説明

車両用ディスクブレーキのダストシール

【課題】簡単な構造で、シリンダ孔内への塵埃の侵入を確実に防止すると共に、制動解除後のピストンのロールバックに影響を与えることのない車両用ディスクブレーキのダストシールを提供する。
【解決手段】ダストシール9は、環状基部9aと内周側リップ部9cと外周側リップ部9dとを一体に備える。内周側リップ部9cは、先端側に向けて漸次小径となる円錐面状に形成され、環状基部9aは、基端部に内周側に突出する凸部9fが形成される。凸部9fと内周側リップ部9cの先端部9bの内面とがピストン5の外周面5aに当接する。外周側リップ部9dは、外周面9gが先端側に向けて漸次大径となる円錐面状に形成され、先端側がダストシール嵌着溝6bの外周面6dとシリンダ孔開口側面6cとに当接する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャリパボディのシリンダ孔開口側に配設され、シリンダ孔内への塵埃の浸入を防止する車両用ディスクブレーキのダストシールに関する。
【背景技術】
【0002】
車両用ディスクブレーキは、シリンダ孔の内周面に、ピストンの外周面に摺接してピストンを移動可能に保持すると共に、制動力解除後のピストンを所定量ロールバックさせて摩擦パッドとディスクロータとの間隙を自動調整する機能を有するピストンシールと、ピストンの外周面に摺接してシリンダ孔内への塵埃の侵入を防止するダストシールとが設けられたものがある。このダストシールとして、シリンダ孔に形成されたダストシール嵌着溝に収容される環状基部と、該環状基部からシリンダ孔開口側に突出するリップ部とを一体に備え、前記環状基部の内周面とピストンの外周面との間に隙間を形成すると共に、リップ部の内周面とピストンの外周面とが摺接するように形成し、ダストシールの緊迫力がピストンシールのロールバック量に影響を与えないようにしたものがあった(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−180363号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上述の特許文献のものでは、非制動時の状態では、ダストシールの環状基部の内周面とピストンの外周面との間に隙間が形成されているものの、制動時にピストンがシリンダ孔開口側に移動すると、リップ部がピストンに引き摺られるのに伴い、環状基部がダストシール嵌着溝内で倒れた状態となり、ダストシールの緊迫力が増大して変形することがあった。このため、制動を解除した際に環状基部の復元力によりピストンシールのロールバック量に影響を与える虞があった。
【0005】
そこで本発明は、簡単な構造で、シリンダ孔内への塵埃の侵入を確実に防止すると共に、制動解除後のピストンのロールバックに影響を与えることのない車両用ディスクブレーキのダストシールを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の車両用ディスクブレーキのダストシールは、キャリパボディに設けたシリンダ孔の開口側先端部に形成したダストシール嵌着溝に嵌着され、前記シリンダ孔にピストンシールを介して内挿されるピストンの外周面に摺接して、前記シリンダ孔内への塵埃の侵入を防止する車両用ディスクブレーキのダストシールにおいて、該ダストシールは、前記ダストシール嵌着溝のシリンダ孔底部側に収容される環状基部と、該環状基部の内周側からシリンダ孔開口側に突出する内周側リップ部と、前記環状基部の外周側からシリンダ孔開口側に突出し、前記ダストシール嵌着溝内に収容される外周側リップ部とを一体に備え、前記内周側リップ部の内周面は、先端側に向けて漸次小径となる円錐面状に形成され、前記環状基部の基端部に内周側に突出する凸部が形成され、該凸部と前記内周側リップ部の先端部内面とが前記ピストンの外周面に当接することを特徴とし、前記外周側リップ部は、外周面が先端側に向けて漸次大径となる円錐面状に形成され、前記先端側が前記ダストシール嵌着溝の外周面と前記シリンダ孔開口側面とに当接するものでも良い。また、前記内周側リップ部の先端側が、前記外周側リップ部が当接する前記ダストシール嵌着溝のシリンダ孔開口側面よりもシリンダ孔開口側に突出するものでも良い。さらに、前記凸部を、前記環状基部の基端部内周側に、周方向に分割して形成することもできる。
