説明

車両用差動装置

【課題】クラッチの小型化及びコストの低廉化を図ることができる車両用差動装置を提供する。
【解決手段】各配分トルクを互いに異にするトルク配分比に設定された太陽歯車2C,内歯車2Dを有し、駆動源の駆動トルクを太陽歯車2C,内歯車2Dに配分する差動機構2と、差動機構2に対する差動制限力となる押圧力を発生させ、太陽歯車2C,内歯車2Dの差動回転の方向に応じて押圧力を可変する押圧機構4とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用差動装置に関し、特に差動機構の差動を制限するためのクラッチを備えた車両用差動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の車両用差動装置として、一対の出力軸をクラッチによって連結し、差動機構の差動を制限するようにしたものがある(特許文献1)。
【0003】
この車両用差動装置は、入力軸と共に回転する入力部材としてのハウジングと、このハウジングからの回転力を差動配分する差動機構と、この差動機構の差動を制限するクラッチと、このクラッチを駆動する駆動機構とから構成されている。
【0004】
ハウジングは、一方に開口する有底円筒状のフロントハウジング、及びこのフロントハウジングの開口部に装着された円環状のリヤハウジングからなり、入力軸に連結されている。そして、ハウジングは、車両用のエンジンなど駆動源の駆動力を入力軸から受けて回転するように構成されている。
【0005】
差動機構は、一対の出力軸をそれぞれ連結する一対の出力ギヤとしての内歯車,太陽歯車、及びこれら内歯車,太陽歯車に噛合する入力ギヤとしての遊星歯車を有し、ハウジング内に収容されている。一対の出力軸は、各配分トルク(a,b)を互いに異にするトルク配分比(a:b)に設定されている。一対の出力軸のうち一方の出力軸は配分トルクをaとする内歯車に、また他方の出力軸は配分トルクをb(a>b)とする太陽歯車にそれぞれ連結されている。そして、差動機構は、ハウジングからの回転力を一対の出力軸に差動配分するように構成されている。
【0006】
クラッチは、アウタクラッチプレート及びインナクラッチプレートからなり、内歯車の内周面と太陽歯車の外周面との間に配置されたメインクラッチとして構成されている。そして、クラッチは、アウタクラッチプレートとインナクラッチプレートとが摩擦係合して一対の出力軸を連結し、差動機構の差動を制限するように構成されている。アウタクラッチプレートは内歯車の内周面に、またインナクラッチプレートは太陽歯車の外周面にそれぞれスプライン嵌合されている。
【0007】
駆動機構は、電磁クラッチと、この電磁クラッチの電磁力を受けて駆動するパイロットクラッチと、このパイロットクラッチの駆動によってハウジングからの回転力をメインクラッチ側への押圧力に変換するカムとを有し、一対の出力軸の周囲に配置され、かつハウジング内に収容されている。そして、駆動機構は、カムの出力部材からの押圧力をメインクラッチ側に付与してアウタクラッチプレートとインナクラッチプレートとを摩擦係合させるように構成されている。
【0008】
以上の構成により、例えば車両のエンジン側からの駆動力が入力軸を介してハウジングに入力されると、ハウジングが回転軸線の回りに回転する。ハウジングが回転すると、この回転力が遊星歯車に伝達され、さらに遊星歯車から内歯車と太陽歯車とに伝達される。内歯車及び太陽歯車にはそれぞれ出力軸が連結されているため、エンジン側からの駆動力が車両の走行状況に応じて差動配分され、この差動配分されたトルクが左右の出力軸に伝達される。
【0009】
この場合、電磁クラッチに通電すると、電磁クラッチの電磁力によってパイロットクラッチが駆動される。次に、パイロットクラッチの駆動時にハウジングからの回転力をカムが受けると、この回転力がカムによって押圧力に変換され、この押圧力がメインクラッチに付与される。そして、メインクラッチのアウタクラッチプレートとインナクラッチプレートとが相対的に接近して摩擦係合し、この摩擦係合によって太陽歯車と内歯車とが、すなわち太陽歯車及び内歯車にそれぞれ対応する一対の出力軸がハウジングの回転力を伝達可能に互いに連結される。これにより、差動機構の差動が制限される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第3847359号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1の車両用差動装置によると、一対の出力軸のうち内歯車側の出力軸が太陽歯車側の出力軸よりも早く回転している場合に必要なトルク容量に応じてクラッチの容量が定められていた。これは、太陽歯車側の出力軸が内歯車側の出力軸よりも早く回転している場合に必要なトルク容量に応じてクラッチの容量を定めると、内歯車側の出力軸が太陽歯車側の出力軸よりも早く回転している場合に必要なトルク容量が得られないからである。この結果、所望するクラッチの容量を得るためにはクラッチのクラッチプレート数が多くなり、クラッチが軸線方向に大型化するばかりか、コストが嵩むという問題があった。
【0012】
従って、本発明の目的は、クラッチの小型化及びコストの低廉化を図ることができる車両用差動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記目的を達成するために、各配分トルクを互いに異にするトルク配分比に設定された一対の出力部材を有し、駆動源の駆動トルクを前記一対の出力部材に配分する差動機構と、前記差動機構に対する差動制限力となる押圧力を発生させ、前記一対の出力部材の差動回転の方向に応じて前記押圧力を可変する押圧機構とを備えた車両用差動装置を提供する。
【0014】
この構成によれば、一対の出力部材の差動回転の方向に応じた異なる押圧力により差動機構に対する差動制限力が発生する。
【0015】
また、前記押圧機構は、前記一対の出力部材のうち一方の出力部材から前記クラッチを介して伝達される回転力を受けて回転する第1カムと、前記第1カムに対向して前記第1カムと相対回転可能な第2カムとを有するカム機構からなり、前記第1カム及び前記第2カムが各勾配を互いに異にする緩急2種のカム面をそれぞれ有するように構成するとよい。
【0016】
この構成によれば、緩急2種のカム面のうち押圧力を発生させるカム面の勾配に応じて押圧力が可変となる。
【0017】
また、前記押圧機構は、前記一対の出力部材のうち一方の出力部材から前記クラッチを介して伝達される回転力を受けて回転する押圧部材を有し、前記押圧部材が前記一対の出力部材のうち他方の出力部材にヘリカルスプライン嵌合によって連結されているように構成するとよい。
【0018】
この構成によれば、一対の出力部材の差動回転の方向に対応したヘリカルスプラインの捩れ方向の設定により押圧力が可変となる。
【0019】
また、前記押圧機構は、前記一対の出力部材のうち一方の出力部材から前記クラッチを介して伝達される回転力を受けて回転する押圧部材を有し、前記押圧部材が前記一対の出力部材のうち他方の出力部材にカム結合によって連結され、前記押圧部材は、その回転方向に互いに並列し、かつ各勾配を互いに異にする緩急2種のカム面を有し、前記他方の出力部材は、前記緩急2種のカム面に対向し、かつ各勾配を互いに異にする緩急2種のカム面を有するように構成するとよい。
【0020】
この構成によれば、緩急2種のカム面のうち押圧力を発生させるカム面の勾配に応じて押圧力が可変となる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によると、クラッチの小型化及びコストの低廉化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る車両用差動装置の全体を説明するために示す断面図。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係る車両用差動装置の内部要素を説明するために示す分解斜視図。
【図3】(a)及び(b)は、本発明の第1の実施の形態に係る車両用差動装置のカム面を説明するために概略化して示す断面図。(a)は急勾配のカム面で、また(b)は緩勾配のカム面でそれぞれスラスト力が発生している状態を示す。
【図4】本発明の第2の実施の形態に係る車両用差動装置の全体を説明するために示す断面図。
【図5】本発明の第2の実施の形態に係る車両用差動装置の押圧機構を説明するために示す分解斜視図。
【図6】本発明の第3の実施の形態に係る車両用差動装置の押圧機構を説明するために示す分解斜視図。
