説明

車両用スタビライザブッシュ

【課題】 異音の発生防止性能や乗り心地性能が、更に一層効果的に改善され得てなるスタビライザブッシュを提供する。
【解決手段】 自己潤滑ゴムにて形成された筒状ゴム弾性体18の内周面の全面に、軸方向に連続して延びる複数の第一の突条28を、軸方向に連続して延びるように形成すると共に、複数の第二の突条30を、該複数の第一の突条28のそれぞれに交差して連続的に延びるように形成して、それら第一の突条28と第二の突条30とにて周囲が囲まれてなる凹所32を、該筒状ゴム弾性体18の内周面に多数形成し、更に、所定の潤滑剤34を、該多数の凹所32内に収容した状態で、該筒状ゴム弾性体18の内周面に存在せしめて、構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用スタビライザブッシュに係り、特に、内孔内にスタビライザバーが挿通されて、かかるスタビライザバーを車両のボデーに弾性支持せしめる車両用スタビライザブッシュの改良された構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両において、操縦安定性や乗り心地等を向上させるために用いられているスタビライザブッシュは、公知の如く、車両左右両側のサスペンションアームを連結するスタビライザバーの中間部位と車両のボデーとの間に介挿されて、スタビライザバーを車両のボデーに弾性支持せしめるものであって、通常、軸方向に延びる内孔が設けられた筒状ゴム弾性体にて構成され、その内孔内にスタビライザバーが挿通される一方、その外周面が適当な取付金具によってボデーに取り付けられるようになっている。
【0003】
ところで、かかるスタビライザブッシュにあっては、良く知られているように、内孔内へのスタビライザバーの挿通状態下で、スタビライザバーの捩り(軸心回りの回動)が生ぜしめられた際に、内孔の内周面とスタビライザバーの外周面との間に発生する捩りフリクションが大きいと、異音が生ずるばかりでなく、乗り心地性能も悪化するといった不具合が惹起される。
【0004】
そのため、従来から、そのようなスタビライザブッシュにおいて、スタビライザバーとの間で生ずる捩りフリクションの低減を図るための構造が、種々提案されている。例えば、下記特許文献1及び2等には、スタビライザブッシュを構成する筒状ゴム弾性体を自己潤滑ゴムにて形成することで、筒状ゴム弾性体の摩擦係数を低下せしめ、以て、スタビライザバーとの間の捩りフリクションを低減するようにした構造が明らかにされている。
【0005】
また、下記特許文献3には、筒状ゴム弾性体の内周面に、グリースが充填された多数の小穴を設けて、スタビライザバーの捩りによる回動に伴って、スタビライザバーの外周面と筒状ゴム弾性体の内周面との間に、各小穴内からグリースが供給されて、グリースの膜が形成されるように為し、それによって、それらスタビライザバーの筒状ゴム弾性体に対する摺動抵抗を低下させ、以て、それらスタビライザバーと筒状ゴム弾性体との間の捩りフリクションを低減するようにした構造が、開示されている。更に、そこでは、グリースが、筒状ゴム弾性体の内周面に設けられた多数の小穴内に収容されているため、スタビライザバーが繰り返し回動せしめられても、グリースが、スタビライザバーと筒状ゴム弾性体との間から外部に漏れ出すようなことが可及的に防止され、その結果として、捩りフリクションの低減効果が安定的に維持され得るとされている。
【0006】
ところが、本発明者等の研究によれば、車両の乗り心地性能等の更なる改善を図るためには、スタビライザブッシュにおける捩りフリクションをより低下させると共に、かかる捩りフリクションの低減効果をより長期に亘って安定的に維持せしめる必要があることが判明したのであり、また、単に、自己潤滑ゴムにて筒状ゴム弾性体を形成したり、或いは筒状ゴム弾性体の内周面に、グリースが充填された小穴を多数設けるだけでは、所望の乗り心地性能を得るのに十分な捩りフリクションの低減幅を確保することが困難であるとの結論を得たのである。
【0007】
【特許文献1】特開平8−270728号公報
【特許文献2】特開平10−60179号公報
