説明

車両用レーダ装置

【課題】受信波形と基準信号との差分に基づいて測距を行う際に、車両走行状態で周囲環境が変化しても安定的に基準信号を取得する。
【解決手段】基準信号取得部24でターゲットが存在しない状態の受信検波波形を「基準信号」として取得し、処理波形算出部25で受信検波波形から基準信号を差分して実際のターゲットからの受信波形を取り出し、距離測定演算部26で距離演算を行う。基準信号の取得は、基準信号となる受信波がターゲットの反応を含んだものより信号レベルが低くなることに着目して行い、複数回のフレームデータ(受信検波波形)から、サンプリング時間毎に最低値又は最低値に順ずる値を抽出し、抽出した値をつなげて作成したフレームデータを基準信号として取得することで、閾値を用いることなく走行状態で基準信号を安定的に取得して更新する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両外部へ送信したレーダ波が物体で反射した反射波を受信し、受信した受信波を処理して測距を行う車両用レーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車等の車両においては、レーダ装置を搭載して自車両の周囲に存在する物体を検出し、走行安全性の向上を図る技術が開発されている。この車両用レーダ装置としては、比較的近距離を測距レンジとする場合、パルスレーダ装置を用いることが多い。パルスレーダは、送信したパルスが測距対象となるターゲットで反射されて受信されるまでの往復伝播時間に基づいて距離を算出するレーダであり、例えば、特許文献1には、パルスを広帯域で外部へ送信し、広帯域で受信した受信波形を広帯域のサンプリングパルスでサンプリングするパルスレーダ装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表平10−511182号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両にレーダ装置を搭載する場合、外観デザインや機器保護の関係上、アンテナを車両のバンパ等の外装内に設置することが多い。このような場合、バンパ等からの弱い反射波がターゲットからの反射波に重なり、測距精度の低下を招く虞がある。
【0005】
このため、予めターゲットが無い状態での受信波形を基準信号として取得して保有しておき、受信波形と基準信号との差分を取ることで、正確な測距を行う技術が知られている。しかしながら、車両に搭載されるレーダ装置では、走行状態で計測範囲内に物体が頻繁に出現することが予想され、物体があるときの信号波形を基準信号の取得の際に取り込む虞がある。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、受信波形と基準信号との差分に基づいて測距を行う際に、車両走行状態で周囲環境が変化しても安定的に基準信号を取得することのできる車両用レーダ装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明による車両用レーダ装置は、車両外部へ送信したレーダ波が物体で反射した反射波を受信し、受信した受信波を処理して上記物体に対する測距を行う車両用レーダ装置であって、上記受信波を検波処理して振幅情報を取り出す振幅検波部と、車両走行時に取得した上記受信波の振幅情報からサンプリング時間毎に最低値又は最低値に準ずる値を抽出し、抽出した値をつなげて作成したフレームデータを基準信号として取得する基準信号取得部と、上記受信波の振幅情報による波形から上記基準信号を差分して測距用の処理波形を算出する処理波形算出部とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、受信波形と基準信号との差分に基づいて測距を行う際に、車両走行状態で周囲環境が変化しても安定的に基準信号を取得することができ、測距精度の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】車両用レーダ装置の構成図
【図2】送信パルス波形及びエンベロープ波形を示す説明図
【図3】検波波形を示す説明図
【図4】送信波と受信波との関係を示す説明図
【図5】レーダ装置の車両への搭載例を示す説明図
【図6】ターゲット−アンテナ間に物体が存在する測距モデルを示す説明図
【図7】図6の測距モデルにおける送信波と受信波との関係を示す説明図
【図8】受信検波波形と基準信号と処理波形を示す説明図
【図9】車両走行時の信号取得点を示す説明図
【図10】波形データの平均化処理後の基準信号を示す説明図
