説明

車両用ドア開閉装置の制御装置、その制御方法及び車両用ドア開閉装置

【課題】機械式クラッチを用いることによるドアの空走を僅かに抑え、モータやクラッチにかかる衝撃を軽減できる車両用ドア開閉装置の制御装置を提供する。
【解決手段】開閉制御において、閉指令に基づいて全開保持ラッチ装置によるドアの保持が解放側に切り替えられるとともに、その解放後に取得したドアの作動速度が判定速度va以上になると、PSDモータの駆動を開始してドアの自動閉作動が行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、手動開閉とモータによる自動開閉とを選択可能にするクラッチを備える車両用ドア開閉装置の制御装置、その制御方法及び車両用ドア開閉装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両用ドア開閉装置としては、例えばスライドドアを開閉させるパワースライドドア(PSD)装置が知られている。パワースライドドア装置は、モータの駆動にてスライドドアを自動的に開閉させるが、手動でもスライドドアを開閉させる必要があるため、クラッチを装備したものが提案されている。
【0003】
ここで、クラッチとして電磁クラッチを用いるものでは、電磁クラッチを駆動するために電力を消費し、また電磁クラッチを駆動するための駆動回路、給電用配線等が必要となることを考慮すると、このような電磁クラッチよりも機械式クラッチを用いる方が有利である。そこで、機械式クラッチとして、例えば特許文献1に示されるように、遠心力を利用する構成のものが提案されている。
【0004】
この機械式クラッチは、モータの回転軸と、その回転軸の回転力により回転しスライドドアを開閉する出力軸との間に設けられている。そして、モータを駆動して自動でスライドドアを開閉させる場合は、回転軸の回転による遠心力にて、機械式クラッチのコロ部材(動力伝達部材)が外側に移動して回転軸と出力軸とを連結し、回転軸の回転力を出力軸に伝達し、スライドドアがモータの駆動にて自動開閉する。
【0005】
一方、手動でスライドドアを開閉させる場合は、モータが駆動していないため、回転軸の回転による遠心力が発生しないことから、機械式クラッチのコロ部材は外側に移動せず回転軸と出力軸とを断絶した状態にする。つまり、駆動伝達経路上においてドア側から見た時の負荷となるモータの回転軸が出力軸から切り離されることから、スライドドアが手動にて開閉することができるようになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−133951号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記のようなパワースライドドア装置では、全開位置のスライドドアを車体に対して保持・解放を行う全開保持ラッチ装置が備えられ、該ラッチ装置の作動にて全開位置に配置されたスライドドアの位置が保持されるようになっている。そして、スライドドアの自動閉作動時には、その閉指令に基づいて先ず、ドアロックリリース用モータ(リリースモータ)の駆動にて全開保持ラッチ装置が保持から解放側に作動される。次いで、先の閉指令に基づいて、ラッチ装置の解放側への確実な作動を行うのに十分な一定時間を経過した後にパワースライドドア用モータ(PSDモータ)が駆動され、スライドドアの閉作動が開始される。
【0008】
しかしながら、ラッチ装置が実際に解放側に切り替わってからPSDモータが駆動するまでに十分に余裕がある場合、上記した機械式のクラッチにおいてはモータの回転軸と出力軸とが断絶状態となっており、出力軸側の空転、即ちスライドドアが空走し得る状態である。そのため、車両が傾斜地で停車している場合、スライドドアの自重にてドアが不意に作動することがあり、その作動速度が大きいと、その後のPSDモータの駆動にてクラッチが連結する際に、モータやクラッチにかかる衝撃(負荷トルク)が大きくなってしまうことが懸念されるところである。