説明

車両用変速機

【課題】部品点数が削減でき、かつパーキング歯車を取り付ける加工と手間を低減させた車両用変速機を提供すること。
【解決手段】複数の駆動歯車を具え、エンジンの駆動軸に接続された入力軸と、入力軸と平行に設けられた出力軸と、各駆動歯車にそれぞれ噛み合い、かつ出力軸に対して回動自在に設けられた被動歯車と、出力軸の軸方向に移動可能に設けられ、被動歯車の側方に係合して、被動歯車を出力軸に連結させるスリーブと、スリーブに一体に形成されたパーキング歯車とを備え、軸受の外周にパーキング歯車を軸方向に互いに重ねて設けて車両用変速機を構成した。これにより、部品点数を削減させ、横幅が短い車両用変速機を提供できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パーキング歯車を内部に備えた車両用変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
車両(自動車)の自動変速機には、駆動歯車と被動歯車とが常時噛合う常時噛合い式の歯車機構を用い、動力伝達のロスを抑えながら連続的に変速を行わせるダブルクラッチ(ツインクラッチとも呼ぶ。)変速機と呼ばれる変速機がある。
【0003】
ところで、自動変速機を備えた車両においては、車両を駐車させた状態で車両が不用意に動き出さないように変速機内部にパーキング歯車を有し、パーキング歯車に爪部を係合させ、駐車した状態で車両が不用意に動かないように係合させている。
【0004】
近時では、パーキング歯車に過度なトルク(傾斜した場所に駐車したときなどにおける車両重量を要因とする。)が作用しないよう、出力軸の被動歯車間にパーキング歯車を組み込む構造が知られている。例えば特許文献1に開示されるように前進変速段を6段、後進を1段として、第1の出力軸に、5速、6速、Rev.といった3つ被動歯車を振り分け、第2の出力軸に、1速、2速、3速、4速といった4つの被動歯車を振り分けた変速機で、第2の出力軸の被動歯車間、例えば3速の被動歯車と4速の被動歯車との間に、パーキング歯車を設けることが記載されている。
【特許文献1】特開2006−52832号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら上記例の変速機では、パーキング歯車を出力軸に設けるにあたり、パーキング歯車を他の歯車と直列に出力軸に配置しているので、出力軸が長くなり、変速機の軸方向長さが長くなってしまうという問題があった。また、出力軸にパーキング歯車を別途取り付けるため、部品点数が増加し、また取り付け部の加工や部品の組み付けに手間がかかるという問題があった。
【0006】
またFF(フロントエンジン・フロントドライブ)式の車両においては、車両前部にエンジン、変速機、駆動機構、操舵機構などが組み込まれ、更に横置きエンジンでは、タイヤやサイドメンバなどの間にエンジンを設けることから、変速機の軸方向長さは極力短くしたいという要望があった。
【0007】
本発明は上記課題を解決し、部品点数を削減でき、かつパーキング歯車を取り付けるための加工と手間を低減させ、軸方向長さを抑制した車両用変速機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するため変速機を次のように構成した。
【0009】
1、 エンジン側から駆動力が入力される入力軸と、前記入力軸に固定されて前記入力軸と共に回転する駆動歯車と、前記入力軸と平行に設けられた出力軸と、前記出力軸の軸端を回動自在に支持する軸受と、前記駆動歯車と相互に噛み合い、かつ前記出力軸に回動自在に設けられた被動歯車と、前記出力軸の軸端側で前記被動歯車に隣接して前記出力軸に固定され前記出力軸と共に回転するハブと、前記ハブの外周側に配置され前記ハブと常時一体に回転すると共に軸方向にスライド可能に設けられ前記出力軸の軸端とは逆方向に移動して前記被動歯車を前記出力軸に駆動連結させるスリーブとを備え、
前記スリーブの前記軸端側には、パーキング歯車が一体形成され、かつ該パーキング歯車と前記軸端の軸受とが、軸方向に互いに重ねて配置されていることとして車両用変速機を構成した。
【0010】
2、 1に記載の車両用変速機において、変速段を所定の2グループに分け、その一方の変速段グループの各駆動歯車を有する第1の入力軸と、他方の変速段グループの各駆動歯車を有し、前記第1の入力軸の周囲に該第1の入力軸の軸心回りに回動自在に設けられた第2の入力軸と、これら第1および第2の入力軸の一端部にそれぞれ設けられ、エンジン側からの駆動力を前記第1と第2の入力軸のいずれかに伝達するクラッチとを具える入力機構と、
