説明

車両用変速機のシフト位置切替装置

【課題】ステアリングホィールから手を持ち替えることなくシフト位置を切り替える。
【解決手段】ステアリングホィール1の直下に左操作レバー2と右操作レバー3とが配置され、左操作レバー2はステアリングホィール1の軸線と略平行な第1軸および該第1軸と略直角な第2軸の回りに回動可能に支持され、右操作レバー3は第1軸と略直角な第3軸の回りに回動可能に支持され、左操作レバー2を第2軸の回りにPポジションから他方側へ回動させるとNポジションに切り替わり、左操作レバー2をNポジションから第1軸の回りの一方側へ回動させるとRポジションに切り替わり、他方側へ回動させるとDポジションに切り替わり、左操作レバー2のPポジションおよびNポジションからの切り替えを規制するシフトロック機構が設けられ、該シフトロック機構は、右操作レバー3を第3軸の回りに待機位置から他方側へ回動させるとロック解除される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用変速機のシフト位置切替装置に関し、ステアリングホィールを握ったままで、ATモードおよびMTモード等のシフト位置の切替操作ができるようにしたものである。
【背景技術】
【0002】
ATモードおよびMTモード等のシフト位置の切替操作を行うには、一般的にシフトレバーを有する切替装置が用いられ、該切替装置のシフトレバーの動きの構成は、車体に対して左右方向へ移動させた後に前後方向へ移動させるように2方向へ操作可能に構成されている。また、特定のポジションでは他のポジションへの不用意な移動を防止するためにシフトロック機構が作用しており、特定のポジションから他のポジションへ移動させる際には、シフトレバーに設けられたボタンを押してロック解除を行いながら、シフトレバーを操作するように構成されている。
【0003】
従来の車両用変速機のシフト位置切替装置としては、例えば特許文献1,2に記載のものが知られている。
【0004】
特許文献1に記載の車両用変速機のシフト位置切替装置は、シフトレバーをステアリングホィールの近傍に配置しており、該シフトレバーを操作する際には、片方の手をステアリングホィールからシフトレバーに持ち替え、該シフトレバーを握ってから行うことになる。
【0005】
一方、特許文献2に記載の車両用変速機のシフト位置切替装置は、ステアリングハンドル4の左右に配置した左被操作部11L,右被操作部11Rを操作し、該操作の組合せにより、MTモード(Mポジションにおいて手動で変速機のギヤレンジの切替を行うことができる)でのシフトアップおよびシフトダウンだけでなく、ニュートラル(N)やリバース(R)への操作を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平2008−110658号公報
【特許文献2】特開平2006−103534号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、特許文献1に記載の車両用変速機のシフト位置切替装置は、片方の手をステアリングホィールからシフトレバーに持ち替えなければ、シフトレバーが操作できないという問題がある。一方、特許文献2に記載の車両用変速機のシフト位置切替装置は、MTモードのみであり、変速機のギヤレンジを自動的に切り替えるDポジションを備えたATモードが存在しないという問題がある。
【0008】
そこで本発明は、上記の課題を解決し、ステアリングホィールの左右に配置された2つの操作レバーを用いることにより、ステアリングホィールから片方の手を持ち替えることなく操作でき、かつATモードおよびMTモードの双方のモードを設けることができる車両用変速機のシフト位置切替装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係る発明は、ステアリングホィールの直下の左右に第1操作レバーと第2操作レバーとが配置され、
前記第1操作レバーは、前記ステアリングホィールの軸線と略平行な第1軸の軸線回りに回動可能で、かつ前記第1軸の軸線方向と略直角な第2軸の軸線回りに前記第1軸の軸線方向へ回動可能に支持され、
前記第2操作レバーは、前記第1軸の軸線方向と略直角な第3軸の軸線回りに前記第1軸の軸線方向へ回動可能に支持され、
