車両の駆動力制御装置
【課題】 後輪車輪速センサの異常時に対して、トランスミッションの保護および車両のドライバビリティの確保を両立させる。
【解決手段】 少なくとも後輪車輪速センサにより検出された後輪車輪速を用いて低摩擦係数路面を判定し、低摩擦係数路面が判定されるとフュエルカットやシフトチェンジの制限を行ってトランスミッションの保護を図るものにおいて、(a)後輪車輪速センサが異常であること(ステップS114)、(b)シフトレンジがリバースレンジからドライブレンジに操作されてから所定時間が経過したこと(ステップS112)、(c)変速段が3速以上になったこと(ステップS113)の各条件のうち、(a)の条件が成立した場合、あるいは(b)の条件および(c)の条件の少なくとも一方が成立した場合に、異常の可能性がある後輪車輪速を用いた低摩擦係数路面の判定を禁止し、トランスミッションの出力軸回転数から算出した車輪速で後輪車輪速を代用する。
【解決手段】 少なくとも後輪車輪速センサにより検出された後輪車輪速を用いて低摩擦係数路面を判定し、低摩擦係数路面が判定されるとフュエルカットやシフトチェンジの制限を行ってトランスミッションの保護を図るものにおいて、(a)後輪車輪速センサが異常であること(ステップS114)、(b)シフトレンジがリバースレンジからドライブレンジに操作されてから所定時間が経過したこと(ステップS112)、(c)変速段が3速以上になったこと(ステップS113)の各条件のうち、(a)の条件が成立した場合、あるいは(b)の条件および(c)の条件の少なくとも一方が成立した場合に、異常の可能性がある後輪車輪速を用いた低摩擦係数路面の判定を禁止し、トランスミッションの出力軸回転数から算出した車輪速で後輪車輪速を代用する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンおよびトランスミッションを備える車両が走行する路面の状態を判定し、判定した路面の状態に基づいて車両の駆動力を制御する駆動力制御手段を備える車両の駆動力制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、車両のスリップ量演算装置において、四輪の回転速度センサが全て正常であるときに、左右の遊動輪の回転速度の平均値および左右の駆動輪の回転速度の平均値に基づいてスリップ量を算出し、右前輪の回転速度センサまたは右後輪の回転速度センサが異常の場合には、左前輪の回転速度および左後輪の回転速度に基づいてスリップ量を算出し、左前輪の回転速度センサまたは左後輪の回転速度センサが異常の場合には、右前輪の回転速度および右後輪の回転速度に基づいてスリップ量を算出するものが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−289039号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前輪を主駆動輪とし、後輪を副駆動輪とする四輪駆動車両では、前輪車輪速センサの異常を、その出力をトランスミッションの出力軸回転数と比較することで、簡単に精度良く判定することが可能であるが、このような手段を用いることができない後輪車輪速センサの異常を簡単に精度良く判定することは困難である。
【0005】
従って、後輪車輪速センサが出力する異常な後輪車輪速を使用して低摩擦係数路面を判定すると誤判定が発生する可能性があり、その誤った判定結果に基づいてエンジンのフュエルカットやトランスミッションのシフトチェンジの制限等の駆動力制御を行うと、トランスミッションに過剰なトルクが入力して損傷の原因となったり、車両のドライバビリティが阻害されたりする可能性がある。
【0006】
本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、後輪車輪速センサの異常時に対して、トランスミッションの保護および車両のドライバビリティの確保を両立させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明によれば、エンジンおよびトランスミッションを備える車両が走行する路面の状態を判定し、判定した路面の状態に基づいて車両の駆動力を制御する駆動力制御手段を備える車両の駆動力制御装置において、後輪車輪速を検出する後輪車輪速センサと、所定の条件が成立したときに、少なくとも前記後輪車輪速センサにより検出された後輪車輪速を用いて低摩擦係数路面を判定する低摩擦係数路面判定手段とを備え、前記低摩擦係数路面判定手段は、
(a)後輪車輪速センサが異常であること
(b)がリバースレンジからドライブレンジに操作されてから所定時間が経過したこと
(c)変速段が所定変速段以上になったこと
の各条件のうち、(a)の条件が成立した場合、あるいは(b)の条件および(c)の条件の少なくとも一方が成立した場合に、後輪車輪速を用いた低摩擦係数路面の判定を禁止することを特徴とする車両の駆動力制御装置が提案される。
【0008】
また請求項2に記載された発明によれば、請求項1の構成に加えて、前記低摩擦係数路面判定手段は、後輪車輪速を用いた低摩擦係数路面の判定が禁止された後に、アクセル開度が所定値未満になるまで低摩擦係数路面の判定禁止を継続することを特徴とする車両の駆動力制御装置が提案される。
【0009】
また請求項3に記載された発明によれば、請求項1または請求項2の構成に加えて、前記低摩擦係数路面判定手段は、後輪車輪速を用いた低摩擦係数路面の判定の実行中に、前記トランスミッションの出力軸回転数から算出した前輪車輪速と、後輪車輪速センサで検出した左右の後輪車輪速の平均値との差分が閾値以上になった場合に、後輪車輪速を用いた低摩擦係数路面の判定を禁止することを特徴とする車両の駆動力制御装置が提案される。
【0010】
尚、実施の形態の第1低摩擦係数路面判定手段M1および第2低摩擦係数路面判定手段M1は、本発明の低摩擦係数路面判定手段に対応する。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の構成によれば、所定の条件が成立したときに、少なくとも後輪車輪速センサにより検出された後輪車輪速を用いて低摩擦係数路面を判定する低摩擦係数路面判定手段は、
(a)後輪車輪速センサが異常であること
(b)シフトレンジがリバースレンジからドライブレンジに操作されてから所定時間が経過したこと
(c)変速段が所定変速段以上になったこと
の各条件のうち、(a)の条件が成立した場合、あるいは(b)の条件および(c)の条件の少なくとも一方が成立した場合に、後輪車輪速を用いた低摩擦係数路面の判定を禁止する。
【0012】
これにより、(a)の条件に基づき後輪車輪速センサが異常である場合には、異常な後輪車輪速に基づく低摩擦係数路面の誤判定により不適切な車両制御が行われるのを防止することができる。また(b)、(c)の条件に基づきトランスミッションの保護が必要でない場面で異常の可能性がある後輪車輪速を使用しないことで、低摩擦係数路面の誤判定に基づくフュエルカットやシフトチェンジの規制等の不要な駆動力制御が行われないようにしてドライバビリティを確保することができ、トランスミッションの保護が必要な場面に限って前記後輪車輪速を使用することで、低摩擦係数路面の判定に基づくフュエルカットやシフトチェンジの規制等の駆動力制御を行わせてトランスミッションを保護することができる。
【0013】
また請求項2の構成によれば、請求項1の構成に加えて、低摩擦係数路面判定手段は、後輪車輪速を用いた低摩擦係数路面の判定が禁止された後に、アクセル開度が所定値未満になるまで低摩擦係数路面の判定禁止を継続するので、前記判定禁止状態が容易に解除されるのを阻止して安定した駆動力制御を可能にすることができる。
【0014】
また請求項3の構成によれば、低摩擦係数路面判定手段は、後輪車輪速を用いた低摩擦係数路面の判定の実行中に、トランスミッションの出力軸回転数から算出した前輪車輪速と、後輪車輪速センサで検出した左右の後輪車輪速の平均値との差分が閾値以上になると、後輪車輪速センサが異常であると判定して後輪車輪速を用いた低摩擦係数路面の判定を禁止するので、異常な後輪車輪速に基づく不適切な駆動力制御が行われるのを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】駆動力制御装置を備えた車両の全体構成を示す図。
【図2】駆動力制御装置の電子制御ユニットのブロック図。
【図3】メインルーチンのフローチャート。
【図4】メインルーチンのステップS1のサブルーチンのフローチャート(第1低摩擦係数路面判定手段)。
【図5】図4に対応するタイムチャート。
【図6】メインルーチンのステップS1のサブルーチンのフローチャート(第2低摩擦係数路面判定手段)。
【図7】図6に対応するタイムチャート。
【図8】メインルーチンのステップS1のサブルーチンのフローチャート(第3低摩擦係数路面判定手段)。
【図9】図8に対応するフローチャート。
【図10】メインルーチンのステップS1のサブルーチンのフローチャート(第4低摩擦係数路面判定手段)。
【図11】第1〜第4低摩擦係数路面判定手段の長所および短所を説明する図。
【図12】メインルーチンのステップS2のサブルーチンのフローチャート。
【図13】メインルーチンのステップS3のサブルーチンのフローチャート。
【図14】メインルーチンのステップS5のサブルーチンのフローチャート。
【図15】メインルーチンのステップS7のサブルーチンのフローチャート。
【図16】図15に対応するタイムチャート。
【図17】第1、第2低摩擦係数路面判定手段に接続されるセンサを示す図。
【図18】後輪車輪速異常判定ルーチンのフローチャート。
【図19】後輪車輪速持ち替えルーチンのフローチャート。
【図20】ステップS112の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図1〜図20に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
【0017】
図1に示すように、四輪駆動の自動車は、常時駆動される主駆動輪である左右の前輪WFL,WFRと、必要時に駆動される副駆動輪である左右の後輪WRL,WRRとを備える。エンジンEの駆動力の一部はトランスミッションTおよび前側のディファレンシャルギヤDfを介して左右の前輪WFL,WFRに伝達され、また前記駆動力の一部はトランスミッションTからトランスファーTF、ビスカスカップリングCおよび後側のディファレンシャルギヤDrを介して左右の後輪WRL,WRRに伝達される。
【0018】
エンジンEのフュエルカットおよびトランスミッションTのシフトチェンジを制御する電子制御ユニットUには、左右の前輪WFL,WFRの各回転数を検出する前輪車輪速センサSaFと、左右の後輪WRL,WRRの各回転数を検出する後輪車輪速センサSaRと、エンジン回転数を検出するエンジン回転数センサSbと、トランスミッションTのシフトレンジを検出するシフトレンジセンサScと、アクセル開度を検出するアクセル開度センサSdと、前後のディファレンシャルギヤDf,Drの回転数を検出するディファレンシャルギヤ回転数センサSe,Seと、トランスミッションTの入力軸の回転数を検出するトランスミッション入力軸回転数センサSfと、トランスミッションTの出力軸の回転数を検出するトランスミッション出力軸回転数センサSgとが接続されており、電子制御ユニットUは前記各センサSaF,SaR,Sb,Sc,Sd,Se,Sf,Sgからの信号に基づいて、エンジンEのフュエルカットを制御するとともに、トランスミッションTのシフトチェンジを制御する。
【0019】
図2に示すように、電子制御ユニットUは、第1低摩擦係数路面判定手段M1と、第2低摩擦係数路面判定手段M2と、第3低摩擦係数路面判定手段M3と、第4低摩擦係数路面判定手段M4と、統合低摩擦係数路面判定手段M5と、グリップ走行判定手段M6と、低摩擦係数路面サスペクト判定手段M7と、駆動力制御手段M8とを備えており、駆動力制御手段M8には、エンジンEのフュエルカットを制御するフュエルカット制御手段M8Aと、トランスミッションTのシフトチェンジを制限するシフトチェンジ制限手段M8Bとが含まれる。