【図7】(a)及び(b)は、本発明の第3の実施の形態に係る車両用差動装置のカム面を説明するために概略化して示す断面図。(a)は急勾配のカム面で、また(b)は緩勾配のカム面でそれぞれスラスト力が発生している状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[第1の実施の形態]
(車両用差動装置の全体構成)
図1は車両用差動装置の全体を示す。図2は車両用差動装置の内部要素を示す。図1において、符号1で示す車両用差動装置は、例えば4輪駆動車の駆動源の駆動力を前輪側のディファレンシャル装置と後輪側のディファレンシャル装置とに配分するセンターデフとして用いられ、駆動源の駆動トルク(エンジントルク)を前輪側及び後輪側の一対の出力軸(図示せず)に差動配分する差動機構2と、この差動機構2の差動を制限する機能を有する差動制限機構3と、この差動制限機構3による差動制限力となる押圧力を発生させる押圧機構4とから大略構成されている。
【0024】
(差動機構2の構成)
差動機構2は、図1及び図2に示すように、入力部材としてのプラネタリキャリア2Aと、このプラネタリキャリア2Aの回転力を受ける複数の遊星歯車2B,2B,…と、これら複数の遊星歯車2B,2B,…に噛合する出力部材としての太陽歯車2Cと、この太陽歯車2Cと同一の軸線上で複数の遊星歯車2B,2B,…に噛合する出力部材としての内歯車2Dと、この内歯車2D及び太陽歯車2C・プラネタリキャリア2A・複数の遊星歯車2B,2B,…を収容するデフケース2Eとを備えている。
【0025】
プラネタリキャリア2Aは、キャリア基部20A及びキャリア鍔部21Aからなり、太陽歯車2Cと内歯車2Dとの間に介在して配置され、各内径及び各外径がそれぞれ互いに異なる段状の円筒体によって形成されている。そして、プラネタリキャリア2Aは、回転軸線Oの回りに回転し得るように構成されている。プラネタリキャリア2Aには、遊星歯車2B,2B,…を自転可能に収容支持するギヤ収容支持部22Aが設けられている。
【0026】
ギヤ収容支持部22Aは、第1収容孔220A及び第2収容孔221Aからなり、キャリア基部20A及びキャリア鍔部21Aに跨って配置されている。
【0027】
第1収容孔220Aは、プラネタリキャリア2Aの径方向内側(キャリア鍔部21Aの内周面)及び回転軸線Oと平行な方向(太陽歯車側及び内歯車側)に開口し、キャリア鍔部21Aに配置されている。第1収容孔220Aの内周面(トルク伝達面)は、遊星歯車2B,2B,…のギヤ部20B,20B,…(後述)の歯先面に適合する曲率面からなる第1ギヤ支持面2200Aで形成されている。
【0028】
第2収容孔221Aは、プラネタリキャリア2Aの径方向外側(キャリア基部20Aの外周面)及び回転軸線Oと平行な方向(太陽歯車側)に開口し、かつ第1収容孔220Aに連通し、キャリア基部20Aに配置されている。第2収容孔221Aの内周面(トルク伝達面)は、遊星歯車2B,2B,…のギヤ部21B,21B,…(後述)の歯先面に適合する曲率面からなる第2ギヤ支持面2210Aで形成されている。第2収容孔221Aの底面は、遊星歯車2B,2B,…のギヤ部21B,21B,…の軸線方向先端面(自由端面)を摺動可能に支持するキャリア側支持面としての第3ギヤ支持面2211Aで形成されている。
【0029】
キャリア基部20Aは、プラネタリキャリア2Aの回転軸線方向に開口する円筒体によって形成されている。キャリア基部20Aの内周面には、入力軸(図示せず)を移動可能に連結するストレートスプライン嵌合部200Aが設けられている。
【0030】
キャリア鍔部21Aは、キャリア基部20Aに連続して設けられており、プラネタリキャリア2Aの回転軸線方向に開口する円環体によって形成されている。キャリア鍔部21Aの外径はキャリア基部20Aの外径よりも、またその内径はキャリア基部20Aの内径よりもそれぞれ大きい寸法に設定されている。
【0031】
遊星歯車2B,2B,…は、それぞれ各ピッチ円直径D,D(D>D)が互いに異なる(捩れ方向は同一である)大小2つのギヤ部20B,21B(ギヤ部20Bがピッチ円直径Dの歯車諸元を、ギヤ部21Bがピッチ円直径Dの歯車諸元をもつ)を有するヘリカルギヤからなり、プラネタリキャリア2Aの第1収容孔220A及び第2収容孔221A内に自転可能に収容されている。
【0032】
ギヤ部20Bは、太陽歯車2Cに噛合し、第1収容孔220A内に自転可能に収容されている。そして、ギヤ部20Bは、太陽歯車2Cを介してプラネタリキャリア2Aの回転力を図1左方に配置され得る出力軸(前輪側出力軸)に伝達し得るように構成されている。ギヤ部20Bの軸線方向先端面(自由端面)と太陽歯車2Cの鍔部21Cの底面(第4ギヤ支持面210C)との間には、太陽歯車2Cの外周囲に位置する環状のスラストワッシャ5が介装されている。ギヤ部20Bの歯数Zは、ギヤ部21Bの歯数Z(Z>Z)よりも大きい歯数に設定されている。本実施形態では、Z=8、Z=5に設定されている。
【0033】
ギヤ部21Bは、内歯車2Dに噛合し、第2収容孔221A内に自転可能に収容されている。そして、ギヤ部21Bは、内歯車2Dを介してプラネタリキャリア2Aの回転力を図1右方に配置され得る出力軸(後輪側出力軸)に伝達し得るように構成されている。
【0034】
太陽歯車2Cは、遊星歯車2B,2B,…のギヤ部20B,20B,…に噛合して内歯車2Dの軸線上で回転可能に配置され、かつプラネタリキャリア2A内に収容され、全体が回転軸線Oと同一の軸線をもつ円筒状のヘリカルギヤによって形成されている。そして、太陽歯車2Cは、遊星歯車2B,2B,…のギヤ部20B,20B,…からの回転力を受け、図1左方に配置され得る出力軸(前輪側出力軸)に出力するように構成されている。太陽歯車2Cの内周面には、同出力軸を移動可能に連結するストレートスプライン嵌合部20Cが設けられている。太陽歯車2Cのピッチ円直径D及び歯数Zは、遊星歯車2B,2B,…のギヤ部20B,20B,…のピッチ円直径D及び歯数Zよりも大きい寸法と歯数に設定されている。太陽歯車2Cの外周面には、プラネタリキャリア側端部と反対側の端部に位置する鍔部21Cが設けられている。
【0035】
鍔部21Cには、遊星歯車2B,2B,…(ギヤ部20B,20B,…)の軸線方向先端面を摺動可能に支持するギヤ側支持面としての第4ギヤ支持面210Cが設けられている。
【0036】
内歯車2Dは、ボス部20D及びギヤ部21Dからなり、遊星歯車2B,2B,…のギヤ部21B,21B,…に噛合してプラネタリキャリア2Aの軸線上で回転可能に配置され、全体が回転軸線Oと同一の軸線をもつ円筒状のヘリカルギヤによって形成されている。そして、内歯車2Dは、遊星歯車2B,2B,…のギヤ部21B,21B,…からの回転力を受け、図1右方に配置され得る出力軸(後輪側出力軸)に出力するように構成されている。
【0037】
ボス部20Dは、全体が円筒体からなり、太陽歯車2Cの軸線方向端面にプラネタリキャリア2Aを介して対向する位置に配置されている。ボス部20Dの内周面には、後輪側出力軸を移動可能に連結するスプライン嵌合部200Dが設けられている。ボス部20Dのプラネタリキャリア側の軸方向一側には、プラネタリキャリア2Aの太陽歯車側端面と反対側の端面に対向する端面をもつ第2カムとしての鍔部201Dが設けられている。
【0038】
鍔部201Dには、その外周面に位置し、かつ内歯車2Dの軸線回りに沿うストレートスプライン嵌合部2010Dが設けられている。また、鍔部201Dには、そのプラネタリキャリア側端面と反対側の端面に開口し、かつ円周方向に所定の間隔をもって並列する複数のカム孔2011D(図3に示す)が設けられている。
【0039】
各カム孔2011Dは、その底面側から開口側に向かって広がる凹孔によって形成されている。各カム孔2011Dには、カムフォロア4Bを転動させるカム面2012D,2013D(図3に示す)が設けられている。
【0040】
カム面2012D,2013Dは、鍔部201Dの回転方向に互いに並列し、かつ各勾配を互いに異にする緩急2種の傾斜面で形成されている。ここでは、カム面2012Dを緩斜面とし、カム面2013Dを急斜面としている。
【0041】
ギヤ部21Dは、遊星歯車2B,2B,…のギヤ部21B,21B,…に噛合するヘリカルギヤが内周面に形成された円筒状部分と、この円筒状部分の一側面から内方に延出されて中心部に貫通孔が形成された底部とからなり、全体が有底円筒体によって形成されている。ギヤ部21Dの底部の内周面には、底部の厚さに対応する長さにわたり軸方向のストレートスプライン嵌合部2100Dが形成されている。
【0042】
スプライン嵌合部2100Dは、ボス部20Dのストレートスプライン嵌合部2010Dに嵌合される。この嵌合は圧入によってなされるものではない。ギヤ部21Dのスプライン嵌合部2100Dのスプライン歯とボス部20Dのスプライン嵌合部2010Dのスプライン歯との間には、後述する押圧機構4で発生するギヤ軸線方向の押圧力でギヤ部21Dとボス部20Dとが相対移動できるよう、僅かな周方向の隙間が形成されている。これにより、ギヤ部21Dとボス部20Dとが軸線方向に相対移動可能かつ一体回転するように連結されている。
