説明

車両用ブレーキ装置

【課題】ブレーキペダルの操作中、遮断弁がセルフロック状態となった場合であっても、前記セルフロック状態を早期に解除すること。
【解決手段】ホイールシリンダ4a〜4dに制動力を発生させるマスタシリンダM/Cと、ノーマルオープンタイプのマスタカットバルブMCV1、MCV2と、電気的な作動によりホイールシリンダ4a〜4dに制動力を発生させるスレーブシリンダS/Cと、前記マスタシリンダM/C又は前記スレーブシリンダS/Cによって発生した液圧を検出するPセンサPh、Ps、Ppと、ホイールシリンダ側の液圧を減圧するアウトバルブ86、87とを備え、ブレーキペダル3の操作中に、該ブレーキペダル3の操作量に応じて発生した液圧が、前記マスタカットバルブMCV1、MCV2の開弁可能圧力を超えたとき、前記アウトバルブ86、87によってホイールシリンダ4a〜4dに供給される液圧を早期に低下させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスタシリンダとホイールシリンダ間に遮断弁が設けられ、その遮断弁とホイールシリンダ間に液圧源が設けられている車両用ブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用ブレーキ装置では、マスタシリンダがホイールシリンダと液圧路で接続されている。運転者がブレーキ操作部を操作すると、このマスタシリンダに上流液圧が発生する。この上流液圧を遮断弁で遮断して直接にホイールシリンダを作動させずに、ブレーキ操作部の操作量だけでなく他の物理量も加味して液圧源に下流液圧を発生させ、ホイールシリンダを作動させている。このような制動方式は、いわゆるブレーキ・バイ・ワイヤ(BBW)方式と呼ばれている。
【0003】
このブレーキ・バイ・ワイヤ方式の車両用ブレーキ装置は、サーボシステムからなり、通常時、運転者の踏力を倍増しホイールシリンダに与えている。このため、車両用ブレーキ装置では、上流液圧が下流液圧より小さいという関係(上流液圧<下流液圧)が維持されている。上流液圧を発生させるマスタシリンダと、下流液圧が印加されるホイールシリンダの間には、遮断弁が設けられており、遮断弁の弁体には、上流液圧と下流液圧の差圧が作用する。通常、マスタシリンダとホイールシリンダの間を遮断するために、遮断弁を閉弁状態にしている。この閉弁状態を確実に維持するために、弁体を弁座に対して下流液圧側に配置し、上流液圧と下流液圧の差圧を利用して遮断弁の弁体を弁座に圧接できるように、遮断弁が設けられている。弁体には、閉弁状態時に弁座に圧接させる方向にその差圧と推力が印加され、その閉弁状態を確実に維持できるようになっている。
【0004】
なお、遮断弁は、通常、電力を使って閉弁させるノーマルオープンタイプの電磁弁が用いられている。これは、フェイルセーフの考え方に基づくものである。例えば、何らかの原因で車両用ブレーキ装置に故障が発生し、ブレーキ・バイ・ワイヤ(BBW)方式の制御方法が機能しなくなった場合には、ノーマルオープンタイプの遮断弁が開弁状態となり、マスタシリンダとホイールシリンダとを連通させ、運転者が何時もと同じブレーキ操作をすると、マスタシリンダに発生させた上流液圧がホイールシリンダに供給されて、車両を制動することができる。
【0005】
この種のブレーキ・バイ・ワイヤ方式の車両用ブレーキ装置に関し、例えば、特許文献1には、ブレーキ制御の終了時にホイールシリンダ圧を開放することによって、遮断弁(マスタカットバルブ)の上流液圧と下流液圧の差圧を減少させ、前記遮断弁(マスタカットバルブ)を開弁状態とするブレーキ液圧制御装置が開示されている。遮断弁(マスタカットバルブ)の両側に発生する差圧は、遮断弁の開弁動作を妨げる力として作用する場合があり、ブレーキ制御の終了が要求された際に遮断弁が適正に開弁しないと、ブレーキ制御の実行中に発生した高い液圧のホイールシリンダ圧がホイールシリンダと遮断弁との間に封じ込められた事態が生ずるからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3550975号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献1に開示されたブレーキ液圧制御装置において、例えば、運転者がイグニッションスイッチをオン状態としてブレーキ・バイ・ワイヤ方式のブレーキ制御を開始する際、運転者がブレーキペダルを強く踏み込んで(ブレーキペダルの操作量を大きくして)、そのブレーキペダルの踏力に対応して高圧源によって液圧を増加させているため、この液圧が増加された時点でホイールシリンダ圧を開放しても、前記ホイールシリンダ圧の開放(減圧)に時間がかかってしまい、ブレーキの引き摺り状態が発生するおそれがある。
【0008】
すなわち、図6(a)に示すように、運転者が、例えば、ブレーキペダルを床面に近接する程に強く踏み込んだ状態(図6(a)の太破線参照)でイグニッションスイッチをオン状態とした場合、通常のブレーキ制御(通常のサーボ圧)から逸脱して遮断弁(マスタカットバルブ(MCV))の開弁可能圧力(MCV開放圧)を超えたホイールシリンダ圧でブレーキ制御が開始される(ブレーキペダルを強く踏んでシステム起動)。ブレーキ制御が開始されることによって遮断弁(MCV)のソレノイドが通電されてオン状態となり(図6(a)中の起動MCV ON参照)、遮断弁の弁体が弁座に着座して閉弁状態となる。この結果、マスタシリンダ側の上流液圧とホイールシリンダ側の下流液圧とが遮断弁によって遮断される。
【0009】
この場合、運転者がブレーキペダルの踏み込みを緩めても(ペダル操作量をゼロに近づける)、下流液圧であるホイールシリンダ圧が遮断弁の開弁可能圧力を超えた高い液圧に保持されているため、遮断弁のソレノイドに対する通電を停止してオフ状態として(図6(a)中のMCV OFF参照)閉弁状態から開弁状態に切り換えようとしても、遮断弁を開弁させようとする圧力よりも高いホイールシリンダ圧によって遮断弁が閉弁状態にセルフロックされた状態となる(図6(a)の二点鎖線の直線参照)。このように、ノーマルオープンタイプの遮断弁がセルフロック状態となって、前記遮断弁を閉弁状態から開弁状態に迅速に切り換えることができず、この結果、遮断弁を開弁状態としてホイールシリンダ圧を開放するまでに時間がかかる。
