車両用差動装置
【課題】ピニオンギヤ及びデフケースにおける焼き付きや偏磨耗の発生を抑制することができるとともに、ピニオンギヤとサイドギヤとの良好な噛合状態を得ることができる車両用差動装置を提供する。
【解決手段】サイドギヤ5L,5Rにギヤ軸を直交させて噛合するピニオンギヤ3,4は、サイドギヤ5L,5Rへのトルク伝達に伴う反力を受けるギヤ部31,41を有し、ギヤ部31,41の圧力角がサイドギヤ5L,5Rからの反力の合力による作用線を第1被支持部3a,4a又は第2被支持部3b,4b及びデフケース2の第1ピニオンギヤ支持面10a,11a又は第2ピニオンギヤ支持面10b,11bに常時交差させる角度に設定されている。
【解決手段】サイドギヤ5L,5Rにギヤ軸を直交させて噛合するピニオンギヤ3,4は、サイドギヤ5L,5Rへのトルク伝達に伴う反力を受けるギヤ部31,41を有し、ギヤ部31,41の圧力角がサイドギヤ5L,5Rからの反力の合力による作用線を第1被支持部3a,4a又は第2被支持部3b,4b及びデフケース2の第1ピニオンギヤ支持面10a,11a又は第2ピニオンギヤ支持面10b,11bに常時交差させる角度に設定されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用差動装置に関し、特にシャフトレス型の複数のピニオンギヤを摺動自在に支持する複数のピニオンギヤ支持部を有する車両用差動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の車両用差動装置として、例えばシャフトレス型の1対のピニオンギヤを備えたものがある(特許文献1)。
【0003】
この車両用差動装置は、1対のピニオンギヤと、これら1対のピニオンギヤに噛合する1対のサイドギヤと、これら1対のサイドギヤ及び1対のピニオンギヤを回転自在に収容するデフケースとから構成されている。
【0004】
1対のピニオンギヤは、ギヤ外周部を全周にわたって設けられた第1摺動部、1対のサイドギヤに噛合するギヤ噛み合い部、及びこのギヤ噛み合い部の周方向一部に設けられた第2摺動部を有し、デフケースの回転軸線と直交する軸線上に配置されている。
【0005】
1対のサイドギヤは、ピニオンギヤの外径より大きい外径を有する略環状の傘歯車からなり、デフケースの回転軸線上に配置されている。1対のサイドギヤの内面には、左右の車軸がそれぞれスプライン嵌合によって連結されている。
【0006】
デフケースには、1対のピニオンギヤの第1摺動部を摺動可能に支持する第1ピニオンギヤ支持面を有する1対のピニオンギヤ挿入孔が設けられている。1対のピニオンギヤ挿入孔の内側開口周縁には、1対のピニオンギヤの第2摺動部を摺動可能に支持する第2ピニオンギヤ支持面を有する1対の延出部がそれぞれ設けられている。
【0007】
以上の構成により、車両のエンジン側からのトルクがドライブピニオン及びリングギヤを介してデフケースに入力されると、デフケースが回転軸線の回りに回転される。次に、デフケースが回転されると、この回転力が1対のピニオンギヤに伝達され、さらに1対のピニオンギヤから1対のサイドギヤに伝達される。1対のサイドギヤにはそれぞれ左右の車軸がスプライン嵌合によって連結されているため、エンジン側からのトルクが車両の走行状況に応じて左右に分配され、分配されたトルクが左右の車軸に伝達される。
【0008】
この場合、1対のピニオンギヤが回転すると、各ピニオンギヤ挿入孔の第1ピニオンギヤ支持面と各延出部の第2ピニオンギヤ支持面で摺動するため、これら各支持面との間に摩擦抵抗を発生し、これら摩擦抵抗によって1対のサイドギヤの差動回転が制限される。
【0009】
また、1対のピニオンギヤの回転によって1対のサイドギヤとの噛み合い面でスラスト力を発生し、これらスラスト力により1対のサイドギヤが互いに離間する方向に移動して各車軸挿入孔の内側開口周縁に圧接するため、1対のサイドギヤと1対の車軸挿入孔の内側開口周縁との間に摩擦抵抗を発生し、これら摩擦抵抗によっても1対のサイドギヤの差動回転が制限される。
【0010】
ところで、この種の車両用差動装置においては、例えばデフケースに大トルクが伝達されている状態で、車両が旋回すると、ピニオンギヤの第1摺動部及び第2摺動部がピニオンギヤ挿入孔の第1ピニオンギヤ支持面及び延出部の第2ピニオンギヤ支持面に押し付けられながら摺動する。この際、ピニオンギヤの回転位相によって第1摺動部及び第2摺動部が第1ピニオンギヤ支持面と第2ピニオンギヤ支持面とに支持される面積が異なる。
【特許文献1】特開2007−113747号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、特許文献1に示す車両用差動装置によると、ピニオンギヤが回転位相によってデフケース(第1ピニオンギヤ支持面及び第2ピニオンギヤ支持面)からの第1摺動部及び第2摺動部への反力によって傾動する。このため、ピニオンギヤが傾いた状態で第1ピニオンギヤ支持面及び第2ピニオンギヤ支持面を押し付けながら摺動し、ピニオンギヤ又はデフケースに焼き付きや偏磨耗を発生するばかりか、ピニオンギヤとサイドギヤとの良好な噛合状態を得ることができないという問題があった。
【0012】
従って、本発明の目的は、ピニオンギヤ及びデフケースにおける焼き付きや偏磨耗の発生を抑制することができるとともに、ピニオンギヤとサイドギヤとの良好な噛合状態を得ることができる車両用差動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記目的を達成するために、1対のサイドギヤと、前記1対のサイドギヤにギヤ軸を直交させて噛合し、ギヤ外周部に摺動面を有する複数のピニオンギヤと、前記複数のピニオンギヤ及び前記1対のサイドギヤを収容し、前記複数のピニオンギヤを前記摺動面による摺動によって回転可能に支持するピニオンギヤ支持部を有するデフケースとを備え、前記複数のピニオンギヤは、前記1対のサイドギヤへのトルク伝達に伴う反力を受けるギヤ噛み合い部を有し、前記ギヤ噛み合い部の圧力角が前記反力の合力による作用線を前記摺動面及び前記ピニオンギヤ支持部に常時交差させる角度に設定されている車両用差動装置を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、ピニオンギヤ及びデフケースにおける焼き付きや偏磨耗の発生を抑制することができるとともに、ピニオンギヤとサイドギヤとの良好な噛合状態を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
[実施の形態]
図1は、本発明の実施の形態に係る車両用差動装置を説明するために示す分解斜視図である。図2は、本発明の実施の形態に係る車両用差動装置を説明するために示す縦断面図である。図3は、本発明の実施の形態に係る車両用差動装置を説明するために示す横断面図である。図4は、本発明の実施の形態に係る車両用差動装置のピニオンギヤの組付状態を示す断面図である。図5は、本発明の実施の形態に係る車両用差動装置のデフケースを示す斜視図である。図6は、本発明の実施の形態に係る車両用差動装置におけるピニオンギヤを説明するために示す断面図である。
【0016】
〔車両差動装置の全体構成〕
図1〜図3において、符号1で示す車両用差動装置は、エンジントルクを受けて回転するデフケース2と、このデフケース2の回転軸線Oと直交する軸線方向に沿って互いに並列する上下1対のピニオンギヤ3,4と、これらピニオンギヤ3,4に噛合する左右1対のサイドギヤ5L,5Rと、これらサイドギヤ5L,5Rの背面側に位置するスラストワッシャ6L,6Rとから大略構成されている。
【0017】
(デフケース2の構成)
デフケース2は、図2及び図4に示すように、ピニオンギヤ3,4及びサイドギヤ5L,5R・スラストワッシャ6L,6Rを収容するための空間部2Aを内部に有し、全体が1ピースの部材によって形成されている。
【0018】
