説明

車両前方監視装置

【課題】車両のフロントガラスを払拭するワイパーの払拭動作に伴い、前方物体が未検出となる頻度を低減可能な車両前方監視装置を提供する。
【解決手段】車両前方監視装置は、狭角カメラと、広角カメラと、狭角画像情報Dn及び広角画像情報Dwの何れか一方を用いて画像処理を行い前方物体を検出する物体検出部と、物体相対距離Dfwに応じて狭角画像情報Dn及び広角画像情報Dwの何れか一方を物体検出部が用いる画像情報として選択する画像情報選択部と、処理用カメラの視野内にワイパーが含まれているか否かを判別するワイパー取り込み判別部とを備える。物体検出部は、ワイパー取り込み判別部が処理用カメラの視野内にワイパーが含まれていると判別している場合、非選択画像情報を用いて前方物体を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両前方監視装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載されたカメラやレーダなどを用いて車両前方の状態を監視する車両前方監視装置が公知である。この種の車両前方監視装置では、自車両前方に存在する対向車両(自車両前方をその走行方向と逆方向に走行する車両)、先行車両(自車両前方を、その走行方向と同方向に走行する車両)、障害物、歩行者等の物体(本明細書においては、これらを纏めて「前方物体」と称す)を検出する。車両前方監視装置による前方物体の検出結果は、例えば衝突時の衝撃を最小限に抑えるプリクラッシュセーフティー(PCS)や、先行車との車間距離を一定に保つアダプティブクルーズコントロール(ACC)等の運転支援システムにおいて利用されている。
【0003】
レーダは、一般に、前方物体との距離に関する検出精度が高い反面、横方向の分解能が比較的低いという特性を有する。そして、カメラは一般に横方向の分解能が高く、前方物体の境界検出が容易であるという利点を有する。そこで例えば、レーダによって前方物体と自車両との相対距離を取得し、カメラによって前方物体の大きさや、自車両の前後軸を基準とした場合の相対的な横方向の位置に関わる情報(以下、「横位置情報」ともいう)等を取得することが行われる。
【0004】
雨や埃等の影響を避けるため、カメラは車室内のフロントガラスの内側等に前方を向けて設置されることが多い。これに対して、フロントガラスに付着した雨滴を払拭するワイパーの払拭動作に伴いワイパーがカメラの視野内を横切ると、それが画像(映像)として取り込まれてしまう。その結果、自車両前方における実際の風景画像とは異なった情報を処理するおそれが生じる。すなわち、ワイパーによる雨滴等の払拭動作時に、ワイパーが車両前方の風景にオーバーラップして撮像されてしまい、前方物体を検出することができない状況を招いてしまう。なお、カメラの視野がワイパーの払拭範囲外になるようにカメラを設置すれば上記の問題は生じないが、その方法ではフロントガラスに着いた雨滴によってカメラの画像が不明瞭になるという問題が生じてしまう。
【0005】
これに関連して、ワイパーによる雨滴等の払拭動作時に、カメラの撮像範囲内にワイパーの像が写り込む期間においては、画像信号の取り込みを禁止する技術が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−072641号公報
【特許文献2】特開2001−273596号公報
【特許文献3】特開2008−250904号公報
【特許文献4】特開2003−212041号公報
【特許文献5】特開平11−039596号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記従来技術のように、カメラの撮像範囲内にワイパーの像が写り込み期間にわたり画像信号の取り込みを禁止すると、その間は前方物体の検出を行うことができず、例えば運転支援システムを本来作動させるべき時に作動することができないという不具合
を招いてしまう。
【0008】
本発明は、上記したような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、車両のフロントガラスを払拭するワイパーの払拭動作に伴い、前方物体が未検出となる頻度を低減可能な車両前方監視装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明に係る車両前方監視装置は、車室内に設けられた互いに画角(視野角)の異なる一組のカメラを用いてフロントガラス越しに自車両前方を撮像する車両前方監視装置であって、フロントガラスを払拭するワイパーが一方のカメラの視野内(撮像範囲内)に含まれる場合、他方のカメラが撮像した画像に基づいて生成される画像情報を用いて前方物体を検出することを最大の特徴とする。