【0010】
換言すると、BBW方式のブレーキ制御の起動時におけるホイールシリンダ圧が、遮断弁の開弁可能圧力を超えた高い圧力でブレーキ制御を開始した場合、ノーマルオープンタイプの遮断弁がセルフロック状態となり前記遮断弁の通電を停止してオフ状態としても閉弁状態から開弁状態に切り換えるまでに時間がかかってしまい、その間、遮断弁の開弁可能圧力を超えた高い液圧がホイールシリンダに作用するため、ブレーキの引き摺り状態が発生するという問題がある。
【0011】
本発明は、前記の点に鑑みてなされたものであり、ブレーキペダルの操作中、遮断弁の開弁可能圧力を超えた高い液圧となり、前記遮断弁がセルフロック状態となった場合であっても、前記セルフロック状態を早期に解除することが可能な車両用ブレーキ制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記の目的を達成するために、本発明は、運転者のブレーキペダルの操作に応じてホイールシリンダに制動力を発生させる液圧発生手段と、前記液圧発生手段と前記ホイールシリンダとの間に設けられるノーマルオープンタイプの遮断弁と、電気的に作動されるアクチュエータによって前記ホイールシリンダに制動力を発生させる電気的液圧発生手段と、前記液圧発生手段又は前記電気的液圧発生手段によって発生した液圧を検出する液圧検出手段とを備えた車両用ブレーキ装置であって、前記ブレーキペダルの操作中に、該ブレーキペダルの操作量に応じて発生した液圧が、前記遮断弁の開弁可能圧力を超えたときに前記ホイールシリンダに供給される液圧を低下させることを特徴とする。
【0013】
本発明によれば、ブレーキペダルの操作中、ブレーキペダルの操作量に対応して発生するホイールシリンダ側の液圧が遮断弁の開弁可能圧力を超えたときに前記液圧を低下させることができるため、ブレーキペダルの操作による液圧発生手段で発生する液圧と電気的液圧発生手段で発生する液圧とが合算されることを回避し、遮断弁のセルフロック状態を解除して早期に開弁状態とすることができる。
【0014】
また、本発明は、前記ホイールシリンダとリザーバとの連通路に該ホイールシリンダの液圧を減圧させる減圧弁を配設し、前記遮断弁が開弁状態で前記ブレーキペダルの操作量に応じて発生した液圧が前記遮断弁の開弁可能圧力を超えたとき、前記減圧弁によって前記ホイールシリンダに供給される液圧を低下させることを特徴とする。
【0015】
本発明によれば、遮断弁が開弁状態でブレーキペダルを操作して液圧を発生させると、このブレーキペダルの操作量に対応する液圧が遮断弁の下流側(ホイールシリンダ側)に発生する。このブレーキペダルの操作量に対応する液圧が遮断弁の開弁可能圧力を超えた高い圧力となり、遮断弁の上流側(液圧発生手段側)との差圧によってセルフロック状態が発生するが、減圧弁を介して前記高い液圧のブレーキ液をリザーバに逃がすことによって前記液圧を低下させることができる。この結果、遮断弁のセルフロック状態を解除して早期に開弁状態とすることができる。
【0016】
さらに、本発明は、前記遮断弁が閉弁状態で前記ブレーキペダルの操作量に応じて発生した液圧が前記遮断弁の開弁可能圧力を超えたとき、前記電気的液圧発生手段によって前記ホイールシリンダに供給される液圧を低下させることを特徴とする。
【0017】
本発明によれば、遮断弁が閉弁状態にあって電気的液圧発生手段が作動しているため、前記電気的液圧発生手段を用いて遮断弁の下流側(ホイールシリンダ側)の液圧を高精度に減圧(制御)することができる。この結果、遮断弁のセルフロック状態を解除して早期に開弁状態とすることができる。
【0018】
さらにまた、本発明は、前記ホイールシリンダとリザーバとの連通路に該ホイールシリンダの液圧を減圧させる減圧弁を配設し、前記遮断弁の開弁可能圧力を超えたときに前記電気的液圧発生手段及び前記減圧弁によって前記ホイールシリンダに供給される液圧を低下させることを特徴とする。
【0019】
本発明によれば、ブレーキペダルの操作中、遮断弁の開弁可能圧力を超えた高い液圧となり、前記遮断弁がセルフロック状態となった場合であっても、電気的液圧発生手段と減圧弁との協働作用によって遮断弁の下流側(ホイールシリンダ側)の液圧を減圧し、前記セルフロック状態を好適に解除することができる。この場合、電気的液圧発生手段と減圧弁とを協働して用いることにより、遮断弁の開弁可能圧力を超えた高い液圧の低下量を増大させ、迅速にセルフロック状態を解除することができる。
【発明の効果】
【0020】
ブレーキペダルの操作中、遮断弁の開弁可能圧力を超えた高い液圧となり、前記遮断弁がセルフロック状態となった場合であっても、前記セルフロック状態を早期に解除することが可能な車両用ブレーキ制御装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施形態に係る車両用ブレーキ装置が搭載された車両の構成図である。
【図2】本発明の実施形態に係る車両用ブレーキ装置の構成図であって、前記車両用ブレーキ装置が停止状態にあるときの状態を示している。
【図3】本発明の実施形態に係る車両用ブレーキ装置に用いられているマスタカットバルブ(遮断弁)の構成図である。
【図4】マスタカットバルブ(遮断弁)のセルフロック状態を解除する具体的を示すフローチャートである。
【図5】本発明の実施形態に係る車両用ブレーキ装置が稼動状態にあるときの構成図である。
【図6】(a)は、従来技術において、ペダルストロークとホイールシリンダ圧との関係を示す特性図、(b)は、セルフロック状態の発生経路を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
