説明

車両用ペダル支持構造

【課題】所定値以上の外力が車両前部に作用した際に車両用ペダルの踏面を効率良く車両前方側へ回転変位させる。
【解決手段】ダッシュパネル16側にメインペダルブラケット32が支持され、インパネリインフォース26側にサブペダルブラケット34が支持され、更に両者の間にペダルブラケットサポート36が配置されたペダルブラケット30に、ブレーキペダル10が揺動可能に支持されている。ブレーキペダル10はリンク機構90を介してプッシュロッド60に連結されている。サブペダルブラケット34の下部側にはビード112が形成されており、前記荷重入力時に曲げ変形する構成である。さらに、アーム部92Cは、前記荷重入力時にビード112よりも上方側において底壁部34Aに当接するように配置されている。従って、サブペダルブラケット34の曲げ変形の影響を受けることなく、アーム部92Cを底壁部34Aで車両前方側へ押圧できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リンク機構を使った車両用ペダル支持構造に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、車両前部に車両前方側から所定値以上の外力が作用してダッシュパネルが車両後方側へ変位した場合に、プッシュロッドの後端部に連結された揺動リンクがインパネリインフォースから車両斜め前方下側へ延出された延出部に接触し、当該延出部が反時計方向へ変形しながら反時計方向へ回動され、これにより揺動リンクを反時計方向へ揺動させて車両用ペダルの踏面を車両前方側へ回転変位させる技術が開示されている。
【特許文献1】特許3125715号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記先行技術に開示された構成による場合、揺動リンクと延出部との接触部位が、変形しながら反時計方向へ回動する変形部位側にあるため、揺動リンクの反時計方向への回転変位量を効率良く増加させることができない。従って、上記先行技術は、この点において改良の余地がある。
【0004】
本発明は上記事実を考慮し、所定値以上の外力が車両前部に作用した際に車両用ペダルの踏面を効率良く車両前方側へ回転変位させることができる車両用ペダル支持構造を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1の発明に係る車両用ペダル支持構造は、車両前後方向に離間して配置されると共に所定値以上の外力が車両前部に作用した際に車両前後方向への距離が縮まるように相対変位する車体側構成部材間に架け渡され、下端部に乗員の踏力が付与される踏面を備えた車両用ペダルを支軸回りに揺動可能に支持するペダルブラケットと、このペダルブラケットに揺動可能に支持されると共に、車両用ペダルの踏面に付与された踏力を液圧に変換するための液圧変換手段と車両用ペダルの上端側とを相対回転可能に連結し、当該踏力を液圧変換手段に伝達するリンク機構と、を含んで構成された車両用ペダル支持構造であって、前記ペダルブラケットの後部側には、前記相対変位時に当該ペダルブラケットの後部側を車両後方下側へ曲げ変形させる曲げ変形部が設けられており、前記相対変位時に前記ペダルブラケットの後部側において当該曲げ変形部よりも車両上方側に位置して曲げ変形の影響を受けない非曲げ変形部に、前記リンク機構の一部を接触させて車両前方側へ押圧することにより、車両用ペダルの踏面を支軸回りに車両前方側へ回転変位させる、ことを特徴としている。
【0006】
請求項2の発明は、請求項1記載の車両用ペダル支持構造において、前記ペダルブラケットは、エンジンルームとキャビンとを隔成するダッシュパネル側に取り付けられるペダルブラケット前部と、ダッシュパネルよりも車両後方側に位置して車両幅方向に延在するインパネリインフォース側に取り付けられかつ前記曲げ変形部が設けられたペダルブラケット後部と、ペダルブラケット前部とペダルブラケット後部との間に配置されてペダルブラケット前部とペダルブラケット後部とを繋ぐペダルブラケット中間部と、を備えている、ことを特徴としている。
【0007】
請求項3の発明は、請求項1又は請求項2記載の車両用ペダル支持構造において、前記ペダルブラケットの後部側が前記曲げ変形部にて曲げ変形した後に、当該ペダルブラケットの曲げ変形部よりも車両下方側に延在する部分にてペダルブラケットの前部側を離脱させる離脱機構を有する、ことを特徴としている。
【0008】
請求項1記載の本発明の作用は、以下の通りである。