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、機械式クラッチを用いることによるドアの空走を僅かに抑え、モータやクラッチにかかる衝撃を軽減することができる車両用ドア開閉装置の制御装置、その制御方法及び車両用ドア開閉装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、車両に設けられる開口を開閉するドアをモータの駆動による出力軸の回転に伴って開閉作動させ、前記ドアを自動開閉させる旨の指令が生じると、機械式クラッチが前記モータの駆動とともに接続されて前記モータの回転軸の回転力を前記出力軸に伝達し、該出力軸の回転により前記ドアを開閉作動させる一方、前記モータの非駆動時には前記クラッチが切り離されて前記出力軸と前記回転軸とを断絶し、前記ドアの手動開閉による負荷側からの前記出力軸の回転力を前記回転軸には非伝達とする車両用ドア開閉装置において、前記ドアの全開又は全閉位置に保持するラッチ装置と連携した前記ドアの開閉作動を行う開閉制御手段を備えた車両用ドア開閉装置の制御装置であって、前記開閉制御手段は、前記ドアの閉指令又は開指令に基づいて前記ラッチ装置による前記ドアの保持を解放側に切り替えるとともに、その解放後の前記ドアの作動速度を取得し、取得した前記ドアの作動速度が所定速度以上になると、前記モータの駆動を開始して前記ドアの閉又は開作動を行うように制御することをその要旨とする。
【0011】
この発明では、開閉制御において、ドアの閉指令又は開指令が生じると、ラッチ装置によるドアの保持が解放側に切り替えられるとともに、その解放後に取得したドアの作動速度が所定速度以上になると、モータの駆動を開始してドアの閉又は開作動が行われる。これにより、ラッチ装置が保持から解放側に切り替わってドアが傾斜による自重作用等にて空走しても、そのドアの作動速度が所定速度になった時点でモータの駆動による自動作動に切り替わる。そのため、ドアが空走してもその空走が僅かに抑えられ、モータやクラッチにかかる衝撃が軽減される。
【0012】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の車両用ドア開閉装置の制御装置において、前記ドアの閉指令又は開指令から所定時間を計時する計時手段を備え、前記開閉制御手段は、前記計時手段にて計時される所定時間よりも前記モータの駆動開始まで時間が長くなるような前記ドアの作動状態である場合は、その所定時間の到達にて強制的に前記モータの駆動を開始し、前記ドアの閉又は開作動を行うように制御することをその要旨とする。
【0013】
この発明では、ドアの閉指令又は開指令から所定時間が計時され、計時される所定時間よりもモータの駆動開始までの時間が長くなるようなドアの作動状態である場合は、その所定時間の到達にて強制的にモータの駆動が開始され、ドアの閉又は開作動が行われる。つまり、ドアの作動速度の上昇が遅い、若しくは作動速度がゼロに維持されるような場合、モータの駆動開始までの時間が遅くなり得るため、計時される所定時間後はモータが速やかに駆動され、ドアの自動閉又は開作動への移行が無用に長くなることが防止される。
【0014】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の車両用ドア開閉装置の制御装置において、前記開閉制御手段は、前記モータの駆動開始時の前記ドアの作動速度に見合った回転数となるように前記モータを制御することをその要旨とする。
【0015】
この発明では、モータの駆動開始時には、ドアの作動速度に見合った回転数となるようにモータが制御されるため、クラッチ前後の軸間の回転速度差が小さく、クラッチを含む駆動伝達系にかかる衝撃が小さく抑えられる。
【0016】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の車両用ドア開閉装置の制御装置において、前記モータは、前記回転軸を回転駆動するモータ本体と、前記モータ本体に一体的に組付けられるとともに、前記回転軸の回転力が伝達されるウォーム軸及び前記ウォーム軸に噛合されるウォームホイールを有する減速機構が収容され、前記ウォーム軸及び前記ウォームホイールを経た回転力を前記ウォームホイールと一体的に回転するように連結される前記出力軸から出力する減速部とを備え、前記クラッチは、前記回転軸と前記ウォーム軸との間に設けられるものであることをその要旨とする。
【0017】
この発明では、回転軸とウォーム軸との間、即ち減速される前の位置にクラッチを設けることで、クラッチを小型化でき、モータ全体の小型化が可能となる。
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか1項に記載の制御装置を備えた車両用ドア開閉装置である。
【0018】
この発明では、上記請求項に記載の制御を行うことで、ドアが空走してもその空走が僅かに抑えられ、モータやクラッチにかかる衝撃が軽減される車両用ドア開閉装置として提供できる。
【0019】