【0020】
次に、図3に基づいてメインルーチンのフローチャートを説明する。
【0021】
先ずステップS1で第1〜第4低摩擦係数路面判定手段M1〜M4により、後から詳述する第1の手法〜第4の手法を用いてそれぞれ低摩擦係数路面の判定を行い、ステップS2で統合低摩擦係数路面判定手段M5により、前記第1の手法〜第4の手法の判定結果を統合して低摩擦係数路面の統合判定を行う。その結果、統合低摩擦係数路面判定フラグF LOMYU=0(高摩擦係数路面)であると統合判定された場合には、ステップS3でグリップ走行判定手段M6によりグリップ走行判定(車輪がスリップせずに路面をグリップして走行しているか否かの判定)を行う。その結果、グリップ走行判定フラグF GRIP=1(グリップ走行)であると判定された場合には、ステップS4で低摩擦係数路面サスペクト判定手段M7により、低摩擦係数路面サスペクト判定フラグF MBLM=0(低摩擦係数路面の疑い無し)にセットする。
【0022】
前記ステップS2で統合低摩擦係数路面判定フラグF LOMYU=1(低摩擦係数路面)であると統合判定された場合には、ステップS5で駆動輪のスリップを抑制すべく、フュエルカット制御手段M8Aにより、エンジンのフュエルカット回転数の持ち替え要求を行う。そして前記ステップS3でグリップ走行判定フラグF GRIP=0(グリップ走行でない)と判定された場合と、前記ステップS5を経由した場合とには、ステップS6で低摩擦係数路面サスペクト判定手段M7により、低摩擦係数路面サスペクト判定フラグF MBLM=1(低摩擦係数路面の疑い有り)にセットし、続くステップS7で駆動輪のスリップを抑制すべく、シフトチェンジ制限手段M8Bにより、トランスミッションTのシフト制限を実施する。
【0023】
図3から明らかなように、統合低摩擦係数路面判定フラグF LOMYU=1(低摩擦係数路面)の判定と、低摩擦係数路面サスペクト判定フラグF MBLM=1(低摩擦係数路面の疑い有り)の判定と、グリップ走行判定フラグF GRIP=1(グリップ走行)の判定との関連は、以下のようになっている。
【0024】
ステップS2で統合低摩擦係数路面判定フラグF LOMYU=1(低摩擦係数路面)が判定されると、ステップS6で自動的に低摩擦係数路面サスペクト判定フラグF MBLM=1(低摩擦係数路面の疑い有り)の判定がなされる。
【0025】
ステップS2で統合低摩擦係数路面判定フラグF LOMYU=1(低摩擦係数路面)が判定されない場合、ステップS3でグリップ走行判定フラグF GRIP=1(グリップ走行)の判定がなされなければ、やはりステップS6で自動的に低摩擦係数路面サスペクト判定フラグF MBLM=1(低摩擦係数路面の疑い有り)の判定がなされる。
【0026】
その理由は、車両が氷上にあるようなとき、運転者がアクセルペダルを離したために、統合低摩擦係数路面判定フラグF LOMYU=0(高摩擦係数路面)であると統合判定された場合でも、実際には低摩擦係数である可能性があるため、前記ステップS3でグリップ走行の判定がなされなければ、低摩擦係数路面サスペクト判定フラグF MBLM=1(低摩擦係数路面の疑い有り)の判定がなされる。
【0027】
ステップS3でグリップ走行判定フラグF GRIP=1(グリップ走行)の判定がなされた場合、ステップS4で低摩擦係数路面サスペクト判定フラグF MBLM=0(低摩擦係数路面の疑い無し)の判定がなされる。つまり、低摩擦係数路面サスペクト判定フラグF MBLM=0(低摩擦係数路面の疑い無し)は、グリップ走行判定フラグF GRIP=1(グリップ走行)の判定がなされた場合にのみ成立する。
【0028】
【表1】
【0029】
表1は上記作用を纏めたもので、統合低摩擦係数路面判定フラグF LOMYU=0、低摩擦係数路面サスペクト判定フラグF MBLM=0かつグリップ走行判定フラグF GRIP=1の場合には、路面摩擦係数が高い場合であるため、シフト制限もフュエルカット回転数の持ち替えも実施しない。
【0030】
統合低摩擦係数路面判定フラグF LOMYU=1、低摩擦係数路面サスペクト判定フラグF MBLM=1かつグリップ走行判定フラグF GRIP=0の場合には、路面摩擦係数が低い場合であるため、シフト制限およびフュエルカット回転数の持ち替えの両方を実施する。
【0031】
低摩擦係数路面判定フラグF LOMYU=0、低摩擦係数路面サスペクト判定フラグF MBLM=1かつグリップ走行判定フラグF GRIP=0の場合には、路面摩擦係数が低い可能性がある場合であるため、シフト制限だけを実施してフュエルカット回転数の持ち替えは実施しない。
【0032】
次に、前記ステップS1のサブルーチンである図4のフローチャートに基づいて、第1低摩擦係数路面判定手段M1により低摩擦係数路面を判定する第1の手法を説明する。
【0033】
先ずステップS11で四輪の車輪速のうちの最高車輪速および最低車輪速を算出し、ステップS12で最高車輪速および最低車輪速の車輪速差SVLVF4Rを算出する。続くステップS13で最高最低車輪速差判定フラグF LM4W=0(車輪速差小)であれば、ステップS14で車輪速差SVLVF4Rを低摩擦係数路面判定閾値と比較し、車輪速差SVLVF4R>低摩擦係数路面判定閾値であれば、ステップS15で低摩擦係数路面判定フラグフラグF LM4W=1(低摩擦係数路面)にセットする。
【0034】
一方、前記ステップS13で最高最低車輪速差判定フラグF LM4W=1(車輪速差大)であれば、ステップS16で車輪速差SVLVF4Rを低摩擦係数路面解除閾値と比較し、車輪速差SVLVF4R<低摩擦係数路面解除閾値であれば、ステップS17で低摩擦係数路面判定フラグF LM4W=0(高摩擦係数路面)にセットする。
【0035】
図5は図4のフローチャートの作用を説明するタイムチャートであり、最高車輪速および最低車輪速の車輪速差SVLVF4Rが低摩擦係数路面判定閾値を超えると低摩擦係数路面判定フラグフラグF LM4W=1にセットされ、最高車輪速および最低車輪速の車輪速差SVLVF4Rが低摩擦係数路面解除閾値を下回ると低摩擦係数路面判定フラグF LM4W=0にセットされる。
【0036】
次に、前記ステップS1のサブルーチンである図6のフローチャートに基づいて、第2低摩擦係数路面判定手段M2により低摩擦係数路面を判定する第2の手法を説明する。
【0037】
先ずステップS21で左右の前輪平均車輪速および左右の後輪平均車輪速を算出し、ステップS22でそれらの差である前後平均車輪速差SVLVF2Rを算出する。続くステップS23で低摩擦係数路面判定フラグF DYS=0(高摩擦係数路面)であれば、ステップS24で車輪速差SVLVF2Rを低摩擦係数路面判定閾値と比較し、車輪速差SVLVF2R>低摩擦係数路面判定閾値であれば、ステップS25で低摩擦係数路面判定フラグフラグF DYS=1(低摩擦係数路面)にセットする。
【0038】
一方、前記ステップS23で低摩擦係数路面判定フラグF DYS=1(低摩擦係数路面)であれば、ステップS26で車輪速差SVLVF2Rを低摩擦係数路面解除閾値と比較し、車輪速差SVLVF2R<低摩擦係数路面解除閾値であれば、ステップS27で低摩擦係数路面判定フラグF DYS=0(高摩擦係数路面)にセットする。
【0039】
図7は図6のフローチャートの作用を説明するタイムチャートであり、前後平均車輪速差SVLVF2Rが低摩擦係数路面判定閾値を超えると低摩擦係数路面判定フラグF DYS=1にセットされ、前後平均車輪速差SVLVF2Rが低摩擦係数路面解除閾値を下回ると低摩擦係数路面判定フラグF DYS=0にセットされる。
【0040】
次に、前記ステップS1のサブルーチンである図8のフローチャートに基づいて、第3低摩擦係数路面判定手段M3により低摩擦係数路面を判定する第3の手法を説明する。
【0041】
先ずステップS31で左前輪車輪速および右前輪輪速を算出し、ステップS32で左右前輪車輪速差DVF2Wを算出する。続くステップS33で低摩擦係数路面判定フラグF DVF2W=0(高摩擦係数路面)であれば、ステップS34で車輪速差DVF2Wを低摩擦係数路面判定閾値と比較し、車輪速差DVF2W>低摩擦係数路面判定閾値であれば、ステップS35で低摩擦係数路面判定フラグフラグF DVF2W=1(低摩擦係数路面)にセットする。
【0042】
前記ステップS33で低摩擦係数路面判定フラグF DVF2W=1(低摩擦係数路面)であれば、ステップS36で車輪速差DVF2Wを低摩擦係数路面解除閾値と比較し、車輪速差DVF2W<低摩擦係数路面解除閾値であれば、ステップS37で低摩擦係数路面判定フラグF DVF2W=0(高摩擦係数路面)にセットする。
【0043】
図9は図8のフローチャートの作用を説明するタイムチャートであり、左右前輪車輪速差DVF2Wが低摩擦係数路面判定閾値を超えると低摩擦係数路面判定フラグF DVF2W=1にセットされ、左右前輪車輪速差DVF2Wが低摩擦係数路面解除閾値を下回ると低摩擦係数路面判定F DVF2W=0にセットされる。
【0044】
次に、前記ステップS1のサブルーチンである図10のフローチャートに基づいて、第4低摩擦係数路面判定手段M4により低摩擦係数路面を判定する第4の手法を説明する。
【0045】
先ずステップS41でリバース判定フラグF NSURED=1でなく、シフトレンジが定常的にDレンジであるとき、ステップS42で四輪中の最低車輪速VLESTが閾値♯VLKPK0以上であり、かつ降坂下り度合い判定フラグF LMPK=0(緩降坂、高摩擦係数路面)であれば、ステップS47での降坂下り度合いの判定を行わない。その理由は、車両がスタックしそうな場合に絞ってスリップ判定を行いたいので、車輪速が大きく、路面摩擦係数が大きいときには降坂下り度合いの判定を行う必要がないからである。
【0046】
前記ステップS42の答がNOであっても、ステップS43で四輪中の最低車輪速VLESTが閾値♯VLKPK1以上であり、かつ降坂下り度合い判定フラグF LMPK=1(急降坂、低摩擦係数路面)であれば、ステップS47での降坂下り度合いの判定を行わない。その理由は、高車速の変速段での誤判定のリスクを考慮すると、スリップ判定を積極的に行いたくないので、車輪速が大きいときには降坂下り度合いの判定をあえて避けるためである。
【0047】
前記ステップS43の答がNOであっても、ステップS44で四輪中の最高車輪速VHESTが閾値♯VLMKPKE以下であれば、ステップS47での降坂下り度合いの判定を行わない。その理由は、降坂下り度合いを判定するには車輪が回転していることが必要であるため、四輪中の最高車輪速VHESTが閾値♯VLMKPKE以下のときは降坂下り度合いを精度良く判定できないからである。
【0048】
前記ステップS41でリバース判定フラグF NSURED=1であり、シフトレンジがリバースレンジであるときには、前記ステップS42,S43をスキップして前記ステップS44に移行する。その理由は、リバースレンジで積極的にスリップ判定を行う必要があるため、前記前記ステップS42,S43の条件を考慮せずにスリップ判定を行わせるためである。
【0049】
しかして、前記ステップS42〜S44の答が全てNOの場合に、ステップS45で降坂下り度合いSPKUを算出する。具体的には、路面摩擦係数が高い平坦路でエンジン出力に対する規範車体加速度の関係を予め記憶しておき、降坂路で実際に発生する車体加速度が前記規範車体加速度を超える程度が大きいほど、降坂下り度合いSPKUが大きい値として算出される。このとき、路面摩擦係数が小さいために車輪がスリップして車輪速が増加すると、見かけの車体加速度が大きく算出されるため、降坂下り度合いSPKUが更に大きい値として算出される。したがって、降坂下り度合いSPKUが、車輪のグリップ状態において発生しないような大きい値を示したとき、低摩擦係数路面であると判定することができる。
【0050】
このとき、路面摩擦係数の判定に車輪速センサSaF,SaRを使用せず、ディファレンシャルギヤ回転数センサSe,Seを使用しているので、車輪速センサSaF,SaRの故障の影響を受けることがない。
