間距離Lを目標車間距離Ltに収束させる。ここで、例えば、図9に示すように、走行制御ユニット5には、先行車速Vfに対して目標車間距離Ltを「長」、「中」、或いは「短」の何れかの特性で設定するためのマップが予め設定されて格納されており、走行制御ユニット5は、ドライバによる定速走行スイッチ13への操作入力等を通じて選択された何れかの特性に基づいて目標車間距離Ltを設定する。
【0022】
一方、追従走行制御中において、先行車速Vfが略停止状態と推定される車速まで減少した場合、走行制御ユニット5は、追従停止制御を実行する。すなわち、この追従停止制御が開始されると、走行制御ユニット5は、例えば、図10に示すように、先行車の直後に第1の領域Ar1(先行車後方の、例えば3mの領域)を設定すると共に、この第1の領域Ar1の後方に第2の領域Ar2(第1の領域Ar1後方の、例えば2mの領域)を設定する。そして、自車両1が第2の領域Ar2の更に後方の領域Ar3を走行している場合には、先行車後方のDstop(例えば、3m)の位置で自車両1を停止させるための減速度G3を演算し、この減速度G3に応じた制御信号を自動ブレーキ制御装置17に出力する。また、自車両1が第2の領域Ar2を走行している場合には、自車両1がクリープ現象で走行するクリープ車速Vc(例えば、7km/h)よりも低車速の場合に限り、一定の減速度KG2をセットし、この減速度KG2に応じた制御信号を自動ブレーキ制御装置17に出力する。また、自車両1が第1の領域Ar1を走行している場合には、クリープ車速Vcよりも低車速の場合に限り、上述の減速度KG2よりも大きな一定の減速度KG1をセットし、この減速度KG1に応じた制御信号を自動ブレーキ制御装置17に出力する。
【0023】
また、追従停止制御によって自車両1が停止すると、走行制御ユニット5は、停止保持制御を実行する。この停止保持制御が開始されると、走行制御ユニット5は、自車両1の停止状態を保持するために必要なブレーキ力を発生させるための制御信号を自動ブレーキ制御装置17に出力する。
【0024】
ここで、停止保持制御中において、走行制御ユニット5は、基本的には、ドライバによる予め設定された操作入力が行われたことを条件として自動走行制御による制御を追従走行制御へと遷移させ、当該追従走行制御によって自車両1の停止状態を維持する。そして、走行制御ユニット5は、当該操作入力から設定時間Tth0(例えば、Tth0=3秒)が経過するまでの間に先行車との車間距離Lが判定閾値Dthを超えたことを判定したとき、停止状態からの発進を許可する(すなわち、先行車に追従して自車両1を発進させることを許可する)。
【0025】
但し、走行制御ユニット5は、ドライバによる操作入力が行われてからの経過時間tが設定時間Tth0内であっても、操作入力直後を判定するキャンセル判定時間Tht1(例えば、Tth1=0.7秒)以上である場合には、先行車速Vfが所定の車速Vth以上のときに限り発進許可を維持し、先行車速Vfが車速Vth未満のときには発進許可をキャンセルする。
【0026】
なお、ドライバの操作入力から設定時間Tth0経過しても自車両1が発進しなかった場合(すなわち、発進許可がされなかった場合、或いは、発進許可がされた場合であっても当該発進許可がキャンセルされた場合)、走行制御ユニット5は、自動走行制御による制御を追従走行制御から停止保持制御へと自動的に遷移させる。
【0027】
ここで、走行制御ユニット5は、停止中の先行車との関係等に基づいて判定閾値Dthを可変設定するように構成されている。具体的には、走行制御ユニット5は、停止中の先行車との車間距離Lが大値側に変化したとき当該車間距離Lの変化に伴って更新される第1の閾値Dth1と、先行車の車速が高くなるほど大値側に変更される第2の閾値Dth2とを演算し、これら第1,第2の閾値Dth1,Dth2のうちの何れか大きい値に基づいて判定閾値Dthを設定する。
【0028】
このように、本実施形態において、走行制御ユニット5は自動追従制御手段、発進許可判定手段、閾値設定手段、キャンセル手段としての各機能を実現する。
【0029】
次に、走行制御ユニット5で停止保持制御中に実行される追従発進許可判定について、図2に示す追従発進許可判定ルーチンのフローチャートに従って説明する。
