説明

車両用動力伝達装置

【課題】 トルク配分機構Aの油圧クラッチを作動させるための油圧を最小限のエネルギーで発生させる。
【解決手段】 車両用動力伝達装置の左右の油圧クラッチCL,CRを作動させる油圧を発生させる油圧供給装置61は、電動モータ66の回転運動を駆動方向変換機構69で油圧シリンダ62L,62R内のピストン63L,63Rの直線運動に変換し、ピストン63L,63Rの移動方向に応じて、2つの油室64L,64Rに交互に油圧を発生させる。左右の油圧クラッチCL,CRは同時に係合することがないため、ピストン63L,63Rを一方向に移動させて一方の油室64Rに発生した油圧を油路P3Rを介して第1油圧クラッチCRに供給し、ピストン63L,63Rを他方向に移動させて他方の油室64Lに発生した油圧を油路P3Lを介して第2油圧クラッチCLに供給することで、トルク配分機構Aを支障なく作動させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2つの回転軸間に相互にトルク伝達可能なトルク伝達手段を設けた車両用動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
左右の車軸間に、ダブルピニオン式の遊星歯車機構よりなる差動機構と、特殊な3連ピニオン部材を用いた遊星歯車機構よりなるトルク配分機構とを備え、トルク配分機構の一つのサンギヤあるいはキャリヤ部材を一対の油圧クラッチで選択的に拘束して左右の車軸間の回転数比を強制的に規制することで、左右の車輪間でトルクを配分する車両用駆動力伝達装置が、下記特許文献1により公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−256185号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで上記従来のものは、一対の油圧クラッチを作動させる油圧を車軸の回転により駆動される油圧ポンプで発生させているため、油圧ポンプを常時駆動することになってエンジンの燃料消費量が増加する問題があった。
【0005】
本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、車両用動力伝達装置の油圧クラッチを作動させるための油圧を最小限のエネルギーで発生させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明によれば、2つの回転軸間に相互にトルク伝達可能なトルク伝達手段を設けた車両用動力伝達装置であって、一方の回転軸まわりに回転可能に支持されたキャリヤ部材と、相互に異なるピッチ円を有する第1ピニオン、第2ピニオンおよび第3ピニオンを相互に相対回転不能に備えて前記キャリヤ部材に回転可能に支持された複数の3連ピニオン部材と、前記第1ピニオンを他方の回転軸に連結する第1連結手段と、前記第2ピニオンを前記一方の回転軸に連結する第2連結手段と、前記第3ピニオンに制動力を付与して前記他方の回転軸を前記一方の回転軸に対して増速する第1油圧クラッチと、前記キャリヤ部材に制動力を付与して前記一方の回転軸を前記他方の回転軸に対して増速する第2油圧クラッチと、前記第1油圧クラッチおよび前記第2油圧クラッチの作動油室に油圧を供給する油圧供給装置とを備えるものにおいて、前記油圧供給装置は、油圧シリンダと、前記油圧シリンダ内を直線運動して該油圧シリンダの両端部との間に2つの油室を区画するピストンと、電動モータの回転運動を直線運動に変換して前記ピストンを直線運動させる駆動方向変換機構と、前記第1油圧クラッチの作動油室を前記油圧シリンダの一方の油室に接続する油路と、前記第2油圧クラッチの作動油室を前記油圧シリンダの他方の油室に接続する油路とを備え、前記電動モータの回転運動による前記ピストンの直線運動により前記一方の油室または前記他方の油室に油圧を発生させ、前記第1油圧クラッチおよび前記第2油圧クラッチを選択的に作動させることを特徴とする車両用動力伝達装置が提案される。
【0007】
