説明

車両用ブラシレス交流発電機及びその励磁コイルボビン装置

【課題】励磁コイルを設置するボビン装置において耐電食性の悪化を招くことなく、磁気抵抗を低減させ、高効率で高出力化を可能とした車両用ブラシレス交流発電機を得る。
【解決手段】シャフト17に設けられた回転子2と、シャフトを回転自在に支持するブラケット20,21の内壁に固定された肉厚リング部100、及びこの肉厚リング部の軸方向端部の内周側に形成された円筒部101を有し、回転子と径方向空隙を介して対向する継鉄部10と、励磁コイル13を巻回するために継鉄部の肉厚リング部の軸方向端部及び円筒部外周面を囲繞するように配設されたボビン32と、円筒部の一端から径方向外方に延設され、ボビンを継鉄部に接合するためのプレート31と、回転子の外側に空隙を保持して設けられ、励磁コイルにより発生した磁束が伝播する固定子14とを備え、ボビン32は、継鉄部10と接合する外周端に沿面距離を拡大する厚肉部330を形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車、バス、トラック等の走行車両に搭載される車両用ブラシレス交流発電機及びその励磁コイルボビン装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の車両用ブラシレス交流発電機は、励磁コイルのボビン装置を有し、ボビン装置は樹脂製で容易にボビンが変形しない均一な肉厚で形成されるものであった。
特許文献1には、この発明は、プレートの支持強度を確保しつつ、ボビン内径を縮小する継鉄部とプレートとの接合構造を採用し、耐振性を確保し、かつ、界磁コイルの材料を削減してコストダウンを可能とするブラシレスオルタネータ用界磁コイルのボビン装置を得るため、肉厚リング状の第2継鉄部の内周面一端側に環状の段差部が形成され、プレートの円筒部の軸方向他端部が段差部に径方向に重なり合う状態に嵌め合わされ、プレートの円筒部が径方向に重なり合う領域で第2継鉄部に溶接により一体化されている構成が示されている。
【0003】
また、特許文献2には、最適化された磁気回路を構成することにより出力電流が向上したブラシレスオルタネータを提供するため、継鉄部の軸方向端部の内周の側面に設けられた段差部と、この段差部に固着され磁性体で構成された円筒部を有するプレートと、界磁コイルを巻回するためにプレートの円筒部径方向外側を囲繞するように配設されたボビンと、回転子の外側に空隙を保持して設けられ界磁コイルにより発生した磁束が伝播する固定子とを備え、継鉄部の内周面に設けられた段差部に固着されるプレートの円筒部の径方向厚さ寸法は、1ミリメートルより大きく且つ2ミリメートル以下に形成することが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−80440号公報
【特許文献2】特開2007−37233号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の車両用ブラシレス交流発電機においては、樹脂製のボビン装置は肉厚が出力特性に大きく影響をしていたが、このボビンの肉厚を薄くすると結合される継鉄部との沿面距離が縮小され電位の低い継鉄部と電位の高い励磁コイル間での励磁コイルの耐食性が悪化する懸念があった。
また、励磁コイル装置の製造工程においてボビン成型時又は励磁コイル巻回時にボビン薄肉部が変形し、生産性の悪化を招く懸念があった。
【0006】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、励磁コイルを設置するボビン装置において耐電食性の悪化を招くことなく、磁気抵抗を低減させ、高効率で高出力化を可能とした車両用ブラシレス交流発電機及びその励磁コイルボビン装置を得ることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係わる車両用ブラシレス交流発電機は、シャフトに設けられた回転子と、シャフトを回転自在に支持するブラケットの内壁に固定された肉厚リング状部、及びこの肉厚リング状部の軸方向端部の内周側に形成された円筒状部を有し、回転子と径方向空隙を介して対向する継鉄部と、励磁コイルを巻回するために継鉄部の円筒状部外周面を囲繞するように配設されたボビンと、円筒状部の一端から径方向外方に延設され、ボビンを継鉄部に接合するためのプレートと、回転子の外側に空隙を保持して設けられ励磁コイルにより発生した磁束が伝播する固定子とを備え、ボビンは、継鉄部と接合する外周端に沿面距離を拡大する厚肉部を形成したものである。
【発明の効果】
【0008】
この発明によれば、車両用ブラシレス発電機において、励磁コイルを構成する継鉄部と励磁コイル間の沿面距離を拡大することができ耐電食性の悪化を防止できると共に、ボビンの変形に対する強度を向上し、取り扱い及び励磁コイル巻回時の生産性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】この発明の実施の形態1に係る車両用ブラシレス発電機の構成を示す軸方向断面図である。
【図2】図1の車両用ブラシレス発電機における軸方向要部断面図である。
【図3】実施の形態1における励磁コイルボビン装置を示す軸方向拡大断面図である。
【図4】図3における励磁コイルボビン装置の継鉄部を示す斜視図である。
【図5】図3における励磁コイルボビン装置のボビンを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施の形態1.
