説明

車両用ブレーキ装置

【課題】 ブレーキ・バイ・ワイヤによる車両用ブレーキ装置において、モータ駆動シリンダの始動時に、ホイールシリンダに加わる液圧のオーバーシュートを抑制する。
【解決手段】 ブレーキペダル11に機械的に連結されたマスターシリンダ15と、マスターシリンダに配管42a・42bを介して接続されたホイールシリンダ2b・3bと、配管上に設けられた開閉弁24a・24bと、ブレーキペダルのペダル操作量を検出するペダル位置センサ11aと、配管の開閉弁とホイールシリンダとの間の部分に接続され、配管に液圧を供給するモータ駆動シリンダ13と、開閉弁及びモータ駆動シリンダを制御する制御手段6とを有する車両ブレーキ装置1であって、制御手段は、モータ駆動シリンダの駆動を開始する際には、開閉弁を開いた状態に維持し、モータ駆動シリンダの駆動開始後に開閉弁を閉じることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用ブレーキ装置に関し、特にブレーキ・バイ・ワイヤによりブレーキ力を発生させる車両用ブレーキ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気自動車やハイブリッド自動車では、駆動輪の駆動軸に電動モータを連結し、そのモータを制動時には発電機として使用してエネルギー回生を行うようにしているものがある。このような車両では、モータの定格やバッテリの残量等により、回生ブレーキだけで全ての制動力を実現することが困難である場合があり、電子制御により、いわゆるブレーキ・バイ・ワイヤで駆動される油圧ブレーキと上記回生ブレーキとの協調制御を行うようにしたものがある。
【0003】
ブレーキ・バイ・ワイヤでは、ブレーキペダルと機械的に連結されていないが、ブレーキペダルの位置を電気的信号として受け取り、その信号に応じてホイールシリンダに液圧を供給する液圧発生手段が使用される。液圧発生手段は、例えば、ブレーキペダルの位置に対応する信号に応じて駆動されるサーボモータと、サーボモータによって駆動されるピストンを備えたモータ駆動シリンダとして構成されている。また、フェイルセーフとして、ブレーキペダルに機械的に連結され、ブレーキペダル操作に応じて液圧を発生するマスターシリンダを設け、通常時はマスターシリンダとホイールシリンダとの間に設けた開閉弁によりマスターシリンダとホイールシリンダとを遮断しているものがある(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−29294号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
モータ駆動シリンダの駆動に使用されるサーボモータは、図4に示すように、始動時において、目標値である目標モータ角に対して、実際の値である実モータ角がオーバーシュートする(すなわち目標モータ角よりも実モータ角が大きくなる)ことがある。この原因は、サーボモータのロータに作用する慣性モーメントや、モータ駆動シリンダのシリンダとピストンとの静摩擦力等に起因する。サーボモータが静止した状態から回転を始める際(始動時)には、ロータが静止しようとする慣性モーメントが回転抵抗として作用すると共に、モータ駆動シリンダを構成するシリンダ及びピストンの間には静摩擦力が作用するため、サーボモータの回転抵抗が大きいが、ロータが一度回転を始めると慣性モーメントによる回転抵抗が減少すると共に、シリンダ及びピストンの間には静摩擦力よりも小さい動摩擦力が作用するため、モータの回転抵抗が小さくなり、ロータが目標モータ角を超えて回り過ぎてしまう。また、実モータ角を検出するために使用される回転角センサの検出精度や、サーボモータの制御方法(フィードバック制御)、サーボモータとピストンとを連結する減速機構のギヤのバックラッシ等もオーバーシュートの一因となる。このサーボモータの始動時のオーバーシュートによって、液圧発生シリンダが発生する液圧は同様にオーバーシュートする。
【0006】
上記したブレーキ装置における開閉弁は、液圧発生シリンダが液圧を発生する際には、液圧発生シリンダが発生した液圧をホイールシリンダに確実に供給するべく、液圧発生シリンダが液圧を発生するより以前、或いは同時に閉じられる。そのため、液圧発生シリンダの始動時におけるオーバーシュートした液圧が、ホイールシリンダに供給され、ホイールシリンダの液圧が過大となる。これにより、運転者が予期したよりもブレーキが効き過ぎ、操作感が悪化するという問題が生じる。また、ブレーキ装置の配管に加わる液圧が急激に高くなることによって、異音が発生するという問題が生じる。この異音は、液圧発生シリンダの始動と同時に開閉弁を閉じることによって、開閉弁の作動音と重なって更に大きくなるという問題がある。
