車両用エネルギ吸収部材
【課題】従来と比較してより一層衝突エネルギ吸収性能を向上させること。
【解決手段】複数の凸部16が形成されたエンボス加工部20を有し、前記エンボス加工部20のうちで前記凸部16が形成されずに残存し、平面視して隣接する前記凸部16の中心を結ぶ仮想直線Aに沿って延在する平面部18が設けられ、前記平面部18は、前記仮想直線Aに沿って蛇行し、且つ、前記平面部18の延在方向が前記筒体の軸方向と非直交するように設けられる。
【解決手段】複数の凸部16が形成されたエンボス加工部20を有し、前記エンボス加工部20のうちで前記凸部16が形成されずに残存し、平面視して隣接する前記凸部16の中心を結ぶ仮想直線Aに沿って延在する平面部18が設けられ、前記平面部18は、前記仮想直線Aに沿って蛇行し、且つ、前記平面部18の延在方向が前記筒体の軸方向と非直交するように設けられる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衝撃荷重を受けて軸方向に座屈することにより、衝突エネルギを吸収することが可能な車両用エネルギ吸収部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば、車両ボディの前部や後部等には、車両の衝突時に塑性変形することによって衝突エネルギを吸収し、車室への衝撃力を緩和するエネルギ吸収部材(衝突エネルギ吸収部材)が設けられている。
【0003】
この種のエネルギ吸収部材に関し、例えば、特許文献1には、断面略コ字状に曲げ加工された第1部材と平板状の第2部材とが接合され、側面視してハット形状に形成されたエネルギ吸収部材が開示されている。この特許文献1に開示されたエネルギ吸収部材では、第1部材を略コ字状に曲げ加工する際、第2部材と接触しない各平面部にそれぞれ加工歪が均等に付与されるようにプレス成形し、各平面部をほぼ均等に加工硬化させて強度を向上させることができるとしている。
【0004】
また、特許文献2には、中空の角柱状からなり、複数の凸部を千鳥状に配置することによって前記凸部に隣接する各平面部が蛇行するように設けられると共に、前記各平面部が衝撃荷重に直交するように設けられたエネルギ吸収部材が開示されている。この特許文献2に開示されたエネルギ吸収部材では、上記のように構成することにより、塑性変形時(クラッシュモード)の荷重変化特性を安定させ、荷重変化特性の山部を必要最小限低下させることで荷重変化特性を平準化させることができる、としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−128487号公報
【特許文献2】特許第3701884号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示されたエネルギ吸収部材では、簡便に安価に製造することができる点で優れているが、蛇腹変形による安定座屈を得ることが困難である、という問題がある。
【0007】
また、特許文献2に開示されたエネルギ吸収部材は、脆弱部として機能する平面部の形成時に加工歪みが発生することで材料が硬化してしまい(加工硬化)、座屈安定が失われて高い衝突吸収エネルギが得られなくなるおそれがある。
【0008】
本発明は、前記の点に鑑みてなされたものであり、蛇腹状に変形させる安定座屈を軸方向の一端部から他端部まで部材全体で継続させることにより、従来と比較してより一層衝突エネルギ吸収性能を向上させることが可能な車両用エネルギ吸収部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の目的を達成するために、本発明は、衝撃荷重を受けて軸方向に座屈することで衝突エネルギを吸収する筒体からなる車両用エネルギ吸収部材において、前記筒体の側面を構成する少なくとも一部には、複数の凸部が形成されたエンボス加工部が設けられ、前記エンボス加工部のうちで前記凸部が形成されずに残存し、平面視して隣接する前記凸部の中心を結ぶ仮想直線Aに沿って延在する平面部が設けられ、前記平面部は、前記仮想直線Aに沿って蛇行し、且つ、前記平面部の延在方向が前記筒体の軸方向と直交するものがないように設けられることを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、座屈のきっかけとなる脆弱部が一直線上に揃うことがなくジグザグ状に蛇行して形成された平面部からなり、しかも、荷重軸方向(筒体の軸方向)に対して前記平面部の延在方向が直交するものがないように、すなわち、前記平面部の全ての延在方向が非直交する方向に延在するように複数の凸部を配列することで、荷重を受けて座屈する決まった一定間隔の脆弱部(平面部)が部材の軸方向に、見かけ上、連続して存在するように構成している。
【0011】
従って、本発明では、衝突変形中において、常に、エネルギ吸収部材中の一部が座屈していることとなり、加工硬化して座屈時の反力が大きい場合であっても、その生じた反力が常に荷重軸方向(圧潰方向)に向かうため、圧潰方向(軸方向)に連続した座屈が生じるようになる。この結果、本発明では、安定座屈が部材の途中で停止することがなく、エネルギ吸収部材の軸方向に沿った一端部から他端部までの部材全体で蛇腹変形による安定座屈を継続することができ、高い衝撃吸収エネルギを得ることができる。
【0012】
さらに、本発明は、前記複数の凸部は、対角線の長さ、直径又は高さのいずれか1つが大なる凸部と、前記大なる凸部に対応して、対角線の長さ、直径又は高さのいずれか1つが小なる他の凸部からなり、前記平面部に沿って延在する前記他の凸部の中心を結ぶ仮想直線Bは、前記筒体の軸方向と非直交するように設けられることを特徴とする。
【0013】
本発明によれば、平面視して対角線の長さが大なる凸部と小なる凸部からなり、又は、平面視して直径が大なる凸部と小なる凸部からなり、若しくは、高さが大なる凸部と小なる凸部からなり、平面部に沿って延在する他の凸部の中心を結ぶ仮想直線Bが、筒体の軸方向と非直交するように設けられることにより、安定座屈が部材の途中で停止することがなく、エネルギ吸収部材の軸方向に沿った一端部から他端部までの部材全体で蛇腹変形による安定座屈を継続することができ、高い衝撃吸収エネルギを得ることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、蛇腹状に変形させる安定座屈を、軸方向の一端部から他端部まで部材全体で継続させることができる。この結果、本発明では、従来と比較して衝突エネルギ吸収量を増大させて、より一層衝突エネルギ吸収性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態に係る車両用エネルギ吸収部材が組み込まれた車両前部の一部省略断面図である。
【図2】図1に示される車両用エネルギ吸収部材の部分平面拡大図である。
【図3】前記車両用エネルギ吸収部材を構成する平面部が衝撃荷重に対して非直交する状態を示す説明図である。
【図4】図3の斜視図である。
【図5】本発明の他の実施形態に係る車両用エネルギ吸収部材の部分平面拡大図である。
【図6】図5に示す車両用エネルギ吸収部材を構成する平面部が衝撃荷重に対して非直交する状態を示す説明図である。
【図7】(a)は、従来例における座屈状態を示す一部省略正面図、(b)は、本実施形態における座屈状態を示す一部省略正面図である。
【図8】各種鋼板における板厚、凸部の形状及び平面部の配列を示す説明図である。
【図9】前記各種鋼板を用いて構成した筒型部材の斜視図である。
【図10】前記筒型部材の上下端に天板及び地板を接合して構成した試験体の斜視図である。
【図11】前記試験体が落錘試験機にセットされた状態を示す正面図である。
【図12】実施例1、2及び比較例1〜6における圧潰試験の結果を示す説明図である。
【図13】実施例1、比較例1及び比較例5における圧潰ストロークと圧潰荷重との関係を示す特性図である。
