説明

車両用ブレーキ液圧制御装置

【課題】運転者が打音の原因を把握できない状況下において常閉型電磁弁から発生する打音を抑えることができる車両用ブレーキ液圧制御装置を提供することを目的とする。
【解決手段】車両用ブレーキ液圧制御装置の制御部は、常閉型電磁弁への駆動電流を目標電流値C1まで瞬時に第1勾配で上昇させる応答性優先制御と、常閉型電磁弁への駆動電流を、第1勾配よりも緩やかな第2勾配を用いて目標電流値C1まで上昇させる静粛性優先制御と、常閉型電磁弁への駆動電流を、第1勾配よりも緩やかで、かつ、第2勾配よりも急な第3勾配を用いて目標電流値C1まで上昇させる中間制御と、を液圧制御モードに応じて切り替えて、常閉型電磁弁を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、常開型電磁弁と常閉型電磁弁を備える車両用ブレーキ液圧制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数の電磁弁を制御して車輪ブレーキを減圧・保持・増圧可能な車両用ブレーキ液圧制御装置として、調圧弁および入口弁を常開型比例電磁弁とし、出口弁や吸入弁を常閉型電磁弁とするものが知られている(特許文献1参照)。常開型比例電磁弁は、駆動電流に応じて上下流の差圧を調整可能に構成され、常閉型電磁弁は駆動電流をON/OFF制御することで開閉が切り替えられるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−184587号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前述した常閉型電磁弁は駆動電流をON/OFF制御することで開閉が切り替えられる構成であるため、開閉動作による弁体の移動速度が大きく、当該弁体の移動によって生じる打音の影響が常開型比例電磁弁に比べて大きい。このような常閉型電磁弁の打音は、通常、運転者がブレーキ操作をしている場合に介入するブレーキ液圧制御時では、ブレーキアシストなどの制御がなされていると把握できるため、運転者は打音の原因を把握でき、不快に思わない。しかしながら、例えばブレーキ液圧制御装置の診断等、運転者がブレーキ操作をしていないときに常閉型電磁弁が作動した場合には、運転者の意図しないときに打音が発生することになるため、運転者に不快感を与えるといった問題がある。
【0005】
そこで、本発明は、運転者が打音の原因を把握できない状況下において常閉型電磁弁から発生する打音を抑えることができる車両用ブレーキ液圧制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決する本発明は、複数の車輪ブレーキに対応して設けられる複数の常開型電磁弁および複数の常閉型電磁弁と、異なる複数の液圧制御モードに応じて前記電磁弁に付与する駆動電流を制御して前記車輪ブレーキに伝達される液圧を制御する制御部と、を備えた車両用ブレーキ液圧制御装置であって、前記制御部は、前記常閉型電磁弁への駆動電流を目標電流値まで瞬時に第1勾配で上昇させる応答性優先制御と、前記常閉型電磁弁への駆動電流を、前記第1勾配よりも緩やかな第2勾配を用いて前記目標電流値まで上昇させる静粛性優先制御と、前記常閉型電磁弁への駆動電流を、前記第1勾配よりも緩やかで、かつ、前記第2勾配よりも急な第3勾配を用いて前記目標電流値まで上昇させる中間制御と、を前記液圧制御モードに応じて切り替えて、前記常閉型電磁弁を制御することを特徴とする。
【0007】
また、本発明は、複数の車輪ブレーキに対応して設けられる複数の常開型電磁弁および複数の常閉型電磁弁と、異なる複数の液圧制御モードに応じて前記電磁弁に付与する駆動電流を制御して前記車輪ブレーキに伝達される液圧を制御する制御部と、を備えた車両用ブレーキ液圧制御装置であって、前記制御部は、前記常閉型電磁弁への駆動電流を目標電流値まで瞬時に第1勾配で下降させる応答性優先制御と、前記常閉型電磁弁への駆動電流を、前記第1勾配よりも緩やかな第2勾配を用いて前記目標電流値まで下降させる静粛性優先制御と、前記常閉型電磁弁への駆動電流を、前記第1勾配よりも緩やかで、かつ、前記第2勾配よりも急な第3勾配を用いて前記目標電流値まで下降させる中間制御と、を前記液圧制御モードに応じて切り替えて、前記常閉型電磁弁を制御することを特徴とする。
【0008】
ここで、「第1勾配」とは、時間軸に対して略垂直に瞬時に立ち上がる、または、下がる勾配も含む。
【0009】
