説明

車両室内を空調するための冷却回路とランキン回路との組み合わせ

【課題】 車両室内を空調するための冷却回路とランキン回路との組み合わせを改良する。
【解決手段】 本発明は、第1の冷媒を含む、車両室内を空調するための空調装置の冷却回路(10)と、第2の冷媒を含むランキン回路(20)との組み合わせに関し、そこでは、前記両回路(10,20)が、前記両冷媒と第3の媒体との熱交換を行うための少なくとも1つの区間を有すること、および、該区間において、前記両回路(10,20)からの冷媒が、同じ方向に平行かつ互いに隣接して流れる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第1の冷媒を含む、車両室内を空調するための空調装置冷却回路と、第2の冷媒を含むランキン回路との組み合わせに関する。
【背景技術】
【0002】
ランキンサイクルでは、閉じられた回路において、まず、水が蒸発器内で気化され、必要に応じて過熱され、それにより、圧力が上昇する。後に続くステップにおいて、タービン(または作動シリンダなど)の中で、蒸気が減圧され、それに続いて、凝縮器内で再び液化される。水の循環は、ポンプを用いて行われる。ランキンサイクルの枠内で、以下の状態変化が生じる。すなわち、1.蒸発器における等圧の熱供給。その際、水はまず蒸発点まで加熱され、気化され、次に過熱される。2.タービン内における蒸気の断熱膨張。3.凝縮器における蒸気の等圧かつ等温の凝縮。4.ポンプによる断熱かつ等エントロピーの圧力上昇。
【0003】
水の代わりに他の作動媒体が用いられる場合、この方法はオーガニックランキンサイクル(ORC)と呼ばれる。
【0004】
特許文献1によって、エンジンの冷却水回路でエンジンからの廃熱を回収し、その熱を回転力へ変換するための、冷却回路用の圧縮装置とランキン回路用の膨張装置とを備えた複合的な流体機械が知られている。この場合、エンジン冷却水回路の蒸発器は、ランキン回路用の加熱装置となる。こうして回収され、ランキン回路内で膨張装置を介して変換されたエネルギーは、圧縮装置を駆動するために用いられ、この圧縮装置が冷却回路の循環を行う。
【0005】
内燃機関の排ガスの熱を直接利用する単純なランキン回路は、特許文献2によって知られている。この場合、水は、貯水タンクからポンプを用いて汲み出され、内燃機関の排気管へ噴射されることで、気化する。気化した水は、絞り弁とシリンダの中を案内される。必要に応じて、次に、凝縮器内で冷却され、その後、再び貯水タンクへ送給される。
【0006】
特許文献3は、廃熱から回収されたエネルギーが、空調装置の冷媒を循環するために用いられるランキン回路を公開している。
【特許文献1】独国特許出願公開第102005047760号明細書
【特許文献2】米国特許第4406127号明細書
【特許文献3】独国特許出願公開第2848532号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような従来技術を前提にして、本発明の課題は、車両室内を空調するための冷却回路とランキン回路との組み合わせを改良することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題は、請求項1に記載の特徴を有する、車両室内を空調するための冷却回路とランキン回路との組み合わせによって解決される。有利な構成は、従属請求項に記載されている。
【発明の実施の形態】
【0009】
本発明では、第1の冷媒を含む、車両室内を空調するための空調装置の冷却回路が、第2の冷媒を含む、ランキン回路と組み合わされている。その際、両回路は、両冷媒と第3の媒体との熱交換を行うための少なくとも1つの区間を有し、その区間において、前記両回路からの冷媒が、同じ方向に平行かつ互いに隣接して流れる。熱交換が行われる区間が、両回路に共通に利用できることによって、たとえ、事情に応じてただ1つの回路または分岐回路のみが動作している場合であっても、利用可能な熱交換面を最適に利用することが可能となる。
【0010】
好ましい1つの実施形態では、両回路に同じ冷媒、特に好ましくはR134aが用いられる。この場合、両回路の間で冷媒の交換が行えることが好ましい。
【0011】