【図14】実施例1及び比較例1における圧潰ストロークと吸収エネルギとの関係を示す特性図である。
【図15】(a)は、比較例1の座屈開始直後の状態を示した正面図、(b)は、比較例1において座屈開始後、転倒した状態の正面図である。
【図16】(a)は、実施例1の座屈開始直後の状態を示した正面図、(b)は、実施例1において座屈開始後、座屈変形が終了した状態の正面図である。
【図17】実施例1、2及び比較例1〜6における吸収エネルギと初期反力との関係を示す特性図である。
【図18】比較例1〜4を構成するエンボス鋼板2の部分平面拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本発明の実施形態に係る車両用エネルギ吸収部材が組み込まれた車両前部の一部省略断面図、図2は、図1に示される車両用エネルギ吸収部材の部分平面拡大図、図3は、前記車両用エネルギ吸収部材を構成する平面部が衝撃荷重に対して非直交する状態を示す説明図、図4は、図3の斜視図である。
【0017】
図1に示されるように、本実施形態に係る車両用エネルギ吸収部材(以下、エネルギ吸収部材という)10は、例えば、自動車(車両)12の車体前部における車幅方向の両側部位で車体前後方向にそれぞれ延在するフロントサイドフレーム14の前端部と図示しないバンパレインフォースメントとの間に介在されるクラッシュ部材として、単独又は各部材に組み込まれて用いられる。
【0018】
なお、前記エネルギ吸収部材10が配設される部位は、自動車12の車体前部に限定されるものではなく、例えば、車体後部や衝突エネルギ(衝撃荷重)を吸収する必要がある他の適宜な部位に配設することができる。
【0019】
前記エネルギ吸収部材10は、平板状の鋼板に対して、例えば、タレットパンチ等で複数の凸部16(図2参照)を成形するエンボス加工が施され、複数の凸部16が適宜な配列で加工された鋼板で構成される。前記凸部16を成形する鋼板の生産性向上を目的とした場合、ロール加工によって広範囲に短時間で複数の凸部16を成形することができる。また、プレス加工を用いることにより、部品成形と同時に凸部16を成形することができ、より高い生産性を得ることができる。
【0020】
本実施形態では、図2に示されるように、エンボス加工された凸部16の形状を平面視して正六角形状に形成している。しかしながら、これに限定されるものではなく、本実施形態では、後記するように、凸部16間に残存し脆弱部として機能する平面部18の延在方向に特徴があるため、平面視した凸部16の形状は限定されるものではなく、例えば、丸形状や角形状等の他の形状であってもよい。平面視した凸部16の大きさは、エネルギ吸収部材10を構成する平面部18の短辺長の中に凸部16が3つ以上存在することが好ましい。
【0021】
エンボス加工で凸部16が形成された鋼板は、後記するように、プレス加工又は曲げ加工(bending)によってハット断面形状に成形することができ、フランジ部を有する断面コ字状の折曲板と平板状の背板とを、例えば、スポット溶接で複数個所を接合することにより、略筒体からなるエネルギ吸収部材10を容易に製造することができる(後記する図8参照)。
【0022】
前記筒体の側面を構成する少なくとも一部には、図2に示されるように、複数の凸部16が形成されたエンボス加工部20が設けられる。図3及び図4に示されるように、前記エンボス加工部20のうちで前記凸部16が形成されずに残存し平面視して隣接する前記凸部16の中心を結ぶ仮想直線Aに沿って(並行に)延在する平面部18が設けられる。前記平面部18は、前記仮想直線Aに沿ってジグザグ状に蛇行し(図中の網点参照)、且つ、前記平面部18の延在方向(破線参照)が前記筒体の軸方向(衝撃荷重の付与方向)と非直交するように設けられる。
【0023】
図5は、本発明の他の実施形態に係る車両用エネルギ吸収部材の部分平面拡大図、図6は、図5に示す車両用エネルギ吸収部材を構成する平面部が衝撃荷重に対して非直交する状態を示す説明図である。
【0024】
図5及び図6に示されるように、他の実施形態に係るエネルギ吸収部材10aは、複数の凸部が、平面視して正六角形の対角線の長さが大なる凸部16aと、平面視して正六角形の対角線の長さが小なる他の凸部16bとの2種類で構成され、前記平面部18に沿って延在する前記他の凸部16bの中心を結ぶ仮想直線Bは、前記筒体の軸方向と非直交するように設けられる(図6参照)。
【0025】
なお、例えば、2種類の凸部の形状が平面視して円形の場合には、直径の長さが大なる凸部と、直径の長さが小なる他の凸部とによって構成してもよい。または、2種類の凸部の形状を、平面部18から頂部までの高さ方向の寸法が大なる凸部と、高さ方向の寸法が小なる他の凸部とによって構成してもよい。その際、正六角形の場合と同様に、平面部18に沿って延在する他の凸部の中心を結ぶ仮想直線Bが、筒体の軸方向と非直交するように設けられる。
【0026】
ここで、エネルギ吸収部材10が衝撃荷重を受容して蛇腹変形する場合について、以下詳細に説明する。図7(a)は、特許文献2の従来例における座屈状態を示す一部省略正面図、図7(b)は、本実施形態における座屈状態を示す一部省略正面図である。
【0027】
エネルギ吸収部材10が軸方向で受ける衝撃荷重は、一定の周期を持つ応力波として前記エネルギ吸収部材10中を伝達していき、前記応力波の強さが材料の強さを超えた部位にて最初の座屈(初期座屈)が始まり、応力波の習性や材料の柔軟性により最初の変形部位から一定の間隔を経て次の座屈部位が生じ、次々と座屈が軸方向に所定間隔だけ離間しながら続いていく。このような変形形態が蛇腹変形といわれるものである。
【0028】
例えば、脆弱部として機能する平面部が一直線上に揃っている場合や、特許文献2に示されるように荷重付加方向(軸方向)に対して直交する方向に脆弱部(平面部)が延在する場合には、座屈の生じる脆弱部が、衝撃荷重が付与される軸方向に決まった一定間隔で存在することとなる。例えば、図7(a)に示されるように、従来例(特許文献2参照)における屈曲状態では、荷重付加方向(軸方向)に対して直交する脆弱部aと脆弱部bとが荷重付加方向に沿って所定距離だけ離間するように存在する。この場合、荷重付加方向に対して直交する脆弱部aで座屈が発生した後、同様に荷重付加方向に対して直交する凸部の後に存在する脆弱部bで次の座屈が発生することとなり、座屈が荷重付加方向(軸方向)で不連続に発生する。なお、図7(a)、(b)では、ジグザグ状に蛇行する平面部18を、説明の便宜上、太線の実線で示している。
【0029】
このような圧潰方向における不連続な座屈は、エネルギ吸収体が比較的軟らかい材料で構成されている場合には安定座屈となるが、例えば、加工硬化したような材料で構成されている場合には、座屈時の反力が大きい一方で、部材自体が強靭であるため、その反力が比較的自由な方向性を持つことにより、応力伝達の周期性が失われて座屈の進行が停止し、座屈変形中の部材が荷重軸方向から大きく離脱して転倒するような不安定座屈となる。
【0030】
そこで、本実施形態では、形成した凸部16間の平面部18、つまり、座屈のきっかけとなる脆弱部が一直線上に揃うことがなく仮想直線Aに沿ってジグザグ状に蛇行するように平面部18を形成し、しかも、前記平面部18の延在方向が荷重軸方向に対して非直交するように複数の凸部16を配列することで、荷重を受けて座屈する決まった一定間隔の脆弱部(平面部18)が部材の軸方向に、見かけ上、連続して存在するように構成している。
【0031】
本実施形態における座屈状態では、荷重付加方向(軸方向)に対して直交する脆弱部が存在しないため、残存する複数の平面部18のうちで最も直交に近い脆弱部(平面部18)が優先して座屈することとなる。すなわち、図7(b)に示されるように、本実施形態においても先ず脆弱部aが座屈した後、複数の凸部16を介して次の脆弱部bが座屈する点は、図7(a)の従来例と同様であるが、初めの脆弱部aが座屈変形した後の次の座屈部位となる脆弱部bを見ると、脆弱部aの下端部a2と脆弱部bの上端部b1とが、部材中の軸方向(図7(b)中の縦方向)において略同じ高さにあることから、座屈する脆弱部a、脆弱部bが部材の軸方向で、見かけ上、連続して存在するように構成されている。
