説明

車両用水素検知装置

【課題】水素ステーションにおける水素ガス充填時の安全性を確認できる車両用水素検知装置を提供する。
【解決手段】燃料電池車10は、水素充填口31と、水素充填口31に接続された水素タンク14と、アンテナ18とドアロック19と水素充填口31の各種センサとに接続されたキーレスエントリ車載機11と、圧力センサ15とバルブ16とに接続されている燃料電池コントローラ13と、車両コントローラ12と、を有する。また、水素充填口31には、水素ステーションの水素充填設備と接続するための水素用アダプタ32と、フューエルリッドの開閉を検知する開閉スイッチ33と、水素センサ34と、火炎などの熱源を検知する赤外線センサ35と、が配置され、燃料電池車10のキーレスエントリ車載機11と通信するキーレスエントリ携帯機21は、アンテナ22と表示器23とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
燃料電池車の水素充填口近傍における水素ガスの検出を行う車両用水素検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、燃料電池を搭載した燃料電池車の実用化が進められている。燃料電池車や天然ガス車には、ガソリン車と同等の走行距離を実現するため、燃料ガスとしての水素ガスや天然ガスを貯蔵する高圧タンクが搭載されている。高圧タンクに水素ガスを充填するには水素ステーションに設けられた高圧充填設備を用いて水素ガスを充填する。
【0003】
また、水素ガスを車両に充填する方法として、作業員が高圧充填設備の水素用ソケットを車両に設けられた水素用アダプタに取り受け、水素用アダプタを介して水素ガスを車両に供給する方法がある。このような水素ステーションでは、特別な教育を受けた作業員が水素ガスの充填を行い、十分な安全対策を確保している。
【0004】
燃料電池車の普及を促進するためには、水素の充填が可能な水素ステーションの設置と、ガソリンスタンドと同様なセルフサービス利用の実現と、が望まれている。しかし、現在の水素ステーションではセルフサービス利用に対応しておらず、今後のインフラ整備の課題となっている。
【0005】
一方、燃料電池車においては、特許文献1に示すように燃料電池車の起動に先立って、例えば燃料電池の燃料極側に供給される水素が漏洩していないことの検知などの安全性照会を行いつつ、車両を速やかに始動させる技術が知られている。
【0006】
特許文献1では、例えば、キーレスエントリーシステム等のように、車両を含む所定範囲内において、車載無線装置から発信される呼出信号を受信した携帯無線機は応答信号を返信し、この応答信号を車載無線装置が受信すると車両のガスセンサによる水素ガスの検出を開始することで車両の速やかな始動を実現している。
【0007】
【特許文献1】特開2004−23873号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した特許文献1によると、運転者が携帯無線機を携帯して車両に接近した時点で車両のガスセンサが作動を開始するため、運転者の動作や意志を妨げること無しに、ガスセンサによる水素ガスの漏洩検出に基づく安全性の確認処理が完了し、円滑に車両を始動させることが可能となる。
【0009】
しかし、水素ガスはガソリンと異なり臭いによる判定ができないため、水素検知装置が不可欠であるが、特許文献1に記載された燃料電池車では、セルフサービスの水素ステーションにおける水素ガス充填時の安全性の確認処理までは考慮されておらず、充填後の安全確認に留まっていた。
【0010】
そこで、本発明では、水素ステーションにおける水素ガス充填を行うであろう運転者の安全性を確認できる車両用水素検知装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以上のような目的を達成するために、本発明に係る車両用水素検知装置は、燃料電池車の水素充填口近傍における水素ガスの検出を行う車両用水素検知装置において、水素充填口の開閉を検出する開閉検知手段と、水素充填口近傍に設けられ、水素ガスを検知する水素センサと、開閉検知手段及び水素センサからの情報を取得すると共に、操作者が携帯するキーレスエントリ携帯機と通信して少なくとも車両のキーの施錠と解錠とを制御するキーレスエントリ車載機と、を備え、キーレスエントリ車載機は、開閉検知手段により水素充填口が開かれたことを検知すると、水素センサによる水素ガスの濃度を測定し、予め決められたしきい値を超えた場合には、キーレスエントリ携