説明

車両用チェッカ付きドアヒンジ装置

【課題】雄ブラケットをシリンダブロックの配置に干渉されることなく配置し得るようにして,コンパクトな車両用チェッカ付きドアヒンジ装置を提供する。
【解決手段】チェック力発生機構を,雌ブラケット1に固定される中心軸6と,雄ブラケット2に固定され,シリンダ部7bを有するシリンダブロック7と,シリンダ部7bに嵌装されるピストン22と,このピストン22に支持されるディテントローラ26と,ピストン22を付勢するチェックばね23と,中心軸6の外周面に設けられ,チェックばね23の付勢力でディテントローラ26が係合するディテント溝とで構成し,雄ブラケット2を,雌アーム部1bの内側でシリンダブロック7を挟むように配置される雄アーム部2bと,これらに連設される雄ベース部2aとで構成し,雄アーム部2bをシリンダブロック7に固着し,雄アーム部2bを貫通した中心軸6の両端部を雌アーム部1bに固着した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,自動車等の乗降口やテールゲートを開閉するドアを支持する車両用ドアヒンジ装置に関し,特に,ボディ及びドアの一方に固着される雌ベース部の両側端から一対の雌アーム部を起立させてなる雌ブラケットと,ボディ及びドアの他方に固着される雄ベース部を有して前記一対の雌アーム部間に配置されると共に,それら雌アーム部にヒンジピンを介して相対回動可能に連結される雄ブラケットと,前記雌及び雄ブラケット間に構成されてドアの所定開度位置でドアに対するチェック力を発生するチェック力発生機構とを備え,このチェック力発生機構を,前記雌ブラケットに固定されて前記ヒンジピン周りに配置される中心軸と,前記雄ブラケットに固定されて前記中心軸を相対回転可能に囲繞するように配置され,前記中心軸の一側方に突出するシリンダ部を有するシリンダブロックと,前記シリンダ部の内周面に摺動自在に嵌装されるピストンと,このピストンに支持されて前記中心軸の外周面を転動し得るディテントローラと,前記ピストンを前記中心軸の外周面側に付勢するチェックばねと,前記中心軸の外周面に設けられ,ドアの前記所定開度位置で前記チェックばねの付勢力をもって前記ディテントローラが弾発的に係合するディテント溝とで構成した,車両用チェッカ付きドアヒンジ装置の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
かゝる車両用チェッカ付きドアヒンジ装置は,下記特許文献1に開示されるように,既に知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】DE10254032A1公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のかゝる車両用チェッカ付きドアヒンジ装置では,シリンダブロックのシリンダ部の先端部に雄ブラケットの雄ベース部を一体に連設して,雄ブラケット及びシリンダブロックを一体化しているので,雄ベース部の雄アーム部の長大化を招き,車両用チェッカ付きドアヒンジ装置のコンパクト化を図ることが困難である。
【0005】
本発明は,かゝる事情に鑑みてなされたもので,雄ブラケットをシリンダブロックの配置に干渉されることなく配置し得るようにして,コンパクトな車両用チェッカ付きドアヒンジ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために,本発明は,ボディ及びドアの一方に固着される雌ベース部の両側端から一対の雌アーム部を起立させてなる雌ブラケットと,ボディ及びドアの他方に固着される雄ベース部を有して前記一対の雌アーム部間に配置されると共に,それら雌アーム部にヒンジピンを介して相対回動可能に連結される雄ブラケットと,前記雌及び雄ブラケット間に構成されてドアの所定開度位置でドアに対するチェック力を発生するチェック力発生機構とを備え,このチェック力発生機構を,前記雌ブラケットに固定されて前記ヒンジピン周りに配置される中心軸と,前記雄ブラケットに固定されて前記中心軸を相対回転