【0030】
このルーチンは、自動走行制御による制御が停止保持制御となってから自車両1が発進するまでの間の設定時間毎に繰り返し実行されるもので、このルーチンがスタートすると、走行制御ユニット5は、先ず、ステップS101において、追従発進を許容する意図を示すドライバの操作入力が検出されたか否かを調べる。ここで、本実施形態では、ドライバの意図を示す操作入力として、例えば、定速走行スイッチ13に対して所定の操作が行われたこと、或いは、図示しないアクセルペダルが所定の踏み込み量で踏み込まれたこと等が設定されている。
【0031】
そして、ステップS101において、ドライバの操作入力が検出されたと判定した場合、走行制御ユニット5は、ステップS102に進み、自車両1の停止状態を維持しつつ自動走行制御による制御を停止保持制御から追従走行制御へと遷移させ、追従発進を許容するフラグFstを「1」にセットした後、ステップS103に進む。
【0032】
一方、ステップS101において、ドライバの操作入力が検出されていないと判定した場合、走行制御ユニット5は、ステップS103に進む。
【0033】
ステップS101或いはステップS102からステップS103に進むと、走行制御ユニット5は、先行車との車間距離Lに基づいて追従発進の可否を判定するための判定閾値Dthの設定を行う。
【0034】
この判定閾値Dthの設定は、例えば、図3に示す判定閾値設定サブルーチンのフローチャートに従って実行されるもので、走行制御ユニット5は、先ず、ステップS201からステップS207の処理により第1の閾値Dth1の演算を行う。すなわち、このサブルーチンがスタートすると、走行制御ユニット5は、先ず、ステップS201において、現在、自車両1が追従停止制御によって停止された直後であるか否かを調べる。
【0035】
そして、ステップS201において、現在、自車両1が追従停止制御によって停止された直後であると判定すると、走行制御ユニット5は、ステップS202に進み、停止中の先行車との車間距離Lに基づいて可変設定される第1の閾値Dth1の初期値として、現在(追従停止直後)の車間距離Lに予め設定された距離Kを加算した値を演算する。
【0036】
一方、ステップS201において、現在、自車両1が追従停止制御によって停止された直後ではないと判定すると、走行制御ユニット5は、ステップS203に進む。
【0037】
ステップS201或いはステップS202からステップS203に進むと、走行制御ユニット5は、例えば、先行車速Vf等に基づいて、現在、先行車が停止中であるか否かを調べる。
【0038】
そして、ステップS203において、先行車が停止中でないと判定した場合(すなわち、先行車が走行中であると判定した場合)、走行制御ユニット5は、ステップS208に進む。
【0039】
一方、ステップS203において、先行車が停止中であると判定した場合、走行制御ユニット5は、ステップS204に進み、現在の車間距離Lが、現在演算されている第1の閾値Dth1の基となっている車間距離よりも遠方に変化しているか否かを調べる。
【0040】
そして、ステップS204において、走行制御ユニット5は、現在の車間距離Lが遠方に変化していると判定した場合にはステップS205に進み、遠方に変化していないと判定した場合にはステップS208に進む。なお、車間距離Lが遠方に変化する場合とは、例えば、渋滞等に起因してなされた停止保持制御中において、先行車が僅かな距離だけ前方に移動して再度停止した場合等が想定される。
【0041】
ステップS204からステップS205に進むと、走行制御ユニット5は、現在の車間距離Lに基づいて第1の閾値Dth1を更新した後、ステップS206に進む。すなわち、ステップS205において、走行制御ユニット5は、現在の車間距離Lに設定距離Kを加算した距離を新たな第1の閾値Dth1としてセットした後、ステップS206に進む。
【0042】
そして、ステップS206において、走行制御ユニット5は、ステップS205で更新した第1の閾値Dht1が、予め設定された上限値Dmax(例えば、Dmax=7m)よりも大きいか否かを調べる。
【0043】
そして、ステップS206において、第1の閾値Dth1が上限値Dmax以下であると判定した場合、走行制御ユニット5は、今回更新された第1の閾値Dth1を維持したまま、ステップS208に進む。
