説明

車両用シート空調システム

【課題】乗員および乗員の着座状態あるいは車内の状態に応じて、シートの温度を最適な状態とすることが可能な車両用シート空調システムを提供する。
【解決手段】車両のシートに設けられた空調装置と、シートに着座する乗員を検出する乗員検出手段と、着座した乗員を特定する乗員特定手段と、特定した乗員の温度嗜好を記憶する温度嗜好記憶手段と、特定した乗員の温度嗜好を取得する温度嗜好取得手段と、取得した乗員の温度嗜好に基づいて、該乗員が着座しているシートに設けられた空調装置の温度を設定する温度設定手段と、設定した温度に基づいて、該乗員が着座しているシートに設けられた空調装置の動作を制御する空調制御手段と、を備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用シート空調システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の車室内空間は、一般住居等に比較すると空間容積が小さく、また、窓を閉めきると密閉空間となり、例えば、ガラス越しに漏入する熱線により駐車中の車内温度は夏季には想像以上に上昇する。しかし、一般の自動車用空調装置は集中型であり、車室内の空間全体の空気温度を下げるべく設計されているので、どうしても温度調節に時間がかかる問題がある。
【0003】
そこで、車両用シートのシートクッションとシートバック内にそれぞれ通風路と加熱コイルと送風機を設け、車両用シートの所定部位に設けた温度センサによって検出される温度に応じて、加熱コイルおよび送風機のON−OFFや出力を制御し、車両用シートにおける空調状態の最適化を図るようにした車両用シート空調システムが考案されている。
【0004】
また、シートごとに吹出口、空調ユニットを配設してシート単位で単独運転するようにシート用加熱冷却装置を構成させることで、省動力および快適性の向上が図れる車両用空調装置が考案されている(特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2006−131106号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の構成では、乗員の着座状態を監視していないので、乗員が着座していない座席でもスイッチをオン状態とすれば動作を行ってしまう可能性があり、燃費の悪化やバッテリ負荷の増大につながるという問題がある。また、乗員が座席を入れ替わると、暑がりあるいは寒がり等の、乗員の温度嗜好に応じて温度調整をする必要があり、乗員が操作を煩わしく感じることもある。さらに、車室内の温度の変化に追従しないので、温め過ぎあるいは冷やしすぎとなって、乗員の快適性を損なうという問題もある。
【0007】
上記問題を背景として、本発明の課題は、乗員および乗員の着座状態あるいは車内の状態に応じて、シートの温度を最適な状態とすることが可能な車両用シート空調システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段および発明の効果】
【0008】
上記課題を解決するための車両用シート空調システムは、車両のシートに設けられた空調装置と、シートに着座する乗員を検出する乗員検出手段と、着座した乗員を特定する乗員特定手段と、特定した乗員の温度嗜好を記憶する温度嗜好記憶手段と、特定した乗員の温度嗜好を取得する温度嗜好取得手段と、取得した乗員の温度嗜好に基づいて、該乗員が着座しているシートに設けられた空調装置の温度を設定する温度設定手段と、設定した温度に基づいて、該乗員が着座しているシートに設けられた空調装置の動作を制御する空調制御手段と、を備えることを特徴とする。
【0009】
上記構成によって、燃費の悪化やバッテリ負荷の増大を抑えることができる。また、乗員が座席を入れ替わっても、乗員の温度嗜好に応じて温度調整が自動的に行われるので、乗員が操作を煩わしく感じることを解消でき、利便性を向上することができる。
【0010】
また、本発明の車両用シート空調システムは、乗員の重量を検出する乗員重量検出手段を備え、乗員特定手段は、検出した乗員の重量に基づいて着座した乗員を特定するように構成される。
【0011】
車両のシート上に存在する乗員や物体の重量を検知する技術については、例えば特開2001−21411号公報に詳細が開示されている。上記構成によって、比較的簡易かつ安価な構成で乗員を特定することが可能となる。
