説明

車両用エンジンの制御装置

【課題】運転者や搭乗者に対してノック音による聴感上の不快感を与えるとなく、エンジン出力や燃費の向上を図ることができるようにする。
【解決手段】騒音レベル推定部33bは、車速センサ、ワイパスイッチ、オーディオボリュームスイッチ等、車室内の暗騒音の発生源となる因子を含む各種スイッチ・センサ類等の各種暗騒音発生源29からのパラメータに基づき、暗騒音レベルLVを算出する。暗騒音レベル調整部33cは、暗騒音レベルLVと、ノック音が聴感不能となる暗騒音レベルLVの最大値である最大暗騒音レベルLVmaxとの比から自動暗騒音レベルLVnを算出し、この自動暗騒音レベルLVnに応じた増加補正値kを求める。ノック判定部基準値演算部33dは、統計値演算部33aで求めた平均値m、標準偏差σと、増加補正値kとに基づき、ノック判定基準値KNLVを算出する(KNLV←m+(u+k)・σ)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンのノック強度からノック発生の有無を判定するノック判定基準値を暗騒音レベルに応じて変更することのできる車両用エンジン制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンにノックが発生するとエンジン損傷の原因となるため、点火時期を直ちに遅角補正して、ノックを回避する必要がある。ノック判定はノックセンサで検出したエンジンのノッキング振動の強度(ノック強度)を示す信号と予め設定されているノック判定基準値とを比較して行い、ノックセンサで検出したノック強度がノック判定基準値を越えている場合、ノック発生と判定する。
【0003】
燃費向上の観点からは、ノック発生直前まで点火時期を進角させて出力を向上させた方が好ましく、ノック判定は高精度に行う必要がある。
【0004】
例えば、特許文献1(特開2009−250212号公報)には、ノックセンサで検出したノック強度に各気筒のノイズレベルの差を縮小するゲインを乗算して補正値を求め、この補正値とノック判定基準値とを比較してノック発生の有無を判定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−250212号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した文献に開示されている技術によれば、検出されるノック強度に所定ゲインを乗じて補正値を求めることにより、各気筒間のノック強度のバラツキが縮小され、ノック検出精度を向上させることができる。
【0007】
ところで、ノック音は運転者や搭乗者に聴感上の不快感を与えるものであるため、ノック判定基準値は、ノック発生によるエンジンの損傷を防止するのみならず、運転者或いは搭乗者に対して聴感上の不快感を与えないノック強度に基づいても設定されている。
【0008】
従って、ノック発生を検出した場合であっても、聴感上の不快感を気にしなければエンジンに損傷を与えることのない範囲まで点火時期を進角させて、エンジン出力や燃費を向上させることができる。しかし、ノック音を運転者や搭乗者に継続的に聴感される状態は、不快感が増長されるため好ましくない。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑み、運転者や搭乗者に対してノック音による聴感上の不快感を与えるとなく、エンジン出力や燃費の向上を図ることのできる車両用エンジンの制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、エンジンのノック強度を検出するノック強度検出手段と、前記ノック強度検出手段で検出したノック強度と予め設定されているノック判定基準値とを比較し、前記ノック強度が前記ノック判定基準値を越えているとき、ノック発生と判定するノック判定手段とを有する車両用エンジンの制御装置において、車室内の暗騒音となる暗騒音発生源からのパラメータに基づいて車室内の暗騒音レベルを推定する暗騒音レベル推定手段と、前記暗騒音レベル推定手段で推定した前記暗騒音レベルに応じて、前記ノック判定基準値を変更するノック判定基準値設定手段とを備えた。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、車室内の暗騒音となる暗騒音発生源からのパラメータに基づいて車室内の暗騒音レベルを推定し、この暗騒音レベルに応じてノック判定基準値を自動的に変更するようにしたので、暗騒音が大きくノック音がかき消される場合は、点火時期を進角させることができ、運転者や搭乗者に対し、ノック音による聴感上の不快感を与えるとなく、エンジンの出力や燃費を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】エンジン制御系の構成図
