説明

車両用フードの跳ね上げ装置

【課題】狭いスペースでの設置を可能にするとともに、アクチュエータの設置エリヤを拡大でき、しかも、フードに振動や損傷を与えることなくその跳ね上げ量を規制できるようにする。
【解決手段】長尺アーム60の両端部の支持ピン62,64間の距離をX、短尺アーム61の両端部の支持ピン62,65間の距離をY、長尺及び短尺アーム60,61のフード側の支持ピン64,65間の距離をZとしたとき、X<Y+Zの関係を有し、フロントフード18の閉塞時には、長尺及び短尺アーム60,61の構成によりフロントフード18を車体側にロックし、フロントフード18の跳ね上げ時には、長尺及び短尺アーム60,61の回動によりその何れか一方を変形させることによりフロントフード18のロックを解除する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用フードの跳ね上げ装置に係り、詳しくは歩行者との衝突時に車両のフードを持ち上げることでエンジンルーム内の空間を確保し歩行者への衝撃を低減する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、歩行者(被衝突物)との衝突を想定し車両前部のフードに衝撃吸収機構を備え、歩行者の安全面を考慮した車両が開発されている。
【0003】
例えば、歩行者との衝突時にフードの後側を持ち上げることでエンジンルーム内の空間を確保し、歩行者が当該フードと衝突した際にエンジン等の固い部品に当たらないようにする技術がある。
【0004】
具体的には、フードの車両後側の両端部分において、一端が車体側、他端がフード側に支持されたリンク部材を設け、当該リンク部材に形成されたフック部を車体側に係止することで通常時はリンク部材を車体側に固定し、歩行者衝突時にはアクチュエータを作動させてリンク部材に設けられたハンガを押圧することで当該ハンガと連結されているフック部を変形させて係止を解除するとともに、アクチュエータが当該ハンガからリンク部材を介してフードを跳ね上げる構成が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004―249795号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に開示された技術では、フック部材と車体側との係止を解除させるための部材としてハンガやリンケージを必要とするため、部品点数が増大して構成的に複雑化し、ストラットハウスとデッキとの間の狭いスペースでの設置が困難になっていた。
【0006】
また、アクチュエータの設置位置はハンガを押圧できる位置に限定されるため、アクチュエータのレイアウトも制約されてしまうという不都合がある。
【0007】
本発明はこのような問題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、狭いスペースでの設置を可能にするとともに、アクチュエータの設置可能エリヤを拡大でき、しかも、振動や損傷を与えることなくフードの跳ね上げ量を規制できるようにした車両用フードの跳ね上げ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、請求項1記載の発明は、車両の前部に設けられたフードと、前記フードの後部側に位置し、一端部が車体側、他端部がフード側にそれぞれ回動自在に支持された長尺アームと、前記車両と被衝突物との衝突を検出する衝突検出手段と、作動部を有し、この作動部を前記衝突検出手段により前記車両と被衝突物との衝突が検出されるのに基いて上昇させて前記フードまたは前記フードに取り付けられたフード取付部に当接させることにより前記フードの後部側を跳ね上げるアクチュエータと、前記車体側に一端部側が回動自在に支持され、他端部側が前記フード側に回動自在に支持され、前記長尺アームより短い短尺アームとを具備し、前記長尺アームの両端部の回動支点間の距離をX、前記短尺アームの両端部の回動支点間の距離をY、前記長尺及び短尺アームのフード側、又は車体側における回動支点間の距離をZとしたとき、X<Y+Zの関係を有し、前記フードの閉塞時には、前記長尺及び短尺のアームの配設構造により前記フードを車体側にロックし、前記フードの跳ね上げ時には、前記長尺及び短尺のアームの回動によりその何れか一方を変形させて前記フードのロックを解除することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、フードの閉塞時には長尺及び短尺アームの配置構造によりフードを車体側にロックし、フードの跳ね上げ時には、長尺及び短尺アームの回動によりその何れか一方を変形させてフードのロックを解除するため、ロックを解除するための部材を別途特別に必要とすることがなく、構成的に簡略化でき、狭いスペースでの設置が可能になるとともに、誤爆した場合でも、フード及びアクチュエータの初期位置への復帰が容易になる。
