説明

車両後部における収納筐体の取り付け構造

【課題】物品収納部の収納スペースを広く取れ、車両の空力特性への影響が低減される車両後部における収納筐体の取り付け構造を提供する。
【解決手段】車両後部において、車幅方向に延設されるクロスメンバ3または車両前後方向に延設されるリアサイドフレーム4の少なくともいずれかに対し、壁面部2b及び底面部2aを有して凹状に形成される物品収納用の収納筐体2を垂設するように溶接により接合して取り付ける取り付け構造であって、収納筐体2の壁面部2bを、クロスメンバ3、リアサイドフレーム4の側部に溶接により接合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両後部における収納筐体の取り付け構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図6に示す車両後部には、通常、主にスペアタイヤを収納するべく凹状空間の物品収納部51が形成されている。図7は従来の物品収納部51周りの外観斜視図であり、本図において、物品収納部51の筐体を構成する収納筐体52は鋼板からなり、収納筐体52の前方、両側にそれぞれ位置するクロスメンバ53、リアサイドフレーム54に対し、垂設されるかたちで溶接により接合される。
【0003】
図8は図7におけるD−D断面図であり、リアサイドフレーム54に対する収納筐体52の従来の取り付け構造は、上方を開口させた断面コ字形の本体部54aと、この本体部54aの上端両側に一体に形成されるフランジ部54bとからなる、いわゆるハット形状を呈したリアサイドフレーム54に対し、収納筐体52の上縁部52cを載置して前記フランジ部54bを介してスポット溶接により取り付けるというものである。クロスメンバ53側における取り付け構造もこれと同様である。なお、特許文献1には、シートの取り付け構造として、クロスメンバを介してシートをフロアに取り付ける技術が開示されている。
【特許文献1】特開2003−291859号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記取り付け構造は、リアサイドフレーム54の上部側に収納筐体52の上縁部52cをスポット溶接する態様であり、それゆえリアサイドフレーム54側において水平状に延設されるフランジ部54bが必要となる。したがって、この取り付け構造では、リアサイドフレーム54の本体部54aと収納筐体52の壁面部52bとが、両者の間にフランジ部54bが介在する分、離間することとなるが、リアサイドフレーム54の配設位置が決まっているような場合、フランジ部54bの存在は物品収納部51の収納スペースを横方向に広げるに当たり妨げと成り得る部位と言える。勿論、図7に示したクロスメンバ53側についてもこれと同様のことが言える。
【0005】
また、図9は収納筐体52の底面部52a周りの断面説明図である。底面部52aは車両外部に露出する部位となる。本図において、収納筐体52の底面部52aを支持するように、左右のリアサイドフレーム54(図7)に補強クロスメンバ55が掛け渡されている場合(補強クロスメンバ55の両端部は、図示していないが上方に屈曲して左右のリアサイドフレーム54と連結している)、従来では、走行風が補強クロスメンバ55と干渉し、補強クロスメンバ55の後方空間において渦を巻くように気流が乱れ、車両の空力特性を低下させるおそれがあった。
【0006】
本発明は以上のような課題を解決するために創案されたものであり、物品収納部の収納スペースを広く取れ、車両の空力特性への影響が低減される車両後部における収納筐体の取り付け構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本発明は、車両後部において、車幅方向に延設されるクロスメンバまたは車両前後方向に延設されるリアサイドフレームの少なくともいずれかに対し、壁面部及び底面部を有して凹状に形成される物品収納用の収納筐体を垂設するように溶接により接合して取り付ける取り付け構造であって、前記収納筐体の壁面部を、前記クロスメンバまたはリアサイドフレームの側部に溶接により接合する構成としたことを特徴とする車両後部における収納筐体の取り付け構造とした。
【0008】
この取り付け構造によれば、クロスメンバまたはリアサイドフレーム側において収納筐体の壁面部に沿って下方に延設する溶接部を設けることで、収納筐体の壁面部をクロスメンバまたはリアサイドフレームの側部に取り付けることができる。したがって、従来のように、クロスメンバまたはリアサイドフレームに形成された水平状のフランジ部が間に介在するという問題がなく、その分、壁面部の位置をクロスメンバやリアサイドフレーム側に寄せることができる。
【0009】