【0009】
車両前後方向に離間して配置された車体側構成部材間にペダルブラケットが架け渡されており、かかるペダルブラケットに車両用ペダルが支軸回りに揺動可能に支持されている。通常の車両用ペダル操作時においては、この車両用ペダルの踏面に乗員の踏力が付与されると、車両用ペダルが支軸回りに車両前方側へ揺動される。車両用ペダルの上端側と液圧変換手段とはリンク機構を介して相対回転可能に連結されているため、車両用ペダルの踏面が踏み込まれると、その際の踏力がリンク機構を介して液圧変換手段に伝達され、液圧に変換される。
【0010】
一方、所定値以上の外力が車両前部に作用すると、前述した車体側構成部材間に車両前後方向への距離が縮まるような相対変位が生じる。かかる相対変位により、ペダルブラケットの後部側が曲げ変形部にて車両後方下側へ曲げ変形される。この曲げ変形が生じた分、車体側構成部材間の車両前後方向への相対変位は進み、それに伴ってペダルブラケットに揺動可能に支持されたリンク機構及び車両用ペダルも車両後方側へ相対変位してリンク機構の一部がペダルブラケットの後部側に接触する。
【0011】
ここで、本発明では、ペダルブラケットの後部側において当該曲げ変形部よりも車両上方側に位置して曲げ変形の影響を受けない非曲げ変形部にリンク機構の一部を接触させるようにしたので、ペダルブラケットの後部側の曲げ変形の影響を受けることなく、狙ったタイミングでペダルブラケットの後部側でリンク機構の一部を車両前方側へ押圧することができる。その結果、車両用ペダルの踏面は、支軸回りに車両前方側へ効率良く回転変位される。
【0012】
請求項2記載の本発明によれば、ペダルブラケットがダッシュパネル側に取り付けられるペダルブラケット前部と、インパネリインフォース側に取り付けられるペダルブラケット後部と、両者の間に配置されて両者を繋ぐペダルブラケット中間部とを備えており、上述した曲げ変形部はペダルブラケット後部に設けられている。従って、ペダルブラケット中間部の形状を例えば側面視でL字状等に形成して、ペダルブラケット後部の曲げ変形部よりも車両下方側の部分が更に車両下方側へ延長されるようにペダルブラケット中間部をペダルブラケット後部に繋げば、車体側構成部材間の相対変位時に、ペダルブラケット後部に設定された曲げ変形部よりも車両下方側へ大きく離間した位置に、車両後方側への荷重を作用させるといったことも可能になる。このようにすれば、ペダルブラケット後部の曲げ変形部に、より大きな曲げモーメントを作用させることができるので、ペダルブラケット後部を曲げ変形部にて迅速に曲げ変形させることができる。
【0013】
請求項3記載の本発明によれば、ペダルブラケットの後部側が曲げ変形部にて曲げ変形した後、更に車体側構成部材間の相対変位が進むと、離脱機構によってペダルブラケットの曲げ変形部よりも車両下方側に延在する部分にてペダルブラケットの前部側がペダルブラケットの後部側から離脱される。従って、それ以降は、ペダルブラケットの後部側を支持する車体側構成部材側に荷重が入力されることはない。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように、請求項1記載の本発明に係る車両用ペダル支持構造は、所定値以上の外力が車両前部に作用した際に車両用ペダルの踏面を効率良く車両前方側へ回転変位させることができるという優れた効果を有する。
【0015】
請求項2記載の本発明に係る車両用ペダル支持構造は、ペダルブラケットにペダルブラケット前部とペダルブラケット後部とを繋ぐペダルブラケット中間部を設けたので、ペダルブラケット後部を迅速に曲げ変形部にて曲げ変形させ、車両用ペダルの踏面の車両前方側への変位挙動を迅速に行わせることができるという優れた効果を有する。
【0016】
請求項3記載の本発明に係る車両用ペダル支持構造は、ペダルブラケットの後部側が曲げ変形部にて曲げ変形した後に、当該ペダルブラケットの曲げ変形部よりも車両下方側に延在する部分にてペダルブラケットの前部側を離脱させる離脱機構を設けたので、ペダルブラケットの後部側を支持する車体側構成部材に入力される荷重量を低減することができるという優れた効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図1〜図6を用いて、本発明に係る車両用ペダル支持構造の一実施形態について説明する。なお、これらの図において適宜示される矢印FRは車両前方側を示しており、矢印UPは車両上方側を示しており、矢印INは車両幅方向内側を示している。
【0018】