【特許文献3】実開平6−67118号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここにおいて、本発明は、上述せる如き事情を背景にして為されたものであって、その解決課題とするところは、スタビライザバーとの間に生ずる捩りフリクションがより十分に低減されると共に、かかる捩りフリクションの低減効果がより長期に亘って安定的に維持され得、以て、異音の発生防止性能や乗り心地性能が、更に一層効果的に改善され得るようにしたスタビライザブッシュの改良された構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そして、本発明者は、前記せる課題を解決するために鋭意研究した結果、単に、筒状ゴム弾性体を自己潤滑ゴムにて形成するだけでなく、かかる筒状ゴム弾性体の内周面に、複数の突条を特別な形態において設けた上で、そのような内周面に潤滑剤を存在せしめることにより、前記課題を解決出来ることを見出した。そして、そのような筒状ゴム弾性体の内周面に設けた複数の突条の形状や大きさ等を更に特定することにより、本発明を完成するに至ったのである。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の発明から構成される。
(1)軸方向に延びる内孔が設けられた筒状ゴム弾性体を有し、該筒状ゴム弾性体の内孔内にスタビライザバーが挿通される一方、該筒状ゴム弾性体の外周面において車両のボデーに取り付けられることにより、該スタビライザバーを該ボデーに弾性支持せしめる車両用スタビライザブッシュにおいて、前記筒状ゴム弾性体を自己潤滑ゴムにて形成する一方、かかる筒状ゴム弾性体の内周面の全面に、軸方向に連続して延びる複数の第一の突条と、該複数の第一の突条のそれぞれに交差して連続的に延びる複数の第二の突条とを一体的に設けて、該第一の突条と該第二の突条とにて周囲が囲まれてなる凹所を多数形成し、更に、該多数の凹所に所定の潤滑剤を収容した状態で、該複数の第一の突条と該複数の第二の突条のそれぞれの表面を含む前記筒状ゴム弾性体の内周面に、該潤滑剤を存在せしめたことを特徴とする車両用スタビライザブッシュ。
(2)前記複数の第一の突条のうちの互いに隣り合うもの同士が、該第一の突条が形成されていない前記筒状ゴム弾性体の内周面部分を間に挟んで位置せしめられる一方、前記複数の第二の突条のうちの互いに隣り合うもの同士が、該第二の突条が形成されていない該筒状ゴム弾性体の内周面部分を間に挟んで位置せしめられて、前記凹所が、互いに交差する該第一の突条の側面及び該第二の突条の側面と、それらの側面の間に位置する該筒状ゴム弾性体の内周面部分とにて構成された内面を有して、形成されている上記(1)に記載の車両用スタビライザブッシュ。
(3)前記複数の第一の突条と前記複数の第二の突条のそれぞれが、0.1〜1.0mmの範囲内の高さと0.5〜2.0mmの範囲内のピッチとを有している上記(2)に記載の車両用スタビライザブッシュ。
(4)前記複数の第一の突条と前記複数の第二の突条のそれぞれが、延出方向に対して直角な断面形状において、前記筒状ゴム弾性体の内周面側を底辺とした三角形形状とされると共に、該複数の第一の突条のうちの互いに隣り合うもの同士が、該第一の突条が形成されていない内周面部分を間に挟むことなく連続的に位置せしめられる一方、該複数の第二の突条のうちの互いに隣り合うもの同士が、該第二の突条が形成されていない内周面部分を間に挟むことなく連続的に位置せしめられて、前記凹所が、互いに交差する該第一の突条の側面と該第二の突条の側面とにて構成された断面V字形状を呈する内面を有して、形成されている上記(1)に記載の車両用スタビライザブッシュ。
(5)前記複数の第一の突条と前記複数の第二の突条のそれぞれが、0.4〜1.0mmの範囲内の高さと0.5〜2.0mmの範囲内のピッチとを有している上記(4)に記載の車両用スタビライザブッシュ。
(6)前記複数の第一の突条が、前記筒状ゴム弾性体の内周面の全面に、螺旋状形態をもって、軸方向に連続して延びるように設けられている上記(1)〜(5)のうちの何れか一つに記載の車両用スタビライザブッシュ。
【発明の効果】
【0011】
すなわち、本発明に従う車両用スタビライザブッシュにあっては、筒状ゴム弾性体の内周面の全面に、軸方向に連続して延びる複数の第一の突条と、それに交差して連続的に延びる複数の第二の突条とが、それぞれ形成されていることにより、かかる内周面の表面積が有利に大きくされた状態で、そのような内周面に、潤滑剤が存在せしめられている。そのため、内周面に存在する潤滑剤の量が、例えば、単に、内周面に多数設けられた小穴にグリース等の潤滑剤を充填せしめる場合よりも十分に多くされて、筒状ゴム弾性体の内孔内に挿入されるスタビライザバーの外周面と筒状ゴム弾性体の内周面との間に、より多くの潤滑剤が層状を呈して介在せしめられ、それによって、スタビライザバーの筒状ゴム弾性体に対する摺動抵抗が、更に一層確実に且つ安定的に低下せしめられ得る。また、筒状ゴム弾性体が自己潤滑ゴムにて形成されていることによって、かかる筒状ゴム弾性体の摩擦係数の低下も、有利に図られ得る。
