説明

車両用制動装置

【課題】車輪の回転に連動して回転可能なフライホイールを備え、ブレーキ操作力に応じた制動力が得られる車両用制動装置を提供する。
【解決手段】車両用制動装置(主制動装置100)は、車輪の車軸に連結される入力軸と、この入力軸に対して同軸的に配置され入力軸の回転を増速させて出力軸20に出力する入力側遊星歯車式増速器30と、この入力側遊星歯車式増速器30に対して同軸的に配置された無段変速機40と、この無段変速機40に対して同軸的に配置されて同無段変速機40の出力部42にクラッチ装置50を介して連結されるフライホイール70とを備えている。無段変速機40は、ブレーキ操作力に応じて変速させるべく作動する変換機構部CMを備えている。電気制御装置は、変換機構部CMの作動を制御する変換機構部制御手段と、クラッチ装置50の断続作動を制御するクラッチ制御手段を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、車両において車輪を制動するために採用される制動装置に係り、特に、フライホイールを備えた車両用制動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
フライホイールを備えた車両用制動装置の一つとして、例えば、下記特許文献1に示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−263739号公報
【0004】
上記した特許文献1に記載されている車両用制動装置では、走行時のブレーキ操作に伴って、停止していたフライホイールを回転させることができて、車両を制動することが可能である。なお、上記したフライホイールの回転は、ブレーキ操作力に拘わらず、車輪の回転に応じて決まるようになっている。
【発明の概要】
【0005】
ところで、上記した特許文献1に記載されている車両用制動装置では、ブレーキ操作力に応じてフライホイールの回転を制御することができなくて、ブレーキ操作力に応じた制動力は得られない。このため、上記した車両用制動装置は、回生ブレーキ装置としては使用できるものの、一般的なブレーキ装置(ブレーキ操作力に応じた制動力が得られるもの)としては使用できないものである。
【0006】
本発明は、上記した課題を解決すべくなされたものであり、
車輪の車軸に連結される入力軸と、
この入力軸に同軸的に配置されて同入力軸の回転を増速させて出力軸に出力する入力側増速器と、
この入力側増速器に同軸的に配置され、前記入力側増速器の前記出力軸に連結されて一体的に回転する入力部と、この入力部とは別個に回転する出力部を備えるとともに、ブレーキ操作力に応じて変速させるべく作動する変換機構部を備えていて、前記入力部の回転を前記ブレーキ操作力の増大に応じて前記出力部の回転に無段階に増速可能な無段変速機と、
この無段変速機に同軸的に配置されて同無段変速機の前記出力部にクラッチ装置を介して連結されるフライホイールと、
前記変換機構部の作動をブレーキ操作力に応じて制御する変換機構部制御手段と、
前記クラッチ装置の断続作動を前記入力軸及び前記フライホイールの回転速度と前記ブレーキ操作力に応じて制御するクラッチ制御手段と
を備える車両用制動装置に特徴がある。
【0007】
本発明による車両用制動装置においては、車両の非制動の停止時(車輪とフライホイールが共に停止している状態)において、クラッチ装置を接続状態として動力伝達可能状態としておけば、無段変速機が初期状態にあって初期の変速状態(例えば、減速状態)にある。このため、この状態では、車輪の回転が車軸と入力軸と入力側増速器と無段変速機とクラッチ装置を介してフライホイールに伝達可能であり、車輪の回転は所定の比率(入力側増速器での増速比と無段変速機での変速比により決まる比率)でフライホイールに伝達可能であって、車輪とフライホイールは同期状態にある。このため、かかる状態にて車輪が回転すると、車輪の回転が所定の比率でフライホイールに伝達されて、フライホイールは車輪に同期した状態で回転する。
【0008】