図1には本実施形態に係る吊り下げ式のブレーキペダル10の支持構造の全体構成が側面視で示されており、又図2には図1の2−2線に沿った横断面図が示されている。以下、これらの図を用いて、ブレーキペダル10を含む周辺構造の全体的な構成について説明することにする。
【0019】
エンジンルーム12と車室内空間14とを仕切る位置には、(第1の)車体側構成部材としてのダッシュパネル16が略垂直に配置されている。ダッシュパネル16の上端部は、車両幅方向を長手方向として配置されてカウルの一部を構成する図示しないカウルインナパネルにスポット溶接等により固着されている。また、ダッシュパネル16の下端部は、図示しないフロアパネルにスポット溶接等により固着されている。
【0020】
上述したダッシュパネル16の前方側には、ブレーキペダル10に付与された乗員の踏力を増強するためのブレーキブースタ20と、このブレーキブースタ20によって増強された圧力を液圧に変換するための液圧変換手段としてのマスタシリンダ22と、液圧系統の体積変化に追従してブレーキフルードを貯留及び補充するリザーバタンク24とが一体的に配設されている。
【0021】
一方、ダッシュパネル16の車両後方側には、略車両幅方向を長手方向として配置された高強度及び高剛性部材である(第2の)車体側構成部材としてのパイプ状のインパネリインフォース26が配設されている。
【0022】
上述したダッシュパネル16とインパネリインフォース26との間には、これらに掛け渡されるようにしてペダルブラケット30が配設されている。ペダルブラケット30は、ダッシュパネル16側に固定されるペダルブラケット前部としてのメインペダルブラケット32と、インパネリインフォース26側に固定されるペダルブラケット後部としてのサブペダルブラケット34と、メインペダルブラケット32の後端部とサブペダルブラケット34の前端部とを連結するペダルブラケット中間部としてのペダルブラケットサポート36と、によって構成されている。換言すれば、ペダルブラケット30は、メインペダルブラケット32とサブペダルブラケット34とペダルブラケットサポート36とに三分割されている。
【0023】
メインペダルブラケット32は、ダッシュパネル16に対して平行に配置されてダッシュパネル16への取付座面を構成するベースプレート部38と、このベースプレート部38の両側部付近から略車両後方側へ平行に延出される一対のサイドプレート部40と、を含んで構成されており、全体としては平面視でコ字状に形成されている。ベースプレート部38の前面四隅には、円筒状のカラー42が固着されている。ベースプレート部38は、これらのカラー42をダッシュパネル16に当接させた状態で、ブレーキブースタ20から突出するスタッドボルト44をカラー42内へ挿入させナット46を車室内空間14側から螺合させることにより、ダッシュパネル16に固定されている。なお、ダッシュパネル16とベースプレート部38との間には、遮音材として用いられる図示しないダッシュインシュレータが介在されている。
【0024】
一方、サブペダルブラケット34は、底壁部34Aと、左右一対の側壁部34Bと、左右一対の側壁部34Bの根元(上端部)同士を繋ぐ基端部34Cと、によって構成されており、全体としては車両下方側から見てコ字状に形成されている。基端部34Cはインパネリインフォース26の外周面と同一の曲率半径の円弧面状に形成されており、インパネリインフォース26の外周面に溶接により固着されている。また、サブペダルブラケット34は、インパネリインフォース26の外周面の前側下部から車両下方かつ車両斜め前方へ向けて延出されている。
【0025】
さらに、ペダルブラケットサポート36は、側面視で左右逆向きの略L字状に形成された一対の側壁部36Aを備えている。各側壁部36Aは車両前後方向に沿って延在する側壁前部36A1と、この側壁前部36A1の後端部からサブペダルブラケット34側へ向けて車両上方側へ延出する側壁後部36A2と、によって構成されている。左右一対の側壁後部36A2の後端部同士は、底壁部36Bによって接続されている。従って、この部分の断面形状はコ字状とされている。また、ペダルブラケットサポート36の側壁前部36A1はメインペダルブラケット32の一対のサイドプレート部40の内側に挿入状態で配置され、後述する第2の支軸100回りに相対回転可能に一対のサイドプレート部40に連結されている。また、ペダルブラケットサポート36の側壁後部36A2はサブペダルブラケット34の左右一対の側壁部34Bの内側に一部オーバーラップするように挿入されて、双方の底壁部34A、34B同士が重合された状態で、次述する離脱機構50によって離脱可能に締結されている。