図1に、本発明の実施形態に係る車両用ブレーキ装置2を搭載した車両1の構成図を示す。車両1は、4つの車輪10を有し、前方の2つの車輪10は車軸8aに連結され、後方の2つの車輪10は車軸8bに連結されている。車軸8aは、エンジン5とモータ(電動機)6の少なくともどちらか一方で発生させた駆動力を、トランスミッション7を介して受け、前方の2つの車輪10に伝達し、回動させる。また、車軸8aは、前方の2つの車輪10の回転エネルギ(運動エネルギ)を回生エネルギとして、トランスミッション7に伝達し、さらに、モータ(電動機)6に伝達され、モータ(電動機)6において、回生エネルギが、運動エネルギから電気エネルギに変換され、バッテリ9に蓄えられることで、前方の2つの車輪10を制動させることができる。すなわち、前方の2つの車輪10及び車軸8aは、モータ(電動機)6を用いた回生制動により、制動させることができる。なお、バッテリ9に蓄えられた回生エネルギはモータ(電動機)6で前記駆動力を発生させる際に使用される。なお、図1に示すように、実施形態では、車両1として、ハイブリッド自動車を例に説明しているが、これに限らない。すなわち、図1からエンジン5を省いたような電気自動車にも、本発明に係る車両用ブレーキ装置2は適用できるのである。
【0023】
4つの車輪10には、それぞれ、ホイールシリンダ4a、4b、4c、4dが設けられている。ホイールシリンダ4aは、液圧路19aで車両用ブレーキ装置(本体)2に接続され、車両用ブレーキ装置(本体)2から液圧路19aを介してホイールシリンダ4aの液圧が上げられると、ホイールシリンダ4aが作動し対応する車輪10を制動させる。同様に、ホイールシリンダ4bは、液圧路19bで車両用ブレーキ装置(本体)2に接続され、車両用ブレーキ装置(本体)2から液圧路19bを介してホイールシリンダ4bの液圧が上げられると、ホイールシリンダ4bが作動し対応する車輪10を制動させる。ホイールシリンダ4cも、液圧路19cで車両用ブレーキ装置(本体)2に接続され、車両用ブレーキ装置(本体)2から液圧路19cを介してホイールシリンダ4cの液圧が上げられると、ホイールシリンダ4cが作動し対応する車輪10を制動させる。ホイールシリンダ4dも、液圧路19dで制動装置(本体)2に接続され、車両用ブレーキ装置(本体)2から液圧路19dを介してホイールシリンダ4dの液圧が上げられると、ホイールシリンダ4dが作動し対応する車輪10を制動させる。すなわち、4つの車輪10及び車軸8a、8bは、車両用ブレーキ装置(本体)2とホイールシリンダ4a、4b、4c、4dを用いて発生させた液圧制動力により、制動させることができる。
【0024】
このため、前方の2つの車輪10及び車軸8aは、モータ(電動機)6を用いた回生制動と、ホイールシリンダ4a、4b、4c、4dを用いて発生させた液圧制動力による制動との2つの制動方式により、制動制御が行われている。この制動制御は、車両用ブレーキ装置(本体)2によって行われ、具体的には、回生制動による回生制動力とホイールシリンダ4a、4b、4c、4dによる液圧制動力の配分比を変更したり、回生制動を中止したりする制御が行われる。
【0025】
なお、本実施形態では、図1に示されるように、ホイールシリンダ4aを車両1の右側前輪に配設し、ホイールシリンダ4bを車両1の左側前輪に配設し、ホイールシリンダ4cを車両1の右側後輪に配設し、ホイールシリンダ4dを車両1の左側後輪に配設しているが、これに限定されるものではない。例えば、ホイールシリンダ4aを車両1の右側前輪に配設し、ホイールシリンダ4bを車両1の左側後輪に配設し、ホイールシリンダ4cを車両1の左側前輪に配設し、ホイールシリンダ4dを車両1の右側後輪に配設するようにしてもよい。または、ホイールシリンダ4aを車両1の右側前輪に配設し、ホイールシリンダ4bを車両1の右側後輪に配設し、ホイールシリンダ4cを車両1の左側前輪に配設し、ホイールシリンダ4dを車両1の左側後輪に配設するようにしてもよい。
【0026】
車両用ブレーキ装置(本体)2には、ブレーキペダル3が設けられ、車両1の運転者によって操作される。ブレーキペダル3は、車両用ブレーキ装置(本体)2に対する入力手段となり、ホイールシリンダ4a、4b、4c、4dは、出力手段となっている。また、車両1は、イグニションスイッチIGをオンすることによって始動するが、その際に、車両用ブレーキ装置2も始動する。イグニションスイッチIGをオフすることによって、車両用ブレーキ装置2を含め、車両1はその機能を停止する。
【0027】
図2に、本発明の実施形態に係る車両用ブレーキ装置2の構成図であって、前記車両用ブレーキ装置2が停止状態にある状態を示す。ただ、図2では、便宜上、車両用ブレーキ装置(本体)に限らず、車両用ブレーキ装置の全体を車両用ブレーキ装置2として示している。すなわち、車両用ブレーキ装置2は、ブレーキペダル3と、ホイールシリンダ4a、4b、4c、4dと、液圧路19a、19b、19c、19dを有している。また、車両用ブレーキ装置2は、ブレーキペダル3の操作量を検出するストロークセンサ(操作量検出手段)S1と、運転者によるブレーキペダル3の操作により液圧を発生可能なタンデム式のマスタシリンダ(液圧発生手段)M/Cと、マスタシリンダM/Cの第2液圧室24と複数のホイールシリンダ4a、4b間とを接続する第1液圧系統の液圧路17a−18a−19a、17a−18a−19bと、マスタシリンダM/Cの第1液圧室26と複数のホイールシリンダ4c、4d間とを接続する第2液圧系統の液圧路17b−18b−19c、17b−18b−19dとを有している。
【0028】
また、車両用ブレーキ装置2は、スレーブシリンダ(電気的液圧発生手段)S/Cを有している。スレーブシリンダS/Cは、第1液圧系統の液圧路17a−18a上と第2液圧系統の液圧路17b−18b上に配置されている。スレーブシリンダS/Cは、ストロークセンサS1が検出したブレーキペダル3の操作量に基づき、第1液圧系統の液圧路18aと第2液圧系統の液圧路18bの下流液圧Pdownを加圧可能になっている。