【0007】
本発明は、以上の問題を鑑みてなされたものであって、ブレーキ・バイ・ワイヤによる車両用ブレーキ装置において、液圧発生手段の始動時に、ホイールシリンダに加わる液圧のオーバーシュートを抑制することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、ブレーキペダル(11)に機械的に連結され、液圧を発生するマスターシリンダ(15)と、前記マスターシリンダに油路(42a・42b)を介して接続されたホイールシリンダ(2b・3b)と、前記油路上に設けられた開閉弁(24a・24b)と、前記ブレーキペダルの操作量に対応するペダル操作量を検出するペダル操作量検出手段(11a)と、前記油路の前記開閉弁と前記ホイールシリンダとの間に接続され、電動モータの駆動によって前記油路に液圧を供給する液圧発生手段(13)と、前記ペダル操作量に応じて前記開閉弁及び前記液圧発生手段を制御する制御手段(6)とを有する車両ブレーキ装置(1)であって、前記制御手段は、前記ペダル操作量に基づいて前記液圧発生手段の駆動を開始する際には、前記開閉弁を開いた状態に維持し、前記液圧発生手段の駆動開始後に前記開閉弁を閉じることを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、液圧発生手段の始動時には、開閉弁が開かれているため、液圧発生手段が始動時に発生する液圧が目標値よりオーバーシュートしても、液圧はマスターシリンダ側に逃がされ、油路内の圧力上昇が抑制されると共にホイールシリンダが駆動されることが防止される。
【0010】
本発明の他の側面によれば、前記油路の前記マスターシリンダと前記開閉弁との間の部分に接続され、前記油路からの液を受け入れると共に反力を付与する反力シミュレータ(28)と、前記制御手段によって制御され、前記油路と前記反力シミュレータとの連通を開閉するシミュレータ弁(24c)とを備え、前記制御手段は、前記ペダル操作量に基づいて前記液圧発生手段の駆動を開始する際には、前記開閉弁及び前記シミュレータ弁を開いた状態に維持し、前記液圧発生手段の駆動開始後に前記開閉弁を閉じることを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、液圧発生手段の始動時に、液圧発生手段が発生する液圧は反力シミュレータへと供給されるため、液圧発生手段の始動時に発生する液圧が目標値よりオーバーシュートしても、油路内の圧力上昇が抑制されると共にホイールシリンダが駆動されることが防止される。
【0012】
本発明の他の側面によれば、前記液圧発生手段の作動量を検出する作動量検出手段(44)を更に備え、前記制御手段は、前記ペダル操作量の変化を検出し、かつ前記液圧発生手段の作動量の変化を検出しない場合に、前記シミュレータ弁を閉じると共に前記開閉弁を開いた状態に維持することを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、液圧発生手段の作動量が検知されない場合に液圧発生手段が液圧を発生することができないと判断し、開閉弁を開いた状態に維持すると共にシミュレータ弁を閉じることで、マスターシリンダからホイールシリンダに液圧を供給する方式へと円滑に移行することができる。
【0014】
本発明の他の構成によれば、前記液圧発生手段の作動量を検出する作動量検出手段(44)を更に備え、前記制御手段は、前記液圧発生手段の作動量が、前記液圧発生手段の駆動開始時に生じるオーバーシュートが落ち着いた時点に対応する所定値に達したときに前記開閉弁を閉じることを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、液圧発生手段の作動量から始動時のオーバーシュートが落ち着いた時点を推定し、開閉弁を閉じることができる。
【発明の効果】
【0016】
以上の構成によれば、ブレーキ・バイ・ワイヤによる車両用ブレーキ装置において、液圧発生手段の始動時に、ホイールシリンダに加わる液圧のオーバーシュートを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施形態に係る自動車のブレーキ系の要部系統図
【図2】実施形態に係る自動車のブレーキ装置を模式的に示す油圧回路図