本発明によれば、液圧制御モードに応じて、応答性優先制御、静粛性優先制御および中間制御を切り替えるので、例えば、緊急性が要求される液圧制御モード時では応答性を優先させることができ、また、運転者がブレーキ操作をしないような走行時(運転者が打音を把握できない状況下)であって応答性が要求されない場合などには、常閉型電磁弁をゆっくり静かに開弁(または閉弁)して打音の発生を抑えることができる。
【0010】
また、本発明は、前記車輪ブレーキ内の液圧を加圧するポンプを備え、前記常閉型電磁弁を、マスタシリンダと前記ポンプの吸入側との間に設けられる吸入弁に用いるのが望ましい。
【0011】
これによれば、例えばポンプと吸入弁間のキャビテーションを除去するために吸入弁を開弁(または閉弁)させる場合において、ゆっくり静かに常閉型電磁弁を開弁(または閉弁)することができるので、運転者の意図しない打音の発生を抑えることができる。
【0012】
また、本発明では、前記制御部が、前記静粛性優先制御および前記中間制御において、前記目標電流値よりも小さく、かつ、前記常閉型電磁弁が開弁されると推定される所定の作動電流範囲内で前記駆動電流を徐々に上昇させ、前記作動電流範囲以外で、前記駆動電流を瞬時に上昇させるように構成されるのが望ましい。
【0013】
これによれば、駆動電流を緩やかに上昇させる期間を必要最小限に短縮することができるので、応答性を確保しつつ打音の発生を抑制することができる。
【0014】
また、本発明では、前記制御部が、前記作動電流範囲内において、前記駆動電流を段階的に上昇させるように構成されるのが望ましい。
【0015】
これによれば、直線状の傾きで上昇させる形態に比べ、駆動電流を段階的に上昇させることで弁体の加速度を制限しながら弁体を移動させることができるので、打音をより抑制することができる。
【0016】
また、本発明において、前記制御部は、前記液圧制御モードが、緊急ブレーキ時において車輪ブレーキを昇圧させるブレーキアシスト制御、または、車両の挙動を安定化する車両挙動制御である場合には、前記応答性優先制御を実行するように構成されることが望ましい。
【0017】
これによれば、液圧制御モードがブレーキアシスト制御などの緊急性が高い制御である場合には、応答性を優先することができる。
【0018】
また、本発明において、前記制御部は、前記液圧制御モードが、車両用ブレーキ液圧制御装置の構成部品の動作を確認するための初期診断制御、または、前記ポンプと前記吸入弁間のキャビテーションを除去するためのキャビテーション除去制御である場合には、前記静粛性優先制御を実行するように構成されていてもよい。
【0019】
これによれば、液圧制御モードが初期診断制御などの運転者がブレーキ操作をしなくても自動的に行われる制御である場合には、応答性よりも静粛性を優先するので、運転者の意図しない打音の発生を抑えて、運転者に不快感を与えるのを防止することができる。
【0020】
また、本発明において、前記制御部は、前記液圧制御モードが、車間距離に応じた自動ブレーキ制御、または、車両停止時に自動的に車輪ブレーキの液圧を保持する自動ホールド制御である場合には、前記中間制御を実行するように構成されていてもよい。
【0021】
これによれば、液圧制御モードが自動ブレーキ制御などのようにブレーキアシスト制御よりも緊急性が低く、かつ、初期診断制御よりも緊急性が高い制御である場合において、静粛性と応答性のバランスをとった良好な制御を行うことができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、運転者が打音の原因を把握できない状況下において常閉型電磁弁から発生する打音を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施形態に係る車両用ブレーキ液圧制御装置を備えた車両を示す構成図である。
【図2】車両用ブレーキ液圧制御装置のブレーキ液圧回路を示す構成図である。
【図3】吸入弁を異なる制御方法で開弁するときの駆動電流の変化を示す図(a)と、吸入弁の開閉状態を示す図(b)である。
【図4】吸入弁を異なる制御方法で閉弁するときの駆動電流の変化を示す図(a)と、吸入弁の開閉状態を示す図(b)である。
【図5】制御部の構成を示すブロック図である。
【図6】複数の液圧制御モードと制御方法の変数の関係を示すマップである。
【図7】吸入弁の制御方法を示すフローチャートである。
【図8】静粛性優先制御で吸入弁を開弁する制御を示すフローチャートである。