【0043】
ギヤ部21Dのピッチ円直径Dは、太陽歯車2Cのピッチ円直径Dよりも大きい寸法に設定されている。これにより、入力側ギヤ(遊星歯車2B,2B,…のギヤ部20B,20B,…及びギヤ部21B,21B,…)のピッチ円直径と出力側ギヤ(太陽歯車2C及び内歯車2D)のピッチ円直径との間においてD/D<D/Dが成立し、エンジン側から遊星歯車2B,2B,…のギヤ部21B,21B,…を介して内歯車2Dに伝達される回転トルクが、遊星歯車2B,2B,…のギヤ部21B,21B,…を介して太陽歯車2Cに伝達される回転トルクよりも大きくなる。ギヤ部21Dの歯数Zは、太陽歯車2Cの歯数Zよりも大きい歯数に設定されている。
【0044】
ギヤ部21Dの外周面には、ボス部側端部と反対側の端部に位置し、かつ太陽歯車2Cの鍔部21Cに対向する一方側のスラスト力受部としての鍔部210Dが設けられている。ギヤ部21Dの底部には、プラネタリキャリア側端面と反対側の端面に開口し、かつ円周方向に所定の間隔をもって並列する複数の凹孔211D,211D,…が設けられている。凹孔211D,211D,…内には、ステンレス鋼等の非磁性材料からなる球体6がその一部を露出させて装着されており、これによりアーマチャ31A(後述)の軸方向移動を規制している。
【0045】
デフケース2Eは、回転軸線Oに沿って一方向に開口する有底円筒状のフロントケース20Eと、このフロントケース20Eの図1右方の開口部(後述する部品挿入口2010E)を覆う略円環状のリヤケース21Eとからなり、フロントケース20Eの図1左方の開口部側が太陽歯車2Cにおける鍔部21Cの軸線方向両端面のうちプラネタリキャリア側端面に溶接されている。そして、デフケース2Eは、全体が差動機構2及び差動制限機構3を内部に収容する段状の中空構造体によって形成されている。
【0046】
フロントケース20Eは、各内径及び各外径がそれぞれ互いに異なる大小2つの円筒部200E,201Eからなる段状の無底円筒体によって形成されている。
【0047】
一方(大径)の円筒部200Eは、内歯車2D(ギヤ部21D)の鍔部210Dにスラストワッシャ7,8を介して対向する他方側のスラスト力受部としての段差部2000Eを内周面に有し、フロントケース20Eの軸線方向一方側に配置されている。そして、段差部2000Eが遊星歯車2B,2B,…(ギヤ部21B,21B)と内歯車2Dとの噛み合いによって内歯車2Dのギヤ部21Dに発生するスラスト力を受けるように構成されている。
【0048】
他方(小径)の円筒部201Eは、部品挿入口2010Eをリヤケース側に有し、フロントケース20Eの軸線方向他方側に配置されている。円筒部201Eの内周面には、円筒部200Eに近接する部位に位置するストレートスプライン嵌合部2011Eが設けられている。
【0049】
リヤケース21Eは、第1〜第3ケースエレメント210E〜212Eからなり、フロントケース20E(円筒部201E)の部品挿入口2010E内に螺着して回り止めされている。
【0050】
第1ケースエレメント210Eは、内歯車2D(ボス部20D)の鍔部201Dに対向する鍔部2100Eを外周面に有し、全体が軟鉄等の磁性材料からなる円筒体によって形成されている。第1ケースエレメント210Eの内周面と内歯車2D(ボス部20D)の外周面との間にニードル軸受9が介装されている。
【0051】
第2ケースエレメント211Eは、内歯車2D(ボス部20D)の鍔部201Dに対向する鍔部2110Eを内周面に有し、全体が軟鉄等の磁性材料からなる円筒体によって形成されている。第2ケースエレメント211Eの内周面と第1ケースエレメント210Eの外周面との間には環状空間Cが形成されている。
【0052】
第3ケースエレメント212Eは、第1ケースエレメント210Eの鍔部2100Eと第2ケースエレメント211Eの鍔部2110Eとの間に介在し、全体がステンレス鋼等の非磁性材料からなるケースエレメント連結用の円環体によって形成されている。
【0053】
(差動制限機構3の構成)
差動制限機構3は、図1に示すように、出力用駆動源としての電磁クラッチ3Aと、この電磁クラッチ3Aの駆動によって機能するパイロットクラッチ3Bとを有し、フロントケース20E(小径の円筒部201E)の内周面と内歯車2D(ボス部20D)の外周面との間に配置されている。
【0054】
電磁クラッチ3Aは、電磁コイル30A及びアーマチャ31Aを有し、内歯車2Dのボス部20Dの外周囲に配置されている。電磁コイル30Aは、リヤケース21Eの環状空間Cに配置され、かつ第1ケースエレメント210Eの外周面に軸受(ボールベアリング)10を介して相対回転可能に支持されている。アーマチャ31Aは、パイロットクラッチ3Bの左方車軸側に配置され、かつフロントケース20E(小径の円筒部201E)のストレートスプライン嵌合部2011Eにギヤ軸線方向(回転軸線O方向)に移動可能に連結されている。そして、電磁コイル30Aの電磁力によってリヤケース21Eの内端面に接近する方向に移動するように構成されている。
【0055】
パイロットクラッチ3Bは、複数のインナクラッチプレート30B,30B,…及び複数のアウタクラッチプレート31B,31B,…を有する摩擦式クラッチからなり、アーマチャ31Aとリヤケース21Eとの間に配置されている。そして、デフケース2Eと押圧機構4(後述するカム4A)とを断続可能に連結し、デフケース2E(太陽歯車2C)の回転力をカム4Aに伝達し得るように構成されている。
【0056】
インナクラッチプレート30B,30B,…及びアウタクラッチプレート31B,31B,…は、それぞれが互いに対向する位置に回転軸線Oに沿って交互に配置され、全体が環状の摩擦板によって形成されている。インナクラッチプレート30B,30B,…はカム部材30Cの外周面に、またアウタクラッチプレート31B,31B,…はフロントケース20E(小径の円筒部201E)の内周面(ストレートスプライン嵌合部2011E)にそれぞれスプライン嵌合されている。
【0057】
(押圧機構4の構成)
図3(a)及び(b)は押圧機構を示す。押圧機構4は、図3(a)及び(b)に示すように、前述した内歯車2Dの第2カムとしての鍔部201Dと、デフケース2Eからの回転力を受けて回転する第1カムとしてのカム4Aと、このカム4Aと内歯車2Dの鍔部201Dとの相対回転によって押圧力を発生するカムフォロア4Bと、を有するカム機構からなり、プラネタリキャリア2Aとリヤケース21E(共に図1に示す)との間に配置され、かつデフケース2E(フロントケース20E)にパイロットクラッチ3B(共に図1に示す)を介して断続可能に連結されている。そして、押圧機構4は、鍔部201Dのカム面2012D,2013Dと共に、差動機構2に対する差動制限力となる押圧力Ta,Tb(Ta<Tb)を発生させ、この押圧力を太陽歯車2C及び内歯車2Dの差動回転の方向に応じて可変するように構成されている。
【0058】
カム4Aは、内歯車2D(ボス部20D)の外周囲に配置され、かつ第1エレメント210Eの内端面に軸受(ニードルベアリング)11を介して回転自在に支持されている。カム4Aには、そのプラネタリキャリア側端面に開口し、かつ円周方向に所定の間隔をもって並列する複数のカム孔40Aが設けられている。
【0059】
各カム孔40Aは、その底面側から開口側に向かって広がる凹孔によって形成されている。各カム孔40Aには、カムフォロア4Bを転動させるカム面400A,401Aが設けられている。
【0060】
カム面400A,401Aは、カム4Aの回転方向に互いに隣接し、かつ各勾配を互いに異にする緩急2種の傾斜面で形成されている。ここでは、カム面400Aを緩斜面とし、カム面401Aを急斜面としている。これにより、太陽歯車2C(図1に示す)が内歯車2D(図1に示す)よりも早く回転している場合には、図3(a)に示すように、カム面401Aからカムフォロア4Bを介してカム面2013Dへの押圧力Taが発生し、内歯車2Dにスラスト力Taが付与される。また、内歯車2Dが太陽歯車2Cよりも早く回転している場合にはカム面400Aからカムフォロア4Bを介してカム面2012Dへの押圧力Tbが発生し、内歯車2Dにスラスト力Tb(Tb>Ta)が付与される。
【0061】
カムフォロア4Bは、カム4Aにおけるカム孔40Aのカム面400A,401Aと内歯車2D(鍔部201D)におけるカム孔2011Dのカム面2012D,2013Dとの間に介装され、全体が球体(ボール)によって形成されている。そして、カムフォロア4Bは、カム4Aの回転によって発生するギヤ軸線方向の押圧力を内歯車2Dのボス部20Dに付与するように構成されている。