【0051】
続くステップS46で降坂下り度合い判定フラグF LMPK=0(緩降坂、高摩擦係数路面)であるとき、ステップS47で降坂下り度合いSPKUがスリップ判定下り度合い閾値を超えていれば、路面摩擦係数が低いと判定し、ステップS48で降坂下り度合い判定フラグF LMPK=1(急降坂、低摩擦係数路面)にセットする。
【0052】
一方、前記ステップS42,S43,S44の答の何れかがYESの場合、あるいは前記ステップS46の答がNOの場合、ステップS49で降坂下り度合いSPKUが非スリップ判定閾値を下回っていれば、路面摩擦係数が高いと判定し、ステップS50で降坂下り度合い判定フラグF LMPK=0(緩降坂、高摩擦係数路面)にセットする。
【0053】
図11には、以上説明した路面摩擦係数の四つの判定手法の長所および短所が纏められている。
【0054】
第1低摩擦係数路面判定手段M1は、全車輪の車輪速のうちの最高車輪速と最低車輪速との差を閾値と比較し、前記差が閾値を超えたときに低摩擦係数路面を判定するので、四輪の何れがスリップした場合でも低摩擦係数路面を判定することができる。但し、四輪の車輪速センサSaF,SaRが同時に故障した場合には判定不能になり、前輪の転舵角を考慮して閾値を設定する必要があり、また後輪の車輪速センサSaRの故障の影響を受ける短所がある。
【0055】
第2低摩擦係数路面判定手段M2は、左右の前輪の車輪速の平均値と左右の後輪の車輪速の平均値との差を閾値と比較し、前記差が閾値を超えたときに低摩擦係数路面を判定するので、前輪の転舵角の影響を受けずに低摩擦係数路面を判定することができる。但し、左右の路面摩擦係数差は判定することができず、また後輪の車輪速センサSaF,SaRの故障の影響を受ける短所がある。
【0056】
第3低摩擦係数路面判定手段M3は、左駆動輪(左前輪)の車輪速と右駆動輪(右前輪)の車輪速と差を閾値と比較し、前記差が閾値を超えたときに低摩擦係数路面を判定するので、低摩擦係数路面により前輪のディファレンシャルギヤDfが差回転を持つ危険な状態を確実に判定することができる。但し、前輪が踏んでいる路面の摩擦係数しか判定できない短所がある。
【0057】
第4低摩擦係数路面判定手段M4は、エンジンEの駆動力から算出した規範車体加速度を前後のディファレンシャルギヤDf,Drの回転数から算出した実車体加速度と比較し、規範車体加速度に対する実車体加速度の超過量が閾値を超えたときに低摩擦係数路面を判定するので、四輪が全てスリップしても低摩擦係数路面を判定することができ、しかもディファレンシャルギヤDf,Drの回転数を用いるので車輪速センサSaF,SaRが故障しても影響を受けることがない。但し、摩擦係数が僅かに小さい路面では判定精度が低下する短所がある。
【0058】
次に、前記ステップS2のサブルーチン(統合低摩擦係数路面判定)を図12のフローチャートに基づいて説明する。
【0059】
ステップS51で第1の低摩擦係数路面判定フラグF LM4Wの状態を判定し、ステップS52で第2の低摩擦係数路面判定フラグF DYSの状態を判定し、ステップS53で第3の低摩擦係数路面判定フラグF DVF2Wの状態を判定し、ステップS54で降坂下り度合い判定フラグF LMPKの状態を判定する。
【0060】
前記ステップS51〜S54の答が全て高摩擦係数路面を示す「0」であれば、ステップS55〜S58に移行し、前記ステップS51〜S54の少なくとも一つの答が低摩擦係数路面を示す「1」であれば、ステップS59〜S562に移行する。
【0061】
前記ステップS51〜S54の答が全て高摩擦係数路面を示す「0」であれば、先ずステップS55で判定遅延タイマTMLMINを所定値♯TMLMINにセットし、ステップS56で四輪中最高車輪速VHESTが判定解除閾値VLOMUEND以上であり、かつステップS57で前記判定遅延タイマTMLMOUTがタイムアップしていれば、ステップS58で統合低摩擦係数路面判定フラグF LOMYU=0(高摩擦係数路面)にセットする。
【0062】
前記ステップS51〜S54の答の何れかが低摩擦係数路面を示す「1」であれば、先ずステップS59でリセット遅延タイマTMLMOUTを所定値♯TMLMOUTにセットし、ステップS60で四輪中最低車輪速VLESTが判定閾値VLOMUPMT以下であり、かつステップS61で前記リセット遅延タイマTMLMINがタイムアップしていれば.ステップS62で統合低摩擦係数路面判定フラグF LOMYU=1(低摩擦係数路面)にセットする。
【0063】
以上のように、四つの路面摩擦係数判定手法を併用して路面摩擦係数を判定するので、個々の手法の短所を補うとともに個々の手法の長所を活かし、路面摩擦係数を高精度に判定することができ、特に四輪駆動車両であっても路面摩擦係数の高精度な判定が可能になる。
【0064】
次に、前記ステップS3のサブルーチン(グリップ走行判定)を図13のフローチャートに基づいて説明する。
【0065】
ステップS71で第1の低摩擦係数路面判定フラグF LM4Wの状態を判定し、ステップS72で第2の低摩擦係数路面判定フラグF DYSの状態を判定し、ステップS73で第3の低摩擦係数路面判定フラグF DVF2Wの状態を判定し、ステップS74で降坂下り度合い判定フラグF LMPKの状態を判定する。
【0066】
前記ステップS71〜S74の答が少なくとも一つが低摩擦係数路面を示す「1」であれば、ステップS75でグリップ判定遅延タイマTMGRIPを所定値♯TMGRIPにセットし、ステップS76でグリップ走行判定フラグF GRIP=0(非グリップ走行)にセットする。
【0067】
前記ステップS71〜S74の全ての答が高摩擦係数路面を示す「0」であるとき、ステップS77でアクセル開度APAT>閾値APGIPが成立し、かつステップS78で四輪の最低車輪速VLEST>閾値VGRIPが成立し、かつステップS79でトルクコンバータの滑り率ETRW>閾値ETRGRIPが成立していれば、つまり、アクセルペダルが充分に踏み込まれており、車速が充分に高く、かつトルクコンバータが充分に滑っていれば(車輪負荷が高ければ)、車輪が路面をグリップしていると判定し、この状態がステップS80でグリップ判定遅延タイマTMGRIPがタイムアップするまで継続すれば、ステップS81でグリップ走行判定フラグF GRIP=1(グリップ走行)にセットする。
【0068】
一方、前記ステップS77〜S79の何れかの答がNOであれば、車輪が路面をグリップしていると判定できないため、ステップS82でグリップ判定遅延タイマTMGRIPを所定値♯TMGRIPにセットする。
【0069】
次に、前記ステップS5のサブルーチン(フュエルカット回転数持ち替え要求)を図14のフローチャートに基づいて説明する。このルーチンは、統合低摩擦係数路面判定手段M5が統合低摩擦係数路面判定フラグF LOMYU=1(低摩擦係数路面)の判定をしたときに実行される。
【0070】
先ずステップS91でVSA(ビークル・スタビリティ・アシスト)システム、つまり左右の車輪に駆動力あるいは制動力を配分して車両挙動の安定を図るシステムが作動している場合には、そのVSAの作動との干渉を回避するためにフュエルカット制御は行わない。
【0071】
ステップS92でトランスミッションTのリバースレンジにおいて統合低摩擦係数路面判定フラグF LOMYU=1(低摩擦係数路面)であれば、ステップS93で後進中の車輪のスリップを防止すべくリバースレンジ用のフュエルカット回転数を要求し、エンジン回転数が前記フュエルカット回転数を超えた場合にフュエルカットを実施してエンジンEの出力を抑制する。これにより、氷上での後進発進時や雪路でのスタック状態から後進脱出時に、エンジン回転数が過度に増加する車輪のスリップ状態が悪化するのを防止することができる。このリバースレンジでのフュエルカット回転数の持ち替えは、低摩擦係数路面が判定された場合(統合低摩擦係数路面判定フラグF LOMYU=1)にのみ行われ、低摩擦係数路面が疑われる場合(低摩擦係数路面サスペクト判定フラグF MBLM=1)には行われない。
【0072】
続くステップS94でDレンジにおいて統合低摩擦係数路面判定フラグF LOMYU=1(低摩擦係数路面)であれば、ステップS95〜S97に移行する。ステップS95で四輪中の最低車輪速度VLESTが閾値♯VLESTを超えておらず、かつステップS96でエンジン回転数NEが閾値♯NE1を超えていなければ、即ち、車輪速およびエンジン回転数が共に小さければ、ステップS97でDレンジ用のフュエルカット回転数を要求し、エンジン回転数が前記フュエルカット回転数を超えた場合にフュエルカットを実施してエンジンEの出力を抑制する。
【0073】
その理由は、ドリフト走行中にフュエルカットが作動してエンジン出力が低下すると車両挙動のコントロールが困難になる可能性があるため、車輪速およびエンジン回転数が共に大きいドリフト走行中にフュエルカットが作動し難くし、車輪速およびエンジン回転数が共に小さい氷上での発進時や雪路でのスタック状態から脱出時にフュエルカットが作動し易くしてスリップを防止するためである。
【0074】
前記ステップS94でDレンジにおいて統合低摩擦係数路面判定フラグF LOMYU=0(高摩擦係数路面)であるとき、ステップS100でフュエルカット制御を解除するが、ステップS98でリバースレンジ側で低摩擦係数路面サスペクト判定フラグF MBLM=1(低摩擦係数路面の疑いが有り)の場合と、ステップS99でエンジン回転数NEが閾値♯NE2を超えている場合とにはフュエルカット制御の解除は行われない。
【0075】
以上のように、低摩擦係数路面では、リバースレンジだけでなくDレンジにおいてもフュエルカット回転数の持ち替えを行うことで、前進走行時にも過剰な駆動力によるスリップの発生を防止できるだけでなく、後進走行時および前進走行時にそれぞれ適したフュエルカット回転数を設定することができる。
【0076】
次に、前記ステップS7のサブルーチン(シフト制限実施)を図15のフローチャートに基づいて説明する。このルーチンは、統合低摩擦係数路面判定手段M5が統合低摩擦係数路面判定フラグF LOMYU=1(低摩擦係数路面)と統合判定したときと、低摩擦係数路面サスペクト判定手段M7が低摩擦係数路面サスペクト判定フラグF MBLM=1(低摩擦係数路面の疑い有り)の判定をしたときとに実行される。
【0077】
先ずステップS101でトランスミッションTがリバースレンジにあれば、シフトアップあるいはシフトダウンが不能であるため、ステップS102で低摩擦係数路面シフト制限フラグF DEFICEを0(シフト制限不実施)にセットする。
【0078】
前記ステップS101でトランスミッションTがDレンジにあり、ステップS103で上述した第3の手法による低摩擦係数路面判定フラグF DVF2W=1(低摩擦係数路面)であれば、つまり左右の前輪の車輪速差が閾値を超えて低摩擦係数路面であると判定された場合には、ステップS104で低摩擦係数路面シフト制限フラグF DEFICEを1(シフト制限実施)にセットする。その理由は、左右の前輪の車輪速差が閾値を超える場合は、左右一方の前輪(駆動輪)が雪路に乗ってスリップしている場合であり、このような場合にシフトダウンを許可すると駆動力が増加して車両がスタックする可能性があるからである。
【0079】
前記ステップS103で上述した第3の手法による低摩擦係数路面判定フラグF DVF2W=0(高摩擦係数路面)である場合、ステップS105でグリップ走行フラグF GRIP=0(低摩擦係数路面)であれば、つまり前記第3の手法以外の第1、第2または第4の手法で低摩擦係数路面が判定された場合には、ステップS106で最低車輪速VLESTが閾値♯VLESTを超えていない場合に、ステップS104で低摩擦係数路面シフト制限フラグF DEFICEを1(シフト制限実施)にセットする。
【0080】
