説明

車両用フロントサブフレーム

【課題】車両正面からの荷重でフロントボデーに形成されている取付け部が破断しても、アンダボデーに荷重を伝達し、エンジンの後退量を抑え、車室の変形を抑制する車両用フロントサブフレームを提供する。
【解決手段】車両用フロントサブフレーム11は、ダッシュボード22前のフロントボデー13に下方からマウント部(左後マウント部47)を介して取付けられている。左後マウント部47に設けた衝突脱落防止装置61は、左後マウント部47を固定するボルト66に押されてダッシュボードへ向け前進する直動部67と、直動部に後退の推力を付与する復帰手段64と、直動部とともに前進・後退する係止部68と、係止部68が嵌合するようにダッシュボード22側に形成した係止接合部65と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用フロントサブフレームに関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両用フロントサブフレームには、井桁状に形成されて、車両の正面(オフセット含む)から荷重が加わると、前後に延びるサイドフレームの後端股部に伝わり、後端股部で分岐するものがある。例えば、荷重が一方のサイドフレームの後端股部に伝わり、後端股部から内に分かれて、荷重を車幅方向内側へリヤフレームを介して他方のサイドフレームに伝える。また、後端股部で外に分かれて車幅方向外側へ外側ブランチ部を介してフロア骨格メンバに伝えるものがある(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2003−127893公報(第8頁、図4)
【0003】
しかし、特許文献1の車体前部構造では、荷重が一方のサイドフレームから分岐させる後端股部に加わったときに、後端股部を締結しているフロア骨格メンバの締結部(例えば、めねじ部)が破断することがある。このような破断の場合には、フロア骨格メンバからサイドフレームが外れて、サイドフレームから荷重がフロア骨格メンバに十分に伝わらず、結果的に、サブフレーム上のエンジンの後退量が増加し、車室の変形が大きくなることが考えられるという問題がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、車両正面からの荷重でフロントボデーに形成されている取付け部が破断しても、アンダボデーに荷重を伝達し、エンジンの後退量を抑え、車室の変形を抑制する車両用フロントサブフレームを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に係る発明は、車室を隔絶しているダッシュボード前のフロントボデーに下方からマウント部を介して取付けられている車両用フロントサブフレームにおいて、マウント部の後マウント部に衝突脱落防止装置を備え、衝突脱落防止装置は、後マウント部を固定するボルトに押されてダッシュボードへ向け前進する直動部と、直動部に後退の推力を付与する復帰手段と、直動部とともに前進・後退する係止部と、係止部が前進すると嵌合するようにダッシュボード側に形成した係止接合部と、を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
請求項1に係る発明では、衝突脱落防止装置は、後マウント部を固定するボルトに押されてダッシュボードへ向け前進する直動部と、直動部に後退の推力を付与する復帰手段と、直動部とともに前進・後退する係止部と、係止部が前進すると嵌合するようにダッシュボード側に形成した係止接合部と、を備えているので、車両正面からの荷重が後マウント部用のボルトをねじ込んでいるフロントボデーの取付け部を破断すると、係止部が係止接合部に引っ掛かる。その結果、アンダボデー並びにフロントフロアフレームに荷重を伝達することができ、エンジンの後退量を抑え、車室の変形を抑制することができるという利点がある。
【0007】
また、衝突脱落防止装置では、直動部に後退の推力を付与する復帰手段と、直動部とともに前進・後退する係止部とを備えているので、車両へフロントサブフレームを搭載するときは、後退した状態であり、衝突脱落防止装置と車体とのクリアランスを確保できるので、組み付けが容易である。また、ボルトを抜くと、復帰手段によって係止部が後退して戻り、フロントサブフレームとアンダボデーとの係合を解除することができる。その結果、フロントボデーからフロントサブフレームを取り外す作業は容易になり、点検などのメンテナンス性を維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明を実施するための最良の形態を添付図に基づいて以下に説明する。
図1は、本発明の車両用フロントサブフレームを採用した車両の車体の斜視図である。
車両用フロントサブフレーム11は、車両12のフロントボデー13に採用され、フロントボデー13に下方から上昇させて取付けられている。具体的には後述する。