【図3】実施形態に係る自動車のブレーキ装置の効果を示すタイムチャート
【図4】従来技術に係る自動車のブレーキ装置の液圧変化を示す図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。図1は本発明が適用された電気自動車又はハイブリッド自動車のブレーキ系の要部系統図である。
【0019】
図1に示される自動車は、車両Vの前側に配設された左右一対の前輪2と、車両Vの後側に配設された左右一対の後輪3とを有する。左右の前輪2に連結された前輪車軸4にはモータ・ジェネレータ5がトルク伝達可能に連結されている。なお、前輪車軸4に設けられる差動機構は図示省略する。
【0020】
モータ・ジェネレータ5と電源としての二次電池であるバッテリ7とはインバータ10を介して接続されている。バッテリ7の電力がモータ・ジェネレータ5に供給されると共に、モータ・ジェネレータ5による発電電力がバッテリ7に対して電力供給(充電)されるように、インバータ10により制御される。これにより、モータ・ジェネレータ5は、車両走行用の電動機と回生用の発電機とを兼ね、減速時には減速エネルギーを電力に変換して回生制動力を発生する制動力発生手段として機能する。
【0021】
また、車両の各種制御を行うと共に制動力配分制御を行う制御手段としての制御ユニット(ECU)6が設けられている。制御ユニット6は、CPUを用いた制御回路を備え、上記インバータ10と電気的に接続されている。制御ユニット6は、回生制動と油圧制動とを組み合わせた回生協調制御を行うことができる。なお、電気自動車の場合にはこの構成のまま、又は後輪3を駆動する後輪用モータ・ジェネレータを設けてもよいが、ハイブリッド自動車の場合には前輪車軸4には図の二点鎖線で示されるエンジン(内燃機関)Eの出力軸が連結される。図のエンジンEの場合には前輪駆動の例であるが、四輪駆動とすることもできる。
【0022】
前輪2及び後輪3の各車輪には、摩擦制動を行う摩擦制動手段として、車輪(前輪2・後輪3)と一体のディスク2a・3aとホイールシリンダ2b・3bを備えるキャリパとにより構成される公知のディスクブレーキが設けられている。ホイールシリンダ2b・3bには、公知のブレーキ配管を介して制動力発生手段を構成するブレーキ液圧発生装置8が接続されている。ブレーキ液圧発生装置8は、後で詳述するが、各車輪別にブレーキ圧を増減させて配分可能な油圧回路で構成されている。ブレーキ液圧発生装置8及びディスクブレーキと、ブレーキ液圧発生装置8を制御する制御ユニット6を含めてブレーキ装置1という。
【0023】
また、前輪2及び後輪3には各車輪速を検出する各車輪速センサ9が設けられており、ブレーキペダル11にはブレーキペダル11の位置であるペダル位置を検出するペダル位置センサ11aが設けられている。ペダル位置センサ11aは、運転者にブレーキペダルが踏み込まれていない状態を初期状態(ペダル位置=0)として、運転者の踏み込み量であるペダル操作量(ブレーキ操作量)を検出することができる。各車輪速センサ9とペダル位置センサ11aとの各検出信号は制御ユニット6に入力する。
【0024】
次に、図2を参照してブレーキ液圧発生装置8について説明する。本実施形態の制動システムは、ブレーキペダル11の操作量(ペダル操作量)をペダル位置センサ11aにより検出し、その検出値に基づいて液圧発生手段としてのモータ駆動シリンダ13を駆動してブレーキ液圧を発生させる。モータ駆動シリンダ13には、電動サーボモータ12と、電動サーボモータ12に連結されたギアボックス18とが一体的に設けられていると共に、ギアボックス18にボールねじ機構を介してトルク伝達されることにより軸線方向変位するねじ溝付きロッド19と、ねじ溝付きロッド19と同軸かつ互いに直列的に配設された第1ピストン21a及び第2ピストン21bとが設けられている。
【0025】
これにより、ブレーキペダル11の操作量に応じて電動サーボモータ12が回転し、その回転力がギアボックス18を介してねじ溝付きロッド19の軸力に変換され、第1ピストン21aが直線運動する。このようにして、制動操作部材としてのブレーキペダル11の操作を機械的にブレーキ液圧発生シリンダに伝達してブレーキ液圧を発生させるのではなく、ブレーキペダル11の踏み込み量に応じてモータ駆動シリンダ13によりブレーキ液圧を発生させる、いわゆるブレーキ・バイ・ワイヤが構成されている。
【0026】