【0010】
より詳しくは、本発明による車両前方監視装置は、
フロントガラス越しに自車両前方を撮像する、車室内に設けられた狭角カメラと、
前記狭角カメラよりも広い画角を有し、且つフロントガラス越しに自車両前方を撮像する、車室内に設けられた広角カメラと、
前記狭角カメラが生成する画像情報である狭角画像情報および前記広角カメラが生成する画像情報である広角画像情報の何れか一方を用いて画像処理を行い、自車両前方に存在する前方物体を検出する検出手段と、
前記前方物体と自車両との相対距離に応じて、前記狭角画像情報および広角画像情報の何れか一方を前記検出手段が用いる画像情報として選択する選択手段と、
前記選択手段により選択されている画像情報を生成するカメラの視野内に自車両のフロントガラスを払拭するワイパーが含まれているか否かを判別する判別手段と、を備え、
前記検出手段は、前記判別手段が前記視野内に前記ワイパーが含まれていると判別している場合、前記選択手段により選択されていない方の画像情報を用いて前記前方物体を検出することを特徴とする。
【0011】
本発明において、狭角画像情報は狭角カメラが撮像した画像に基づいて生成され、広角画像情報は広角カメラが撮像した画像に基づいて生成される。
【0012】
車両前方監視装置は、前方物体と自車両との相対距離(以下、「物体相対距離」ともいう)を取得(検出)するレーダを備えても良い。そして、物体相対距離に応じて、検出手段が画像処理に用いる画像情報を、狭角画像情報と広角画像情報の何れか一方から選択することができる。
【0013】
選択手段は、例えば物体相対距離が短く、前方物体が自車両に近接している場合、広角画像情報を検出手段が画像処理に用いる画像情報として選択すると良い。これにより、例えば自車両に対する隣接車両の側方接近や、レーン変更等に備えることができる。一方、物体相対距離が長く、前方物体が自車両の遠方に位置する場合、選択手段は、検出手段が画像処理に用いる画像情報として狭角画像情報を選択すると良い。狭角カメラは広角カメラに比して画角(視野角)が小さいため、焦点距離が広角カメラよりも長い。従って、狭角画像情報を用いて自車両の遠方に位置する前方物体を検出することにより、該前方物体の分解能が高められ、より確実に前方物体を検出することができる。
【0014】
また、本発明において、前記選択手段は、前記前方物体と自車両との相対距離(物体相対距離)が所定の基準距離以上の場合に前記狭角画像情報を選択し、該相対距離が該基準距離未満の場合に前記広角画像情報を選択しても良い。この基準距離は、例えば広角画像情報を用いて検出手段が前方物体の検出を試みる場合、該前方物体の境界(エッジ)検出が所望の精度を満たすことができる限度内における前方物体と自車両との最大距離である

【0015】
ここで、ワイパーによるフロントガラスの払拭動作が行われると、例えば、選択手段により選択されている方の画像情報を生成するカメラの視野内をワイパーが横切ることになる。これに対して、本発明によれば、選択手段により選択されている方の画像情報を生成するカメラの視野内にワイパーが含まれる状態(以下、「ワイパー取り込み状態」という)においては、選択手段が選択していない方の画像情報を用いて前方物体が検出される。例えば、自車両に近接する前方物体を検出する際、選択手段が広角画像情報を選択している状況下においてワイパー取り込み状態となっているタイミングでは、検出手段が広角画像情報ではなく狭角画像情報を用いて前方物体を検出する。つまり、前方物体の検出にあたりワイパー取り込み状態となっている期間において、検出手段は、画像処理に供する画像情報を広角画像情報から狭角画像情報に切り替える。
【0016】
一方、例えば、自車両の遠方に位置する前方物体を検出する際、選択手段が狭角画像情報を選択している条件下においてワイパー取り込み状態となっているタイミングでは、検出手段が狭角画像情報ではなく広角画像情報を用いて前方物体を検出する。つまり、前方物体の検出にあたりワイパー取り込み状態となっている期間において、検出手段は、画像処理に供する画像情報を狭角画像情報から広角画像情報に切り替える。