【図11】波形データの最低値処理後の基準信号を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
図1において、符号1は、自動車等の車両に搭載されて車両周囲に存在する検出対象(ターゲット)50までの距離を測定する車両用レーダ装置(以下、単に「レーダ装置」と記載)である。このレーダ装置1は、本実施の形態においては、外界に放射したパルス状の送信波が測距対象となるターゲットで反射されて受信されるまでの時間差に基づいて距離を算出するパルスレーダ装置であり、図1においては、送信アンテナ2と受信アンテナ3とが分離している送信・受信アンテナ分離型の装置を示している。
【0011】
これらの送信アンテナ2及び受信アンテナ3は、本体ユニット4に接続されている。本体ユニット4は、送信アンテナ2を介してパルス状の送信波(レーダ波)を外界に放射するための送信部10と、外部のターゲット50で反射された応答波を受信アンテナ3を介して受信し、測距処理を行う受信部20とを備えて構成されている。
【0012】
詳細には、送信部10は、所定の基準クロックに基づくパルス信号を発生するパルス発生回路11、パルス発生回路11で発生したパルス信号を所定の周波数帯域に制限するバンドパスフィルタ(BPF)12、帯域制限されたパルス信号を増幅して送信アンテナ2を駆動し、送信アンテナ2から所定の電力レベルの送信波を放射させるアンプ13を備えて構成されている。
【0013】
一方、受信部20は、受信アンテナ3で受信した応答波を所定のレベルに増幅するアンプ21、アンプ21で増幅した信号から波形データを取得する受信回路22、受信回路22からの波形データを検波処理して搬送波を除いた振幅情報を取り出す振幅検波部23、検波処理したエンベロープ波形から後述する基準信号を取得する基準信号取得部24、エンベロープ波形から基準信号を差分して測距処理用の処理波形を取得する処理波形算出部25、送信波と処理波形との時間差情報に基づいてターゲット50までの距離を演算し、距離データを出力する距離測定演算部26、距離測定演算部26で処理した情報を記憶・蓄積する記録部27を備えて構成されている。
【0014】
以上の構成を有するレーダ装置1は、パルス発生回路11で発生したパルス信号を中心周波数fのBPF12によって帯域制限し、図2(a)に示すように、搬送波fの送信波を送信アンテナ2から出力する。この送信波は、図2(b)に示すように、エンベロープ(包絡線)を有しており、ターゲット50に当たって反射波として受信アンテナ3で受信される。
【0015】
受信アンテナ3で受信された反射波からは、包絡線検波により、図3に示すような搬送波を除いた振幅情報を有する受信検波波形(エンベロープ波形)が取り出され、このエンベロープ波形に基づいて受信波の受信アンテナ3からの受信開始時間Trが求められる。この受信開始時間Trに基づいて、図4に示すように、送信アンテナ2からの送信波の出力開始時間Toとの時間差ΔTが求められ、以下の(1)式に従って、ターゲット50までの距離Rが演算される。
R=c×ΔT/2 …(1)
但し、c:光速(3.0×108m/sec)
【0016】
ここで、本レーダ装置1は車両に搭載され、外観デザインやアンテナ保護の関係上、送信アンテナ2及び受信アンテナ3を車両のバンパ内に設置している。図5は、本レーダ装置1の車両100への搭載例を示し、車両100後部のバンパ101の側部内に送信アンテナ2及び受信アンテナ3を配置し、後部側方のガードレール150との間の自転車や2輪車(或いは歩行者)等を監視し、巻き込み事故等を未然に回避する。
【0017】
図5の例では、送信アンテナ2から送信された送信波が車両100後方側部に存在する歩行者、自転車、2輪車等のターゲットで跳ね返り、その反射波が受信アンテナ3に受信波として受信される。本体ユニット4は受信波を信号処理して車両後方側部に存在する障害物の検出及び距離演算を行い、警報装置5を介して運転者に障害物への接近情報等を伝達する。
【0018】
このとき、送信アンテナ2及び受信アンテナ3がバンパ101内に設置されることから、バンパ101からの弱い反射波が受信波形に影響を与える。すなわち、車両に搭載したレーダ装置1による測距システムは、図6に示すように、送信アンテナ2及び受信アンテナ3とターゲット50との間に、バンパ101を構成する薄い樹脂板等のような非導電性の、電波を僅かに反射する物体(以下、「弱反射体」と記載する)101’が定常的に存在するモデルとして表現される。
【0019】
図6の測距モデルでは、送信アンテナ2から放射された送信波は、一部が弱反射体101’で反射され、その反射時間位置にエコーの山が生じる。その結果、図7に示すように、弱反射体101’からの反射波とターゲット50からの反射波とが合成された合成波が受信アンテナ3で受信される。
