説明

車両用制動装置

【課題】車両を適切に制動するとともに、制動に伴って発生する熱エネルギーの回収と熱エネルギーから変換された電気エネルギーの利用とを効率よく行う車両用制動装置を提供すること。
【解決手段】制動部10は、内周面に相対変位不能に組み付けられた摺動部材11aを有するブレーキドラム11と摺動部材と摩擦係合するライニングを有するブレーキシュー12とを備えている。熱回収部20は、ブレーキドラムの内周面と摺動部材との間に挟持された熱電変換部21を備えている。また、熱回収部は、熱電変換部の一面側21aと電気的に接続されたスリップリング23aと摺動する集電ブラシ22aと、熱電変換部の他面側21bと電気的に接続されたスリップリング23bと摺動する集電ブラシ22bとを備えている。これにより、ブラシは熱電変換部が変換した電気エネルギーを集電することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両用制動装置に関し、特に、車輪の回転に対して制動力を付与するとともにこの制動力の付与に伴って発生する熱エネルギーを回収する車両用制動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両の熱源から熱エネルギーを回収し、この回収した熱エネルギーを、例えば、電気エネルギーに変換して利用することが盛んに研究されている。
【0003】
例えば、下記特許文献1には、回転部にブレーキパッドを圧着してブレーキをかけるブレーキキャリパと、ブレーキキャリパに接続するヒートパイプと、ヒートパイプの放熱側端に接続する熱電変換素子と、熱電変換素子の冷却側面に接続する放熱器と、熱電変換素子に接続する蓄電池とを備えた回生ブレーキ装置が示されている。この回生ブレーキ装置においては、制動によりブレーキキャリパのブレーキパッドに生じた摩擦熱がヒートパイプを介して熱電変換素子の加熱面に伝達される一方で熱電変換素子の冷却面が放熱器によって冷却されるため、熱電変換素子は加熱面側と冷却面側との間の温度差により電力を発生することができる。したがって、制動により運動エネルギーを熱エネルギー(摩擦熱)として回収して電気エネルギーに変換できるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−220804号公報
【発明の概要】
【0005】
ところで、車両用制動装置としては、上記特許文献1に記載された従来の装置のように、ブレーキディスクとブレーキキャリパを備えたディスクブレーキユニットの他に、ブレーキドラムとブレーキシューを備えたドラムブレーキユニットが存在し、広く採用されている。そして、このようなドラムブレーキユニットを採用し、制動により発生する熱エネルギーを回収して電気エネルギーに変換する場合には、摩擦熱の回収効率および電気への変換効率の観点から、ブレーキドラムとブレーキシューとが摩擦熱を発生させる摺動部位の近傍に熱電変換素子をできる限り近づけて配置することが望ましい。
【0006】
ところが、一般的に、ドラムブレーキユニットにおいては、ブレーキシューが車輪と一体的に回転するブレーキドラム内に収容されるとともに車体側に固定され、ブレーキドラムの内周面にブレーキシューを圧着させる構造が採用される。このため、例えば、ブレーキシューに熱電変換素子を組み付けた場合には、ブレーキドラム内に熱が籠るため、熱電変換素子の加熱面側と冷却面側との間に大きな温度差を生じさせることが難しくなる。一方で、ブレーキシューとの摩擦によって発熱可能でありかつ走行風などによって冷却可能なブレーキドラム側に熱電変換素子を組み付けることが想定されるが、ブレーキドラムの内周面にはブレーキシューが圧着されるため、機械的な強度に劣る熱電変換素子をブレーキシューの圧着に伴って発生するせん断力から保護する必要がある。また、ブレーキドラムは車輪と一体的に回転するものであるため、変換された電力を回収する点で検討の余地がある。
【0007】
本発明は、上記した問題に対処するためになされたものであり、その目的は、車両を適切に制動するとともに、制動に伴って発生する熱エネルギーの回収と熱エネルギーから変換された電気エネルギーの利用とを効率よく行う車両用制動装置を提供することにある。
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の特徴は、車輪の回転に対して制動力を付与するとともにこの制動力の付与に伴って発生する熱エネルギーを回収する車両用制動装置において、前記車輪の回転に対して回転不能に組み付けられたブレーキシューの摩擦部材と摩擦係合する金属製の摺動部材を前記車輪と一体的に回転するブレーキドラムの内周面に対して相対変位不能に設けて、前記車輪の回転に対して摩擦による制動力を付与する制動力付与手段と、前記ブレーキドラムの内周面と前記摺動部材との間に配置されて、前記摩擦によって発生する熱エネルギーを回収して電気エネルギーに変換する熱電変換手段とを備えたことにある。この場合、さらに、前記熱電変換手段によって変換された電気エネルギーを蓄電する蓄電手段を備えるとよい。