【0032】
換言すると、本実施形態では、荷重付加方向(軸方向)に対して脆弱部(平面部18)を非直交状態に配列することにより、隣接する脆弱部間において、荷重付加部位に近接する一方の脆弱部aの下端部a2と、荷重付加部位から離間する他方の脆弱部bの上端部b1との離間距離が従来例よりも近接して略オーバーラップするように配置され、座屈する脆弱部a、脆弱部bが、見かけ上、連続して存在する。なお、図7(b)中において、a1は、脆弱部aの上端部、b2は、脆弱部bの下端部をそれぞれ示している。
【0033】
本実施形態の作用として、衝突変形中のエネルギ吸収部材10は、常にエネルギ吸収部材10中の一部が座屈していることとなり、加工硬化して座屈時の反力が大きい場合であっても、その生じた反力が常に荷重軸方向(圧潰方向)に向かうため、圧潰方向(軸方向)に連続した座屈が生じるようになる。この結果、本実施形態では、安定座屈が部材の途中で停止することがなく、エネルギ吸収部材10の軸方向に沿った一端部から他端部までの部材全体で蛇腹変形による安定座屈を継続することができ、高い衝撃吸収エネルギを得ることができる。
【0034】
また、本実施形態では、単純なプレス加工や曲げ加工によって平板状の鋼板に複数の凸部16を形成するエンボス加工を施すことで作製することができ、従来と同じ工程でハット断面形状のエネルギ吸収部材10を容易に製造することができる利点がある。
【0035】
ところで、近年では、自動車のフロントフレームに使用される材料(例えば、鋼板)の強度を高くする傾向となっている。この場合、一般的に、鋼板を高強度化すると、フロントフレームのような部材が長手方向に圧縮変形するときに座屈形状が不安定となり、安定した蛇腹状の座屈から折れ曲がりの状態に変形様式が変化するという問題がある。この結果、従来では、圧縮変形時にエネルギ吸収部材が折れ曲がることによって衝撃エネルギの吸収効率が低下し、素材を高強度化したことによって衝撃吸収エネルギの増大が困難となる。
【0036】
これに対して、本実施形態では、エンボス加工部20における凸部16の配列パターンを安定座屈するように最適化することで、相反する素材の高強度化と衝撃エネルギの吸収効率との要求をそれぞれ両立させ、材料を高強度化しながら衝撃エネルギの吸収効率を向上させることができる。
【実施例】
【0037】
次に、本発明の効果を確認した実施例について説明する。なお、前記実施の形態と同一の構成要素には、同一の参照符号を付して説明する。
【0038】
先ず、図8に示されるように、板厚が約1.0mmの同一板厚で同一形状及び同一材料からなり、平面視して正六角形の複数の凸部16を有し前記凸部16の配列パターンがそれぞれ異なる3種類の鋼板をタレットパンチ加工とレーザ切断とを用いて準備した。この3種類の鋼板は、エンボス加工が施されたエンボス鋼板1及びエンボス鋼板2と、エンボス加工が全く施されていない平板のままの平鋼板とから構成される。
【0039】
エンボス鋼板1は、凸部16の間に平板と同様な平面部18が一直線上に揃わないようにジグザグ状に蛇行して残存させ、且つ、荷重付加方向(軸方向)に対して平面部18の延在方向が非直交するように複数の凸部16を配置した(図2〜図4参照)。
【0040】
エンボス鋼板2は、図18に示されるように、凸部16の間に平板と同様な平面部18を一直線上に揃わないようにジグザグ状に蛇行して残存させ、且つ、荷重付加方向(軸方向)に対して平面部18の延在方向(破線参照)が直交するように複数の凸部16を配置した。なお、エンボス鋼板1における複数の凸部16とエンボス鋼板2における複数の凸部16は、配置パターンのみが異なっているだけでそれぞれ同一形状であると共に、各エンボス鋼板に形成された複数の凸部16の形状も全て同一形状とした。
【0041】
次に、このようにして準備された3種類の鋼板を複数用いて、図9に示されるように、断面ハット状で略角筒体からなる筒型部材100を試験体として構成し、以下の実験を行った。この筒型部材100は、断面コ字状に折り曲げ加工されることにより突出して形成された折曲部102と、幅方向の両端部に設けられたフランジ部104とを有する。このフランジ部104に対して背板をスポット溶接して略筒体として形成し、自動車のフレームの一部に見立てたものである。筒型部材100において、複数の凸部16が形成されたエンボス加工部20は、折曲部102の両側に配置されたフランジ部104と、前記フランジ部104に溶着される背板の一部とを除いた部位に設けられる。なお、図9〜図11中では、便宜上、複数の凸部16の描出を適宜省略している。
【0042】
本実施例に係るエンボス鋼板1及び比較例1に係るエンボス鋼板2では、図9に示されるように、折曲部102における凸部16が筒体の外方に向って膨出すると共に、背板における凸部16が筒体の内方に向って膨出するように製作した。また、折曲部102における4個所の直角状に屈曲する部位は、半径5mmのポンチを用いて、曲げ加工によって成形した。
【0043】
以上のようにして、エンボス鋼板1を複数用いて実施例1、2に係る筒型部材100をそれぞれ作製し、エンボス鋼板2を複数用いて比較例1〜4に係る筒型部材100をそれぞれ作製し、平鋼板を複数用いて比較例5、6に係る筒型部材100をそれぞれ作製した。その後、各筒型部材100の軸方向に沿った両端部にそれぞれ天板106と地板108とをTIG溶接によって接合した試験体を作製した。
【0044】
なお、天板106及び地板108を溶接する前の各筒型部材100は、それぞれ同一寸法で構成され、図10の立設した状態を基準として各種寸法を説明すると、図9に示されるように、幅寸法が約78mm、高さ寸法が約230mm、折り曲げられた折曲部102の突出寸法が約31mm、前記折曲部102の幅寸法が約46mmに設定した。
【0045】
前記天板106及び地板108は、それぞれ正方形の鋼板からなり、地板108の平面視した面積を天板106の平面視した面積よりも大きく設定した。試験体における各筒型部材100は、天板106及び地板108の平面視した中央部に接合した。
【0046】
次に、作製した各試験体について、以下のような圧潰試験(squeezing test)を行った。この圧潰試験は、図11に示されるように、自由落下式の落錘試験機を用い、ロードセル110で支持されたベースプレート112に地板108の四隅をボルト114で締結固定して筒型部材100を立設状態で支持し、上方から落錘116を落下させて各筒型部材100を上方から軸方向の下方に向かって押し潰す方法を採用した。
【0047】
圧潰試験の条件は、落錘116の重さが約100kg、落下高さが約11m、衝突時の落錘速度が約50km/hとし、筒型部材100に生じた圧潰ストローク(筒型部材100の圧潰前の軸方向に沿った全長から圧潰後の軸方向に沿った全長を減算した値)と、圧潰時に発生した荷重(圧潰荷重)とを測定した。また、各試験体につき、吸収エネルギと初期反力とを求めた。
【0048】
図12は、実施例1、2及び比較例1〜6において、圧潰ストロークが160mmのときの吸収エネルギと初期反力の結果及び座屈形態をそれぞれ示したものである。
【0049】
エンボス鋼板1で構成された実施例1及び実施例2は、それぞれ、蛇腹変形による安定座屈を示し、エンボス鋼板2で構成された比較例1〜6は、転倒又は破断を示した。この実施例1及び実施例2は、それぞれ同一構成で同一の凸部16の配置パターンからなるエンボス鋼板1によって構成された試験体からなり、圧潰試験の1回目に用いられた試験体を実施例1とし、圧潰試験の2回目に用いられた試験体を実施例2とした。
【0050】