【図9】中間制御で吸入弁を開弁する制御を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
次に、本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
図1に示すように、車両用ブレーキ液圧制御装置100は、車両CRの各車輪Wに付与する制動力(ブレーキ液圧)を適宜制御するためのものであり、油路(液圧路)や各種部品が設けられた液圧ユニット10と、液圧ユニット10内の各種部品を適宜制御するための制御部20とを備えている。
【0025】
制御部20は、例えば、CPU、RAM、ROMおよび入出力回路を備えており、車輪速センサ91、舵角センサ92、横加速度センサ93、ヨーレートセンサ94および前後加速度センサ95からの入力と、ROMに記憶されたプログラムやデータに基づいて各演算処理を行うことによって制御を実行する。
【0026】
車輪速センサ91は、車輪Wの車輪速度を検出するセンサであり、各車輪Wに対応して設けられている。
舵角センサ92は、ステアリングSTの舵角量を検出するセンサであり、ステアリングSTの回転軸に設けられている。
【0027】
横加速度センサ93は、車両CRの横方向に働く加速度(横加速度)を検出するセンサであり、制御部20に設けられている。
ヨーレートセンサ94は、車両CRの旋回角速度(実ヨーレート)を検出するセンサであり、制御部20に設けられている。
【0028】
前後加速度センサ95は、車両CRの前後方向に働く加速度(前後加速度)を検出するセンサであり、制御部20に設けられている。
【0029】
ホイールシリンダHは、マスタシリンダMCおよび車両用ブレーキ液圧制御装置100により発生されたブレーキ液圧を各車輪Wに設けられた車輪ブレーキFR,FL,RR,RLの作動力に変換する液圧装置であり、それぞれ配管を介して車両用ブレーキ液圧制御装置100の液圧ユニット10に接続されている。
【0030】
図2に示すように、液圧ユニット10は、運転者がブレーキペダルBPに加える踏力に応じたブレーキ液圧を発生する液圧源であるマスタシリンダMCと、車輪ブレーキFR,FL,RR,RLとの間に配置されている。液圧ユニット10は、ブレーキ液が流通する油路を有する基体であるポンプボディ10a、油路上に複数配置された入口弁1、出口弁2などから構成されている。
【0031】
マスタシリンダMCの二つの出力ポートM1,M2はポンプボディ10aの入口ポート121に接続され、ポンプボディ10aの出口ポート122は各車輪ブレーキFR,FL,RR,RLに接続されている。そして、通常時はポンプボディ10a内の入口ポート121から出口ポート122までが連通した油路となっていることで、ブレーキペダルBPの踏力が各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRに伝達されるようになっている。
【0032】
また、出力ポートM1から始まる油路は前輪左側の車輪ブレーキFLと後輪右側の車輪ブレーキRRに通じており、出力ポートM2から始まる油路は前輪右側の車輪ブレーキFRと後輪左側の車輪ブレーキRLに通じている。なお、以下では、出力ポートM1から始まる油路を「第一系統」と称し、出力ポートM2から始まる油路を「第二系統」と称する。
【0033】
液圧ユニット10には、その第一系統に各車輪ブレーキFL,RRに対応して二つの制御弁手段Vが設けられており、同様に、その第二系統に各車輪ブレーキRL,FRに対応して二つの制御弁手段Vが設けられている。また、液圧ユニット10には、第一系統および第二系統のそれぞれに、リザーバ3、ポンプ4、オリフィス5、調圧弁(レギュレータ)R、本発明の常閉型電磁弁としての吸入弁7が設けられている。さらに、液圧ユニット10には、第一系統のポンプ4と第二系統のポンプ4とを駆動するための共通のモータ9が設けられている。このモータ9は、回転数制御可能なモータである。また、本実施形態では、第二系統にのみ圧力センサ8が設けられている。
【0034】
なお、以下では、マスタシリンダMCの出力ポートM1,M2から各調圧弁Rに至る油路を「出力液圧路A1」と称し、第一系統の調圧弁Rから車輪ブレーキFL,RRに至る油路および第二系統の調圧弁Rから車輪ブレーキRL,FRに至る油路をそれぞれ「車輪液圧路B」と称する。また、出力液圧路A1からポンプ4に至る油路を「吸入液圧路C」と称し、ポンプ4から車輪液圧路Bに至る油路を「吐出液圧路D」と称し、さらに、車輪液圧路Bから吸入液圧路Cに至る油路を「開放路E」と称する。
【0035】
