説明

車両用液圧ブレーキの制御ユニット

【課題】制御弁、ポンプ等の液圧機器を収容するハウジングを小型化するとともに、これら機器を連通する連通路同士の干渉を防ぐことで小型・軽量の車両用液圧ブレーキの制御ユニットを提供する。
【解決手段】横滑り防止制御やトラクション制御のように自動的にホイールシリンダに対するブレーキ液圧を付与する車両用液圧ブレーキ装置の制御ユニットの第1配管系において、ハウジング40内に形成された内孔41と、内孔41に両端部で液密的に嵌合され外周面と内孔41の内周面との間に両端部間で環状通路La1aを形成する通路部材42とを備え、環状通路La1aが第1通路La1の一部を構成して切換制御弁21、各増圧制御弁22、23、および吐出弁25に連通され、通路部材42の内部に第2通路La2の一部が形成されて一端で切換制御弁21、他端で切換弁33に連通されるようにし、同様の構成を第2配管系にも設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンチスキッド制御、横滑り防止制御、およびトラクション制御のように自動的にホイールシリンダに対するブレーキ液圧を付与する車両用液圧ブレーキの制御ユニットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ホイールシリンダに対するブレーキ液圧を自動的に付与する車両用液圧ブレーキの制御ユニットとして、例えば特許文献1に示されるように、ハウジング本体に各種制御弁等の収容孔や連通路が形成されたハウジング一体式のものが知られている。
【0003】
一般に、この種の制御ユニットでは、ハウジング外部の配管との接続性やスペースの効率性の観点から、マスタシリンダ・ポートやホイルシリンダ・ポートがハウジングの上部に配置され、リザーバがハウジングの下部に配置され、中間部にポンプ、各種制御弁、吐出弁等が配置されている。ここで、吐出弁とは、ポンプによってリザーバから汲み出されたブレーキ液を逆流させないための逆止弁のことである。そして、ハウジング内部に例えば特許文献1の図4に示すような油圧回路を構成する複数の連通路が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−208440号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
車両用液圧ブレーキの制御ユニットに関しては、さらなる小型・軽量化の要請がなされているところ、特許文献1の図1に示すとおり制御弁をポンプの上方に2段に配置する従来の方式では、ハウジング本体の高さを抑えることに限界があった。
【0006】
そこで、ハウジングの空間を有効に利用するために、例えば、回転式ポンプの場合であれば、ポンプの周囲を取り囲むように制御弁を配置させるというような方法が考えられる。しかし、そのような配置とすると、制御弁同士を接続する連通路が複雑に交差してしまい、連通路の干渉を避けるために、却ってハウジングが大型化してしまうという問題があった。このように、連通路同士の干渉が、車両用液圧ブレーキの制御ユニットの小型化を図る上での障害となっていた。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、制御弁、ポンプ等の液圧機器を収容するハウジングを小型化するとともに、これら機器を連通する連通路同士の干渉を防ぐことで小型・軽量の車両用液圧ブレーキの制御ユニットを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、請求項1に係る発明は、
マスタシリンダと複数のホイールシリンダとの間に配設される制御ユニットのハウジング内に、前記マスタシリンダに接続される第1通路に設けられた切換制御弁と、各前記ホイールシリンダに接続される前記第1通路の各分岐路に設けられた増圧制御弁と、各前記増圧制御弁に各前記ホイールシリンダ側で接続された減圧制御弁と、各前記減圧制御弁が接続されたリザーバと、モータで駆動され前記リザーバからブレーキ液を吸入し、吐出弁を介して前記切換制御弁と各前記増圧制御弁との間に吐出するポンプと、一端が前記切換制御弁に前記マスタシリンダ側で接続され他端が前記リザーバに接続された切換弁によって連通、遮断される第2通路と、を設けた車両用液圧ブレーキ装置の制御ユニットにおいて、
