説明

車両用シート

【課題】可動式のヘッドレストを有する車両用シートにおいて、組付性に優れ、且つ、簡易な構造を有する車両用シートを提供する。
【解決手段】車両用シートには、ヘッドレスト31が前方に移動可能なように、該ヘッドレストを支持するヘッドレスト支持フレーム21がシートバックフレーム11に回動可能に支持されている。車両用シートは、シートバックフレームの上部に配置された第1の空気袋33と、シートバックフレームの下部に設けられ、チューブ35を介して第1の空気袋に連通された第2の空気袋34とを備える。車両後突時の乗員の上半身の後方移動により第2の空気袋が圧縮され、チューブを介して第1の空気袋に空気が流入することで該第1の空気袋が作動し、ヘッドレストが前方に移動するようにヘッドレスト支持フレームが回動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可動式のヘッドレストを有する車両用シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用シートにおいて、車両後突時の乗員の安全性を向上させるため、衝撃等に基づきヘッドレストを前方に移動させ、乗員の頭部を後側から支えるものが提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1に記載された車両用シートでは、シートバック(1)及びヘッドレスト(2)の内部にそれぞれ流体袋(3)及びヘッドレスト側流体袋(8)を設け、中空構造をなすヘッドレストステー(7)の下端部を介してこれら両流体袋間を連通・接続している。この場合、車両後突時に乗員の上半身が後方移動すると、シートバック側の流体袋が圧縮され、所定圧以上の内圧上昇で内部の流体がヘッドレスト側流体袋に流入する。これにより、ヘッドレスト側流体袋が膨み、ヘッドレストの表面が乗員の頭部に接近すべく前方に移動して、該頭部を後側から支える。
【0004】
また、特許文献2に記載された車両用シートでは、シートバック(3)の上部の横方向に延びるアッパフレーム部(6)に、該アッパフレーム部に沿う駆動力を発生するアクチュエータユニット(16)を取り付けている。この場合、後突検知用のセンサ(23)により所定値を超える衝撃が検出されると、これに基づき発生されるアクチュエータユニットの駆動力がカム部材(28)に伝達され、該カム部材に押圧されるヘッドレスト支持フレーム(8)が回動する。これにより、ヘッドレスト支持フレームに支持されたヘッドレストが乗員の頭部に接近すべく前方に移動して、該頭部を後側から支える。
【0005】
さらに、特許文献3に記載された車両用シートでは、ヘッドレスト(6)を支持するためのヘッドレスト支持フレーム(8)をその中間部においてシートバックフレーム(2)に回動可能に支持し、且つ、該ヘッドレスト支持フレームの下端部に乗員の後方移動を受ける受圧部材(10)を設けている。この場合、車両後突時に乗員の上半身が後方移動すると、受圧部材が後方に向けて強く押圧され、ヘッドレスト支持フレームがその回動軸周りに後方に回動する。これにより、ヘッドレストが乗員の頭部に接近すべく前方に移動して、該頭部を後側から支える。また、この車両用シートでは、ヘッドレストの作動後のヘッドレスト支持フレームの戻り回動を防止するためにラチェット機構(14)を設けることが提案されている。
【特許文献1】特開2005−324658号公報
【特許文献2】特開2004−50924号公報
【特許文献3】特開2002−274240号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1では、ヘッドレストステーとシートバック側の流体袋との接続が困難であることが推測される。これは、ヘッドレストの装着済みの車両用シートでは、車両のドア開口部から入らないことから、車両組付工程において該ヘッドレストを除いた車両用シートを予め車両に搭載し、その状態でヘッドレストを装着することが一般的であるためである。つまり、この状態では、ヘッドレストステーとシートバック側の流体袋との接続が困難になるためである。しかしながら、特許文献1では、ヘッドレストステーとシートバック側の流体袋との接続が困難であるにも関わらず、その具体的な方策について何ら記載されていない。また、ヘッドレスト側流体袋に流体を流入させて、ヘッドレスト自体を膨らませる構成であるため、これを許容するための表皮処理が高価になるものと予想される。
【0007】
また、特許文献2では、後突検知用のセンサを設け、該センサの検出信号に基づいてアクチュエータユニットにより駆動力を発生しヘッドレストを作動させることになるため、複雑なシステムを構成する必要があり、製造コストの増大を余儀なくされる。
【0008】
加えて、アッパフレーム部近傍の限られたスペースに搭載可能であり、且つ、瞬間的に十分な駆動力を発生し得るアクチュエータユニットとしては、現状の技術常識から考えて火薬式のものを採用せざるを得ない。この場合、ヘッドレストの作動の都度にアクチュエータユニット(点火部)を交換しなければならず、例えば軽度な車両後突時の場合も含めると、利用者の費用負担が大きくなってしまう。一方、ヘッドレストの作動の感度を下げてヘッドレストの作動頻度を低減することも考えられるが、軽度な車両後突時であっても鞭打ちが発生し得ることを考えれば現実的ではない。
【0009】
さらに、特許文献3では、ヘッドレスト支持フレームをその回動軸周りに回動させる簡易な機構を採用しているため、車両後突時以外であっても、車両急加速時や乗員のひざつき動作などでヘッドレストが動いてしまい、煩わしい。また、このような煩わしさを回避するため、こうした車両用シートでは、受圧部材を乗員から予め遠ざけておくことが主流になっているが、この場合には、実際の車両後突時のヘッドレストの反応速度が低下してしまい、鞭打ち低減効果が損なわれる可能性がある。また、戻り回動防止用のラチェット機構は、その回動規制を解除するための操作レバー(22)を備えるため、その突出分だけ車両用シートの見栄えが損なわれてしまう。
【0010】