制御弁手段Vは、マスタシリンダMCまたはポンプ4側から車輪ブレーキFL,RR,RL,FR側(詳細には、ホイールシリンダH側)への液圧の行き来を制御する弁であり、ホイールシリンダHの圧力を増加、保持または低下させることができる。そのため、制御弁手段Vは、入口弁1、出口弁2およびチェック弁1aを備えて構成されている。
【0036】
入口弁1は、各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRとマスタシリンダMCとの間、すなわち車輪液圧路Bに設けられた常開型の電磁弁である。入口弁1は、通常時に開いていることで、マスタシリンダMCから各車輪ブレーキFL,FR,RL,RRへブレーキ液圧が伝達するのを許容している。また、入口弁1は、車輪Wがロックしそうになったときに制御部20により閉塞されることで、ブレーキペダルBPから各車輪ブレーキFL,FR,RL,RRに伝達するブレーキ液圧を遮断する。
【0037】
出口弁2は、各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRと各リザーバ3との間、すなわち車輪液圧路Bと開放路Eとの間に介設された常閉型の電磁弁である。出口弁2は、通常時に閉塞されているが、車輪Wがロックしそうになったときに制御部20により開放されることで、各車輪ブレーキFL,FR,RL,RRに作用するブレーキ液圧を各リザーバ3に逃がす。
【0038】
チェック弁1aは、各入口弁1に並列に接続されている。このチェック弁1aは、各車輪ブレーキFL,FR,RL,RR側からマスタシリンダMC側へのブレーキ液の流入のみを許容する一方向弁であり、ブレーキペダルBPからの入力が解除された場合に、入口弁1を閉じた状態にしたときにおいても、各車輪ブレーキFL,FR,RL,RR側からマスタシリンダMC側へのブレーキ液の流入を許容する。
【0039】
リザーバ3は、開放路Eに設けられており、各出口弁2が開放されることによって逃がされるブレーキ液圧を吸収する機能を有している。また、リザーバ3とポンプ4との間には、リザーバ3側からポンプ4側へのブレーキ液の流れのみを許容するチェック弁3aが介設されている。
【0040】
ポンプ4は、出力液圧路A1に通じる吸入液圧路Cと車輪液圧路Bに通じる吐出液圧路Dとの間に介設されており、リザーバ3に貯留されているブレーキ液を吸入して吐出液圧路Dに吐出する機能を有している。これにより、リザーバ3により吸収されたブレーキ液をマスタシリンダMCに戻すことができるとともに、運転者がブレーキペダルBPを操作しない場合でもブレーキ液圧を発生して車輪ブレーキFL,RR,RL,FRに制動力を発生することができる。
なお、ポンプ4のブレーキ液の吐出量は、モータ9の回転数に依存しており、例えば、モータ9の回転数が大きくなると、ポンプ4によるブレーキ液の吐出量も大きくなる。
【0041】
オリフィス5は、ポンプ4から吐出されたブレーキ液の圧力の脈動を減衰させている。
【0042】
調圧弁Rは、通常時に開いていることで、出力液圧路A1から車輪液圧路Bへのブレーキ液の流れを許容する。また、調圧弁Rは、ポンプ4が発生したブレーキ液圧によりホイールシリンダH側の圧力を増加するときには、ブレーキ液の流れを遮断しつつ、吐出液圧路D、車輪液圧路BおよびホイールシリンダH側の圧力を設定値以下に調節する機能を有している。そのため、調圧弁Rは、切換弁6およびチェック弁6aを備えて構成されている。
【0043】
切換弁6は、マスタシリンダMCに通じる出力液圧路A1と各車輪ブレーキFL,FR,RL,RRに通じる車輪液圧路Bとの間に介設された常開型のリニアソレノイド弁である。詳細は図示しないが、切換弁6の弁体は、付与される電流に応じた電磁力によって車輪液圧路BおよびホイールシリンダH側へ付勢されており、車輪液圧路Bの圧力が出力液圧路A1の圧力より所定値(この所定値は、付与される電流による)以上高くなった場合には、車輪液圧路Bから出力液圧路A1へ向けてブレーキ液が逃げることで、車輪液圧路B側の圧力が所定圧に調整される。
【0044】
チェック弁6aは、各切換弁6に並列に接続されている。このチェック弁6aは、出力液圧路A1から車輪液圧路Bへのブレーキ液の流れを許容する一方向弁である。
【0045】
吸入弁7は、吸入液圧路Cに設けられた常閉型電磁弁であり、吸入液圧路Cを開放する状態または遮断する状態に切り換えるものである。吸入弁7は、切換弁6が閉じるとき、すなわち、運転者がブレーキペダルBPを操作しない場合において各車輪ブレーキFL,FR,RL,RRにブレーキ液圧を作用させるときに制御部20により開放(開弁)される。
