説明

車両制御装置および車両制御方法

【課題】歩車道分離ブロックが不連続に並んでいる道路境界付近において連続して道路逸脱操作をする場合にも、制御入力に不連続を発生しないで、不要な車両挙動の発生をしないこと。
【解決手段】自車両の周辺に存在する障害物の大きさ並びに前記自車両に対する相対位置及び相対速度を検出500し、検出した複数の障害物から結合対象の組を決定501し、仮想的に結合する判断基準となる障害物結合長さを設定502し、判断基準により仮想結合の実施を判定503し、仮想結合する判定された組に対して隙間位置の補間処理504を実施し、衝突を回避する制御対象が存在するかを探索505し、回避制御対象の位置情報に基づいて障害物を回避するヨーモーメントを計算506する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載された障害物検出装置を用いることで走行領域中の立体物を検出して当該立体物への衝突を回避する車両制御装置および車両制御方法である。
【背景技術】
【0002】
自動車の安全運転を確保するために運転者に警報を与えたり、操作支援を行ったりするASV(Advanced Safety Vehicle:先進安全自動車)に関する技術開発が、従来から進められて来ている。特に自動車の道路逸脱を防止するには、歩車道分離ブロック、ガードレール、生垣等の道路境界に相当する立体物、あるいは車線等を検出し、検出結果に応じて自車両を制御する必要がある。道路境界に相当する立体物は、例えば、駐車場への進入口、分岐路のように車両が進入可能な間隔で並ぶものもあれば、歩行者のみ進入可能な間隔で並ぶものもあるように、様々の間隔で分離して並んでいる。
【0003】
道路からの逸脱を防止する際には、分離した立体物に対して、連続した逸脱防止制御を行うが、駐車場や分岐路に進入するような場合には、逸脱防止制御を行わないようにする必要がある。
【0004】
境界位置検出としては、車両に搭載されたカメラやレーザスキャナから得られる画像や距離測定データ(測距データ)に基づき、車線や道路境界に相当する立体物の検出を行う技術が、例えば特許文献1に記載されている。
【0005】
また、逸脱防止制御としては、自車両が走行車線を逸脱する可能性がある場合に、車輪への制動力を制御することにより自車両にヨーモーメントを与えて、自車両が走行車線から逸脱するのを防止する技術が、例えば特許文献2に記載されている。また、走行領域に存在する駐車車両等の路肩の障害物の位置に応じて、自車両に与えるヨーモーメントを調整することにより、道路からの逸脱を防止する技術が、例えば特許文献3に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−213138号公報
【特許文献2】特開2000−33860号公報
【特許文献3】特開2005−324782号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の従来技術では、進行方向に互いに分離した複数の道路境界に相当する立体物を単体として判断しているので、例えば歩車道分離ブロックが不連続に並んでいる道路境界付近において連続して道路逸脱操作をした場合に、歩車道分離ブロックの隙間部分で制御入力が弱まる等の不連続が発生する危惧がある。制御入力に不連続が発生すると、不要な車両挙動が発生し、安全性の低下や操作支援に対する不快感の増加につながるという問題点がある。
【0008】
本発明は、上記の問題点の解決を課題としてなされたものであり、互いに分離した複数の障害物と自車両との相対関係に基づいて、障害物同士を仮想的に結合することにより、安定した道路逸脱防止を可能とする車両制御装置および車両制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、本発明は、自車両が障害物に近づいたとき該障害物に接触しないように車両挙動を制御する車両制御装置において、自車両の周辺に存在する障害物の大きさ並びに自車両に対する相対位置及び相対速度を検出する障害物検出手段と、自車両の運動状態を検出する車両運動検出手段と、障害物検出手段が検出した複数の障害物を仮想的に結合して一つの障害物として認識する障害物仮想結合手段と、を備え、障害物仮想結合手段は、相対位置及び相対速度の大きさに基づいて複数の障害物の結合を判断し実行する構成とする。
【0010】
