説明

車両用交流発電機、および車両用交流発電機の整流装置

【課題】信頼性の高い車両用交流発電機およびその整流装置の提供。
【解決手段】車両用交流発電機の交流電力を直流電力に整流する整流装置であって、複数のMOSFET8,9を整流素子として備えた全波整流器2と、ゲート駆動信号線14,15を介して複数のMOSFET8,9のゲートに駆動信号を印加し、該複数のMOSFET8,9の導通および遮断を指令するMOSFET制御装置4と、各MOSFET8,9のゲート−ソース間に接続され、ゲート駆動信号線断線時のゲート容量の電荷を逃がすための負荷回路10,11と、を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MOSFETを整流素子に用いた車両用交流発電機、および車両用交流発電機の整流装置に関する。
【背景技術】
【0002】
発電電動装置においては、交流発電機の電機子巻線によって発生する交流電力を全波整流装置により整流している。このような全波整流装置としては、従来、ダイオードを用いたものが知られている。近年、全波整流装置における損失を低減するために、ダイオードに代えてMOSFETを用いた全波整流装置が提案されている。(例えば、特許文献1参照)
【0003】
ところで、MOSFETを用いた全波整流装置では、MOSFETで構成された全波整流回路における発熱量が大きいため、マイコン等の耐熱温度の低い電子部品を含むMOSFET制御回路を全波整流回路とは別の筐体に設け、全波整流回路とMOSFET制御回路とを熱的に分離する必要がある。別筐体に分離されたMOSFET制御回路から全波整流回路へとゲート駆動信号を送信するために、MOSFET制御回路を収めた筐体と全波整流回路を収めた筐体との間にゲート駆動信号線が接続される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−7964号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、MOSFET制御回路および全波整流回路は、車両用交流発電機をエンジンに固定するための筐体に直接取付けられる。そのため、MOSFET制御回路および全波整流回路には、エンジンの振動と車両用交流発電機自身の振動の両方が加わり、その振動の影響によってゲート駆動信号線が断線するおそれがある。ゲート駆動信号線が断線すると、MOSFETのゲート電位が不安定な状態(フローティング)となり、MOSFETがオン状態のままとなる場合がある。そのように、直列接続されたMOSFETの一方がオン状態のままとなると、他方のMOSFETがオンされた時に、直列接続されたMOSFETがショート状態になってしまうという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の発明は、車両用交流発電機の交流電力を直流電力に整流する整流装置であって、複数のMOSFETを整流素子として備えた整流器と、ゲート駆動信号線を介して複数のMOSFETのゲートに駆動信号を印加し、該複数のMOSFETの導通および遮断を指令する制御回路と、各MOSFETのゲート−ソース間に接続され、ゲート駆動信号線断線時のゲート容量の電荷を逃がすための負荷回路と、を備えたことを特徴とする。
請求項2の発明は、請求項1に記載の車両用交流発電機の整流装置において、負荷回路を抵抗で構成し、抵抗の抵抗値とMOSFETのゲート容量との積で定義される時定数が、車両用交流発電機が要求最大回転数で回転時の相電圧周期の1/2周期よりも小さく、かつ、駆動信号印加時の前記抵抗の損失が所定最大許容損失よりも小さくなるように、抵抗の抵抗値が設定されていることを特徴とする。
請求項3の発明は、請求項2に記載の車両用交流発電機の整流装置において、ダイオードを整流素子とした場合の整流損とMOSFETを整流素子とした場合の整流損との差分を、所定最大許容損失としたことを特徴とする。
請求項4の発明は、請求項2に記載の車両用交流発電機の整流装置において、抵抗の抵抗値Rは、500Ω<R<50kΩを満たすように設定されていることを特徴とする。