その理由は、第1、第2または第4の手法で低摩擦係数路面を判定した場合は、左右一方の前輪(駆動輪)が雪路に乗ってスリップしている場合とは限らず、ドリフト走行している場合も有り得るため、最低車輪速VLEST(つまり車体速)が小さいときは、車両がスタックしかかっている場合であるという推定から、ステップS104で低摩擦係数路面シフト制限フラグF DEFICEを1(シフト制限実施)にセットし、シフトダウンを規制することで過剰なトルクの発生を抑え、スムーズなスタックからの脱出を可能にすることができる。
【0081】
尚、前記ステップS104で低摩擦係数路面シフト制限フラグF DEFICEが1(シフト制限実施)にセットされたとき、アクセル開度が閾値を超えている場合はシフトダウンの制限を継続し、アクセル開度が閾値以下の場合(例えば、全閉状態)ではシフトダウンを許可する。その理由は、アクセル開度が高い場合にはシフトダウンにより駆動力が増加して車両がスタックする可能性があるが、アクセル開度が低い場合にはその可能性がないからである。
【0082】
前記ステップS105の答がNOであって高摩擦係数路面である場合に、ステップS107で低摩擦係数路面シフト制限フラグF DEFICEが1でシフト制限が実施されているとき、ステップS108でフュエルカット制御が作動していなければ、高摩擦係数路面であってシフト制限は不要であると判定し、前記ステップS102で低摩擦係数路面シフト制限フラグF DEFICEを0(シフト制限解除)にセットする。また前記ステップS108でフュエルカット制御が作動していても、ステップS109でアクセル開度APATが閾値♯APAT以下であればシフト制限は不要であると判定し前記ステップS102で低摩擦係数路面シフト制限フラグF DEFICEを0(シフト制限解除)にセットする。
【0083】
図16に示すように、車両が上り坂の雪路を走行中にスタックしかかかった場合に、シフトダウンが実行されて駆動力が増加すると、雪を掘ってスタックに至る可能性があるが、上述したシフトダウン制限を実行することでスタックの発生を未然に防止することができる。
【0084】
次に、図2に示す第1低摩擦係数路面判定手段M1および第2低摩擦係数路面判定手段M2の更なる機能を説明する。第1低摩擦係数路面判定手段M1および第2低摩擦係数路面判定手段M2は、何れも後輪車輪速を用いて低摩擦係数路面を判定するものであるが、後輪車輪速センサSaRが異常になって正しい後輪車輪速を出力しないと低摩擦係数路面が誤判定される可能性がある。このような場合に、駆動力制御手段M8が誤った路面摩擦係数に基づいてエンジンEのフュエルカットやトランスミッションTのシフトチェンジ制限等の駆動力制御を行うと、トランスミッションTが損傷したり車両のドライバビリティが悪化したりする可能性がある。
【0085】
図17に示すように、第1低摩擦係数路面判定手段M1および第2低摩擦係数路面判定手段M2には、左右の後輪車輪速を検出する後輪車輪速センサSaRと、トランスミッションTのシフトレンジを検出するシフトレンジセンサScと、アクセル開度を検出するアクセル開度センサSdと、トランスミッションTの入力軸の回転数を検出するトランスミッション入力軸回転数センサSfと、トランスミッションTの出力軸の回転数を検出するトランスミッション出力軸回転数センサSgとが接続される。
【0086】
ところで、前輪の回転数はトランスミッションTの出力軸の回転数と対応関係にあるため、トランスミッション出力軸回転数センサSgの出力を用いて前輪車輪速センサSaFの異常を容易かつ精度良く判定することができる。一方、後輪車輪速センサSaRはこのような異常判定ができず、その異常を容易かつ精度良く判定することが困難であるため、第1低摩擦係数路面判定手段M1および第2低摩擦係数路面判定手段M2に入力される後輪車輪速は異常である可能性を含んでいる。
【0087】
以下に説明する制御は、後輪車輪速センサSaRの異常に対する対応である。
【0088】
図18のフローチャートのステップS111でシフトレンジセンサScにより検出したシフトレンジが「R」レンジである場合には、ステップS117に移行して後輪車輪速として後輪車輪速センサSaRが出力する後輪車輪速をそのまま使用する。その理由は、「R」レンジではもともとトランスミッションTの保護制御を行わないので、後輪車輪速が異常であっても支障がないからである。
【0089】
ステップS112でシフトレンジセンサScにより「R」レンジから「D」レンジに切り換えてから所定時間が経過したことが検出されると、ステップS118に移行して後輪車輪速センサSaRが出力する後輪車輪速を使用しない(図20参照)。その理由は、低摩擦係数路面で車両がスタックし、運転者が「R」レンジおよび「D」レンジ間でシフトレバーを頻繁に動かすことで車両を前後に揺さぶって脱出を試みるとき、「R」レンジから「D」レンジに切り換えてから所定時間が経過したということは、脱出に成功して頻繁なシフトレンジの切り換えが行われる可能性がなくなったと判定される。この状態で運転者が車両を走行させたときに、仮に故障した後輪車輪速センサSaRが出力する異常な後輪車輪速が使用されると、不必要なフュエルカットやシフトチェンジ制限が行われてドライバビリティが阻害されるからである。
【0090】
ステップS113でトランスミッション入力軸回転数センサSfの出力およびトランスミッション出力軸回転数センサSgの出力から算出したシフトポジションが2速から3速へのシフトチェンジされたことが検出されると、前記ステップS118に移行して後輪車輪速センサSaRが出力する後輪車輪速を使用しない。その理由は、2速から3速にシフトチェンジされたということは、車両がスタック状態を脱したと判定され.この状態で仮に異常な後輪車輪速が使用されると、不必要なフュエルカットやシフトチェンジ制限が行われてドライバビリティが阻害されるからである。
【0091】
前記ステップS112およびステップS113の答がNOの場合に、つまりシフトレンジが「R」レンジから「D」レンジに切り換えてから所定時間が経過しておらず、かつ2速から3速へのシフトチェンジが未だ行われていない場合には、基本的に正常であるか異常であるかが不明な後輪車輪速をそのまま使用する。その理由は、前記ステップS112およびステップS113の答がNOの場合には、車両が未だ発進直後の状態にあるため、仮に異常な後輪車輪速が使用されて低摩擦係数路面が誤判定され、不必要なフュエルカットやシフトチェンジ制限が行われても、ドライバビリティを阻害する虞が殆どないからである。
【0092】
とは言うものの、異常な後輪車輪速を使用することは可能な限り避けたいため、後輪車輪速センサSaRの異常が簡便な手法で判定された場合には、異常な後輪車輪速を使用しない制御が行われる。
【0093】
上述したように、後輪車輪速センサSaRが正常な値を出力しているか否かを精度良く判定することは困難であるため、ステップS114で後輪車輪速センサSaRが断線して出力が得られない等の単純な異常の判定を実行する。そして前記ステップS112で「R」レンジから「D」レンジに切り換えてから所定時間が経過しておらず、前記ステップS113で2速から3速へのシフトチェンジが行われたことが検出されない場合、前記ステップS114で後輪車輪速センサSaRが異常であれば、ステップS115でアクセル開度センサSdにより検出したアクセル開度が所定値未満になるまで、前記ステップS118に移行して後輪車輪速センサSaRが出力する後輪車輪速を使用しない。その理由は、後輪車輪速センサSaRの異常を一旦検出した後は、アクセル開度が所定値以上の加速中は前記判定結果を保持することで、後輪車輪速センサSaRの安定した異常検出を可能にするためである。
【0094】
前記ステップS114で後輪車輪速センサSaRが異常でない場合、あるいは異常であっても前記ステップS115でアクセル開度が所定値未満になった場合には、別の簡便な手法で後輪車輪速センサSaRの異常を検出する。即ち、ステップS116でトランスミッション出力軸回転数センサSgが出力するトランスミッションTの出力軸回転数から算出した前輪回転数と、左右の後輪車輪速センサSaRにより検出した左右の後輪車輪速の平均値との差分が所定値以上であれば、後輪車輪速センサSaRが異常であると判定し、前記ステップS118で後輪車輪速を使用せず、所定値未満であれば、後輪車輪速センサSaRが一応は異常でないと判定し、ステップS117で後輪車輪速を使用する。
【0095】
前記ステップS117で後輪車輪速を使用するとき、万一後輪車輪速が異常であって低摩擦係数路面が誤判定され、不必要なフュエルカットやシフトチェンジ制限が行われても、車両が未だ発進直後の状態にあるためにドライバビリティを阻害する虞はない。
【0096】
しかして、図19のフローチャートのステップS121で後輪車輪速を使用する場合には、ステップS122で右後輪車輪速センサSaRの出力VLVRRWをそのまま右後輪車輪速として使用し、ステップS123で左後輪車輪速センSaRの出力VLVRLWをそのまま左後輪車輪速として使用する。一方、前記ステップS121で後輪車輪速を使用しない場合には、ステップS124,S125でトランスミッション出力軸回転数センサSgが出力するトランスミッションTの出力軸回転数を算出から算出した前輪回転数VLVNCWを左右の後輪車輪速として代用する。
【0097】
以上のように、「R」レンジから「D」レンジに切り換えてから所定時間が経過しておらず、かつ2速から3速へのシフトチェンジが行われていない場合、つまり過剰なトルク入力に対するトランスミッションTの保護が必要な場面では、後輪車輪速センサSaRが異常である可能性があっても、その後輪車輪速センサSaRで検出した後輪車輪速を使用して低摩擦係数路面の判定を行い、それ以外のトランスミッションTの保護が必要でない場面では、後輪車輪速センサSaRで検出した後輪車輪速を使用せず、その代わりにトランスミッションTの出力軸の回転数を算出から算出した前輪回転数VLVNCWを左右の後輪車輪速として代用するので、トランスミッションTに過剰なトルクが入力して損傷の原因となるのを確実に防止しながら、誤った後輪車輪速に基づく低摩擦係数路面の誤判定によって不要なフュエルカットやシフトチェンジの制限が行われるのを阻止してドライバビリティを確保することができる。
【0098】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0099】
例えば、後輪車輪速を用いた低摩擦係数路面の判定手法は実施の形態に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0100】
E エンジン
M1 第1低摩擦係数路面判定手段(低摩擦係数路面判定手段)
M2 第2低摩擦係数路面判定手段(低摩擦係数路面判定手段)
M8 駆動力制御手段
SaR 後輪車輪速センサ
T トランスミッション
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンおよびトランスミッションを備える車両が走行する路面の状態を判定し、判定した路面の状態に基づいて車両の駆動力を制御する駆動力制御手段を備える車両の駆動力制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、車両のスリップ量演算装置において、四輪の回転速度センサが全て正常であるときに、左右の遊動輪の回転速度の平均値および左右の駆動輪の回転速度の平均値に基づいてスリップ量を算出し、右前輪の回転速度センサまたは右後輪の回転速度センサが異常の場合には、左前輪の回転速度および左後輪の回転速度に基づいてスリップ量を算出し、左前輪の回転速度センサまたは左後輪の回転速度センサが異常の場合には、右前輪の回転速度および右後輪の回転速度に基づいてスリップ量を算出するものが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−289039号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前輪を主駆動輪とし、後輪を副駆動輪とする四輪駆動車両では、前輪車輪速センサの異常を、その出力をトランスミッションの出力軸回転数と比較することで、簡単に精度良く判定することが可能であるが、このような手段を用いることができない後輪車輪速センサの異常を簡単に精度良く判定することは困難である。