【0010】
また、アクチュエータは、従来のようにロック解除部材を動作させる必要がないため、設置位置が限定されたエリアに制約されることなく、自由なレイアウトが可能になるとともに、製造ラインにおいてはアクチュエータの組み込み作業も容易になる。
【0011】
また、短尺アームの引張方向の変形によってフードの跳ね上げ量を規制するため、フードの跳ね上げ量を規制するためストッパ部材を別途特別に必要とすることがないとともに、跳ね上げ速度を減速させながらフードを停止させることができ、振動や損傷を与えることなくフードの停止が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して詳細に説明する。
【0013】
図1は、本発明の一実施の形態に係るフード跳ね上げ装置を備えた車両を示すものである。
【0014】
車両1の車体前部にはエンジンルーム2が形成され、車体前部の両側面にはそれぞれフロントフェンダ4,6が配設されている。車両1の車体前端部の車幅方向両端にはヘッドランプ8,10が配設され、このヘッドランプ8,10の下方には車幅方向に延びたフロントバンパ12が設けられている。
【0015】
フロントバンパ12内には歩行者(被衝突物)との衝突を検知可能な衝撃センサ14(衝突検出手段)が設けられ、この衝撃センサ14は車両1に備えられているECU16と電気的に接続されている。ECU16は、図示しない車速センサ等の各種センサ類や各種装置等と電気的に接続されており、各種センサ類からの各情報に基づき各種装置を制御する機能を有している。
【0016】
エンジンルーム2の上面には、開閉可能なフロントフード(フード)18が設けられている。フロントフード18は、全閉時にはフロントフード18の前端に設けられたストライカ18aが車体前部に設けられたラッチ12aにより固定され、開放時には後端の車幅方向両側部分にそれぞれ設けられたフード跳ね上げ機構20,22を支点として上方に開放する構成をなしている。
【0017】
図2及び図3は車両左側に設けられたフード跳ね上げ機構20を異なる方向から見た斜視図である。なお、車両右側に設けられるフード跳ね上げ機構22も同様の構成をなしている。
【0018】
フード跳ね上げ機構20は、車体側に固定されるアクチュエータ30、ベースブラケット40、また、フロントフード18に固定されるフード取付部としてのフードブラケット50を備えている。フードブラケット50とベースブラケット40とは長尺及び短尺アーム60,61を介して連結されている。
【0019】
フロントフード18の閉塞時には長尺及び短尺アーム60,61の配置構成によりフロントフード18がロックされ、跳ね上げ時には短尺アーム61により跳上量が規制されるようになっている。
【0020】
上記したアクチュエータ30は筒形状をなしており、車両上下方向を軸方向としてフロントフェンダ4の内側に配設されている。アクチュエータ30は筒形状の外形部の内部に、同軸方向に延びる棒形状のピストン(作動部)34、及び当該ピストン34の下方に位置して設けられた所謂火薬式のインフレータ36を備えた構成をなしている。
【0021】
なお、ピストン34は上端部分を外形部32より上側に突出させた状態で備えられている。そして、アクチュエータ30はECU16と電気的に接続されており、ECU16からの信号に応じてインフレータ36を作動させてピストン34を上方に押し出すようになっている。
【0022】
上記したベースブラケット40は、車体の平面部に当接する板部材であり、ボルト(図示しない)により車体に固定されている。ベースブラケット40の後端には上方に延出したヒンジ部44が形成されている。
【0023】
フードブラケット50は、フロントフード18の下面と当接した板部材であり、ボルト(図示しない)によりフロントフード18に固定されている。当該フードブラケット50の車両前端にはヒンジ部54が形成されている。
【0024】
長尺アーム60は、後端がベースブラケット40のヒンジ部44に、前端がフードブラケット50のヒンジ部54にそれぞれ支持ピン(回動支点)62、64を介して回動自在に支持されている。長尺アーム60は一端が車体側に、他端がフロントフード18側に支持されており、一端及び他端の支持ピン62、64を支点として上下方向に回動自在である。
【0025】
