説明

車両用モータ温度検出装置

【課題】モータのコイルに冷媒が供給された後であっても、コイルの温度をより正確に推定することが可能な車両用モータ温度検出装置を提供する。
【解決手段】温度センサ20は、モータ16のステータコアに設けられている。冷却システム22は、モータ16のコイルに冷媒を供給してコイルを冷却する。温度推定部32は、温度センサによって検出された温度(測定値Ta)に基づいてモータ16のコイルの温度を推定する。温度推定部32は、冷却システム22によってモータ16のコイルに冷媒が供給された始めてから所定時間が経過するまでの第1の期間においては、予め設定された値に基づいてモータ16のコイルの温度を推定し、第1の期間以外の第2の期間においては、温度センサ20によって検出された温度に基づいてモータ16のコイルの温度を推定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載されたモータの温度を検出する車両用モータ温度検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車、ハイブリッド自動車、及び燃料電池自動車等の車両のように、モータの駆動力によって走行する車両が知られている。特許文献1には、モータのステータにサーミスタ等の温度センサを取り付け、温度センサで検出された温度が所定値以上になった場合にモータの出力を制限することで、モータを保護する技術が開示されている。
【0003】
ところで、温度センサの応答の遅れや、モータにおいて温度センサが設置される場所の制約等の理由により、温度センサによって検出された温度と測定対象の実際の温度とで差が生じることがある。例えば、モータのコイルにおいて最高温度となる場所に温度センサを設置できない場合には、温度センサによって検出された温度とコイルの実際の温度とで差が生じることがある。そのため、温度センサによって検出された温度に基づいて、コイルの温度を推定することが行われている。
【0004】
一方、駆動源としてモータを備える車両には、モータの過熱を防ぐために、モータを冷却する冷却システムが搭載されている場合がある。一般的な冷却システムは、冷媒の循環路と、この循環路に冷媒を循環させるオイルポンプとを備える。モータへの冷媒の供給は、断続的に行われることがある。例えば、ハイブリッド自動車においてエンジン軸と直結したオイルポンプによって冷媒をモータに供給する場合、エンジンが停止している間はモータに冷媒を供給せずに、エンジンが始動するとモータに冷媒を供給する制御が行われることがある。また、電動のオイルポンプによって冷媒をモータに供給する場合、オイルポンプの電力の消費を抑制するために、モータの負荷に応じてオイルポンプを起動又は停止して、冷媒をモータに供給することがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−210282号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、モータのコイルに冷媒を直接当ててコイルを冷却する場合、コイルに冷媒が供給され始めた直後は、温度センサによって検出された温度が急激に低下することがある。この場合、温度センサによって検出された温度に基づいて推定される温度も同様に低下し、コイルの実際の温度よりも低くなるおそれがある。推定された温度に基づいてモータの出力を制限する場合に、推定された温度がコイルの実際の温度よりも低くなると、モータの出力を制限する必要があるにもかかわらず、モータの出力が制限されないおそれがある。この場合、モータの耐熱保護ができなくなるおそれがある。
【0007】
本発明の目的は、モータのコイルに冷媒が供給された後であっても、コイルの温度をより正確に推定することが可能な車両用モータ温度検出装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、車両に搭載されてコイルに冷媒が供給されるモータのステータに設けられた温度センサと、前記コイルに前記冷媒が供給され始めてから所定時間が経過するまでの第1の期間においては、予め設定された値に基づいて前記コイルの温度を推定し、前記第1の期間以外の第2の期間においては、前記温度センサによって検出された温度に基づいて前記コイルの温度を推定する温度推定手段と、を有することを特徴とする車両用モータ温度検出装置である。
【0009】
