説明

車両用物標判定装置

【課題】 人体露出物標の検出精度を向上させる。
【解決手段】 レーダ装置は、車両の前方に存在し反射強度が閾値th2以下かつ閾値th3以上で距離が所定値Ds以内の弱反射物標を最大m個検出することを周期T2で繰り返すと共に、車両の前方に存在し反射強度が車両検出閾値th1より大きい強反射物標を最大n個検出することを周期T1(T2≪T1)で繰り返し、画像処理装置は、車両の前方を撮像することで得られた画像から路面エッジを除外したエッジを抽出することを繰り返す。レーダ装置から物標情報を受信すると共に画像処理装置からエッジ情報を受信し(110,112)、受信した物標情報が表す個々の弱反射物標の画像上での写像位置にエッジが存在しているか否かに基づいて、個々の弱反射物標の実体の有無を判定し、実体有りと判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両用物標判定装置に係り、特に、車両の周囲へ電波を送信し任意の物標で反射された電波を受信することで、車両の周囲に存在している物標を判定する車両用物標判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、衝突等の車両の緊急状態を予測し、エアバッグ装置等の乗員保護装置や乗員を保持するウェビングを巻き取る巻取装置等の乗員保護デバイス等を早期に作動させるプリクラッシュセーフティシステムが実用化されている。プリクラッシュセーフティシステムでは、ミリ波レーダによって自車両の前方に存在する物標を検出し、物標と自車両の相対位置や相対速度等を同時に取得することを繰り返し、直近の複数回の物標の探知結果を基に、相対位置や相対速度の変化等に基づいてノイズやガードレール等の路側物等を監視対象から除外し、先行車両や路上に存在する停止車両等の特定の物標を監視対象物として追従監視し、監視対象物までの到達距離や到達時間を演算して緊急状態に至る可能性を予測判断するように構成されている。
【0003】
ところで、先行車両や停止車両等の車両は電波の反射強度が高くかつ反射強度の時間変化も小さいので、レーダによって安定的に検出できるものの、歩行者や軽車両等のように人体が露出している物標は、電波の反射強度が比較的低くかつ反射強度の時間変化も比較的大きいという特性があり、この種の人体露出物標をレーダによって検出する際の安定度が低いという課題がある。
【0004】
これに関連して特許文献1には、周波数が漸増する上り区間、周波数が漸減する下り区間を有するよう変調された電波を送受信することで得られた平均パワースペクトルから、人間からの反射波に基づくピークも抽出できる大きさに設定された抽出しきい値より大きいピークを抽出し、抽出したピークのうち物標認識処理を経て実際の物標に対応すると判定されたピークについて正規化平均パワー値及びパワー差の標準偏差を算出し、正規化平均パワー値が車両識別しきい値以下で標準偏差が人間識別しきい値よりも大きいピーク(対象物標)の属性を「人間」に設定すると共に、CCDカメラによって撮像された画像から物標の存在が予想される物標候補領域を抽出し、抽出した物標候補領域のうち属性を「人間」に設定した対象物標の写像位置と一致する物標候補領域を、人間である可能性が高い物標が撮像された領域と判断する技術が開示されている。
【特許文献1】特開2004−191131号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の技術では、ごく短い時間間隔で2回測定した反射強度の差、すなわち上り区間でのピークと下り区間でのピークを組み合わせたピークペア間のパワー値の差と、対象物標についてのパワー差の履歴から求めたパワー差の平均値に基づいて対象物標のパワー差の標準偏差を求め、この標準偏差が人間識別しきい値よりも大きい場合に対象物標の属性を「人間」と判断しているが、人体露出物標であっても上り区間でのピークと下り区間でのピークのパワー差が常に大きくなるとは限らず、上り区間でのピークと下り区間でのピークのパワー差が偶然に一致、或いは差が所定値以下となることで、パワー差の標準偏差が人間識別しきい値以下となることも生じ得る。そして特許文献1に記載の技術は、上記のような場合に対象物標を「人間」と判断することができず、人体露出物標の検出精度が不十分であった。
【0006】
本発明は上記事実を考慮して成されたもので、人体露出物標をより精度良く検出できる車両用物標判定装置を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために請求項1記載の発明に係る車両用物標判定装置は、車両の周囲へ電波を送信すると共に任意の物標で反射された電波を受信し、電波の反射強度が、強反射物標を検出するための電波の反射強度の閾値よりも小さい所定範囲内の弱反射物標を検出することを繰り返す物標検出手段と、前記車両の周囲を撮像することで得られた画像から物標に相当すると推定される画像部のエッジを抽出する物標エッジ抽出手段と、前記物標検出手段による前記弱反射物標の検出結果と、前記物標エッジ抽出手段による前記エッジの検出結果に基づいて、前記物標検出手段によって検出された前記弱反射物標が前記車両の周囲に実在しているか否か判定する弱反射物標判定手段と、前記弱反射物標判定手段によって前記車両の周囲に実在していると判定された弱反射物標について、前記物標検出手段によって所定時間内に繰り返し検出された反射強度のヒストグラムの形状が人体としての特徴を有しているか否かに基づいて、前記実在していると判定された弱反射物標が人体露出物標か否かを判定する人体露出物標判定手段と、を含んで構成されている。
【0008】
請求項1記載の発明では、車両の周囲へ電波を送信すると共に任意の物標で反射された電波を受信し、電波の反射強度が、強反射物標(例えば車両や道路標識等のように金属が露出している部分が大半である物標)を検出するための電波の反射強度の閾値よりも小さい所定範囲内の弱反射物標を検出することが、物標検出手段によって繰り返される。なお、弱反射物標を検出するための所定範囲としては、例えば強反射物標を検出するための電波の反射強度の閾値th1よりも小さい閾値th2以下で、かつ閾値th2よりも小さく0よりも大きい閾値th3以上の範囲を適用することができる。これにより、電波の反射強度が人体露出物標(例えば歩行者や軽車両等のように人体が露出している物標)と同程度の物標が車両の周囲に存在していた場合、この物標が物標検出手段により弱反射物標として繰り返し検出される。
【0009】
また物標エッジ抽出手段は、車両の周囲を撮像することで得られた画像から物標に相当すると推定される画像部のエッジを抽出し、弱反射物標判定手段は、物標検出手段による弱反射物標の検出結果と、物標エッジ抽出手段によるエッジの検出結果に基づいて、物標検出手段によって検出された弱反射物標が車両の周囲に実在しているか否か判定する。これにより、物標検出手段によって検出された弱反射物標の中から、車両の周囲に実在している弱反射物標が抽出される。そして人体露出物標判定手段は、弱反射物標判定手段によって車両の周囲に実在していると判定された弱反射物標について、物標検出手段によって所定時間内に繰り返し検出された反射強度のヒストグラムの形状が人体としての特徴を有しているか否かに基づいて、実在していると判定された弱反射物標が人体露出物標か否かを判定する。