前記ハウジング内に形成された内孔と、前記内孔に両端部で液密的に嵌合され外周面と前記内孔の内周面との間に前記両端部間で環状通路を形成する通路部材とを備え、
前記環状通路が前記第1通路の一部を構成して前記切換制御弁、各前記増圧制御弁、および前記吐出弁に連通され、
前記通路部材の内部に前記第2通路の一部が形成されて一端で前記切換制御弁の前記マスタシリンダ側に、他端で前記切換弁に連通されていることを特徴としている。
【0009】
請求項2に係る発明は、請求項1において、前記通路部材は管状であり、両端が前記内孔にそれぞれ圧入されてシールしていることを特徴としている。
【0010】
請求項3に係る発明は、請求項1または2の何れかにおいて、前記内孔と前記リザーバとが軸方向に垂直な面内において重複するように形成され、前記切換弁は前記通路部材のリザーバ側の端と前記リザーバとの間に接続されていることを特徴としている。
【0011】
請求項4に係る発明は、請求項2または3の何れかにおいて、前記内孔には小径孔部が前記リザーバから離れて設けられ、該小径孔部に前記通路部材が圧入され、前記通路部材には外周に中心軸を含む平面による断面が三角形状の突起が環状に突設された大径部が設けられ、該大径部が前記三角形状の突起で前記内孔に圧入されていることを特徴としている。
【0012】
請求項5に係る発明は、請求項1〜4の何れか一項において、前記吐出弁は、前記ハウジングの端面から穿設され前記内孔と交差する吐出弁孔に、前記内孔と前記ポンプの吐出口との間で嵌装され、前記吐出弁孔の前記ハウジングの端面に開口する開口部は、プラグによって閉塞されていることを特徴としている。
【0013】
請求項6に係る発明は、請求項1〜5の何れか一項において、前記ポンプは、回転式ポンプであり、第1配管系および第2配管系にそれぞれ2個ずつ設けられる前記増圧制御弁のうちの1個ずつの前記増圧制御弁、および前記第1配管系および前記第2配管系にそれぞれ1個ずつ設けられる前記切換制御弁が前記ハウジングの正面に前記回転式ポンプの上方に配置され、前記第1配管系および前記第2配管系にそれぞれ2個ずつ設けられる前記減圧制御弁が前記ハウジングの正面に前記回転式ポンプの下方に配置され、前記第1配管系および前記第2配管系にそれぞれ2個ずつ設けられる前記増圧制御弁のうちの残りの1個ずつが、前記ハウジングの正面に前記回転式ポンプの両側方にそれぞれ配置されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
上記のように構成した請求項1に係る発明によれば、通路部材の内部に第2通路の一部が形成され、通路部材の外周面とハウジングの内孔の内周面との間に第1通路の一部が第2通路と干渉することなく形成されている。これにより、第1通路と第2通路の干渉を回避するために必要であった空間が不要となり、ハウジングを小型化することができる。
また、第一通路の一部を構成する環状通路は、通路部材の外周面と内孔の内周面との間を環状に連通している。このため、制御弁等は、接続可能な方向であれば、どの方向から環状通路に接続してもそれぞれが連通可能となっている。これにより、制御弁等の配置の自由度が増し、ハウジング本体を小型化することができる。
【0015】
上記のように構成した請求項2に係る発明によれば、構造が簡単で、通路部材をハウジングに固定するために圧入するだけでシールも形成され、通路部材とは別のシール部材も必要ない。これにより車両用液圧ブレーキ装置の制御ユニットの製造コストを削減することができる。
【0016】
上記のように構成した請求項3に係る発明によれば、前記内孔とリザーバとが軸方向に直列に形成されているため、加工がしやすく製造コストを削減することができる。また、切換弁が通路部材のリザーバ側の端とリザーバとの間に設けられていることにより、第2通路の長さを短縮することができ、ハウジングの空間を有効活用することができる。
