説明

車両用シートヒータ及び車両用シート

【課題】各部位に依存した荷重特性に対応し、且つ乗員の着座時、大きく変化する伸張荷重に耐えることが可能な車両用シートヒータ及び車両用シートを提供する。
【解決手段】車両用シートヒータHは、基材20とヒータ線30を有している。基材20は、座面部11a上に固定される座面側配置部21と背面部11c上に固定される背面側配置部22とを備え、ヒータ線30は、座面側ヒータ線31と背面側ヒータ線32を有し、座面側ヒータ線31は、略左右対称の波形状で互いに所定距離離間して略平行に配設される複数の第1延設部31aと、第1延設部31aの端部同士を連結するサイド部31bを備え、背面側ヒータ線32は、略左右対称の波形状で互いに所定距離離間して配設される複数の第2延設部32aを備え、複数の第1延設部31aが互いに最も近接する部分の距離が、複数の第2延設部32aが互いに最も近接する部分の距離よりも小さい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用シートヒータ及び車両用シートに係り、特に、伸縮性の高い車両用シートヒータと、該車両用シートヒータを備えた車両用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
冬季等、特に気温が低い時には、シートに対して着座者が当接した際、シート温度が低く、快適性が損なわれるといった問題点があった。これに対し、シートに暖房装置となるシートヒータを配設する技術が知られている。
【0003】
上述のように、車両用シートヒータは保温用等の目的や、また凍結防止のために備えられる。シートヒータとは、シートの座面部に埋め込まれた電熱線によりシートを暖めることが可能な面状発熱体であり、着座時の快適性を向上させることができるものである。
【0004】
このようなシートヒータが必要とされる例として、ソファー、マッサージチェアや、自動車、自動二輪車、スノーモービル等の車両に配設されるシート等が挙げられる。その中でも、自動二輪車やスノーモービル等、人が跨って乗車する(跨座式の)車両は、その他の場合で使用されるシートとは異なり、着座者が温度、風等の周囲の環境の影響を直接受けるため、寒冷地では特にシートヒータの重要性が高い。
【0005】
一般に、車両用シートは、着座する乗員の荷重が加わるため、その荷重によりクッション材及び表皮材が弾性的に伸張変形する。そして、クッション材及び表皮材の変形に伴い、車両用シートヒータにもまた、車体前後方向及び車体左右方向へ伸張する力が作用する。
【0006】
従って、車両用シートに備えられる車両用シートヒータは、乗員の着座時において荷重が加わった際に伸張する構成であることが求められる。
例えば、特許文献1には、ヒータ線(電熱線)が伸縮性を有する薄布状の基布材等に接着固定された車両用シートヒータと、この車両用シートヒータが備えられた車両用シートが開示されている。
【0007】
特許文献1に記載された車両用シートヒータにおいて、ヒータ線は、基布材の略中央で車体前後方向に延びる中央部の両側において、それぞれ略左右対称となるように、車体前後方向に蛇行状に配線されている。
【0008】
特許文献1に記載の車両用シートヒータでは、乗員の着座時、基布材に対して車体前後方向の伸張力が作用すると、ヒータ線が車体前後方向に蛇行状に配線されているため、基布材の伸張変形に追従して、ヒータ線も車体前後方向に伸張させることができる。その結果、車両用シートに対して車体前後方向に伸長する力が加わった場合には、クッション材及び表皮材の変形に追従して、車両用シートヒータ全体を良好に変形させることが可能である。
【0009】
また、従来技術として図10に示す特許文献2の車両用シートヒータ100は、基布材(基材)上で車体前後方向及び左右方向に屈曲し、蛇行状に配設されたヒータ線130を備えている。特許文献2において開示された車両用シートヒータ100のヒータ線130は、乗員が着座する座面部において、車体の前後方向及び左右方向に屈曲しているため、乗員の着座時の荷重による断線を効果的に防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2005−279070号公報
【特許文献2】国際特許公開WO2007/097445号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1において開示された車両用シートヒータは、基布材に対して車体左右方向の伸張力が作用した場合には、ヒータ線が車体左右方向に沿って略直線状に複数配線されているため、ヒータ線は車体左右方向に変形することができず、基布材のうちヒータ線が固定されていない部分のみが車体左右方向に伸張される。従って、特許文献1に記載の車両用シートヒータは、乗員の着座時、表皮材やクッション材の車体左右方向の伸張変形に追従しにくいという不都合がある。
【0012】
従来技術として図10で説明するように、特許文献2に記載の車両用シートヒータ100は、車体前後方向及び車体左右方向にわたってヒータ線130が蛇行して配設されている。特許文献2の車両用シートヒータ100のヒータ線130は、左右方向において一箇所又は二箇所の屈曲部を備えているため、左右方向においても伸縮性を備えている。
【0013】
しかし、特許文献2において開示された車両用シートヒータ100は、乗員が当接する座面部及び背面部において、ヒータ線130がほぼ同じ密度であり、且つ同じ方向に配線されているため、部位毎の異なる荷重特性に対応しにくいという不都合がある。
【0014】
また、特許文献2において開示された車両用シートは、一般に四輪車に積載されるシートであり、二輪車特有の荷重特性に対応するものではない。すなわち、自動二輪車は、走行路の凹凸によって乗員の上下動が四輪車よりも頻繁に行われ、これに伴い、座面部及び背面部において乗員の着座荷重が頻繁に、且つ大きく変化するため、四輪車とは異なる荷重特性に対応する必要がある。
【0015】
さらに、座面部及び背面部に配設されるヒータ線130だけでなく、車両用シートヒータ100の温度を制御するコントローラ(サーモスタット)152と、座面部又は背面部とを接続するヒータ線130にかかる荷重は、車両用シートヒータ100が取り付けられる車両用シートの構成によっても大きく変化する。
【0016】
従って、荷重特性が部位毎に大きく異なり、且つ車両走行時、特に乗員による伸張荷重が大きく変化する二輪車用シートにおいて、強度を備えた車両用シートヒータ及び車両用シートが望まれていた。
【0017】
本発明は、上記不都合を解決するためになされたものであり、その目的は、跨座式の車両において、各部位に依存した荷重特性に対応可能であり、且つ乗員の着座時、大きく変化する伸張荷重に耐えることが可能な車両用シートヒータ及び車両用シートを提供することにある。また、本発明の他の目的は、乗員の着座時、大きく変化する伸張荷重によって伸張しやすく、且つ乗員の着座感が良好な車両用シートヒータ及び車両用シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