前記第1操作レバーを前記第2軸の軸線回りに一方側のPポジションから他方側へ回動させると、PポジションからNポジションに切り替えることができ、
前記第1操作レバーをNポジションから前記第1軸の軸線回りの一方側へ回動させるとRポジションに切り替えることができ、他方側へ回動させるとDポジションに切り替えることができ、
前記第1操作レバーをPポジションおよびNポジションから他のポジションに切り替えることを規制するシフトロック機構が設けられ、該シフトロック機構は、前記第2操作レバーが前記第3軸の軸線回りに前記第1軸の軸線方向の一方側である待機位置から他方側へ回動されるとロック解除されることを特徴とする。
【0010】
この発明によれば、第1操作レバーがPポジションを占める状態では、第2操作レバーを第3軸の軸線回りに第1軸の軸線方向の一方側である待機位置から他方側へ回動させてシフトロック機構をロック解除した後に、第1操作レバーを第2軸の軸線回りの一方側から他方側へ回動させると、PポジションからNポジションへ移動させることができる。そして、第1操作レバーがNポジションを占める状態では、第2操作レバーによりシフトロック機構をロック解除して、第1操作レバーを第1軸の軸線回りの一方側または他方側へ回動させたり第2軸の軸線回りの一方側へ回動させると、RポジションまたはDポジションあるいはPポジションへ移動させることができる。次に、走行ポジションであるRポジションやDポジションから他のポジションへ移動させる場合はシフトロック機構が作用しないので、RポジションやDポジションからNポジションへ戻す際には、第2操作レバーによるシフトロック機構のロック解除を行うことなく操作することができる。
【0011】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の車両用変速機のシフト位置切替装置において、
前記第1操作レバーをDポジションから前記第2軸の軸線回りの他方側へ回動させるとMポジションに切り替えることができ、
該Mポジションでは、前記第1操作レバーを前記第2軸の軸線回りの他方側へ回動させることにより、シフトアップまたはシフトダウンのいずれか一方の操作が行われ、
前記第2操作レバーを前記第3軸の軸線回りの前記待機位置から他方側へ回動させることにより、シフトアップまたはシフトダウンの他方の操作が行われることを特徴とする。
【0012】
この発明によれば、第1操作レバーがATモードのDポジションを占める状態から、該第1操作レバーを前記第2軸の軸線回りの他方側へ回動させることにより、MTモードのMポジションに切り替えることができる。該MTモードでは、第1操作レバーがMポジションを占める状態から、前記第2軸の軸線回りの他方側へ回動させると、操作した回数だけシフトアップが行われる。一方、第1操作レバーがMポジションを占める状態で、第2操作レバーを前記第3軸の軸線回りの待機位置から他方側へ回動させると、操作した回数だけシフトダウンが行われる。第1操作レバーがMポジションを占める状態から、第1操作レバーを前記第2軸の軸線回りの一方側へ回動させると、MTモードからATモードのDポジションへ戻る。
【0013】
請求項3に係る発明は、請求項1または2に記載の車両用変速機のシフト位置切替装置において、
前記第1操作レバーを前記各ポジションと対応する軌道に沿って案内するためのガイド溝を設け、
該ガイド溝には前記第1操作レバーのPポジションとNポジションとの間、NポジションとRポジションとの間、NポジションとDポジションとの間、DポジションとMポジションとの間に、ポジションの切り替え時に節度感を付与すると共に前記第1操作レバーがいずれかのポジションへ向って押し戻されるように形成された凸部と、
前記第1操作レバーを前記第2軸の軸線回りにMポジションから他方側へ回動させる際に、前記第1操作レバーが一方側のMポジションへ復帰するように前記ガイド溝が他方側へ向かって浅くなる斜面とを形成する一方、
前記第1操作レバーの下端には第1付勢手段を介して前記ガイド溝と摺動する摺動部材を設けたことを特徴とする。
【0014】