【0029】
また、車両用ブレーキ装置2は、マスタカットバルブ(遮断弁:ノーマルオープンタイプ(N.O.))MCV1、MCV2を有している。マスタカットバルブMCV1は、マスタシリンダM/Cの第1液圧室26とスレーブシリンダS/Cの第1液圧室66の間の第2液圧系統の液圧路17b上に配置されている。マスタカットバルブMCV2は、マスタシリンダM/Cの第2液圧室24とスレーブシリンダS/Cの第2液圧室64の間の第1液圧系統の液圧路17a上に配置されている。マスタカットバルブMCV1、MCV2は、制御手段11からの閉指示を受信している閉指示受信状態のとき加えられる電気量に応じた閉鎖力を発揮することで閉弁状態となり、開指示を受信している開指示受信状態のときに開弁状態となるようになっている。
【0030】
また、車両用ブレーキ装置2は、Pセンサ(圧力センサ、液圧検出手段)Pp、Psを有している。PセンサPpは、第2液圧系統の液圧路17b上のマスタカットバルブMCV1よりホイールシリンダ4c、4d側に配置されている。このPセンサPpは、第2液圧系統の液圧路17bのマスタカットバルブMCV1よりホイールシリンダ4c、4d側の下流液圧Pdownを検知(計測)することができる。PセンサPsは、第1液圧系統の液圧路17a上のマスタカットバルブMCV2よりマスタシリンダM/C側に配置されている。このPセンサPsは、第1液圧系統の液圧路17aのマスタカットバルブMCV2よりマスタシリンダM/C側の上流液圧Pupを検知(計測)することができる。
【0031】
また、車両用ブレーキ装置2は、他の主なものとして、ストロークシミュレータS/Sと、ビークルスタビリティアシストVSA(登録商標)と、制御手段11とを有している。
【0032】
ストロークシミュレータS/Sは、第2液圧系統の液圧路17b上のマスタカットバルブMCV1よりマスタシリンダM/C側に配置されている。ストロークシミュレータS/Sは、マスタシリンダM/Cの第1液圧室26から送出されるブレーキ液(ブレーキフルード)を吸収可能になっている。
【0033】
ビークルスタビリティアシストVSAは、スレーブシリンダS/Cとホイールシリンダ4a、4b、4c、4dの間の、さらに、第1液圧系統の液圧路18aと液圧路19a、19bの間に配置されている。また、ビークルスタビリティアシストVSAは、第2液圧系統の液圧路18bと液圧路19c、19dの間に配置されている。
【0034】
制御手段11は、ストロークセンサ(ブレーキ操作量検出手段)S1によって検出されたブレーキペダル3の操作量に基づき、マスタカットバルブ(遮断弁:ノーマルオープンタイプ(N.O.))MCV1、MCV2の下流液圧Pdownを制御している。
【0035】
マスタシリンダ(液圧発生手段)M/Cは、シリンダ21に摺動自在に嵌合する第2ピストン22及び第1ピストン23を備えており、第2ピストン22の前方に区画される第2液圧室24に第2リターンスプリング25が配置され、第1ピストン23の前方に区画される第1液圧室26に第1リターンスプリング27が配置されている。第2ピストン22の後端は、プッシュロッド28を介してブレーキペダル3に接続されており、運転者がブレーキペダル3を踏むと、第1ピストン23と第2ピストン22が前進して第1液圧室26と第2液圧室24に上流液圧Pupが発生する。
【0036】
第2ピストン22のカップシール29及びカップシール30間に第2背室31が形成され、第1ピストン23のカップシール32及びカップシール33間に第1背室34が形成されている。シリンダ21には、その後方から前方に向かって、第2背室31に連通するサプライポート35a、カップシール29の直前の第2液圧室24に開口するリリーフポート36a、第2液圧室24に開口する出力ポート37a、第1背室34に連通するサプライポート35b、カップシール32の直前の第1液圧室26に開口するリリーフポート36b、第1液圧室26に開口する出力ポート37bが形成されている。サプライポート35aと、リリーフポート36aとは合流し、リザーバ16に連通している。サプライポート35bと、リリーフポート36bとは合流し、リザーバ16に連通している。出力ポート37aには、液圧路(第1液圧系統)17aが接続している。出力ポート37bには、液圧路(第2液圧系統)17bが接続している。
【0037】
ストロークシミュレータS/Sは、ブレーキペダル3の踏み込み前期にはペダル反力の増加勾配を低くし、踏み込み後期にはペダル反力の増加勾配を高くしてブレーキペダル3のペダルフィーリングを高めるべく、ばね定数の低い第2リターンスプリング44とばね定数の高い第1リターンスプリング43とを直列に配置してピストン42を付勢している。ピストン42の第2リターンスプリング44の反対側には、液圧室46が区画されている。液圧室46は、遮断弁(ノーマルクローズ(N.C.))47を介して、液圧路(第2液圧系統)17bに接続している。遮断弁(ノーマルクローズ)47には、ブレーキ液を液圧室46から液圧路(第2液圧系統)17bへは流すが逆には流さない逆止弁48が、並列に接続されている。なお、ピストン42にはカップシール45が設けられ、ピストン42がシリンダ41内を摺動しても、液圧室46側からカップシール45を通過してブレーキ液が漏れないようになっている。
【0038】