前記第1および第2の入力軸と並行に配設された第1および第2の出力軸を有し、前記第1および第2の入力軸の駆動歯車と噛み合う被動歯車を前記第1または第2の出力軸に係合させるシンクロ機構とを具える出力機構とを備え、
前記スリーブは、前記第1および第2の出力軸のいずれか短い方の出力軸に係合させるシンクロ機構に設けられたこととする。
【0011】
3、 1または2に記載の車両用変速機において、前記出力軸の軸受は、前記エンジンの配設側に近い第1の軸受と、前記第1の軸受よりも前記エンジンから離れた位置に配設された第2の軸受とからなり、前記パーキング歯車と前記第2の軸受とが、軸方向に互いに重ねて配置されていることとする。
【0012】
4、 1乃至3のいずれかに記載の車両用変速機において、前記ハブの外周縁部は、中心部よりも前記出力軸の軸端側へ延出しており、前記外周縁部と前記軸端の軸受とが、軸方向に互いに重ねて配置されていることとする。
【発明の効果】
【0013】
本発明にかかる車両用変速機は、次の効果を有している。
パーキング歯車を、変速歯車の変速に用いるスリーブに設けたことにより、出力軸に、パーキング歯車を設けるための設置箇所が不要となり、変速機の軸方向長さ(横幅)を短縮させることができる。更に、パーキング歯車を軸端に設けた場合、出力軸を支持する軸受の外周部分にパーキング歯車を、軸方向に互いに重ねて配置(オーバーラップ)させることができ、変速機の軸方向長さ(横幅)をより効果的に短縮させることができる。
【0014】
パーキング歯車として個別の部品が不要となり、部品点数が削減でき、またパーキング歯車を出力軸に取り付ける加工とその手間が不要となり、加工、組み付け工程が簡略化し、コストを低減できる。
【0015】
変速機が小型化するので、エンジンを車両へ搭載させる際の搭載性が向上する。特に横置きエンジンの場合には、エンジンルーム内のサイドメンバや操舵機構などとの干渉の問題が解消され、エンジンを搭載させる上での汎用性が広がる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明にかかる車両用変速機の一実施形態について、図を参照して説明する。
図1に、車両用変速機の概略構成を示す。車両用変速機は、前進段に6速、後進段に1速の計7速の変速段をもつ、横置き車載式のダブルクラッチ変速機である。図中1は、ダブルクラッチ変速機の本体部であり、入力系2と出力系30とを組み合わせた構造となっている。
【0017】
入力系2は、駆動歯車3〜7が配置される2つの入力軸9、10(本願の第1、第2の入力軸に相当)と2つのクラッチ12、13(第1、第2のクラッチ)とを組み合わせた構造となっている。出力系30は、被動歯車31〜37やシンクロ機構50〜53が配置される2つの出力軸40、41(本願の第1、第2の出力軸に相当)を具えて構成されている。
【0018】
次に図2および図3を参照して、入力系2の構造を説明する。図2は、ダブルクラッチ変速機の展開した正断面図であり、図3は、同ダブルクラッチ変速機の側断面図である。同図中15はクラッチケース、16は同クラッチケース15と直列に連結された変速機ケースであり、クラッチケース15内には上記クラッチ12、13が収められている。
【0019】
クラッチ12、13は、例えばエンジン70の出力軸につながる2組のプッシャプレート12a、13aと、入力軸9、10にそれぞれつながる2組の独立した乾式のクラッチ板12b、13bを軸方向に交互に並べ、各プッシャプレート12a、13aを移動(作動)させることにより、各プッシャプレート12a、13aをクラッチ板12b、13bに密接させたり、離反させたりする。
【0020】
変速機ケース16内には、ほぼ中央に入力軸9、10が配設されている。入力軸9は、クラッチケース15の開口近くから、変速機ケース16内の深部、つまりクラッチ12、13とは反対側の端壁16aの近くまで延びている。入力軸9は、軸心に潤滑油67(図3にのみ図示)が通る通孔18が形成してある。
【0021】
入力軸10は、円筒状で、ニードルベアリング11を介して入力軸9の外周面に組み付けてあり、ニードルベアリング11により入力軸9と入力軸10は、互いに回動自在となっている。11aは、通孔18からニードルベアリング11へ潤滑油67を導く通孔である。