また、本発明は、前記クロスメンバまたはリアサイドフレームは、水平状に位置し、前記収納筐体の壁面部に沿って下方に延設される第1フランジ部を形成した一辺部と、鉛直状に位置し、横方向に延設される第2フランジ部を形成した他辺部とからなる断面略L字形のフレーム材からなり、かつ、前記収納筐体の壁面部の上端には水平方向外方に延設される上縁部が形成され、前記フレーム材と前記収納筐体の壁面部及び上縁部とによって中空閉断面部が形成されるように、前記収納筐体の壁面部及び上縁部をそれぞれ前記フレーム材の第1フランジ部及び第2フランジ部に溶接により接合する構成としたことを特徴とする車両後部における収納筐体の取り付け構造とした。
【0010】
この取り付け構造によれば、クロスメンバまたはリアサイドフレームの剛性、特に捻り剛性が中空閉断面部の存在により高められ、かつ、クロスメンバまたはリアサイドフレームに対して収納筐体のみを利用して中空閉断面部を形成できるため、剛性を確保する専用の部材を別途設ける必要がなく、部品点数の低減化、組み付け工数の簡略化が図れる。
【0011】
また、本発明は、前記収納筐体の底面部の外側を支持するように、左右に配設した前記リアサイドフレーム間に補強クロスメンバを掛け渡し、前記収納筐体に溶接する構成としたことを特徴とする車両後部における収納筐体の取り付け構造とした。
【0012】
この取り付け構造によれば、垂設される収納筐体を深く形成しても、補強クロスメンバにより収納筐体の剛性を高めることができる。
【0013】
また、本発明は、前記補強クロスメンバに近接した後方位置において、前記収納筐体の底面部が前記補強クロスメンバの底部と同程度の高さ位置となるように、前記収納筐体の底面部に凹部を形成したことを特徴とする車両後部における収納筐体の取り付け構造とした。
【0014】
この取り付け構造によれば、補強クロスメンバの下方を通過した走行風は、そのまま底面部に沿って滑らかに後方へと流れる。したがって、補強クロスメンバの後方空間における気流の乱れの発生が低減され、車両の空力特性の低下を抑制できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、車両後部における物品収納部の収納スペースを広くとれ、車両の室内商品性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1は車両後部に形成された物品収納部1周りの外観斜視図である。物品収納部1は、物品として主にスペアタイヤを収納する凹状の空間として形成され、その筐体となる収納筐体2の基本構成は、物品を載置する底面部2aと、底面部2aの縁部から立ち上がる壁面部2bとからなる。底面部2aと壁面部2bとは一体に形成された関係であっても良いし、別体の部材として形成された関係であっても良い。なお、物品収納部1の上方には図示しない仕切り板やカーペット等が水平状に配設され、その上方空間は乗客の荷物等を収納するトランクとして機能する。
【0017】
符号3は車幅方向に延設されるクロスメンバ、符号4は車両前後方向に延設される左右一対のリアサイドフレームを示し、クロスメンバ3は左右のリアサイドフレーム4間に掛け渡されるように固設される。つまり、クロスメンバ3と左右のリアサイドフレーム4とは、物品収納部1周りに関して、車両後方側を開口させた平面視コ字形のフレーム材を構成するものである。したがって、収納筐体2は、平面視矩形状を呈する底面部2aと3面からなる壁面部2bとを有した筐体として、クロスメンバ3やリアサイドフレーム4に垂設されるかたちで取り付けられる。
【0018】
従来では、図7に示したように、収納筐体52がクロスメンバ53やリアサイドフレーム54の上部でスポット溶接される構造であったのに対し、本発明は、図1に示すように、収納筐体2の壁面部2bを、クロスメンバ3、リアサイドフレーム4の側部に溶接により接合する取り付け構造としたことを主な特徴とする。これにより、図8に示したように水平状に延設されたフランジ部54bが間に介在するという問題がなくなり、その分、図1において壁面部2bの位置をクロスメンバ3やリアサイドフレーム4側に寄せることができる。つまり、物品収納部1の横方向の収納スペースを広げることができる。なお、本発明の取り付け構造は、クロスメンバ3、リアサイドフレーム4の両方に適用される場合に限られず、少なくともいずれかに適用されていれば本発明に包含される。
【0019】