また、ブレーキペダル11のアームの一端が車体に回動自在に支持されていると共に、そのブレーキペダル11の円弧運動を略直線運動に変換するロッド14の一端がブレーキペダル11のアームの中間部に連結されており、ロッド14の他端は、直列的に配設されたマスターシリンダ15の第1ピストン15aを押し込むように係合している。マスターシリンダ15には第1ピストン15aに対してロッド14とは相反する側に直列的に第2ピストン15bが配設されており、各ピストン15a・15bは戻しばね41a・41bによりそれぞれロッド14側にばね付勢されている。なお、ブレーキペダル11は、図示されない戻しばねにより図1の状態である待機位置に戻す向きにばね付勢され、かつ待機位置で図示されないストッパにより止められている。
【0027】
マスターシリンダ15には、各ピストン15a・15bの変位に応じてブレーキ液をやり取りするためのリザーバタンク16が設けられている。なお、各ピストン15a・15bには、リザーバタンク16と連通する各油路16a・16bとの間をシールするための公知構造のシール部材が各適所に設けられている。そして、マスターシリンダ15の筒内には、第1ピストン15aと第2ピストン15bとの間に第1液室17aが形成され、第2ピストン15bの第1ピストン15aとは相反する側に第2液室17bが形成されている。
【0028】
上記したモータ駆動シリンダ13において、第2ピストン21bに一端部が固設された連結部材27が第1ピストン21a側に延出して、連結部材20の延出方向他端部が第1ピストン21aに対して相対的に軸線方向に所定量変位可能に支持されている。これにより、第1ピストン21aは前進(第2ピストン21b側変位)時に第2ピストン21bに対して相対的に所定量だけ変位可能であるが、第1ピストン21aの前進状態から図2の初期状態に戻る後退時には、連結部材20を介して第2ピストン21bも初期位置まで引き戻されるようになっている。なお、各ピストン21a・21bは、それぞれに対応して設けられた各戻しばね27a・27bによりロッド19側にばね付勢されている。
【0029】
また、モータ駆動シリンダ13には、上記リザーバタンク16に連通路22を介してそれぞれ連通する各油路22a・22bが設けられている。各ピストン21a・21bには、各油路22a・22bとの間をシールするための公知構造のシール部材が各適所に設けられている。モータ駆動シリンダ13の筒内には、第1ピストン21aと第2ピストン21bとの間に第1液室23aが形成され、第2ピストン21bの第1ピストン21aとは相反する側に第2液室23bが形成されている。
【0030】
マスターシリンダ15の第1液室17a及び第2液室17bは、配管(油路)42a・42b及びVSA装置26を介して複数(図示例では4つ)の各ホイールシリンダ2b・3bと連通するように接続されている。なお、VSA装置26は、ブレーキ時の車輪ロックを防ぐABS、加速時などの車輪空転を防ぐTCS(トラクションコントロールシステム)に、旋回時の横すべり抑制を加え、3つの機能をトータルにコントロールする車両挙動安定化制御システムとして公知のものであってよく、その説明を省略する。なおVSA装置26には、前輪2の各ホイールシリンダ2bに対応する第1系統と、後輪3の各ホイールシリンダ3bに対応する第2系統とをそれぞれ構成する各種の油圧素子を用いた各ブレーキアクチュエータ26bと、それらを制御するVSA制御ユニット26aとにより構成されている。なお、他の実施形態では、VSA装置26を省略してもよい。
【0031】
配管42a上には常時開型の電磁弁である開閉弁24aが設けられ、配管42b上にも電磁弁である常時開型の開閉弁24bが設けられている。配管42aの開閉弁24aとVSA装置26との間の部分は、配管43aを介して第1液室23aと連通するように接続されている。配管42bの開閉弁24bとVSA装置26との間の部分は、配管43bを介して第1液室23aと連通するように接続されている。
【0032】
このように配管されていることにより、第1液室23aには、配管42a、常時開状態の開閉弁24a及び配管43aを介してマスターシリンダ15の第1液室17aが連通し、第2液室23bには、配管42b、常時開型の開閉弁24b及び配管43bを介してマスターシリンダ15の第2液室17bが連通する。なお、第1液室17aと開閉弁24aとの間にはマスターシリンダ側ブレーキ圧センサ25aが接続され、開閉弁24bと第2液室23bとの間にはモータ駆動シリンダ側ブレーキ圧センサ25bが接続されている。
【0033】
