説明

車両制御装置

【課題】モータジェネレータの温度上昇を抑制することと、燃費低下の抑制とを両立することができる車両制御装置を提供すること。
【解決手段】第一モータジェネレータと、第二モータジェネレータと、第一モータジェネレータと接続されたエンジンと、エンジンの回転と連動して回転して第二モータジェネレータに潤滑油を供給するポンプと、を備え、エンジンの動力によらずに第二モータジェネレータの動力によって車両を走行させるEV走行中に、第二モータジェネレータの温度が第一温度α以上である(S3肯定)と、第一モータジェネレータによってポンプを回転させる第一走行モードを実行し(S4)、EV走行中に、第二モータジェネレータの温度が第一温度よりも大きな第二温度β以上である(S5肯定)と、エンジンの動力によってポンプを回転させる第二走行モードを実行する(S6)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンとモータジェネレータとを備えた車両において、エンジンの動力によらずにモータジェネレータの動力によって車両を走行させる技術が知られている。例えば、特許文献1には、モータ走行を行なっている最中にモータが高温状態に至ったときには、車速Vが閾値Vref以下である条件と路面勾配θが閾値θref以上である条件とが成立した場合にエンジンを始動するハイブリッド車およびその制御方法の技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−94626号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、モータジェネレータが高温状態となる度にエンジンを始動させると、燃費の低下を招く虞がある。モータジェネレータの温度上昇を抑制することと、燃費低下の抑制とを両立できることが望まれている。
【0005】
本発明の目的は、エンジンとモータジェネレータとを備えた車両において、モータジェネレータの温度上昇を抑制することと、燃費低下の抑制とを両立することができる車両制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の車両制御装置は、第一モータジェネレータと、第二モータジェネレータと、前記第一モータジェネレータと接続されたエンジンと、前記エンジンの回転軸に配置され、前記エンジンの回転と連動して回転して前記第二モータジェネレータに潤滑油を供給するポンプと、を備え、前記エンジンの動力によらずに前記第二モータジェネレータの動力によって車両を走行させるEV走行中に、前記第二モータジェネレータの温度が第一温度以上であると、前記第一モータジェネレータによって前記ポンプを回転させて前記第二モータジェネレータに潤滑油を供給する第一走行モードを実行し、前記EV走行中に、前記第二モータジェネレータの温度が前記第一温度よりも大きな第二温度以上であると、前記エンジンを運転させ、前記エンジンの動力によって前記ポンプを回転させて前記第二モータジェネレータに潤滑油を供給する第二走行モードを実行することを特徴とする。
【0007】
上記車両制御装置において、前記エンジンは、前記車両の駆動輪に動力を伝達可能であり、前記EV走行中に、前記第二モータジェネレータの温度が前記第二温度よりも大きな第三温度以上となると、前記エンジンの動力によって前記車両を走行させることが好ましい。
【0008】
上記車両制御装置において、前記エンジンと、前記第一モータジェネレータと、前記第二モータジェネレータおよび前記車両の駆動輪とは、遊星歯車機構を介して相互に接続されており、前記第一モータジェネレータは、前記第二走行モードにおいて、前記エンジンの動力に対する反力を発生させて前記エンジンから前記駆動輪への動力の伝達を規制することが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る車両制御装置は、第一モータジェネレータと、第二モータジェネレータと、第一モータジェネレータと接続されたエンジンと、エンジンの回転軸に配置され、エンジンの回転と連動して回転して第二モータジェネレータに潤滑油を供給するポンプと、を備える。車両制御装置は、EV走行中に、第二モータジェネレータの温度が第一温度以上であると、第一モータジェネレータによってポンプを回転させて第二モータジェネレータに潤滑油を供給する第一走行モードを実行する。第一走行モードでは、燃料を消費することなく第二モータジェネレータの温度上昇を抑制することができる。
