説明

車両用制動力制御装置

【課題】ブレーキ操作時、ドライバーによるペダル操作状態にかかわらず、ドライバーに与えるブレーキ操作違和感を防止すること。
【解決手段】車両用制動力制御装置は、ブレーキペダル1と、電動ブースタ2と、マスターシリンダ3と、第1目標MC圧分算出部66と、第2目標MC圧分算出部67と、S-P変化率算出部70と、F-P変化率リミット部71と、目標減速度算出部69と、を備える。S-P変化率算出部70は、ストロークベース目標MC圧分の算出に至るまでの演算処理系列にて得られるストローク相当値としてのストロークベース目標MC圧の変化率を算出する。F-P変化率リミット部71は、踏力ベース目標MC圧分の算出に至るまでの演算処理系列にて得られる踏力相当値である踏力ベース目標MC圧の変化率を、ストロークベース目標MC圧の変化率が小さいほど制限する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動車両等に適用され、ブレーキ操作時、ペダル踏力のアシスト力を電動ブースタにより得る車両用制動力制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ドライバーの入力である、マスターシリンダ圧(ドライバーのペダル踏力相当)とペダルストロークから目標減速度をそれぞれ演算し、マスターシリンダ圧及びペダルストロークの少なくともどちらか一方に応じて2つの目標減速度の寄与度合いを変更する。そして、2つの目標減速度の重み付き和を最終目標減速度とする車両用制動力制御装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、ブレーキ操作時、ペダル踏力のアシスト力を電動ブースタにより得るものであって、ペダル踏力に相当するインプットロッド入力(Fi)を、
インプットロッド入力(Fi)=マスターシリンダ圧(Pb)×インプットロッド面積(Ai)+バネ85のバネ定数(K)×ΔX
の式で与える電動倍力装置が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−301434号公報
【特許文献2】特開2007−112426号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2に記載の電動倍力装置に特許文献1に記載の目標減速度演算処理手法を適用した場合、マスターシリンダピストンを速く動かした場合や、ブレーキ作動液が低温で粘性が高い場合では、ペダルストロークに対するマスターシリンダ圧の関係が変動する。そして、ドライバーのペダルストローク操作に対してマスターシリンダ圧が高くなる結果、マスターシリンダ圧から算出した目標減速度が不必要に大きくなり(ブレーキ効きが強くなり)、ドライバーに違和感を与えてしまう、という問題がある。
【0006】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、ブレーキ操作時、ドライバーによるペダル操作状態にかかわらず、ドライバーに与えるブレーキ操作違和感を防止することができる車両用制動力制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の車両用制動力制御装置は、ブレーキペダルと、電動ブースタと、マスターシリンダと、第1制動目標値分算出手段と、第2制動目標値分算出手段と、ストローク相当値変化率算出手段と、踏力相当値制限手段と、制動目標値算出手段と、を備える手段とした。
前記ブレーキペダルは、ブレーキ操作時、ドライバーのペダル踏力を加える。
前記電動ブースタは、前記ペダル踏力を電動アクチュエータの推力によりアシストする。
前記マスターシリンダは、前記ペダル踏力をインプットロッドからバネを介してマスターシリンダピストンへ入力し、前記ペダル踏力に前記電動ブースタによるアシスト推力を加え、各輪に設けられたホイールシリンダへ導くマスターシリンダ圧を発生させる。
前記第1制動目標値分算出手段は、前記ブレーキペダルへのペダル踏力に基づき、寄与度に応じた第1制動目標値分を算出する。
前記第2制動目標値分算出手段は、前記ブレーキペダルへのペダルストロークに基づき、寄与度に応じた第2制動目標値分を算出する。
前記ストローク相当値変化率算出手段は、前記第2制動目標値分の算出に至るまでの演算処理系列にて得られるストローク相当値の変化率を算出する。
前記踏力相当値制限手段は、前記第1制動目標値分の算出に至るまでの演算処理系列にて得られる踏力相当値の変化率を、前記ストローク相当値の変化率が小さいほど制限する。
前記制動目標値算出手段は、前記踏力相当値に変化率制限を与えて算出された第1制動目標値分と、前記第2制動目標値分を加算することにより最終の制動目標値を得る。
【発明の効果】
【0008】
よって、ブレーキ操作時、踏力相当値制限手段において、第1制動目標値分の算出に至るまでの演算処理系列にて得られる踏力相当値の変化率が、ストローク相当値の変化率が小さいほど制限される。そして、制動目標値算出手段において、踏力相当値に変化率制限を与えて算出された第1制動目標値分と、第2制動目標値分を加算することにより最終の制動目標値が得られる。
すなわち、電動ブースタを用いたブレーキシステムの場合、アシスト推力のみを用いてマスターシリンダ圧を発生させることが可能である。このため、例えば、ペダルストロークを保持しているときにアシスト推力を用いて急にマスターシリンダ圧を発生させると、過渡的にマスターシリンダ圧が高めとなってペダル踏力が上昇し、このペダル踏力に基づいて算出される制動目標値が高くなる。この結果として、ペダルストロークを保持しているにもかかわらず、ブレーキの効きが上昇して制動G変動が生じ、ドライバーに違和感を与える。これに対し、ペダルストロークを保持しているときは、ストローク相当値の変化率がゼロであるため、例えば、踏力相当値の変化率もゼロに制限されるというように、制動G変動の原因である制動目標値の変化が抑えられる。また、ペダルストロークを増加側又は減少側に操作したときは、ペダル操作速度に応じて踏力相当値の変化率の制限が緩和される。