また、本発明に係る車両用モータ温度検出装置であって、前記温度推定手段は、前記コイルに前記冷媒が供給された始めた時点において前記温度センサによって検出された温度を前記予め設定された値として、前記第1の期間における前記コイルの温度を推定する、ことを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る車両用モータ温度検出装置であって、前記温度推定手段は、前記コイルに前記冷媒が供給され始めた時点から、前記温度センサによって検出された温度が前記予め設定された値と等しくなる時点までを前記第1の期間とし、前記第1の期間及び前記第2の期間における前記コイルの温度を推定する、ことを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る車両用モータ温度検出装置であって、前記冷媒は断続的に前記コイルに供給される、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、モータのコイルに冷媒が供給され始めてから所定時間が経過するまでの間においては、予め設定された値に基づいてコイルの温度を推定する。そのことにより、コイルに冷媒が供給されて温度センサによって検出された温度が実際の温度よりも低くなった場合であっても、コイルの温度をより正確に推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態に係る車両用モータ温度検出装置を搭載した車両の概略構成を示す図である。
【図2】本発明の実施形態に係る車両用モータ温度検出装置による動作の一例を示すフローチャートである。
【図3】本発明の実施形態に係る車両用モータ温度検出装置によって推定される温度と時間との関係を示す図である。
【図4】参考例に係る温度推定方法によって推定される温度と時間との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1を参照して、本発明の実施形態に係る車両用モータ温度検出装置について説明する。図1に、本実施形態に係る車両用モータ温度検出装置を搭載した車両の概略構成を示す。図1に例示する車両は、駆動源としてモータを備える電気自動車、ハイブリッド自動車、又は燃料電池自動車である。図1に示す車両は、一例として、バッテリ10と、コンバータ12と、インバータ14と、モータ16と、運転操作部18と、温度センサ20と、冷却システム22と、制御装置28とを備えている。
【0015】
モータ16は、例えば3相交流同期型モータであり、ロータと、ロータを回転させるシャフトと、ロータの外周側に設けられU,V,W相の3つのコイルが設けられたステータとを含んで構成されている。U,V,W相の3つのコイルの一端は、中点で互いに接続され、他端はインバータ14に接続されている。モータ16は、ハイブリッド自動車のエンジンに連結され、エンジンの回転力によって発電する発電機、又は、エンジンの始動を行うことができる電動機として機能するモータであってもよい。
【0016】
コンバータ12は、制御装置28の制御に従って、直流電源であるバッテリ10からの電圧を調整してインバータ14に供給する。インバータ14は、制御装置28の制御に従って、コンバータ12から供給された直流電圧を3相交流電圧に変換してモータ16に供給する。モータ16は、インバータ14から供給された3相交流電圧に基づいて回転し車両を駆動する。
【0017】
運転操作部18は、アクセルペダル、ブレーキペダル、及びギアチェンジレバー等を備え、ユーザの運転操作に応じた運転操作指令を制御装置28に出力する。運転操作指令には、一例としてトルク指令値が含まれる。
【0018】
温度センサ20は一例としてサーミスタであり、モータ16に取り付けられている。例えば、温度センサ20は、モータ16のステータコアの端部に取り付けられている。温度センサ20は温度を検出し、温度を示すデータを制御装置28に出力する。
【0019】
モータ16には、レゾルバ等の図示しない回転角センサが設けられている。回転角センサはモータ16の回転角を検出し、回転角を示すデータを制御装置28に出力する。また、インバータ14とモータ16との間には図示しない電流センサが設けられている。電流センサはモータ16に供給される電流を検出し、電流値を示すデータを制御装置28に出力する。モータ16には、図示しないトルクメータが設けられていてもよい。トルクメータはモータ16のトルクを検出し、トルクの値を示すデータを制御装置28に出力する。
【0020】