【0022】
入力軸10は、入力軸9のほぼ半分の長さを有し、入力軸9の外周を、クラッチ12、13側の一端側から変速機ケース16内部のほぼ中央まで覆っている。入力軸9と入力軸10とからなる2重軸の部分は、その中間部に設けられた軸受17aによって支持されている。軸受17aは、クラッチケース15と変速機ケース16との間を仕切る端壁16bに組み付けられており、軸受17aと上述した軸受17b、更にニードルベアリング11により、入力軸9と入力軸10は、それぞれ回動自在に支持されるとともに、互いにそれぞれの軸心回りに回動自在となっている。
【0023】
クラッチケース15内に突き出た入力軸9の端部は、クラッチ13に連結、具体的にはクラッチ13のクラッチ板13bに連結され、同じく入力軸10の端部は、クラッチ12のクラッチ板12bに連結されている。そしてクラッチ13が接続されると、エンジン70から出力される回転力が入力軸9へ伝わり、クラッチ12が接続されると、エンジン70から出力される回転力が入力軸10へ伝わる。つまり、クラッチ12、13の作動により、エンジン70の回転力が入力軸9と入力軸10のいずれか一方へ択一的に伝達される。
【0024】
入力軸9、10には、駆動歯車3〜7が設けられている。具体的には、駆動歯車3〜7からなる前進変速段(1〜6速)は、2つの変速段グループ、つまり偶数の変速段と奇数の変速段との変速段グループに分けられ、そのうちの奇数の変速段グループに相当する駆動歯車3〜5が入力軸9に設けられている。
【0025】
具体的には、入力軸10から突き出た軸部分9a(入力軸9)に、軸受17bと隣接した地点(変速機の後端側)から、1速用の駆動歯車3、3速用の駆動歯車4、5速用の駆動歯車5の順で設けてある。特に1速用の駆動歯車3は、他の3速用や5速用の駆動歯車4、5のように、軸部分9aに円盤状のハブ部を形成し、同ハブ部に工具で噛合い歯を形成するのではなく、直接軸部分9aの外周面に、工具で噛合い歯を創成した構造を用い、減速比が稼げるようにしてある。しかも、この1速用の駆動歯車3と隣合う駆動歯車には、次の低速側の歯車、すなわち3速用の駆動歯車4を配置し、1速歯車の駆動歯車3の創成時、工具との干渉が短い距離で避けられ、駆動歯車間の距離の増加を抑制させている。
【0026】
一方偶数の変速段グループに相当する駆動歯車は、入力軸10に設けてある。具体的には入力軸10に、変速機後端側の端部から、4速・6速兼用の駆動歯車6、2速用の駆動歯車7の順で設けてある。これにより、クラッチ13が接続されると、エンジン70の回転力が奇数段の駆動歯車3〜5へ伝わり、クラッチ12が接続されると、エンジン70の回転力が偶数段の駆動歯車6、7へ伝わる。
【0027】
次に出力系30を、図2および図3を参照して説明する。出力系30を構成する出力軸40、41は、いずれも変速機ケース16内に、入力軸9、10と並行に配設されている。出力軸40は、2重構造の入力軸9、10(入力軸部)の上側に配設してあり、出力軸41は同入力軸9、10の下側に配置してある。
【0028】
出力軸40、41は、いずれもクラッチ12、13側の端部を、端壁16bの位置で上下に揃えて配置されている。揃えられた出力軸40、41の各軸端は、端壁16bに組み込まれた各軸受38a、38bに回動自在に支持されている。また、出力軸40、41の変速機後端側となる軸端は、端壁16aに組み込まれた各軸受39a、39bにより回動自在に支持されている。
【0029】
出力軸40、41のクラッチ12、13側の端部には、それぞれ出力歯車42、43が設けてあり、これら出力歯車42、43は、図3に示すように変速機ケース16の側部に組み付けたデファレンシャル機構44に噛合させてある。
【0030】
デファレンシャル機構44は、変速機ケース16の側部に形成した外壁45内に、各要素、具体的にはピニオン歯車45a〜45dの組み合わせで形成される差動歯車部45e、同差動歯車部45eへ回転を入力するリング歯車46(リダクション歯車)、差動歯車部45eで分配された回転力を左右駆動輪(図示しない)へ伝える車軸47a、47bなどから構成されている。出力歯車42、43は、このデファレンシャル機構44のリング歯車46に噛合させてある。出力歯車42と43は、出力軸40の終減速比が、出力軸41の終減速比よりも大きくなるように減速比が設定してある。
【0031】
