説明

車両用ドライブプレートおよびその製造方法

【課題】製造コスト低減等のために外周部のリングギヤを転造成形によって形成する場合に、切削加工等の後加工を必要とすることなく噛合エラーが発生しないようにする。
【解決手段】車両用ドライブプレート10のリングギヤ12の噛合歯16は、正面側端面40の後側角部に半径が0.70mm程度の凸円弧面50が設けられているため、噛合エラーを発生すること無くピニオン30がリングギヤ12に速やかに噛み合わされるようになる。その場合に、上記凸円弧面50は、正面側端面40、前側歯面42、および後側歯面44を一体の歯付ダイス74によって転造成形する際に同時に転造成形されるため、車両用ドライブプレート10を簡単且つ安価に製造できるとともに歩留りが向上し、ピン角にするための切削加工やバリ取り等の後加工が不要になることと相まって製造コストが低減される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両用ドライブプレートに係り、特に、外周部のリングギヤを転造成形によって形成する場合に切削加工等の後加工を必要とすることなく噛合エラーの発生を防止する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
中心線Oを中心として外周部にリングギヤが設けられ、その中心線Oと平行に配設されたピニオンが軸心まわりに回転駆動されつつ軸方向へ直線移動させられることにより、そのリングギヤの噛合歯の間にそのピニオンの噛合歯が突入して互いに噛み合わされ、そのピニオンによりその中心線Oまわりに回転駆動される車両用ドライブプレートが、各種の車両のエンジンを始動する際に、そのクランク軸を回転駆動(クランキング)するための装置として広く用いられている。特許文献1に記載の装置はその一例で、電磁力によりピニオンを軸方向へ直線移動させるとともに、そのピニオンがリングギヤと完全に噛み合うまではピニオンを低速で回転駆動し、完全に噛み合った後に高速で回転させてエンジンを始動するようになっている。
【特許文献1】特開2003−328912号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、このようにピニオンがリングギヤに完全に噛み合った後に高速で回転させてエンジンを始動する場合、リレー等により回転速度を切り換える必要があるため装置が複雑で高価になるだけでなく、エンジンが始動するまでの時間が長くなる可能性がある。これに対し、ピニオンがリングギヤに噛み合う前から比較的高速で回転させると、ピニオンの噛合歯がリングギヤの噛合歯の正面側端面に当たった時に、跳ね返って噛合エラーを発生する恐れがある。
【0004】
例えば図7の(a) は、車両用ドライブプレートのリングギヤ100を噛合歯102の歯たけ方向の中間部分で破断した断面図で、その噛合歯102のうち、ピニオン104の噛合歯106が突入する正面側端面108と、ピニオン104によって回転駆動される際に回転方向の前側に位置する前側歯面110との角部(前側角部)には、ピニオン104の噛合歯106をリングギヤ100の噛合歯102の間に案内するための平坦な傾斜面112が設けられている。しかしながら、図に実線で示すように、噛合歯102の正面側端面108と、ピニオン104によって回転駆動される際に回転方向の後側に位置する後側歯面114との角部(後側角部)116に、そのピニオン104の噛合歯106の前側角部118が当たった場合、その後側角部116が円弧形状を成していると、ピニオン104はそのまま回転することができないため跳ね返され、電磁力等により再び突入方向へ移動させられるが、その噛合歯106は矢印Aで示すように円弧を描いて回転するため、その回転速度が速いと一点鎖線で示すように隣の噛合歯102の後側角部116に再び当接して噛合エラーを発生することがある。
【0005】
一方、図7の(b) は、上記後側角部116が略直角なピン角の場合で、この場合には、後側角部116にピニオン104の噛合歯106の前側角部118が当たっても殆ど跳ね返されることがなく、矢印Aで示すようにそのまま回転方向へ回転して次の噛合歯102との間に入り込むか、或いは後側角部116との引っ掛かりが僅かであれば、矢印Bで示すようにそのまま突入して噛み合い、噛合エラーを生じることはない。しかしながら、例えば製造コストを低減するためにリングギヤ100を転造成形する場合、図7の(b) のように後側角部116をピン角にすることは不可能であるため、噛合歯102を転造成形した後に切削加工等で後側角部116をピン角にする必要があり、加工工数が増えるとともに材料の歩留りが悪くなり、必ずしも十分に製造コストを低減する効果が得られない。
