説明

車両支援装置

【課題】進行方向前方の交通情報に基づいた支援車両の減速支援処理により交通流が悪化するのを抑制する。
【解決手段】進行方向前方の交通情報に基づいて運転者に早めのアクセルオフを誘導する先読エコ運転支援処理を実行する先読エコ運転支援部43と、交通情報取得部21が取得した交通情報、周囲車両情報取得部22が取得した周囲車両の走行情報、及び支援車両情報取得部30が取得した支援車両の走行情報に基づいて先読エコ運転支援処理を実行すると交通流を悪化させる可能性があるか否かを判断し、先読エコ運転支援処理の実行により交通流を悪化させる可能性があると判断すると先読エコ運転支援部43による先読エコ運転支援処理を禁止する支援禁止部44と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、進行方向前方の交通情報に基づいて支援車両の減速支援処理を実行する車両支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、進行方向前方の信号情報に基づいて支援車両の減速を促す減速支援処理を実行する車両支援装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−244308号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された車両支援装置は、より良好な燃費の運転操作を実現させるとともに、減速による回生エネルギーを増大させることを目的としているため、減速支援処理を実行すると、長い距離にわたって低速で走行するダラダラ運転を継続することになる。その結果、車両支援装置が搭載された支援車両の周囲の交通流を悪化させてしまうという問題が発生する。例えば、支援車両の通過を待って交差点を右折しようとする対向車両が存在する場合、減速支援処理によるダラダラ運転により支援車両の交差点への到達時間が遅くなると、対向車両の交差点での停止時間が長くなってしまう。しかも、この対向車両の後方に多数台の後続車両が待っていると、対向車線の渋滞が増大する虞もある。また、後方信号を通過して前方信号に向かって走行している支援車両の後方に多数の後続車両が存在する場合、減速支援処理によるダラダラ運転により支援車両が前方信号を通過できなくなると、後方信号を通過できる後続車両の台数が減ってしまい、道路の予定している交通容量を下回ってしまう。
【0005】
このような減速支援処理による交通流の悪化により、車両支援装置が搭載された支援車両の運転者は、車両支援装置の実行を躊躇してしまい、折角車両支援装置が搭載されていても車両支援装置を利用しなくなる虞がある。
【0006】
そこで、本発明は、進行方向前方の交通情報に基づいた支援車両の減速支援処理により交通流が悪化するのを抑制できる運転支援装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る運転支援装置は、進行方向前方の交通情報に基づいて支援車両の減速支援処理を実行する車両支援装置であって、減速支援処理が実行されると交通流が悪化する可能性がある場合は、減速支援処理を禁止する支援禁止部を有することを特徴とする。
【0008】
本発明に係る車両支援装置によれば、減速支援処理の実行により交通流が悪化する可能性がある場合は減速支援処理が禁止されるため、減速支援処理の実行による交通流の悪化を抑制することができる。これにより、車両支援装置が搭載された支援車両の運転手に、減速支援処理を実行しても交通流は悪化しないとの安心感を与えることができるため、車両支援装置の利用を促進することができる。
【0009】
この場合、支援禁止部は、減速支援処理が実行されると支援車両の進行方向前方の交差点において停止時間が長くなる車両が存在する場合に、減速支援処理を禁止することが好ましい。このような場合に減速支援処理を禁止することで、支援車両の進行方向前方の交差点での交通流が悪化するのを適切に抑制することができる。例えば、支援車両の通過を待って交差点を右折しようとする対向車両が存在する場合、減速支援処理によるダラダラ運転により支援車両の交差点への到達時間が遅くなると、対向車両の交差点での停止時間が長くなってしまうが、この場合に減速支援処理を禁止して支援車両に通常のタイミングで交差点を通過させることで、対向車両の交差点での停止時間が長くなるのを防止することができる。しかも、この対向車両の後方に多数台の後続車両が待っている場合は、対向車線の渋滞が増大するのを防止することができる。
【0010】