また、上記構成に加えて、障害物仮想結合手段が、障害物同士を結合する判断基準となる障害物結合長さを設定する障害物結合長さ設定手段を備えて、複数の障害物の間隔が障害物結合長さより短い場合に、複数の障害物の結合を実行すること、更に、車両運動検出手段から検出された運動状態に基づいて自車両の進行経路を推定する進行経路推定手段を備えて、推定された進行経路と障害物検出手段が検出した障害物の相対位置に応じて仮想的に結合する障害物の組を選択すること、更に、障害物仮想結合手段は、自車両から所定距離より遠くに存在する障害物と、所定距離より近くに存在する障害物とを、進行経路に対して左領域及び右領域からそれぞれ1組を選択し、これらを障害物の組として仮想的に結合する構成とする。
【0011】
また、障害物検出手段及び障害物仮想結合手段によって得られた障害物及び自車両の相対関係に基づいて、障害物を回避するのに必要なヨーモーメント制御量を算出する車両制御決定手段を有し、車両制御決定手段は、自車両から進行経路に沿って所定距離内に障害物又は仮想的に結合された障害物が存在する場合、障害物を回避制御対象と判断し、回避制御対象を回避するのに必要なヨーモーメント制御量を算出する構成とする。
【0012】
また、自車両が障害物に近づいたとき該障害物に接触しないように車両挙動を制御する車両制御方法において、自車両の周辺に存在する障害物の大きさ並びに自車両に対する相対位置及び相対速度を検出し、自車両の運動状態を検出し、検出された複数の障害物を仮想的に結合して一つの障害物として認識し、検出された相対位置及び相対速度の大きさに基づいて複数の障害物の結合を判断し実行する構成とする。
【発明の効果】
【0013】
様々の間隔で分離して並んだ障害物に対して、自車両との相対関係に基づいて、二つの障害物を仮想的に結合の可否を適宜行うことにより、道路逸脱防止制御において、制御入力に不連続を発生して不安定な車両挙動を生ずることを防止し、安定的で快適な運転を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例に係る車両制御装置のブロック構成を示す。
【図2】実施例に係る車両制御方法のフローチャートを示す。
【図3】実施例に係る装置又は方法が適用される走行シーンの一例を示す。
【図4】図3の走行シーンを走行する際に測域センサから得られた障害物の測距データの分布を示す。
【図5】図3の走行シーンの自車線を直進する際の仮想結合対象の決定例を示す。
【図6】図3の走行シーン中の分岐路に曲がる際の仮想結合対象の決定例を示す。
【図7】相対速度に対する障害物結合長さを与える関数の一例を示す。
【図8】図5において第1の方法で選択された仮想結合対象の拡大図を示す。
【図9】図5において第2の方法で選択された仮想結合対象の拡大図を示す。
【図10】図6において第1の方法で決定された仮想結合対象に向けて自車両が曲がる例を拡大して示す。
【図11】自車両位置から左側の分岐路に進んだ際の測距データの分布を示す。
【図12】図11に示された前方注視位置301付近とずれ量εを拡大して示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(実施例)
本発明の実施例について、図を参照しながら以下詳細に説明する。
図1は、本発明に係る車両制御装置のブロック構成を示す。車両制御装置100は、自車両の運動状態を検出する車両運動検出手段101と、検出された運動状態に基づいて進行経路を推定する進行経路推定手段102を備え、また、自車両周辺の障害物の位置と速度と大きさを検出する障害物検出手段103を備え、更に、進行経路推定手段102が推定した進行経路に基づいて障害物検出手段103が検出した分離した障害物同士を仮想的に結合する障害物仮想結合手段104と、得られた障害物の位置に基づいて障害物を回避するのに必要な制御量を決定する車両制御決定手段105を備える。
【0016】
次に、車両運動検出手段101と進行経路推定手段102について説明する。車両運動検出手段101は、車両運動に関する物理量を検出する手段であって、自車両の前後左右4輪の回転速度ωi(i=fl,fr,rl,rr)を検出する車輪速度センサとステアリングホイールの操舵角δを検出する操舵角センサから構成されている。なお、ωflは前輪左側、ωfrは前輪右側、ωrlは後輪左側、ωrrは後輪左側の回転速度を示す。
【0017】
また、運転者の方向指示操作を検出する方向指示器も含まれる。自車両の車速Vを算出するには、下記の(1)式を用いるのがよい。なお、タイヤ半径をrwとする。
【0018】
前輪駆動の場合

【0019】
後輪駆動の場合

【0020】