可能に囲繞するように配置され,前記中心軸の一側方に突出するシリンダ部を有するシリンダブロックと,前記シリンダ部の内周面に摺動自在に嵌装されるピストンと,このピストンに支持されて前記中心軸の外周面を転動し得るディテントローラと,前記ピストンを前記中心軸の外周面側に付勢するチェックばねと,前記中心軸の外周面に設けられ,ドアの前記所定開度位置で前記チェックばねの付勢力をもって前記ディテントローラが弾発的に係合するディテント溝とで構成した,車両用チェッカ付きドアヒンジ装置において,前記雄ブラケットを,前記一対の雌アーム部の内側面にそれぞれ隣接すると共に,前記シリンダブロックを前記中心軸の軸方向に沿って挟むように配置される一対の雄アーム部と,これら雄アーム部の一端に連設される雄ベース部とで構成し,前記雄アーム部を前記シリンダブロックに固着し,前記一対の雄アーム部に前記中心軸を支承する軸受孔を設け,これら軸受孔を貫通した前記中心軸の両端部を前記雌アーム部に固着したことを第1の特徴とする。
【0007】
また本発明は,第1の特徴に加えて,前記シリンダブロックを,前記中心軸の半周面を相対回転自在に支承する断面U字状の軸受部と,この軸受部の両端部に一体に連結される前記シリンダ部とで構成し,このシリンダブロックの,前記中心軸の軸方向に沿う両端に,このシリンダブロックへの前記中心軸,ピストン,チェックばね及びディテントローラの収容を可能にする開口部を設け,この開口部を前記雄アーム部で閉鎖したことを第2の特徴とする。
【0008】
さらに本発明は,第1又は2の特徴に加えて,前記シリンダ部の軸方向長さを,その内法又は内径より小さく設定して,そのシリンダ部内に,前記チェックばねとして相互に重ねた複数枚の皿ばねを収容したことを第3特徴とする。
【0009】
さらにまた本発明は,第3の特徴に加えて,前記ピストンの外法又は外径,並びに前記皿ばねの外径を前記中心軸の外径より大きく設定したことを第4の特徴とする。
【0010】
さらにまた本発明は,第1〜第4の特徴の何れかに加えて,前記シリンダ部及び前記ピストンを横断面方形に形成したことを第5の特徴とする。
【0011】
さらにまた本発明は,第1の特徴に加えて,前記中心軸と前記雌アーム部との対向面に互いに係合する位置決め突起及び位置決め溝を形成し,前記位置決め突起は,前記中心軸の端面上をその直径線に沿って延びるように設けられ,前記位置決め溝は,その一端が前記雌アーム部の外周面に開放するように前記雌アーム部の内側面に設けられ,これら位置決め突起及び位置決め溝の係合状態を,前記雌アーム部及び前記中心軸を貫通する前記ヒンジピンにより保持することを第6の特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の第1の特徴によれば,雄ブラケットを,一対の雌アーム部の内側面にそれぞれ隣接すると共に,シリンダブロックを中心軸の軸方向に沿って挟むように配置される一対の雄アーム部と,これら雄アーム部の一端に連設される雄ベース部とで構成し,雄アーム部をシリンダブロックに固着したことで,雄ブラケット付きのチェック力発生機構を,雌ブラケットとは関係なく,ユニットとして組み立てることができ,雄ブラケット付きのチェック力発生機構の組み立て作業を能率よく容易に行うことができる。しかも雄ブラケットの一対の雄アーム部が,一対の雌アーム部の内側面にそれぞれ隣接すると共に,シリンダブロックを中心軸の軸方向に沿って挟むように配置されることで,雄ブラケットの長大化を防ぎ,車両用チェッカ付きドアヒンジ装置のコンパクト化に寄与し得る。
【0013】
本発明の第2の特徴によれば,シリンダブロックにその開口部から中心軸,ピストン,チェックばね及びディテントローラを収容し,上記開口部を雄ブラケットの雄アーム部で閉塞するので,雄アーム部によりディテントローラの脱落を防ぐと共に,シリンダブロック内への雨水や塵埃の侵入を防ぐことができる。また雄ブラケットは開口部を閉塞する蓋体を兼ねることになり,構造の簡素化を図ることができる。さらに雄ベース部に連なる一対の雄アーム部は,シリンダブロックを介して一体的に連結されるので,両雄アーム部間を直接一体に連結する大型の雄ベース部は不要となり,雄ブラケットの軽量,コンパクト化を図ることができる。