前記課題は、請求項1の車両用シートヒータによれば、伸縮性を有する面状の基材と、該基材の略全域に亘って固定されるヒータ線とを有し、座面部及び背面部を有する跨座型のクッション材と該クッション材を覆う表皮材との間に配設される車両用シートヒータであって、前記基材は、前記座面部上に固定される座面側配置部と、前記背面部上に固定される背面側配置部とを備え、前記ヒータ線は、前記座面側配置部に固定される座面側ヒータ線と、前記背面側配置部に固定される背面側ヒータ線とを有し、前記座面側ヒータ線は、略左右対称の波形状で前記座面側配置部の略中央から車体左右方向に延設され、互いに所定距離離間して略平行に配設される複数の第1延設部と、該第1延設部の端部同士を連結するサイド部とを備え、前記背面側ヒータ線は、略左右対称の波形状で車体上方に延設され、互いに所定距離離間して配設される複数の第2延設部を備え、前記複数の第1延設部が互いに最も近接する部分の距離が、前記複数の第2延設部が互いに最も近接する部分の距離よりも小さくなるように配設されていること、により解決される。
【0019】
上記構成では、座面部に配設されるヒータ線が、波形状、すなわち山部と谷部とが連続するように配線されている。このため、基材に対して車体左右方向及び車体前後方向に伸張する力が作用した場合、基材の伸張変形に追従して、ヒータ線も伸張されるため、車両用シートヒータの座面部を車体左右方向及び車体前後方向に良好に変形させることができる。このように、車体左右方向及び車体前後方向のいずれの方向に対しても、車両用シートヒータを良好に変形させることが可能なため、乗員の乗車時や車両走行時等において、車両用シートに対して車体左右方向及び車体前後方向の荷重が加わった場合であっても、表皮材やクッション材の伸張変形に追従して、車両用シートヒータを良好に伸張変形させることができる。
一般に、路面の凹凸等によって乗員の上下方向の動きが頻繁に行われる車両用シートにおいて、その背面部には、特に上下方向の伸張荷重が作用しやすい。これに対し、本発明の車両用シートヒータは、背面部に配設されるヒータ線が、車体上下方向において波形状に配線されている。従って、上記構成により、背面部においては、特に上下方向に良好に変形させることができるため、上下方向の伸張荷重に対する耐久性が高くなっている。
そして、本発明の車両用シートヒータにおいては、座面部と背面部とに配設されるヒータ線の密度、すなわち各ヒータ線の間隔が互いに異なるように配線されている。乗員の臀部や脚部が当接する座面部にはより大きな垂直方向の荷重が作用するため、ヒータ線の間隔を狭くして伸張荷重に対する強度を高める必要がある。一方、背面部は乗員の腰部後方から当接するため、座面部と比較して大きな荷重は加わりにくい。従って、座面部において、より上下方向の伸張荷重に対してより伸張しやすくするため、ヒータ線の間隔が広くなるように配線されている。
このように、座面部と背面部に配設されるヒータ線の延設方向及び間隔を互いに異なるように配設することにより、特に各部位に依存した荷重特性に対応可能である。その結果、車両用シートの着座感を向上させることができるため、乗員に対して良好な乗り心地を与えることができると共に、車両用シートヒータの伸張強度を確実に向上させることが可能となる。
【0020】
このとき、請求項2のように、前記クッション材は、前記座面部と前記背面部との間に前記基材を吊り込むための吊り込み溝を有し、前記基材は、前記座面側配置部と前記背面側配置部との間に設けられ、屈曲した状態で前記吊り込み溝に取り付けられる接続面部をさらに備え、前記ヒータ線は、前記座面側ヒータ線と前記背面側ヒータ線とを電気的に接続し前記接続面部に固定される複数の接続部ヒータ線をさらに有し、該複数の接続部ヒータ線の互いに最も近接する部分の距離が、前記複数の第1延設部が互いに最も近接する部分の距離よりも大きくなるように配設されていると好適である。
このように、車両用シートヒータは、基材の接続面部を屈曲させた状態で、クッション材に取り付けられる。すなわち、車両用シートヒータには、この屈曲された接続面部により、弛み部分が形成されるため、常に、車両用シートヒータが緊張された状態でクッション材に対して固定されることを回避することができる。従って、例えば、車両走行時において、車両用シートヒータに対して急激な伸張力が作用した場合であっても、接続面部(弛み部分)により、車両用シートヒータが破損や損傷等してしまうことを抑制することが可能となる。
また、座面側ヒータ線と背面側ヒータ線とを接続する接続部ヒータ線が、車両用シートを暖める必要のない接続面部に設けられているため、接続部ヒータ線の配線量を必要最小限とすることが可能となる。従って、基材の接続面部を屈曲させた際に、ヒータ線の接続部が断線してしまう等の危険性を少なくすることができる。
そして、接続面部に配設されるヒータ線の間隔が、座面部のヒータ線間隔よりも大きく配線されているので、接続面部におけるヒータ線の伸張性を確保することができる。従って、座面部、接続面部、背面部の各部位において異なる伸張特性を備えた車両用シートとすることができる。その結果、且つ車両用シートヒータ全体の伸張強度を格段に向上させることができる。
また、座面部及び背面部の双方を暖めるために、座面側配置部及び背面側配置部が一体となった車両用シートヒータをクッション材に対して取り付ければよく、また、車両用シートヒータの取り付けに伴う、配線接続数を少なくすることが可能なため、その取付作業を簡略化することができる。また、上記のように、座面部及び背面部の双方を暖めるのに、1個の車両用シートヒータがあれば足りるため、部品点数を削減することも可能となる。
【0021】
また、請求項3のように、前記基材は、前記座面側配置部から車体後方に延設され、前記ヒータ線の温度を制御する温度制御手段が取り付けられると共に前記クッション材に挿入される挿入部をさらに備え、前記ヒータ線は、前記座面側ヒータ線から延設され前記挿入部に固定される複数の挿入部ヒータ線をさらに有し、該挿入部ヒータ線は、波形状で車体後方に延設されてなると好適である。
このように、温度制御手段が取り付けられる挿入部において、その延設方向に沿って波形状でヒータ線が固定されているため、挿入部をクッション材に挿入した際、車両用シートヒータに備えられた温度制御手段の自重及び乗員の動きによってヒータ線に荷重が加わった場合であっても、ヒータ線が伸張することができるため、伸張荷重に対する強度が向上する。従って、座面部、背面部、接続面部以外の部位、すなわち温度制御手段が設置される挿入部においても、その部位(挿入部)に特有の伸張荷重における強度が向上する。