この発明によれば、例えばPポジションからNポジションへというように、第1操作レバーが第1軸の軸線回りあるいは第2軸の軸線回りに回動されると、第1付勢手段により付勢される摺動部材がガイド溝の凸部を乗り越えてあるポジションから隣りのポジションへ切り替わり、第1操作レバーが第2軸の軸線回りにMポジションから他方側へ回動されると、摺動部材はガイド溝の斜面を上がって第1付勢手段を蓄勢し、その後に放勢して斜面を下がり、元の位置へ戻る。
【発明の効果】
【0015】
請求項1,2に係る車両用変速機のシフト位置切替装置によれば、ステアリングホィールの直下の左右に配置した第1操作レバーと第2操作レバーとの2つの操作レバーにより、ATモードだけでなくMTモードも含めた全てのモードにおけるシフト操作を行えるようにしたので、全てのシフト動作をステアリングホィールを握ったままで行うことができ、操作性がよい。
【0016】
請求項3に係る車両用変速機のシフト位置切替装置によれば、第1操作レバーがあるポジションから隣り合うポジションへ切り替わる際に、摺動部材がガイド溝の凸部を乗り越えるので節度感が付与され、第1操作レバーが第2軸の軸線回りにMポジションから他方側へ回動される際に、摺動部材はガイド溝の斜面を上がって第1付勢手段を蓄勢し、その後に放勢して斜面を下がり、元の位置へ戻るので、第1操作レバーが一方側のMポジションへ復帰する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】左操作レバーと右操作レバーとの操作位置を各シフト位置ごとに示す説明図(実施の形態)。
【図2】(a)は左操作レバーの操作方向を示す説明図、(b)は右操作レバーの操作方向を示す説明図(実施の形態)。
【図3】現在ポジションから操作先のポジションへ左操作レバーを回動させる際の右操作レバーの操作との関係を示す説明図(実施の形態)。
【図4】左操作レバーの斜視図(実施の形態)。
【図5】左操作レバーの断面図(実施の形態)。
【図6】左操作レバーの分解斜視図(実施の形態)。
【図7】左操作レバーにおけるシフトロック機構の説明図(実施の形態)。
【図8】左操作レバーに設けたシフト位置検出センサに係り、(a)は各シフト位置を検出するセンサであるホールICと磁石との配置を示す説明図、(b)は7つのホールICの配置を示す説明図、(c)は各シフト位置において7つのホールICのいずれが磁束を検出しているかをON,OFF表示した説明図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明による車両用変速機のシフト位置切替装置の実施の形態を説明する。
(構成)
図1に示すように、自動車に設けられているステアリングホィール1の直下(ステアリングホィールの軸線の前方側近傍)の左右に第1操作レバーとしての左操作レバー2と第2操作レバーとしての右操作レバー3とが配置されている。
【0019】
前記左操作レバー2は図4のように構成されており、前記ステアリングホィール1の軸線と略平行な第1軸Xの軸線回りに回動可能であり、かつ前記第1軸Xと略直角な第2軸Yの軸線回りに前記第1軸Xの軸線方向へ回動可能に支持されている。
【0020】
このような左操作レバー2の構成を、図4,5,6に基づいて詳細に説明する。上端にステアリングホィールが設けられたステアリングシャフトを覆う図示しないジャケットには、図6に示す支持枠4が図示しないボルト等を介して取り付けられている。該支持枠4には、前記第2軸Yを有する第2軸体5aの軸線回りに回動自在に第1回動体5が設けられ、該第1回動体5の内部には第2回動体6の下部が、前記第1軸Xを有する第1軸体7の軸線回りに回動自在に設けられ、該第2回動体6には連結軸8を介してパドル9が結合されている。これにより、パドル9は第1軸体7の軸線回りに回動自在であり、かつ第2軸体5aの軸線回りに(前記第1軸Xの軸線方向へ)回動自在である。
【0021】
具体的に説明すると、支持枠4には外部へ向って突出する一対の軸受部4aが形成され、該軸受部4aには第1回動体5の両側に突出形成された第2軸体5aを上方から挿入するための切欠部4bが形成され、該切欠部4bから第1回動体5の第2軸体5aを軸受部4aの内部に挿入した状態で、支持枠4の外部から軸受カラー4cを軸受部4aと第2軸体5aとの間に軸方向に嵌め込むことにより、支持枠4の内部に第1回動体5が第2軸体5aを中心として回動自在に支持されている。