【0012】
また、本発明の車両用シート空調システムは、シートの位置を検出するシート位置検出手段を備え、乗員特定手段は、検出したシートの位置に基づいて着座した乗員を特定するように構成される。
【0013】
シートポジションセンサに代表されるシート位置検出手段は、近年、急速に普及しつつある、乗員毎にシート位置をメモリに記憶し、そのメモリ内容を呼び出すことで、自動的に該乗員の所望のシート位置に移動させるメモリ機能付パワーシートに用いられている。上記構成によっても、比較的簡易かつ安価な構成で乗員を特定することが可能となる。
【0014】
また、本発明の車両用シート空調システムは、シートの温度情報を取得するシート温度情報取得手段を備え、温度設定手段は、シートの温度情報に基づいて、該シートに設けられた空調装置の温度を設定するように構成される。
【0015】
上記構成によって、シートの現在の温度に応じて、そのシートに着座した乗員の温度嗜好に応じた所望の温度へ、乗員の操作を必要とすることなく、より早く到達することが可能となり、乗員の快適性を向上することができる。
【0016】
また、本発明の車両用シート空調システムは、車室内の温度を反映した車室内温度情報を取得する車室内温度情報取得手段を備え、温度設定手段は、車室内温度情報に基づいて、該シートに設けられた空調装置の温度を設定するように構成される。
【0017】
車室内の温度とシートの温度との差が大きすぎると、乗員が不快に感じることもある。上記構成によって、車室内の温度とのバランスを考慮して、乗員に対して、より快適な車室内環境を提供することができる。
【0018】
また、本発明の車両用シート空調システムは、車室内のシートを含む空間を空調の対象とする車室内空調装置と、車室内空調装置の動作状態情報を取得する動作状態情報取得手段と、を備え、温度設定手段は、取得した動作状態情報に基づいて、該シートに設けられた空調装置の温度を設定するように構成される。
【0019】
上記構成によって、乗員が車室内を暖めたいのか、冷やしたいのかを判断することができ、それに応じてシートに設けられた空調装置の温度を設定することで、より早く乗員の所望する温度環境を提供することが可能となる。
【0020】
また、本発明の車両用シート空調システムにおける動作状態情報は、車室内空調装置の設定温度操作情報を含み、温度設定手段は、設定温度操作情報に基づいて、シートに設けられた空調装置の温度を設定するように構成される。
【0021】
乗員が車室内を暖めたいのか、冷やしたいのかの判断は、いわゆるエアコンと呼ばれる車室内空調装置の設定温度(乗員が設定する)に基づいて行うことができる。上記構成によって、エアコンからも乗員が車室内を暖めたいのか、冷やしたいのかを判断することができ、それに応じてシートに設けられた空調装置の温度を設定することで、より早く乗員の所望する温度環境を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態を、図面を用いて説明する。図1に、本発明の車両用シート空調システムの一例の全体概要図を示す。車両用シート空調システム50は、車両のシート1(図2参照)に組み込まれている。シート1は、乗員の臀部を乗せる座部101と、背中を当てる背もたれ部102と、背もたれ部102の頂部に取り付けられたヘッドレスト2とを有する。そして、座部101および背もたれ部102の各表皮103には噴出口104が形成されている。
【0023】
座部101および背もたれ部102の各内部には空気ダクト105が形成されている。この空気ダクト105は車室内に一端が開口し、他端が上記噴出口104に開口している。そして、各空気ダクト105の途中にペルチェモジュール3が介装されている。ペルチェモジュール3は、一方の面が吸熱面、他方の面が放熱面となるように、厚さ方向に直流通電駆動される周知のペルチェ素子と、順方向通電時に冷却側、逆方向通電時に発熱側となる面に密着配置される金属製のヒートブロックと、同じく空調熱交換側となる面に密着配置される金属製のヒートシンクとを有し、ヒートシンクの裏面に熱交換を促進するための放熱フィンが一体化された周知の構成を有するものである。
【0024】