【0020】
本レーダ装置1のように、車両周囲の物体を検出する場合の測距レンジが数m程度のレーダ装置では、弱反射体101’と検出すべきターゲット50とが近い位置となり、ターゲット50の反射波と弱反射体101’の反射波とが重なって受信される。そのため、合成波の受信開始時間Tr’がターゲットからの反射波の受信開始時間Trとして誤検出されてしまい、送信波の出力開始時間Toと合成波の受信開始時間Tr’との時間差ΔT’を用いた距離演算が実行され、測距結果に誤差を生じる。
【0021】
このため、本レーダ装置1では、図8に示すように、基準信号取得部24でターゲットが存在しない状態の受信検波波形を「基準信号」として取得し、処理波形算出部25で受信検波波形から基準信号を差分して実際のターゲットからの受信波形を取り出す。そして、距離測定演算部26で処理波形を用いて受信開始時間Trを求めることにより、弱反射体101’(バンパ101)の影響による誤差を排除した正確な測距が可能となる。
【0022】
基準信号は、雨天時にバンパに水滴が付着して反射率が変化するといったように、周囲環境の影響を受けて変化するため、適宜、更新する必要がある。基準信号の更新に際しては、本レーダ装置1のように至近距離を計測レンジとする場合、図6に示すように、日常の走行状態で計測範囲内にガードレール150等の物体が頻繁に出現することが予想され、物体があるときの信号波形を基準信号の取得の際に取り込む可能性がある。この場合、複数の取得波形を平均化処理する等しても、基準信号にその影響が及ぶことは避けられない。
【0023】
その対策として、設定した閾値を越えている場合は、物体有りとして基準信号の更新を停止することが考えられる。しかしながら、実際には、レーダ装置を構成する高周波回路の温度や経年変化によるドリフトの影響、雨天でバンパに雨滴が付着していること等の影響により、基準信号のレベルの上下動が常に起こる。従って、一義的に閾値を設定するのみでは、基準信号のレベルが上昇した場合、物体が存在しないにも拘わらず基準信号の更新が滞り、逆に、基準信号のレベルが低下した場合には、物体が存在する状態で基準信号を更新してしまうといった問題が発生する。
【0024】
このため、基準信号取得部24では、基準信号となる受信波がターゲットの反応を含んだものより信号レベルが低くなることに着目し、閾値を用いることなく走行状態で基準信号を安定的に取得して更新する。具体的には、複数回のフレームデータ(受信検波波形)から、伝播時間毎に最低値(又は最低値に順ずる値)を抽出し、抽出した値をつなげて作成したフレームデータを基準信号として取得する。
【0025】
以下、基準信号取得部24における基準信号の取得・更新処理について、平均化処理で基準信号を取得する例と対比させながら説明する。
【0026】
尚、ここでは、図9に示すように、車両走行時に外部の物体200が計測範囲内に存在する状況下で、▽の記号で示す間隔TmのM点の信号取得点Pi(i=1,2,3,4,5,6,…,M)において、それぞれフレームデータ(波形)を取得するものとする。また、図9においては、信号取得点Piと物体200との間隔は、計測時の相対位置関係を示しており、信号取得点P2,P3,P4で測定レンジ内に物体200が存在する状態を示している。
【0027】
例えば、基準信号を平均化処理によって取得する場合、M点のフレームデータをサンプリング時間毎に平均化処理し、その平均値を再びフレームデータにする。そして、この平均化処理を経て作成したフレームデータを、基準信号として取得する。しかしながら、平均化処理による基準信号の取得では、走行時の周囲の状況で基準信号波形が容易に変化してしまう。
【0028】
すなわち、図10に示すように、平均化処理による基準信号の取得処理では、信号取得点P1,P2,P3,P4,…のそれぞれで、送信アンテナ2及び受信アンテナ3の前部に配置される弱反射体101’(本実施の形態においては、車両のバンパ101)による波形(図中に太線で示す波形)、外部の物体200による波形(図中に細線で示す波形)を取得する。これらを平均化処理した場合、P2,P3,P4で計測された物体200による波形の凹凸が少なからず残ってしまい、基準信号波形に含まれることになる。このことは、走行時の周囲の状況で基準信号波形が容易に変化することを示している。
【0029】