【0017】
以上のように、本発明によれば、車両のフロントガラスを払拭するワイパーの払拭動作に伴いワイパー取り込み状態となる場合であっても、前方物体が未検出となる頻度を好適に低減することが可能となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る車両前方監視装置によれば、車両のフロントガラスを払拭するワイパーの払拭動作に伴って前方物体が未検出となる頻度を、好適に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施例に係る車両前方監視装置の概略構成を示すブロック図である。
【図2】車両前方監視装置の画像情報選択部が画像情報選択フラグFgを1に設定する領域と0に設定する領域の各々を例示した図である。
【図3】車両の側方から眺めた場合の広角カメラ、狭角カメラ及びワイパーの位置関係を模式的に示した図である。
【図4】車両の前方且つ斜め上方から眺めた場合の広角カメラ、狭角カメラ及びワイパーの位置関係を模式的に示した図である。
【図5】実施例における制御ルーチンを示したフローチャートである。
【図6】処理用カメラの視野内にワイパーが含まれないタイミングで処理用カメラが撮像した画像に基づいて生成された画像情報の一例である。
【図7】処理用カメラの視野内にワイパーが含まれるタイミングで処理用カメラが撮像した画像に基づいて生成された画像情報の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための形態を例示的に詳しく説明する。尚、本実施の形態に記載されている構成要素の寸法、材質、形状、その相対配置等は、特に特定的な記載がない限りは、発明の技術的範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0021】
<実施例1>
図1は、本実施例に係る車両前方監視装置1の概略構成を示すブロック図である。車両前方監視装置1は、自車両の前方に存在する他車両(対向車両、先行車両等)、障害物、
歩行者等の総称である「前方物体」を監視、検出する装置である。そして、車両前方監視装置1による前方物体の監視結果に基づいて、プリクラッシュセーフティシステム(PCS)が作動するようになっている。例えば、前方物体と自車両が衝突する可能性が高いと判断した場合、運転者へ警報を発信すると共に衝突被害低減制御を実施する。衝突被害低減制御としては、シートベルトの巻き取りやプリクラッシュブレーキによる衝突速度の低減等を例示することができる。
【0022】
車両前方監視装置1は、ミリ波レーダ2、画角(視野角)が相違する一組のカメラ3,4、車両前方監視装置1に係るシステム系統全般を制御する電子制御ユニットであるECU(Electronic Control Unit)5を備える。本実施例において、単に「車両」と記す場
合には自車両をさすものとする。
【0023】
ミリ波レーダ2は、自車両の前部に設けられており、自車両の前方に存在する前方物体と自車両との相対距離(以下、「物体相対距離」という)Dfw、及び自車両に対する前方物体の方向を検知する。ミリ波レーダ2は、自車両の前方の所定範囲においてミリ波を走査して、その反射波を受信する。そして、反射波を受信した夫々の方向について、前方物体までの距離を検知する。ミリ波レーダ2による検知は所定時間毎に行われる。ミリ波レーダ2はECU5と電気的に接続されており、物体相対距離Dfwおよび自車両に対する前方物体の方向に関わる情報(以下、「レーダ情報」という)をECU5に逐次出力する。なお、自車両に対する前方物体の方向とは、自車両の前後軸を基準とした場合の前方物体の方向であり、例えば前方物体が他車両である場合には、自車両の前後軸と他車両の前後軸とがなす角度をさす。
【0024】
一組のカメラ3,4のうち、相対的に画角が大きい方のカメラ3を「広角カメラ」と称し、広角カメラ3に比して画角が小さいカメラ4を「狭角カメラ」と称する。広角カメラ3及び狭角カメラ4は、レンズと、CCD(charge-coupled device)やCMOS(complementary metal oxide semiconductor)等の撮像素子とを含んで構成されている。広角カメラ3及び狭角カメラ4の夫々は、車室(運転室)内のルームミラーのステイ(図示省略)付近に設置されており、自車両の前方の風景を撮像する。広角カメラ3及び狭角カメラ4はECU5と電気的に接続されており、これらが撮像した自車両前方の画像は、画像信号化された画像情報(画像データ)としてECU5に逐次入力される。以下、広角カメラ3が撮像した画像から生成された画像情報を「広角画像情報Dw」と称し、狭角カメラ4が撮像した画像から生成された画像情報を「狭角画像情報Dn」と称する。本実施例における広角カメラ3、狭角カメラ4による画像の取り込み頻度(撮像頻度)は、例えば30ms(ミリ秒)程度に設定されている。