両回路の冷媒の交換は、好ましくは、両回路の共通に貫流する区間領域で行われ、その区間は、特に好ましくは、少なくとも1つの共通の凝縮器によって形成される。その際、必ずしも、凝縮器全体が共通の区間を形成する必要はない。むしろ、1つの回路を、凝縮器の、流れ方向にさらに進んだ位置につなぎ入れること、および/または1つの回路を、凝縮器の、流れ方向に反して進んだ位置から分岐させることも可能である。しかし、凝縮器全体の中を冷媒の流れ全体が貫流し、従って、従来の凝縮器を使えることが好ましい。両回路に対する調整は、接続管の部分にのみ必要とされる。また、凝縮器の送風機の作用を受ける風当面全体は、両回路の一方だけが動作しているときにも利用できる。本形態では、凝縮器内の冷媒の温度レベルは、十分に高いので、比較的わずかな送風出力で、凝縮熱を外気に放出することができる。
【0012】
また、共通の区間には、共通の収集器および/または共通の過冷却区間を設けることができる。このように諸領域を統合することで、必要な構成部材の数が少なくなり、従って、コストや総重量も低減される。
【0013】
また、共通に利用される区間内で両回路の冷媒を混合する代わりに、この区間は、平行に延設された管路を有する、共通に利用される凝縮器によって形成され、この凝縮器の中を、熱交換のために、共通に利用される媒体、特に空気を貫流させることができる。その際、管路は、好ましくは、共通に利用される媒体の流れ方向に前後に配置されている。管路間に、熱交換面を大きくする構造体、例えば、特に波形フィンを設けることができる。
【0014】
好ましくは、ランキン回路には、蒸発器が設けられており、この蒸発器が、エンジンから来る熱をランキン回路の冷媒へ伝える。この熱がエンジン冷却剤を介して伝えられる場合、効率を高めるために、エンジン冷却回路の制御温度を高くすることができ、特に100℃以上に、特に好ましくは110℃以上に高めることができる。蒸発器内の温度が高くなっているにもかかわらず、ランキン回路内の冷媒の温度は、R134aを用いる場合、冷媒の分解温度よりも低い。同様のことが、市場に流通している他の冷媒および潤滑油を用いる場合にも当てはまる。
【0015】
両回路内に流れる媒体は、好ましくは、一方の回路の領域内において超臨界的な状態に達し、もう一方の回路においては、通常の動作条件では超臨界状態に達することはない。
【0016】
特に好ましいのは、R134aまたは類似の熱力学的な特性を持つ冷媒を、ランキン回路および/または空調装置の冷却回路に使用することである。この種の冷媒は、ランキン回路でスクロール膨張機を用いるのに特によく適している。これは、冷媒の通常の流れの場合に、膨張体積流量が、スクロール圧縮機を基にしている膨張機の行程容積および回転数範囲によく合っているからであり、その結果、膨張機には特殊な構造が不必要であり、従って、コストを低減することができる。
【0017】
以下において、本発明について、2つの実施例を用いて図面を参照しながら詳述する。
【実施例】
【0018】
車両室内を空調する働きをする空調装置の冷却回路10が、圧縮機11と、それに続いて配置された、収集器13および過冷却区間14が組み込まれた凝縮器12と、膨張機15と、車両室内に送給すべき空気が貫流する蒸発器16とを有する。本例では、冷媒として、R134aが用いられ、これが、臨界未満の状態で冷却回路10の中を貫流する。
【0019】
余剰エネルギーを、本例では、内燃機関のエンジン冷却回路(図示されていない)から回収するために、オーガニックランキン回路20が備えられており、該オーガニックランキン回路の循環は、電気的に駆動されるポンプ21によって行われる。このORC回路20の冷媒は、同様にR134aであり、ORCポンプ21からORC蒸発器22へ送られ、蒸発器内で気化され、過熱される。その際、エンジン冷却回路からの上記余剰エネルギーが、本例ではエンジン冷却剤によって伝えられ、用いられる。逆流動作において、蒸発器22の中を貫流され、その際、熱交換が、本例では1段で行われる。しかし、また、多段の熱交換も可能である。
【0020】
エンジン冷却剤と冷媒との間に十分な温度差を設けるために、本例では、エンジン冷却回路には、グリコールの割合が高い冷却剤と過圧システムとが用いられる。エンジン冷却回路を制御するサーモスタットの制御温度は、本例では、110℃である。好ましい制御温度は100℃以上、特に好ましくは110℃以上である。冷却剤として、水の代わりに、エンジンの冷却に適した他の液状媒体を用いることも可能である。
【0021】
ORC蒸発器22に続いて、ORC回路20の過熱された蒸気は、ORC膨張機23内で減圧される。その際、得られたエネルギーを用いて、発電機23’が駆動される。伝達は機械技術的に行われ、その際、発電機23’の出力または負荷モーメントを制御することができる。ORC膨張機23は、本例では、体積膨張比が3.0である体積膨張機、すなわち、スクロール膨張機である。この種のスクロール膨張機の好ましい体積膨脹比は、1.5から5.0であり、特に好ましくは2.0から3.5である。