【0009】
また、この場合、前記車輪の回転に対して回転不能に設けられて、前記ブレーキドラムと一体的に回転する前記熱電変換手段によって変換された電気エネルギーを集電する集電手段を備えるとよい。
【0010】
そして、この場合、前記集電手段は、例えば、前記熱電変換手段の一面側と電気的に接続された前記摺動部材との間で摺動して集電するとともに、前記熱電変換手段の他面側と電気的に接続された前記ブレーキドラムの内面との間で摺動して集電する、または、前記熱電変換手段の一面側と電気的に接続されて前記ブレーキドラムの内周面と一体的に回転するスリップリングとの間で摺動して集電するとともに、前記熱電変換手段の他面側と電気的に接続されて前記ブレーキドラムの内周面と一体的に回転するスリップリングとの間で摺動して集電するとよい。さらに、この場合、前記集電手段を、例えば、前記ブレーキシューの摩擦部材を前記ブレーキドラムの摺動部材に摩擦係合させるために設けられたホイールシリンダ、または、前記ブレーキドラムを支持するハブを回転可能に支持するハブベアリングに設けられたシール機構内部に設けるとよい。
【0011】
これらによれば、ブレーキドラムの内周面にブレーキシューの摩擦部材(ライニング)と摩擦係合する摺動部材をブレーキドラムの内周面に対して相対変位不能に設けることができ、この摺動部材とブレーキドラムの内周面とによって熱電変換手段を挟持することができる。これにより、熱電変換手段をブレーキドラムの内周面に接触(密着)させて組み付けることができ、制動に伴ってブレーキシューの摩擦部材が摺動部材と摩擦係合した場合であっても、熱電変換手段は摺動部材によって保護されているため、例えば、摩擦係合に伴うせん断力によって熱電変換手段が破損することを防止することができる。
【0012】
また、制動時において、摺動部材と摩擦部材とが摩擦係合して摩擦熱(熱エネルギー)が生じると、摺動部材に接触(密着)する熱電変換手段の一面側が加熱されるとともにブレーキドラムの内周面に密着する熱電変換手段の他面側が冷却される。したがって、熱電変換手段の一面側(加熱側)と他面側(冷却側)との間に温度差を適切に生じさせることができるため、例えば、周知のゼーベック効果によって発生した熱エネルギーを電気エネルギーに効率よく変換することができる。また、ブレーキドラムと一体的に回転しない集電手段が摺動を伴って変換された電気エネルギーを回収することができるため、極めて簡便な構造により確実に電気エネルギーを回収することができる。
【0013】
ここで、ブレーキドラムとブレーキシューとを備える、所謂、ドラムブレーキユニットにおいては、制動により発生した摩擦熱(熱エネルギー)がブレーキドラムの内部に籠りやすい。したがって、熱電変換手段の一面側(加熱側)は比較的長い時間にわたり高温状態が維持される一方で、熱電変換手段の他面側(冷却側)は走行風などによって常に冷却される。このため、熱電変換手段は、長時間にわたって継続して摩擦熱(熱エネルギー)を回生電力(電気エネルギー)に変換することができるため、効率よく電力を回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態に係る車両用制動装置の構成を概略的に示す概略構成図である。
【図2】図1の摺動部材および熱電変換部の組み付け状態を詳細に示す概略図である。
【図3】図1の熱回収部を説明するための図である。
【図4】本発明の変形例に係る熱回収部(集電ブラシ)の構成を詳細に示す概略図である。
【図5】図4の熱回収部を説明するための図である。
【図6】本発明の変形例に係る熱回収部を説明するための図である。
【図7】本発明の変形例に係り、ハブベアリングに設けた熱回収部を説明するための図である。
【図8】(a),(b)は、本発明の変形例に係り、摺動部材および熱電変換部の組み付けを説明するための図である。
【図9】図8の摺動部材および熱電変換部の組み付けの変形例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態に係る車両用制動装置について、図面を用いて詳細に説明する。図1は、本実施形態に係る車両用制動装置Sのシステム構成を概略的に示している。この車両用制動装置Sは、車両を制動することに加えて、制動に伴って発生する運動エネルギーを熱エネルギーとして回収し、さらに、この回収した熱エネルギーを電気エネルギーに変換して蓄電するものである。