この比較例1〜6は、それぞれ、同一の凸部16の配置パターンからなるエンボス鋼板2によって構成された試験体からなり、圧潰試験に用いられた試験体の順番に対応して、比較例1〜6とした。なお、座屈形態については、圧潰試験時に各試験体が潰れる様子を2000コマ/secで撮影できる図示しない高速ビデオカメラで録画し、その録画映像を目視して判定した。
【0051】
図13は、実施例1、比較例1及び比較例5の各試験体について、圧潰試験で求めた圧潰ストロークと圧潰荷重との関係を示した特性図であり、図14は、実施例1と比較例1の各試験体の圧潰ストロークと吸収エネルギとの関係を示した特性図である。
【0052】
図13において、先ず、実施例1(太い実線参照)と比較例1(細い実線参照)の各特性線図は、変形状態の前半である圧潰ストロークが約80mmまでほぼ近似する近似特性を示しているのに対し、比較例5(破線参照)の特性曲線は、これらと全く異なる特性を示していることがわかる。これは、エンボス鋼板1で構成された実施例1とエンボス鋼板2で構成された比較例1は、部材の一部に脆弱部(平面部18)が存在するため、座屈の発生するタイミングが同じ間隔で生じていることを示しており、衝突変形時に脆弱部が優先して折れることで、蛇腹変形による座屈が制御された状態となり、安定座屈をもたらす作用が働いている。
【0053】
次に、図13において、圧潰ストロークが約80mm以降の変形状態の後半では、実施例1(太い実線参照)が高い圧潰荷重を保持したまま座屈変形が進行しているのに対し、比較例1(細い実線参照)では、圧潰荷重が低下している。図14から了解されるように、各試験体で吸収される吸収エネルギは、比較例1よりも実施例1が優れていることがわかる。
【0054】
実施例1及び比較例1の両者は、複数の凸部16を有しエンボス加工が施されたエンボス鋼板からなるが、エンボス鋼板1で構成された実施例1は、形成した複数の凸部16間の平面部18、つまり脆弱部が一直線上に揃うことがなくジグザグ状に蛇行して延在し、且つ、荷重付加方向に対して脆弱部の延在方向が非直交するように配置されている。
【0055】
これに対して、エンボス鋼板2で構成された比較例1では、脆弱部(平面部18)が一直線上に揃うことがなくジグザグ状に蛇行している点は実施例1と同一であるが、荷重付加方向に対して脆弱部の延在方向が直交するように配置されており、この脆弱部の配列パターンの違いによって上記のような吸収エネルギの差が発生したものと推測される。
【0056】
ここで、実施例1と比較例1の圧潰形態の相違について、圧潰時の状態を比較して説明する。図15(a)は、比較例1の座屈開始直後の状態を示した正面図、図15(b)は、比較例1において座屈開始後、座屈変形が終了した状態の正面図、図16(a)は、実施例1の座屈開始直後の状態を示した正面図、図16(b)は、実施例1において座屈開始後、座屈変形が終了した状態の正面図である。
【0057】
図15(a)において、比較例1は、凸部16間の脆弱部(平面部18)が荷重付加方向に対して直交する方向に連続しているにも拘わらず、座屈直後の変形部位が荷重付加方向(軸方向、鉛直下方向)に決まった一定間隔で不連続に存在していることがわかる。一方、図16(a)において、実施例1は、凸部16間の脆弱部(平面部18)が荷重付加方向に対して非直交する方向に連続しており、座屈開始直後の変形部位が部材の幅方向にわたりながら荷重付加方向(軸方向、鉛直下方向)に連続して存在していることがわかる。
【0058】
図15(b)と図16(b)とを比較して了解されるように、これらの変形が進行すると、比較例1では、試験体である筒型部材100が途中から折れ曲がって転倒してしまったのに対し、実施例1では、常に、座屈変形が生じていることがわかり、試験体である筒型部材100の軸方向に沿った一端部から他端部まで継続した蛇腹変形による安定座屈を示した。
【0059】
従って、脆弱部が一直線上に揃うことがなく荷重付加方向に対して直交する方向に配列された比較例1は、不連続な座屈により変形途中で座屈の進行が停止してしまい、筒型部材100に生じる反力が圧潰方向から外れて筒型部材100の転倒につながったものと思われる。
【0060】
一方、実施例1では、脆弱部として機能する平面部18が一直線上に揃うことがなくジグザグ状に蛇行して延在し、しかも、前記平面部18の延在方向が荷重付加方向に対し非直交する方向に配列されている。従って、実施例1では、荷重を受けて座屈する決まった一定間隔の脆弱部が筒型部材100の軸方向に対して、見かけ上、連続して存在するようにしたことで、変形中において、常にその一部が座屈するようになっている。この結果、実施例1では、生じた反力が常に荷重付加方向に向かい、圧潰方向に連続(継続)した座屈変形による安定座屈が生じるようになり、転倒した比較例1と比較してより高い衝撃エネルギを吸収することができた。
【0061】
ちなみに、図12に示されるように、比較例2〜4では、試験体である筒型部材がその途中から破断してしまった。また、平鋼板からなる比較例5では、比較例1と同様に転倒し、平鋼板からなる比較例6では、比較例2〜4と同様に破断してしまった。
【0062】
図17は、圧潰試験で測定された圧潰ストローク160mmまでの吸収エネルギと、圧潰ストローク5mmまでの初期反力との関係を示した特性図である。図17に示されるように、脆弱部(平面部18)が荷重付加方向に対して非直交する方向に連続する実施例1、2は、平鋼板からなる比較例5、6よりも吸収エネルギが高く、脆弱部(平面部18)が荷重付加方向に対して直交する方向に連続する比較例1〜4に対し、初期反力が同等であるが、吸収エネルギが高くなっている。
【0063】
すなわち、実施例1、2は、同一の衝撃力に対して得られる吸収エネルギが高いことを示しており、衝撃エネルギ吸収性に優れていることがわかる。従って、エンボス鋼板1で構成された実施例1、2の筒型部材100は、脆弱部(平面部18)の配列による連続した座屈変形の効果により、優れた衝撃エネルギ吸収能を備えている。この衝撃エネルギは、圧潰される部材の変形抵抗と変形ストローク(変形量)との積に比例するが、より短い変形ストロークで同等の衝撃エネルギを吸収することにより、例えば、車体のフロントオーバーハングの短縮による車両運動性能の向上や車体軽量化等を達成することができる。
【0064】
以上から、本発明に係る実施例1、2は、従来の蛇腹変形による安定座屈をもたらす技術以上に優れた安定座屈性を有しており、高い衝撃エネルギ吸収能を備え、且つ、従来工程と同じ手法で製造可能なハット断面形状を有する最適な状態を実現することができる。
【0065】
このため、例えば、自動車等の車体のフロントフレームに設けられるクラッシュ部材等に対して、エネルギ吸収部材10、10aを適用することにより、部材長さの短縮による車体の軽量化やフロントオーバーハングの短縮による運動性能の向上、さらには、従来の部品製造工程を利用することによる製造コストの低減等、車両構成上の利点を具現することができる。
【符号の説明】
【0066】
10、10a エネルギ吸収部材
12 自動車(車両)
16 凸部
18 平面部
20 エンボス加工部
A、B 仮想直線
【技術分野】
【0001】
本発明は、衝撃荷重を受けて軸方向に座屈することにより、衝突エネルギを吸収することが可能な車両用エネルギ吸収部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば、車両ボディの前部や後部等には、車両の衝突時に塑性変形することによって衝突エネルギを吸収し、車室への衝撃力を緩和するエネルギ吸収部材(衝突エネルギ吸収部材)が設けられている。
【0003】
この種のエネルギ吸収部材に関し、例えば、特許文献1には、断面略コ字状に曲げ加工された第1部材と平板状の第2部材とが接合され、側面視してハット形状に形成されたエネルギ吸収部材が開示されている。この特許文献1に開示されたエネルギ吸収部材では、第1部材を略コ字状に曲げ加工する際、第2部材と接触しない各平面部にそれぞれ加工歪が均等に付与されるようにプレス成形し、各平面部をほぼ均等に加工硬化させて強度を向上させることができるとしている。