請求項6に記載の発明は、車両に設けられる開口を開閉するドアをモータの駆動による出力軸の回転に伴って開閉作動させ、前記ドアを自動開閉させる旨の指令が生じると、機械式クラッチが前記モータの駆動とともに接続されて前記モータの回転軸の回転力を前記出力軸に伝達し、該出力軸の回転により前記ドアを開閉作動させる一方、前記モータの非駆動時には前記クラッチが切り離されて前記出力軸と前記回転軸とを断絶し、前記ドアの手動開閉による負荷側からの前記出力軸の回転力を前記回転軸には非伝達とする車両用ドア開閉装置において、前記ドアの全開又は全閉位置に保持するラッチ装置と連携した前記ドアの開閉作動を行う開閉制御を行う車両用ドア開閉装置の制御方法であって、前記ドアの閉指令又は開指令に基づいて前記ラッチ装置による前記ドアの保持を解放側に切り替えるとともに、その解放後の前記ドアの作動速度を取得し、取得した前記ドアの作動速度が所定速度以上になると、前記モータの駆動を開始して前記ドアの閉又は開作動を行うようにしたことをその要旨とする。
【0020】
この発明では、請求項1に記載の発明と同様の作用効果が得られる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、機械式クラッチを用いることによるドアの空走を僅かに抑え、モータやクラッチにかかる衝撃を軽減することができる車両用ドア開閉装置の制御装置、その制御方法及び車両用ドア開閉装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施形態のスライドドア開閉装置に使用されるモータの断面図である。
【図2】実施形態のスライドドア開閉装置の車両搭載状態の構成図である。
【図3】実施形態のスライドドア開閉装置の制御装置を含めた構成図である。
【図4】実施形態における制御態様を説明するためのタイミング図である。
【図5】比較例における制御態様を説明するためのタイミング図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図面に従って説明する。
図1に示すモータ11は、機械式クラッチ付きのモータであって、図2に示す車両に搭載されるスライドドア開閉装置1の駆動源として用いられるパワースライドドア用モータ(PSDモータ)である。スライドドア開閉装置1は、車体2の側面に設けられた乗降口2aの下部フロア内に配設され、乗降口2aを開閉するスライドドア3の開閉作動を行っている。スライドドア3は、車体2に設けられる複数のガイドレール4に連結された連結具5にて支持されており、スライドドア開閉装置1のPSDモータ11にて駆動される駆動ベルト6とその連結具5の1つとが連結されている。そして、PSDモータ11により駆動ベルト6が駆動されると、その連結具5を介してスライドドア3が車体2の側面に沿って前後方向にスライドし、乗降口2aを開閉するようになっている。
【0024】
図1に示すように、PSDモータ11は、モータ本体12と減速部13とからなる所謂ギヤードモータである。モータ本体12は、ヨークハウジング14、一対のマグネット15、電機子16、ブラシホルダ17及び一対のブラシ18を備えている。
【0025】
ヨークハウジング14は、有底筒状をなし、その内側面には一対のマグネット15が固着されている。マグネット15の内側には電機子16が回転可能に収容され、電機子16に備えられる回転軸20の基端部がヨークハウジング14の底部中央に設けられた軸受19にて支持されている。ヨークハウジング14の開口部14aには、径方向外側に向かって延設されたフランジ部14bが形成され、該フランジ部14bは減速部13のギヤハウジング31の開口部31aに螺子21にて固定されている。この固定の際、ヨークハウジング14とギヤハウジング31との両開口部14a,31a間にはブラシホルダ17が介装されている。
【0026】
ブラシホルダ17は、ヨークハウジング14内において、回転軸20の先端側の部位を軸支する軸受22と、回転軸20に固着された整流子23に摺接する一対のブラシ18とを保持している。また、ブラシホルダ17には複数本のターミナル24がインサートされており、各ターミナル24の一端はブラシ18や後述の回転センサ40等と電気的に接続されている。また、ブラシホルダ17において両ハウジング14,31の外部に突出する部位には、車体2側から延びる車体側コネクタ(図示略)と接続するためのコネクタ部17aが構成されており、該コネクタ部17aの接続凹部17b内にてターミナル24の他端が露出している。そして、コネクタ部17aに車体側コネクタが接続されると、PSDモータ11と車体2側に備えられるECU51とが電気的に接続される。