【0010】
また、車両制御装置は、EV走行中に、第二モータジェネレータの温度が第一温度よりも大きな第二温度以上であると、エンジンを運転させ、エンジンの動力によってポンプを回転させて第二モータジェネレータに潤滑油を供給する第二走行モードを実行する。本発明に係る車両制御装置によれば、モータジェネレータの温度上昇を抑制することと、燃費低下の抑制とを両立することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、実施形態に係る車両制御装置による制御の内容を示すフローチャートである。
【図2】図2は、実施形態に係る車両の概略構成を示す図である。
【図3】図3は、各走行モードの内容の説明図である。
【図4】図4は、EV走行時の第一遊星歯車機構に係る共線図である。
【図5】図5は、第一走行モード時の第一遊星歯車機構に係る共線図である。
【図6】図6は、第二走行モード時の第一遊星歯車機構に係る共線図である。
【図7】図7は、HV走行時の第一遊星歯車機構に係る共線図である。
【図8】図8は、実施形態の制御に係るMG2温度の推移の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の実施形態に係る車両制御装置につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記の実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるものあるいは実質的に同一のものが含まれる。
【0013】
[実施形態]
図1から図8を参照して、実施形態について説明する。本実施形態は、車両制御装置に関する。図1は、実施形態に係る車両制御装置による制御の内容を示すフローチャート、図2は、実施形態に係る車両の概略構成を示す図、図3は、各走行モードの内容の説明図である。
【0014】
THS等のハイブリッドシステムにおいて、エンジンに連動したメカオイルポンプでモータジェネレータを冷却する場合、EV走行時にはエンジン停止に伴いオイルポンプも停止してしまい、モータジェネレータを冷却できなくなるといった問題がある。モータジェネレータの高温時にはエンジンを始動してエンジンの駆動力を追加することによってモータジェネレータの負荷を軽減し、モータジェネレータの温度上昇を抑制することも可能である。しかしながら、バッテリの蓄電量が低下していないにもかかわらずモータジェネレータの温度上昇によってエンジンを始動して燃料を消費することは、ユーザーの意思に沿わない制御となる可能性がある。
【0015】
本実施形態の車両制御装置(図2の符号1−1参照)は、EV走行中にポンプ(図2の符号4参照)を駆動する動力源を第二モータジェネレータ(図2の符号3参照)の温度に応じて切り替える。具体的には、EV走行中にポンプ4を作動させる温度領域が二つに分けられている。車両制御装置1−1は、二つの温度領域の内で相対的に低温側の温度領域では、第一モータジェネレータ(図2の符号2参照)によってポンプ4を作動させる。また、車両制御装置1−1は、第二モータジェネレータ3の温度が相対的に高温側の温度領域の値となると、エンジン(図2の符号1参照)を始動し、エンジン1の動力によってポンプ4を作動させる。
【0016】
よって、本実施形態の車両制御装置1−1によれば、EV走行中のポンプ駆動のためのエンジン1の運転を抑制し、第二モータジェネレータ3の温度上昇を抑制することと、燃費低下の抑制とを両立させることができる。
【0017】
図2に示すハイブリッド車両100は、エンジン1、第一モータジェネレータ2、第二モータジェネレータ3、ポンプ4、遊星歯車機構5、ECU30およびハイブリッド制御用コントローラ40を備えている。また、本実施形態の車両制御装置1−1は、エンジン1、第一モータジェネレータ2、第二モータジェネレータ3、ポンプ4、ECU30およびハイブリッド制御用コントローラ40を備える。
【0018】
エンジン1は、ハイブリッド車両100の動力源の一つである。エンジン1は、燃料の燃焼エネルギーを回転軸6の回転運動に変換して出力する。
【0019】