【0006】
本発明は以上の事情を背景として為されたもので、その目的とするところは、製造コスト低減等のために外周部のリングギヤを転造成形によって形成する場合に、切削加工等の後加工を必要とすることなく噛合エラーが発生しないようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成するために、第1発明は、(a) 中心線Oを中心として外周部にリングギヤが設けられ、その中心線Oと平行に配設されたピニオンが軸心まわりに回転駆動されつつ軸方向へ直線移動させられることにより、そのリングギヤの噛合歯の間にそのピニオンの噛合歯が突入して互いに噛み合わされ、そのピニオンによりその中心線Oまわりに回転駆動されるとともに、(b) 前記リングギヤの噛合歯のうち、少なくとも前記ピニオンの噛合歯が突入する正面側端面、そのピニオンによって回転駆動される際に回転方向の前側に位置する前側歯面、およびそのピニオンによって回転駆動される際に回転方向の後側に位置する後側歯面を有する部分は、一体に構成された歯付ダイスにより転造成形されており、(c) 前記正面側端面と前記前側歯面との角部には、前記ピニオンの噛合歯を前記リングギヤの噛合歯の間に案内するための平坦な傾斜面が前記歯付ダイスによる転造成形によって同時に設けられている車両用ドライブプレートであって、(d) 前記正面側端面と前記後側歯面との角部には、半径R1が0.95mm未満の凸円弧面が前記歯付ダイスによる転造成形によって同時に設けられていることを特徴とする。
【0008】
第2発明は、第1発明の車両用ドライブプレートにおいて、(a) 前記傾斜面は、傾斜角度φが44°〜46°の範囲内で、傾斜範囲Lが1.5mm〜2.5mmの範囲内であり、(b) 前記凸円弧面は、半径R1が0.65mm〜0.90mmの範囲内であり、(c) 前記ピニオンの噛合歯が前記リングギヤの噛合歯の間に突入する際のそのピニオンの回転速度は、1000rpm〜2000rpmの範囲内であることを特徴とする。
【0009】
第3発明は、(a) 中心線Oを中心として外周部にリングギヤが設けられ、その中心線Oと平行に配設されたピニオンが軸心まわりに回転駆動されつつ軸方向へ直線移動させられることにより、そのリングギヤの噛合歯の間にそのピニオンの噛合歯が突入して互いに噛み合わされ、そのピニオンによりその中心線Oまわりに回転駆動されるとともに、(b) 前記リングギヤの噛合歯のうち、前記ピニオンの噛合歯が突入する正面側端面と、そのピニオンによって回転駆動される際に回転方向の前側に位置する前側歯面との角部には、そのピニオンの噛合歯をそのリングギヤの噛合歯の間に案内するための平坦な傾斜面が設けられ、(c) 前記正面側端面と、前記ピニオンによって回転駆動される際に回転方向の後側に位置する後側歯面との角部には、半径R1が0.65mm以上で且つ0.95mm未満の凸円弧面が設けられている車両用ドライブプレートの製造方法であって、(d) 前記リングギヤの噛合歯のうち、前記傾斜面および前記凸円弧面を含んで少なくとも前記正面側端面、前記前側歯面、および前記後側歯面を有する部分を、一体に構成された歯付ダイスにより同時に転造成形することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
第1発明の車両用ドライブプレートは、正面側端面と後側歯面との角部(後側角部)に半径R1が0.95mm未満の凸円弧面が設けられているため、本発明者等の実験によれば噛合エラーを発生すること無くピニオンがリングギヤに速やかに噛み合わされるようになる。その場合に、凸円弧面は、正面側端面や前側歯面、後側歯面を有する部分を歯付ダイスによって転造成形する際に同時に転造成形されるため、車両用ドライブプレートを簡単且つ安価に製造できるとともに歩留りが向上し、ピン角にするための切削加工やバリ取り等の後加工が不要になることと相まって製造コストが低減される。
【0011】
上記後側角部に半径R1が0.65mm以上で且つ0.95mm未満の凸円弧面が設けられている車両用ドライブプレートを、一体に構成された歯付ダイスにより転造成形する第3発明の製造方法においても、実質的に上記第1発明と同様の効果が得られる。