【0022】
第1回動体5の内部には第2回動体6の下部が嵌め込まれ、該第2回動体6に形成された嵌合孔6aと、第1回動体5に形成された嵌合孔5bとに第1軸体7を嵌め込み、該第1軸体7の先端に形成された円周溝7aにEリング7bを嵌め込むことにより、第1回動体5に対して第2回動体6が第1軸体7を中心として回動自在に設けられている。第1軸体7には相互に180度をなす位置に軸方向の溝7cが形成され、該溝7cには嵌合孔6aの内部へ向って突出するキー部6cが嵌まり込み、第1軸体7は第2回動体6と一体に回動する。
【0023】
第1軸体7を中心とする第2回動体6の回動と、第2軸体5aを中心とする第1回動体5の回動とによって決まる現在のシフト位置を検出するため、支持枠4の外部にはシフト位置検出手段10が設けられている。即ち、以下のように構成されている。図5に示すように筒状のスイッチケース11が支持枠4の外部に設けられ、該スイッチケース11の内部には7個のホールIC12を配置したプリント基板13が収納される一方、ホールIC12と対向する磁石14を一端の外周面に固着した検知軸15がスイッチケース11の内部に回動自在および軸方向へ移動自在に挿通されている。該検知軸15の他端は第1軸体7の軸線の延長上に形成された挿入孔4dを介して支持枠4の内部へ導入されている。
第2回動体6における、第1軸体7を中心とする回動と第2軸体5aを中心とする回動とを、検知軸15の回動と検知軸15の軸方向のスライドとに変換するため、検知軸15の他端の外周面には一対の平行面15aが形成され、該平行面15aの位置で検知軸15を挟持する二股部16aと挿入孔16bとを有する係合部材16が、検知軸15の他端に装着されている。一方、第2回動体6には、側方へ突出して下方へ垂れ下がるようにして突出部6bが形成されており、該突出部6bが前記挿入孔16bに挿入されている。
【0024】
各ポジションの配置を示す図2(a)において、左操作レバー2を第2軸体5aの第2軸Yの回りに前記第1軸Xの軸線方向の奥側(一方側)から手前側(他方側)へ回動させると、PポジションからNポジションに切り替えることができ、左操作レバー2をNポジションから第1軸体7の第1軸Xの回りの上方(一方側)へ回動させるとRポジションに切り替えることができ、下方(他方側)へ回動させるとATモードのDポジションに切り替えることができる。
【0025】
左操作レバー2を回動させる方向が図2(a)の軌道と対応するように案内するため、支持枠4の底面にはガイド部材21が設けられ、該ガイド部材21の上面には凹状の球面21aが形成され、該球面21aには図2(a)の左操作レバー2の軌道と点対称な軌道に沿ってガイド溝21bが形成されている。
【0026】
そして、夫々のポジションから左操作レバー2が隣のポジションへ容易に移動するのを抑制してその移動に節度感を付与するため、以下の構成が採用されている。ガイド部材21に設けたガイド溝21bには、左操作レバー2のPポジションとNポジションとの間、NポジションとRポジションとの間、NポジションとDポジションとの間、DポジションとMポジションとの間に、ポジションの切り替え時に節度感を付与すると共に左操作レバー2がいずれかのポジションへ向って押し戻されるように、図5のようにガイド溝21bの底面を緩やかに少しだけ高くした凸部21cが形成され、更に左操作レバー2を第2軸体5aの第2軸Yの回りにMポジションから他方側へ回動させる際に、左操作レバー2が一方側のMポジションへ復帰するように、図6のようにMポジションと対応する位置からガイド溝21bの端部へ向って深さが小さくなる斜面21dが形成される一方、左操作レバー2の下端の第2回動体6の下部には第1付勢手段としてのばね22を介してガイド溝21bと摺動する有底円筒形の摺動部材23が設けられ、該摺動部材23の下面の中央にはガイド溝21bの底面と摺動する突起部23aが形成されている。
【0027】
一方、右操作レバー3は、ステアリングホィールの軸線と略平行な仮想第1軸Xと略直角な第3軸Zを有する図示しない第3軸体を介して、第3軸Zの軸線回りに前記第1軸Xの軸線方向へ回動可能に、図示しないジャケットに左操作レバー2と同様にして設けられている。
【0028】