図2、図3はそれぞれ図1におけるA−A断面図、B−B断面図である。収納筐体2の壁面部2bをクロスメンバ3やリアサイドフレーム4の側部に溶接(スポット溶接)により接合するという本発明の取り付け構造は、クロスメンバ3、リアサイドフレーム4側において、壁面部2bに沿って延設される溶接部が必要な構造となる。そこで本実施形態では、図2に示すように、クロスメンバ3として、水平状に位置し、収納筐体2の壁面部2bに沿って下方に延設される第1フランジ部3cを形成した一辺部3aと、鉛直状に位置し、壁面部2bから離れるように横方向に延設される第2フランジ部3dを形成した他辺部3bとからなる断面略L字形のフレーム材から構成し、第1フランジ部3cを前記溶接部に充てている。また、図3に示すように、リアサイドフレーム4においても、水平状に位置し、収納筐体2の壁面部2bに沿って下方に延設される第1フランジ部4cを形成した一辺部4aと、鉛直状に位置し、壁面部2bから離れるように横方向に延設される第2フランジ部4dを形成した他辺部4bとからなる断面略L字形のフレーム材から構成し、第1フランジ部4cを前記溶接部に充てている。
【0020】
クロスメンバ3、リアサイドフレーム4は高剛性を有する部材であることが求められるが、前記したように断面略L字状のフレーム材とした場合、単体では特に捻り剛性が低下するおそれがある。そこで、本発明は、図2に示すように、収納筐体2の壁面部2bの上端において水平方向外方に延設される上縁部2cを形成し、クロスメンバ3と収納筐体2の壁面部2b及び上縁部2cとによって中空閉断面部5が形成されるように、壁面部2bをクロスメンバ3の第1フランジ部3cに接面させてスポット溶接により接合すると共に、上縁部2cを第2フランジ部3dに接面させてスポット溶接により接合する構造としている。したがって、クロスメンバ3の剛性、特に捻り剛性がこの中空閉断面部5の存在により高められることとなる。本取り付け構造によれば、クロスメンバ3の肉厚を厚くして剛性を確保する方法に比して重量増加を抑えることができる。また、クロスメンバ3に対して収納筐体2のみを利用して中空閉断面部5を形成する構造であるため、剛性を確保する専用の部材を別途設ける必要がなく、部品点数の低減化、組み付け工数の簡略化を図ることができる。
【0021】
なお、本実施形態では、リアサイドフレーム4側については、図3に示すように予め中空閉断面部5を形成するように断面略L字形を呈した補強メンバ6をリアサイドフレーム4に溶接した構造となっているが、このリアサイドフレーム4側においても、前記したクロスメンバ3側における取り付け構造を適用することができる。
【0022】
次に、収納筐体2の剛性の問題及び気流の乱れの問題に関して本発明を説明する。図1において、左右のリアサイドフレーム4間には収納筐体2に対して下方に迂回するように補強クロスメンバ7が掛け渡されており、収納筐体2の底面部2aはこの補強クロスメンバ7に載置されるかたちでスポット溶接されている。収納筐体2はクロスメンバ3やリアサイドフレーム4に垂設される構造であるため、収納筐体2を深く形成すると剛性不足となるおそれがある。そこで、本発明のように、補強クロスメンバ7と収納筐体2の底面部2aや壁面部2bとを溶接により接合することで、収納筐体2の剛性を確保することができる。
【0023】
図4は収納筐体2の底面部2a周りの断面説明図である。補強クロスメンバ7に近接した後方位置において、底面部2aが補強クロスメンバ7の底部と同程度の高さ位置となるように、底面部2aには局所的な凹部8が形成されている。この凹部8は三角表示板やジャッキ、工具等、主に非常時に用いる小物を収納するスペースとして確保されるものであり、図1に示すように例えば左右一対として形成される。
【0024】
このように、補強クロスメンバ7に近接した後方位置において、底面部2aに凹部8を形成して、底面部2aを補強クロスメンバ7の底部と同程度の高さ位置に合わせるようにすれば、補強クロスメンバ7の下方を通過した走行風は、そのまま底面部2aに沿って滑らかに後方へと流れる。したがって、補強クロスメンバ7の後方空間における気流の乱れの発生が低減され、車両の空力特性の低下を抑制できる。また、底面部2aと仮想線で示す車両のリヤバンパ9の下面とが滑らかに連なるように、底面部2aの後端とリヤバンパ9の下端とを位置合わせすることにより、底面部2aを通過した走行風を滑らかに車両後方へと流すことができる。
【0025】
なお、図4の場合、補強クロスメンバ7として断面ハット形状のフレーム材を用いているため、補強クロスメンバ7の底部と後方に位置する底面部2aとの間には、補強クロスメンバ7のフランジ部が存する分、若干の空間が形成されることとなる。しかし、この空間も車両前後方向の距離が短ければ、走行風の殆どは底面部2aに沿ってそのまま流れることとなり、この空間に流れ込む気流は僅かである。したがって、気流の乱れの問題はさほど生じない。
【0026】
また、図5は図4に対する変形例を示した図であり、補強クロスメンバ7を断面略L字形のフレーム材とし、その一辺側を後方に位置した底部2aにスポット溶接した場合を示している。これによれば、補強クロスメンバ7と後方に位置する収納筐体2の底部2aとの間に空間が全く存しない構造となるので、補強クロスメンバ7の下方を通過した走行風は全て底面部2aに沿って滑らかに後方へと流れる。したがって、気流の乱れの問題がより解消され、車両の空力特性の低下が抑制される。