【0014】
本発明の第3の特徴によれば,前記シリンダ部の軸方向長さを,その内法又は内径より小さく設定したこと,並びにシリンダ部内に,前記チェックばねとして相互に重ねた複数枚の皿ばねを収容したことの相互作用により,シリンダ部の中心軸側方への突出量を極力小さく抑えながら,ドアに対して充分なチェック力を付与することができ,チェック力発生機構のコンパクト化を効果的に図ることができる。
【0015】
本発明の第4の特徴によれば,シリンダ部に収容されるピストンの外法又は外径,並びに皿ばねの外径が中心軸の外径より大きく設定することで,チェックばねたる複数の皿ばねに,充分なセット荷重を付与しながら,そのばね定数の過度な増加を抑えることができ,その耐久性の向上を図ることができる。
【0016】
本発明の第5の特徴によれば,ピストン及びシリンダ部を横断面方形に形成することで,シリンダ部によりピストンの回り止めを行い,ディテントローラ及びディテント溝相互の係合を常に適正に行うことができると共に,ピストンに対する特別な回り止め部材を不要にして構造の簡素化に寄与し得る。
【0017】
本発明の第6の特徴によれば,中心軸の位置決め突起は,位置決め溝に,その開放端から容易に係合することができ,その係合状態は,雌アーム部及び中心軸に貫通させるヒンジピンを利用して保持されることになり,その保持構造が簡単であると共に,雌アーム部及び中心軸間を強固に連結することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1実施例に係るチェッカ付きドアヒンジ装置を備える自動車の要部平面図。
【図2】上記チェッカ付きドアヒンジ装置の分解斜視図。
【図3】同チェッカ付きドアヒンジ装置をドアの閉鎖状態で示す平面図。
【図4】図3の4−4線断面図。
【図5】図3の5−5線断面図。
【図6】図4の6−6線断面図。
【図7】同チェッカ付きドアヒンジ装置をドアの全開状態で示す,図6との対応図。
【図8】同チェッカ付きドアヒンジ装置のディテントローラ取り付け要領説明図。
【図9】本発明の第2実施例を示す,図6との対応図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施の形態を,添付図面に示す本発明の好適な実施例に基づいて以下に説明する。
【0020】
先ず,図1〜図9に示す本発明の第1実施例の説明より始める。図1において,自動車のボディBに,その乗降口を開閉すべくドアDがチェッカ付きドアヒンジ装置Hを介して回動可能に取付けられ,そのチェッカ付きドアヒンジ装置HはドアDを所定の全閉位置C,第1中間開度位置M1,第2中間開度位置M2及び全開位置Oに保持し得るようになっている。
【0021】
図2〜図5に示すように,チェッカ付きドアヒンジ装置Hは,ボディBに複数のボルト3で固着される雌ブラケット1と,ドアDに複数のボルト4で固着される雄ブラケット2と,これら両ブラケット1,2を相対回動可能に連結すべく鉛直方向に配置されるヒンジピン5とを備えている。
【0022】
雌ブラケット1は,ボディBの鉛直壁に複数のボルト3で固着される雌ベース部1aと,この雌ベース部1aの上下両側端に一体に連なる上下一対の雌アーム部1b,1bとよりなっており,また雄ブラケット2は,上記一対の雌アーム部1b,1bの内側に隣接配置される上下一対の雄アーム部2b,2bと,各雄アーム部2b,2bの一端から直角に屈曲して複数のボルト4でドアDに固着される雄ベース部2a,2aとよりなっており,上記雌アーム部1b,1b及び雄アーム部2b,2bを上下に貫通するように前記ヒンジピン5が配置される。ヒンジピン5は,その一端の膨大頭部5aと,他端のかしめ部5bとにより雌アーム部1b,1bに固着される。
【0023】