この結果、ブレーキ操作時、ドライバーによるペダル操作状態にかかわらず、ドライバーに与えるブレーキ操作違和感を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例1の車両用制動力制御装置の全体構成を示す全体システム図である。
【図2】実施例1の車両用制動力制御装置のブレーキコントローラの要部構成を示す制御ブロック図である。
【図3】ストロークベースの目標MC圧の変化率(変化量)に対する踏力ベースの目標MC圧変化の制限量の関係を示す関係特性図である。
【図4】比較例の車両用制動力制御装置のブレーキコントローラの要部構成を示す制御ブロック図である。
【図5】比較例においてペダルストロークに対する設計中央値によるマスターシリンダ圧特性とペダルストロークに対する速く踏んだ場合や低温時のマスターシリンダ圧特性を示す比較特性図である。
【図6】比較例においてピストンストロークに対するマスターシリンダ圧が上昇気味になる理由を示すメカニズム説明図である。
【図7】比較例の車両用制動力制御装置を搭載した電動車両でのブレーキ操作時において回生摩擦すり替えが行われたときのペダル踏力・実減速度・目標減速度・回生減速度・摩擦減速度の各特性を示すタイムチャートである。
【図8】実施例1の制動力制御装置を搭載した電動車両でのブレーキ操作時において回生摩擦すり替えが行われたときのペダルストローク・e-ACT反力(=ペダル踏力)・目標減速度・回生実行トルク・e-ACT反力(=ペダル踏力)ベースの目標マスターシリンダ圧・マスターシリンダ圧の各特性を示すタイムチャートである。
【図9】実施例2の車両用制動力制御装置のブレーキコントローラで実行される制動力制御処理の流れを示すフローチャートである。
【図10】実施例2の制動力制御処理で用いられる回生トルク変化勾配に対する踏力に基づく目標値の変化量制限係数βの関係を示す関係特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の車両用制動力制御装置を実現する最良の形態を、図面に示す実施例1及び実施例2に基づいて説明する。
【実施例1】
【0011】
まず、構成を説明する。
実施例1における車両用制動力制御装置の構成を、「全体システム構成」、「制動力制御構成」に分けて説明する。
【0012】
[全体システム構成]
図1は、実施例1の車両用制動力制御装置の全体構成を示す全体システム図である。以下、図1に基づき、全体システム構成を説明する。なお、実施例1の車両用制動力制御装置は、電気自動車やハイブリッド車等の電動車両に適用される。
【0013】
実施例1の車両用制動力制御装置は、図1に示すように、ブレーキペダル1と、電動ブースタ2と、マスターシリンダ3と、ブレーキ液圧アクチュエータ4と、ホイールシリンダ5FL,5FR,5RL,5RRと、ブレーキコントローラ6と、モータ駆動回路7と、統合コントローラ22(回生協調制動制御手段)と、を備えている。
【0014】
前記ブレーキペダル1は、ブレーキ操作時、ドライバーのペダル踏力を加える。このブレーキペダル1の上端部は、車体に対し回動可能に支持されていて、ブレーキペダル1の中ほど部は、クレビスピン8を介してインプットロッド9に連結されている。
【0015】
前記電動ブースタ2は、ペダル踏力を電動モータ10(電動アクチュエータ)の推力によりアシストする。この電動ブースタ2は、電動モータ10によるモータトルクを、ボールねじ等でアシスト推力に変換し、アシスト推力をプライマリピストン11(マスターシリンダピストン)に作用させる。電動ブースタ2は、マスターシリンダ3と共に、ダッシュパネル12に固定される。
【0016】
前記マスターシリンダ3は、ペダル踏力に電動モータ10によるアシスト推力を加え、各輪に設けられたホイールシリンダ5FL,5FR,5RL,5RRへ導くマスターシリンダ圧(プライマリ圧、セカンダリ圧)を発生させる。このマスターシリンダ3は、インプットロッド9に加えられるペダル踏力を、一対のバネ13,13を介して入力するプライマリピストン11と、プライマリピストン11に一体連結されたセカンダリピストン14と、を有する。そして、プライマリピストン11のピストンストロークにより作り出されたプライマリ圧は、プライマリ圧管15を介してブレーキ液圧アクチュエータ4に導かれる。セカンダリピストン14のピストンストロークにより作り出されたセカンダリ圧は、セカンダリ圧管16を介してブレーキ液圧アクチュエータ4に導かれる。
【0017】
前記ブレーキ液圧アクチュエータ4は、通常のブレーキ操作時、プライマリ圧管15とセカンダリ圧管16を介して導かれたマスターシリンダ圧を、そのまま各ホイールシリンダ5FL,5FR,5RL,5RRへと導く。なお、ブレーキ操作を伴うABS制御時には、マスターシリンダ圧を減圧/保持/増圧した油圧を、各ホイールシリンダ5FL,5FR,5RL,5RRへと導く。また、ブレーキ操作を伴わないVDC制御時やTCS制御時には、電動ポンプによるポンプ圧に基づく制御油圧を、各ホイールシリンダ5FL,5FR,5RL,5RRのうち、制動力を必要とするホイールシリンダに導く。
【0018】
前記ホイールシリンダ5FL,5FR,5RL,5RRは、各輪のブレーキ装置の位置に設けられ、ホイールシリンダ圧管17FL,17FR,17RL,17RRを介して導かれるホイールシリンダ圧に応じて各輪に制動力を与える。