【0009】
車両12は、車体14を有し、車体14は車室15の床をなすアンダボデー16と、アンダボデー16の前に設けエンジン17を支持しているフロントボデー13と、フロントボデー13に設けたエンジンルーム21との前隔壁をなすダッシュボード22と、を備える。
【0010】
アンダボデー16は、左フロントフロアフレーム25と、右フロントフロアフレーム26と、これらの左フロントフロアフレーム25並びに右フロントフロアフレーム26の上端に載せたフロアパネル27と、フロアパネル27の左右端に連なる左サイドシル31と、右サイドシル32と、備える。
【0011】
図2は、図1の2矢視図であり、車両用フロントサブフレーム11の下面を示している。図1を併用して説明する。
フロントボデー13は、サスペンションを支持している左のフロントサイドフレーム33、右のフロントサイドフレーム34と、これらの下部35に配置されエンジン17を支持しているフロントサブフレーム11と、を備える。
【0012】
フロントサブフレーム11は、エンジン17やサスペンションの下部を支持し、車両12の前部36に配置されている前ビーム部41と、前ビーム部41の一端(左前マウント部)42から車両12の後方へ向けて延びている左ビーム部43と、前ビーム部41の他端(右前マウント部)44から車両12の後方へ向けて延びている右ビーム部45と、左ビーム部43の左後端46に形成した左後マウント部47と、右ビーム部45の右後端48に形成した右後マウント部51と、を備える。
【0013】
また、フロントサブフレーム11は、前ビーム部41の一端42が左のフロントサイドフレーム33の下部35に前マウント部材52で取付けられ、前ビーム部41の他端44が右のフロントサイドフレーム34の下部35に前マウント部材52で取付けられている。
【0014】
さらに、左後マウント部47が左のフロントサイドフレーム33の左後取付け部54に駆動マウント部材55で取付けられ、右後マウント部51が右のフロントサイドフレーム34の右後取付け部56に駆動マウント部材55で取付けられている。そして、フロントサブフレーム11の左後マウント部47、右後マウント部51には、それぞれ衝突脱落防止装置61が設けられている。
【0015】
図3は、図2の3−3線断面図であり、衝突脱落防止装置61の断面を示している。
衝突脱落防止装置61は、フロントサブフレーム11をアンダボデー16側に着脱自在に係止するもので、フロントサブフレーム11の後から出る係止ロッド62を備える。
具体的には、左後マウント部47に連なる筒部63と、筒部63内にスライド自在に嵌合している係止ロッド62と、係止ロッド62を戻す復帰手段64と、前進した係止ロッド62を受ける係止接合部65と、からなる。
「前進」とは、車室15やダッシュボード22やアンダボデー16へ向かって動くことである。
【0016】
係止ロッド62は、駆動マウント部材55のボルト66に当接している直動部67と、直動部67に連なっている係止部68と、直動部67近傍に設けられ筒部63内を摺動自在な受け部71と、からなり、係合解除位置Sから係合位置Eまで筒部63内を移動する。
【0017】
筒部63は、左後マウント部47の周壁72に連ねて形成され、周壁72に第1通し穴73が開けられ、第1通し穴73に対向している筒端部74が形成され、筒端部74に第2通し穴75が開けられ、第1通し穴73に直動部67が通り、第2通し穴75に係止部68が通り、筒端部74と受け部71との間に復帰手段64が設けられている。
【0018】
復帰手段64は、係合位置Eから係合解除位置Sまで係止部68の先端を戻すもので、例えば、圧縮ばねであり、受け部71に後退の推力を付与して係止部68を係止接合部65から抜く。
係止接合部65は、アンダボデー16又は/及びダッシュボード22に係止部68を嵌めるように形成した部位であるが、望ましくは、左フロントフロアフレーム25の前端76に形成する。
【0019】
直動部67は、駆動マウント部材55のボルト66の先端77に押される、又は、先端を押す傾斜部81が形成されている。なお、ボルト66がめねじにねじ込まれるときの推力(若しくは、トルク)とは関係していない。ボルト66の押し込みで作動する関係にあり、大局的には、直動部67は駆動マウント部材55を含む。
【0020】
駆動マウント部材55は、ボルト66に嵌合している金属製の内筒83と、内筒83と左後マウント部47の周壁72との間に介在させている緩衝部材84と、を有し、緩衝部材84及び内筒83には、傾斜部81を貫通させている開口部85が開けられている。
なお、緩衝部材84は、嵌合可能に分割されている。
【0021】
次に、本発明の車両用フロントサブフレームの作用を説明する。左の衝突脱落防止装置61を説明するが、右の衝突脱落防止装置61も同様である。
図4は、衝突脱落防止装置の係合の機構を説明する図である。図1を併用して説明する。