ヒンジピン5の外周には中心軸6が相対回転可能に嵌合される。この中心軸6は,両雄アーム部2b,2b間に挟まれるように配置される胴部6aと,この胴部6aの両端面に一体に突設される小径の一対の短軸6b,6bとからなっており,それら短軸6b,6bは,雄アーム部2a,2aに設けられる軸受孔11,11に貫通して外方に突出するようになっており,軸受孔11,11には,短軸6b,6bを回転自在に支承する軸受ブッシュ16,16が装着される。
【0024】
両短軸6b,6bと,雌アーム部1b,1bとの対向面には,互いに係合する位置決め突起8及び位置決め溝9が形成される。その位置決め突起8は,中心軸6の端面上を直径線に沿って延びており,位置決め溝9は,雌アーム部1bの内側面において,ヒンジピン5が貫通するピン孔18を横切るように形成され,この位置決め溝9の一端は,雌アーム部1bの外周面に開放されている。したがって,中心軸6の位置決め突起8は,位置決め溝9に,その開放端から容易に係合することができ,その係合状態は,雌アーム部1b,1b及び中心軸6にヒンジピン5を挿入することにより保持される。したがって,位置決め突起8及び位置決め溝9の係合状態は,ヒンジピン5を利用して保持されることになり,その保持構造が簡単であると共に,雌アーム部1b,1b及び中心軸6間を強固に連結することができる。
【0025】
図2,図4及び図5に示すように,一対の雄アーム部2a,2aの軸受孔11,11には,中心軸6を回転自在に支承する軸受ブッシュ16,16が装着される。また中心軸6の外周には,それと相対回転可能のシリンダブロック7が配置され,このシリンダブロック7の,中心軸6の軸方向に沿う両端面に,雄ブラケット2の一対の雄アーム部2b,2bがそれぞれビス12,12により固着される。
【0026】
シリンダブロック7は,中心軸6の外周面を半周に亙り相対回転自在に支承する断面U字状の軸受部7aと,この軸受部7aの両端部に一体に連結されるシリンダ部7bとよりなっており,シリンダ部7b内には,中心軸6の外周面に対面する円弧面を有するピストン22と,このピストン22を中心軸6に向かって所定のセット荷重をもって付勢するチェックばね23とが収容される。
【0027】
シリンダ部7bの軸方向長さLは,シリンダ部7bの内法D1又は内径より小さく設定され,それに関連して前記チェックばね23としてシリンダ部7b内に複枚の皿ばね23a,23a…を重ねて構成される。図示例では,それぞれ同一方向に重ねた複数枚二組の皿ばね23a,23a…を背中合わせにして配置される。こうすることで,チェックばね23に充分なセット荷重と変形ストロークを付与することができる。またピストン22の外法D2又は外径,並びに皿ばね23a,23a…の外径D3は,中心軸6の外径D4より大きく設定される。シリンダ部7b及びピストン22は,横断面方形に,図示例では正方形に形成される。ピストン22には,皿ばね23a,23a…の中心孔を貫通してそれらを整列させるガイド軸22aが設けられる。
【0028】
ピストン22の,中心軸6の外周面に対面する円弧面には,中心軸6に向かって開口すると共に中心軸6の軸方向に延びる半円柱状の保持溝25が形成され,この保持溝25に,中心軸6の外周面を転動し得るディテントローラ26の略半周部分が回転自在に係合,保持される。
【0029】
シリンダブロック7内に臨む中心軸6の胴部6a外周面には,ドアDが所定の全閉位置C,第1中間開度位置M1,第2中間開度位置M2及び全開位置O(図1参照)に来たとき,ディテントローラ26がチェックばね23のセット荷重をもって弾発的に係合する全閉ディテント溝27c,第1中間ディテント溝27m1,第2中間ディテント溝27m2及び全開ディテント溝27oが設けられ,これらディテント溝27c〜27oは,断面劣弧状もしくはV字状をなしている。而して,ディテントローラ26は,中心軸6の胴部6a外周面を転がるときは勿論,上記ディテント溝27c〜27oに係合しているときでも,ピストン22を中心軸6の胴部6a外周面から押し上げてチェックばね23の圧縮荷重を増加させるようになっている。その結果,ディテントローラ26は,全閉ディテント溝27c,第1中間ディテント溝27m1,第2中間ディテント溝27m2及び全開ディテント溝27oに係合することで,チェックばね23の反発力によりドアDに対するチェック力を発生することができる。