出力軸40には、軸受39a側から、駆動歯車5と噛合う5速用の被動歯車31、駆動歯車6と噛合う4速用の被動歯車32、後進用の被動歯車33の順で、3つの被動歯車が配置されている。出力軸41には、軸受39b側から、駆動歯車3と噛合う1速用の被動歯車34、駆動歯車4と噛合う3速用の被動歯車35、駆動歯車6と噛合う6速用の被動歯車36、駆動歯車7と噛合う2速用の被動歯車37の順で、4つの被動歯車が配置されている。このように出力軸40、41には、出力軸40の変速段数が出力軸41の変速段数より少なくなるように、被動歯車31〜36がふり分けてある。
【0032】
ここで、これら歯車のうち軸受17a、17bに隣接して配置される低速段歯車の駆動歯車3、7(1速、2速)の歯幅寸法α1、α2は、いずれも噛合う被動歯車34、37の歯幅寸法β1、β2よりも大きくしてある。そして、この幅広の駆動歯車3、7と噛合う被動歯車34、37だけは、幅方向片側に寄せた状態で噛合わせてある。こうした被動歯車31〜37が、いずれも軸受部となるニードルベアリング48を用いて、出力軸40、41の外周面に回動自在に支持させてある。
【0033】
このような被動歯車31〜37のレイアウト(出力軸40側の変速段数を出力軸41側より少なくしたレイアウト)に合わせて、シンクロ機構50〜53を振り分け、出力軸40、41に設けてある。具体的には、出力軸40の、被動歯車32(4速用)と被動歯車33(後進用)間の軸部分に、シフト方向が二方向タイプの4速・後進選択用のシンクロ機構50が配置してあり、被動歯車31(5速用)を挟んだ軸受39a側の軸部分に、シフト方向が一方向タイプの5速選択用のシンクロ機構51が配置してある。
【0034】
また出力軸41の、被動歯車34(1速用)と被動歯車35(3速用)間の軸部分に、シフト方向が二方向タイプの1速・3速選択用のシンクロ機構52が配置してあり、被動歯車36(6速用)と被動歯車37(2速用)間の軸部分に、シフト方向が二方向タイプの6速・2速選択用のシンクロ機構53が配置してある。こうした各歯車、シンクロ機構の配列により、上側の出力軸40の端部を、下側の出力軸41に対して変速段数の差分、クラッチ12、13側へ退避させている。つまり、出力軸40の全長が出力軸41よりも短くなっている。
【0035】
二方向タイプのシンクロ機構50、52、53はいずれも、軸部分にシンクロナイザハブ55をスプライン嵌合させ、シンクロナイザハブ55の外周部に、スリーブとしてのシンクロナイザスリーブ56を軸方向にスライド可能に組み付け、シンクロナイザハブ55の両側に配置された各歯車にそれぞれシンクロナイザコーン57を形成し、同シンクロナイザコーン57の外周のコーン面にそれぞれシンクロナイザリング58を嵌挿した構造が用いられている(符号はシンクロ機構50、52に図示)。
【0036】
これにより各シンクロ機構50、52、53において、シンクロナイザスリーブ56を軸方向のいずれかの方向へスライドさせると、シンクロナイザリング58とシンクロナイザコーン57との摩擦により、回転速度差を減らしながら、出力軸40や出力軸41と各変速段の被動歯車とが係合され(同期噛合)、両者が一体で回転される。
【0037】
ここで、被動歯車34(1速用)に組み付くシンクロ機構52は、シンクロナイザスリーブ56の外径より歯車径が大きく、被動歯車34にできるだけ近づけて配置させてある。この近づける構造には、被動歯車34のシンクロ機構52側の側面全体に、軸心回りに環状の凹部55aを形成し、同凹部55a内に、シンクロナイザリング58、シンクロナイザコーン57を設けて、スライドするシンクロナイザスリーブ56の一部が凹部55a内に入り込むようにしている。つまり、シンクロ機構52のシンクロナイザスリーブ56は、他の変速段より、被動歯車34(1速用)の側面から内側へ入り込んだ位置で同期噛合を完結させて、その分、被動歯車34からシンクロナイザハブ55までの距離を短くてしている。
【0038】
一方向タイプのシンクロ機構51は、二方向タイプのシンクロ機構50、52のうち、片側のシンクロナイザコーン57、シンクロナイザリング58を省いて、軸受39aから離れる一方向をシフト方向だけにした構造と同じ構造をしている。つまり、シンクロナイザスリーブ56を被動歯車31へスライドさせると、摩擦により、回転速度差を減らしながら、出力軸40と5速用の被動歯車31とが係合される。
【0039】