本発明の目的は、可動式のヘッドレストを有する車両用シートにおいて、組付性に優れ、且つ、簡易な構造を有する車両用シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の発明は、ヘッドレストが前方に移動可能なように、該ヘッドレストを支持するヘッドレスト支持フレームがシートバックフレームに移動可能に支持されてなる車両用シートにおいて、前記シートバックフレームの上部に配置された流体作動部材と、前記シートバックフレームの中間部又は下部に設けられ、チューブを介して前記流体作動部材に連通された流体袋とを備え、車両後突時の乗員の上半身の後方移動により前記流体袋が圧縮され、前記チューブを介して前記流体作動部材に流体が流入することで該流体作動部材が作動し、前記ヘッドレストが前方に移動するように前記ヘッドレスト支持フレームが移動することを要旨とする。
【0012】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の車両用シートにおいて、前記流体作動部材は、前記シートバックフレームの上部及び前記ヘッドレスト支持フレームのいずれか一方に固定された流体袋からなり、車両後突時の乗員の上半身の後方移動による流体の流入で前記シートバックフレームの上部及び前記ヘッドレスト支持フレームのいずれか他方を押圧するように前記流体作動部材が膨らんで、前記ヘッドレストが前方に移動するように前記ヘッドレスト支持フレームが移動することを要旨とする。
【0013】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の車両用シートにおいて、前記シートバックフレームの上部及び前記ヘッドレスト支持フレームの間に配置されて前記流体作動部材に当接又は接合され、一側方向に移動することで前記シートバックフレームの上部及び前記ヘッドレスト支持フレームの間の相対距離が増加するようにこれらシートバックフレームの上部及びヘッドレスト支持フレームと係合する楔形のカム部材を備え、車両後突時の乗員の上半身の後方移動による流体の流入で前記流体作動部材が作動し、前記カム部材が一側方向に移動して、前記ヘッドレストが前方に移動するように前記ヘッドレスト支持フレームが移動することを要旨とする。
【0014】
請求項4に記載の発明は、請求項1に記載の車両用シートにおいて、前記流体作動部材は、前記シートバックフレームの上部及び前記ヘッドレスト支持フレームの間に配置され、前記ヘッドレスト支持フレームに設けられた下側ガイドピン及び上側ガイドピンと、前記シートバックフレームの上部に設けられ、前記下側ガイドピンが挿通されて前記ヘッドレスト支持フレームを支持する長孔と、前記シートバックフレームの上部に設けられ、前記上側ガイドピンが当接されて前記ヘッドレスト支持フレームを位置決めするガイド部とを備え、車両後突時の乗員の上半身の後方移動による流体の流入で前記流体作動部材が作動し、前記下側ガイドピンが前記長孔に沿って移動するとともに、前記上側ガイドピンが前記ガイド部に沿って移動して、前記ヘッドレストが前方に移動するように前記ヘッドレスト支持フレームが移動することを要旨とする。
【0015】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか一項に記載の車両用シートにおいて、前記ヘッドレストが後方に移動する前記ヘッドレスト支持フレームの戻り移動を規制するラチェット機構を備えたことを要旨とする。
【0016】
請求項6に記載の発明は、請求項1〜5のいずれか一項に記載の車両用シートにおいて、前記流体は空気であることを要旨とする。
請求項7に記載の発明は、請求項6に記載の車両用シートにおいて、前記流体袋は、該流体袋の内圧が第1所定圧以上に達することで閉鎖される吸気弁を備えたことを要旨とする。
【0017】
請求項8に記載の発明は、請求項7に記載の車両用シートにおいて、前記流体袋は、該流体袋の内圧が前記第1所定圧よりも大きい第2所定圧以上に達することで内部の流体を排出する排出手段を備えたことを要旨とする。
【0018】
請求項9に記載の発明は、請求項6〜8のいずれか一項に記載の車両用シートにおいて、前記流体袋及び前記流体作動部材の間に、前記流体作動部材の内圧が所定圧以上に達することで該流体作動部材から前記流体袋への流体の流れを止める逆止弁を設けたことを要旨とする。
【発明の効果】
【0019】
請求項1乃至3に記載の発明では、車両後突時の乗員の上半身の後方移動により前記流体袋が圧縮され、前記チューブを介して前記流体作動部材に流体が流入することで該流体作動部材が作動し、前記ヘッドレストが前方に移動するように前記ヘッドレスト支持フレームが移動する。これにより、前記ヘッドレストが乗員の頭部に接近して、該頭部を後側から支える。この場合、前記ヘッドレストの作動に係る前記流体作動部材は、前記シートバックフレームの上部に配置されて、シートバック内に収まっているため、前記ヘッドレストのヘッドレスト支持フレームへの装着に際し、前記流体作動部材に何ら制約を受けることはない。つまり、車両組付工程において前記ヘッドレストを除いた車両用シートを予め車両に搭載し、その状態で前記ヘッドレストを装着する場合であっても、該ヘッドレストを前記ヘッドレスト支持フレームに対し容易に装着することができる。
【0020】
さらに、前記ヘッドレストの作動は、車両後突時の乗員の上半身の後方移動に基づいて、そのときに発生する力(押圧力)を利用して行うため、例えば後突検知用のセンサを設けたり、該センサの検出信号に基づいて前記ヘッドレストを適宜のアクチュエータにて駆動するといった複雑なシステムを構成する必要はなく、その構造を極めて簡易なものにできる。
【0021】
請求項4に記載の発明では、前記ヘッドレストの移動軌跡を規定する前記ヘッドレスト支持フレームの移動は、前記下側ガイドピンの前記長孔に沿った移動及び前記上側ガイドピンの前記ガイド部に沿った移動によって案内される。このように、ヘッドレスト支持フレームの移動を案内することで、前記ヘッドレストの前方への移動に伴う該ヘッドレストの上方成分の移動量を容易に調整することができる。
【0022】
請求項5に記載の発明では、前記ラチェット機構により、前記ヘッドレスト支持フレームの戻り移動が規制されることで、車両後突時において、前記ヘッドレストによる頭部の支持を好適に行うことができる。
【0023】
請求項6に記載の発明では、前記ヘッドレストの作動に係る流体を空気とすることで、該ヘッドレストの反応速度を向上することができる。
請求項7に記載の発明では、例えば乗員のひざつき動作などで前記流体袋が緩やかに圧縮される場合には、前記吸気弁を通じて内部の流体(空気)が排出されることで、前記チューブを介した前記流体作動部材への流体の流入を抑制することができ、前記ヘッドレストの誤作動を抑制することができる。