一方、本レーダ装置1の基準信号取得部24による基準信号の取得処理では、弱反射体101’(バンパ101)のみの影響による波形の信号レベルが外部の物体200の影響を含んだ波形よりも低くなることに着目し、M点のフレームデータをサンプリング時間毎に統計処理して最低値又は最低値に準ずる値を抽出する処理(最低値処理)を行い、抽出した値をフレームデータとしてつなげた波形を基準信号波形として取得する。ここで、弱反射体や外部の物体がない場合には取得値はゼロであり、外部の物体がある場合には、その物体までの距離や、物体の大きさ、物体の材質により取得値が変化し、一般に、その物体までの距離が近いほど、取得値は大きくなる。最低値に準ずる値とは、これらの取得値を昇順に並べたとき、最低値に近い順位(例えば1/4以下の順位)から最低値までの値とする。
【0030】
すなわち、図11に示すように、信号取得点P1,P2,P3,P4,…のそれぞれで、弱反射体101’(バンパ101)による波形(図中に太線で示す波形)、外部の物体200による波形(図中に細線で示す波形)を取得し、それらを統計処理して、サンプリング時間毎に最低値又は最低値に準ずる値を抽出する(最低値処理)。このとき、弱反射体101’(バンパ101)による波形は、信号取得点Piによらず常に観測されることから、サンプリング時間毎に最低値又は最低値に準ずる値を抽出し、抽出したデータをつなげると、元の波形がほぼ復元される。
【0031】
一方、物体200による波形は、常に観測されるわけではなく、計測範囲外の信号取得点(例えば、図9のP1,P5,P6)では観測されないため、最終的に物体200の波形は消去される。その結果、サンプリング時間毎の最小値又は最小値に準ずる値をつなげて作成したフレームデータから、物体200の波形による凹凸を除去しつつ、環境の変化や回路部品の経年変化等による信号レベルの変化を反映した基準信号を取得することができ、取得した基準信号で現在の基準信号を安定的に更新することができる。
【0032】
尚、取得した基準信号は、過去N回分のデータを保持し、その中の最小値、最小値に準ずる値、平均値、最頻値の何れかを統計処理により算出し、それをフレームデータとしてつなげることで、基準信号として利用することができる。
【0033】
この場合、車速信号、ワイパー信号、ヒータ信号、外気温検出信号等を用いて、基準信号の取得・更新処理を行なうようにしても良く、車両の走行状況に合わせた基準信号を得ることができる。例えば、車速が設定車速を下回った場合、基準信号の更新を停止するようにしても良く、また、車速信号により、統計処理するフレームデータ数(M点の数)、過去の基準信号情報を保持する回数(N回分)の何れか又は両方を変更するようにしても良い。更に、統計処理するデータ数を変えることなく、車速信号によりフレームデータの間隔Tmを変更しても良く、使用メモリ及び信号処理量を低減することができる。
【0034】
このように本実施の形態においては、車両走行状態で基準信号を取得する際、物体の波形による影響を除去しつつ、環境の変化や回路部品の経年変化等による信号レベルの変化を反映した基準信号を安定的に取得することが可能となり、距離検出精度を向上することができる。しかも、基準信号を取得する際、受信波を検波して搬送波を除いた振幅情報のみを取り出した受信検波波形を用いるため、信号処理負荷を軽減することができる。
【符号の説明】
【0035】
1 レーダ装置
23 振幅検波部
24 基準信号取得部
25 処理波形算出部
100 車両

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両外部へ送信したレーダ波が物体で反射した反射波を受信し、受信した受信波を処理して上記物体に対する測距を行う車両用レーダ装置であって、
上記受信波を検波処理して振幅情報を取り出す振幅検波部と、
車両走行時に取得した上記受信波の振幅情報からサンプリング時間毎に最低値又は最低値に準ずる値を抽出し、抽出した値をつなげて作成したフレームデータを基準信号として取得する基準信号取得部と、
上記受信波の振幅情報による波形から上記基準信号を差分して測距用の処理波形を算出する処理波形算出部と
を備えることを特徴とする車両用レーダ装置。
【請求項2】
上記受信波の振幅情報を、包絡線検波によって取り出すことを特徴とする請求項1記載の車両用レーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−242170(P2011−242170A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−112492(P2010−112492)
【出願日】平成22年5月14日(2010.5.14)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】