【0022】
蒸気は、膨張機23に続いて、凝縮のために、収集器25と過冷却区間26とを備えたORC凝縮器24に達する。
【0023】
本例では、両回路10および20は、収集器13または25と過冷却区間14または26とを含む凝縮器12または24の領域において統合されており、すなわち、これらの構成部材がそれぞれ1つだけ用いられており、この統合の結果、冷媒の混合が、温度平衡および圧力平衡ととともに行われる。この理由から、当該の構成部材は、図面および以下の説明において、符号12/24、13/25、14/26で示されている。
【0024】
両回路10および20についての圧力pとエンタルピーhとの関係を表したグラフが、図2に示されている。ORC回路20に分岐点の後に配置されたポンプ21によって、過冷却された冷媒の圧力は上昇する。もう一方の分岐路では、下流側に配置された膨張機15によって圧力は低下する。一方、両分岐路とも、エンタルピーはほぼ一定のままである。その下流側に配置された蒸発器16または22内では、圧力がほぼ一定の状態で、エンタルピーは上昇する。次に、空調装置の冷媒回路10では、温度がほぼ一定の状態で、圧縮機11によって圧力は上昇する。一方、ORC回路20では、ORC膨脹機23内で、温度がほぼ一定の状態で、圧力は低下する。この場合、圧力が両分岐路の合流領域でほぼ同じになるように制御が行われる。図2のグラフから明らかなように、空調装置の冷却回路10は、ほとんど臨界未満の状態で動作し、一方、ORC回路20は、臨界未満の状態から逸脱する可能性がある。
【0025】
凝縮器12/24は、第1の実施例では、原則として、空調装置の冷却回路の冷却に通常用いられる従来の空冷式冷却器である。
【0026】
図4に示された第2の実施例では、回路10および20の基本構造は、以下において明示しない限り、第1の実施例の基本構造と同じである。しかし、第1の実施例と異なり、両回路10と20との間における冷媒の交換は想定されておらず、すなわち、共通に冷媒が貫流する凝縮器12/24は存在せず、代わりに凝縮器12と凝縮器24とが用いられ、その中を互いに平行に冷媒が貫流し、また、それらの凝縮器が、同じ気流の中に配置されている。本例では、凝縮器12および24は、構造上は1つのユニットであり(図5aを参照)、そこでは、平行に密接に隣接して延設されてはいるが、分離して構成された管路12’および24’が、両回路10,20用の偏平管として設けられている。これらの偏平管の間には、共通の波形フィンが設けられており、従って、管路12’と24’とは熱的に互いに結合されている。
【0027】
管路12’,24’の構成に関する1つの態様では、図5bに示されているように、共通に利用される、マルチチャンバ形材による偏平管を用いることもできる。これにより、両管路12’,24’間の熱結合は改良される。この場合、チャンバの一部分に空調装置の冷却回路10の冷媒が貫流し、チャンバの他の部分にORC回路20の冷媒が貫流する。この場合も、共通の波形フィンを設けることが可能である。
【0028】
本例では構造ユニットとして構成された、共通に利用される凝縮器に続いて、個別の冷媒流が、別個に構成された収集器13,25の中を貫流する。冷却回路10,20のその他の構造は、第1の実施例の構造と同じであり、従って、他の構造についてはこれ以上言及しない。
【0029】
両収集器は、凝縮器と組み合わせて1つの構造ユニットにすることも可能である。その場合、下流側に過冷却区間が設けられる。
【0030】
両回路を冷媒について分離することで、空調設備の冷却回路10とORC回路20とに異なった冷媒を用いることができる。同様に、回路10および20で明らかに異なった圧力が用いられる。しかし、熱結合によって、凝縮は、ほぼ同じ温度レベルで行われる。
【0031】
好ましくは両実施例において電気的に駆動されるORC回路20のポンプ21は、吐出し量に応じて制御することができる。あるいは、所定の圧力差または所定の圧力比、蒸発器22の(最後の)加熱段の後における所定の冷媒温度、あるいは膨張機23の前と後における所定の密度比に応じて制御することも可能である。
【0032】
前述の2つの実施例では、ポンプ21の吐出し量と発電機23’の取り出される出力とは、一方の側で、膨張機23に送給されている冷媒の密度比が、膨張機23の体積膨脹比と50%以上、特に好ましくは20%以上異なることがないように制御される。両実施例の場合、凝縮器において凝縮器を貫流する気流へ与えることができる熱量を増大させるために、当該ORC回路20のポンプ21と膨張機23とは、冷媒が膨張機を過ぎた後の膨脹した状態でもまだ所定の過熱を有するように制御される。