冷却システム22は、モータ16を冷却する冷媒(冷却油)の循環路24と、冷媒の循環路に冷媒を循環させるオイルポンプ26とを含んで構成されている。モータ16は冷媒の循環路24上に設けられ、冷却システム22によって冷却される。モータ16を冷却するための冷媒は、オイルポンプ26によって加圧され、図示しないオイルクーラによって冷却される。冷却された冷媒は、例えばモータ16のシャフト内を経由してロータ内に供給され、ロータ内をモータ16の軸方向に流れてロータ内部を冷却する。そして、冷媒はロータの側面に導かれてロータの側面を冷却した後、コイルエンドを冷却する。例えば、冷却システム22は、制御装置28の制御に従って、冷媒を断続的にモータ16に供給する。
【0021】
制御装置28は、制御部30と温度推定部32と記憶部34とを備えている。制御部30は、運転操作指令や車速等に基づいてコンバータ12とインバータ14とを制御することにより、モータ16の動作を制御する。なお、車両がハイブリッド自動車の場合、制御部30は、モータ16及び図示しないエンジン等の車両の駆動に関する機器を制御する。
【0022】
また、制御部30は、冷却システム22によるモータ16への冷媒の供給を制御する。例えば、本実施形態に係る車両がハイブリッド自動車である場合において、図示しないエンジン軸と直結したオイルポンプ26によって冷媒をモータ16に供給する場合について説明する。制御部30は、エンジンが停止している場合、オイルポンプ26を停止させる。これにより、冷却システム22はモータ16への冷媒の供給を停止する。また、制御部30は、エンジンが始動したと同時にオイルポンプ26を起動させる。これにより、冷却システム22はモータ16に冷媒を供給する。
【0023】
制御部30は、モータ16にかかる負荷等の運転状態に応じて、冷却システム22によるモータ16への冷媒の供給を制御してもよい。例えば、制御部30は、運転操作指令、モータ16のトルク、又はモータ16に供給される電流の値等に応じて、オイルポンプ26を起動又は停止させることにより、モータ16への冷媒の供給を制御してもよい。また、制御部30は、後述する温度推定部32によって求められた温度に応じて、オイルポンプ26を起動又は停止させることにより、モータ16への冷媒の供給を制御してもよい。
【0024】
例えば、運転操作指令に含まれる指令値(トルク指令値や電流指令値)、モータ16のトルク、モータ16に供給される電流の値、又は温度推定部32によって求められた温度が、予め設定された閾値以上になった場合に、制御部30はオイルポンプ26を起動させる。これにより、冷却システム22はモータ16に冷媒を供給する。トルク指令値等の指令値、モータ16のトルク、又はモータ16に供給される電流の値が大きくなるほど、モータ16の温度が上昇しやすくなる。そのため、指令値、トルク、電流値、又は温度等の運転状態を示す値が予め設定された閾値以上になった場合に、制御部30はオイルポンプ26を起動させることにより、冷却システム22に冷媒をモータ16へ供給させる。
【0025】
温度推定部32は、温度センサ20によって検出された温度を示すデータを受けて、モータ16のコイルの温度を推定する。
【0026】
温度推定部32は、温度センサ20によって検出された温度(測定値Ta)に予め設定された温度定数ΔTを加算することにより、モータ16のコイルの温度の推定値Tb1を求める。すなわち、推定値Tb1は、式「推定値Tb1=測定値Ta+温度定数ΔT」で求められる。例えば、温度定数ΔTは、温度センサ20によって検出された温度(測定値Ta)と、モータ16のコイルの実際の温度(実温度Tr)との差である。実験によって温度定数ΔTを予め求めておき、温度定数ΔTを記憶部34に予め記憶させておけばよい。
【0027】
温度定数ΔTは、モータ16にかかる負荷等の運転状態に応じて予め決定されている値であってもよい。例えば、運転操作指令に含まれる指令値(トルク指令値や電流指令値)、モータ16のトルク、又はモータ16に供給される電流の値等の運転状態を示す値に応じて、温度定数ΔTは決定されていてもよい。運転操作指令に含まれる指令値、モータ16のトルク、又はモータ16に供給される電流の値等の運転状態を示す値と、温度定数ΔTとの関係を実験によって予め求めておき、その関係を示すマップを予め作成し、そのマップのデータを記憶部34に予め記憶させておけばよい。
【0028】
温度推定部32は、運転操作指令に含まれる指令値(トルク指令値や電流指令値)、モータ16のトルクの値、又はモータ16に供給される電流の値等の運転状態を示す値を制御部30から受けて、その運転状態を示す値に応じた温度定数ΔTを記憶部34から読み込み、測定値Taにその温度定数ΔTを加算することにより推定値Tb1を求める。