【0004】
また、特許文献2には、中空の角柱状からなり、複数の凸部を千鳥状に配置することによって前記凸部に隣接する各平面部が蛇行するように設けられると共に、前記各平面部が衝撃荷重に直交するように設けられたエネルギ吸収部材が開示されている。この特許文献2に開示されたエネルギ吸収部材では、上記のように構成することにより、塑性変形時(クラッシュモード)の荷重変化特性を安定させ、荷重変化特性の山部を必要最小限低下させることで荷重変化特性を平準化させることができる、としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−128487号公報
【特許文献2】特許第3701884号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示されたエネルギ吸収部材では、簡便に安価に製造することができる点で優れているが、蛇腹変形による安定座屈を得ることが困難である、という問題がある。
【0007】
また、特許文献2に開示されたエネルギ吸収部材は、脆弱部として機能する平面部の形成時に加工歪みが発生することで材料が硬化してしまい(加工硬化)、座屈安定が失われて高い衝突吸収エネルギが得られなくなるおそれがある。
【0008】
本発明は、前記の点に鑑みてなされたものであり、蛇腹状に変形させる安定座屈を軸方向の一端部から他端部まで部材全体で継続させることにより、従来と比較してより一層衝突エネルギ吸収性能を向上させることが可能な車両用エネルギ吸収部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の目的を達成するために、本発明は、衝撃荷重を受けて軸方向に座屈することで衝突エネルギを吸収する筒体からなる車両用エネルギ吸収部材において、前記筒体の側面を構成する少なくとも一部には、複数の凸部が形成されたエンボス加工部が設けられ、前記エンボス加工部のうちで前記凸部が形成されずに残存し、平面視して隣接する前記凸部の中心を結ぶ仮想直線Aに沿って延在する平面部が設けられ、前記平面部は、前記仮想直線Aに沿って蛇行し、且つ、前記平面部の延在方向が前記筒体の軸方向と直交するものがないように設けられることを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、座屈のきっかけとなる脆弱部が一直線上に揃うことがなくジグザグ状に蛇行して形成された平面部からなり、しかも、荷重軸方向(筒体の軸方向)に対して前記平面部の延在方向が直交するものがないように、すなわち、前記平面部の全ての延在方向が非直交する方向に延在するように複数の凸部を配列することで、荷重を受けて座屈する決まった一定間隔の脆弱部(平面部)が部材の軸方向に、見かけ上、連続して存在するように構成している。
【0011】
従って、本発明では、衝突変形中において、常に、エネルギ吸収部材中の一部が座屈していることとなり、加工硬化して座屈時の反力が大きい場合であっても、その生じた反力が常に荷重軸方向(圧潰方向)に向かうため、圧潰方向(軸方向)に連続した座屈が生じるようになる。この結果、本発明では、安定座屈が部材の途中で停止することがなく、エネルギ吸収部材の軸方向に沿った一端部から他端部までの部材全体で蛇腹変形による安定座屈を継続することができ、高い衝撃吸収エネルギを得ることができる。
【0012】
さらに、本発明は、前記複数の凸部は、対角線の長さ、直径又は高さのいずれか1つが大なる凸部と、前記大なる凸部に対応して、対角線の長さ、直径又は高さのいずれか1つが小なる他の凸部からなり、前記平面部に沿って延在する前記他の凸部の中心を結ぶ仮想直線Bは、前記筒体の軸方向と非直交するように設けられることを特徴とする。
【0013】
本発明によれば、平面視して対角線の長さが大なる凸部と小なる凸部からなり、又は、平面視して直径が大なる凸部と小なる凸部からなり、若しくは、高さが大なる凸部と小なる凸部からなり、平面部に沿って延在する他の凸部の中心を結ぶ仮想直線Bが、筒体の軸方向と非直交するように設けられることにより、安定座屈が部材の途中で停止することがなく、エネルギ吸収部材の軸方向に沿った一端部から他端部までの部材全体で蛇腹変形による安定座屈を継続することができ、高い衝撃吸収エネルギを得ることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、蛇腹状に変形させる安定座屈を、軸方向の一端部から他端部まで部材全体で継続させることができる。この結果、本発明では、従来と比較して衝突エネルギ吸収量を増大させて、より一層衝突エネルギ吸収性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態に係る車両用エネルギ吸収部材が組み込まれた車両前部の一部省略断面図である。
【図2】図1に示される車両用エネルギ吸収部材の部分平面拡大図である。
【図3】前記車両用エネルギ吸収部材を構成する平面部が衝撃荷重に対して非直交する状態を示す説明図である。
【図4】図3の斜視図である。
【図5】本発明の他の実施形態に係る車両用エネルギ吸収部材の部分平面拡大図である。
【図6】図5に示す車両用エネルギ吸収部材を構成する平面部が衝撃荷重に対して非直交する状態を示す説明図である。
【図7】(a)は、従来例における座屈状態を示す一部省略正面図、(b)は、本実施形態における座屈状態を示す一部省略正面図である。
【図8】各種鋼板における板厚、凸部の形状及び平面部の配列を示す説明図である。
【図9】前記各種鋼板を用いて構成した筒型部材の斜視図である。
【図10】前記筒型部材の上下端に天板及び地板を接合して構成した試験体の斜視図である。
【図11】前記試験体が落錘試験機にセットされた状態を示す正面図である。
【図12】実施例1、2及び比較例1〜6における圧潰試験の結果を示す説明図である。
【図13】実施例1、比較例1及び比較例5における圧潰ストロークと圧潰荷重との関係を示す特性図である。
【図14】実施例1及び比較例1における圧潰ストロークと吸収エネルギとの関係を示す特性図である。
【図15】(a)は、比較例1の座屈開始直後の状態を示した正面図、(b)は、比較例1において座屈開始後、転倒した状態の正面図である。
【図16】(a)は、実施例1の座屈開始直後の状態を示した正面図、(b)は、実施例1において座屈開始後、座屈変形が終了した状態の正面図である。
【図17】実施例1、2及び比較例1〜6における吸収エネルギと初期反力との関係を示す特性図である。
【図18】比較例1〜4を構成するエンボス鋼板2の部分平面拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本発明の実施形態に係る車両用エネルギ吸収部材が組み込まれた車両前部の一部省略断面図、図2は、図1に示される車両用エネルギ吸収部材の部分平面拡大図、図3は、前記車両用エネルギ吸収部材を構成する平面部が衝撃荷重に対して非直交する状態を示す説明図、図4は、図3の斜視図である。
【0017】
図1に示されるように、本実施形態に係る車両用エネルギ吸収部材(以下、エネルギ吸収部材という)10は、例えば、自動車(車両)12の車体前部における車幅方向の両側部位で車体前後方向にそれぞれ延在するフロントサイドフレーム14の前端部と図示しないバンパレインフォースメントとの間に介在されるクラッシュ部材として、単独又は各部材に組み込まれて用いられる。
【0018】
なお、前記エネルギ吸収部材10が配設される部位は、自動車12の車体前部に限定されるものではなく、例えば、車体後部や衝突エネルギ(衝撃荷重)を吸収する必要がある他の適宜な部位に配設することができる。
【0019】