【0005】
従って、後輪車輪速センサが出力する異常な後輪車輪速を使用して低摩擦係数路面を判定すると誤判定が発生する可能性があり、その誤った判定結果に基づいてエンジンのフュエルカットやトランスミッションのシフトチェンジの制限等の駆動力制御を行うと、トランスミッションに過剰なトルクが入力して損傷の原因となったり、車両のドライバビリティが阻害されたりする可能性がある。
【0006】
本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、後輪車輪速センサの異常時に対して、トランスミッションの保護および車両のドライバビリティの確保を両立させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明によれば、エンジンおよびトランスミッションを備える車両が走行する路面の状態を判定し、判定した路面の状態に基づいて車両の駆動力を制御する駆動力制御手段を備える車両の駆動力制御装置において、後輪車輪速を検出する後輪車輪速センサと、所定の条件が成立したときに、少なくとも前記後輪車輪速センサにより検出された後輪車輪速を用いて低摩擦係数路面を判定する低摩擦係数路面判定手段とを備え、前記低摩擦係数路面判定手段は、
(a)後輪車輪速センサが異常であること
(b)がリバースレンジからドライブレンジに操作されてから所定時間が経過したこと
(c)変速段が所定変速段以上になったこと
の各条件のうち、(a)の条件が成立した場合、あるいは(b)の条件および(c)の条件の少なくとも一方が成立した場合に、後輪車輪速を用いた低摩擦係数路面の判定を禁止することを特徴とする車両の駆動力制御装置が提案される。
【0008】
また請求項2に記載された発明によれば、請求項1の構成に加えて、前記低摩擦係数路面判定手段は、後輪車輪速を用いた低摩擦係数路面の判定が禁止された後に、アクセル開度が所定値未満になるまで低摩擦係数路面の判定禁止を継続することを特徴とする車両の駆動力制御装置が提案される。
【0009】
また請求項3に記載された発明によれば、請求項1または請求項2の構成に加えて、前記低摩擦係数路面判定手段は、後輪車輪速を用いた低摩擦係数路面の判定の実行中に、前記トランスミッションの出力軸回転数から算出した前輪車輪速と、後輪車輪速センサで検出した左右の後輪車輪速の平均値との差分が閾値以上になった場合に、後輪車輪速を用いた低摩擦係数路面の判定を禁止することを特徴とする車両の駆動力制御装置が提案される。
【0010】
尚、実施の形態の第1低摩擦係数路面判定手段M1および第2低摩擦係数路面判定手段M1は、本発明の低摩擦係数路面判定手段に対応する。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の構成によれば、所定の条件が成立したときに、少なくとも後輪車輪速センサにより検出された後輪車輪速を用いて低摩擦係数路面を判定する低摩擦係数路面判定手段は、
(a)後輪車輪速センサが異常であること
(b)シフトレンジがリバースレンジからドライブレンジに操作されてから所定時間が経過したこと
(c)変速段が所定変速段以上になったこと
の各条件のうち、(a)の条件が成立した場合、あるいは(b)の条件および(c)の条件の少なくとも一方が成立した場合に、後輪車輪速を用いた低摩擦係数路面の判定を禁止する。
【0012】
これにより、(a)の条件に基づき後輪車輪速センサが異常である場合には、異常な後輪車輪速に基づく低摩擦係数路面の誤判定により不適切な車両制御が行われるのを防止することができる。また(b)、(c)の条件に基づきトランスミッションの保護が必要でない場面で異常の可能性がある後輪車輪速を使用しないことで、低摩擦係数路面の誤判定に基づくフュエルカットやシフトチェンジの規制等の不要な駆動力制御が行われないようにしてドライバビリティを確保することができ、トランスミッションの保護が必要な場面に限って前記後輪車輪速を使用することで、低摩擦係数路面の判定に基づくフュエルカットやシフトチェンジの規制等の駆動力制御を行わせてトランスミッションを保護することができる。
【0013】
また請求項2の構成によれば、請求項1の構成に加えて、低摩擦係数路面判定手段は、後輪車輪速を用いた低摩擦係数路面の判定が禁止された後に、アクセル開度が所定値未満になるまで低摩擦係数路面の判定禁止を継続するので、前記判定禁止状態が容易に解除されるのを阻止して安定した駆動力制御を可能にすることができる。
【0014】
また請求項3の構成によれば、低摩擦係数路面判定手段は、後輪車輪速を用いた低摩擦係数路面の判定の実行中に、トランスミッションの出力軸回転数から算出した前輪車輪速と、後輪車輪速センサで検出した左右の後輪車輪速の平均値との差分が閾値以上になると、後輪車輪速センサが異常であると判定して後輪車輪速を用いた低摩擦係数路面の判定を禁止するので、異常な後輪車輪速に基づく不適切な駆動力制御が行われるのを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】駆動力制御装置を備えた車両の全体構成を示す図。
【図2】駆動力制御装置の電子制御ユニットのブロック図。
【図3】メインルーチンのフローチャート。
【図4】メインルーチンのステップS1のサブルーチンのフローチャート(第1低摩擦係数路面判定手段)。
【図5】図4に対応するタイムチャート。
【図6】メインルーチンのステップS1のサブルーチンのフローチャート(第2低摩擦係数路面判定手段)。
【図7】図6に対応するタイムチャート。
【図8】メインルーチンのステップS1のサブルーチンのフローチャート(第3低摩擦係数路面判定手段)。
【図9】図8に対応するフローチャート。
【図10】メインルーチンのステップS1のサブルーチンのフローチャート(第4低摩擦係数路面判定手段)。
【図11】第1〜第4低摩擦係数路面判定手段の長所および短所を説明する図。
【図12】メインルーチンのステップS2のサブルーチンのフローチャート。
【図13】メインルーチンのステップS3のサブルーチンのフローチャート。
【図14】メインルーチンのステップS5のサブルーチンのフローチャート。
【図15】メインルーチンのステップS7のサブルーチンのフローチャート。
【図16】図15に対応するタイムチャート。
【図17】第1、第2低摩擦係数路面判定手段に接続されるセンサを示す図。
【図18】後輪車輪速異常判定ルーチンのフローチャート。
【図19】後輪車輪速持ち替えルーチンのフローチャート。
【図20】ステップS112の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図1〜図20に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
【0017】
図1に示すように、四輪駆動の自動車は、常時駆動される主駆動輪である左右の前輪WFL,WFRと、必要時に駆動される副駆動輪である左右の後輪WRL,WRRとを備える。エンジンEの駆動力の一部はトランスミッションTおよび前側のディファレンシャルギヤDfを介して左右の前輪WFL,WFRに伝達され、また前記駆動力の一部はトランスミッションTからトランスファーTF、ビスカスカップリングCおよび後側のディファレンシャルギヤDrを介して左右の後輪WRL,WRRに伝達される。
【0018】
エンジンEのフュエルカットおよびトランスミッションTのシフトチェンジを制御する電子制御ユニットUには、左右の前輪WFL,WFRの各回転数を検出する前輪車輪速センサSaFと、左右の後輪WRL,WRRの各回転数を検出する後輪車輪速センサSaRと、エンジン回転数を検出するエンジン回転数センサSbと、トランスミッションTのシフトレンジを検出するシフトレンジセンサScと、アクセル開度を検出するアクセル開度センサSdと、前後のディファレンシャルギヤDf,Drの回転数を検出するディファレンシャルギヤ回転数センサSe,Seと、トランスミッションTの入力軸の回転数を検出するトランスミッション入力軸回転数センサSfと、トランスミッションTの出力軸の回転数を検出するトランスミッション出力軸回転数センサSgとが接続されており、電子制御ユニットUは前記各センサSaF,SaR,Sb,Sc,Sd,Se,Sf,Sgからの信号に基づいて、エンジンEのフュエルカットを制御するとともに、トランスミッションTのシフトチェンジを制御する。
【0019】
図2に示すように、電子制御ユニットUは、第1低摩擦係数路面判定手段M1と、第2低摩擦係数路面判定手段M2と、第3低摩擦係数路面判定手段M3と、第4低摩擦係数路面判定手段M4と、統合低摩擦係数路面判定手段M5と、グリップ走行判定手段M6と、低摩擦係数路面サスペクト判定手段M7と、駆動力制御手段M8とを備えており、駆動力制御手段M8には、エンジンEのフュエルカットを制御するフュエルカット制御手段M8Aと、トランスミッションTのシフトチェンジを制限するシフトチェンジ制限手段M8Bとが含まれる。
【0020】
次に、図3に基づいてメインルーチンのフローチャートを説明する。
【0021】
先ずステップS1で第1〜第4低摩擦係数路面判定手段M1〜M4により、後から詳述する第1の手法〜第4の手法を用いてそれぞれ低摩擦係数路面の判定を行い、ステップS2で統合低摩擦係数路面判定手段M5により、前記第1の手法〜第4の手法の判定結果を統合して低摩擦係数路面の統合判定を行う。その結果、統合低摩擦係数路面判定フラグF LOMYU=0(高摩擦係数路面)であると統合判定された場合には、ステップS3でグリップ走行判定手段M6によりグリップ走行判定(車輪がスリップせずに路面をグリップして走行しているか否かの判定)を行う。その結果、グリップ走行判定フラグF GRIP=1(グリップ走行)であると判定された場合には、ステップS4で低摩擦係数路面サスペクト判定手段M7により、低摩擦係数路面サスペクト判定フラグF MBLM=0(低摩擦係数路面の疑い無し)にセットする。
【0022】
前記ステップS2で統合低摩擦係数路面判定フラグF LOMYU=1(低摩擦係数路面)であると統合判定された場合には、ステップS5で駆動輪のスリップを抑制すべく、フュエルカット制御手段M8Aにより、エンジンのフュエルカット回転数の持ち替え要求を行う。そして前記ステップS3でグリップ走行判定フラグF GRIP=0(グリップ走行でない)と判定された場合と、前記ステップS5を経由した場合とには、ステップS6で低摩擦係数路面サスペクト判定手段M7により、低摩擦係数路面サスペクト判定フラグF MBLM=1(低摩擦係数路面の疑い有り)にセットし、続くステップS7で駆動輪のスリップを抑制すべく、シフトチェンジ制限手段M8Bにより、トランスミッションTのシフト制限を実施する。
【0023】
図3から明らかなように、統合低摩擦係数路面判定フラグF LOMYU=1(低摩擦係数路面)の判定と、低摩擦係数路面サスペクト判定フラグF MBLM=1(低摩擦係数路面の疑い有り)の判定と、グリップ走行判定フラグF GRIP=1(グリップ走行)の判定との関連は、以下のようになっている。
【0024】
ステップS2で統合低摩擦係数路面判定フラグF LOMYU=1(低摩擦係数路面)が判定されると、ステップS6で自動的に低摩擦係数路面サスペクト判定フラグF MBLM=1(低摩擦係数路面の疑い有り)の判定がなされる。
【0025】
ステップS2で統合低摩擦係数路面判定フラグF LOMYU=1(低摩擦係数路面)が判定されない場合、ステップS3でグリップ走行判定フラグF GRIP=1(グリップ走行)の判定がなされなければ、やはりステップS6で自動的に低摩擦係数路面サスペクト判定フラグF MBLM=1(低摩擦係数路面の疑い有り)の判定がなされる。
【0026】
その理由は、車両が氷上にあるようなとき、運転者がアクセルペダルを離したために、統合低摩擦係数路面判定フラグF LOMYU=0(高摩擦係数路面)であると統合判定された場合でも、実際には低摩擦係数である可能性があるため、前記ステップS3でグリップ走行の判定がなされなければ、低摩擦係数路面サスペクト判定フラグF MBLM=1(低摩擦係数路面の疑い有り)の判定がなされる。
