説明

車両用空調制御装置

【課題】車室内への送風空気の温度又は風量の変更操作がありかつ該変更操作後にエンジンが再始動した場合に、空調の効きすぎにより乗員に不快感を与えないようにするとともに、乗員に再操作の手間をかけさせないようにする。
【解決手段】車両用空調制御装置としての空調制御ユニット40の空調制御部40cが、エンジンの自動停止中に、車室内への送風空気の温度又は風量が乗員の要求値に近付くように空調装置の作動を制御するとともに、エンジンの自動停止中に上記送風空気の温度又は風量の変更操作がありかつ該変更操作後にエンジンが再始動した場合に、上記送風空気の温度又は風量が、エンジン自動停止直前における乗員の要求値、又は、エンジン再始動直前における乗員の要求値とエンジン自動停止直前における乗員の要求値との間の値に近付くように空調装置の作動制御を変更する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定のエンジン停止条件が成立したときにエンジンを自動停止させるとともに、その後に所定のエンジン再始動条件が成立したときに、該自動停止させたエンジンを自動で再始動させるようにした車両に搭載された空調装置の作動を制御する車両用空調制御装置に関する技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来より、燃費向上や排気ガス低減等の目的で、車両が信号待ち等で停止したときに、車両に搭載されたエンジンを自動停止(アイドリング停止)させることは知られている。このような車両では、例えば乗員のアクセルペダルの踏込み量が0になりかつ車速が0になったときにエンジンを自動停止させるとともに、その後に、例えばアクセルペダルが踏み込まれると、該自動停止させたエンジンを自動で再始動させるようにしている。
【0003】
一方、上記車両には、通常、該車両の車室内の空調を行う空調装置が設けられている。この空調装置は、熱伝達媒体(エンジン冷却水や冷媒)が流れる熱交換器(ヒータコアやエバポレータ)と、該熱伝達媒体を該熱交換器へ供給するウォータポンプやコンプレッサとを有しており、該熱交換器を通過する空気が、該熱交換器へ供給された熱伝達媒体との熱交換によって加熱又は冷却されて車室内へ送風され、このことで車室内の空調が行われるようになっている。
【0004】
上記ウォータポンプやコンプレッサは、通常、エンジンにより駆動されるようになっており、このため、上記の如くエンジンが自動停止すると、ウォータポンプやコンプレッサも停止するため、自動停止が長時間続くと、空調性能が低下して乗員に対し不快感を与えてしまう。
【0005】
そこで、例えば特許文献1では、エンジンの自動停止条件成立時に、空調装置の出力量(車室内への送風空気の風量等)を自動停止条件成立前に比べて大きくした状態を所定時間保持した後にエンジンを停止させることで、空調性能の低下による乗員の不快感を抑えるようにしている。
【特許文献1】特開2000−104584号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記従来例のように空調装置の出力量を大きくする方法では、エンジンの自動停止前に空調装置の出力量が大きくなるため、乗員が違和感を感じる虞があるとともに、エンジン停止前での温度変化が激しくなる虞があり、改良の余地がある。
【0007】
ここで、空調装置の出力量を大きくしないでエンジンを自動停止させたとしても、空調性能が急激に低下するのではなく、徐々に低下するものであり、乗員は、直ぐには不快に感じず、また、或る程度我慢できるものである。そして、乗員は、その時の車内外環境に応じて例えば我慢しきれなくなると、操作スイッチを操作して、車室内への送風空気の温度や風量を変更する。
【0008】
そこで、エンジンの自動停止中に乗員が送風空気の温度や風量を変更操作した場合に、例えば該変更操作時点から所定時間経過後にエンジンを再始動するようにすれば、乗員に不快感を与えないようにしつつ、エンジンの自動停止時間を確保することができるようになる。
【0009】
しかし、その場合、エンジンが再始動すると、空調装置は、通常、上記変更操作された乗員の要求値に対応して作動するため、例えば空調が効きすぎるという問題がある。すなわち、例えば空調装置の暖房運転時にエンジンが自動停止した場合、空調性能の低下により乗員は寒さを感じて、送風空気の温度の要求値を25℃から30℃に変更する。そして、その後にエンジンが再始動すると、空調性能が復帰した状態で要求値が30℃のままであると、乗員は、今度は暑いと感じるようになり、元の25℃に変更するといった再操作が必要になる。
【0010】