デフケース2には、図2及び図4に示すように、回転軸線Oに沿って開口する左右1対の車軸挿入孔9L,9Rと、これら車軸挿入孔9L,9Rの軸線と直交する方向に軸線をもつ上下1対のピニオンギヤ支持部10,11とが設けられている。また、デフケース2には、図4に示すように、回転軸線O(図2に示す)に関して対称な領域であって、ピニオンギヤ支持部10,11から円周方向に等間隔をもって離間する部位に位置するサイドギヤ通過孔12L,12Rが設けられている。デフケース2の左方車軸側には、図1〜図3に示すように、回転軸線Oと直角な平面内で円周方向に沿う円環状のリングギヤ取付用フランジ13が一体に設けられている。
【0019】
車軸挿入孔9L,9Rは、図2及び図3に示すように、均一な内径をもつ貫通孔によって形成されている。車軸挿入孔9L,9Rには、それぞれ左右の車軸(図示せず)が挿通されている。車軸挿入孔9L,9Rの内側開口周縁には、スラストワッシャ6L,6Rを受ける球面からなるスラストワッシャ受部9La,9Raが設けられている。
【0020】
ピニオンギヤ支持部10,11は、図4に示すように、ピニオンギヤ背面孔10A,11A及び延出部10B,11Bによって形成されている。
【0021】
ピニオンギヤ背面孔10A,11Aは、図4に示すように、空間部2Aに連通する段状の貫通孔によって形成されている。そして、ピニオンギヤ支持孔及びピニオンギヤ加工用孔として機能するように構成されている。ピニオンギヤ背面孔10A,11Aの内側の開口サイズは、ピニオンギヤ3,4の外径と略同一の内径(サイドギヤ5L,5Rの外径より小さい内径)をもつサイズに設定されている。ピニオンギヤ背面孔10A,11Aの内面は、それぞれピニオンギヤ3,4の第1被支持部(サイドギヤ5L,5Rに対するギヤ噛み合い部を除く部位)3a,4aを摺動かつ回転可能に支持する円周面からなるピニオンギヤ支持面(第1ピニオンギヤ支持面)10a,11aで形成されている。
【0022】
ピニオンギヤ背面孔10A,11Aの第1段状面には、図2及び図4に示すように、遠心力が作用するピニオンギヤ3,4を受け止め、かつ所定の曲率をもつ球面で形成されたピニオンギヤ受部(頂部)m,nが設けられている。ピニオンギヤ背面孔10A,11Aの第2段状面には、栓体としてのワッシャ21,22を受けるワッシャ受部10C,11Cが設けられている。ワッシャ21,22は、図2及び図4に示すようにピニオンギヤ3,4の背面とワッシャ受部10c,11cとの間に介装されている。そして、ピニオンギヤ背面孔10A,11Aを閉塞し、デフケース2の回転によって遠心力を受けた潤滑油を堰き止めるように構成されている。これにより、デフケース2内の潤滑油がピニオンギヤ背面孔10A,11Aを経てデフケース2外に流出することが回避される。
【0023】
ピニオンギヤ背面孔10Aの内側開口周縁には、図4に示すように、その軸線回りに等間隔をもって並列し、かつデフケース2の回転軸線側(ケース内部)に延出する延出部10B,10Bが一体に設けられている。延出部10B,10Bには、ピニオンギヤ支持面10aに連接し、かつピニオンギヤ3の第1被支持部3aの一部及びピニオンギヤ3の第2被支持部(サイドギヤ5L,5Rに対するギヤ噛み合い部の一部)3bを摺動かつ回転可能に支持する円弧面からなるピニオンギヤ支持面(第2ピニオンギヤ支持面)10bが設けられている。
【0024】
同様に、ピニオンギヤ背面孔11Aの内側開口周縁には、図4に示すように、その軸線回りに等間隔をもって並列し、かつデフケース2の回転軸線側(ケース内部)に延出する延出部11B,11Bが一体に設けられている。延出部11B,11Bには、ピニオンギヤ支持面11aに連接し、かつピニオンギヤ4の第1被支持部4aの一部及びピニオンギヤ4の第2被支持部(サイドギヤ5L,5Rに対するギヤ噛み合い部の一部)4bを摺動かつ回転可能に支持する円弧面からなるピニオンギヤ支持面(第2ピニオンギヤ支持面)11bが設けられている。
【0025】
サイドギヤ通過孔12L,12Rは、図3〜図5に示すように、平面非円形状の開口部を有する貫通孔によって形成されている。そして、その開口サイズは、ピニオンギヤ3,4及びサイドギヤ5L,5Rをデフケース2内に挿入し得るようなサイズに設定されている。
【0026】
(ピニオンギヤ3,4の構成)
ピニオンギヤ3,4は、略同一の構成であるため、例えばピニオンギヤ3のみについて説明すると、ピニオンギヤ3は、図2及び図4に示すように、ギヤ軸線Cを中心軸線とする断面略T字状の基端部30、及びサイドギヤ5L,5Rに対するギヤ噛み合い部となるギヤ部31を有し、その歯数を例えば6枚(6歯)とする略円柱状のシャフトレス型の歯車からなり、ピニオンギヤ背面孔10Aの第1ピニオンギヤ支持面10a及び延出部10B,10Bの第2ピニオンギヤ支持面10b,10bに回転自在に支持されている。
【0027】
ピニオンギヤ3(ギヤ部31)は、図6に示すように、サイドギヤ5L,5Rへのトルク伝達に伴う反力をその歯面で受け、これら反力の合力による作用線Pを第1被支持部3a又は第2被支持部3b及び第1ピニオンギヤ支持面10a又は第2ピニオンギヤ支持面10bに常時交差させる角度に圧力角が設定されている。このため、ピニオンギヤ3(ギヤ部31)の歯面の噛み合い中心点G(ピニオンギヤ3,4からサイドギヤ5L,5Rへのトルク伝達時に両ギヤの歯面が接触する領域における荷重中心)から第1被支持部(後述)3aまでのギヤ径方向寸法をaとするとともに、ギヤ部31の歯面の噛み合い中心点Gからギヤ部31のギヤ先端面側最端部位までのギヤ軸線方向寸法をbとし、さらに第1被支持部3aのギヤ先端面側最端部位からギヤ部31のギヤ先端面側最端部位までのギヤ軸線方向寸法をcとするとともに、第1被支持部3aのギヤ背面側最端部位からギヤ部31のギヤ先端面側最端部位までのギヤ軸線方向寸法をdとすると、ピニオンギヤ3の圧力角αがc<b+a×tanα<dを満足する角度に設定されている。
【0028】
なお、ピニオンギヤ3の圧力角は、車両用差動装置1の駆動時にピニオンギヤ3の第1被支持部3a及び第2被支持部3bから第1ピニオンギヤ支持面10a及び第2ピニオンギヤ支持面10bに作用する荷重点を高くしてピニオンギヤ3の傾動を低減するために、ピニオンギヤ3の製造が困難にならない程度にできるだけ大きい角度に設定されていることが望ましい。
【0029】
ピニオンギヤ3には、延出部10B,10Bの第2ピニオンギヤ支持面10b,10bの一部及びピニオンギヤ背面孔10Aの第1ピニオンギヤ支持面10aに対する第1被支持部3a(後述)に開口する潤滑油流入部としての複数の凹溝(図示せず)が設けられている。
【0030】
また、ピニオンギヤ3には、ギヤ軸線方向に開口する貫通孔3Aが設けられている。これにより、ピニオンギヤ3の外面のみならず貫通孔3Aの内面にも熱処理を施すことができ、ピニオンギヤ3の機械的強度を一層高めることができる。また、貫通孔3Aは、ピニオンギヤ形成時の芯出し用孔及び差動装置使用時の潤滑油供給孔・ピニオンギヤ保管時のギヤ支持棒挿入孔として機能し得るように構成されている。
【0031】
基端部30は、ピニオンギヤ3のギヤ胴部及びギヤ鍔部を構成し、サイドギヤ5L,5Rに噛合するギヤ噛み合い部を除く部位に形成されている。基端部30の外周面上側には、ピニオンギヤ背面孔10Aの第1ピニオンギヤ支持面10a及び延出部10B,10Bの第2ピニオンギヤ支持面10b,10bの一部に対応する円周面からなる第1摺動面としての第1被支持部3aが設けられている。ピニオンギヤ3の背面には、ピニオンギヤ背面孔10Aのピニオンギヤ受部mに適合する球面で形成された摺動部3Bが設けられている。
【0032】
ギヤ部31は、基端部30のサイドギヤ側に一体に設けられ、デフケース2の回転軸線側でサイドギヤ5L,5Rに噛合するように構成されている。ギヤ部31には、延出部10B,10Bの第2ピニオンギヤ支持面10b,10bに対応する第2摺動面としての第2被支持部3bが設けられている。第2被支持部3bは、ギヤ軸線C回りの一部に基端部30の第1被支持部3aに連続して配置され、所定の外径をもつ円弧面で形成されている。