第一モータジェネレータ2および第二モータジェネレータ3は、それぞれモータ(電動機)としての機能と発電機としての機能とを備えている。モータジェネレータ2,3は、図示しないバッテリから供給される電力を機械的な動力に変換して出力することができると共に、入力される動力によって駆動されて機械的な動力を電力に変換することができる。第一モータジェネレータ2および第二モータジェネレータ3は、ハイブリッド車両100の動力源として機能することができる。なお、以下の説明では第一モータジェネレータ2を「MG1」とも記載し、第二モータジェネレータ3を「MG2」とも記載する。
【0020】
第一モータジェネレータ2は、ステータ2a、ロータ2bおよびロータ軸2cを有する。第二モータジェネレータ3は、ステータ3a、ロータ3bおよびロータ軸3cを有する。第一モータジェネレータ2および第二モータジェネレータ3は、回転軸6と同軸上に直列的な位置関係で配置されている。ロータ軸2cおよびロータ軸3cはそれぞれ中空であり、ロータ軸2cおよびロータ軸3cに回転軸6が挿入されている。第一モータジェネレータ2と第二モータジェネレータ3とは遊星歯車機構5を挟んで回転軸6の軸方向において互いに対向している。
【0021】
なお、本実施形態では、特に記載しない限り、「軸方向」とは回転軸6の軸方向を示し、「径方向」とは回転軸6の径方向を示すものとする。
【0022】
遊星歯車機構5は、回転軸6と同軸上に配置されている。遊星歯車機構5は、第一遊星歯車機構7および第二遊星歯車機構8を有する。第一遊星歯車機構7と第二遊星歯車機構8とは、軸方向において隣接し、かつ互いに対向している。
【0023】
第一遊星歯車機構7は、リングギア7a、ピニオンギア7b、サンギア7cおよびキャリア7dを有する。径方向において、サンギア7cはピニオンギア7bよりも内側に配置され、リングギア7aはピニオンギア7bよりも外側に配置されている。リングギア7aとピニオンギア7b、ピニオンギア7bとサンギア7cはそれぞれ噛合っている。キャリア7dは、ピニオンギア7bを自転自在に支持しており、かつ回転軸6と接続されて回転軸6と一体回転する。従って、ピニオンギア7bは、キャリア7dによって公転自在に支持されている。サンギア7cは、第一モータジェネレータ2のロータ軸2cと接続されている。
【0024】
第二遊星歯車機構8は、リングギア8a、ピニオンギア8bおよびサンギア8cを有する。径方向において、サンギア8cはピニオンギア8bよりも内側に配置され、リングギア8aはピニオンギア8bよりも外側に配置されている。リングギア8aとピニオンギア8b、ピニオンギア8bとサンギア8cはそれぞれ噛合っている。ピニオンギア8bは、自転自在かつ回転軸6まわりの公転が不能に支持されている。サンギア8cは、第二モータジェネレータ3のロータ軸3cと接続されている。
【0025】
第一遊星歯車機構7のリングギア7aおよび第二遊星歯車機構8のリングギア8aは互いに接続されており、一体回転する。従って、エンジン1の回転軸6は、キャリア7d、ピニオンギア7bおよびサンギア7cを介して第一モータジェネレータ2と接続されている。また、エンジン1の回転軸6は、キャリア7d、ピニオンギア7b、リングギア7a,8a、ピニオンギア8bおよびサンギア8cを介して第二モータジェネレータ3と接続されている。第一遊星歯車機構7において、エンジン1は、キャリア7dに接続され、第一モータジェネレータ2は、サンギア7cに接続され、第二モータジェネレータ3および駆動輪15は、リングギア7aに接続されている。つまり、エンジン1と、第一モータジェネレータ2と、第二モータジェネレータ3および駆動輪15とは、第一遊星歯車機構7を介して相互に接続されている。
【0026】
リングギア7a,8aの径方向外側には、カウンタドライブギア9が接続されている。カウンタドライブギア9は、カウンタドリブンギア10と噛合っている。カウンタドリブンギア10は、ドライブピニオンギア11と接続されている。カウンタドリブンギア10とドライブピニオンギア11とは、軸方向において隣接しており、一体回転する。ドライブピニオンギア11は、差動機構13のデフリングギア12と噛合っている。差動機構13は、左右の駆動輪15,15とそれぞれ接続されている。
【0027】
エンジン1が出力する動力は、回転軸6からキャリア7dに入力され、第一遊星歯車機構7によって第一モータジェネレータ2およびカウンタドライブギア9に分配される。また、第二モータジェネレータ3が出力する動力は、ロータ軸3cからサンギア8cに入力され、第二遊星歯車機構8によってカウンタドライブギア9に伝達される。カウンタドライブギア9に伝達された動力は、カウンタドリブンギア10、ドライブピニオンギア11、デフリングギア12を介して差動機構13から各駆動輪15に伝達される。
