説明

車両制御システム

【課題】車両の走行中に適正に内燃機関を始動できることができる車両制御システムを提供することを目的とする。
【解決手段】車両制御システム1−1は、燃料を燃焼させて車両100の駆動輪4に作用させる動力を発生する内燃機関1と、駆動輪4から入力される動力を作動流体の圧力エネルギーに回生変換して蓄圧装置31に蓄えることが可能な圧力変換装置32と、車両100の減速走行中に駆動輪4からの動力によって内燃機関1の機関出力軸1aを回転駆動して当該内燃機関1を始動する際に、機関出力軸1aに生じるトルク変動に応じて、圧力変換装置32による回生変換量を制御する制御装置30とを備える。したがって、車両制御システム1−1は、車両100の走行中に適正に内燃機関を始動できることができる、という効果を奏する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の車両制御システムとして、蓄積したエネルギーを利用して車両を走行させる技術が提案されている。なお、種々の従来の車両制御システムとして、例えば、特許文献1には、車両の運動エネルギーを用いたクランキングにより、停止状態のエンジンを起動させる車両の駆動源制御装置が開示されている。この車両の駆動源制御装置は、エンジンのクランキング時に、車輪にもたらされるトルク変動を相殺するようモータへの指示トルクを加減することで、クランキング中に運動エネルギーがエンジンに伝達されることによるトルク変動と逆位相のトルクをモータに出力させ、合算トルクを一定化する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−120197号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、従来の車両制御システムは、例えば、入力される動力を作動流体の圧力エネルギーに回生変換して蓄圧装置に蓄えることが可能な車両において、走行中により適正に内燃機関(エンジン)を始動できることが望まれている。
【0005】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、車両の走行中に適正に内燃機関を始動できることができる車両制御システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係る車両制御システムは、燃料を燃焼させて車両の駆動輪に作用させる動力を発生する内燃機関と、前記駆動輪から入力される動力を作動流体の圧力エネルギーに回生変換して蓄圧装置に蓄えることが可能な圧力変換装置と、前記車両の減速走行中に前記駆動輪からの動力によって前記内燃機関の機関出力軸を回転駆動して当該内燃機関を始動する際に、前記機関出力軸に生じるトルク変動に応じて、前記圧力変換装置による回生変換量を制御する制御装置とを備えることを特徴とする。
【0007】
また、上記車両制御システムでは、前記制御装置は、前記圧力変換装置による回生変換量を制御して、前記内燃機関を始動する際に、前記機関出力軸に生じるトルク変動を相殺するものとすることができる。
【0008】
また、上記車両制御システムでは、前記内燃機関の動力を利用して発電し当該発電した電力を蓄電装置に蓄えることが可能な発電装置を備え、前記制御装置は、前記蓄電装置の蓄電量が予め設定される所定量以下となった場合に前記内燃機関を始動するものとすることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る車両制御システムは、車両の走行中に適正に内燃機関を始動できることができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、実施形態に係る車両制御システムが適用されるハイブリッド車両の概略構成図である。
【図2】図2は、実施形態に係る車両制御システムの油圧回生時のエネルギーフローを示す図である。
【図3】図3は、実施形態に係る車両制御システムのエンジン再始動時のエネルギーフローを示す図である。
【図4】図4は、実施形態に係る車両制御システムにおける制御の一例を示すフローチャートである。
【図5】図5は、実施形態に係る車両制御システムにおける制御の一例を示すタイムチャーである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明に係る実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、或いは実質的に同一のものが含まれる。
【0012】
[実施形態]