【0030】
図8に示すように,さらに中心軸6の胴部6a外周面には,チェッカ付きドアヒンジ装置Hの車両への組み付け前に,ピストン22が中心軸6の胴部6a外周面に当接した状態でディテントローラ26の保持溝25への挿入を可能にする組立用溝29が設けられる。即ち,中心軸6の胴部6a外周面において,全閉ディテント溝27cの,前記第1中間ディテント溝27m1とは反対側の箇所に組立用溝29が設けられる。この組立用溝29は,ピストン22が中心軸6の胴部6a外周面に当接した状態でも,保持溝25と対向したとき,その保持溝25と協働してディテントローラ26より大径の挿入孔30を構成するよう,各ディテント溝27c〜27oより深く形成される。したがって,そのような挿入孔30には,チェックばね27に邪魔されることなくディテントローラ26の挿入が可能となる。
【0031】
図2及び図4に示すように,シリンダブロック7の,中心軸6の軸方向に沿う両端部は開放されて開口部10,10となっており,これら開口部10,10は,シリンダブロック7の両端面に固着される前記一対の雄アーム部2b,2bによって閉塞される。
【0032】
而して,上記中心軸6,シリンダブロック7,ピストン22及びチェックばね23は,互いに協働してドアDの所定の全閉位置C,第1中間開度位置M1,第2中間開度位置M2及び全開位置OでドアDに対するチェック力を発生するチェック力発生機構20を構成する。
【0033】
図2及び図7に示すように,各雄アーム部2b,2bの一側部にはストッパアーム14が連設され,このストッパアーム14が,雌ブラケット1の雌ベース部1aから起立して両雌アーム部1b,1b間を一体に連結するストッパ壁15に当接することにより,ドアDの全開限界が規制されるようになっている。
【0034】
この第1実施例の作用について説明する。
【0035】
チェッカ付きドアヒンジ装置Hの組み立ては,車両への取り付け前に行うもので,先ず,シリンダブロック7に,その開口部10,10から中心軸6,ピストン22,チェックばね23及びディテントローラ26を収容してチェック力発生機構20を組み立てる。その際,中心軸6の組立用溝29をピストン22の保持溝25に対向させれば,組立用溝29と保持溝25とで,ディテントローラ26より大径の挿入孔30が形成されることになるから,ピストン22がチェックばね23のセット荷重により中心軸6の外周面に押圧された状態でも,その挿入孔30にはディテントローラ26を容易に挿入することができる。その挿入後,シリンダブロック7の,開口部10,10が開口する両端面に雄ブラケット2の一対の雄アーム部2b,2bをビス12,12により固着して,開口部10,10を気密及び水密に閉塞すると共に,ディテントローラ26の脱落を抑える。その際,各雄アーム部2b,2bの軸受孔11,11には,中心軸6の各短軸6b,6bを支承する軸受ブッシュ16,16が嵌装される。
【0036】
こうして,先ず,雄ブラケット2付きのチェック力発生機構20を,雌ブラケット1及びヒンジピン5とは関係なく,ユニットとして組み立てるので,その組み立て作業を能率よく容易に行うことができる。しかも雄ブラケット2の一対の雄アーム部2b,2bが,一対の雌アーム部1b,1bの内側面にそれぞれ隣接すると共に,シリンダブロック7を中心軸6の軸方向に沿って挟むように配置されることで,雄ブラケット2の長大化を防ぎ,チェッカ付きドアヒンジ装置Hのコンパクト化に寄与し得る。
【0037】
また中心軸6,ピストン22,チェックばね23及びディテントローラ26を組み込むためのシリンダブロック7の開口部10,10は,雄ブラケット2の雄アーム部2b,2bで閉塞されるので,雄ブラケット2が開口部10,10を閉塞する蓋体を兼ねることになり,構造の簡素化を図ることができる。
【0038】
さらに雄ベース部2aに連なる一対の雄アーム部2b,2bは,シリンダブロック7を介して一体的に連結されるので,両雄アーム部2b,2b間を直接一体に連結する大型の雄ベース部は不要となり,雄ブラケット2の軽量,コンパクト化を図ることができる。