【0028】
ポンプ4は、回転軸6の先端に配置されている。ポンプ4は、回転軸6に連結されたロータ4aを有している。ロータ4aは、図示しないロータ室内に配置されており、回転することでロータ室内の潤滑油(例えば、ATF)を吐出する。ロータ室から吐出された潤滑油は、油路16を介して第二モータジェネレータ3に供給される。油路16は、ポンプ4のロータ室と第二モータジェネレータ3のステータ3aとを連通している。油路16は、例えばステータ3aの頂部に潤滑油を流出させる。ポンプ4のロータ4aは、回転軸6と一体回転するものである。つまり、ポンプ4はエンジン1の回転と連動して回転して第二モータジェネレータ3に潤滑油を供給する。
【0029】
油路16には、オイルクーラ17が配置されている。オイルクーラ17は、熱交換によって潤滑油を冷却するものである。ポンプ4が吐出する潤滑油は、油路16およびオイルクーラ17を介して第二モータジェネレータ3に供給される。第二モータジェネレータ3に供給された潤滑油は、第二モータジェネレータ3を潤滑・冷却する。
【0030】
ECU30およびハイブリッド制御用コントローラ40は、コンピュータを有する電子制御ユニットである。ECU30は、エンジン1およびハイブリッド制御用コントローラ40と接続されている。ECU30は、エンジン1の制御、例えば、燃料の噴射量や噴射タイミング、点火タイミング等の制御を行うことができる。また、ECU30は、ハイブリッド制御用コントローラ40と相互に通信を行うことができ、ハイブリッド制御用コントローラ40と協働してハイブリッド車両100の走行制御を行うことができる。
【0031】
ハイブリッド制御用コントローラ40は、ハイブリッドシステムの総合的な制御を行う制御装置としての機能を有する。ハイブリッド制御用コントローラ40は、第一モータジェネレータ2、第二モータジェネレータ3およびバッテリを制御することができる。ハイブリッド制御用コントローラ40は、要求トルク等に基づいてエンジン1、第一モータジェネレータ2および第二モータジェネレータ3が出力する動力の目標値を決定する。また、ハイブリッド制御用コントローラ40は、例えば、要求トルクおよびバッテリの充電状態等に基づいて、第一モータジェネレータ2および第二モータジェネレータ3による発電量およびバッテリに対する充電量の目標値を決定する。
【0032】
ハイブリッド制御用コントローラ40は、決定した目標値を実現するように、第一モータジェネレータ2および第二モータジェネレータ3に出力させる動力や第一モータジェネレータ2および第二モータジェネレータ3の発電量を制御する。また、ハイブリッド制御用コントローラ40は、ECU30と相互に通信を行い、ECU30を介してエンジン1を制御する。
【0033】
ハイブリッド車両100は、ハイブリッド走行(HV走行)およびEV走行を実行可能である。EV走行は、エンジン1の動力によらずに第二モータジェネレータ3の動力によってハイブリッド車両100を走行させるものである。図4は、EV走行時の第一遊星歯車機構7に係る共線図である。
【0034】
図4において、縦軸は回転数を示す。S軸は、サンギア7c、すなわち第一モータジェネレータ2の回転数を示す。C軸は、キャリア7d、すなわち回転軸6の回転数を示す。R軸は、リングギア7a、すなわち第二モータジェネレータ3の回転数に対応する回転数を示す。EV走行では、第二モータジェネレータ3の動力によってハイブリッド車両100を走行させる。R軸の回転方向は、正回転、すなわちハイブリッド車両100を前進させる方向の回転となる。エンジン1は回転を停止しており、S軸の回転方向は、R軸の回転方向とは逆方向となる。
【0035】
なお、図4において、R軸上に記載された白抜きの矢印は、第二モータジェネレータ3がリングギア7a(リングギア8a)に出力する動力を示す。同様にして、C軸上に矢印が記載されている場合、その矢印は、エンジン1がキャリア7dに出力する動力を示し、S軸上に矢印が記載されている場合、その矢印は、第一モータジェネレータ2がサンギア7cに出力する動力を示すものとする。
【0036】
HV走行は、少なくともエンジン1の動力によってハイブリッド車両100を走行させるものである。HV走行では、要求トルク等に基づいて適宜第二モータジェネレータ3にアシストトルクを出力させることが可能である。また、HV走行では、第一モータジェネレータ2あるいは第二モータジェネレータ3の少なくともいずれか一方に発電を行わせることができる。例えば、エンジン1の動力によって第一モータジェネレータ2に発電を行わせ、発電された電力によって第二モータジェネレータ3にトルクを出力させることができる。また、回生時には、第一モータジェネレータ2および第二モータジェネレータ3にそれぞれ発電を行わせることができる。