【0010】
特許文献1に記載の技術のように、ごく短い時間間隔で2回測定した反射強度の差を用いる場合、判定対象の物標が人体露出物標であっても反射強度の差が偶然に0又は所定値以下となる可能性があるが、物標検出手段によって所定時間内に繰り返し検出された反射強度の値の一部に偶然が作用したとしても、反射強度のヒストグラムの形状が大きく変化することはなく、判定対象の物標が人体露出物標であれば上記ヒストグラムは人体としての特徴を有する形状となる。上記のように請求項1記載の発明は、物標検出手段によって所定時間内に繰り返し検出された反射強度のヒストグラムの形状が人体としての特徴を有しているか否かに基づいて、車両の周囲に実在していると判定された弱反射物標が人体露出物標か否かを判定するので、人体露出物標をより精度良く検出することができる。
【0011】
なお、請求項1記載の発明において、物標検出手段は、例えば請求項2に記載したように、電波の反射強度が閾値以上の強反射物標を検出すると共に、弱反射物標として、電波の反射強度が所定範囲内でかつ車両からの距離が所定距離以内の物標を検出することが好ましい。弱反射物標の検出に用いる電波の反射強度の範囲(所定範囲)は強反射物標を検出するための電波の反射強度の閾値よりも小さいので、弱反射物標を検出する場合、強反射物標のみを検出する場合と比較して検出対象の物標の数が増大し、本発明に係る車両用物標判定装置に加わる負荷が増大する可能性がある。これに対し、請求項2に記載したように、弱反射物標として検出する物標を、車両からの距離が所定距離以内の物標に制限すれば、検出対象の物標の数の増大を抑制することができ、本発明に係る車両用物標判定装置に加わる負荷を軽減することができる。
【0012】
また、請求項1記載の発明において、物標検出手段は、例えば請求項3に記載したように、電波の反射強度が閾値以上の強反射物標を検出することを第1の周期で繰り返すと共に、車両の周囲への電波の送信、任意の物標で反射された電波の受信、及び、電波の反射強度が所定範囲内の弱反射物標の検出を第1の周期よりも短い第2の周期で繰り返すことが好ましい。前述のように請求項1記載の発明では、物標検出手段によって所定時間内に繰り返し検出された反射強度のヒストグラムの形状に基づいて弱反射物標が人体露出物標か否かを判定するので、上記判定を行うために弱反射物標の反射強度のデータを比較的多数必要としており、上記判定の実行周期が長くなり易いという問題がある。
【0013】
これに対し、請求項3に記載したように、車両の周囲への電波の送信、任意の物標で反射された電波の受信、及び、電波の反射強度が所定範囲内の弱反射物標の検出を第1の周期よりも短い第2の周期で繰り返すようにすれば、弱反射物標が人体露出物標か否かを判定するために必要な弱反射物標の反射強度のデータが比較的短時間で集まることになり、上記判定の実行周期を短くすることができる。また、反射強度のヒストグラムの形状に基づく判定を行う必要のない強反射物標については、その検出を第2の周期よりも長い第1の周期で繰り返すことで、本発明に係る車両用物標判定装置に必要以上の負荷が加わることも防止することができる。
【0014】
また請求項2又は請求項3記載の発明において、物標検出手段は、例えば請求項4に記載したように、電波の反射強度が閾値以上の強反射物標を第1の所定個検出すると共に、電波の反射強度が所定範囲内の弱反射物標を第2の所定個検出するようにしてもよい。プリクラッシュセーフティシステムでは、自車両の周囲に存在している物標の中から、自車両を緊急状態へ至らせる可能性が最も高い物標を選択し、当該物標と自車両との距離や相対速度等に基づいて自車両が緊急状態に至る可能性を予測判断するので、本発明に係る車両用物標判定装置による判定結果をプリクラッシュセーフティシステムによる予測判断に利用する場合には、車両の周囲に存在する全ての物標を検出・判定する必要はない。請求項4記載の発明では、検出する強反射物標の数を第1の所定個に制限すると共に、検出する弱反射物標の数を第2の所定個に制限しているので、本発明に係る車両用物標判定装置による判定結果をプリクラッシュセーフティシステムによる予測判断に利用する場合に、本発明に係る車両用物標判定装置に加わる負荷を軽減できると共に、データ等を記憶するために必要なメモリの容量も削減することができる。
【0015】
ところで、特許文献1に記載の技術では、画像から抽出した物標候補領域を対象物標の写像位置と照合することで、実際の物標に基づく対象物標を判断しているが、CCDカメラによって撮像された画像から物標の存在が予想される物標候補領域を抽出する処理は非常に複雑な処理であり、物標候補領域を抽出する処理を行う処理部に多大な負荷がかかるという問題がある。上記を考慮すると、請求項1記載の発明において、例えば請求項5に記載したように、物標エッジ抽出手段は、物標に相当すると推定される画像部のエッジとして、画像中に存在しているエッジのうち、画像上で斜め方向に伸びるエッジを除外したエッジを抽出し、弱反射物標判定手段は、画像のうち物標検出手段によって検出された弱反射物標に相当する画像部が存在している位置に、物標エッジ抽出手段によって検出されたエッジが存在しているか否かに基づいて、物標検出手段によって検出された弱反射物標が車両の周囲に実在しているか否か判定することが好ましい。
【0016】
車両の周囲を撮像することで得られた画像中に存在しているエッジを抽出する処理は、例えば画像を二値化し、二値化後の画像において画素の値が第1の値から第2の値へ、又はその逆へ変化している部分を抽出する等の簡単な処理によって実現できる。また、このような処理によって抽出されたエッジには、例えば路面上の白線に相当するエッジ等も混在しているが、路面上の白線に相当するエッジ等は画像上で斜め方向に伸びていることに基づき、請求項5記載の発明に係る物標エッジ抽出手段は、画像中に存在しているエッジのうち、画像上で斜め方向に伸びるエッジを除外したエッジを、物標に相当すると推定される画像部のエッジとして抽出する。これにより、物標に相当すると推定される画像部のエッジを簡単かつ精度良く抽出することができる。
【0017】
そして、請求項5記載の発明に係る弱反射物標判定手段は、画像のうち物標検出手段によって検出された弱反射物標に相当する画像部が存在している位置に、物標エッジ抽出手段によって検出されたエッジが存在しているか否かに基づいて、物標検出手段によって検出された弱反射物標が車両の周囲に実在しているか否か判定する。これにより、物標検出手段によって検出された弱反射物標が車両の周囲に実在しているか否かを簡易な処理によって判定することができ、本発明に係る車両用物標判定装置に加わる負荷を軽減することができる。
【0018】