前記エネルギ吸収部材10は、平板状の鋼板に対して、例えば、タレットパンチ等で複数の凸部16(図2参照)を成形するエンボス加工が施され、複数の凸部16が適宜な配列で加工された鋼板で構成される。前記凸部16を成形する鋼板の生産性向上を目的とした場合、ロール加工によって広範囲に短時間で複数の凸部16を成形することができる。また、プレス加工を用いることにより、部品成形と同時に凸部16を成形することができ、より高い生産性を得ることができる。
【0020】
本実施形態では、図2に示されるように、エンボス加工された凸部16の形状を平面視して正六角形状に形成している。しかしながら、これに限定されるものではなく、本実施形態では、後記するように、凸部16間に残存し脆弱部として機能する平面部18の延在方向に特徴があるため、平面視した凸部16の形状は限定されるものではなく、例えば、丸形状や角形状等の他の形状であってもよい。平面視した凸部16の大きさは、エネルギ吸収部材10を構成する平面部18の短辺長の中に凸部16が3つ以上存在することが好ましい。
【0021】
エンボス加工で凸部16が形成された鋼板は、後記するように、プレス加工又は曲げ加工(bending)によってハット断面形状に成形することができ、フランジ部を有する断面コ字状の折曲板と平板状の背板とを、例えば、スポット溶接で複数個所を接合することにより、略筒体からなるエネルギ吸収部材10を容易に製造することができる(後記する図8参照)。
【0022】
前記筒体の側面を構成する少なくとも一部には、図2に示されるように、複数の凸部16が形成されたエンボス加工部20が設けられる。図3及び図4に示されるように、前記エンボス加工部20のうちで前記凸部16が形成されずに残存し平面視して隣接する前記凸部16の中心を結ぶ仮想直線Aに沿って(並行に)延在する平面部18が設けられる。前記平面部18は、前記仮想直線Aに沿ってジグザグ状に蛇行し(図中の網点参照)、且つ、前記平面部18の延在方向(破線参照)が前記筒体の軸方向(衝撃荷重の付与方向)と非直交するように設けられる。
【0023】
図5は、本発明の他の実施形態に係る車両用エネルギ吸収部材の部分平面拡大図、図6は、図5に示す車両用エネルギ吸収部材を構成する平面部が衝撃荷重に対して非直交する状態を示す説明図である。
【0024】
図5及び図6に示されるように、他の実施形態に係るエネルギ吸収部材10aは、複数の凸部が、平面視して正六角形の対角線の長さが大なる凸部16aと、平面視して正六角形の対角線の長さが小なる他の凸部16bとの2種類で構成され、前記平面部18に沿って延在する前記他の凸部16bの中心を結ぶ仮想直線Bは、前記筒体の軸方向と非直交するように設けられる(図6参照)。
【0025】
なお、例えば、2種類の凸部の形状が平面視して円形の場合には、直径の長さが大なる凸部と、直径の長さが小なる他の凸部とによって構成してもよい。または、2種類の凸部の形状を、平面部18から頂部までの高さ方向の寸法が大なる凸部と、高さ方向の寸法が小なる他の凸部とによって構成してもよい。その際、正六角形の場合と同様に、平面部18に沿って延在する他の凸部の中心を結ぶ仮想直線Bが、筒体の軸方向と非直交するように設けられる。
【0026】
ここで、エネルギ吸収部材10が衝撃荷重を受容して蛇腹変形する場合について、以下詳細に説明する。図7(a)は、特許文献2の従来例における座屈状態を示す一部省略正面図、図7(b)は、本実施形態における座屈状態を示す一部省略正面図である。
【0027】
エネルギ吸収部材10が軸方向で受ける衝撃荷重は、一定の周期を持つ応力波として前記エネルギ吸収部材10中を伝達していき、前記応力波の強さが材料の強さを超えた部位にて最初の座屈(初期座屈)が始まり、応力波の習性や材料の柔軟性により最初の変形部位から一定の間隔を経て次の座屈部位が生じ、次々と座屈が軸方向に所定間隔だけ離間しながら続いていく。このような変形形態が蛇腹変形といわれるものである。
【0028】
例えば、脆弱部として機能する平面部が一直線上に揃っている場合や、特許文献2に示されるように荷重付加方向(軸方向)に対して直交する方向に脆弱部(平面部)が延在する場合には、座屈の生じる脆弱部が、衝撃荷重が付与される軸方向に決まった一定間隔で存在することとなる。例えば、図7(a)に示されるように、従来例(特許文献2参照)における屈曲状態では、荷重付加方向(軸方向)に対して直交する脆弱部aと脆弱部bとが荷重付加方向に沿って所定距離だけ離間するように存在する。この場合、荷重付加方向に対して直交する脆弱部aで座屈が発生した後、同様に荷重付加方向に対して直交する凸部の後に存在する脆弱部bで次の座屈が発生することとなり、座屈が荷重付加方向(軸方向)で不連続に発生する。なお、図7(a)、(b)では、ジグザグ状に蛇行する平面部18を、説明の便宜上、太線の実線で示している。
【0029】
このような圧潰方向における不連続な座屈は、エネルギ吸収体が比較的軟らかい材料で構成されている場合には安定座屈となるが、例えば、加工硬化したような材料で構成されている場合には、座屈時の反力が大きい一方で、部材自体が強靭であるため、その反力が比較的自由な方向性を持つことにより、応力伝達の周期性が失われて座屈の進行が停止し、座屈変形中の部材が荷重軸方向から大きく離脱して転倒するような不安定座屈となる。
【0030】
そこで、本実施形態では、形成した凸部16間の平面部18、つまり、座屈のきっかけとなる脆弱部が一直線上に揃うことがなく仮想直線Aに沿ってジグザグ状に蛇行するように平面部18を形成し、しかも、前記平面部18の延在方向が荷重軸方向に対して非直交するように複数の凸部16を配列することで、荷重を受けて座屈する決まった一定間隔の脆弱部(平面部18)が部材の軸方向に、見かけ上、連続して存在するように構成している。
【0031】
本実施形態における座屈状態では、荷重付加方向(軸方向)に対して直交する脆弱部が存在しないため、残存する複数の平面部18のうちで最も直交に近い脆弱部(平面部18)が優先して座屈することとなる。すなわち、図7(b)に示されるように、本実施形態においても先ず脆弱部aが座屈した後、複数の凸部16を介して次の脆弱部bが座屈する点は、図7(a)の従来例と同様であるが、初めの脆弱部aが座屈変形した後の次の座屈部位となる脆弱部bを見ると、脆弱部aの下端部a2と脆弱部bの上端部b1とが、部材中の軸方向(図7(b)中の縦方向)において略同じ高さにあることから、座屈する脆弱部a、脆弱部bが部材の軸方向で、見かけ上、連続して存在するように構成されている。
【0032】
換言すると、本実施形態では、荷重付加方向(軸方向)に対して脆弱部(平面部18)を非直交状態に配列することにより、隣接する脆弱部間において、荷重付加部位に近接する一方の脆弱部aの下端部a2と、荷重付加部位から離間する他方の脆弱部bの上端部b1との離間距離が従来例よりも近接して略オーバーラップするように配置され、座屈する脆弱部a、脆弱部bが、見かけ上、連続して存在する。なお、図7(b)中において、a1は、脆弱部aの上端部、b2は、脆弱部bの下端部をそれぞれ示している。
【0033】
本実施形態の作用として、衝突変形中のエネルギ吸収部材10は、常にエネルギ吸収部材10中の一部が座屈していることとなり、加工硬化して座屈時の反力が大きい場合であっても、その生じた反力が常に荷重軸方向(圧潰方向)に向かうため、圧潰方向(軸方向)に連続した座屈が生じるようになる。この結果、本実施形態では、安定座屈が部材の途中で停止することがなく、エネルギ吸収部材10の軸方向に沿った一端部から他端部までの部材全体で蛇腹変形による安定座屈を継続することができ、高い衝撃吸収エネルギを得ることができる。
【0034】
また、本実施形態では、単純なプレス加工や曲げ加工によって平板状の鋼板に複数の凸部16を形成するエンボス加工を施すことで作製することができ、従来と同じ工程でハット断面形状のエネルギ吸収部材10を容易に製造することができる利点がある。
【0035】