【0024】
請求項8に記載の発明では、例えば車両の激しい後突により、前記流体袋の内圧が予想以上に上昇する場合であっても、前記第2所定圧以上に達した段階で、前記排出手段により内部の流体(空気)が排出されることで、該流体袋の破裂を防止することができる。
【0025】
請求項9に記載の発明では、前記流体作動部材の内圧が所定圧以上に達することで、前記逆止弁により、該流体作動部材から前記流体袋への流体(空気)の流れが止められることで、前記ヘッドレストが乗員の頭部に当接した際、前記流体作動部材の流体(空気)を保持することができ、該ヘッドレストによる頭部の支持を好適に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
(第1の実施形態)
以下、本発明を具体化した第1の実施形態を図面に従って説明する。
図1は、本実施形態に係る車両用シートの骨格を示す斜視図である。同図に示されるように、この車両用シートは、シートバックの骨格をなすシートバックフレーム11を備えるとともに、該シートバックフレーム11は、車両の幅方向(車両の前方に向かって左右方向)で対をなす板材からなるサイドフレーム12を有し、更に各サイドフレーム12の上端部でこれら両サイドフレーム12間を連結する筒材からなるアッパパイプ13を有する。
【0027】
なお、アッパパイプ13は、車両の幅方向に延びる本体部13aと、該本体部13aの両端部にそれぞれ連続する態様で下方に延びる一対の腕部13bとを有してU字状に曲成されている。そして、両腕部13bは、それぞれの上端部において、車両の幅方向に延びる板材からなるアッパフレーム14にて連結されている。また、両サイドフレーム12は、それぞれの下端部において、車両の幅方向に延びる板材からなるロアフレーム15にて連結されている。
【0028】
前記各腕部13bの下端部には、車両の前方に延出する板材からなるシートバックフレーム側ヒンジブラケット16が接合されるとともに、これらシートバックフレーム側ヒンジブラケット16には、筒材からなるヘッドレスト支持フレーム21が移動(回動)可能に支持されている。すなわち、前記ヘッドレスト支持フレーム21は、車両の幅方向に延びる本体部21aと、該本体部21aの両端部にそれぞれ連続する態様で下方に延びる一対のレバー部21bとを有してU字状に曲成されており、各レバー部21bの下端部において、ヒンジピン22により前記シートバックフレーム側ヒンジブラケット16に回動可能に支持されている。
【0029】
なお、前記各シートバックフレーム側ヒンジブラケット16には、各レバー部21bの回動軌跡を遮るように車両の幅方向内側に突出して、前記ヘッドレスト支持フレーム21の一側方向(図1において反時計回転方向)への回動範囲を規制する回転ストッパ16aが一体形成されている。
【0030】
前記ヘッドレスト支持フレーム21の本体部21aには、上下方向に軸線の延びる四角筒状の一対のサポートブラケット23が車両の幅方向で対称となるように接合されるとともに、各サポートブラケット23には、樹脂材からなるヘッドレストステー摺動用サポート24が装着されている。そして、これらヘッドレストステー摺動用サポート24には、ヘッドレスト31の一対のステー32がそれぞれ挿入される。つまり、ヘッドレスト31は、各ステー32がヘッドレストステー摺動用サポート24に挿入されることで、前記ヘッドレスト支持フレーム21のサポートブラケット23に着脱自在に支持される。
【0031】
なお、各サポートブラケット23は、前記本体部13aよりも上方に突出するようにその軸線方向の長さが設定されている(図2参照)。そして、各サポートブラケット23には、前記ヘッドレスト支持フレーム21の他側方向(図2において時計回転方向)への回動に伴い前記本体部13aと弾性的に当接して当該方向への回動範囲を規制するクッションゴム25が接合されている。
【0032】
また、前記アッパパイプ13の各腕部13bには、シートバックフレーム側ヒンジブラケット16の近傍となるその下端部において、車両の幅方向に延びるワイヤ26の各先端部が固着されている。そして、このワイヤ26には、各レバー部21bに一端の係止されたテンションスプリング27の他端が係止されている。これにより、前記ヘッドレスト支持フレーム21は、前記ヒンジピン22を中心に前記サポートブラケット23に接合されたクッションゴム25が前記本体部13aに当接する側に付勢されている。
【0033】
前記アッパフレーム14の中央部には、前記ヘッドレスト支持フレーム21の本体部21aとの間に挟まれる態様で、流体作動部材としての蛇腹状の第1の空気袋33が固定されている。この第1の空気袋33は、内部への流体としての空気の流入出によってアッパフレーム14に直交する方向(車両の前後方向)に伸縮可能となっている。
【0034】
一方、前記ロアフレーム15の中央部には、車両前方に突出する態様で、空気袋としての第2の空気袋34が固定されている。この第2の空気袋34は、ブロー樹脂成形にて扇形の蛇腹状に成形されており、内部への空気の流入出によって車両の前後方向に扇状に伸縮可能となっている。そして、この第2の空気袋34は、チューブ35を介して前記第1の空気袋33に連通・接続されている。従って、第2の空気袋34の内部の空気は、チューブ35を介して第1の空気袋33に移動可能となっている。
【0035】
なお、図2(a)に拡大して示したように、第2の空気袋34には、内部に空気を取り込むための吸気弁36が設けられている。そして、上記第2の空気袋34の、圧縮方向に負荷のかからない状態での素形状は、吸気弁36を通じて空気を取り込むことで膨らんでいる。従って、第2の空気袋34は、基本的にシートバック内でパッド裏面Pに当接又は隣接する状態を維持する。
【0036】
また、前記吸気弁36は、第2の空気袋34の内圧が低いときには内部の空気を排出し得る排気機能を有するとともに、該内圧が第1所定圧以上に達することで閉鎖される。従って、例えば乗員Mが背中をシートバックに押し付けたり、ひざつき動作を行うなどして第2の空気袋34が緩やかに圧縮される場合には、内部の空気は吸気弁36を通じて排出されることで、チューブ35を介した第1の空気袋33への空気の流入を抑制しつつ、第2の空気袋34の収縮が許容される。一方、車両後突時の乗員Mの上半身の後方移動により前記第2の空気袋34が急激に圧縮され、その内圧が前記第1所定圧以上に達したときには、前記吸気弁36が閉鎖されることで前記チューブ35を介した第1の空気袋33への空気の流入が可能となる。