【0027】
減速部13は、ギヤハウジング31と、ウォーム軸32及びウォームホイール33から構成される減速機構34と、出力軸35と、クラッチ45とを有する。
ギヤハウジング31は、ヨークハウジング14の開口部14aと対向する開口部31aを有し、その開口部31aから軸方向にクラッチ収容部31bが凹設されている。クラッチ収容部31bにはその底部から軸方向に延びてウォーム軸32を収容する略円筒状の軸収容筒部31cと、軸収容筒部31cと連続してウォームホイール33を収容する略円形状のホイール収容部31dとが形成されている。
【0028】
軸収容筒部31cの軸方向の両端部には軸受36,37がそれぞれ装着され、軸収容筒部31c内に挿入されるウォーム軸32が軸受36,37にて回転可能に、モータ本体12の回転軸20と同軸となるように支持されている。このウォーム軸32の軸受36,37による支持部間には、ウォームギヤ部32aが形成されている。軸収容筒部31cにおけるウォーム軸32の先端対向部には、該ウォーム軸32のスラスト荷重を受けるためのスラスト受けボール38及びスラスト受けプレート39が配置されている。
【0029】
ホイール収容部31dには、ウォーム軸32のウォームギヤ部32aと噛合する円板状のウォームホイール33が回転可能に収容されている。このウォームホイール33には、該ウォームホイール33と一体回転するように出力軸35が連結されている。出力軸35は、図2及び図3に示すように、スライドドア3を開閉作動させるための駆動ベルト6が掛装される駆動プーリ7と一体回転するように連結される。
【0030】
クラッチ収容部31bには、ウォーム軸32と回転軸20との間に配置されてウォーム軸32と回転軸20との連結・断絶を行う機械式のクラッチ45が収容されている。
機械式のクラッチ45は、図1及び図3に示すように、回転軸20と一体的に回転する回転軸側可動部材(図示略)と、ウォーム軸32と一体的に回転するウォーム軸側従動部材(図示略)が設けられている。また、回転軸側可動部材とウォーム軸側従動部材との間には、動力伝達部材(図示略)が設けられている。動力伝達部材は、回転軸側可動部材に対して、周方向に移動不能かつ径方向に移動可能に配設されている。動力伝達部材は、スプリング(図示略)にて回転軸側可動部材の外周面から突出しないように弾性力が付与されている。
【0031】
そして、回転軸20とともに回転軸側可動部材が回転すると、その回転によって動力伝達部材に遠心力が付与される。遠心力が付与された動力伝達部材は、スプリングの弾性力に抗して径方向外側に移動し、回転軸側可動部材の外周面から突出する。動力伝達部材が回転軸側可動部材の外周面から突出すると、ウォーム軸従動部材の回転軸側可動部材の外周面と相対向する内側面に形成した嵌合凹部に係合する。その結果、ウォーム軸従動部材(ウォーム軸32)は、動力伝達部材を介して回転軸側可動部材(回転軸20)と連結する。
【0032】
反対に、回転軸20(回転軸側可動部材)が回転しないとき、動力伝達部材には遠心力が付与されない。そのため、動力伝達部材は、スプリングの弾性力によって回転軸側可動部材の外周面から突出することはできず、ウォーム軸従動部材の内側面に形成した嵌合凹部に係合しない。これによって、ウォーム軸従動部材(ウォーム軸32)と回転軸側可動部材(回転軸20)とが断絶される。従って、ウォーム軸側従動部材は、ウォーム軸32の回転に伴って、回転軸側可動部材(回転軸20)に対して空転する。その結果、出力軸35側からウォーム軸32を回転させたとき、出力軸35側からみて回転負荷となる回転軸20がウォーム軸32から切り離される。このように本実施形態の機械式のクラッチ45は、回転軸20の駆動の有無によって、ウォーム軸32と回転軸20との連結・断絶を行う。尚、機械式のクラッチ45の詳細は、例えば特許文献1で示した公報を参照すれば、容易にその具体的な原理構成が理解可能なため、更なる詳細な説明は便宜上省略する。
【0033】
このようなクラッチ45が備えられることで、モータ本体12が駆動されて回転軸20が回転すると、クラッチ45を介してウォーム軸32が回転し、該ウォーム軸32の回転にてウォームホイール33を介して出力軸35が回転する。そして、この出力軸35の回転によって、スライドドア3は全開方向又は全閉方向に作動する。これに対して、回転軸20が回転していないとき、クラッチ45ではウォーム軸32と回転軸20とを断絶するため、出力軸35からの回転が容易となる。つまり、手動によるスライドドア3の開閉作動に大きな操作力が必要ない。