【0026】
すなわち、図3に示されるように、サブペダルブラケット34の底壁部34Aの下端部には、下縁から上方へ向かって切れ込むスリット52が形成されている。また、ペダルブラケットサポート36の底壁部36Bの上端側には、ボルト挿通孔54(図1参照)が形成されている。このボルト挿通孔54をスリット52の終端部(上端部)に重合させて、ボルト56及びナット58で所定の締結トルクで締結することにより、ペダルブラケットサポート36の底壁部36Bの上端部がサブペダルブラケット34の底壁部34Aの下端部に離脱可能に結合されている。
【0027】
上述したメインペダルブラケット32の左右一対のサイドプレート部40の長手方向の中間部付近には、車両用ペダルとしてのブレーキペダル10が揺動可能に支持されている。詳細には、ブレーキペダル10は、側面視で略くの字状に形成されたペダルアーム70と、このペダルアーム70の下端部に取り付けられて乗員(ドライバ)の踏力が付与される踏面としてのペダルパッド72と、によって構成されている。ペダルアーム70は、その上端部72Aに設定された第1の支軸74回りに揺動可能に一対のサイドプレート部40に支持されている。
【0028】
図2に示されるように、ペダルアーム70の上端部72Aにはペダルボス挿通孔76が形成されており、このペダルボス挿通孔76内へ円筒状に形成されたペダルボス78が面直角方向へ圧入されている。ペダルボス78の軸芯部には両端部からブッシュ80が嵌入された後、円筒状のカラー82が挿入されている。カラー82の軸長は一対のサイドプレート部40の対向面間の距離に等しくなるように設定されており、カラー82の軸方向両端面が一対のサイドプレート部40の対向面に当接された状態で、一方のサイドプレート部40の外側からカラー82内へ取付ボルト84が挿入されて他方のサイドプレート部40の外側からナット86が螺合されることにより、ブレーキペダル10が取付ボルト84回りに揺動可能に軸支されている。なお、ペダルアーム70の上端屈曲部72Bには図示しないリターンスプリングが係止されており、ブレーキペダル10を初期位置(図1の実線図示位置)に復帰する方向へ常時付勢されている。
【0029】
図1及び図2に示されるように、上述したペダルアーム70の上端部72Aの車両後方側には、リンク機構90が設けられている。リンク機構90は、側面視で略L字形のアーム状に形成された第1リンク92と、この第1リンク92とペダルアーム70の上端屈曲部72Bとを相対回転可能に連結する直線状の一対の第2リンク94と、によって構成されている。
【0030】
第1リンク92は、組付状態で略車両上下方向に沿って延在する本体部92Aと、この本体部92Aの下端部からペダルアーム70の上端屈曲部72Bの下方位置まで車両前方側へ延出された前端部92Bと、本体部92Aの上端部から車両後方側へ延出された後に更に車両斜め後方上側へ延出されたアーム部92Cと、によって構成されている。
【0031】
第1リンク92の前端部92Bとペダルアーム70の上端屈曲部72Bとは、左右一対の第2リンク94によって相対回転可能に連結されている。なお、第2リンク94の一端部とペダルアーム70の上端屈曲部72Bとはピン96によって相対回転可能に連結されており、又第2リンク94の他端部と第1リンク92の前端部92Bとはピン98によって相対回転可能に連結されている。
【0032】
また、第1リンク92の本体部92Aの下端部は、第2の支軸100回りに揺動可能に一対のサイドプレート部40及びペダルブラケットサポート36の一対の側壁部36Aに軸支されている。第2の支軸100は第1の支軸74と同様に構成されており、ボス102、一対のブッシュ104、カラー106、取付ボルト108、及びナット110が使用されている。
【0033】
さらに、第1リンク92の本体部92Aの上端前部には、ブレーキブースタ20の軸心部から突出されたプッシュロッド(オペレーティングロッド)60の先端部が相対回転可能に連結されている。具体的に説明すると、プッシュロッド60の先端部には断面略コ字形のクレビス62が取り付けられており、このクレビス62の内方に第1リンク92の本体部92Aの上端前部が挿入されている。そして、この状態で、クレビス62の両側部及び第1リンク92の本体部92Aの上端前部をクレビスピン64が貫通し、その貫通端部にβピンが挿入係止されることにより、プッシュロッド60の先端部と第1リンク92の本体部92Aとが相対回転可能に連結されている。