【0019】
前記ブレーキコントローラ6は、ブレーキ操作時、ペダル踏力とペダルストロークに基づいて目標減速度を決め、目標減速度を達成するアシスト推力が得られるように、モータ駆動回路7に対しモータ駆動信号を出力する。このブレーキコントローラ6は、ブレーキペダルへのペダルストロークを検出するペダルストロークセンサ18(ペダルストローク検出手段)と、マスターシリンダ圧センサ19(マスターシリンダ圧検出手段)と、モータレゾルバ20と、他のセンサ・スイッチ類21からの検出情報が入力される。
【0020】
前記モータ駆動回路7は、ブレーキコントローラ6からのモータ駆動信号に応じて、バッテリー22の電源電流(電源電圧)を、電動モータ10への駆動電流(駆動電圧)に変換する。
【0021】
前記統合コントローラ22は、ドライバーが要求する目標減速度を、回生減速度により達成することを優先し、回生減速度では不足する分をブレーキ液圧による摩擦減速度により補うというように、回生制動と摩擦制動を協調動作する回生協調制動制御を行う。そして、この統合コントローラ22には、回生制動トルクの変化量を算出する回生制動トルク変化量算出部22a(回生制動トルク変化量算出手段)を有する。つまり、回生協調制動制御時には、CAN通信線23により接続されたモータコントローラ24に対し、所望の回生制動トルクを得る制御指令を出力し、併せて、ブレーキコントローラ6に対し、所望の摩擦制動トルクを得る制御指令を出力する。
【0022】
[制動力制御構成]
図2は、実施例1の車両用制動力制御装置のブレーキコントローラ6の要部構成を示す制御ブロック図である。図3は、ストロークベースの目標MC圧の変化率(変化量)に対する踏力ベースの目標MC圧変化の制限量の関係を示す。以下、図2及び図3に基づき、制動力制御構成を説明する。以下、マスターシリンダ圧は、「MC圧」と略称する。
【0023】
前記ブレーキコントローラ6は、図2に示すように、ペダル踏力算出部61と、第1目標MC圧算出部62と、第2目標MC圧算出部63と、ゲイン設定部64と、第1目標MC圧ゲイン算出部65と、第1目標MC圧分算出部66(第1制動目標値分算出手段)と、第2目標MC圧分算出部67(第2制動目標値分算出手段)と、目標MC圧算出部68と、目標減速度算出部69(制動目標値算出手段)と、S-P変化率算出部70(ストローク相当値変化率算出手段)と、F-P変化率リミット部71(踏力相当値制限手段)と、を備えている。
【0024】
前記ペダル踏力算出部61は、MC圧に基づくドライバーのペダル踏力(e-ACT反力)を、下記の(1)式により算出する。
すなわち、
インプットロッド入力(Fi)={MC圧(Pb)×ロッド面積(Ai)}+{バネ定数(K)×相対変位量(ΔX)} …(1)
を用いる。この(1)式において、
インプットロッド入力(Fi)=ペダル踏力
{MC圧(Pb)×ロッド面積(Ai)}=油圧反力
{バネ定数(K)×相対変位量(ΔX)}=バネ反力
である。
ここで、インプットロッド9のインプットロッド面積(Ai)と一対のバネ13,13によるバネ定数(K)は、既知の固定値である。マスターシンリンダ圧(Pb)は、マスターシリンダ圧センサ19から取得する。相対変位量(ΔX)は、ペダルストロークセンサ18によりインプットロッドの位置情報を取得し、プライマリピストン11の位置情報をモータレゾルバ20からのモータ回転位置から推定する。そして、インプットロッド9のロッド位置とプライマリピストン11のピストン位置の差を相対変位量(ΔX)とする。
【0025】
前記第1目標MC圧算出部62は、ペダル踏力算出部61により算出されたペダル踏力を入力する。そして、枠内に記載されたペダル踏力に対する目標MC圧の比例特性を用い、ペダル踏力に基づく第1目標MC圧(=踏力ベース目標MC圧)を算出する。
【0026】
前記第2目標MC圧算出部63は、ペダルストロークセンサ18からのペダルストロークを入力する。そして、枠内に記載されたペダルストロークに対する目標MC圧の曲線特性を用い、ペダルストロークに基づく第2目標MC圧(=ストロークベース目標MC圧)を算出する。
【0027】
前記ゲイン設定部64は、ペダル踏力算出部61により推定されたペダル踏力を入力する。そして、枠内に記載されたペダル踏力に対するゲイン特性を用い、ペダルストロークに基づく第2目標MC圧ゲインを設定する。ここで、ペダル踏力に対するゲイン特性は、ペダル踏力が0から上昇すると急勾配にて50%まで立ち上がり、その後、50%ゲインを維持する特性とされる。
【0028】
前記第1目標MC圧ゲイン算出部65は、(1−ゲイン)の式により、ペダル踏力に基づく第1目標MC圧ゲインを算出する。つまり、第1目標MC圧ゲインは、基本的に50%ゲインに設定される。
【0029】
前記第1目標MC圧分算出部66は、第1目標MC圧算出部62からの踏力ベース目標MC圧の変化率をF-P変化率リミット部71により制限した値と、第1目標MC圧ゲイン算出部65からの第1目標MC圧ゲイン(1−ゲイン)と、を掛け合わせることにより、踏力ベース目標MC圧分を算出する。
【0030】
前記第2目標MC圧分算出部67は、第2目標MC圧算出部63からのペダルストロークベース目標MC圧と、ゲイン設定部64からの目標MC圧ゲインと、を掛け合わせることにより、ストロークベース目標MC圧分を算出する。
【0031】
前記目標MC圧算出部68は、第1目標MC圧分算出部66からのペダル踏力ベース目標MC圧分と、第2目標MC圧分算出部67からのストロークベース目標MC圧分と、を加算することにより、最終の目標MC圧を算出する。
【0032】