【発明の効果】
【0007】
本発明の車両用ディスクブレーキのダストシールによれば、内周側リップ部の先端部内面がピストンの外周面に当接していることからシリンダ孔内への塵埃の侵入を確実に防止することができる。さらに、ダストシールは環状基部の内周側に設けた凸部と内周側リップ部の先端部内面のみがピストンの外周面に当接し、前記凸部と前記先端部内面とを除いた内周リップの内周面及び環状基部の内周面と、ピストンの外周面との間には隙間が形成されることから、ピストンとの摺動抵抗を低減させることができ、制動時にダストシールがシリンダ孔開口側に引き摺られることを防止できる。これにより、ダストシールに大きな緊迫力が掛かることを防止でき、制動解除後のピストンのロールバックにダストシールが影響を与えることがない。
【0008】
また、外周側リップ部は、外周面が先端側に向けて漸次大径となる円錐面状に形成され、前記先端側が前記ダストシール嵌着溝の外周面と前記シリンダ孔開口側面とに当接することにより、制動時にダストシールの姿勢を良好に維持することができる。さらに、前記内周側リップ部の先端側が、前記ダストシール嵌着溝のシリンダ孔開口側面よりもシリンダ孔開口側に突出することにより、シリンダ孔外周面に当接する凸部と前記内周側リップ部の先端部内面のシリンダ軸方向中間位置に、外周側リップ部のダストシール嵌着溝に当接する先端側が位置し、制動時にダストシールの姿勢をさらに良好に維持することができる。さらに、前記凸部を、前記環状基部の基端部内周側に、周方向に分割して形成することにより、ピストンの外周面との当接面積を小さくし、ピストンとの摺動抵抗をさらに低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一形態例を示すダストシールの説明図である。
【図2】同じくダストシールの断面斜視図である。
【図3】同じくダストシールの斜視図である。
【図4】同じくディスクブレーキの断面図である。
【図5】環状基部に凸部を設けていないダストシールの制動時の状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図4は、本発明のダストシールを適用した車両用ディスクブレーキの一形態例を示す図で、液圧式の車両用ディスクブレーキ1は、図示しない車輪と一体に回転するディスクロータ2と、該ディスクロータ2の一側部で車体に取り付けられるキャリパボディ3と、該キャリパボディ3の内部にディスクロータ2を挟んで対向配置される一対の摩擦パッド4,4とから成っている。
【0011】
キャリパボディ3は、ディスクロータ2の両側に対向配置される作用部3a及び反作用部3bと、ディスクロータ2の外周を跨いでこれらを連結するブリッジ部3cとから成っており、作用部3aには、ピストン5が収容されるシリンダ孔6が設けられ、反作用部3bには、反力爪3dが設けられている。シリンダ孔6内には、ピストン5とシリンダ孔6の底部との間に液圧室7が画成されている。
【0012】
前記シリンダ孔6の内周面には、軸方向中間部に環状のピストンシール嵌着溝6aが周設されると共に、該ピストンシール嵌着溝6aよりもシリンダ孔開口側に環状のダストシール嵌着溝6bが周設されている。ピストンシール嵌着溝6aには、ピストン5の外周面5aに液密に摺接すると共に、その復元力でピストン5をロールバックさせるピストンシール8が嵌着しており、ダストシール嵌着溝6bには、ピストン5の外周面5aに摺接し、シリンダ孔6内への塵埃の侵入を防止するダストシール9が嵌着している。
【0013】
ピストンシール8は、断面四角形状のゴム材等の弾性材料によって形成され、その硬度や緊迫力、ピストン5に摺接する内周面の摩擦係数や形状を考慮することにより、制動力解除後にピストン5を所定量ロールバックさせることができるように形成されている。