また、第2液室17bと開閉弁24bとの間には、常時閉型の電磁弁であるシミュレータ弁24cを介してシリンダ型のシミュレータ28が接続されている。シミュレータ28には、そのシリンダ内を分断するピストン28aが設けられ、ピストン28aのシミュレータ弁24c側に貯液室28bが形成され、ピストン28aの貯液室28b側とは相反する側には圧縮コイルばね28cが受容されている。両開閉弁24a・24bが閉じかつシミュレータ弁24cが開くことにより、第2液室17bと貯液室28bとが連通し、その状態でブレーキペダル11を踏み込むと、第2液室17b内のブレーキ液が貯液室28bに入り込む。それにより圧縮される圧縮コイルばね28cの付勢力がブレーキペダル11に伝達されるため、公知のマスターシリンダとホイールシリンダとが直結されているブレーキ装置と同様の踏み込みに対する反力が得られる。
【0034】
このようにして構成されたブレーキ液圧発生装置8は、上記制御ユニット6により総合的に制御される。制御ユニット6には、ペダル位置センサ11aと各ブレーキ圧センサ25a・25bとの各検出信号が入力し、また車両Vの挙動を検出するための各種センサ(図示せず)からの検出信号が入力し、さらに電動サーボモータ12に設けられたモータ回転角センサ44からのモータ回転角信号も入力している。
【0035】
制御ユニット6は、ペダル位置センサ11aからの検出信号に基づき、かつ上記各種センサからの検出信号から判断した走行状況等に応じて、モータ駆動シリンダ13により発生するブレーキ液圧を制御する。さらに、本実施形態の対象車両となるハイブリッド車(又は電気自動車)の場合には、モータ・ジェネレータによる回生制御を行うようにしており、制御ユニット6では、回生制御を行う場合の回生の大きさに対するモータ駆動シリンダ13によるブレーキ液圧の大きさの配分制御も行う。
【0036】
制御ユニット6の通常制動時における制御手法について説明する。図2に示すように、ブレーキペダル11が踏み込まれていない状態を初期状態では、開閉弁24a・24b及びシミュレータ弁24cは開かれており、モータ駆動シリンダ13では、ねじ溝付きロッド19が最も後退した位置にあり、それに伴って各戻しばね27a・27bにより付勢されている各ピストン21a・21bも後退しており、両液室23a・23bにブレーキ液圧は発生していない。
【0037】
図3は、ブレーキペダル11を運転者が踏み込んだ際のタイムチャートである。図3に示すように、運転者が時間0からブレーキペダル11を踏み込んで、ペダル位置センサ11aが検出したペダル位置が位置P1となった場合(時間t1)には、制御ユニット6は、ペダル位置に基づいて、電動サーボモータ12の目標モータ回転角を設定し、実モータ回転角が目標モータ回転角に一致するようにフィードバック制御によって電動サーボモータ12を駆動する。ペダル位置に基づく目標モータ回転角の設定は、所定のマップに基づいて行ってよい。マップは、例えば、ペダル位置が増大するにつれて、目標モータ回転角も増大するものであってよい。電動サーボモータ12の駆動によって、ねじ溝付きロッド19及び第1ピストン21aが押し出されて、第1液室23aに液圧が発生する。
【0038】
本実施形態では、ブレーキペダル11を踏み込んでもペダル位置が位置P1までは遊びとして電動サーボモータ12を駆動しないようにしたが、他の実施形態では遊びを設けずに電動サーボモータ12を駆動するようにしてもよい。
【0039】
電動サーボモータ12の始動時には、フィードバック制御等に起因して電動サーボモータ12の実モータ回転角が目標モータ回転角に対してオーバーシュートする。そのため、第1液室23a及び第2液室23bに発生する液圧も実モータ回転角に応じてオーバーシュートする。このとき、開閉弁24a・24b及びシミュレータ弁24cが開かれているため、第1液室23a及び第2液室23bに発生した目標値よりも過大な液圧はマスターシリンダ15又はシミュレータ28へと逃げ(供給され)、ホイールシリンダ2b・3bを駆動することはない。
【0040】
次に、運転者によってブレーキペダル11が更に踏み込まれ、ペダル位置が所定の位置P2以上となり、かつモータ回転角がθ1以上となったときに、制御ユニット6は開閉弁24a・24bを閉じる。ペダル位置がP2となったときの時間をt2、モータ回転角がθ1となったときの時間をt3とする。ここでペダル位置P2及びモータ回転角θ1は、運転者が通常の制動時にブレーキペダル11を踏み込む場合において、ペダル位置が位置P1から位置P2となり、かつモータ回転角がθ1となるまでに要する時間(t3−t1)がモータ回転角のオーバーシュートが落ち着く時間以上となるように設定されている。すなわち、ペダル位置がP2に達し、かつモータ回転角がθ1に達したときには、モータ回転角のオーバーシュートが落ち着ついているように設定されている。