【0012】
それ故、かかる車両用スタビライザブッシュにおいては、筒状ゴム弾性体の内孔内に挿通されたスタビライザバーの捩りによる回動が生ぜしめられた際に、それら筒状ゴム弾性体とスタビライザバーとの間に発生する捩りフリクションが、より十分な量において確実に低減され得る。
【0013】
しかも、本発明に係る車両用スタビライザブッシュにおいては、筒状ゴム弾性体の内周面に、第一の突条と第二の突条とにて周囲が囲まれてなる凹所が多数形成されると共に、それら多数の凹所内に、筒状ゴム弾性体の内周面に存在せしめられた潤滑剤の一部が収容されているところから、そのような多数の凹所が、潤滑剤の貯留部として確実に機能せしめられて、筒状ゴム弾性体の内周面での潤滑剤の保持性が有利に高められ、それによって、筒状ゴム弾性体の内周面とスタビライザバーの外周面との間に介在せしめられた潤滑剤が、スタビライザバーの捩りによる回動に伴って、筒状ゴム弾性体とスタビライザバーとの間から外部に漏れ出すようなことが効果的に防止され得る。そして、その結果として、前述せる如き筒状ゴム弾性体の内周面における潤滑剤の存在により得られる、筒状ゴム弾性体とスタビライザバーとの間に生ずる捩りフリクションの低減効果が、より長期に亘って安定的に維持され得る。
【0014】
従って、かくの如き本発明に従う車両用スタビライザブッシュにあっては、異音の発生防止性能や乗り心地性能が、更に一層効果的に改善され得ることとなるのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の一実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
【0016】
先ず、図1には、本発明に従う車両用スタビライザブッシュの一実施形態としての自動車用スタビライザブッシュが、自動車に取り付けられた状態下における軸直角方向断面形態において、概略的に示されている。かかる図1から明らかなように、スタビライザブッシュ10は、自動車のスタビライザバー12に装着されて、かかるスタビライザバー12を自動車のボデー14に対して弾性的支持せしめるものであって、軸方向に延びる内孔16が設けられた、筒形状を呈する、筒状ゴム弾性体としての本体ゴム弾性体18を有して、構成されている。
【0017】
より詳細には、この本体ゴム弾性体18は、図2及び図3に示されるように、軸直角方向断面において、外周の下側略1/2周部分が円弧形状とされる一方、外周の残りの上側略1/2周部分が、略コ字形状とされた逆鞍型乃至は逆蒲鉾状の外周形状を有している。そして、本体ゴム弾性体18の上面には、所定高さ突出し、且つ軸方向に連続して延びる山形突部19が、一体形成されている。また、本体ゴム弾性体18の軸方向両側の端部において、その上面を除く外周面には、略U字形の平板形態を呈する外フランジ部20,20が、それぞれ、一体的に周設されている。更に、本体ゴム弾性体18の軸方向中間部において、その上面を除く外周面には、軸方向両側端部のそれぞれにおける外フランジ部20が形成されていない部位よりも一段高くされた段部22が設けられ、また、この段部22の軸方向中央には、断面略半円形状をもって突出し、且つ周方向に連続して延びる係合突部24が、一体的に形成されている。
【0018】
さらに、この本体ゴム弾性体18にあっては、その周上の一個所に、内孔16に達する切割り部26が、全長に亘って延びるように設けられている。これにより、図2に二点鎖線で示される如く、切割り部26とは反対側部分を中心として、内孔16を側方に向かって拡開するように回動可能とされている。
【0019】
そして、ここでは、特に、このような本体ゴム弾性体18が、自己潤滑ゴムにて形成されている。この自己潤滑ゴムは、公知の如く、所定のゴム母材に潤滑剤が含有せしめられてなるもので、かかる潤滑剤がゴム表面に漸次滲出せしめられることにより、自己潤滑性が永続的に確保され得るように構成されたものである。即ち、本実施形態のスタビライザブッシュ10にあっては、本体ゴム弾性体18が、かくの如き自己潤滑ゴムにて構成されていることにより、内孔16の内周面に、ゴム内部から潤滑剤が漸次滲出せしめられて、かかる内周面の摩擦係数が、有利に低下せしめられるようになっているのである。