【0022】
さらに、請求項4のように、前記第2延設部は、車体下方から車体上方に向かうに従って、車体左右方向の離間距離が狭くなるようにそれぞれ斜め方向に配設されていると好適である。
このように、背面部においてヒータ線を斜め方向に配設することにより、上下方向の荷重だけでなく、左右方向の荷重に対しても伸張性を確保することができる。車両用シートヒータに対して、乗員の腰部から車体上下方向及び車体左右方向の荷重が入力された場合に、車両用シートヒータをいずれの方向に対しても好適に変形させることが可能となる。
【0023】
請求項5のように、本発明に係る車両用シートは、上述した車両用シートヒータを備えているため、各部位に依存した荷重特性に対応可能であり、且つ乗員の着座時、大きく変化する伸張荷重に耐えることが可能である。
【発明の効果】
【0024】
以上のように、本発明に係る車両用シートヒータ及び車両用シートによれば、荷重特性の異なる各部位(座面部、背面部、接続面部、挿入部)において、車両用シートヒータの各部位を多方向に良好に伸張させることが可能なため、車両用シートヒータ全体の伸張強度を確実に向上させることができると共に快適な乗り心地を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一実施形態に係る車両用シートを備えた車両の斜視図である。
【図2】車両用シートヒータが配設された車両用シートの斜視図である。
【図3】クッション材の平面図である。
【図4】図2のI−I線要部拡大断面図である。
【図5】車両用シートヒータの平面図である。
【図6】図2のII−II線要部拡大断面図である。
【図7】ボトムプレート上にクッション材及びシートヒータを載置した状態の側面図である。
【図8】クッション材及びボトムプレートの斜視図である。
【図9】ヒータ線の断面図である。
【図10】従来技術における車両用シートヒータの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の一実施形態について、図を参照して説明する。なお、以下に説明する部材、配置等は、本発明を限定するものではなく、本発明の趣旨に沿って各種改変することができることは勿論である。
図1乃至図9は本発明の一実施形態を示すものであり、図1は車両用シートを備えた車両の斜視図、図2は車両用シートヒータが配設され車両用シートの斜視図、図3はクッション材の平面図、図4は図2のI−I線要部拡大断面図、図5は車両用シートヒータの平面図、図6は図2のII−II線要部拡大断面図、図7はボトムプレート上にクッション材及びシートヒータを載置した状態の側面図、図8はクッション材及びボトムプレートの斜視図、図9はヒータ線の断面図、図10は従来技術における車両用シートヒータの平面図である。なお、図中FRは車体前方を、図中UPは車体上方をそれぞれ示している。また、以下の説明における左右方向は、車体前方を向いた状態での左右方向を意味する。
【0027】
本実施形態に係る車両用シートは、自動二輪車、自動三輪車、スノーモービル、水上バイク等の乗員が跨って乗車する跨座式の車両に好適に搭載されるものであって、本例では、スノーモービルに搭載される例を示す。なお、本発明の車両用シートは跨座式に限定されず、自動車、鉄道、航空機や船舶等のシートを含むものである。
【0028】
図1に示すように、本実施形態に係る車両1に設けられる車両用シート10は、前部座席10a及び後部座席10bを備えたタンデムシートであり、前部座席10aと後部座席10bとの間には、前部座席10aに着座する乗員の腰部を支持するためのバックレスト10cが形成されている。この後部座席10bの着座面は、図示のように、前部座席10aの着座面よりも一段高くなっている。
【0029】
図2に示すように、車両用シート10は、クッション材11と、クッション材11を覆う表皮材12と、クッション材11と表皮材12との間に配設される車両用シートヒータHと、クッション材11を載置する滑らかな凹凸が形成されたボトムプレート15と、を備え、このクッション材11及び表皮材12により所定の形状に成形されている。なお、図2においては、後部座席10bより前方の表皮材12を切り取った状態を図示している。
【0030】
クッション材11は、伸縮性を有するウレタンフォーム等により形成され、合成樹脂等で形成されたボトムプレート15の上面に載置された状態で固定されている。図2及び図3に示すように、クッション材11は、前部座席10aを構成する前側座面部11aと、後部座席10bを構成する後側座面部11bと、バックレスト10cを構成する背面部11cとを有する。前側座面部11aは、前側座面部11aの車体左右方向の両側縁部間の幅が、車体後方側から車体前方側へ向かうに従って狭くなるように形成され、主として乗員の臀部を下方から支持する。背面部11cは、前側座面部11aの車体後方側縁部から上方且つ車体後方へ向けて延設され、主として乗員の腰部を後方から支持する。なお、この前側座面部11aが、本発明の車両用シートの座面部に該当する。
【0031】
また、図2に示すように、前側座面部11a及び背面部11cには、後述する車両用シートヒータHが配設されている。この車両用シートヒータHの前側座面部11aに載置される部分は、前側座面部11aの左右両側の縁部11m,11n及び前縁部からそれぞれ内側へ所定距離離間して配設されている。
【0032】
図3に示すように、クッション材11の前側座面部11aと背面部11cとの間には、クッション材11を覆う表皮材12をボトムプレート15側へ吊り込むための空間として、断面略凹形状の吊り込み溝11fが、車体左右方向に沿って形成されている。また、吊り込み溝11fの左右両端部からそれぞれ所定距離内側へ離間した位置には、表皮材12をボトムプレート15側へ吊り込む際に引き込み部を挿入するための長孔状の孔部11g,11hがそれぞれ、上方から下方、すなわち前側座面部11a側からボトムプレート15側に貫通して形成されている。この表皮材12の吊り込み用の空間である吊り込み溝11fは、さらに、後述する車両用シートヒータHの一部を挿入するための空間としての機能も備えている。このとき、後述する基材20の挿入部24,25がそれぞれ孔部11g,11hへ挿入される。
【0033】
表皮材12は、伸縮性を有するウーリーナイロン、ビニールレザーなどからなり、クッション材11を上方から覆うことが可能なように、予め所定の形状に成形されている。なお、この表皮材12の端部は、例えば、ボトムプレート15の裏側縁部にタッカー等により固定されている。
【0034】