なお、切換弁を電磁弁ではなく、機械的に開閉する弁とすれば内孔と切換弁の収容孔とリザーバとを直列に形成することができ、さらに車両用液圧ブレーキ装置の制御ユニットを小型化することができる。
【0017】
上記のように構成した請求項4に係る発明によれば、前記内孔は小径孔部を有し、通路部材は、外周に三角形状の突起が環状に突設されている大径部を有している。通路部材は、内孔に対し両端で圧入される。このため、両端の圧入部が円筒面の場合、内孔の小径孔部と内孔のうち通路部材の大径部が圧入される部分とのそれぞれの中心軸が少しでもずれると食いつきにより圧入できなくなるおそれがあり、また、圧入できたとしても液密性を保持できないおそれがある。これは、通路部材の両端のそれぞれの中心軸がずれた場合も同様である。この点、本発明によれば、三角形状の突起での圧入は線接触となり、内孔の小径孔部の中心軸と内孔のうち通路部材の大径部が圧入される部分の中心軸とのずれ、または通路部材の両端部の中心軸のずれをある程度許容できるようになる。これにより、確実に液密的な環状通路を形成することができる。
なお、管状部材の材質を例えば炭素鋼のような硬質材とし、ハウジングの材質を例えばアルミ合金のような軟質材とすれば、三角状の突起がハウジングに食い込んで固定されるため、圧入代を深くでき、シール性も向上させることができる。
【0018】
上記のように構成した請求項5に係る発明によれば、ハウジングの空間を有効に利用し、なおかつポンプの吐出口に非常に近いところに吐出弁を配設することができる。これにより、ハウジングを小型化できる。また、吐出弁は、ポンプの吐出口と前記内孔との間の吐出弁孔に嵌装されるため、吐出弁に対してマスタシリンダ側からポンプの吐出口側へ高圧がかかる。これにより、吐出弁がいわゆるセルフシール構造となり、高圧に対しての抜けを考慮しなくてもよくなる。
【0019】
上記のように構成した請求項6に係る発明によれば、ハウジングの従来使用されていなかったポンプの下方空間に減圧制御弁を配置しているため、ポンプの上方に配置される制御弁を増圧制御弁と切換制御弁の1段とすることができ、特にハウジングの高さ方向を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施形態の制御ユニットを含む車両用液圧ブレーキ全体を示す回路図である。
【図2】実施形態の概略構成を示した正面図である。
【図3】図2におけるC−C断面図である。
【図4】図3におけるD−D断面図である。
【図5】図3におけるEの部分の拡大図である。
【図6】実施形態の内部構造の概略を示した斜視図である。
【図7】通路部材に三角状突起がない場合の圧入を模式的に示した図である。
【図8】通路部材に三角状突起を設けた場合の圧入を模式的に示した図である。
【図9】切換弁を機械式開閉弁とした場合の正面概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を具体化した実施形態に係る車両用液圧ブレーキの制御ユニットBについて図面を参照しつつ説明する。なお、本制御ユニットBは、左前輪と右後輪に加えられるブレーキ液圧を制御する第1配管系と右前輪と左後輪に加えられるブレーキ液圧を制御する第2配管系を有しているが、第1配管系と第2配管系とは、ほぼ同様の構成であるため、以下、第1配管系のみについて説明し、第2配管系については説明を省略する。
【0022】
まず、制御ユニットBを備えた車両用液圧ブレーキAの全体構成について、図1を参照して説明する。車両用液圧ブレーキAは、マスタシリンダ10と、ホイールシリンダWCfl、WCrrと、制御装置60と制御ユニットBとで構成される。そして、制御ユニットBは、ハウジング40と、ハウジング40の内部に形成される第1通路〜第4通路La1〜La4と、切換制御弁21と、増圧制御弁22、23と、減圧制御弁31、32と、リザーバ29と、ポンプ26と、吐出弁25と、切換弁33等で構成されている。
【0023】