スレーブシリンダ(電気的液圧発生手段)S/Cは、シリンダ61に摺動自在に嵌合する第2ピストン(スレーブピストン)62及び第1ピストン(スレーブピストン)63を備えており、第2ピストン62の前方に区画される第2液圧室64に第2リターンスプリング65が配置され、第1ピストン63の前方に区画される第1液圧室66に第1リターンスプリング67が配置されている。第2ピストン62の後端は、プッシュロッド68、ボールねじ機構54、減速機構53、ギヤ52を介してモータ(電動機)51に接続されており、これらにより、モータシリンダ(52、53、54、68)が構成されている。ストロークセンサ(作動量検出手段)S2は、第1ピストン63及び第2ピストン62(スレーブピストン)の作動量を検出している。そして、モータシリンダ(52、53、54、68)と、ストロークセンサ(作動量検出手段)S2により、電動アクチュエータ(52、53、54、68、S2)が構成されている。制御手段11の制動制御により、モータ(電動機)51が回動すると、プッシュロッド68さらには、第1ピストン63、第2ピストン62(スレーブピストン)が前進(駆動)して、第1液圧室66と第2液圧室64に下流液圧Pdownが発生する。
【0039】
第2ピストン62のカップシール69及びカップシール70間に第2背室71が形成され、第1ピストン63のカップシール72及びカップシール55間に第1背室56が形成されている。シリンダ61には、その後方から前方に向かって、第2背室71に連通するリターンポート57a、第2液圧室64に連通する出力ポート77a、第1背室56に連通するリターンポート57b、第1液圧室66に連通する出力ポート77bが形成されている。リターンポート57aと57bは、リザーバ58a、58bと液路59を介して、リザーバ16に接続している。出力ポート77aは、第1液圧系統を構成する液圧路17a及び液圧路18aに連通している。出力ポート77bは、第2液圧系統を構成する液圧路17b及び液圧路18bに連通している。
【0040】
なお、スレーブシリンダS/Cが作動不能になるような、車両用ブレーキ装置2の異常時には、マスタカットバルブ(遮断弁:ノーマルオープン)MCV1、MCV2は開弁状態となり、遮断弁(ノーマルクローズ)47は閉弁状態となる。そして、マスタシリンダM/Cの第2液圧室24が発生したブレーキ液圧がスレーブシリンダS/Cの第2液圧室64を通過して第1液圧系統のホイールシリンダ4a、4bを作動させ、マスタシリンダM/Cの第1液圧室26が発生したブレーキ液圧がスレーブシリンダS/Cの第1液圧室66を通過して第2液圧系統のホイールシリンダ4c、4dを作動させる。このとき、スレーブシリンダS/Cの第1液圧室66と第2液圧系統のホイールシリンダ4c、4dを接続する液圧路(第2液圧系統)18b、19c、19dが失陥すると、第1液圧室66の液圧が失われて第2ピストン62に対して第1ピストン63が前進してしまい、第2液圧室64の容積が拡大して第1液圧系統のホイールシリンダ4a、4bに供給するブレーキ液圧が低下してしまう虞がある。しかしながら、規制部78により第1ピストン63と第2ピストン62の最大距離と最小距離を規制し、規制部79により第1ピストン63の摺動範囲を規制することで、第1液圧室66の液圧が失われても第2液圧室64の容積が拡大するのを防止し、第1液圧系統のホイールシリンダ4a、4bを確実に作動させて制動力を確保することができる。
【0041】
ビークルスタビリティアシストVSAでは、液圧路18aから液圧路19a、19bへ至る第1液圧系統の構造と、液圧路18bから液圧路19c、19dへ至る第2液圧系統の構造とが、同じ構造になっている。このため、理解を容易にするため、ビークルスタビリティアシストVSAの第1液圧系統と第2液圧系統とで対応する部材には同じ符号を付している。以下の説明では、液圧路18aから液圧路19a、19bへ至る第1液圧系統を例に説明する。
【0042】
ビークルスタビリティアシストVSAは、ホイールシリンダ4a、4b(4c、4d)に対して共通の液圧路81と液圧路82を備えており、液圧路18a(18b)と液圧路81の間に配置された可変開度の常開ソレノイドバルブよりなるレギュレータバルブ(ノーマルオープン)83と、このレギュレータバルブ83に対して並列に配置されて液圧路18a(18b)側から液圧路81側へのブレーキ液の流通を許容する逆止弁91と、液圧路81と液圧路19a(19d)の間に配置された常開型ソレノイドバルブよりなるインバルブ(ノーマルオープン)85と、このインバルブ85に対して並列に配置されて液圧路19a(19d)側から液圧路81側へのブレーキ液の流通を許容する逆止弁93と、液圧路81と液圧路19b(19c)の間に配置された常開型ソレノイドバルブよりなるインバルブ(ノーマルオープン)84と、このインバルブ84に対して並列に配置されて液圧路19b(19c)側から液圧路81側へのブレーキ液の流通を許容する逆止弁92とを有する。
【0043】
さらに、ビークルスタビリティアシストVSAは、液圧路19a(19d)と液圧路82の間に配置された常閉型ソレノイドバルブからなり、減圧弁として機能するアウトバルブ(ノーマルクローズ)86と、液圧路19b(19c)と液圧路82の間に配置された常閉型ソレノイドバルブからなり、減圧弁として機能するアウトバルブ(ノーマルクローズ)87と、液圧路82に接続され前記アウトバルブ86、87が開弁状態となったときにホイールシリンダ側の高圧のブレーキ液が貯留されるリザーバ89と、液圧路82と液圧路81の間に配置されて液圧路82側から液圧路81側へのブレーキ液の流通を許容する逆止弁94と、この逆止弁94と液圧路81の間に配置されて液圧路82側から液圧路81側へブレーキ液を供給するポンプ90と、このポンプ90の前後に設けられ液圧路82側から液圧路81側へのブレーキ液の流通を許容する逆止弁95、96と、ポンプ90を駆動するモータ(電動機)Mと、逆止弁94と逆止弁95の中間位置と液圧路18a(18b)との間に配置された常閉型ソレノイドバルブよりなるサクションバルブ(ノーマルクローズ)88とを備えている。
【0044】
ビークルスタビリティアシストVSA側の液圧路18aには、スレーブシリンダS/Cで発生する下流液圧Pdownであって、ホイールシリンダ4a、4b(4c、4d)に供給されるホイールシリンダ側の下流液圧Pdownを検出するPセンサ(圧力センサ、液圧検出手段)Phが設けられている。なお、ビークルスタビリティアシストVSA側の液圧路18aと液圧路18bは、同一又は略同一圧力であるため、ホイールシリンダ4c、4dに供給されるホイールシリンダ側の下流液圧Pdownは、Pセンサ(圧力センサ、液圧検出手段)Phで検出される圧力とみなしている。