図4は、前部座席10aの車両用シートヒータHが配設されている領域の断面を示す。バックレスト10cの車両用シートヒータHが配設されている領域も同様の構成である。本実施形態では、クッション材11上に両面粘着テープ等の接着シート14を介して車両用シートヒータHの基材20を載置して固定し、さらにその上に高密度の発泡材13を載置して、表皮材12で被覆して形成されている。この発泡材13に軟質・半軟質のスラブウレタンを用いると、多方向に伸縮可能なスラブウレタンの特性により、良好な着座感を得ることができると共に、車体から伝達される振動が効果的に吸収されるため、快適な乗り心地を得ることも可能となり、極めて好適である。
【0035】
なお、クッション材11に対する車両用シートヒータHの基材20の固定は、接着シート14に限られず、例えば、接着材を用いて固定してもよく、縫製等により固定してもよい。また、本実施形態のようにクッション材11と表皮材12との間に発泡材13を介在させることなく、クッション材11及び車両用シートヒータHを直接表皮材12で被覆する構成としてもよい。
【0036】
図5に示すように、本実施形態の車両用シートヒータHは、面状の基材20と、基材20に固定されるヒータ線30と、サーミスタ51と、コントローラ52と、ブレーカ53と、電線54と、コネクタ55等を有して構成されている。このヒータ線30は、基材20上に接着等により固着させてあってもよいし、また、図4のように基材20の内部に折り込まれる構成としてもよい。
【0037】
基材20は、座面側配置部21と、背面側配置部22と、座面側配置部21と背面側配置部22との間に形成された接続面部23と、一対の挿入部24,25とを有し、これらが一体に、すなわち一体の布材等の部材で形成されている。基材20は、ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタラート)等の不織布や、ポリウレタンフォーム等の発泡材料などからなる多方向に伸縮可能な部材により形成されている。
【0038】
座面側配置部21は、クッション材11の前側座面部11a上に配置される部分であり、前側座面部11aの形状に対応して、車体左右方向の両側縁部間の幅が車体後方側から車体前方側へ向かうに従って狭くなるように、略台形状に形成されている。また、座面側配置部21の車体左右方向の両側縁部が、前側座面部11aの左右両側の縁部11m,11n(図2参照)からそれぞれ内側へ所定の距離をおいて配設されるような形状、大きさに形成されている。この左右両側の縁部11m,11nからの所定の距離は、乗員からの最大荷重がかかる領域を避ける距離であり、このように縁部11m,11nから所定の距離を設けることで、車両用シートヒータHの耐久性を向上させることができる。
【0039】
背面側配置部22は、略矩形状に形成されており、座面側配置部21の車体後方側端部(台形状の幅広く形成された側の端部)のうち左右両端部を除く位置から車体後方へ向けて延設されている。この背面側配置部22は、クッション材11の背面部11c上に配置される部分であり、矩形以外の形状を有してもよく、背面部11c上に配設可能な形状、大きさに形成されていればよい。
【0040】
接続面部23は、座面側配置部21と背面側配置部22との間に連続して一体に形成された接続部分である。この接続面部23は、基材20をクッション材11上に配設したときに、基材20が緊張状態とならないようにするための遊び(弛み部分)として設けられている。具体的には、図6に示すように、接続面部23を折り曲げた(撓ませた)状態でクッション材11の吊り込み溝11f内に挿入して配置し、座面側配置部21を前側座面部11a上に、背面側配置部22を背面部11c上に、それぞれ配置している。
なお、図6は、クッション材11上に車両用シートヒータHを載置して固定し、発泡材13を載置後、表皮材12で被覆して表皮材12を吊り込んだ状態の断面図を示しており、符号12aは表皮材12の縫合部、12bは吊り込み用部材である。図6で示す吊り込み方法は一例であり、これに限定されず、公知の技術を適宜用いることができる。
【0041】
このように、座面側配置部21と背面側配置部22との間に遊び(弛み部分)を持たせて基材20を配設することで、座面側配置部21と背面側配置部22とが互いに引っ張り合い、緊張された状態でクッション材11上に配設されることがない。従って、前側座面部11aに着座している乗員の荷重移動によって座面側配置部21に引張力が生じても、その引張力が背面側配置部22まで伝達されるのを抑制することができ、車両用シートヒータHの変形を防止することができる。このように、車両用シートヒータHの座面側配置部21と背面側配置部22とを一体に形成しつつ、耐久性を向上させることができる。
【0042】
車両用シートヒータHの接続面部23を収納するための空間として、表皮材12を吊り込むための吊り込み溝11fを用いることができるため、特別な構成や部材を追加することなく接続面部23の折り曲げ(撓み)部分を収納できる。また、この吊り込み溝11fは前側座面部11aと背面部11cとの間に設けられるとともに、クッション材11の表面から内側、すなわちボトムプレート15側に凹形状をなしているため、接続面部23の折り曲げ(撓み)部分が乗員との接触による影響を受けることがない。よって、車両用シートヒータHの耐久性が向上する。
【0043】
挿入部24,25は、座面側配置部21の車体後方側端部(台形状の幅広く形成された側の端部)のうち左右両端部からそれぞれ車体後方へ向けて帯状に延設されており、基材20をクッション材11上に配設したときに、クッション材11の孔部11g,11h(図2,図3参照)にそれぞれ上方から挿入可能な所定の幅で形成されている。
【0044】
一方側の挿入部24には、図5に示すように、車両用シートヒータHの温度を検知するセンサとしてのサーミスタ51及び車両用シートヒータHの温度制御等を行うためのコントローラ52が電気的に接続された状態で、縫製や接着等の手法により取り付けられている。サーミスタ51及びコントローラ52には、座面側配置部21や背面側配置部22等に固定されるヒータ線30と、車体側に設けられる電源(図示省略)や車両用シートヒータHのON・OFFスイッチ(図示省略)等と接続可能な電線54とが、各々接続されている。また、電線54の先端部には、車体側から延設される電線(図示省略)と係脱可能なコネクタ55が設けられている。
【0045】
他方側の挿入部25には、過熱防止用の自動復帰型のブレーカ53が縫製や接着等の手法により取り付けられている。ブレーカ53には、座面側配置部21や背面側配置部22等に固定されるヒータ線30が電気的に接続されている。
【0046】
挿入部24,25のサーミスタ51、コントローラ52、及びブレーカ53が配設された部分は、基材20と同等の布材(図示省略)を貼り合わせることにより、二枚の布材の間にこれらの機器が挟まれるように配設されると好ましい。すなわち、挿入部24,25はヒータ線30(挿入部ヒータ線34,35)が設けられた基材20と、もう一方の布材によって、サーミスタ51、コントローラ52、及びブレーカ53が挟み込まれる構成とすることにより、これらの機器を保護することができる。