【0033】
(サイドギヤ5L,5Rの構成)
サイドギヤ5L,5Rは、図2に示すように、各外径が互いに異なるボス部5La,5Ra及びギヤ部5Lb,5Rbを有する略環状の歯車(ピニオンギヤ3,4の外径より大きい外径を有し、単一の歯先円錐角をもつ傘歯車)からなり、デフケース2内に回転自在に支持され、ピニオンギヤ3,4に噛合するように構成されている。サイドギヤ5L,5Rの歯数は、ピニオンギヤ3,4の歯数の2.1倍以上の歯数に設定されている。サイドギヤ5L,5Rの外径は、ピニオンギヤ3,4の外径及び延出部10B,11B間の寸法より大きい寸法に設定されている。
【0034】
サイドギヤ5L,5Rの背面には、スラストワッシャ受部9Lc,9Rcにスラストワッシャ6L,6Rを介して適合する球面からなる摺動部5Lc,5Rcが設けられている。サイドギヤ5L,5R内には、それぞれ左右の車軸が車軸挿入孔9L,9Rを挿通してスプライン嵌合されている。サイドギヤ5L,5R間には、図2及び図3に示すように、車軸移動規制部材としてのアクスルスペーサ23が介装されている。
【0035】
(スラストワッシャ6L,6Rの構成)
スラストワッシャ6L,6Rは、図1〜図3に示すように、サイドギヤ5L,5Rのスラスト力を受けるワッシャ本体6La,6Raを有する環状のワッシャからなり、サイドギヤ5L,5Rの背面とスラストワッシャ受部9Lc,9Rcとの間に介装されている。そして、サイドギヤ5L,5Rとピニオンギヤ3,4との噛み合いを調整するように構成されている。スラストワッシャ6L,6Rの外周縁には、円周方向に等間隔をもって並列する塑性変形可能な略杓文字状の係止片26,27が一体に設けられている。
【0036】
係止片26,27は、塑性変形してサイドギヤ5L,5Rの外周面に係止され、かつサイドギヤ5L,5Rの回転を許容する位置に配置されている。そして、サイドギヤ5L,5Rに対するスラストワッシャ6L,6Rの径方向の位置ずれを防止するように構成されている。
【0037】
〔車両用差動装置1の動作〕
先ず、車両のエンジン側からのトルクがドライブピニオン及びリングギヤを介してデフケース2に入力されると、デフケース2が回転軸線Oの回りに回転される。次に、デフケース2が回転されると、この回転力がピニオンギヤ3,4に伝達され、さらにピニオンギヤ3,4からサイドギヤ5L,5Rに伝達される。
【0038】
ここで、左右の車軸上における各車輪に加わる負荷が等しい場合には、エンジン側からのトルクがデフケース2に伝達されると、ピニオンギヤ3,4がサイドギヤ5L,5R上を公転し、ピニオンギヤ3,4及びサイドギヤ5L,5Rがデフケース2と共に一体に回転されるため、エンジン側からのトルクが左右両車軸に等分に伝達され、左右各車輪が等しい回転数で回転される。
【0039】
一方、走行中に車両が例えば左方に旋回したり、あるいは右側の車輪がぬかるみに落ち込んだりした場合には、ピニオンギヤ3,4がサイドギヤ5L,5Rと噛み合いながら自転し、エンジン側からのトルクが左右の車軸(車輪)間で差動分配される。すなわち、左側の車輪がデフケース2の回転速度より低い速度で回転され、右側の車輪がデフケース2の回転速度より高い速度で回転される。
【0040】
また、デフケース2にトルクが作用した状態でピニオンギヤ3,4が自転すると、第1ピニオンギヤ支持面10a,11a及び第2ピニオンギヤ支持面10b,11bで摺動するため、これら第1ピニオンギヤ支持面10a,11a及び第2ピニオンギヤ支持面10b,11bとの間に摩擦抵抗を発生し、これら摩擦抵抗によってサイドギヤ5L,5Rの差動回転が制限される。
【0041】
この場合、ピニオンギヤ3,4の回転によってサイドギヤ5L,5Rとの噛み合い面で各々のギヤの回転軸方向のスラスト力が発生する。サイドギヤ5L,5Rに発生するスラスト力によりサイドギヤ5L,5Rが互いに離間する方向に移動してスラストワッシャ6L,6Rをスラストワッシャ受部9Lc,9Rcに圧接するため、スラストワッシャ6L,6Rとスラストワッシャ受部9Lc,9Rcとの間に摩擦抵抗を発生し、これら摩擦抵抗によってもサイドギヤ5L,5Rの差動回転が制限される。また、ピニオンギヤ3,4に発生するスラスト力によりピニオンギヤ3,4の摺動部3B,4Bがデフケース2のピニオンギヤ受部m,nに圧接するため、ピニオンギヤ3,4の自転に対する摩擦抵抗が発生し、これによってもサイドギヤ5L,5Rの差動回転が制限される。
【0042】
本実施の形態においては、例えばデフケース2に大トルクが伝達されている状態で、車両が旋回するに際し、デフケース2(第1ピニオンギヤ支持面10a,11a及び第2ピニオンギヤ支持面10b,11b)からのピニオンギヤ3,4における第1被支持部3a,4a及び第2被支持部3b,4bへの反力によってピニオンギヤ3,4bが傾動しても、これら反力を図7(a)及び(b)に示すように第2ピニオンギヤ支持面10b,11aが第2摺動部3b,4b(一方のみ示す)を介して、また図8(a)及び(b)に示すように第1ピニオンギヤ支持面10a,11aが第1摺動部3a,4a(一方のみ示す)を介して受けることになり、ピニオンギヤ3,4の傾動を低減することができる。
【0043】
図7(a)及び(b)は、本発明の実施の形態に係る車両用差動装置におけるピニオンギヤのデフケースに対する1歯当たり状態を説明するために示す正面図と下面図である。図7(a)は正面図を、また図7(b)は側面図をそれぞれ示す。図8(a)及び(b)は、本発明の実施の形態に係る車両用差動装置におけるピニオンギヤのデフケースに対する2歯当たり状態を説明するために示す正面図と下面図である。図8(a)は正面図を、また図8(b)は側面図をそれぞれ示す。
【0044】
ここで、本実施の形態に示す車両用差動装置1におけるピニオンギヤ3(歯数6)の場合の(1)面圧低減効果及び(2)傾動低減効果につき、図9〜図12を用い、他の歯数(7枚)をもつピニオンギヤと比較して考察する。
【0045】
(1)面圧低減効果についての考察
本考察は、有限要素法(Finite Element Method:FEM)による数値シミュレーションを実施してデフケース2の第1ピニオンギヤ支持面10a,11a及び第2ピニオンギヤ支持面10b,11bが受ける面圧を算出することにより試みた。
【0046】
この結果、延出部10B,11Bの周方向中央位置における回転位相を0°としてピニオンギヤ3,4の第1被支持部3a,4a及び第2被支持部3b,4bの摺動による第1ピニオンギヤ支持面10a,11a又は第2ピニオンギヤ支持面10b,11bにおける所定の周方向位置の最大面圧Pfを算出すると、最大面圧Pfは75MPa<Pf<105MPaの範囲にある数値を得た。
【0047】
これに対して、歯数を7枚とするピニオンギヤである場合には、最大面圧Pfは51MPa<Pf<125MPaの範囲にある数値を得た。
【0048】
これにより、歯数を6枚とするピニオンギヤ3,4による場合は、歯数を7枚とするピニオンギヤによる場合と比べて面圧低減効果を有することが確認された。
【0049】
このことは、図9及び図10に示す通りである。図9及び図10は、本発明の実施の形態に係る車両用差動装置におけるピニオンギヤの面圧低減効果を考察した結果を示すグラフである。図9は歯数を6枚とするピニオンギヤの面圧低減効果を、また図10は歯数を7枚とするピニオンギヤの面圧低減効果をそれぞれ説明するために示すグラフである。図9及び図10において、縦軸は圧力(MPa)を、横軸は回転位相(°)をそれぞれ示す。
【0050】
本面圧低減効果は、歯数を9枚とするピニオンギヤである場合には歯数を6枚とするピニオンギヤである場合と同様に、また歯数を8枚とするピニオンギヤである場合には歯数を7枚とする場合と同様にそれぞれ得られた。
【0051】
(2)傾動低減効果についての考察