【0022】
フロントサブフレーム11は、予めエンジン17や緩衝部材84など所望の部品が組み付けられた後、フロントボデー13の下方に二点鎖線で示しているように搬送されて、矢印a1のように上昇し、実線で示しているように位置決めされ、引き続き、ボルト66が挿入される。
【0023】
衝突脱落防止装置61では、ボルト66が内筒83に嵌め込まれると、ボルト66の先端77が傾斜部81を押すので、直動部67は復帰手段64に抗して矢印a2のように前進すると同時に、係止部68が係合解除位置Sから係合位置Eまで前進して係止接合部65に嵌る(図3の状態になる)。従って、アンダボデー16にフロントサブフレーム11を係合することができる。
続けて、左後取付け部54のめねじ部86にボルト66をねじ込み、所望の軸力を発生させるとともに、付与することで、下方からフロントサブフレーム11を取付けることができる。
【0024】
また、衝突脱落防止装置61では、ボルト66を抜くと、復帰手段64によって係止部68が係合位置Eから係合解除位置Sまで後退して戻るので、フロントサブフレーム11とアンダボデー16との係合を解除することができる。
その結果、フロントボデー13からフロントサブフレーム11を取り外す作業は容易になり、点検などのメンテナンス性を維持することができる。
【0025】
図5は、車両正面からフロントサブフレームに荷重が加わったときの衝突脱落防止装置の機構を説明する図である。
車両12の正面から荷重が矢印a3のように加わると、フロントサブフレーム11が車両12の後方へ矢印a4のように押され、左後取付け部54が破断することがある。
左後取付け部54が破断すると、二点鎖線で示した状態から実線で示した状態へ移動するとともに、フロントサブフレーム11が後方へ移動し、衝突脱落防止装置61の突出している係止部68が係止接合部65を押しながら、係止接合部65に引っ掛かるので、アンダボデー16並びに左フロントフロアフレーム25に荷重を伝達することができる。その結果、エンジン17の後退量Meを抑え、エンジン17の後退による車室15の変形を抑制することができる。
【0026】
衝突脱落防止装置61では、フロントサブフレーム11を取り付けるボルト66をねじ込む際に、ボルト66を挿入すると同時に係止部68が突出すので、係止部68を前進させるための駆動源を組み付ける必要がなく、衝突脱落防止装置61の構造は簡単になる。
【0027】
尚、本発明の車両用フロントサブフレームは、実施の形態ではフロントに採用したが、リヤにも採用可能である。リヤサブフレームに同様の機構を用いることで、衝突時の荷重を多く伝達するこができ、荷重伝達率の向上を図ることができ、且つ、リヤサブフレームの脱着性の向上を図ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明の車両用フロントサブフレームは、車両に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の車両用フロントサブフレームを採用した車両の車体の斜視図である。
【図2】図1の2矢視図である。
【図3】図2の3−3線断面図である。
【図4】衝突脱落防止装置の係合の機構を説明する図である。
【図5】フロントサブフレームに荷重が加わったときの衝突脱落防止装置の機構を説明する図である。
【符号の説明】
【0030】
11…車両用フロントサブフレーム、13…フロントボデー、15…車室、22…ダッシュボード、42…左前マウント部、44…右前マウント部、47…左後マウント部、51…右後マウント部、61…衝突脱落防止装置、64…復帰手段、65…係止接合部、66…ボルト、67…直動部、68…係止部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車室を隔絶しているダッシュボード前のフロントボデーに下方からマウント部を介して取付けられている車両用フロントサブフレームにおいて、
前記マウント部の後マウント部に衝突脱落防止装置を備え、
前記衝突脱落防止装置は、前記後マウント部を固定するボルトに押されて前記ダッシュボードへ向け前進する直動部と、該直動部に後退の推力を付与する復帰手段と、前記直動部とともに前進・後退する係止部と、該係止部が前進すると嵌合するように前記ダッシュボード側に形成した係止接合部と、を備えていることを特徴とする車両用フロントサブフレーム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−96331(P2009−96331A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−270019(P2007−270019)
【出願日】平成19年10月17日(2007.10.17)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】