図1は、実施形態に係る車両制御システムが適用されるハイブリッド車両の概略構成図、図2は、実施形態に係る車両制御システムの油圧回生時のエネルギーフローを示す図、図3は、実施形態に係る車両制御システムのエンジン再始動時のエネルギーフローを示す図、図4は、実施形態に係る車両制御システムにおける制御の一例を示すフローチャート、図5は、実施形態に係る車両制御システムにおける制御の一例を示すタイムチャートである。
【0013】
本実施形態は、典型的には、車両に適用されるものであり、下記の構成要素を有している。
(1)エンジン。
(2)アキュームレータ、リザーブタンク、油圧ポンプモータ等からなる油圧回生システム。
(3)エンジンと連動して発電できるオルタネータ等の発電装置。
(4)車両の走行状態に応じて、エンジン停止と、クラッチによってエンジンと駆動軸とを分離できる機構。
(5)エンジン再始動による車両へのトルク変動を推定、又は、検出する装置。
(6)車両の運動エネルギーでエンジンをクランキングする機構。
(7)減速時の油圧回生中に、車両の運動エネルギーによってエンジンを始動する場合に油圧回生量を制御する装置。
【0014】
そして、本実施形態は、これらの構成要素によって、例えば、車両の減速エネルギーによるエンジン押しがけ可能な構成とする。本実施形態は、例えば、油圧回生ではエンジン停止中に発電できないため、バッテリー充電量が低下すると、エンジンを再始動させオルタネータ等で発電する必要が生じる。このときに、本実施形態は、車両の減速エネルギーによるエンジン押しがけ時に生じるショックを油圧回生量の制御により低減する。
【0015】
具体的には、本実施形態に係る車両制御システム1−1は、図1に示すように、油圧回生システムを用いたいわゆるハイブリッドシステムを構成し、例えば、ハイブリッド車両100に搭載される。ハイブリッド車両100は、油圧式の力行/回生装置(油圧ポンプモータ32)を備えている。本実施形態のハイブリッド車両100は、燃料を燃焼させてハイブリッド車両100の駆動輪4に作用させる動力を発生する内燃機関としてのエンジン1と、油圧エネルギーによりHV走行可能な油圧回生システム3とを組み合わせている。
【0016】
ハイブリッド車両100の車両制御システム1−1は、内燃機関としてのエンジン1、トランスミッション(T/M)2、油圧回生システム3、駆動輪4、発電装置としてのオルタネータ5、蓄電装置としてのバッテリー6、制御装置としてのECU30等を備えている。
【0017】
エンジン1は、ハイブリッド車両100の動力源である。エンジン1は、燃料を燃焼させて駆動輪4に作用させる動力を発生する。エンジン1は、燃料の燃焼エネルギーを機関出力軸としてのクランクシャフト1aの回転運動に変換して出力する。エンジン1のクランクシャフト1aは、T/M2の入力軸と接続されている。T/M2は、例えば、自動変速機であり、エンジン1から入力される動力を変速して変速機出力軸2aに出力する。T/M2の変速機出力軸2aは、第一クラッチC1を介して第一ギアG1に接続されている。第一ギアG1は、駆動軸等を介して駆動輪4と接続されている。
【0018】
油圧回生システム3は、入力される動力を作動流体の圧力エネルギーに変換して蓄えることができると共に、蓄えた圧力エネルギーを動力に変換して出力することができる。油圧回生システム3は、蓄圧装置としてのアキュームレータ31、油圧による駆動力の出力及び回生が可能な圧力変換装置としての油圧ポンプモータ32、リザーブタンク33等を有する。
【0019】
アキュームレータ31は、作動流体を加圧状態で蓄える。本実施形態の油圧回生システム3は、作動流体として例えば作動油を用いることができる。アキュームレータ31は、高圧の作動油を蓄えることが可能な蓄圧容器であり、高圧油路34を介して油圧ポンプモータ32と接続されている。アキュームレータ31は、油圧の蓄圧及び油圧ポンプモータ32への油圧の供給が可能である。油圧ポンプモータ32は、低圧油路35を介してリザーブタンク33と接続されている。リザーブタンク33は、作動油を貯留する貯留タンクである。油圧ポンプモータ32の回転軸32aは、第二クラッチC2を介して第二ギアG2と接続されている。
【0020】
油圧ポンプモータ32は、油圧ポンプとしての機能を有すると共に、油圧モータとしての機能も有している圧力変換装置である。油圧ポンプモータ32は、入力される動力を作動油の圧力エネルギーに変換してアキュームレータ31に蓄えること、及び、アキュームレータ31に蓄えられた圧力エネルギーを動力に変換してハイブリッド車両100の駆動輪4に対して出力することが可能である。油圧ポンプモータ32は、後述するように、例えば、駆動輪4から入力される動力を作動流体の圧力エネルギーに回生変換してアキュームレータ31に蓄えることが可能である。