【0046】
圧力センサ8は、第二系統の出力液圧路A1のブレーキ液圧を検出するものであり、その検出結果は制御部20に入力される。
【0047】
次に、制御部20の詳細について説明する。
制御部20は、各センサ91〜95,8等から入力された信号などに基づいて液圧ユニット10内の制御弁手段V、切換弁6(調圧弁R)および吸入弁7の開閉動作ならびにモータ9の動作を制御して、各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRの動作を制御するものである。言い換えると、制御部20は、ブレーキアシスト制御や自動ブレーキ制御などの異なる複数の液圧制御モードに応じて各電磁弁に付与する駆動電流を制御して車輪ブレーキFL,RR,RL,FRに伝達される液圧を制御している。
【0048】
なお、本実施形態では、複数の液圧制御モードとして、ブレーキアシスト制御、車両挙動制御、自動ブレーキ制御、自動ホールド制御、初期診断制御およびキャビテーション除去制御を例示することとする。ここで、「ブレーキアシスト制御」とは、緊急ブレーキ時において車輪ブレーキを昇圧する制御をいい、「車両挙動制御」とは、ABS制御やトラクションコントロールなどの車両の挙動を安定化する制御をいう。
【0049】
また、「自動ブレーキ制御」とは、例えばオートクルーズコントロールのような車間距離に応じて自動的に車輪ブレーキを昇圧する制御をいい、「自動ホールド制御」とは、車両停止時に自動的に車輪ブレーキにかかる液圧を保持する制御をいう。さらに、「初期診断制御」とは、車両の走行時において車両用ブレーキ液圧制御装置100の構成部品の動作を確認するための制御をいい、「キャビテーション除去制御」とは、ポンプ4と吸入弁7間のキャビテーションを除去するための制御をいう。
【0050】
そして、制御部20は、各液圧制御モードにおける吸入弁7の制御方法を、各液圧制御モードに応じて、応答性を優先した応答性優先制御と、静粛性を優先した静粛性優先制御と、応答性と静粛性のバランスをとった中間制御とに切り替えるように構成されている。ここで、「応答性優先制御」とは、図3(a)および図4(a)に実線で示すように、吸入弁7への駆動電流を目標電流値(C1または0)まで瞬時に第1勾配で上昇または下降させる制御をいう。
【0051】
また、「静粛性優先制御」とは、2点鎖線で図示するように、吸入弁7への駆動電流を、第1勾配よりも緩やかな第2勾配(所定の作動電流範囲C2〜C3,C4〜C5内での平均勾配)を用いて目標電流値まで上昇または下降させる制御をいう。ここで、「作動電流範囲C2〜C3」とは、駆動電流を0から上昇させていく場合において吸入弁7が開弁されると推定される電流値の範囲をいい、「作動電流範囲C4〜C5」とは、駆動電流をC1から下降させていく場合において吸入弁7が閉弁されると推定される電流値の範囲をいう。なお、各作動電流範囲C2〜C3,C4〜C5は、実験やシミュレーション等により適宜決定することができる。
【0052】
また、「中間制御」とは、破線で図示するように、吸入弁7への駆動電流を、第1勾配よりも緩やかで、かつ、第2勾配よりも急な第3勾配(作動電流範囲C2〜C3,C4〜C5内での平均勾配)を用いて目標電流値まで上昇または下降させる制御をいう。
【0053】
そして、制御部20は、静粛性優先制御および中間制御において、作動電流範囲C2〜C3,C4〜C5内で駆動電流を徐々に上昇または下降させ、作動電流範囲C2〜C3,C4〜C5以外で、駆動電流を瞬時に上昇または下降させるように構成されている。これにより、駆動電流を緩やかに上昇または下降させる期間を必要最小限に短縮して応答性を確保することが可能となっている。
【0054】
さらに、制御部20は、静粛性優先制御および中間制御における作動電流範囲C2〜C3,C4〜C5内において、駆動電流を段階的に上昇させている。このように、駆動電流を段階的に上昇させることで、一定の勾配で上昇させる形態に比べ、吸入弁7内の弁体の加速度を制限しながら弁体を移動させることができ、打音をより抑制することが可能となっている。
【0055】
ここで、「段階的」とは、駆動電流の保持と上昇を繰り返すことで駆動電流を階段状に上昇させることをいう。
【0056】
前述したような制御を実行する制御部20は、図5に示すように、モード特定手段21と、選択手段22と、記憶部23と、吸入弁制御手段24とを備えている。なお、以下の説明では、吸入弁7以外の各液圧制御モードでの制御(制御弁手段Vなどの制御)は、公知であるため、詳細な説明は省略する。