まず、この発明の実施の形態1に係る車両用ブラシレス発電機1の構造について述べる。
図1において、回転子2はシャフト17に設けられており、更にこの回転子2は磁束を伝える磁極鉄心3を有し、この磁極鉄心3は、第一磁極鉄心4及び第二磁極鉄心8から形成されている。
第一磁極鉄心4を構成する第一ボス部5は、軸心位置にシャフト17を挿通するための挿通穴(図示せず)が設けられている。
また第一ボス部5の一端から径方向外方にリング状の第一継鉄部6が延設され、更にこの継鉄部6の外周から軸方向他端側に第一爪状磁極部7が延設されている。
尚、シャフト17は第一磁極鉄心4の軸心に設けられている挿通穴(図示せず)に圧入されており、相対回転不能に取り付けられている。
【0011】
一方、第二磁極鉄心8を構成する第二ボス部9は、第一磁極鉄心4と同様に軸心位置にシャフト17を挿通するための挿通穴(図示せず)が設けられている。
この第二ボス部9と径方向外側に微小空隙を介して、第二ブラケット21に固着されており尚且つリング形状を成す第二継鉄部10が配設されている。
尚、後述するように、第二継鉄部10の軸方向端部にプレート31及びボビン32を介して励磁コイル13が固定されている。
【0012】
更に、第二継鉄部10の径方向外側に微小空隙を介して、第二爪状磁極部11が配設されている。
この第二爪状磁極部11は、第一爪状磁極部7の径方向内周側に配設され非磁極性体で作成されているリング12を介して第一爪状磁極部7に固着され、第一爪状磁極部7と噛み合うように配設されている。
【0013】
尚、シャフト17は第二磁極鉄心8の軸心に設けられている挿通穴(図示せず)に圧入され相対回転不能に取り付けられており、第二ボス部9の軸方向端面を第一ボス部5の軸方向他端面に突き合わせた状態で、相対回転不能に取り付けられている。
【0014】
更に固定子14は、固定子巻線16が巻回された固定子鉄心15を有し、回転子2の外周を囲繞するように配設されている。
【0015】
第一ブラケット20は第二ブラケット21とともに、固定子鉄心15の軸方向両端の肩部を挟んで通しボルト23により、固定子鉄心15を狭持している。
そして、第一ブラケット20が第一軸受18を介してシャフト17の一端側を回転自在に支持し、第二ブラケット21が第二軸受19を介してシャフト17の他端側を回転自在に支持している。
これにより、回転子2が、第一ブラケット20及び第二ブラケット21内に回転自在に配設されている。
更に、プーリ24は第一ブラケット20から外部に延出するシャフト17の一端に固着されており、エンジン(図示せず)により駆動されるようになっている。
【0016】
このように構成された車両用ブラシレス発電機1では、電流がバッテリ(図示せず)から励磁コイル13に供給されることにより、図2に示すように励磁コイル13の周りに磁束Φが発生する。
この磁束Φは、第二継鉄部10から径方向内側に保持された微小空隙を通って第二ボス部9に伝わり、続いて第二ボス部9に端面が突き合わされている第一ボス部5から第一継鉄部6及び第一爪状磁極部7を通って、回転子2の径方向外側に配設されている固定子14を横切り、続いて磁束Φは第二爪状磁極部11及びその径方向内側の微小空隙を通って最後に第二継鉄部10に戻るという経路を流れる。
このため、第一爪状磁極部7がN極に着磁され、第二爪状磁極部11がS極に着磁される。
【0017】
一方、プーリ24がエンジンによって駆動されて該プーリ24に直結するシャフト17が回転し、それにより回転子2が回転する。
その回転により、励磁コイル13によって作られた磁界も回転し、その回転磁界を成す磁束Φは前述した経路を通って固定子鉄心15に与えられ、交流起電力が固定子巻線16に発生する。
この交流の起電力によって固定子巻線16に発生した交流の電流が整流器22によって直流に整流され、バッテリ(図示せず)が充電される。
【0018】