【0044】
一方、ステップS206において、第1の閾値Dth1が上限値Dmaxよりも大きいと判定した場合、走行制御ユニット5は、第1の閾値Dth1を上限値Dmaxに変更(制限)した後、ステップS208に進む。
【0045】
ステップS203、ステップS204、ステップS206、或いは、ステップS207からステップS208に進むと、走行制御ユニット5は、ステップS208及びステップS209の処理により第2の閾値Dth2の演算を行う。すなわち、ステップS208において、走行制御ユニット5は、例えば、前後加速度センサ12で検出された前後加速度aoに基づいて現在自車両1が停止している道路の勾配を推定し、この道路勾配に基づき、自車両1の停止保持制御を解除した場合にクリープトルクによって発生し得る自車両1の加速度acを推定する。
【0046】
そして、ステップS209において、走行制御ユニット5は、先行車速Vfと加速度acとに基づいて第2の閾値Dth2を演算する。この第2の閾値Dth2は、基本的には、例えば、7mを限度とする範囲内で可変に演算されるものであり、先行車速Vfが高くなるほど大値側に変更される。加えて、第2の閾値Dth2は、平坦路を基準として、道路勾配(登り勾配及び下り勾配の何れについても)が大きいほど大値側に変更される。これにより、登り勾配に対しては先行車の後退等に対応した距離に第2の閾値Dth2を補正でき、下り勾配に対しては自車両1の加速度acの増加に伴って第2の閾値Dth2を安全側に補正することができる。なお、具体的には、走行制御ユニット5には、例えば、図4に示すように、先行車速Vfと、クリープトルクによる加速度ac(道路勾配)とをパラメータとする3次元マップが予め設定されて格納されており、このマップを参照して第2の閾値Dth2が演算される。
【0047】
そして、ステップS209からステップS210に進むと、走行制御ユニット5は、第1の閾値Dth1と第2の閾値Dth2のうち何れか大きい値を判定閾値Dthとして設定した後、サブルーチンを抜ける。
【0048】
図2のメインルーチンにおいて、ステップS103からステップS104に進むと、走行制御ユニット5は、追従発進を許容するフラグFstが「1」にセットされているか否かを調べる。
【0049】
そして、ステップS104において、フラグFstが「0」にリセットされていると判定した場合、走行制御ユニット5は、そのままルーチンを抜ける。
【0050】
一方、ステップS104において、フラグFstが「1」にセットされていると判定した場合、走行制御ユニット5は、ステップS105に進み、ドライバの操作入力を検出してからの経過時間(すなわち、フラグFstが「1」にセットされてからの経過時間)tが設定時間Tth0(例えば、Tth0=3秒)以下であるか否かを調べる。
【0051】
そして、ステップS105において、経過時間tが設定時間Tthよりも大きいと判定した場合、走行制御ユニット5は、ステップS106に進み、自動走行制御による制御を追従走行制御から停止保持制御へと遷移させ、フラグFstを「0」にリセットした後、ルーチンを抜ける。
【0052】
一方、ステップS105において、経過時間tが設定時間Tth0以下であると判定した場合、走行制御ユニット5は、ステップS107に進み、現在の車間距離Lが判定閾値Dth以上であるか否かを調べる。
【0053】
そして、ステップS107において、先行車との車間距離Lが判定閾値Dth未満であると判定した場合、走行制御ユニット5は、そのままルーチンを抜ける。
【0054】
一方、ステップS107において、先行車との車間距離Lが判定閾値Dth以上であると判定した場合、走行制御ユニット5は、ステップS108に進み、自車両1に対する発進許可を判定した後、ステップS109に進む。
【0055】
そして、ステップS109に進むと、走行制御ユニット5は、当該ステップS109及びステップS110の処理により、ステップS108の発進許可に対するキャンセル判定を行う。具体的には、走行制御ユニット5は、先ず、ステップS109において、ドライバの操作入力を検出してからの経過時間tがキャンセル判定時間Tth1以下であるか否かを調べる。ここで、キャンセル判定時間Tth1は、Tth0よりも短い時間であって、且つ、ドライバが操作入力直後であることを認識し得る十分に短い時間に設定されており、具体的には、例えば、Tth1=0.7秒に設定されている。