【0020】
なお、そのような自己潤滑ゴムとしては、従来より公知のものが、何れも採用され得る。例えば、特開昭63−179942号公報に開示される如く、NR、BR、IR、SBR、CR、NBR、EPDM、IIR、或いはこれらのブレンドポリマ等、従来から防振ゴムとして一般に使用されるゴム材料(母材ゴム)に、潤滑剤として、シリコーンオイルが含有せしめられたものや、特開平1−255719号公報に記載される如く、熱硬化型ポリウレタンエラストマにシリコーンオイルが含有せしめられたもの、或いは特開平8−270728号公報に明らかにされるような前記公知のゴム材料に、不飽和脂肪酸アミドが含有せしめられてなるもの、更には特開平10−60179号公報に開示される如く、前記公知のゴム材料に、ポリエチレングリコール型界面活性剤が含有せしめてられてなるもの等が、適宜に使用されるのである。
【0021】
また、本実施形態においては、上記の如き自己潤滑ゴムからなる本体ゴム弾性体18の内孔16の内周面の全面に、複数の第一の突条28と複数の第二の突条30とが、互いに交差して、軸方向に連続的に延びるように一体形成されている。
【0022】
すなわち、本体ゴム弾性体18の内周面の一部を展開して示す図4と、その断面における端面形態を示す図5とから明らかなように、ここでは、複数の第一の突条28が、本体ゴム弾性体18の周方向に一定の距離を隔てて位置する状態で、互いに平行に、且つ本体ゴム弾性体18の軸方向に螺旋状に連続して延びるように形成されている。つまり、複数の第一の突条28が、周方向に隣り合い、且つ互いに隣り合うもの同士の間に、第一の突条28が形成されていない内周面部分を挟んで位置するように設けられているのである。また、それら各第一の突条28は、その延出方向に対して直角な断面が略U字形状とされている。
【0023】
また、第二の突条30も、第一の突条28と同様に、複数のものが、本体ゴム弾性体18の周方向に一定の間隔をおいて、つまり周方向に隣り合うもの同士の間に、第一の突条28が形成されていない内周面部分を挟んで位置するようにして、互いに平行に、且つ本体ゴム弾性体18の軸方向に螺旋状に連続して延びるように形成されている。そして、かかる第二の突条30は、螺旋状に延びる方向が、本体ゴム弾性体18の中心軸に関して、第一の突条28の延出方向と対称な方向とされており、それによって、第一の突条28に交差して延びる形態とされているのである。また、図示されてはいないものの、この第二の突条30も、延出方向に対して直角な断面が、第一の突条28の断面形状と同じ略U字形状とされている。
【0024】
そして、本体ゴム弾性体18の内周面には、複数の第一の突条28と複数の第二の突条30とが互いに交差して形成されていることによって、それら第一の突条28と第二の突条30とにて周囲が囲まれてなる凹所32が、多数形成されている。即ち、かかる凹所32は、互いに交差する第一の突条28と第二の突条30のそれぞれの側面と、それらの側面の間に位置するゴム弾性体18の内周面部分とにて構成された内面を有する、平面視菱形形状を有して、構成されている。そして、ゴム弾性体18の内周面上において、菱形形状の相互に対向する角部(第一の突条28と第二の突条30との交差部分)を本体ゴム弾性体18の周方向と軸方向とにそれぞれ隣り合うように位置せしめた状態で、第一の突条28と第二の突条30の各延出方向に沿って螺旋状に並べられるように配置されているのである。
【0025】
なお、このような複数の第一の突条28と複数の第二の突条30とが内周面に設けられた本体ゴム弾性体18は、その製造工程において、第一及び第二の突条28,30に対応する凹溝が外周面に設けられてなる中子が収容された金型を用いて加硫成形操作を行うこと等により、容易に得られることとなる。
【0026】
また、かくの如き構成とされた本体ゴム弾性体18の内周面上には、潤滑剤34が存在せしめられている。この潤滑剤34は、その種類が特に限定されるものではなく、例えば、シリコーングリースやフッ素グリース、或いはモリブデン粒子等の潤滑性を有する微粒子乃至は粉末が含有せしめられたドライコート膜等が、適宜に使用される。
【0027】
そして、このような潤滑剤34が、本体ゴム弾性体18の内周面に設けられた多数の凹所32内に所定深さで収容せしめられ、且つ複数の第一の突条28と複数の第二の突条30のそれぞれにおける全表面を被覆するように、例えば、塗布されたり、コーティングされたりして、本体ゴム弾性体18の内周面の全面に、層状乃至は膜状形態をもって存在せしめられているのである。