本考察は、有限要素法(FEM)による数値シミュレーションを実施してピニオンギヤ背面孔10A,11Aの軸線に対するピニオンギヤ(ギヤ軸線)の傾き角を算出することにより試みた。
【0052】
この結果、延出部10B,11Bの周方向中央位置における回転位相を0°としてピニオンギヤ3,4の第1被支持部3a,4a及び第2被支持部3b,4bの摺動による第1ピニオンギヤ支持面10a,11a又は第2ピニオンギヤ支持面10b,11bにおける所定の周方向位置でのピニオンギヤ背面孔10A,11Aの軸線に対する最大傾きθを算出すると、最大傾き角度θは0.05°<θ<0.075°の範囲にある数値を得た。
【0053】
これに対して、歯数を7枚とするピニオンギヤである場合には、最大傾き角度θは−0.01°<θ<0.125°の範囲にある数値を得た。
【0054】
これにより、歯数を6枚とするピニオンギヤ3,4による場合は、歯数を7枚とするピニオンギヤによる場合と比べて傾動低減効果を有することが確認された。
【0055】
このことは、図11及び図12に示す通りである。図11及び図12は、本発明の実施の形態に係る車両用差動装置におけるピニオンギヤの傾動低減効果を考察した結果を示すグラフである。図11は歯数を6枚とするピニオンギヤの傾動低減効果を、また図12は歯数を7枚とするピニオンギヤの傾動低減効果をそれぞれ説明するために示すグラフである。図11及び図12において、縦軸は傾き角(°)を、横軸は回転位相(°)をそれぞれ示す。
【0056】
本傾動低減効果は、歯数を9枚とするピニオンギヤである場合には歯数を6枚とするピニオンギヤである場合と同様に、また歯数を8枚とするピニオンギヤである場合には歯数を7枚とする場合と同様にそれぞれ得られた。
【0057】
[実施の形態の効果]
以上説明した実施の形態によれば、次に示す効果が得られる。
【0058】
ピニオンギヤ3,4の回転位相による面圧及び傾動を低減することができるため、ピニオンギヤ3,4及びデフケース2における焼き付きや偏磨耗の発生を抑制することができるとともに、ピニオンギヤ3,4とサイドギヤ5L,5Rとの良好な噛合状態を得ることができる。
【0059】
以上、本発明の車両用差動装置を上記の実施の形態に基づいて説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の態様において実施することが可能であり、例えば次に示すような変形も可能である。
【0060】
(1)本実施の形態では、デフケース2が1ピースの部材によって形成されている場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、複数のケースエレメントからなるデフケースであっても勿論よい。
【0061】
(2)本実施の形態では、サイドギヤ5L,5Rに噛合するピニオンギア3,4が2個(1対)デフケース2内に配置する場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、ギヤ径を小さい寸法に設定することにより3個以上のピニオンギヤをデフケース内に配置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の実施の形態に係る車両用差動装置を説明するために示す分解斜視図。
【図2】本発明の実施の形態に係る車両用差動装置を説明するために示す縦断面図。
【図3】本発明の実施の形態に係る車両用差動装置を説明するために示す横断面図。
【図4】本発明の実施の形態に係る車両用差動装置のピニオンギヤの組付状態を示す断面図。
【図5】本発明の実施の形態に係る車両用差動装置のデフケースを示す斜視図。
【図6】本発明の実施の形態に係る車両用差動装置におけるピニオンギヤを説明するために示す断面図。
【図7】(a)及び(b)は、本発明の実施の形態に係る車両用差動装置におけるピニオンギヤのデフケースに対する1歯当たり状態を説明するために示す正面図と下面図。
【図8】(a)及び(b)は、本発明の実施の形態に係る車両用差動装置におけるピニオンギヤのデフケースに対する2歯当たり状態を説明するために示す正面図と下面図。
【図9】本発明の実施の形態に係る車両用差動装置におけるピニオンギヤ(6歯)の面圧低減効果を考察した結果を示すグラフ。
【図10】本発明の実施の形態に係る車両用差動装置におけるピニオンギヤ(7歯)の面圧低減効果を考察した結果を示すグラフ。
【図11】本発明の実施の形態に係る車両用差動装置におけるピニオンギヤ(6歯)の傾動低減効果を考察した結果を示すグラフ。
【図12】本発明の実施の形態に係る車両用差動装置におけるピニオンギヤ(7歯)の傾動低減効果を考察した結果を示すグラフ。
【符号の説明】
【0063】
1…車両用差動装置
2…デフケース、2A…空間部
3,4…ピニオンギヤ、3A,4A…貫通孔、3B,4B…摺動部、
3a,4a…第1被支持部、3b,4b…第2被支持部、30,40…基端部、31, 41…ギヤ部
5L,5R…サイドギヤ、5La,5Ra…ボス部、5Lb,5Rb…ギヤ部、5Lc,5Rc…摺動部
6L,6R…スラストワッシャ、6La,6Ra…ワッシャ本体
9L,9R…車軸挿入孔、9Lc,9Rc…スラストワッシャ受部
10,11…ピニオンギヤ支持部、10A,11A…ピニオンギヤ背面孔、10a,11a…第1ピニオンギヤ支持面、10B,11B…延出部、10b,11b…第2ピニオンギヤ支持面、10c,11c…ワッシャ受部
12L,12R…サイドギヤ通過孔
13…リングギヤ取付用フランジ
21,22…スラストワッシャ
23…アクスルスペーサ
26,27…係止片
m,n…ピニオンギヤ受部
C…ギヤ軸線
G…噛み合い中心点
P…作用線
O…回転軸線
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用差動装置に関し、特にシャフトレス型の複数のピニオンギヤを摺動自在に支持する複数のピニオンギヤ支持部を有する車両用差動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の車両用差動装置として、例えばシャフトレス型の1対のピニオンギヤを備えたものがある(特許文献1)。
【0003】
この車両用差動装置は、1対のピニオンギヤと、これら1対のピニオンギヤに噛合する1対のサイドギヤと、これら1対のサイドギヤ及び1対のピニオンギヤを回転自在に収容するデフケースとから構成されている。
【0004】
1対のピニオンギヤは、ギヤ外周部を全周にわたって設けられた第1摺動部、1対のサイドギヤに噛合するギヤ噛み合い部、及びこのギヤ噛み合い部の周方向一部に設けられた第2摺動部を有し、デフケースの回転軸線と直交する軸線上に配置されている。
【0005】
1対のサイドギヤは、ピニオンギヤの外径より大きい外径を有する略環状の傘歯車からなり、デフケースの回転軸線上に配置されている。1対のサイドギヤの内面には、左右の車軸がそれぞれスプライン嵌合によって連結されている。
【0006】
デフケースには、1対のピニオンギヤの第1摺動部を摺動可能に支持する第1ピニオンギヤ支持面を有する1対のピニオンギヤ挿入孔が設けられている。1対のピニオンギヤ挿入孔の内側開口周縁には、1対のピニオンギヤの第2摺動部を摺動可能に支持する第2ピニオンギヤ支持面を有する1対の延出部がそれぞれ設けられている。
【0007】
以上の構成により、車両のエンジン側からのトルクがドライブピニオン及びリングギヤを介してデフケースに入力されると、デフケースが回転軸線の回りに回転される。次に、デフケースが回転されると、この回転力が1対のピニオンギヤに伝達され、さらに1対のピニオンギヤから1対のサイドギヤに伝達される。1対のサイドギヤにはそれぞれ左右の車軸がスプライン嵌合によって連結されているため、エンジン側からのトルクが車両の走行状況に応じて左右に分配され、分配されたトルクが左右の車軸に伝達される。
【0008】