本発明は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、車室内への送風空気の温度又は風量の変更操作がありかつ該変更操作後にエンジンが再始動した場合に、例えば空調の効きすぎにより乗員に不快感を与えないようにするとともに、乗員に再操作の手間をかけさせないようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、この発明では、エンジンの自動停止中に、車室内への送風空気の温度又は風量が乗員の要求値に近付くように空調装置の作動を制御するとともに、エンジンの自動停止中に上記送風空気の温度又は風量の変更操作がありかつ該変更操作後にエンジンが再始動した場合に、上記送風空気の温度又は風量が、エンジン自動停止直前における乗員の要求値、又は、エンジン再始動直前における乗員の要求値とエンジン自動停止直前における乗員の要求値との間の値に近付くように空調装置の作動制御を変更するようにした。
【0012】
具体的には、請求項1の発明では、エンジンと、所定のエンジン停止条件が成立したときに該エンジンを自動停止させるとともに、その後に所定のエンジン再始動条件が成立したときに、該自動停止させたエンジンを自動で再始動させるアイドルストップ制御手段とを備えた車両に搭載された空調装置の作動を制御する車両用空調制御装置を対象とする。
【0013】
そして、上記空調装置は、熱伝達媒体が流れる熱交換器と、上記エンジンにより駆動されて該熱伝達媒体を該熱交換器へ供給する熱伝達媒体供給手段とを有していて、該熱交換器を通過する空気を、該熱交換器へ供給された熱伝達媒体との熱交換によって加熱又は冷却して上記車両の車室内へ送風することで該車室内の空調を行うように構成されているとともに、上記車両の乗員が上記送風空気の温度又は風量を該乗員の要求値に設定操作可能とする操作手段を更に有し、上記エンジンの自動停止中に、上記送風空気の温度又は風量が上記操作手段による乗員の要求値に近付くように上記空調装置の作動を制御する要求制御手段と、上記エンジンの自動停止中に上記操作手段により上記送風空気の温度又は風量の変更操作がありかつ該変更操作後に上記アイドルストップ制御手段によりエンジンが再始動した場合に、上記送風空気の温度又は風量が、上記エンジン自動停止直前における上記乗員の要求値、又は、上記エンジン再始動直前における上記乗員の要求値と上記エンジン自動停止直前における上記乗員の要求値との間の値に近付くように上記空調装置の作動制御を変更する変更制御手段とを備えているものとする。
【0014】
上記の構成により、エンジンの自動停止中においては、要求制御手段により、送風空気の温度又は風量が、乗員の要求値に近付くように空調装置の作動が制御される。エンジン自動停止開始からの時間の経過に伴って、空調性能が低下していき、やがて乗員が不快に感じて、送風空気の温度又は風量の変更操作を行う。例えば空調装置の暖房運転時にエンジンが自動停止した場合、空調性能の低下により乗員は寒さを感じて、送風空気の温度を上昇変更する。そして、要求制御手段により、送風空気の温度又は風量が、その変更操作された要求値に近付くように空調装置の作動が制御されるが、空調性能が低下しているので、通常、乗員の不快感は解消され難い。
【0015】
そこで、例えば上記変更操作時点から所定時間経過後にエンジンを再始動させる。これにより、空調性能が復帰するが、このときの乗員の要求値は、空調性能が低下した状態において変更された値であり、エンジン再始動後においても、この要求値を目標値として空調装置の作動を制御すると、今度は空調が効きすぎて、乗員は送風空気の温度又は風量の再変更操作を行う必要が生じる。
【0016】
しかし、本発明では、エンジンが再始動すると、変更制御手段により、送風空気の温度又は風量が、エンジン自動停止直前における乗員の要求値、又は、エンジン再始動直前における乗員の要求値とエンジン自動停止直前における乗員の要求値との間の値に近付く制御に変更される。したがって、エンジン再始動後において、送風空気の温度又は風量を、乗員が真に要求する温度又は風量に近付けるように空調装置の作動を制御することができ、よって、エンジン再始動後に、空調の効きすぎにより乗員に不快感を与えることはなく、乗員に再操作の手間をかけさせないようにすることができる。
【0017】
請求項2の発明では、請求項1の発明において、上記エンジンの自動停止中において該エンジン自動停止開始から所定時期までの特定期間のみに上記変更操作がありかつ該変更操作後に上記アイドルストップ制御手段によりエンジンが再始動した場合に、上記変更制御手段による上記空調装置の作動制御の変更を規制する規制手段を更に備えているものとする。
【0018】
すなわち、特定期間を、空調性能が乗員に不快感を与える程度に低下していない期間としておくことで、このような特定期間における変更操作は、空調性能の低下に起因したものではないと判断することができる。したがって、特定期間に変更操作された温度又は風量は、空調性能が十分であったとしても乗員が変更したかった温度又は風量であると考えられる。本発明では、エンジンの自動停止中において特定期間のみに変更操作がありかつ該変更操作後にエンジンが再始動した場合には、規制手段により、変更制御手段による空調装置の作動制御の変更が規制されるので、送風空気の温度又は風量を、乗員が真に要求する温度又は風量に近付けるように空調装置の作動を制御することができ、よって、エンジン再始動後に、乗員に不快感を与えるのをより一層確実に防止することができる。