【0037】
ハイブリッド制御用コントローラ40は、例えば、車速やハイブリッド車両100の負荷、バッテリの充電状態等に基づいて、EV走行あるいはHV走行のいずれかを選択する。一例として、ハイブリッド制御用コントローラ40は、軽負荷かつ低速の走行時にEV走行を選択するようにしてもよい。
【0038】
ここで、EV走行時は第二モータジェネレータ3が動力源であり、第二モータジェネレータ3の負荷が大きくなって第二モータジェネレータ3の温度が上昇しやすくなる。また、EV走行時には、エンジン1の停止に伴い、ポンプ4が停止する。このため、ポンプ4による第二モータジェネレータ3に対する潤滑油の供給が停止し、第二モータジェネレータ3に対する冷却能力が低下する。EV走行時の第二モータジェネレータ3の温度上昇を抑制し、第二モータジェネレータ3の温度を適正範囲に維持するために、エンジン1を始動し、エンジン1の動力を追加することで第二モータジェネレータ3の負荷を低減させることが考えられる。
【0039】
しかしながら、エンジン1の始動および運転によって燃料が消費されると、燃費の低下を招くという問題がある。バッテリの蓄電量が低下していないにもかかわらず第二モータジェネレータ3の温度に基づいてエンジン1を運転させて燃料を消費してしまうと、ユーザーの意思に沿わない車両制御となる虞がある。例えば、外部電源によってバッテリを充電可能なPHV(プラグインハイブリッド)のようにEV走行の航続距離が長いと、EV走行中に第二モータジェネレータ3の温度が高温となる場面が増えると考えられる。こうした場面で、バッテリ蓄電量はEV走行を行うには不足していないにもかかわらずエンジン1が始動されると、燃費の低下を招いたり、運転者に違和感を与えたりする虞がある。
【0040】
本実施形態の車両制御装置1−1は、EV走行中の第二モータジェネレータ3の温度(以下、単に「MG2温度」と記載する。)に基づいてポンプ4を駆動して第二モータジェネレータ3を冷却する。また、車両制御装置1−1は、MG2温度に応じてポンプ4を駆動する動力源を切り替えることで、エンジン1の運転を抑制する。これにより、以下に説明するように、第二モータジェネレータ3を冷却するために必要な燃料消費量を抑制することができる。
【0041】
図2に示すように、第二モータジェネレータ3には、温度センサ18が配置されている。温度センサ18は、第二モータジェネレータ3の温度を検出するセンサであり、例えば、ステータ3aの温度を検出する。なお、温度センサ18は、第二モータジェネレータ3の温度を検出することに代えて、第二モータジェネレータ3の温度に関連する温度、例えば、潤滑油の温度を検出してもよい。温度センサ18は、ハイブリッド制御用コントローラ40と接続されており、温度センサ18の検出結果を示す信号は、ハイブリッド制御用コントローラ40に出力される。
【0042】
ハイブリッド制御用コントローラ40は、EV走行中に、温度センサ18によって検出されたMG2温度に基づいて、以下の第一走行モードあるいは第二走行モードを実行する。第一走行モードおよび第二走行モードは、それぞれEV走行の一形態であって、ポンプ4を回転駆動して第二モータジェネレータ3に潤滑油を供給するモードである。なお、以下の説明では、第一走行モードを「モード1のEV走行」とも記載し、第二走行モードを「モード2のEV走行」とも記載する。
【0043】
図5は、第一走行モード時の第一遊星歯車機構7に係る共線図、図6は、第二走行モード時の第一遊星歯車機構7に係る共線図である。
【0044】
図5に示すように、第一走行モードでは、第一モータジェネレータ2によってエンジン1およびポンプ4を回転させる。ハイブリッド制御用コントローラ40は、第一モータジェネレータ2に発電を行わせる。第一モータジェネレータ2は、発電によって第二モータジェネレータ3の動力に対する反力を発生させる。言い換えると、ハイブリッド制御用コントローラ40は、リングギア7aの回転方向と同方向の動力を第一モータジェネレータ2に出力させる。これにより、キャリア7dおよび回転軸6が回転する。エンジン1の回転軸6が回転することで、ポンプ4のロータ4aが回転し、ポンプ4によって第二モータジェネレータ3に対して潤滑油が供給される。