【図2】点火時期制御にかかる機能ブロック図
【図3】ノックセンサ出力値の頻度分布を示す図表
【図4】暗騒音レベル算出ルーチンを示すフローチャート
【図5】暗騒音発生源とそれに付されたポイントを示す図表
【図6】増加補正値算出ルーチンを示すフローチャート
【図7】ノック判定基準値設定ルーチンを示すフローチャート
【図8】暗騒音発生源数と暗騒音レベルとの関係を示す図表
【図9】ノック判定調整スイッチのクリック段数と当該スイッチの出力値[%]との関係を示す図表
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面に基づいて本発明の一実施形態を説明する。図1の符号1はエンジンであり、このエンジン1の上部にシリンダヘッド2が設けられ、このシリンダヘッド2に、エンジン1の燃焼室1aに連通する吸気ポート3と排気ポート4とが設けられている。又、シリンダヘッド2には、吸気ポート3を開閉する吸気弁5と排気ポート4を開閉する排気弁6とが配設され、更に、燃焼室1a内に先端の放電電極を露呈する点火プラグ7が取り付けられている。
【0014】
又、吸気ポート3には、吸気マニホルド8が連通され、この吸気マニホルド8の吸気ポート3直上流側に、インジェクタ9が燃料噴射口を吸気弁5の方向へ指向した状態で配設されている。吸気マニホルド8は吸気通路10に連通され、この吸気通路10の中途にスロットル弁11が配設されている。
【0015】
スロットル弁11は、本実施形態においては、その弁開度が電子的に制御される電子制御式スロットル弁であり、スロットル弁11を駆動するモータ等のスロットルアクチュエータ20が連設され、このスロットル弁11の上流側に、エアクリーナ12が配設されている。一方、排気ポート4は、排気マニホルド13を介して排気通路14に連通され、この排気通路14の中途に触媒15が介装されている。
【0016】
又、符号31は、エンジン1を電子的に制御する電子制御装置(ECU)であり、センサ出力処理回路、及び、CPU,ROM,RAM等からなるマイクロコンピュータを有し、その他、A/D変換器、タイマ、カウンタ、各種ロジック回路等の周辺回路を備えている。
【0017】
ECU31の入力側に、運転状態を検出する各種スイッチ・センサ類が接続され、又、出力側にエンジン1に備えられた各種機器類が接続されている。このECU31の入力側に接続されるスイッチ・センサ類としては、エアクリーナ12直下流に設けられて吸入空気量を検出する吸入空気量センサ22、エンジン1のシリンダヘッドやシリンダブロックに取付けられてエンジン1のノック強度を検出するノック強度検出手段としてのノックセンサ23、排気通路14の触媒15上流側に配設されて排気ガス中の酸素濃度から空燃比を検出する空燃比センサ24、クランク軸の回転角からクランク角を検出するクランク角センサ25、アクセルペダル(図示せず)の踏込量からアクセル開度を検出するアクセル開度センサ26、スロットル弁11の開度を検出するスロットル開度センサ27、運転席側のインストルメントパネルやステアリングホイール付近等に設けられたノック判定調整手段としてのノック判定調整スイッチ28等が備えられている。
【0018】
ノック判定調整スイッチ28は、ダイヤル式スイッチであり、クリック機構により設定回転角毎にクリック動作されて、複数段階のノック判定制限値Sk[%]が設定される。すなわち、図9に示すように、ノック判定調整スイッチ28に設けられているダイヤルのクリック段数が6段に設定されている場合、0〜6段までの間のクリック位置に対応して、0〜100[%]の間で6等分されたノック判定制限値Sk[%]が出力される。尚、ノック判定調整スイッチ28は連続可変式であっても良く、この場合、ノック判定制限値Sk[%]は連続した出力値となる。
【0019】