そして、支援禁止部は、減速支援処理が実行されると支援車両の進行方向後方に設置された後方信号を通過できる車両の台数が減少する場合に、減速支援処理を禁止することが好ましい。このような場合に減速支援処理を禁止することで、支援車両の進行方向後方の交通流が悪化するのを適切に抑制することができる。例えば、後方信号を通過して前方信号に向かって走行している支援車両の後方に多数の後続車両が存在する場合、減速支援処理による支援車両のダラダラ運転により支援車両が前方信号を通過できなくなると、後方信号を通過できる後続車両の台数が減ってしまうが、この場合に減速支援処理を禁止して支援車両を通常通り進行させることで、道路の予定している交通容量が下回るのを防止することができる。
【0011】
また、支援車両の周囲の交通情報を取得する交通情報取得部と、支援車両の周囲を走行する周囲車両の走行情報を取得する周囲車両情報取得部と、支援車両の走行情報を取得する支援車両情報取得部と、更に有し、支援禁止部は、交通情報、周囲車両の走行情報及び支援車両の走行情報に基づいて、減速支援処理の実行有無における交通流を算出することにより、減速支援処理が実行されると交通流が悪化する可能性があるか否かを判断することが好ましい。このように構成することで、減速支援処理が実行されると交通流が悪化する可能性があるか否かを適切に判断することができる。
【0012】
この場合、交通情報取得部は、支援車両の進行方向前方の前方交差点の情報を取得し、支援禁止部は、前方交差点の情報、周囲車両の走行情報及び支援車両の走行情報に基づいて、減速支援処理を実行することにより前方交差点での停止時間が長くなる車両の存在有無を算出することにより、減速支援処理の実行による交通流の悪化を判断することが好ましい。このように、減速支援処理を実行することにより前方交差点での停止時間が長くなる車両の存在有無を判断基準とすることで、減速支援処理が実行されると交通流が悪化する可能性があるか否かを適切に判断することができる。
【0013】
そして、交通情報取得部は、支援車両の進行方向後方及び進行方向前方に設置された後方信号及び前方信号の情報を取得し、支援禁止部は、後方信号及び前方信号の情報、周囲車両の走行情報及び支援車両の走行情報に基づいて、減速支援処理を実行することによる後方信号を通過できる車両台数の減少有無を算出することにより、減速支援処理の実行による交通流の悪化を判断することが好ましい。このように、減速支援処理を実行することによる後方信号を通過できる車両台数の減少有無を判断基準とすることで、減速支援処理が実行されると交通流が悪化する可能性があるか否かを適切に判断することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、進行方向前方の交通情報に基づいた支援車両の減速支援処理により交通流が悪化するのを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施形態に係る車両支援装置のブロック構成を示した図である。
【図2】前方車両の速度変化と後方車両の速度変化との関係を示すグラフである。
【図3】先読エコ運転支援処理の実行有無における支援車両の速度変化を示したグラフである。
【図4】支援車両の周囲の交通状況を示した交通モデルである。
【図5】支援車両の周囲の交通状況を示した交通モデルである。
【図6】支援車両の周囲の交通状況を示した交通モデルである。
【図7】車両支援装置による先読エコ運転支援処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明に係る車両支援装置の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、全図中、同一又は相当部分には同一符号を付すこととする。
【0017】
図1は、実施形態に係る車両支援装置のブロック構成を示した図である。図1に示すように、実施形態に係る車両支援装置10は、支援車両に搭載されており、情報送受信機20と、支援車両情報取得部30と、ECU40と、先読エコ運転支援実行通知部50と、を備える。
【0018】
情報送受信機20は、車々間通信や路車間通信などにより支援車両外との間で情報の送受信を行う情報送受信機であり、交通情報取得部21と、周囲車両情報取得部22と、を備える。
【0019】
交通情報取得部21は、路車間通信や支援車両に搭載されている地図情報により、支援車両の周囲の交通情報を取得するものである。
【0020】