前記目標減速度算出部69は、目標MC圧算出部68からの目標MC圧を入力し、目標MC圧を減速度に換算することで、目標減速度を算出する。
【0033】
前記S-P変化率算出部70は、ストロークベース目標MC圧分の算出に至るまでの演算処理系列にて得られるストローク相当値のうち、ストロークベース目標MC圧をストローク相当値として入力し、ストロークベース目標MC圧の変化率を算出する。
ここで、ストロークベース目標MC圧の変化率は、単位時間当たりのストロークベース目標MC圧の変化量により算出する。
【0034】
前記F-P変化率リミット部71は、S-P変化率算出部70からのストロークベース目標MC圧の変化率と、第1目標MC圧算出部62からの踏力ベース目標MC圧を入力し、踏力ベース目標MC圧の変化率を、ストロークベース目標MC圧の変化率が小さいほど制限する。つまり、踏力ベース目標MC圧を、踏力ベース目標MC圧分の算出に至るまでの演算処理系列にて得られる踏力相当値としている。
ここで、踏力ベース目標MC圧の変化率制限は、単位時間当たりの踏力ベース目標MC圧の変化制限量(F-P変化制限量)の大きさを、ストロークベース目標MC圧の変化量(S-P変化量)のストローク増加側特性とストローク減少側特性で制限することで行う(図3参照)。
【0035】
次に、作用を説明する。
まず、「比較例の課題」の説明を行う。続いて、実施例1の車両用制動力制御装置における作用を、「踏力ベース目標MC圧の変化率制限作用」、「制動力制御作用」に分けて説明する。
【0036】
[比較例の課題]
例えば、特開2007−112426号公報に記載されている電動倍力装置に、特開平11−301434号公報に記載されている目標減速度演算処理手法を適用したものを比較例とする。
【0037】
図4は、比較例の車両用制動力制御装置のブレーキコントローラの要部構成を示すブロック図である。比較例の電動倍力装置は、ペダル踏力をインプットロッドからバネを介してマスターシリンダピストンへ入力する構成である。このため、ペダル踏力は、下記の式で求められる。
すなわち、特開2007−112426号公報中にある圧力平衡式(1)を変換すると、
インプットロッド入力(Fi)={MC圧(Pb)×ロッド面積(Ai)}+{バネ定数(K)×インプットロッドとマスターシリンダピストンとの相対変位量(ΔX)} …(2)
という関係にある。
【0038】
この変換式(2)において、インプットロッド入力(Fi)が、ドライバーのペダル踏力に相当し、「MC圧(Pb)×ロッド面積(Ai)」は、油圧反力に相当し、「バネ定数(K)×相対変位量(ΔX)」は、バネ反力に相当する。
このように、比較例では、マスターシンリンダ圧(Pb)の大きさが、ペダル踏力の大きさを左右する。
【0039】
ここで、比較例の電動倍力装置におけるペダルストロークに対するマスターシリンダ圧の関係をみると、ペダルストロークの移動速度がゆっくりであるときは、設計中央値による図5の実線特性Cの特性となる。しかし、ブレーキペダルを速く踏んだ時やブレーキ液の粘性が高い低温時には、図5の点線特性C’に示すように、ペダルストロークに対するマスターシリンダ圧が高くなる。この現象は、回生協調制御時の回生摩擦すり替え時にも生じ、アシスト推力を得るためにピストンを速く移動させたときには、マスターシリンダ圧が過渡的に高めとなる。
【0040】
このように、ペダルストロークの移動速度等によりマスターシリンダ圧が高めの特性になる要因は、図6に示すように、電動倍力装置とホイールシリンダとの間に介装されるブレーキ液圧アクチュエータや配管等が、ブレーキ液の流れの管路抵抗となる。このため、ペダルストロークの増加中においては、ペダルストロークの移動速度が速いとき、あるいは、ブレーキ液の粘性が高いときには、マスターシリンダから下流側へのブレーキ液の流速が小さくなり、マスターシリンダ圧が上昇気味になることによる。
したがって、ブレーキペダルを速く踏んだ時やブレーキ液の粘性が高い低温時や回生摩擦すり替え時には、上記変換式(2)を用いて算出されるペダル踏力が、マスターシリンダ圧が過渡的に高めとなるのに追従して大きく増加する。
なお、ペダルストロークの戻し中においては、ペダルストロークの移動速度が速いとき、あるいは、ブレーキ液の粘性が高いときには、マスターシリンダへ戻るブレーキ液の流速が小さくなり、マスターシリンダ圧が下降気味になる。
【0041】
このため、回生摩擦すり替え時を例にとると、図7のタイムチャートの矢印Dに示すように、回生摩擦すり替え域でペダル踏力が増加し、これに伴い、図7のタイムチャートの矢印Eに示すように、回生摩擦すり替え域で目標減速度が増加する。
このように、ピストン速度が速いとき、ドライバーのペダルストローク操作に対してマスターシリンダ圧が高くなるため、マスターシリンダ圧に基づき算出した目標減速度が不必要に大きくなる。この結果、図7のタイムチャートの矢印Fに示すように、実減速度が急に立ち上がってブレーキ効きが強くなって低下するという減速G変動が生じ、ドライバーに違和感を与えてしまう。
【0042】
特に、回生摩擦すり替えは、車両が停止する直前の低車速域において、ペダル保持状態(一定G制動)で行われるが、この低車速域でのペダル保持状態は、ドラーバーを含む車両乗員にとってG感度が高い環境であるため、減速G変動がドライバーを含む車両乗員に違和感を与えることになる。
【0043】
[踏力ベース目標MC圧の変化率制限作用]
上記比較例の課題を解決するためには、ペダル保持状態のときに変動するMC圧の影響を排除するため、ペダルストロークの変化状態に合わせてペダル踏力に基づく目標減速度分の変化率を制限することが必要である。以下、図2及び図3に基づき、これを反映する踏力ベース目標MC圧の変化率制限作用を説明する。
【0044】