【0062】
〔車両用差動装置1の動作〕
車両のエンジン側からのトルクがプラネタリキャリア2Aに入力されると、プラネタリキャリア2Aが回転軸線Oの回りに回転駆動される。プラネタリキャリア2Aが回転駆動されると、この回転力が遊星歯車2B,2B,…に伝達され、さらに遊星歯車2B,2B,…のギヤ部20B,20B,…から太陽歯車2Cに、また遊星歯車2B,2B,…のギヤ部21B,21B,…から内歯車2Dにそれぞれ伝達される。この場合、太陽歯車2Cが前輪側出力軸に、また内歯車2Dが後輪側出力軸にそれぞれスプライン嵌合されているため、エンジン側からのトルクがプラネタリキャリア2A及び遊星歯車2B,2B,…、さらに太陽歯車2C及び内歯車2Dを介して前輪側及び後輪側の出力軸に伝達される。
【0063】
ここで、車両が直進状態であり、かつ左右各車輪に路面との間でスリップが発生しない場合には、エンジン側からのトルクがプラネタリキャリア2Aに伝達されると、プラネタリキャリア2Aが回転軸線Oの回りに回転すると共に、遊星歯車2B,2B,…が自転することなく太陽歯車2C及び内歯車2Dの中心軸回りに公転し、遊星歯車2B,2B,…及び太陽歯車2C・内歯車2Dがプラネタリキャリア2Aと共に一体に回転するため、エンジン側からのトルクが各出力軸にD/D:D/Dのトルク配分比を基準に、静摩擦時の差動制限トルク配分内で路面反力のアンバランスに瞬時に対応して損失なく左右各出力軸に伝達され、左右各出力軸が等しい回転数で回転する。
【0064】
一方、例えばリヤ側の車輪と路面との間でスリップが発生した場合には、遊星歯車2B,2B,…が太陽歯車2C,内歯車2Dと噛合しながら自転するため、フロント側の出力軸がプラネタリキャリア2Aの回転速度より低い速度で回転し、リヤ側の出力軸がプラネタリキャリア2Aの回転速度より高い速度で回転し、エンジン側からのトルクが左右の出力軸間で予め設定した不等配分比となるよう、路面反力の大きいフロント側の車軸により大きいトルクを配分することで左右合計の駆動力損失を軽減し、またスリップを起こしているリヤ側の車輪へのトルク伝達を減少させることで、そのスリップの状態を緩和する。
【0065】
本実施の形態においては、プラネタリキャリア2Aにエンジントルクが入力された状態で次に示す作用によって出力側ギヤ(太陽歯車2C及び内歯車2D)に差動制限トルクが発生する。
【0066】
遊星歯車2B,2B,…が自転すると、これら遊星歯車2B,2B,…(ギヤ部20B,20B,…及びギヤ部21B,21B,…)の各歯先面がプラネタリキャリア2A(第1収容孔220A及び第2収容孔221A)の第1ギヤ支持面2200Aと第2ギヤ支持面2210Aで、また遊星歯車2B,2B,…(ギヤ部21B,21B,…)の軸線方向先端面がプラネタリキャリア2A(第2収容孔221A)の第3ギヤ支持面2211Aでそれぞれ摺動するため、これら第1ギヤ支持面2200A,第2ギヤ支持面2210Aと遊星歯車2B,2B,…の各歯先面との間及び遊星歯車2B,2B,…の軸線方向先端面と第3ギヤ支持面2210Aとの間に摩擦抵抗が発生し、これら摩擦抵抗によって太陽歯車2C,内歯車2Dに差動制限トルクが発生する。
【0067】
一方、遊星歯車2B,2B,…の自転によってギヤ噛み合い面で各ギヤ(遊星歯車2B,2B,…及び太陽歯車2C・内歯車2D)に回転軸線Oに沿ってスラスト力が発生する。この場合、遊星歯車2B,2B,…が太陽歯車2Cの鍔部21Cに接近する方向に移動するとともに、太陽歯車2D及び内歯車2Dが差動制限機構3側に移動する。
【0068】
この際、遊星歯車2B,2B,…のギヤ部20B,20B,…の軸線方向先端面が太陽歯車2Cの鍔部21C(第4ギヤ支持面210C)にスラストワッシャ5を介して圧接するため、鍔部21Cの第4ギヤ支持面210Cと遊星歯車2B,2B,…の軸線方向先端面との間にスラストワッシャ5を介して摩擦抵抗が発生し、これら摩擦抵抗によっても太陽歯車2C,内歯車2Dに差動制限トルクが発生する。
【0069】
また、内歯車2D(ギヤ部21D)の鍔部210Dがデフケース2E(フロントケース20E)の段差部2000Eにスラストワッシャ7,8を介して圧接するため、デフケース2Eの段差部2000Eと内歯車2Dの鍔部210Dとの間にスラストワッシャ7,8を介して摩擦抵抗が発生し、これら摩擦抵抗によっても太陽歯車2Cと内歯車2Dとの間に差動制限トルクが発生する。
【0070】
ここで、差動制限機構3(電磁クラッチ3A)の電磁石30Aに通電すると、フロントケース20E及びリヤケース21E・アーマチャ31Aに跨って磁気回路が形成され、その磁力によってアーマチャ31Aが電磁石側(リヤケース側)に移動する。このアーマチャ31Aの移動によってパイロットクラッチ3B(インナクラッチプレート30B,30B,…及びアウタクラッチプレート31B,31B,…)がリヤケース側に押圧され、これに伴いインナクラッチプレート30B,30B,…及びアウタクラッチプレート31B,31B,…が相対的に接近して互いに摩擦係合する。
【0071】
このため、デフケース2E(フロントケース20E)の円筒部201Eと押圧機構4のカム4Aとがトルク伝達可能に連結され、デフケース2E(太陽歯車2C)の回転力が押圧機構4に伝達される。この回転力の押圧機構4への伝達によって太陽歯車2Cの回転力がギヤ軸線方向の押圧力Ta,Tbに変換され、この押圧力が内歯車2D(ボス部20D)及びプラネタリキャリア2A(キャリア基部20A)を介して太陽歯車2Cに伝達される。
【0072】
これにより、遊星歯車2B,2B,…(ギヤ部20B,20B,…)と太陽歯車2Cとの噛み合い及び遊星歯車2B,2B,…(ギヤ部21B,21B,…)と内歯車2Dとの噛み合いによって発生するスラスト力と押圧機構4によって発生するギヤ軸線方向の押圧力Ta,Tbとが相殺されず、効率のよい差動制限トルクを得ることができる。
【0073】
この場合、太陽歯車2Cが内歯車2Dよりも早く回転していると、カム面401Aからカムフォロア4Bを介してカム面2013Dへの押圧力Taが発生し、太陽歯車2Cに内歯車2D及びプラネタリキャリア2Aを介してスラスト力Taが付与される。また、内歯車2Dが太陽歯車2Cよりも早く回転している場合には、カム面400Aからカムフォロア4Bを介してカム面2012Dへの押圧力Tbが発生し、太陽歯車2Cに内歯車2D及びプラネタリキャリア2Aを介してスラスト力Tb(Tb>Ta)が付与される。
【0074】
[第1の実施の形態の効果]
以上説明した第1の実施の形態によれば、次に示す効果が得られる。
【0075】
(1)太陽歯車2Cが内歯車2Dよりも早く回転している場合に必要なトルク容量に応じてパイロットクラッチ3Bの容量を定めることができる。このため、パイロットクラッチ3Bにおけるクラッチプレート数を削減することができ、クラッチ全体における軸線方向の小型化及びコストの低廉化を図ることができる。
【0076】
(2)遊星歯車2B,2B,…と太陽歯車2Cとの噛み合い及び遊星歯車2B,2B,…と内歯車2Dとの噛み合いによって発生するスラスト力と押圧機構4によって発生するギヤ軸線方向の押圧力とが相殺されず、効率のよい差動制限トルクを得ることができる。
【0077】
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2実施の形態に係る車両差動装置につき、図4及び図5を用いて説明する。図4は車両用差動装置の全体を示す。図5は押圧機構を示す。図4及び図5において、図1と同一又は同等の部材については同一の符号を付す。
【0078】
図4に示すように、本発明の第2の実施の形態に係る車両用差動装置101は、第1の実施の形態に示す車両用差動装置1と同様に、例えば4輪駆動車の駆動源の駆動力を前輪側のディファレンシャル装置(図示せず)と後輪側のディファレンシャル装置(図示せず)とに配分するセンターデフとして用いられ、駆動源の駆動トルク(エンジントルク)を前輪側及び後輪側の一対の出力軸(図示せず)に差動分配する差動機構102と、この差動機構102の差動を制限する差動制限機構103と、差動機構102の差動制限力となる押圧力を発生させる押圧機構104とから大略構成されている。
【0079】
差動機構102は、プラネタリキャリア2Aと、このプラネタリキャリア2Aの回転力を受ける複数の遊星歯車2B,2B,…(1個のみ図示)と、これら複数の遊星歯車2B,2B,…に噛合する出力部材としての太陽歯車2Cと、この太陽歯車2Cと同一の軸線上で複数の遊星歯車2B,2B,…に噛合する出力部材としての内歯車2Dと、この内歯車2D及び太陽歯車2C・プラネタリキャリア2A・複数の遊星歯車2B,2B,…を収容するデフケース2Eとを備えている。