ここで、交通情報とは、車両が道路を走行するために必要な情報であり、交通情報には、道路インフラ情報や交通蓄積情報などが含まれる。道路インフラ情報とは、車両の走行に影響を与える道路インフラに関する情報であり、例えば、道路、交差点、信号機、一時停止線、踏み切りなどの道路インフラに関する種別、位置、状態などの情報が含まれる。この道路インフラ情報は、例えば、路側装置との間の路車間通信により取得することができ、また、支援車両に蓄積されている地図情報から取得することもできる。交通蓄積情報とは、所定の地点又は区間を走行する車両の走行情報を蓄積した情報であり、例えば、時間ごとの交通量を蓄積した情報や、信号や渋滞などにより減速が行われる位置及び時間などを蓄積した情報が含まれる。この交通蓄積情報は、例えば、路側装置が所定の地点又は区間を走行する車両を観測し、また、支援車両に搭載された記憶装置に自車両の走行情報を蓄積することにより生成することができる。そして、このように生成された交通蓄積情報は、例えば、路側装置との間の路車間通信や、支援車両に搭載された記憶装置からの読み出しにより取得することができる。
【0021】
そして、交通情報取得部21は、交通情報を取得すると、この取得した交通情報をECU40に送信する。
【0022】
周囲車両情報取得部22は、車々間通信や路車間通信により、支援車両の周囲を走行する周囲車両の走行情報を取得するものである。周囲車両の走行情報には、周囲車両の走行に関する様々な情報が含まれており、例えば、周囲車両の現在位置、速度、進行方向などが含まれる。なお、周囲車両の現在位置及び進行方向は、例えば、周囲車両に搭載されたGPS(Global Positioning System)の出力結果及びこの出力結果のトレースにより検出可能であり、周囲車両の速度は、周囲車両に搭載された速度計の出力結果により検出することができる。このような周囲車両の走行情報は、周囲車両との間の車々間通信や路側装置との間の路車間通信により取得することができ、周囲車両が複数台存在する場合は、周囲車両毎の走行情報を取得する。そして、周囲車両情報取得部22は、周囲車両の走行情報を取得すると、この取得した周囲車両の走行情報をECU40に送信する。
【0023】
支援車両情報取得部30は、支援車両に搭載された各種センサ機器の出力などから、支援車両の走行情報を取得するものである。支援車両の走行情報には、支援車両の走行に関する様々な情報が含まれており、例えば、支援車両の現在位置、速度、進行方向などがある。なお、支援車両の現在位置及び進行方向は、例えば、支援車両に搭載されたGPSの出力結果及びこの出力結果のトレースにより検出可能であり、支援車両の速度は、支援車両に搭載された速度計の出力結果により検出することができる。
【0024】
ECU40は、交通情報取得部21から送信された交通情報と周囲車両情報取得部22から送信された周囲車両の走行情報とに基づいて、支援車両の先読エコ運転支援処理を実行するものであり、システム制御部41、速度伝播予測演算部42、先読エコ運転支援部43及び支援禁止部44の各機能を備えている。
【0025】
ここで、先読エコ運転支援処理について簡単に説明する。先読エコ運転支援処理とは、進行方向前方において支援車両を停止又は減速させる必要がある場合に、運転者に対して早めのアクセルオフを誘導するとともに、アクセルオフによるエンジンブレーキの減速度を大きくすることで、ハイブリッドシステムなどの回生エネルギー量を増大させるものである。運転者に対するアクセルオフの誘導は、例えば、アクセルオフを促す案内を音声出力又はディスプレイに表示することにより行うことができる。なお、この場合、運転者に対してアクセルオフを誘導する代わりに、運転者のアクセル操作によらず自動的にアクセルオフの状態に移行させることにしてもよい。
【0026】
システム制御部41は、ECU40が行う先読エコ運転支援処理を統括的に制御するものである。
【0027】
速度伝播予測演算部42は、支援車両と支援車両の後方を走行する後方車両との間の交通車両状況を推定し、この推定した交通車両状況に基づいて支援車両と後方車両との間に存在する各車両の挙動を予測するものである。ここで、支援車両と後方車両との間の交通車両状況とは、支援車両と後方車両との間に存在する車両の台数、交通密度、平均車間時間などをいう。
【0028】
ここで、図2を参照して、支援車両と後方車両との間の交通車両状況を推定する方法の一例について説明する。図2は、前方車両の速度変化と後方車両の速度変化との関係を示すグラフである。図2の破線V1は、支援車両の速度変化を示している。また、図2の実線V2a〜V2cは、それぞれ所定の車間距離にある支援車両と後方車両との間の交通車両状況が異なる場合の後方車両の速度変化を示している。具体的に説明すると、実線V2aは、支援車両と後方車両との間に車両が存在しない場合における後方車両の速度変化を示している。実線V2bは、支援車両と後方車両との間に車両が1台存在する場合における後方車両の速度変化を示している。実線V2cは、支援車両と後方車両との間に車両が5台存在する場合における後方車両の速度変化を示している。