【0045】
図3に、本発明の実施形態に係る車両用ブレーキ装置2に用いられているマスタカットバルブ(遮断弁)MCV1、MCV2の構成図を示す。車両用ブレーキ装置2で、回生制動が行われず、液圧制動のみが行われた場合には、運転者の踏力に起因してマスタシリンダM/Cで発生した上流液圧Pupに対応して所定の倍力比で増幅された液圧が、下流液圧PdownとしてスレーブシリンダS/Cによって生じホイールシリンダ4a、4b、4c、4dに与えられる。このため、上流液圧Pupが、それを増幅した下流液圧Pdownより小さいという関係(Pup<Pdown)が成立している。上流液圧Pupを発生させるマスタシリンダM/Cと、下流液圧Pdownを発生させるスレーブシリンダS/Cの間には、マスタカットバルブ(遮断弁)MCV1、MCV2が設けられている。
【0046】
マスタカットバルブ(遮断弁)MCV1、MCV2の弁体20bには、上流液圧Pupと下流液圧Pdownの差圧(Pdown−Pup(>0;推力Fと同じ方向))が作用する。車両用ブレーキ装置2の稼動時には、マスタシリンダM/CとスレーブシリンダS/Cの間を遮断するために、マスタカットバルブ(遮断弁)MCV1、MCV2を閉弁状態にしている。この閉弁状態を確実に維持するために、弁体20bを弁座20aに対して圧力の高い下流液圧Pdown側に配置し、差圧(Pdown−Pup(>0))を利用して、弁体20bを弁座20aに圧接させている。弁体20bには、閉弁状態時に弁座20aに圧接させる方向にその差圧(Pdown−Pup(>0))だけでなく、推力F1が印加され、その閉弁状態は確実に維持される。推力F1は、制御手段11の制御によりコイル20eに電流を流すことにより発生し、リニアスライダ20dに作用する。リニアスライダ20dは、推力F1によって、バネ20cを押し縮めながら、弁体20bを弁座20aの方向に移動させ、弁座20aを弁体20bで圧接させ、マスタカットバルブ(遮断弁)MCV1、MCV2を閉弁状態にしている。なお、推力F1の矢印方向は、マスタカットバルブ(遮断弁)MCV1、MCV2のセルフロック方向を示し、後記するセルフロック状態では、弁体20bがバネ20cのスプリング反力F2に打ち勝って弁座20aに着座した状態に保持(ロック)される。
【0047】
本実施形態に係る車両用ブレーキ装置2が搭載された車両1は、基本的に以上のように構成されるものであり、次にその作用効果について説明する。
【0048】
先ず、マスタカットバルブ(遮断弁)MCV1、MCV2が開弁状態のとき、ホイールシリンダ側の下流液圧がマスタカットバルブ(遮断弁)MCV1、MCV2の開弁可能圧力を超える場合について、以下説明する。
【0049】
車両用ブレーキ装置2で実施されるブレーキ制御は、イグニッションスイッチIGを、車両の運転者がオン状態とすることによってスタートするが、このスタート前の状態において、運転者がイグニッションスイッチIGをオフ状態として車両用ブレーキ装置2におけるブレーキ制御が終了したとき、ノーマルオープンタイプからなるマスタカットバルブ(遮断弁)MCV1、MCV2は、通電が停止されることによりオフ状態となり、図示しない復帰ばねのばね力によって閉弁状態から開弁状態に切り換えられる。この結果、ホイールシリンダ側の下流液圧が開放され、マスタシリンダ側の上流液圧とホイールシリンダ側の下流液圧との差圧が減少した状態にある。なお、図2は、イグニッションスイッチIGがオフ状態で車両ブレーキ制御装置2が停止状態にあり、ノーマルオープンタイプからなるマスタカットバルブ(遮断弁)MCV1、MCV2が開弁状態にある場合を示したものである。
【0050】
このような車両用ブレーキ装置2の停止状態において、運転者が、例えば、ブレーキペダル3を床面に近接する程に強く踏み込みながらイグニッションスイッチIGをオン状態とした場合、図6に示されるように、通常のブレーキ制御(通常のサーボ圧)のときと異なってマスタカットバルブ(遮断弁)MCV1、MCV2の開弁可能圧力(MCV開放圧)を超えたホイールシリンダ圧でブレーキ制御が開始される(ブレーキペダルを強く踏んでシステム起動)。ブレーキ制御が開始されることによってマスタカットバルブ(遮断弁)MCV1、MCV2のソレノイドが通電されてオン状態となり(図6(a)中の起動MCV ON参照)、マスタカットバルブ(遮断弁)MCV1、MCV2の弁体20bが弁座20aに着座して閉弁状態となる。この結果、マスタシリンダ側の上流液圧とホイールシリンダ側の下流液圧とがマスタカットバルブ(遮断弁)MCV1、MCV2によって遮断される。
【0051】
なお、ホイールシリンダ圧がマスタカットバルブ(遮断弁)MCV1、MCV2の開弁可能圧力(MCV開放圧)を超えた圧力となっているかどうかは、例えば、液圧検出手段として機能するPセンサPhから出力される検出信号に基づいて制御手段11によって判定される。この場合、制御手段11は、マスタカットバルブMCV1の下流液圧Pdownを検出するPセンサPpから出力される検出信号と、マスタカットバルブMCV2の上流液圧Pupを検出するPセンサPsから出力される検出信号と、ホイールシリンダ側の液圧を検出するPセンサPhから出力される検出信号とに基づいて、ホイールシリンダ圧がマスタカットバルブ(遮断弁)MCV1、MCV2の開弁可能圧力(MCV開放圧)を超えた圧力となっているかどうかを判断することが好ましい。
【0052】
さらに、運転者がブレーキペダル3の踏み込みを緩めても(ペダル操作量をゼロに近づける)、下流液圧であるホイールシリンダ圧がマスタカットバルブ(遮断弁)MCV1、MCV2の開弁可能圧力を超えた高い液圧に保持されているため、マスタカットバルブ(遮断弁)MCV1、MCV2のソレノイドに対する通電を停止してオフ状態として(図6(a)中のMCV OFF参照)閉弁状態から開弁状態に切り換えようとしても、マスタカットバルブ(遮断弁)MCV1、MCV2を開弁させようとする圧力よりも高いホイールシリンダ圧によってマスタカットバルブ(遮断弁)MCV1、MCV2が閉弁状態にセルフロックされた状態となる。