【0034】
また、図1に示されるように、上述したサブペダルブラケット34の底壁部34Aと左右一対の側壁部34Bとの接続部位(即ち、稜線を含む角部)には、曲げ変形部としてのビード112がそれぞれ形成されている。ビード112は車両側面視で三角形状に形成されており、サブペダルブラケット34の底壁部34Aと左右一対の側壁部34Bとが交差する角部の稜線上に形成されている。なお、ビード112の形成位置は、前述したスリット52の終端部(上端部)よりも若干車両上方側にオフセットした位置に設定されている。なお、サブペダルブラケット34の底壁部34Aのうち、ビード112が形成された部位よりも車両上方側に位置する部分を「非曲げ変形部114」と称す。
【0035】
さらに、上述した第1リンク92のアーム部92Cの上端部の後端縁は、組付状態において、ビード112の形成位置よりも車両上方側の所定位置にて、即ち非曲げ変形部114と対向した状態(即ち、非接触状態)で配置されている。
【0036】
次に、本実施形態の作用並びに効果を説明する。
【0037】
まず、通常のブレーキ操作について簡単に触れると、図1に示されるように、乗員がブレーキペダル10のペダルパッド72に踏力を付与すると、ブレーキペダル10が取付ボルト84回りに略車両前方側(矢印A方向側)へ揺動される。このため、ブレーキペダル10の上端屈曲部72Bは取付ボルト84回りに図1の時計方向(矢印B方向側)へ回転する。従って、第2リンク94によって第1リンク92の前端部92Bが車両下方側へ押圧され、第1リンク92は取付ボルト108回りに反時計方向(矢印C方向側)へ揺動される。これにより、第1リンク92の本体部92Aが取付ボルト108回りに反時計方向へ揺動し、プッシュロッド60が略車両前方側(矢印D方向側)へ押圧される。プッシュロッド60が略車両前方側へ押し込まれると、ブレーキブースタ20によってペダルパッド72に付与された乗員の踏力が増強されてマスタシリンダ22によって液圧に変換される。すなわち、ブレーキペダル10のペダルパッド72に付与された踏力は、第2リンク94、第1リンク92及びプッシュロッド60を介してブレーキブースタ20及びマスタシリンダ22に伝達されて所定の液圧に変換される。
【0038】
ここで、図1に示される通常の状態において、所定値以上の外力が車両前部に作用すると、その際の荷重がマスタシリンダ22及びブレーキブースタ20を介してダッシュパネル16に入力されて、図4に示される如く、ダッシュパネル16が略車両後方側へ変位することがある。この場合、ダッシュパネル16の後方変位に伴って、当該荷重がペダルブラケット30(メインペダルブラケット32、ペダルブラケットサポート38、サブペダルブラケット34)を介してインパネリインフォース26に入力される。しかし、インパネリインフォース26は高強度及び高剛性部材であるため、インパネリインフォース26自体は略車両後方側へ殆ど変位しない。従って、結果的には、インパネリインフォース26に対するダッシュパネル16の略車両前後方向への距離が縮まるような相対変位が両者間に生じることになる。
【0039】
この場合、サブペダルブラケット34がビード112の形成によって低剛性化されているため、サブペダルブラケット34はビード112を変形の起点として側面視でくの字状に曲げ変形する。なお、この際、ペダルブラケットサポート36がメインペダルブラケット32に対して第2の支軸100回りに反時計方向へ相対回転し、ペダルブラケット30が全体的に車両下方側へ凸となる凸折れ形状となる。
【0040】
上記の如くして、サブペダルブラケット34がビード112の形成部位で曲げ変形することにより、サブペダルブラケット34におけるビード112の形成位置よりも車両上方側に位置する非曲げ変形部114は相対的に車両後方側へ殆ど変位しないこととなる。このため、第1リンク92のアーム部92Cの先端部が当該非曲げ変形部114に当接し、かかる非曲げ変形部114に反力を得て、第1リンク92のアーム部92Cを車両前方側へ押圧する。このため、第1リンク92が第2の支軸100回りに反時計方向へ揺動され、前端部92Bが車両下方側へ回転変位される。これにより、第2リンク94を介してブレーキペダル10のペダルアーム70の上端屈曲部72Bが車両下方側へ引き込まれ、ブレーキペダル10を第1の支軸74回りに時計方向へ揺動させる。その結果、ペダルパッド72が車両前方側へ回転変位される。
【0041】