【0029】
図2に示すように、支援車両と後方車両との間の交通車両状況が異なると支援車両の挙動が後方車両の挙動に与える影響が異なるため、支援車両の挙動と後方車両の挙動との連動関係から、支援車両と後方車両との間の交通車両状況を推定することができる。具体的に説明すると、速度伝播予測演算部42は、予め、支援車両と後方車両との間の交通車両状況と支援車両の挙動に対する後方車両の挙動とを関連付けたマップを用意しておく。そして、速度伝播予測演算部42は、支援車両情報取得部30が取得した支援車両の走行情報と周囲車両情報取得部22が取得した後方車両の走行情報とをこのマップに当てはめることで、支援車両と後方車両との間の交通車両状況を推定する。
【0030】
次に、支援車両と後方車両との間に存在する各車両の挙動を予測する方法の一例について説明する。各車両の挙動は、速度伝播を利用して予測することができる。速度伝播とは、ある先行車両が挙動変化すると、この先行車両の直後を追従する追従車両が、先行車両の挙動変化から少し時間的に送れて挙動変化する現象をいう。この速度伝播は、下記の式(1)により算出することができる。
【数1】

【0031】
式(1)において、x及びxは、それぞれ前後に連なって走行する車両の位置を示している。上記の例では、xが先行車両の位置を示し、xが追従車両の位置を示しており、式(1)は、先行車両と追従車両の相対速度に応じて、追従車両がT秒後に加減速することを意味している。
【0032】
そこで、速度伝播予測演算部42は、支援車両と後方車両との間に存在する車両の台数分、式(1)の速度伝播を順次演算して行くことで、各車両の挙動を予測する。
【0033】
先読エコ運転支援部43は、交通情報取得部21が取得した進行方向前方の交通情報に基づいて、先読エコ運転支援処理を実行するものである。
【0034】
ここで、図3を参照して、先読エコ運転支援処理の一例について説明する。図3は、進行方向前方の地点L0で車両を停止させる必要がある場合に、先読エコ運転支援処理を実行した場合の支援車両の速度変化と、先読エコ運転支援処理を実行しない場合の支援車両の速度変化とを示したグラフである。図3の破線Vaは、先読エコ運転支援処理を実行しない場合の支援車両の速度変化を示しており、図3の実線Vbは、先読エコ運転支援処理を実行する場合の支援車両の速度変化を示している。
【0035】
図3の破線Vaに示すように、先読エコ運転支援処理を実行しない場合は、地点L0で車両を停止させる必要があると運転者が視覚的に認識する地点L0において、運転手のブレーキ操作による車両の減速が開始され、通常の減速度により車両が地点L0に停止する。
【0036】
これに対し、図3の実線Vbに示すように、先読エコ運転支援処理を実行する場合は、車両が地点L1に到達する前に地点L0で車両を停止させる必要があると認識できるため、地点L1よりも手前の地点L2において運転者に対して早めのアクセルオフを誘導することで、地点L2からアクセルオフによる車両の減速が開始される。そして、地点L2から地点L3までの区間では、エンジンブレーキによる減速度を大きくして回生エネルギー量を増大させ、地点L3から地点L0までの区間は、図3の破線Vaと同様に、運転手のブレーキ操作による車両の減速により、車両が地点L0に停止する。
【0037】
そこで、先読エコ運転支援部43は、このような先読エコ運転支援処理を実行するために必要な情報、すなわち、アクセルオフを誘導する位置(又は時刻)、エンジンブレーキにより減速度などを算出し、この算出した情報に基づいて先読エコ運転支援処理を実行する。
【0038】
支援禁止部44は、先読エコ運転支援部43が先読エコ運転支援処理を実行すると交通流を悪化させる可能性がある場合に、先読エコ運転支援部43による先読エコ運転支援処理を禁止するものである。
【0039】
具体的に説明すると、まず、支援禁止部44は、交通情報取得部21が取得した交通情報、周囲車両情報取得部22が取得した周囲車両の走行情報、及び支援車両情報取得部30が取得した支援車両の走行情報に基づいて、支援車両及び周囲車両の挙動を予測する。この予測は、周知の様々な手法により行うことができ、例えば、所定時間ごとの支援車両及び周囲車両の取り得る挙動を順次算出していくことにより行うことができる。次に、支援禁止部44は、先読エコ運転支援部43が算出した先読エコ運転支援処理を実行するために必要な情報(アクセルオフを誘導する位置(又は時刻)、エンジンブレーキにより減速度など)を加味して、支援車両及び周囲車両の挙動を予測する。そして、支援禁止部44は、これらの予測結果を対比することで、先読エコ運転支援部43が先読エコ運転支援処理を実行すると交通流を悪化させる可能性があるか否かを判断する。