マスタシリンダ10は、ブレーキペダル11が踏み込まれると、ペダル11の踏み込み力を助勢する負圧式ブースタ13を介し、踏込状態に応じてブレーキ液を第1通路La1に送出する。マスタシリンダ10には、ブレーキ液を貯留するリザーバタンク12が設けられている。
各ホイールシリンダWCfl、WCrrは、マスタシリンダ10から液圧が供給されると、ディスクブレーキのブレーキパッドを押圧して各車輪に制動力を付与する。
【0024】
ハウジング40は、各種制御弁等の液圧機器を収容する収容孔と第1通路〜第4通路La1〜La4を有している。この収容孔の配置、および通路の二重構造が本願発明の主要な特徴である。そこで、まず各通路、および各種液圧機器の関連と役割について説明し、ハウジングの詳細は、後述することとする。
【0025】
第1通路La1は、一端がマスタシリンダ10に接続され、他端がT2、T3を通ってT4で分岐し、それぞれホイールシリンダWCflとWCrrとに接続されている。第1通路La1上には、マスタシリンダと分岐T4との間に切換制御弁21が配設され、分岐T4とホイールシリンダWCfl、WCrrとの間に、それぞれ増圧制御弁22、23が配設されている。
また、第1通路La1には、マスタシリンダ10内のブレーキ液圧を検出する圧力センサPが配設されており、この検出信号は制御装置60に送信されるようになっている。
【0026】
切換制御弁21は、マスタシリンダ10とホイールシリンダWCfl、WCrrを連通、または圧力制御するノーマルオープン型の電磁制御弁である。
切換制御弁21は、圧力制御状態にあるときホイールシリンダWCfl、WCrr側の圧力をマスタシリンダ10側の圧力よりも所定の差圧分高い圧力に保持するようになっている。この差圧は制御装置60の指令により制御電流にて調圧される。切換制御弁21には、マスタシリンダ10からホイールシリンダWCfl、WCrrへの流れを許容するチェック弁21aが並列に設けられている。
増圧制御弁22、23は、マスタシリンダ10とホイールシリンダWCfl、WCrrとを連通・遮断するノーマルオープン型の電磁開閉弁である。
増圧制御弁22、23は、制御装置60の指令にて制御される。増圧制御弁22、23にはホイールシリンダWCfl、WCrrからマスタシリンダ10への流れを許容するチェック弁22a、23aがそれぞれ並列に設けられている。
【0027】
第2通路La2 は、一端が第1通路La1上のマスタシリンダ10と切換制御弁21との間であるT1に接続され、他端が切換弁33を介しリザーバ29に接続されている。
切換弁33は、マスタシリンダ10とリザーバ29とを連通・遮断するノーマルクローズ型の電磁開閉弁である。切換弁33は、制御装置60の指令にて制御される。
【0028】
第3通路La3は、一端が第2通路La2上の切換弁33とリザーバ29との間であるT7に接続され、他端が第1通路La1上の切換制御弁21と増圧制御弁22、23との間であるT3に接続されている。第3通路La3上には、T7側から順番に、ポンプ26、吐出弁25(逆止弁)が配設されている。
ポンプ26は、トロコイドポンプ等の内接歯車型の回転式のポンプであり、制御装置60の指令に応じた電動モータ26aの作動によって駆動される。
吐出弁25は、逆止弁であり、ポンプ26から吐出されるブレーキ液の流れを許容し、ポンプ26への逆流を遮断している。
【0029】
第4通路La4は、一端が第3通路La3上のT7とポンプ26との間であるT8に接続され、他端がT9で分岐し、それぞれ第1通路La1上の増圧制御弁22、23とホイールシリンダWCfl、WCrrとの間である、T5およびT6に接続されている。第4通路La4上のT9とT5、T6との間には、それぞれ減圧制御弁31、32が配設されている。
減圧制御弁31、32は、ホイールシリンダWCfl、WCrrとリザーバ29を連通・遮断するノーマルクローズ型の電磁開閉弁である。減圧弁31、32は、制御装置60の指令にて制御される。
【0030】