【0039】
またシリンダ部7bの軸方向長さLが,その内法D1又は内径より小さく設定されること,並びにシリンダ部7b内に,前記チェックばね23として相互に重ねた複数枚の皿ばね23a,23a…が収容されることの相互作用により,シリンダ部7bの中心軸6側方への突出量を極力小さく抑えながら,ドアDに対して充分なチェック力を付与することができ,チェック力発生機構20のコンパクト化を効果的に図ることができる。その際,シリンダ部7bに収容されるピストン22の外法D2又は外径,並びに皿ばね23a,23a…の外径D3が中心軸6の外径D4より大きく設定されることで,チェックばね23たる複数の皿ばね23a,23a…に充分なセット荷重を付与しながら,そのばね定数の過度の増加を抑えることができ,その耐久性の向上を図ることができる。
【0040】
さらにピストン22及びシリンダ部7bが横断面方形に形成されることで,シリンダ部7bによりピストン22の回り止めを行い,ディテントローラ26と各ディテント溝27c,27m1,27m,27oとの係合を常に適正に行うことができると共に,ピストン22に対する特別な回り止め部材を不要にして構造の簡素化に寄与し得る。
【0041】
雄ブラケット2付きのチェック力発生機構20の組み立て後は,雄ブラケット2を雌ブラケット1内に挿入して,雄アーム部2b,2bを対応する雌アーム部1b,1bの内側面に隣接させると共に,中心軸6の短軸6b,6bの位置決め突起8,8を雌ブラケット1の位置決め溝9,9に嵌合し,雌ブラケット1から中心軸6にかけてヒンジピン5を装着し,チェッカ付きドアヒンジ装置Hの組み立ては完了する。
【0042】
チェッカ付きドアヒンジ装置Hの組み立て後は,シリンダブロック7及び中心軸6を相対的に回動して,ディテントローラ26を全閉ディテント溝27c側に移動させる。その際,ディテントローラ26は,ピストン22を押し上げてチェックばね23を圧縮しながら組立用溝29から脱出し,全閉ディテント溝27cの位置に来ると,ディテントローラ26は,圧縮されたチェックばね23の反発力により全閉ディテント溝27cに係合することになり,この係合状態でも,チェックばね23の圧縮反発力をディテントローラ26に作用し続けさせるべく,ピストン22を中心軸6の胴部6b外周面に当接しないように,全閉ディテント溝27cの深さが設定されている。この状態は,ディテントローラ26が第1,第2中間ディテント溝27m1,27m2及び全開ディテント溝27oに係合した状態も同様である。このことは,チェッカ付きドアヒンジ装置Hが車両に取り付けられた状態では,ドアDの所定の全閉位置C,第1,第2中間開度位置M1,M2及び全開位置OでドアDに充分なチェッカ力を与え得ることを意味する。
【0043】
チェッカ付きドアヒンジ装置Hを車両に取り付ける際には,図7に示すように,雌及び雄ブラケット1,2を相互に開いて,ディテントローラ26を全開ディテント溝27oに係合させた状態で,雌及び雄ブラケット1,2をボディB及びドアDにそれぞれボルト3,4により固着する。
【0044】
ユーザがドアDを全閉位置Cと全開位置Oとの間で回動すれば,ドアDに結合した雄ブラケット2が同様に回動するので,この雄ブラケット2に連結したシリンダブロック7が,雌ブラケット1に連結した中心軸6に対して回転し,そのシリンダブロック7に支持されるピストン22及びチェックばね23も同時に回転し,それに伴ないピストン22の保持溝25で保持されたディテントローラ26は,中心軸6の外周面上を転動しながら移動する。
【0045】
その間,ドアDが所定の全閉位置Cや第1,第2中間開度位置M1,M2,全開位置Oに来ると,ディテントローラ26は,それらの位置に対応した全閉ディテント溝27c,第1,第2中間ディテント溝27m1,27m2,全開ディテント溝27oに到達する。すると,ディテントローラ26を保持するピストン22がチェックばね23の圧縮反発力により中心軸6側に移動してディテントローラ26を各ディテント溝27c〜27oに強く押し込むので,前述のようにドアDに充分なチェック力を与えて,ドアDの遊動を防ぐことができる。