また、人体へ向けて電波を送信すると共に人体で反射された電波を受信することを繰り返し、人体で反射された電波の反射強度のヒストグラムを求めた場合、求めたヒストグラムの形状は、頻度のピークに対する裾の広さが比較的大きく(電波の反射強度のばらつきが大きい)、かつ頻度がピークとなる反射強度の位置を挟んで左右が非対称な形状を示す(この形状の分布をレーリー分布という)。これを考慮すると、請求項1記載の発明において、人体露出物標判定手段は、例えば請求項6に記載したように、弱反射物標判定手段によって車両の周囲に実在していると判定された弱反射物標について、物標検出手段によって所定時間内に繰り返し検出された反射強度のヒストグラムの形状が、頻度のピークに対する裾の広さが所定値以上でかつ非対称度が所定値以上の形状を示しているか否かを判定することで、実在していると判定された弱反射物標が人体露出物標か否かを判定することが好ましい。これにより、実在していると判定された弱反射物標が人体露出物標か否かをより精度良く判定することができる。
【0019】
また、請求項6記載の発明において、人体露出物標判定手段は、例えば請求項7に記載したように、物標検出手段によって複数回検出された反射強度の単位時間当りの変化率が所定値以上か否かも判定することで、実在していると判定された弱反射物標が人体露出物標か否かを判定することが好ましい。上述したように、人体で反射された電波は反射強度のばらつきが大きいので、これに伴って反射強度の単位時間当りの変化率も高くなる。請求項7記載の発明では、反射強度の単位時間当りの変化率の判定も併用して、実在していると判定された弱反射物標が人体露出物標か否かを判定するので、実在していると判定された弱反射物標が人体露出物標か否かを更に精度良く判定することができる。
【0020】
また、請求項1記載の発明において、例えば請求項8に記載したように、物標検出手段によって検出された物標と車両との衝突可能性を判定する衝突可能性判定手段と、衝突可能性判定手段によって衝突可能性が所定値以上と判定された物標が、弱反射物標判定手段によって車両の周囲に実在していると判定されると共に、人体露出物標判定手段によって人体露出物標であると判定された弱反射物標である場合に、車両に取り付けられた人体露出物標保護装置を作動させること、及び、人体露出物標の保護のための車両の制御を行うこと、の少なくとも一方を行う制御手段を更に設けてもよい。本発明によれば人体露出物標をより精度良く検出できるので、上記のように、衝突可能性が所定値以上と判定された物標が、車両の周囲に実在していると判定されると共に人体露出物標であると判定された弱反射物標である場合に、車両に取り付けられた人体露出物標保護装置を作動させたり、人体露出物標の保護のための車両の制御を行うことで、車両との衝突可能性が所定値以上と判定された人体露出物標を確実に保護することができる。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように本発明は、車両の周囲へ電波を送信すると共に任意の物標で反射された電波を受信し、電波の反射強度が、強反射物標を検出するための電波の反射強度の閾値よりも小さい所定範囲内の弱反射物標を検出することを繰り返すと共に、車両の周囲を撮像することで得られた画像から物標に相当すると推定される画像部のエッジを抽出し、弱反射物標の検出結果とエッジ検出結果に基づいて弱反射物標が実在しているか否か判定し、実在していると判定した弱反射物標について、所定時間内に繰り返し検出した反射強度のヒストグラムの形状が人体としての特徴を有しているか否かに基づいて、前記弱反射物標が人体露出物標か否かを判定するようにしたので、人体露出物標をより精度良く検出できる、という優れた効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面を参照して本発明の実施形態の一例を詳細に説明する。図1には、車両に搭載され、本発明に係る車両用物標判定装置としての機能を兼ね備えた車載システム10が示されている。車載システム10は、互いに異なる制御を行う複数の電子制御ユニット(コンピュータを含んで構成された制御ユニットであり、以下ECUと称する)を備え、これらが第1バス12を介して互いに接続されて構成されている。
【0023】
車載システム10は第1バス12に接続されたABS(Anti-lock Brake System) ECU26を備えており、このABS ECU26にはABS ACT(アクチュエータ)28及び車両の各車輪の周速度を検出する車輪速センサ30が接続されている。なお、ABS ACT28は、車両の各車輪に設けられたブレーキ装置のホイールシリンダに対応して各々設けられ、ABS ECU26から入力された駆動信号に応じて、ホイールシリンダをマスタシリンダと連通させると共にリザーバから遮断する通常状態(増圧状態)から、ホイールシリンダをマスタシリンダ及びリザーバと遮断する保持状態又はホイールシリンダをリザーバと連通させマスタシリンダから遮断する減圧状態へ切り替わる電磁バルブ等で構成することができる。また第1バス12には、超音波ドップラ式又は空間フィルタ式で車両の対地車体速度を検出する対地車速センサ32が接続されている。
【0024】
ABS ECU26は、対地車速センサ32によって検出される車体速度と車輪速センサ30によって検出される各車輪の周速度との差が所定値未満となるように、各車輪のホイールシリンダに対応する電磁バルブによってブレーキフルードの油圧を減圧、増圧、保持させることで、各車輪毎に設けられたブレーキ装置のホイールシリンダにより各車輪に加えられる制動トルクを制御する、所謂ABS制御を行う。
【0025】
また、車載システム10は第1バス12に接続された介入ブレーキ制御ECU34を備えており、この介入ブレーキ制御ECU34には介入ブレーキ制御ACT36が接続されている。なお、介入ブレーキ制御ACT36としては、運転者によるブレーキ操作を代替する油圧を発生させる液圧ポンプ等で構成することができる。介入ブレーキ制御ECU34は、後述する周辺監視ECU16からプリクラッシュ制御信号が入力され、かつ運転者によるブレーキ操作が行われていない場合に、所定の目標油圧に応じて液圧ポンプを駆動させることで、運転者に代わって自車両を制動・減速させる介入ブレーキ制御を行う。
【0026】
また、車載システム10は第1バス12に接続されたウェビング巻取ECU38を備えており、このウェビング巻取ECU38には、個々のウェビング巻取装置に各々設けられウェビングに張力を与えるプリテンショナから成るウェビング巻取ACT40が接続されている。ウェビング巻取ECU38は、後述する周辺監視ECU16からプリクラッシュ制御信号が入力されると、ウェビング巻取ACT40としてのプリテンショナを作動させることで、車両の各乗員に巻き掛けられているウェビングの巻き取りを行わせる。
【0027】