この場合、1対のピニオンギヤが回転すると、各ピニオンギヤ挿入孔の第1ピニオンギヤ支持面と各延出部の第2ピニオンギヤ支持面で摺動するため、これら各支持面との間に摩擦抵抗を発生し、これら摩擦抵抗によって1対のサイドギヤの差動回転が制限される。
【0009】
また、1対のピニオンギヤの回転によって1対のサイドギヤとの噛み合い面でスラスト力を発生し、これらスラスト力により1対のサイドギヤが互いに離間する方向に移動して各車軸挿入孔の内側開口周縁に圧接するため、1対のサイドギヤと1対の車軸挿入孔の内側開口周縁との間に摩擦抵抗を発生し、これら摩擦抵抗によっても1対のサイドギヤの差動回転が制限される。
【0010】
ところで、この種の車両用差動装置においては、例えばデフケースに大トルクが伝達されている状態で、車両が旋回すると、ピニオンギヤの第1摺動部及び第2摺動部がピニオンギヤ挿入孔の第1ピニオンギヤ支持面及び延出部の第2ピニオンギヤ支持面に押し付けられながら摺動する。この際、ピニオンギヤの回転位相によって第1摺動部及び第2摺動部が第1ピニオンギヤ支持面と第2ピニオンギヤ支持面とに支持される面積が異なる。
【特許文献1】特開2007−113747号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、特許文献1に示す車両用差動装置によると、ピニオンギヤが回転位相によってデフケース(第1ピニオンギヤ支持面及び第2ピニオンギヤ支持面)からの第1摺動部及び第2摺動部への反力によって傾動する。このため、ピニオンギヤが傾いた状態で第1ピニオンギヤ支持面及び第2ピニオンギヤ支持面を押し付けながら摺動し、ピニオンギヤ又はデフケースに焼き付きや偏磨耗を発生するばかりか、ピニオンギヤとサイドギヤとの良好な噛合状態を得ることができないという問題があった。
【0012】
従って、本発明の目的は、ピニオンギヤ及びデフケースにおける焼き付きや偏磨耗の発生を抑制することができるとともに、ピニオンギヤとサイドギヤとの良好な噛合状態を得ることができる車両用差動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記目的を達成するために、1対のサイドギヤと、前記1対のサイドギヤにギヤ軸を直交させて噛合し、ギヤ外周部に摺動面を有する複数のピニオンギヤと、前記複数のピニオンギヤ及び前記1対のサイドギヤを収容し、前記複数のピニオンギヤを前記摺動面による摺動によって回転可能に支持するピニオンギヤ支持部を有するデフケースとを備え、前記複数のピニオンギヤは、前記1対のサイドギヤへのトルク伝達に伴う反力を受けるギヤ噛み合い部を有し、前記ギヤ噛み合い部の圧力角が前記反力の合力による作用線を前記摺動面及び前記ピニオンギヤ支持部に常時交差させる角度に設定されている車両用差動装置を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、ピニオンギヤ及びデフケースにおける焼き付きや偏磨耗の発生を抑制することができるとともに、ピニオンギヤとサイドギヤとの良好な噛合状態を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
[実施の形態]
図1は、本発明の実施の形態に係る車両用差動装置を説明するために示す分解斜視図である。図2は、本発明の実施の形態に係る車両用差動装置を説明するために示す縦断面図である。図3は、本発明の実施の形態に係る車両用差動装置を説明するために示す横断面図である。図4は、本発明の実施の形態に係る車両用差動装置のピニオンギヤの組付状態を示す断面図である。図5は、本発明の実施の形態に係る車両用差動装置のデフケースを示す斜視図である。図6は、本発明の実施の形態に係る車両用差動装置におけるピニオンギヤを説明するために示す断面図である。
【0016】
〔車両差動装置の全体構成〕
図1〜図3において、符号1で示す車両用差動装置は、エンジントルクを受けて回転するデフケース2と、このデフケース2の回転軸線Oと直交する軸線方向に沿って互いに並列する上下1対のピニオンギヤ3,4と、これらピニオンギヤ3,4に噛合する左右1対のサイドギヤ5L,5Rと、これらサイドギヤ5L,5Rの背面側に位置するスラストワッシャ6L,6Rとから大略構成されている。
【0017】
(デフケース2の構成)
デフケース2は、図2及び図4に示すように、ピニオンギヤ3,4及びサイドギヤ5L,5R・スラストワッシャ6L,6Rを収容するための空間部2Aを内部に有し、全体が1ピースの部材によって形成されている。
【0018】
デフケース2には、図2及び図4に示すように、回転軸線Oに沿って開口する左右1対の車軸挿入孔9L,9Rと、これら車軸挿入孔9L,9Rの軸線と直交する方向に軸線をもつ上下1対のピニオンギヤ支持部10,11とが設けられている。また、デフケース2には、図4に示すように、回転軸線O(図2に示す)に関して対称な領域であって、ピニオンギヤ支持部10,11から円周方向に等間隔をもって離間する部位に位置するサイドギヤ通過孔12L,12Rが設けられている。デフケース2の左方車軸側には、図1〜図3に示すように、回転軸線Oと直角な平面内で円周方向に沿う円環状のリングギヤ取付用フランジ13が一体に設けられている。
【0019】
車軸挿入孔9L,9Rは、図2及び図3に示すように、均一な内径をもつ貫通孔によって形成されている。車軸挿入孔9L,9Rには、それぞれ左右の車軸(図示せず)が挿通されている。車軸挿入孔9L,9Rの内側開口周縁には、スラストワッシャ6L,6Rを受ける球面からなるスラストワッシャ受部9La,9Raが設けられている。
【0020】
ピニオンギヤ支持部10,11は、図4に示すように、ピニオンギヤ背面孔10A,11A及び延出部10B,11Bによって形成されている。
【0021】
ピニオンギヤ背面孔10A,11Aは、図4に示すように、空間部2Aに連通する段状の貫通孔によって形成されている。そして、ピニオンギヤ支持孔及びピニオンギヤ加工用孔として機能するように構成されている。ピニオンギヤ背面孔10A,11Aの内側の開口サイズは、ピニオンギヤ3,4の外径と略同一の内径(サイドギヤ5L,5Rの外径より小さい内径)をもつサイズに設定されている。ピニオンギヤ背面孔10A,11Aの内面は、それぞれピニオンギヤ3,4の第1被支持部(サイドギヤ5L,5Rに対するギヤ噛み合い部を除く部位)3a,4aを摺動かつ回転可能に支持する円周面からなるピニオンギヤ支持面(第1ピニオンギヤ支持面)10a,11aで形成されている。
【0022】
ピニオンギヤ背面孔10A,11Aの第1段状面には、図2及び図4に示すように、遠心力が作用するピニオンギヤ3,4を受け止め、かつ所定の曲率をもつ球面で形成されたピニオンギヤ受部(頂部)m,nが設けられている。ピニオンギヤ背面孔10A,11Aの第2段状面には、栓体としてのワッシャ21,22を受けるワッシャ受部10C,11Cが設けられている。ワッシャ21,22は、図2及び図4に示すようにピニオンギヤ3,4の背面とワッシャ受部10c,11cとの間に介装されている。そして、ピニオンギヤ背面孔10A,11Aを閉塞し、デフケース2の回転によって遠心力を受けた潤滑油を堰き止めるように構成されている。これにより、デフケース2内の潤滑油がピニオンギヤ背面孔10A,11Aを経てデフケース2外に流出することが回避される。
【0023】
ピニオンギヤ背面孔10Aの内側開口周縁には、図4に示すように、その軸線回りに等間隔をもって並列し、かつデフケース2の回転軸線側(ケース内部)に延出する延出部10B,10Bが一体に設けられている。延出部10B,10Bには、ピニオンギヤ支持面10aに連接し、かつピニオンギヤ3の第1被支持部3aの一部及びピニオンギヤ3の第2被支持部(サイドギヤ5L,5Rに対するギヤ噛み合い部の一部)3bを摺動かつ回転可能に支持する円弧面からなるピニオンギヤ支持面(第2ピニオンギヤ支持面)10bが設けられている。
【0024】