【0080】
プラネタリキャリア2Aは、太陽歯車2Cと内歯車2Dとの間に介在してデフケース2Eの回転軸線O上に回転自在に配置され、全体が各外径を互いに異にする内外2つの円筒体40A,40Aによって分割形成されている。
【0081】
円筒体40Aは、各外径をそれぞれ互いに異にする筒部42A〜44Aを有し、プラネタリキャリア2Aの内周部に配置されている。
【0082】
筒部42Aは内歯車2D(図1に示す)内に、筒部43Aは太陽歯車2C(図1に示す)の内周囲にそれぞれ配置されている。筒部44Aは筒部42Aと筒部43Aとの間に介在して配置されている。
【0083】
筒部42Aの外周面には、円筒体40Aの内フランジ451A(後述)と内歯車2Dとの間に介在するヘリカルギヤを形成するヘリカルスプライン嵌合部420Aが設けられている。筒部42Aには、円筒体40Aの内フランジ451Aの第1当接面452A(後述)に対向する第2当接面421Aが設けられている。
【0084】
円筒体41Aは、基部45A及び鍔部46Aからなり、太陽歯車2Cと内歯車2Dとの間に介在して配置され、全体が各内外径をそれぞれ互いに異にする段状の円筒部材によって形成されている。
【0085】
基部45Aは、プラネタリキャリア2Aの回転軸線O方向に開口する円筒部材によって形成されている。基部45Aの内周面には、円筒体40Aのヘリカルスプライン嵌合部420Aに嵌合(噛合)し、かつ車両の駆動源(図示せず)の駆動力を受けて軸線方向にスラスト力を発生させるスラスト力発生部をヘリカルスプライン嵌合420Aと共に構成するヘリカルスプライン嵌合部450Aが設けられている。これにより、円筒体40A,40A間のトルク伝達時に、スラスト発生部(ヘリカルスプライン嵌合部420A,450A)において、円筒体40A,40A間に回転軸線Oに沿うスラスト力を発生させる。
【0086】
また、基部45Aの内周面には、径方向に突出し、かつドライブモード時又はコーストモード時にヘリカルスプライン嵌合部420A,450A間で発生するスラスト力による回転軸線O方向に沿う円筒体40A,40Aの相対移動を規制する相対移動規制部を筒部42Aと共に構成する内フランジ451Aが設けられている。
【0087】
ここで、ドライブモードとは、車両の前進トルクをエンジン側から一対の車軸に伝達する場合に設定されるモードをいう。また、コーストモードとは、車両の前進トルクを一対の車軸からエンジン側に伝達する場合に設定されるモードをいう。
【0088】
本実施の形態では、例えばドライブモード時にスラスト力発生部において円筒体40A,40Aの相対移動を規制する方向にスラスト力が発生すると、遊星歯車2B,2B,…及び太陽歯車2C・内歯車2Dに回転軸線Oに沿って発生するスラスト力による差動制限トルクの増大効果を無効にすることができる。
【0089】
一方、コーストモード時にスラスト力発生部において円筒体40A,40Aの相対移動を許容する方向にスラスト力が発生すると、遊星歯車2B,2B,…及び太陽歯車2C・内歯車2Dに回転軸線Oに沿って発生するスラスト力による差動制限トルクの増大効果を得ることができる。
【0090】
内フランジ451Aには、円筒体40A,40Aの相対移動規制部による移動規制状態において第2当接面421Aに軸方向から当接する第1当接面452Aが設けられている。これにより、第1当接面452A及び第2当接面421Aを互いに当接させ、ドライブモード時又はコーストモード時にヘリカルスプライン嵌合部420A,450A間で発生するスラスト力による回転軸線O方向に沿う相対移動が規制される。
【0091】
鍔部46Aは、基部45Aに連続して設けられ、かつプラネタリキャリア2Aの軸線方向に開口する円環部材によって形成されている。鍔部46Aの外径は基部45Aの外径よりも、またその内径は基部45Aの内径よりもそれぞれ大きい寸法に設定されている。
【0092】
プラネタリキャリア2Aには、遊星歯車2B,2B,…(図1に示す)を自転可能に収容支持するギヤ収容支持部22Aが設けられている。
【0093】
ギヤ収容支持部22Aは、第1収容孔220A及び第2収容孔221Aからなり、基部45A及び鍔部46Aに跨って配置されている。
【0094】
第1収容孔220Aは、プラネタリキャリア2Aの径方向内側(鍔部46Aの内周面)及び回転軸線Oと平行な両側方向に開口し、鍔部46Aに配置されている。第1収容孔220Aの内周面(トルク伝達面)は、遊星歯車2B,2B,…のギヤ部20B,20B,…(後述)の歯先面に適合する曲率面からなる第1ギヤ支持面2200Aで形成されている。
【0095】
第2収容孔221Aは、プラネタリキャリア2Aの径方向外側(基部45Aの外周面)及び軸線Oと平行な片側方向に開口し、かつ第1収容孔220Aに連通し、基部45Aに配置されている。第2収容孔221Aの内周面(トルク伝達面)は、遊星歯車2B,2B,…のギヤ部21B,21B,…(後述)の歯先面に適合する曲率面からなる第2ギヤ支持面2210Aで形成されている。第2収容孔221Aの底面は、遊星歯車2B,2B,…のギヤ部21B,21B,…の軸線方向先端面(自由端面)を摺動可能に支持する第3ギヤ支持面2211Aで形成されている。
【0096】
遊星歯車2B,2B,…は、それぞれ各ピッチ円直径D,D(D>D)が互いに異なる(捩れ方向は同一である)大小2つのギヤ部20B,21B(ギヤ部20Bがピッチ円直径Dの歯車諸元を、ギヤ部21Bがピッチ円直径Dの歯車諸元をもつ)を有するヘリカルギヤからなり、プラネタリキャリア2Aの第1収容孔220A及び第2収容孔221A内に自転可能に収容されている。
【0097】
ギヤ部20Bは、太陽歯車2Cに噛合し、第1収容孔220A内に収容されている。そして、ギヤ部20Bは、太陽歯車2Cを介してプラネタリキャリア2Aの回転力を図1左方の出力軸(フロント車軸連結用の出力軸)に伝達し得るように構成されている。
【0098】
ギヤ部20Bの軸方向線先端面(自由端面)とデフケース2E(リヤケース21E)の内フランジ213Eとの間には、太陽歯車2Cの外周囲に位置する環状のスラストワッシャ105が介装されている。
【0099】
ギヤ部20Bの歯数Zは、ギヤ部21Bの歯数Z(Z>Z)よりも大きい歯数に設定されている。
【0100】
ギヤ部21Bは、内歯車2Dに噛合し、第2収容孔221A内に収容されている。そして、ギヤ部21Bは、内歯車2Dを介してプラネタリキャリア2Aの回転力を図1右方に配置され得る出力軸(後輪側出力軸)に伝達し得るように構成されている。
【0101】
太陽歯車2Cは、遊星歯車2B,2B,…のギヤ部20B,20B,…に噛合して内歯車2Dの軸線上で回転可能に配置され、かつデフケース2E内に収容され、全体が回転軸線Oと同一の軸線をもつ円筒状のヘリカルギヤによって形成されている。そして、太陽歯車2Cは、遊星歯車2B,2B,…のギヤ部20B,20B,…からの回転力を受け、図1左方に配置され得る出力軸(前輪側出力軸)に出力するように構成されている。
【0102】
太陽歯車2Cの内周面には、前輪側の出力軸(不図示)を相対回転不能に連結するストレートスプライン嵌合部20Cが設けられている。太陽歯車2Cの外周面には、中間部材45のヘリカルスプライン嵌合部22aと共に移動力変換部24を形成するヘリカルスプライン嵌合部21Cが設けられている。
【0103】
太陽歯車2Cのピッチ円直径D及び歯数Zは、遊星歯車2B,2B,…のギヤ部20B,20B,…のピッチ円直径D及び歯数Zよりも大きい寸法と歯数に設定されている。
【0104】
内歯車2Dは、ボス部20D及びギヤ部21Dを有し、遊星歯車2B,2B,…のギヤ部21B,21B,…に噛合してデフケース2Eの回転軸線O上で回転可能に配置され、かつデフケース2Eのリヤケース21Eにリングボルト106を介して取り付けられ、全体が円筒状のヘリカルギヤによって形成されている。そして、内歯車2Dは、遊星歯車2B,2B,…のギヤ部21B,21B,…からの回転力を受け、図1右方に配置され得る出力軸(後輪側出力軸)に出力するように構成されている。
【0105】
ボス部20Dは、太陽歯車2Cにプラネタリキャリア2Aを介して対向する位置に配置され、全体がデフケース2Eの回転軸線O方向に開口する円筒体によって形成されている。ボス部20Dの内周面には、後輪側出力軸(不図示)を相対回転不能に連結するストレートスプライン嵌合部200Dが設けられている。ボス部20Dの外周面には、プラネタリキャリア2Aの太陽歯車側端面と反対側の端面に対向するフランジ端面をもつ鍔部201Dが設けられている。
【0106】
ギヤ部21Dは、遊星歯車2B,2B,…のギヤ部21B,21B,…に噛合してプラネタリキャリア2Aの外周囲に配置され、かつ内歯車2Dのボス部20Dに鍔部201Dを介して一体に形成されている。