【0040】
そして、支援禁止部44は、先読エコ運転支援処理を実行すると交通流を悪化させる可能性があると判断すると、先読エコ運転支援部43による先読エコ運転支援処理の実行を禁止する。
【0041】
ここで、図4〜図6を参照して、先読エコ運転支援処理の実行により交通流が悪化する例について説明する。図4〜図6は、支援車両の周囲の交通状況を示した交通モデルである。
【0042】
図4の交通モデルは、車両支援装置10が搭載された支援車両1が、優先道路と交差する交差点I1の手前に一時停止の標識が設置された一般道路を、交差点I1に向かって走行している。また、支援車両1の対向車両である車両2が、交差点I1を右折するために支援車両1の通過を待っている。更に、別の車両3が、交差点I1から遠く離れた位置において優先道路を交差点I1に向かって走行している。そして、車両2及び車両3は、支援車両1に搭載された車両支援装置10との間で車々間通信が可能となっている。
【0043】
このような状況では、車両3が交差点I1に近づくまでに十分な時間的余裕があるため、支援車両1の先読エコ運転支援処理を実行しないと、支援車両1は、車両3が交差点I1に近づく前に交差点I1を通過することができ、支援車両1の通過を待っている車両2も、車両3が交差点I1に近づく前に交差点I1を右折することができる。
【0044】
しかしながら、支援車両1の先読エコ運転支援処理を実行すると、支援車両1が交差点I1に到達するまでの時間が長くなることから、支援車両1が交差点I1に到達したときには車両3が交差点I1に近づいてしまう。その結果、支援車両1は、車両3の通過を待つ必要が生じるため、交差点I1での停止時間が長くなる。また、支援車両1の通過を待っている車両2も、車両3及び支援車両1の双方の通過を待つ必要が生じるため、交差点I1での停止時間が更に長くなる。しかも、車両2の進行方向後方に複数台の後続車両が待っている場合は、車両2の走行車線に渋滞を招き、交通流の大幅な悪化を招く虞がある。
【0045】
そこで、支援禁止部44は、このような場合に、先読エコ運転支援処理を実行すると交通流を悪化させる可能性があると判断し、先読エコ運転支援部43による先読エコ運転支援処理の実行を禁止する。
【0046】
具体的に説明すると、支援禁止部44は、まず、交通情報取得部21と路側設備との間の路車間通信により、一般道路及び優先道路の形状や交差点I1及び一時停止の位置を取得し、周囲車両情報取得部22と車両2及び車両3との間の車々間通信や周囲車両情報取得部22と路側設備との間の路車間通信により、車両2及び車両3の走行情報を取得し、支援車両情報取得部30により、支援車両1の走行情報を取得する。
【0047】
次に、支援禁止部44は、これらの取得した情報から、先読エコ運転支援処理を実行する場合と実行しない場合とについて、支援車両1、車両2及び車両3の挙動を予測することで、先読エコ運転支援処理を実行することにより交差点I1での停止時間が長くなる車両の存在有無を算出する。
【0048】
そして、支援禁止部44は、この算出結果に基づき、先読エコ運転支援処理が実行されると交差点I1での停止時間が長くなる車両が存在すると判断すると、先読エコ運転支援処理を実行すると交通流を悪化させる可能性があると判断し、先読エコ運転支援部43による先読エコ運転支援処理の実行を禁止する。
【0049】
これにより、支援車両1が交差点I1に到達する時間が長くなるのを防止できるため、支援車両1及び車両2は、車両3の通過を待つことなく交差点I1を通過することができる。これにより、支援車両1及び車両2の交差点I1での停止時間が長くなるのを防止することができ、車両2の後方に多数台の後続車両が待っている場合は、対向車線の渋滞が増大するのを防止することができる。
【0050】
図5の交通モデルは、車両支援装置10が搭載された支援車両1が、優先道路と交差する交差点I1の手前に一時停止の標識が設置された一般道路を、交差点I2に向かって走行している。また、支援車両1の後続車両である車両4が、支援車両1と同様に一般道路を交差点I2に向かって走行している。更に、別の車両5が、交差点I2から遠く離れた位置において優先道路を交差点I2に向かって走行している。
【0051】
このような状況では、車両5が交差点I2に近づくまでに十分な時間的余裕があるため、支援車両1の先読エコ運転支援処理を実行しないと、支援車両1は、車両5が交差点I2に近づく前に交差点I2を通過することができ、支援車両1に追従している車両4も、車両5が交差点I2に近づく前に交差点I2を通過することができる。