【0021】
具体的には、油圧ポンプモータ32は、油圧ポンプとして機能する場合、第二クラッチC2を介して回転軸32aに入力される動力によって駆動されることにより、低圧油路35を介してリザーブタンク33の作動流体を吸引し、吸引した作動流体を加圧して高圧油路34に吐出する。高圧油路34に吐出された作動流体は、アキュームレータ31に蓄圧される。例えば、油圧ポンプモータ32は、ハイブリッド車両100の走行時に駆動輪4から伝達される動力を圧力に変換して出力することができる。つまり、油圧ポンプモータ32は、ハイブリッド車両100の運動エネルギーを作動油の圧力に回生変換して出力する圧力回生装置としての機能も有する。
【0022】
また、油圧ポンプモータ32は、油圧モータとして機能する場合、アキュームレータ31に蓄圧された油圧によって駆動されることにより、作動流体の圧力エネルギーを動力に変換して回転軸32aに出力する。油圧ポンプモータ32が出力する動力は、第二クラッチC2が係合状態である場合に、第二クラッチC2、第二ギアG2及び第一ギアG1を介して駆動輪4に伝達されてハイブリッド車両100を走行させることができる。つまり、油圧ポンプモータ32は、アキュームレータ31に蓄えられた圧力エネルギーをハイブリッド車両100の走行用の動力に変換して駆動輪4に対して出力することができる。このとき、油圧ポンプモータ32を駆動した作動油は、低圧油路35を介してリザーブタンク33に流入する。
【0023】
油圧ポンプモータ32は、油圧モータとして出力する動力の大きさ、及び油圧ポンプとして機能するときの負荷の大きさを可変に制御することができる。油圧ポンプモータ32は、例えば、斜板ポンプや斜軸ポンプ等の可変容量式のポンプモータとすることができる。油圧ポンプモータ32は、例えば、容量0から最大容量まで無段階にポンプ容量/モータ容量を制御できるものとすることができる。油圧ポンプモータ32は、ポンプ容量を増減させることによってポンプ負荷、すなわち負荷トルクを増減させることができる。また、油圧ポンプモータ32は、モータ容量を増減させることによって回転軸32aに出力する動力、すなわち出力トルクを増減させることができる。
【0024】
オルタネータ5は、エンジン1の動力を利用して発電し、発電した電力を、インバータなどを介して、ハイブリッド車両100の電気負荷に電力を供給すると共にバッテリー6に蓄えることが可能である。オルタネータ5は、例えば、プーリ、ベルト等を介してクランクシャフト1aに連結され、これにより、このクランクシャフト1aの回転に連動して駆動する。
【0025】
バッテリー6は、電力を蓄えること、及び、蓄えた電力を放電することが可能な蓄電装置である。
【0026】
なお、この車両制御システム1−1は、上述した第一ギアG1と第二ギアG2とが常時噛み合っており、相互に動力を伝達することができる。
【0027】
ECU30は、コンピュータを有する電子制御ユニットである。ECU30は、ハイブリッド車両100の走行制御を行う走行制御装置としての機能を有している。また、本実施形態のECU30は、回生制御を行う回生制御装置としての機能を有している。ECU30は、エンジン1、T/M2、アキュームレータ31、油圧ポンプモータ32、オルタネータ5、バッテリー6及び各クラッチC1,C2等が電気的に、あるいは、油圧制御装置等を介して接続されている。エンジン1、T/M2、アキュームレータ31、油圧ポンプモータ32、オルタネータ5、バッテリー6及び各クラッチC1,C2は、ECU30によって制御される。
【0028】
バッテリー6は、バッテリー6の充放電状態や電圧等を検出する充電状態検出器30aが接続されている。ECU30は、この充電状態検出器30aによる検出結果に基づいて、バッテリー6の充電状態SOCやバッテリー温度を取得することができる。充電状態SOCは、バッテリー6の蓄電量(以下、「充電量」ということもある。)等に応じたパラメータである。エンジン1は、エンジン1の状態を検出するエンジン状態検出装置30bが設けられている。エンジン状態検出装置30bは、エンジン水温、エンジン回転数、スロットル開度等を検出する種々のセンサ等を含んで構成される。ECU30は、エンジン状態検出装置30bによる検出結果に基づいて、エンジン1の状態に関する情報を取得することができる。また、この車両制御システム1−1は、運転者によるブレーキペダルの操作量(ブレーキ操作量)を検出するブレーキセンサ30cが設けられている。ECU30は、ブレーキセンサ30cによる検出結果に基づいて、ブレーキペダルの操作量を取得することができる。このブレーキペダルの操作量は、例えば、ブレーキペダルのペダル踏力であり、典型的には、運転者がハイブリッド車両100に要求する制動要求操作の操作量に応じた値に相当し、さらに言えば、運転者が要求する要求減速度に応じた値に相当する。
