説明

車両用制御装置

【課題】車両のイグニションスイッチとスタータモータとに直列に飲酒検出装置と連動したノーマルクローズ構造のリレーを配置した構成において、飲酒運転を抑制し、かつリレーの接点が溶着する不具合の発生を抑制する車両用制御装置を提供する。
【解決手段】車両のイグニションスイッチ1とスタータモータ2とに直列にノーマルクローズ構造のリレー30を備えて、ドアキーシリンダ50からの開錠信号を受けるとボディECU5はインターロックECU3を起動し、インターロックECU3はただちにリレー30をオープンにする。これにより飲酒運転抑制とリレー30の接点溶着抑制とが達成できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
飲酒運転が大きな社会問題となるなかで、自動車の車両に飲酒運転を防止するシステムを組み込む技術の提案がなされてきている。例えば下記特許文献1には、ステアリングホイールに設けられつつ、運転者の煩わしさが抑制された飲酒運転防止装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−078708号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
飲酒運転を抑制するための装置構成としては、車両のイグニションスイッチとエンジンのスタータモータと直列に、飲酒検出装置と連動したリレー装置を組み込んで、運転者が飲酒状態であると検出されたらリレーをオフ状態にして、飲酒した運転者がイグニションオン操作を実行しても、エンジンを始動できないようにする構造が一般的である。
【0005】
その際に、同リレー装置がノーマルオープン(常開)構造の場合、それが故障すると運転者が飲酒しているか否かに関わらずエンジンが始動しなくなる。この不具合を回避する目的のためには、同リレーをノーマルクローズ(常閉)構造とすることが考えられる。
【0006】
従来技術においては、飲酒検出装置の起動はイグニションオンのタイミングで実行されていた。その際、飲酒運転防止のためにはイグニションオン後ただちにリレーをオープンにして飲酒状態検出を実行しなければならない。したがって、イグニションスイッチとスタータモータと直列に配置されるリレーをノーマルクローズ構造とした場合、イグニションオンのタイミングで飲酒状態検出装置を起動すると、リレーには、イグニションオンからその直後のリレーのオフの時点までの短い期間(通常数msec)だけ電流が流れることとなる。
【0007】
図4(a)には、このような従来技術におけるリレーの開閉状態と、その接点を流れる電流(以下、リレー電流)の例が示されている。こうした短い期間のみ流れる電流によってリレーの接点が溶着する可能性があるとの知見を本発明者は得ている。この溶着の発生は、上記特許文献1を含む従来技術では抑制できない。
【0008】
そこで本発明が解決しようとする課題は、上記問題点に鑑み、車両のイグニションスイッチとスタータモータとに直列に飲酒検出装置と連動したノーマルクローズ構造のリレーを配置した構成において、飲酒運転を抑制し、かつリレーの接点が溶着する不具合の発生を抑制する車両用制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0009】
上記課題を達成するために、本発明に係る車両用制御装置は、車両のイグニションスイッチとエンジンのスタータモータとに直列接続された常閉構造のリレー部と、前記車両の運転者が飲酒状態であることを検出する検出手段と、エンジン停止状態の車両において前記イグニションスイッチのオン操作が行われる時点よりも前に前記リレー部を開状態に切り替えて、運転者が飲酒状態であることを前記検出手段が検出したら前記リレー部の開状態を継続するように制御する制御手段と、を備えたことを特徴とする。
【0010】
これにより本発明に係る車両用制御装置では、車両のイグニションスイッチとエンジンのスタータモータとの間に運転者の飲酒状態を検出する手段と連動した常閉(ノーマルクローズ)構造のリレー部を配置した構成において、運転者によるイグニションスイッチのオン操作が行われる時点より以前に、リレー部を開状態に切り替えておき、運転者の飲酒状態が検出されたらリレー部を開状態のままにするので、従来技術のようにイグニションオンからリレーオープンの間の短い期間にリレーの接点に電流が流れることがない。したがって、ノーマルクローズなのでリレー操作部等の故障でエンジン始動できなくなる不具合が抑制されるとともに、従来技術のようにリレー部の接点が溶着する不具合も抑制されたうえで、飲酒運転が抑制できるとの顕著な複合的効果を達成できる。
【0011】
また前記車両のドアの開錠信号を取得する第1取得手段と、前記第1取得手段が前記開錠信号を取得したら前記制御手段を起動する第1起動手段と、を備えたとしてもよい。