【0012】
第2発明では、傾斜面の傾斜角度φが44°〜46°の範囲内で、傾斜範囲Lが1.5mm〜2.5mmの範囲内であり、且つ凸円弧面の半径R1が0.65mm〜0.90mmの範囲内の場合で、その場合には、ピニオンの噛合歯がリングギヤの噛合歯の間に突入する際のそのピニオンの回転速度が1000rpm〜2000rpmの比較的高回転であっても、本発明者等の実験によれば噛合エラーを発生すること無くピニオンを速やかにリングギヤに噛み合わせることが可能で、車両用ドライブプレートを速やかに高速で回転させてエンジンを始動することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の車両用ドライブプレートは、リングギヤの噛合歯のうち、傾斜面および凸円弧面を含んで少なくとも正面側端面、前側歯面、および後側歯面を有する部分、言い換えればピニオンと接する可能性がある部分が、一体に構成された歯付ダイスにより転造成形されるようになっておれば良く、ピニオンとの噛合に影響する部分にバリ等を生じる恐れがなく、切削加工等の後加工が不要である。正面側端面と反対側の背面側端面については、例えば別体に構成された端面拘束板等をボルト等により歯付ダイスに一体的に固定することにより成形することが可能であるが、背面側端面を含めてリングギヤの全体を単一の一体の歯付ダイスによって転造成形することも可能である。
【0014】
正面側端面と後側歯面との角部(後側角部)には、半径R1が0.95mm未満の凸円弧面が転造成形によって設けられるが、これは、本発明者等の実験によれば、R1≒0.95mmでは噛合エラーが発生したのに対し、R1≒0.70mm、R1≒0.80mmでは噛合エラーが発生しなかったため、0.95mm未満とした。また、凸円弧面の半径R1は幾ら小さくても差し支えないが、0.60mm以下の小さな円弧面を転造成形で形成するには、転造圧力等の成形条件が厳しくなり、歯付ダイスの耐久性が損なわれる可能性があるため、0.60mmより大きいことが望ましく、0.95mmでは噛合エラーが発生することから0.65mm〜0.90mmの範囲内が望ましく、特に0.65mm〜0.75mmの範囲が適当である。但し、幾何学的な意味において厳密に半径R1の凸円弧面である必要はなく、製造上の都合等により周方向や長手方向すなわち角部の稜線方向において半径R1が多少変化していても良い。このような転造成形は熱間で行なうことが望ましい。
【0015】
傾斜面は、例えば傾斜角度φが44°〜46°の範囲内で、傾斜範囲Lが1.5mm〜2.5mmの範囲内で設定されるが、第1発明の実施に際しては、噛合エラーが発生しないことを条件としてこれ等の範囲を逸脱して設定することも可能である。ピニオンの噛合歯がリングギヤの噛合歯の間に突入する際のピニオンの回転速度は、例えば1000rpm〜2000rpmの範囲内であるが、第1発明の実施に際しては、噛合エラーが発生しないことを条件としてこの範囲を逸脱して設定することも可能である。また、ピニオンの噛合歯がリングギヤの噛合歯の間に突入する際のピニオンの軸方向の移動速度(突入速度)は、例えば250mm/秒〜350mm/秒程度である。
【0016】
本発明の車両用ドライブプレートは、リングギヤを含めて一体に構成することが望ましく、例えば円板状素材の外周部を増肉ローラにより増肉成形してリングギヤの歯幅と略同じ肉厚を有する厚肉部を形成し、その厚肉部に噛合歯を転造成形することによって製造される。但し、車両用ドライブプレートの略平坦なプレート部とリングギヤとを別体に構成し、溶接やボルト等の固設手段により一体的に固設することも可能で、種々の態様を採用できる。
【実施例】
【0017】
以下、本発明の実施例を、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は、本発明が適用された車両用ドライブプレート10の断面図で、中心線Oを中心とする円板形状を成していて外周部にリングギヤ12が設けられており、図1ではその上側半分が示されている。この車両用ドライブプレート10は、図4の(a) に示すように板厚が略一定の鋼板等の金属板から成る円板状素材20を用いて一体に構成されたもので、先ず(b) に示すように、円板状素材20の外周部に増肉ローラを用いて増肉加工が施されることにより、リングギヤ12の幅寸法より少し小さい肉厚の厚肉部14が外周部に設けられたドライブプレート用素材22が得られる。その後、(c) に示すように、その厚肉部14の外周面に転造加工を施して周方向に連続して多数の噛合歯16を転造成形することによりリングギヤ12が形成され、円板状素材20と略同じ板厚の内周側のプレート部18の外周部にリングギヤ12が一体に設けられた車両用ドライブプレート10が得られる。図4の(a) 〜(c) は、図1における車両用ドライブプレート10と同様に中心線Oを含む断面図で、中心線Oよりも上側半分を示したものである。