【0107】
ギヤ部21Dのピッチ円直径Dは、太陽歯車2Cのピッチ円直径Dよりも大きい寸法と歯数に設定されている。これにより、入力側ギヤ(遊星歯車2B,2B,…のギヤ部20B,20B,…及びギヤ部21B,21B,…)のピッチ円直径と出力側ギヤ(太陽歯車2C及び内歯車2D)のピッチ円直径との間においてD/D<D/Dが成立し、エンジン側から遊星歯車2B,2B,…のギヤ部21B,21B,…を介して内歯車2Dに伝達される回転トルクが、遊星歯車2B,2B,…のギヤ部21B,21B,…を介して太陽歯車2Cに伝達される回転トルクよりも大きくなる。ギヤ部21Dの歯数Zは、太陽歯車2Cの歯数Zよりも大きい寸法と歯数に設定されている。
【0108】
デフケース2Eは、回転軸線Oに沿って2方向に開口する円環状のフロントケース20Eと、このフロントケース20Eと内歯車2Dとの間に介在する円筒状のリヤケース21Eとからなり、ベース42に軸受107を介して回転自在に支持され、かつ内歯車2Dにリングボルト106を介して取り付けられている。そして、デフケース2Eは、全体が差動機構2及び差動制限機構3を内部に内歯車2Dと共に収容する中空構造体によって形成されている。
【0109】
フロントケース20Eは、第1〜第3ケースエレメント46〜48を有し、デフケース2Eのベース42側に配置され、かつリヤケース21Eに締結ボルト108によって取り付けられている。
【0110】
第1ケースエレメント46は、ベース42を挿通する円筒部46a、及びアーマチャ21にクラッチ機構44を介して対向する鍔部46bを有し、フロントケース20Eの内周側に配置され、全体が軟鉄等の磁性材料からなる円筒部材によって形成されている。
【0111】
第2ケースエレメント47は、フロントケース20Eの外周側に配置され、全体が第1ケースエレメント46と同様に軟鉄等の磁性材料からなる円筒部材によって形成されている。
【0112】
第3ケースエレメント48は、第1ケースエレメント46と第2ケースエレメント47との間に介在し、全体がステンレス鋼等の非磁性材料からなるケースエレメント連結用の円環部材によって形成されている。
【0113】
リヤケース21Eは、スラストワッシャ105と中間部材45との間に介在する内フランジ213Eを有し、差動機構102と差動制限機構103との間に配置されている。リヤケース21Eには、その内周面に突出するストレートスプライン嵌合部214Eが設けられている。
【0114】
(差動制限機構103の構成)
差動制限機構103は、差動機構102の差動を制限する電磁クラッチ41を有し、デフケース2E(リヤケース21E)の内周面と太陽歯車2Cの外周面との間に配置されている。そして、差動制限機構103は、太陽歯車2C(デフケース2E)及び内歯車2Dを互いに断続(トルク伝達)可能に連結するように構成されている。
【0115】
電磁クラッチ41は、固定用のベース42と、このベース42に対して回転可能なデフケース2Eと、このデフケース2E内でクラッチ駆動力を発生させる駆動機構43と、この駆動機構43の軸線(回転軸線O)上で回転可能な太陽歯車2C,内歯車2Dを断続可能に連結するクラッチ機構44と、このクラッチ機構44に向かって移動可能な中間部材45とを備えている。
【0116】
ベース42は、図4におけるデフケース2Eの左方に配置され、全体が円筒部材によって形成されている。ベース2には、電磁コイル20を収容する収容空間2aが設けられている。
【0117】
駆動機構43は、電磁コイル20及びアーマチャ21を有し、ベース42の軸線(回転軸線O)上に配置されている。そして、駆動機構43は、太陽歯車2C,内歯車2Dの回転時にクラッチ機構44のインナクラッチプレート44a,44a,…及びアウタクラッチプレート44b,44b,…(後述)のうち互いに隣り合うクラッチプレート同士を押圧して摩擦摺動させるように構成されている。
【0118】
電磁コイル20は、ベース42の収容空間42aに収容されている。そして、電磁コイル20は、通電によってベース42,アーマチャ21及びフロントケース20Eに跨って磁気回路を形成し、アーマチャ21にベース42側への移動力を付与するための電磁力を発生させるように構成されている。
【0119】
アーマチャ21は、クラッチ機構44と中間部材45との間に配置され、かつフロントケース20E内に収容されている。全体が鉄等の磁性材料からなる環状板によって形成されている。そして、アーマチャ21は、電磁コイル20の電磁力を受け、クラッチ機構44にデフケース2Eの回転軸線Oに沿って移動するように構成されている。
【0120】
クラッチ機構44は、駆動機構43の駆動によるアーマチャ21の移動によって互いに摩擦係合可能なインナクラッチプレート44a,44a,…及びアウタクラッチプレート44b,44b,…を有し、アーマチャ21とフロントケース20Eとの間に配置され、かつリヤケース21E内に収容されている。そして、クラッチ機構44は、インナクラッチプレート44a,44a,…及びアウタクラッチプレート44b,44b,…のうち互いに隣り合うクラッチプレート同士が摩擦係合し、また摩擦係合解除して太陽歯車2C,内歯車2D(デフケース2E)を断続するように構成されている。
【0121】
インナクラッチプレート44a,44a,…及びアウタクラッチプレート44b,44b,…は、それぞれがデフケース2Eの回転軸線Oに沿って交互に配置され、全体が環状の摩擦板によって形成されている。
【0122】
インナクラッチプレート44a,44a,…は、その内周部にストレートスプライン嵌合部440a,440a,…を有し、デフケース2Eの回転軸線O上に移動可能に配置され、かつストレートスプライン嵌合部440a,440a,…が中間部材45のストレートスプライン嵌合部22b(後述)に相対回転不能に連結されている。
【0123】
アウタクラッチプレート44b,44b,…は、その外周部にストレートスプライン嵌合部440b,440b,…を有し、デフケース2Eの回転軸線O上に移動可能に配置され、かつストレートスプライン嵌合部440b,440b,…がリヤケース21Eのストレートスプライン嵌合部214Eに相対回転不能に連結されている。
【0124】
(押圧機構104の構成)
図5は押圧機構を示す。押圧機構104は、太陽歯車2C及び中間部材45からなり、デフケース2E内に収容されている。そして、押圧機構104は、差動機構102に対する差動制限力となる押圧力Ta,Tb(Ta>Tb=0)を発生させ、この押圧力を太陽歯車2C及び内歯車2Dの差動回転の方向に応じて可変するように構成されている。
【0125】
中間部材45は、基部22及び鍔部23を有し、太陽歯車2Cの外周囲に配置され、かつデフケース2E内に収容され、全体がステンレス等の非磁性材料によって形成されている。そして、中間部材45は、太陽歯車2Cの回転力を受け、クラッチ機構44に向かって移動するように構成されている。
【0126】
基部22は、その軸線方向に開口する円筒状部材によって形成されている。基部22の内周面には太陽歯車2Cのヘリカルスプライン嵌合部21Cに対応して嵌合(噛合)するヘリカルスプライン嵌合部22aが、またその外周面にはインナクラッチプレート44a,44a,…のストレートスプライン嵌合部440a,440a,…に対応するストレートスプライン嵌合部22bがそれぞれ設けられている。
【0127】
ヘリカルスプライン嵌合部22aは、ヘリカルスプライン嵌合部21Cと共に移動力変換部24を形成し、太陽歯車2Cの回転力をクラッチ機構44への移動力に変換するように構成されている。ヘリカルスプライン嵌合部22aの捩れ角は、電磁コイル20の通電状態からその非通電状態になった際にインナクラッチプレート44a,44a,…及びアウタクラッチプレート44b,44b,…を互いに摩擦係合させない角度(例えば45°)に設定されている。
【0128】
ヘリカルスプライン嵌合部22a,21Cの捩れ角は、クラッチプレート枚数や回転軸線Oからスプライン噛合点までの寸法等に応じて適宜変更される。
【0129】
鍔部23は、リヤケース21Eの内フランジ213Eとアーマチャ21の片側端面(クラッチ機構側端面と反対側の端面)との間に介在して中間部材45の軸線方向片側端部に配置され、かつ基部22の外周面に一体に設けられている。
【0130】
鍔部23のクラッチ機構側端面には、中間部材45のクラッチ機構44側への移動によってインナクラッチプレート44a,44a,…及びアウタクラッチプレート44b,44b,…を互いに摩擦係合させる方向にアーマチャ21を押圧する押圧部23aが設けられている。
【0131】
〔車両用差動装置101の動作〕
次に、本実施の形態に示す車両用差動装置の動作につき、図4及び図3(a),(b)を用いて説明する。図3(a)はドライブモード時のスラスト力発生状態を、また図3(b)はコーストモード時のスラスト力発生状態をそれぞれ示す。