尚、実施の形態のプラネタリキャリヤ8および第1サンギヤ17は本発明の第1連結手段に対応し、実施の形態の第2サンギヤ18は本発明の第2連結手段に対応し、実施の形態の右出力軸9Rおよび左出力軸9Lはそれぞれ本発明の一方および他方の回転軸に対応し、実施の形態のボールねじ機構69は本発明の駆動方向変換機構に対応し、実施の形態のトルク配分機構Aは本発明のトルク伝達手段に対応し、実施の形態の右クラッチCRは本発明の第1油圧クラッチに対応し、実施の形態の左クラッチCLは本発明の第2油圧クラッチに対応し、実施の形態の右第3油路P3Rおよび左第3油路P3Lは本発明の油路に対応する。
【発明の効果】
【0008】
請求項1の構成によれば、車両用動力伝達装置の左右の油圧クラッチを作動させる油圧を発生させる油圧供給装置は、電動モータの回転運動を駆動方向変換機構でシリンダ内のピストンの直線運動に変換し、ピストンの移動方向に応じて、ピストンとシリンダの両端との間に区画された2つの油室に交互に油圧を発生させる。第1、第2油圧クラッチは同時に係合することがないため、ピストンを一方向に移動させて一方の油室に発生した油圧を油路を介して第1油圧クラッチの作動油室に供給し、ピストンを他方向に移動させて他方の油室に発生した油圧を油路を介して第2油圧クラッチの作動油室に供給することで、車両用動力伝達装置を支障なく作動させることができる。電動モータは車両用動力伝達装置を作動させるときだけ駆動すれば良いので、車両用動力伝達装置で常時油圧ポンプを駆動して油圧を発生させる場合に比べて、油圧発生に要するエネルギーを節減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】フロントエンジン・フロントドライブ車両の全体構成を示す図。
【図2】駆動力配分装置の構造を示すスケルトン図。
【図3】駆動力配分装置の具体的な構造を示す図。
【図4】図3の4部拡大図。
【図5】左右のクラッチの油圧供給装置の説明図。
【図6】中低車速域での左旋回時における駆動力配分装置の作用を示す図。
【図7】中低車速域での右旋回時における駆動力配分装置の作用を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図1〜図7に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
【0011】
図1に示すように、フロントエンジン・フロントドライブの車両は、駆動輪である左右の前輪WFL,WFRと、従動輪である左右の後輪WRL,WRRとを備える。車体前部に横置きに搭載したエンジンEの左端にトランスミッションMが接続されており、これらエンジンEおよびトランスミッションMの後部に差動機構Dおよびトルク配分機構Aが配置される。差動機構Dおよびトルク配分機構Aの左端および右端から左右に延びる左車軸AFLおよび右車軸AFRには、それぞれ左前輪WFLおよび右前輪WFRが接続される。
【0012】
図2に示すように、トランスミッションMから延びる入力軸1に設けた入力ギヤ2に噛み合う外歯ギヤ3から駆動力が伝達される差動機構Dはダブルピニオン式の遊星歯車機構よりなり、前記外歯ギヤ3と一体に形成されたリングギヤ4と、このリングギヤ4の内部に同軸に配設されたサンギヤ5と、前記リングギヤ4に噛み合うアウターピニオン6および前記サンギヤ5に噛み合うインナーピニオン7を、それらが相互に噛み合う状態で支持するプラネタリキャリヤ8とから構成される。差動機構Dは、そのリングギヤ4が入力要素として機能するとともに、一方の出力要素として機能するサンギヤ5が右出力軸9R、ハーフシャフト10および右車軸AFRを介して右前輪WFRに接続され、また他方の出力要素として機能するプラネタリキャリヤ8が左出力軸9Lおよび左車軸AFLを介して左前輪WFLに接続される。
【0013】
左右の前輪WFL,WFR間で駆動力を配分するトルク配分機構Aは遊星歯車機構よりなり、そのキャリヤ部材11が右出力軸9Rの外周に回転自在に支持されるとともに、円周方向に90°間隔で配置された4本のピニオン軸12の各々に、第1ピニオン13、第2ピニオン14および第3ピニオン15を一体に形成した3連ピニオン部材16が回転自在に支持される。