【0018】
そして、このような車両用ドライブプレート10は、図1に示すように、中心線Oと平行に配設されたピニオン30が、突入回転装置34により軸心まわりに回転駆動されつつ軸方向へ直線移動させられることにより、前記リングギヤ12の噛合歯16の間にピニオン30の噛合歯32が突入して互いに噛み合わされ、そのピニオン30により中心線Oまわりに回転駆動される。車両用ドライブプレート10は、トルクコンバータにボルト等を介して一体的に固設されてエンジンのクランク軸に連結され、上記ピニオン30によって中心線Oまわりに回転駆動されることによりクランク軸を回転駆動し、燃料噴射等の始動制御が行なわれることによりエンジンが始動させられる。上記突入回転装置34は、ピニオン30を回転駆動する電動モータや軸方向へ直線移動させる電磁ソレノイド等を有して構成されており、停止状態のピニオン30を回転駆動すると同時に軸方向へ移動させるもので、リングギヤ12と噛み合う際のピニオン30の回転速度は1000rpm〜2000rpmの範囲内で本実施例では約1500rpmであり、軸方向の突入速度は250mm/秒〜350mm/秒の範囲内で本実施例では約300mm/秒である。
【0019】
ここで、本実施例のリングギヤ12の噛合歯16は、図2に示すように構成されている。図2の(a) は一つの噛合歯16を示す図で、前記ピニオン30の噛合歯32が突入させられる正面側の斜め上方から見た斜視図であり、(b) は(a) における IIB平面で切り欠いた断面図である。これ等の図において、噛合歯16は、ピニオン30の噛合歯32が突入する正面側端面40、ピニオン30によって回転駆動される際に回転方向の前側に位置する前側歯面42、ピニオン30によって回転駆動される際に回転方向の後側に位置する後側歯面44、および正面側端面40と反対側の背面側端面46を備えている。そして、正面側端面40と前側歯面42との角部(前側角部)には、ピニオン30の噛合歯32をリングギヤ12の噛合歯16の間に案内するための平坦な傾斜面48が設けられており、正面側端面40と後側歯面44との角部(後側角部)には、半径R1が0.95mm未満の凸円弧面50が設けられている。
【0020】
上記傾斜面48の傾斜角度φは44°〜46°の範囲内で、本実施例ではφ=45°をねらい値として成形されており、その傾斜面48の傾斜範囲Lは1.5mm〜2.5mmの範囲内で、本実施例では2.0mmをねらい値として成形されている。この傾斜面48の両端、すなわち前側歯面42および正面側端面40と交差する各稜線部分には、それぞれ半径が約1.1mm程度の円弧面が設けられ、滑らかに接続されている。傾斜範囲Lは、図2の(b) において平坦な傾斜面48と正面側端面40とを直線的に延長した場合の交点までの距離、すなわち円弧面を設けない状態での傾斜面48の成形範囲である。また、凸円弧面50の半径R1は、本実施例では0.65mm〜0.90mmの範囲内で、特に0.65mm〜0.75mmの範囲内となるように0.70mmをねらい値として成形されている。
【0021】
そして、このような噛合歯16を備えているリングギヤ12によれば、正面側端面40の後側角部に半径R1が0.70mm程度の凸円弧面50が設けられているため、本発明者等の実験によれば噛合エラーを発生すること無くピニオン30がリングギヤ12に速やかに噛み合わされるようになった。図3は、前記図7の(a) 、(b) に対応する断面図であり、実線で示すように後側角部の凸円弧面50にピニオン30の噛合歯32の前側角部33が当たっても、矢印Aで示すように僅かに跳ね返されるものの直ちに突入方向へ前進させられ、回転に伴って一点鎖線で示すように次の噛合歯16との間に入り込むか、或いは凸円弧面50との引っ掛かりが僅かであれば、矢印Bで示すようにそのまま突入して噛み合い、噛合エラーを生じることはないのである。