そして、PポジションおよびNポジションから他のポジションへの切り替えを規制するシフトロック機構17が設けられ、右操作レバー3を図2(b)において、前記第1軸Xの軸線方向の待機位置(一方側)から手前側(他方側)へ回動するとシフトロック機構17がロック解除されるようになっている。
【0029】
このシフトロック機構17は、第2回動体6における、第1軸体7を中心とする回動と第2軸体5aを中心とする回動とをロックするように構成されている。即ち、以下のように構成されている。前記スイッチケース11の上には一対の支持柱11bが立設されており、該一対の支持柱11bが軸部18aを支持することにより、ロック部材18が回動自在に設けられている。該ロック部材18を回動操作するため、ロック部材18の軸部18aの上方には一対のリング部18bが形成されている。一方、前記スイッチケース11の上にはソレノイドケース11aを介してソレノイド19が固定され、該ソレノイド19のプランジャー19aにはレバー19bが装着され、該レバー19bの両側に形成された凸部19cが前記一対のリング部18bに嵌め込まれている。このため、ソレノイド19のプランジャー19aが進退することにより、ロック部材18が軸部18aを中心として回動し、ロック部18cが検知軸15のロックリング20に係脱する。なお、ロック時にはソレノイド19のプランジャー19aは図示しないばねにより前進する方向へ付勢されており、ロック部材18はロックリング20へ向って付勢された状態を維持している。
【0030】
ロック部材18のロック部18cと、ロックリング20との関係を図7に基づいて説明する。検知軸15には前記ロックリング20が装着されており、該ロックリング20は、その両端部が円周方向に対向した状態で固定され、該ロックリング20の両端部の一方側の対向する位置に切欠部20aを形成することにより、ロックリング20の両端部の他方側に突出部20bがそれぞれ形成されている。この検知軸15は、左操作レバー2を第2軸体5aの第2軸Yの回りである前記第1軸Xの軸線方向へ回動させると、前記突出部6bと前記係合部材16との作用により軸方向へスライドし、左操作レバー2を第1軸体7の第1軸Xの回りに回動させると検知軸15は検知軸15の軸心の回りに回動する。一方、ロック部材18のロック部18cには、図7にハッチングして示すように先端部に検知軸15へ向って突出する突出部18dが形成され、該突出部18dには、基端部の両側に凹部18eが形成され、先端部の図中の下方には凹部18fが形成されている。
【0031】
前記右操作レバー3は、図2(b)に示すように、待機位置から前記第1軸Xの軸線方向の手前側(他方側)へ回動させ、外力を除くと元の位置へ復帰するように構成されている。即ち、前記左操作レバー2の場合と同様に構成されており、図示しないガイド部材に前記第1軸Xの軸線方向に沿って直線状にガイド溝が形成され、該ガイド溝の端部へ向って深さが小さくなる斜面が形成される一方、右操作レバー3の基端部には前記左操作レバー2と同様に前記ガイド溝と摺動する突起部を有する摺動部材が第2付勢手段としてのばねを介して設けられている。換言すると、右操作レバー3は、左操作レバー2と異なり、前記第1軸体7を設けることなく、前記第1回転体5に直接に前記連結軸8および前記パドル9を結合して右操作レバー3を構成したものであり、図1に示すように左操作レバー2がMポジションにあるときに、左操作レバー2と右操作レバー3とが略左右対称な位置関係にあるように構成されている。
(作用)
次に、車両用変速機のシフト位置切替装置の作用を、図2,図3に基づいて説明する。
【0032】
この発明によれば、図2において左操作レバー2がPポジションを占める状態では、図8(a)に示すように、センサー番号「4」「5」のホールIC12が磁石14を検出することによりPポジションにあることが検出され、このときシフトロック機構17はロック状態にあり、ソレノイド19のプランジャー19aは図示しないばねにより前進する方向へ付勢されている。このため、ロック部材18はロックリング20へ向って付勢され、図7に示すようにロック部材18の突出部18dの全体が、ロックリング20の2つの切欠部20aに入り込んで、検知軸15が手前側(図中右方向)へスライドするのを規制し、左操作レバー2をNポジションへ移動させることができない。左操作レバー2がPポジションを占める状態から、図2,図3に操作(1)として示すように、右操作レバー3を待機位置から手前側(他方側)へ回動させると、ソレノイド19のプランジャー19aが後退し、ロック部材18が軸部18aを中心として回動し、ロック部材18が検知軸15のロックリング20から離れ、シフトロック機構17がロック解除されることから、左操作レバー2を前記第1軸Xの軸線方向の手前側(他方側)へ回動させ、Nポジションへ移動させることができる。