【0037】
さらに、前記吸気弁36には、その中央部を貫通する排出手段としてのオリフィス37が形成されている。このオリフィス37は、第2の空気袋34の内圧が前記第1所定圧よりも十分に大きい第2所定圧以上に達したときに、内部の空気を排出するためのものである。この第2所定圧は、第1及び第2の空気袋33,34に破裂を生じたりすることのないそれぞれの許容内圧よりも小さく設定されている。なお、第2の空気袋34の内圧が前記第2所定圧以上に達する可能性があるのは、気圧の低下によって第1の空気袋33の作動が不十分になることを避けるために、第2の空気袋34に蓄え得る空気の容量に余裕が持たされていることによる。つまり、低地では、第2の空気袋34に必要以上の空気が蓄えられることで、第2の空気袋34の内圧が前記第2所定圧以上に達することがある。
【0038】
さらにまた、前記チューブ35には、前記第1の空気袋33の内圧が所定圧以上に達することで該第1の空気袋33から前記第2の空気袋34への空気の流れを止める逆止弁38が設けられている。
【0039】
次に、本実施形態の動作について図2に基づき総括して説明する。なお、図2(a)は、第2の空気袋34が圧縮方向の負荷のかかることなく膨らんだ状態を示し、図2(b)は、車両後突時の乗員Mの上半身の後方移動により第2の空気袋34が急激に圧縮された状態を示す。
【0040】
同図に示されるように、車両後突時の乗員Mの上半身の後方移動により第2の空気袋34が圧縮され、その内圧が前記第1所定圧以上に達すると、吸気弁36が閉鎖されチューブ35を介して第1の空気袋33に空気が流入することで該第1の空気袋33が膨らみ、テンションスプリング27に抗してヘッドレスト支持フレーム21の本体部21aを押圧する。そして、ヘッドレスト支持フレーム21は、ヒンジピン22周りに一側方向(図2において反時計回転方向)に回動し、ヘッドレスト31が前方に移動する。これにより、ヘッドレスト31が乗員Mの頭部に接近して、該頭部を後側から支える。
【0041】
このとき、乗員Mの頭部がヘッドレスト31に衝突して、第1の空気袋33の内圧が前記所定圧以上に達すると、逆止弁38により該第1の空気袋33から第2の空気袋34への空気の流れが止められる。これにより、第1の空気袋33は、内部の空気を保持してその膨らんだ状態をより確実に維持することができ、ヘッドレスト31による頭部の支持を好適に行うことができる。なお、車両後突が終了し、乗員Mの頭部がヘッドレスト31から離れると、第1の空気袋33の内圧が前記所定圧を下回ることで、徐々に元の状態に復帰させることができる。
【0042】
また、例えば車両の激しい後突により、第2の空気袋34の内圧が予想以上に上昇した場合には、前記第2所定圧以上に達した段階で、オリフィス37により内部の空気が排出されることで、該第2の空気袋34の破裂を防止することができる。
【0043】
一方、例えば乗員Mが背中をシートバックに押し付けたり、ひざつき動作を行うなどして第2の空気袋34が緩やかに圧縮される場合には、内部の空気は吸気弁36を通じて排出されることで、チューブ35を介した第1の空気袋33への空気の流入を抑制しつつ、第2の空気袋34の収縮が許容される。これにより、ヘッドレスト31の誤作動を抑制することができる。
【0044】
以上詳述したように、本実施形態によれば、以下に示す効果が得られるようになる。
(1)本実施形態では、前記ヘッドレスト31の作動に係る前記第1の空気袋33は、前記シートバックフレーム11の上部に配置されて、シートバック内に収まっているため、前記ヘッドレスト31をヘッドレスト支持フレーム21のサポートブラケット23(ヘッドレストステー摺動用サポート24)に装着する際、前記第1の空気袋33に何ら制約を受けることはない。つまり、車両組付工程において前記ヘッドレスト31を除いた車両用シートを予め車両に搭載し、その状態で前記ヘッドレスト31を装着する場合であっても、該ヘッドレスト31を前記ヘッドレスト支持フレーム21のサポートブラケット23に対し容易に装着することができる。また、前記ヘッドレスト31を前記ヘッドレスト支持フレーム21のサポートブラケット23から容易に取り外すことができる。
【0045】
さらに、前記ヘッドレスト31の作動は、車両後突時の乗員Mの上半身の後方移動に基づいて、そのときに発生する力(押圧力)を利用して行うため、例えば後突検知用のセンサを設けたり、該センサの検出信号に基づいて前記ヘッドレスト31を適宜のアクチュエータにて駆動するといった複雑なシステムを構成する必要はなく、その構造を極めて簡易なものにできる。
【0046】
さらにまた、前記ヘッドレスト31を容易に元の状態に復帰させることができるため、例えば軽度な後突によりヘッドレスト31が作動した場合であっても、繰り返し使用することができる。
【0047】
(2)本実施形態では、前記ヘッドレスト31の作動に係る流体を空気とすることで、例えば液体などを利用する場合に比べて該ヘッドレスト31の反応速度を向上することができる。
【0048】
(3)本実施形態では、例えば乗員Mのひざつき動作などで前記第2の空気袋34が緩やかに圧縮される場合には、前記吸気弁36を通じて内部の空気が排出されることで、前記チューブ35を介した前記第1の空気袋33への流体の流入を抑制することができ、前記ヘッドレスト31の誤作動を抑制することができる。そして、車両後突時の乗員Mの上半身の後方移動により前記第2の空気袋34が急激に圧縮され、その内圧が前記第1所定圧以上に達したときには、前記吸気弁36が閉鎖されることで前記チューブ35を介した前記第1の空気袋33への空気の流入が可能となり、前記ヘッドレスト31の作動が許容される。
【0049】
(4)本実施形態では、例えば車両の激しい後突により、前記第2の空気袋34の内圧が予想以上に上昇する場合であっても、前記第2所定圧以上に達した段階で、前記オリフィス37により内部の空気が排出されることで、該第2の空気袋34の破裂を防止することができる。
【0050】
(5)本実施形態では、前記第1の空気袋33の内圧が所定圧以上に達することで、前記逆止弁38により、該第1の空気袋33から前記第2の空気袋34への空気の流れが止められることで、前記ヘッドレスト31が乗員Mの頭部に当接した際、前記第1の空気袋33の空気を保持することができ、該ヘッドレスト31による頭部の支持を好適に行うことができる。