【0132】
図4に示すように、車両のエンジン側からのトルクがプラネタリキャリア2Aに入力されると、プラネタリキャリア2Aが回転軸線Oの回りに回転駆動される。プラネタリキャリア2Aが回転駆動されると、この回転力が遊星歯車2B,2B,…に伝達され、さらに遊星歯車2B,2B,…のギヤ部20B,20B,…から太陽歯車2Cに、また遊星歯車2B,2B,…のギヤ部21B,21B,…から内歯車2Dにそれぞれ伝達される。この場合、太陽歯車2Cが前輪側出力軸に、また内歯車2Dが後輪側出力軸にそれぞれスプライン嵌合されているため、エンジン側からのトルクがプラネタリキャリア2A及び遊星歯車2B,2B,…、さらに太陽歯車2C及び内歯車2Dを介して左右(前後輪側)の出力軸に伝達される。
【0133】
ここで、車両が直進状態であり、かつ前後各車輪に路面との間でスリップが発生しない場合には、エンジン側からのトルクがプラネタリキャリア2Aに伝達されると、プラネタリキャリア2Aが回転軸線Oの回りに回転すると共に、遊星歯車2B,2B,…が自転することなく太陽歯車2C及び内歯車2Dの中心軸回りに公転し、遊星歯車2B,2B,…及び太陽歯車2C・内歯車2Dがプラネタリキャリア2Aと共に一体に回転するため、エンジン側からのトルクが前後各出力軸にD/D(前):D/D(後)の配分比を基準に、静摩擦時の差動制限トルク配分内で路面反力のアンバランスに瞬時に対応して損失なく前後各出力軸に伝達され、前後各出力軸が等しい回転数で回転する。
【0134】
一方、車両の前後車輪の一方と路面との間でスリップが発生する場合には、プラネタリキャリア2Aにエンジントルクが入力された状態で次の(1)及び(2)に示す作用によって出力側ギヤ(太陽歯車2C及び内歯車2D)に差動制限トルクが発生する。
【0135】
(1)遊星歯車2B,2B,…がトルクを入力した状態で自転すると、これら遊星歯車2B,2B,…(ギヤ部20B,20B,…及びギヤ部21B,21B,…)の各歯先面がプラネタリキャリア2A(第1収容孔220A及び第2収容孔221A)の第1ギヤ支持面2200Aと第2ギヤ支持面2210Aで摺動し、これら第1ギヤ支持面2200A,第2ギヤ支持面2210Aと遊星歯車2B,2B,…の各歯先面との間に摩擦抵抗が発生し、これら摩擦抵抗によって太陽歯車2C,内歯車2Dに差動制限トルクが発生する。
【0136】
また、遊星歯車2B,2B,…のトルクを入力した状態での自転によってギヤ噛み合い面で各ギヤ(遊星歯車2B,2B,…及び太陽歯車2C・内歯車2D)に回転軸線Oに沿ってスラスト力が発生する。この場合、遊星歯車2B,2B,…(ギヤ部21B,21B,…)の軸線方向先端面がプラネタリキャリア2A(第2収容孔201a)の第3ギヤ支持面2211A、もしくはリヤケース21Eの内フランジ213Eでスラストワッシャ105を介してそれぞれ摺動する。この際、各摺動部の間で摩擦抵抗が発生し、これら摩擦抵抗によっても太陽歯車2C,内歯車2Dに差動制限トルクが発生する。
【0137】
本実施の形態においては、プラネタリキャリア2Aが回転軸線O方向に沿うスラスト力を発生させるスラスト力発生部、及び図3に示す車両のドライブモード時に円筒体40A,41Aの軸線O方向に沿うスラスト力による相対移動を規制する相対移動規制部を有する。
【0138】
このため、ドライブモード時にスラスト力発生部において円筒体40Aに図4左方に、また円筒体41Aに図4右方にそれぞれスラスト力が発生すると、相対移動規制部において第1当接面452A及び第2当接面421Aを互いに押す方向に円筒体40A,41Aが移動し、円筒体40A,41Aの相対移動が規制される。これにより、各ギヤ(遊星歯車2B,2B,…及び太陽歯車2C・内歯車2D)に回転軸線Oに沿って発生するスラスト力による差動制限トルクの増大効果を無効にすることができるため、ドライブモード時に車両のバイアス上昇が抑制され、ドライブモードに限定したバイアス調整を行うことができる。
【0139】
一方、図3(b)に示す車両のコーストモード時にスラスト力発生部において円筒体40Aに図4右方に、また円筒体41Aに図4左方にそれぞれスラスト力が発生すると、相対移動規制部において第1当接面452A及び第2当接面421Aを互いに離間させる方向に円筒体40A,41Aが移動し、円筒体40A,41Aの相対移動が規制されることがない。これにより、両ヘリカルスプライン嵌合部420A,450A間で発生するスラスト力によって各ギヤ(遊星歯車2B,2B,…及び太陽歯車2C・内歯車2D)に回転軸線Oに沿って発生するスラスト力による差動制限トルクの増大効果を得ることができる。
【0140】
(2)駆動機構43の電磁コイル20に通電すると、ベース42及びフロントケース20E・リヤケース21E・アーマチャ21に跨って磁気回路が形成され、その電磁力によってアーマチャ21が電磁コイル側(ベース42側)に移動する。このアーマチャ21の移動によって差動制限機構103(クラッチ機構44のインナクラッチプレート44a,44a,…及びアウタクラッチプレート44,44b,…)がベース42側に押圧され、これに伴いインナクラッチプレート44a,44a,…及びアウタクラッチプレート44b,44b,…が相対的に接近して互いに摩擦係合する。
【0141】
この場合、インナクラッチプレート44a,44a,…とアウタクラッチプレート44b,44b,…との間にその摩擦係合によって1次クラッチ力が発生し、この1次クラッチ力によってデフケース2E及び太陽歯車2Cが、すなわち太陽歯車2C及び内歯車2Dがインナクラッチプレート44a,44a,…及びアウタクラッチプレート44b,44b,…を介して互いにトルク伝達可能に連結される。これにより、太陽歯車2C,内歯車2Dに差動制限トルクが発生する。
【0142】
ここで、駆動源の駆動トルクによってプラネタリキャリア2Aが図4に矢印で示す方向に回転している場合、太陽歯車2C及び内歯車2DがD/D:D/Dの配分比に応じた1次発生トルクを受ける。この際、中間部材45の移動力変換部24(ヘリカルスプライン嵌合部22a,21C)において、太陽歯車2Cにはプラネタリキャリア2A側へのスラスト力が、また中間部材45にはアーマチャ21側へのスラスト力がそれぞれ1次発生トルクの大きさに比例した大きさで作用する。
【0143】
このため、太陽歯車2Cの回転力が移動力変換部24でクラッチ機構44への移動力に変換され、すなわち差動機構102に対する差動制限力となる押圧力Taが発生し、この押圧力によって中間部材45がクラッチ機構44側に移動して押圧部23aでインナクラッチプレート44a,44a,…及びアウタクラッチプレート44b,44b,…を互いに摩擦係合させる方向にアーマチャ21を押圧し、このアーマチャ21への押圧によって2次クラッチ力が発生する。これにより、太陽歯車2C及び内歯車2Dがクラッチ機構44及び中間部材45を介してD/D:D/Dの配分比に応じた2次発生トルクを受ける。このようなサイクルを繰り返して増幅されたトルクを太陽歯車2C及び内歯車2Dが受け、差動制限トルクの不足分を補うことができる。
【0144】
一方、駆動源の駆動トルクによってプラネタリキャリア2Aが図4に矢印で示す方向と反対の方向に回転している場合、太陽歯車2C及び内歯車2DがD/D:D/Dの配分比に応じた1次発生トルクを受ける。この際、中間部材45の移動力変換部24(ヘリカルスプライン嵌合部22a,21C)において、太陽歯車2Cにはプラネタリキャリア2Aとは反対側へのスラスト力が、また中間部材45にはアーマチャ21とは反対側へのスラスト力がそれぞれ1次発生トルクの大きさに比例した大きさで作用する。
【0145】
このため、中間部材45がアーマチャ21から離間する方向に移動し、太陽歯車2Cの回転力が移動力変換部24でクラッチ機構44への移動力に変換されず、すなわち差動機構102に対する差動制限力となる押圧力Tb(Tb=0)が発生せず、アーマチャ21への押圧による2次クラッチ力が発生することはない。
【0146】
[第2の実施の形態の効果]
以上説明した第2の実施の形態によれば、第1の実施の形態の効果に加え、次に示す効果が得られる。
【0147】
プラネタリキャリア2Aにおいて、車両のドライブモード時に円筒体40A,41Aの相対移動が規制され、各ギヤ(遊星歯車2B,2B,…及び太陽歯車2C・内歯車2D)に発生するスラスト力による差動制限トルクの増大効果を無効にすることができる。これにより、車両のバイアス上昇が抑制され、ドライブモードに限定したバイアス調整を行うことができる。
【0148】
[第3の実施の形態]