【0014】
ハーフシャフト10の外周に回転自在に支持されて前記第1ピニオン13に噛み合う第1サンギヤ17は、差動機構Dのプラネタリキャリヤ8の右キャリヤ半体8Rに連結される。またハーフシャフト10の外周に固定された第2サンギヤ18は前記第2ピニオン14に噛み合う。更に、右出力軸9Rの外周に回転自在に支持された第3サンギヤ19は前記第3ピニオン15に噛み合う。
【0015】
実施の形態における第1ピニオン13、第2ピニオン14、第3ピニオン15、第1サンギヤ17、第2サンギヤ18および第3サンギヤ19の歯数は以下のとおりである。
【0016】
第1ピニオン13の歯数 Zb=16
第2ピニオン14の歯数 Zd=16
第3ピニオン15の歯数 Zf=32
第1サンギヤ17の歯数 Za=30
第2サンギヤ18の歯数 Zc=26
第3サンギヤ19の歯数 Ze=28
第3サンギヤ19は右クラッチCRを介してトルク配分機構Aのハウジング20に結合可能であり、右クラッチCRの係合によってキャリヤ部材11の回転数が増速される。またキャリヤ部材11は左クラッチCLを介してハウジング20に結合可能であり、左クラッチCLの係合によってキャリヤ部材11の回転数が減速される。
【0017】
電子制御ユニットUは、エンジントルクTe、エンジン回転数Ne、車速Vおよび操舵角θを所定のプログラムに基づいて演算処理し、前記左クラッチCLおよび右クラッチCRの作動を制御する。
【0018】
次に、図3および図4に基づいて差動機構Dおよびトルク配分機構Aの構造を更に詳細に説明する。
【0019】
左トランスミッションケース31および右トランスミッションケース32の間に収納される差動機構Dの外郭を構成するディファレンシャルケース33は、第1ケース34および第2ケース35をボルト36…で結合してなり、そのボルト36…で外歯ギヤ3が共締めされる。第1ケース34は左トランスミッションケース31にローラベアリング37を介して回転自在に支持され、第2ケース35は右トランスミッションケース32にローラベアリング38を介して回転自在に支持される。トランスミッションMの出力は入力ギヤ2から外歯ギヤ3を介して差動機構Dのディファレンシャルケース33に伝達される。
【0020】
プラネタリキャリヤ8は左キャリヤ半体8Lおよび右キャリヤ半体8Rに分割されており、左出力軸9Lは第1ケース34を相対回転自在に貫通して左キャリヤ半体8Lにスプライン結合され、また右出力軸9Rは第2ケース35を相対回転自在に貫通してサンギヤ5にスプライン結合される。左右のキャリヤ半体8L,8Rはアウターピニオンピン39…およびインナーピニオンピン40…で連結されており、アウターピニオンピン39…にアウターピニオン6…が回転自在に支持され、インナーピニオンピン40…にインナーピニオン7…が回転自在に支持される。
【0021】
トルク配分機構Aは左ケース41および右ケース42をボルト43…で結合して構成されており、その内部にボールベアリング44を介して支持されたハーフシャフト10の左端が左出力軸9Rの右端のスプライン結合される。ハーフシャフト10に一体に形成された第2サンギヤ18の左側部分の外周には、左ケース41にボールベアリング45を介して支持されたスリーブ46が相対回転自在に嵌合しており、その右端に第1サンギヤ17がスプライン結合される。右出力軸9Rの外周に相対回転自在に嵌合し、その左端が差動機構Dの右キャリヤ半体8Rにスプライン結合されたスリーブ47の右端が、前記スリーブ46の左端にスプライン結合される。よって、第1サンギヤ17はスリーブ46,47を介して右キャリヤ半体8Rに連結される。
【0022】
キャリヤ部材11の左端と左ケース41との間に配置された左クラッチCLは、キャリヤ部材11に設けられたクラッチインナー48と左ケース41に設けられたクラッチアウター49との間に配置された摩擦係合部材50…と、摩擦係合部材50…を油圧で係合させるクラッチピストン51と、クラッチピストン51を係合解除方向に付勢するリターンスプリング52とで構成される。
【0023】