この時、励磁コイル13は第二ブラケット21に固着された第二継鉄部10に装着されているので回転せず、第一ボス部5、第一継鉄部6及び第一爪状磁極部7が一体に形成された第一磁極鉄心4と、第二磁極鉄心8の第二ボス部9及び第二爪状磁極部11とが回転することになる。
【0019】
図3は、第二継鉄部10を含む励磁コイルボビン装置を示す軸方向拡大断面図で、ボビン装置30は、第二ブラケット21に固着される第二継鉄部10と、プロジェクション又はスポット溶接で第二継鉄部10に固着されたプレート31と、第二継鉄部10とプレート31とにより構成された空間内に配設され励磁コイル13が巻回されるボビン32とから構成されている。
【0020】
第二継鉄部10は、断面矩形でリング状を成す肉厚リング部100と、この肉厚リング部の軸方向端部に同一部材により延長された円筒部101とで形成されており(図4参照)、発電効率を最適化するため、且つ第二継鉄部10の端面にプレート31を強度良く固着するために、円筒部101は厚肉リング部100端面からボビン端面部にわたって、厚さtの環状に形成されている。
プレート31は、軟鋼板をプレス成形して作製され、第二継鉄部10の円筒部101の一端から径方向外方に延設され、ボビン32を第二継鉄部10に接合する。
【0021】
また、ボビン32は、ナイロン樹脂によって形成されており、第二継鉄部10の円筒部101の径方向外方に嵌合するための筒部320を有し、更に筒部320の両端から径方向外方へ円盤状の第一延設部321及び第二延設部322が設けられている(図5参照)。
第二延設部322には、第二継鉄部10の厚肉リング部100端面に設けられた複数の穴102に挿入される突起部340が設けられている。
このボビン32の筒部320及び第一延設部321及び第二延設部322の肉厚は従来構造のボビンに対し例えば0,5mm程度に薄肉化されており、ボビン32の内部に巻回される励磁コイル13の巻回容積を拡大すると共に、励磁コイル13と第二継鉄部10間の磁気抵抗を低減し、回転磁束が増加することにより出力電流を向上させることができる。
【0022】
しかし、ここでボビン32の第二延設部322を薄肉化することで、ボビン32の内部に巻回される励磁コイル13の外周部と第二継鉄部10の外周部との沿面距離aが縮小され、耐電食性の低下が懸念される。
【0023】
この実施の形態においては、図3に示すように、第二継鉄部10と接合するボビン32の第二延設部322の外周端に、内周から外周にテーパ状の厚肉部330を形成している。この厚肉部330は幅方向(ボビン32の軸方向)の寸法が例えば0.8〜1.0mmの大きさに設定され、励磁コイル13と第二継鉄部10の外周部との沿面距離aを拡大している。
これにより、励磁コイルの耐食性の悪化を招くことなく、高効率で高出力化を可能となる上、薄肉化によるボビン32の強度低下を防ぎ、ボビンの変形に対する強度が向上し、取り扱い及び励磁コイル巻回時の生産性の向上が可能となる。
【0024】
以上のようにこの発明の車両用ブラシレス発電機によれば、シャフト17に設けられた回転子2と、シャフトを回転自在に支持するブラケット20,21の内壁に固定された肉厚リング部100、及びこの肉厚リング部の軸方向端部の内周側に形成された円筒部101を有し、回転子と径方向空隙を介して対向する継鉄部10と、励磁コイル13を巻回するために継鉄部の肉厚リング部の軸方向端部及び円筒部外周面を囲繞するように配設されたボビン32と、円筒部の一端から径方向外方に延設され、ボビンを継鉄部に接合するためのプレート31と、回転子の外側に空隙を保持して設けられ、励磁コイルにより発生した磁束が伝播する固定子14とを備え、ボビン32は、継鉄部10と接合する外周端に沿面距離を拡大する厚肉部330を形成されているので、車両用ブラシレス発電機において、励磁コイルを構成する継鉄部と励磁コイル間の沿面距離を拡大し、耐電食性の悪化を防止できると共に、ボビンの変形に対する強度を向上し、取り扱い及び励磁コイル巻回時の生産性を向上することができる。