更に、車載システム10は第1バス12に接続されたエアバッグECU42を備えており、このエアバッグECU42には、車両の座席の前方にエアバッグと共に設けられたエアバックACT44が接続されている。エアバッグECU42とエアバックACT44はエアバッグ装置を構成している。第1バス12には、車両の走行によって車体に加わる加速度や衝突等によって車体に加わる加速度を検出するGセンサ46が接続されており、エアバッグECU42はGセンサ46によって検出された加速度が閾値を越えた場合に、エアバックACT44を作動させてエアバッグを展開させる。またエアバッグECU42は、後述する周辺監視ECU16からプリクラッシュ制御信号が入力されると、上記の加速度の閾値を変更設定する。
【0028】
また、車載システム10は各々第1バス12に接続されたエンジンECU48とトランスミッションECU52を備えている。エンジンECU48には電子スロットルACT50が接続されており、トランスミッションECU52にはトランスミッションACT54が接続されている。後述する周辺監視ECU16からプリクラッシュ制御信号が入力されると、エンジンECU48はスロットルの開度が全閉となるように電子スロットルACT50を制御し、トランスミッションECU52は、車両のトランスミッションにおける減速比が、エンジンがオーバレブしない範囲内で最大のエンジンブレーキが発生する減速比に切り替わるようにトランスミッションACT54を制御する。
【0029】
また、車載システム10が搭載された車両には、当該車両と歩行者や軽車両等が衝突した際に歩行者や軽車両の運転者を保護するための歩行者保護デバイスが取り付けられており(図示省略)、この歩行者保護デバイスは、歩行者保護デバイスを作動させる歩行者保護デバイスACT58、歩行者保護デバイスACT58を制御する歩行者保護制御ECU56を介して第1バス12に接続されている。歩行者保護制御ECU56は後述する周辺監視ECU16からプリクラッシュ制御信号が入力されると、歩行者保護デバイスACT58を介して歩行者保護デバイスを作動させる。なお、歩行者保護デバイスとしては、例えば車両の前部でエアバッグを展開させることで、衝突時に歩行者や軽車両の運転者に加わる衝撃力を緩和するデバイス等を用いることができる。上記の歩行者保護デバイスは請求項8に記載の人体露出物標保護装置に対応している。
【0030】
また車載システム10は周辺監視ECU16を備えており、この周辺監視ECU16は第1バス12に接続されると共に第2バス14にも接続されている。第2バス14にはレーダ装置18及び画像処理装置20が接続されており、画像処理装置20には2台のCCDカメラ22が接続されている。なお、レーダ装置18は本発明に係る物標検出手段(詳しくは請求項2〜請求項4に記載の物標検出手段)に、画像処理装置20及び2台のCCDカメラ22は本発明に係る画像エッジ抽出手段(詳しくは請求項5に記載の画像エッジ抽出手段)に、周辺監視ECU16は本発明に係る弱反射物標判定手段(詳しくは請求項5に記載の弱反射物標判定手段)及び人体露出物標判定手段(詳しくは請求項6,7に記載の人体露出物標判定手段)に対応しており、周辺監視ECU16、レーダ装置18、画像処理装置20及び2台のCCDカメラ22は本発明に係る車両用物標判定装置に対応していると共に、プリクラッシュセーフティ制御(PCS制御)を行うプリクラッシュセーフティ制御装置としての機能を兼ね備えている。
【0031】
本実施形態では、レーダ装置18として、ミリ波を探知波とし、連続波(CW)に周波数変調(FM)を施した送信信号を電波(ミリ波)として送信すると共に、任意の物標で反射された電波を受信することで物標を検出するFM−CWレーダ装置を用いている。レーダ装置18は自車両に搭載され、自車両の前方の所定範囲(例えば車両左右方向の角度範囲が10゜〜20゜、最遠方探知距離が200mの範囲)に存在する車両や道路標識等の物標を検出すると共に、物標と自車両の相対位置及び相対速度を同時に検出可能とされている。なお、詳細は後述するが、レーダ装置18が検出対象とする物標には、歩行者や軽車両等の人体露出物標も含まれている。レーダ装置18ではアダプディブアレーアンテナフィルタが用いられるとともに、デジタル・ビーム・フォーミング(DBF)技術によるアンテナビームの形成および走査が行われ、物標が点情報として検出される。FM−CWレーダ装置の探知原理,DBF技術等については、本願出願人が以前に出願した特開2003−130945号、特開平8−220220号等に詳しく説明されているため、詳細な説明は省略する。
【0032】
また、レーダ装置18はマイクロプロセッサ等から成る処理装置を内蔵しており、この処理装置は、電波(探知波)の送受信(物標の探知)を行うことで得られたパワースペクトラムから物標に相当するピークを抽出することで物標を検出し、検出した個々の物標について距離・相対速度・位置を演算し、直近の複数回の検出処理で得られた距離や相対速度、位置の変化等に基づいてノイズやガードレール等の路側物等を監視対象から除外し、監視対象の物標のみを抽出する物標検出処理(図2参照:詳細は後述)を一定周期T2で繰り返し実行する。そして、物標検出処理によって得られた監視対象の物標の情報(距離や相対速度、位置等)を周辺監視ECU16へ出力する。
【0033】
また、2台のCCDカメラ22は一対のドアミラー、フロントグリルの両端部等、車幅方向に離間した位置に、各々自車両の前方(レーダ装置18による探知範囲を包含する範囲)を撮像可能に配置されており、画像処理装置20には、2台のCCDカメラ22が自車両の前方を撮像することで得られた画像が各々入力される。画像処理装置20は、CCDカメラ22より入力された画像からエッジを抽出し、抽出したエッジのうち路面に描かされた白線等に相当する路面エッジを除外した各エッジの情報を周辺監視ECU16へ出力する。
【0034】
一方、周辺監視ECU16は、レーダ装置18から入力される個々の監視対象の物標との距離や相対速度、位置等に基づいて、個々の監視対象の物標迄の到達距離や到達時間を演算して衝突等の緊急状態に至る可能性を予測判断し、車両が緊急状態に至る可能性が高いと予測した場合には、介入ブレーキ制御ECU34、ウェビング巻取ECU38、エアバッグECU42、エンジンECU48及びトランスミッションECU52へプリクラッシュ制御信号を出力すると共に、例えばインストルメントパネルに設けられたワーニングランプを点灯或いは点滅させたり、ブザーの鳴動や案内メッセージを音声で発する等により、車両が緊急状態に至る可能性が高いことを運転者に警告するプリクラッシュ制御処理を行う。
【0035】
周辺監視ECU16からプリクラッシュ制御信号が入力された場合、介入ブレーキ制御ECU34は運転者によるブレーキ操作が行われていなければ介入ブレーキ制御ACT36を制御して車両を制動・減速させ、ウェビング巻取ECU38はウェビング巻取ACT40を制御してウェビングを巻き取ることで乗員保護力を強化し、エアバッグECU42はエアバッグの展開の可否を規定する閾値をより小さい値へ変更することで、車両が緊急状態に至ったときのエアバッグの展開タイミングを早くさせ、エンジンECU48は電子スロットルACT50を制御してスロットルを全閉位置へ回動させ、トランスミッションECU52はトランスミッションACT54を制御して、車両のトランスミッションの減速比をエンジンがオーバレブしない範囲内で最大のエンジンブレーキが発生する減速比に切り替える。上記のプリクラッシュ制御により、車両が衝突などの緊急状態に至る確率が低減されると共に、車両が緊急状態に至った場合にもより確実に乗員を保護することができる。