【0029】
また、冷却システム22によってモータ16に冷媒が供給され始めた時点から所定時間が経過するまでの期間中は、温度推定部32は、予め設定された固定値Tb0に基づいてモータ16のコイルの温度の推定値Tb2を求める。以下の説明では、冷却システム22によってモータ16に冷媒が供給され始めた時点を「供給開始時点A」と称し、供給開始時点Aから所定時間が経過するまでの期間を「第1の期間」と称する場合がある。また、第1の期間以外の期間を「第2の期間」と称する場合がある。第1の期間においては、温度推定部32は、予め設定された固定値Tb0に温度定数ΔTを加算することにより、モータ16のコイルの温度の推定値Tb2を求める。すなわち、推定値Tb2は、式「推定値Tb2=固定値Tb0+温度定数ΔT」で求められる。固定値Tb0は、一例として、冷媒の供給が開始される直前に温度センサ20によって検出された温度である。例えば、固定値Tb0は、冷媒の供給開始時点Aで温度センサ20によって検出された温度であってもよいし、冷媒の供給開始時点Aから予め設定された時間遡った時点で温度センサ20によって検出された温度であってもよい。例えば、温度センサ20によって検出された温度(測定値Ta)を記憶部34に記憶させておく。モータ16に冷媒が供給され始めた場合、温度推定部32は、冷媒の供給開始時点Aにおける測定値(固定値Tb0)を記憶部34から読み込み、その測定値(固定値Tb0)に温度定数ΔTを加算することにより推定値Tb2を求める。
【0030】
冷媒の供給開始時点Aから所定時間が経過するまでの第1の期間は、冷媒の供給開始時点Aから、推定値Tb1と推定値Tb2とが等しくなる時点までの時間間隔である。換言すると、第1の期間は、冷媒の供給開始時点Aから、温度センサ20によって検出された温度(測定値Ta)と固定値Tb0とが等しくなる時点までの時間間隔である。例えば、温度推定部32は、冷媒の供給開始時点A以降も測定値Taに温度定数ΔTを加算することにより推定値Tb1を求め、推定値Tb1と推定値Tb2とが等しくなった場合に、推定値Tb1を示すデータを制御部30に出力する。または、温度推定部32は、冷媒の供給開始時点A以降に温度センサ20によって検出された温度(測定値Ta)と固定値Tb0とを比較し、測定値Taと固定値Tb0とが等しくなった場合に、測定値Taに温度定数ΔTを加算することにより推定値Tb1を求め、推定値Tb1を示すデータを制御部30に出力してもよい。
【0031】
以上のように、温度推定部32は、第1の期間においては、固定値Tb0に温度定数ΔTを加算することによりコイルの温度の推定値Tb2を求め、第2の期間においては、第2の期間中に温度センサ20によって検出された測定値Taに温度定数ΔTを加算することによりコイルの温度の推定値Tb1を求める。
【0032】
制御部30は、温度推定部32によって求められた温度に基づいて各種の制御を行う。例えば、制御部30は、温度推定部32によって求められた温度に基づいて、モータ16の出力を制御する。制御部30は、冷媒の供給開始時点Aから所定時間が経過するまでの第1の期間中では、推定値Tb2に基づいて各種の制御を行い、第1の期間以外の第2の期間中では、推定値Tb1に基づいて各種の制御を行う。
【0033】
次に、図2を参照して、本実施形態に係る車両用モータ温度検出装置による動作の一例について説明する。図2は、本発明の実施形態に掛る車両用モータ温度検出装置による動作の一例を示すフローチャートである。
【0034】
温度推定部32は、温度センサ20によって検出された温度(測定値Ta)を受けて、測定値Taに温度定数ΔTを加算することにより推定値Tb1を求め、推定値Tb1を示すデータを制御部30に出力する(ステップS01)。例えば、温度推定部32は、上述した運転状態を示す値を制御部30から受けて、その運転状態を示す値に応じた温度定数ΔTを記憶部34から読み込み、測定値Taにその温度定数ΔTを加算することにより推定値Tb1を求める。制御部30は、温度推定部32によって求められた推定値Tb1に基づいて各種の制御を行う。例えば、制御部30は、推定値Tb1に基づいてモータ16の出力を制御する。
【0035】