【0012】
これにより車両のドアの開錠信号を取得したら制御手段を起動してリレー部を開状態に切り替えるので、車両ドアの開錠信号を利用することにより、ノーマルクローズなのでリレー操作部等の故障に強く、リレー部の接点溶着も抑制されて、飲酒運転が抑制できるとの顕著な複合的効果を達成する車両用制御装置が構築できる。
【0013】
また前記車両のドアランプの点灯信号を取得する第2取得手段と、前記第2取得手段が前記点灯信号を取得したら前記制御手段を起動する第2起動手段と、を備えたとしてもよい。
【0014】
これにより車両のドアランプの点灯信号を取得したら制御手段を起動してリレー部を開状態に切り替えるので、CAN通信などの車内通信システムを装備していない車両においても、車両ドアランプの点灯信号を利用することにより、ノーマルクローズなのでリレー操作部等の故障に強く、リレー部の接点溶着も抑制されて、飲酒運転が抑制できるとの顕著な複合的効果を達成する車両用制御装置が構築できる。
【0015】
また通信機能を有し、前記車両に固有の識別情報を有する携帯機と、前記車両に装備されて、その車両の周辺領域の前記携帯機から発信された信号が前記車両に固有の識別情報であることを判定する判定手段と、前記判定手段が前記車両に固有の識別情報を受信したと判定したら前記制御手段を起動する第3起動手段と、を備えたとしてもよい。
【0016】
これによりいわゆるスマートエントリシステムによる携帯機の認証が終了したら制御手段を起動してリレー部を開状態に切り替えるので、車両ドアの開錠信号やドアランプの点灯信号よりもさらに早いタイミングで制御手段を起動してリレーをオープンにする。よって飲酒した運転者がエンジンを始動する可能性を事実上除去できる。したがってノーマルクローズなのでリレー操作部等の故障に強く、リレー部の接点溶着も抑制されて、飲酒運転が抑制できるとの顕著な複合的効果を達成する車両用制御装置が構築できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施例1における車両用制御装置の構成図。
【図2】飲酒運転抑制処理のフローチャート。
【図3】実施例2における車両用制御装置の構成図。
【図4】リレー接点の電流の例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を図面を参照しつつ説明する。まず図1は、本発明に係る車両用制御装置100の実施例1における装置構成の概略図である。
【0019】
車両用制御装置100では、車両のキーシリンダ1(イグニションスイッチ)と車両のエンジンのスタータモータ2(モータ)との間にインターロックECU3(ECU)が配置されている。インターロックECU3はアルコール検出装置4と連動する。さらにボディECU5(ECU)が装備されて、バッテリー電圧線6から電圧が供給される。
【0020】
キーシリンダ1にはキー10(メカニカルキー)が挿入されてイグニションオンの角度まで回動されることによって、図1における電圧線6と接点35間が電気的に接続される。
【0021】
モータ2と電圧線6の間にはリレー20が接続されている。リレー20はコイル21、接点部22を備える。リレー20はノーマルオープン(常開)構造とし、コイル21に電流が流れない状態では接点部22はオープン(開)状態とし、コイル21が導通して適切な電流値の電流が流れることにより、電磁力の作用で接点部22がクローズ(閉)側に切り替えられる。接点部22がクローズ(閉)側に切り替えられることにより、モータ2に電力が供給され、それにより車両のエンジン(図示せず)が起動する。
【0022】
インターロックECU3は、リレー30、ドライブトランジスタ31、マイコン32を備える。リレー30はコイル33、接点部34を備える。マイコン32(及び後述のボディECU5、エンジンECU7、照合ECU8)は通常のコンピュータの構造を有するとし、演算などの各種情報処理のためのCPU、その作業領域としての一時記憶領域のRAM、不揮発性の記憶部などを備えるとすればよい。
【0023】
マイコン32からの指令によりドライブトランジスタ31に所定のベース電流が供給されるかされないかが切り替えられる。公知のとおり、ドライブトランジスタ31にベース電流が流れるとコレクタ電流が発生する。リレー30はノーマルクローズ(常閉)構造とする。リレー30においては、接点35がクローズ(閉)側の接点であり、接点36がオープン(開)側の接点である。コイル33に電流が流れない場合は接点部34はクローズ側の接点35と接し、コイル33に適切な電流値の電流が流れると、電磁力の作用で接点部34がオープン側の接点36の側に切り替えられる。
【0024】