【0025】
ECU5は、CPU、ROM、RAMを含むコンピュータを主体として構成されており、画像情報選択部501、物体検出部502、ワイパー作動検知部503、ワイパー取り込み判別部504、衝突判定部505を有する。
【0026】
一般にレーダは、前方物体との距離に関する検出精度が高い反面、横方向の分解能が比較的低い。これに対して、カメラは横方向の分解能が優れており、前方物体の境界(エッジ)検出が容易である。そこで、ECU5は、ミリ波レーダ2から取得するレーダ情報に基づいて検知した車両前方を、狭角画像情報Dn及び広角画像情報Dwの何れか一方を用いて画像解析処理を行い、前方物体を画像検出する。
【0027】
ここで、広角カメラ3及び狭角カメラ4を比較すると、狭角カメラ4は広角カメラ3に比べて画角が小さいため、その焦点距離が長く、遠方の物標に対する分解能が広角カメラ3よりも優れている。一方、自車両に近接する前方物体を撮像する場合には、画角(視野角)の大きな広角カメラ3を用いた方が前方物体を視野内に収めやすいという利点がある

【0028】
そこで、物体検出部502は、前方物体が自車両に近接している場合には広角画像情報Dwを用いて画像解析処理を行い、ミリ波レーダ2により検知した前方物体を検出する。一方、前方物体が自車両から遠方に位置している場合には狭角画像情報Dnを用いて画像解析処理を行い、ミリ波レーダ2が検知した前方物体を検出する。
【0029】
画像情報選択部501は、前方物体と自車両との相対距離である物体相対距離Dfwに応じて、狭角画像情報Dn及び広角画像情報Dwの何れか一方を物体検出部502が前方物体を検出するための画像処理に用いる画像情報(以下、「処理用画像情報」という)として選択する。ここで、画像情報選択部501が狭角画像情報Dn及び広角画像情報Dwの双方ではなく、何れか一方を択一的に選択するのは、画像解析処理にかかる負荷の軽減を図るためである。
【0030】
ここで、より具体的には、画像情報選択部501は、物体相対距離Dfwが基準距離Db以上である場合には、前方物体が自車両の遠方に位置していると判別する。この場合、画像情報選択部501は、狭角画像情報Dnを処理用画像情報として選択するとともに、画像情報選択フラグFgを1に設定(セット)する。画像情報選択フラグFgは、RAMに設定された記憶領域である。
【0031】
一方、物体相対距離Dfwが基準距離Db未満である場合、画像情報選択部501は、前方物体が自車両に近接していると判別する。この場合、画像情報選択部501は、広角画像情報Dwを処理用画像情報として選択するとともに、画像情報選択フラグFgを0に設定(セット)する。そして、物体検出部502は、画像情報選択フラグFgが1に設定されている場合には、選択されている狭角画像情報Dnを用いて画像処理を行い、前方物体を検出する。また、画像情報選択フラグFgが0に設定されている場合には、選択されている広角画像情報Dwを用いて画像処理を行い、前方物体を検出する。
【0032】
なお、上記の基準距離Dbは、例えば広角画像情報Dwを用いて画像解析処理を行い、前方物体の検出を試みる場合に、前方物体の境界(エッジ)検出が所望の精度を満たすことができる限度内においての最大の物体相対距離Dfwである。
【0033】
図2は、車両前方監視装置1の画像情報選択部501が画像情報選択フラグFgを1に設定する領域と(図中、斜めハッチングにて示す)と0に設定する領域(図中、格子ハッチングにて示す)の各々を例示した図である。画像情報選択フラグFgが1に設定されることで処理用画像情報として狭角画像情報Dnが選択される領域は狭角カメラ4の視野(撮像範囲)内に含まれている。また、画像情報選択フラグFgが0に設定されることで処理用画像情報として広角画像情報Dwが選択される領域は、広角カメラ3の視野内に含まれている。
【0034】