【0051】
(第2の実施形態)
以下、本発明を具体化した第2の実施形態を図面に従って説明する。なお、第2の実施形態は、ヘッドレスト支持フレーム21等と係合する楔形のカム部材を設けた構成であるため、前記第1の実施形態と同様の構成については同一の符号を付してその説明を一部省略する。
【0052】
図3は、本実施形態に係る車両用シートの骨格を示す斜視図である。同図に示されるように、本実施形態のアッパフレーム41は、車両の幅方向に延びる板材からなるとともに、前記各腕部13bの上端部においてこれら両腕部13bを連結し、更に該アッパフレーム41は、その中央部から下方に延出する延出部41aを形成する。そして、この延出部41aには、流体作動部材としての蛇腹状の第1の空気袋42が固定されている。この第1の空気袋42は、内部への空気の流入出によってアッパフレーム41に沿う上下方向に伸縮可能となっている。
【0053】
そして、この第1の空気袋42の先端には、楔形のカム部材43が当接又は接合されている。このカム部材43は、アッパフレーム41からの突出長が該アッパフレーム41に沿う上方に向かって漸減するように成形された複数(4つ)の傾斜面43aを有するとともに、各隣り合う傾斜面43a間に設定された段差43bを有する。つまり、カム部材43は、全体としてはアッパフレーム41に沿う上方に向かって先鋭となる段付き形状を呈している。
【0054】
このカム部材43は、前記ヘッドレスト支持フレーム21の本体部21aとの間に挟まれる態様で、アッパフレーム41に沿う上下方向に移動可能に支持されている。従って、カム部材43は、アッパフレーム41に沿う上方に移動することで該アッパフレーム41及びヘッドレスト支持フレーム21の本体部21aの間の相対距離が増加するようにこれらアッパフレーム41及びヘッドレスト支持フレーム21と係合する。
【0055】
また、このカム部材43には、延出部41aに一端の係止されたテンションスプリング44の他端が係止されている(図4参照)。これにより、前記カム部材43は、アッパフレーム41に沿う下方側、即ちアッパフレーム41及びヘッドレスト支持フレーム21の本体部21aの間の相対距離が減少する側に付勢されている。
【0056】
なお、図4に示すように、前記本体部21aには、カム部材43に対向して突起状の係止片45が固定されている。この係止片45は、カム部材43がアッパフレーム41に沿う上方に移動することで、傾斜面43aが摺動されるとともに、段差43bで係止されてカム部材43のアッパフレーム41に沿う下方への戻り移動を規制する。このように、カム部材43の戻り移動を規制する該カム部材43及び係止片45の係合は、いわゆるラチェット機構を構成する。
【0057】
本実施形態において、前記ヘッドレスト支持フレーム21は、前記テンションスプリング27により、前記ヒンジピン22を中心に前記係止片45が前記カム部材43に当接する側に併せて付勢されている。これにより、カム部材43は、アッパフレーム41に沿う上方への移動に伴いより堅固に、段差43bで前記係止片45に係止されつつ、該係止片45に前記傾斜面43aが摺動されて、アッパフレーム41及びヘッドレスト支持フレーム21の本体部21aの間の相対距離を増加させる。そして、ヘッドレスト支持フレーム21のサポートブラケット23(ヘッドレストステー摺動用サポート24)に支持されたヘッドレスト31は、後方への戻り移動が規制されつつ、前方に移動する。本実施形態では、ヘッドレスト支持フレーム21(係止片45)及びカム部材43の係合によって、ヘッドレスト31の後方への戻り移動を規制するため、チューブ35に設けた前述の逆止弁38は割愛されている。
【0058】
次に、本実施形態の動作について図4に基づき総括して説明する。なお、図4(a)は、第2の空気袋34が圧縮方向の負荷のかかることなく膨らんだ状態を示し、図4(b)は、車両後突時の乗員Mの上半身の後方移動により第2の空気袋34が急激に圧縮された状態を示す。
【0059】
同図に示されるように、車両後突時の乗員Mの上半身の後方移動により第2の空気袋34が圧縮され、その内圧が前記第1所定圧以上に達すると、吸気弁36が閉鎖されチューブ35を介して第1の空気袋42に空気が流入することで該第1の空気袋42が膨らみ、テンションスプリング44に抗して前記カム部材43がアッパフレーム41に沿う上方に移動する。これにより、カム部材43は、テンションスプリング27に抗してヘッドレスト支持フレーム21の本体部21aを押圧する。そして、ヘッドレスト支持フレーム21は、ヒンジピン22周りに一側方向(図4において反時計回転方向)に回動し、ヘッドレスト31が前方に移動する。これにより、ヘッドレスト31が乗員Mの頭部に接近して、該頭部を後側から支える。
【0060】
このとき、乗員Mの頭部がヘッドレスト31に衝突して、カム部材43等に衝撃が加わっても、該カム部材43は、段差43bで係止片45に係止されることでアッパフレーム41に沿う下方への戻り移動が規制され、ヘッドレスト31の後方への戻り移動が規制される。これにより、ヘッドレスト31による頭部の支持を好適に行うことができる。なお、車両後突が終了すると、ヘッドレスト31を前方に引き出して段差43bにおけるカム部材43の係止片45との係止を解除することで、第1の空気袋42を圧縮しつつ、徐々に元の状態に復帰させることができる。
【0061】
以上詳述したように、本実施形態によれば、前記第1の実施形態における(1)〜(4)の効果に加えて以下に示す効果が得られるようになる。
(1)本実施形態では、前記カム部材43は、段差43bで係止片45に係止されることでアッパフレーム41に沿う下方への戻り移動が規制され、ヘッドレスト31の後方への戻り移動が規制される。これにより、車両後突時において、ヘッドレスト31による頭部の支持を好適に行うことができる。
【0062】
(2)本実施形態では、カム部材43をアッパフレーム41に沿う下方に付勢するテンションスプリング44を設けたことで、該カム部材43の意図しない上方への移動によって前記ヘッドレスト31が誤作動したりすることを抑制できる。
【0063】
(第3の実施形態)
以下、本発明を具体化した第3の実施形態を図面に従って説明する。なお、第3の実施形態は、ヘッドレスト31を支持するヘッドレスト支持フレーム等の構造を変更した構成であるため、前記第1の実施形態と同様の構成については同一の符号を付してその説明を一部省略する。
