説明

車両用エンジンフード

【課題】車両用エンジンフードの加工工程が多く、製造が困難である点を解決することで、車両用エンジンフードの加工性及び組立性の向上を可能にするとともに、車両用エンジンフードの剛性の調整が困難である点を解決することで、車両用エンジンフードの剛性の調整を容易に行うことことを可能にする。
【解決手段】車体11の表面を覆うアウタパネル31と、このアウタパネル31の裏面31aに取付けるインナパネル32とからなる車両用エンジンフードにおいて、インナパネル32にアウタパネル31の補強をするフレーム部(第2のフレーム部)37を形成し、フレーム部37にインナパネル32とアウタパネル31の内の少なくとも一方にマスチックシーラ(接着剤)を塗布した塗布層55を形成し、この塗布層55をアウタパネル31の裏面31aから少なくとも一部を離間させて硬化させた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンルームを開閉自在に覆う車両用エンジンフードであり、エンジンフード上に当たった歩行者の保護を配慮した車両用エンジンフードに関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両用エンジンフードとして、エンジンフード上に当たった歩行者の保護を配慮したものが実用に供されている。
実用の車両用エンジンフードは、アウタパネルに所定の強度を持たせたインナパネルを合わすようにすれば実用上十分であった。
【0003】
このような車両用エンジンフードとして、アウタパネルにインナパネルをマスチックシーラ(接着剤)で固定したものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2003−285768公報(第7頁、図1)
【0004】
特許文献1の技術を説明する。
図11は従来の基本構成を説明する底面図であり、図12は従来の基本構成を説明する側面断面図である。
車両用エンジンフード200は、車体の表面を覆うアウタパネル201と、このアウタパネル201の裏面に取付けるインナパネル202と、から構成し、インナパネル202に所定の開口203を開け、この開口203にそれぞれフランジ204を形成し、このフランジ204から舌状片205〜207を延出し、これらの舌状片205〜207をアウタパネル201に図12に示すマスチックシーラ(接着剤)208で取付けたものである。
【0005】
しかし、車両用エンジンフード200では、インナパネル202に、所定の開口203を開け、この開口203にそれぞれフランジ204を形成し、これらのフランジ204から舌状片205〜207を延出する必要があるので、加工工程が多く、製造が困難であるとともに、フランジから延出した舌状片が変形し易く組立が困難である。
また、車両用エンジンフード200では、フランジ204から延出した舌状片205〜207をアウタパネル201に接着するものなので、車両用エンジンフードの剛性の調整が困難でもある。
【0006】
すなわち、車両用エンジンフードの加工性が良く、且つ組立性が良い車両用エンジンフードが望まれるとともに、車両用エンジンフードの剛性の調整を容易に行うことができる車両用エンジンフードが望まれる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、車両用エンジンフードの加工工程が多く、製造が困難である点を解決し、車両用エンジンフードの加工性及び組立性の改善を図ることができる車両用エンジンフードを提供するとともに、車両用エンジンフードの剛性の調整が困難である点を解決し、車両用エンジンフードの剛性の調整を容易に行うことができる車両用エンジンフードを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る発明は、車体の表面を覆うアウタパネルと、このアウタパネルの裏面に取付けるインナパネルとからなる車両用エンジンフードにおいて、インナパネルにアウタパネルの補強をするフレーム部を形成し、このフレーム部にインナパネルとアウタパネルの内の少なくとも一方にマスチックシーラを塗布した塗布層を形成し、この塗布層をアウタパネルの裏面から少なくとも一部を離間させて硬化させたことを特徴とする。
【0009】
請求項2に係る発明は、フレーム部の一部に、トリミングカットを加えたフランジを備え、このフランジに塗布層を形成したことを特徴とする。
【0010】
請求項3に係る発明は、フランジに、残部をアウタパネルに接着する接着層と、アウタパネルの裏面から離間させて硬化させた塗布層と、を共存させたことを特徴とする。