【0036】
なお、本実施形態に係る周辺監視ECU16は、車両が緊急状態に至る可能性が高いと予測した場合に、車両と衝突する可能性が最大の物標が車両等の強反射物標か歩行者や軽車両等のように人体が露出している物標かを判定し(詳細は後述)、車両と衝突する可能性が最大の物標が人体露出物標であると判定したときには、歩行者保護制御ECU56へもプリクラッシュ制御信号を出力する。これにより、歩行者保護デバイスACT58を介して歩行者保護デバイスが作動され、車両が歩行者や軽車両等と衝突した場合にも歩行者や軽車両の運転者を保護することができる。
【0037】
次に本実施形態の作用として、まずレーダ装置18の処理装置によって周期T2で繰り返し実行される物標検出処理について図2を参照して説明する。物標検出処理では、まずステップ70で電波送受信処理が行われる。この電波送受信処理では、連続波である搬送波を振幅が三角形状に変化する変調波によって周波数変調することで、時間経過に伴って周波数が三角形状に変化する送信信号を生成し、この送信信号を方向性結合器を介して送信アンテナへ供給することで自車両の前方の所定範囲内へ探知波(ミリ波)を放射する。また、任意の物標で反射された電波が受信アンテナで受信され、方向結合器からの送信信号の一部を差分演算によって受信信号と結合することでビート信号を生成し、生成したビート信号を増幅し、アンチエリアシングフィルタ処理・FFT信号処理を施す。これにより、周波数上昇区間及び周波数下降区間のパワースペクトラムが得られる。また、周波数上昇区間及び周波数下降区間のパワースペクトラムからピークを検出してペアリングを行うことで、車両の前方の所定範囲内に存在している個々の物標に対応するピーク対を抽出する。
【0038】
ステップ72ではカウンタiを1だけインクリメントする。なお、カウンタiは車両のイグニッションスイッチがオンされたときに0に初期化される。次のステップ74では、カウンタiの値が所定値imaxに一致しているか否か判定する。判定が否定された場合はステップ82へ移行し、人体露出物標である可能性のある弱反射物標の検出をステップ82以降で行う。すなわち、ステップ82ではステップ70の電波送受信処理によって抽出された個々の物標に対応するピーク対の中から、反射強度が閾値th2以下かつ閾値th3以上の弱反射物標を抽出する。
【0039】
次のステップ84では、ステップ82で抽出した弱反射物標について、まず自車両との相対距離R、相対速度V及び相対位置関係を各々演算する。相対距離R及び相対速度Vについては、周波数上昇区間におけるピーク周波数fupと周波数下降区間におけるピーク周波数fdownに基づき、
fd=(fdown−fup)/2 …(1)
fr=(fdown+fup)/2 …(2)
上記の(1)(2)式に従って相対速度周波数fd及び距離周波数frを求め、次の(3)(4)式に代入することで演算することができる。
fd=2・V/C・f0 …(3)
fr=4・fm・Δf/C・R …(4)
但し、Rは相対距離、Vは相対速度、Cは光速、f0は中心周波数、fmは変調周波数、Δfは周波数変移幅である。また、物標との相対位置関係についても公知の手法により演算することができる。
【0040】
次に、相対距離、相対速度及び相対位置関係を演算した弱反射物標の中から、自車両との距離が所定値Ds以内の弱反射物標を、反射強度の降順に最大m個 (弱反射物標Tn+1〜Tn+m)抽出する。そして、抽出した個々の弱反射物標の相対距離、相対速度及び相対位置関係の演算結果を、物標による電波の反射強度を表す反射強度情報と共に物標情報としてメモリに記憶する。そして、抽出した最大m個の弱反射物標について、物標検出処理を前回行ったときに検出した個々の弱反射物標の相対距離、相対速度及び相対位置関係と各々比較し、相対距離の変化、相対速度の変化及び相対位置関係の変化に基づいて、今回検出した個々の弱反射物標の中に、前回の物標検出処理で検出された個々の弱反射物標の何れかに対応している物標(前回の物標検出処理でも検出された物標)が存在しているか否か判断する。
【0041】
本実施形態では、検出した個々の物標について検出回数をメモリに記憶しており、今回検出した個々の弱反射物標のうち前回の物標検出処理では検出されていないと判断した物標については、検出回数として「1」をメモリに記憶し、今回検出した個々の弱反射物標のうち前回の物標検出処理でも検出されていると判断した物標については、既にメモリに記憶している検出回数を1だけインクリメントした回数をメモリに記憶する。そして、メモリに記憶した検出回数が所定値(>1)以上の弱反射物標を監視対象の弱反射物標と判定する。これにより、物標検出処理によって複数回連続して検出された弱反射物標のみが監視対象の弱反射物標と判定される。
【0042】
次のステップ86では監視対象の物標の物標情報(相対距離、相対速度、相対位置関係及び反射強度等)を周辺監視ECU16へ送信し、物標検出処理を終了する。上記のように物標検出処理で弱反射物標の検出のみを行った場合(次に説明する強反射物標の検出を行わなかった場合)、ステップ86では監視対象の弱反射物標の物標情報のみが周辺監視ECU16へ送信される。
【0043】
また、カウンタiの値は物標検出処理を実行する毎に1ずつインクリメントされるので、物標検出処理の実行回数が所定値imaxに達すると、ステップ74の判定が肯定されてステップ76へ移行し、ステップ76以降で強反射物標の検出を行う。すなわち、ステップ76ではステップ70の電波送受信処理によって抽出された個々の物標に対応するピーク対の中から、反射強度が車両検出閾値th1より大きい強反射物標を、反射強度の降順に最大n個 (強反射物標T1〜Tn) 抽出する。
【0044】
次のステップ78では、ステップ76で抽出した最大n個の強反射物標について、先のステップ84と同様に自車両との相対距離R、相対速度V及び相対位置関係を各々演算し、演算結果を物標情報としてメモリに記憶する。また、今回検出した個々の強反射物標の中に、前回の物標検出処理でも強反射物標として検出された物標が存在しているか否か判断し、先のステップ84と同様に個々の強反射物標の検出回数をメモリに記憶する。そして、メモリに記憶した検出回数が所定値(>1)以上の強反射物標を監視対象の強反射物標と判定する。これにより、物標検出処理によって複数回連続して検出された強反射物標のみが監視対象の強反射物標と判定される。そして、次のステップ80でカウンタiの値を0に戻した後にステップ82へ移行し、前述の弱反射物標の検出を行う。
【0045】