【0034】
因みに、出力軸35はスライドドア3と連動しているため、モータ本体12による駆動時と手動操作時との両者でスライドドア3の作動方向に応じて回転するとともに、スライドドア3の作動速度に相対した回転数(回転速度)となる。また、出力軸35の回動量及び回動位置は、スライドドア3の作動量及び作動位置に相対する。このことから、出力軸35と連動するウォーム軸32は、出力軸35の回転方向(スライドドア3の作動方向)に相対して回転するとともに、出力軸35の回転数(スライドドア3の作動速度)に相対した回転数となる。また、ウォーム軸32の回動量及び回動位置は、出力軸35の回動量及び回動位置(スライドドア3の作動量及び作動位置)に相対する。
【0035】
軸収容筒部31cの先端部に設けた軸受37の近傍位置には、回転センサ40が設けられている。回転センサ40は、ウォーム軸32に取着されたセンサマグネット41と、センサマグネット41と対峙するように軸収容筒部31cの内周面に取着した2個のホール素子42a,42bを有している。センサマグネット41は、周方向にN・S極が等ピッチで着磁されたリング状マグネットであって、ウォーム軸32と一体回転するように該ウォーム軸32に装着されている。これに対し、軸収容筒部31cの内周面に取着したホール素子42a,42bは、センサマグネット41の各磁極に応じてH・Lレベルに変化するパルス信号をそれぞれ出力する。また、ホール素子42a,42bは、互いのパルス信号の位相が90度ずれて出力されるように相対配置されている。
【0036】
ECU51は、ホール素子42a,42bから出力されたパルス信号の両方若しくは一方に基づいて、ウォーム軸32の回転方向や回転数、回動量、回動位置の算出を逐次行っている。即ち、ECU51は、これら算出したウォーム軸32の回転方向や回転数、回動量、回動位置から、スライドドア3の作動方向や作動速度、作動量、作動位置の算出を逐次行っている。
【0037】
ECU51は、スライドドア3等に備えられる開閉操作スイッチ(図示略)から、スライドドア3を全閉位置から全開位置に開作動させるための開指令信号So及びスライドドア3を全開位置から全閉位置に閉作動させるための閉指令信号Scが入力される。そして、ECU51は、開指令信号Soを入力したとき、スライドドア3を全開位置に開作動させるべくモータ本体12を駆動制御し、閉指令信号Scを入力したとき、スライドドア3を全閉位置に閉作動させるべくモータ本体12を駆動制御する。また、このスライドドア3の開閉の際、ECU51は、モータ本体12に対してPWM制御を行い、ドア3の速度制御も実施している。
【0038】
また、スライドドア3の所定部位には挟み込み検出センサ52が備えられており、ECU51にはその挟み込み検出センサ52からの検出信号が入力されている。ここで、挟み込み検出センサ52は、例えばスライドドア3の前端部分の上下方向全体に亘って設けられ、閉作動するスライドドア3と車体2の乗降口2aとの間で異物を挟持した、若しくは挟持し得る状態を検出し、挟み込み検出信号をECU51に出力する。ECU51は、挟み込み検出センサ52からの挟み込み検出信号に基づいて、スライドドア3による異物の挟み込みが生じたか(挟み込みが生じ得るか)の判定を行っている。
【0039】
挟み込みが生じた(生じ得る)と判定すると、ECU51は、スライドドア3にて挟み込んだ異物の解放を可能とすべく、閉作動のスライドドア3の反転作動(所定量の開作動)、即ちモータ本体12の駆動を正転から逆転に切り替える。因みに、ECU51は、モータ本体12の正転から逆転に移行する途中にモータ本体12の端子間ショート(一対のブラシ18間のショート)を行い、モータ本体12の回転軸20にブレーキトルクを発生させ、スライドドア3の作動にブレーキ力を付与するブレーキ制御を実施している。
【0040】
また、スライドドア開閉装置1は、全開位置のスライドドア3の保持・解放を行う全開保持ラッチ装置61と連携した動作を行っている。全開保持ラッチ装置61は、駆動源として備えられるドアロックリリース用モータ(リリースモータ)62の駆動にてラッチ63を作動させ、全開位置のスライドドア3を車体2に対して保持、及びその解除を行う。そして、全開位置からのスライドドア3の自動閉作動時には、先に全開保持ラッチ装置61が保持から解放側に切り替えられ、その後、PSDモータ11が作動されてスライドドア3の閉作動が行われる。
【0041】