更に、このECU31の入力側に各種暗騒音発生源29が接続されている。この各種暗騒音発生源29は、車室内の暗騒音の発生源となる因子を含む各種スイッチ・センサ類で代用されており、代表的なものとして、車速センサ、ワイパスイッチ、オーディオボリュームスイッチ、エアコンスイッチ、パワーウインドウのダウンスイッチがある。これらを運転者が操作した場合、それに起因して車室内に継続的な暗騒音が発生する。
【0020】
すなわち、車両が走行すると風切り音やロードノイズが発生し、それらが車室内の暗騒音となる。このときの暗騒音レベルは車速に依存し、車速が速くなるに従い大きな値となる。又、ワイパスイッチがONされてワイパが作動すると、ワイパの払拭音や雨音が車室内の暗騒音となる。更に、オーディオボリュームスイッチがONされると、スピーカから出力される音楽や音声等のスピーカ音が車室内の暗騒音となる。この暗騒音レベルは音量に依存し、音量が大きくなるに従い大きな値となる。又、パワーウインドウのダウンスイッチをONすると、ウインドウガラスが下がり、窓が開放されるため、様々な外環境音が車室内に入り込み、更に、走行中にあっては大きな風切り音が発生し、これらが暗騒音となる。
【0021】
一方、ECU31の出力側に接続されるアクチュエータ類としては、上述のインジェクタ9、スロットルアクチュエータ20、点火プラグ7に接続される点火コイル(図示せず)をON,OFFするイグナイタ21等がある。
【0022】
ECU31は、エンジン運転状態を検出するセンサ・スイッチ類からの信号に基づいて、各種制御量を演算し、燃料噴射量制御、点火時期制御等のエンジン制御を実行する。点火時期制御では、クランク角センサ25で検出した所定クランク角の間隔時間に基づいて求めたエンジン回転数と、吸入空気量或いは燃料噴射量等に基づいて求めたエンジン負荷とに基づきマップ参照等により点火時期を設定する。そして、クランク角が点火時期に対応する進角度に達したとき、イグナイタ21に対し、点火信号を出力して点火プラグ7を火花点火させる。その間、ノックセンサ23で検出したノック信号を監視し、ノック発生を検出したときは、点火時期を直ちに遅角させて、ノックを回避する。
【0023】
図2に、ECU31に備えられているノック判定に関る機能構成を示す。ECU31は、ノック判定に関わる機能としてセンサ出力処理部32、マイクロコンピュータによるノック判定演算部33を備え、更に、点火時期制御部34を備えている。センサ出力処理部32は、ノックセンサ23で検出したノック信号の成分からノック判定に必要な周波数帯域のみを抽出するバンドパスフィルタ32a、バンドパスフィルタ32aを通過したノック信号のピーク値を検出するピーク検出部32b、ピーク検出部32bで検出したピーク値を対数変換し、その値をノック強度として算出する対数変換部32cを備えている。
【0024】
又、ノック判定演算部33は、統計値演算部33a、暗騒音レベル推定手段としての暗騒音レベル推定部33b、暗騒音レベル調整部33c、ノック判定基準値設定手段としてのノック判定基準値演算部33d、及びノック判定手段としてのノック判定部33eを備えている。
【0025】
統計値演算部33aは、対数変換部32cで算出したノック強度のピーク値のデータを統計処理してノック強度の平均値(中央値)mと標準偏差σとを算出する。
【0026】
暗騒音レベル推定部33bは、各種暗騒音発生源29からのパラメータに基づき、暗騒音レベルLVを算出する。すなわち、各暗騒音発生源にはその種別に応じて音源別暗騒音情報であるポイントが予め付されており、各ポイントはROMに固定データとして予め記憶されている。そして、検出した暗騒音発生源毎のポイントを加算して暗騒音レベルLVを推定する。
【0027】
この暗騒音レベルLVは、具体的には図4に示す暗騒音レベル算出ルーチンに従って算出される。このルーチンは所定演算周期毎に実行され、先ず、ステップS1で、車速センサで検出した車速と予め設定されている設定車速とを比較する。この設定車速は走行により発生する風切り音やロードノイズの程度に基づき、ノック音がどの程度聴感できるかを予め実験等から求めて設定したものである。
【0028】
そして、車速≧設定車速と判定された場合は、ステップS2へ進み、車速ポイントP1を1に設定して(P1←1)、ステップS4へ進む。又、車速<設定車速と判定したときは、ステップS3へ分岐して、車速ポイントP1をクリアし(P1←0)、ステップS4へ進む。