進行経路推定手段102は、車両運動検出手段101から得られた運動状態に基づいて進行経路を推定する手段であり、ここでは、車両運動検出手段101から得られる操舵角δと車速Vから車両運動モデルに則り推定する。
【0021】
進行経路を推定する区間は、測域センサの検知領域内とする。自車両から距離Lg離れた進行経路地点を前方注視位置とし、距離Lgを前方注視距離とする。前方注視位置は、詳しくは後述する自車両の道路逸脱を防止する制御の判断に使用される位置であり、例えば次式で計算される。
【0022】

【0023】

【0024】

【0025】

【0026】
ここで、Xpは前方注視位置のX座標値、Zpは前方注視位置のZ座標値である。ここで、座標系は、図4に示すように、自車両300の重心を原点とし、自車両300の進行方向をZ軸、車幅方向をX軸、高さ方向をY軸とした車両座標系である。また、Tは前方注視時間であり、実験的に決められるが、一般的に1.0〜3.0[sec]の値に設定される。Φは前方注視時間後の自車両のヨー角であり、式(5)で計算される。rはヨーレートであり、車速Vと操舵角δから式(6)により求められる。なお、式(6)のmは自車両重量、lはホイールベース、lfは車両重心から前方車軸までの長さ、lrは車両重心から後方車軸までの長さ、Kfは前輪コーナリングパワー、Krは後輪コーナリングパワー、n はステアリング比であり、これらの値はメモリに保存されている。
【0027】
次に、障害物検出手段103、障害物仮想結合手段104、車両制御決定手段105について、図2に示す実施例の処理のフローに沿って説明する。
【0028】
処理ステップ500における障害物の検出は、障害物検出手段103によって行われる。障害物検出手段103は、自車両に設置された測域センサから得られる測距データに基づいて道路境界付近に存在する立体的な障害物の相対位置と相対速度と大きさとを検出する。この道路境界に存在する立体物としては、歩車道分離ブロックやガードレール、壁、標識、信号柱等の設置物、更に停止車両等である。
【0029】
また、測域センサとしては、画像センサ、TOF(Time Of Flight)式レーザスキャナ、ミリ波レーダ、超音波センサ等のセンサが一般的に使用される。画像センサは、一般的に同期した2台以上からなる構成で使用され、視野の重なった画像中の環境を三角測量の原理に基づいて測距する。例えば2台の画像センサからなるステレオ式画像センサが一般的によく使用される。
【0030】
画像センサやレーザスキャナには、CCD、CMOS等の短波長域に感度のある受光素子が用いられ、ミリ波レーダや超音波センサに対して空間分解能が高いことが特徴的である。それゆえ、複雑な形状になることが予想される道路境界の立体物を検出する場合には、2台以上からなる画像センサやレーザスキャナを使用するのがよい。
【0031】
図3、図4は、障害物検出手段103により障害物を検出する例を示す。測域センサとして、ステレオ式画像センサを用いる。図3は自車両のフロントウィンドウの内側に設置されたステレオ式画像センサで走行路を撮像した画像である。自車は、自車線205と対向車線206の2車線からなる道路の左側の直線路を走行しており、自車線205の道路境界には、歩車道分離ブロックである障害物201、202、203が互いに分離した状態で設置されている。また、対向車線206の道路境界にはガードレールである障害物204が設置されている。障害物201と障害物202の間には、左に向かう分岐路200がある。
【0032】
図4は、自車両が自車線205に沿って前方に走行する際に、測域センサが検出した障害物検出結果を示す。図4において、黒点は測距データ120であり、測域センサから得られた障害物の測距位置を示している。太い矢印は、進行経路推定手段102によって推定された自車両300の進行経路310を示す。四角の点線で囲まれた黒点は、測距データ120であり、検出された障害物を示す。ここでは、進行経路310の左側に障害物201,202,203が存在し、右側に障害物204が存在することが示されている。
【0033】
障害物の相対位置と大きさは、測距データ120の分布形状から推定することができる。測域センサは、予め決定されたサンプリング時間Δt毎に測距データを出力するので、相対速度はサンプリング時間Δt以前に検出した障害物の相対位置とから推定される。検出された障害物の「相対位置」、「相対速度」、「大きさ」に加えて、「ID番号」、「仮想結合相手ID番号」、「仮想結合決定方法の種類」、「仮想結合位置」、「補間モデルパラメータ」が属性データとして保存される。属性データは、車両制御装置に搭載されたメモリに保存され、必要に応じて読み出される。属性データは、該当する障害物が測域センサの視野から消えるまでの期間、あるいは障害物が検出されてから所定期間保持される。