ここで仮に、図5に示すように、閉指令信号Scに基づいてリリースモータ62を駆動するとともに、ECU51のタイマにて予め一定に設定された規定時間taの計時を開始し、その規定時間taの計時後にPSDモータ11(モータ本体12)の駆動が開始されるとする。規定時間taは、リリースモータ62の駆動によりスライドドア3の全開保持ラッチ装置61による保持が解放側に切り替えられるのに十分な時間に設定されている。従って、全開保持ラッチ装置61が解放側に切り替えられた時点からPSDモータ11が駆動されるまでの残りの規定時間taにおいては、PSDモータ11内のクラッチ45が断絶状態となっているため、スライドドア3が移動可能(空走可能)な状態となっている。このとき、傾斜地への停車にてスライドドア3に自重等が作用すると、ドア3が不意に作動(空走)してしまう。
【0042】
これを踏まえ本実施形態のECU51では、図4に示すように、閉指令信号Scの入力に基づいてリリースモータ62の駆動と、ECU51のタイマによる規定時間taの計時開始とを行うとともに、その後の全開保持ラッチ装置61が解放側となってからスライドドア3が空走したか否かの検出が行われる。つまり、スライドドア3に関して作動方向、作動速度、作動量及び作動位置の検出がドア3の作動に伴って行われるため、例えば作動速度がゼロより大となる、又は作動位置に変化がある等から、ECU51にてスライドドア3の空走の検出が可能である。
【0043】
そして、自重等にてスライドドア3が不意に閉作動し、ドア3の作動速度が判定速度va以上となったことを検出すると、ECU51は、PSDモータ11のモータ本体12の駆動を開始し、該駆動によるスライドドア3の自動閉作動を開始する。つまり、スライドドア3の作動速度が判定速度vaに早く到達するほど(速度上昇が大きいほど)、閉指令信号Scの入力からPSDモータ11(モータ本体12)の駆動開始までの時間が図4の時間t3、時間t2、時間t1のように次第に早くなる。また本実施形態においては、PSDモータ11(モータ本体12)の駆動開始時の回転数(回転速度)がその判定速度vaに見合った速度に設定されるため、クラッチ45前後の軸20,32間の回転速度差が小さく、クラッチ45を含む駆動伝達系にかかる衝撃は小さいものとなっている。
【0044】
また本実施形態では、タイマによる規定時間taの計時も併用されている。即ち、スライドドア3の作動速度の上昇が遅く判定速度vaになかなか到達しない、若しくは平地停車時のようにドア3が空走せずドア3の作動速度がゼロに維持されるような場合、PSDモータ11(モータ本体12)の駆動開始までの時間が遅くなるのが懸念される。そこで、スライドドア3の作動速度が判定速度va以上となる前に、タイマによる規定時間taの計時が終了した時点で、強制的にPSDモータ11(モータ本体12)の駆動を開始し、スライドドア3の自動閉作動が無用に長くならないようにもなっている。尚、このようにスライドドア3の作動速度の上昇が遅い若しくはゼロとなる場合では、閉指令信号Scの入力からPSDモータ11の駆動開始までの時間は規定時間taと同じ時間t4となる。つまり、PSDモータ11の駆動開始までの時間が時間t4より長くなることはない。
【0045】
このように、全開保持ラッチ装置61が保持から解放側に切り替わってスライドドア3が傾斜による自重作用等にて空走しても、そのドア3の作動速度が判定速度vaとなった時点でPSDモータ11の駆動による自動閉作動に切り替わる。そのため、スライドドア3が空走してもその空走が僅かに抑えられ、モータ本体12やクラッチ45にかかる衝撃の軽減が図られる。
【0046】
次に、本実施形態の特徴的な効果を記載する。
(1)ECU51における開閉制御において、閉指令信号Scの入力に基づいて、全開保持ラッチ装置61によるスライドドア3の保持が解放側に切り替えられるとともに、その解放後に取得したドア3の作動速度が判定速度va以上になると、PSDモータ11(モータ本体12)の駆動を開始してドア3の自動閉作動が行われる。これにより、全開保持ラッチ装置61が保持から解放側に切り替わってスライドドア3が傾斜による自重作用等にて空走しても、そのドア3の作動速度が速度vaなった時点でPSDモータ11の駆動による自動閉作動に切り替わる。そのため、スライドドア3が空走してもその空走を僅かに抑えることができ、モータ本体12やクラッチ45にかかる衝撃を軽減することができる。
【0047】