つぎにハウジング40について主に図2〜6を参照して詳細に説明する。ハウジング40は、例えばアルミ合金等の軟質材製で、略直方体である。そして、第1配管系と第2配管系は、図2および図4に示すとおり各種制御弁等の配置が左右対称であること以外、ほぼ同様の構成となっている。このため、制御弁21、22、23、31、32および切換弁33の配置の関係以外は第2配管系についての説明は省略する。
ハウジング40の正面には、ポンプ26の上方に第1配管系の増圧制御弁23が配設され、増圧制御弁23と第1配管系の切換制御弁21は、ハウジング40の上縁とポンプ26の上方との間に配設され、ポンプ26の下方に第1配管系の減圧制御弁32が配設され、減圧制御弁32と31がハウジング40の下縁とポンプ26の下方との間に配設され、第1配管系の増圧制御弁22と切換弁33とがハウジング40の右側縁とポンプ26の右側方との間で切換制御弁21と減圧制御弁31との間に配設され、第2配管系の制御弁21、22、23、31、32および切換弁33は、第1配管系と左右対称に配設されている。
このように、ハウジング40のポンプ26の下方空間に減圧制御弁31、32を配設することによって、ポンプ26の上方に配置される増圧制御弁23と切換制御弁21を1段とすることができ、特にハウジングの高さ方向の小型化に貢献している。
なお、切換弁33は、後述する通路部材42のリザーバ29の側の端とリザーバ29との間に設けられている。これにより、第2通路の長さを短縮し、ハウジング40の空間を有効活用している。
また、ハウジング40のほぼ中央には、背面から正面に向かってポンプ26を収容する収容孔が形成され、そこにポンプ26が収容されている。
【0031】
つづいて、通路の二重構造について説明する。ハウジング40の内部には、第1通路〜第4通路La1〜La4を構成するように複数の孔が形成されている。そして、それぞれの通路は、互いに干渉しないよう通路間に所定の肉厚を保っている。その第1通路と第2通路の一部が二重構造となっている部分である。
ハウジング40には、正面から見てポンプ26と右側面との間に底面から順に、リザーバ孔29a、リザーバ29と切換弁33とを連通する切換弁連通孔44、通路部材42の内部通路と切換弁33とを連通する孔43、内孔41が同軸に形成されている。このように同軸に形成することによって、加工をしやすくし、製造コストを削減している。
孔43と切換弁連通孔44の間はプラグ52によって閉塞されている。
【0032】
そして、内孔41には、管状の通路部材42の両端部が圧入され、通路の二重構造が形成されている。この点について、さらに具体的に説明する。
内孔41には、リザーバ29から離れた位置に小径孔部41aが形成されている。
通路部材42は、例えば炭素鋼等の硬質材製であり、一方の端に大径部42aが設けられ、大径部42aには外周に三角形状の突起42bが環状に突設されている。図5に示すとおり、三角形状の突起42bは、大径部42aに2か所設けられている。そして、三角形状の突設42bの上方斜面は、通路部材42の軸線に対し、傾斜角度が緩やかになっており、下方斜面は、通路部材42の軸線に対し、傾斜角度が急になっている。
【0033】
通路部材42は、大径部42aをリザーバ29の側にしてリザーバ29の側から圧入される。具体的には、通路部材42の圧入方向先端部が内孔41の小径径部41aに圧入されるのとほぼ同時に、大径部42aの三角形状の突起42bが内孔41の孔43の側の端部に圧入される。
このように、通路部材42は、内孔41に対し両端で圧入されるため、両端の圧入部が円筒面の場合、内孔41の小径孔部41aと内孔41のうち通路部材42の大径部42aが圧入される部分とのそれぞれの中心軸が少しでもずれると食いつきにより圧入できなくなるおそれがあり、また、圧入できたとしても液密性を保持できないおそれがある。これは、通路部材42の両端のそれぞれの中心軸がずれた場合も同様である。この点、本実施形態によれば、三角形状の突起42bでの圧入は線接触となり、内孔41の小径孔部41aの中心軸と内孔41のうち通路部材42の大径部42a側が圧入される部分の中心軸とのずれ、または通路部材42の両端部の中心軸のずれをある程度許容でき、通路部材42の外周面と内孔41の内周面との間に、確実に液密的な環状通路La1aを形成することができる。