【0045】
第一走行モードでは、ハイブリッド車両100の駆動力は、第二モータジェネレータ3によって発生させる。また、第一走行モードでは、エンジン1の回転軸6およびポンプ4を第一モータジェネレータ2および第二モータジェネレータ3によって回転させる。つまり、第一走行モードでは、エンジン1は空回し(被駆動状態)となり、燃料は消費されない。
【0046】
図6に示すように、第二走行モードでは、エンジン1を始動してエンジン1を運転させ、エンジン1に動力を出力させる。つまり、第二走行モードでは、エンジン1の動力によって回転軸6を回転させ、ポンプ4を作動させて第二モータジェネレータ3に対して潤滑油を供給する。なお、第二走行モードでは、ポンプ4を回転させるためだけにエンジン1を運転させ、エンジン1の動力はハイブリッド車両100の駆動には使用しない。つまり、第二走行モードは、エンジン1の動力によらずに第二モータジェネレータ3の動力によってハイブリッド車両100を走行させる走行モードである。第二走行モードにおいて、第一モータジェネレータ2は、エンジン1の反力を取り、R軸の回転数を維持する。
【0047】
図3に示すように、第二走行モードによって第二モータジェネレータ3を冷却する能力は、第一走行モードによって第二モータジェネレータ3を冷却する能力よりも高い。これは、第一走行モードでは、回転軸6を回転させるために第二モータジェネレータ3に対して要求される動力が増加することによる。一方、第二走行モードでは、回転軸6を回転させるために第二モータジェネレータ3に対する要求出力が増加することがない。このため、第二走行モードでは、第二モータジェネレータ3の負荷を増加させることなく第二モータジェネレータ3に対して潤滑油を供給することができ、第二モータジェネレータ3に対する冷却能力を高めることができる。
【0048】
このように、本実施形態のハイブリッド車両100は、EV走行において第二モータジェネレータ3に対する冷却能力を高める二つの走行モードを実行することができる。以下に、図1、図7および図8を参照して、本実施形態の車両制御装置1−1による制御について説明する。図7は、HV走行時の第一遊星歯車機構7に係る共線図、図8は、本実施形態の制御に係るMG2温度の推移の一例を示す図である。図1に示す制御フローは、例えば、ハイブリッド車両100の走行中に実行されるものであり、所定の間隔で繰り返し実行される。
【0049】
まず、ステップS1では、ハイブリッド制御用コントローラ40によって、MG2温度が第一温度α(℃)未満であるか否かが判定される。第一温度αは、例えば、第二モータジェネレータ3が高温状態となることを抑制して第二モータジェネレータ3を保護する観点から定められる。ステップS1の判定の結果、MG2温度が第一温度α未満であると判定された場合(ステップS1−Y)にはステップS2に進み、そうでない場合(ステップS1−N)にはステップS3に進む。
【0050】
ステップS2では、ハイブリッド制御用コントローラ40によって、EV走行が選択される。ここで、ステップS2で選択されるEV走行は、ポンプ4を回転駆動することなくハイブリッド車両100を走行させるものである。言い換えると、ステップS2では、ポンプ4によって第二モータジェネレータ3に潤滑油を供給することなくEV走行することが選択される。ステップS2が実行されると、本制御フローは終了する。
【0051】
ステップS3では、ハイブリッド制御用コントローラ40によって、MG2温度が第一温度α以上でかつ第二温度β(℃)未満であるか否かが判定される。第二温度βは、第一温度αよりも大きな値である。ステップS3の判定の結果、MG2温度が第一温度α以上でかつ第二温度β未満であると判定された場合(ステップS3−Y)にはステップS4に進み、そうでない場合(ステップS3−N)にはステップS5に進む。
【0052】
ステップS4では、ハイブリッド制御用コントローラ40によって、モード1のEV走行、すなわち第一走行モードが選択される。ハイブリッド制御用コントローラ40は、エンジン1およびポンプ4を回転させるために必要な動力に基づいて、第一モータジェネレータ2および第二モータジェネレータ3のそれぞれに出力させる動力の目標値を決定する。ハイブリッド制御用コントローラ40は、決定された動力の目標値に基づいて第一モータジェネレータ2および第二モータジェネレータ3を制御する。ステップS4が実行されると、本制御フローは終了する。