【0052】
しかしながら、支援車両1の先読エコ運転支援処理を実行すると、支援車両1が交差点I2に到達するまでの時間が長くなることから、支援車両1が交差点I2に到達したときには車両5が交差点I2に近づいてしまう。その結果、支援車両1は、車両5の通過を待つ必要が生じるため、交差点I2での停止時間が長くなる。また、支援車両1に追従している車両4も、支援車両1と同様に車両5の通過を待つ必要が生じるため、交差点I2での停止時間が長くなる。
【0053】
そこで、支援禁止部44は、このような場合に、先読エコ運転支援処理を実行すると交通流を悪化させる可能性があると判断し、先読エコ運転支援部43による先読エコ運転支援処理の実行を禁止する。
【0054】
具体的に説明すると、支援禁止部44は、まず、交通情報取得部21と路側設備との間の路車間通信により、一般道路及び優先道路の形状や交差点I2及び一時停止の位置を取得し、周囲車両情報取得部22と車両4及び車両5との間の車々間通信や周囲車両情報取得部22と路側設備との間の路車間通信により、車両4及び車両5の走行情報を取得し、支援車両情報取得部30により、支援車両1の走行情報を取得する。
【0055】
次に、支援禁止部44は、これらの取得した情報から、先読エコ運転支援処理を実行する場合と実行しない場合とについて、支援車両1、車両4及び車両5の挙動を予測することで、先読エコ運転支援処理を実行することにより交差点I2での停止時間が長くなる車両の存在有無を算出する。
【0056】
そして、支援禁止部44は、この算出結果に基づいて、先読エコ運転支援処理の実行により交差点I2での停止時間が長くなる車両が存在すると判断すると、先読エコ運転支援処理を実行すると交通流を悪化させる可能性があると判断し、先読エコ運転支援部43による先読エコ運転支援処理の実行を禁止する。
【0057】
これにより、支援車両1が交差点I2に到達する時間が長くなるのを防止できるため、支援車両1及び車両4は、車両5の通過を待つことなく交差点I2を通過することができる。これにより、支援車両1及び車両2の交差点I2での停止時間が長くなるのを防止することができ、支援車両1の後方に多数台の後続車両が待っている場合は、支援車両1の走行車線の渋滞が増大するのを防止することができる。
【0058】
図6の交通モデルは、車両支援装置10が搭載された支援車両1が、進行方向後方に設置された後方信号Srを通過して進行方向前方に設置された前方信号Sfに向かって走行している。また、支援車両1を追従して走行している多数台の後続車両が、後方信号Srよりも進行方向後方にまで延びている。
【0059】
このような状況において、支援車両1の先読エコ運転支援処理を実行しないことにより、支援車両1が前方信号Sfを通過することができれば、後続車両も支援車両1に追従して走行を継続することができるため、多くの後続車両が後方信号Srを通過することができる。
【0060】
しかしながら、支援車両1の先読エコ運転支援処理を実行すると、支援車両1が前方信号Sfに到達するまでの時間が長くなるため、支援車両1が前方信号Sfに到達したときに前方信号Sfが赤信号に変わってしまう可能性がある。この場合、支援車両1が前方信号Sfで停止をすることにより、支援車両1を追従する全ての後続車両も走行を停止しなければならないため、後方信号Srを通過できる後続車両の台数が減少してしまう。
【0061】
そこで、支援禁止部44は、このような場合に、先読エコ運転支援処理を実行すると交通流を悪化させる可能性があると判断し、先読エコ運転支援部43による先読エコ運転支援処理の実行を禁止する。
【0062】
具体的に説明すると、支援禁止部44は、まず、後続車両の交通車両状況を取得する。この交通車両状況の取得は、例えば、支援車両情報取得部30が取得した支援車両1の走行情報と周囲車両情報取得部22と通信機能を搭載した通信車両6との間の車々間通信により取得した通信車両6の走行情報とに基づいて、速度伝播予測演算部42が、支援車両1と通信車両6との間の交通車両状況を推定することにより行うことができる。なお、この交通車両情報の取得は、周囲車両情報取得部22と路側設備との間の路車間通信により直接取得してもよい。
【0063】
また、支援禁止部44は、交通情報取得部21と路側設備との間の路車間通信により、後方信号Sr及び前方信号Sfの位置及び灯火色の情報を取得し、支援車両情報取得部30により、支援車両1の走行情報を取得する。
【0064】