【0029】
各クラッチC1,C2は、それぞれ開放状態と係合状態とに切替え可能である。各クラッチC1,C2は、油圧等によって開放状態と係合状態とを切替えるアクチュエータをそれぞれ有している。この車両制御システム1−1は、これらのアクチュエータがECU30から出力される指令に応じて作動することにより、各クラッチC1,C2の状態が制御される。なお、各クラッチC1,C2は、完全係合状態のみならず、半係合状態に制御することも可能であり、更に、半係合状態における動力の伝達度合いを制御することも可能である。
【0030】
ECU30は、エンジン1、油圧回生システム3の少なくともいずれか1つが出力する動力によってハイブリッド車両100を走行させることができる。例えば、ECU30は、少なくともエンジン1の動力によってハイブリッド車両100を走行させるエンジン走行を実行することができる。ECU30は、エンジン1が出力する動力を駆動輪4に出力する場合、第一クラッチC1を係合状態とする。また、ECU30は、エンジン走行において、シフトポジションや走行状態に応じてT/M2の変速比を制御する。
【0031】
ECU30は、エンジン走行において、油圧回生システム3が出力する動力を駆動輪4に伝達してハイブリッド車両100を走行させることもできる。ECU30は、例えば、ハイブリッド車両100の加速時等にエンジン1のトルクが不足する場合に、油圧回生システム3にエンジン1をアシストさせる。
【0032】
例えば、ECU30は、油圧回生システム3によって動力を出力させる場合、第二クラッチC2を係合状態とすると共に、アキュームレータ31に蓄圧された油圧によって油圧ポンプモータ32を駆動する。アキュームレータ31内の加圧された作動流体は、油圧ポンプモータ32に供給され、油圧ポンプモータ32を駆動して回転軸32aを回転させる。つまり、この車両制御システム1−1は、油圧ポンプモータ32において、油圧エネルギーが回転軸32aの回転動作に変換される。回転軸32aに出力された動力は、第二クラッチC2、第二ギアG2及び第一ギアG1を介して駆動輪4に伝達される。
【0033】
また、油圧回生システム3は、エンジン1の動力によらずに単独でハイブリッド車両100を走行させることが可能である。この場合、ECU30は、エンジン1を停止(燃料の燃焼を停止し動力を出力しない状態)し第一クラッチC1を開放状態とし、かつ第二クラッチC2を係合状態として、エンジン1の動力によらずに油圧回生システム3が出力する動力によってハイブリッド車両100を走行させる油圧走行を実行することができる。
【0034】
ECU30は、車速及びアクセル開度などの条件に基づいて、駆動輪4に伝達するべき要求トルクあるいは要求駆動力を算出し、その算出結果に基づいて、エンジン1、T/M2、油圧回生システム3及びクラッチC1,C2を制御する。要求トルクや要求駆動力は、ハイブリッド車両100の走行負荷に対応する。
【0035】
また、ECU30は、ハイブリッド車両100の減速走行時に回生制御を行うことができる。回生制御は、例えば、ハイブリッド車両100において制動要求が検出されている場合になされる。本実施形態のハイブリッド車両100は、油圧回生システム3によって油圧回生を行うことができる。
【0036】
例えば、ECU30は、図2の減速走行時の運動エネルギーの流れを示す図に例示するように、油圧回生システム3に回生蓄圧を行わせる場合、エンジン1を停止し、第一クラッチC1を開放状態とし、第二クラッチC2を係合状態とし、かつ油圧ポンプモータ32を油圧ポンプとして作動させる。この結果、この車両制御システム1−1は、駆動輪4からの動力が第一ギアG1、第二ギアG2及び第二クラッチC2を介して油圧ポンプモータ32に伝達され、油圧ポンプモータ32を油圧ポンプとして作動させる。これにより、油圧ポンプモータ32は、駆動輪4から入力される動力を作動圧の圧力エネルギーに回生変換してアキュームレータ31に蓄える。
【0037】
上記のように、車両制御システム1−1は、走行中に油圧ポンプモータ32による回生を行ってアキュームレータ31に油圧を蓄圧しておくことで、油圧によるアシストや油圧走行が可能となり、走行性能を向上できる。
【0038】
