説明

車両用ナイトビジョンシステム

本発明は、1つの放射源と1つのフィルタとを備える自動車用赤外線照射装置、たとえば前照灯に関する。この装置は軸方向に800〜1200nmの波長域の所定の強度の白色および赤外放射を送出し、フィルタは第1の角度下で放射源の第1の可視部分を透過させるとともに、第1の角度とは異なる第2の角度下で放射源の第2の可視部分を透過させることができ、透過させられた双方の部分はそれぞれ白色光を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両用ナイトビジョン補助システムに関する。車両の前方外側に向けて放射を送出する赤外線前照灯ならびに赤外線カメラおよびカメラによって撮影された可視画像をドライバーに伝達するシステムからなるこの種のシステムは公知に属する。前照灯は白色光源と、放射源の放射の可視部分を抑止して赤外領域部分を透過させるフィルタとを有している。
【背景技術】
【0002】
ただし、この種のフィルタは実際にはしばしば、可視的な、特に赤色領域の放射の一部を透過させる。しかしながらこの種の赤色透過放射はその強度の如何にかかわらず前照灯にとって妨害的なものである。というのもそれは他のドライバーにとって車両のフロント側とリア側との混同を生じさせる虞があるからである。だが、赤外放射の有効部分つまり800nm〜1000nmの放射領域を透過させると同時に赤色光を抑止するという点でのフィルタの改善には高コストが必要である。この場合、抑止さるべき(赤色)領域が透過さるべき有用な赤外領域に直接隣接していることが問題である。このため、要求される、赤色領域の非常に良好な抑止と、要求される、IR領域の非常に良好な透過とは互いに対立していることから、フィルタの透過特性は鋭いエッジを有することが不可欠であろう。
【0003】
この問題を解決するためにドイツ特許第69903076号明細書は、装置の軸に沿って白色放射と赤外放射とが送出されるように透過率が設定されたフィルタを有する赤外線照射装置を開示しており、この場合、白色放射の強度はゼロである必要はまったくないが、2000Cd以下である。
【0004】
これはフィルタが赤外放射(IR線)、紫外放射(UV線)ならびに可視的な、青色および赤色に近い放射および、これらの間の黄緑色の基本色を有する可視基本放射を透過させることによって達成される。図1は、ドイツ特許第69903076号明細書の実施形態に準拠し、そのために使用することのできるノッチフィルタの透過率Tを波長λの関数として図示したものである。この場合、透過させられたその他の可視放射はその後に白色印象に合成される。
【0005】
この種のノッチフィルタは多層システムによって実現することができる。この場合、フィルタの反射および透過特性は基本的に干渉効果に基づいている。従来の技術によれば、このフィルタは透過させられた可視部分が白色光を合成するようにして放射源の可視放射を透過させることによって実現される(ドイツ特許第69903076号の請求項3、参照)。ただし、干渉フィルタは角度依存的な透過特性を示すことから、フィルタは前照灯のそれぞれの照射ジオメトリに適合されなければならない。たとえば図3aは、フィルタ10への入射が基本的に垂直に行なわれる照射ジオメトリによる前照灯2を示している。これに対して、図3bに示した前照灯の照射ジオメトリは、垂直な入射が基本的にいかなる役割も果たさないジオメトリを表している。しかしながら、このようにしてその都度新しいジオメトリにフィルタを適合させることは複雑であり、それゆえコスト高となる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって本発明の目的は、その透過特性が照射ジオメトリの変化に対して大きな許容度を有するフィルタを提供することである。
【0007】
もう1つの問題は、この種の干渉フィルタの製造と結びついた、回避困難なデザイン不安定性である。光学層の厚さならびに層の屈折率は透過特性を共に規定する重要なパラメータの一部である。この場合、コーティング工程中または、むしろもっと起こりそうに思われるが、1つのコーティング工程から次のコーティング工程までの間のこれらのパラメータの僅かな変動が、可視光のどの部分がどのように透過させられるかに影響をもたらす。この場合、可視放射の小部分(たとえば0.5%程度)が透過させられるだけでよく、それゆえ、ごくわずかな透過不安定性でさえも色印象に大きな変化をもたらし得るという点に特に留意しなければならない。
【0008】
したがって本発明のもう1つの目的は、照射装置に必要な干渉フィルタを、製造不安定性を減少させるためのコスト集約的な対策を要することなく、高効率で製造することを可能にする方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による解決法
当業者に知られているように、色印象は基本的に以下の3つの影響因子によって決定される。こうした因子とは、つまり、a)光源の放射特性(典型的な光源は緑色または黄緑色のスペクトル領域にその最大値を有している)、b)ヒトの視覚器官の波長依存的な対光感受性と関連した生理学的要因(この場合、対光感受性は黄色領域で最高である)、c)使用される光学系の透過特性、である。技術的には色印象はいわゆる色座標によって詳細に規定することができる。図2は、青(B)、緑(G)、赤(R)および黄(Y)の色印象が当該線図にどのように対応させられるかを示したものである。さらに、図2において、破線で囲まれた範囲は白色の色印象が優勢な領域である。
【0010】
図2に記入された斜線を施した範囲は、システムに目下指定された、遵守さるべきいわゆるECE規格に準拠した法定許容領域を表している。この許容領域は再度、図4に拡大されて表されている。
【0011】
照射装置から送出される放射は、法的に許容されるために、このECE領域内になければならない。課題は、今や、さまざまに異なった照射ジオメトリにとってこれを同時に実現することである。通例、典型的な放射源はそれが実際に放射するあらゆる方向に、基本的に同一のスペクトル特性で放射を行う。照射ジオメトリに対する所望の許容度を達成するために、本発明によるフィルタは、広い範囲に及ぶ入射角に対してそれぞれ可視放射の一部を透過させ、しかも当該範囲のいずれの入射角に対しても本来白色光が透過させられるようにする特性を有している。
【0012】