【0034】
また、ハウジング40がアルミ合金製で、通路部材42が炭素鋼製であるため、三角状の突起42bは、図5に示すとおり内孔41に食い込んで固定される。このように、圧入代を深くし、シール性も向上させている。
さらに、本実施形態では、三角形状の突起42bの上方斜面は、通路部材42の軸線に対し、傾斜角度が緩やかになっているため、圧入時に内孔41の削りかすが出にくくなっている。そして、三角状の突起42bを2か所設けることによって、液密性をさらに向上している。
【0035】
上記のように、通路部材42の外周面と内孔41の内周との間に通路部材42の両端部間で環状通路La1aが形成されている。この環状通路La1aは、図1でいえばLa1上の破線で囲まれたT2、T3、T4の間に相当し、第1通路La1の一部となっている。環状通路La1aには、図1、図3、図4に示すとおり、切換制御弁21、各増圧制御弁22、23、および吐出弁25が連通されている。
この環状通路La1aは、通路部材42の外周面と内孔41の内周面との間を環状に連通しているため、制御弁等は、接続可能な方向であれば、どの方向から環状通路La1aに接続してもそれぞれが連通可能となっている。これにより、制御弁等の配置の自由度が増し、ハウジングの空間を有効利用することでハウジング本体を小型化するのに貢献している。
そして、通路部材42の内部には、図1でいえば、第2通路La2上のT1から切換弁33の間の破線で囲まれた部分に相当する通路が形成されている。この通路は、第2通路の一部であり、図1、図3に示すとおり一端が第1通路を介し切換制御弁21に連通し、他端が切換弁33に連通している。
このように、内孔41の内部において、通路部材42の外側と内側で第1通路の一部と第2通路の一部とが干渉することなく二重構造で形成されているため、従来、第1通路と第2通路の干渉を回避するために必要であった空間が不要となり、ハウジングを小型化できる。
【0036】
また、ハウジング40には、右側面からポンプ26の方向に向かって、内孔41と交差する吐出弁孔25aが穿設されている。そして、吐出弁25は、吐出弁孔25aに、内孔41とポンプ26の吐出口との間で嵌装されている。吐出弁孔25aのハウジング40の端面に開口する開口部は、プラグ51によって閉塞されている。
このように、ハウジング40の今まで使用されていなかった空間で、なおかつポンプ26の吐出口に非常に近いところに吐出弁25を配設し、ハウジング40の空間を有効に利用している。
また、吐出弁25は、ポンプ26の吐出口と内孔41との間の吐出弁孔25aに嵌装されるため、吐出弁25に対してマスタシリンダ側から高圧がかかる方向がポンプ26の吐出口側となっている。これにより、吐出弁25は、いわゆるセルフシール構造となり、マスタシリンダ側からかかる高圧に対しての抜けを考慮しなくてもよくなっている。
【0037】
つぎに、実施形態に係る車両用液圧ブレーキの制御ユニットBの作動について簡単に説明する。
通常時は、切換制御弁21が開、増圧制御弁22、23が開、減圧制御弁31、32が閉、切換弁33が閉であり、ブレーキペダル11を踏んでいれば、マスタシリンダ10からのブレーキ液圧がそのままホイールシリンダWCfl、WCrrへ伝達して増圧状態となる。
【0038】
また、このとき例えば、左前輪Wflの制動スリップ量が増大し、ホイールシリンダWCflにアンチスキッド制御を要求する条件が成立すると、増圧制御弁22を閉へ切り換えるとともに減圧制御弁31を開へ切り換え、同時に電動モータ26aを始動する。これにより、ホイールシリンダWCflからリザーバ29側へブレーキ液が流出して、ホイールシリンダWCflは減圧状態となる。ホイールシリンダWCflから減圧制御弁31を介してリザーバ29へ排出されたブレーキ液は、ポンプ26により、吐出弁25を介して切換制御弁21と増圧制御弁22、23との間の連通路に戻される。そして更に切換制御弁21を介してマスタシリンダ10に戻される。