【0046】
上記チェック力以上の回動力をドアDに加えれば,ディテントローラ26は,ピストン22を介しチェックばね23を圧縮変形させて,ディテント溝27c〜27oから脱出するので,ドアDを回動することができる。
【0047】
こうして,チェッカ付きドアヒンジ装置Hでは,ドアDの開閉に伴ない,ディテントローラ26が全閉ディテント溝27cから全開ディテント溝27oまでの範囲θで移動するので,その移動範囲θ外に配置される組立用溝29にディテントローラ26が到達することはなく,ディテントローラ26のガタつきを防ぐことができる。
【0048】
次に,図9に示す本発明の第2実施例について説明する。
【0049】
この第2実施例では,シリンダ部7bの底壁とチェックばね23の外端との間に支持板31が挿入され,この支持板31をチェックばね23に対して進退させ得る調整ボルト32がシリンダ部7bの底壁に螺着される。その他の構成は前実施例と同様であるので,図9中,前実施例と対応する部分には同一の参照符号を付して,重複する説明を省略する。
【0050】
而して,この第2実施例によれば,調整ボルト32の操作により支持板31をチェックばね23に対して進退させることで,チェックばね23のセット荷重を調整してドアDのチェック力を所望値に簡単に設定することができる。またチェック力発生機構20の組立時,支持板31を後退位置に保持すれば,チェックばね23の荷重をゼロ又は最小にすることができるので,ピストン22,中心軸6及びディテントローラ26の装着を容易に行うことができ,組立性が良好となる。
【0051】
本発明は,上記実施例に限定されるものではなく,その要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更が可能である。例えば,雌ブラケット1はドアDに,雄ブラケット2はボディBにそれぞれ固着することもできる。またチェッカ付きドアヒンジ装置により保持すべきドアDの中間開度位置は,一箇所とすることも,複数箇所とすることもできる。またチェッカ付きドアヒンジ装置Hは,ワゴン型車両のテールゲート開閉用ドアを支持するヒンジ装置にも適用し得る。
【符号の説明】
【0052】
B・・・・・ボディ
D・・・・・ドア
H・・・・・チェッカ付きドアヒンジ装置
1・・・・・雌ブラケット
1a・・・・雌ベース部
1b・・・・雌アーム部
2・・・・・雄ブラケット
2a・・・・雄ベース部
2b・・・・雄アーム部
5・・・・・ヒンジピン
6・・・・・中心軸
7・・・・・シリンダブロック
7a・・・・軸受部
7b・・・・シリンダ部
10・・・・開口部
11・・・・軸受孔
20・・・・チェック力発生機構
22・・・・ピストン
23・・・・チェックばね
23a・・・皿ばね
26・・・・ディテントローラ
27c・・・全閉ディテント溝
27m1・・中間ディテント溝(第1中間ディテント溝)
27m2・・中間ディテント溝(第2中間ディテント溝)
27o・・・全開ディテント溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボディ(B)及びドア(D)の一方に固着される雌ベース部(1a)の両側端から一対の雌アーム部(1b)を起立させてなる雌ブラケット(1)と,ボディ(B)及びドア(D)の他方に固着される雄ベース部(2a)を有して前記一対の雌アーム部(1b)間に配置されると共に,それら雌アーム部(1b)にヒンジピン(5)を介して相対回動可能に連結される雄ブラケット(2)と,前記雌及び雄ブラケット(1,2)間に構成されてドアの所定開度位置でドアに対するチェック力を発生するチェック力発生機構とを備え,このチェック力発生機構を,前記雌ブラケット(1)に固定されて前記ヒンジピン(5)周りに配置される中心軸(6)と,前記雄ブラケット(2)に固定されて前記中心軸(6)を相対回転可能に囲繞するように配置され,前記中心軸(6)の一側方に突出するシリンダ部(7b)を有するシリンダブロック(7)と,前記シリンダ部(7b)の内周面に摺動自在に嵌装されるピストン(22)と,このピストン(22)に支持されて前記中心軸(6)の外周面を転動し得るディテントローラ(26)と,前記ピストン(22)を前記中心軸(6)の外周面側に付勢するチェックばね(23)と,前記中心軸(6)の外周面に設けられ,ドア(D)の前記所定開度位置で前記チェックばね(23)の付勢力をもって前記ディテントローラ(26)が弾発的に係合するディテント溝(27c,27m1,27m2,27o)とで構成した,車両用チェッカ付きドアヒンジ装置において,