そして、制御部30が、エンジンの始動又は運転状態に応じて、冷却システム22のオイルポンプ26を起動させた場合(ステップS02、Yes)、温度推定部32は、固定値Tb0に温度定数ΔTを加算することにより推定値Tb2を求め、推定値Tb2を示すデータを制御部30に出力する(ステップS03)。例えば、温度推定部32は、冷媒の供給開始時点Aでの測定値(固定値Tb0)に温度定数ΔTを加算することにより推定値Tb2を求める。制御部30は、温度推定部32によって求められた推定値Tb2に基づいて各種の制御を行う。例えば、制御部30は、推定値Tb2に基づいてモータ16の出力を制御する。
【0036】
モータ16に冷媒が供給され始めた後、温度推定部32は、温度センサ20によって検出された温度(測定値Ta)を受けて、測定値Taに温度定数ΔTを加算することにより推定値Tb1を求め、推定値Tb1を示すデータを制御部30に出力する。そして、推定値Tb1と推定値Tb2とが等しくなった場合(ステップS04、Yes)、制御部30は、推定値Tb2に基づく制御を解除し(ステップS05)、推定値Tb1に基づいて各種の制御を行う(ステップS01)。または、温度推定部32は、モータ16に冷媒が供給された後に温度センサ20によって検出された温度(測定値Ta)を受けて、測定値Taと固定値Tb0とが等しくなった場合に、測定値Taに温度定数ΔTを加算することにより推定値Tb1を求め、推定値Tb1を示すデータを制御部30に出力してもよい。そして、制御部30は、温度推定部32によって求められた推定値Tb1に基づいて各種の制御を行う。以降、制御装置28は、ステップS01からステップS05までの処理を繰り返し実行する。
【0037】
図3及び図4を参照して、モータ16のコイルの温度と時間との関係について説明する。図3に、本実施形態に係る車両用モータ温度検出装置によって推定される温度と時間との関係を示す。図4に、参考例に係る温度推定方法によって推定される温度と時間との関係を示す。図3及び図4において、横軸は時間を示し、縦軸は温度を示す。図3には、測定値Ta、モータ16のコイルの実温度Tr、及び推定値Tb1,Tb2のグラフが示されている。図4には、測定値Ta、モータ16のコイルの実温度Tr、及び推定値Tb1のグラフが示されている。
【0038】
図3及び図4に示す供給開始時点Aは、制御部30がオイルポンプ26を起動させた時間である。制御部30がオイルポンプ26を起動させることで、冷媒がモータ16のコイルに供給され、モータ16のコイルが冷媒によって冷却される。冷媒がモータ16のコイルに供給されてモータ16のコイルが冷却されると、モータ16のコイルの実温度Trは低下する。温度センサ20は、例えばモータ16のステータコアに取り付けられているため、冷媒がモータ16のコイルに供給されてモータ16のコイルが冷却されると、温度センサ20の測定値Taは急激に低下する。図3及び図4に示す例では、冷媒の供給開始時点Aの直後では、実温度Trが低下し、測定値Taは実温度Trよりも急激に低下している。
【0039】
参考例に係る温度推定方法では、モータ16のコイルに冷媒が供給されているか否かにかかわらず、温度センサ20の測定値Taに温度定数ΔTを加算することにより推定値Tb1を求める。モータ16のコイルへの冷媒の供給に伴って測定値Taは急激に低下するため、図4に示すように、冷媒の供給開始時点Aの直後では、測定値Taの急激な低下に伴って推定値Tb1も急激に低下する。その結果、推定値Tb1は、実温度Trよりも大きく低下し、推定値Tb1と実温度Trとの差が大きくなる。このように、参考例に係る温度推定方法では、推定された温度の誤差が大きくなる。
【0040】
一方、本実施形態では、冷媒の供給開始時点Aにおける測定値(固定値Tb0)に基づいて推定値Tb2を求めているため、モータ16のコイルに冷媒が供給された後も、推定値Tb2と実温度Trとの差は、推定値Tb1と実温度Trとの差ほど大きくならない。すなわち、モータ16のコイルに冷媒が供給されて温度センサ20の測定値Taが急激に低下しても、温度が急激に低下する直前の測定値(固定値Tb0)に基づいて推定値Tb2を求めているため、推定値Tb2と実温度Trとの差は、推定値Tb1と実温度Trとの差ほど大きくならない。このように、本実施形態によると、推定された温度の誤差が参考例よりも小さくなり、温度の推定の精度が向上する。すなわち、冷媒の供給開始時点Aにおける測定値(固定値Tb0)は、冷媒による冷却の影響を受けていないため、その固定値Tb0に基づいて求められた推定値Tb2は、冷媒による冷却の影響を受けなくて済む。そのため、推定値Tb2は、推定値Tb1よりも実温度Trを正確に示しており、推定された温度の誤差が参考例よりも小さくなる。
【0041】