請求項5の発明に係る車両用交流発電機は、請求項1に記載の整流装置と、電気子巻線が施された固定子と、界磁巻線が施された回転子と、固定子および回転子が保持される車両固定用のブラケットと、ブラケットに固定され、整流器およびゲート駆動信号入力用端子が設けられた第1の筐体と、ブラケットに固定され、制御回路およびゲート駆動信号出力用端子が設けられた第2の筐体と、を備え、ゲート駆動信号入力用端子とゲート駆動信号出力用端子とが、ゲート駆動信号線により接続されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、車両用交流発電機、および車両用交流発電機の整流装置の信頼性向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】車両用交流発電機が搭載された車両駆動システムの概略構成を示す図である。
【図2】車両用交流発電機1の全体構成を示す断面図である。
【図3】車両用交流発電機の充電系統を示す回路図である。
【図4】制御装置アセンブリ31をカバー26側から見た図である。
【図5】全波整流装置2の一部をカバー26側から見た図である。
【図6】ゲート駆動信号線14,15の接続形態を示す図である。
【図7】MOSFETを2つ並列接続した場合の、車両用交流発電機の充電系統を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図を参照して本発明を実施するための形態について説明する。図1は、本実施の形態の車両用交流発電機が搭載された車両駆動システムの概略構成を示す図である。車両駆動システムは、内燃機関であるエンジン101を動力源とするものである。エンジン101の回転駆動力は変速機104、デファイレンシャルギア105、前輪車軸107aを介して前輪106aに伝達される。図1において、106bは後輪を示し、107bは後輪車軸を示す。
【0010】
車両用交流発電機1(以下では、交流発電機1と記載する)はエンジン101に取り付けられており、エンジンプーリー101aと交流発電機1のプーリー25とがベルト102にて機械的に連結されている。これによって、エンジン101の回転駆動力が交流発電機1に伝達される。また、交流発電機1は、エンジン101に回転駆動力を与える電動機としての機能も有しており、その場合には、交流発電機1の回転駆動力がエンジン101に伝達される。
【0011】
110は整流装置であり、図示していないが、後述するように全波整流器2、界磁制御装置3、MOSFET制御装置4が設けられている(図3参照)。なお、図1では交流発電機1と整流装置110とを分離して示したが、後述するように、交流発電機1と整流装置110は一体に設けられている。
【0012】
図2は、交流発電機1の全体構成を示す断面図である。なお、図2の説明においては、図の左右方向に対応する方向を「軸方向」、図の左に対応する位置関係を「前」、図の右に対応する位置関係を「後」として説明する。交流発電機1は、センターブラケット20と、フロントブラケット24と、リヤプレート36と、センターブラケット20内に設けられている固定子18および回転子19と、リヤプレート36に設けられている全波整流器2および制御装置アセンブリ31とを備えている。
【0013】
界磁巻線13が巻装された回転子19は、シャフト23に固定されている。そのシャフト23は、フロントブラケット24とセンターブラケット20とに各々設置されたベアリング21,22により、回転自在に支持されている。回転子19の後端には、界磁巻線13を冷却するためのファン29が設けられている。回転子19と一体にファン29が回転すると、冷却風が発生して界磁巻線13が冷却される。
【0014】
交流発電機1の後端には、外周部に開口部が形成されたカバー26が取り付けられており、ファン29が回転すると、カバー26の開口部から冷却風が流入する。冷却風は、さらに、センターブラケット20の後側の軸中心部に設けられている開口部よりセンターブラケット内部に流入する。流入した冷却風は、界磁巻線13を冷却した後に、フロントブラケット24に設けられた開口部より外部に流出する。
【0015】