短尺アーム61は、後端がベースブラケット40のヒンジ部44に支持ピン62を介して長尺アーム60と同軸的に回動自在に支持され、前端が上記フードブラケット50の後部側に支持ピン(回動支点)65を介して回動自在に支持されている。短尺アーム61の前端部側には図5にも示すように長孔61aが形成され、この長孔61a内に支持ピン65が挿入されている。この支持ピン65は、短尺アーム61の長孔61a内に沿ってスライド移動できるようになっている。短尺アーム61には長孔61a内に突出するように突起部61bが形成され、短尺アーム61が圧縮方向の力を受けたときには、図6及び図7に示すように支持ピン65を介して突起部61bが湾曲変形されるようになっている。
【0026】
ところで、図4は、フロントフード18の閉塞時における長尺アーム60と短尺アーム61の配置構成を示し、長尺アーム60の両端部の回動支点62,64間の距離をX、短尺アーム61の両端部の回動支点62,65間の距離をY、長尺及び短尺アーム60,61のフード側の回動支点64,65間の距離をZとしたとき、X<Y+Zの関係を有し、短尺アーム61のフード側の回動支点65は、長尺アーム60の両端部の回動支点62,64を結ぶ線分の下方に位置している。
【0027】
この構成により、フロントフード18の閉塞時には、長尺及び短尺アーム60,61によってフロントフード18が車体側にロックされ、フロントフード18の跳ね上げ時には、長尺及び短尺アーム60,61の何れか一方が軸方向に変形することにより、フロントフード18のロックが解除されるようになっている。
【0028】
以上のように構成されたフード跳ね上げ機構20は、車両が所定車速以上で走行していたときに例えば歩行者と衝突し、衝撃センサ14により歩行者との衝突が検出された場合には、ECU16からアクチュエータ30に所定の信号が送られ、アクチュエータ30が作動することでフロントフード18を跳ね上げるものである。
【0029】
以下、このように構成された車両フードの跳ね上げ装置の作用について図8乃至図16に基づいて説明する。
【0030】
まず、通常時のフロントフード18が全閉状態では、フード跳ね上げ機構20の長尺及び短尺アーム60,61は図2〜図4に示すように配置され、フロントフード18を車体側にロックする。
【0031】
そして、車両1前端のラッチ12aを解除しフロントフード18を開放した場合には、図8及び図9に示すように、ベースブラケット40後端のヒンジ部44において長尺の支持ピン62を支点として長尺アーム60、及び短尺アーム61がフードブラケット50、即ちフロントフード18と一体に車両上方向へと回動する。
【0032】
一方、車両1が所定車速以上での走行中に、衝撃センサ14により歩行者との衝突が検出されると、ECU16からアクチュエータ30に所定の信号が送られる。当該信号を受けたアクチュエータ30は図10に示すようにインフレータ36を作動させ、これによりピストン34が上方に押し出される。このとき、フロントフード18は全閉状態であり、上方に押し出されたピストン34の上端面がフードブラケット50の下面側に当接することにより、図11〜図13に示すようにフロントフード18の後部側が跳ね上げられる。
【0033】
詳しくは、フロントフード18の先端はラッチ12aにより固定されており、ピストン34によりフードブラケット50が上方への力を受けると、長尺アーム60及び短尺アーム61がベースブラケット40に対して支持ピン62を支点にして上方へ向かって回動する。この回動により、図4に示すように長尺及び短尺アーム60,61の回動端側の支持ピン64,65と、支持ピン62の3点が直線上に位置すると、その何れか一方が長手方向に圧縮、或いは引き伸ばされてフードのロックが解除される。このロック解除後、さらに、長尺及び短尺アーム60,61は上方に回動され、フードブラケット50が長尺アーム60に対して支持ピン64を中心に回動して、フロントフード18の後部側が上方へと跳ね上げられる。この跳ね上げ時には、図15に示すように短尺アーム61が支持ピン65を介して引張方向の力を受け、引き伸ばされるように変形し、フロントフード18の跳ね上げ速度を徐々に減速させながら、フロントフード18を停止させる。
【0034】
このようにフロントフード18の後部側が跳ね上げられて停止されることで、フロントフード18とエンジンルーム2内に設けられているエンジン等の各種装置との空間が拡がり、歩行者がフロントフード18に衝突した際の衝撃を低減させることが可能となる。
【0035】
なお、誤爆などによりフロントフード18が跳ね上げられた場合には、図16に示すように跳ね上げられたフロントフード18の後端部側を矢印で示すように下方に押し下げることにより、初期位置に復帰させることができる。