【0011】
請求項4に係る発明は、塗布層を形成するマスチックシーラと、接着層を構成するマスチックシーラと、を違えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る発明では、インナパネルにアウタパネルの補強をするフレーム部を形成し、このフレーム部にインナパネルとアウタパネルの内の少なくとも一方にマスチックシーラを塗布した塗布層を形成し、この塗布層をアウタパネルの裏面から少なくとも一部を離間させて硬化させたので、車両用エンジンフードの剛性の調整を容易に行うことができる。この結果、量産モデルにおいても必要に応じて適宜剛性の調整をすることができるという利点がある。
【0013】
また、インナパネルにアウタパネルの補強をするフレーム部を形成し、このフレーム部に接着剤を塗布した塗布層を形成したので、例えば、フレーム部から舌状片を延出する場合に比べ、車両用エンジンフードの加工性及び組立性の改善を図ることができる。この結果、車両用エンジンフードのコストの低減を図ることができるという利点がある。
【0014】
請求項2に係る発明では、フレーム部の一部に、トリミングカットを加えたフランジを備え、このフランジに塗布層を形成したので、車両用エンジンフードの剛性の調整をきめ細かく行うことができるという利点がある。
【0015】
請求項3に係る発明では、フランジに、アウタパネルに接着する接着層と、アウタパネルの裏面から離間させて硬化させた塗布層と、を共存させたので、エンジンフードの剛性の調整の範囲を拡大することができるという利点がある。
【0016】
請求項4に係る発明では、塗布層を形成するマスチックシーラと、接着層を構成するマスチックシーラと、を違えたので、エンジンフードの剛性の調整のみならず、効果的な防音対策も同時に行うことができるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明を実施するための最良の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、図面は符号の向きに見るものとする。
図1は本発明に係る車両用エンジンフードを採用した車両の斜視図である。
図中、10は車両、11は車体、12は車室、15は前照灯、16はフロントピラー、17はフロントガラス、18は前ドア、19は後ドア、21はルーフ、22は前輪、23はフロントフェンダ、24はドアミラー、25はステアリング、26はフロントバンパであり、本発明に係る車両用エンジンフード30は、剛性の調整や防音対策を任意に行うことができるようにしたエンジンフードである。
【0018】
図2は本発明に係る車両用エンジンフードの斜視図であり、図3は本発明に係る車両用エンジンフードの側面図である。
車両用エンジンフード30は、車体11(図1参照)の表面を覆うアウタパネル31と、このアウタパネル31の裏面に取付けるインナパネル32と、このインナパネル32側の前方に取付けたストライカ33と、を備えるものであり、後述するように、インナパネル32の周囲をアウタパネル31でカーリングするとともに、インナパネル32の内部をアウタパネル31に接着して組立てたものである。
【0019】
図4は本発明に係る車両用エンジンフードの底面図であり、インナパネル32は、パネル本体35と、このパネル本体35の中心部に設けることでアウタパネル31を補強するフレーム部としての第1のフレーム部36と、これらの第1のフレーム部36の左右に設けることでアウタパネル31を補強するフレーム部としての第2のフレーム部37,37と、パネル本体35にストライカ33を取付けるために設けた補強部材38と、を備える。
【0020】
図5は本発明に係る車両用エンジンフードの第1のフレーム部の詳細図であり、第1のフレーム部36は、パネル本体35からアウタパネル31側に傾斜させて形成した斜面部41と、この斜面部41の周囲に形成した残部としてのフランジ42と、フランジ42の周囲に形成した開口部43と、フランジ42をマスチックシーラ(接着剤)で結合した接着層(接着部)44・・・(・・・は複数個を示す。以下同じ)と、からなる。
【0021】
フランジ42は、一部にトリミングカット(ちり切り)を加えた部分であり、第2フレーム部37の剛性を調整したものである。すなわち、47a〜47cはトリミングカット(ちり切り)した領域(トリミング部)である。
【0022】