シャフト23の前端はフロントブラケット24を貫通して外部に突出しており、その端部にはプーリー25がナットにより固定されている。プーリー25は、図1に示すように、エンジン104の出力軸とベルト102で機械的に連結され、エンジン101からの回転駆動力を交流発電機1に伝達し、また、交流発電機1で発生した回転駆動力をエンジン101に伝達する。
【0016】
一方、シャフト23の後端は、センターブラケット20を貫通して後方のカバー26側に突出している。シャフト23の後端には、導電性の環状部材からなるスリップリング17が設けられている。シャフト23とともに回転するスリップリング17には、ブラシ28が摺動接触している。ブラシ28は回転子19の界磁巻線13と電気的に接続されており、界磁制御装置3からの電力を界磁巻線13に供給する働きをしている。
【0017】
電機子巻線12が巻装された固定子18は、円筒形状を成すセンターブラケット20内周側に圧入等により固定されている。センターブラケット20の前側端面には、フロントブラケット24がボルトにより固定されている。
【0018】
センターブラケット20の円筒壁面内部には、エンジンの冷却水が流れる水路37が形成されている。センターブラケット20の後側には、冷却水の水路37を塞ぐようにリヤプレート36がボルト固定されている。センターブラケット20とリヤプレート36との間にはゴムパッキンが設けられ、水路の気密性が保たれている。水路37の冷却水によってセンターブラケット20およびリヤプレート36が冷却されることにより、センターブラケット20の内周面に固定された固定子18の電機子巻線12や、リヤプレート36に接するように設けられた全波整流器2、制御装置アセンブリ31が冷却される。
【0019】
図3は、交流発電機1の充電系統を示す回路図である。全波整流器2は、6つのパワーMOSFET8,9から成る整流ブリッジ回路であって、ハイサイド側MOSFET8とローサイド側MOSFET9との直列回路を3組並列接続したものである。各直列接続されたMOSFET8,9の各接続点に、電機子巻線12の各相に対応して設けられた出力端子が各々接続されている。各ハイサイド側MOSFET8のドレイン端子はバッテリ6の正極に接続され、各ローサイド側MOSFET9のソース端子はバッテリ6の負極に接続される。また、電機子巻線12の各出力端子はMOSFET制御装置4の入力端子に接続されており、MOSFET制御装置4は、各出力端子の電圧(相電圧)を検出する。本実施の形態では、MOSFET8,9のゲート−ソース間に負荷回路10,11を設けた点が従来の装置と異なる。負荷回路10,11については、後述する。
【0020】
なお、図3に示す全波整流器2の構成では、各相のハイサイド側およびローサイド側にMOSFETを一素子ずつ実装したが、図7に示すように複数の素子(図7では2つの素子)を並列に実装しても良い。その場合には、並列実装された複数の素子に対して一つの負荷回路11を設けるようにすれば良い。もちろん、素子毎に負荷回路11を設けても構わない。
【0021】
各MOSFET8,9のオンオフは、制御装置アセンブリ31に設けられたMOSFET制御装置4によって制御される。14,15はゲート駆動信号線であり、全波整流装置2に設けられた整流器側信号端子40と、制御装置アセンブリ31に設けられた制御側信号端子30とを接続している。MOSFET制御装置4は、電機子巻線12に発生する相電圧に基づいてMOSFET8,9にゲート駆動信号を供給し、MOSFET8,9をオンオフする。電機子巻線12より出力される交流電力は直流電力に全波整流され、バッテリ6や負荷装置7に供給される。負荷装置7は、車両に搭載されているランプやエアコン等の車載補機である。
【0022】
界磁制御装置3は、車両側の指令制御装置5から送られてくる負荷装置7に関する要求電力指令に応じて、界磁巻線13に供給される界磁電力を制御する。これによって、電機子巻線12から出力される交流電力量が調整される。
【0023】
全波整流器2は、MOSFET8,9の発熱により比較的温度が高くなる。そのため、制御装置アセンブリ31は、発熱の影響を避けるために、全波整流器2とは別筐体とされる。そのため、全波整流器2の整流器側信号端子40と制御装置アセンブリ31の制御側信号端子30とを、ゲート駆動信号線14,15により接続する構造がとられている。