アルコール検出装置4は、既に各種の装置が提案されているが、本発明においては、車両の運転者が飲酒状態(酒気帯び状態以上とする)であることを検出できる各種のアルコール検出装置を任意に使用することができる。例えばハンディタイプのアルコール検出装置で、通常はコンソールパネルに配置されて、運転者が手で持って自身の口元までもっていき、呼気を吹きかける。アルコール検出装置4には各種センサが装備されて、呼気中のアルコール濃度を検出する。
【0025】
ECU5はドアキーシリンダ50、ドアランプ51(カーテシランプ)を備える。ドアキーシリンダ50は車両のドアに装備されて、キー10が挿入されてドアのロック(施錠)、アンロック(開錠)がなされる。ドアランプ51は例えば車両ドアの内側に装備されて、車両ドアが開放されているときにボディECU5の指令で点灯されて、乗員の乗降のための照明の機能と、後続車両にドア開放を報知するための機能とを有する。電圧線6は車両搭載のバッテリーの1端子と接続されて、バッテリー電圧を引き出している。
【0026】
図2にはこうした構成のもとでの動作手順が示されている。この動作手順は、プログラム化して例えばマイコン32の記憶部に記憶しておき、エンジン停止時に、これをCPUが呼び出して自動的に処理するとすればよい。
【0027】
まず手順S10で、マイコン32は車両ドアの開錠信号を検知する。この手順は検知が完了する(S10:YES)まで繰り返し実行する。具体的には開錠信号は、ドアキーシリンダー50にキー10が挿入されて開錠角度まで回動されたことを検知した信号とする。
【0028】
あるいは開錠信号ではなく、車内LAN(Local Area Network)におけるCAN(Control Area Network)通信プロトコルによる通信開始の情報でもよい。CAN通信プロトコルによる車内通信は、通常ドアの開錠の情報を例えばボディECU5が得ることで開始される。またS10ではドアランプ51の点灯信号を取得するとしてもよい。この場合、ドアの開錠信号を車内通信するシステムが装備されていない車両にも本発明を適用できる。
【0029】
次にS20でインターロックECU3を起動する。具体的にはボディECU5にインターロックECU3を起動させる機能を持たせて、S10で開錠信号を取得したボディECU5がインターロックECU3を起動させるとすればよい。次にS30ではマイコン32がリレー30をオープンさせる。その際、S20の処理後直ちにS30を処理すればよい。次にS40ではアルコール検出装置4による飲酒検査を実行する。
【0030】
S50でマイコン32は、酒気帯び運転に相当する程度以上のアルコールが検出されたか否かを判定する。アルコールが検出された場合(S50:YES)は、図2の処理を終了する。したがってリレー30はオープンのままとされて、キー10でイグニションスイッチをオンにしてもエンジンは始動しない。アルコールが検出されなかった場合(S50:YES)はS60に進み、リレー30をクローズにする。したがって飲酒していない運転者によってエンジン始動が可能となる。
【0031】
図4には、従来技術の場合(a)と実施例1の場合(b)とにおけるリレー30の開閉動作と接点部34を流れる電流(リレー電流と表記)とを比較した例が示されている。
【0032】
従来技術の場合は、時刻t3で運転者がイグニションオン操作をすることによりインターロックECU3が起動し、飲酒運転を防止するために直ちに時刻t4でリレー30がオープンに切り替えられる。リレー30はノーマルクローズ構造なので、時刻t3以前の時点も、そして時刻t4でオープンに切り替えられるまでリレー30はクローズ(閉)側である。したがって時刻t3でイグニションオンとされることにより、接点部34に電流が流れる。そして時刻t4で接点部34がオープン側に切り替えられてリレー電流は終了する。したがって時刻t3からt4までの微小時間(通常数msec)の間のみ接点35に電流が流れることにより接点35が溶着する不具合が発生する可能性がある。
【0033】
一方本発明では、ドア開錠信号の時点t1でインターロックECU3が起動される。そして、ただちに時刻t2でリレー30をオープンにする。時点t2がt1の直後であれば、時点t2以前に運転者がイグニションオン操作をすることは事実上不可能となる。したがって運転者によるイグニションオン操作の時点t3は、リレーオープンの時点t2より後になる。
【0034】
したがってリレー30が閉状態にある期間ではイグニションオフの状態なので結局、図4(b)に示されている全時点で接点部34に電流は流れない。したがって当然リレー30において接点溶着の可能性はない。さらに飲酒運転者が車両ドア開錠後に迅速に行動してイグニションオン操作を実行しても、エンジンを始動できない。以上の説明からあきらかなように、時点t1からt2までの間隔は、運転者が最も迅速に行動した場合でもドア開錠からイグニションオンまでに要する時間よりも短く設定すればよい。
【0035】