図6は本発明に係る車両用エンジンフードの第2のフレーム部の詳細図であり、第2のフレーム部37は、パネル本体35からアウタパネル31側に傾斜させて形成した斜面部51と、この斜面部51の周囲に形成した残部としてのフランジ52と、フランジ52の周囲に形成した開口部53と、フランジ52をマスチックシーラ(接着剤)で結合した接着層(接着部)54・・・と、フランジ52のみにマスチックシーラを塗布することで防音効果を発揮させる塗布層(塗布部)55と、からなる。
【0023】
フランジ52は、一部にトリミングカット(ちり切り)を加えた部分であり、第1のフレーム部36の剛性を調整したものである。すなわち、57a,57bはトリミングカット(ちり切り)した領域(トリミング部)である。
【0024】
図7は図4の7−7線断面図であり、第1のフレーム部36の要部断面を示す。
接着層(接着部)44は、第1のフレーム部36のフランジ42とアウタパネル31の裏面31aとをピンポイントで接着した部分であり、接着する数を任意に増減させることで、車両用エンジンフード30の剛性を適宜調整することができる。
【0025】
図8は図4の8−8線断面図であり、第2のフレーム部37の要部断面を示す。
塗布層(塗布部)55は、第2のフレーム部37のフランジ52にアウタパネル31の裏面31aから離間させて塗布した部分であり、例えば、アウタパネル31が撓んだときにインナパネル32に当たって発生する異音を防止することができる。すなわち、塗布層(塗布部)55は、防音効果を発揮させることができる。
【0026】
また、塗布層(塗布部)55を形成するマスチックシーラ(接着剤)と、接着層(接着部)54(図6参照)を構成するマスチックシーラを違えたものを使用することも差支えない。この結果、塗布層(塗布部)55のダンパ機能、防振機能若しくは防音機能を強化するとともに、接着層(接着部)54の接着機能を強化することができる。
塗布層55を形成するマスチックシーラと、接着層54を構成するマスチックシーラと、を違えることで、車両用エンジンフード30の剛性の調整のみならず、効果的な防音対策も同時に行うことができる。
【0027】
図9は図4の9−9線断面図であり、車両用エンジンフード30は、車体11(図1参照)の表面を覆うアウタパネル31と、このアウタパネル31の裏面31aに取付けるインナパネル32とからなる車両用エンジンフードにおいて、インナパネル32にアウタパネル31の補強をするフレーム部(第2のフレーム部)37を形成し、フレーム部37に
インナパネル32とアウタパネル31の内の少なくとも一方にマスチックシーラ(接着剤)を塗布した塗布層55を形成し、この塗布層55をアウタパネル31の裏面31aから少なくとも一部を離間させて硬化させたものと言える。
【0028】
例えば、エンジンフードの加工性及び組立性の改善を図ることができるとすれば、エンジンフードのコストの低減を図ることができるので好ましいことであり、エンジンフードの剛性の調整を容易に行うことができるとすれば、量産モデルにおいても必要に応じて適宜剛性の調整をすることができるので好ましいことである。
【0029】
そこで、インナパネル32にアウタパネル31の補強をするフレーム部(第2のフレーム部)37を形成し、フレーム部37にインナパネル32とアウタパネル31の内の少なくとも一方にマスチックシーラ(接着剤)を塗布した塗布層55を形成し、この塗布層55をアウタパネル31の裏面31aから少なくとも一部を離間させて硬化させることで、車両用エンジンフード30の剛性の調整を容易に行うことができる。この結果、量産モデルにおいても必要に応じて適宜剛性の調整することができる。
【0030】
また、インナパネル32にアウタパネル31の補強をするフレーム部(第2のフレーム部)37を形成し、フレーム部37にインナパネル32とアウタパネル31の内の少なくとも一方にマスチックシーラ(接着剤)を塗布した塗布層55を形成することで、例えば、フレーム部から舌状片を延出する場合に比べ、車両用エンジンフード30の加工性及び組立性の改善を図ることができる。この結果、車両用エンジンフード30のコストの低減を図ることができる。
【0031】
車両用エンジンフード30は、フレーム部(第2のフレーム部)37に、一部にトリミングカット(トリムカット)を加えたフランジ52を備え、このフランジ52に塗布層55を形成したものと言える。
フレーム部(第2のフレーム部)37に、一部にトリミングカットを加えたフランジ52を備え、このフランジ52に塗布層55を形成することで、車両用エンジンフード30の剛性の調整をきめ細かく行うことができる。
【0032】
車両用エンジンフード30は、フランジ52に、アウタパネル31に接着する接着層54と、アウタパネル31の裏面31aから離間させて硬化させた塗布層55と、を共存させたものとも言える。