【0053】
すなわち、BBW方式のブレーキ制御の起動時におけるホイールシリンダ圧が、マスタカットバルブ(遮断弁)MCV1、MCV2の開弁可能圧力を超えた高い圧力でブレーキ制御を開始した場合、ノーマルオープンタイプのマスタカットバルブ(遮断弁)MCV1、MCV2がセルフロック状態となり、その間、マスタカットバルブ(遮断弁)MCV1、MCV2の開弁可能圧力を超えた高い液圧がホイールシリンダ側に作用するため、ブレーキの引き摺り状態が発生するおそれがある。
【0054】
そこで、制御手段11は、減圧弁として機能するアウトバルブ86、87に対して開弁指示信号を出力し、ノーマルクローズタイプからなるアウトバルブ86、87が、閉弁状態から開弁状態に切り換わる。アウトバルブ86、87が開弁状態となることによって、マスタカットバルブ(遮断弁)MCV1、MCV2の開弁可能圧力を超えた高い液圧(ホイールシリンダ側の下流液圧)は、液圧路82を介して流入されるリザーバ89内で貯留されることによりホイールシリンダ圧力が開放され、ホイールシリンダ側の液圧を早期に低下させることができる。
【0055】
このように、本実施形態では、マスタカットバルブ(遮断弁)MCV1、MCV2が開弁状態でブレーキペダル3を操作して液圧を発生させると、このブレーキペダル3の操作量に対応する液圧がマスタカットバルブ(遮断弁)MCV1、MCV2の下流側(ホイールシリンダ側)に発生する。このブレーキペダル3の操作量に対応する液圧がマスタカットバルブ(遮断弁)MCV1、MCV2の開弁可能圧力を超えた高い圧力で、マスタカットバルブ(遮断弁)MCV1、MCV2の上流側(マスタシリンダ側)との差圧によってセルフロック状態が発生するが、制御手段11によってアウトバルブ86、87を開弁状態として、前記高い液圧のブレーキ液をリザーバ89に逃がすことによって前記液圧を早期に低下させることができる。
【0056】
この結果、本実施形態では、ブレーキペダル3の操作中、マスタカットバルブ(遮断弁)MCV1、MCV2の開弁可能圧力を超えた高い液圧となり、前記マスタカットバルブ(遮断弁)MCV1、MCV2がセルフロック状態となった場合であっても、前記セルフロック状態を早期に解除することができる。
【0057】
具体例としては、図4に示されるように、例えば、マスタカットバルブ(遮断弁)MCV1、MCV2の開弁可能圧力が9MPaに設定されている場合、ブレーキペダル3を強く踏みながらイグニッションスイッチIGをオン状態とするなどして車両用ブレーキ装置2を起動させると、ブレーキ操作に対応するホイールシリンダ側の液圧がマスタカットバルブ(遮断弁)MCV1、MCV2の開弁可能圧力を超えて10MPaに昇圧される(ステップS1参照)。この場合、マスタカットバルブ(遮断弁)MCV1、MCV2は、その上流側(マスタシリンダ側)との差圧によってセルフロック状態となり、閉弁状態から開弁状態に切り換えることができない(ステップS2)。そこで、制御手段11を介してアウトバルブ86、87を開弁状態とし高い液圧のブレーキ液をリザーバ89に逃がすことによって前記液圧を9MPa以下に低下させる(ステップS3)。この結果、マスタカットバルブ(遮断弁)MCV1、MCV2のセルフロック状態が早期に解除され、ブレーキ引き摺りの発生を好適に回避することができる(ステップS4)。
【0058】
なお、イグニッションスイッチIGがオフ状態である車両用ブレーキ装置2の停止状態からイグニッションスイッチIGをオン状態とさせた車両用ブレーキ装置2(ブレーキ制御)の起動時では、正常状態において、マスタカットバルブ(遮断弁)MCV1、MCV2が開弁状態にあってスレーブシリンダS/Cが作動していないため、前記スレーブシリンダS/Cによってホイールシリンダ側の高い液圧を低下させることができない。
【0059】
図5は、本発明の実施形態に係る車両用ブレーキ装置が稼動状態にあるときの構成図である。次に、マスタカットバルブ(遮断弁)MCV1、MCV2が閉弁状態のとき、ホイールシリンダ側の下流液圧がマスタカットバルブ(遮断弁)MCV1、MCV2の開弁可能圧力を超える場合について、以下、図5に基づいて説明する。
【0060】
運転者によってイグニッションスイッチIGがオン状態とされて、車両用ブレーキ装置2のブレーキ制御がスタートすると、制御手段11を介してマスタカットバルブ(遮断弁)MCV1、MCV2のソレノイドが通電され、図5に示されるようにマスタカットバルブ(遮断弁)MCV1、MCV2が閉弁状態となる。
【0061】
このような車両用ブレーキ装置2の稼動状態でマスタカットバルブ(遮断弁)MCV1、MCV2が閉弁状態にある場合、運転者が、例えば、ブレーキペダル3を床面に近接する程に強く踏み込んだ後、瞬時にブレーキペダル3から足を離してブレーキペダル3を元の状態に戻した場合、ブレーキペダル3の操作量に対応する高い液圧(マスタシリンダM/Cで発生した液圧とスレーブシリンダS/Cで発生した液圧とが合算された液圧)がホイールシリンダ側に発生する。この高い液圧からなるホイールシリンダ側の圧力は、マスタカットバルブ(遮断弁)MCV1、MCV2の開弁可能圧力を超えた圧力となり、マスタカットバルブ(遮断弁)MCV1、MCV2の上流液圧と下流液圧との差圧によって、マスタカットバルブ(遮断弁)MCV1、MCV2が閉弁状態に保持されたセルフロック状態が発生する。
【0062】
そこで、制御手段11は、電気的液圧発生手段として機能するスレーブシリンダS/Cに対して制御信号を出力し、スレーブシリンダS/Cで発生させる目標下流液圧を減圧させる。このスレーブシリンダS/Cでの減圧は、制動制御のときのモータ51の回転方向を逆転させ、プッシュロッド68、第1ピストン63及び第2ピストン62を一体的に後進させる。ホイールシリンダ側の高い液圧がスレーブシリンダS/Cで発生させる目標下流液圧を減圧させることにより、ホイールシリンダ圧が開放されてホイールシリンダ側の液圧を早期に低下させることができる。