【0016】
このため、車両用制動装置Sは、図1に示すように、車輪Wに対して制動力を付与する制動部10と、この制動部10による制動に伴って発生する熱エネルギーを回収するとともに回収された熱エネルギーを電気エネルギーに変換して蓄電する熱回収部20とを備えている。なお、図1においては、1輪に車両用制動装置Sを設けた場合を図示するが、例えば、車両の左右前輪側に車両用制動装置Sを設けたり、車両の左右後輪側や全輪に車両用制動装置Sを設けて実施可能であることはいうまでもない。
【0017】
制動力付与手段としての制動部10は、ブレーキドラム11とブレーキシュー12とを備えたドラムブレーキユニットである。ブレーキドラム11は、図示しないサスペンション装置を構成するナックルNに組み付けられたハブベアリングBに回転可能に支持されたハブHに対してナットにより組み付けられていて、車輪Wと一体的に回転するものである。ブレーキシュー12は、図1および図2に示すように、ブレーキドラム11内に収容されており、車体側に回転不能に固定されるバックプレートBPに対して組み付けられている。そして、ブレーキシュー12は、ホイールシリンダWSの作動により、摩擦部材としてのライニング12aがブレーキドラム11の内周面に後に詳述するように固着される金属製の摺動部材11aに対して摩擦係合するようになっている。なお、ドラムブレーキユニットの詳細な構造および作動については、周知のドラムブレーキユニットと同様であり、また、本発明に直接関係しないため、その説明を省略する。
【0018】
このように構成された制動部10においては、運転者によって図示しないブレーキペダルが操作されると、ホイールシリンダWSにブレーキ液圧が供給される。これにより、ブレーキシュー12は、供給されるブレーキ液圧の増圧に伴って、ライニング12aをブレーキドラム11に固着された摺動部材11aに対して圧着させて摩擦係合させる。そして、車輪Wと一体的に回転するブレーキドラム11(より詳しくは、摺動部材11a)に対してライニング12aを摩擦係合させることによって摩擦力が発生し、この摩擦力が車輪Wの回転を制動する制動力として付与される。
【0019】
また、車輪Wの回転に対して制動力すなわち摩擦力を付与することに伴い、摺動部材11aおよびライニング12aには摩擦熱(熱エネルギー)が発生する。したがって、制動部10は、車両の制動に伴って運動エネルギーを摩擦によって熱エネルギー(摩擦熱)に変換することにより、回転する車輪Wを制動する。
【0020】
熱回収部20は、図1および図2に概略的に示すように、ブレーキドラム11の内周面と摺動部材11aとにより挟持された熱電変換手段としての熱電変換部21を備えている。熱電変換部21は、物質(具体的には、半導体)が有する周知のゼーベック効果を利用して、付与された熱エネルギーを電気エネルギーに変換するものである。この熱電変換部21は、図2に示すように、一面側21aが制動部10の発熱部分である摺動部材11aに接触し、他面側21bがブレーキドラム11の内周面に接触するように、略円筒状に挟持されて組み付けられている。
【0021】
ここで、熱電変換部21の組み付けについて、説明しておく。まず、ブレーキドラム11の内周面に形成されたキー溝の幅長分だけブレーキドラム11の内周長よりも短くなるように成形されたシート状の熱電変換部21を、キー溝を基準にしてブレーキドラム11の内周面に仮組み付けする。次に、このように熱電変換部21を仮組み付けしたブレーキドラム11の内周面に対して、常温にてブレーキドラム11の内周長よりも僅かに長い外周長となるように成形された円筒状の摺動部材11aを組み付ける。このとき、摺動部材11aを、例えば、極低温に冷却しておき、外周長を常温時に比して僅かに短くした状態でブレーキドラム11の内面に接触することなく組み付ける。そして、最終的に、絶縁材を表面に形成したキーをブレーキドラム11の内周面および摺動部材11aの外周面に形成したキー溝に対して嵌め込む。なお、本実施形態においては、キー溝およびキーをそれぞれ1つ設けて実施するが、キー溝およびキーの数については、複数設けて実施してもよい。
【0022】
これにより、摺動部材11aの温度が常温まで戻ると、摺動部材11aは、膨張することにより、熱電変換部21をブレーキドラム11の内周面に対して押し付けて(密着させて)挟持することができる。また、キー溝にキーを嵌め込むことにより、摺動部材11aとブレーキドラム11とを電気的に絶縁した状態とすることができるとともに、ブレーキドラム11の内周面に対して摺動部材11aが周方向に相対的に変位することを防止することができる。