【0029】
ステップS4へ進むと、ワイパスイッチがONか否かを調べ、ONのときは、ステップS5へ進み、ワイパポイントP2を1に設定して(P2←1)、ステップS7へ進む。又、ワイパスイッチがOFFのときは、ステップS6へ分岐し、ワイパポイントP2をクリアして(P2←0)、ステップS7へ進む。
【0030】
ステップS7では、オーディオボリュームスイッチの状態を調べ、スイッチONの場合は、ステップS8へ進み、OFFの場合はステップS9へ進んで、ボリュームポイントP3をクリアした後(P3←0)、ステップS12へ進む。
【0031】
一方、ステップS8へ進むと、オーディオのボリュームと予め設定されている設定ボリュームとを比較する。この設定ボリュームはスピーカから出力されるスピーカ音のレベルに基づき、ノック音がどの程度聴感できるかを予め実験等から求めて設定したものである。
【0032】
そして、ボリューム≧設定ボリュームのときは、ステップS10へ進み、ボリュームポイントP3を3にセットして(P3←3)、ステップS12へ進む。又、ボリューム<設定ボリュームのときは、ステップS11へ進み、ボリュームポイントP3を1にセットして(P3←1)、ステップS12へ進む。ステップS12へ進むと、パワーウインドウのダウンスイッチの状態を調べ、ONのときはステップS13へ進み、OFFのときはステップS14へ進む。
【0033】
ステップS13では、上述したステップS1と同様、車速と設定車速とを比較し、車速≧設定車速のときは、ステップS15へ進み、ウインドウポイントP4を3に設定して(P4←3)、ステップS19へ進む。又、車速<設定車速のときは、ステップS16へ分岐して、ウインドウポイントP4を1にセットして(P4←1)、ステップS19へ進む。
【0034】
又、ステップS12からステップS14へ進むと、パワーウインドウのアップスイッチがONか否かを調べ、ONのときは、ステップS17へ進み、ウインドウポイントP4をクリアして(P4←0)、ステップS19へ進む。又、アップスイッチがOFFのときは、ステップS18へ進み、前回の演算時にセットしたウインドウポイントP4を保持して、ステップS19へ進む。尚、各ステップS1,S4,S7,S8,S12で読込む暗騒音発生源を示すパラメータは代表例であり、それ以外の暗騒音発生源を示すパラメータが設定されていても良く、ポイントPnは設定した暗騒音発生源の数だけ設定されている。
【0035】
そして、ステップS19へ進むと、セットした各ポイントP1〜P4…Pnを加算して、ポイント総和Ptotalを求め(Ptotal←P1+…Pn)、続く、ステップS20で、このポイント総和Ptotalに基づいて、マップ参照或いは演算式から車室内の暗騒音レベルLVを設定し(LV←f(Ptotal))、ルーチンを抜ける。尚、図5に暗騒音発生源と、それに付すポイントとの対応を一覧で示す。
【0036】
暗騒音レベル調整部33cは、暗騒音レベル推定部33bで算出した暗騒音レベルLVと予め設定されている最大暗騒音レベルLVmaxとの比から自動暗騒音調整レベル(LV/LVmax)を求め、更に、ノック判定調整スイッチ28から出力されるノック判定制限値Sk[%]に基づき、自動暗騒音調整レベル(LV/LVmax)の何%をノック判定基準値の増加補正値として設定するかを調整する。
【0037】
この暗騒音レベル調整部33cで設定される暗騒音レベルの増加補正値は、具体的には、図6に示す増加補正値算出ルーチンに従って求められる。このルーチンでは、先ず、ステップS21で、上述した暗騒音レベル算出ルーチンで算出した暗騒音レベルLVを読込み、ステップS22で、ノック判定調整スイッチ28から出力されるノック判定制限値Sk[%]を読込む。
【0038】
次いで、ステップS23へ進み、ノック判定制限値Skが0か否かを調べ、Sk>0のときはステップS24へ進む。又、Sk=0のときはステップS25へ分岐し、増加補正係数kをクリアした後(k←0)、ステップS29へ進む。
【0039】
一方、ステップS24では、暗騒音レベルLVと最大暗騒音レベルLVmaxとを比較する。この最大暗騒音レベルLVmaxは、エンジン1に損傷を与えることのない範囲まで点火時期を進角させたときに発生するノック音が暗騒音によってかき消されて聴感不能となるレベルを、実験などから求めて設定したものである。