帯機と通信を行い、キーレスエントリ携帯機に警告動作を実行させることを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る車両用水素検知装置において、火炎を検知する燃焼センサを水素充填口近傍にさらに有し、少なくとも燃焼センサにより燃焼を検知した場合には、キーレスエントリ車載機からの情報に基づいて、燃料電池車の水素充填を中止することを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る車両用水素検知装置において、キーレスエントリ携帯機は、キーレスエントリ車載機と通信し、無線通信により車両のキーの施錠と解錠を実行するキーレスエントリの機能と、水素検知装置としての機能と、を備えることを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係る車両用水素検知装置において、警告動作は、キーレスエントリ車載機の表示灯及び表示器に表示されるメッセージと、キーレスエントリ車載機のスピーカからの音声による警告メッセージ及び警告音と、の少なくとも一つであることを特徴とする。
【0015】
さらに、本発明に係る車両用水素検知装置において、キーレスエントリ携帯機は、水素充填口を覆うカバーのロックが解除されたことにより水素充填口が開かれたことを検知する機能を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明を用いることにより、水素ステーションにおける水素ガス充填を行うであろう運転者の安全性を確認できる車両用水素検知装置を実現できるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための最良の形態(以下実施形態という)を、図面に従って説明する。
【0018】
図1は車両用水素検知装置の構成を示している。本発明における車両用水素検出装置は、燃料電池車10の水素充填口31に配置された水素センサ34によって検知した情報を、キーレスエントリ車載機11が判定し、その判定に基づいて車両コントローラ12と、運転者が携帯しているキーレスエントリ携帯機21と、に判定結果を伝達して予め決められた警告動作を実行させることにより安全を確保するものである。
【0019】
より具体的には、キーレスエントリ車載機11とキーレスエントリ携帯機21とで構成されるキーレスエントリシステムを主動作としてはキーレスエントリとして作動させ、副動作として車両停止後、かつ、水素充填時には水素検知装置として作動させるものである。
【0020】
図1の燃料電池車10は、水素充填口31と、水素充填口31に接続された水素タンク14と、アンテナ18とドアロック19と水素充填口31の各種センサとに接続されたキーレスエントリ車載機11と、圧力センサ15とバルブ16とに接続されている燃料電池コントローラ13と、車両コントローラ12と、を有している。また、水素充填口31には、水素ステーションの水素充填設備と接続するための水素用アダプタ32と、後述するフューエルリッドの開閉を検知する開閉スイッチ33と、水素センサ34と、火炎などの熱源を検知する赤外線センサ35と、が配置されている。また、燃料電池車10のキーレスエントリ車載機11と通信するキーレスエントリ携帯機21は、アンテナ22と表示器23とスピーカ26とを有している。
【0021】
図2はキーレスエントリ携帯機21の外観を示している。本実施形態で特徴的な事項は、キーレスエントリ携帯機21の小型化と高機能化により運転者の認証と運転者への各種情報提供が可能となったことで、燃料電池車特有の問題である水素ガス充填作業の安全性向上を実現したことである。
【0022】
キーレスエントリ携帯機21は、水素センサ24と、燃料電池車10に搭載されているキーレスエントリ車載機11との通信状況を表示するための電波強度LED41と、燃料電池車のフューエルリッドの開閉状況を表示する開閉LED42と、様々な情報を表示可能な表示器23と、キーロックを解除するためのUnLockスイッチ29と、キーロックを施錠するためのLockスイッチ28と、トランクのキーを解除するトランクスイッチ27と、スピーカ26と、を有している。なお、図2の表示器23には「水素ガス漏れ無し」の表示がなされており、キーレスエントリ携帯機21だけでも水素ガスの濃度を測定可能である。
【0023】