【0053】
ステップS5では、ハイブリッド制御用コントローラ40によって、MG2温度が第二温度β以上でかつ第三温度γ(℃)未満であるか否かが判定される。第三温度γは、第二温度βよりも大きな値である。なお、第一温度α、第二温度βおよび第三温度γは、いずれも第二モータジェネレータ3において許容される上限温度未満の値として定められている。ステップS5の判定の結果、MG2温度が第二温度β以上でかつ第三温度γ未満であると判定された場合(ステップS5−Y)にはステップS6に進み、そうでない場合(ステップS5−N)にはステップS7に進む。
【0054】
ステップS6では、ハイブリッド制御用コントローラ40によって、モード2のEV走行、すなわち第二走行モードが選択される。ハイブリッド制御用コントローラ40は、ECU30によってエンジン1を始動させ、エンジン1を運転させる。エンジン1に出力させる動力の目標値は、少なくともポンプ4を作動させて第二モータジェネレータ3に対して潤滑油を供給可能な値である。動力の目標値は、エンジン1の燃費が最適となる動作点に基づいて定められてもよい。
【0055】
ECU30は、この動力の目標値に基づいてエンジン1を制御する。ハイブリッド制御用コントローラ40は、第一モータジェネレータ2によってエンジン1の反力を取り、R軸の回転数を維持する。言い換えると、ハイブリッド制御用コントローラ40は、エンジン1の動力に対する反力を第一モータジェネレータ2に出力させ、エンジン1から駆動輪15への動力の伝達を規制する。ステップS6が実行されると、本制御フローは終了する。
【0056】
ステップS7では、ハイブリッド制御用コントローラ40によって、MG2温度が第三温度γ以上であるか否かが判定される。ステップS7の判定の結果、MG2温度が第三温度γ以上であると判定された場合(ステップS7−Y)にはステップS8に進み、そうでない場合(ステップS7−N)には本制御フローは終了する。
【0057】
ステップS8では、ハイブリッド制御用コントローラ40によって、HV走行が選択される。HV走行では、エンジン1の動力によってハイブリッド車両100を走行させることにより、第二モータジェネレータ3の負荷を軽減させる。HV走行では、例えば、図7に示すように、エンジン1および第二モータジェネレータ3のそれぞれに動力を出力させるようにしてもよい。ハイブリッド制御用コントローラ40は、ハイブリッド車両100の駆動力を主としてエンジン1に出力させる。エンジン1が出力する動力は、ハイブリッド車両100を駆動する動力として駆動輪15を回転駆動すると共に、ポンプ4を回転させる。ポンプ4が回転して第二モータジェネレータ3に対して潤滑油を供給することで、第二モータジェネレータ3が冷却される。
【0058】
HV走行によって第二モータジェネレータ3を冷却する能力は、第二走行モードによって第二モータジェネレータ3を冷却する能力よりも高い。これは、ポンプ4が供給する潤滑油によって第二モータジェネレータ3が冷却されることに加えて、エンジン1によってハイブリッド車両100を駆動することで、EV走行の場合よりも第二モータジェネレータ3の負荷が軽減されることによる。HV走行によれば、MG2温度を低下させることができる。HV走行によってMG2温度が低下すると、ステップS1,S3,S5のいずれかにおいて肯定判定がなされて、再度EV走行に移行する。ステップS8が実行されると、本制御フローは終了する。
【0059】
以上説明したように、本実施形態の車両制御装置1−1は、MG2温度に基づいて走行モードを切り替える。図8に示すように、MG2温度が第一温度α以上第二温度β未満であるときは、第一走行モードが選択され、第一モータジェネレータ2によってポンプ4が作動する。これにより、エンジン1による燃料消費を発生させることなく第二モータジェネレータ3の温度上昇を抑制することができる。
【0060】
MG2温度が更に高く、第二温度β以上第三温度γ未満であるときは、第二走行モードが選択され、エンジン1の動力によってポンプ4が作動する。これにより、第一走行モードよりも第二モータジェネレータ3の負荷が低減され、第二モータジェネレータ3の温度上昇が効果的に抑制される。また、燃費が良好となる動作点でエンジン1を運転させるようにすれば、ポンプ4の駆動に係るエンジン1の運転に起因する燃費の低下を抑制することができる。第二走行モードでは、第二モータジェネレータ3によってハイブリッド車両100の駆動力を発生させる。よって、第二走行モードでは、HV走行時よりもエンジン1の燃料消費量は小さなものとなる。