空気ダクト105の途中におけるペルチェモジュール3の上流側には、該ペルチェモジュール3の放熱フィンに車室内の空気を圧送する送風機4が設けられている。送風機4は放熱フィンに周囲の空気を吹き付けることにより温度調整された空気を生成し、この温度調整された空気が空気ダクト105を介して吹出口104から吹き出される。このように、空気ダクト105、ペルチェモジュール3および送風機4を有した空調装置10Aが背もたれ部102に、また、同様の構成の空調装置10Bが座部101に、それぞれ個別に組み込まれた構造となっている。上記のような構造の空調装置10A,10Bの組を有した車両用シート空調システムが、図2に示すように、車両の各シート(具体的には、運転席1(A)、助手席1(B),右後部座席1(C)、左後部座席1(D))に独立して組み込まれている。
【0025】
図1に戻り、各シート1には、乗員が操作するための空調装置用の手元操作スイッチ112が設けられている。手元操作スイッチ112は、プッシュロック機構を有するロータリースイッチであり、手元操作スイッチ112を一度押し込むと、その位置でロックされ手元電源スイッチ113をオフ状態とする。そして、再び押すことで飛び出して電源スイッチ113をオン状態とし、設定温度変更のための回転操作が可能となる。
【0026】
手元操作スイッチ112は、中立位置NTLに対して第一方向(図1の右方向)に回転させると暖房モードでの温度設定となり、中立位置NTLから離れるほど設定温度は高くなるとともに、当該第一方向の限界位置まで回転させると最高暖房温度の設定状態となる。また、中立位置NTLに対して第二方向(図1の左方向)に回転させると冷房モードでの温度設定となり、中立位置NTLから離れるほど設定温度が低くなるとともに、当該第二方向の限界位置まで回転させると最低冷房温度の設定状態となる。電源スイッチ113のオン/オフ状態、および温度設定状態(さらには、冷暖房モード)は温調入力インターフェース(I/F)122を介してECU130に入力される(図4参照)。
【0027】
手元操作スイッチ112は、背もたれ部102と座部101とで独立して温度設定可能なように、背もたれ部102用と座部101用のスイッチをそれぞれ設ける構成としてもよい。
【0028】
図4に、上記の車両用シート空調システム50の電気的構成の一例を説明するブロック図を示す。要部をなすのはマイクロプロセッサとして構成されたECU130を主体とする制御回路100であり、乗員検知センサ114および内気温センサ115がそれぞれアンプ124,125を介して、手元操作スイッチ(図4では「温調設定スイッチ」と表記)112と手元電源スイッチ(図4では「電源スイッチ」と表記)113が温調入力インターフェース122を介して、それぞれECU130に接続されている。
【0029】
また、ECU130には、シート温度センサ118,シートポジションセンサ142,重量センサ145が、それぞれアンプ129,143,126を介して接続されている。
【0030】
乗員検知センサ114は、図2に示すように、各シートの座部の着座面に埋設された着座センサ114とされているが、図4に示すように、着座する乗員を撮影するカメラ110とすることもできるし、図3に示すように、シートベルトのバックル51に組み込まれた検知スイッチ(シートベルトバックルスイッチともいう)114として構成することもできる。なお、乗員検知センサ114が本発明の乗員検出手段に相当する。
【0031】
内気温センサ115は、後述する車室内空調装置141の内気温センサを用いてもよいし、通信I/F140を介して、車室内空調装置141から内気温センサ情報を取得してもよい。なお、内気温センサ115が本発明の車室内温度情報取得手段に相当する。
【0032】
シート温度センサ118は、周知のサーミスタを含んで構成され、背もたれ部102と座部101の表面の温度を測定する。なお、シート温度センサ118が本発明のシート温度情報取得手段に相当する。
【0033】
カメラ110は、周知のCCDカメラあるいは赤外線撮像カメラとして構成され、車両の各シート(図2参照)の乗員を撮影可能なように、例えば車室内の天井に設置されている。撮影された乗員の画像は画像処理部127へ送られる。
【0034】
画像処理部127では、公知のパターン認識などの技術によってカメラ110によって撮影された画像の解析を行う画像処理回路(図示せず)を含んで構成される。画像処理部127では、例えば、カメラ110により撮影された映像信号に一般的な2値化処理を施すことにより、ピクセル毎のデジタル多値画像データに変換する。そして、得られた多値画像データから、一般的な画像処理手法を用いて所望の画像部分を抽出する。そして、例えば、予め乗員の基準画像を記憶しておき、撮影画像と基準画像との類似点を抽出し、その類似点の数が予め定められた値を上回ったときに乗員を検知したと判定する。なお、カメラ110が本発明の乗員検出手段に相当する。また、画像処理部127が本発明の乗員特定手段に相当する。