このように本実施形態によれば、所定値以上の外力が車両前部に作用した際にブレーキペダル10のペダルパッド72を効率良く車両前方側へ回転変位させることができる。その結果、所定値以上の外力が車両前部に作用した際における乗員の慣性移動による脚部の膝の屈曲を抑制することができ、ひいては乗員の脚部の膝をステアリングコラムから遠ざけることができる。従って、乗員の膝等の乗員下肢に対する保護性能を向上させることができる。
【0042】
また、図4に示される状態から、ダッシュパネル16の車両後方側への相対変位が更に進むと、図5に示されるように、離脱機構50によってペダルブラケットサポート36がサブペダルブラケット34から離脱される。具体的には、ペダルブラケットサポート36の底壁部36Bの上端部とサブペダルブラケット34の下端部との間に作用するせん断力がボルト56及びナット58の締結トルクを超えると、両者の締結状態が解除されてボルト56がスリット52を通ってサブペダルブラケット34から離脱される。これにより、ペダルブラケットサポート36がサブペダルブラケット34から離脱され、それ以降は、サブペダルブラケット34を支持するインパネリインフォース26に荷重が入力されることはない。その結果、インパネリインフォース26に入力される荷重量を低減することができる。
【0043】
さらに、本実施形態では、ペダルブラケット30をダッシュパネル16側に取り付けられるメインペダルブラケット32と、インパネリインフォース26側に取り付けられるサブペダルブラケット34と、両者の間に配置されて両者を繋ぐペダルブラケットサポート36とで構成された三分割構造とし、かつビード112をサブペダルブラケット34側に設定する構成としたので、ペダルブラケットサポート36をサブペダルブラケット34の底壁部34Aの延長面として利用することができる。つまり、ペダルブラケットサポート36を側面視で略L字状等に形成し、ペダルブラケットサポート36の底壁部36Bをサブペダルブラケット34の底壁部34Aの略延長面上に配置させることにより、サブペダルブラケット34の底壁部34Aのビード設定部位よりも車両下方側に位置する部分を更に車両下方側へ延長させることができる。よって、サブペダルブラケット34の一対のビード112の形成部位に、より大きな曲げモーメントを作用させることができる。換言すれば、底壁部36Bがモーメントアーム長を長くする役目を果たすので、より大きな曲げモーメントをビード形成部位に作用させることができる。その結果、サブペダルブラケット34をビード形成部位にて迅速に曲げ変形させることができ、その分、ブレーキペダル10のペダルパッド72の車両前方側への変位挙動を迅速に行わせることができる。
【0044】
〔上記実施形態の補足説明〕
なお、上述した実施形態では、ペダルブラケット30をメインペダルブラケット32とサブペダルブラケット34とペダルブラケットサポート36の三つに分割したが、これに限らず、ペダルブラケットサポート36を省略して二分割構造にしてもよい。また、側面視で略V字形状となるようにペダルブラケットを一体に形成し、車両前部に所定値以上の外力が作用した際に、当該ペダルブラケットの前部と後部が相互の相対距離が縮まるように塑性変形する構成を採ってもよい。
【0045】
また、上述した実施形態では、曲げ変形部としてサブペダルブラケット34の底壁部34Aと一対の側壁部34Bとが交差する角部に側面視で三角形状のビード112をそれぞれ形成したが、これに限らず、サブペダルブラケット34に所定値以上の車両後方側への荷重が入力されることにより、サブペダルブラケット34の下部を車両後方側へ曲げ変形させることができる構成であれば、すべて適用可能である。例えば、図6に示されるように、サブペダルブラケット34の底壁部34A側に側面視でV字状の凹部(脆弱部)120を形成する構成を採ってもよい。
【0046】
さらに、上述した実施形態では、離脱機構50を備えていたが、必ずしも離脱機構50を備えていなくてもよい。同様に、上述した実施形態では、ブレーキペダル10のペダルアーム70と第1リンク92とを第2リンク94を介して相対回転可能に連結しているが、必ずしも第2リンク94を備えている必要はなく、省略することも可能である。
【0047】
また、上述した実施形態では、吊り下げ式のブレーキペダル10を対象として本発明を適用したが、本発明の適用対象はこれに限らず、吊り下げ式のクラッチペダル等に対しても適用可能である。
【0048】