また被動歯車37(2速用)の、シンクロ機構53側と反対側の側部には、後進用のアイドラ歯車60が同軸に取り付けられている。アイドラ歯車60は、被動歯車37より歯車径が小さく、出力軸40の後進用の被動歯車33と噛合っていて、シンクロ機構50により、後進用の被動歯車33を出力軸40に係合させると、出力軸40から、2速変速段の減速比、後退速段の減速比、さらには出力軸40の終減速比で減速された逆回転の出力が、デファレンシャル機構44へ伝達される。そして、被動歯車37の軸受面37aには空転する後進用の被動歯車33から負荷が加わるが、アイドラ歯車60の設置により幅寸法が増しており、ニードルベアリング48をアイドラ歯車60側に偏らせて配置することで、軸受面37aをバランスよく回動自在に支持している。
【0040】
更に、出力軸40の変速機後端側の端部(退避した端部)には、パーキング歯車61が図2に示すように設けられている。パーキング歯車61は、シンクロ機構51のシンクロナイザスリーブ56を軸受け39a側に延長させ、延長させたシンクロナイザスリーブ56の外周面に一体に形成されている。すなわち、パーキング歯車61は、シンクロ機構51が作動すると、シンクロナイザコーン57側に移動するシンクロナイザスリーブ56に一体に形成してある。
【0041】
また、シンクロナイザハブ55は、シンクロナイザスリーブ56と同様軸受け39a側に延長してあり、かつシンクロナイザハブ55の軸端側の内径が、軸受け39aの外径より大きく形成してあり、軸受け39aの外方にシンクロナイザハブ55の軸端側の一部が重なるように設けられて(オーバーラップされて)いる。
【0042】
パーキング歯車61の近傍には、図3に示すように変速機ケース16に組み付けられたロック用の爪部材62が係脱可能に設けられており、シフトコントロールレバー(図示せず。)を操作してギアをパーキングに設定すると爪部材62がパーキング歯車61に係合し、出力軸40がロックされる。この出力軸40のロックにより、車軸47aおよび47bがロックされる。
【0043】
このようにしてパーキング歯車61を取り付けたことにより、図2に示すように本体部1の上段の側部を退避、すなわち変速機後端側の張り出しを他の部分より抑えた形状にでき、車両のエンジンルーム(図示しない)にダブルクラッチ変速機を横置きで搭載するとき、車体の骨格部材、例えばサイドフレーム63との干渉を避けることができるようになっている。
【0044】
上記各クラッチ12、13の接・断動作(プッシャプレート12a、13a)や各シンクロ機構50〜53のシフト選択動作は、例えばECUの指令により制御されるアクチュエータ(いずれも図示しない)で行なわれる。そして、ダブルクラッチ変速機は、ECUに設定された変速情報に従い、動力伝達が断たれるロスを最小限に抑えつつ自動変速が行なわれる。
【0045】
次に、ダブルクラッチ変速機の作用について説明する。1速の設定は、まず、ECUから出力される変速指令で作動するアクチュエータにより、奇数変速段グループのシンクロ機構52のシンクロナイザスリーブ56が1速側へスライドして、1速用の被動歯車34と出力軸41とを係合させる。これで、1速の変速段が選択される。その後、同じく変速指令で作動するアクチュエータにより、クラッチ13が接動作される。同クラッチ13の接続により、1速のシフトが完了する。これにより、エンジン70の出力は、入力軸9、1速用の駆動歯車3、1速用の被動歯車34、出力軸41へ伝わる奇数系統の伝達ラインで変速される。そして、変速された回転出力が、出力歯車43から、デファレンシャル機構44へ伝達されて、左右の車軸47a、47bに伝わり、車両を1速で走行させる。尚かかる状態では、クラッチ12は遮断状態である。
【0046】
この1速で走行中、2速への変速指令が出力されると、クラッチ13が接続しているが、クラッチ12が遮断状態となっているので、偶数変速グループのシンクロ機構53のシンクロナイザスリーブ56が2速側へスライドして、2速用の被動歯車37を、現在の車速で回転している出力軸41に係合させる。これにより、次段となる2速変速段の駆動歯車7は、車速にシンクロして、2速の変速段が選択される。つまり、次段の変速準備が整う。
【0047】
その後、クラッチ13の接続を解除しながら、クラッチ12の接続が行なわれ、エンジン70からの動力伝達は、入力軸9から入力軸10へ切り替わる。すると、エンジン70の出力は、入力軸10、2速用の駆動歯車7、2速用の被動歯車37、出力軸40へ伝わる偶数系統の伝達ラインで変速され、その変速した回転が出力歯車43から、デファレンシャル機構44へ出力される(2速シフト完了)。この2速への切り替えにより、即座に、車両は、2速走行へ切り替わる。