【0047】
サーミスタ51はヒータ線30に接続され、ヒータ線30の温度変化に伴う電気抵抗の変化を検知し、ヒータ線30の温度を検知するために配設される。そしてサーミスタ51はコントローラ52に接続されており、コントローラ52は、サーミスタ51と連動して抵抗値を制御することにより、ヒータ線30の温度の高低を制御する。そしてまた、コントローラ52はヒータースイッチにも接続されており、ヒータ線30の温度の高低を切り替えられるように設計されている。
【0048】
図5に示すように、ヒータ線30は、座面側配置部21に固定される座面側ヒータ線31と、背面側配置部22に固定される背面側ヒータ線32と、接続面部23に固定される接続部ヒータ線33と、挿入部24,25に固定される挿入部ヒータ線34,35とを有し、これらは1本の線により、所定の配線パターンで基材20上に配線されている。
【0049】
座面側ヒータ線31は、略左右対称の波形状で座面側配置部の略中央から車体左右方向に延設され、互いに所定距離離間して略平行に配設される複数の第1延設部31aと、第1延設部31aの端部同士を座面側配置部21の左右の側縁部近傍で接続するように配設される複数のサイド部31bと、を有し、基材20を構成する座面側配置部21上に接着固定されている。
【0050】
第1延設部31aは、座面側配置部21の車体左右方向の中央に位置する中央部21aの左右両側において略左右対称となるように配線されると共に、車体前後方向において所定の間隔をあけて略平行に配線されている。また、第1延設部31aは、略台形状に形成される座面側配置部21の形状に対応して、車体前方側から車体後方側に向かうに従って、車体左右方向の幅が長くなるように形成されている。
【0051】
そして、第1延設部31aは、山部と谷部とが連続するように波形状に形成されており、これにより、座面側配置部21に車体左右方向の伸張力が作用した場合には、この延設部31aも座面側配置部21と共に伸張することが可能となっている。また、この山部及び谷部は、第1延設部31aの車体左右方向の幅長に対応して、山部及び谷部が車体前方側から車体後方側に向かうに従って多く形成されている。
【0052】
上記構成により、乗員の臀部や股部と多く接触する部位、すなわち、乗員の臀部や股部からの荷重を受け易い車両後方側に、山部及び谷部が多く形成されているため、特に、車両走行時における乗員の体重移動により、車体左右方向の荷重が入力された場合であっても、車両用シートヒータHの車体後方側を車体左右方向へ良好に変形させることができる。従って、車両用シートの着座感を確実に向上させることができると共に、車両用シートヒータの破損等を抑制することができる。
【0053】
サイド部31bは、座面側配置部21の左右それぞれの側縁部近傍で、車体前後方向に隣り合う第1延設部31aの端部を接続する部分である。複数のサイド部31bのうち、座面側配置部21の前縁側と後側とを除く部位に配設されるサイド部31bは、座面側配置部21の左右それぞれの側縁部に沿って、側縁部に略平行に設けられている。このように座面側ヒータ線31の一部を座面側配置部21の側縁部に沿って配設しているため、基材20の形状に合わせたヒータ領域を確保することができ、効率よく乗員の臀部を暖めることができる。
【0054】
背面側ヒータ線32は、一対の第2延設部32a,32aを有し、基材20の背面側配置部22上に接着固定されている。一対の第2延設部32a,32aは、車体前方側から車体上方側へ向かって、背面部11cに沿って配設されており、互いに車体左右方向の離間距離が狭くなるように、それぞれ斜め方向に配線されると共に、それぞれ山部と谷部とが連続するように波形状に形成されている。本実施形態では、一対の第2延設部32a,32aが、上述のように配線されているため、乗員の腰部から背面側配置部22に対して、車体前後方向及び車体左右方向の伸張力が作用したときに、この第2延設部32aも背面側配置部22と共に伸張することが可能となっている。
【0055】
そして、第1延設部31a,31aが互いに最も近接する部分の距離が、複数の第2延設部32a,32aが互いに最も近接する部分の距離よりも小さくなるように配設されている。すなわち、座面側ヒータ線31において、隣り合って平行に配設される第1延設部31a,31aの間隔は、背面側ヒータ線32において隣り合って配設される第2延設部32aの間隔よりも小さくなるように配設されている。
【0056】
このように、本発明の車両用シートヒータHにおいて、乗員の着座時、乗員の体重により垂直方向に大きな荷重が加わる座面側配置部21に固定される座面側ヒータ線31は、高い密度で配線されている。従って、座面部11aに配設される座面側配置部21及び座面側ヒータ線31は、荷重に対する強度が高い。
【0057】
一方、乗員の着座時、座面部11aと比較して大きな荷重が作用しない背面部11cにおいては、配設される背面側ヒータ線32の密度が低くなるように配線されている。従って背面部11cに配設される背面側配置部22及び背面側ヒータ線32は、特に上下方向における伸張率が高い。
【0058】
このように、部位毎に異なる伸張特性が必要とされる車両用シートヒータHにおいて、上記のようにヒータ線間隔を異なるように配線することにより、様々な伸張特性を備え、伸張荷重に対する強度を備えた車両用シートヒータHとすることができる。
【0059】
接続部ヒータ線33は、基材20の接続面部23上に接着固定され、座面側ヒータ線31と背面側ヒータ線32とを電気的に接続する。そして、接続部ヒータ線33は、加熱効果を必要としない接続面部23に設けられているため、接続部ヒータ線33の配線量を必要最小限とすることができる。その結果、断線の可能性を低減することができる。
【0060】
また、接続部ヒータ線33,33の間隔は、座面側配置部21に設けられた第1延設部31a,31aの間隔よりも広く配設されている。従って、座面側配置部21と比較して、接続面部23における伸張性を高く設定することができる。
さらに、接続部ヒータ線33を設け、座面側配置部21に固定される第1延設部31a及びサイド部31bと背面側配置部22に固定される第2延設部32aとを接続すること
により、車両用シートヒータHを、クッション材11を構成する座面部11aと背面部11cとの間において隙間を生じることなく配設することが可能なため、車両用シート10に着座した乗員に対して十分な暖房感を与えることができる。
【0061】
挿入部ヒータ線34は、基材20の挿入部24上に接着固定され、座面側ヒータ線31及び背面側ヒータ線32からそれぞれ延設される2本の線と、挿入部24に固定されるサーミスタ51及びコントローラ52とを接続する。この挿入部ヒータ線34を構成する2本の線は、それぞれ車体前後方向に、蛇行して略平行に配線されている。
【0062】