【0034】
なお、本発明は、測域センサの種類に限定されるものではないので、測域センサの種類は、走行環境の障害物を検出することのできるセンサであれば何でもよい。以上により、ステップ500において障害物が検出される。
【0035】
次に、ステップ501からステップ505において、仮想結合の一連の処理が行われる。この処理は、障害物仮想結合手段104によって行われる。まず、ステップ501において、仮想結合を行う仮想結合対象の決定を行う。この結合対象を決定する方法としては、次の二つの方法がある。
【0036】
第1の方法は、進行経路の左右領域に存在する障害物において、前方注視距離より近傍側と遠方側にそれぞれ分離して存在する障害物の組を、仮想結合対象とする方法である。これにより、進行方向に沿って並んだ複数の障害物の仮想結合が可能となり、自車両が急に進行方向を変えた場合にも、仮想結合した領域に対する前方注視位置のずれ量を検出できるため逸脱防止制御が可能となる。なお、ずれ量と逸脱防止制御については、後述する車両制御決定手段105に関連して説明する。
【0037】
第2の方法は、進行経路の左右領域に存在する障害物において、前方注視距離より遠方に存在し、進行経路に対して障害物同士の間隔が最も短くなる左領域の障害物と右領域の障害物との組を仮想結合対象とする方法である。ここで、間隔の近い組が複数存在する場合は、自車両に最も近い組を対象とする。これにより、進行方向に通過困難な間隔で配置された障害物の仮想結合が可能となり、仮想結合した領域に対する前方注視位置のずれ量を検出できるため逸脱防止制御が可能となる。
【0038】
以上の二つの方法において、障害物同士の間隔は、各障害物に属する全ての測距データの組み合わせから、最短距離となる測距データの組み合わせを探索することにより求める。求められた測距データの組み合わせは、後にステップ504における隙間位置の補間で使用するため、メモリに保存する。
【0039】
図5、図6は、上述した仮想結合対象の決定の例を示す。図5は、自車両300が自車線205を前方に向かって走行している際の障害物検知結果を示す。図中の前方注視距離Lgを半径とする境界円302の内側に存在する障害物201と外側に存在する障害物202は、進行経路310の左側における第1の方法による仮想結合対象となる。進行経路310の右側には第1の方法による仮想結合対象は存在しない。また、境界円302の外側において、進行経路310に対して最も間隔の短い障害物の組である障害物202と障害物204は、第2の方法による仮想結合対象となる。
【0040】
図6は、左に曲がる進行経路310が示すように、自車両300が自車線205から分岐路200に向かって左折する際の障害物検知結果を示す。ここでは、前方注視距離Lgを半径とする境界円302の内側に障害物が存在しないので、第1の方法による仮想結合対象は存在しない。また、境界円302の外側において、進行経路310について最も距離が短い障害物の組である障害物201と障害物202は、第2の方法による仮想結合対象となる。
【0041】
以上の二つの例で示したように、ステップ501において、二つの方法によって仮想結合対象が設定される。なお、仮想結合対象として選択した際に、メモリに保存した障害物同士の最短距離を求めるのに使用した測距データの組を、各障害物の属性データの項目「仮想結合位置」に保存する。以上で、ステップ501の処理が終了する。
【0042】
次に、ステップ502で仮想結合対象として選択した組の障害物についての障害物結合長さLthを決定する。障害物結合長さLthは、自車両と障害物との相対関係に基づいて設定する。その設定方法を、図3に示す道路を走行する例を用いて説明する。
【0043】
例えば、高速走行している際に運転者のハンドル操作の誤りによって分岐路200に自車両が向かった場合、自車両が分岐路200に進入する前に、障害物201と障害物202を仮想的に結合して障害物回避制御を行うのがよい。これに対し、低速走行時に運転者のハンドル操作によって自車両が分岐路200に向かう場合には、自車両の進入を妨げないために障害物201と障害物202とを仮想的に結合しないのがよい。以上の例のように、分離した障害物を仮想的に結合する判断には、車両と障害物との相対速度Vrが重要となる。そこで、障害物結合長さLthは、車両と障害物との相対速度Vrに応じて設定するのがよい。すなわち、次式に応じて決定するのがよい。
【0044】