【0035】
ECU130には、各々ペルチェモジュール3、送風機4、およびそれらの駆動制御を司る駆動ユニット121の組からなる空調装置10A(背もたれ部102用)および10B(座部部101用)が接続されている。駆動ユニット121は、ペルチェモジュール3を冷房使用時と暖房使用時とで互いに異なる極性にて通電駆動するものである。
【0036】
ECU130は、手元電源スイッチ113がオフ状態のとき、乗員検知センサ114による乗員検知内容とは無関係に空調装置10A,10Bの動作を停止する。また、手元電源スイッチ113がオン状態のとき、乗員検知センサ114による乗員検知内容,空調装置10A,10Bの動作状態,および乗員特定結果(詳細は後述)に基づき空調装置10A,10Bの動作を制御する。
【0037】
ECU130には、周知のCPU130a,ROM130b,RAM130c,メモリ130dが含まれ、CPU130aがROM130bに記憶された制御プログラムを実行することで、車両用シート空調システム50としての機能を実現する。また、RAM130cは、制御プログラム実行時のワークエリアとして用いられる。なお、ECU130が本発明の乗員特定手段,温度嗜好取得手段,温度設定手段,空調制御手段に相当する。また、メモリ130dは、例えばフラッシュメモリ等の電気的に書き換え可能な記憶媒体が用いられ、ユーザ登録データ(詳細は後述)等が記憶される。なお、メモリ130dが本発明の温度嗜好記憶手段に相当する。
【0038】
また、各シートの空調装置10A,10Bに対し、独立した個別のECU130が設けられているが、単一のECU130を各シート(図2参照)間で共用化し、これに各シートの空調装置10A,10Bを一括接続して制御を行うようにしてもよい。いずれにおいても、ECU130は、上述のように、各シートの乗員検知センサ114による乗員検知内容,空調装置10A,10Bの動作状態,および乗員特定結果(詳細は後述)に基づき、個々のシートの空調装置10A,10Bを独立に制御する。
【0039】
通信I/F140は、例えば周知の車室内空調装置(エアコン)141等の、車両に搭載された他の車載機器との間でデータ通信を行うための通信インターフェース回路を含んで構成される。なお、通信I/F140が本発明の車室内温度情報取得手段,動作状態情報取得手段に相当する。
【0040】
シートポジションセンサ142は、例えば周知のポテンショメータを含んで構成され、シートの前後,上下の位置を検出する。なお、シートポジションセンサ142が本発明のシート位置検出手段に相当する。
【0041】
重量センサ145は、シートに着座した乗員の重量を測定するものである。図1のように、シート(1)とシートレール146の間に設けられた歪みゲージ116と、その歪みゲージ116に加わる重量の変化による歪みを抵抗の変化として検出する素子を含み、それぞれの検出信号をECU130に出力する。車両のシート上に存在する乗員や物体の重量を検出する方法については、例えば、特開2001−21411号公報に詳細が記載されている。なお、重量センサ145が本発明の乗員重量検出手段に相当する。
【0042】
図4に戻り、車載バッテリ+Bにつながる電源ラインとして、車両のイグニッションスイッチ120と連動して電源電圧の供給/遮断が切り替わる第一電源ラインPL1と、イグニッションスイッチの状態とは無関係に常時電源電圧が供給される第二電源ラインPL2とが設けられている。イグニッションスイッチ120は、前述のアクセサリ系負荷とエンジン電装系負荷のいずれにも電源電圧が供給されないオフ位置(OFF)と、同じくアクセサリ系負荷にのみ供給されるアクセサリ・オン位置(ACC−ON)と、アクセサリ系負荷とエンジン電装系負荷との双方に供給されるイグニッション・オン位置(IG−ON)との間で切り替えを行う。そして、車両用シート空調システム50のECU130および空調装置10が第二電源ラインPL2に接続されている。
【0043】