【0028】
かくして、本実施形態では、本体ゴム弾性体18の内周面の全面に、複数の第一の突条28と複数の第二の突条30とが一体形成されていることで、内周面が平滑な円筒面とされる場合に比して、内周面の表面積が十分に大きくされている。そして、そのような表面積が大きな内周面の全面に潤滑剤34が存在せしめられているため、かかる内周面に存在する潤滑剤34の量も、有利に多くされている。また、本体ゴム弾性体18の内周面に多数の凹所32が設けられて、それら各凹所32内に潤滑剤34が収容されていることによって、それらの凹所32が、潤滑剤34の貯留部として有利に機能して、潤滑剤34の保持性が効果的に高められるようになっている。
【0029】
なお、かくの如き優れた特徴を確保するためには、第一の突条28と第二の突条30のそれぞれの高さ(図5において、h1 にて示される寸法)が0.1〜1.0mmの範囲内の大きさとされ、且つそれぞれのピッチ(図5において、P1 にて示される寸法)が0.5〜2.0mmの範囲内の値とされていることが、望ましい。
【0030】
何故なら、各突条28,30の高さ:h1 が0.1mmを下回る場合には、余りに低過ぎるため、各突条28,30の成形が困難となるだけでなく、凹所32の深さが過小となって、内部に収容される潤滑剤34の量が極端に少なくなってしまう。そして、そうなると、潤滑剤34の貯留部としての機能を十分に果たし得なくなり、その結果、本体ゴム弾性体18の内周面における潤滑剤34の保持性が不十分なものとなってしまうからである。また、各突条28,30の高さ:h1 が1.0mmを越える高い高さとなると、後述する如く、内孔16内に挿通されるスタビライザバー12が捩りにより回動せしめられた際に、各突条28,30の摩耗がより顕著となるばかりでなく、例えば、本体ゴム弾性体18の内周面に、潤滑剤34を塗布して、存在せしめるように為す場合において、各突条28,30の側面に、潤滑剤34の塗り残しが生ずる恐れがあるからである。
【0031】
一方、各突条28,30のピッチ:P1 が0.5mmを下回る場合には、各凹所32が小さくなり、そのため、各突条28,30の高さ:h1 が0.1mmを下回る場合と同様に、各凹所32内に収容される潤滑剤34の量が極端に少なくなってしまう。そして、その結果、本体ゴム弾性体18の内周面における潤滑剤34の保持性が不十分なものとなるといった不具合が生ずる。また、各突条28,30のピッチ:P1 が2.0mmを越える場合には、内周面に形成される第一及び第二の突条28,30の数が過少となり、それらの突条28,30の形成によって得られる内周面の表面積の増大に伴う潤滑剤34量の増大効果が、十分に得られなくなるといった問題が惹起される。
【0032】
而して、図1に示されるように、かくの如き構造とされた本体ゴム弾性体18が、その内孔16内に、スタビライザバー12を挿通せしめた状態で、ブラケット36に組み付けられ、そして、かかるブラケット36を介して、自動車のボデー14に取り付けられている。これによって、スタビライザバー12が、スタビライザブッシュ10を介して、ボデー14に対して防振支持せしめられるようになっているのである。
【0033】
なお、ここでは、本体ゴム弾性体18が、図2に二点鎖線で示されるように、切割り部26とは反対側部分を中心として、内孔16を側方に向かって拡開するように回動せしめられることにより、スタビライザバー12が、内孔16内に容易に挿通され得るようになっている。また、かかる本体ゴム弾性体18がブラケット36を介してボデー14に取り付けられた状態下で、本体ゴム弾性体18の軸方向両側端部にそれぞれ設けられた外フランジ部20が、互いの対向面において、ブラケット36の軸方向両側端面にそれぞれ当接して、係合せしめられていると共に、本体ゴム弾性体18の上面に設けられた山形突部19と、軸方向中間部に設けられた段部22とが、ボデー14表面とブラケット36の内側面との間にて圧縮せしめられ(潰され)、更に、係合突部24が、ブラケット36に設けられた係合凹所38内に嵌入されている。これによって、本体ゴム弾性体18のブラケット36からの軸方向への抜け出しが防止されるようになっている。
【0034】