同様に、ピニオンギヤ背面孔11Aの内側開口周縁には、図4に示すように、その軸線回りに等間隔をもって並列し、かつデフケース2の回転軸線側(ケース内部)に延出する延出部11B,11Bが一体に設けられている。延出部11B,11Bには、ピニオンギヤ支持面11aに連接し、かつピニオンギヤ4の第1被支持部4aの一部及びピニオンギヤ4の第2被支持部(サイドギヤ5L,5Rに対するギヤ噛み合い部の一部)4bを摺動かつ回転可能に支持する円弧面からなるピニオンギヤ支持面(第2ピニオンギヤ支持面)11bが設けられている。
【0025】
サイドギヤ通過孔12L,12Rは、図3〜図5に示すように、平面非円形状の開口部を有する貫通孔によって形成されている。そして、その開口サイズは、ピニオンギヤ3,4及びサイドギヤ5L,5Rをデフケース2内に挿入し得るようなサイズに設定されている。
【0026】
(ピニオンギヤ3,4の構成)
ピニオンギヤ3,4は、略同一の構成であるため、例えばピニオンギヤ3のみについて説明すると、ピニオンギヤ3は、図2及び図4に示すように、ギヤ軸線Cを中心軸線とする断面略T字状の基端部30、及びサイドギヤ5L,5Rに対するギヤ噛み合い部となるギヤ部31を有し、その歯数を例えば6枚(6歯)とする略円柱状のシャフトレス型の歯車からなり、ピニオンギヤ背面孔10Aの第1ピニオンギヤ支持面10a及び延出部10B,10Bの第2ピニオンギヤ支持面10b,10bに回転自在に支持されている。
【0027】
ピニオンギヤ3(ギヤ部31)は、図6に示すように、サイドギヤ5L,5Rへのトルク伝達に伴う反力をその歯面で受け、これら反力の合力による作用線Pを第1被支持部3a又は第2被支持部3b及び第1ピニオンギヤ支持面10a又は第2ピニオンギヤ支持面10bに常時交差させる角度に圧力角が設定されている。このため、ピニオンギヤ3(ギヤ部31)の歯面の噛み合い中心点G(ピニオンギヤ3,4からサイドギヤ5L,5Rへのトルク伝達時に両ギヤの歯面が接触する領域における荷重中心)から第1被支持部(後述)3aまでのギヤ径方向寸法をaとするとともに、ギヤ部31の歯面の噛み合い中心点Gからギヤ部31のギヤ先端面側最端部位までのギヤ軸線方向寸法をbとし、さらに第1被支持部3aのギヤ先端面側最端部位からギヤ部31のギヤ先端面側最端部位までのギヤ軸線方向寸法をcとするとともに、第1被支持部3aのギヤ背面側最端部位からギヤ部31のギヤ先端面側最端部位までのギヤ軸線方向寸法をdとすると、ピニオンギヤ3の圧力角αがc<b+a×tanα<dを満足する角度に設定されている。
【0028】
なお、ピニオンギヤ3の圧力角は、車両用差動装置1の駆動時にピニオンギヤ3の第1被支持部3a及び第2被支持部3bから第1ピニオンギヤ支持面10a及び第2ピニオンギヤ支持面10bに作用する荷重点を高くしてピニオンギヤ3の傾動を低減するために、ピニオンギヤ3の製造が困難にならない程度にできるだけ大きい角度に設定されていることが望ましい。
【0029】
ピニオンギヤ3には、延出部10B,10Bの第2ピニオンギヤ支持面10b,10bの一部及びピニオンギヤ背面孔10Aの第1ピニオンギヤ支持面10aに対する第1被支持部3a(後述)に開口する潤滑油流入部としての複数の凹溝(図示せず)が設けられている。
【0030】
また、ピニオンギヤ3には、ギヤ軸線方向に開口する貫通孔3Aが設けられている。これにより、ピニオンギヤ3の外面のみならず貫通孔3Aの内面にも熱処理を施すことができ、ピニオンギヤ3の機械的強度を一層高めることができる。また、貫通孔3Aは、ピニオンギヤ形成時の芯出し用孔及び差動装置使用時の潤滑油供給孔・ピニオンギヤ保管時のギヤ支持棒挿入孔として機能し得るように構成されている。
【0031】
基端部30は、ピニオンギヤ3のギヤ胴部及びギヤ鍔部を構成し、サイドギヤ5L,5Rに噛合するギヤ噛み合い部を除く部位に形成されている。基端部30の外周面上側には、ピニオンギヤ背面孔10Aの第1ピニオンギヤ支持面10a及び延出部10B,10Bの第2ピニオンギヤ支持面10b,10bの一部に対応する円周面からなる第1摺動面としての第1被支持部3aが設けられている。ピニオンギヤ3の背面には、ピニオンギヤ背面孔10Aのピニオンギヤ受部mに適合する球面で形成された摺動部3Bが設けられている。
【0032】
ギヤ部31は、基端部30のサイドギヤ側に一体に設けられ、デフケース2の回転軸線側でサイドギヤ5L,5Rに噛合するように構成されている。ギヤ部31には、延出部10B,10Bの第2ピニオンギヤ支持面10b,10bに対応する第2摺動面としての第2被支持部3bが設けられている。第2被支持部3bは、ギヤ軸線C回りの一部に基端部30の第1被支持部3aに連続して配置され、所定の外径をもつ円弧面で形成されている。
【0033】
(サイドギヤ5L,5Rの構成)
サイドギヤ5L,5Rは、図2に示すように、各外径が互いに異なるボス部5La,5Ra及びギヤ部5Lb,5Rbを有する略環状の歯車(ピニオンギヤ3,4の外径より大きい外径を有し、単一の歯先円錐角をもつ傘歯車)からなり、デフケース2内に回転自在に支持され、ピニオンギヤ3,4に噛合するように構成されている。サイドギヤ5L,5Rの歯数は、ピニオンギヤ3,4の歯数の2.1倍以上の歯数に設定されている。サイドギヤ5L,5Rの外径は、ピニオンギヤ3,4の外径及び延出部10B,11B間の寸法より大きい寸法に設定されている。
【0034】
サイドギヤ5L,5Rの背面には、スラストワッシャ受部9Lc,9Rcにスラストワッシャ6L,6Rを介して適合する球面からなる摺動部5Lc,5Rcが設けられている。サイドギヤ5L,5R内には、それぞれ左右の車軸が車軸挿入孔9L,9Rを挿通してスプライン嵌合されている。サイドギヤ5L,5R間には、図2及び図3に示すように、車軸移動規制部材としてのアクスルスペーサ23が介装されている。
【0035】
(スラストワッシャ6L,6Rの構成)
スラストワッシャ6L,6Rは、図1〜図3に示すように、サイドギヤ5L,5Rのスラスト力を受けるワッシャ本体6La,6Raを有する環状のワッシャからなり、サイドギヤ5L,5Rの背面とスラストワッシャ受部9Lc,9Rcとの間に介装されている。そして、サイドギヤ5L,5Rとピニオンギヤ3,4との噛み合いを調整するように構成されている。スラストワッシャ6L,6Rの外周縁には、円周方向に等間隔をもって並列する塑性変形可能な略杓文字状の係止片26,27が一体に設けられている。
【0036】
係止片26,27は、塑性変形してサイドギヤ5L,5Rの外周面に係止され、かつサイドギヤ5L,5Rの回転を許容する位置に配置されている。そして、サイドギヤ5L,5Rに対するスラストワッシャ6L,6Rの径方向の位置ずれを防止するように構成されている。
【0037】
〔車両用差動装置1の動作〕
先ず、車両のエンジン側からのトルクがドライブピニオン及びリングギヤを介してデフケース2に入力されると、デフケース2が回転軸線Oの回りに回転される。次に、デフケース2が回転されると、この回転力がピニオンギヤ3,4に伝達され、さらにピニオンギヤ3,4からサイドギヤ5L,5Rに伝達される。
【0038】
ここで、左右の車軸上における各車輪に加わる負荷が等しい場合には、エンジン側からのトルクがデフケース2に伝達されると、ピニオンギヤ3,4がサイドギヤ5L,5R上を公転し、ピニオンギヤ3,4及びサイドギヤ5L,5Rがデフケース2と共に一体に回転されるため、エンジン側からのトルクが左右両車軸に等分に伝達され、左右各車輪が等しい回転数で回転される。
【0039】
一方、走行中に車両が例えば左方に旋回したり、あるいは右側の車輪がぬかるみに落ち込んだりした場合には、ピニオンギヤ3,4がサイドギヤ5L,5Rと噛み合いながら自転し、エンジン側からのトルクが左右の車軸(車輪)間で差動分配される。すなわち、左側の車輪がデフケース2の回転速度より低い速度で回転され、右側の車輪がデフケース2の回転速度より高い速度で回転される。
【0040】