フランジ52に、アウタパネル31に接着する接着層54と、アウタパネル31の裏面31aから離間させて硬化させた塗布層55と、を共存させることで、車両用エンジンフードの剛性の調整の範囲を拡大することができる。
【0033】
図10(a),(b)は本発明に係る車両用エンジンフードの作用説明図である。
(a)において、車両用エンジンフード30は、接着層(接着部)54の数量を任意に設定したり、トリミングカット(ちり切り)することで、例えば、歩行者保護等のために最適の剛性を設定することができる。
【0034】
(b)において、歩行者保護のためには剛性が適正であったとしても、例えば、洗車のときなどに、車両用エンジンフード30を不用意に矢印a1の如く押してしまうことがある。このような場合に、インナパネル32のフランジ52に塗布層(塗布部)55を形成しておくことで、アウタパネル31の変形を最小限に止めることができる。また、アウタパネル31がインナパネル32に当たるときの異音の発生を防止することができる。すなわち、インナパネル32側に塗布層(塗布部)55を形成することで、防音効果を発揮させることができる。
【0035】
尚、本発明に係る車両用エンジンフードは、図1に示すように、エンジンを覆うフードであったが、これに限るものではなく、エンジンのない部分を覆うテールゲート、ドア、ボンネット若しくはトランクリッド等の蓋体に用いるものであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明に係る車両用エンジンフードは、軽自動車やミニバンなどの比較的短いエンジンフード(ボンネット)を備える乗用車に採用するのに好適である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明に係る車両用エンジンフードを採用した車両の斜視図である。
【図2】本発明に係る車両用エンジンフードの斜視図である。
【図3】本発明に係る車両用エンジンフードの側面図である。
【図4】本発明に係る車両用エンジンフードの底面図である。
【図5】本発明に係る車両用エンジンフードの第1のフレーム部の詳細図である。
【図6】本発明に係る車両用エンジンフードの第2のフレーム部の詳細図である。
【図7】図4の7−7線断面図である。
【図8】図4の8−8線断面図である。
【図9】図4の9−9線断面図である。
【図10】本発明に係る車両用エンジンフードの作用説明図である。
【図11】従来の基本構成を説明する底面図である。
【図12】従来の基本構成を説明する側面断面図である。
【符号の説明】
【0038】
10…車両、11…車体、30…車両用エンジンフード、31…アウタパネル、31a…裏面、32…インナパネル、37…フレーム部(第2のフレーム部)、52…フランジ、55…塗布層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体の表面を覆うアウタパネルと、このアウタパネルの裏面に取付けるインナパネルとからなる車両用エンジンフードにおいて、
前記インナパネルに前記アウタパネルの補強をするフレーム部を形成し、このフレーム部に前記インナパネルとアウタパネルの内の少なくとも一方にマスチックシーラを塗布した塗布層を形成し、この塗布層を前記アウタパネルの裏面から少なくとも一部を離間させて硬化させたことを特徴とする車両用エンジンフード。
【請求項2】
前記フレーム部は、一部にトリミングカットを加えたフランジを備え、このフランジに前記塗布層を形成したことを特徴とする請求項1記載の車両用エンジンフード。
【請求項3】
前記フランジに、前記アウタパネルに接着する接着層と、前記アウタパネルの裏面から離間させて硬化させた前記塗布層と、を共存させたことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の車両用エンジンフード。
【請求項4】
前記塗布層を形成するマスチックシーラと、前記接着層を構成するマスチックシーラと、を違えたことを特徴とする請求項3記載の車両用エンジンフード。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−223433(P2007−223433A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−45853(P2006−45853)
【出願日】平成18年2月22日(2006.2.22)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】