【0040】
そして、LV≧LVmaxのときは、ステップS26へ進み、暗騒音レベルLVを最大暗騒音レベルLVmaxでセットして(LV←LVmax)、ステップS27へ進む。又、LV<LVmaxのときは、そのまま、ステップS27へ進む。
【0041】
ステップS27では、暗騒音レベルLVと最大暗騒音レベルLVmax、及び、ノック判定制限値Skに基づき、次式から自動暗騒音レベルLVn[%]を求める。
LVn←(LV/LVmax)・Sk …(1)
ここで、(LV/LVmax)は、車室内の暗騒音によりノック音を聴感不能とする許容レベルを求めたものであり、又、ノック判定制限値Skは、運転者がノック判定調整スイッチ28を操作することで、0〜100[%]の範囲で、自動暗騒音レベルLVnを段階的に調整可能である。
【0042】
従って、自動暗騒音レベルLVnは、運転者がノック判定調整スイッチ28を操作して、Sk=100[%}に設定した場合、暗騒音レベルLVと最大暗騒音レベルLVmaxとの比(LV/LVmax)に応じて自動調整され、Sk=0[%}に設定した場合、LVn=0[%]となる。
【0043】
その後、ステップS28へ進み、自動暗騒音レベルLVnに基づき増加補正値kを、次の(2)式から算出する。
K←k1・LVn+k2・(1−LVn) …(2)
この増加補正値kは、後述するノック判定基準値KNLVを、現在の暗騒音レベルLVと運転者の設定したノック判定制限値Skに基づいて自動的に増加させる係数である。又、K1は上限値、K2は下限値であり、これらについては後述する。
【0044】
図3に、統計値演算部33aで求めたノックが発生していないときのノック強度の平均値(中央値)mと標準偏差σに基づき求めたノック強度頻度分布(正規分布)を示す。尚、ノック発生時のノック強度頻度分布は、同図に一点鎖線で示すように、ノック強度が強い方向へ歪んだ分布となる。
【0045】
ところで、従来のノック判定基準値KNLVは、
KNLV←m+u・σ …(3)
で求めていた、ここで、uはエンジン1の運転領域毎に設定されるu値と称されるノック判定基準値を補正するための係数である。このu値はエンジン回転数に基づいて設定される可変値であり、エンジン回転数が高いほど大きな値に設定される。
【0046】
(3)式で求める従来のノック判定基準値KNLVは、運転者や搭乗者が聴感上、ノック音を認識することのできない値の最大値を示すノック強度に基づいて設定されている。従って、実際には、ノック強度が従来のノック判定基準値KNLVよりも高い場合であっても、エンジン1に損傷を与えることのない範囲であれば点火時期を更に進角させることが可能である。
【0047】
そのため、本実施形態では、従来のノック判定基準値KNLVで設定されるu値を下限値k2として設定し(k2←u)、その下限値k2に一定値を加算してエンジン1に損傷を与えることのない上限値k1を設定する。従って、下限値k2は従来のu値と同じ値であり、聴感上ノック音を認識できない値の上限に設定されている。
【0048】
そして、ステップS25或いはステップS28からステップS29へ進むと、増加補正値kを出力してルーチンを抜ける。
【0049】
この増加補正値kは、ノック判定基準値演算部33dで読込まれる。ノック判定基準値演算部33dでは、統計値演算部33aで求めた平均値mと増加補正値kと標準偏差σとに基づき、ノック判定基準値KNLVを算出する。
【0050】
このルーチンでは、先ず、ステップS31で増加補正値kを読込み、続く、ステップS33で、次の(4)式からノック判定基準値KNLVを算出し、ステップS34で、ノック判定基準値KNLVを出力してルーチンを抜ける。
KNLV←m+(u+k)・σ …(4)
増加補正係数kは、暗騒音レベルLVと運転者の設定するノック判定制限値Skで変化するため、例えば、運転者がノック判定制限値Skを0[%]に設定すれば、自動暗騒音レベルLVnが0となり、従って、ノック判定基準値KNLVは暗騒音レベルLVとは無関係に、従来と同様の値(m+u・σ)に設定される。一方、運転者がノック判定制限値Skを100[%]に設定すれば、ノック判定基準値KNLVは自動暗騒音レベルLVnに従って自動的に変化する。その結果、図3に示すように、ノック判定基準値KNLVは、自動暗騒音レベルLVnとノック判定制限値Skとに従い、(m+u・σ)〜(m+(u+k1)・σ)の範囲で自動的に設定される。