【0036】
上記したように、この実施の形態によれば、フロントフード18の閉塞時には長尺及び短尺アーム60,61の配置構成によりフロントフード18を車体側にロックし、フロントフード18の跳ね上げ時には、長尺及び短尺アーム60,61を回動させてその何れか一方を圧縮、或いは引き伸ばしてフロントフード18のロックを解除するため、ロックを解除するための部材を別途特別に必要とすることがなく、構成的に簡略化でき、ストラットハウスとデッキとの間等の狭いスペースでの設置が容易になるとともに、誤爆した場合でも、フロントフード18及びアクチュエータ30のピストン34の初期位置への復帰も容易になる。
【0037】
また、アクチュエータ30は、従来のようにロック解除部材を動作させる必要がないため、設置位置が限定されたエリアに制約されることがなく、より自由なレイアウトが可能になるとともに、製造ラインにおいては、アクチュエータ30の組み込み作業も容易になる。
【0038】
さらに、短尺アーム61の引伸方向の変形によってフロントフード18の跳ね上げ量を規制するため、フロントフード18の跳ね上げ量を規制するためストッパ部材を別途特別に必要とすることがないとともに、跳ね上げ速度を徐々に減速させながらフロントフード18を停止させることができ、フロントフード18に振動や損傷を与えることなく停止させることが可能となる。
【0039】
図17は、第1の変形例である短尺アーム61Aを示す側面図で、図18はその平断面図である。
【0040】
この短尺アーム61Aは、両端部と中途部との間に段差61cを有するように折曲形成され、フロントフード18の跳ね上げ時に、短尺アーム61Aが支持ピン65を介して圧縮力を受けると、中途部が湾曲するように変形してロックを解除する。
【0041】
図19は、第2の変形例である短尺アーム61Bを示す側面図で、図20はその平断面図である。
【0042】
この短尺アーム61Bは、長孔61aの内側面部に互いに近接する方向に向かって突出する一対の突起部61dが突設されている。
【0043】
フロントフード18の跳ね上げ時に、短尺アーム61Bが支持ピン65を介して圧縮力を受けると、長孔61a内の突起部61dが変形して支持ピン62と支持ピン65と間の距離が減少してロックが解除される。
【0044】
図21は、第3の変形例である短尺アーム61Cを示す側面図で、図22はその平断面図である。
【0045】
この短尺アーム61Cは、長孔61aの内側面部に互いに近接する方向に向かって突出する一対の突起部61eが突設されている。
【0046】
フロントフード18の跳ね上げ時に、短尺アーム61Cが支持ピン65を介して圧縮力を受けると、長孔61a内の突起部61eが変形して支持ピン62と支持ピン65と間の距離が減少してロックが解除される。
【0047】
尚、図19記載の短尺アーム61Bに対して、図21記載の短尺アーム61Cは、その長孔61aの長径を短くすることで、フルリフトアップ完了前から支持ピン65を早目に短尺アーム61Cに当接させてリフトアップ速度を減速させることとしている。
【0048】
図23は本発明の第2の実施の形態である跳ね上げ機構のリンク機構を示すものである。
【0049】
なお、上記した第1の実施の形態で説明した部分と同一部分については、同一番号を付してその詳細な説明は省略する。
【0050】
長尺アーム60は、前端がベースブラケット40のヒンジ部44aに、支持ピン(回動支点)62aを介して回動自在に支持され、後端がフードブラケット50のヒンジ部54aに支持ピン(回動支点)64aを介して回動自在に支持されている。つまり、長尺アーム60は一端が車体側に、他端がフロントフード18側に支持されており、一端及び他端の支持ピン62a、64aを支点として上下方向に回動自在である。
【0051】
短尺アーム61は、前端がベースブラケット40のヒンジ部44bに支持ピン(回動支点)62bを介して回動自在に支持され、後端が長尺アーム60の後部側に支持ピン(回動支点)65を介して回動自在に支持されている。
【0052】
上記した長尺アーム60の両端部の回動支点62a、65間の距離をX、短尺アーム61の両端部の回動支点62b,65間の距離をY、長尺及び短尺アーム60,61の車体側の回動支点62a,62b間の距離をZとしたとき、X<Y+Zの関係を有し、支持ピン62bは、長尺アーム60の両端部の回動支点62a,64aを結ぶ線分の上方に位置している。
【0053】