まず、ペダル踏力算出部61において、MC圧に基づくドライバーのペダル踏力(e-ACT反力)が、上記(1)式により算出される。そして、第1目標MC圧算出部62において、ペダル踏力算出部61により算出されたペダル踏力を入力し、枠内に記載された特性を用い、ペダル踏力に基づく踏力ベース目標MC圧が算出される。
【0045】
一方、第2目標MC圧算出部63においては、ペダルストロークセンサ18からのペダルストロークを入力し、枠内に記載された特性を用い、ペダルストロークに基づくストロークベース目標MC圧が算出される。
【0046】
そして、S-P変化率算出部70において、第2目標MC圧算出部63からのストロークベース目標MC圧を入力し、ストロークベース目標MC圧の変化率が、単位時間当たりのストロークベース目標MC圧の変化量により算出される。
【0047】
次のF-P変化率リミット部71において、S-P変化率算出部70からのストロークベース目標MC圧の変化率と、第1目標MC圧算出部62からの踏力ベース目標MC圧を入力し、踏力ベース目標MC圧の変化率が、ストロークベース目標MC圧の変化率が小さいほど制限される。
【0048】
この踏力ベース目標MC圧の変化率制限は、図3に示すように、単位時間当たりの踏力ベース目標MC圧の変化制限量(F-P変化制限量)の大きさを、ストロークベース目標MC圧の変化量(S-P変化量)のストローク増加側特性(A領域)とストローク減少側特性(B領域)で制限することで行う。
【0049】
すなわち、Ps:ストロークベース目標MC圧、Pf*:踏力ベース目標MC圧、ΔPs:S-P変化量、ΔPf*:F-P変化量、「_z1」:サンプリングタイムの前回値、としたとき、下記の(5),(6)式により変化量制限後の踏力ベース目標MC圧Pfを算出する。
ΔPs=Ps−Ps_z1 …(3)
ΔPf*=Pf*−ΔPf*_z1 …(4)
・A領域の時(ストローク増加中)
Pf=min(ΔPf*、F-P変化制限量)+ΔPf_z1 …(5)
但し、min(ΔPf*、F-P変化制限量)は、0以上の値
なお、F-P変化制限量は、そのときのS-P変化量ΔPsと図3のストローク増加側特性により取得したΔPsによる制限値である。
・B領域の時(ストローク増加中)
Pf=max(ΔPf*、F-P変化制限量)+ΔPf_z1 …(6)
但し、max(ΔPf*、F-P変化制限量)は、0以下の値
なお、F-P変化制限量は、そのときのS-P変化量ΔPsと、図3のストローク減少側特性により取得したΔPsによる制限値である。
【0050】
次のゲイン設定部64において、ペダル踏力算出部61により推定されたペダル踏力を入力し、枠内に記載されたゲイン特性を用い、ペダルストロークに基づく第2目標MC圧ゲインが設定される。また、第1目標MC圧ゲイン算出部65において、(1−ゲイン)の式により、ペダル踏力に基づく第1目標MC圧ゲインが算出される。
【0051】
次の第1目標MC圧分算出部66において、F-P変化率リミット部71からの変化量制限後の踏力ベース目標MC圧Pfと、第1目標MC圧ゲイン算出部65からの第1目標MC圧ゲイン(1−ゲイン)と、を掛け合わせることにより、踏力ベース目標MC圧分が算出される。一方、第2目標MC圧分算出部67において、第2目標MC圧算出部63からのペダルストロークベース目標MC圧と、ゲイン設定部64からの目標MC圧ゲインと、を掛け合わせることにより、ストロークベース目標MC圧分が算出される。
【0052】
次の目標MC圧算出部68において、第1目標MC圧分算出部66からのペダル踏力ベース目標MC圧分と、第2目標MC圧分算出部67からのストロークベース目標MC圧分と、を加算することにより、最終の目標MC圧が算出される。次の目標減速度算出部69において、目標MC圧算出部68からの目標MC圧を入力し、目標MC圧を減速度に換算することで、最終の制動目標値としての目標減速度が算出される。
【0053】
すなわち、電動ブースタ2を用いたブレーキシステムの場合、アシスト推力のみを用いてマスターシリンダ圧を発生させることが可能である。このため、回生摩擦すり替え時等において、ペダルストロークを保持しているときにアシスト推力を用いて急にマスターシリンダ圧を発生させると、過渡的にマスターシリンダ圧が高めとなってペダル踏力が上昇する。したがって、比較例で述べたように、上昇するペダル踏力に基づいて算出される目標減速度が高くなる結果、例えば、ペダルストロークを保持しているにもかかわらず、ブレーキの効きが上昇して制動G変動が生じ、ドライバーに違和感を与える。
【0054】
これに対し、ペダルストロークを保持しているときは、ストロークベース目標MC圧の変化率がゼロであるため、踏力ベース目標MC圧の変化率もゼロに制限されるというように、制動G変動の原因である目標減速度の変化が抑えられる。また、ペダルストロークを増加側又は減少側に操作したときは、ペダル操作速度に応じて踏力ベース目標MC圧の変化率の制限が緩和される。したがって、ブレーキ操作時、ドライバーによるペダル操作状態にかかわらず、ドライバーに与えるブレーキ操作違和感が防止される。
【0055】
[制動力制御作用]
実施例1の制動力制御を採用した車両での制動力制御作用の一例である回生摩擦すり替え制御作用を、図8に示すタイムチャートに基づいて説明する。
【0056】
回生摩擦すり替え制御は、回生制動途中で回生限界に達し、回生減速度から摩擦減速度に移行する制御であり、図8に示すように、回生実行トルクが低下するのに伴って、MC圧を上昇させることで、目標減速度を維持しようとするものである。
【0057】