【0023】
これにより、上述したように制動に伴ってブレーキシュー12のライニング12aと摺動部材11aとの間に摩擦力が発生した場合であっても、摺動部材11aがブレーキドラム11の内周面に対して相対的に変位することがない。したがって、摺動部材11aとライニング12aとの摩擦係合によって適切な摩擦力すなわち制動力を発生することができるとともに、熱電変換部21に対して摩擦係合に伴うせん断力が作用することを防止することができる。さらに、摺動部材11aの内周面は、周方向にて、継ぎ目なく連続しているため、ライニング12aとの摩擦係合時すなわち制動時においても、例えば、振動等が発生することを防止することができる。なお、図示を省略するが、熱電変換部21がブレーキドラム11に組み付けられるときには、例えば、水などによる腐食を防止するために、熱電変換部21の周辺にシール材を塗布して防水性を確保するようになっている。
【0024】
また、ブレーキドラム11の内面に対して摺動部材11aを接触させることなく組み付けることにより、ブレーキシュー12のライニング12aと摺動部材11aとの摩擦係合によって発生した摩擦熱(熱エネルギー)が摺動部材11aからブレーキドラム11の内面に伝熱することを防止することができる。これにより、発生した摩擦熱(熱エネルギー)の大部分を熱電変換部21の一面側21a(加熱側)に伝熱させることができる。
【0025】
このように、熱電変換部21が組み付けられることにより、熱電変換部21は、後述するように、周知にゼーベック効果によって一面側21aと他面側21bとの間の温度差に応じた起電力(電気エネルギー)を発電することができる。なお、以下の説明においては、熱電変換部21によって発電された起電力を回生電力(電気エネルギー)という。
【0026】
また、熱回収部20は、図2に示すように、熱電変換部21によって発電された回生電力を集電するための集電ブラシ22a,22bを備えている。集電ブラシ22a,22bは、それぞれ、車両搭載時において路面からの位置が高くなるホイールシリンダWSに組み付けられており、図3に具体的に示すように、集電ブラシ22aはブレーキドラム11の内面に絶縁層を介して組み付けられた導電性を有するスリップリング23aと摺動し、集電ブラシ22bはブレーキドラム11の内面に組み付けられた導電性を有するスリップリング23bと摺動するようになっている。ここで、導電性を有するスリップリング23aは、図3に示すように、熱電変換部21の一面側21a(加熱側)と電気的に接続されている。また、導電性を有するスリップリング23bは、図3に示すように、熱電変換部21の他面側21b(冷却側)と電気的に接続されている。
【0027】
さらに、熱回収部20は、図3に示すように、変圧回路24とバッテリ25とを備えている。変圧回路24は、例えば、DC−DCコンバータやコンデンサなどを主要構成部品として熱電変換部21(より具体的には、集電ブラシ22a,22b)とバッテリ25とを電気的に接続する電気回路である。そして、変圧回路24は、熱電変換部21によって発電された回生電力を変圧してバッテリ25に出力する。バッテリ25は、変圧回路24から出力された回生電力を蓄電するものである。
【0028】
このように構成された熱回収部20においては、熱電変換部21の一面側21aは、摺動部材11aに密着しているため、ブレーキシュー12のライニング12aと摺動部材11aとの摩擦係合により発生する摩擦熱(熱エネルギー)によって加熱される。一方、熱電変換部21の他面側21bは、外気に曝されているブレーキドラム11の内周面に密着しているため、例えば、走行風などによってブレーキドラム11が冷却されることに伴って冷却される。これにより、制動部10が回転している車輪Wに制動力を付与している状況においては、熱電変換部21の一面側21a(加熱側)と他面側21b(冷却側)との間に温度差が生じるため、熱電変換部21は、発生した温度差に応じた回線電力(電気エネルギー)を周知のゼーベック効果により発電することができる。
【0029】
そして、熱電変換部21によって発電された回生電力は、電気的に接続されたスリップリング23a,23bを介して、集電ブラシ22a,22bによって集電される。具体的には、スリップリング23a,23bは、ブレーキドラム11に組み付けられているため、熱電変換部21とともに一体的に回転する。また、熱電変換部21とスリップリング23a,23bとは、互いに電気的に接続されている。そして、回転不能に車体側に固定されたホイールシリンダWSに組み付けられた集電ブラシ22a,22bは、回転するスリップリング23a,23bに対して摺動しながら回生電力を集電する。