このように、本実施形態のスタビライザブッシュ10にあっては、本体ゴム弾性体18が自己潤滑ゴムにて形成されていることで、本体ゴム弾性体18の摩擦係数が十分に低くされており、また、そのような本体ゴム弾性体18の内周面に、より多くの潤滑剤34が存在せしめられた状態において、かかる本体ゴム弾性体18の内孔16内にスタビライザバー12が挿通されているため、スタビライザバー12の本体ゴム弾性体18に対する摺動抵抗が、極めて効果的に低減せしめられている。そして、それに加えて、本体ゴム弾性体18の内周面に潤滑剤34の貯留部として機能する多数の凹所32が設けられて、潤滑剤34の保持性が有利に高められているところから、スタビライザバー12の外周面と本体ゴム弾性体18の内周面との間に介在せしめられた潤滑剤34が、それらスタビライザバー12と本体ゴム弾性体18との摺動に伴って外部に漏出することが防止され、それによって、スタビライザバー12の本体ゴム弾性体18に対する摺動抵抗の低減効果が、より長期に亘って安定的に維持せしめられ得る。
【0035】
それ故、このようなスタビライザブッシュ10においては、スタビライザバー12が捩れて、本体ゴム弾性体18に対して回動せしめられた際に、それらスタビライザバー12と本体ゴム弾性体18との間に発生する捩りフリクションが、より十分な量において確実に低減され得るのであり、しかも、そのような捩りフリクションの低減効果が、より長期に亘って安定的に維持され得る。
【0036】
従って、かくの如き本実施形態のスタビライザブッシュ10にあっては、異音の発生防止性能や乗り心地性能が、更に一層効果的に改善され得ることとなるのである。
【0037】
また、かかるスタビライザブッシュ10では、本体ゴム弾性体18の内周面に設けられた複数の第一の突条28と複数の第二の突条30とが、それぞれ互いに隣り合うもの同士の間に、それら第一の突条28や第二の突条30が形成されていない内周面部分を挟んで位置せしめられることで、かかる内周面に、潤滑剤34の貯留部として機能する多数の凹所32が、互いに交差する第一の突条28と第二の突条30のそれぞれの側面と、それらの側面の間に位置するゴム弾性体18の内周面部分とにて構成された内面を有して、十分に大きな容積をもって形成されている。それ故に、各凹所32の潤滑剤34の収容量も有利に増大せしめられ、以て、スタビライザバー12と本体ゴム弾性体18との間に生ずる捩りフリクションが更に十分に低減せしめられると共に、それによって得られる効果が、より長期的に維持せしめられ得るのである。
【0038】
さらに、本実施形態のスタビライザブッシュ10においては、多数の凹所32が、ゴム弾性体18の内周面上において、菱形形状の相互に対向する角部を本体ゴム弾性体18の周方向と軸方向とにそれぞれ隣り合うように位置せしめた状態で、第一の突条28と第二の突条30の各延出方向に沿って螺旋状に並べられるように配置されているため、スタビライザバー12が本体ゴム弾性体18に対して回動せしめられた際に、各凹所32内の潤滑剤34が、例えば、各突条28,30の側面に沿って凹所32の角部に集められ、そして、その角部を乗り越えて、隣り合う別の凹所32に侵入せしめられるようにして、潤滑剤34の良好な流動状態が実現され、それによって、スタビライザバー12と本体ゴム弾性体18との間に生ずる捩りフリクションが更に一層十分に低減せしめられ得るといった効果も、期待され得る。
【0039】
また、かかるスタビライザブッシュ10においては、第一及び第二の突条28,30が、本体ゴム弾性体18の内周面に対して、軸方向に螺旋状に延びるように形成されていることにより、例えば、それらの突条28,30が軸方向に平行に延びるように設けられる場合に比して、本体ゴム弾性体18の製造に使用される、第一及び第二の突条28,30を成形する成形面を備えた金型の製造が容易となり、以て、本体ゴム弾性体18、ひいてはスタビライザブッシュ10の製作性の向上が実現され得るといった利点もある。
【0040】
以上、本発明の具体的な構成について詳述してきたが、これはあくまでも例示に過ぎないのであって、本発明は、上記の記載によって、何等の制約を受けるものではない。
【0041】
例えば、第一の突条28と第二の突条30の形成形態は、前記実施形態に示されるものに、何等限定されるものではない。即ち、例えば、例えば、図6に示されるように、本体ゴム弾性体18の内周面に対して、複数の第一の突条28を、軸方向に平行に連続して延びるように形成する一方、複数の第二の突条30を、それら複数の第一の突条28に交差するように、周方向に平行に連続して延びるように形成しても良い。なお、図6及び後述する図7においては、図1乃至図5に示された前記実施形態と同様な構成とされた部材や部位について、同一の符号を付すことにより、その詳細な説明は省略した。