図中、狭角カメラ4の視野は一点鎖線で挟まれている部分の領域であり、広角カメラ3の視野は二点鎖線で挟まれている部分の領域である。狭角カメラ4及び広角カメラ3の各々の画角は、自車両から遠方の前方物体が狭角カメラ4の視野内に含まれ、且つ自車両に近接する前方物体が広角カメラ3の視野内に含まれるように、各々が適正な角度として設定されている。
【0035】
図中の符号「MF1」、「MF2」は自車両の前方に存在する前方物体を表したものである。前方物体MF1は、自車両からの相対距離(物体相対距離Dfw)が基準距離Dbより大きく、物体検出部502は狭角画像情報Dnに基づいて前方物体MF1を検出する。一方、前方物体MF2は、自車両からの相対距離(物体相対距離Dfw)が基準距離D
bより小さく、物体検出部502は、広角画像情報Dwに基づいて前方物体MF2を検出する。
【0036】
次に、図3及び図4を参照して、広角カメラ3、狭角カメラ4、フロントガラス(ウインドシールド)101に付着した雨滴等を払拭するワイパー102の位置関係について説明する。図3は、車両の側方から眺めた場合の広角カメラ3、狭角カメラ4及びワイパー102の位置関係を模式的に示した図である。図4は、車両の前方且つ斜め上方から眺めた場合の広角カメラ3、狭角カメラ4及びワイパー102の位置関係を模式的に示した図である。
【0037】
ワイパー102は、ワイパーモータ103によって駆動される。ワイパーモータ103は、ワイパースイッチ104からの指示に従い、ワイパー動作(フロントガラス101の払拭動作)を制御する。ワイパースイッチ104は、運転者の操作に従って、例えば高速連続動作モード、低速連続動作モード、間欠動作モード、及び動作停止モードの何れかが選択可能に構成されている。また、ワイパースイッチ104は、ECU5に対して、ワイパー102が作動しているか否か(払拭動作を行っているかどうか)を表す信号を出力する。
【0038】
広角カメラ3及び狭角カメラ4の夫々は、雨や埃等の影響を避けるため、フロントガラス101の内側(車室側)に前方を向けて設置されている。更には、広角カメラ3、狭角カメラ4の各々は、その撮像範囲(視野)の少なくとも一部がワイパー102の払拭領域(払拭範囲)と重複するように配置されている。これにより、フロントガラス101に付着した雨滴によってカメラ3,4の画像が不明瞭になることが抑止される。しかし、カメラの撮像範囲にワイパー102の払拭領域が重なることはワイパー102が当該カメラの視野内を横切ることを意味するため、ワイパー102によるフロントガラスの往復払拭動作において、ワイパー102がカメラの視野内を横切るタイミングの度に、カメラが撮像した画像内にワイパー102が映り込む結果、車両前方の風景がワイパー102によって遮蔽されてしまうという背反が生じ得る。
【0039】
車両前方監視装置1では、ワイパー102が画像に映り込んでいる(取り込まれている)間にミリ波レーダ2が検知した前方物体を画像認識して検出、識別することができなくなることを回避すべく、以下に説明する画像情報切り替え制御が実行される。ここで、ワイパー取り込み判別部504は、狭角カメラ4および広角カメラ3のうち、物体相対距離Dfwに応じて画像情報選択部501により選択されている処理用画像情報を生成する方のカメラ(以下、「処理用カメラ」という)の視野内にワイパー102が含まれている状態、すなわちワイパー取り込み状態であるか否かを判別する。本実施例の画像情報切り替え制御では、ワイパー取り込み判別部504がワイパー取り込み状態であると判別している場合、画像情報選択部501により選択されていない方の画像情報(以下、「非選択画像情報」という)に処理用画像情報を切り替えて、物体検出部502に前方物体を検出させる。
【0040】
図5は、本実施例における制御ルーチンを示したフローチャートである。本制御ルーチンは、ECU5によって一定時間(例えば、100ms程度)毎に繰り返し行われるルーチンである。本ルーチンが実行されると、ステップS101では、ミリ波レーダ2からレーダ情報に基づいて、物体検出部502によって検出すべき対象となる前方物体を特定する。
【0041】
ステップS102では、画像情報選択部501が、物体相対距離Dfwに基づいて狭角画像情報Dn及び広角画像情報Dwのいずれか一方を処理用画像情報として選択する。すなわち、本ステップでは、物体相対距離Dfwが基準距離Db以上であるか否かが判定さ