ところで、車輪が回転しこれに同期した状態でフライホイールが回転している状態(車両の非制動の走行状態)にて、ブレーキ操作すれば、無段変速機にて、変換機構部がブレーキ操作力に応じて変速させるべく作動して、入力部の回転がブレーキ操作力の増大に応じて出力部の回転に無段階に増速される。この結果、ブレーキ操作力に応じて、車輪の回転に対してフライホイールが所定の比率以上で高速回転し、車輪側の回転がフライホイールの回転慣性力としてフライホイールに蓄えられて、車輪が制動される。
【0009】
また、上記した制動状態(車輪の回転に対してフライホイールが所定の比率以上で高速回転している状態)にて、ブレーキ操作を解除したとき、クラッチ装置が接続状態から遮断状態に切り換わるように設定しておけば、ブレーキ操作の解除に伴って、車輪とフライホイールの動力伝達が遮断されて、車輪の制動が解除される。なお、車輪の制動が解除された状態にて、フライホイールの回転が車輪の回転に同期する状態まで減速したとき、クラッチ装置が遮断状態から接続状態に切り換わるように設定しておけば、上記した車両の非制動の走行状態とすることが可能であり、次回の制動に備えることが可能である。
【0010】
上記した本発明の実施に際して、当該車両用制動装置が、前記クラッチ装置と前記フライホイール間に同軸的に配置され、前記無段変速機の前記出力部に前記クラッチ装置を介して連結される入力要素と、前記フライホイールに連結されて一体的に回転する出力要素を備えている出力側増速器を備えていることも可能である。この場合には、出力側増速器にてフライホイールの回転を増速させることが可能であるため、出力側増速器を設けない場合に比して、フライホイールを高速回転させることが可能であり、フライホイールの小型化が可能である。
【0011】
また、上記した本発明の実施に際して、当該車両用制動装置が、前記フライホイールをロータとする電気モータと、この電気モータの作動をブレーキ操作とアクセル操作に基づいて制御するモータ制御手段と、このモータ制御手段に接続された蓄電装置を備えていることも可能である。この場合には、ブレーキ操作がなされる制動時において、電気モータを回生モータとして使用し、フライホイールの運動エネルギー(慣性エネルギー)を蓄電装置に電気エネルギーとして回収することが可能であり、また、アクセル操作がなされる発進・加速時において、蓄電装置に回収した電気エネルギーを利用して電気モータを駆動し、フライホイールの運動エネルギーとして再利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明による車両用制動装置の一実施形態を概略的に示す全体構成図である。
【図2】図1に示した主制動装置の非制動状態での内部構成を概略的に示した拡大断面図である。
【図3】図1に示した主制動装置の制動状態での内部構成を概略的に示した拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。図1〜図3は本発明による車両用制動装置の一実施形態を示していて、この実施形態の車両用制動装置は、車速が設定車速(例えば、15km/h)以上の制動時に作動するように設定されている主制動装置100と、車速が設定車速(例えば、15km/h)未満の制動時に作動するように設定されている副制動装置としてのディスクブレーキ装置200を備えるとともに、ブレーキペダルBPの踏み込み操作(ブレーキ操作)に応じて作動するブレーキマスタシリンダMCから主制動装置100とディスクブレーキ装置200に供給される油圧を制御する油圧制御装置300と、蓄電池400と、主制動装置100、油圧制御装置300、蓄電池400等に接続された電源制御回路500と、この電源制御回路500と主制動装置100および油圧制御装置300とアクセルペダルAPに設けたセンサS1に接続された電気制御装置ECUを備えている。
【0014】
主制動装置100は、図1〜図3に示したように、車輪Wの車軸Waに連結される入力軸10と、この入力軸10に対して同軸的に配置され入力軸10の回転を増速させて出力軸20に出力する入力側遊星歯車式増速器30と、この入力側遊星歯車式増速器30に対して同軸的に配置されたトロイダル式無段変速機40と、この無段変速機40に対して同軸的に配置されて同無段変速機40の出力部42にクラッチ装置50と出力側遊星歯車式増速器60を介して連結されるフライホイール70とを備えている。