第2サンギヤ18の右側のハーフシャフト10の外周に、第3サンギヤ19がボールベアリング53を介して相対回転自在に支持される。右クラッチCRは、第3サンギヤ19に一体に形成されたクラッチインナー54と、右ケース42に設けられたクラッチアウター55との間に配置された摩擦係合部材56…と、摩擦係合部材56…を油圧で係合させるクラッチピストン57と、クラッチピストン57を係合解除方向に付勢するリターンスプリング58とで構成される。
【0024】
トルク配分機構Aのキャリヤ部材11は、前記スリーブ46の外周にボールベアリング59を介して支持されるとともに、前記クラッチインナー54の外周にボールベアリング60を介して支持される。
【0025】
図5に示すように、左右のクラッチCL,CRを作動させる油圧供給装置61は、同軸に配置された左右の油圧シリンダ62L,62Rと、左右の油圧シリンダ62L,62Rにそれぞれ摺動自在に嵌合する左右のピストン63L,63Rと、左油圧シリンダ62Lおよび左ピストン63L間に区画された左油室64Lと、右油圧シリンダ62Rおよび右ピストン63R間に区画された右油室64Rと、左右のピストン63L,63Rを一体に連結するピストンロッド65と、電動モータ66と、電動モータ66により回転する駆動ギヤ67と、駆動ギヤ67に噛合する従動ギヤ68と、従動ギヤ68およびピストンロッド65間に設けられたボールねじ機構69とを備える。
【0026】
作動油タンク70と左油室64Lとは第1油路P1および左第2油路P2Lで接続され、左第2油路P2Lには作動油タンク70から左油室64Lへの作動油の流入のみを許容するチェックバルブ71Lが配置される。また作動油タンク70と右油室64Rとは第1油路P1および右第2油路P2Rで接続され、右第2油路P2Rには作動油タンク70から右油室64Rへの作動油の流入のみを許容するチェックバルブ71Rが配置される。そして左油室64Lと左クラッチCLの作動油室41a(図4参照)とが左第3油路P3Lで接続され、右油室64Rと右クラッチCRの作動油室42a(図4参照)とが右第3油路P3Rで接続される。
【0027】
従って、図5において、電子制御ユニットUからの指令で電動モータ66を一方向に駆動すると、駆動ギヤ67、従動ギヤ68およびボールねじ機構69を介してピストンロッド65および左右のピストン63L,63Rが左動し、左油室64Lの油圧が増圧して右油室64Rの油圧が減圧することで、左クラッチCLが係合して右クラッチCRが係合解除する。逆に、電子制御ユニットUからの指令で電動モータ66を他方向に駆動すると、駆動ギヤ67、従動ギヤ68およびボールねじ機構69を介してピストンロッド65および左右のピストン63L,63Rが右動し、右油室64Rの油圧が増圧して左油室64Lの油圧が減圧することで、右クラッチCRが係合して左クラッチCLが係合解除する。
【0028】
油圧供給装置61が発生する油圧の大きさは、電動モータ66に供給する電流値により制御される。即ち、電動モータ66に供給する電流値と左右の油室64L,64Rに発生する油圧との関係を予め記憶しておき、左右のクラッチCL,CRに供給すべき目標油圧が定まると、それに応じた電流値を電動モータ66に供給するフィードフォワードが行われる。あるいは、左右のクラッチCL,CRに供給される油圧を検出する油圧センサを設け、油圧センサの検出値が目標油圧に一致するように、電動モータ66に供給する電流値をフィードバック制御しても良い。
【0029】
尚、左油室64L、左第3油路P3Lおよび左クラッチCLの油圧系統のOリング等から作動油がリークした場合には、リーク分の作動油が作動油タンク70からチェックバルブ71Lを介して補充され、また右油室64R、右第3油路P3Rおよび右クラッチCRの油圧系統のOリング等から作動油がリークした場合には、リーク分の作動油が作動油タンク70からチェックバルブ71Rを介して補充される。
【0030】
次に、上記構成を備えた本発明の実施の形態の作用を説明する。
【0031】