【0064】
図5は、本実施形態に係る車両用シートの骨格を示す斜視図であり、図6及び図7はその断面図である。図5に示されるように、本実施形態のアッパフレーム51は、板材からなるとともに、平板状に広がる本体部51a及び該本体部51aの幅方向両端部にそれぞれ連続する態様で前方に屈曲形成された一対の支持部51bを有する。そして、このアッパフレーム51は、本体部51aの上端部において、前記アッパパイプ13の本体部13aに接合されている。
【0065】
図6に示されるように、前記各支持部51bの下端部には、上下方向に延びる長孔52が形成されている。この長孔52の長手方向は、上方に向かうに従い後方に移動するように鉛直方向に対し傾斜している。また、前記各支持部51bの上端部には、上下方向に延びるガイド部としての後方規制面53が形成されている。この後方規制面53の下端部は、前記長孔52の長手方向に対しより前方に向かって傾斜する第1規制面53aを形成するとともに、該第1規制面53aに連続する後方規制面53の上端部は、該第1規制面53aに対し更に前方に向かって傾斜する第2規制面53bを形成する。
【0066】
前記アッパフレーム51には、板材からなるヘッドレスト支持フレーム54が移動可能に支持されている。すなわち、このヘッドレスト支持フレーム54は、前記アッパフレーム51(本体部51a)よりも小さい幅を有して平板状に広がる本体部54a及び該本体部54aの幅方向両端部にそれぞれ連続する態様で前方に屈曲形成された一対の支持部54bを有する。そして、ヘッドレスト支持フレーム54は、各長孔52に対応して支持部54bに突設された一対の下側ガイドピン55が該長孔52に挿通されてこれに支持される。また、ヘッドレスト支持フレーム54は、各後方規制面53に対応して支持部54bに突設された一対の上側ガイドピン56が該後方規制面53に当接されてこれに位置決めされる。なお、前記ヘッドレスト支持フレーム54の本体部54aには、前記一対のサポートブラケット23が接合されている。
【0067】
従って、前記ヘッドレスト支持フレーム54は、例えば下側ガイドピン55が長孔52に沿って上方に移動すると、上側ガイドピン56が後方規制面53に案内されることで、下側ガイドピン55を中心に前方に傾くように移動する。そして、ヘッドレスト支持フレーム54のサポートブラケット23(ヘッドレストステー摺動用サポート24)に支持されたヘッドレスト31は、上方に移動しつつ、前方に移動する。
【0068】
なお、図5に示されるように、前記アッパパイプ13の各腕部13bには、その下端部において、車両の幅方向に延びるワイヤ57の各先端部が固着されている。そして、このワイヤ57には、前記各上側ガイドピン56に一端の係止されたテンションスプリング58の他端が係止されている。これにより、前記ヘッドレスト支持フレーム54は、その上端が下側ガイドピン55周りに後方に回動する側、即ち前記上側ガイドピン56が後方規制面53に当接する側に付勢されている。
【0069】
また、図7に示されるように、前記本体部51aの中央部には、上下方向に間隔をおいて複数の係止孔59が形成されるとともに、前記ヘッドレスト支持フレーム54の本体部54aには、前記係止孔59に対向して該係止孔59に嵌入可能な係止片60が固定されている。そして、前記ヘッドレスト支持フレーム54は、前記テンションスプリング58により、前記係止片60が係止孔59に嵌入する側に付勢されている。前記ヘッドレスト支持フレーム54は、例えば下側ガイドピン55が長孔52に沿って上方に移動するときには、前記係止片60の曲成面60aの案内で該係止片60及び係止孔59の係止を解除しつつ移動する。一方、前記ヘッドレスト支持フレーム54は、前記係止片60が係止孔59に嵌入することで、下方への戻り移動が規制される。このように、ヘッドレスト支持フレーム54の戻り移動を規制する係止孔59及び係止片60の係合は、いわゆるラチェット機構を構成する。
【0070】
前記アッパフレーム51の中央部下端には、前記長孔52に平行な軸線を有する円筒状の内部シリンダ61が固着されるとともに、該内部シリンダ61の中心部は貫通する。一方、前記ヘッドレスト支持フレーム54の中央部下端には、前記内部シリンダ61と同軸上に配置されて該内部シリンダ61が気密的に挿入される外部シリンダ62が固着される。これら内部シリンダ61及び外部シリンダ62は、流体作動部材としてのシリンダ63を構成しており、その形成する内部空間Sは、前記チューブ35に連通・接続されている。このシリンダ63は、内部への空気の流入出によって前記長孔52に平行な方向に伸縮可能となっている。
【0071】
次に、本実施形態の動作について総括して説明する。
車両後突時の乗員Mの上半身の後方移動により第2の空気袋34が圧縮され、その内圧が前記第1所定圧以上に達すると、吸気弁36が閉鎖されチューブ35を介してシリンダ63(内部空間S)に空気が流入することで該シリンダ63が伸張し、テンションスプリング58に抗して前記ヘッドレスト支持フレーム54を押圧する。このとき、下側ガイドピン55が前記長孔52に沿って移動するとともに、前記上側ガイドピン56が前記後方規制面53に沿って移動して、前記ヘッドレスト31が上方に移動しつつ、前方に移動する。これにより、ヘッドレスト31が乗員Mの頭部に接近して、該頭部を後側から支える。
【0072】
このとき、乗員Mの頭部がヘッドレスト31に衝突して、ヘッドレスト支持フレーム54等に衝撃が加わっても、該ヘッドレスト支持フレーム54は、係止片60が係止孔59に係止されることで、下方への戻り移動が規制され、ヘッドレスト31の後方への戻り移動が規制される。これにより、ヘッドレスト31による頭部の支持を好適に行うことができる。本実施形態では、係止孔59及び係止片60の係合によって、ヘッドレスト31の後方への戻り移動を規制するため、チューブ35に設けた前述の逆止弁38は割愛されている。
【0073】
なお、車両後突が終了すると、ヘッドレスト支持フレーム54を下側ガイドピン55回りに前方に回動させる態様でヘッドレスト31を前方に引き出して係止片60及び係止孔59の係合を解除することで、シリンダ63を圧縮しつつ、徐々に元の状態に復帰させることができる。ちなみに、ヘッドレスト支持フレーム54(上側ガイドピン56)が初期位置にあるときの上述の解除動作は、後方規制面53の基端に連続してフック状に曲成されたガイド53cにより規制されている(図6参照)。