図5に、駆動ユニット121の回路構成例を示す。駆動電源は、ペルチェ素子への過電圧印加防止を考慮して、絶縁型に構成されている。具体的には、車載バッテリ電圧+Bを入力電圧として受電する入力側DC電源150を有し、そのDC出力電圧が、昇圧用発振回路153により駆動される昇圧スイッチング用トランジスタ152(本実施形態ではパワーFETにて構成され、昇圧スイッチング周波数は10〜30kHz:例えば、15kHz)によりスイッチングされつつ、昇圧用のトランス151の1次側に入力される。該トランス151の2次側昇圧出力電圧は8〜15V(例えば12V)である。なお、昇圧用発振回路153は、トランス151の一次側インダクタンスの一部を流用した自励式発振回路として構成されている。
【0044】
トランス151の2次側昇圧出力電圧は、ダイオード154Dにより半波整流され、さらにコンデンサ154Cにより平滑化された後、PWMスイッチング用トランジスタ155に入力される。PWMスイッチング用トランジスタ155はパワーFETにて構成され、ECU130が決定するデューティ比(例えば50〜100%)にてPWMスイッチングされる。PWMスイッチング用トランジスタ155は、ゲート駆動用トランジスタ156を介してフォトカプラ165によりスイッチングされる。
【0045】
ペルチェ素子は導通断面積の大きい金属導体として構成されているので、PWMスイッチング電圧波形をペルチェ素子へ直接入力すると、波形エッジでの電流遮断時に渦電流が発生し、目的の極性と逆方向の電圧が供給されて冷却効率を低下させるジュール熱が多量に発生するので好ましくない。そこで、本実施形態では、コイル158とコンデンサ159とを有した駆動平滑化回路201により、上記PWMスイッチング電圧波形をディーティ比に応じた直流駆動電圧(出力電圧範囲は、例えば6〜12V:出力電流範囲は、例えば3〜6A)として平滑化し、極性切替スイッチ160を介してペルチェモジュール3に供給するようにしている。なお、PWMスイッチング周波数は例えば1〜5kHzであり、昇圧スイッチング周波数よりも小さく設定される。
【0046】
極性切替スイッチ160は、本実施形態ではリレースイッチとして構成され、コイル161,リレー駆動トランジスタ162を介してフォトカプラ163により動作制御される(ここでは、リレー駆動トランジスタ162がOFFのとき、端子160Aが電源入力,端子160Bが接地となり(順方向極性)、同じくオン状態のときは端子160Aが接地,端子160Bが電源入力となるよう(逆方向極性)、スイッチ160が切り替わる)。また、送風機4へのモータ駆動出力は、トランス151の2次側にてPWMスイッチング用トランジスタ155の前段より、電圧安定化用のレギュレータIC164を介して非スイッチング状態で取り出される。
【0047】
なお、本実施形態では車載バッテリ電圧+Bの変動を補償するために昇圧回路を組み込んでいるが、ペルチェ素子の動作が保障できる場合、例えば、ペルチェ素子への駆動出力電圧範囲が車載バッテリ電圧+Bの変動範囲よりも常時小さいことが保障できる場合には、この昇圧回路を省略することも可能である。この場合、ペルチェ素子への出力段に電圧モニタリング部を追加し、PWMスイッチングのデューティ比制御にこれをフィードバックして電圧を安定化するレギュレータ部を追加すればよい。また、ペルチェ素子への駆動出力電圧が車載バッテリ電圧+Bの変動範囲を若干上回る場合にあっても、該レギュレータ部を周知の昇圧型ステップアップ回路として構成すれば、昇圧回路は同様に省略できる。
【0048】
前述のごとく、手元電源スイッチ113のオン/オフ状態、および温度設定状態(さらには、冷暖房モード)は温調入力インターフェース122を介してECU130に入力される。手元電源スイッチ113がオフ状態のとき、ECU130は、入力側DC電源150へのバッテリ受電系路上に設けられた電源スイッチ150Sをオフ状態とし、ペルチェモジュール3と送風機4とを双方ともに停止させる。一方、手元電源スイッチ113がオン状態のときは、通常モードでは電源スイッチ150Sをオン状態とする。そして、手元操作スイッチ112が冷房側に回転していればリレー駆動トランジスタ162をオフ状態とし、通電極性を順方向とする。また、暖房側に回転していればリレー駆動トランジスタ162をオン状態とし、通電極性を逆方向とする。
【0049】