【0051】
ノック判定部33eは、対数変換部32cで対数変換したノック強度のピーク値と、ノック判定基準値演算部33dで算出したノック判定基準値KNLVとを比較する。そして、ノック強度のピーク値がノック判定基準値KNLVを越えた場合、ノック発生と判定し、点火時期制御部34に遅角指令信号を出力して、点火時期を遅角補正する。一方、ノック強度のピーク値がノック判定基準値KNLVよりも低い場合は点火時期を進角可能と判定し、点火時期制御部34に進角指令信号を出力して、点火時期を更に進角補正する。点火時期を進角させることで、エンジン出力や燃費を向上させることができる。
【0052】
このように、本実施形態ではノック判定基準値KNLVを、自動暗騒音レベルLVnと運転者の設定するノック判定制限値Skに基づいて設定するようにしたので、例えば、ノック判定制限値Skを100[%]に設定すると、ノック判定基準値KNLVは、自動暗騒音レベルLVnに従って自動的に可変設定されるため、ノック音が暗騒音にかき消されて聴感不能のとなる点火時期が進角されることとなり、運転者や搭乗者に聴感上の不快感を与えることのない範囲で最大のエンジン出力を発生させることができる。
【0053】
更に、このノック判定基準値KNLVを補正する増加補正値kは、運転者がノック判定調整スイッチ28を操作することで調整することができるため、運転者の好みに応じたノック判定基準値KNLVを設定することができる。
【符号の説明】
【0054】
1…エンジン
23…ノックセンサ
28…ノック判定調整スイッチ
29…各種暗騒音発生源
31…電子制御装置
33…ノック判定演算部
33a…統計値演算部
33b…暗騒音レベル推定部
33c…暗騒音レベル調整部
33d…ノック判定基準値演算部
33e…ノック判定部
k…増加補正値
KNLV…ノック判定基準値
LV…暗騒音レベル
LVmax…最大暗騒音レベル
LVn…自動暗騒音レベル
P1-P4…各ポイント
Sk…ノック判定制限値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンのノック強度を検出するノック強度検出手段と、前記ノック強度検出手段で検出したノック強度と予め設定されているノック判定基準値とを比較し、前記ノック強度が前記ノック判定基準値を越えているとき、ノック発生と判定するノック判定手段とを有する車両用エンジンの制御装置において、
車室内の暗騒音となる暗騒音発生源からのパラメータに基づいて車室内の暗騒音レベルを推定する暗騒音レベル推定手段と、
前記暗騒音レベル推定手段で推定した前記暗騒音レベルに応じて、前記ノック判定基準値を変更するノック判定基準値設定手段と
を備えたことを特徴とする車両用エンジンの制御装置。
【請求項2】
前記ノック判定基準値設定手段は、前記ノック判定基準値を予め設定されている上限値と下限値との間で変更される
ことを特徴とする請求項1記載の車両用エンジンの制御装置。
【請求項3】
前記ノック判定基準値の下限値は、聴感上ノック音を認識できない値に設定されている
ことを特徴とする請求項2記載の車両用エンジンの制御装置。
【請求項4】
前記ノック判定基準値の上限値は、前記エンジンに損傷を与えることのないノック強度の上限値に設定されている
ことを特徴とする請求項2又は3に記載の車両用エンジンの制御装置。
【請求項5】
操作者により操作されるノック判定調整手段を有し、
前記ノック判定基準値設定手段は、前記ノック判定調整手段の操作に応じて前記ノック判定基準値を調整可能である
ことを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の車両用エンジンの制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−64333(P2013−64333A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−202082(P2011−202082)
【出願日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】