【0024】
図4〜図6は、全波整流器2および制御装置アセンブリ31の配置状況を示す図である。図2に示したように、全波整流器2および制御装置アセンブリ31は、センターブラケット20の後ろ側に固定されたリヤプレート36に固定されている。リヤプレート36は水路37内を流れる冷却水によって冷却されており、全波整流器2および制御装置アセンブリ31で発生した熱は、リヤプレート36を介して冷却水へと放熱される。
【0025】
図4は、制御装置アセンブリ31をカバー26側から見た図である。図5は、全波整流器2の一部をカバー26側から見た図であり、1相分のモジュール構造を示したものである。図6は、リヤプレート36上に固定された全波整流器2および制御装置アセンブリ31間における、ゲート駆動信号線14,15の接続形態を示す図である。
【0026】
図4において、16はブラシ28が配置されるブラシホルダであり、界磁制御装置3とMOSFET制御装置4は、ブラシホルダ16と同一筐体内に配置されている。その筐体の外表面には、界磁制御装置3およびMOSFET制御装置4の制御側信号端子30が設けられている。
【0027】
図5に示すように(図2も参照)、全波整流器2は、リヤプレート36上にボルト固定されたアルミプレート35と、アルミプレート35に接着剤によって固定された金属基板17とを備えている。アルミプレート35上には、金属基板17を囲む様に樹脂で構成されたモールドケース38が設けられている。金属基板17上には、Cu(銅)配線パターンが絶縁層を介して配置されている。ハイサイド側MOSFET8およびローサイド側MOSFET9は、そのCu配線パターン上にはんだにより実装されている。なお、図5では、図7に示すようにMOSFET8,9がそれぞれ2つ並列接続される場合を例に、それらの配置を示した。
【0028】
モールドケース38内には、バッテリ6との接続端子であるB端子33が圧入固定されているB端子バスバー34と、口出し線端子32とがモールドされている。口出し線端子32には、電機子巻線12からの相電圧が出力される口出し線が接続される。
【0029】
ハイサイド側MOSFET8のドレイン端子は、金属基板17上のCuパターン上にはんだ付けされている。そのCuパターンは、アルミワイヤボンディングにより、B端子バスバー34と電気的に接続されている。また、ローサイド側MOSFET9のソース端子は、金属基板17上の別のCuパターン上にはんだ付けされている。そのCuパターンは、アルミワイヤボンディングにより、アルミプレート35と電気的に接続されている。
【0030】
金属基板17上には、ハイサイド側MOSFET8のゲート−ソース間に設けられる負荷回路10を構成する抵抗と、ローサイド側MOSFET9のゲート−ソース間に設けられる負荷回路11とを構成する抵抗とが、それぞれ配置されている。アルミプレート35は、リヤプレート36、センターブラケット20、エンジン101を介してアースが取られている。
【0031】
また、直列接続されたハイサイド側MOSFET8のソース端子とローサイド側MOSFET9のドレイン端子とは、口出し線端子32によって、電機子巻線12から相電圧が出力される口出し線と接続されている。モールドケース38内には、金属基板17、MOSFET8,9、アルミワイヤボンディング等を全て覆う様にモールド樹脂39が充填されている。
【0032】
図6は、リヤプレート36上に固定された全波整流器2および制御装置アセンブリ31の断面図である。制御装置アセンブリ31の外表面には、制御側信号端子30が露出するように設けられている。同様に、全波整流器2の上面には、MOSFET8,9のゲート端子と電気的に接続された整流器側信号端子40は、露出するように設けられている。制御側信号端子30と整流器側信号端子40とは、FPC(フレキシブルプリント基板)により構成されたゲート駆動信号線14,15により接続されている。
【0033】