【0022】
図5は、前記ドライブプレート用素材22の厚肉部14に転造加工を施して噛合歯16を転造成形する転造成形装置60の要部構成を説明する断面図で、互いに平行な中心線S1 、S2 まわりに回転可能に配設されている回転クランプ装置62および転造ダイス64を備えている。回転クランプ装置62は、一対のマンドレル66、68によりドライブプレート用素材22を両側から挟圧して同心に一体的に保持するとともに、図示しないモータにより所定の回転速度で中心線S1 (O)まわりに回転駆動する。ドライブプレート用素材22は、外周部の厚肉部14がマンドレル66、68から外周側へ突き出す状態で一体的に保持される。
【0023】
転造ダイス64には、前記噛合歯16に対応する成形歯72を有する成形溝70が設けられているとともに、図示しない直線駆動装置により中心線S2 に対して垂直方向であって中心線S1 に向かう一直線方向、すなわちドライブプレート用素材22の径方向に移動させられ、回転クランプ装置62に接近させられる。そして、回転クランプ装置62に固定されて一体的に回転駆動されるドライブプレート用素材22の外周部が成形溝70内に挿入され、その成形溝70内に設けられた成形歯72が厚肉部14の外周面に接するようになると、転造ダイス64は中心線S2 まわりにに連れ廻りさせられ、その状態で更に回転クランプ装置62に接近させられることにより厚肉部14に成形歯72が食い込み、塑性変形によって前記噛合歯16が形成される。なお、回転クランプ装置62を転造ダイス64に対して接近させることにより、ドライブプレート用素材22の厚肉部14に転造成形加工が行なわれるように構成することもできる。
【0024】
図6は、上記転造ダイス64の成形溝70の近傍を拡大して示す図で、この転造ダイス64は、前記成形歯72が形成された歯付ダイス74と背面側端面拘束板76とから構成されており、締結手段であるボルト78(図5参照)を介して一体的に固設されることにより、それ等の歯付ダイス74および背面側端面拘束板76によって前記成形溝70が形成されるようになっている。すなわち、歯付ダイス74は、前記リングギヤ12の噛合歯16のうち、前記傾斜面48および凸円弧面50を含んで正面側端面40、前側歯面42、および後側歯面44を有する部分を成形するために、それ等に対応する成形面を一体に備えており、背面側端面拘束板76によって前記背面側端面46が成形されるのである。傾斜面48および凸円弧面50を含んで正面側端面40、前側歯面42、および後側歯面44が一体の歯付ダイス74によって転造成形されることから、ピニオン30と接する部分にバリ等の突起が発生する恐れがなく、バリ取り等の後加工が不要であり、噛合歯16を有する車両用ドライブプレート10を簡単且つ安価に製造できる。
【0025】
このように、本実施例の車両用ドライブプレート10は、正面側端面40の後側角部に半径R1が0.70mm程度の凸円弧面50が設けられているため、噛合エラーを発生すること無くピニオン30がリングギヤ12に速やかに噛み合わされるようになる。その場合に、上記凸円弧面50は、正面側端面40、前側歯面42、および後側歯面44を一体の歯付ダイス74によって転造成形する際に同時に転造成形されるため、車両用ドライブプレート10を簡単且つ安価に製造できるとともに歩留りが向上し、ピン角にするための切削加工やバリ取り等の後加工が不要になることと相まって製造コストが低減される。
【0026】
特に、本実施例では傾斜面48の傾斜角度φが45°程度で、傾斜範囲Lが2.0mm程度であり、且つ凸円弧面50の半径R1が0.70mm程度であるため、ピニオン30の噛合歯32がリングギヤ12の噛合歯16の間に突入する際のそのピニオン30の回転速度が1500rpm程度の高回転で、突入速度が300mm/秒程度の高速度であっても、噛合エラーを発生すること無くピニオン30を速やかにリングギヤ12に噛み合わせることが可能で、車両用ドライブプレート10を速やかに高速で回転させてエンジンを始動することができる。
【0027】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施例である車両用ドライブプレートを説明する断面図で、併せてピニオンとの位置関係を説明する図である。
【図2】図1の車両用ドライブプレートのリングギヤの噛合歯を説明する図で、(a) は斜視図、(b) は(a) の IIB平面における断面図である。