【0033】
また、冷媒は、作動媒体であってもよい。冷媒は、特に好ましくはR134a、R152a、CO2、Blend Hまたは類似の媒体である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】第1の実施例における、車両室内を空調するための冷却回路とランキン回路との組み合わせの概略図である。
【図2】R134aの圧力−エンタルピー線図(p−h線図)であり、第1の実施例において想定されている、オーガニックランキン回路と冷媒回路とのサイクルが図式的に示されている。
【図3】R134aの温度−エンタルピー線図(T−h線図)であり、作動媒体R134aの十分な凝縮を伴っている。
【図4】第2の実施例における、車両室内を空調するための冷却回路とランキン回路との組み合わせの概略図である。
【図5】図5aと図5bは、第1または第2の実施例で想定されている、両回路の凝縮器領域における熱結合の例を示す概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の冷媒を含む、車両室内を空調するための空調装置の冷却回路(10)と、第2の冷媒を含むランキン回路(20)との組み合わせにおいて、
前記両回路(10,20)が、前記両冷媒と第3の媒体との熱交換を行うための少なくとも1つの区間を有すること、および、該区間において、前記両回路(10,20)からの冷媒が、同じ方向に平行かつ互いに隣接して流れることを特徴とする組み合わせ。
【請求項2】
前記両回路(10,20)が同じ冷媒を含み、両回路の間で冷媒の交換が行われることが想定されていることを特徴とする、請求項1に記載の組み合わせ。
【請求項3】
前記両回路(10,20)の冷媒の交換が、両回路(10,20)の、冷媒が共通に貫流する区間領域で行われることを特徴とする、請求項2に記載の組み合わせ。
【請求項4】
前記共通区間に、前記両回路(10,20)用の少なくとも1つの共通の凝縮器(12/24)が配置されていること、あるいは前記共通区間が、少なくとも、冷媒が部分的に共通に貫流可能な1つの凝縮器の中に設けられていることを特徴とする、請求項3に記載の組み合わせ。
【請求項5】
共通の収集器(13/25)が具備されていることを特徴とする、請求項3または4に記載の組み合わせ。
【請求項6】
共通の過冷却区間(14/26)が具備されていることを特徴とする、請求項3から5のいずれか1項に記載の組み合わせ。
【請求項7】
前記区間が、平行に延設された管路を有する、共通に利用される凝縮器(12,24)によって形成されており、該凝縮器の中を、該凝縮器との熱交換のために、共通に利用される媒体、特に空気が貫流できることを特徴とする、請求項1に記載の組み合わせ。
【請求項8】
前記ランキン回路(20)に蒸発器(22)が設けられており、該蒸発器が、エンジンから来る熱をランキン回路(20)の冷媒へ伝えることを特徴とする、前記請求項のいずれか1項に記載の組み合わせ。
【請求項9】
前記回路(10,20)内に流れる媒体が、一方の回路(20)の領域内において超臨界的な状態に達し、もう一方の回路(10)においては、通常の動作条件では超臨界状態に達しないことを特徴とする、前記請求項のいずれか1項に記載の組み合わせ。
【請求項10】
R134aがORC回路(20)における冷媒として用いられることを特徴とする、前記請求項のいずれか1項に記載の組み合わせ。
【請求項11】
R134aが空調装置の冷却回路(10)における冷媒として用いられることを特徴とする、前記請求項のいずれか1項に記載の組み合わせ。
【請求項12】
前記両回路(10,20)が互いに独立して、または少なくとも共通に貫流可能な区間において互いに独立して、両回路のそれぞれ(10あるいは20)に設けられたポンプ(11,21)を介して、冷媒を循環させることが可能であり、その際、想定されている動作条件において、ランキン回路(20)が少なくとも共通に貫流できない区間にあり、一方、空調装置の冷却回路(10)に冷媒が循環されることを特徴とする、前記請求項のいずれか1項に記載の組み合わせ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−127017(P2008−127017A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−304120(P2007−304120)
【出願日】平成19年11月26日(2007.11.26)
【出願人】(594042033)ベール ゲーエムベーハー ウント コー カーゲー (222)
【Fターム(参考)】