そして、本実施形態のECU30は、ハイブリッド車両100の減速走行中に駆動輪4からの動力によってエンジン1のクランクシャフト1aを回転駆動して、エンジン1を始動する際に、クランクシャフト1aに生じるトルク変動に応じて、油圧ポンプモータ32による回生変換量を制御することで、ハイブリッド車両100の走行中に適正にエンジン1を始動できるようにしている。
【0039】
例えば、この車両制御システム1−1では、油圧回生システム3によって油圧回生を行う際には、基本的にはエンジン1を停止した状態としている。このため、この車両制御システム1−1は、油圧回生システム3による油圧回生中においては、エンジン1での燃料の燃焼が停止されエンジン1が動力を出力しない状態となることから、エンジン1の動力を利用して発電するオルタネータ5での発電も停止した状態となる。そして、ECU30は、例えば、このようにオルタネータ5での発電を停止した状態で、バッテリー6の蓄電量が予め設定される所定量以下となった場合に、オルタネータ5で発電する必要が生じるため、エンジン1を再始動する。ここで、バッテリー6の蓄電量に対して予め設定される所定量は、例えば、バッテリー6の仕様、電気負荷等に応じて予め設定される。
【0040】
この場合、ECU30は、図3の減速走行時の運動エネルギーの流れを示す図に例示するように、駆動輪4からの動力を油圧ポンプモータ32に伝達して油圧回生システム3による油圧回生を行って減速走行中のハイブリッド車両100の運動エネルギー(減速エネルギー)を圧力エネルギーに回生変換する。そしてさらに、ECU30は、第一クラッチC1も係合状態とし、駆動輪4からの動力をエンジン1のクランクシャフト1aに伝達し、スタータ(不図示)等によるクランキングによらずに、減速走行中のハイブリッド車両100の運動エネルギーを利用してクランクシャフト1aをクランキングしファイアリングを開始してエンジン1を再始動させる。すなわち、ECU30は、減速走行中のハイブリッド車両100の運動エネルギーを利用してクランクシャフト1aを回転駆動していわゆる押しがけによりエンジン1を再始動する。
【0041】
この結果、この車両制御システム1−1は、エンジン1が再始動すると、クランクシャフト1aの回転に連動してオルタネータ5が発電を開始する。そして、車両制御システム1−1は、オルタネータ5が発電した電力を、ハイブリッド車両100の電気負荷に電力を供給すると共にバッテリー6に蓄えることが可能となり、例えば、種々の補機を適正に駆動させることができるようになる。
【0042】
そしてこのとき、ECU30は、クランクシャフト1aに生じるトルク変動に応じて、油圧ポンプモータ32による回生変換量を制御する。典型的には、ECU30は、エンジン1を始動する際に、上記のような押しがけによって、クランクシャフト1aに生じるトルク変動を推定、又は、検出し、油圧ポンプモータ32による回生変換量を制御して、このトルク変動に応じた回生変換量とし、トルク変動を相殺する。
【0043】
すなわち、ECU30は、押しがけによるクランキング中に運動エネルギーがエンジン1に伝達されることによるトルク変動と逆位相の油圧回生トルクを油圧ポンプモータ32に出力させることで、押しがけ時に第一クラッチC1を係合状態とすることにより駆動輪4に作用するトルク変動を低減することができる。言い換えれば、車両制御システム1−1は、減速走行中のハイブリッド車両100の運動エネルギーを利用してクランクシャフト1aを回転駆動して押しがけによりエンジン1を再始動することで損失するエネルギーを、油圧ポンプモータ32による回生変換量を調節し油圧回生トルクを調節することで補償することができ、結果として、駆動輪4に作用するトルク変動を低減することができる。
【0044】
この結果、この車両制御システム1−1は、油圧ポンプモータ32による油圧回生トルクを、エンジン1の押しがけによるトルク変動に応じてこのトルク変動を相殺する大きさに合わせることにより、エンジン1の再始動時のショックを低減することができる。つまり、車両制御システム1−1は、エンジン1の停止中に発電できないシステムにおいて、減速時の油圧回生中にバッテリー6の蓄電量(充電量)の低下による発電のためのエンジン1の再始動要求に対して、押しがけ時のエンジン再始動による負荷増加に伴うショックを低減することができる。例えば、車両制御システム1−1は、加速時に要求駆動力に対して、油圧回生システム3による油圧駆動力では駆動力が不足する場合に限らず、減速中に電力不足になるとエンジン再始動が行われる場合があるが、このように減速中にエンジン再始動され、回生が行われる状況であっても、適正にエンジン1を再始動して対応することが可能となる。