【0039】
また、左前輪Wflの制動スリップ量が十分に減少すると、減圧制御弁31を閉に切り換えるとともに増圧制御弁22を開に切り換える。これにより、マスタシリンダ10からホイールシリンダWCflにブレーキ液が供給されてホイールシリンダWCflの液圧が再増圧され、そして左前輪Wflの制動スリップ量がスリップ領域に近づくと、増圧制御弁22を閉に切り換え、ホイールシリンダWCfrの液圧を保持する。
上述のように、制御装置60が、車両制動中の左前輪Wflの制動スリップ量に応じて増圧制御弁22および減圧制御弁31を二つの位置の間で切り換えるとともに、電動モータ26aでポンプ26を作動させることにより、ホイールシリンダWCflの液圧が減圧、再増圧、保持の間で切り換えられて調整される。そしてホイールシリンダWCflの液圧が調整されることによって車両制動中の左前輪Wflの制動スリップ量がスリップ領域となることが回避される。
【0040】
つぎに、車両の発進時や加速時の駆動輪における駆動スリップ量が過剰となることを回避するトラクション制御について説明する。なお、実施形態に係る車両は、前輪駆動車である。車両の発進時や加速時においては、一般的に、ブレーキペダル11は操作されておらず、切換制御弁21、増圧制御弁22、23、減圧制御弁31、32、および切換弁33は、図1に示す常態位置にあり、電動モータ26aは停止している。ここで、車両の左前輪Wflの駆動スリップ量が過剰になりそうになると、制御装置60は、切換制御弁21を制御位置に切り換えるとともに切換弁33を開に切り換え、電動モータ26aを始動させてポンプ26を駆動する。これにより、ポンプ26は、リザーバタンク12内のブレーキ液をマスタシリンダ10と切換弁33を介して吸入口から吸入し、昇圧して吐出口から吐出する。ポンプ26が吐出するブレーキ液は吐出弁25と増圧制御弁22とを介してホイールシリンダWCflに供給される。これによりホイールシリンダWCflの液圧が上昇し、左前輪Wflの駆動スリップ量の増加が抑制される。そして、制御装置60により切換制御弁21のソレノイドに印加される電流が調整されることによりホイールシリンダWCflの液圧が調整され、左前輪Wflの駆動スリップ量が適切となるように調整される。
【0041】
なお、本発明の技術的範囲は、本実施形態に限定されるものではない。例えば、本実施形態では、切換弁33を電磁開閉弁としているが、マスタシリンダ10から液圧が供給されると機械的に閉じる開閉弁とし、この機械式切換弁33aを収容する切換弁収容孔を通路部材42とリザーバ29との間に形成してもよい。このようにすれば、切換弁収容孔とリザーバ29とを同軸上に形成することができ、図3に示す孔43およびプラグ52は不要となる。また、図2および図3における切換弁33の位置にスペースができるため、図9に示すとおり、この空間に減圧制御弁31を配置することができる。具体的には、第1配管系および第2配管系にそれぞれ2個ずつ設けられる増圧制御弁22、23のうちの1個ずつの増圧制御弁23、および第1配管系および第2配管系にそれぞれ1個ずつ設けられる切換制御弁21をハウジング10の正面に回転式ポンプ26の上方に配置し、第1配管系および第2配管系にそれぞれ2個ずつ設けられる減圧制御弁31、32をハウジング10の正面に回転式ポンプ26の下方に配置する。そして第1配管系および第2配管系にそれぞれ2個ずつ設けられる増圧制御弁のうちの残りの1個ずつをハウジング10の正面に回転式ポンプ26の両側方にそれぞれ配置することができる。これによれば、さらに車両用液圧ブレーキ装置の制御ユニットを小型化することができる。
【符号の説明】
【0042】