【0042】
また、勿論、それら第一の突条28と第二の突条30のうちの一方を、軸方向に螺旋状に連続して延びるように形成する一方、それらのうちの他方を、上記の如く、軸方向に平行に又は周方向に平行に連続して延びるように形成することも可能である。
【0043】
さらに、第一及び第二の突条28,30の形状も、例示のものに、特に限定されるものではなく、例えば、延出方向に直角な断面形状が、半円形状や多角形状、不定形状とされていても、何等差し支えない。
【0044】
そして、図7に示されるように、複数の第一の突条28と複数の第二の突条30のそれぞれを、延出方向に直角な断面形状において、本体ゴム弾性体18の内周面側を底辺とした三角形形状とする。そして、それと共に、複数の第一の突条28のうちの互いに隣り合うもの同士が、第一の突条28が形成されていない本体ゴム弾性体18の内周面部分を間に挟むことなく連続的に位置せしめられるように、各第一の突条28を本体ゴム弾性体18の内周面に一体形成する。また、その一方で、複数の第二の突条30のうちの互いに隣り合うもの同士が、第二の突条30が形成されていない本体ゴム弾性体18の内周面部分を間に挟むことなく連続的に位置せしめられるように、各第二の突条30を本体ゴム弾性体18の内周面に一体形成する。そして、それにより、多数の凹所32を、互いに交差する第一の突条28の側面と第二の突条30の側面とにて構成された断面V字形状を呈する内面を有するように形成しても良い。なお、図7においては、本体ゴム弾性体18の内周面に存在せしめられる潤滑剤34が、便宜上、省略されていることが理解されるべきである。
【0045】
このような構造によれば、第一の突条28と第二の突条30とが、凹所32の大きさを可及的に大なる大きさにおいて確保した状態で、本体ゴム弾性体18の内周面に、より多くの個数をもって形成され得る。これより、本体ゴム弾性体18の内周面の表面積が、より大きく為され得て、かかる内周面上に存在せしめられるべき潤滑剤34の量が、更に有利に増大せしめられ得る。そして、その結果として、スタビライザバー12と本体ゴム弾性体18との間に発生する捩りフリクションが、より確実に低減され得、それが、スタビライザブッシュ10が装着される自動車における異音の発生防止性能や乗り心地性能の改善に大きく寄与し得ることとなる。
【0046】
なお、このような優れた特徴を確保するためには、断面三角形形状とされた第一の突条28と第二の突条30のそれぞれの高さ(図7において、h2 にて示される寸法)が0.4〜1.0mmの範囲内の値とされ、且つ第一及び第二突条28,30のそれぞれのピッチ(図7において、P2 にて示される寸法)が0.5〜2.0mmの範囲内の値とされていることが、望ましい。
【0047】
何故なら、各突条28,30の高さ:h2 が0.4mmを下回る場合には、余りに低過ぎるため、断面V字状の内面を有する凹所32の容積が過小となって、凹所32が、潤滑剤34の貯留部としての機能を十分に果たし得なくなり、その結果、本体ゴム弾性体18の内周面における潤滑剤34の保持性が不十分なものとなってしまうからである。また、各突条28,30の高さ:h2 が1.0mmを越える高い高さとなると、スタビライザバー12の回動により、各突条28,30の摩耗がより顕著となるばかりでなく、例えば、本体ゴム弾性体18の内周面に、潤滑剤34を塗布して、存在せしめるように為す場合において、各突条28,30の側面に、潤滑剤34の塗り残しが生ずる恐れがあるからである。
【0048】
また、各突条28,30のピッチ:P2 の好適範囲が0.5〜2.0mmとされる理由は、前記第一の実施形態において、断面U字形状を有する第一の突条28と第二の突条30のピッチ:P1 の好適範囲を0.5〜2.0mmとした理由と同じである。
【0049】
加えて、本発明は、自動車用スタビライザブッシュの他、自動車以外の車両のスタビライザブッシュの何れに対しても、同様に適用可能であることは、勿論である。
【0050】
その他、一々列挙はしないが、本発明は、当業者の知識に基づいて種々なる変更、修正、改良等を加えた態様において実施され得るものであり、また、そのような実施態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限り、何れも、本発明の範囲内に含まれるものであることは、言うまでもないところである。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明に従うスタビライザブッシュの一実施形態を、スタビライザバーへの装着及び車両のボデーへの取付状態において示す軸直角方向断面説明図である。