上記のように物標検出処理で強反射物標の検出も行った場合、ステップ86では監視対象の強反射物標及び弱反射物標の物標情報が各々送信される。物標検出処理は周期T2で繰り返し実行され、弱反射物標の検出は物標検出処理で毎回行われるので、弱反射物標の検出及び周辺監視ECU16への弱反射物標の物標情報の送信も周期T2で繰り返し行われる一方、強反射物標の検出はカウンタiの値が所定値imaxに一致する毎に行われるので、強反射物標の検出及び周辺監視ECU16への強反射物標の物標情報の送信は周期T2よりも長いT1(=T2×imax) 周期で行われることになる。
【0046】
続いて、画像処理装置20によって周期T2で繰り返し実行されるエッジ抽出処理について図3を参照して説明する。このエッジ抽出処理では、まずステップ90においてCCDカメラ22によって車両の前方を撮像させ、撮像によって得られた画像データをCCDカメラ22から取得する。次のステップ92ではCCDカメラ22から取得した画像を二値化する。なお、二値化に用いる閾値は予め固定的に定めておいてもよいし、公知の閾値決定方法を適用して動的に設定してもよい。続いてステップ94では、ステップ92の二値化によって得られた二値画像から、画素の値が第1の値から第2の値へ、又はその逆へ変化している部分をエッジとして抽出する。
【0047】
また、ステップ94で二値画像から抽出したエッジには、例えば路面上の白線に相当するエッジ等も混在している可能性があるが、路面上の白線に相当するエッジ等は画像上で斜め方向に直線的に伸びていることに基づき、次のステップ96では、ステップ94で二値画像から抽出したエッジの中に、画像の上下方向に対して所定角度以上傾斜した方向に沿って直線的に伸びている所定値以上の長さのエッジが存在しているか否かを探索し、該当するエッジが存在していた場合には、該当するエッジを路面エッジとして除外することで、二値画像より抽出したエッジの中から物標に相当すると推定される画像部のエッジのみを抽出する。
【0048】
例として、ステップ90における撮像処理により、例として図5(A)に示すような画像が得られ、当該画像に対してステップ94でエッジ抽出を行った場合、上記画像中の歩行者60に相当するエッジ60Aや車両62に相当するエッジ62A(図5(B)参照)に加えて、道路のセンターラインに相当するエッジや道路の両端部に相当するエッジ(図示省略)も抽出されることになるが、上記のステップ96の処理により、道路のセンターラインに相当するエッジや道路の両端部に相当するエッジが路面エッジとして除外されるので、図5(B)に示すように物標(歩行者60や車両62)に相当する(と推定される)エッジのみが残存することになる。これにより、物標に相当すると推定される画像部のエッジを簡単かつ精度良く抽出できる。ステップ96で物標に相当するエッジを抽出すると、次のステップ98では抽出した各エッジのエッジ情報(画像中の位置等を表す情報)を周辺監視ECU16へ送信し、エッジ抽出処理を終了する。
【0049】
次に、周辺監視ECU16によって周期T2で繰り返し実行される物標判定・PCS制御処理について図4を参照して説明する。この物標判定・PCS制御処理では、まずステップ110においてレーダ装置18の処理装置から物標情報を受信し、受信した物標情報をメモリに一時記憶させる。前述のように、レーダ装置18の処理装置で実行される物標検出処理では、弱反射物標の検出は毎回行うものの、強反射物標の検出はimax回実行する毎に1回行うので、ステップ110における物標情報の受信では、レーダ装置18で検出された弱反射物標の物標情報のみを受信する場合と、レーダ装置18で検出された弱反射物標及び強反射物標の物標情報を各々受信する場合がある。また、ステップ112では画像処理装置20からエッジ情報を受信し、受信したエッジ情報をメモリに一時記憶させる。
【0050】
ステップ114では、レーダ装置18の処理装置より受信した物標情報の中から、後述する処理を未実行の弱反射物標Tkの物標情報を取り出す。次のステップ116では、ステップ114で物標情報を取り出した弱反射物標Tkについて、取り出した物標情報に含まれる弱反射物標Tkとの相対距離R及び相対位置関係に基づき、CCDカメラ22によって撮像された画像上での弱反射物標Tkの写像位置を演算する。そして画像処理装置20から受信したエッジ情報に基づき、演算した写像位置にエッジが存在しているか否か判定する。判定が肯定された場合、ステップ114で物標情報を取り出した弱反射物標Tkは実在している可能性が高いと判断できるので、ステップ118で弱反射物標Tkを「実体有り」と判定し、当該弱反射物標Tkの物標情報に含まれる反射強度情報を、弱反射物標Tkを識別するための情報と対応付けてメモリに記憶させる。また、ステップ116の判定が否定された場合には、ステップ114で物標情報を取り出した弱反射物標Tkは実在していない可能性が高いと判断できるので、ステップ120で弱反射物標Tkを「実体無し」と判定し、当該弱反射物標Tkの情報をメモリから破棄する。
【0051】
上記処理により、例えば弱反射物標Tkの画像上での写像位置が、例として図5(C)に「弱反射物標A」と表記して示すように歩行者60Aに相当するエッジの位置とほぼ同位置であった場合には、当該弱反射物標が「実体有り」と判定される。また、例として図5(C)に「弱反射物標B」と表記して示すように、例えば弱反射物標Tkの画像上での写像位置にエッジが存在していなかった場合、当該弱反射物標は「実体無し」と判定されることになる。次のステップ122では、レーダ装置18の処理装置から物標情報を受信した全ての弱反射物標について上記の実体の有無を判定したか否か判定する。判定が否定された場合にはステップ114へ戻り、ステップ122の判定が肯定される迄ステップ114〜ステップ122を繰り返す。これにより、レーダ装置18の処理装置より物標情報を受信した全ての弱反射物標について、実体の有無が各々判定される。
【0052】
ステップ122の判定が肯定されるとステップ124へ移行し、レーダ装置18の処理装置から受信した物標情報の中に強反射物標の物標情報が含まれているか否か判定する。ステップ124の判定が否定された場合は物標判定・PCS制御処理を一旦終了する。これにより、レーダ装置18の処理装置から受信した物標情報が、弱反射物標の物標情報のみを含む情報である間(レーダ装置18の処理装置から物標情報をimax回受信する迄の間)は、実体有りと判定された弱反射物標の反射強度情報がメモリに順に蓄積記憶されることになる。
【0053】