図3は水素充填口31の外観を示している。水素充填口31は、燃料電池車のリアタイヤ53の近傍、後部フェンダ52に設けられており、通常はフューエルリッド44により閉鎖され、水素用アダプタ32はアダプタカバー36により密閉されている。また、水素充填口31の上部には水素センサ34と赤外線センサ35とが配置され、水素充填口31の下部にはフューエルリッド44の開閉を検知する開閉スイッチ33が配置されている。一般的に水素は空気に比べて比重が軽いため、水素用アダプタ32から水素が漏れ出した場合には、水素用アダプタ32上部の水素センサ34にて検知が可能である。さらに、図3の赤外線センサ35は、直射日光による誤動作を防止するためのカラーフィルタコーティングを施したドーム状のカバーが設けられている。
【0024】
図4は車両用水素検出装置の処理の流れを示し、図1〜3を用いてキーレスエントリ車載機11とキーレスエントリ携帯機21との処理の流れを説明する。最初に、キーレスエントリ車載機11は、図4のステップS10において、車両全体の制御を行っている車両コントローラより車両が停止していることを確認する。車両が停止していることが確認できた場合には、ステップS12の充填口開可能性判定に移る。充填口を開くためには、運転者によるフューエルリッド44の開放と水素用アダプタ32の接続をする必要がある。なお、ステップS12において、充填口開可能性判定がYesの場合にはステップS14へ移り、車両停止及び充填口開可能性判定がNoの場合には、処理は最初に戻る。
【0025】
キーレスエントリ車載機11は、上記処理により運転者によりフューエルリッド44が開かれたことを開閉スイッチ33やその他の機能により検出すると、ステップS14の充填モードに移る。キーレスエントリ車載機11は、ステップS14の充填モードにおいて、水素充填に先立ち、キーレスエントリ携帯機21に充填モードに移行したことを送信し、キーレスエントリ携帯機21の開閉LED42を点灯させてキーレスエントリ携帯機21の水素センサ24による水素濃度の測定を開始し、表示器23に表示する。さらに、キーレスエントリ携帯機21は、例えば、数秒間隔でキーレスエントリ車載機11へ測定された水素濃度を送信する。
【0026】
キーレスエントリ車載機11は、ステップS14の充填モードに移ることで初期警戒動作を実行する。初期警戒動作は、ステップS14〜S20までの間で実行される警戒動作である。初期警戒動作は、水素充填を開始する前に、操作者近傍の水素濃度の測定と、フューエルリッド44近傍の水素濃度の測定及び赤外線センサ35による熱源の検知を実行し、例えば、水素濃度が約2%を超える値を検出した場合や熱源を検出した場合等により警報を発生する動作である。また、警戒動作は、水素濃度の上昇及び赤外線センサの検出により警戒レベルを上昇させ、キーレスエントリ車載機11の判定又は緊急度に応じて水素タンクのバルブ16を閉じて水素充填を停止することも可能である。
【0027】
運転者が高圧充填設備の水素用ソケットを車両に設けられた水素用アダプタに取り付け、水素用アダプタ32を介して水素ガスを車両に供給を開始すると、燃料電池コントローラ13は圧力センサ15により水素圧力を測定し、予め決められた圧力に上昇したことを確認してバルブ16を開き、水素タンクへの充填を開始する。この情報は、燃料電池コントローラ13から車両コントローラ12に伝達され、車両コントローラ12はキーレスエントリ車載機11に充填が開始したことを伝える。
【0028】
キーレスエントリ車載機11が充填開始を検知すると、ステップS16に移行し、キーレスエントリ携帯機21に充填開始を通知し、キーレスエントリ携帯機21の表示器23には、「充填開始」の表示が表示される。また、充填の進捗は、燃料電池コントローラ13からキーレスエントリ車載機11に伝達され、キーレスエントリ車載機11はキーレスエントリ携帯機21へ送信して表示器23に表示される。
【0029】
運転者が、水素充填を終了して車両に取り付けた水素用ソケットを取り外すと、キーレスエントリ車載機11は燃料電池コントローラ13からの情報によりステップS18にて充填終了となり、タイマ機能により、例えば、30秒間水素ガス漏れを継続し、水素ガス漏れがないことを確認後ステップS22の通常状態に戻り、通常のキーレスエントリシステムの動作に切り替えることになる。
【0030】
以上、上述したように、本実施形態に係る車両用水素検知装置を用いることにより、水素ガスの充填時に問題となる漏れ状態の把握が臭覚によって行うことができないという問題を電気的に水素を検知することで解決し、水素ステーションにおける水素ガス充填を行うであろう運転者の安全性を文字情報と音声及び警告音等で確認可能とした。なお、キーレスエントリ携帯機21に内蔵する水素センサ24と表示器23は、デジタル式に濃度を表示するものから、検出した値が予め設定されたしきい値を超えた場合には、警告音を段階的に出力してもよく、もちろん、キーレスエントリ車載機11と連携して警告音を出してもよい。