この回生摩擦すり替え制御時において、図8の矢印Iに示すように、ペダルストロークの変化率がゼロであるため、e-ACT反力ベース目標MC圧(=踏力ベース目標MC圧)の変化率がゼロに制限されることになる。このe-ACT反力ベース目標MC圧(=踏力ベース目標MC圧)の制限により、図8に示す矢印Jの領域が、e-ACT反力ベース目標MC圧の増加抑制効果をあらわす。
【0058】
この結果、図8のタイムチャートの矢印Kに示すように、目標減速度の立ち上がりが緩やかになり、ブレーキ効きが僅かに高まるものの、減速G変動が緩やかに抑えられる。このため、回生摩擦すり替え制御が、車両乗員にとってG感度が高い環境である低車速域のペダル保持状態で行われるにもかかわらず、ドライバーに与えるブレーキ操作違和感が防止される。加えて、ドライバー以外の車両乗員に対しても減速G変動による違和感を与えることが防止される。
【0059】
次に、効果を説明する。
実施例1の車両用制動力制御装置にあっては、下記に列挙する効果を得ることができる。
【0060】
(1) ブレーキ操作時、ドライバーのペダル踏力を加えるブレーキペダル1と、
前記ペダル踏力を電動アクチュエータ(電動モータ10)の推力によりアシストする電動ブースタ2と、
前記ペダル踏力をインプットロッド9からバネ13,13を介してマスターシリンダピストン(プライマリピストン11)へ入力し、前記ペダル踏力に前記電動ブースタ2によるアシスト推力を加え、各輪に設けられたホイールシリンダ5FL,5FR,5RL,5RRへ導くマスターシリンダ圧を発生させるマスターシリンダ3と、
前記ブレーキペダル1へのペダル踏力に基づき、寄与度に応じた第1制動目標値分(踏力ベース目標MC圧分)を算出する第1制動目標値分算出手段(第1目標MC圧分算出部66)と、
前記ブレーキペダル1へのペダルストロークに基づき、寄与度に応じた第2制動目標値分(ストロークベース目標MC圧分)を算出する第2制動目標値分算出手段(第2目標MC圧分算出部67)と、
前記第2制動目標値分(ストロークベース目標MC圧分)の算出に至るまでの演算処理系列にて得られるストローク相当値(ストロークベース目標MC圧)の変化率を算出するストローク相当値変化率算出手段(S-P変化率算出部70)と、
前記第1制動目標値分(踏力ベース目標MC圧分)の算出に至るまでの演算処理系列にて得られる踏力相当値(踏力ベース目標MC圧)の変化率を、前記ストローク相当値(ストロークベース目標MC圧)の変化率が小さいほど制限する踏力相当値制限手段(F-P変化率リミット部71)と、
前記踏力相当値(踏力ベース目標MC圧)に変化率制限を与えて算出された第1制動目標値分(踏力ベース目標MC圧分)と、前記第2制動目標値分(ストロークベース目標MC圧分)を加算することにより最終の制動目標値(目標減速度)を得る制動目標値算出手段(目標減速度算出部69)と、
を備える。
このため、ブレーキ操作時、ドライバーによるペダル操作状態にかかわらず、ドライバーに与えるブレーキ操作違和感を防止することができる。
【0061】
(2) 前記ストローク相当値変化率算出手段(S-P変化率算出部70)は、ペダルストロークに基づく目標マスターシリンダ圧(ストロークベース目標MC圧)の変化率を算出し、
前記踏力相当値制限手段(F-P変化率リミット部71)は、ペダル踏力に基づく目標マスターシリンダ圧(踏力ベース目標MC圧)の変化率を、前記ペダルストロークに基づく目標マスターシリンダ圧(ストロークベース目標MC圧)の変化率が小さいほど制限する。
このため、(1)の効果に加え、同じ目標MC圧への変換情報をそれぞれストローク相当値及び踏力相当値とし、ストロークベース目標MC圧の変化率に基づき踏力ベース目標MC圧の変化率を精度良く制限することができる。
【実施例2】
【0062】
実施例2は、回生制動トルクの変化量(変化勾配)が大きいほど、踏力ベース目標値の変化率を厳しく制限するようにした例である。
【0063】
まず、構成を説明する。
実施例2における全体構成は、実施例1の図1と同様であるため、図示を省略する。図9は、実施例2の車両用制動力制御装置のブレーキコントローラ6で実行される制動力制御処理の流れを示すフローチャートである。以下、図9の各ステップについて説明する。なお、この処理は、例えば、10msecの起動周期により実行される。
【0064】
ステップS1では、ペダル踏力Fを読み込み、ステップS2へ進む。
このペダル踏力Fは、実施例1のペダル踏力算出部61と同様に、別のフローチャートで算出により求められる。
【0065】
ステップS2では、ステップS1でのペダル踏力Fの読み込みに続き、ペダル踏力Fに基づく目標値Gfを算出し、ステップS3へ進む。
このペダル踏力Fに基づく目標値Gf(=目標減速度)は、実施例1における第1目標MC圧算出部62と同様に算出される。
【0066】
ステップS3では、ステップS2でのペダル踏力Fに基づく目標値Gfの算出に続き、ペダルストロークSを読み込み、ステップS4へ進む。
このペダルストロークSは、実施例1と同様に、ペダルストロークセンサ18からのセンサ信号により求められる。
【0067】
ステップS4では、ステップS3でのペダルストロークSの読み込みに続き、ペダルストロークSに基づく目標値Gsを算出し、ステップS5へ進む。
このペダルストロークSに基づく目標値Gs(=目標減速度)は、実施例1における第2目標MC圧算出部63と同様に算出される。
【0068】
ステップS5では、ステップS4でのペダルストロークSに基づく目標値Gsの算出に続き、ストローク目標値変化量ΔGsを算出し、ステップS6へ進む(ストローク相当値変化率算出手段)。
ここで、ストローク目標値変化量ΔGsは、
ΔGs=Gs−Gs_z Gs:今回のストローク目標値、Gs_z:ストローク目標値の過去値
の式により求められる。
【0069】