【0045】
ここで、関数fは、速度に対する増加関数とする。
【0046】
図7は、相対速度に対する障害物結合長さを与える関数の一例である。ここでは、障害物結合長さLthのミニマムを自車両の車幅または車長とし、所定速度V0以上の場合には、相対速度Vrに応じて障害物結合長さLthを直線的に長くするものである。
【0047】
また、相対速度以外にも分離した障害物の配置と自車両の進行経路とのなす角度αに応じて障害物結合長さLthを決定してもよい。例えば、分離した障害物間を真直ぐに通り抜ける場合、すなわち、角度αがπ/2の場合には、障害物結合長さLthを車幅に相当する長さとし、角度αが小さくなるにつれて車長に相当する長さにすればよい。自車両の車幅をdとし車長をlwとすると、例えば式(8)を用いるのがよい。ここでΔdとΔlwは、それぞれ車幅とび車長に対するマージンを示す。
【0048】

【0049】
また、相対速度Vrと角度αの両方を用いて、障害物結合長さLthを決定してもよい。例えば、式(9)を用いるのがよい。
【0050】

【0051】
ここで、β=(2/π)αである。
【0052】
角度αがπ/2に対して十分に小さい場合、相対速度に応じた障害物結合長さが優先され、角度αがπ/2に近い場合は二つの障害物と進行経路との成す角度に応じた障害物結合長さが優先される。また、二つの障害物において相対速度Vrの大きい値をもって障害物結合長さLthを計算するのがよい。
【0053】
ステップ501で決定された仮想結合対象においては、第1の方法による仮想結合対象に対する障害物結合長さLthは、式(7)を用いて決定すればよい。また、第2の方法による仮想結合対象に対する障害物結合長さLthは、式(8)もしくは式(9)を用いて決定するのがよい。なお、障害物結合長さLthの設定は、上記の方法に限定されるものではなく、他の方法で設定してもよい。以上により、ステップ502における仮想結合長さの設定が終了する。
【0054】
次に、ステップ503において、ステップ501で決定された全ての仮想結合対象に対して、ステップ502で決定された障害物結合長さLthに基づいて順次仮想結合の実施の判定を行う。仮想結合対象である二つの障害物の間隔が、障害物結合長さLthより短い場合、仮想結合処理を実施する判定を行う。一方、2つの障害物の間隔が、障害物結合長さLthより長い場合は仮想結合を行わないと判定する。
【0055】
図8、図9、図10を用いて、仮想結合の実施判定の手順の一例を説明する。図8は、図5における進行経路310の左領域に存在する第1の方法で決定された仮想結合対象を拡大して示した図であり、障害物201と障害物202が仮想結合対象である。これら二つの障害物に対する障害物結合長さLthは、図7に示すような相対速度Vrに対する障害物結合長さLthの関数(関係式)によって算出すればよい。図8に示すように、決定された障害物結合長さ220が2つの障害物の間隔221より長いので、このような場合には、これら二つの障害物を仮想的に結合すると判定される。
【0056】
次に、第2の方法で決定された仮想結合対象の結合判定の一例を説明する。図9は、第2の方法で決定された仮想結合対象である障害物202と障害物204を拡大して示す。障害物202の仮想結合位置231と障害物204の仮想結合位置232とを結ぶ最短距離線230と、進行経路310とのなす角α233と、相対速度Vrから、式(9)に基づいて障害物結合長さLthを算出する。図9に示すように、算出された障害物結合長さ220が二つの障害物の間隔222より短いため、これら二つの障害物については結合しないと判定する。
【0057】
図10は、図6において第1の方法で決定された仮想結合対象に向けて自車両が曲がる例を拡大して示す。ここでは、障害物201と障害物202とが仮想結合対象である。障害物201の仮想結合位置232と障害物202の仮想結合位置231とを結ぶ最短距離線230と進行経路310とのなす角α233と、相対速度Vrから、式(9)に基づいて、障害物結合長さLthを算出する。図10に示す例では、算出された障害物結合長さ220が二つの障害物の間隔221より長いため、これら二つの障害物は仮想的に結合すると判定される。
【0058】
以上の三つの例で示したように、ステップ503において仮想結合の実施判定が行われる。なお、仮想結合すると判定された二つの障害物の属性データの項目「仮想結合相手ID番号」に、互いのID番号を保存する。また、第1、第2のどちらの方法により仮想結合することが決まったかを、属性データの項目「仮想結合決定方法の種類」に保存する。以上により、ステップ503における処理が終了する。