【図2】図1に示されたスタビライザブッシュの筒状ゴム弾性体を示す正面説明図である。
【図3】図2におけるIII−III断面説明図である。
【図4】図2に示された筒状ゴム弾性体の内周面を展開した状態において示す部分拡大断面説明図である。
【図5】図4のV−V断面における端面説明図である。
【図6】本発明に従うスタビライザブッシュの別の例を示す図4に対応する図である。
【図7】本発明に従うスタビライザブッシュの更に別の例における筒状ゴム弾性体の内周面を展開した状態において示す部分拡大斜視説明図である。
【符号の説明】
【0052】
10 スタビライザブッシュ 12 スタビライザバー
14 ボデー 16 内孔
18 本体ゴム弾性体 28 第一の突条
30 第二の突条 32 凹所
34 潤滑剤



【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に延びる内孔が設けられた筒状ゴム弾性体を有し、該筒状ゴム弾性体の内孔内にスタビライザバーが挿通される一方、該筒状ゴム弾性体の外周面において車両のボデーに取り付けられることにより、該スタビライザバーを該ボデーに弾性支持せしめる車両用スタビライザブッシュにおいて、
前記筒状ゴム弾性体を自己潤滑ゴムにて形成する一方、かかる筒状ゴム弾性体の内周面の全面に、軸方向に連続して延びる複数の第一の突条と、該複数の第一の突条のそれぞれに交差して連続的に延びる複数の第二の突条とを一体的に設けて、該第一の突条と該第二の突条とにて周囲が囲まれてなる凹所を多数形成し、更に、該多数の凹所に所定の潤滑剤を収容した状態で、該複数の第一の突条と該複数の第二の突条のそれぞれの表面を含む前記筒状ゴム弾性体の内周面に、該潤滑剤を存在せしめたことを特徴とする車両用スタビライザブッシュ。
【請求項2】
前記複数の第一の突条のうちの互いに隣り合うもの同士が、該第一の突条が形成されていない前記筒状ゴム弾性体の内周面部分を間に挟んで位置せしめられる一方、前記複数の第二の突条のうちの互いに隣り合うもの同士が、該第二の突条が形成されていない該筒状ゴム弾性体の内周面部分を間に挟んで位置せしめられて、前記凹所が、互いに交差する該第一の突条の側面及び該第二の突条の側面と、それらの側面の間に位置する該筒状ゴム弾性体の内周面部分とにて構成された内面を有して、形成されている請求項1に記載の車両用スタビライザブッシュ。
【請求項3】
前記複数の第一の突条と前記複数の第二の突条のそれぞれが、0.1〜1.0mmの範囲内の高さと0.5〜2.0mmの範囲内のピッチとを有している請求項2に記載の車両用スタビライザブッシュ。
【請求項4】
前記複数の第一の突条と前記複数の第二の突条のそれぞれが、延出方向に対して直角な断面形状において、前記筒状ゴム弾性体の内周面側を底辺とした三角形形状とされると共に、該複数の第一の突条のうちの互いに隣り合うもの同士が、該第一の突条が形成されていない内周面部分を間に挟むことなく連続的に位置せしめられる一方、該複数の第二の突条のうちの互いに隣り合うもの同士が、該第二の突条が形成されていない内周面部分を間に挟むことなく連続的に位置せしめられて、前記凹所が、互いに交差する該第一の突条の側面と該第二の突条の側面とにて構成された断面V字形状を呈する内面を有して、形成されている請求項1に記載の車両用スタビライザブッシュ。
【請求項5】
前記複数の第一の突条と前記複数の第二の突条のそれぞれが、0.4〜1.0mmの範囲内の高さと0.5〜2.0mmの範囲内のピッチとを有している請求項4に記載の車両用スタビライザブッシュ。
【請求項6】
前記複数の第一の突条が、前記筒状ゴム弾性体の内周面の全面に、螺旋状形態をもって、軸方向に連続して延びるように設けられている請求項1乃至請求項5のうちの何れか1項に記載の車両用スタビライザブッシュ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−273181(P2006−273181A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−97010(P2005−97010)
【出願日】平成17年3月30日(2005.3.30)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】