【0045】
次に、図4のフローチャートを参照してECU30による油圧回生制御の一例を説明する。なお、これらの制御ルーチンは、数msないし数十ms毎の制御周期で繰り返し実行される。
【0046】
まず、ECU30は、ブレーキセンサ30cが検出したブレーキペダルの操作量や車両制御の状態等に基づいて要求減速度を算出する(ST1)。
【0047】
次に、ECU30は、第二クラッチC2を係合状態とし、ST1で算出した要求減速度に基づいて、油圧回生量(回生変換量)を算出して、算出した油圧回生量に基づいて、油圧ポンプモータ32による油圧回生量を制御する(ST2)。
【0048】
次に、ECU30は、エンジン再始動要求があるか否かを判定する(ST3)。例えば、ECU30は、充電状態検出器30aの検出結果に基づいてバッテリー6の蓄電量等に応じたパラメータである充電状態SOCを取得し、バッテリー6の蓄電量が予め設定される所定量以下となったか否かを判定する。この場合、ECU30は、バッテリー6の蓄電量が所定量以下となったと判定した場合にエンジン再始動要求があると判定する一方、蓄電量が所定量より大きいと判定した場合にエンジン再始動要求がないと判定する。
【0049】
ECU30は、エンジン再始動要求があると判定した場合(ST3:Yes)、第一クラッチC1を係合状態とすると共に、押しがけによるエンジン再始動のためにクランクシャフト1aに生じるトルク変動に応じて、油圧ポンプモータ32による回生変換量を制御する(ST4)。ECU30は、エンジン再始動に際して第一クラッチC1を係合状態とすることによって生じるフリクショントルクやクランキングトルクによる減速トルクの増減、これに応じたトルク変動に対して、油圧ポンプモータ32による回生変換量を制御して油圧回生トルクを調節してこれを相殺する。
【0050】
ここで、ECU30は、種々の手法を用いてクランクシャフト1aに生じるトルク変動をする推定することができる。ECU30は、例えば、エンジン状態検出装置30bの検出結果に基づいてエンジン水温、エンジン回転数、スロットル開度等を取得し、取得したエンジン水温、エンジン回転数、スロットル開度と不図示のエンジンフリクショントルクマップとからエンジンフリクショントルクを算出する。そして、ECU30は、クランクシャフト1aの回転速度の微分値(すなわち、回転加速速度)と慣性質量とに基づいたトルクを算出し、当該算出したトルク、上記のエンジンフリクショントルク、予め計測されたエンジンクランキング始動時のトルク変動パターン等に基づいて、クランクシャフト1aに生じるトルク変動をする推定することができる。また、ECU30は、エンジントルクセンサを設けて、このエンジントルクセンサの検出結果に基づいて、クランクシャフト1aに生じるトルク変動をする推定することもできる。
【0051】
そして、ECU30は、押しがけによるエンジン再始動のためにクランクシャフト1aに生じるトルク変動に応じて油圧ポンプモータ32による回生変換量を制御した後、エンジン1の燃焼室への燃料の供給を再開しエンジン1を再始動する(ST5)。
【0052】
その後、ECU30は、ハイブリッド車両100に作用する加速度が0より大きいか否かを判定し(ST6)、加速度が0より大きいと判定した場合(ST6:Yes)、今回の制御周期を終了し、次回の制御周期に移行する。ECU30は、加速度が0以下である、すなわち、減速中であると判定した場合(ST6:No)、ST1に戻って以降の処理を繰り返し実行する。
【0053】
ECU30は、ST3にて、エンジン再始動要求がないと判定した場合(ST3:No)、ST4、ST5の処理を飛ばしてST6の処理に移行して、以降の処理を行う。
【0054】
次に、図5のタイムチャートを参照してECU30による油圧回生制御の一例を説明する。この図5は、横軸を時間軸、縦軸を車速、第1クラッチC1の状態、エンジン回転数、車両がエンジン1に加えるトルク、油圧回生トルク、車両が油圧回生とエンジン1に加えるトルク、バッテリー6の充電量(蓄電量)としている。ここで、車両がエンジン1に加えるトルクは、減速走行中のハイブリッド車両100の運動エネルギーを利用してエンジン1を押しがけする際にクランクシャフト1aに生じるトルクに相当する。
【0055】
車両制御システム1−1は、ハイブリッド車両100の減速走行中にエンジン1が停止され、第一クラッチC1が開放状態、第二クラッチC2が係合状態とされ、かつ油圧ポンプモータ32が油圧ポンプとして作動することで、この油圧ポンプモータ32が駆動輪4から入力される動力を作動流体の圧力エネルギーに回生変換し、これに応じた油圧回生トルクが発生する。