【0033】
図2において左操作レバー2がNポジションを占める状態では、図8(a)に示すように、Pポジションの状態から磁石14が右方へ移動してセンサー番号「3」〜「5」のホールIC12が磁石14を検出することによりNポジションにあることが検出され、このとき図7に示すようにシフトロック機構17では検知軸15がPポジションの状態から右方へ移動するためにロックリング20の2つの突出部20bがロック部材18の2つの凹部18eに入り込んで、検知軸15の軸方向へのスライドおよび回動が規制され、左操作レバー2がロックされている。左操作レバー2がNポジションを占める状態から、図2,図3に操作(2)(3)として示すように、前記と同様に右操作レバー3を前記第1軸Xの軸線方向の手前側(他方側)へ回動させてシフトロック機構17をロック解除した状態で、左操作レバー2を軸線回りの上方(一方側)または下方(他方側)へ回動させると、RポジションまたはDポジションへ移動させることができる。また、図2,図3に操作(4)として示すように、左操作レバー2を前記第1軸Xの軸線方向の奥側(一方側)へ回動させるとPポジションへ戻すことができる。
【0034】
図2において左操作レバー2がRポジションを占める状態では、図8(a)に示すように、磁石14が左操作レバー2を倒した上方とは反対の図中の下方へ移動してセンサー番号「1」〜「5」のホールIC12が磁石14を検出することによりRポジションにあることが検出され、左操作レバー2がRポジション占める状態では、図7に示すようにシフトロック機構17は、検知軸15がNポジションの状態から図中の上方へ回動するため、ロックリング20の図中の下方の突出部20bが図中の上方へ移動し、該下方の突出部20bの上にロック部材18の突出部18dが乗り上げた状態になり、検知軸15の軸方向のスライドおよび回動が許容され、左操作レバー2はロック解除された状態となる。
【0035】
図2において左操作レバー2がDポジションを占める状態では、図8(a)に示すように、磁石14が図中の上方へ移動してセンサー番号「3」〜「7」のホールIC12が磁石14を検出することによりDポジションにあることが検出され、左操作レバー2がDポジションを占める状態では、図7に示すようにシフトロック機構17では、検知軸15がNポジションの状態から図中の下方へ回動するため、ロックリング20の図中の上方の突出部20bが図中の下方へ移動し、該上方の突出部20bの上にロック部材18の突出部18dが乗り上げた状態になり、検知軸15の軸方向のスライドおよび回動が許容され、左操作レバー2はロック解除された状態となる。
【0036】
左操作レバー2がRポジション,Dポジションを占める状態では、前記のように左操作レバー2はロック解除された状態にあるので、図2,図3に操作(5)(6)として示すように、Nポジションへ戻す際には、右操作レバー3の操作によるシフトロック機構17のロック解除を行うことなく実行することができる。
【0037】
この発明によれば、図2において左操作レバー2がDポジションを占める状態では、前記のように左操作レバー2はロック解除された状態にあるので、図2,図3に操作(7)として示すように、左操作レバー2がDポジションを占める状態から、前記第1軸Xの軸線方向の手前側(他方側)へ回動させて、Mポジションに切り替える際には、右操作レバー3の操作によるシフトロック機構17のロック解除を行うことなく実行することができる。
【0038】