なお、ゲート駆動信号線14,15として、Cu(銅)やAl(アルミニウム)で構成されたバスバーを使用しても良い。また、ゲート駆動信号線14,15と整流器側信号端子40および制御側信号端子30との接続方法は、コネクタ接続や、ワイヤボンディング接続や、ねじ止め接続や、溶接等を用いることができる。
【0034】
次に、充電時のMOSFETの動作ついて簡単に説明する。界磁巻線13に界磁電流が供給された状態で回転子19が回転すると、電機子巻線12に誘導起電力が発生し、電機子巻線12の各端子間に三相の誘導電圧が発生する。MOSFET制御装置4は、例えば、UV相間の電圧が高くなり、その電圧がバッテリ6の電圧よりも高くなる状態においては、高電圧側のU相出力端子が接続されている直列回路のハイサイド側MOSFET8のゲート端子にゲート電圧を供給し、ソース端子からドレイン端子方向に電流が流れるように制御する。また、MOSFET制御装置4は、低電圧側のV相出力端子が接続されている直列回路のローサイド側MOSFET9のゲート端子にゲート電圧を供給し、ソース端子からドレイン端子方向に電流が流れるように制御する。その結果、バッテリ6が充電される。
【0035】
逆に、V相出力端子が高電圧、U相出力端子が低電圧となって、VU相間の電圧がバッテリ6の電圧よりも高くなる状態においては、V相出力端子が接続されている直列回路のハイサイド側MOSFET8と、U相出力端子が接続されている直列回路のローサイド側MOSFET9とをオンすることにより、バッテリ6が充電される。VW相間、WU相間においても同様の動作が実行されて、三相全波整流動作が行われる。
【0036】
このように、整流動作中はハイサイド側MOSFET8およびローサイド側MOSFET9のいずれか一方のみがオン動作される。ところで、MOSFET制御装置4と全波整流器2のゲート端子とを接続しているゲート駆動信号線14,15は、振動等により接触不良となったり、断線したりするおそれがある。
【0037】
例えば、ハイサイド側MOSFET8のゲート駆動信号線14が断線した場合、MOSFET8のゲート電圧が不安定な状態(フローティング)となる。MOSFETはゲート容量を持っているため、ゲート電圧が印加されたオン状態のときにゲート駆動信号線14が断線すると、ゲート容量に電荷が蓄えられたままオン状態が継続するおそれがある。そのような状態において、ローサイド側MOSFET9がオンされると、バッテリ6からの短絡電流によりMOSFETが故障するおそれがあった。
【0038】
そのため、本実施の形態では、上述したように負荷回路10,11をゲート−ソース間に設けることにより、断線時にゲート容量に貯まったままの電荷を、負荷回路10,11を介して逃がすようにした。その結果、ゲートの電位がソースの電位と同電位となるため、ゲート電圧のフローティングに起因するMOSFETのオン状態を防止することができ、確実にMOSFETをオフして、寄生ダイオードによる整流に切り替えることが可能となる。
【0039】
なお、負荷回路10,11を抵抗で構成する場合には、その抵抗値Rは以下のように設定するのが好ましい。抵抗値Rを設定する際の考え方としては、(1)抵抗値Rの大きさはゲート信号オンオフ時の時定数τ=R×Cgに影響するので、MOSFET制御装置4からのオンオフ指令に対して、MOSFET8,9のオンオフが追従できるような時定数となるように、抵抗値Rの上限値を設定する。かつ、(2)ゲート電圧を印加すると負荷回路(抵抗)10,11に電流が流れるので、そのときの損失ができるだけ小さくなるように抵抗値Rの下限値を設定する。
【0040】
時定数τに関しては、相電圧の正負に応じてMOSFET8,9をオンオフするので、少なくとも相電圧の周期の1/2以下にする必要がある。また、車両用交流発電機1は、一般的に最大20000rpmの回転に耐えられることが要求されるので、ここでは、時定数τが20000rpm(要求最大回転数)時の相電圧の1/2周期よりも小さくなるように、抵抗値Rを設定する。
【0041】