【0057】
モード特定手段21は、制御部20で行っている現在の液圧制御モードが図6のマップに示す各モードのいずれであるかを特定するように構成されている。モード特定手段21は、特定したモード情報を選択手段22に出力する。なお、モードの特定は、例えば、所定のモードを開始してから終了するまでの間、その所定のモードを示すフラグを立てておくことで特定することができる。
【0058】
選択手段22は、モード特定手段21から送られてくるモード情報と、記憶部23に記憶されているマップ(図6参照)とに基づいて、吸入弁7の制御方法を選択する機能を有している。具体的に、選択手段22は、モード情報が「ブレーキアシスト制御」または「車両挙動制御」を示す情報である場合には、応答性優先制御を選択すべく、マップに基づいて制御方法の変数Fを0(応答性優先制御に対応した数値)に設定する。
【0059】
また、選択手段22は、モード情報が「自動ブレーキ制御」または「自動ホールド制御」を示す情報である場合には、中間制御を選択すべく、マップに基づいて制御方法の変数Fを1(中間制御に対応した数値)に設定する。さらに、選択手段22は、モード情報が「初期診断制御」または「キャビテーション除去制御」を示す情報である場合には、静粛性優先制御を選択すべく、マップに基づいて制御方法の変数Fを2(静粛性優先制御に対応した数値)に設定する。
【0060】
そして、選択手段22は、選択した制御方法の変数Fを吸入弁制御手段24に出力する。
【0061】
吸入弁制御手段24は、選択手段22から送られてくる変数Fに基づいて、吸入弁7に流す駆動電流を、前述した応答性優先制御、中間制御または静粛性優先制御で上昇または下降させる機能を有している。
【0062】
次に、図7〜図9を参照して、制御部20の動作について説明する。
図7に示すように、制御部20は、吸入弁7を開閉するための開閉信号を受けると(START)、まず、現在の液圧制御モードが何のモードであるかを特定する(S1)。ステップS1の後、制御部20は、特定したモードに基づいて制御方法を選択、すなわちモードに対応した数値を制御方法の変数Fに代入する(S2)。
【0063】
ステップS2の後、制御部20は、変数Fが0であるか否かを判断する(S3)。ステップS3において変数Fが0である場合には(Yes)、制御部20は、応答性優先制御を実行する(S4)。すなわち、この応答性優先制御においては、制御部20は、通常のON・OFF制御で吸入弁7を作動させることで、駆動電流を瞬時に上昇または下降させる(図3(a),図4(a)参照)。これにより、図3(b),図4(b)に示すように、吸入弁7は瞬時に開弁または閉弁するようになっている。
【0064】
ステップS3において変数Fが0でない場合には(No)、制御部20は、変数Fが1であるか否かを判断する(S5)。ステップS5において、制御部20は、変数が1である場合には(Yes)、中間制御を実行し(S6)、変数Fが1でない場合には(No)、静粛性優先制御を実行する(S7)。
【0065】
次に、静粛性優先制御および中間制御について詳細に説明する。なお、以下においては、吸入弁7を開弁させるときの制御のみを説明し、閉弁させるときの制御については開弁時の制御と略同様なので図示を省略して簡単に説明する。
【0066】
制御部20は、静粛性優先制御によって吸入弁7を開弁させる場合には、図8に示すようなフローチャートに基づいて制御を実行する。具体的に、制御部20は、まず、図示せぬスイッチをONにして吸入弁7への駆動電流の供給を開始して、駆動電流を瞬時に上昇させる(S11)。ステップS11の後、制御部20は、駆動電流が作動電流範囲C2〜C3の下限値C2を超えた否かを判断する(S12)。
【0067】
ステップS12において駆動電流が下限値C2を超えた場合には(Yes)、制御部20は、スイッチをOFFにして、駆動電流を第1時間だけ保持する(S13)。ステップS13の後、制御部20は、スイッチをONにして、駆動電流を所定量だけ上昇させる(S14)。
【0068】
ステップS14の後、制御部20は、駆動電流が作動電流範囲C2〜C3の上限値C3を超えたか否かを判断する(S15)。ステップS15において駆動電流が上限値C3以下の場合には(No)、制御部20は、ステップS13,S14の処理を繰り返す。すなわち、制御部20は、駆動電流が上限値C3を超えるまでON・OFF制御して、駆動電流を第2勾配で段階的に上昇させる。これにより、図3(b)に示すように、静粛性優先制御(2点鎖線)では、応答性優先制御(実線)や中間制御(破線)よりもゆっくりと吸入弁7を開弁して、打音を十分に抑制することが可能となっている。