(2)閉指令信号Scの入力から規定時間taがタイマにて計時され、計時される規定時間taよりもPSDモータ11の駆動開始までの時間が長くなるようなドア3の作動状態である場合は、その規定時間taの到達にて強制的にPSDモータ11(モータ本体12)の駆動が開始され、スライドドア3の自動閉作動が行われる。つまり、スライドドア3の作動速度の上昇が遅い、若しくは作動速度がゼロに維持されるような場合(平地駐車時等)、PSDモータ11の駆動開始までの時間が遅くなり得るため、計時される規定時間ta後はPSDモータ11が速やかに駆動され、ドア3の自動閉作動への移行が無用に長くなることを防止することができる。
【0048】
(3)PSDモータ11の駆動開始時には、スライドドア3の作動速度に見合った回転数となるようにモータ11(モータ本体12)が制御される。そのため、クラッチ45前後の軸20,32間の回転速度差を小さくでき、クラッチ45を含む駆動伝達系にかかる衝撃を小さく抑えることができる。
【0049】
(4)クラッチ45は、モータ本体12の回転軸20と減速機構34のウォーム軸32との間に設けられている。つまり、クラッチ45を減速機構34によって減速される前の位置に設けたことで、大きなトルクを受けないことから小型化でき、モータ11全体の小型化を図ることができる。
【0050】
尚、本発明の実施形態は、以下のように変更してもよい。
・上記実施形態では特に言及しなかったが、全閉位置にあるスライドドア3を保持する全閉保持ラッチ装置を備えている場合、上記の閉作動時と同様に、開指令信号Soの入力に基づいて全閉保持ラッチ装置と連携してドア3の開作動を行うようにしてもよい。
【0051】
・上記実施形態では、ドア3の作動速度との比較に1つの判定速度vaを用いたが、2以上の判定値を用いてもよい。
・上記実施形態では、ドア3の作動速度に基づいてPSDモータ11の駆動開始タイミングを決定したが、ドア3の作動位置の変化や作動量の変化等、その他の作動状態に基づいてモータ11の駆動開始タイミングを決定してもよい。
【0052】
・上記実施形態では、クラッチ45をモータ本体12の回転軸20と減速機構34のウォーム軸32との間に設けたが、これ以外の駆動伝達経路上に設けてもよい。
・上記実施形態では、スライドドア3の作動状態の検出をウォーム軸32の回転状態の検出に基づいて行ったが、これ以外の駆動伝達経路上の部材を検出対象としてドア3の作動状態を検出するようにしてもよい。
【0053】
・上記実施形態では、スライドドア3を開閉する車両用ドア開閉装置に適用したが、これ以外の車両ドア、例えばバックドア等のドア開閉装置に適用してもよい。
次に、上記実施形態及び別例から把握できる技術的思想を以下に追記する。
【0054】
(イ) 車両に設けられる開口を開閉するドアをモータの駆動による出力軸の回転に伴って開閉作動させ、前記ドアを自動開閉させる旨の指令が生じると、機械式クラッチが前記モータの駆動とともに接続されて前記モータの回転軸の回転力を前記出力軸に伝達し、該出力軸の回転により前記ドアを開閉作動させる一方、前記モータの非駆動時には前記クラッチが切り離されて前記出力軸と前記回転軸とを断絶し、前記ドアの手動開閉による負荷側からの前記出力軸の回転力を前記回転軸には非伝達とする車両用ドア開閉装置において、前記ドアの全開又は全閉位置に保持するラッチ装置と連携した前記ドアの開閉作動を行う開閉制御手段を備えた車両用ドア開閉装置の制御装置であって、
前記開閉制御手段は、前記ドアの閉指令又は開指令に基づいて前記ラッチ装置による前記ドアの保持を解放側に切り替えるとともに、その解放後の前記ドアの作動状態を検出し、検出した前記ドアの作動状態が所定状態になると、前記モータの駆動を開始して前記ドアの閉又は開作動を行うように制御することを特徴とする車両用ドア開閉装置の制御装置。
【0055】
この構成では、開閉制御において、ドアの閉指令又は開指令が生じると、ラッチ装置によるドアの保持が解放側に切り替えられるとともに、その解放後に検出したドアの作動状態が所定状態になると、モータの駆動を開始してドアの閉又は開作動が行われる。これにより、ラッチ装置が保持から解放側に切り替わってドアが傾斜による自重作用等にて空走しても、そのドアの作動状態(ドアの作動速度や作動位置変化、作動量変化等)が所定状態になった時点でモータの駆動による自動作動に切り替わる。そのため、ドアが空走してもその空走を僅かに抑えることができ、モータやクラッチにかかる衝撃を軽減することができる。
【符号の説明】
【0056】