一方、損失の許容最大値に関しては、少なくとも、整流素子をダイオードからMOSFETに変更したことによる損失低下分よりも小さくする必要がある。整流素子に流れる電流をIとし、ダイオードおよびMOSFETの電圧降下をそれぞれΔVd、ΔVmとすると、整流素子をMOSFETに置き換えたことによる整流素子1個分の損失低下分ΔWは、「ΔW=I×(ΔVd−ΔVm)」となる。この損失低下分ΔWを最大許容損失とみなし、「RI<ΔW」のように抵抗値Rを設定する必要がある。MOSFETのゲート電圧をVgとすれば、負荷回路10,11の抵抗値Rは「R>Vg/ΔW」を満たすように設定される。
【0042】
また、IC等における漏れ電流を目安として、抵抗を流れる電流が目安の漏れ電流よりも小さくなるように抵抗値Rを設定しても良い。この場合のゲート電圧Vgとしては、例えば、車両用交流発電機に使用される種々のMOSFETの内で、最もゲート電圧の小さなものを基準として抵抗値Rを設定することで、損失の許容最大値を設定する。
【0043】
例えば、回転数20000rpm時の相電圧周波数が2000Hzである2極の交流発電機について考えてみる。この場合、1/2周期は0.25msとなるので、時定数τは「τ<0.25ms」のように設定する。車両用交流発電機の整流装置に用いられ、180A程度の電流が流れる大電流用のMOSFETの場合、ゲート容量Ggは5000pF〜20000pF程度となっている。ここでは時定数τ=R×Cgにおける抵抗値Rの上限値を考えているので、ゲート容量Cgとして5000pFを用いる。この場合、抵抗値Rは「R<0.25ms/5000pF」のように設定され、上限値RmaxはRmax=50kΩとなる。
【0044】
一方、抵抗値Rの下限値Rminを、整流素子をダイオードからMOSFETに変更したときの損失低下分ΔWから求める場合について考える。車両用交流発電機の出力電流が120Aの時に、図7のようにMOSFET8,9をそれぞれ2つ並列接続した場合、1素子当たりに流れる電流実効値は約40Aである。また、MOSFET8,9としてオン抵抗が3mΩの素子を想定すると、40Aの電流が流れたときの電圧降下は0.12Vとなる。そこで、整流素子に流れる電流Iを40A、ダイオードの電圧降下ΔVdを1.0V、MOSFETの電圧降下ΔVmを0.12Vとすると、損失低下分ΔWは35.2Wとなる。この損失低下分ΔWを最大許容損失Wmaxとし、MOSFETのゲート電圧をVgとすれば、「R>Vg/Wmax=Vg/35.2」となる。すなわち、損失低下分ΔWから抵抗値Rの下限値Rminを決める場合には、上限値Rmaxに上述した50kΩを用いると、抵抗値Rは、Vg/Wmax(Ω)<R<50kΩのように設定されが、かなり小さな抵抗値まで許容できることになる。
【0045】
また、MOSFETのゲート電圧Vgとして、例えば5Vを採用し、漏れ電流の目安を10mAとした場合、負荷回路10,11を流れる電流が10mAよりも小さくなるためには、抵抗値Rは「R>500Ω」のように設定する必要がある。すなわち、抵抗値Rの下限値Rminは500Ωとなる。上限値Rmaxを上述した50kΩとした場合、抵抗値Rは500Ω<R<50kΩのように設定される。
【0046】
なお、上述した計算例では、ゲート容量Cgに5000pFを用いて上限値Rmax=50kΩを算出したが、5000pF〜20000pFの範囲内のゲート容量Cgを有するどのようなMOSFETにも対応できるように構成する場合には、Cg=20000pFとして算出した抵抗値R=25kΩを、上限値Rmaxとして採用すれば良い。
【0047】
以上説明したように、本実施形態においては、全波整流器2に整流素子として設けられたMOSFET8,9に対して、そのゲート−ソース間にゲート駆動信号線断線時のゲート容量の電荷を逃がすための負荷回路10,11を接続するようにした。そのため、ゲート駆動信号線が断線した場合においても、ゲート端子がソース端子と同電位になり、MOSFET8,9をオフすることが可能となる。その結果、ハイサイド側MOSFET8とローサイド側MOSFET9の同時オンによるショート電流破壊を防止することができる。また、MOSFET8,9をオフした場合でもMOSFET内にある寄生ダイオードにより全波整流を行うことが出来るため、車両用交流発電機の発電を継続することが可能となり、車両においても通常走行を継続することが可能となる。