なお、請求項1における「曲げ変形部よりも車両上方側に位置して曲げ変形の影響を受けない」とは、「曲げ変形部よりも車両上方側に位置して曲げ変形の影響を実質的に受けない」という意味である。従って、非曲げ変形部には、ペダルブラケットの後部側が曲げ変形部にて曲げ変形した際に全く変形しない部分と僅かに変形するが本発明の効果は損なわれない部分の双方が含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本実施形態に係るブレーキペダル支持構造の全体構成を示す側面図である。
【図2】図1の2−2線断面図である。
【図3】図1に示される離脱機構を車両後方側から見た背面図である。
【図4】図1に示されるブレーキペダル支持構造において所定値以上の外力が車両前部に作用した際の変形挙動を示す作動説明図である。
【図5】図4に示される状態から離脱機構によってペダルブラケットサポートがサブブラケットから離脱したときの状態を示す作動説明図である。
【図6】曲げ変形部の変形例を示す図1に対応する側面図である。
【符号の説明】
【0050】
10 ブレーキペダル(車両用ペダル)
12 エンジンルーム
14 車室内空間(キャビン)
16 ダッシュパネル(車体側構成部材)
22 マスタシリンダ(液圧変換手段)
26 インパネリインフォース(車体側構成部材)
30 ペダルブラケット
32 メインペダルブラケット
(ペダルブラケットの前部側、ペダルブラケット前部)
34 サブペダルブラケット
(ペダルブラケットの後部側、ペダルブラケット後部)
36 ペダルブラケットサポート
(ペダルブラケットの前部側、ペダルブラケット中間部)
50 離脱機構
60 プッシュロッド(液圧変換手段)
70B 上端屈曲部(車両用ペダルの上端側)
72 ペダルパッド(踏面)
74 第1の支軸
90 リンク機構
92C アーム部(リンク機構の一部)
112 ビード(曲げ変形部)
114 非曲げ変形部
120 凹部(曲げ変形部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両前後方向に離間して配置されると共に所定値以上の外力が車両前部に作用した際に車両前後方向への距離が縮まるように相対変位する車体側構成部材間に架け渡され、下端部に乗員の踏力が付与される踏面を備えた車両用ペダルを支軸回りに揺動可能に支持するペダルブラケットと、
このペダルブラケットに揺動可能に支持されると共に、車両用ペダルの踏面に付与された踏力を液圧に変換するための液圧変換手段と車両用ペダルの上端側とを相対回転可能に連結し、当該踏力を液圧変換手段に伝達するリンク機構と、
を含んで構成された車両用ペダル支持構造であって、
前記ペダルブラケットの後部側には、前記相対変位時に当該ペダルブラケットの後部側を車両後方下側へ曲げ変形させる曲げ変形部が設けられており、
前記相対変位時に前記ペダルブラケットの後部側において当該曲げ変形部よりも車両上方側に位置して曲げ変形の影響を受けない非曲げ変形部に、前記リンク機構の一部を接触させて車両前方側へ押圧することにより、車両用ペダルの踏面を支軸回りに車両前方側へ回転変位させる、
ことを特徴とする車両用ペダル支持構造。
【請求項2】
前記ペダルブラケットは、エンジンルームとキャビンとを隔成するダッシュパネル側に取り付けられるペダルブラケット前部と、ダッシュパネルよりも車両後方側に位置して車両幅方向に延在するインパネリインフォース側に取り付けられかつ前記曲げ変形部が設けられたペダルブラケット後部と、ペダルブラケット前部とペダルブラケット後部との間に配置されてペダルブラケット前部とペダルブラケット後部とを繋ぐペダルブラケット中間部と、を備えている、
ことを特徴とする請求項1記載の車両用ペダル支持構造。
【請求項3】
前記ペダルブラケットの後部側が前記曲げ変形部にて曲げ変形した後に、当該ペダルブラケットの曲げ変形部よりも車両下方側に延在する部分にてペダルブラケットの前部側を離脱させる離脱機構を有する、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の車両用ペダル支持構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−204096(P2008−204096A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−38395(P2007−38395)
【出願日】平成19年2月19日(2007.2.19)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】