3…スライドドア(ドア)、11…モータ、12…モータ本体、13…減速部、20…回転軸、32…ウォーム軸、33…ウォームホイール、34…減速機構、35…出力軸、45…クラッチ、51…ECU(開閉制御手段、計時手段)、ta…規定時間(所定時間)、t1〜t4…時間。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に設けられる開口を開閉するドアをモータの駆動による出力軸の回転に伴って開閉作動させ、前記ドアを自動開閉させる旨の指令が生じると、機械式クラッチが前記モータの駆動とともに接続されて前記モータの回転軸の回転力を前記出力軸に伝達し、該出力軸の回転により前記ドアを開閉作動させる一方、前記モータの非駆動時には前記クラッチが切り離されて前記出力軸と前記回転軸とを断絶し、前記ドアの手動開閉による負荷側からの前記出力軸の回転力を前記回転軸には非伝達とする車両用ドア開閉装置において、前記ドアの全開又は全閉位置に保持するラッチ装置と連携した前記ドアの開閉作動を行う開閉制御手段を備えた車両用ドア開閉装置の制御装置であって、
前記開閉制御手段は、前記ドアの閉指令又は開指令に基づいて前記ラッチ装置による前記ドアの保持を解放側に切り替えるとともに、その解放後の前記ドアの作動速度を取得し、取得した前記ドアの作動速度が所定速度以上になると、前記モータの駆動を開始して前記ドアの閉又は開作動を行うように制御することを特徴とする車両用ドア開閉装置の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用ドア開閉装置の制御装置において、
前記ドアの閉指令又は開指令から所定時間を計時する計時手段を備え、
前記開閉制御手段は、前記計時手段にて計時される所定時間よりも前記モータの駆動開始まで時間が長くなるような前記ドアの作動状態である場合は、その所定時間の到達にて強制的に前記モータの駆動を開始し、前記ドアの閉又は開作動を行うように制御することを特徴とする車両用ドア開閉装置の制御装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の車両用ドア開閉装置の制御装置において、
前記開閉制御手段は、前記モータの駆動開始時の前記ドアの作動速度に見合った回転数となるように前記モータを制御することを特徴とする車両用ドア開閉装置の制御装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の車両用ドア開閉装置の制御装置において、
前記モータは、前記回転軸を回転駆動するモータ本体と、前記モータ本体に一体的に組付けられるとともに、前記回転軸の回転力が伝達されるウォーム軸及び前記ウォーム軸に噛合されるウォームホイールを有する減速機構が収容され、前記ウォーム軸及び前記ウォームホイールを経た回転力を前記ウォームホイールと一体的に回転するように連結される前記出力軸から出力する減速部とを備え、
前記クラッチは、前記回転軸と前記ウォーム軸との間に設けられるものであることを特徴とする車両用ドア開閉装置の制御装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の制御装置を備えたことを特徴とする車両用ドア開閉装置。
【請求項6】
車両に設けられる開口を開閉するドアをモータの駆動による出力軸の回転に伴って開閉作動させ、前記ドアを自動開閉させる旨の指令が生じると、機械式クラッチが前記モータの駆動とともに接続されて前記モータの回転軸の回転力を前記出力軸に伝達し、該出力軸の回転により前記ドアを開閉作動させる一方、前記モータの非駆動時には前記クラッチが切り離されて前記出力軸と前記回転軸とを断絶し、前記ドアの手動開閉による負荷側からの前記出力軸の回転力を前記回転軸には非伝達とする車両用ドア開閉装置において、前記ドアの全開又は全閉位置に保持するラッチ装置と連携した前記ドアの開閉作動を行う開閉制御を行う車両用ドア開閉装置の制御方法であって、
前記ドアの閉指令又は開指令に基づいて前記ラッチ装置による前記ドアの保持を解放側に切り替えるとともに、その解放後の前記ドアの作動速度を取得し、取得した前記ドアの作動速度が所定速度以上になると、前記モータの駆動を開始して前記ドアの閉又は開作動を行うようにしたことを特徴とする車両用ドア開閉装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−246664(P2012−246664A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−118330(P2011−118330)
【出願日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(000101352)アスモ株式会社 (1,622)
【Fターム(参考)】