【0074】
以上詳述したように、本実施形態によれば、前記第1の実施形態における(1)〜(4)の効果に加えて以下に示す効果が得られるようになる。
(1)本実施形態では、前記ヘッドレスト31の移動軌跡を規定する前記ヘッドレスト支持フレーム54の移動は、前記下側ガイドピン55の前記長孔52に沿った移動及び前記上側ガイドピン56の前記後方規制面53に沿った移動によって案内される。このように、ヘッドレスト支持フレーム54の移動を案内することで、前記ヘッドレスト31の前方への移動に伴う該ヘッドレスト31の上方成分の移動量を容易に調整することができる。そして、乗員Mの頭部を後側から支えるうえでより好適な位置となるように、例えば前記ヘッドレスト31の上方成分の移動量を大きく設定することができる。
【0075】
(2)本実施形態では、テンションスプリング58により、前記上側ガイドピン56が後方規制面53に当接する側に前記ヘッドレスト支持フレーム54を付勢したことで、該ヘッドレスト支持フレーム54をより確実に位置決めすることができる。
【0076】
(3)本実施形態では、係止孔59及び係止片60の係合により、ヘッドレスト支持フレーム54の戻り移動を規制することができる。また、これら係止孔59及び係止片60は、前記テンションスプリング58により助勢されることで、より堅固に係合される。これにより、後突時のヘッドレスト31による頭部の支持を好適に行うことができる。一方、これら係止孔59及び係止片60の係合は、前記テンションスプリング58に抗してヘッドレスト支持フレーム54を下側ガイドピン55回りに前方に回動させる態様でヘッドレスト31を前方に引き出すことで容易に解除される。これにより、後突終了後にヘッドレスト31を容易に元の位置に復帰させることができる。
【0077】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・前記第1の実施形態において、ヘッドレスト支持フレーム21の戻り移動を規制するためのラチェット機構を設けてもよい。例えば、図8に示したように、ヒンジピン22の近傍に、ターンオーバー機能を備えたラチェット機構を設けてもよい。
【0078】
詳述すると、前記アッパパイプ13の腕部13bには、ブラケット(図示略)を介してチェックレバー71がヒンジピン72を中心に回動可能に連結されている。このチェックレバー71は、一側方向に延出する取付片71a及び該取付片71aに対し傾斜する他側方向に延出する係止爪71bを有してV字状に成形されている。そして、取付片71aには、腕部13b(ブラケット)に一端の係止されたトーションスプリング73の他端が係止されている。なお、チェックレバー71のヒンジピン72近傍には、突起状のレバー側係合片71cが形成されている。
【0079】
一方、前記ヘッドレスト支持フレーム21には、前記係止爪71bの係合可能な複数の係止溝74が形成されている。そして、係止爪71bがいずれかの係止溝74に係止される状態では、前記チェックレバー71は、トーションスプリング73により、ヒンジピン72周りに時計回転方向に回動する側、即ち係止爪71b及び係止溝74の係止を助勢する側に付勢されている。また、ヘッドレスト支持フレーム21には、前記レバー側係合片71cに対向する突起状の係合片75が形成されている。
【0080】
このような構造において、ヘッドレスト支持フレーム21は、例えばヒンジピン22周りに前方に回動するときには、前記係止溝74の案内で前記係止爪71b及び係止溝74の係止を解除しつつ回動する。一方、前記ヘッドレスト支持フレーム21は、前記係止爪71bが係止溝74に係止されることで、その戻り回動が規制される。
【0081】
また、ヘッドレスト支持フレーム21をヒンジピン22周りに更に前方に回動させると、チェックレバー71は、レバー側係合片71cが係合片75に押圧されることでヒンジピン72周りに反時計回転方向に回動する。このとき、トーションスプリング73の付勢力は、前記チェックレバー71をヒンジピン72周りに反時計回転方向に回動させる側に切り替わる(ターンオーバーする)。これにより、ヘッドレスト支持フレーム21は、係止溝74が係止爪71bから解放されることで、その戻し回動が許容される。
【0082】
そして、車両後突の終了後には、ヘッドレスト支持フレーム21をヒンジピン22周りに更に前方にターンオーバー域まで回動させる態様でヘッドレスト31を前方に引き出して係止溝74を係止爪71bから解放することで、第1の空気袋33を圧縮しつつ、徐々に元の状態に復帰させることができる。なお、車両後突時には、前記ヘッドレスト支持フレーム21は、前記係止爪71bが係止溝74に係止されることで、その戻り回動が規制され、ヘッドレスト31の後方への戻り移動が規制されることはいうまでもない。これにより、ヘッドレスト31による頭部の支持を好適に行うことができる。
【0083】
なお、第1の空気袋33が最大限に膨らんだ場合であっても、ラチェット機構のターンオーバー機能が働くことがないように、第1の空気袋33の膨らみ量を規制する適宜のストッパを設けることが好ましい。
【0084】
・前記第1の実施形態において、逆止弁38は、第1及び第2の空気袋33,34の間であればその配置位置は任意である。
・前記第1の実施形態において、第1の空気袋33は、ヘッドレスト支持フレーム21側(本体部21a側)に固定してもよい。
【0085】
・前記第2の実施形態において、第1の空気袋42及びカム部材43は、ヘッドレスト支持フレーム21側(本体部21a側)に固定してもよい。
・前記第1及び第2の実施形態において、第1の空気袋33,42に代えてシリンダを採用してもよい。
【0086】
・前記第3の実施形態において、後方規制面53は、前記長孔52の長手方向に対しより前方に向かうように曲率をもって成形されていてもよい。また、こうした後方規制面53に代えて、同様の位置決めが可能な長孔を採用してもよい。
【0087】
・前記第3の実施形態において、シリンダ63に代えて、空気袋を採用してもよい。
・前記各実施形態において、第2の空気袋34をシートバックフレーム11の下部(ロアフレーム15)に設けたが、該シートバックフレーム11の中間部に設けてもよい。具体的には、両サイドフレーム12を、それぞれの中間部において、車両の幅方向に延びる適宜のフレームにて連結し、該フレームに第2の空気袋34を設ければよい。