れる。そして、肯定判定された場合(Dfw≧Db)には、画像情報選択部501は狭角画像情報Dnを処理用画像情報として選択するとともに、画像情報選択フラグFgを1に設定(セット)する。一方、否定判定された場合(Dfw<Db)には、画像情報選択部501は広角画像情報Dwを処理用画像情報として選択するとともに、画像情報選択フラグFgを0に設定(セット)する。本ステップの処理が終了すると、ステップS103の処理に進む。
【0042】
ステップS103では、ワイパー作動検知部503が、ワイパースイッチ104の出力信号に基づいてワイパー102の作動状況を検知する。ワイパー102が作動中(高速連続動作モード、低速連続動作モード、間欠動作モードの何れか)であることを検知した場合には、ステップS104に進む。一方、ワイパー102が作動停止中(動作停止モード)であることを検知した場合には、ステップS106に進む。
【0043】
ステップS104において、ワイパー取り込み判別部504は、現在の状態がワイパー取り込み状態であるか否かを判別する。図6及び図7を参照して、ワイパー取り込み状態であるか否かの判別手法について説明する。
【0044】
ここで、図6は、処理用カメラの視野内にワイパー102が含まれないタイミングで処理用カメラが撮像した画像に基づいて生成された画像情報の一例である。図7は、処理用カメラの視野内にワイパー102が含まれるタイミングで処理用カメラが撮像した画像に基づいて生成された画像情報の一例である。処理用カメラにより撮像されたワイパー102の像は、ハッチングにて図示している。図7に示したように、処理用カメラの視野内にワイパー102が含まれる(存在する)と、車両前方の風景の大部分がワイパー102の像によって遮蔽されてしまう。その結果、画像領域内における輝度平均値は、処理用カメラの視野内にワイパー102が含まれない(存在しない)タイミングで撮像された画像に比べて著しく低下する。
【0045】
そこで、図5の制御フローにおけるステップS104では、「処理用カメラ」から物体検出部502が取得した最新の画像情報(以下、「最新画像情報」ともいう)の画像領域における輝度平均値と、1つ(1フレーム)前の画像情報(以下、「前画像情報」ともいう)の画像領域における輝度平均値を対比する。この場合、例えば前画像情報の輝度平均値に対する最新画像情報の輝度平均値の比率が所定の基準値以上の場合にワイパー取り込み判別部504は、現在、ワイパー取り込み状態ではないと判別し、ステップS105に進む。一方、前画像情報の輝度平均値に対する最新画像情報の輝度平均値の比率が基準値を下回っている場合、ワイパー取り込み判別部504は、現在、ワイパー取り込み状態であると判別し、ステップS106に進む。
【0046】
なお、ステップS104において、前画像情報の輝度平均値と最新画像情報の輝度平均値との差分の大きさに基づいてワイパー取り込み状態であるか否かを判別しても構わない。例えば、前画像情報の輝度平均値から最新画像情報の輝度平均値を減算して得られた値が第2の基準値を超える場合にワイパー取り込み状態であると判別し、そうでない場合にワイパー取り込み状態でないと判別しても良い。上述した基準値、第2の基準値は、実験等の経験則に基づき適正な値をそれぞれ求めておくと良い。また、上記判別手法は例示的に示したものであり、その他の手法を採用しても構わないのは勿論である。
【0047】
ステップS105において、物体検出部502は、ステップS102で設定された画像情報選択フラグFgを読み込む。そして、狭角画像情報Dn及び広角画像情報Dwのうち、画像情報選択部501が処理用画像情報として選択した方の画像情報を用いて前方物体を検出する。すなわち、画像情報選択フラグFgが1にセットされている場合、狭角画像情報Dnを用いて画像解析処理を行い、前方物体を検出する。一方、画像情報選択フラグ
Fgが0にセットされている場合、広角画像情報Dwを用いて画像解析処理を行い、前方物体を検出する。ステップS105の処理が終了すると、ステップS107に進む。
【0048】
ステップS106においては、物体検出部502が、ステップS102で設定された画像情報選択フラグFgを読み込み、狭角画像情報Dn及び広角画像情報Dwのうち、画像情報選択部501が処理用画像情報として選択した方の画像情報とは逆の画像情報(すなわち、処理用画像情報として選択されていない方の画像情報)である非選択画像情報を用いて前方物体を検出する。すなわち、画像情報選択フラグFgが1にセットされている場合、狭角画像情報Dnの代わりに広角画像情報Dwを用いて画像解析処理を行い、前方物体を検出する。