【0014】
ダストシール9は、上記ピストンシール8と同等のゴム材等の弾性材料によって形成されるもので、ダストシール嵌着溝6bのシリンダ孔底部側に収容される環状基部9aと、該環状基部9aの内周側からシリンダ孔開口側に突出し、先端部9bが前記ダストシール嵌着溝6bのシリンダ孔開口側面6cよりもシリンダ孔開口側に突出する内周側リップ部9cと、前記環状基部9aの外周側からシリンダ孔開口側に突出し、ダストシール嵌着溝6b内に収容される外周側リップ部9dとを一体に備えている。内周側リップ部9cは、内周面9eが先端部9bに向けて漸次小径となる円錐面状に形成され、また、外周側リップ部9dは、外周面9gが外周側先端部9hに向けて漸次大径となる円錐面状に形成されている。環状基部9aは、基端部内周側に、6つの凸部9fが周方向に分割して形成されている。
【0015】
このダストシール9をダストシール嵌着溝6bに収容すると、図1に示されるように、環状基部9aの凸部9fと内周側リップ部9cの先端部9bの内面とがピストン5の外周面5aに当接し、凸部9fと先端部9bの内面とを除いた内周側リップ部9cの内周面9e及び環状基部9aの内周面と、ピストン5の外周面5aとの間には隙間Eが形成される。また、外周側リップ部9dは、外周面9gの外周側先端部9hがダストシール嵌着溝6bの外周面6dに当接すると共に、外周側先端面9iがダストシール嵌着溝6bのシリンダ孔開口側面6cに当接する。さらに、この外周側リップ部9dの外周側先端部9hがダストシール嵌着溝6bの外周面6dに当接すると共に、外周側先端面9iがダストシール嵌着溝6bのシリンダ孔開口側面6cに当接するシリンダ軸方向の位置は、環状基部9aの凸部9fがピストン5の外周面5aに当接する位置と、内周側リップ部9cの先端部9bの内面がピストン5の外周面5aに当接する位置との間に配置されている。
【0016】
このように形成された車両用ディスクブレーキ1は、運転者の制動操作によってキャリパボディ3の液圧室7に昇圧した作動液が供給されると、ピストン5がシリンダ孔6をディスクロータ方向へ前進して、一方の摩擦パッド4をディスクロータ2の一側面へ押圧する。次に、この反作用によって、キャリパボディ3がスライドピン(図示せず)に案内されながら、作用部3a方向へ移動して行き、反作用部3bの反力爪3dが、他方の摩擦パッド4をディスクロータ2の他側面へ押圧して、制動作用が行われる。この時、ピストンシール8は、制動時のピストン5の前進によって外周面5aに引き摺られ、シリンダ孔開口側に弾性変形する。
【0017】
一方、ダストシール9は、環状基部9aの凸部9fと内周側リップ部9cの先端部9bの内面のみがピストン5の外周面5aに当接し、凸部9fと先端部9bとを除いた内周側リップ部9cの内周面及び環状基部9aの内周面と、ピストン5の外周面5aとの間には隙間Eが形成されていることから、ピストン5との摺動抵抗を低減させることができ、環状基部9aの凸部9fと内周側リップ部9cの先端部9bがピストン5の外周面5aに当接し、外周側リップ部9dの外周面9gの先端側がダストシール嵌着溝6bの外周面6dに当接すると共に、外周側先端面9iがダストシール嵌着溝6bのシリンダ孔開口側面6cにそれぞれ当接した図1に示すような姿勢を保持することができ、ダストシール9に掛かる緊迫力F1を小さく抑えることができる。
【0018】
一方、図5に示されるように、環状基部9aの内周側に凸部を備えていないダストシールの場合では、ダストシール21の内周側のリップ部21aがピストン5に引き摺られるのに伴い、環状基部21bの内周面側もシリンダ孔開口側に引き摺られ、環状基部21bがダストシール嵌着溝6b内で倒れた状態となり、環状基部21bの内周面21cとピストン5の外周面5aとが当接する面積が大きくなることから、摺動抵抗が増加すると共に、緊迫力F2が増大していた。
【0019】