また、レーダ装置18の処理装置から強反射物標の物標情報を含む物標情報を受信した場合には、ステップ124の判定が肯定されてステップ126へ移行し、レーダ装置18の処理装置から今回受信した強反射物標の物標情報、及び、レーダ装置18の処理装置から今回受信した弱反射物標の物標情報のうち「実体有り」と判定した弱反射物標の物標情報に基づき、特定の物標と自車両との相対位置関係等を把握しつつ、特定の物標までの到達距離や到達時間を演算して衝突等の緊急状態に至る可能性を予測判断することを、全ての弱反射物標及び全ての強反射物標について各々行い、上記の予測判断の結果に基づいて全ての弱反射物標及び全ての強反射物標の中から自車両との衝突可能性が最大の物標を1個選択する。そしてステップ128では、選択した物標と自車両との衝突可能性が所定値以上か否か判定する。なお、ステップ128は請求項8に記載の衝突可能性判定手段に対応している。ステップ128の判定が否定された場合は、自車両が何れかの物標と衝突する可能性は低いと判断できるので、何ら処理を行うことなく物標判定・PCS制御処理を終了する。
【0054】
一方、ステップ128の判定が肯定された場合は自車両が先に選択した物標と衝突する可能性があるので、ステップ130へ移行して衝突可能性が最大の物標が弱反射物標か否か判定する。判定が否定された場合、自車両と衝突する可能性が最大の物標は車両等であると判断できるので、ステップ134へ移行し、どのようなPCS制御を行うかを規定するパラメータとして通常のパラメータ(衝撃力が大きい車両等との衝突に備えて自車両の乗員の保護を優先させるパラメータ)を選択し、物標判定・PCS制御処理を終了する。
【0055】
周辺監視ECU16では、図4に示す物標判定・PCS制御処理と並行してPCS(プリクラッシュセーフティ)処理を行っており、このPCS処理では、時々刻々変化する物標との衝突可能性に応じて、ブザーの鳴動や案内メッセージを音声で発する等により車両が緊急状態に至る可能性が高いことを運転者に警告する処理を行ったり、各ECUへプリクラッシュ制御信号を出力する処理を行うが、上記のパラメータには、プリクラッシュ制御信号を出力するECUを規定するパラメータや、各ECUへのプリクラッシュ制御信号の出力タイミングを規定するパラメータが含まれており、PCS処理によるプリクラッシュ制御信号の出力は上記パラメータに従って行われる。これにより、自車両と衝突する可能性が最大の物標が車両等の強反射物標である場合、自車両の乗員の保護を優先させるPCS処理(エアバッグECU42へ所定のタイミングでプリクラッシュ制御信号を出力する処理を含むPCS処理)が行われる。
【0056】
また、衝突可能性が最大の物標が弱反射物標であると判定した場合、ステップ130の判定が肯定されてステップ132へ移行し、衝突可能性が最大と判定した弱反射物標についてメモリに蓄積記憶している反射強度情報を全て読み出し、例として図6に示すような反射強度のヒストグラムを作成する。そして、作成した弱反射物標の反射強度ヒストグラムの形状が、歩行者や軽車両等のように人体が露出している物標(人体露出物標)に特有の形状であるレーリー分布に合致しているか否か判定する。
【0057】
車両等に電波を照射した場合の反射強度のばらつきは非常に小さいので、反射強度のヒストグラムは、図6(A)に示すように、裾の幅Wに対して頻度のピークの高さPが大きく(W/P:小)、頻度のピークを挟んで左右がおおよそ線対称の形状(左側領域の面積SL≒右側領域の面積SR)を示す。これに対し、歩行者等に電波を照射した場合には反射強度のばらつきが大きく、反射強度のヒストグラムは、図6(B)に示すように、頻度のピークの高さPに対して裾の幅Wが大きく(W/P:大)、頻度のピークを挟んで左側の領域よりも右側の領域の方が面積が大きい非対称の形状(SL≪SR)、すなわちレーリー分布の形状を示す。また、反射強度のヒストグラムがレーリー分布の形状を示す物標は歩行者に限られるものではなく、軽車両等のように人体の露出部分の面積が多い物標であれば、反射強度のヒストグラムはレーリー分布と同様の形状を示す。
【0058】
上記に基づきステップ132では、作成した弱反射物標の反射強度のヒストグラムの形状が、ピークの高さPに対する裾の広さW(W/P)が所定値以上で、かつ非対称度(SR/SL)が所定値以上の形状か否かを判定することで、衝突可能性が最大の弱反射物標が人体露出物標か否かを判定する。ステップ132の判定が否定された場合はステップ134へ移行し、前述のように、PCS制御の内容を規定するパラメータとして通常のパラメータ(衝撃力が大きい車両等との衝突に備えて自車両の乗員の保護を優先させるパラメータ)を選択し、物標判定・PCS制御処理を終了する。
【0059】
また、ステップ132の判定が肯定された場合、衝突可能性が最大の弱反射物標は人体露出物標であるので、ステップ136へ移行し、PCS制御の内容を規定するパラメータとして人物露出物標用のパラメータ(衝突時の人物露出物標のダメージを抑制することも考慮したパラメータ)を選択し、物標判定・PCS制御処理を終了する。この場合、衝突時の人物露出物標のダメージを抑制することも考慮したPCS処理(歩行者保護制御ECU56へプリクラッシュ制御信号を出力することで歩行者保護デバイスACT58を介して歩行者保護デバイスを作動させる処理を含むPCS処理)が行われることになり、衝突時の人物露出物標のダメージを抑制することができる。なお、ステップ136は請求項8に記載の制御手段に対応している。
【0060】
このように本実施形態では、周辺監視ECU16で実行される物標判定・PCS制御処理において、衝突可能性が最大の物標が弱反射物標である場合に、当該弱反射物標の反射強度のヒストグラムの形状が人体としての特徴を有しているか否か、レーリー分布と同様の形状を示しているか否かを判定することで、衝突可能性が最大の弱反射物標が人体露出物標か否かを判定しているので、衝突可能性が最大の物標が人体露出物標であるか否かを精度良く判定することができる。
【0061】
また本実施形態では、レーダ装置18の処理装置で実行される物標検出処理(図2)において、反射強度が閾値th2以下かつ閾値th3以上の弱反射物標の中から、自車両との距離が所定値Ds以内の弱反射物標を反射強度の降順に最大m個抽出し、監視対象の判定を経て周辺監視ECU16へ物標情報として送信しているので、監視対象の判定及び周辺監視ECU16への物標情報の送信を行う弱反射物標の数が抑制され、レーダ装置18の処理装置及び周辺監視ECU16に加わる負荷を軽減できると共に、データ等を記憶するために必要なメモリの容量も削減できる。また、反射強度が車両検出閾値th1より大きい強反射物標の数についても、反射強度の降順に最大n個に抑制しているので、レーダ装置18の処理装置及び周辺監視ECU16に加わる負荷を更に軽減できると共に、メモリの容量も更に削減することができる。
【0062】
また本実施形態では、レーダ装置18の処理装置で実行される物標検出処理(図2)において、弱反射物標の検出を、強反射物標の検出周期T1よりも短い周期T2で繰り返しているので、衝突可能性が最大の物標が弱反射物標である場合に、当該弱反射物標の反射強度のヒストグラムの形状に基づいて前記弱反射物標が人体露出物標か否かを判定するための反射強度のデータを比較的短時間で収集することができ、弱反射物標が人体露出物標か否かの判定を短い周期で行うことが可能となる。また、ヒストグラムの形状に基づく判定が不要な強反射物標の検出を弱反射物標の検出周期T2よりも長い周期T1で行うことにより、レーダ装置18の処理装置及び周辺監視ECU16に加わる負荷も軽減することができる。