【0049】
一方、画像情報選択フラグFgが0にセットされている場合、広角画像情報Dwの代わりに狭角画像情報Dnを用いて画像解析処理を行い、前方物体を検出する。なお、狭角カメラ4は広角カメラ3よりも画角(視野角)が小さいため、検出対象たる前方物体が狭角カメラ4の視野外に位置する場合には、狭角画像情報Dnを用いて前方物体を検出することができないとも考えられる。そのような場合、本ステップにおいて処理用画像情報を広角画像情報Dwから狭角画像情報Dnへと切り替えず、ワイパー取り込み状態になる直前(例えば、1フレーム前)に広角カメラ3が生成した広角画像情報Dwを用いて前方物体を検出すると良い。
【0050】
例えば、広角カメラ3の画像の取り込み間隔は30ms程度(つまり、30ms程度に1回の頻度で画像が撮像される)であるのに対して、ECU5(物体検出部502)における画像処理間隔は100ms程度(つまり、100ms程度に1回の頻度で画像処理が行われる)である。このように、物体検出部502が画像処理を行う頻度に比べて広角カメラ3が画像を取り込む頻度の方が多いため、ワイパー102が広角カメラ3の視野内に入る直前に該カメラ3が撮像した画像から生成された広角画像情報Dwを用いることで、前方物体を検出できないという事態を好適に回避することができる。ステップS106の処理が終了すると、ステップS107に進む。
【0051】
なお、上記ステップS105、S106にかかる処理に際して、物体検出部502は、前方物体を検出するために用いる画像情報の画像領域内における前方物体の存在領域の周辺にいわゆるウィンドウを設定し、当該ウィンドウの内部領域について画像処理を行っても良い。ウィンドウは、画像処理の対象領域を全画像領域から画定する(切り出す)ように機能する。なお、画像領域内における前方物体の存在領域については、ミリ波レーダ2から取得するレーダ情報(自車両に対する前方物体の方向及び物体相対距離Dfw)に基づいて求めることができる。
【0052】
ステップS107では、衝突判定部505により、物体検出部502が検出した前方物体に自車両が衝突する可能性が高いか否かが判定される。衝突判定部505は、物体検出部502により検出された前方物体の横位置情報(横位置、大きさ)、及びミリ波レーダ2から取得するレーダ情報、並びに自車両と前方物体との相対速度等に基づいて、自車両と前方物体とが衝突する可能性が高いか否かを判定する。
【0053】
本ステップにおいて、前方物体が自車両に衝突する可能性が低いと判定された場合、ECU5は本ルーチンを一旦終了する。一方、前方物体が自車両に衝突する可能性が高いと判定された場合、ECU5はステップS108に進み、シートベルト巻き取り用アクチュエータやプリクラッシュブレーキアクチュエータ等(図示省略)に制御信号を発信することで衝突被害低減制御を実施する。更に、ECU5は、運転者への警報装置(図示省略)に警報ONの信号を発信し、自車両が前方物体と衝突する可能性が高いことを報知する(警報を発する)。ECU5は本ステップの処理を終了すると、本ルーチンを一旦終了する

【0054】
以上説明したように本実施例に係る制御によれば、自車両の前方に存在する前方物体の検出にあたり、ワイパー102によるフロントガラスの払拭動作に伴って、ワイパー102が処理用カメラの視野内を横切る場合であっても、前方物体が未検出となってしまう頻度を好適に低減することができる。また、再び、ワイパー102が処理用カメラの視野内に存在しなくなったあとは、画像情報選択部501により選択されている方の画像情報を用いて画像処理が行われる。そのため、遠方の前方物体に対しては焦点距離の大きなカメラを用いることで境界検出精度を向上できるという効果を実現し、近接する前方物体に対しては画角(視野角)の大きなカメラを用いることで前方物体をより確実に捉えることができるという効果を実現する。
【0055】
ところで、本実施例にかかる車両前方監視装置1を適用した車両の走行時において、自車両前方に複数の前方物体が同時に存在するような場合がある。以下、ミリ波レーダ2によって複数の前方物体が検知された場合の制御内容について説明する。
【0056】