【0015】
入力側遊星歯車式増速器30は、キャリア31を入力要素とし、サンギヤ32を出力要素とし、リングギヤ33を固定要素とする増速器であり、支持ピン34およびプラネタリーギヤ35を備えている。キャリア31は、入力軸10に一体的に連結されている。サンギヤ32は、出力軸20に一体的に形成されている。リングギヤ33は、車体(図示省略)に組付けられるハウジング90(断面表示省略)に一体的に組付けられている。支持ピン34は、キャリア31に一体的に設けられている。プラネタリーギヤ35は支持ピン34に回転可能に組付けられていて、サンギヤ32とリングギヤ33に噛合している。
【0016】
無段変速機40は、図2および図3に示したように、入力部41と出力部42と変換機構部CMを備えていて、入力部41の回転をブレーキ操作力の増大に応じて出力部42の回転に無段階に増速可能である。入力部41は、入力側遊星歯車式増速器30の出力軸20に連結されていて一体的に回転する。出力部42は、入力部41に対して対向配置されていて、入力部41とは別個に回転する。変換機構部CMは、ブレーキ操作力に応じて変速させるべく作動するものであり、入力部41および出力部42と摩擦係合するボール43と、このボール43を回転可能に支持する支持軸44と、この支持軸44の各端部に連結された一対の支持アーム45,46と、各支持アーム45,46の内端部を径方向に移動可能(ボール43と支持軸44を図2の状態(減速状態)と図3の状態(増速状態)間で傾動可能)に保持するキャリア47と、このキャリア47に連結されていてキャリア47を軸方向に移動させるためのロッド48と、このロッド48を軸方向に駆動する(図2の状態から図3の状態に駆動する)ための油圧シリンダ49を備えている。油圧シリンダ49(変換機構部CM)は、電気制御装置ECUが備える油圧シリンダ(変換機構部)制御手段によって作動を制御されていて、ブレーキ操作力の増大に応じて油圧制御装置300から供給される油圧が増大してキャリア47、ロッド48等(変換機構部CM)が図3の状態(増速状態)に向けて駆動されるように構成されており、キャリア47、ロッド48等を図2の状態(初期状態)に戻すためのリターンスプリング(図示省略)が設けられている。
【0017】
クラッチ装置50は、無段変速機40の出力部42と、出力側遊星歯車式増速器60の入力要素としての入力キャリア61との動力伝達を断続するための電磁式クラッチ装置であり、その断続作動は電気制御装置ECUが備えるクラッチ制御手段によって、入力軸10及びフライホイール60の回転速度(各回転速度は回転センサ(図示省略)によって検出されて電気制御装置ECUに入力されるように構成されている)とブレーキ操作力(油圧制御装置300に設けた油圧センサS2によって検出されて電気制御装置ECUに入力されるように構成されている)に応じて制御されるように構成されている。
【0018】
出力側遊星歯車式増速器60は、入力側遊星歯車式増速器30の増速比より大きい増速比で無段変速機40における出力部42の回転を増速させてフライホイール70に出力するものであり、クラッチ装置50とフライホイール70間に同軸的に配置されていて、無段変速機40の出力部42にクラッチ装置50を介して連結される入力要素としての入力キャリア61と、フライホイール70連結されて一体的に回転する出力要素としての出力軸62を備えている。また、出力側遊星歯車式増速器60は、入力キャリア61に支持ピン63を介して回転可能に組付けた入力側プラネタリーギヤ64と、固定要素としての出力側キャリア65と、この出力側キャリア65に支持ピン66を介して回転可能に組付けた出力側プラネタリーギヤ67と、入力側プラネタリーギヤ64と出力側プラネタリーギヤ67が噛合するリングギヤ68と、出力軸62に一体的に設けられて入力側プラネタリーギヤ64が噛合する入力側サンギヤ69aと出力側プラネタリーギヤ67が噛合する出力側サンギヤ69bを備えている。
【0019】