【符号の説明】
【0025】
1:車両用ブラシレス発電機
2:回転子
3:磁極鉄心
4:第一磁極鉄心
5:第一ボス部
6:継鉄部
7:第一爪状磁極部
8:第二磁極鉄心
9:第二ボス部
10:第二継鉄部 100:肉厚リング部 101:円筒部 102:穴
11:第二爪状磁極部
12:リング
13:励磁コイル
14:固定子
15:固定子鉄心
16:固定子巻線
17:シャフト
18:第一軸受
19:第二軸受
20:第一ブラケット
21:第二ブラケット
22:整流器
23:通しボルト
24:プーリ
30:ボビン装置
31:プレート
32:ボビン 320:筒部 321:第一延設部 322:第二延設部 330:厚肉部 340:突起部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャフトに設けられた回転子と、
前記シャフトを回転自在に支持するブラケットの内壁に固定された肉厚リング部、及びこの肉厚リング部の軸方向端部の内周側に形成された円筒部を有し、前記回転子と径方向空隙を介して対向する継鉄部と、
励磁コイルを巻回するために前記継鉄部の前記肉厚リング部の軸方向端部及び円筒部外周面を囲繞するように配設されたボビンと、
前記円筒部の一端から径方向外方に延設され、前記ボビンを前記継鉄部に接合するためのプレートと、
前記回転子の外側に空隙を保持して設けられ、前記励磁コイルにより発生した磁束が伝播する固定子とを備え、
前記ボビンは、前記継鉄部と接合する外周端に沿面距離を拡大する厚肉部を形成されていることを特徴とする車両用ブラシレス交流発電機。
【請求項2】
前記ボビンは、前記継鉄部の円筒部と嵌合する筒部と、この筒部の両端から径方向外方に延びる円盤状の延設部とを有し、
前記厚肉部は、前記継鉄部の肉厚リング部と接合する前記ボビンの延設部の端部に、内周側から外周側方向にテーパ状に形成されていることを特徴とする請求項1記載の車両用ブラシレス交流発電機。
【請求項3】
前記ボビンの筒部及び前記厚肉部を除く延設部を薄肉化したことを特徴とする請求項1または2記載の車両用ブラシレス交流発電機。
【請求項4】
車両用ブラシレス交流発電機のブラケットの内壁に固定される肉厚リング部、及びこの肉厚リング部の軸方向端部の内周側に形成された円筒部を有する継鉄部と、
前記車両用ブラシレス交流発電機の励磁コイルを巻回するために前記継鉄部の前記肉厚リング部の軸方向端部及び円筒部外周面を囲繞するように配設されたボビンと、
前記円筒部の一端から径方向外方に延設され、前記ボビンを前記継鉄部に接合するためのプレートとを備え、
前記ボビンは、前記継鉄部と接合する外周端に沿面距離を拡大する厚肉部を形成されていることを特徴とする車両用ブラシレス交流発電機の励磁コイルボビン装置。
【請求項5】
前記ボビンは、前記継鉄部の前記円筒部と嵌合する筒部と、この筒部の両端から径方向外方に延びる円盤状の延設部とを有し、
前記厚肉部は、前記継鉄部と接合する前記ボビンの延設部の端部に、内周側から外周側方向にテーパ状に形成されていることを特徴とする請求項4記載の車両用ブラシレス交流発電機の励磁コイルボビン装置。
【請求項6】
前記ボビンの筒部及び前記厚肉部以外の延設部を、前記励磁コイルの巻回容積を拡大するように薄肉化したことを特徴とする請求項4または5記載の車両用ブラシレス交流発電機の励磁コイルボビン装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−62925(P2013−62925A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−199073(P2011−199073)
【出願日】平成23年9月13日(2011.9.13)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】