【0019】
請求項3の発明では、請求項1の発明において、上記空調装置は、車室内に設けられた、上記操作手段による乗員の要求値を表示する表示手段を更に有し、上記エンジンが再始動した場合において、上記変更制御手段により上記空調装置の作動制御が変更されたときに、上記表示手段による表示を、該変更制御手段による変更に対応して変更する表示変更手段を更に備えているものとする。
【0020】
このことにより、エンジン再始動後に表示手段による表示を、変更制御手段による変更に対応して変更することで、表示手段による表示と空調装置の作動の仕方とが異なることにより乗員に違和感を与えるのを防止することができる。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように、本発明の車両用空調制御装置によると、エンジンの自動停止中に車室内への送風空気の温度又は風量の変更操作がありかつ該変更操作後にエンジンが再始動した場合に、上記送風空気の温度又は風量が、エンジン自動停止直前における乗員の要求値、又は、エンジン再始動直前における乗員の要求値とエンジン自動停止直前における乗員の要求値との間の値に近付くように空調装置の作動制御を変更する構成としたことにより、車室内への送風空気の温度又は風量の変更操作がありかつ該変更操作後にエンジンが再始動した場合に、空調の効きすぎにより乗員に不快感を与えないようにするとともに、乗員に再操作の手間をかけさせないようにすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0023】
図1は、本発明の実施形態に係る車両用空調制御装置としての空調制御ユニット40を含むアイドルストップシステムの構成を示す。このアイドルストップシステムは、車両のエンジン68(図2参照)の運転状態を制御するエンジン制御ユニット20と、この車両に搭載された後述の空調装置1(図2参照)の作動を制御する空調制御ユニット40とを含む。
【0024】
上記エンジン制御ユニット20は、アイドルストップ制御手段を構成していて、所定のエンジン停止条件が成立したときに、車両の乗員(ドライバ)の意思に関係なく無点火や燃料カットによりエンジン68を自動停止させ、これにより、無駄なアイドリング運転を抑えて、エンジン68から排出される二酸化炭素や窒素酸化物等を低減する。また、エンジン制御ユニット20は、エンジン68の自動停止後に所定のエンジン再始動条件が成立したときに、該自動停止させたエンジン68を自動で再始動させる。
【0025】
上記所定のエンジン停止条件としては、例えば、後述のアクセルストロークセンサ24により検出されるアクセルペダルの踏込み量が0でかつ後述の車速センサ21により検出される車速が所定値(実質的に車両が停止していると判断できるような値であって、例えば10km/h)以下であること、或いは、上記アクセルペダルの踏込み量が0でかつ後述の駐車ブレーキスイッチ22により駐車ブレーキ操作が検出されたこと、である。一方、上記所定のエンジン再始動条件は、エンジン68の自動停止中に上記所定のエンジン停止条件が成立しないこと、である。また、本実施形態では、空調制御ユニット40から出力された後述のエンジン再始動信号を受けたという条件も、エンジン再始動条件の1つとする。空調制御ユニット40がエンジン制御ユニット20に対しエンジン再始動信号を出力するタイミングについては、後述する。
【0026】
上記エンジン制御ユニット20は、空調制御ユニット40と相互に通信可能に電気的に接続されていて、エンジン68の自動停止中に、空調制御ユニット40から出力されたエンジン再始動信号を受けるようになっている。
【0027】
また、エンジン制御ユニット20は、エンジン68の運転中においては、乗員のアクセルペダル操作(アクセルストロークセンサ24により検出されるアクセルペダルの踏込み量)等に応じて、エンジン68に対する点火時期や燃料噴射量を、予め設定されたエンジン68の運転プログラムに従い制御することで、エンジン68の運転状態を制御する。
【0028】
エンジン制御ユニット20及び空調制御ユニット40は、各種センサやスイッチからの検知信号により演算処理や後述する制御プログラムを実行するためのCPU、ROM、RAM、I/Oポート、周辺回路等を有する。
【0029】