前記雄ブラケット(2)を,前記一対の雌アーム部(1b)の内側面にそれぞれ隣接すると共に,前記シリンダブロック(7)を前記中心軸(6)の軸方向に沿って挟むように配置される一対の雄アーム部(2b)と,これら雄アーム部(2b)の一端に連設される雄ベース部(2a)とで構成し,前記雄アーム部(2b)を前記シリンダブロック(7)に固着し,前記一対の雄アーム部(2b)に前記中心軸(6)を支承する軸受孔(11)を設け,これら軸受孔(11)を貫通した前記中心軸(6)の両端部を前記雌アーム部(1b)に固着したことを特徴とする,車両用チェッカ付きドアヒンジ装置。
【請求項2】
請求項1記載の車両用チェッカ付きドアヒンジ装置において,
前記シリンダブロック(7)を,前記中心軸(6)の半周面を相対回転自在に支承する断面U字状の軸受部(7a)と,この軸受部(7a)の両端部に一体に連結される前記シリンダ部(7b)とで構成し,このシリンダブロック(7)の,前記中心軸(6)の軸方向に沿う両端に,このシリンダブロック(7)への前記中心軸(6),ピストン(22),チェックばね(23)及びディテントローラ(26)の収容を可能にする開口部(10)を設け,この開口部(10)を前記雄アーム部(2b)で閉鎖したことを特徴とする,車両用チェッカ付きドアヒンジ装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の車両用チェッカ付きドアヒンジ装置において,
前記シリンダ部(7b)の軸方向長さ(L)を,その内法(D1)又は内径より小さく設定して,そのシリンダ部(7b)内に,前記チェックばね(23)として相互に重ねた複数枚の皿ばね(23a)を収容したことを特徴とする,車両用チェッカ付きドアヒンジ装置。
【請求項4】
請求項3記載の車両用チェッカ付きドアヒンジ装置において,
前記ピストン(22)の外法(D2)又は外径,並びに前記皿ばね(23a)の外径(D3)を前記中心軸(6)の外径(D4)より大きく設定したことを特徴とする,車両用チェッカ付きドアヒンジ装置。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかに記載の車両用チェッカ付きドアヒンジ装置において,
前記シリンダ部(7b)及び前記ピストン(22)を横断面方形に形成したことを特徴とする,車両用チェッカ付きドアヒンジ装置。
【請求項6】
請求項1記載の車両用チェッカ付きドアヒンジ装置において,
前記中心軸(6)と前記雌アーム部(1b,1b)との対向面に互いに係合する位置決め突起(8)及び位置決め溝(9)を形成し,前記位置決め突起(8)は,前記中心軸(6)の端面上をその直径線に沿って延びるように設けられ,前記位置決め溝(9)は,その一端が前記雌アーム部(1b)の外周面に開放するように前記雌アーム部(1b)の内側面に設けられ,これら位置決め突起(8)及び位置決め溝(9)の係合状態を,前記雌アーム部(b)及び前記中心軸(6)を貫通する前記ヒンジピン(5)により保持することを特徴とする,車両用チェッカ付きドアヒンジ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−111724(P2011−111724A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−266519(P2009−266519)
【出願日】平成21年11月24日(2009.11.24)
【出願人】(591140086)理研化機工業株式会社 (16)
【Fターム(参考)】