次に実施例2を説明する。実施例1ではメカニカルキー10が用いられていたのに対して、実施例2の車両用制御装置100aでは、電子キー80によるいわゆるスマートエントリシステム、スマートスタートシステムが用いられる。図3に実施例2における装置構成例が示されている。以下で実施例1と同じ部分は説明を省略し、異なる部分を説明する。
【0036】
図3の構成では、ユーザ(乗員、運転者)が携帯する電子キー80(携帯機)と、車両に搭載された照合ECU8(照合手段)とを備えて、これらによってユーザの照合が実行される。さらにエンジンECU7、プッシュスタートスイッチ71、ドアハンドル52を備える。
【0037】
プッシュスタートスイッチ71は、スマートスタートシステムにおいてユーザ照合が完了した状態で押下されるとイグニションスイッチがオンとなるスイッチである。車両のドアに装備されたドアハンドル52にはタッチセンサが装備されており、乗員が車両のドアを開けようとドアハンドルを掴むときなどの何らかの接触を感知すると、その情報をボディECU5に送信する。
【0038】
ユーザ照合は具体的には、エンジン停止中の車両から、照合ECU8が装備する通信装置によって、車両周辺領域に向けてIDコード返信要求信号(要求信号)を定期的に送信する。要求信号の到達可能範囲に電子キー80がはいったら、電子キー80は要求信号を受信する。要求信号を受信した電子キー80は、自身のIDコードを返信する。
【0039】
返信されたIDコードを受信した照合ECU8は、記憶部に記憶されたマスターIDと照合する。受信したIDコードとマスターIDとが一致すると照合ECU8は、ユーザ照合が完了したとしてボディECU5に車両ドア開錠を許可する信号を送信する。この信号を受信したボディECU5は、ドアハンドル52に装備されたタッチセンサが何らかの接触を感知すると車両ドアを開錠する。
【0040】
また照合ECU8はユーザ照合が完了すると、エンジンECU7にイグニションオンを許可する信号を送信する。この信号を受信したエンジンECU7は、プッシュスタートスイッチ71が押下されると、図3のスイッチ70をオン(導通)状態とする。
【0041】
実施例2では、図2の処理手順において、S10における開錠信号を、例えばドアハンドル52のタッチセンサの接触信号とすればよい。あるいは開錠信号を照合ECU8による照合成功(電子キー80の認証終了)の信号に変更してもよい。
【0042】
照合成功によってインターロックECU3を起動する場合は、車両ドアの開錠やドアランプの点灯よりもさらに早いタイミングで(例えばドア開錠以前に)リレーをオープンするので、飲酒した運転者がいかに迅速に行動してもエンジン始動の可能性は事実上なくなる。よって飲酒運転防止にさらに好適である。
【符号の説明】
【0043】
1 イグニションスイッチ
2 スタータモータ
3 インターロックECU
4 アルコール検査装置
5 ボディECU
30 リレー
35、36 接点
100、100a 車両用制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のイグニションスイッチとエンジンのスタータモータとに直列接続された常閉構造のリレー部と、
前記車両の運転者が飲酒状態であることを検出する検出手段と、
エンジン停止状態の車両において前記イグニションスイッチのオン操作が行われる時点よりも前に前記リレー部を開状態に切り替えて、運転者が飲酒状態であることを前記検出手段が検出したら前記リレー部の開状態を継続するように制御する制御手段と、
を備えたことを特徴とする車両用制御装置。
【請求項2】
前記車両のドアの開錠信号を取得する第1取得手段と、
前記第1取得手段が前記開錠信号を取得したら前記制御手段を起動する第1起動手段と、
を備えた請求項1に記載の車両用制御装置。
【請求項3】
前記車両のドアランプの点灯信号を取得する第2取得手段と、
前記第2取得手段が前記点灯信号を取得したら前記制御手段を起動する第2起動手段と、
を備えた請求項1に記載の車両用制御装置。
【請求項4】
通信機能を有し、前記車両に固有の識別情報を有する携帯機と、
前記車両に装備されて、その車両の周辺領域の前記携帯機から発信された信号が前記車両に固有の識別情報であることを判定する判定手段と、
前記判定手段が前記車両に固有の識別情報を受信したと判定したら前記制御手段を起動する第3起動手段と、
を備えた請求項1に記載の車両用制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−31787(P2011−31787A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−181216(P2009−181216)
【出願日】平成21年8月4日(2009.8.4)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】