【0048】
この2速で走行中、3速への変速指令が出力されると、クラッチ12が接続状態で、クラッチ13が遮断状態であるので、奇数変速グループのシンクロ機構52のシンクロナイザスリーブ56を3速側へスライドさせて、3速用の被動歯車35を、現在の車速で回転している出力軸40に係合させる。これにより、次段となる3速変速段の駆動歯車4は、車速にシンクロして、3速の変速段が選択される。つまり、次段の変速準備が整う。その後、クラッチ12の接続を解除しながら、クラッチ13の接続が行なわれ、エンジン70の動力伝達は、再び入力軸10から入力軸9へ切り替わる。すると、エンジン70からの出力は、入力軸9、3速用の駆動歯車4、3速用の被動歯車35、出力軸41へ伝わる奇数系統の伝達ラインで変速され、その変速した回転出力が出力歯車43から、デファレンシャル機構44へ伝達される(3速シフト完了)。この3速への切り替えにより、即座に、車両は、3速走行へ切り替わる。
【0049】
そして、シンクロ機構50、51、53およびクラッチ12、13により、上記と同様、奇数変速グループ、偶数変速グループで変速段を交互に選択して、クラッチ12、13を交互に切り替えることにより、残る4速、5速、6速の変速段のシフトも、上記した1速〜3速の変速操作時と同様、動力伝達ロスを最小限に抑えながら連続的に変速が行なわれる。
【0050】
また後進変速段への変速は、クラッチ12、13が断動作となっている状態から、シンクロ機構50のシンクロナイザスリーブ56が後進速側へスライドして、後進用の被動歯車33と出力軸40とを係合させる。これで、後進速の変速段が選択される。その後、クラッチ12の接続が行なわれる。これにより、エンジン70からの出力は、入力軸10、2速用の駆動歯車7、2速用の被動歯車37、該被動歯車37に取り付けられたアイドラ歯車60、後進用の被動歯車33、出力軸40、出力歯車42を経て、デファレンシャル機構44へ伝わる。つまり、出力軸40の回転は、2速変速段の減速比、後退速段の減速比、さらには出力軸41の終減速比で減速された逆回転の出力となって、デファレンシャル機構44へ伝達され、車両を大きな減速比で後進させる。
【0051】
またパーキングロックは、パーキング操作に連動したアクチュエータの作動で、図3に示されるように爪部材62を係合側へ回動させて、同爪部材62の先端の爪部62a(図3のみ図示)を、パーキング歯車61の外周の歯部61a(図3のみ図示)に係合させることで行なわれる。この係合により、出力軸40はロックされ、車両は動かないように拘束される。この際、シンクロナイザスリーブ56は作動しておらず、図の左方に戻っている。
【0052】
このようにパーキング歯車61は、変速段の噛合い数が少ない出力軸40の端部、それも軸端の最も近くに配置されたシンクロ機構51(5速用)に一体に設けてあるので、出力軸40上の被動歯車31〜33(5速用、4速用、後進用)やシンクロ機構51、50(5速用、4速・後進用)のレイアウトを変更させることなく容易に出力軸40にパーキング歯車61を設けることができる。
【0053】
しかも、パーキング歯車61として出力軸40に直接設ける必要がないので、部品点数を削減でき、組み付け工程を簡略化でき、かつダブルクラッチ変速機の本体部1の外形、すなわち変速機ケース16の軸方向の最大寸法を狭めることができる。そのうえ、パーキング歯車61が付いた変速段数の少ない出力軸40を上側に配置し、変速段数の多い出力軸41を下側に配置した構成としたことで、図3に示すように本体部1の上段側部には、車載時(横置き)、上段側部と正対するエンジンルームのサイドフレーム63(車体の車幅方向に配置される骨格部材)から逃げる凹形状部1aが大きく確保されるので、十分な横置き搭載性能が確保でき、ダブルクラッチ変速機の車載性を向上できる。
【0054】
特にパーキング歯車61は、シフト方向を一方向としたシンクロ機構51に取り付けたので、従来使用されていなかったシンクロ機構51の一方の側を有効に利用でき、変速機内部のデッドスペースを縮小させることができる。また軸受39aの外周にパーキング歯車61を軸方向に互いに重ねて設ける(オーバーラップさせる)ことができ、より小型化が可能となる。またシンクロナイザハブ55が軸方向に延長されていることから、保持部が長くなり、パーキング歯車61を確実に保持することができる。そのうえ、このようなパーキング歯車61は、シンクロナイザスリーブ56(シンクロ機構51)を出力軸40に組み付けることで設置でき、組み付け工程を非常に簡略化できる。