【0056】
そして、ステップS109において、操作入力後の経過時間tがキャンセル判定時間Tth1以下であり、発進許可の判定がドライバの操作入力直後になされたものであると判定した場合、走行制御ユニット5は、発進許可の判定を維持したままステップS112に進む。
【0057】
一方、ステップS109において、操作入力後の経過時間tがキャンセル判定時間Tth1よりも長いと判定した場合、走行制御ユニット5は、ステップS110に進み、先行車速Vfが設定車速Vth以上であるか否かを調べる。ここで、設定車速Vthは、先行車が走行していること(停止状態或いは略停止状態にないこと)を判定可能な車速に設定されるものであり、具体的には、例えば、Vth=1km/hに設定されている。
【0058】
そして、ステップS110において、先行車速Vfが設定車速Vth未満であり、先行車が停止状態にあると判定した場合、走行制御ユニット5は、ステップS111に進み、ステップS108で設定した発進許可の判定をキャンセルした後、ルーチンを抜ける。
【0059】
一方、ステップS109、或いは、ステップS110からステップS112に進むと、走行制御ユニット5は、フラグFstを「0」にリセットし、続くステップS113において、自車両1を停止状態から発進させた後、本ルーチンを終了する。
【0060】
次に、このような本実施形態で設定される第1の閾値D1の変化について説明する。例えば、図5(a)に示すように、自車両1が先行車に対して車間距離Lを有して停止した場合、第1の閾値D1は、この車間距離Lに基づいて設定される。
【0061】
これら自車両1と先行車との関係において、例えば、図5(b)に示すように、自車両1と先行車との間を歩行者等が横切った場合、当該歩行者によって見かけ上の車間距離Lが一時的に短くなる場合があるが、このような場合には、現在の車間距離Lに基づく第1の閾値D1の更新が行われず、従前の第1の閾値D1が維持される。なお、このような場合、歩行者が横切る前後では、車間距離Lが見かけ上急変することに伴い、見かけ上の先行車速Vfが大きくなるが、このときの第2の閾値D2は極めて短い距離に設定されるため、基本的には、判定閾値Dthは第1の閾値D1に基づいて設定される。従って、歩行者等が横切った場合にも、判定閾値Dthが極端に短くなる等の現象が防止され、ドライバの意図しないタイミングで停止保持制御から追従走行制御へと移行することが的確に防止される。
【0062】
一方、例えば、図5(c)に示すように、先行車が微小距離を走行して再停止する等して、車間距離Lが大値側に変化すると、第1の閾値D1は、上限値Dmaxを限度として大値側に更新される。これにより、第1の閾値D1は、上限値Dmaxに達するまでの間は、停止している先行車との車間距離Lに設定距離Kがマージンとして確保されるように更新される。
【0063】
次に、本実施形態で行われる発進許可の判定について、判定閾値Dth=Dmaxである場合を例に説明する。ドライバによる操作入力がなされてからの経過時間tが設定時間Tth0内である場合において、例えば、図6(a)に示すように、車間距離Lが判定閾値Dthよりも十分に短い場合、先行車が走行中であるか或いは停止中であるかを問わず、発進許可の判定は行われず、自車両1の停止状態は継続される。
【0064】
ここで、ドライバによる操作入力がなされてからの経過時間tが判定閾値Tth0内である場合において、例えば、図6(b)に示すように、車間距離Lが判定閾値Dthよりも僅かに短い状態で先行車が停止している場合、基本的には発進許可の判定は行われず、自車両1の停止状態が継続されるが、例えば、車間距離Lの検出誤差等によって車間距離Lが一時的に判定閾値Dth以上となる場合がある。このような場合、当該現象が操作入力がなされてからキャンセル判定時間Tth1が経過する前に発生した場合(例えば、図7(a)参照)に限り発進許可が維持され、キャンセル判定時間Tth1が経過した後に発生した場合(例えば、図7(b)参照)には、発進許可がキャンセルされる。