これは透過させられた放射がフィルタを透過した直後に当該範囲のいずれの角度に対しても同一の色座標を結果することによって実現されることができる。ただし、このような限定的な条件は少しも必要ではない。本発明者が確認したように、入射角範囲に対してそれぞれ法的に許容される領域内にある色座標の実現が保証されればすでに十分である。本発明者がさらに確認したように、この場合、青−黄軸(図4のA−A’軸)に沿った変化を許容するのが特に有利である。したがって、干渉フィルタの製造にあたっては、デザイン段階中にあっても製造段階中にあっても、緑色領域のフィルタの透過特性が特に安定していることに特別な注意が向けられる。これは製造許容差についても、角度依存性についても当てはまる。他方、青色領域および黄色−赤色領域の安定性にはもっと低い要件が設定される。これは入射角に対する色座標の変化および/または製造許容差が生ずるという結果をもたらしはするが、この変化は基本的に図4のA−A’軸に沿って生じている。これにより、これまで従来の技術によって可能であったよりもより容易かつ良好に法定要件を遵守することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、1実施例に基づき、0°〜40°の角度範囲につきすべてECE白色領域内にある色座標を結果する本発明によるフィルタの製造法を説明する。
【0014】
このフィルタは、オスラム社[Osram]製のH11型ハロゲン前照灯(12V,55W,64211SUP)を備えたナイトビジョン補助システムに使用される。当該スペクトルカーブは図5に表されている。この種の前照灯の構造は図6aに表されている。
【0015】
フィルタ基材としてはコーニングガラス基材が使用される。
一例として、コーティング材料の酸化ニオブおよびSiO2がそれぞれフィルタ用の高屈折率材料および低屈折率材料として使用される。別途コーティング材料として、たとえば酸化チタン/酸化ケイ素または酸化タンタル/酸化ケイ素を使用することもできよう。
【0016】
多層システムの所要の層厚さを求めるために、汎用薄層計算プログラムが使用された(Optilayer for Windows(登録商標) von den Herren A.Tikhonravov und M.Trubetskov)。
【0017】
いわゆるRayTraceプログラム(ASAP、汎用ソフトウェア)つまり、複雑な光学系における光線経路のシミュレーションを可能にするソフトウェアによって、いかなる入射角が関係しているかが確認される。ここで説明される実施例につき、ASAPによる計算から、フィルタへの重点的な入射角は20°であることが判明する。ただし、厳密なシステムレイアウトからの大幅な独立性が達成されるように、デザインはさらに0〜40°について最適化されるため、変化は“ECE白色領域軸”(図4のA−A’軸)に沿って生ずる。
【0018】
このため、デザインはそれぞれ角度ごとに段階的に最適化される。第1段階として、20°の入射角につき、可視領域において平均で0.5%以下が透過させられるデザインが求められる。このデザインはさらに鋭いエッジを有し、T=50%の点がたとえば780nmにあって、赤外領域(波長800〜1000nm)について75%以上を透過させる必要があろう。さらに、使用時に人の眼を保護するため、このデザインは約1040nm以上から少なくとも25nmの幅で近赤外領域において60%以下が透過させられるように設計される。
【0019】
したがって、20°の入射角につき、スペクトル特性の保持下で、色箇所はそれができるだけECE規格の領域の中心(したがって、座標:x=0.375、y=0.375にできるだけ近く、好ましくは正確にその位置)にくるように最適化される。続いて、入射角0°、30°および40°の色座標は、それらがECE規格の領域内に位置するように最適化される。ただし、これらの入射角につき、20°の入射角と同じ色座標が実現される必要はない。要求されるのは、単に、角度変化ができるだけECE白色領域内で、図4にA−A’で示唆された軸に沿って生ずることであるにすぎない。これは、異なった角度のスペクトルが緑色領域(480〜580nm)につきできるだけ小さな変化を有するように注意すれば、特に容易に達成される。こうした最適化の結果は、図6bに、入射角0°、10°、20°、30°および40°について表されている。A−A’軸は一次式y=0.695x+0.1によって定義することができる。図6bにおいて明白に看取されるのは、入射角が増大するとともにx座標が単調に増加することである。Y座標は、x座標が0.31≦x≦0.45の範囲にある場合、定義された直線からの偏倚が最大で0.025である必要があろう。この範囲以下のxについては色箇所はもはやECE領域内になく、この範囲以上のxについてはむしろ、ECE領域も同様な推移を示すことからして、水平な推移が望ましい。
【0020】
緑色領域における変化の制限は、最適化に際してこの領域が高く加重化されることによって達成される。これは、入射角0°〜40°のフィルタデザインがECE白色領域に沿って推移することを保証するために必要であるのみならず、緑色領域が最大の影響を有することからして、光度変化をわずかに保つためにも必要である。
【0021】
表1には光学層の厚さの分布および使用された屈折率が挙げられている。
使用された材料の酸化ニオブの屈折率は2.34であり、酸化ケイ素のそれは1.47である。
【0022】
フィルタの製造には、たとえばスパッタテクノロジーが使用された(より正確には、反応性直流マグネトロンスパッタリング)。プロセスの間、インサイチュウにて、持続的に光学スペクトルが求められ(モニタリング)、スパッタプロセスは、計算された目標スペクトルからの偏倚が測定されると、補正される。これにより、実現されたフィルタは実際に、特に緑色領域において、要求された光学特性を有することが達成される。換言すれば、色箇所がECE白色領域で推移するように、製品製造時のモニタリングは特に480〜580nmの波長領域において最も高く加重される。
【0023】
別法として、その他のコーティング技法を使用することも可能である。この種の技法に属するのは特にPVDおよびCVDプロセスである。PVDプロセスとして、特にこのプロセスにプラズマが援用されれば、たとえば加熱蒸発を使用することができる。
【0024】
この種のフィルタが前照灯の光路に取り付けられれば、自動車用の赤外線照射装置たとえば、少なくとも1つの放射源と1つのフィルタとを有する前照灯を実現することができる。この装置は軸方向に800〜1200nmの波長域の白色および赤外放射を送出することができ、その際、赤外放射は25W/sr以上の強度を有し、白色放射は2000Cd以下の、ただしゼロではない強度を有する。フィルタは第1の角度下で放射源の第1の部分放射の第1の可視部分を透過させ、第1の角度とは異なる第2の角度下で放射源の第2の部分放射の第2の可視部分を透過させることができる。特徴は、透過させられた第1の可視部分が白色光を形成し、透過させられた第2の可視部分も同じく白色光を形成することである。
【0025】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】