【0027】
ステップS3でグリップ走行判定フラグF GRIP=1(グリップ走行)の判定がなされた場合、ステップS4で低摩擦係数路面サスペクト判定フラグF MBLM=0(低摩擦係数路面の疑い無し)の判定がなされる。つまり、低摩擦係数路面サスペクト判定フラグF MBLM=0(低摩擦係数路面の疑い無し)は、グリップ走行判定フラグF GRIP=1(グリップ走行)の判定がなされた場合にのみ成立する。
【0028】
【表1】
【0029】
表1は上記作用を纏めたもので、統合低摩擦係数路面判定フラグF LOMYU=0、低摩擦係数路面サスペクト判定フラグF MBLM=0かつグリップ走行判定フラグF GRIP=1の場合には、路面摩擦係数が高い場合であるため、シフト制限もフュエルカット回転数の持ち替えも実施しない。
【0030】
統合低摩擦係数路面判定フラグF LOMYU=1、低摩擦係数路面サスペクト判定フラグF MBLM=1かつグリップ走行判定フラグF GRIP=0の場合には、路面摩擦係数が低い場合であるため、シフト制限およびフュエルカット回転数の持ち替えの両方を実施する。
【0031】
低摩擦係数路面判定フラグF LOMYU=0、低摩擦係数路面サスペクト判定フラグF MBLM=1かつグリップ走行判定フラグF GRIP=0の場合には、路面摩擦係数が低い可能性がある場合であるため、シフト制限だけを実施してフュエルカット回転数の持ち替えは実施しない。
【0032】
次に、前記ステップS1のサブルーチンである図4のフローチャートに基づいて、第1低摩擦係数路面判定手段M1により低摩擦係数路面を判定する第1の手法を説明する。
【0033】
先ずステップS11で四輪の車輪速のうちの最高車輪速および最低車輪速を算出し、ステップS12で最高車輪速および最低車輪速の車輪速差SVLVF4Rを算出する。続くステップS13で最高最低車輪速差判定フラグF LM4W=0(車輪速差小)であれば、ステップS14で車輪速差SVLVF4Rを低摩擦係数路面判定閾値と比較し、車輪速差SVLVF4R>低摩擦係数路面判定閾値であれば、ステップS15で低摩擦係数路面判定フラグフラグF LM4W=1(低摩擦係数路面)にセットする。
【0034】
一方、前記ステップS13で最高最低車輪速差判定フラグF LM4W=1(車輪速差大)であれば、ステップS16で車輪速差SVLVF4Rを低摩擦係数路面解除閾値と比較し、車輪速差SVLVF4R<低摩擦係数路面解除閾値であれば、ステップS17で低摩擦係数路面判定フラグF LM4W=0(高摩擦係数路面)にセットする。
【0035】
図5は図4のフローチャートの作用を説明するタイムチャートであり、最高車輪速および最低車輪速の車輪速差SVLVF4Rが低摩擦係数路面判定閾値を超えると低摩擦係数路面判定フラグフラグF LM4W=1にセットされ、最高車輪速および最低車輪速の車輪速差SVLVF4Rが低摩擦係数路面解除閾値を下回ると低摩擦係数路面判定フラグF LM4W=0にセットされる。
【0036】
次に、前記ステップS1のサブルーチンである図6のフローチャートに基づいて、第2低摩擦係数路面判定手段M2により低摩擦係数路面を判定する第2の手法を説明する。
【0037】
先ずステップS21で左右の前輪平均車輪速および左右の後輪平均車輪速を算出し、ステップS22でそれらの差である前後平均車輪速差SVLVF2Rを算出する。続くステップS23で低摩擦係数路面判定フラグF DYS=0(高摩擦係数路面)であれば、ステップS24で車輪速差SVLVF2Rを低摩擦係数路面判定閾値と比較し、車輪速差SVLVF2R>低摩擦係数路面判定閾値であれば、ステップS25で低摩擦係数路面判定フラグフラグF DYS=1(低摩擦係数路面)にセットする。
【0038】
一方、前記ステップS23で低摩擦係数路面判定フラグF DYS=1(低摩擦係数路面)であれば、ステップS26で車輪速差SVLVF2Rを低摩擦係数路面解除閾値と比較し、車輪速差SVLVF2R<低摩擦係数路面解除閾値であれば、ステップS27で低摩擦係数路面判定フラグF DYS=0(高摩擦係数路面)にセットする。
【0039】
図7は図6のフローチャートの作用を説明するタイムチャートであり、前後平均車輪速差SVLVF2Rが低摩擦係数路面判定閾値を超えると低摩擦係数路面判定フラグF DYS=1にセットされ、前後平均車輪速差SVLVF2Rが低摩擦係数路面解除閾値を下回ると低摩擦係数路面判定フラグF DYS=0にセットされる。
【0040】
次に、前記ステップS1のサブルーチンである図8のフローチャートに基づいて、第3低摩擦係数路面判定手段M3により低摩擦係数路面を判定する第3の手法を説明する。
【0041】
先ずステップS31で左前輪車輪速および右前輪輪速を算出し、ステップS32で左右前輪車輪速差DVF2Wを算出する。続くステップS33で低摩擦係数路面判定フラグF DVF2W=0(高摩擦係数路面)であれば、ステップS34で車輪速差DVF2Wを低摩擦係数路面判定閾値と比較し、車輪速差DVF2W>低摩擦係数路面判定閾値であれば、ステップS35で低摩擦係数路面判定フラグフラグF DVF2W=1(低摩擦係数路面)にセットする。
【0042】
前記ステップS33で低摩擦係数路面判定フラグF DVF2W=1(低摩擦係数路面)であれば、ステップS36で車輪速差DVF2Wを低摩擦係数路面解除閾値と比較し、車輪速差DVF2W<低摩擦係数路面解除閾値であれば、ステップS37で低摩擦係数路面判定フラグF DVF2W=0(高摩擦係数路面)にセットする。
【0043】
図9は図8のフローチャートの作用を説明するタイムチャートであり、左右前輪車輪速差DVF2Wが低摩擦係数路面判定閾値を超えると低摩擦係数路面判定フラグF DVF2W=1にセットされ、左右前輪車輪速差DVF2Wが低摩擦係数路面解除閾値を下回ると低摩擦係数路面判定F DVF2W=0にセットされる。
【0044】
次に、前記ステップS1のサブルーチンである図10のフローチャートに基づいて、第4低摩擦係数路面判定手段M4により低摩擦係数路面を判定する第4の手法を説明する。
【0045】
先ずステップS41でリバース判定フラグF NSURED=1でなく、シフトレンジが定常的にDレンジであるとき、ステップS42で四輪中の最低車輪速VLESTが閾値♯VLKPK0以上であり、かつ降坂下り度合い判定フラグF LMPK=0(緩降坂、高摩擦係数路面)であれば、ステップS47での降坂下り度合いの判定を行わない。その理由は、車両がスタックしそうな場合に絞ってスリップ判定を行いたいので、車輪速が大きく、路面摩擦係数が大きいときには降坂下り度合いの判定を行う必要がないからである。
【0046】
前記ステップS42の答がNOであっても、ステップS43で四輪中の最低車輪速VLESTが閾値♯VLKPK1以上であり、かつ降坂下り度合い判定フラグF LMPK=1(急降坂、低摩擦係数路面)であれば、ステップS47での降坂下り度合いの判定を行わない。その理由は、高車速の変速段での誤判定のリスクを考慮すると、スリップ判定を積極的に行いたくないので、車輪速が大きいときには降坂下り度合いの判定をあえて避けるためである。
【0047】
前記ステップS43の答がNOであっても、ステップS44で四輪中の最高車輪速VHESTが閾値♯VLMKPKE以下であれば、ステップS47での降坂下り度合いの判定を行わない。その理由は、降坂下り度合いを判定するには車輪が回転していることが必要であるため、四輪中の最高車輪速VHESTが閾値♯VLMKPKE以下のときは降坂下り度合いを精度良く判定できないからである。
【0048】
前記ステップS41でリバース判定フラグF NSURED=1であり、シフトレンジがリバースレンジであるときには、前記ステップS42,S43をスキップして前記ステップS44に移行する。その理由は、リバースレンジで積極的にスリップ判定を行う必要があるため、前記前記ステップS42,S43の条件を考慮せずにスリップ判定を行わせるためである。
【0049】
しかして、前記ステップS42〜S44の答が全てNOの場合に、ステップS45で降坂下り度合いSPKUを算出する。具体的には、路面摩擦係数が高い平坦路でエンジン出力に対する規範車体加速度の関係を予め記憶しておき、降坂路で実際に発生する車体加速度が前記規範車体加速度を超える程度が大きいほど、降坂下り度合いSPKUが大きい値として算出される。このとき、路面摩擦係数が小さいために車輪がスリップして車輪速が増加すると、見かけの車体加速度が大きく算出されるため、降坂下り度合いSPKUが更に大きい値として算出される。したがって、降坂下り度合いSPKUが、車輪のグリップ状態において発生しないような大きい値を示したとき、低摩擦係数路面であると判定することができる。
【0050】
このとき、路面摩擦係数の判定に車輪速センサSaF,SaRを使用せず、ディファレンシャルギヤ回転数センサSe,Seを使用しているので、車輪速センサSaF,SaRの故障の影響を受けることがない。
【0051】
続くステップS46で降坂下り度合い判定フラグF LMPK=0(緩降坂、高摩擦係数路面)であるとき、ステップS47で降坂下り度合いSPKUがスリップ判定下り度合い閾値を超えていれば、路面摩擦係数が低いと判定し、ステップS48で降坂下り度合い判定フラグF LMPK=1(急降坂、低摩擦係数路面)にセットする。
【0052】
一方、前記ステップS42,S43,S44の答の何れかがYESの場合、あるいは前記ステップS46の答がNOの場合、ステップS49で降坂下り度合いSPKUが非スリップ判定閾値を下回っていれば、路面摩擦係数が高いと判定し、ステップS50で降坂下り度合い判定フラグF LMPK=0(緩降坂、高摩擦係数路面)にセットする。
【0053】
図11には、以上説明した路面摩擦係数の四つの判定手法の長所および短所が纏められている。
【0054】
第1低摩擦係数路面判定手段M1は、全車輪の車輪速のうちの最高車輪速と最低車輪速との差を閾値と比較し、前記差が閾値を超えたときに低摩擦係数路面を判定するので、四輪の何れがスリップした場合でも低摩擦係数路面を判定することができる。但し、四輪の車輪速センサSaF,SaRが同時に故障した場合には判定不能になり、前輪の転舵角を考慮して閾値を設定する必要があり、また後輪の車輪速センサSaRの故障の影響を受ける短所がある。
【0055】
第2低摩擦係数路面判定手段M2は、左右の前輪の車輪速の平均値と左右の後輪の車輪速の平均値との差を閾値と比較し、前記差が閾値を超えたときに低摩擦係数路面を判定するので、前輪の転舵角の影響を受けずに低摩擦係数路面を判定することができる。但し、左右の路面摩擦係数差は判定することができず、また後輪の車輪速センサSaF,SaRの故障の影響を受ける短所がある。
【0056】
第3低摩擦係数路面判定手段M3は、左駆動輪(左前輪)の車輪速と右駆動輪(右前輪)の車輪速と差を閾値と比較し、前記差が閾値を超えたときに低摩擦係数路面を判定するので、低摩擦係数路面により前輪のディファレンシャルギヤDfが差回転を持つ危険な状態を確実に判定することができる。但し、前輪が踏んでいる路面の摩擦係数しか判定できない短所がある。
【0057】
第4低摩擦係数路面判定手段M4は、エンジンEの駆動力から算出した規範車体加速度を前後のディファレンシャルギヤDf,Drの回転数から算出した実車体加速度と比較し、規範車体加速度に対する実車体加速度の超過量が閾値を超えたときに低摩擦係数路面を判定するので、四輪が全てスリップしても低摩擦係数路面を判定することができ、しかもディファレンシャルギヤDf,Drの回転数を用いるので車輪速センサSaF,SaRが故障しても影響を受けることがない。但し、摩擦係数が僅かに小さい路面では判定精度が低下する短所がある。
【0058】
次に、前記ステップS2のサブルーチン(統合低摩擦係数路面判定)を図12のフローチャートに基づいて説明する。
【0059】