上記構成のトルク配分機構Aにより、図6に示すように車両の中低車速域での左旋回時には、電子制御ユニットUからの指令で左クラッチCLを係合することで、キャリヤ部材11がハウジング20に結合されて回転を停止する。このとき、右前輪WFRと一体の右出力軸9Rと、左前輪WFLと一体の左出力軸9L(即ち、差動機構Dのプラネタリキャリヤ8)とは、第2サンギヤ18、第2ピニオン14、第1ピニオン13および第1サンギヤ17を介して連結されているため、右前輪WFRの回転数NRは左前輪WFLの回転数NLに対して次式の関係で増速される。
【0032】
NR/NL=(Zd/Zc)×(Za/Zb)
=1.154 …(1)
上述のようにして右前輪WFRの回転数NRが左前輪WFLの回転数NLに対して増速されると、図6に斜線を施した矢印で示したように、旋回内輪である左前輪WFLのトルクの一部を旋回外輪である右前輪WFRに伝達し、車両の左旋回をアシストして旋回性能を高めることができる。
【0033】
尚、キャリヤ部材11を左クラッチCLにより停止させる代わりに、左クラッチCLの係合力を適宜調整してキャリヤ部材11の回転数を減速すれば、その減速に応じて右前輪WFRの回転数NRを左前輪WFLの回転数NLに対して増速し、旋回内輪である左前輪WFLから旋回外輪である右前輪WFRに任意のトルクを伝達することができる。
【0034】
一方、図7に示すように車両の中低車速域での右旋回時には、電子制御ユニットUからの指令で右クラッチCRを係合することで、第3サンギヤ19がハウジング20に結合されて回転を停止する。その結果、第3サンギヤ19に噛合する第3ピニオン15が公転および自転し、右出力軸9Rの回転数に対してキャリヤ部材11の回転数が増速され、左前輪WFLの回転数NLは右前輪WFRの回転数NRに対して次式の関係で増速される。
【0035】
NL/NR={1−(Ze/Zf)×(Zb/Za)}
÷{1−(Ze/Zf)×(Zd/Zc)}
=1.156 …(2)
上述のようにして左前輪WFLの回転数NLが右前輪WFRの回転数NRに対して増速されると、図7に斜線を施した矢印で示したように、旋回内輪である右前輪WFRのトルクの一部を旋回外輪である左前輪WFLに伝達することができる。この場合にも、第3サンギヤ19を右クラッチCRにより停止させる代わりに、右クラッチCRの係合力を適宜調整して第3サンギヤ19の回転数を減速すれば、その減速に応じて左前輪WFLの回転数NLを右前輪WFRの回転数NRに対して増速し、旋回内輪である右前輪WFRから旋回外輪である左前輪WFLに任意のトルクを伝達することができる。
【0036】
(1)式および(2)式を比較すると明らかなように、第1ピニオン13、第2ピニオン14、第3ピニオン15、第1サンギヤ17、第2サンギヤ18および第3サンギヤ19の歯数を前述の如く設定したことにより、左前輪WFLから右前輪WFRへの増速率(約1.154)と、右前輪WFRから左前輪WFLへの増速率(約1.156)とを略等しくすることができる。
【0037】
以上のように、油圧供給装置61は、電動モータ66が発生する駆動力で左右の油圧シリンダ62L,62R内の左右のピストン63L,63Rを駆動して左右の油室64L,64Rに交互に油圧を発生させ、その油圧でトルク配分機構Aの左右のクラッチCL,CRを作動させることができる。油圧供給装置61は左右の油室64L,64Rに同時に油圧を発生させることはできないが、トルク配分機構Aの左右のクラッチCL,CRは同時に係合することはないため、その作動に支障を来すことはない。
【0038】
油圧供給装置61の電動モータ66はトルク配分機構Aを作動させるときだけ駆動すれば良いので、エンジンEの駆動力で常時油圧ポンプを駆動して油圧を発生させる場合に比べて、油圧発生に要するエネルギーを節減してエンジンEの燃料消費量を節減することができる。しかも油圧ポンプや、油圧ポンプが発生した油圧を調圧する調圧弁や、調圧弁で調圧した油圧を左右のクラッチCL,CRに選択的に供給するためのシフト弁が不要になり、部品点数を削減してコストダウンに寄与することができる。
【0039】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0040】