【0061】
MG2温度が第三温度γ以上である場合、HV走行が選択される。HV走行では、第二モータジェネレータ3の負荷が軽減され、第二モータジェネレータ3に対する冷却能力がEV走行時の冷却能力よりも高くなる。よって、速やかに第二モータジェネレータ3の温度を低下させてEV走行に復帰させることが可能となる。
【0062】
なお、第一温度α、第二温度β、第三温度γは、それぞれ走行環境や走行状態等の条件に応じて可変とされてもよい。例えば、第二モータジェネレータ3の予想温度、ハイブリッド車両100の負荷、先行車両との車間距離、バッテリの充電状態等に基づいて、第一温度α、第二温度β、第三温度γを変化させてもよい。一例として、MG2温度以外の条件に基づいてEV走行からHV走行へ移行することが予測される場合、各温度α,β,γの少なくともいずれか一つを高温側の値に変化させるようにしてもよい。
【0063】
本実施形態が適用可能なシステムは、例示したものには限定されない。例えば、本実施形態は、第二モータジェネレータ3とエンジン1とが連結されていないシリーズHVにも適用可能である。シリーズHVでは、エンジン1の動力は車両の駆動輪に伝達されないものとすることができる。シリーズHVシステム搭載車両では、HV走行時は、エンジン1の動力によって発電された電力で第二モータジェネレータ3が駆動力を発生させて車両を走行させる。一方、EV走行時は、エンジン1の動力によらずに、バッテリからの電力で第二モータジェネレータ3が駆動力を発生させて車両を走行させる。EV走行時に、第二モータジェネレータ3の温度に応じて第一モータジェネレータ2によってポンプ4を回転させることにより、燃費低下を抑制することができる。
【0064】
上記の実施形態に開示された内容は、適宜組み合わせて実行することができる。
【符号の説明】
【0065】
1−1 車両制御装置
1 エンジン
2 第一モータジェネレータ
3 第二モータジェネレータ
4 ポンプ
5 遊星歯車機構
6 回転軸
7 第一遊星歯車機構
8 第二遊星歯車機構
15 駆動輪
30 ECU
40 ハイブリッド制御用コントローラ
100 ハイブリッド車両
α 第一温度
β 第二温度
γ 第三温度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一モータジェネレータと、
第二モータジェネレータと、
前記第一モータジェネレータと接続されたエンジンと、
前記エンジンの回転軸に配置され、前記エンジンの回転と連動して回転して前記第二モータジェネレータに潤滑油を供給するポンプと、
を備え、
前記エンジンの動力によらずに前記第二モータジェネレータの動力によって車両を走行させるEV走行中に、前記第二モータジェネレータの温度が第一温度以上であると、前記第一モータジェネレータによって前記ポンプを回転させて前記第二モータジェネレータに潤滑油を供給する第一走行モードを実行し、
前記EV走行中に、前記第二モータジェネレータの温度が前記第一温度よりも大きな第二温度以上であると、前記エンジンを運転させ、前記エンジンの動力によって前記ポンプを回転させて前記第二モータジェネレータに潤滑油を供給する第二走行モードを実行する
ことを特徴とする車両制御装置。
【請求項2】
前記エンジンは、前記車両の駆動輪に動力を伝達可能であり、
前記EV走行中に、前記第二モータジェネレータの温度が前記第二温度よりも大きな第三温度以上となると、前記エンジンの動力によって前記車両を走行させる
請求項1に記載の車両制御装置。
【請求項3】
前記エンジンと、前記第一モータジェネレータと、前記第二モータジェネレータおよび前記車両の駆動輪とは、遊星歯車機構を介して相互に接続されており、
前記第一モータジェネレータは、前記第二走行モードにおいて、前記エンジンの動力に対する反力を発生させて前記エンジンから前記駆動輪への動力の伝達を規制する
請求項1または2に記載の車両制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−232611(P2012−232611A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−100536(P2011−100536)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】