フライホイール70は、無段変速機40が図2の減速状態にあり、クラッチ装置50が接続状態であって動力伝達可能状態であるとき、車輪W(入力軸10)の回転が所定の比率(入力側遊星歯車式増速器30での増速比と無段変速機40での変速比と出力側遊星歯車式増速器60の増速比により決まる増速比率)で増速されて回転するように構成されている。また、フライホイール70は、ハウジング90に組付けたコイル80内にて回転するマグネットロータであり、コイル80とで電気モータEMを構成している。この電気モータEMは、電源制御回路500に3本に電線にて接続されていて、電源制御回路500が電気制御装置ECUのモータ制御手段によってブレーキ操作(センサS2によって検出される)とアクセル操作(センサS1によって検出される)に基づいて制御されることにより、ブレーキ操作時には回生モータとして機能し、アクセル操作時には駆動モータとして機能するように構成されている。
【0020】
電気制御装置ECUは、上記したクラッチ制御手段およびモータ制御手段を備えるとともに、油圧シリンダ制御手段と周知のブレーキ油圧制御手段(例えば、ABS制御プログラム)等を備えている。クラッチ制御手段は、車両の非制動の停止時(車輪Wとフライホイール70が共に停止している状態)において、クラッチ装置50を接続状態とする制御プログラムを備えるとともに、制動状態(車輪Wの回転に対してフライホイール70が所定の比率以上で高速回転している状態)にて、ブレーキ操作が解除されたとき、クラッチ装置50が接続状態から遮断状態に切り換わる制御プログラムと、車輪Wの制動が解除された状態にて、フライホイール70が車輪Wに同期する状態まで減速したとき、クラッチ装置50が遮断状態から接続状態に切り換わる制御プログラムを備えている。
【0021】
モータ制御手段は、ブレーキ操作がなされる制動時において、電気モータEMを回生モータとして機能させてフライホイール70の運動エネルギーを蓄電地400に電気エネルギーとして回収する制御プログラムと、アクセル操作がなされる発進・加速時において、電気モータEMを駆動モータとして機能させて蓄電地400に回収した電気エネルギーをフライホイール70の運動エネルギーとする制御プログラムを備えている。油圧シリンダ(変換機構部)制御手段は、ブレーキ操作がなされたときにブレーキ操作力に応じた油圧が油圧制御装置300から油圧シリンダ49に供給されるようにする制御プログラムを備えている。
【0022】
上記にように構成したこの実施形態の車両用制動装置においては、車両の非制動の停止時(車輪Wとフライホイール70が共に停止している状態)において、クラッチ装置50が接続状態とされ動力伝達可能状態とされるので、無段変速機40が図2に示した初期状態にあって初期の変速状態(例えば、減速状態)にある。このため、この状態では、車輪Wの回転が車軸Waと入力軸10と入力側遊星歯車式増速器30と無段変速機40とクラッチ装置50と出力側遊星歯車式増速器60を介してフライホイール70に伝達可能であり、車輪Wの回転は所定の比率(入力側遊星歯車式増速器30での増速比と無段変速機40での変速比と出力側遊星歯車式増速器60の増速比により決まる増速比率)でフライホイール70に伝達可能であって、車輪Wとフライホイール70は同期状態にある。このため、かかる状態にて車輪Wが回転すると、車輪Wの回転が所定の比率でフライホイール70に伝達されて、フライホイール70は車輪Wに同期した状態(車輪Wに対して所定の比率で増速した状態)で回転する。
【0023】
ところで、車輪Wが回転しこれに同期した状態でフライホイール70が回転している状態(車両の非制動の走行状態)にて、ブレーキペダルBPを踏み込んでブレーキ操作すれば、無段変速機40にて、変換機構部CMがブレーキ操作力に応じて変速させるべく作動して、入力部41の回転がブレーキ操作力の増大に応じて出力部42の回転に無段階に増速される。この結果、ブレーキ操作力に応じて、車輪Wの回転に対してフライホイール70が所定の比率以上で高速回転し、車輪W側の回転がフライホイール70の回転慣性力としてフライホイール70に蓄えられて、車輪Wが制動される。この制動時には、電気モータEMが回生モータとして機能するため、フライホイール70の運動エネルギーが蓄電地400に電気エネルギーとして回収される。
【0024】