【0088】
次に、上記実施形態及び別例から把握できる技術的思想について以下に追記する。
・請求項3に記載の車両用シートにおいて、
前記カム部材を他側方向に付勢する付勢手段を備えたことを特徴とする車両用シート。この技術的思想によれば、前記付勢手段により、前記カム部材が他側方向に付勢されることで、該カム部材の意図しない一側方向への移動によって前記ヘッドレストが誤作動したりすることを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】本発明の第1の実施形態を示す斜視図。
【図2】(a)(b)は、同実施形態の動作を示す側面図。
【図3】本発明の第2の実施形態を示す斜視図。
【図4】(a)(b)は、同実施形態の動作を示す側面図。
【図5】本発明の第3の実施形態を示す斜視図。
【図6】同実施形態を示す断面図。
【図7】同実施形態を示す断面図。
【図8】本発明の変形形態を示す側面図。
【符号の説明】
【0090】
M…乗員、11…シートバックフレーム、21,54…ヘッドレスト支持フレーム、31…ヘッドレスト、33,42…第1の空気袋(流体作動部材)、34…第2の空気袋(流体袋)、35…チューブ、36…吸気弁、37…オリフィス(排出手段)、38…逆止弁、43…カム部材、43a…ラチェット機構を構成する傾斜面、43b…ラチェット機構を構成する段差、44…テンションスプリング(付勢手段)、45…ラチェット機構を構成する係止片、52…長孔、53…後方規制面(ガイド部)、55…下側ガイドピン、56…上側ガイドピン、59…ラチェット機構を構成する係止孔、60…ラチェット機構を構成する係止片、63…シリンダ(流体作動部材)、71…ラチェット機構を構成するチェックレバー、74ラチェット機構を構成する…係止溝。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘッドレストが前方に移動可能なように、該ヘッドレストを支持するヘッドレスト支持フレームがシートバックフレームに移動可能に支持されてなる車両用シートにおいて、
前記シートバックフレームの上部に配置された流体作動部材と、
前記シートバックフレームの中間部又は下部に設けられ、チューブを介して前記流体作動部材に連通された流体袋とを備え、
車両後突時の乗員の上半身の後方移動により前記流体袋が圧縮され、前記チューブを介して前記流体作動部材に流体が流入することで該流体作動部材が作動し、前記ヘッドレストが前方に移動するように前記ヘッドレスト支持フレームが移動することを特徴とする車両用シート。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用シートにおいて、
前記流体作動部材は、前記シートバックフレームの上部及び前記ヘッドレスト支持フレームのいずれか一方に固定された流体袋からなり、
車両後突時の乗員の上半身の後方移動による流体の流入で前記シートバックフレームの上部及び前記ヘッドレスト支持フレームのいずれか他方を押圧するように前記流体作動部材が膨らんで、前記ヘッドレストが前方に移動するように前記ヘッドレスト支持フレームが移動することを特徴とする車両用シート。
【請求項3】
請求項1に記載の車両用シートにおいて、
前記シートバックフレームの上部及び前記ヘッドレスト支持フレームの間に配置されて前記流体作動部材に当接又は接合され、一側方向に移動することで前記シートバックフレームの上部及び前記ヘッドレスト支持フレームの間の相対距離が増加するようにこれらシートバックフレームの上部及びヘッドレスト支持フレームと係合する楔形のカム部材を備え、
車両後突時の乗員の上半身の後方移動による流体の流入で前記流体作動部材が作動し、前記カム部材が一側方向に移動して、前記ヘッドレストが前方に移動するように前記ヘッドレスト支持フレームが移動することを特徴とする車両用シート。
【請求項4】
請求項1に記載の車両用シートにおいて、
前記流体作動部材は、前記シートバックフレームの上部及び前記ヘッドレスト支持フレームの間に配置され、
前記ヘッドレスト支持フレームに設けられた下側ガイドピン及び上側ガイドピンと、
前記シートバックフレームの上部に設けられ、前記下側ガイドピンが挿通されて前記ヘッドレスト支持フレームを支持する長孔と、
前記シートバックフレームの上部に設けられ、前記上側ガイドピンが当接されて前記ヘッドレスト支持フレームを位置決めするガイド部とを備え、
車両後突時の乗員の上半身の後方移動による流体の流入で前記流体作動部材が作動し、前記下側ガイドピンが前記長孔に沿って移動するとともに、前記上側ガイドピンが前記ガイド部に沿って移動して、前記ヘッドレストが前方に移動するように前記ヘッドレスト支持フレームが移動することを特徴とする車両用シート。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の車両用シートにおいて、
前記ヘッドレストが後方に移動する前記ヘッドレスト支持フレームの戻り移動を規制するラチェット機構を備えたことを特徴とする車両用シート。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の車両用シートにおいて、
前記流体は空気であることを特徴とする車両用シート。
【請求項7】
請求項6に記載の車両用シートにおいて、
前記流体袋は、該流体袋の内圧が第1所定圧以上に達することで閉鎖される吸気弁を備えたことを特徴とする車両用シート。
【請求項8】
請求項7に記載の車両用シートにおいて、
前記流体袋は、該流体袋の内圧が前記第1所定圧よりも大きい第2所定圧以上に達することで内部の流体を排出する排出手段を備えたことを特徴とする車両用シート。
【請求項9】
請求項6〜8のいずれか一項に記載の車両用シートにおいて、
前記流体袋及び前記流体作動部材の間に、前記流体作動部材の内圧が所定圧以上に達することで該流体作動部材から前記流体袋への流体の流れを止める逆止弁を設けたことを特徴とする車両用シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−74265(P2008−74265A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−256170(P2006−256170)
【出願日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】