冷房側および暖房側のいずれにおいても、手元操作スイッチ112の操作角度は、例えばポテンショメータ等を介して温調入力インターフェース122により読み取られ、冷房設定温度θないし暖房設定温度θ’に変換されてECU130に送られる。ECU130は、その冷房設定温度θないし暖房設定温度θ’と内気温センサ115の温度検出値Tとを取得し、冷房時は図6のデューティ比テーブルを、暖房時は図7のデューティ比(電流値)テーブルを参照して、適正なデューティ比ηを読み取り、PWMスイッチング用トランジスタ155をそのデューティ比ηでスイッチング駆動して、ペルチェ素子の出力調整を行う。冷房時はT−θが大きくなるほどデューティ比(電流値)ηは高く設定され、暖房時はθ’−Tが大きくなるほどデューティ比(電流値)ηは高く設定される。
【0050】
図8のフローチャートを用いて、車両用シート空調システム50の空調制御処理について説明する。なお、本処理は、ECU130においてCPU130aが実行する制御プログラムに含まれ、他の処理とともに繰り返し実行される。また、制御内容は4つのシート(図2参照)についてそれぞれ同様であり、かつ、独立した制御が実行される。
【0051】
まず、手元電源スイッチ113の状態を取得する(S11)。手元電源スイッチ113がオフ状態である場合(S12:No)、電源スイッチ150S(図5参照)をオフ状態とし、座部101および背もたれ部102のペルチェモジュール3および送風機(ファン)4の動作を停止して(S25)、本処理を終了する。
【0052】
一方、手元電源スイッチ113がオン状態である場合(S12:Yes)、各シートの乗員検知センサ114の情報を取得する(S13)。そして、乗員の有無を判定する。乗員を検知しない場合(S14:No)、電源スイッチ150S(図5参照)をオフ状態とし、座部101および背もたれ部102のペルチェモジュール3および送風機(ファン)4の動作を停止して(S25)、本処理を終了する。
【0053】
一方、乗員を検知した場合(S14:Yes)、内気温センサ115から車室内温度情報を取得する(S15)。そして、電源スイッチ150S(図5参照)をオン状態として、手元操作スイッチ112の操作位置から設定温度(および冷暖房のモード)を読み取る(S16)。
【0054】
次に、着座した乗員を特定するための乗員特定情報を取得する(S17)。乗員特定情報は、以下のうちの一つあるいは2つ以上の組合せを用いる。
・カメラ110で撮影された乗員の画像と、メモリ130dに予め記憶されたユーザ登録データに含まれる基準画像とを比較し、両者の類似度が最も高いものを用いて乗員を特定する。基準画像にその車両をよく利用する乗員の画像が含まれているときには、乗員そのものを特定することができる。また、乗員そのものを特定できない場合でも、体格,着衣等から性別や大人/子供の推定や年齢の推定を行うことができる。なお、人間の顔を含む画像を撮影し、その画像から人間の性別・年齢等の属性を推定する種々の方法については、特開2000−222572号公報,特開2003−099779号公報,特開2005−250712号公報に詳細が記載されている。
・重量センサ145で検出された乗員の重量(体重)に基づいて、ユーザ登録データを参照して乗員を特定する。乗員そのものを特定できない場合でも、体重から例えば大人/子供の推定を行うことができる。
・シートポジションセンサ142で検出されたシートポジションに基づいて、ユーザ登録データを参照して乗員を特定する。乗員そのものを特定できない場合でも、シートポジションから乗員の体格が推定できるので、これを基に例えば性別あるいは大人/子供の推定を行うことができる。
【0055】
図9に、メモリ130dに予め記憶された上述の乗員特定に関するユーザ登録データの一例を示す。ユーザ(よく乗車する乗員)に関連付けて、そのユーザの温度嗜好(暑がり,寒がり),シートの設定温度,ユーザの重量,乗員特定のためのシートポジション,画像データが記憶されている。これらは、図示しない操作スイッチを用いてユーザにより登録可能となっている。また、ユーザの項目は、氏名を入力しても「父」,「母」のように入力してもよい。
【0056】
乗員を特定できなかった場合(S18:No)、上述で読み取った車室内温度情報,設定温度に基づいて、図6ないし図7のテーブルを参照して設定デューティ比(電流値)ηを読み取り(S24)、当該デューティ比で、座部101および背もたれ部102(いずれか一方でもよい)の、ペルチェモジュール3を駆動するとともに送風機(ファン)4を駆動する(S23)。このとき、室内温度情報の代わりに、シート温度センサ118から取得したシート温度を用いてもよい。
【0057】