ところで、近年では、自動車のフロントフレームに使用される材料(例えば、鋼板)の強度を高くする傾向となっている。この場合、一般的に、鋼板を高強度化すると、フロントフレームのような部材が長手方向に圧縮変形するときに座屈形状が不安定となり、安定した蛇腹状の座屈から折れ曲がりの状態に変形様式が変化するという問題がある。この結果、従来では、圧縮変形時にエネルギ吸収部材が折れ曲がることによって衝撃エネルギの吸収効率が低下し、素材を高強度化したことによって衝撃吸収エネルギの増大が困難となる。
【0036】
これに対して、本実施形態では、エンボス加工部20における凸部16の配列パターンを安定座屈するように最適化することで、相反する素材の高強度化と衝撃エネルギの吸収効率との要求をそれぞれ両立させ、材料を高強度化しながら衝撃エネルギの吸収効率を向上させることができる。
【実施例】
【0037】
次に、本発明の効果を確認した実施例について説明する。なお、前記実施の形態と同一の構成要素には、同一の参照符号を付して説明する。
【0038】
先ず、図8に示されるように、板厚が約1.0mmの同一板厚で同一形状及び同一材料からなり、平面視して正六角形の複数の凸部16を有し前記凸部16の配列パターンがそれぞれ異なる3種類の鋼板をタレットパンチ加工とレーザ切断とを用いて準備した。この3種類の鋼板は、エンボス加工が施されたエンボス鋼板1及びエンボス鋼板2と、エンボス加工が全く施されていない平板のままの平鋼板とから構成される。
【0039】
エンボス鋼板1は、凸部16の間に平板と同様な平面部18が一直線上に揃わないようにジグザグ状に蛇行して残存させ、且つ、荷重付加方向(軸方向)に対して平面部18の延在方向が非直交するように複数の凸部16を配置した(図2〜図4参照)。
【0040】
エンボス鋼板2は、図18に示されるように、凸部16の間に平板と同様な平面部18を一直線上に揃わないようにジグザグ状に蛇行して残存させ、且つ、荷重付加方向(軸方向)に対して平面部18の延在方向(破線参照)が直交するように複数の凸部16を配置した。なお、エンボス鋼板1における複数の凸部16とエンボス鋼板2における複数の凸部16は、配置パターンのみが異なっているだけでそれぞれ同一形状であると共に、各エンボス鋼板に形成された複数の凸部16の形状も全て同一形状とした。
【0041】
次に、このようにして準備された3種類の鋼板を複数用いて、図9に示されるように、断面ハット状で略角筒体からなる筒型部材100を試験体として構成し、以下の実験を行った。この筒型部材100は、断面コ字状に折り曲げ加工されることにより突出して形成された折曲部102と、幅方向の両端部に設けられたフランジ部104とを有する。このフランジ部104に対して背板をスポット溶接して略筒体として形成し、自動車のフレームの一部に見立てたものである。筒型部材100において、複数の凸部16が形成されたエンボス加工部20は、折曲部102の両側に配置されたフランジ部104と、前記フランジ部104に溶着される背板の一部とを除いた部位に設けられる。なお、図9〜図11中では、便宜上、複数の凸部16の描出を適宜省略している。
【0042】
本実施例に係るエンボス鋼板1及び比較例1に係るエンボス鋼板2では、図9に示されるように、折曲部102における凸部16が筒体の外方に向って膨出すると共に、背板における凸部16が筒体の内方に向って膨出するように製作した。また、折曲部102における4個所の直角状に屈曲する部位は、半径5mmのポンチを用いて、曲げ加工によって成形した。
【0043】
以上のようにして、エンボス鋼板1を複数用いて実施例1、2に係る筒型部材100をそれぞれ作製し、エンボス鋼板2を複数用いて比較例1〜4に係る筒型部材100をそれぞれ作製し、平鋼板を複数用いて比較例5、6に係る筒型部材100をそれぞれ作製した。その後、各筒型部材100の軸方向に沿った両端部にそれぞれ天板106と地板108とをTIG溶接によって接合した試験体を作製した。
【0044】
なお、天板106及び地板108を溶接する前の各筒型部材100は、それぞれ同一寸法で構成され、図10の立設した状態を基準として各種寸法を説明すると、図9に示されるように、幅寸法が約78mm、高さ寸法が約230mm、折り曲げられた折曲部102の突出寸法が約31mm、前記折曲部102の幅寸法が約46mmに設定した。
【0045】
前記天板106及び地板108は、それぞれ正方形の鋼板からなり、地板108の平面視した面積を天板106の平面視した面積よりも大きく設定した。試験体における各筒型部材100は、天板106及び地板108の平面視した中央部に接合した。
【0046】
次に、作製した各試験体について、以下のような圧潰試験(squeezing test)を行った。この圧潰試験は、図11に示されるように、自由落下式の落錘試験機を用い、ロードセル110で支持されたベースプレート112に地板108の四隅をボルト114で締結固定して筒型部材100を立設状態で支持し、上方から落錘116を落下させて各筒型部材100を上方から軸方向の下方に向かって押し潰す方法を採用した。
【0047】
圧潰試験の条件は、落錘116の重さが約100kg、落下高さが約11m、衝突時の落錘速度が約50km/hとし、筒型部材100に生じた圧潰ストローク(筒型部材100の圧潰前の軸方向に沿った全長から圧潰後の軸方向に沿った全長を減算した値)と、圧潰時に発生した荷重(圧潰荷重)とを測定した。また、各試験体につき、吸収エネルギと初期反力とを求めた。
【0048】
図12は、実施例1、2及び比較例1〜6において、圧潰ストロークが160mmのときの吸収エネルギと初期反力の結果及び座屈形態をそれぞれ示したものである。
【0049】
エンボス鋼板1で構成された実施例1及び実施例2は、それぞれ、蛇腹変形による安定座屈を示し、エンボス鋼板2で構成された比較例1〜6は、転倒又は破断を示した。この実施例1及び実施例2は、それぞれ同一構成で同一の凸部16の配置パターンからなるエンボス鋼板1によって構成された試験体からなり、圧潰試験の1回目に用いられた試験体を実施例1とし、圧潰試験の2回目に用いられた試験体を実施例2とした。
【0050】
この比較例1〜6は、それぞれ、同一の凸部16の配置パターンからなるエンボス鋼板2によって構成された試験体からなり、圧潰試験に用いられた試験体の順番に対応して、比較例1〜6とした。なお、座屈形態については、圧潰試験時に各試験体が潰れる様子を2000コマ/secで撮影できる図示しない高速ビデオカメラで録画し、その録画映像を目視して判定した。
【0051】
図13は、実施例1、比較例1及び比較例5の各試験体について、圧潰試験で求めた圧潰ストロークと圧潰荷重との関係を示した特性図であり、図14は、実施例1と比較例1の各試験体の圧潰ストロークと吸収エネルギとの関係を示した特性図である。
【0052】
図13において、先ず、実施例1(太い実線参照)と比較例1(細い実線参照)の各特性線図は、変形状態の前半である圧潰ストロークが約80mmまでほぼ近似する近似特性を示しているのに対し、比較例5(破線参照)の特性曲線は、これらと全く異なる特性を示していることがわかる。これは、エンボス鋼板1で構成された実施例1とエンボス鋼板2で構成された比較例1は、部材の一部に脆弱部(平面部18)が存在するため、座屈の発生するタイミングが同じ間隔で生じていることを示しており、衝突変形時に脆弱部が優先して折れることで、蛇腹変形による座屈が制御された状態となり、安定座屈をもたらす作用が働いている。
【0053】
次に、図13において、圧潰ストロークが約80mm以降の変形状態の後半では、実施例1(太い実線参照)が高い圧潰荷重を保持したまま座屈変形が進行しているのに対し、比較例1(細い実線参照)では、圧潰荷重が低下している。図14から了解されるように、各試験体で吸収される吸収エネルギは、比較例1よりも実施例1が優れていることがわかる。
【0054】
実施例1及び比較例1の両者は、複数の凸部16を有しエンボス加工が施されたエンボス鋼板からなるが、エンボス鋼板1で構成された実施例1は、形成した複数の凸部16間の平面部18、つまり脆弱部が一直線上に揃うことがなくジグザグ状に蛇行して延在し、且つ、荷重付加方向に対して脆弱部の延在方向が非直交するように配置されている。