次に、本発明の第3実施の形態に係る車両差動装置につき、図6及び図7を用いて説明する。図6は車両用差動装置の要部を示す。図7は押圧機構を示す。図6及び図7において、図4と同一又は同等の部材については同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0149】
図6に示すように、第3の実施の形態に示す車両用差動装置の押圧機構201は、中間部材45が太陽歯車2Cにカム結合されている点に特徴がある。
【0150】
このため、中間部材45の内周面には、図7(a)及び(b)に示すように、その円周方向に沿う環状の第1カム202が設けられている。第1カム202は、中間部材45の回転方向に互いに並列し、かつ各勾配を互いに異にする緩急2種のカム面202a,202bを有する肉厚部によって形成されている。カム面202aは中間部材45の円周方向一方側に傾斜する緩勾配の傾斜面で、またカム面202bは中間部材45の円周方向他方側に傾斜する急勾配の傾斜面でそれぞれ複数個ずつ形成されている。
【0151】
太陽歯車2Cの外周面には、その円周方向に沿う環状の第2カム203が設けられている。第2カム203は、太陽歯車2Cの回転方向に互いに並列し、かつ各勾配を互いに異にする緩急2種のカム面203a,203bを有する肉厚部によって形成されている。カム面203aは太陽歯車2Cの円周方向一方側に傾斜する緩勾配の傾斜面で、またカム面203bは太陽歯車2Cの円周方向他方側に傾斜する急勾配の傾斜面でそれぞれ複数個ずつ形成されている。
【0152】
そして、第2カム203のカム面203aは、第1カム202のカム面202aに対向し、太陽歯車2Cに対して内歯車2Dが図4に示す矢印方向とは反対の方向に相対回転した場合に第1カム202のカム面202aに当接するように構成されている。また、第2カム203のカム面203bは、第1カム202のカム面202bに対向し、太陽歯車2Cに対して図4に示す矢印方向に相対回転した場合に第1カム202のカム面202bに当接するように構成されている。
【0153】
本実施の形態においては、電磁コイル20への通電時に太陽歯車2Cが内歯車2Dよりも早く回転している場合、図7(a)に示すように、第2カム203のカム面203bから第1カム202のカム面202bへの押圧力Saが発生し、中間部材5にスラスト力Saが付与される。また、電磁コイル20への通電時に内歯車2Dが太陽歯車2Cよりも早く回転している場合には、図7(b)に示すように、第2カム203のカム面203aから第1カム202のカム面202aへの押圧力Sbが発生し、中間部材45にスラスト力Sbが付与される。
【0154】
[第3の実施の形態の効果]
以上説明した第3の実施の形態によれば、第1の実施の形態の効果と同様の効果が得られる。
【0155】
以上、本発明の車両用差動装置を上記の実施の形態に基づいて説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の態様において実施することが可能であり、例えば次に示すような変形も可能である。
【0156】
本実施の形態では、入力側ギヤ(遊星歯車2B,2B,…のギヤ部20B,20B,…及びギヤ部21B,21B,…)のピッチ円直径と出力側ギヤ(太陽歯車2C及び内歯車2D)のピッチ円直径との間においてD/D<D/Dが成立する場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、入力側ギヤ(遊星歯車2B,2B,…のギヤ部20B,20B,…及びギヤ部21B,21B,…)のピッチ円直径と出力側ギヤ(太陽歯車2C及び内歯車2D)のピッチ円直径との間においてD/D>D/Dが成立するような寸法に各ギヤのピッチ円直径を設定してもよい。
【符号の説明】
【0157】
1…車両用差動装置、2…差動機構、2A…プラネタリキャリア、20A…キャリア基部、21A…キャリア鍔部、200A…ストレートスプライン嵌合部、22A…ギヤ収容支持部、220A…第1収容孔、2200A…第1ギヤ支持面、2201A…内フランジ、221A…第2収容孔、2210A…第2ギヤ支持面、2211A…第3ギヤ支持面、2B…遊星歯車、20B,21B…ギヤ部、2C…太陽歯車、20C…ストレートスプライン嵌合部、21C…鍔部、210C…第4ギヤ支持面、22C…ヘリカルスプライン嵌合部、2D…内歯車、20D…ボス部、200D…ストレートスプライン嵌合部、201D…鍔部、2010D…ストレートスプライン嵌合部、2011D…カム孔、2012D,2013D…カム面、21D…ギヤ部、210D…鍔部、211D…凹孔、2E…デフケース、20E…フロントケース、200E…大径の円筒部、2000E…段差部、201E…小径の円筒部、2010E…部品挿入口、2011E…ストレートスプライン嵌合部、21E…リヤケース、210E…第1ケースエレメント、2100E…鍔部、211E…第2ケースエレメント、2110E…鍔部、212E…第3ケースエレメント,213E…内フランジ、214E…ストレートスプライン嵌合部、3…差動制限機構、3A…電磁クラッチ、30A…電磁コイル、31A…アーマチャ、3B…パイロットクラッチ、30B…インナクラッチプレート、31B…アウタクラッチプレート、4…押圧機構、4A…カム、40A…カム孔、400A,401A…カム面、4B…カムフォロア、5…スラストワッシャ、6…球体、7,8…スラストワッシャ、9…ニードルベアリング、10…軸受(ボールベアリング)、11…軸受(ニードルベアリング)、20…電磁コイル、21…アーマチャ、22…基部、22a…ヘリカルスプライン嵌合部、22b…ストレートスプライン嵌合部、23…鍔部、23a…押圧部、24…移動力変換部、101…車両差動装置、102…差動機構、103…差動制限機構、104…押圧機構、105…スラストワッシャ、106…リングボルト、107…軸受、108…締結ボルト、40A,40A…円筒体、41…電磁クラッチ、42…ベース、42a…収容空間、42A…筒部、420A…ヘリカルスプライン嵌合部、421A…第2当接面、43…駆動機構、43A,44A…筒部、44…クラッチ機構、44a…インナクラッチプレート、440a…ストレートスプライン嵌合部、44b…アウタクラッチプレート、440b…ストレートスプライン嵌合部、40A,41A…円筒体、45…中間部材、452A…第1当接面、453A…鍔部、45A…基部、450A…ヘリカルスプライン嵌合部、451A…内フランジ、46…第1ケースエレメント、46a…円筒部、46b…鍔部、47…第2ケースエレメント、48…第3ケースエレメント、201…押圧機構、202…第1カム、202a,202b…カム面、203…第2カム、203a,203b…カム面、C…環状空間、O…回転軸線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
各配分トルクを互いに異にするトルク配分比に設定された一対の出力部材を有し、駆動源の駆動トルクを前記一対の出力部材に配分する差動機構と、
前記差動機構に対する差動制限力となる押圧力を発生させ、前記一対の出力部材の差動回転の方向に応じて前記押圧力を可変する押圧機構と
を備えた車両用差動装置。
【請求項2】
前記押圧機構は、前記一対の出力部材のうち一方の出力部材から前記クラッチを介して伝達される回転力を受けて回転する第1カムと、前記第1カムに対向して前記第1カムと相対回転可能な第2カムとを有するカム機構からなり、前記第1カム及び前記第2カムが各勾配を互いに異にする緩急2種のカム面をそれぞれ有する請求項1に記載の車両用差動装置。
【請求項3】
前記押圧機構は、前記一対の出力部材のうち一方の出力部材から前記クラッチを介して伝達される回転力を受けて回転する押圧部材を有し、前記押圧部材が前記一対の出力部材のうち他方の出力部材にヘリカルスプライン嵌合によって連結されている請求項1に記載の車両用差動装置。
【請求項4】
前記押圧機構は、前記一対の出力部材のうち一方の出力部材から前記クラッチを介して伝達される回転力を受けて回転する押圧部材を有し、前記押圧部材が前記一対の出力部材のうち他方の出力部材にカム結合によって連結され、
前記押圧部材は、その回転方向に互いに並列し、かつ各勾配を互いに異にする緩急2種のカム面を有し、
前記他方の出力部材は、前記緩急2種のカム面に対向し、かつ各勾配を互いに異にする緩急2種のカム面を有する請求項1に記載の車両用差動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−141011(P2011−141011A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−3185(P2010−3185)
【出願日】平成22年1月8日(2010.1.8)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】