【0030】
このように集電された回生電力は、変圧回路24によって変圧されてバッテリ25に出力される。そして、バッテリ25は、出力された回生電力を蓄電し、蓄電された回生電力は、例えば、車両に搭載された各種機器の駆動に利用される。
【0031】
以上の説明からも理解できるように、本実施形態によれば、ドラムブレーキユニットにおいて、ブレーキドラム11の内周面にブレーキシュー12のライニング12aと摩擦係合する摺動部材11aをブレーキドラム11の内周面に対して相対変位不能に設け、この摺動部材11aとブレーキドラム11の内周面とにより、熱電変換部21を挟持することができる。これにより、制動時において、摺動部材11aとブレーキシュー12のライニング12aとが摩擦係合して摩擦熱(熱エネルギー)が生じると、摺動部材11aに密着する熱電変換部21の一面側21aが加熱されるとともにブレーキドラム11の内周面に密着する熱電変換部21の他面側21bが冷却される。したがって、熱電変換部21の一面側21a(加熱側)と他面側21b(冷却側)との間に温度差を適切に生じさせることができるため、例えば、周知のゼーベック効果によって発生した熱エネルギーを電気エネルギーに効率よく変換することができる。また、ブレーキドラム11と一体的に回転しない集電ブラシ22a,22bが摺動を伴って変換された回生電力(電気エネルギー)を回収することができるため、極めて簡便な構造により確実に回生電力(電気エネルギー)を回収することができる。
【0032】
ここで、ドラムブレーキユニットにおいては、ブレーキドラム11の開口側(車体側)がバックプレートBPによって塞がれる構造であるため、制動により発生した摩擦熱(熱エネルギー)がブレーキドラム11の内部に籠りやすい。したがって、熱電変換部21の一面側21a(加熱側)は比較的長い時間にわたり高温状態が維持される一方で、熱電変換部21の他面側21b(冷却側)は走行風などによって常に冷却される。このため、熱電変換部21は、長時間にわたって継続して摩擦熱(熱エネルギー)を回生電力(電気エネルギー)に変換することができるため、効率よく電力を回収することができる。
【0033】
また、熱電変換部21は、ブレーキドラム11の内周面に対して相対変位不能に組み付けられた摺動部材11aによってブレーキドラム11の内周面に密着して組み付けられる。これにより、制動に伴ってブレーキシュー12のライニング12aが摺動部材11aと摩擦係合した場合であっても、熱電変換部21は摺動部材11aによって保護されているため、例えば、摩擦係合に伴うせん断力によって熱電変換部21が破損することを防止することができる。
【0034】
上記実施形態においては、ホイールシリンダWSに組み付けられた集電ブラシ22a,22bがブレーキドラム11と一体的に回転するとともに熱電変換部21と電気的に接続されたスリップリング23a,23bと摺動することにより、言い換えれば、スリップリング23a,23bを介することにより、発電された回生電力を集電するように実施した。この場合、ブレーキドラム11および摺動部材11aが導電性を有する金属材料から形成されるため、スリップリング23a,23bを設けることなく集電ブラシ22a,22bが回生電力を集電することが可能である。すなわち、この場合には、図4および図5に概略的に示すように、集電ブラシ22aは熱電変換部21の一面側21a(加熱側)に密着する摺動部材11aに接触して摺動するように配置され、集電ブラシ22bは熱電変換部21の他面側21b(冷却側)に密着するブレーキドラム11の内面に接触して摺動するように配置される。
【0035】
このように、集電ブラシ22a,22bが配置され、それぞれ、摺動部材11aとブレーキドラム11の内面とに接触して摺動することによっても、熱電変換部21によって発電された回生電力を集電することができる。したがって、この場合であっても、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0036】
また、上記実施形態においては、熱電変換部21の他面側21b(冷却側)と電気的に接続されるスリップリング23bを設けて実施した。しかしながら、上述したように、ブレーキドラム11は一般的に導電性を有する金属材料から形成されるため、スリップリング23bを省略して実施することも可能である。この場合、図6に示すように、集電ブラシ22aは、上記実施形態と同様に、熱電変換部21の一面側21a(加熱側)と電気的に接続されてブレーキドラム11の内面に絶縁層を介して組み付けられるスリップリング23aと摺動するように配置され、集電ブラシ22bは、熱電変換部21の他面側21b(冷却側)に密着するブレーキドラム11の内面に直接接触するように配置される。したがって、この場合であっても、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0037】