【0055】
これに対して、エンボス鋼板2で構成された比較例1では、脆弱部(平面部18)が一直線上に揃うことがなくジグザグ状に蛇行している点は実施例1と同一であるが、荷重付加方向に対して脆弱部の延在方向が直交するように配置されており、この脆弱部の配列パターンの違いによって上記のような吸収エネルギの差が発生したものと推測される。
【0056】
ここで、実施例1と比較例1の圧潰形態の相違について、圧潰時の状態を比較して説明する。図15(a)は、比較例1の座屈開始直後の状態を示した正面図、図15(b)は、比較例1において座屈開始後、座屈変形が終了した状態の正面図、図16(a)は、実施例1の座屈開始直後の状態を示した正面図、図16(b)は、実施例1において座屈開始後、座屈変形が終了した状態の正面図である。
【0057】
図15(a)において、比較例1は、凸部16間の脆弱部(平面部18)が荷重付加方向に対して直交する方向に連続しているにも拘わらず、座屈直後の変形部位が荷重付加方向(軸方向、鉛直下方向)に決まった一定間隔で不連続に存在していることがわかる。一方、図16(a)において、実施例1は、凸部16間の脆弱部(平面部18)が荷重付加方向に対して非直交する方向に連続しており、座屈開始直後の変形部位が部材の幅方向にわたりながら荷重付加方向(軸方向、鉛直下方向)に連続して存在していることがわかる。
【0058】
図15(b)と図16(b)とを比較して了解されるように、これらの変形が進行すると、比較例1では、試験体である筒型部材100が途中から折れ曲がって転倒してしまったのに対し、実施例1では、常に、座屈変形が生じていることがわかり、試験体である筒型部材100の軸方向に沿った一端部から他端部まで継続した蛇腹変形による安定座屈を示した。
【0059】
従って、脆弱部が一直線上に揃うことがなく荷重付加方向に対して直交する方向に配列された比較例1は、不連続な座屈により変形途中で座屈の進行が停止してしまい、筒型部材100に生じる反力が圧潰方向から外れて筒型部材100の転倒につながったものと思われる。
【0060】
一方、実施例1では、脆弱部として機能する平面部18が一直線上に揃うことがなくジグザグ状に蛇行して延在し、しかも、前記平面部18の延在方向が荷重付加方向に対し非直交する方向に配列されている。従って、実施例1では、荷重を受けて座屈する決まった一定間隔の脆弱部が筒型部材100の軸方向に対して、見かけ上、連続して存在するようにしたことで、変形中において、常にその一部が座屈するようになっている。この結果、実施例1では、生じた反力が常に荷重付加方向に向かい、圧潰方向に連続(継続)した座屈変形による安定座屈が生じるようになり、転倒した比較例1と比較してより高い衝撃エネルギを吸収することができた。
【0061】
ちなみに、図12に示されるように、比較例2〜4では、試験体である筒型部材がその途中から破断してしまった。また、平鋼板からなる比較例5では、比較例1と同様に転倒し、平鋼板からなる比較例6では、比較例2〜4と同様に破断してしまった。
【0062】
図17は、圧潰試験で測定された圧潰ストローク160mmまでの吸収エネルギと、圧潰ストローク5mmまでの初期反力との関係を示した特性図である。図17に示されるように、脆弱部(平面部18)が荷重付加方向に対して非直交する方向に連続する実施例1、2は、平鋼板からなる比較例5、6よりも吸収エネルギが高く、脆弱部(平面部18)が荷重付加方向に対して直交する方向に連続する比較例1〜4に対し、初期反力が同等であるが、吸収エネルギが高くなっている。
【0063】
すなわち、実施例1、2は、同一の衝撃力に対して得られる吸収エネルギが高いことを示しており、衝撃エネルギ吸収性に優れていることがわかる。従って、エンボス鋼板1で構成された実施例1、2の筒型部材100は、脆弱部(平面部18)の配列による連続した座屈変形の効果により、優れた衝撃エネルギ吸収能を備えている。この衝撃エネルギは、圧潰される部材の変形抵抗と変形ストローク(変形量)との積に比例するが、より短い変形ストロークで同等の衝撃エネルギを吸収することにより、例えば、車体のフロントオーバーハングの短縮による車両運動性能の向上や車体軽量化等を達成することができる。
【0064】
以上から、本発明に係る実施例1、2は、従来の蛇腹変形による安定座屈をもたらす技術以上に優れた安定座屈性を有しており、高い衝撃エネルギ吸収能を備え、且つ、従来工程と同じ手法で製造可能なハット断面形状を有する最適な状態を実現することができる。
【0065】
このため、例えば、自動車等の車体のフロントフレームに設けられるクラッシュ部材等に対して、エネルギ吸収部材10、10aを適用することにより、部材長さの短縮による車体の軽量化やフロントオーバーハングの短縮による運動性能の向上、さらには、従来の部品製造工程を利用することによる製造コストの低減等、車両構成上の利点を具現することができる。
【符号の説明】
【0066】
10、10a エネルギ吸収部材
12 自動車(車両)
16 凸部
18 平面部
20 エンボス加工部
A、B 仮想直線
【特許請求の範囲】
【請求項1】
衝撃荷重を受けて軸方向に座屈することで衝突エネルギを吸収する筒体からなる車両用エネルギ吸収部材において、
前記筒体の側面を構成する少なくとも一部には、複数の凸部が形成されたエンボス加工部が設けられ、
前記エンボス加工部のうちで前記凸部が形成されずに残存し、平面視して隣接する前記凸部の中心を結ぶ仮想直線Aに沿って延在する平面部が設けられ、
前記平面部は、前記仮想直線Aに沿って蛇行し、且つ、前記平面部の延在方向が前記筒体の軸方向と直交するものがないように設けられることを特徴とする車両用エネルギ吸収部材。
【請求項2】
前記複数の凸部は、対角線の長さ、直径又は高さのいずれか1つが大なる凸部と、前記大なる凸部に対応して、対角線の長さ、直径又は高さのいずれか1つが小なる他の凸部からなり、前記平面部に沿って延在する前記他の凸部の中心を結ぶ仮想直線Bは、前記筒体の軸方向と非直交するように設けられることを特徴とする請求項1記載の車両用エネルギ吸収部材。
【請求項1】
衝撃荷重を受けて軸方向に座屈することで衝突エネルギを吸収する筒体からなる車両用エネルギ吸収部材において、
前記筒体の側面を構成する少なくとも一部には、複数の凸部が形成されたエンボス加工部が設けられ、
前記エンボス加工部のうちで前記凸部が形成されずに残存し、平面視して隣接する前記凸部の中心を結ぶ仮想直線Aに沿って延在する平面部が設けられ、
前記平面部は、前記仮想直線Aに沿って蛇行し、且つ、前記平面部の延在方向が前記筒体の軸方向と直交するものがないように設けられることを特徴とする車両用エネルギ吸収部材。
【請求項2】
前記複数の凸部は、対角線の長さ、直径又は高さのいずれか1つが大なる凸部と、前記大なる凸部に対応して、対角線の長さ、直径又は高さのいずれか1つが小なる他の凸部からなり、前記平面部に沿って延在する前記他の凸部の中心を結ぶ仮想直線Bは、前記筒体の軸方向と非直交するように設けられることを特徴とする請求項1記載の車両用エネルギ吸収部材。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2012−11796(P2012−11796A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−147213(P2010−147213)
【出願日】平成22年6月29日(2010.6.29)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年6月29日(2010.6.29)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
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