【0041】
なお、他の実施形態では、制御ユニット6は、ペダル位置のみに基づいて、ペダル位置がP2以上となったときに、開閉弁24a・24bを閉じるようにしてもよい。この場合、ペダル位置が位置P1から位置P2になるまでに要する時間(t2−t1)がモータ回転角のオーバーシュートが落ち着く時間以上となるように設定する。すなわち、ペダル位置が位置P2に達したときには、モータ回転角のオーバーシュートが落ち着ついているように設定する。
【0042】
制御ユニット6が開閉弁24a・24bを時間t2に閉じることによって、第1液室23a及び第2液室23bに発生した液圧は、ホイールシリンダ2b・3bに供給される。図3に示すように、ホイールシリンダ2b・3bに連通する部分に設けられたモータ駆動シリンダ側ブレーキ圧センサ25bによって検出される液圧、すなわちブレーキ圧は、モータ駆動シリンダ13の駆動に応じて増大し、ホイールシリンダ2b・3bが駆動される。これによって制動力が発生し、通常の制動制御が行われる。なお、VSA装置26による各輪に対する制動力分配制御が行われる場合にはその制御に応じて各輪の制動力の調整が行われる。
【0043】
また、開閉弁24a・24bが閉じられたことによって、マスターシリンダ15で発生する液圧は、ホイールシリンダ2b・3b及びモータ駆動シリンダ13へと供給されず、シミュレータ28に供給される。これにより、ブレーキペダル11にはシミュレータ28の反力が付与される。
【0044】
運転者がブレーキペダル11を戻す方向に変位させた場合には、制御ユニット6が、ペダル位置に応じて電動サーボモータ12を駆動し、ねじ溝付きロッド19を回転させて第1ピストン21aを後退させ、モータ駆動シリンダ13が発生する液圧を低減し、制動力を低減させる。また、ブレーキペダル11が図示されない戻しばねにより初期位置に戻された場合には、制御ユニット6は各開閉弁24a・24bを開く。それに伴って各ホイールシリンダ2b・3bのブレーキ液がモータ駆動シリンダ13を介してリザーバタンク16に戻り、制動力は解除される。ペダル位置が初期位置となることにより、第1ピストン21a及び第2ピストン21bも初期位置に戻る。
【0045】
制御ユニット6は、ペダル位置が初期位置となっても、シミュレータ弁24cを開いた状態に維持する。なお、他の実施形態において、ペダル位置が初期位置にある場合に制御ユニット6がシミュレータ弁24cを閉じる場合には、制御ユニット6はペダル位置が位置P1以下の所定の値でシミュレータ弁24cを開く。すなわち、制御ユニット6は、電動サーボモータ12を始動する前(同時も含む)には、シミュレータ弁24cが開かれた状態にする。
【0046】
電源の失陥等によりモータ駆動シリンダ13が作動不能となった異常時には、常開型電磁弁である開閉弁24a・24bが自動的に開かれ、常閉型電磁弁であるシミュレータ弁24cが自動的に閉じられる。これにより、ブレーキペダル11の操作に応じてマスターシリンダ15で発生した液圧は、配管42a・42b及びVSA装置26を介してホイールシリンダ2b・3bに伝達される。
【0047】
なお、電源の失陥による場合でなくても、制御ユニット6は、ペダル位置に基づいてペダル操作がなされているにも関わらず、かつモータ回転角センサ44からのモータ回転角に変化が検出されない場合には、開閉弁24a・24bを開いた状態に維持すると共に、シミュレータ弁24cを閉じる。これにより、ブレーキペダル11の操作に応じてマスターシリンダ15で発生した液圧は、配管42a・42b及びVSA装置26を介してホイールシリンダ2b・3bに供給される。制御ユニット6が、このように開閉弁24a・24b及びシミュレータ弁24cを制御することで、モータ駆動シリンダ13のみが作動不能となった場合にも、マスターシリンダ15を使用してホイールシリンダ2b・3bに液圧を供給する方式へと円滑に移行することができる。
【0048】
以上に説明したように、本実施形態では、ブレーキペダル11の操作がなされて、モータ駆動シリンダ13の電動サーボモータ12が始動する際に、開閉弁24a・24b及びシミュレータ弁24cを開き、電動サーボモータ12の始動時のオーバーシュートが落ち着いた後に開閉弁24a・24bを閉じるようにしたため、モータ駆動シリンダ13の始動時に液圧のオーバーシュートが発生しても、この液圧がホイールシリンダ2b・3bを駆動することが防止される。