【0027】
次いで、収納筐体2の形状の問題について説明すると、従来では図7に示した収納筐体52は壁面部と底面部とが絞り加工により一体に形成されていたので、壁面部と底面部とのコーナーのR形状(曲率半径)が大きくなり、その分、収納スペースが狭くなるという問題があった。また、絞り加工のため、物品収納部51の空間形状は自ずとほぼ逆円錐台形に限られることになり、スペアタイヤよりも大きい角型形状の物品には対応しづらいという問題がある。これに対して、図2に示すように、底面部2aと壁面部2bとを別体の部材から構成すれば、両者の端部周りを略直交させるかたちで接続することができるので、R形状が存しない分、壁面部2bと底面部2aとのコーナースペースが広くなり、物品収納部1全体の収納スペースが広くなる。また、物品収納部1の空間形状を扁平の略直方体形状に形成できるので、スペアタイヤよりも大きい角型形状の物品も収納できるようになる。
【0028】
以上、本発明について好適な実施形態を説明した。前記したように、本発明に係る収納筐体2の取り付け構造は、クロスメンバ3、リアサイドフレーム4のいずれかに対して適用されていれば本発明に包含されるものである。また、場合によってクロスメンバ3、リアサイドフレーム4の断面形状も略L字形状のものに限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の説明図であり、車両後部に形成された物品収納部周りの外観斜視図である。
【図2】図1におけるA−A断面図である。
【図3】図1におけるB−B断面図である。
【図4】本発明の説明図であり、収納筐体の底面部周りの断面説明図である。
【図5】本発明の説明図であり、図4に対する変形例を示した断面説明図である。
【図6】車両後部における物品収納部のレイアウトを示す車両の側面説明図である。
【図7】従来の物品収納部周りの外観斜視図である。
【図8】図7におけるD−D断面図である。
【図9】従来の収納筐体の底面部周りを示す断面説明図である。
【符号の説明】
【0030】
1 物品収納部
2 収納筐体
2a 底面部
2b 壁面部
2c 上縁部
3 クロスメンバ
3a 一辺部
3b 他辺部
3c 第1フランジ部
3d 第2フランジ部
4 リアサイドフレーム
5 中空閉断面部
7 補強クロスメンバ
8 凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両後部において、車幅方向に延設されるクロスメンバまたは車両前後方向に延設されるリアサイドフレームの少なくともいずれかに対し、壁面部及び底面部を有して凹状に形成される物品収納用の収納筐体を垂設するように溶接により接合して取り付ける取り付け構造であって、
前記収納筐体の壁面部を、前記クロスメンバまたはリアサイドフレームの側部に溶接により接合する構成としたことを特徴とする車両後部における収納筐体の取り付け構造。
【請求項2】
前記クロスメンバまたはリアサイドフレームは、水平状に位置し、前記収納筐体の壁面部に沿って下方に延設される第1フランジ部を形成した一辺部と、鉛直状に位置し、横方向に延設される第2フランジ部を形成した他辺部とからなる断面略L字形のフレーム材からなり、かつ、前記収納筐体の壁面部の上端には水平方向外方に延設される上縁部が形成され、
前記フレーム材と前記収納筐体の壁面部及び上縁部とによって中空閉断面部が形成されるように、前記収納筐体の壁面部及び上縁部をそれぞれ前記フレーム材の第1フランジ部及び第2フランジ部に溶接により接合する構成としたことを特徴とする請求項1に記載の車両後部における収納筐体の取り付け構造。
【請求項3】
前記収納筐体の底面部の外側を支持するように、左右に配設した前記リアサイドフレーム間に補強クロスメンバを掛け渡し、前記収納筐体に溶接する構成としたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の車両後部における収納筐体の取り付け構造。
【請求項4】
前記補強クロスメンバに近接した後方位置において、前記収納筐体の底面部が前記補強クロスメンバの底部と同程度の高さ位置となるように、前記収納筐体の底面部に凹部を形成したことを特徴とする請求項3に記載の車両後部における収納筐体の取り付け構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−312396(P2006−312396A)
【公開日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−136047(P2005−136047)
【出願日】平成17年5月9日(2005.5.9)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】