ステップS51で第1の低摩擦係数路面判定フラグF LM4Wの状態を判定し、ステップS52で第2の低摩擦係数路面判定フラグF DYSの状態を判定し、ステップS53で第3の低摩擦係数路面判定フラグF DVF2Wの状態を判定し、ステップS54で降坂下り度合い判定フラグF LMPKの状態を判定する。
【0060】
前記ステップS51〜S54の答が全て高摩擦係数路面を示す「0」であれば、ステップS55〜S58に移行し、前記ステップS51〜S54の少なくとも一つの答が低摩擦係数路面を示す「1」であれば、ステップS59〜S562に移行する。
【0061】
前記ステップS51〜S54の答が全て高摩擦係数路面を示す「0」であれば、先ずステップS55で判定遅延タイマTMLMINを所定値♯TMLMINにセットし、ステップS56で四輪中最高車輪速VHESTが判定解除閾値VLOMUEND以上であり、かつステップS57で前記判定遅延タイマTMLMOUTがタイムアップしていれば、ステップS58で統合低摩擦係数路面判定フラグF LOMYU=0(高摩擦係数路面)にセットする。
【0062】
前記ステップS51〜S54の答の何れかが低摩擦係数路面を示す「1」であれば、先ずステップS59でリセット遅延タイマTMLMOUTを所定値♯TMLMOUTにセットし、ステップS60で四輪中最低車輪速VLESTが判定閾値VLOMUPMT以下であり、かつステップS61で前記リセット遅延タイマTMLMINがタイムアップしていれば.ステップS62で統合低摩擦係数路面判定フラグF LOMYU=1(低摩擦係数路面)にセットする。
【0063】
以上のように、四つの路面摩擦係数判定手法を併用して路面摩擦係数を判定するので、個々の手法の短所を補うとともに個々の手法の長所を活かし、路面摩擦係数を高精度に判定することができ、特に四輪駆動車両であっても路面摩擦係数の高精度な判定が可能になる。
【0064】
次に、前記ステップS3のサブルーチン(グリップ走行判定)を図13のフローチャートに基づいて説明する。
【0065】
ステップS71で第1の低摩擦係数路面判定フラグF LM4Wの状態を判定し、ステップS72で第2の低摩擦係数路面判定フラグF DYSの状態を判定し、ステップS73で第3の低摩擦係数路面判定フラグF DVF2Wの状態を判定し、ステップS74で降坂下り度合い判定フラグF LMPKの状態を判定する。
【0066】
前記ステップS71〜S74の答が少なくとも一つが低摩擦係数路面を示す「1」であれば、ステップS75でグリップ判定遅延タイマTMGRIPを所定値♯TMGRIPにセットし、ステップS76でグリップ走行判定フラグF GRIP=0(非グリップ走行)にセットする。
【0067】
前記ステップS71〜S74の全ての答が高摩擦係数路面を示す「0」であるとき、ステップS77でアクセル開度APAT>閾値APGIPが成立し、かつステップS78で四輪の最低車輪速VLEST>閾値VGRIPが成立し、かつステップS79でトルクコンバータの滑り率ETRW>閾値ETRGRIPが成立していれば、つまり、アクセルペダルが充分に踏み込まれており、車速が充分に高く、かつトルクコンバータが充分に滑っていれば(車輪負荷が高ければ)、車輪が路面をグリップしていると判定し、この状態がステップS80でグリップ判定遅延タイマTMGRIPがタイムアップするまで継続すれば、ステップS81でグリップ走行判定フラグF GRIP=1(グリップ走行)にセットする。
【0068】
一方、前記ステップS77〜S79の何れかの答がNOであれば、車輪が路面をグリップしていると判定できないため、ステップS82でグリップ判定遅延タイマTMGRIPを所定値♯TMGRIPにセットする。
【0069】
次に、前記ステップS5のサブルーチン(フュエルカット回転数持ち替え要求)を図14のフローチャートに基づいて説明する。このルーチンは、統合低摩擦係数路面判定手段M5が統合低摩擦係数路面判定フラグF LOMYU=1(低摩擦係数路面)の判定をしたときに実行される。
【0070】
先ずステップS91でVSA(ビークル・スタビリティ・アシスト)システム、つまり左右の車輪に駆動力あるいは制動力を配分して車両挙動の安定を図るシステムが作動している場合には、そのVSAの作動との干渉を回避するためにフュエルカット制御は行わない。
【0071】
ステップS92でトランスミッションTのリバースレンジにおいて統合低摩擦係数路面判定フラグF LOMYU=1(低摩擦係数路面)であれば、ステップS93で後進中の車輪のスリップを防止すべくリバースレンジ用のフュエルカット回転数を要求し、エンジン回転数が前記フュエルカット回転数を超えた場合にフュエルカットを実施してエンジンEの出力を抑制する。これにより、氷上での後進発進時や雪路でのスタック状態から後進脱出時に、エンジン回転数が過度に増加する車輪のスリップ状態が悪化するのを防止することができる。このリバースレンジでのフュエルカット回転数の持ち替えは、低摩擦係数路面が判定された場合(統合低摩擦係数路面判定フラグF LOMYU=1)にのみ行われ、低摩擦係数路面が疑われる場合(低摩擦係数路面サスペクト判定フラグF MBLM=1)には行われない。
【0072】
続くステップS94でDレンジにおいて統合低摩擦係数路面判定フラグF LOMYU=1(低摩擦係数路面)であれば、ステップS95〜S97に移行する。ステップS95で四輪中の最低車輪速度VLESTが閾値♯VLESTを超えておらず、かつステップS96でエンジン回転数NEが閾値♯NE1を超えていなければ、即ち、車輪速およびエンジン回転数が共に小さければ、ステップS97でDレンジ用のフュエルカット回転数を要求し、エンジン回転数が前記フュエルカット回転数を超えた場合にフュエルカットを実施してエンジンEの出力を抑制する。
【0073】
その理由は、ドリフト走行中にフュエルカットが作動してエンジン出力が低下すると車両挙動のコントロールが困難になる可能性があるため、車輪速およびエンジン回転数が共に大きいドリフト走行中にフュエルカットが作動し難くし、車輪速およびエンジン回転数が共に小さい氷上での発進時や雪路でのスタック状態から脱出時にフュエルカットが作動し易くしてスリップを防止するためである。
【0074】
前記ステップS94でDレンジにおいて統合低摩擦係数路面判定フラグF LOMYU=0(高摩擦係数路面)であるとき、ステップS100でフュエルカット制御を解除するが、ステップS98でリバースレンジ側で低摩擦係数路面サスペクト判定フラグF MBLM=1(低摩擦係数路面の疑いが有り)の場合と、ステップS99でエンジン回転数NEが閾値♯NE2を超えている場合とにはフュエルカット制御の解除は行われない。
【0075】
以上のように、低摩擦係数路面では、リバースレンジだけでなくDレンジにおいてもフュエルカット回転数の持ち替えを行うことで、前進走行時にも過剰な駆動力によるスリップの発生を防止できるだけでなく、後進走行時および前進走行時にそれぞれ適したフュエルカット回転数を設定することができる。
【0076】
次に、前記ステップS7のサブルーチン(シフト制限実施)を図15のフローチャートに基づいて説明する。このルーチンは、統合低摩擦係数路面判定手段M5が統合低摩擦係数路面判定フラグF LOMYU=1(低摩擦係数路面)と統合判定したときと、低摩擦係数路面サスペクト判定手段M7が低摩擦係数路面サスペクト判定フラグF MBLM=1(低摩擦係数路面の疑い有り)の判定をしたときとに実行される。
【0077】
先ずステップS101でトランスミッションTがリバースレンジにあれば、シフトアップあるいはシフトダウンが不能であるため、ステップS102で低摩擦係数路面シフト制限フラグF DEFICEを0(シフト制限不実施)にセットする。
【0078】
前記ステップS101でトランスミッションTがDレンジにあり、ステップS103で上述した第3の手法による低摩擦係数路面判定フラグF DVF2W=1(低摩擦係数路面)であれば、つまり左右の前輪の車輪速差が閾値を超えて低摩擦係数路面であると判定された場合には、ステップS104で低摩擦係数路面シフト制限フラグF DEFICEを1(シフト制限実施)にセットする。その理由は、左右の前輪の車輪速差が閾値を超える場合は、左右一方の前輪(駆動輪)が雪路に乗ってスリップしている場合であり、このような場合にシフトダウンを許可すると駆動力が増加して車両がスタックする可能性があるからである。
【0079】
前記ステップS103で上述した第3の手法による低摩擦係数路面判定フラグF DVF2W=0(高摩擦係数路面)である場合、ステップS105でグリップ走行フラグF GRIP=0(低摩擦係数路面)であれば、つまり前記第3の手法以外の第1、第2または第4の手法で低摩擦係数路面が判定された場合には、ステップS106で最低車輪速VLESTが閾値♯VLESTを超えていない場合に、ステップS104で低摩擦係数路面シフト制限フラグF DEFICEを1(シフト制限実施)にセットする。
【0080】
その理由は、第1、第2または第4の手法で低摩擦係数路面を判定した場合は、左右一方の前輪(駆動輪)が雪路に乗ってスリップしている場合とは限らず、ドリフト走行している場合も有り得るため、最低車輪速VLEST(つまり車体速)が小さいときは、車両がスタックしかかっている場合であるという推定から、ステップS104で低摩擦係数路面シフト制限フラグF DEFICEを1(シフト制限実施)にセットし、シフトダウンを規制することで過剰なトルクの発生を抑え、スムーズなスタックからの脱出を可能にすることができる。
【0081】
尚、前記ステップS104で低摩擦係数路面シフト制限フラグF DEFICEが1(シフト制限実施)にセットされたとき、アクセル開度が閾値を超えている場合はシフトダウンの制限を継続し、アクセル開度が閾値以下の場合(例えば、全閉状態)ではシフトダウンを許可する。その理由は、アクセル開度が高い場合にはシフトダウンにより駆動力が増加して車両がスタックする可能性があるが、アクセル開度が低い場合にはその可能性がないからである。
【0082】
前記ステップS105の答がNOであって高摩擦係数路面である場合に、ステップS107で低摩擦係数路面シフト制限フラグF DEFICEが1でシフト制限が実施されているとき、ステップS108でフュエルカット制御が作動していなければ、高摩擦係数路面であってシフト制限は不要であると判定し、前記ステップS102で低摩擦係数路面シフト制限フラグF DEFICEを0(シフト制限解除)にセットする。また前記ステップS108でフュエルカット制御が作動していても、ステップS109でアクセル開度APATが閾値♯APAT以下であればシフト制限は不要であると判定し前記ステップS102で低摩擦係数路面シフト制限フラグF DEFICEを0(シフト制限解除)にセットする。
【0083】
図16に示すように、車両が上り坂の雪路を走行中にスタックしかかかった場合に、シフトダウンが実行されて駆動力が増加すると、雪を掘ってスタックに至る可能性があるが、上述したシフトダウン制限を実行することでスタックの発生を未然に防止することができる。
【0084】
次に、図2に示す第1低摩擦係数路面判定手段M1および第2低摩擦係数路面判定手段M2の更なる機能を説明する。第1低摩擦係数路面判定手段M1および第2低摩擦係数路面判定手段M2は、何れも後輪車輪速を用いて低摩擦係数路面を判定するものであるが、後輪車輪速センサSaRが異常になって正しい後輪車輪速を出力しないと低摩擦係数路面が誤判定される可能性がある。このような場合に、駆動力制御手段M8が誤った路面摩擦係数に基づいてエンジンEのフュエルカットやトランスミッションTのシフトチェンジ制限等の駆動力制御を行うと、トランスミッションTが損傷したり車両のドライバビリティが悪化したりする可能性がある。
【0085】
図17に示すように、第1低摩擦係数路面判定手段M1および第2低摩擦係数路面判定手段M2には、左右の後輪車輪速を検出する後輪車輪速センサSaRと、トランスミッションTのシフトレンジを検出するシフトレンジセンサScと、アクセル開度を検出するアクセル開度センサSdと、トランスミッションTの入力軸の回転数を検出するトランスミッション入力軸回転数センサSfと、トランスミッションTの出力軸の回転数を検出するトランスミッション出力軸回転数センサSgとが接続される。