挿入部ヒータ線35は、基材20の挿入部25上に接着固定され、座面側ヒータ線31及び背面側ヒータ線32からそれぞれ延設される2本の線と、挿入部25に固定されるブレーカ53とを接続する。この挿入部ヒータ線35を構成する2本の線は、それぞれ車体前後方向に、蛇行して略平行に配線されている。
【0063】
挿入部24,25は、クッション材11の孔部11g,11hに挿入されて壁部11k、11lに係止される。そして、乗員の着座荷重及び温度制御手段(サーミスタ51,コントローラ52,ブレーカ53)の自重により、挿入部24,25は上下方向に伸張する荷重を受けやすい。しかし、挿入部ヒータ線35を上記構成とすることにより、挿入部24,25が特に上下方向に伸張しやすく、伸張荷重に対する強度が向上する。
【0064】
シートヒータHの座面側配置部21は、前側座面部11a上に配設されている。そして、挿入部ヒータ線34、サーミスタ51及びコントローラ52が固定された挿入部24と、挿入部ヒータ線35、ブレーカ53が固定された挿入部25とは、それぞれクッション材11に形成された孔部11gと、孔部11hとに挿通されている。
【0065】
孔部11g,11hはクッション材11の前側座面部11a側からボトムプレート15側に貫通して形成されており、挿入部24,25はクッション材11に沿ってそれぞれ孔部11g,11hに挿通されている。
【0066】
このように、挿入部24,25をクッション材11と表皮材12との間に挟み込む構成とすることにより、挿入部24,25に備えられたサーミスタ51,コントローラ52,ブレーカ53を振動や埃等から保護することができる。
【0067】
挿入部24,25は、クッション材11とボトムプレート15との間、更に詳しくはそれぞれ凹部11i,11jに配設される(図7,図8参照)。そして、凹部11i,11jは壁部11k,11lを備えており、クッション材11のボトムプレート15側に形成されている。この壁部11k,11lは、クッション材11のボトムプレート15が配設される側の面上において、孔部11g、11hに相当する位置を切り欠くようにして形成されている。
【0068】
挿入部24上に配設された挿入部ヒータ線34に電気的に接続された電線54は、ボトムプレート15に設けられた孔15aを通ってボトムプレート15の裏側、すなわち車体側に延出される。本発明の車両用シート10は、ボトムプレート15上に、クッション材11、車両用シートヒータH、表皮材12等が一体となって配設されているため、車体に対してその取り付けが容易となる。
【0069】
図8はクッション材11及びボトムプレート15の着座者が着座しない側、すなわち裏側からの斜視図であり、クッション材11をボトムプレート15に載置する前の状態を説明する図である。
【0070】
上述のように挿入部24,25は凹部11i,11jに挿通された後、挿入部24,25を壁部11k,11lにそれぞれ接着固定される。このとき、接着シート14や、両面テープ等の接合部材や接着材等の接着手段を用いて、接着固定されていると好ましい。上記構成とすることにより、ボトムプレート15とクッション材11との間にサーミスタ51、コントローラ52、ブレーカ53が配設される構成となるため、これら機器を外部の衝撃から保護することができ、好適である。
【0071】
なお、クッション材11をボトムプレート15に載置した時であっても、壁部11kはボトムプレート15の孔15aが設けられた面に接しておらず、壁部11kとボトムプレート15の間には凹部11iが備えられる。
また、凹部11jも同様に、クッション材11をボトムプレート15に載置した時、壁部11lとボトムプレート15とは当接しておらず、中空となる。
【0072】
凹部11i,11jは仕切壁によって分割されて形成されており、それぞれ車両の左右位置に離間して配設される。この仕切壁は車両の中央位置から左右何れか一方に偏って配設されており、その結果、凹部11i,11jはその大きさが異なって形成される。そして、図8においては大きい方の凹部11i内にサーミスタ51及びコントローラ52が配設され、小さい方の凹部11j内にブレーカ53が配設された構成を示している。なお、サーミスタ51、コントローラ52、ブレーカ53は、クッション材11の凹部11i,11j内に収まるように配設されている。
【0073】
上記構成により、凹部11i,11jを効率よく使用することができる。
また、本発明の車両用シート10は、着座者の着座側、すなわち前側座面部11a上にサーミスタ51、コントローラ52、ブレーカ53等の温度制御手段が配設されることがない。従って、これら温度制御手段に着座者の着座時の荷重がかかることがないため、温度制御手段の損傷を防止することができる。
【0074】
また、挿入部24,25はそれぞれ壁部11k,11lと接着されて凹部11i,11jに配設されるため、ボトムプレート15に当接することがない。このように、ボトムプレート15との間に凹部11i,11jが形成されていると、車体側からの振動を吸収することが可能となり、さらに振動を軽減することができる。
【0075】
さらに、挿入部24,25は、孔部11g,11hを通って前側座面部11a側からボトムプレート15側に挿通され、凹部11i,11jの壁部11k,11lに固定されるため、挿入部24,25は捻れることがなく、従って挿入部24,25に配設された挿入部ヒータ線34,35に物理的な負荷がかかりにくくなり、損傷を防止することができる。
【0076】
次に、車両用シートヒータHを構成するヒータ線30について、図9を参照して説明する。図9に示すように、ヒータ線30は、芯材30aと、発熱体層30bと、絶縁体層30cと、熱融着層30dとを有して形成されている。
【0077】
芯材30aは、引張力及び耐熱性が極めて大きい繊維、例えば、芳香族ポリアミド繊維を束にすることにより形成されている。発熱体層30bは、芯材30aの外周を被覆するように設けられ、例えば、錫鍍金硬質錫入り銅合金線(SNCC)からなる発熱体素線が複数本束ねられて構成されている。絶縁体層30cは、四フッ化エチレン−六フッ化プロピレン共重合体(FEP)等のフッ素樹脂からなり、発熱体層30bの外周を被覆するように形成されている。
【0078】
熱融着層30dは、ヒータ線30を基材20上に熱溶着するための接着層であり、例えば、発熱体層30bの外周にホットメルト等の熱可塑性硬化型接着材を塗布することにより形成されている。ここで、ホットメルト等の熱可塑性硬化型接着材は、上記基材20を構成するポリエチレンテレフタラート等のポリエステルに含侵し易く、接着強度が極めて高いため、ホットメルト等を熱融着層30dとして用いれば、ヒータ線30を基材20に対して容易且つ強固に接着固定することができる。
【0079】