この構成により、フロントフード18の閉塞時には、長尺アーム60と短尺アーム61によってフロントフード18が車体側にロックされ、フロントフード18の跳ね上げ時には、長尺及び短尺アーム60,61の回動によりその何れか一方が軸方向に圧縮或いは引伸されるように変形することによってロックが解除されるようになっている。
【0054】
このように構成されるリンク機構は、車両1が所定車速以上での走行中に、衝撃センサ14により歩行者との衝突が検出されると、上記したと同様にしてアクチュエータ30のピストン34が上方に押し出され、その上端面がフードブラケット50の下面側に当接することにより、図24に示すように長尺及び短尺のアーム60,61が回動されてフロントフード18の後部側が跳ね上げられる。
【0055】
詳しくは、フロントフード18の先端はラッチ12aにより固定されており、ピストン34によりフードブラケット50が上方への力を受けると、長尺アーム60がベースブラケット40に対して支持ピン62aを支点にして上方に回動するとともに、短尺アーム61がベースブラケット40に対して支持ピン62bを支点にして上方に回動し、所定量回動すると、長尺及び短尺のaアーム60,61の何れか一方が長手方向に圧縮、或いは引き伸ばされてフードのロックが解除される。このロック解除後さらに長尺及び短尺のaアーム60,61が上方に回動されると、フロントフード18の後部側が上方へと跳ね上げられる。このフロントフード18の後部側が上方へ所定量跳ね上げられると、短尺アーム61が引伸ばされる方向に変形し、フロントフード18の跳ね上げ速度を減速させながら停止させる。
【0056】
このようにフロントフード18の後部側が跳ね上げられて停止されることで、フロントフード18とエンジンルーム2内に設けられているエンジン等の各種装置との空間が拡がり、歩行者がフロントフード18に衝突した際の衝撃を低減させることが可能となる。
【0057】
次に、車両が歩行者ではなく、他の車両や、構造物などに強く衝突した場合について説明する。
【0058】
この場合には、上記したと同様にしてフロントフード18が跳ね上げられることは勿論であるが、フロントフード18は、車体の前部側がクラッシュすることにより折れ曲がった状態で後退し、図1に示す前面ガラス80に突き当たろうとする。
【0059】
しかしながら、このときには、長尺及び短尺アーム60,61の前端側が支軸62a,62bを介してベースブラケット40に支持されていることから、長尺及び短尺アーム60,61は引張方向の力を受け、この引張力に抵抗することによりフロントフード18の後退を規制する。従って、フロントフード18の後退による前面ガラス80への突き当たりが防止され、ドライバーの安全が確保される。
【0060】
この第2の実施の形態によれば、上記した第1の実施の形態のように長尺及び短尺アーム60,61の後端部側を支軸62を介してベースブラケット40に支持するものと比較してフロントフード18の後退を確実に規制することができる。
【0061】
即ち、第1の実施の形態では、フロントフード18が強い衝撃を受けて後退すると、長尺及び短尺アーム60,61が支軸62を中心に後方に向かって回動するため、後方への移動量が大きくなってしまうが、第2の実施の形態では長尺及び短尺アーム60,61は引張力を受けるだけあるため、後方への移動量を低減でき、フロントフード18の後退をより確実に規制することができる。
【0062】
図25は本発明の第3の実施の形態であるフード跳ね上げ装置のリンク機構を示すものである。
【0063】
なお、上記した第2の実施の形態で説明した部分と同一部分については、同一番号を付してその詳細な説明は省略する。
【0064】
長尺アーム60は、前端がベースブラケット40のヒンジ部44aに支持ピン62aを介して回動自在に支持され、後端が接続リンク70の下端部に支持ピン64aを介して回動自在に支持されている。接続リンク70はフードブラケット50のヒンジ部54aに支持ピン70aを介して回動自在に支持されている。
【0065】
つまり、長尺アーム60は一端が車体側に、他端が接続リンク70を介してフロントフード18側に支持されており、一端及び他端の支持ピン62a、64aを支点として上下方向に回動自在である。
【0066】
短尺アーム61は、前端がベースブラケット40のヒンジ部44bに支持ピン62bを介して回動自在に支持され、後端が接続リンク70の下端部側に支軸64aを介して長尺アーム60の後端部と同軸的に回動自在に支持されている。
【0067】
また、ベースブラケット40のヒンジ部44aには支持ピン72aを介して補助アーム72の前端部が回動自在に支持され、この補助アーム72の後端部は支持ピン72bを介して上記した接続リンク70の中途部に回動自在に支持されている。