一方、乗員を特定できた場合(S18:Yes)、シート温度センサ118から取得したシート温度を取得する(S19)。続いて、エアコン141からエアコン温度設定情報(動作状態情報,設定温度操作情報)を取得する(S20)。これは、ユーザが温度設定スイッチ141aで設定した値を通信I/F140を介して取得する。
【0058】
次に、以下のいずれかの方法を用いて、空調装置10A,10Bの設定温度を決定する(S21)。
・ユーザ登録データを参照して、特定された乗員の温度嗜好を取得し、設定温度が登録されているときには、登録されている値を空調装置10A,10Bの設定温度とする。
・ユーザ登録データの、特定された乗員の温度嗜好に温度嗜好「暑がり」のみが登録されているときには、現在の空調装置10A,10Bの設定温度,シート温度,内気温,あるいはエアコン141の設定温度よりも例えば3℃のような予め定められた値だけ低くしたものを空調装置10A,10Bの設定温度とする。
・ユーザ登録データの、特定された乗員の温度嗜好に温度嗜好「寒がり」のみが登録されているときには、現在の空調装置10A,10Bの設定温度,シート温度,内気温,あるいはエアコンの設定温度よりも例えば3℃のような予め定められた値だけ高くしたものを空調装置10A,10Bの設定温度とする。
【0059】
・乗員の性別,年齢や大人/子供の判別ができたときは、ユーザ登録データから、判別できた項目に対応する温度嗜好を取得し、その温度嗜好(上述の例に準ずる)あるいは設定温度を用いて、空調装置10A,10Bの設定温度とする。また、年齢を10歳刻み程度の年齢層に区分して、その年齢層毎に温度嗜好あるいは設定温度を記憶するようにしてもよい。
【0060】
次に、設定温度に基づいて、図6ないし図7のテーブルを参照して設定デューティ比(電流値)ηを読み取り(S22)、当該デューティ比で、座部101および背もたれ部102(いずれか一方でもよい)の、ペルチェモジュール3を駆動するとともに送風機(ファン)4を駆動する(S23)。
【0061】
上述のステップS21において、空調装置10A,10Bの設定温度を決定するとともに、乗員の温度嗜好に基づいてエアコン141の設定温度を変更してもよい。例えば、乗員の温度嗜好(ユーザ登録データ)に設定温度が登録されているときには、その値をエアコン141の設定温度とする。「暑がり」のみが登録されているときには、エアコン141の設定温度を、現在の設定温度よりも例えば3℃のような予め定められた値だけ低くしたものとする。また、「寒がり」のみが登録されているときには、エアコン141の設定温度を、現在の設定温度よりも例えば3℃のような予め定められた値だけ高くしたものとする。そして、この設定温度情報を、通信I/F140を介してエアコン141へ送信する。エアコン141では、受信した設定温度に基づいて車室内の空調制御を行う。座席毎の複数の設定温度情報を受信したときには、代表値(平均値,最大値,最小値,中央値等のいずれか)を算出し、この代表値を新たな設定温度として用いる。
【0062】
また、エアコン141から取得したエアコン温度設定情報を参照して、エアコン141の設定温度が例えば25℃のような予め定められた値を下回っているときには、ユーザ(乗員)が車内を冷やそうとしていると判定して、現在の空調装置10A,10Bの設定温度,ユーザの温度嗜好,シート温度,あるいは内気温よりも例えば3℃のような予め定められた値だけ低くしたものを空調装置10A,10Bの設定温度としてもよい。また、エアコン141の設定温度が予め定められた値を上回っているときには、ユーザが車内を暖めようとしていると判定して、現在の空調装置10A,10Bの設定温度,ユーザの温度嗜好,シート温度,あるいは内気温よりも例えば3℃のような予め定められた値だけ高くしたものを空調装置10A,10Bの設定温度としてもよい。
【0063】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、これらはあくまで例示にすぎず、本発明はこれらに限定されるものではなく、特許請求の範囲の趣旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づく種々の変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の車両用シート空調システムを組み込んだ自動車用シートの一例を示す側面断面図。
【図2】車内のシートレイアウトと車両用シート空調システムの設置例を示す平面模式図。
【図3】乗員検知センサの別例を示す模式図。