また、上記した制動状態(車輪Wの回転に対してフライホイール70が所定の比率以上で高速回転している状態)にて、ブレーキ操作を解除したとき、クラッチ装置50が接続状態から遮断状態に切り換わるので、ブレーキ操作の解除に伴って、車輪Wとフライホイール70の動力伝達が遮断されて、車輪Wの制動が解除される。なお、車輪Wの制動が解除された状態にて、フライホイール70の回転が車輪Wの回転に同期する状態まで減速したときには、クラッチ装置50が遮断状態から接続状態に切り換わるので、上記した車両の非制動の走行状態とすることが可能であり、次回の制動に備えることが可能である。
【0025】
また、この実施形態の車両用制動装置においては、クラッチ装置50とフライホイール70間に出力側遊星歯車式増速器60が同軸的に配置されている。このため、出力側遊星歯車式増速器60にてフライホイール70の回転を増速させることが可能であって、出力側遊星歯車式増速器60を設けない場合に比して、フライホイール70を高速回転させることが可能であり、フライホイール70の小型化が可能である。
【0026】
また、この実施形態の車両用制動装置においては、フライホイール70をマグネットロータとする電気モータEMと、この電気モータEMの作動をブレーキ操作とアクセル操作に基づいて制御するモータ制御手段(電気制御装置ECUに組み込まれている)と、このモータ制御手段に電源制御回路500介して接続された蓄電池400を備えている。このため、ブレーキ操作がなされる制動時において、電気モータEMを回生モータとして使用し、フライホイール70の運動エネルギー(慣性エネルギー)を蓄電池400に電気エネルギーとして回収することが可能であり、また、アクセル操作がなされる発進・加速時において、蓄電池400に回収した電気エネルギーを利用して電気モータEMを駆動し、フライホイール70の運動エネルギーとして再利用することが可能である。
【0027】
上記した実施形態においては、フライホイール70をマグネットロータとする電気モータEMを設けるとともに、電気モータEMの作動をブレーキ操作とアクセル操作に基づいて制御するモータ制御手段や電源制御回路500、蓄電池400等を設けて実施したが、これらを無くして実施することも可能である。また、上記した実施形態においては、クラッチ装置50とフライホイール70間に出力側遊星歯車式増速器60を設けて実施したが、出力側遊星歯車式増速器60を無くして実施する(フライホイール70が無段変速機40の出力部42にクラッチ装置50を介して連結されるように構成して実施する)ことも可能である。また、上記した実施形態においては、無段変速機としてトロイダル式無段変速機40を採用して実施したが、無段変速機として他の形式の無段変速機(例えば、プラネタリーギヤを用いた無段変速機)を採用して実施することも可能である。
【0028】
また、上記した実施形態においては、車速が設定車速(例えば、15km/h)以上の制動時に主制動装置100が作動し、車速が設定車速(例えば、15km/h)未満の制動時に副制動装置としてのディスクブレーキ装置200が作動するように設定されている(フライホイール70にて回転慣性力として回収できる運動エネルギーが少ないときには、ディスクブレーキ装置200のような摩擦ブレーキを作動させる)が、車速が設定車速(例えば、15km/h)未満の制動時にも主制動装置100が作動するように設定すれば、副制動装置としてのディスクブレーキ装置200を設けないで実施することが可能である。
【0029】
また、上記した実施形態は本発明の一実施形態であり、本発明は特許請求の範囲の記載内容から逸脱しない範囲において各構成が適宜変更可能であり、上記実施形態の構成に限定されるものではない。例えば、上記実施形態のコイル80を設けない構成(フライホイール70をロータとする電気モータEMを設けない構成)として、ブレーキ操作後において、ブレーキ操作を解除しアクセル操作が行われる際に、直ちにクラッチ装置50が遮断状態から接続状態に切り換わるように設定すれば、ブレーキ操作の解除に伴って、無断変速機40が増速状態から減速状態(初期状態)に切り換わるとともに、アクセル操作に伴って、車輪Wとフライホイール70が動力伝達可能に接続されて、フライホイール70の運動エネルギーを車輪Wの駆動力(発進・加速力)として利用することが可能である。
【0030】