【0086】
ところで、前輪の回転数はトランスミッションTの出力軸の回転数と対応関係にあるため、トランスミッション出力軸回転数センサSgの出力を用いて前輪車輪速センサSaFの異常を容易かつ精度良く判定することができる。一方、後輪車輪速センサSaRはこのような異常判定ができず、その異常を容易かつ精度良く判定することが困難であるため、第1低摩擦係数路面判定手段M1および第2低摩擦係数路面判定手段M2に入力される後輪車輪速は異常である可能性を含んでいる。
【0087】
以下に説明する制御は、後輪車輪速センサSaRの異常に対する対応である。
【0088】
図18のフローチャートのステップS111でシフトレンジセンサScにより検出したシフトレンジが「R」レンジである場合には、ステップS117に移行して後輪車輪速として後輪車輪速センサSaRが出力する後輪車輪速をそのまま使用する。その理由は、「R」レンジではもともとトランスミッションTの保護制御を行わないので、後輪車輪速が異常であっても支障がないからである。
【0089】
ステップS112でシフトレンジセンサScにより「R」レンジから「D」レンジに切り換えてから所定時間が経過したことが検出されると、ステップS118に移行して後輪車輪速センサSaRが出力する後輪車輪速を使用しない(図20参照)。その理由は、低摩擦係数路面で車両がスタックし、運転者が「R」レンジおよび「D」レンジ間でシフトレバーを頻繁に動かすことで車両を前後に揺さぶって脱出を試みるとき、「R」レンジから「D」レンジに切り換えてから所定時間が経過したということは、脱出に成功して頻繁なシフトレンジの切り換えが行われる可能性がなくなったと判定される。この状態で運転者が車両を走行させたときに、仮に故障した後輪車輪速センサSaRが出力する異常な後輪車輪速が使用されると、不必要なフュエルカットやシフトチェンジ制限が行われてドライバビリティが阻害されるからである。
【0090】
ステップS113でトランスミッション入力軸回転数センサSfの出力およびトランスミッション出力軸回転数センサSgの出力から算出したシフトポジションが2速から3速へのシフトチェンジされたことが検出されると、前記ステップS118に移行して後輪車輪速センサSaRが出力する後輪車輪速を使用しない。その理由は、2速から3速にシフトチェンジされたということは、車両がスタック状態を脱したと判定され.この状態で仮に異常な後輪車輪速が使用されると、不必要なフュエルカットやシフトチェンジ制限が行われてドライバビリティが阻害されるからである。
【0091】
前記ステップS112およびステップS113の答がNOの場合に、つまりシフトレンジが「R」レンジから「D」レンジに切り換えてから所定時間が経過しておらず、かつ2速から3速へのシフトチェンジが未だ行われていない場合には、基本的に正常であるか異常であるかが不明な後輪車輪速をそのまま使用する。その理由は、前記ステップS112およびステップS113の答がNOの場合には、車両が未だ発進直後の状態にあるため、仮に異常な後輪車輪速が使用されて低摩擦係数路面が誤判定され、不必要なフュエルカットやシフトチェンジ制限が行われても、ドライバビリティを阻害する虞が殆どないからである。
【0092】
とは言うものの、異常な後輪車輪速を使用することは可能な限り避けたいため、後輪車輪速センサSaRの異常が簡便な手法で判定された場合には、異常な後輪車輪速を使用しない制御が行われる。
【0093】
上述したように、後輪車輪速センサSaRが正常な値を出力しているか否かを精度良く判定することは困難であるため、ステップS114で後輪車輪速センサSaRが断線して出力が得られない等の単純な異常の判定を実行する。そして前記ステップS112で「R」レンジから「D」レンジに切り換えてから所定時間が経過しておらず、前記ステップS113で2速から3速へのシフトチェンジが行われたことが検出されない場合、前記ステップS114で後輪車輪速センサSaRが異常であれば、ステップS115でアクセル開度センサSdにより検出したアクセル開度が所定値未満になるまで、前記ステップS118に移行して後輪車輪速センサSaRが出力する後輪車輪速を使用しない。その理由は、後輪車輪速センサSaRの異常を一旦検出した後は、アクセル開度が所定値以上の加速中は前記判定結果を保持することで、後輪車輪速センサSaRの安定した異常検出を可能にするためである。
【0094】
前記ステップS114で後輪車輪速センサSaRが異常でない場合、あるいは異常であっても前記ステップS115でアクセル開度が所定値未満になった場合には、別の簡便な手法で後輪車輪速センサSaRの異常を検出する。即ち、ステップS116でトランスミッション出力軸回転数センサSgが出力するトランスミッションTの出力軸回転数から算出した前輪回転数と、左右の後輪車輪速センサSaRにより検出した左右の後輪車輪速の平均値との差分が所定値以上であれば、後輪車輪速センサSaRが異常であると判定し、前記ステップS118で後輪車輪速を使用せず、所定値未満であれば、後輪車輪速センサSaRが一応は異常でないと判定し、ステップS117で後輪車輪速を使用する。
【0095】
前記ステップS117で後輪車輪速を使用するとき、万一後輪車輪速が異常であって低摩擦係数路面が誤判定され、不必要なフュエルカットやシフトチェンジ制限が行われても、車両が未だ発進直後の状態にあるためにドライバビリティを阻害する虞はない。
【0096】
しかして、図19のフローチャートのステップS121で後輪車輪速を使用する場合には、ステップS122で右後輪車輪速センサSaRの出力VLVRRWをそのまま右後輪車輪速として使用し、ステップS123で左後輪車輪速センSaRの出力VLVRLWをそのまま左後輪車輪速として使用する。一方、前記ステップS121で後輪車輪速を使用しない場合には、ステップS124,S125でトランスミッション出力軸回転数センサSgが出力するトランスミッションTの出力軸回転数を算出から算出した前輪回転数VLVNCWを左右の後輪車輪速として代用する。
【0097】
以上のように、「R」レンジから「D」レンジに切り換えてから所定時間が経過しておらず、かつ2速から3速へのシフトチェンジが行われていない場合、つまり過剰なトルク入力に対するトランスミッションTの保護が必要な場面では、後輪車輪速センサSaRが異常である可能性があっても、その後輪車輪速センサSaRで検出した後輪車輪速を使用して低摩擦係数路面の判定を行い、それ以外のトランスミッションTの保護が必要でない場面では、後輪車輪速センサSaRで検出した後輪車輪速を使用せず、その代わりにトランスミッションTの出力軸の回転数を算出から算出した前輪回転数VLVNCWを左右の後輪車輪速として代用するので、トランスミッションTに過剰なトルクが入力して損傷の原因となるのを確実に防止しながら、誤った後輪車輪速に基づく低摩擦係数路面の誤判定によって不要なフュエルカットやシフトチェンジの制限が行われるのを阻止してドライバビリティを確保することができる。
【0098】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0099】
例えば、後輪車輪速を用いた低摩擦係数路面の判定手法は実施の形態に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0100】
E エンジン
M1 第1低摩擦係数路面判定手段(低摩擦係数路面判定手段)
M2 第2低摩擦係数路面判定手段(低摩擦係数路面判定手段)
M8 駆動力制御手段
SaR 後輪車輪速センサ
T トランスミッション
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン(E)およびトランスミッション(T)を備える車両が走行する路面の状態を判定し、判定した路面の状態に基づいて車両の駆動力を制御する駆動力制御手段(M8)を備える車両の駆動力制御装置において、
後輪車輪速を検出する後輪車輪速センサ(SaR)と、所定の条件が成立したときに、少なくとも前記後輪車輪速センサ(SaR)により検出された後輪車輪速を用いて低摩擦係数路面を判定する低摩擦係数路面判定手段(M1,M2)とを備え、
前記低摩擦係数路面判定手段(M1,M2)は、
(a)後輪車輪速センサ(SaR)が異常であること
(b)シフトレンジがリバースレンジからドライブレンジに操作されてから所定時間が経過したこと
(c)変速段が所定変速段以上になったこと
の各条件のうち、(a)の条件が成立した場合、あるいは(b)の条件および(c)の条件の少なくとも一方が成立した場合に、後輪車輪速を用いた低摩擦係数路面の判定を禁止することを特徴とする車両の駆動力制御装置。
【請求項2】
前記低摩擦係数路面判定手段(M1,M2)は、後輪車輪速を用いた低摩擦係数路面の判定が禁止された後に、アクセル開度が所定値未満になるまで低摩擦係数路面の判定禁止を継続することを特徴とする、請求項1に記載の車両の駆動力制御装置。
【請求項3】
前記低摩擦係数路面判定手段(M1,M2)は、後輪車輪速を用いた低摩擦係数路面の判定の実行中に、前記トランスミッション(T)の出力軸回転数から算出した前輪車輪速と、後輪車輪速センサ(SaR)で検出した左右の後輪車輪速の平均値との差分が閾値以上になった場合に、後輪車輪速を用いた低摩擦係数路面の判定を禁止することを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の車両の駆動力制御装置。
【請求項1】
エンジン(E)およびトランスミッション(T)を備える車両が走行する路面の状態を判定し、判定した路面の状態に基づいて車両の駆動力を制御する駆動力制御手段(M8)を備える車両の駆動力制御装置において、
後輪車輪速を検出する後輪車輪速センサ(SaR)と、所定の条件が成立したときに、少なくとも前記後輪車輪速センサ(SaR)により検出された後輪車輪速を用いて低摩擦係数路面を判定する低摩擦係数路面判定手段(M1,M2)とを備え、
前記低摩擦係数路面判定手段(M1,M2)は、
(a)後輪車輪速センサ(SaR)が異常であること
(b)シフトレンジがリバースレンジからドライブレンジに操作されてから所定時間が経過したこと
(c)変速段が所定変速段以上になったこと
の各条件のうち、(a)の条件が成立した場合、あるいは(b)の条件および(c)の条件の少なくとも一方が成立した場合に、後輪車輪速を用いた低摩擦係数路面の判定を禁止することを特徴とする車両の駆動力制御装置。
【請求項2】
前記低摩擦係数路面判定手段(M1,M2)は、後輪車輪速を用いた低摩擦係数路面の判定が禁止された後に、アクセル開度が所定値未満になるまで低摩擦係数路面の判定禁止を継続することを特徴とする、請求項1に記載の車両の駆動力制御装置。
【請求項3】
前記低摩擦係数路面判定手段(M1,M2)は、後輪車輪速を用いた低摩擦係数路面の判定の実行中に、前記トランスミッション(T)の出力軸回転数から算出した前輪車輪速と、後輪車輪速センサ(SaR)で検出した左右の後輪車輪速の平均値との差分が閾値以上になった場合に、後輪車輪速を用いた低摩擦係数路面の判定を禁止することを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の車両の駆動力制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2011−31828(P2011−31828A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−182207(P2009−182207)
【出願日】平成21年8月5日(2009.8.5)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年8月5日(2009.8.5)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
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