【0048】
負荷回路10,11を抵抗で構成し、その抵抗値とMOSFET8,9のゲート容量との積で定義される時定数が、車両用交流発電機が要求最大回転数で回転時の相電圧周期の1/2周期よりも小さく、かつ、駆動信号印加時の抵抗の損失が所定最大許容損失よりも小さくなるように、抵抗値を設定することにより、抵抗による損失を小さく抑えつつ、MOSFET8,9のオンオフをスイッチング指令に追従させることができる。
【0049】
上述した各実施形態はそれぞれ単独に、あるいは組み合わせて用いても良い。それぞれの実施形態での効果を単独あるいは相乗して奏することができるからである。また、本発明の特徴を損なわない限り、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではない。
【符号の説明】
【0050】
1:車両用交流発電機、2:全波整流器、3:界磁制御装置、4:MOSFET制御装置、5:指令制御装置、6:バッテリ、7:負荷装置、8,9:MOSFET、10,11:負荷回路、12:電機子巻線、13:界磁巻線、14,15:ゲート駆動信号線、18:固定子、19:回転子、20:センターブラケット、23:シャフト、24:フロントブラケット、30:制御側信号端子、31:制御装置アセンブリ、36:リヤプレート、38:モールドケース、39:モールド樹脂、40:整流器側信号端子、110:整流装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用交流発電機の交流電力を直流電力に整流する整流装置であって、
複数のMOSFETを整流素子として備えた整流器と、
ゲート駆動信号線を介して前記複数のMOSFETのゲートに駆動信号を印加し、該複数のMOSFETの導通および遮断を指令する制御回路と、
前記各MOSFETのゲート−ソース間に接続され、ゲート駆動信号線断線時のゲート容量の電荷を逃がすための負荷回路と、を備えたことを特徴とする車両用交流発電機の整流装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用交流発電機の整流装置において、
前記負荷回路を抵抗で構成し、
前記抵抗の抵抗値と前記MOSFETのゲート容量との積で定義される時定数が、前記車両用交流発電機が要求最大回転数で回転時の相電圧周期の1/2周期よりも小さく、かつ、前記駆動信号印加時の前記抵抗の損失が所定最大許容損失よりも小さくなるように、前記抵抗の抵抗値が設定されていることを特徴とする車両用交流発電機の整流装置。
【請求項3】
請求項2に記載の車両用交流発電機の整流装置において、
ダイオードを整流素子とした場合の整流損とMOSFETを整流素子とした場合の整流損との差分を、前記所定最大許容損失としたことを特徴とする車両用交流発電機の整流装置。
【請求項4】
請求項2に記載の車両用交流発電機の整流装置において、
前記抵抗の抵抗値Rは、500Ω<R<50kΩを満たすように設定されていることを特徴とする車両用交流発電機の整流装置。
【請求項5】
請求項1に記載の整流装置と、
電気子巻線が施された固定子と、
界磁巻線が施された回転子と、
前記固定子および前記回転子が保持される車両固定用のブラケットと、
前記ブラケットに固定され、前記整流器およびゲート駆動信号入力用端子が設けられた第1の筐体と、
前記ブラケットに固定され、前記制御回路およびゲート駆動信号出力用端子が設けられた第2の筐体と、を備え、
前記ゲート駆動信号入力用端子と前記ゲート駆動信号出力用端子とが、前記ゲート駆動信号線により接続されていることを特徴とする車両用交流発電機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−61928(P2011−61928A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−207056(P2009−207056)
【出願日】平成21年9月8日(2009.9.8)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】