【0055】
なお、本発明は上述した一実施形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施しても構わない。例えば一実施形態では、出力軸40の退避した他端部の最も近くにシンクロ機構51を設けた例を挙げたが、これに限らず、シンクロ機構51と5速の被動歯車31との位置を入れ替えて、被動歯車31を他端部の最も近くに配置した場合に適用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明にかかるダブルクラッチ変速機の一実施形態を模式的に示す側面図。
【図2】ダブルクラッチ変速機の構成を示す断面図。
【図3】変速機を軸方向から示す断面図。
【符号の説明】
【0057】
9、10…入力軸
40、41…出力軸
51…シンクロ機構
56…シンクロナイザスリーブ
61…パーキング歯車

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン側から駆動力が入力される入力軸と、
前記入力軸に固定されて前記入力軸と共に回転する駆動歯車と、
前記入力軸と平行に設けられた出力軸と、
前記出力軸の軸端を回動自在に支持する軸受と、
前記駆動歯車と相互に噛み合い、かつ前記出力軸に回動自在に設けられた被動歯車と、
前記出力軸の軸端側で前記被動歯車に隣接して前記出力軸に固定され前記出力軸と共に回転するハブと、
前記ハブの外周側に配置され前記ハブと常時一体に回転すると共に軸方向にスライド可能に設けられ前記出力軸の軸端とは逆方向に移動して前記被動歯車を前記出力軸に駆動連結させるスリーブとを備え、
前記スリーブの前記軸端側には、パーキング歯車が一体形成され、かつ該パーキング歯車と前記軸端に設けられた軸受とが、軸方向に互いに重ねて配置されていることを特徴とする車両用変速機。
【請求項2】
変速段を所定の2グループに分け、その一方の変速段グループの各駆動歯車を有する第1の入力軸と、他方の変速段グループの各駆動歯車を有し、前記第1の入力軸の周囲に該第1の入力軸の軸心回りに回動可能に設けられた第2の入力軸と、これら第1および第2の入力軸の一端部にそれぞれ設けられ、エンジン側からの駆動力を前記第1と第2の入力軸のいずれかに伝達するクラッチとを具える入力機構と、
前記第1および第2の入力軸と並行に配設された第1および第2の出力軸を有し、前記第1および第2の入力軸の駆動歯車と噛み合う被動歯車を前記第1または第2の出力軸に係合させるシンクロ機構とを具える出力機構と、を備え、
前記スリーブは、前記第1および第2の出力軸のいずれか短い方の出力軸に係合させるシンクロ機構に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の車両用変速機。
【請求項3】
前記出力軸の軸受は、前記エンジンの配設側に近い第1の軸受と、前記第1の軸受よりも前記エンジンから離れた位置に配設された第2の軸受とからなり、
前記パーキング歯車と前記第2の軸受とが、軸方向に互いに重ねて配置されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の車両用変速機。
【請求項4】
前記ハブの外周縁部は、該ハブの中心部よりも前記出力軸の軸端側へ延出しており、
前記外周縁部と前記軸端に設けられた軸受とが、軸方向に互いに重ねて配置されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の車両用変速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−240989(P2008−240989A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−85608(P2007−85608)
【出願日】平成19年3月28日(2007.3.28)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【出願人】(000176811)三菱自動車エンジニアリング株式会社 (402)
【Fターム(参考)】