【0069】
ステップS15において駆動電流が上限値C3を超えた場合には(Yes)、制御部20は、駆動電流を目標電流値C1まで瞬時に上昇させる(S16)。
【0070】
また、制御部20は、中間制御によって吸入弁7を開弁させる場合には、図9に示すようなフローチャートに基づいて制御を実行する。具体的に、図9のフローチャートは、図8のフローチャートのステップS13の処理における「第1時間」を当該第1時間よりも短い「第2時間」に変更しただけであり、その他の処理(S11,S12,S14〜S16)は図8のフローチャートと同様の処理になっている。これによれば、図3(a)に示すように、中間制御(破線)では、応答性優先制御(実線)のときの第1勾配よりも緩やかで、かつ、静粛性優先制御(2点鎖線)のときの第2勾配よりも急な第3勾配で駆動電流を上昇させることが可能となっている。そのため、図3(b)に示すように、中間制御(破線)では、応答性優先制御(実線)よりもゆっくりで、かつ、静粛性優先制御(2点鎖線)よりも早く吸入弁7を開弁して、静粛性と応答性のバランスをとった良好な制御を行うことが可能となっている。
【0071】
なお、静粛性優先制御や中間制御によって吸入弁7を閉弁させる場合には、制御部20は、図8や図9のフローチャートを多少変更したフローチャートに基づいて制御を実行する。具体的には、閉弁時のフローチャートは、図8,9のフローチャートにおける「上昇」を「下降」に変更し、ステップS12の「駆動電流>下限値」を「駆動電流<上限値」に変更し、ステップS15の「駆動電流>上限値」を「駆動電流<下限値」に変更し、ステップS16の目標電流値を0に変更したものである。これにより、図4(b)に示すように、静粛性優先制御(2点鎖線)において応答性優先制御(実線)や中間制御(破線)よりもゆっくりと吸入弁7を閉弁して、打音を十分に抑制することが可能となっている。また、中間制御では、応答性優先制御よりもゆっくりで、かつ、静粛性優先制御よりも早く吸入弁7を閉弁して、静粛性と応答性のバランスをとった良好な制御を行うことが可能となっている。
【0072】
以上によれば、本実施形態において以下のような効果を得ることができる。
液圧制御モードに応じて、応答性優先制御、静粛性優先制御および中間制御を切り替えるので、例えば初期診断制御のような運転者がブレーキ操作をしないような走行時(運転者が打音を把握できない状況下)であって応答性が要求されない場合などには、静かに吸入弁7を開弁または閉弁して打音の発生を抑えることができる。
【0073】
液圧制御モードがブレーキアシスト制御や車両挙動制御(すなわち緊急性が高い制御)である場合には、応答性優先制御を実行することで、応答性を高くして、これらの制御を的確に行うことができる。
【0074】
液圧制御モードが初期診断制御やキャビテーション除去制御(すなわち運転者がブレーキ操作をしなくても自動的に行われる制御)である場合には、静粛性優先制御を実行して、吸入弁7を静かに開閉するので、運転者に不快感を与えるのを防止することができる。
【0075】
液圧制御モードが自動ブレーキ制御や自動ホールド制御(すなわちブレーキアシスト制御よりも緊急性が低く、かつ、初期診断制御よりも緊急性が高い制御)である場合には、中間制御を実行するので、静粛性と応答性のバランスをとった良好な制御を行うことができる。
【0076】
なお、本発明は前記実施形態に限定されることなく、以下に例示するように様々な形態で利用できる。
前記実施形態では、吸入弁7に本発明に係る制御を適用したが、本発明はこれに限定されず、その他の常閉型電磁弁、例えば出口弁などに本制御を適用してもよい。また、液圧制御モードも前記実施形態に例示したものに限らず、どのようなモードであってもよい。
【0077】
前記実施形態では、静粛性優先制御や中間制御において、作動電流範囲C2〜C3,C4〜C5外で駆動電流を瞬時に上昇または下降させたが、本発明はこれに限定されず、例えば作動電流範囲外でも第2勾配や第3勾配で駆動電流を上昇または下降させてもよい。また、前記実施形態では、静粛性優先制御や中間制御において、駆動電流を段階的に上昇または下降させたが、本発明はこれに限定されず、駆動電流を一定の勾配(直線的な傾き)で上昇または下降させてもよい。
【符号の説明】
【0078】
6 切替弁
7 吸入弁
