説明

車両後部構造

【課題】 車両の誘導抵抗を低減可能な車両後部構造を得る。
【解決手段】 車両2の後部床下に、略三角形状の翼部材1を、頂点を前方にして、車幅方向中心線に対して対称に、水平方向に対して略0°(deg)または後方が上となるように傾斜させた姿勢で、床下面と間隔をあけて配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両後部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の空気抵抗を減らす技術として、特許文献1に開示される技術が知られている。特許文献1では、車両後部の床下面を平坦面とし、後端部に後方に向けて上方に向かう傾斜面を形成することで、床下における空気の乱れを抑制するとともに、車両後端面の面積を減らすことで、空気抵抗の低減を図っている。
【特許文献1】特開2001−10543号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、自動車等の車両の走行時における空気抵抗としては、形状抵抗(圧力抵抗)の他、誘導抵抗、内部流抵抗、摩擦抵抗等がある。このうち、誘導抵抗は、車両の両側縁で空気が車両側外方から上方かつ内方側に巻き込みながら後方に螺旋状に流下する縦渦(誘導渦;後流渦)によって生じるもので、この縦渦を生じさせるための仕事分に相当するものである。この誘導抵抗は、走行時の車両に作用する全空気抵抗の約1割程度を占めており、その低減が望まれている。しかしながら、上記特許文献1に開示される技術を含め、上記縦渦による車両の誘導抵抗を効果的に低減する技術は見あたらない。
【0004】
そこで、本発明は、車両の誘導抵抗を低減可能な車両後部構造を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明にかかる車両後部構造にあっては、車両の後部床下に、略三角形状の翼部材を、頂点を前方にして、車幅方向中心線に対して対称に、水平方向に対して略0°または後方が上となるように傾斜させた姿勢で、床下面と間隔をあけて配置したことを、最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、空気が上記翼部材の両側縁で当該翼部材の上面から下面に巻き込み、後方に流出する翼端渦を発生させることができる。この翼端渦は、車両の各側縁で、上記誘導渦と反対方向に旋回する渦流となる。すなわち、本発明によれば、上記翼部材によって生じさせた翼端渦によって、車両の両側縁で生じる上記誘導渦を減殺することができ、もって、誘導抵抗を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本実施形態にかかる車両後部構造を車両の後方かつ下方から見た斜視図、図2は、車両後部構造の側面図、図3は、車両で生じる縦渦を模式的に示す側面図、図4は、車両後部構造に用いられる翼部材によって生じる翼端渦を模式的に示す斜視図(後方かつ下方から見た図)、図5は、縦渦および翼端渦を模式的に示す背面図である。
【0008】
本実施形態では、車両2の後部の床下に、床下面と間隔をあけて、略三角板の板状の翼部材1が設けられている。この翼部材1は、頂点(前端1c)を車両前後方向前方に向け、車幅方向中心線(車両前後方向に伸びる車両2の中心線CL;図5)に対して対称となる姿勢で配置される。さらに、この翼部材1は、車両水平方向に対して略0°(deg)または前端1cに対して後縁1eが上方となるように傾斜させた姿勢で、床下面と間隔をあけて配置される。また、翼部材1の上面1bには、垂直に伸びる板状の三つのブラケット3が設けられており、このうち、前方のブラケット3はフロアパネル4の下面に取り付けられ、後方の二つのブラケット3は、リヤバンパー5の下面に取り付けられている。なお、後部の床下には、排気管6の他、マフラー7、燃料タンク8等が配置されている。9は車輪を示す。
【0009】
この翼部材1は、航空機の翼として用いられるデルタ翼と同様の作用効果を奏するものである。すなわち、本実施形態では、図4に示すように、上面1b側の圧力が下面1a側の圧力より高くなり、これにより、両側縁1dにおいて、空気が上面1bから下面1aに巻き込みながら後方に流下する一対の翼端渦11が発生する。翼端渦11は、側縁1d(前縁)に沿って後方に行くにつれて成長し、比較的大きな渦流となって後方に放出される。なお、この翼端渦11は、翼部材1に対し、下向きの揚力を与えるものとなる。
【0010】
一方、車両では、一般的に、空気が車両の両側縁で車両側外方から上方かつ内方側に巻き込みながら後方に螺旋状に流下する一対の縦渦(誘導渦;後流渦)が生じる。本実施形態では、車両2の後部の両側縁2aをほぼ中心として、空気が車体の側面から上面側に巻き込みながら後方に螺旋状に流下して、縦渦10(誘導渦;後流渦)が生じている。そして、この縦渦10を生じさせる仕事分に相当する空気力として、車両2には、車両前後方向前方に誘導抵抗が作用することになる。なお、縦渦10は、車両2の後部を上方に持ち上げる揚力を発生させる。
【0011】
ここで、本実施形態では、翼端渦11が、翼部材1の側縁1dにおいて、上面1bから側縁1dの外側を経由して下面1aに巻き込む方向の渦流となるのに対し、縦渦10は、車両2の後部の側縁2aにおいて、側面から上面に巻き込む方向の渦流となっており、図5に示すように、車幅方向右側および左側のそれぞれで、翼端渦11と縦渦10とは、相互に反対方向に旋回する渦流となっている。したがって、本実施形態によれば、翼端渦11によって縦渦10を減殺することができ、もって、この縦渦10によって生じる誘導抵抗を減殺することができる。
【0012】
特に、本実施形態では、翼部材1を、車両水平方向に対して後方が上となるように傾斜させた姿勢で取り付けた分、翼端渦11が、斜め上方に向けて放出されることになり、上方に位置する縦渦10をより効果的に減殺することができるという利点がある。