【0068】
このように構成されるリンク機構は、車両1が所定車速以上での走行中に、衝撃センサ14により歩行者との衝突が検出されると、上記したと同様にしてアクチュエータ30のピストン34が上方に押し出され、その上端面がフードブラケット50の下面側に当接することにより、図26に示すように長尺及び短尺のアーム60,61、さらに補助アーム72が回動されてフロントフード18の後部側が跳ね上げられる。
【0069】
詳しくは、フロントフード18の先端はラッチ12aにより固定されており、ピストン34によりフードブラケット50が上方への力を受けると、長尺アーム60がベースブラケット40に対して支持ピン62aを支点にして上方へ回動するとともに、短尺アーム61がベースブラケット40に対して支持ピン62bを支点にして上位へ回動し、補助アーム72が支持ピン72aを中心にして上方へ回動し、所定量回動すると、長尺及び短尺のアーム60,61の何れか一方が長手方向に圧縮、或いは引き伸ばされてフードのロックが解除される。このロック解除後さらに長尺及び短尺のアーム60,61、さらに補助アーム72が上方に回動されると、フロントフード18の後部側が上方へと跳ね上げられる。このフロントフード18の後部側が上方へ所定量跳ね上げられると、短尺アーム61が引伸ばされる方向に変形し、フロントフード18の跳ね上げ速度を減速させながら停止させる。
【0070】
このようにフロントフード18の後部側が跳ね上げられて停止されることで、フロントフード18とエンジンルーム2内に設けられているエンジン等の各種装置との空間が拡がり、歩行者がフロントフード18に衝突した際の衝撃を低減させることが可能となる。
【0071】
次に、車両が歩行者ではなく、他の車両や、構造物などに強く衝突した場合について説明する。
【0072】
この場合には、上記したと同様にしてフロントフード18が跳ね上げられることは勿論であるが、フロントフード18は、車体の前部側がクラッシュすることにより折れ曲がった状態で図27に示すように後退し、図1に示す前面ガラス80に突き当たろうとする。
【0073】
しかしながら、このときには、長尺及び短尺アーム60,61、さらに補助アーム72の前端側が支軸62a,62b,72aを介してベースブラケット40に支持されていることから、長尺及び短尺アーム60,61、さらに補助アーム72は引張力を受け、この引張力に抵抗することによりフロントフード18の後退を規制する。従って、フロントフード18の後退による前面ガラス80への突き当たりが防止され、ドライバーの安全が確保される。
【0074】
この第3の実施の形態によれば、補助アーム72を備えるため、上記した第2の実施の形態よりもより一層確実にフロントフード18の後退を規制することが可能となる。
【0075】
なお、この発明は、上述した実施の形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上述した実施の形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより種々の発明を形成できる。例えば、上述した実施の形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除しても良い。更に、異なる実施の形態に亘る構成要素を適宜組み合わせても良い。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明の一実施の形態である車両用フードの跳ね上げ装置を備えた車両を示す斜視図。
【図2】図1の跳ね上げ装置を示す斜視図。
【図3】図1の跳ね上げ装置を異なる角度から示す斜視図。
【図4】図1の跳ね上げ装置を構成するアームの配置構成を示す図。
【図5】図1の跳ね上げ装置の短尺アームを示す側面図。
【図6】図5の短尺アームを示す平断面図。
【図7】図5の短尺アームの突起部が変形された状態を示す斜視図。
【図8】図1のフロントフードが開放されたときの跳ね上げ装置の動作状態を示す側面図。
【図9】図8の跳ね上げ装置を異なる方向から見た状態を示す斜視図。
【図10】図1の跳ね上げ装置のアクチュエータが動作した状態を示す図。
【図11】図1の跳ね上げ装置がフロントフードを跳ね上げたときの動作状態を示す図。
【図12】図11の跳ね上げ装置を異なる方向から見た状態を示す斜視図。
【図13】図1の跳ね上げ装置を示す側面図。
【図14】図1の跳ね上げ装置がフロントフードを跳ね上げたときの長尺及び短尺アームの回動状態を示す図。
【図15】図1の跳ね上げ装置により跳ね上げられるフロントフードを停止させる短尺アームの動作状態を示す図。