【0059】
次に、ステップ504において、ステップ503にて仮想結合すると判定された二つの障害物の組に対して、隙間位置の補間処理を行う。補間する方法としては、メモリに保存されている各障害物の属性データの項目「仮想結合位置」に保存されている測距データの組を用いて線形補間を行うのがよい。例えば、図8において、障害物201の仮想結合位置231と障害物202の仮想結合位置232から線形補間によって、補間線230が得られる。求められた補間線のパラメータは、属性データの「補間モデルパラメータ」に保存される。このパラメータはステップ505の回避制御対象の探索にて使用される。
【0060】
以上により、障害物仮想結合手段104によって分離した障害物を自車両の走行状態に応じて仮想的に結合させることができる。なお、障害物仮想結合手段104で仮想結合された障害物と障害物検出手段103で検出された障害物は、計測された相対位置と相対速度とからサンプリング時間Δt後の位置を推定することにより追跡を行う。過去に仮想結合された障害物は、仮想結合状態を維持したまま追跡を行うのがよい。特に、第1の方法で仮想結合した障害物は、前方注視位置に近い位置に存在するため、一度仮想結合された場合は解除しないことが望ましい。また、第2の方法で一旦仮想結合した障害物は、その後、第2の方法で仮想結合しないと判断した場合のみ、解除するのがよい。
【0061】
次に、ステップ505において、衝突を回避する制御対象が存在するかを探索する。このステップ505と、その後のステップ506とステップ507の処理は、車両制御決定手段105で実行される。ステップ505の回避制御対象の探索は、サンプリング周期Δt毎に行われ、メモリに保存されている障害物の属性データの項目の「相対位置」、「大きさ」、「傾き」と、前方注視位置とに基づいて探索する。「相対位置」、「大きさ」、「傾き」によって障害物の存在領域を求め、前方注視位置がこの存在領域の所定距離内に存在する場合、この障害物を回避制御対象とする。なお、属性データの項目「仮想結合相手ID番号」にID番号が保存されている場合、仮想結合相手の属性データも含めて探索を行う。仮想結合されている場合には、「補間モデルパラメータ」を用いることにより障害物間の位置を障害物の存在領域として考慮する。
【0062】
次に、ステップ506において、ステップ505で探索された回避制御対象の位置情報に基づいて、障害物を回避する目標ヨーモーメントMを生成する。式(10)は、この目標ヨーモーメントMを算出する式の一例である。
【0063】

【0064】
ここで、K1,K2は制御ゲイン、εは障害物の存在領域と前方注視位置とのずれ量を示す。なお、ずれ量εは、前方注視位置が障害物を越える場合を正とし、ずれ量εが正の場合のみヨーモーメントを生成する。また、ヨーモーメントは左回りを正とする。
【0065】
最後に、ステップ507において、ステップ506で生成された目標ヨーモーメントに基づいて車両制御が実施される。車両にヨーモーメントを発生させるには、例えば前後輪の左右輪の制動力を、独立制御可能な制動装置を搭載すればよい。制動装置としては流体圧を利用するブレーキや電気的に制動作用させるブレーキでもよい。また、ステアリングシャフトの回転を調整することにより、ヨーモーメントを発生させてもよい。
【0066】
図11、図12は、車両制御を行う例を示す。図11は、自車両位置300から左側の分岐路に進んだ場合の測距データの分布を示しており、図12は、図11に示された前方注視位置301付近を拡大して示す。障害物201と障害物202とは、ステップ505にて回避制御対象として探索された仮想結合された障害物の組であり、ステップ504の隙間位置の補間処理によって補間線351が得られているとする。
【0067】
図12に示すように、前方注視位置301が自車両300から補間線351を越えた位置に存在するので、ずれ量ε350は正の値となる。それゆえ、ステップ506において、式(10)より目標ヨーモーメントが計算され、ステップ507において、この計算された目標ヨーモーメントに基づいて仮想結合された障害物を回避する車両制御が実行される。
【0068】
以上のステップ500からステップ507までの処理は、サンプリング周期Δtで繰り返し実行され、障害物への衝突を回避する制御が実現される。
【0069】