以上のように、本実施形態によると、モータ16のコイルに冷媒が供給された後であっても、推定された温度の誤差を低減することができるため、より正確な温度に基づいて各種の制御を行うことができる。例えば、より正確な温度に基づいてモータ16の出力を制御することにより、モータ16のコイルの耐熱保護を向上させることができる。具体的には、推定された温度に基づいてモータ16に供給する電流を制御する場合、より正確な温度に基づいてモータ16に供給する電流を制御することができるため、モータ16のコイルの耐熱保護を向上させることができる。
【0042】
また、推定値Tb1と推定値Tb2とが等しくなった時点以降においては、温度センサ20によって検出された温度(測定値Ta)は、冷媒による冷却の影響を受けていないと考えられる。そのため、推定値Tb1と推定値Tb2とが等しくなった時点以降においては、推定値Tb1に基づいて各種の制御を行うことにより、実温度Trをより正確に示す温度に基づいて各種の制御を行うことができる。
【0043】
上述した制御装置28は、一例としてハードウェア資源とソフトウェアとの協働により実現され、例えば電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)である。具体的には、制御装置28の機能は、記録媒体に記録されたプログラムがメモリに読み出されてCPU(Central Processing Unit)等のプロセッサにより実行されることによって実現される。例えば、制御部30及び温度推定部32のそれぞれの機能は、上記のプログラムがCPU等のプロセッサによって実行されることにより実現される。上記のプログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されて提供されることも可能であるし、データ信号として通信により提供されることも可能である。なお、制御装置28は、ハードウェアのみにより実現されてもよい。また、制御装置28は、物理的に1つの装置により実現されてもよいし、複数の装置により実現されてもよい。
【符号の説明】
【0044】
10 バッテリ、12 コンバータ、14 インバータ、16 モータ、18 運転操作部、20 温度センサ、22 冷却システム、24 循環路、26 オイルポンプ、28 制御装置、30 制御部、32 温度推定部、34 記憶部。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載されてコイルに冷媒が供給されるモータのステータに設けられた温度センサと、
前記コイルに前記冷媒が供給され始めてから所定時間が経過するまでの第1の期間においては、予め設定された値に基づいて前記コイルの温度を推定し、前記第1の期間以外の第2の期間においては、前記温度センサによって検出された温度に基づいて前記コイルの温度を推定する温度推定手段と、
を有することを特徴とする車両用モータ温度検出装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用モータ温度検出装置であって、
前記温度推定手段は、前記コイルに前記冷媒が供給された始めた時点において前記温度センサによって検出された温度を前記予め設定された値として、前記第1の期間における前記コイルの温度を推定する、
ことを特徴とする車両用モータ温度検出装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の車両用モータ温度検出装置であって、
前記温度推定手段は、前記コイルに前記冷媒が供給され始めた時点から、前記温度センサによって検出された温度が前記予め設定された値と等しくなる時点までを前記第1の期間とし、前記第1の期間及び前記第2の期間における前記コイルの温度を推定する、
ことを特徴とする車両用モータ温度検出装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の車両用モータ温度検出装置であって、
前記冷媒は断続的に前記コイルに供給される、
ことを特徴とする車両用モータ温度検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−50354(P2013−50354A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−187748(P2011−187748)
【出願日】平成23年8月30日(2011.8.30)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】