なお、上記実施形態において、ブレーキ操作がなされる制動時に電気モータEMが回生モータとして作動する際に回収される電気エネルギーを小さいものと設定すれば、フライホイール70の運動エネルギーが大きく減少しないため、上述したように、ブレーキ操作後において、ブレーキ操作を解除しアクセル操作が行われる際に、直ちにクラッチ装置50が遮断状態から接続状態に切り換わるように設定すれば、上述と同様の作動が得られて、フライホイール70の運動エネルギーを車輪Wの駆動力(発進・加速力)として利用することが可能である。
【0031】
また、上記実施形態の実施に際して、車輪Wの回転に対してフライホイール70が所定の比率以上で高速に回転している状態で、アクセル操作に応じてクラッチ装置50を接続状態として、フライホイール70の慣性エネルギーを車輪Wの回転駆動に利用し、フライホイール70の慣性エネルギーが不足した場合にのみ、電気モータEMによる車輪Wの駆動を行うようにしてもよい。このため、電気制御装置ECUが、車輪Wの制動が解除されてすぐ、例えば、アクセル操作がなされて車輪の加速が要求される状態において、クラッチ装置50が遮断状態から接続状態に切り換わるようにする制御プログラムを備えていてもよい。また、ブレーキ操作の解除に伴って、無断変速機40を、フライホイール70により車輪Wを回転駆動させ得る所定の比率に制御する構成としてもよい。
【符号の説明】
【0032】
100…主制動装置、10…入力軸、20…出力軸、30…入力側遊星歯車式増速器、40…トロイダル式無段変速機、42…無段変速機の出力部、CM…無段変速機の変換機構部、50…クラッチ装置、60…出力側遊星歯車式増速器、70…フライホイール、80…コイル、90…ハウジング、EM…電気モータ、200…ディスクブレーキ装置、300…油圧制御装置、400…蓄電池、500…電源制御回路、ECU…電気制御装置、BP…ブレーキペダル、AP…アクセルペダル、W…車輪、Wa…車軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪の車軸に連結される入力軸と、
この入力軸に同軸的に配置されて同入力軸の回転を増速させて出力軸に出力する入力側増速器と、
この入力側増速器に同軸的に配置され、前記入力側増速器の前記出力軸に連結されて一体的に回転する入力部と、この入力部とは別個に回転する出力部を備えるとともに、ブレーキ操作力に応じて変速させるべく作動する変換機構部を備えていて、前記入力部の回転を前記ブレーキ操作力の増大に応じて前記出力部の回転に無段階に増速可能な無段変速機と、
この無段変速機に同軸的に配置されて同無段変速機の前記出力部にクラッチ装置を介して連結されるフライホイールと、
前記変換機構部の作動をブレーキ操作力に応じて制御する変換機構部制御手段と、
前記クラッチ装置の断続作動を前記入力軸及び前記フライホイールの回転速度と前記ブレーキ操作力に応じて制御するクラッチ制御手段と
を備える車両用制動装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用制動装置において、
前記クラッチ装置と前記フライホイール間に同軸的に配置され、前記無段変速機の前記出力部に前記クラッチ装置を介して連結される入力要素と、前記フライホイールに連結されて一体的に回転する出力要素を備えている出力側増速器
を備える車両用制動装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の車両用制動装置において、
前記フライホイールをロータとする電気モータと、
この電気モータの作動をブレーキ操作とアクセル操作に基づいて制御するモータ制御手段と、
このモータ制御手段に接続された蓄電装置
を備える車両用制動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−117591(P2012−117591A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−266721(P2010−266721)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】