かかる場合、ミリ波レーダ2によって検知された各々の前方物体ごとに、物体相対距離Dfwが取得される。そして、画像情報選択部501は、物体相対距離Dfwが基準距離Db以上である前方物体に対しては処理用画像情報に狭角画像情報Dnを選択し、物体相対距離Dfwが基準距離Db未満である前方物体に対しては処理用画像情報に広角画像情報Dwを選択する。
【0057】
例えば、自車両の遠方(物体相対距離Dfwが基準距離Db以上)に前方物体A、Bが存在し、自車両の近傍(物体相対距離Dfwが基準距離Db未満)に前方物体Cが存在する場合、画像情報選択フラグFgは前方物体A〜Cごとに個別に設定される。この場合、前方物体A及びBに対しては画像情報選択フラグFgが1に設定され、前方物体Cに対しては画像情報選択フラグFgが0に設定される。
【0058】
そして、物体検出部501は、前方物体Cに対応する処理用カメラである広角カメラ3の視野内を払拭動作中のワイパー102が横切っていないときには、広角画像情報Dwを用いて前方物体Cを検出する。そして、上記広角カメラ3の視野内を払拭動作中のワイパー102が横切っているときには、広角画像情報Dwの代わりに狭角画像情報Dnを用いて前方物体Cを検出する。これにより、ワイパー102の払拭動作時においても前方物体Cがワイパー102の像に隠れて未検出となってしまうことの頻度を少なくすることができる。
【0059】
次に、前方物体A、Bに関しては、これらに対応する処理用カメラである狭角カメラ4の視野内を払拭動作中のワイパー102が横切っていないときには、狭角画像情報Dnを用いて前方物体Cを検出する。ここで、狭角画像情報Dnにおける画像領域内には前方物体A、Bの2つの検出対象が存在するため、ミリ波レーダ2から取得するレーダ情報に基づいて、前方物体ごとに対応するウィンドウを設定するとよい。そして、狭角カメラ4の視野内を払拭動作中のワイパー102が横切っているときには、狭角画像情報Dnの代わりに広角画像情報Dwを用いて前方物体A及びBを検出する。これにより、ワイパー102の払拭動作時においても前方物体A及びBがワイパー102の像に隠れて未検出となってしまうことの頻度を少なくすることができる。
【0060】
本実施例においては、ECU5を構成する画像情報選択部501、物体検出部502、ワイパー取り込み判別部504のそれぞれが、本発明における選択手段、検出手段、判別手段に対応している。
【符号の説明】
【0061】
1・・・車両前方監視装置
2・・・ミリ波レーダ
3・・・広角カメラ
4・・・狭角カメラ
5・・・ECU
501・画像情報選択部
502・物体検出部
503・ワイパー作動検知部
504・ワイパー取り込み判別部
505・衝突判定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フロントガラス越しに自車両前方を撮像する、車室内に設けられた狭角カメラと、
前記狭角カメラよりも広い画角を有し、且つフロントガラス越しに自車両前方を撮像する、車室内に設けられた広角カメラと、
前記狭角カメラが生成する画像情報である狭角画像情報および前記広角カメラが生成する画像情報である広角画像情報の何れか一方を用いて画像処理を行い、自車両前方に存在する前方物体を検出する検出手段と、
前記前方物体と自車両との相対距離に応じて、前記狭角画像情報および広角画像情報の何れか一方を前記検出手段が用いる画像情報として選択する選択手段と、
前記選択手段により選択されている画像情報を生成するカメラの視野内に自車両のフロントガラスを払拭するワイパーが含まれているか否かを判別する判別手段と、を備え、
前記検出手段は、前記判別手段が前記視野内に前記ワイパーが含まれていると判別している場合、前記選択手段により選択されていない方の画像情報を用いて前記前方物体を検出することを特徴とする車両前方監視装置。
【請求項2】
前記選択手段は、前記前方物体と自車両との相対距離が所定の基準距離以上の場合に前記狭角画像情報を選択し、該相対距離が該基準距離未満の場合に前記広角画像情報を選択することを特徴とする請求項1に記載の車両前方監視装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−123548(P2011−123548A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−278560(P2009−278560)
【出願日】平成21年12月8日(2009.12.8)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】