制動を解除し、液圧室7の圧力が低下すると、ピストンシール8が元の形状に戻る復元力によってピストン5が所定量ロールバックし、キャリパボディ3が反作用部側にスライドして元位置に復帰すると共に、双方の摩擦パッド4,4がディスクロータ2から離間する。この時、上述のようにダストシール9に掛かる緊迫力F1を小さく抑えることができることから、ピストン5は、ダストシール9に影響を受けることなく、ロールバックすることができる。さらに、ピストン5の後退に伴って、ダストシール9の内周側リップ部9cの先端部9bがピストン5の外周面5aに摺接することにより、ピストン5の先端側に付着した塵埃を効率よく排除し、シリンダ孔6内への塵埃の侵入を確実に防止することができる。
【0020】
尚、本発明のダストシールは上述のように、ピストンシールと同等のゴム材等の弾性材料によって形成されるものに限らず、ナイロンのような摩擦係数の低い硬質の樹脂材料で形成することもできる。また、ダストシールの環状基部に設ける凸部は、環状基部の基端部内周側の全周に亘って形成されるものでも良い。さらに、本発明のダストシールは、上述の形態例のようにピンスライドタイプのディスクブレーキに適用されるものに限らず、どのようなタイプのディスクブレーキにも適用でき、また、ピストンの数も任意である。
【符号の説明】
【0021】
1…車両用ディスクブレーキ、2…ディスクロータ、3…キャリパボディ、3a…作用部、3b…反作用部、3c…ブリッジ部、3d…反力爪、4…摩擦パッド、5…ピストン、5a…外周面、6…シリンダ孔、6a…ピストンシール嵌着溝、6b…ダストシール嵌着溝、6c…シリンダ孔開口側面、6d…外周面、7…液圧室、8…ピストンシール、9…ダストシール、9a…環状基部、9b…先端部、9c…内周側リップ部、9d…外周側リップ部、9e…内周面、9f…凸部、9g…外周面、9h…外周側先端部、9i…外周側先端面、21…ダストシール、21a…リップ部、21b…環状基部、21c…内周面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャリパボディに設けたシリンダ孔の開口側先端部に形成したダストシール嵌着溝に嵌着され、前記シリンダ孔にピストンシールを介して内挿されるピストンの外周面に摺接して、前記シリンダ孔内への塵埃の侵入を防止する車両用ディスクブレーキのダストシールにおいて、該ダストシールは、前記ダストシール嵌着溝のシリンダ孔底部側に収容される環状基部と、該環状基部の内周側からシリンダ孔開口側に突出する内周側リップ部と、前記環状基部の外周側からシリンダ孔開口側に突出し、前記ダストシール嵌着溝内に収容される外周側リップ部とを一体に備え、前記内周側リップ部の内周面は、先端側に向けて漸次小径となる円錐面状に形成され、前記環状基部の基端部に内周側に突出する凸部が形成され、該凸部と前記内周側リップ部の先端部内面とが前記ピストンの外周面に当接することを特徴とする車両用ディスクブレーキのダストシール。
【請求項2】
前記外周側リップ部は、外周面が先端側に向けて漸次大径となる円錐面状に形成され、前記先端側が前記ダストシール嵌着溝の外周面と前記シリンダ孔開口側面とに当接することを特徴とする請求項1記載の車両用ディスクブレーキのダストシール。
【請求項3】
前記内周側リップ部の先端側が、前記外周側リップ部が当接する前記ダストシール嵌着溝のシリンダ孔開口側面よりもシリンダ孔開口側に突出することを特徴とする請求項2記載の車両用ディスクブレーキのダストシール。
【請求項4】
前記凸部は、前記環状基部の基端部内周側に、周方向に分割して形成されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の車両用ディスクブレーキのダストシール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−163377(P2011−163377A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−23910(P2010−23910)
【出願日】平成22年2月5日(2010.2.5)
【出願人】(000226677)日信工業株式会社 (840)
【Fターム(参考)】