【0049】
なお、上記の実施形態では、ペダル位置が位置P1で電動サーボモータ12を始動し、位置P1より大きい位置P2において開閉弁24a・24bを閉じることで、電動サーボモータ12のオーバーシュートが落ち着くまでの期間を設定したが、代わりに時間やモータ回転角に基づいて開閉弁24a・24bを閉じるタイミングを設定してもよい。例えば、電動サーボモータ12の始動が開始されてから所定の期間を経過したときに開閉弁24a・24bを閉じるようにしてもよいし、電動サーボモータ12のモータ回転角が所定値となったときに開閉弁24a・24bを閉じるようにしてもよい。これらの期間やモータ回転角は、通常の制動時における運転者のブレーキペダル11の踏み込み操作において、電動サーボモータ12のオーバーシュートが落ち着く期間やモータ回転角に基づいて定めればよい。
【符号の説明】
【0050】
1…ブレーキ装置、2b・3b…ホイールシリンダ、6…制御ユニット(制御手段)、8…ブレーキ液圧発生装置、11…ブレーキペダル、11a…ペダル位置センサ(ペダル操作量検出手段)、12…電動サーボモータ、13…モータ駆動シリンダ(液圧発生手段)、15…マスターシリンダ、17a…第1液室、17b…第2液室、23a…第1液室、23b…第2液室、24a・24b…開閉弁、24c…シミュレータ弁、25a…マスターシリンダ側ブレーキ圧センサ、25b…モータ駆動シリンダ側ブレーキ圧センサ、26…VSA装置、28…シミュレータ(反力シミュレータ)、42a・42b…配管(油路)、43a・43b…配管、44…モータ回転角センサ(作動量検出手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキペダルに機械的に連結され、液圧を発生するマスターシリンダと、
前記マスターシリンダに油路を介して接続されたホイールシリンダと、
前記油路上に設けられた開閉弁と、
前記ブレーキペダルの操作量に対応するペダル操作量を検出するペダル操作量検出手段と、
前記油路の前記開閉弁と前記ホイールシリンダとの間の部分に接続され、電動モータの駆動によって前記油路に液圧を供給する液圧発生手段と、
前記ペダル操作量に応じて前記開閉弁及び前記液圧発生手段を制御する制御手段と
を有する車両ブレーキ装置であって、
前記制御手段は、前記ペダル操作量に基づいて前記液圧発生手段の駆動を開始する際には、前記開閉弁を開いた状態に維持し、前記液圧発生手段の駆動開始後に前記開閉弁を閉じることを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【請求項2】
前記油路の前記マスターシリンダと前記開閉弁との間に接続され、前記油路からの液を受け入れると共に反力を付与する反力シミュレータと、
前記制御手段によって制御され、前記油路と前記反力シミュレータとの連通を開閉するシミュレータ弁と
を備え、
前記制御手段は、前記ペダル操作量に基づいて前記液圧発生手段の駆動を開始する際には、前記開閉弁及び前記シミュレータ弁を開いた状態に維持し、前記液圧発生手段の駆動開始後に前記開閉弁を閉じることを特徴とする請求項1に車両用ブレーキ装置。
【請求項3】
前記液圧発生手段の作動量を検出する作動量検出手段を更に備え、
前記制御手段は、前記ペダル操作量の変化を検出し、かつ前記液圧発生手段の作動量の変化を検出しない場合に、前記シミュレータ弁を閉じると共に前記開閉弁を開いた状態に維持することを特徴とする請求項2に記載の車両用ブレーキ装置。
【請求項4】
前記液圧発生手段の作動量を検出する作動量検出手段を更に備え、
前記制御手段は、前記液圧発生手段の作動量が、前記液圧発生手段の駆動開始時に生じるオーバーシュートが落ち着いた時点に対応する所定値に達したときに前記開閉弁を閉じることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1つの項に記載の車両用ブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−206583(P2012−206583A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−73186(P2011−73186)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】