以上、本発明の実施例について説明したが、本発明を実施するための形態は、上述の実施例に限定されるものではなく、種々の修正した実施例が可能である。例えば、運転者のウィンカー指示がある場合、運転者の意思を尊重し仮想結合を行わないようにしてもよい。また、自車両に搭載されたナビゲーションシステムから得た一方通行の出口や歩行者用道路の入り口等の車両進入禁止道路への入り口位置情報に基づいて、車速に関わらず、障害物を仮想結合することにより自車両の進入を妨げるようにしてもよい。
【0070】
また、ずれ量εの計算において、障害物の存在領域からではなく、障害物から自車両に向けて所定長さ近い位置から計算を行うことにより、自車両の障害物回避制御の制御タイミングを早めるようにしてもよい。この場合、例えば障害物の相対速度に応じて、上記の所定長さを長短することにより、障害物の移動量を考慮した障害物回避制御が可能となる。
【符号の説明】
【0071】
100: 車両制御装置、
101: 車両運動検出手段、
102: 進行経路推定手段、
103: 障害物検出手段、
104: 障害物仮想結合手段、
105: 車両制御決定手段、
120: 測距データ、
200: 分岐路、
201〜204: 障害物、
205: 自車線、
206: 対向車線、
220: 障害物結合長さLth
221: 障害物201と障害物202との間隔、
222: 障害物202と障害物204との間隔、
230: 最短距離線、
231,232: 仮想結合位置、
300: 自車両、
301: 前方注視位置、
302: 境界円、
310: 進行経路、
350: ずれ量ε、
351: 補間線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両が障害物に近づいたとき該障害物に接触しないように車両挙動を制御する車両制御装置において、
前記自車両の周辺に存在する障害物の大きさ並びに前記自車両に対する相対位置及び相対速度を検出する障害物検出手段と、
前記自車両の運動状態を検出する車両運動検出手段と、
前記障害物検出手段が検出した複数の障害物を仮想的に結合して一つの障害物として認識する障害物仮想結合手段と、を備え、
前記障害物仮想結合手段は、前記相対位置及び前記相対速度の大きさに基づいて前記複数の障害物の結合を判断し実行することを特徴とする車両制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載された車両制御装置において、
前記障害物仮想結合手段は、障害物同士を結合する判断基準となる障害物結合長さを設定する障害物結合長さ設定手段を備えて、前記複数の障害物の間隔が前記障害物結合長さより短い場合に、前記複数の障害物の結合を実行することを特徴とする車両制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載された車両制御装置において、
前記障害物仮想結合手段は、前記障害物結合長さを、前記自車両に対する障害物の相対速度及び前記自車両の大きさに基づいて決定することを特徴とする車両制御装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかの請求項に記載された車両制御装置において、
前記障害物仮想結合手段は、前記車両運動検出手段から検出された運動状態に基づいて前記自車両の進行経路を推定する進行経路推定手段を備えて、推定された進行経路と前記障害物検出手段が検出した障害物の前記相対位置に応じて仮想的に結合する障害物の組を選択することを特徴とする車両制御装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかの請求項に記載された車両制御装置において、
前記障害物仮想結合手段は、前記自車両から所定距離より遠くに存在する障害物と、前記所定距離より近くに存在する障害物とを、前記進行経路に対して左領域及び右領域からそれぞれ1組を選択し、これらを障害物の組として仮想的に結合することを特徴とする車両制御装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかの請求項に記載された車両制御装置において、
前記障害物仮想結合手段は、前記自車両から所定距離より遠くに存在する複数の障害物の中から、前記進行経路に対して左領域に属する障害物と、右領域に属する障害物との距離が最短となる障害物の組を選択し、これらを障害物の組として仮想的に結合することを特徴とする車両制御装置。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかの請求項に記載された車両制御装置において、