また、上記実施形態においては、例えば、深い水溜りなどを走行する際に飛散する泥や水の影響を受けにくくするために、集電ブラシ22a,22bを路面からの高さが高くなるホイールシリンダWSに組み付けるように実施した。この場合、より防水性を高めるために、図7に概略的に示すように、従来からハブベアリングBに設けられているシール部材Gによるシール構造内に集電ブラシ22a,22bおよびスリップリング23a,23bを収容して実施することも可能である。
【0038】
具体的に説明すると、この場合、集電ブラシ22a,22bは、図7に示すように、シール部材GとハブベアリングBを構成するアウターベアリングとの間に配置され、かつ、ハブベアリングBの外輪側(回転しない側)に組み付けられている。また、この場合、スリップリング23a,23bは、図7に示すように、集電ブラシ22a,22bに対向してハブベアリングBの内輪側(ハブHと一体的に回転する側)に絶縁層を介して組み付けられている。そして、スリップリング23a,23bは、それぞれ、上記実施形態と同様にブレーキドラム11の内周面に組み付けられた熱電変換部21に電気的に接続される。具体的には、上記実施形態と同様に、スリップリング23aは熱電変換部21の一面側21a(加熱側)と電気的に接続され、スリップリング23bは熱電変換部21の他面側21b(冷却側)と電気的に接続される。なお、この場合、図7に示したように、シール部材Gの内側でアウターベアリングの外側に集電ブラシ22a,22bおよびスリップリング23a,23bを設けることに代えて、例えば、アウターベアリングとインナーベアリング間に集電ブラシ22a,22bおよびスリップリング23a,23bを設けてもよい。
【0039】
このように、ハブベアリングBのシール構造内に集電ブラシ22a,22bおよびスリップリング23a,23bを収容することにより、防水性を良好に確保することができる。これにより、例えば、泥や水による集電ブラシ22a,22bおよびスリップリング23a,23bの腐食を良好に防止することができ、熱電変換部21によって発電された回生電力を長期間にわたり効率よく集電(回収)することができる。その他の効果については、上記実施形態と同様である。
【0040】
さらに、上記実施形態においては、ブレーキドラム11に対して、予め円筒状に形成した摺動部材11aを組み付けて(嵌め込んで)、熱電変換部21をブレーキドラム11の内周面および摺動部材11aの外周面に密着させるようにした。この場合、より組み付け性を向上させるために、図8(a)に概略的に示すように、板状のばね鋼から形成した摺動部材11aに接着層を介して板状(薄膜状)の熱電変換部21を積層し、さらに、熱電変換部21に接着層を積層した仮組み付け部材を予め成形しておく。そして、この仮組み付け部材を、図8(b)に示すように、湾曲させてブレーキドラム11の内周面に組み付け、仮組み付け部材がブレーキドラム11の内周方向に相対変位することを防止するキーを嵌め込む。これにより、湾曲された摺動部材11a(ばね鋼)の反発力により、熱電変換部21が摺動部材11aおよびブレーキドラム11の内周面に密着される状態が実現される。また、キーを嵌め込むことにより、摺動部材11aの相対変位を防止することができて、摩擦係合に伴うせん断力によって熱電変換部21が破損することも防止することができる。
【0041】
このように、摺動部材11aおよび熱電変換部21をブレーキドラム11の内周面に組み付けることにより、例えば、冷却装置などが不要となり簡便な組み付け装置を用いることができて、製造コストを低減することができる。
【0042】
なお、このような組み付け方法を採用する場合には、組み付け後の摺動部材11aの内周面に対してキーが若干突出する場合がある。この場合には、キーの突出部分を、例えば、切削加工により切削して、摺動部材11aの内周面を平滑にしておくことが好ましい。このように摺動部材11aの内周面を平滑にしておくことにより、制動時においてブレーキシュー12のライニング12aと摩擦係合する際に発生する振動を抑制することができる。
【0043】
また、この場合、仮組み付け部材を、例えば、2つに予め分割しておき、図9に概略的に示すように、これら仮組み付け部材を湾曲させてブレーキドラム11の内周面に組み付けた後、2つのキーを嵌め込んで摺動部材11aおよび熱電変換部21をブレーキドラム11の内周面に組み付けることも可能である。この場合においても、簡便な組み付け装置を用いることができて、製造コストを低減することができる。