【0056】
そして、車両制御システム1−1は、時刻t1にてバッテリー6の充電量が低下し予め設定される所定量Thとなると、エンジン再始動要求が発生し、第一クラッチC1も係合状態とされる。これにより、車両制御システム1−1は、図5中に囲み線Aに示すように、減速走行中のハイブリッド車両100の運動エネルギーによってクランクシャフト1aがクランキングされ、クランクシャフト1aにトルク変動が生じる。そして、車両制御システム1−1は、図5中に囲み線Bに示すように、押しがけによるクランキング中に運動エネルギーがエンジン1に伝達されることによるトルク変動に応じて油圧ポンプモータ32による回生変換量が調節され、このトルク変動と逆位相の油圧回生トルクを油圧ポンプモータ32に出力させ、トルク変動を相殺するためのトルクに応じて回生変換量を低下、増加させる。この結果、車両制御システム1−1は、エンジン1の再始動時のショックを低減することができる。
【0057】
以上で説明した実施形態に係る車両制御システム1−1によれば、燃料を燃焼させてハイブリッド車両100の駆動輪4に作用させる動力を発生するエンジン1と、駆動輪4から入力される動力を作動流体の圧力エネルギーに回生変換してアキュームレータ31に蓄えることが可能な油圧ポンプモータ32と、ハイブリッド車両100の減速走行中に駆動輪4からの動力によってエンジン1のクランクシャフト1aを回転駆動してエンジン1を始動する際に、クランクシャフト1aに生じるトルク変動に応じて、油圧ポンプモータ32による回生変換量を制御するECU30とを備える。したがって、車両制御システム1−1は、エンジン1の再始動時のショックを低減することができ、ハイブリッド車両100の走行中に適正にエンジン1を始動できることができる。
【0058】
なお、上述した本発明の実施形態に係る車両制御システムは、上述した実施形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された範囲で種々の変更が可能である。
【0059】
以上で説明した油圧回生システム3は、図示したものには限定されない。油圧回生システム3は、駆動輪4から入力される動力を作動流体の圧力エネルギーに回生変換して蓄圧装置に蓄えることが可能な圧力変換装置を含んで構成されるものであればよい。
【0060】
以上の説明では、制御装置は、車両の走行中に蓄電装置の蓄電量が予め設定される所定量以下となった場合に内燃機関を始動するものとして説明したが、車両の走行中に内燃機関を始動するのはこの場合だけに限られない。
【符号の説明】
【0061】
1−1 車両制御システム
1 エンジン(内燃機関)
1a クランクシャフト(機関出力軸)
2 T/M
3 油圧回生システム
4 駆動輪
5 オルタネータ(発電装置)
6 バッテリー(蓄電装置)
31 アキュームレータ(蓄圧装置)
32 油圧ポンプモータ(圧力変換装置)
33 リザーブタンク
100 ハイブリッド車両(車両)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料を燃焼させて車両の駆動輪に作用させる動力を発生する内燃機関と、
前記駆動輪から入力される動力を作動流体の圧力エネルギーに回生変換して蓄圧装置に蓄えることが可能な圧力変換装置と、
前記車両の減速走行中に前記駆動輪からの動力によって前記内燃機関の機関出力軸を回転駆動して当該内燃機関を始動する際に、前記機関出力軸に生じるトルク変動に応じて、前記圧力変換装置による回生変換量を制御する制御装置とを備えることを特徴とする、
車両制御システム。
【請求項2】
前記制御装置は、前記圧力変換装置による回生変換量を制御して、前記内燃機関を始動する際に、前記機関出力軸に生じるトルク変動を相殺する、
請求項1に記載の車両制御システム。
【請求項3】
前記内燃機関の動力を利用して発電し当該発電した電力を蓄電装置に蓄えることが可能な発電装置を備え、
前記制御装置は、前記蓄電装置の蓄電量が予め設定される所定量以下となった場合に前記内燃機関を始動する、
請求項1又は請求項2に記載の車両制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−236498(P2012−236498A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−106607(P2011−106607)
【出願日】平成23年5月11日(2011.5.11)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】