また、デフケース2にトルクが作用した状態でピニオンギヤ3,4が自転すると、第1ピニオンギヤ支持面10a,11a及び第2ピニオンギヤ支持面10b,11bで摺動するため、これら第1ピニオンギヤ支持面10a,11a及び第2ピニオンギヤ支持面10b,11bとの間に摩擦抵抗を発生し、これら摩擦抵抗によってサイドギヤ5L,5Rの差動回転が制限される。
【0041】
この場合、ピニオンギヤ3,4の回転によってサイドギヤ5L,5Rとの噛み合い面で各々のギヤの回転軸方向のスラスト力が発生する。サイドギヤ5L,5Rに発生するスラスト力によりサイドギヤ5L,5Rが互いに離間する方向に移動してスラストワッシャ6L,6Rをスラストワッシャ受部9Lc,9Rcに圧接するため、スラストワッシャ6L,6Rとスラストワッシャ受部9Lc,9Rcとの間に摩擦抵抗を発生し、これら摩擦抵抗によってもサイドギヤ5L,5Rの差動回転が制限される。また、ピニオンギヤ3,4に発生するスラスト力によりピニオンギヤ3,4の摺動部3B,4Bがデフケース2のピニオンギヤ受部m,nに圧接するため、ピニオンギヤ3,4の自転に対する摩擦抵抗が発生し、これによってもサイドギヤ5L,5Rの差動回転が制限される。
【0042】
本実施の形態においては、例えばデフケース2に大トルクが伝達されている状態で、車両が旋回するに際し、デフケース2(第1ピニオンギヤ支持面10a,11a及び第2ピニオンギヤ支持面10b,11b)からのピニオンギヤ3,4における第1被支持部3a,4a及び第2被支持部3b,4bへの反力によってピニオンギヤ3,4bが傾動しても、これら反力を図7(a)及び(b)に示すように第2ピニオンギヤ支持面10b,11aが第2摺動部3b,4b(一方のみ示す)を介して、また図8(a)及び(b)に示すように第1ピニオンギヤ支持面10a,11aが第1摺動部3a,4a(一方のみ示す)を介して受けることになり、ピニオンギヤ3,4の傾動を低減することができる。
【0043】
図7(a)及び(b)は、本発明の実施の形態に係る車両用差動装置におけるピニオンギヤのデフケースに対する1歯当たり状態を説明するために示す正面図と下面図である。図7(a)は正面図を、また図7(b)は側面図をそれぞれ示す。図8(a)及び(b)は、本発明の実施の形態に係る車両用差動装置におけるピニオンギヤのデフケースに対する2歯当たり状態を説明するために示す正面図と下面図である。図8(a)は正面図を、また図8(b)は側面図をそれぞれ示す。
【0044】
ここで、本実施の形態に示す車両用差動装置1におけるピニオンギヤ3(歯数6)の場合の(1)面圧低減効果及び(2)傾動低減効果につき、図9〜図12を用い、他の歯数(7枚)をもつピニオンギヤと比較して考察する。
【0045】
(1)面圧低減効果についての考察
本考察は、有限要素法(Finite Element Method:FEM)による数値シミュレーションを実施してデフケース2の第1ピニオンギヤ支持面10a,11a及び第2ピニオンギヤ支持面10b,11bが受ける面圧を算出することにより試みた。
【0046】
この結果、延出部10B,11Bの周方向中央位置における回転位相を0°としてピニオンギヤ3,4の第1被支持部3a,4a及び第2被支持部3b,4bの摺動による第1ピニオンギヤ支持面10a,11a又は第2ピニオンギヤ支持面10b,11bにおける所定の周方向位置の最大面圧Pfを算出すると、最大面圧Pfは75MPa<Pf<105MPaの範囲にある数値を得た。
【0047】
これに対して、歯数を7枚とするピニオンギヤである場合には、最大面圧Pfは51MPa<Pf<125MPaの範囲にある数値を得た。
【0048】
これにより、歯数を6枚とするピニオンギヤ3,4による場合は、歯数を7枚とするピニオンギヤによる場合と比べて面圧低減効果を有することが確認された。
【0049】
このことは、図9及び図10に示す通りである。図9及び図10は、本発明の実施の形態に係る車両用差動装置におけるピニオンギヤの面圧低減効果を考察した結果を示すグラフである。図9は歯数を6枚とするピニオンギヤの面圧低減効果を、また図10は歯数を7枚とするピニオンギヤの面圧低減効果をそれぞれ説明するために示すグラフである。図9及び図10において、縦軸は圧力(MPa)を、横軸は回転位相(°)をそれぞれ示す。
【0050】
本面圧低減効果は、歯数を9枚とするピニオンギヤである場合には歯数を6枚とするピニオンギヤである場合と同様に、また歯数を8枚とするピニオンギヤである場合には歯数を7枚とする場合と同様にそれぞれ得られた。
【0051】
(2)傾動低減効果についての考察
本考察は、有限要素法(FEM)による数値シミュレーションを実施してピニオンギヤ背面孔10A,11Aの軸線に対するピニオンギヤ(ギヤ軸線)の傾き角を算出することにより試みた。
【0052】
この結果、延出部10B,11Bの周方向中央位置における回転位相を0°としてピニオンギヤ3,4の第1被支持部3a,4a及び第2被支持部3b,4bの摺動による第1ピニオンギヤ支持面10a,11a又は第2ピニオンギヤ支持面10b,11bにおける所定の周方向位置でのピニオンギヤ背面孔10A,11Aの軸線に対する最大傾きθを算出すると、最大傾き角度θは0.05°<θ<0.075°の範囲にある数値を得た。
【0053】
これに対して、歯数を7枚とするピニオンギヤである場合には、最大傾き角度θは−0.01°<θ<0.125°の範囲にある数値を得た。
【0054】
これにより、歯数を6枚とするピニオンギヤ3,4による場合は、歯数を7枚とするピニオンギヤによる場合と比べて傾動低減効果を有することが確認された。
【0055】
このことは、図11及び図12に示す通りである。図11及び図12は、本発明の実施の形態に係る車両用差動装置におけるピニオンギヤの傾動低減効果を考察した結果を示すグラフである。図11は歯数を6枚とするピニオンギヤの傾動低減効果を、また図12は歯数を7枚とするピニオンギヤの傾動低減効果をそれぞれ説明するために示すグラフである。図11及び図12において、縦軸は傾き角(°)を、横軸は回転位相(°)をそれぞれ示す。
【0056】
本傾動低減効果は、歯数を9枚とするピニオンギヤである場合には歯数を6枚とするピニオンギヤである場合と同様に、また歯数を8枚とするピニオンギヤである場合には歯数を7枚とする場合と同様にそれぞれ得られた。
【0057】
[実施の形態の効果]
以上説明した実施の形態によれば、次に示す効果が得られる。
【0058】
ピニオンギヤ3,4の回転位相による面圧及び傾動を低減することができるため、ピニオンギヤ3,4及びデフケース2における焼き付きや偏磨耗の発生を抑制することができるとともに、ピニオンギヤ3,4とサイドギヤ5L,5Rとの良好な噛合状態を得ることができる。
【0059】
以上、本発明の車両用差動装置を上記の実施の形態に基づいて説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の態様において実施することが可能であり、例えば次に示すような変形も可能である。
【0060】
(1)本実施の形態では、デフケース2が1ピースの部材によって形成されている場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、複数のケースエレメントからなるデフケースであっても勿論よい。
【0061】
(2)本実施の形態では、サイドギヤ5L,5Rに噛合するピニオンギア3,4が2個(1対)デフケース2内に配置する場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、ギヤ径を小さい寸法に設定することにより3個以上のピニオンギヤをデフケース内に配置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の実施の形態に係る車両用差動装置を説明するために示す分解斜視図。
【図2】本発明の実施の形態に係る車両用差動装置を説明するために示す縦断面図。
【図3】本発明の実施の形態に係る車両用差動装置を説明するために示す横断面図。