図2において左操作レバー2がMポジションを占める状態では、図8(a)に示すように、Dポジションを占める状態から磁石14が図中の右方へ移動してセンサー番号「3」「4」「6」「7」のホールIC12が磁石14を検出することによりMポジションにあることが検出され、このとき図7に示すようにシフトロック機構17では、Dポジションを占める状態から検知軸15が図中の右方へスライドするため、ロックリング20の図中の上方の突出部20bの上にロック部材18の突出部18dが乗り上げた状態が維持され、検知軸15の軸方向へのスライドが許容され、左操作レバー2はロック解除された状態を維持する。左操作レバー2がMポジションを占める状態から、図2,図3に操作(8)として示すように、左操作レバー2を前記第1軸Xの軸線方向の手前側(他方側)へ回動させると、操作した回数だけシフトアップが行われる。
【0039】
図2において左操作レバー2がMポジションからシフトアップされた位置では、図8(a)に示すように、Mポジションを占める状態から磁石14が右方へ移動してセンサー番号「3」「6」のホールIC12が磁石14を検出することによりシフトアップされた位置にあることが検出され、このとき図7に示すようにシフトロック機構17では検知軸15がMポジションを占める状態から右方へ移動するため、ロックリング20の図中の上方の突出部20bの上にロック部材18の突出部18dが乗り上げた状態が維持され、検知軸15の軸方向へのスライドが許容され、左操作レバー2はロック解除された状態を維持する。このため、左操作レバー2がシフトアップされた位置からMポジションへ移動し得る状態にある。このとき、前記のばね22により付勢されている摺動部材23の摺動部23aがガイド溝21bの斜面21dに乗り上げてばね22が蓄勢され、蓄勢されたばね22が放勢されることにより摺動部23aが斜面21dを降り、これにより左操作レバー2がMポジションの位置へ戻る
一方、図2,図3に操作(9)として示すように、左操作レバー2がMポジションを占める状態で、図2(b)に示すように右操作レバー3を待機位置から前記第1軸Xの軸線方向の手前側(他方側)へ回動させると、操作した回数だけシフトダウンが行われる。右操作レバー3はシフトダウンの操作後は、左操作レバー2のシフトアップの操作後と同様に元の位置へ復帰する。この右操作レバー3は、左操作レバー2がP,Nポジションを占める状態では前記のようにシフトロック機構17のロック解除の操作レバーとして機能し、Mポジションを占める状態ではMTモードのシフトダウンを行うための操作レバーとして機能し、左操作レバー2が占めるポジションにより、その機能が切り換わる。なお、右操作レバー3のシフト位置の検出には、左操作レバー2のシフト位置の検出と同様に、ホールICと磁石を用いたシフト位置検出手段が用いられる。
【0040】
図2,図3に操作(10)として示すように、左操作レバー2がMポジションを占める状態から、左操作レバー2を前記第1軸Xの軸線方向の奥側(一方側)へ回動させると、ロック解除の操作を行うことなく、MTモードのMポジションからATモードのDポジションへ戻すことができる。
【0041】
この車両用変速機のシフト位置切替装置によれば、ステアリングホィール1の直下の左右に配置した2つの操作レバーで、ATモードだけでなくMTモードも含めた全てのシフト操作を行うことができるので、ステアリングホィール1を握ったままで全てのシフト動作を行うことができ、操作性が良い。
【0042】
この発明によれば、例えばPポジションからNポジションへというように、左操作レバー2が第1軸Xの軸線回りあるいは第2軸Yの軸線回りに回動されると、ばね22により付勢される摺動部材23がガイド溝21bの凸部21cを乗り越えてあるポジションから隣りのポジションへ切り替わり、左操作レバー2が第2軸Yの軸線回りにMポジションから他方側へ回動されると、摺動部材23はガイド溝21bの斜面21dを上がってばね22を蓄勢し、その後に放勢して斜面21dを下がり、元の位置へ戻る。
【0043】
この車両用変速機のシフト位置切替装置によれば、左操作レバー2があるポジションから隣り合うポジションへ切り替わる際に、摺動部材23がガイド溝21bの凸部21cを乗り越えるので節度感が付与され、左操作レバー2が第2軸Yの軸線回りにMポジションから他方側へ回動される際に、摺動部材23はガイド溝21bの斜面21dを上がってばね22を蓄勢し、その後に放勢して斜面21dを下がって元の位置へ戻るので、左操作レバー2が一方側のMポジションへ復帰する。