このように、ヒータ線30に、引張力及び耐熱性が極めて大きい芯材30aを設けることにより、屈曲性や引張強度に優れたヒータ線30を得ることが可能となる。なお、ヒータ線30は、上記の構成によるものに限られず、例えば、ステンレスや銅等により形成された電熱線の外周に、フッ素樹脂等の絶縁被覆を施したものであってもよい。
【0080】
次に、本発明に係る車両用シートヒータHを備えた車両用シート10の組み付け方法について説明する。
先ず、車両用シートヒータHを、基材20の接続面部23を中心に折り曲げ、接続面部23を折り曲げた(撓ませた)状態でクッション材11の吊り込み溝11fに挿入する(図6参照)。
【0081】
その後、車両用シートヒータHを構成する基材20のうち、挿入部24,25を、孔部11g,11hにそれぞれ挿入する。挿入部24,25は、それぞれクッション材11の前側座面部11a側から、クッション材11を貫通して形成された孔部11gと、孔部11hとに挿入され、クッション材11の裏面側に配設される。なお、挿入部24は、挿入部ヒータ線34、サーミスタ51及びコントローラ52が固定されており、挿入部25には挿入部ヒータ線35、ブレーカ53が固定されている(図2、図5参照)。
【0082】
次に、基材20の座面側配置部21と、背面側配置部22とを、それぞれクッション材11の前側座面部11aと、背面部11cとに、接着シート14を介して取り付ける。このとき、必ずしも接着シート14を用いる必要はなく、適宜接着剤等を用いて車両用シートヒータHを取り付けてもよい。これにより、クッション材11に対する車両用シートヒータHの取り付けが完了する。
【0083】
次に、クッション材11をボトムプレート15上に載置して、接着剤等を用いて固定する。このとき、サーミスタ51及びコントローラ52が固定された挿入部24と、ブレーカ53が固定された挿入部25は、クッション材11とボトムプレート15との間に形成される空間部(図示省略)に配置される。また、挿入部24の先端から延長している電線54及びコネクタ55は、ボトムプレート15の孔15aからボトムプレート15の裏面側へ挿通され、ボトムプレート15の裏面側の所定の位置で固定される。
【0084】
その後、車両用シートヒータH上に発泡材13を載置して、ボトムプレート15、クッション材11、車両用シートヒータH、発泡材13を、表皮材12で上方から被覆する。このとき、クッション材11の孔部11g,11hを介して表皮材12をボトムプレート15側に吊り込み、固定部材(図示省略)によって固定する。そして、表皮材12の端部をタッカー等によりボトムプレート15の裏側縁部に固定する。これにより、車両用シートヒータHを備えた車両用シート10が完成する。
【0085】
上記のように構成された車両用シート10を車両1に組み付けるときに、ボトムプレート15の裏面側に固定された電線54と、車体側から延設される電線とを、コネクタ55を介して接続する。これにより、車両用シートヒータHが車体側と電気的に接続される。なお、車両用シート10の車両1への組み付けは、公知の技術を用いて組み付けができるものである。これにより車両1に対する車両用シート10の取り付け作業が完了する。
なお、上記の車両用シートヒータHの取り付けや車両用シート10の組み付けの方法は一例であるため、これらの作業工程を適宜変更してもよい。
【0086】
以上のように、本実施形態に係る車両用シートヒータH及び車両用シート10によれば、車両用シートヒータHに備えられた各部位のヒータ線(座面側ヒータ線31,背面側ヒータ線32,接続部ヒータ線33,挿入部ヒータ線34,35)が部位毎によって異なる形状、間隔で配線されているため、各部位毎において異なる伸張特性を備えることができる。その結果、各部位毎に作用する荷重が大きく異なる車両用シート10において、各部位毎に適した伸張特性を備え、伸張しやすく、且つ良好な着座感を得ることができる。
【0087】
また、車両用シートヒータHは、車両用シート10の前部座席10a側に配置される車両用シートヒータと、車両用シート10のバックレスト10c側に配置される車両用シートヒータとが一体に形成されているため、車両用シート10の前部座席10a側とバックレスト10c側の双方を暖めるために、1個の車両用シートヒータHをクッション材11に対して取り付ければよく、部品点数を削減できる。また、車両用シートヒータHのクッション材11への取付作業を簡略化することができる。
【0088】
また、前部座席10a側に配置される車両用シートヒータと、車両用シート10のバックレスト10c側に配置される車両用シートヒータとが一体に形成されているため、前部座席10a側とバックレスト10c側との間において隙間を生じることなく車両用シートヒータHを配設することが可能となる。従って、車両用シート10に着座した乗員の臀部から腰部にかけて接する領域を確実に暖めることができ、十分な快適感を与えることができる。
【0089】
また、車両用シートヒータHは、基材20の接続面部23を折り曲げた状態で、クッション材11の前側座面部11aと背面部11cとの間に形成された吊り込み溝11f内に挿入して、クッション材11に取り付けられている。すなわち、車両用シートヒータHには、この屈曲された接続面部23により、座面側配置部21と背面側配置部22との間に遊び(弛み部分)が形成されるため、車両用シートヒータHが緊張された状態でクッション材11に対して固定されることを回避することができる。従って、前側座面部11aに着座している乗員の荷重移動によって座面側配置部21に引張力が生じても、その引張力が背面側配置部22まで伝達されるのを抑制することができ、車両用シートヒータHの変形を防止することができる。このように、車両用シートヒータHの座面側配置部21と背面側配置部22とを一体に形成しつつ、車両用シートヒータHの耐久性を向上させることができる。また、接続面部23の折り曲げ(撓み)部分が吊り込み溝11f内に収納され、乗員との接触による影響を受けることがないため、耐久性の面でより好適である。
【0090】
また、車両用シートヒータHは、基材20の座面側配置部21が台形状に形成されている。より詳しくは、座面側配置部21は、車体左右方向の両側縁部間の幅が車体前方側から車体後方側へ向かうに従って広く形成された台形状に形成されている。このため、前側座面部11aの車体前方側の加温領域を少なくし、車体後方側、すなわち乗員の臀部が位置する領域における加温領域を十分に確保することで、乗員の快適性が向上すると共に、前側座面部11aを効率よく暖めることができる。
【0091】
さらに、基材20の座面側配置部21は、前側座面部11aの車体左右方向の両側の縁部11m,11nからそれぞれ内側方向へ所定の距離をおいて配設されている。この所定の距離を、前側座面部11aの乗員からの最大荷重がかかる領域を避けるような距離に設定すると好適である。特に本実施形態のような跨座式の車両用シート10においては、車両用シートヒータHが、前側座面部11aの両側端部の、乗員からの最大荷重がかかる領域を避けて配設されると、乗員の荷重移動等による影響を受けにくく、車両用シートヒータHの耐久性を向上させることが可能となる。