【図4】本発明の車両用シート空調システムの電気的構成の一例を示す全体ブロック図。
【図5】ペルチェモジュールの駆動ユニットの電気的構成の一例を示す回路図。
【図6】冷房時に使用するデューティ比テーブルの模式図。
【図7】暖房時に使用するデューティ比テーブルの模式図。
【図8】空調制御処理を説明するフロー図。
【図9】ユーザ登録データの一例を示す図。
【符号の説明】
【0065】
1 シート
3 ペルチェモジュール
4 送風機(ファン)
10A,10B 空調装置
101 座部
102 背もたれ部
105 空気ダクト(導風通路部)
110 カメラ(乗員検出手段)
112 手元操作スイッチ
113 手元電源スイッチ
114 乗員検知センサ(乗員検出手段)
115 内気温センサ(車室内温度情報取得手段)
118 シート温度センサ(シート温度情報取得手段)
127 画像処理部(乗員特定手段)
130 ECU(乗員特定手段,温度嗜好取得手段,温度設定手段,空調制御手段)
130d メモリ(温度嗜好記憶手段)
140 通信I/F(車室内温度情報取得手段,動作状態情報取得手段)
141 エアコン(車室内空調装置)
141a 温度設定スイッチ
142 シートポジションセンサ(シート位置検出手段)
145 重量センサ(乗員重量検出手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のシートに設けられた空調装置と、
前記シートに着座する乗員を検出する乗員検出手段と、
前記着座した乗員を特定する乗員特定手段と、
前記特定した乗員の温度嗜好を記憶する温度嗜好記憶手段と、
特定した前記乗員の温度嗜好を取得する温度嗜好取得手段と、
取得した前記乗員の温度嗜好に基づいて、該乗員が着座しているシートに設けられた前記空調装置の温度を設定する温度設定手段と、
前記設定した温度に基づいて、該乗員が着座しているシートに設けられた前記空調装置の動作を制御する空調制御手段と、
を備えることを特徴とする車両用シート空調システム。
【請求項2】
前記乗員の重量を検出する乗員重量検出手段を備え、
前記乗員特定手段は、検出した前記乗員の重量に基づいて前記着座した乗員を特定する請求項1に記載の車両用シート空調システム。
【請求項3】
前記シートの位置を検出するシート位置検出手段を備え、
前記乗員特定手段は、検出した前記シートの位置に基づいて前記着座した乗員を特定する請求項1または請求項2に記載の車両用シート空調システム。
【請求項4】
前記シートの温度情報を取得するシート温度情報取得手段を備え、
前記温度設定手段は、前記シートの温度情報に基づいて、該シートに設けられた前記空調装置の温度を設定する請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の車両用シート空調システム。
【請求項5】
車室内の温度を反映した車室内温度情報を取得する車室内温度情報取得手段を備え、
前記温度設定手段は、前記車室内温度情報に基づいて、該シートに設けられた前記空調装置の温度を設定する請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の車両用シート空調システム。
【請求項6】
車室内の前記シートを含む空間を空調の対象とする車室内空調装置と、
前記車室内空調装置の動作状態情報を取得する動作状態情報取得手段と、
を備え、
前記温度設定手段は、取得した前記動作状態情報に基づいて、該シートに設けられた前記空調装置の温度を設定する請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の車両用シート空調システム。
【請求項7】
前記動作状態情報は、前記車室内空調装置の設定温度操作情報を含み、
前記温度設定手段は、前記設定温度操作情報に基づいて、前記シートに設けられた前記空調装置の温度を設定する請求項6に記載の車両用シート空調システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−36751(P2010−36751A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−202900(P2008−202900)
【出願日】平成20年8月6日(2008.8.6)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】