例えば、実施の形態の油圧供給装置61は左右のシリンダ62L,62Rと、左右のピストン63L,63Rとを備えているが、1個のシリンダの内部に1個のピストンを配置し、シリンダの両端部とピストンとの間に左右の油室64L,64Rを形成することもできる。
【0041】
また実施の形態ではトルク配分機構Aが左右の前輪WFL,WFR間でトルクを配分しているが、左右の後輪WRL,WRR間でトルクを配分するものであっても良い。
【0042】
また車両の駆動源はエンジンEに限定されず、電動モータであっても良い。
【符号の説明】
【0043】
8 プラネタリキャリヤ(第1連結手段)
9R 右出力軸(回転軸)
9L 左出力軸(回転軸)
11 キャリヤ部材
13 第1ピニオン
14 第2ピニオン
15 第3ピニオン
16 3連ピニオン部材
17 第1サンギヤ(第1連結手段)
18 第2サンギヤ(第2連結手段)
41a 作動油室
42a 作動油室
61 油圧供給装置
62R 油圧シリンダ
62L 油圧シリンダ
63R ピストン
63L ピストン
64R 油室
64L 油室
66 電動モータ
69 ボールねじ機構(駆動方向変換機構)
A トルク配分機構(トルク伝達手段)
CR 右クラッチ(第1油圧クラッチ)
CL 左クラッチ(第2油圧クラッチ)
P3R 右第3油路(油路)
P3L 左第3油路(油路)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの回転軸(9L,9R)間に相互にトルク伝達可能なトルク伝達手段(A)を設けた車両用動力伝達装置であって、
一方の回転軸(9R)まわりに回転可能に支持されたキャリヤ部材(11)と、
相互に異なるピッチ円を有する第1ピニオン(13)、第2ピニオン(14)および第3ピニオン(15)を相互に相対回転不能に備えて前記キャリヤ部材(11)に回転可能に支持された複数の3連ピニオン部材(16)と、
前記第1ピニオン(13)を他方の回転軸(9L)に連結する第1連結手段(17,8)と、
前記第2ピニオン(14)を前記一方の回転軸(9R)に連結する第2連結手段(18)と、
前記第3ピニオン(15)に制動力を付与して前記他方の回転軸(9L)を前記一方の回転軸(9R)に対して増速する第1油圧クラッチ(CR)と、
前記キャリヤ部材(11)に制動力を付与して前記一方の回転軸(9R)を前記他方の回転軸(9L)に対して増速する第2油圧クラッチ(CL)と、
前記第1油圧クラッチ(CR)および前記第2油圧クラッチ(CL)の作動油室(42a,41a)に油圧を供給する油圧供給装置(61)と、
を備えるものにおいて、
前記油圧供給装置(61)は、
油圧シリンダ(62R,62L)と、前記油圧シリンダ(62R,62L)内を直線運動して該油圧シリンダ(62R,62L)の両端部との間に2つの油室(64R,64L)を区画するピストン(63R,63L)と、電動モータ(66)の回転運動を直線運動に変換して前記ピストン(63R,63L)を直線運動させる駆動方向変換機構(69)と、前記第1油圧クラッチ(CR)の作動油室(42a)を前記油圧シリンダ(62R,62L)の一方の油室(64R)に接続する油路(P3R)と、前記第2油圧クラッチ(CL)の作動油室(41a)を前記油圧シリンダ(62R,62L)の他方の油室(64L)に接続する油路(P3L)とを備え、
前記電動モータ(66)の回転運動による前記ピストン(63R,63L)の直線運動により前記一方の油室(64R)または前記他方の油室(64L)に油圧を発生させ、前記第1油圧クラッチ(CR)および前記第2油圧クラッチ(CL)を選択的に作動させることを特徴とする車両用動力伝達装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−190284(P2010−190284A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−33968(P2009−33968)
【出願日】平成21年2月17日(2009.2.17)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】