【0063】
更に、本実施形態では、画像処理装置20で実行されるエッジ抽出処理(図3)において、CCDカメラ22による撮像によって得られた画像中のエッジから路面エッジを除外したエッジを抽出し、周辺監視ECU16で実行される物標判定・PCS制御処理において、上記画像のうち物標情報を受信した弱反射物標の写像位置に上記のエッジが存在しているか否かに基づいて、弱反射物標が車両の周囲に実在しているか否か判定するので、物標に相当すると推定される画像部のエッジを簡易な処理により精度良く抽出できると共に、物標情報を受信した弱反射物標が車両の周囲に実在しているか否かも簡易な処理によって判定することができ、画像処理装置20及び周辺監視ECU16に加わる負荷を軽減することができる。
【0064】
なお、上記では人体露出物標の一例として歩行者、軽車両を挙げて説明したが、人体露出物標はこれらに限られるものではなく、自動二輪車(特に人体露出部分の面積比が比較的大きい小排気量の自動二輪車)や電動カート、車椅子等の他の人体露出物標を含めてもよいことは言うまでもない。
【0065】
また、上記では人体露出物標の判定をプリクラッシュセーフティ(PCS)制御に利用した例を説明したが、これに限定されるものではなく、車両の周囲に存在している物標の種類に応じて制御内容を切り替える任意の制御に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本実施形態に係る車両制御システムの概略構成を示すブロック図である。
【図2】レーダ装置で実行される物標検出処理の内容を示すフローチャートである。
【図3】画像処理装置で実行されるエッジ抽出処理の内容を示すフローチャートである。
【図4】周辺監視ECUで実行される物標判定・PCS制御処理の内容を示すフローチャートである。
【図5】(A)は原画像、(B)はエッジ抽出結果、(C)は弱反射物標の実在判定結果の一例を各々示すイメージ図である。
【図6】(A)は車両等、(B)は歩行者等における反射強度のヒストグラムを各々示す線図である。
【符号の説明】
【0067】
10 車載システム
16 周辺監視ECU
18 レーダ装置
20 画像処理装置
22 CCDカメラ
58 歩行者保護デバイスACT
56 歩行者保護制御ECU

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の周囲へ電波を送信すると共に任意の物標で反射された電波を受信し、電波の反射強度が、強反射物標を検出するための電波の反射強度の閾値よりも小さい所定範囲内の弱反射物標を検出することを繰り返す物標検出手段と、
前記車両の周囲を撮像することで得られた画像から物標に相当すると推定される画像部のエッジを抽出する物標エッジ抽出手段と、
前記物標検出手段による前記弱反射物標の検出結果と、前記物標エッジ抽出手段による前記エッジの検出結果に基づいて、前記物標検出手段によって検出された前記弱反射物標が前記車両の周囲に実在しているか否か判定する弱反射物標判定手段と、
前記弱反射物標判定手段によって前記車両の周囲に実在していると判定された弱反射物標について、前記物標検出手段によって所定時間内に繰り返し検出された反射強度のヒストグラムの形状が人体としての特徴を有しているか否かに基づいて、前記実在していると判定された弱反射物標が人体露出物標か否かを判定する人体露出物標判定手段と、
を含む車両用物標判定装置。
【請求項2】
前記物標検出手段は、電波の反射強度が前記閾値以上の強反射物標を検出すると共に、前記弱反射物標として、電波の反射強度が前記所定範囲内でかつ前記車両からの距離が所定距離以内の物標を検出することを特徴とする請求項1記載の車両用物標判定装置。
【請求項3】
前記物標検出手段は、電波の反射強度が前記閾値以上の強反射物標を検出することを第1の周期で繰り返すと共に、前記車両の周囲への電波の送信、任意の物標で反射された電波の受信、及び、電波の反射強度が前記所定範囲内の前記弱反射物標の検出を前記第1の周期よりも短い第2の周期で繰り返すことを特徴とする請求項1記載の車両用物標判定装置。
【請求項4】
前記物標検出手段は、電波の反射強度が前記閾値以上の強反射物標を第1の所定個検出すると共に、電波の反射強度が前記所定範囲内の前記弱反射物標を第2の所定個検出することを特徴とする請求項2又は請求項3記載の車両用物標判定装置。
【請求項5】
前記物標エッジ抽出手段は、前記物標に相当すると推定される画像部のエッジとして、前記画像中に存在しているエッジのうち、前記画像上で斜め方向に伸びるエッジを除外したエッジを抽出し、
前記弱反射物標判定手段は、前記画像のうち前記物標検出手段によって検出された前記弱反射物標に相当する画像部が存在している位置に、前記物標エッジ抽出手段によって検出されたエッジが存在しているか否かに基づいて、前記物標検出手段によって検出された前記弱反射物標が前記車両の周囲に実在しているか否か判定することを特徴とする請求項1記載の車両用物標判定装置。
【請求項6】
前記人体露出物標判定手段は、前記弱反射物標判定手段によって前記車両の周囲に実在していると判定された弱反射物標について、前記物標検出手段によって所定時間内に繰り返し検出された反射強度のヒストグラムの形状が、頻度のピークに対する裾の広さが所定値以上でかつ非対称度が所定値以上の形状を示しているか否かを判定することで、前記実在していると判定された弱反射物標が人体露出物標か否かを判定することを特徴とする請求項1記載の車両用物標判定装置。
【請求項7】
前記人体露出物標判定手段は、前記物標検出手段によって複数回検出された反射強度の単位時間当りの変化率が所定値以上か否かも判定することで、前記実在していると判定された弱反射物標が人体露出物標か否かを判定することを特徴とする請求項6記載の車両用物標判定装置。
【請求項8】
前記物標検出手段によって検出された物標と前記車両との衝突可能性を判定する衝突可能性判定手段と、
前記衝突可能性判定手段によって衝突可能性が所定値以上と判定された物標が、前記弱反射物標判定手段によって前記車両の周囲に実在していると判定されると共に、前記人体露出物標判定手段によって前記人体露出物標であると判定された弱反射物標である場合に、前記車両に取り付けられた人体露出物標保護装置を作動させること、及び、人体露出物標の保護のための前記車両の制御を行うこと、の少なくとも一方を行う制御手段と、
を更に備えたことを特徴とする請求項1記載の車両用物標判定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−71631(P2007−71631A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−257664(P2005−257664)
【出願日】平成17年9月6日(2005.9.6)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】