ステップS6では、ステップS5でのストローク目標値変化量ΔGsの算出に続き、回生トルクの変化勾配を算出し、回生トルク変化勾配と図10に示す特性図に基づき、踏力に基づく目標値の変化量制限係数βを算出し、ステップS6へ進む。
ここで、図10に示す特性は、回生トルク変化勾配が大きいほど変化量制限係数βを小さくするように算出される。すなわち、回生トルク変化勾配が大きいほど踏力に基づく目標値変化量を厳しく制限するものとして与えられる。
【0070】
ステップS7では、変化量制限係数βの算出に続き、制限を与えたペダル踏力Fに基づく目標値Gf2を算出し、ステップS8へ進む(踏力相当値制限手段)。
ここで、今回のペダル踏力Fに基づく目標値Gf2は、
Gf2=Gf2+min((Gf−Gf_z)、β・Gflim)
ここで、右辺のGf2は、踏力に基づく目標値の過去値であり、(Gf−Gf_z)は、踏力目標値変化量である。Gflimは、ストローク目標値変化量ΔGsと、図3に示すような特性と、を用いて算出された踏力Fに基づく目標値変化制限量である。
【0071】
ステップS8では、ステップS6での踏力に基づく目標値の制限に続き、ペダル踏力に基づく寄与度合いαを算出し、ステップS9へ進む。
ここで、寄与度合いαは、実施例1におけるゲイン設定部64と同様に、予め設定された特性に基づき算出される。
【0072】
ステップS9では、ステップS8でのペダル踏力に基づく寄与度合いαの算出に続き、ペダル踏力に基づく寄与度合いαと、ペダル踏力Fに基づく目標値Gf2と、ペダルストロークSに基づく目標値Gsと、に基づき、目標値G(目標減速度)を算出し、ステップS10へ進む(制動目標値算出手段)。
目標値Gは、
G=α×Gf2+(1−α)Gs
の式により算出される。
【0073】
ステップS10では、ステップS9での目標値Gの算出に続き、過去値(Gs_z=Gs、Gf_z=Gf、Gf2_z=Gf2)を保存し、エンドへ進む。
【0074】
次に、作用を説明する。
回生協調制動制御時においては、例えば、回生制動途中で回生限界に達し、回生減速度から摩擦減速度に移行する回生摩擦すり替え制御を行うとき、実施例1の図8から明らかなように、MC圧が急激に上昇することで、ペダル踏力が過渡的に上昇し、これに伴い目標減速度が高まり、減速G変動により違和感の原因となる。
【0075】
これに対し、実施例2において、回生摩擦すり替え制御時、図7のフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS2→ステップS3→ステップS4→ステップS5→ステップS6→ステップS7へと進む。このステップS7において、ペダル踏力Fに基づく目標値Gf2に対し、実施例1と同様に、ストローク目標値変化量ΔGsが小さいほど踏力Fに基づく目標値変化制限量Gflimに制限を与える。さらに、ストローク目標値変化量ΔGsによる制限に加え、回生トルク変化勾配による変化量制限係数βにより制限を与えるようにしている。
【0076】
すなわち、統合コントローラ22の回生制動トルク変化量算出部22aにおいて、回生制動トルクの変化量(回生トルク変化勾配)が算出される。そして、統合コントローラ22では、算出された回生トルク変化勾配をペダルストローク移動速度の間接情報とし、回生トルク変化勾配が大きいほど、ペダル踏力Fに基づく目標値の変化量を厳しく制限するようにしている。したがって、車両乗員にとってG感度が高い環境である低車速域のペダル保持状態で行われる回生摩擦すり替え制御時、ドライバーに与えるブレーキ操作違和感が防止される。なお、他の作用は、実施例1と同様であるので、説明を省略する。
【0077】
次に、効果を説明する。
実施例2の車両用制動力制御装置にあっては、下記の効果を得ることができる。
【0078】
(3) 回生制動と摩擦制動を協調動作する回生協調制動制御手段(統合コントローラ22)と、
前記回生制動トルクの変化量を算出する回生制動トルク変化量算出手段(回生制動トルク変化量算出部22a)と、を備え、
前記踏力相当値制限手段(図9のステップS7)は、前記回生制動トルクの変化量(回生トルク変化勾配)が大きいほど、前記踏力相当値の変化率を厳しく制限する(踏力に基づく目標値の変化量制限係数β)。
このため、(1)又は(2)の効果に加え、回生摩擦すり替え制御時、踏力相当値(ペダル踏力Fに基づく目標値)の変化量制限を、応答性の良いフィードフォワード制御により与えることができる。
【0079】
以上、本発明の車両用制動力制御装置を実施例1及び実施例2に基づき説明してきたが、具体的な構成については、これらの実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0080】
実施例1では、ストローク相当値変化率算出手段として、ストロークベース目標MC圧の変化率を算出する例を示し、実施例2では、ストローク目標値変化量ΔGsを算出する例を示した。しかし、ストローク相当値変化率算出手段としては、ペダルストロークから第2制動目標値分であるストロークベース目標MC圧分の算出に至るまでの演算処理系列にて得られる値、例えば、ペダルストローク、ストロークベース目標MC圧分、等をストローク相当値とし、ストローク相当値の変化率を算出するようにしても良い。
【0081】
実施例1では、踏力相当値制限手段として、踏力ベース目標MC圧の変化率を制限する例を示し、実施例2では、踏力に基づく目標値Gf2を制限する例を示した。しかし、踏力相当値制限手段としては、ペダル踏力から第1制動目標値分である踏力ベース目標MC圧分の算出に至るまでの演算処理系列にて得られる値、例えば、ペダル踏力、ゲイン、踏力ベース目標MC圧分、等を踏力相当値とし、踏力相当値の変化率を制限するようにしても良い。例えば、踏力ベース目標MC圧分を制限する場合に限らず、踏力ベース側のゲイン(寄与度合い)を0%側に変更した結果、踏力に基づく目標値が最終目標値に反映される変化量を制限することになる場合を含む。