前記障害物検出手段及び前記障害物仮想結合手段によって得られた前記障害物及び前記自車両の相対関係に基づいて、障害物を回避するのに必要なヨーモーメント制御量を算出する車両制御決定手段を有することを特徴とする車両制御装置。
【請求項8】
請求項7に記載された車両制御装置において、
前記車両制御決定手段は、前記自車両から前記進行経路に沿って前記所定距離内に前記障害物又は前記仮想的に結合された障害物が存在する場合、前記障害物を回避制御対象と判断し、前記回避制御対象を回避するのに必要なヨーモーメント制御量を算出することを特徴とする車両制御装置。
【請求項9】
請求項8に記載された車両制御装置において、
前記車両制御決定手段は、前記自車両からの前記所定距離の位置から、前記回避制御対象までの距離に応じて、前記ヨーモーメント制御量を算出することを特徴とする車両制御装置。
【請求項10】
請求項5、6、8、9のいずれか1項に記載された車両制御装置において、
前記所定距離を、所定時間中に前記自車両が移動する距離とすることを特徴とする車両制御装置。
【請求項11】
自車両が障害物に近づいたとき該障害物に接触しないように車両挙動を制御する車両制御方法において、
前記自車両の周辺に存在する障害物の大きさ並びに前記自車両に対する相対位置及び相対速度を検出し、
前記自車両の運動状態を検出し、
検出された複数の障害物を仮想的に結合して一つの障害物として認識し、
検出された前記相対位置及び前記相対速度の大きさに基づいて前記複数の障害物の結合を判断し実行することを特徴とする車両制御方法。
【請求項12】
請求項11に記載された車両制御方法において、
障害物同士を結合する判断基準となる障害物結合長さを設定し、
前記複数の障害物の間隔が前記障害物結合長さより短い場合に、前記複数の障害物の結合を実行することを特徴とする車両制御方法。
【請求項13】
請求項12に記載された車両制御方法において、
前記障害物結合長さを、前記自車両に対する障害物の相対速度及び前記自車両の大きさに基づいて決定することを特徴とする車両制御方法。
【請求項14】
請求項11から13のいずれかの請求項に記載された車両制御方法において、
検出された前記運動状態に基づいて前記自車両の進行経路を推定し、
推定された進行経路と検出された障害物の前記相対位置に応じて仮想的に結合する障害物の組を選択することを特徴とする車両制御方法。
【請求項15】
請求項11から14のいずれかの請求項に記載された車両制御方法において、
前記自車両から所定距離より遠くに存在する障害物と、前記所定距離より近くに存在する障害物とを、前記進行経路に対して左領域及び右領域からそれぞれ1組を選択し、これらを障害物の組として仮想的に結合することを特徴とする車両制御方法。
【請求項16】
請求項11から15のいずれかの請求項に記載された車両制御方法において、
前記自車両から所定距離より遠くに存在する複数の障害物の中から、前記進行経路に対して左領域に属する障害物と、右領域に属する障害物との距離が最短となる障害物の組を選択し、これらを障害物の組として仮想的に結合することを特徴とする車両制御方法。
【請求項17】
請求項11から16のいずれかの請求項に記載された車両制御方法において、
前記障害物及び前記自車両の相対関係に基づいて、障害物を回避するのに必要なヨーモーメント制御量を算出することを特徴とする車両制御方法。
【請求項18】
請求項17に記載された車両制御方法において、
前記自車両から前記進行経路に沿って前記所定距離内に前記障害物又は前記仮想的に結合された障害物が存在する場合、前記障害物を回避制御対象と判断し、前記回避制御対象を回避するのに必要なヨーモーメント制御量を算出することを特徴とする車両制御方法。
【請求項19】
請求項18に記載された車両制御方法において、
前記自車両からの前記所定距離の位置から、前記回避制御対象までの距離に応じて、前記ヨーモーメント制御量を算出することを特徴とする車両制御方法。
【請求項20】
請求項15、16、18、19のいずれか1項に記載された車両制御方法において、
前記所定距離を、所定時間中に前記自車両が移動する距離とすることを特徴とする車両制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−274837(P2010−274837A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−130706(P2009−130706)
【出願日】平成21年5月29日(2009.5.29)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】