10・・・マスタシリンダ、11・・・ブレーキペダル、12・・・リザーバタンク、13・・・負圧式ブースタ、21・・・切換制御弁、22、23・・・増圧制御弁、25・・・吐出弁、26・・・ポンプ、29・・・リザーバ、31、32・・・減圧制御弁、33・・・切換弁、40・・・ハウジング、41・・・内孔、42・・・通路部材、B・・・車両用液圧ブレーキ装置の制御ユニット、WCfl、WCrr・・・ホイールシリンダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マスタシリンダと複数のホイールシリンダとの間に配設される制御ユニットのハウジング内に、前記マスタシリンダに接続される第1通路に設けられた切換制御弁と、各前記ホイールシリンダに接続される前記第1通路の各分岐路に設けられた増圧制御弁と、各前記増圧制御弁に各前記ホイールシリンダ側で接続された減圧制御弁と、各前記減圧制御弁が接続されたリザーバと、モータで駆動され前記リザーバからブレーキ液を吸入し、吐出弁を介して前記切換制御弁と各前記増圧制御弁との間に吐出するポンプと、一端が前記切換制御弁に前記マスタシリンダ側で接続され他端が前記リザーバに接続された切換弁によって連通、遮断される第2通路と、を設けた車両用液圧ブレーキ装置の制御ユニットにおいて、
前記ハウジング内に形成された内孔と、前記内孔に両端部で液密的に嵌合され外周面と前記内孔の内周面との間に前記両端部間で環状通路を形成する通路部材とを備え、
前記環状通路が前記第1通路の一部を構成して前記切換制御弁、各前記増圧制御弁、および前記吐出弁に連通され、
前記通路部材の内部に前記第2通路の一部が形成されて一端で前記切換制御弁の前記マスタシリンダ側に、他端で前記切換弁に連通されていることを特徴とする車両用液圧ブレーキ装置の制御ユニット。
【請求項2】
請求項1において、前記通路部材は管状であり、両端が前記内孔にそれぞれ圧入されてシールしていることを特徴とする車両用液圧ブレーキ装置の制御ユニット。
【請求項3】
請求項1または2の何れかにおいて、前記内孔と前記リザーバとが軸方向に垂直な面内において重複するように形成され、前記切換弁は前記通路部材のリザーバ側の端と前記リザーバとの間に接続されていることを特徴とする車両用液圧ブレーキ装置の制御ユニット。
【請求項4】
請求項2または3の何れかにおいて、前記内孔には小径孔部が前記リザーバから離れて設けられ、該小径孔部に前記通路部材が圧入され、前記通路部材には外周に中心軸を含む平面による断面が三角形状の突起が環状に突設された大径部が設けられ、該大径部が前記三角形状の突起で前記内孔に圧入されていることを特徴とする車両用液圧ブレーキ装置の制御ユニット。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか一項において、前記吐出弁は、前記ハウジングの端面から穿設され前記内孔と交差する吐出弁孔に、前記内孔と前記ポンプの吐出口との間で嵌装され、前記吐出弁孔の前記ハウジングの端面に開口する開口部は、プラグによって閉塞されていることを特徴とする車両用液圧ブレーキ装置の制御ユニット。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか一項において、前記ポンプは、回転式ポンプであり、第1配管系および第2配管系にそれぞれ2個ずつ設けられる前記増圧制御弁のうちの1個ずつの前記増圧制御弁、および前記第1配管系および前記第2配管系にそれぞれ1個ずつ設けられる前記切換制御弁が前記ハウジングの正面に前記回転式ポンプの上方に配置され、前記第1配管系および前記第2配管系にそれぞれ2個ずつ設けられる前記減圧制御弁が前記ハウジングの正面に前記回転式ポンプの下方に配置され、前記第1配管系および前記第2配管系にそれぞれ2個ずつ設けられる前記増圧制御弁のうちの残りの1個ずつが、前記ハウジングの正面に前記回転式ポンプの両側方にそれぞれ配置されていることを特徴とする車両用液圧ブレーキ装置の制御ユニット。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−46283(P2011−46283A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−196427(P2009−196427)
【出願日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】