【図4】本発明の実施の形態に係る車両用差動装置のピニオンギヤの組付状態を示す断面図。
【図5】本発明の実施の形態に係る車両用差動装置のデフケースを示す斜視図。
【図6】本発明の実施の形態に係る車両用差動装置におけるピニオンギヤを説明するために示す断面図。
【図7】(a)及び(b)は、本発明の実施の形態に係る車両用差動装置におけるピニオンギヤのデフケースに対する1歯当たり状態を説明するために示す正面図と下面図。
【図8】(a)及び(b)は、本発明の実施の形態に係る車両用差動装置におけるピニオンギヤのデフケースに対する2歯当たり状態を説明するために示す正面図と下面図。
【図9】本発明の実施の形態に係る車両用差動装置におけるピニオンギヤ(6歯)の面圧低減効果を考察した結果を示すグラフ。
【図10】本発明の実施の形態に係る車両用差動装置におけるピニオンギヤ(7歯)の面圧低減効果を考察した結果を示すグラフ。
【図11】本発明の実施の形態に係る車両用差動装置におけるピニオンギヤ(6歯)の傾動低減効果を考察した結果を示すグラフ。
【図12】本発明の実施の形態に係る車両用差動装置におけるピニオンギヤ(7歯)の傾動低減効果を考察した結果を示すグラフ。
【符号の説明】
【0063】
1…車両用差動装置
2…デフケース、2A…空間部
3,4…ピニオンギヤ、3A,4A…貫通孔、3B,4B…摺動部、
3a,4a…第1被支持部、3b,4b…第2被支持部、30,40…基端部、31, 41…ギヤ部
5L,5R…サイドギヤ、5La,5Ra…ボス部、5Lb,5Rb…ギヤ部、5Lc,5Rc…摺動部
6L,6R…スラストワッシャ、6La,6Ra…ワッシャ本体
9L,9R…車軸挿入孔、9Lc,9Rc…スラストワッシャ受部
10,11…ピニオンギヤ支持部、10A,11A…ピニオンギヤ背面孔、10a,11a…第1ピニオンギヤ支持面、10B,11B…延出部、10b,11b…第2ピニオンギヤ支持面、10c,11c…ワッシャ受部
12L,12R…サイドギヤ通過孔
13…リングギヤ取付用フランジ
21,22…スラストワッシャ
23…アクスルスペーサ
26,27…係止片
m,n…ピニオンギヤ受部
C…ギヤ軸線
G…噛み合い中心点
P…作用線
O…回転軸線
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1対のサイドギヤと、
前記1対のサイドギヤにギヤ軸を直交させて噛合し、ギヤ外周部に摺動面を有する複数のピニオンギヤと、
前記複数のピニオンギヤ及び前記1対のサイドギヤを収容し、前記複数のピニオンギヤを前記摺動面による摺動によって回転可能に支持するピニオンギヤ支持部を有するデフケースとを備え、
前記複数のピニオンギヤは、前記1対のサイドギヤへのトルク伝達に伴う反力を受けるギヤ噛み合い部を有し、前記ギヤ噛み合い部の圧力角が前記反力の合力による作用線を前記摺動面及び前記ピニオンギヤ支持部に常時交差させる角度に設定されている
車両用差動装置。
【請求項2】
前記複数のピニオンギヤは、前記摺動面がギヤ軸線回り全体にわたって設けられた第1摺動面、及び前記第1摺動面に連接してギヤ噛み合い部のギヤ軸線回り一部に設けられた第2摺動面で形成され、
前記デフケースは、前記ピニオンギヤ支持部が前記第1摺動面を摺動可能に支持する第1ピニオンギヤ支持面、及び前記第2摺動面を摺動可能に支持する第2ピニオンギヤ支持面で形成されている請求項1に記載の車両用差動装置。
【請求項3】
前記デフケースは、前記第1ピニオンギヤ支持面が前記複数のピニオンギヤのギヤ軸線回り全体にわたって設けられた円周面で形成され、前記第2ピニオンギヤ支持面が前記複数のピニオンギヤのギヤ軸線回り一部に設けられた円弧面で形成されている請求項2に記載の車両用差動装置。
【請求項4】
前記第2ピニオンギヤ支持面は、前記デフケースの回転軸線側に延出して前記第1ピニオンギヤ支持面に連設されている請求項3に記載の車両用差動装置。
【請求項5】
前記複数のピニオンギヤは、前記ギヤ噛み合い部の噛み合い中心点から前記第1摺動面までのギヤ径方向寸法をaとするとともに、前記ギヤ噛み合い部の噛み合い中心点から前記ギヤ噛み合い部のギヤ先端面側最端部位までのギヤ軸線方向寸法をbとし、さらに前記第1摺動面のギヤ先端面側最端部位から前記ギヤ噛み合い部のギヤ先端面側最端部位までのギヤ軸線方向寸法をcとするとともに、前記第1摺動面のギヤ背面側最端部位から前記ギヤ噛み合い部のギヤ先端面側最端部位までのギヤ軸線方向寸法をdとすると、前記ギヤ噛み合い部の圧力角αがc<b+a×tanα<dを満足する角度に設定されている請求項2に記載の車両用差動装置。
【請求項6】
前記複数のピニオンギヤは、シャフトレス型のピニオンギヤである請求項1に記載の車両用差動装置。
【請求項1】
1対のサイドギヤと、
前記1対のサイドギヤにギヤ軸を直交させて噛合し、ギヤ外周部に摺動面を有する複数のピニオンギヤと、
前記複数のピニオンギヤ及び前記1対のサイドギヤを収容し、前記複数のピニオンギヤを前記摺動面による摺動によって回転可能に支持するピニオンギヤ支持部を有するデフケースとを備え、
前記複数のピニオンギヤは、前記1対のサイドギヤへのトルク伝達に伴う反力を受けるギヤ噛み合い部を有し、前記ギヤ噛み合い部の圧力角が前記反力の合力による作用線を前記摺動面及び前記ピニオンギヤ支持部に常時交差させる角度に設定されている
車両用差動装置。
【請求項2】
前記複数のピニオンギヤは、前記摺動面がギヤ軸線回り全体にわたって設けられた第1摺動面、及び前記第1摺動面に連接してギヤ噛み合い部のギヤ軸線回り一部に設けられた第2摺動面で形成され、
前記デフケースは、前記ピニオンギヤ支持部が前記第1摺動面を摺動可能に支持する第1ピニオンギヤ支持面、及び前記第2摺動面を摺動可能に支持する第2ピニオンギヤ支持面で形成されている請求項1に記載の車両用差動装置。
【請求項3】
前記デフケースは、前記第1ピニオンギヤ支持面が前記複数のピニオンギヤのギヤ軸線回り全体にわたって設けられた円周面で形成され、前記第2ピニオンギヤ支持面が前記複数のピニオンギヤのギヤ軸線回り一部に設けられた円弧面で形成されている請求項2に記載の車両用差動装置。
【請求項4】
前記第2ピニオンギヤ支持面は、前記デフケースの回転軸線側に延出して前記第1ピニオンギヤ支持面に連設されている請求項3に記載の車両用差動装置。
【請求項5】
前記複数のピニオンギヤは、前記ギヤ噛み合い部の噛み合い中心点から前記第1摺動面までのギヤ径方向寸法をaとするとともに、前記ギヤ噛み合い部の噛み合い中心点から前記ギヤ噛み合い部のギヤ先端面側最端部位までのギヤ軸線方向寸法をbとし、さらに前記第1摺動面のギヤ先端面側最端部位から前記ギヤ噛み合い部のギヤ先端面側最端部位までのギヤ軸線方向寸法をcとするとともに、前記第1摺動面のギヤ背面側最端部位から前記ギヤ噛み合い部のギヤ先端面側最端部位までのギヤ軸線方向寸法をdとすると、前記ギヤ噛み合い部の圧力角αがc<b+a×tanα<dを満足する角度に設定されている請求項2に記載の車両用差動装置。
【請求項6】
前記複数のピニオンギヤは、シャフトレス型のピニオンギヤである請求項1に記載の車両用差動装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2010−78001(P2010−78001A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−244363(P2008−244363)
【出願日】平成20年9月24日(2008.9.24)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年9月24日(2008.9.24)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】
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