【図2】

【図3a】

【図3b】

【図4】

【図5】

【図6a】

【図6b】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの放射源(2)と1つのフィルタ(10)とを有し、装置は軸方向に800〜1200nmの波長域の白色および赤外放射を送出することができ、赤外放射は25W/sr以上の強度を有し、白色放射は2000Cd以下の、ただしゼロではない強度を有し、フィルタは第1の角度下で放射源の第1の部分放射の第1の可視部分を透過させるとともに、第1の角度とは異なる第2の角度下で放射源の第2の部分放射の第2の可視部分を透過させることができるように構成した自動車用赤外線照射装置たとえば前照灯であって、
第2の角度は第1の角度とは基本的に相違し、透過させられた第1の可視部分は白色光を形成し、透過させられた第2の可視部分も白色光を形成することを特徴とする赤外線照射装置。
【請求項2】
双方の角度のうち大きい方の角度が達する当該透過可視部分の色箇所のx座標は、小さい方の角度が達する透過可視部分の色箇所のx座標よりも大きいことを特徴とする、請求項1に記載の赤外線照射装置。
【請求項3】
少なくとも1つの放射源(2)と1つのフィルタ(10)とを有し、装置は軸方向に800〜1200nmの波長域の白色および赤外放射を送出することができ、赤外放射は25W/sr以上の強度を有し、白色放射は2000Cd以下の、ただしゼロではない強度を有するように構成した自動車用赤外線照射装置たとえば前照灯であって、1つの第1の角度と1つの第2の角度とを規定する0°〜40°の角度範囲内の任意の各角度対につき、フィルタは第1の角度下で放射源の第1の部分放射の第1の可視部分を透過させるとともに、第1の角度とは異なる第2の角度下で放射源の第2の部分放射の第2の可視部分を透過させることができ、透過させられた第1の可視部分は白色光を形成し、透過させられた第2の可視部分も白色光を形成することを特徴とする赤外線照射装置。
【請求項4】
0.31≦x≦0.45の範囲のx座標に対し、それぞれの角度に応じて透過させられた可視部分の色箇所のそれぞれのy座標は式y=0.696x+0.1によって定義される直線から0.025以上偏倚しないことを特徴とする、請求項2または3のいずれか1項に記載の赤外線照射装置。

【公表番号】特表2008−505001(P2008−505001A)
【公表日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−518434(P2007−518434)
【出願日】平成17年6月17日(2005.6.17)
【国際出願番号】PCT/CH2005/000339
【国際公開番号】WO2006/002558
【国際公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【出願人】(596013501)オー・ツェー・エリコン・バルザース・アクチェンゲゼルシャフト (55)
【氏名又は名称原語表記】OC Oerlikon Balzers AG
【Fターム(参考)】