次に、支援禁止部44は、これらの取得した情報から、先読エコ運転支援処理を実行する場合と実行しない場合とについて、支援車両1及び各後続車両の挙動を予測することで、先読エコ運転支援処理を実行することによる後方信号Srを通過できる車両台数の減少有無を算出する。なお、各後続車両の挙動予測は、例えば、上述した式(1)により算出することができる。
【0065】
そして、支援禁止部44は、この算出結果に基づいて、先読エコ運転支援処理を実行することによる後方信号Srを通過できる車両台数が減少すると判断すると、先読エコ運転支援処理を実行すると交通流を悪化させる可能性があると判断し、先読エコ運転支援部43による先読エコ運転支援処理の実行を禁止する。
【0066】
これにより、支援車両1が前方信号Sfに到達する時間が長くなるのを防止できるため、支援車両1が前方信号Sfで停止する可能性を低減することができる。これにより、支援車両1の後方の交通流が悪化するのを防止できるため、後方信号Srを通過できる後続車両の台数が減少するのを防止することができ、当該道路の予定している交通容量が下回るのを防止することができる。
【0067】
先読エコ運転支援実行通知部50は、スピーカーや表示装置などで構成されており、支援車両の運転者に対して、ECU40による先読エコ運転支援処理の実行又は中止を通知するものである。なお、先読エコ運転支援処理の中止とは、先読エコ運転支援部43による先読エコ運転支援処理が支援禁止部44により禁止された状態をいう。
【0068】
次に、図7を参照して、車両支援装置10による先読エコ運転支援処理の動作について説明する。図7は、車両支援装置による先読エコ運転支援処理を示すフローチャートである。なお、以下に説明する先読エコ運転支援処理は、ECU40の制御により実行される。
【0069】
図7に示すように、まず、ECU40は、交通情報取得部21を介して、支援車両の周囲の交通情報を取得する(ステップS1)。
【0070】
次に、ECU40は、周囲車両情報取得部22を介して、支援車両の周囲を走行する周囲車両の走行情報を取得する(ステップS2)。
【0071】
次に、ECU40は、支援車両情報取得部30を介して、支援車両の走行情報を取得する(ステップS3)。
【0072】
次に、ECU40は、先読エコ運転支援部43において、ステップS1で取得した交通情報とステップS3で取得した支援車両の走行情報に基づいて、先読エコ運転支援処理を実行するために必要な情報を算出する(ステップS4)。なお、先読エコ運転支援処理を実行するために必要な情報とは、上述したように、アクセルオフを誘導する位置(又は時刻)、エンジンブレーキによる減速度などである。
【0073】
そして、支援車両が先読エコ運転支援を開始する位置(又は時刻)に到達すると、ECU40は、支援禁止部44において、先読エコ運転支援の実行有無における支援車両及び周囲車両の挙動を予測する(ステップS5)。すなわち、ECU5は、ステップS1で取得した交通情報、ステップS2で取得した周囲車両の走行情報、及びステップS3で取得した支援車両の走行情報に基づいて、支援車両及び周囲車両の挙動を予測し、更に、ステップS4で算出した情報を加味して先読エコ運転支援処理を実行する場合の支援車両及び周囲車両の挙動を予測する。
【0074】
次に、ECU40は、支援禁止部44において、ステップS6で予測した先読エコ運転支援の実行有無における支援車両及び周囲車両の挙動を比較することで、先読エコ運転支援処理を実行すると交通流を悪化させる可能性があるか否かを判定する(ステップS6)。
【0075】
そして、ステップS6において先読エコ運転支援処理を行っても交通流を悪化させる可能性がないと判定すると(ステップS6:NO)、ECU40は、先読エコ運転支援部43において、ステップS4で算出した情報に基づいて先読エコ運転支援処理を実行し(ステップS7)、先読エコ運転支援実行通知部50を介して、運転者に先読エコ運転支援処理の実行を通知する(ステップS8)。
【0076】
一方、ステップS6において先読エコ運転支援処理を実行すると交通流を悪化させる可能性があると判定すると(ステップS6:YES)、ECU40は、支援禁止部44において、先読エコ運転支援部43による先読エコ運転支援処理の実行を禁止し(ステップS9)、先読エコ運転支援実行通知部50を介して、運転者に先読エコ運転支援処理の中止を通知する(ステップS10)。
【0077】
以上説明したように、本実施形態に係る車両支援装置10によれば、先読エコ運転支援処理の実行により交通流が悪化する可能性がある場合は先読エコ運転支援処理が禁止されるため、先読エコ運転支援処理の実行による交通流の悪化を抑制することができる。これにより、車両支援装置10が搭載された支援車両の運転手に、先読エコ運転支援処理を実行しても交通流は悪化しないとの安心感を与えることができるため、車両支援装置10の利用を促進することができる。