【図16】図1の跳ね上げ装置の誤爆により跳ね上げられたフロントフードを初期位置に復帰させる動作を示す側面図。
【図17】図1の跳ね上げ装置の短尺アームの第1の変形例を示す側面図。
【図18】図17の短尺アームを示す平断面図。
【図19】図1の跳ね上げ装置の短尺アームの第2の変形例を示す側面図。
【図20】図19の短尺アームを示す平断面図。
【図21】図1の跳ね上げ装置の短尺アームの第3の変形例を示す側面図。
【図22】図21の短尺アームを示す平断面図。
【図23】本発明の第2の実施の形態である跳ね上げ装置のリンク機構を示す斜視図。
【図24】図23の跳ね上げ装置によるフードの跳ね上げ動作を示す斜視図。
【図25】本発明の第3の実施の形態である跳ね上げ装置のリンク機構を示す斜視図。
【図26】図25の跳ね上げ装置によるフードの跳ね上げ動作を示す斜視図。
【図27】図25の跳ね上げ装置によるフードの跳ね上げ動作を示す側面図。
【符号の説明】
【0077】
1…車両、14…衝撃センサ(衝突検出手段)、18…フロントフード(フード)、30…アクチュエータ、34…ピストン(作動部)、40…ベースブラケット、50…フードブラケット(フード取付部)、60…長尺アーム、61…短尺アーム、62,64,65…支持ピン(回動支点)、61,61A,61B,61C…短尺アーム、62a,62a,64a,65…支持ピン(回動支点)、70…接続リンク、70a,72a,72b…支持ピン(回動支点)、72…補助アーム。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前部に設けられたフードと、
前記フードの後部側に位置し、一端部が車体側、他端部がフード側にそれぞれ回動自在に支持された長尺アームと、
前記車両と被衝突物との衝突を検出する衝突検出手段と、
作動部を有し、この作動部を前記衝突検出手段により前記車両と被衝突物との衝突が検出されるのに基いて上昇させて前記フードまたは前記フードに取り付けられたフード取付部に当接させることにより前記フードの後部側を跳ね上げるアクチュエータと、
前記車体側に一端部側が回動自在に支持され、他端部側が前記フード側に回動自在に支持され、前記長尺アームより短い短尺アームとを具備し、
前記長尺アームの両端部の回動支点間の距離をX、前記短尺アームの両端部の回動支点間の距離をY、前記長尺及び短尺アームのフード側、又は車体側における回動支点間の距離をZとしたとき、X<Y+Zの関係を有し、
前記フードの閉塞時には、前記長尺及び短尺のアームの配設構造により前記フードを車体側にロックし、前記フードの跳ね上げ時には、前記長尺及び短尺のアームの回動によりその何れか一方を変形させて前記フードのロックを解除することを特徴とする車両用フードの跳ね上げ装置。
【請求項2】
前記長尺アームの車体側の回動支点はフード側の回動支点よりも後方に位置し、前記第短尺アームのフード側の回動支点は前記フードの閉塞時には、前記長尺アームの両端部の回動支点を結ぶ線分の下方に位置して前記フードをロックすることを特徴とする請求項1記載の車両用フードの跳ね上げ装置。
【請求項3】
前記長尺アームの車体側の回動支点はフード側の回動支点よりも前方に位置し、前記短尺アームの車体側の回動支点は前記フードの閉塞時には、前記長尺アームの両端部の回動支点を結ぶ線分の上方に位置して前記フードをロックすることを特徴とする請求項1記載の車両用フードの跳ね上げ装置。
【請求項4】
前記長尺及び短尺アームの何れか一方の変形は、前記長尺アームの引張方向の変形、又は前記短尺アームの圧縮方向の変形であることを特徴とする請求項1記載の車両用フードの跳ね上げ装置。
【請求項5】
前記車体側に一端部側が回動自在に支持される補助アームを備え、
前記補助アーム、及び前記長尺アームの他端部側を接続リンクを介して前記フード側に回動自在に接続したことを特徴とする請求項3記載の車両用フードの跳ね上げ装置。
【請求項6】
前記短尺アームの引張方向の変形により、前記フードの跳ね上げ量を規制することを特徴とする請求項1乃至5の何れか一項に記載の車両用フードの跳ね上げ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【公開番号】特開2009−56973(P2009−56973A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−226855(P2007−226855)
【出願日】平成19年8月31日(2007.8.31)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】