【0044】
さらに、摺動部材11aをばね鋼以外の金属から形成した場合には、例えば、図8(b)および図9に示すように、嵌め込まれるキーが摺動部材11aをブレーキドラム11の内周方向に拡張する力を発生させるようにすることができる。この場合には、キーによる拡張する力により、熱電変換部21が摺動部材11aおよびブレーキドラム11の内周面に密着される状態が実現される。
【0045】
本発明の実施にあたっては、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。
【0046】
例えば、上記実施形態においては、熱電変換部21をブレーキドラム11の内周面の全周に渡り配置するように実施した。この場合、摺動部材11aが伝熱性に優れた金属材料から形成されるため、例えば、熱電変換部21をブレーキドラム11の内周面に対して間隔を有して複数配置して実施することも可能である。この場合であっても、上記実施形態および各変形例と同様の効果が期待できる。
【0047】
また、上記実施形態においては、集電ブラシ22a,22bをホイールシリンダWSに組み付けて実施した。しかしながら、防水性を確保可能であれば、集電ブラシ22a,22bをホイールシリンダWSに組み付けることに限定することなく、ブレーキドラム11内であればいかなる位置に集電ブラシ22a,22bを設けてもよい。
【符号の説明】
【0048】
10…制動部、11…ブレーキドラム、11a…摺動部材、12…ブレーキシュー、12a…ライニング、20…熱回収部、21…熱電変換部、21a…一面側(加熱側)、21b…他面側(冷却側)、22a,22b…集電ブラシ、23a,23b…スリップリング、24…変圧回路、25…バッテリ、S…車両用制動装置、W…車輪、H…ハブ、B…ハブナット、N…ナックル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪の回転に対して制動力を付与するとともにこの制動力の付与に伴って発生する熱エネルギーを回収する車両用制動装置において、
前記車輪の回転に対して回転不能に組み付けられたブレーキシューの摩擦部材と摩擦係合する金属製の摺動部材を前記車輪と一体的に回転するブレーキドラムの内周面に対して相対変位不能に設けて、前記車輪の回転に対して摩擦による制動力を付与する制動力付与手段と、
前記ブレーキドラムの内周面と前記摺動部材との間に配置されて、前記摩擦によって発生する熱エネルギーを回収して電気エネルギーに変換する熱電変換手段とを備えたことを特徴とする車両用制動装置。
【請求項2】
請求項1に記載した車両用制動装置において、
前記車輪の回転に対して回転不能に設けられて、前記ブレーキドラムと一体的に回転する前記熱電変換手段によって変換された電気エネルギーを集電する集電手段を備えたことを特徴とする車両用制動装置。
【請求項3】
請求項2に記載した車両用制動装置において、
前記集電手段は、
前記熱電変換手段の一面側と電気的に接続された前記摺動部材との間で摺動して集電するとともに、前記熱電変換手段の他面側と電気的に接続された前記ブレーキドラムの内面との間で摺動して集電することを特徴とする車両用制動装置。
【請求項4】
請求項2に記載した車両用制動装置において、
前記集電手段は、
前記熱電変換手段の一面側と電気的に接続されて前記ブレーキドラムの内周面と一体的に回転するスリップリングとの間で摺動して集電するとともに、前記熱電変換手段の他面側と電気的に接続されて前記ブレーキドラムの内周面と一体的に回転するスリップリングとの間で摺動して集電することを特徴とする車両用制動装置。
【請求項5】
請求項2に記載した車両用制動装置において、
前記集電手段を、
前記ブレーキシューの摩擦部材を前記ブレーキドラムの摺動部材に摩擦係合させるために設けられたホイールシリンダ、または、前記ブレーキドラムを支持するハブを回転可能に支持するハブベアリングに設けられたシール機構内部に設けたことを特徴とする車両用制動装置。
【請求項6】
請求項1に記載した車両用制動装置において、さらに、
前記熱電変換手段によって変換された電気エネルギーを蓄電する蓄電手段を備えたことを特徴とする車両用制動装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2011−133068(P2011−133068A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−294387(P2009−294387)
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】