【0078】
特に、図4及び図5に示す交通モデルのような場合に先読エコ運転支援処理を禁止することで、支援車両の進行方向前方の交通流が悪化するのを適切に抑制することができる。また、図6に示す交通モデルのような場合に先読エコ運転支援処理を禁止することで、支援車両の進行方向後方の交通流が悪化するのを適切に抑制することができる。
【0079】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態では、減速支援処理の一例として先読エコ運転支援処理を用いて説明したが、減速支援処理は、これに限定されるものではなく、支援車両の減速を支援する処理であれば如何なる処理であってもよい。
【0080】
また、上記実施形態において、先読エコ運転支援処理は、図7のフローチャートに従い順次各ステップを処理するものとして説明したが、この先読エコ運転支援処理は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、各ステップを適宜前後させてもよく、また、複数のステップを並列的に行ってもよい。
【符号の説明】
【0081】
1…支援車両、2〜5…車両(周囲車両)、6…通信車両(周囲車両)、10…車両支援装置、20…情報送受信機、21…交通情報取得部、22…周囲車両情報取得部、30…支援車両情報取得部、40…ECU、41…システム制御部、42…速度伝播予測演算部、43…先読エコ運転支援部、44…支援禁止部、50…先読エコ運転支援実行通知部、I1…交差点(前方交差点)、I2…交差点(前方交差点)、Sf…前方信号、Sr…後方信号。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
進行方向前方の交通情報に基づいて支援車両の減速支援処理を実行する車両支援装置であって、
前記減速支援処理が実行されると交通流が悪化する可能性がある場合は、前記減速支援処理を禁止する支援禁止部を有することを特徴とする車両支援装置。
【請求項2】
前記支援禁止部は、前記減速支援処理が実行されると前記支援車両の進行方向前方の交差点において停止時間が長くなる車両が存在する場合に、前記減速支援処理を禁止することを特徴とする請求項1に記載の車両支援装置。
【請求項3】
前記支援禁止部は、前記減速支援処理が実行されると前記支援車両の進行方向後方に設置された後方信号を通過できる車両の台数が減少する場合に、前記減速支援処理を禁止することを特徴とする請求項1又は2に記載の車両支援装置。
【請求項4】
前記支援車両の周囲の交通情報を取得する交通情報取得部と、
前記支援車両の周囲を走行する周囲車両の走行情報を取得する周囲車両情報取得部と、
前記支援車両の走行情報を取得する支援車両情報取得部と、
を更に有し、
前記支援禁止部は、前記交通情報、前記周囲車両の走行情報及び前記支援車両の走行情報に基づいて、前記減速支援処理の実行有無における交通流を算出することにより、前記減速支援処理が実行されると交通流が悪化する可能性があるか否かを判断することを特徴とする、請求項1に記載の車両支援装置。
【請求項5】
前記交通情報取得部は、前記支援車両の進行方向前方の前方交差点の情報を取得し、
前記支援禁止部は、前記前方交差点の情報、前記周囲車両の走行情報及び前記支援車両の走行情報に基づいて、前記減速支援処理を実行することにより前記前方交差点での停止時間が長くなる車両の存在有無を算出することにより、前記減速支援処理の実行による交通流の悪化を判断することを特徴とする請求項4に記載の車両支援装置。
【請求項6】
前記交通情報取得部は、前記支援車両の進行方向後方及び進行方向前方に設置された後方信号及び前方信号の情報を取得し、
前記支援禁止部は、前記後方信号及び前記前方信号の情報、前記周囲車両の走行情報及び前記支援車両の走行情報に基づいて、前記減速支援処理を実行することによる前記後方信号を通過できる車両台数の減少有無を算出することにより、前記減速支援処理の実行による交通流の悪化を判断することを特徴とする請求項4又は5に記載の車両支援装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−3775(P2013−3775A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−133256(P2011−133256)
【出願日】平成23年6月15日(2011.6.15)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】