【0044】
なお、Mポジションでは、左操作レバーを前記第1軸Xの軸線方向の他方側へ回動させることによりシフトアップの操作が行われ、右操作レバーを前記第1軸Xの軸線方向の他方側へ回動させることによりシフトダウンの操作が行われるが、シフトアップ,シフトダウンを行う操作レバーを入れ替えることもできる。また、左操作レバーと右操作レバーとの機能を入れ替えることもできる。
【符号の説明】
【0045】
1…ステアリングホィール
2…左操作レバー(第1操作レバー)
3…右操作レバー(第2操作レバー)
17…シフトロック機構
21…ガイド部材
21b…ガイド溝
21c…凸部
21d…斜面
22…ばね(第1付勢手段)
23…摺動部材
X…第1軸
Y…第2軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングホィールの直下の左右に第1操作レバーと第2操作レバーとが配置され、
前記第1操作レバーは、前記ステアリングホィールの軸線と略平行な第1軸の軸線回りに回動可能で、かつ前記第1軸の軸線方向と略直角な第2軸の軸線回りに前記第1軸の軸線方向へ回動可能に支持され、
前記第2操作レバーは、前記第1軸の軸線方向と略直角な第3軸の軸線回りに前記第1軸の軸線方向へ回動可能に支持され、
前記第1操作レバーを前記第2軸の軸線回りに一方側のPポジションから他方側へ回動させると、PポジションからNポジションに切り替えることができ、
前記第1操作レバーをNポジションから前記第1軸の軸線回りの一方側へ回動させるとRポジションに切り替えることができ、他方側へ回動させるとDポジションに切り替えることができ、
前記第1操作レバーをPポジションおよびNポジションから他のポジションに切り替えることを規制するシフトロック機構が設けられ、該シフトロック機構は、前記第2操作レバーが前記第3軸の軸線回りに前記第1軸の軸線方向の一方側である待機位置から他方側へ回動されるとロック解除されることを特徴とする車両用変速機のシフト位置切替装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用変速機のシフト位置切替装置において、
前記第1操作レバーをDポジションから前記第2軸の軸線回りの他方側へ回動させるとMポジションに切り替えることができ、
該Mポジションでは、前記第1操作レバーを前記第2軸の軸線回りの他方側へ回動させることにより、シフトアップまたはシフトダウンのいずれか一方の操作が行われ、
前記第2操作レバーを前記第3軸の軸線回りの前記待機位置から他方側へ回動させることにより、シフトアップまたはシフトダウンの他方の操作が行われることを特徴とする車両用変速機のシフト位置切替装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の車両用変速機のシフト位置切替装置において、
前記第1操作レバーを前記各ポジションと対応する軌道に沿って案内するためのガイド溝を設け、
該ガイド溝には前記第1操作レバーのPポジションとNポジションとの間、NポジションとRポジションとの間、NポジションとDポジションとの間、DポジションとMポジションとの間に、ポジションの切り替え時に節度感を付与すると共に前記第1操作レバーがいずれかのポジションへ向って押し戻されるように形成された凸部と、
前記第1操作レバーを前記第2軸の軸線回りにMポジションから他方側へ回動させる際に、前記第1操作レバーが一方側のMポジションへ復帰するように前記ガイド溝が他方側へ向かって浅くなる斜面とを形成する一方、
前記第1操作レバーの下端には第1付勢手段を介して前記ガイド溝と摺動する摺動部材を設けたことを特徴とする車両用変速機のシフト位置切替装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2013−49347(P2013−49347A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−188201(P2011−188201)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(000237307)富士機工株式会社 (392)
【Fターム(参考)】