【0063】
この場合、マスタカットバルブ(遮断弁)MCV1、MCV2が閉弁状態にあってスレーブシリンダS/Cが作動しているため、前記スレーブシリンダS/Cを用いてホイールシリンダ圧を高精度に減圧(制御)することができる。
【0064】
同時に、制御手段11は、減圧弁として機能するアウトバルブ86、87に対して開弁指示信号を出力し、ノーマルクローズタイプからなるアウトバルブ86、87が、閉弁状態から開弁状態に切り換わる。アウトバルブ86、87が開弁状態となることによって、マスタカットバルブ(遮断弁)MCV1、MCV2の開弁可能圧力を超えた高い液圧(ホイールシリンダ側の下流液圧)は、液圧路82を介して導入されるリザーバ89内で貯留されることにより、ホイールシリンダ圧が開放されてホイールシリンダ側の液圧を早期に低下させることができる。
【0065】
このように、本実施形態では、ブレーキペダルの操作中、マスタカットバルブ(遮断弁)MCV1、MCV2の開弁可能圧力を超えた高い液圧となり、前記マスタカットバルブ(遮断弁)MCV1、MCV2がセルフロック状態となった場合であっても、スレーブシリンダS/Cとアウトバルブ86、87との協働作用によって前記セルフロック状態を好適に解除することができる。この場合、スレーブシリンダS/Cとアウトバルブ86、87とを協働して用いることにより、マスタカットバルブ(遮断弁)MCV1、MCV2の開弁可能圧力を超えた高い液圧の低下量を増大させ、より一層迅速にセルフロック状態を解除することができる。
【0066】
なお、運転者が、例えば、ブレーキペダル3を床面に近接する程に強く踏み込んだ後、ブレーキペダル3から足を離してブレーキペダル3を元の状態に戻したとき、ブレーキペダル3の操作量に対応する高い液圧がホイールシリンダ側に発生している場合、制御手段11は、図示しない報知手段を作動させ、運転者に対して、再度、ブレーキペダル3を踏み込ませるように報知するようにするとよい。
【0067】
マスタカットバルブ(遮断弁)MCV1、MCV2がセルフロック状態となった場合であっても、図示しない報知手段を介して運転者に報知して、ブレーキペダル3を再度、踏み込ませることで、運転者自身のブレーキ操作(手動操作)による踏み込み圧によってマスタカットバルブ(遮断弁)MCV1、MCV2の弁体20bが開弁する方向に力が作用することにより、強制的且つ確実に閉弁状態から開弁状態に切り換えることができる。この結果、マスタカットバルブ(遮断弁)MCV1、MCV2の上流側(マスタシリンダ側)と下流側(ホイールシリンダ側)とが連通し、上流側と下流側の差圧を無くすことができる。
【0068】
また、本実施形態では、減圧弁として開度制御ができないノーマルクローズタイプのオンオフソレノイドバルブからなるアウトバルブ86、87を用いているが、例えば、弁開度の制御が可能な周知の減圧弁を用いてもよい。
【符号の説明】
【0069】
2 車両用ブレーキ装置
3 ブレーキペダル
4a〜4d ホイールシリンダ
86、87 アウトバルブ(減圧弁)
89 リザーバ
M/C マスタシリンダ(液圧発生手段)
S/C スレーブシリンダ(電気的液圧発生手段)
Ph、Pp、Ps Pセンサ(液圧検出手段)
MCV1、MCV2 マスタカットバルブ(遮断弁)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者のブレーキペダルの操作に応じてホイールシリンダに制動力を発生させる液圧発生手段と、
前記液圧発生手段と前記ホイールシリンダとの間に設けられるノーマルオープンタイプの遮断弁と、
電気的に作動されるアクチュエータによって前記ホイールシリンダに制動力を発生させる電気的液圧発生手段と、
前記液圧発生手段又は前記電気的液圧発生手段によって発生した液圧を検出する液圧検出手段とを備えた車両用ブレーキ装置であって、
前記ブレーキペダルの操作中に、該ブレーキペダルの操作量に応じて発生した液圧が、前記遮断弁の開弁可能圧力を超えたときに前記ホイールシリンダに供給される液圧を低下させることを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【請求項2】
前記ホイールシリンダとリザーバとの連通路に該ホイールシリンダの液圧を減圧させる減圧弁を配設し、
前記遮断弁が開弁状態で前記ブレーキペダルの操作量に応じて発生した液圧が前記遮断弁の開弁可能圧力を超えたとき、前記減圧弁によって前記ホイールシリンダに供給される液圧を低下させることを特徴とする請求項1に記載の車両用ブレーキ装置。
【請求項3】
前記遮断弁が閉弁状態で前記ブレーキペダルの操作量に応じて発生した液圧が前記遮断弁の開弁可能圧力を超えたとき、前記電気的液圧発生手段によって前記ホイールシリンダに供給される液圧を低下させることを特徴とする請求項1に記載の車両用ブレーキ装置。
【請求項4】
前記ホイールシリンダとリザーバとの連通路に該ホイールシリンダの液圧を減圧させる減圧弁を配設し、
前記遮断弁の開弁可能圧力を超えたときに前記電気的液圧発生手段及び前記減圧弁によって前記ホイールシリンダに供給される液圧を低下させることを特徴とする請求項3に記載の車両用ブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−131393(P2012−131393A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−285835(P2010−285835)
【出願日】平成22年12月22日(2010.12.22)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】