【0013】
また、本実施形態では、翼部材1の後縁1eの位置を車両2の後縁の位置にほぼ一致させるようにしたため、翼端渦11が車両床下で減衰するのを抑制し、より効果的に利用することができる。
【0014】
さらに、本実施形態では、翼部材1の最低地上高(本実施形態では、前端1cの地上高)を、車両床下の最下点(例えばフロアパネル4の最下点)における最低地上高より高くし、これにより、翼部材1が損傷したり外れたりするのを抑制しつつ、最低地上高となる部分から上向きの空気流を得て、翼端渦11をより上方に向けて放出し、上方に位置する縦渦10をさらに効果的に減殺するのが好適である。
【0015】
以上の本実施形態によれば、車両2の後部床下に、略三角形状の翼部材1を、頂点(前端1c)を前方にして、車幅方向中心線に対して対称に、車両水平方向に対して略0°または後方が上となるように傾斜させた姿勢で、床下面と間隔をあけて配置したため、翼部材1の側縁1dにおいて、上面1bから側縁1dの外側を経由して下面1aに巻き込む方向の渦流として、翼端渦11を形成し、この翼端渦11により、車両2に生じる縦渦10を減殺することができる。よって、本実施形態によれば、縦渦10によって生じる誘導抵抗を減らすことができ、燃費向上や速度向上等に資することができる。
【0016】
また、本実施形態によれば、翼部材1を板状部材としたため、誘導抵抗を減らす構造を比較的簡素な構造として得ることができ、製造の手間を省き、製造コストを低減することができる。
【0017】
また、本実施形態によれば、翼部材1により車両後部におけるダウンフォースを向上させることができ、運動性能向上等に資することができる。
【0018】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態には限定されず、種々の変形が可能である。
【0019】
例えば、翼部材1に替えて、図6に示す翼部材1Aを用いてもよい。この翼部材1Aは、側縁(前縁)1dの車幅方向に対する後退角を、前側で大きく、後側で小さくなるよう二段階に設定したもので、所謂ダブルデルタ翼と同様の空力特性を得ることができるものである。また、これ以外にも、側縁1dをより滑らかに変化させたり、所謂オージー翼(ogee wing;反曲線翼)と同様の形状としたりする等、翼端渦を生じる他の形状の翼部材を用いてもよい。
【0020】
また、翼部材1に替えて、図7に示す翼部材1Bを用いてもよい。この翼部材1Bは、前縁(前端1cおよび側縁1d)が丸くかつ後縁1eが尖った翼型断面(所謂流線型の翼型断面)を有するものであり、これにより、翼部材自体の抗力を小さくする等、より好適な空力特性が得られる他、より肉厚に形成できる分、翼部材1Bの剛性や強度を高めることができるという利点もある。また、この場合、リブや表面パネルを用いる等して内部を空洞にし、軽量化を図るのが好適である。
【0021】
また、床面側の傾斜や形状等により、翼部材の上面側の圧力を下面側に比べて高くすることができれば、翼部材を後方が上となるように傾斜させるのは必須ではなく、略0°(deg)としながら、上面側の圧力を下面側より高くして、翼端渦を発生させる構成も考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施形態にかかる車両後部構造を車両の後方かつ下方から見た斜視図。
【図2】本発明の実施形態にかかる車両後部構造の側面図。
【図3】車両で生じる縦渦(誘導渦)を模式的に示す側面図。
【図4】本発明の実施形態にかかる車両後部構造に用いられる翼部材によって生じる翼端渦を模式的に示す斜視図(後方かつ下方から見た図)。
【図5】本発明の実施形態にかかる車両後部構造によって生じた翼端渦および縦渦を模式的に示す背面図。
【図6】本発明の別の実施形態にかかる車両後部構造を車両の後方かつ下方から見た斜視図。
【図7】本発明のさらに別の実施形態にかかる車両後部構造の側面図。
【符号の説明】
【0023】
1,1A,1B 翼部材
2 車両
1a 下面
1b 上面
1d 側縁
10 縦渦(誘導渦)
11 翼端渦
CL 車幅方向中心線


【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の後部床下に、略三角形状の翼部材を、頂点を前方にして、車幅方向中心線に対して対称に、水平方向に対して略0°または後方が上となるように傾斜させた姿勢で、床下面と間隔をあけて配置したことを特徴とする車両後部構造。
【請求項2】
前記翼部材を平板状に形成したことを特徴とする請求項1に記載の車両後部構造。
【請求項3】
前記翼部材の最低地上高を、車両床下の最下点における最低地上高より高くしたことを特徴とする請求項1または2に記載の車両後部構造。
【請求項4】
前記翼部材を、前縁が丸くかつ後縁が尖った翼型断面を備えた形状としたことを特徴とする請求項1〜3のうちいずれか一つに記載の車両後部構造。
【請求項5】
車両の後部床下に、翼部材を、車幅方向中心線に対して対称となる姿勢で、床下面と間隔をあけて配置し、
空気が前記翼部材の両側縁で当該翼部材の上面から下面に巻き込むことによって生じる翼端渦により、車両の両側縁で生じる誘導渦を減殺するようにしたことを特徴とする車両後部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−282076(P2006−282076A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−106817(P2005−106817)
【出願日】平成17年4月1日(2005.4.1)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】