20 制御部
100 車両用ブレーキ液圧制御装置
C1 目標電流値
FL,FR,RL,RR 車輪ブレーキ



【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の車輪ブレーキに対応して設けられる複数の常開型電磁弁および複数の常閉型電磁弁と、異なる複数の液圧制御モードに応じて前記電磁弁に付与する駆動電流を制御して前記車輪ブレーキに伝達される液圧を制御する制御部と、を備えた車両用ブレーキ液圧制御装置であって、
前記制御部は、
前記常閉型電磁弁への駆動電流を目標電流値まで瞬時に第1勾配で上昇させる応答性優先制御と、
前記常閉型電磁弁への駆動電流を、前記第1勾配よりも緩やかな第2勾配を用いて前記目標電流値まで上昇させる静粛性優先制御と、
前記常閉型電磁弁への駆動電流を、前記第1勾配よりも緩やかで、かつ、前記第2勾配よりも急な第3勾配を用いて前記目標電流値まで上昇させる中間制御と、を前記液圧制御モードに応じて切り替えて、前記常閉型電磁弁を制御することを特徴とする車両用ブレーキ液圧制御装置。
【請求項2】
前記車輪ブレーキを加圧するポンプを備え、
前記常閉型電磁弁は、マスタシリンダと前記ポンプの吸入側との間に設けられる吸入弁であることを特徴とする請求項1に記載の車両用ブレーキ液圧制御装置。
【請求項3】
前記制御部は、
前記静粛性優先制御および前記中間制御において、
前記常閉型電磁弁が開弁されると推定される所定の作動電流範囲内で前記駆動電流を徐々に上昇させ、
前記作動電流範囲以外で、前記駆動電流を瞬時に上昇させることを特徴とする請求項2に記載の車両用ブレーキ液圧制御装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記作動電流範囲内において、前記駆動電流を段階的に上昇させることを特徴とする請求項3に記載の車両用ブレーキ液圧制御装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記液圧制御モードが、緊急ブレーキ時において車輪ブレーキを昇圧させるブレーキアシスト制御、または、車両の挙動を安定化する車両挙動制御である場合には、前記応答性優先制御を実行することを特徴とする請求項2〜請求項4のいずれか1項に記載の車両用ブレーキ液圧制御装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記液圧制御モードが、車両用ブレーキ液圧制御装置の構成部品の動作を確認するための初期診断制御、または、前記ポンプと前記吸入弁間のキャビテーションを除去するためのキャビテーション除去制御である場合には、前記静粛性優先制御を実行することを特徴とする請求項2〜請求項5のいずれか1項に記載の車両用ブレーキ液圧制御装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記液圧制御モードが、車間距離に応じた自動ブレーキ制御、または、車両停止時に自動的に車輪ブレーキにかかる液圧を保持する自動ホールド制御である場合には、前記中間制御を実行することを特徴とする請求項2〜請求項6のいずれか1項に記載の車両用ブレーキ液圧制御装置。
【請求項8】
複数の車輪ブレーキに対応して設けられる複数の常開型電磁弁および複数の常閉型電磁弁と、異なる複数の液圧制御モードに応じて前記電磁弁に付与する駆動電流を制御して前記車輪ブレーキに伝達される液圧を制御する制御部と、を備えた車両用ブレーキ液圧制御装置であって、
前記制御部は、
前記常閉型電磁弁への駆動電流を目標電流値まで瞬時に第1勾配で下降させる応答性優先制御と、
前記常閉型電磁弁への駆動電流を、前記第1勾配よりも緩やかな第2勾配を用いて前記目標電流値まで下降させる静粛性優先制御と、
前記常閉型電磁弁への駆動電流を、前記第1勾配よりも緩やかで、かつ、前記第2勾配よりも急な第3勾配を用いて前記目標電流値まで下降させる中間制御と、を前記液圧制御モードに応じて切り替えて、前記常閉型電磁弁を制御することを特徴とする車両用ブレーキ液圧制御装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−236460(P2012−236460A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−105530(P2011−105530)
【出願日】平成23年5月10日(2011.5.10)
【出願人】(000226677)日信工業株式会社 (840)
【Fターム(参考)】