【0082】
実施例1,2では、制動目標値として、目標減速度(目標値G)を用いる例を示した。しかし、制動目標値としては、目標減速度に限らず、目標制動力やマスターシリンダ圧やマスターシリンダピストン位置、等のように、車両に作用させる力の他の物理量を用いてもよい。
【0083】
実施例1では、寄与度設定手段として、ペダル踏力に基づき、50%ゲインに設定するゲイン設定手段64の例を示した。しかし、寄与度設定手段としては、ペダルストロークに基づき寄与度合いを設定する例としても、また、ペダル踏力及びペダルストロークに基づき寄与度合いを設定する例としても良い。さらに、ペダル踏力とペダルストロークの少なくとも一方により、寄与度合い(ゲイン)を変更するような例としても良い。
【0084】
実施例1では、ペダル踏力算出手段として、マスターシリンダ圧に基づくペダル踏力相当値(e-ACT反力)を、インプットロッド入力(Fi)の式を用いて算出により得るペダル踏力算出部61の例を示した。しかし、ペダル踏力算出手段としては、マスターシリンダ圧に基づくペダル踏力相当値(e-ACT反力)を、例えば、インプットロッドやペダルレバー等に歪ゲージ等を設けることで、ドライバーのペダル踏力を直接検出するような例としても良い。
【0085】
実施例1では、本発明の車両用制動力制御装置を、電気自動車やハイブリッド車等の電動車両に適用する好ましい例を示した。しかし、倍力装置として電動ブースタを用いるブレーキシステムを採用したエンジン車に適用することも可能である。
【符号の説明】
【0086】
1 ブレーキペダル
2 電動ブースタ
3 マスターシリンダ
4 ブレーキ液圧アクチュエータ
5FL,5FR,5RL,5RR ホイールシリンダ
6 ブレーキコントローラ
61 ペダル踏力算出部
62 第1目標MC圧算出部
63 第2目標MC圧算出部
64 ゲイン設定部
65 第1目標MC圧ゲイン算出部
66 第1目標MC圧分算出部(第1制動目標値分算出手段)
67 第2目標MC圧分算出部(第2制動目標値分算出手段)
68 目標MC圧算出部
69 目標減速度算出部(制動目標値算出手段)
70 S-P変化率算出部(ストローク相当値変化率算出手段)
71 F-P変化率リミット部(踏力相当値制限手段)
7 モータ駆動回路
9 インプットロッド
10 電動モータ(電動アクチュエータ)
11 プライマリピストン
13,13 バネ
18 ペダルストロークセンサ
19 マスターシリンダ圧センサ
20 モータレゾルバ
22 統合コントローラ(回生協調制動制御手段)
22a 回生制動トルク変化量算出部(回生制動トルク変化量算出手段)
23 CAN通信線
24 モータコントローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキ操作時、ドライバーのペダル踏力を加えるブレーキペダルと、
前記ペダル踏力を電動アクチュエータの推力によりアシストする電動ブースタと、
前記ペダル踏力をインプットロッドからバネを介してマスターシリンダピストンへ入力し、前記ペダル踏力に前記電動ブースタによるアシスト推力を加え、各輪に設けられたホイールシリンダへ導くマスターシリンダ圧を発生させるマスターシリンダと、
前記ブレーキペダルへのペダル踏力に基づき、寄与度に応じた第1制動目標値分を算出する第1制動目標値分算出手段と、
前記ブレーキペダルへのペダルストロークに基づき、寄与度に応じた第2制動目標値分を算出する第2制動目標値分算出手段と、
前記第2制動目標値分の算出に至るまでの演算処理系列にて得られるストローク相当値の変化率を算出するストローク相当値変化率算出手段と、
前記第1制動目標値分の算出に至るまでの演算処理系列にて得られる踏力相当値の変化率を、前記ストローク相当値の変化率が小さいほど制限する踏力相当値制限手段と、
前記踏力相当値に変化率制限を与えて算出された第1制動目標値分と、前記第2制動目標値分を加算することにより最終の制動目標値を得る制動目標値算出手段と、
を備えることを特徴とする車両用制動力制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載された車両用制動力制御装置において、
前記ストローク相当値変化率算出手段は、ペダルストロークに基づく目標マスターシリンダ圧の変化率を算出し、
前記踏力相当値制限手段は、ペダル踏力に基づく目標マスターシリンダ圧の変化率を、前記ペダルストロークに基づく目標マスターシリンダ圧の変化率が小さいほど制限する
ことを特徴とする車両用制動力制御装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載された車両用制動力制御装置において、
回生制動と摩擦制動を協調動作する回生協調制動制御手段と、
前記回生制動トルクの変化量を算出する回生制動トルク変化量算出手段と、を備え、
前記踏力相当値制限手段は、前記回生制動トルクの変化量が大きいほど、前記踏力相当値の変化率を厳しく制限する
ことを特徴とする車両用制動力制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−86620(P2013−86620A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−227977(P2011−227977)
【出願日】平成23年10月17日(2011.10.17)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】