【図3】図1の車両用ドライブプレートのリングギヤとピニオンとの噛合を説明する断面図である。
【図4】図1の車両用ドライブプレートの製造工程を説明する断面図である。
【図5】図4の(b) のドライブプレート用素材に転造加工を施して(c) の車両用ドライブプレートを転造成形する転造成形装置を説明する断面図である。
【図6】図5の転造成形装置の転造ダイスの成形溝付近を拡大して示す断面図である。
【図7】従来の車両用ドライブプレートのリングギヤとピニオンとの噛合を説明する断面図で、図3に対応する図であり、(a) は正面後側角部の半径が大きくて噛合エラーが発生する場合、(b) は正面後側角部が略ピン角の場合である。
【符号の説明】
【0029】
10:車両用ドライブプレート 12:リングギヤ 16:噛合歯 30:ピニオン 32:噛合歯 40:正面側端面 42:前側歯面 44:後側歯面 48:傾斜面 50:凸円弧面 60:転造成形装置 74:歯付ダイス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心線Oを中心として外周部にリングギヤが設けられ、該中心線Oと平行に配設されたピニオンが軸心まわりに回転駆動されつつ軸方向へ直線移動させられることにより、該リングギヤの噛合歯の間に該ピニオンの噛合歯が突入して互いに噛み合わされ、該ピニオンにより該中心線Oまわりに回転駆動されるとともに、
前記リングギヤの噛合歯のうち、少なくとも前記ピニオンの噛合歯が突入する正面側端面、該ピニオンによって回転駆動される際に回転方向の前側に位置する前側歯面、および該ピニオンによって回転駆動される際に回転方向の後側に位置する後側歯面を有する部分は、一体に構成された歯付ダイスにより転造成形されており、
前記正面側端面と前記前側歯面との角部には、前記ピニオンの噛合歯を前記リングギヤの噛合歯の間に案内するための平坦な傾斜面が前記歯付ダイスによる転造成形によって同時に設けられている車両用ドライブプレートであって、
前記正面側端面と前記後側歯面との角部には、半径R1が0.95mm未満の凸円弧面が前記歯付ダイスによる転造成形によって同時に設けられている
ことを特徴とする車両用ドライブプレート。
【請求項2】
前記傾斜面は、傾斜角度φが44°〜46°の範囲内で、傾斜範囲Lが1.5mm〜2.5mmの範囲内であり、
前記凸円弧面は、半径R1が0.65mm〜0.90mmの範囲内であり、
前記ピニオンの噛合歯が前記リングギヤの噛合歯の間に突入する際の該ピニオンの回転速度は、1000rpm〜2000rpmの範囲内である
ことを特徴とする請求項1に記載の車両用ドライブプレート。
【請求項3】
中心線Oを中心として外周部にリングギヤが設けられ、該中心線Oと平行に配設されたピニオンが軸心まわりに回転駆動されつつ軸方向へ直線移動させられることにより、該リングギヤの噛合歯の間に該ピニオンの噛合歯が突入して互いに噛み合わされ、該ピニオンにより該中心線Oまわりに回転駆動されるとともに、
前記リングギヤの噛合歯のうち、前記ピニオンの噛合歯が突入する正面側端面と、該ピニオンによって回転駆動される際に回転方向の前側に位置する前側歯面との角部には、該ピニオンの噛合歯を該リングギヤの噛合歯の間に案内するための平坦な傾斜面が設けられ、
前記正面側端面と、前記ピニオンによって回転駆動される際に回転方向の後側に位置する後側歯面との角部には、半径R1が0.65mm以上で且つ0.95mm未満の凸円弧面が設けられている車両用ドライブプレートの製造方法であって、
前記リングギヤの噛合歯のうち、前記傾斜面および前記凸円弧面を含んで少なくとも前記正面側端面、前記前側歯面、および前記後側歯面を有する部分を、一体に構成された歯付ダイスにより同時に転造成形する
ことを特徴とする車両用ドライブプレートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−241131(P2009−241131A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−91985(P2008−91985)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000100827)アイシン機工株式会社 (122)
【Fターム(参考)】