【0031】
本実施形態では代表的な処理の流れを説明したが、この処理に限定するものではなく、キーレスエントリーシステムの無線機能又は携帯電話等による情報伝達と、車両用水素検知装置による安全性向上と、を図る構成であっても良いことはいうまでもない。また、水素充填中に水素漏れを検出した場合には、燃料電池車のバルブを閉じるだけでなく、水素ステーションのバルブを通信機能により自動閉鎖することも好適である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の実施形態に係る車両用水素検知装置の構成を示す構成図である。
【図2】本発明の実施形態に係る車両用水素検知装置を構成するキーレスエントリ携帯機の外観を示す外観図である。
【図3】本発明の実施形態に係る車両用水素検出装置を構成する水素充填口の外観を示す外観図である。
【図4】本発明の実施形態に係る車両用水素検出装置の処理の流れを説明するフローチャート図である。
【符号の説明】
【0033】
10 燃料電池車、11 キーレスエントリ車載機、12 車両コントローラ、13 燃料電池コントローラ、14 水素タンク、15 圧力センサ、16 バルブ、18,22 アンテナ、19 ドアロック、21 キーレスエントリ携帯機、23 表示器、24 水素センサ、26 スピーカ、27 トランクスイッチ、28 Lockスイッチ、29 UnLockスイッチ、31 水素充填口、32 水素用アダプタ、33 開閉スイッチ、34 水素センサ、35 赤外線センサ、36 アダプタカバー、41 電波強度LED 、42 開閉LED、44 フューエルリッド、52 後部フェンダ、53 リアタイヤ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池車の水素充填口近傍における水素ガスの検出を行う車両用水素検知装置において、
水素充填口の開閉を検出する開閉検知手段と、
水素充填口近傍に設けられ、水素ガスを検知する水素センサと、
開閉検知手段及び水素センサからの情報を取得すると共に、操作者が携帯するキーレスエントリ携帯機と通信して少なくとも車両のキーの施錠と解錠とを制御するキーレスエントリ車載機と、
を備え、
キーレスエントリ車載機は、開閉検知手段により水素充填口が開かれたことを検知すると、水素センサによる水素ガスの濃度を測定し、予め決められたしきい値を超えた場合には、キーレスエントリ携帯機と通信を行い、キーレスエントリ携帯機に警告動作を実行させることを特徴とする車両用水素検知装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用水素検知装置において、
火炎を検知する燃焼センサを水素充填口近傍にさらに有し、
少なくとも燃焼センサにより燃焼を検知した場合には、キーレスエントリ車載機からの情報に基づいて、燃料電池車の水素充填を中止することを特徴とする車両用水素検知装置。
【請求項3】
請求項1に記載の車両用水素検知装置において、
キーレスエントリ携帯機は、キーレスエントリ車載機と通信し、無線通信により車両のキーの施錠と解錠を実行するキーレスエントリの機能と、水素検知装置としての機能と、を備えることを特徴とする車両用水素検知装置。
【請求項4】
請求項1に記載の車両用水素検知装置において、
警告動作は、キーレスエントリ車載機の表示灯及び表示器に表示されるメッセージと、キーレスエントリ車載機のスピーカからの音声による警告メッセージ及び警告音と、の少なくとも一つであることを特徴とする車両用水素検知装置。
【請求項5】
請求項1に記載の車両用水素検知装置において、
キーレスエントリ携帯機は、水素充填口を覆うカバーのロックが解除されたことにより水素充填口が開かれたことを検知する機能を有することを特徴とする車両用水素検知装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−20910(P2010−20910A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−177679(P2008−177679)
【出願日】平成20年7月8日(2008.7.8)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】