これにより、車間距離Lの検出誤差等によって発進許可が判定された場合には、ドライバに違和感のないタイミングで判定された発進許可のみが維持される。すなわち、そもそも車間距離Lが判定閾値Dthよりも僅かに短い場合には、停止中の先行車との車間距離Lを縮めることを目的としてドライバが操作入力を行う場面が想定され、このような場合、操作入力の直後に当該操作入力に略連動して自車両1が停止状態から発進することはドライバの意図する通りのものであり特段問題とはならない。その一方で、停止中の先行車との車間距離Lを縮めることを目的としてドライバが操作入力を行ったものの、当該操作入力の直後に発進が行われず、所定の時間を経て発進が行われた場合、特に先行車が停止している本場面では、ドライバは自らの操作入力と自車両1の発進とを関連付けて理解することができず、違和感を感じる虞がある。そこで、このような場合に限り、発進許可の判定をキャンセルすることにより、意図しないタイミングで自車両1が前進することを防止してドライバの違和感を軽減することが可能となる。
【0065】
また、ドライバによる操作入力がなされてからの経過時間tが設定時間Tth0内である場合において、例えば、図6(b)に示すように、車間距離Lが判定閾値Dth0よりも大きくなると、先行車が走行中であるか或いは停止中であるかを問わず、発進許可の判定が行われ、自車両1は停止状態から発進される。
【0066】
なお、以上の関係をまとめると、例えば、図8に示す通りとなる。
【0067】
ここで、上述の実施形態においては、ステレオカメラ3を用いて先行車を検出する場合の一例について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、ミリ波レーダや赤外線レーザレーダ等を用いて先行車の検出を行っても良いことは勿論である。
【符号の説明】
【0068】
1 … 自車両
2 … 運転支援システム
3 … ステレオカメラ(先行車検出手段)
4 … ステレオ画像認識装置(先行車検出手段)
5 … 走行制御ユニット(追従制御手段、発進許可判定手段、閾値設定手段)
11 … 車速センサ
12 … 前後加速度センサ
13 … 定速走行スイッチ
15 … スロットル弁制御装置
16 … スロットル弁
17 … 自動ブレーキ制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車進行路前方の先行車を検出する先行車検出手段と、
前記先行車が検出されているとき、走行中の前記先行車に対して自車両を追従走行させる追従走行制御と、前記追従走行制御中の前記走行車の停止に伴って自車両を追従停止させる追従停止制御と、前記追従停止制御によって停止した自車両の停止状態を保持する停止保持制御と、を含む制御の何れかを自動追従制御として選択的に実行可能な自動追従制御手段と、
前記停止保持制御中にドライバによる予め設定された操作入力が行われ且つ当該操作入力から設定時間が経過するまでの間に前記先行車との車間距離が判定閾値を超えたとき、自車両の停止状態からの発進を許可する発進許可判定手段と、
停止中の前記先行車との車間距離が大値側に変化したとき当該車間距離の変化に伴って大値側に更新される第1の閾値と、前記先行車の車速が高くなるほど大値側に変更される第2の閾値とを演算し、これらの何れか大きい値に基づいて前記判定閾値を可変設定する閾値設定手段と、を備えたことを特徴とする車両の運転支援装置。
【請求項2】
前記閾値判定手段は、前記第1の閾値の大値側への更新を、予め設定された上限値以下に制限することを特徴とする請求項1記載の車両の運転支援装置。
【請求項3】
前記閾値判定手段は、道路勾配が大きいほど前記第2の閾値を大値側に変更することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の車両の運転支援装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−207425(P2011−207425A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−79032(P2010−79032)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】