【0092】
車両用シートヒータHのヒータ線30は、座面側配置部21に固定される座面側ヒータ線31と、背面側配置部22に固定される背面側ヒータ線32と、座面側ヒータ線31と背面側ヒータ線32とを電気的に接続する接続部ヒータ線33と、を有して構成されている。また、座面側ヒータ線31と背面側ヒータ線32とが接続部ヒータ線33で電気的に接続されており、本実施形態では1本の連続したヒータ線30で構成している。従って、車両用シートヒータHの取り付けに伴う配線接続数を少なくすることができ、取付作業を簡略化することが可能となる。
【0093】
なお、本実施形態では、基材20を構成する座面側配置部21上において、車体前後方向に沿って蛇行状に配線されるヒータ線を2列としたが、3列以上であってもよい。
【0094】
また、1枚の車両用シートヒータHで温める領域を、前部座席10a及びバックレスト10cとしたが、更に、後部座席10bも含めるように構成してもよい。
【0095】
本実施形態では、基材20の挿入部24と、挿入部25とのそれぞれに、サーミスタ51及びコントローラ52と、ブレーカ53とを固定したが、これらを固定しなくてもよい。また、基材20に、挿入部ヒータ線34が固定された挿入部24と、挿入部ヒータ線35が固定された挿入部25とを設けたが、これらを設けないように構成することも可能である。
【0096】
また、本実施形態では、座面側配置部21の車体後方左側に設けられた挿入部24にサーミスタ51及びコントローラ52を取り付け、座面側配置部21の車体後方右側に設けられた挿入部25にブレーカ53を取り付けているが、左右の配置はこれに限定されず、車体後方左側の挿入部24にブレーカ53を取り付けて、車体後方右側の挿入部25にサーミスタ51及びコントローラ52を取り付けてもよい。また、挿入部24,25の何れか一方にサーミスタ51、コントローラ52、及びブレーカ53を取り付けてもよい。また、本実施形態においては、過電流が流れることを防止するブレーカ53を備えた構成としているが、これを備えないように構成することも可能であり、適宜構成を変更できる。
【0097】
本実施形態では、スノーモービルに車両用シートヒータを配設した例を示したが、これに限定されず、本発明の車両用シートヒータは、自動二輪車、自動三輪車や水上バイク等の跨座式の車両や、自動車、鉄道、航空機や船舶等の車両のシートに取り付けることが可能である。
【符号の説明】
【0098】
H 車両用シートヒータ
1 車両
10 車両用シート
10a 前部座席
10b 後部座席
10c バックレスト
11 クッション材
11a 前側座面部(座面部)
11b 後側座面部
11c 背面部
11f 吊り込み溝
11g,11h 孔部
11i,11j 凹部
11k,11l 壁部
11m,11n 縁部
12 表皮材
12a 縫合部
12b 吊り込み用部材
13 発泡材
14 接着シート
15 ボトムプレート
15a 孔
20 基材
21 座面側配置部
21a 中央部
22 背面側配置部
23 接続面部
24,25 挿入部
30 ヒータ線
30a 芯材
30b 発熱体層
30c 絶縁体層
30d 熱融着層
31 座面側ヒータ線
31a 第1延設部
31b サイド部
32 背面側ヒータ線
32a 第2延設部
33 接続部ヒータ線
34,35 挿入部ヒータ線
51 サーミスタ
52 コントローラ
53 ブレーカ
54 電線
55 コネクタ
100 車両用シートヒータ
130 ヒータ線
152 コントローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
伸縮性を有する面状の基材と、該基材の略全域に亘って固定されるヒータ線とを有し、座面部及び背面部を有する跨座型のクッション材と該クッション材を覆う表皮材との間に配設される車両用シートヒータであって、
前記基材は、前記座面部上に固定される座面側配置部と、前記背面部上に固定される背面側配置部とを備え、
前記ヒータ線は、前記座面側配置部に固定される座面側ヒータ線と、前記背面側配置部に固定される背面側ヒータ線とを有し、
前記座面側ヒータ線は、複数の第1延設部と、該第1延設部の端部同士を連結するサイド部とを備え、
前記背面側ヒータ線は、略左右対称の波形状で車体上方に延設され、互いに所定距離離間して配設される複数の第2延設部を備え、
前記複数の第1延設部が互いに最も近接する部分の距離が、前記複数の第2延設部が互いに最も近接する部分の距離よりも小さくなるように配設されていることを特徴とする車両用シートヒータ。
【請求項2】
前記クッション材は、前記座面部と前記背面部との間に前記基材を吊り込むための吊り込み溝を有し、
前記基材は、前記座面側配置部と前記背面側配置部との間に設けられ、屈曲した状態で前記吊り込み溝に取り付けられる接続面部をさらに備え、
前記ヒータ線は、前記座面側ヒータ線と前記背面側ヒータ線とを電気的に接続し前記接続面部に固定される複数の接続部ヒータ線をさらに有し、
該複数の接続部ヒータ線の互いに最も近接する部分の距離が、前記複数の第1延設部が互いに最も近接する部分の距離よりも大きくなるように配設されていることを特徴とする請求項1に記載の車両用シートヒータ。
【請求項3】
前記基材は、前記座面側配置部から車体後方に延設され、前記ヒータ線の温度を制御する温度制御手段が取り付けられると共に前記クッション材に挿入される挿入部をさらに備え、
前記ヒータ線は、前記座面側ヒータ線から延設され前記挿入部に固定される複数の挿入部ヒータ線をさらに有し、
該挿入部ヒータ線は、波形状で車体後方に延設されてなることを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用シートヒータ。
【請求項4】
前記第2延設部は、車体下方から車体上方に向かうに従って、車体左右方向の離間距離が狭くなるようにそれぞれ斜め方向に配設されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の車両用シートヒータ。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の車両用シートヒータを備えた車両用シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−76547(P2012−76547A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−222064(P2010−222064)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000220066)テイ・エス テック株式会社 (625)
【Fターム(参考)】