エンジン制御ユニット20には、車両の車速を検出する車速センサ21と、乗員のペダル又はレバーによる駐車ブレーキ操作を検出する駐車ブレーキスイッチ22と、アクセルペダルの踏込量を検知するアクセルストロークセンサ24とが電気的に接続されている。車速センサ21は、例えば車輪速やトランスミッションの出力軸回転数を検出して車速信号としてエンジン制御ユニット20に出力する。駐車ブレーキスイッチ22は、乗員により駐車ブレーキが操作されると駐車ブレーキ操作信号をエンジン制御ユニット20に出力する。アクセルストロークセンサ24は、乗員によるアクセルペダルの踏込量を検出してストローク信号をエンジン制御ユニット20に出力する。
【0030】
空調制御ユニット40には、乗員により操作される各種スイッチ73a〜73f、内気温センサ74、外気温センサ75、水温センサ76、ブロアモータ61a、内外気切換モータ69、吹出モード切換モータ70、エアミックスダンパモータ71、及び、表示部81が電気的に接続されている。これら各スイッチ73a〜73f、各センサ74〜76、各モータ61a,69〜71及び表示部81については後に説明する。
【0031】
上記空調装置1は、図2に示すように、空調空気を車室内に導出する通風ダクト51を内部に有するユニットで構成され、この通風ダクト51の上流側部には、外気を導入するための外気導入口52と、車室内の空気を導入するための内気導入口53と、これら外気導入口52及び内気導入口53を選択的に開閉する切換ダンパ54とが配設されている。
【0032】
上記通風ダクト51の下流側部には、ベント吹出口55と、フット吹出口56と、デフロスタ吹出口57とが配設され、モード切換ダンパ58,59,60が各吹出口55、56、57に連通するダクト部分を選択的に開閉することにより、各吹出口55,56,57から導出される空調空気の吹出量を調節するように構成されている。
【0033】
また、上記空調装置1は、通風ダクト51の上流側部に配設された可変風量式の送風機61と、該送風機61の下流側に配設されかつ熱伝達媒体としての冷媒が流れるエバポレータ62と、該エバポレータ62の下流側に配設されたエアミックスダンパ63(エアミックスドアとも呼ばれる)と、熱伝達媒体としてのエンジン冷却水が流れるヒータコア64とを備えている。エバポレータ62は、該エバポレータ62を通過する空気を、該エバポレータ62へ供給された冷媒との熱交換によって冷却する冷却用熱交換器であり、ヒータコア64は、該ヒータコア64を通過する空気を、該ヒータコア64へ供給されたエンジン冷却水との熱交換によって加熱する加熱用熱交換器である。
【0034】
上記送風機61は、外気導入口52又は内気導入口53から通風ダクト51内に取り入れられた空気を、各吹出口55,56,57を介して車室内へ送風するように構成されている。また、上記エバポレータ62は、コンプレッサ65、コンデンサ66及びレシーバ67を有する冷媒循環回路Xに接続されている。このコンプレッサ65は、冷媒をエバポレータ62に供給する熱伝達媒体供給手段を構成していて、上記エンジン68により駆動されて、圧縮冷媒をエバポレータ62へ供給する。尚、コンプレッサ65は、電磁クラッチのオン/オフ制御によってエンジン68の回転要素に対して選択的に締結又は解放されるようになっている。
【0035】
上記ヒータコア64は、ウォータポンプ31を有する、エンジン68の冷却水循環路に接続されている。このウォータポンプ31は、エンジン冷却水をヒータコア64に供給する熱伝達媒体供給手段を構成していて、上記エンジン68により駆動されて、エンジン冷却水をエンジン68からヒータコア64へ供給する。エンジン68内の冷却水通路(本実施形態では、ヒータコア64への出口近傍)には、当該部分におけるエンジン冷却水の温度を検出する水温センサ76が配設されている。尚、この水温センサ76は、エンジン冷却水をエンジン68からヒータコア64側へ送る管内のエンジン68近傍に配設してもよい。
【0036】
上記ヒータコア64を通過する空気量は、エバポレータ62とヒータコア64との間に配設されたエアミックスダンパ63の開度に応じて制御される。このエアミックスダンパ63は、エバポレータ62を通過した空気をヒータコア64へ案内し、エアミックスダンパ63の開度に応じて、ヒータコア64で加熱される空気と、ヒータコア64をバイパスする空気との混合比を調節する。
【0037】
すなわち、エアミックスダンパ63は、サーボモータからなるエアミックスダンパモータ71により駆動され、エバポレータ62を通過した空気の全てがヒータコア64を通過せずに各吹出口55,56,57へ送風される実線で示す全閉位置と、上記空気の全てがヒータコア64を通過して各吹出口55,56,57へ送風される仮想線で示す全開位置とに選択的に設定し得るとともに、ヒータコア64を通過した空気とヒータコア64をバイパスした空気とが混合されて各吹出口55,56,57へ送風される中間位置に設定し得るようになっている。このようにエアミックスダンパ63は、エバポレータ62を通過した空気の全てがヒータコア64に供給される全開位置(開度100%)と、該空気の全てがヒータコア64をバイパスする全閉位置(開度0)との間で、開度が無段階に調節されることにより、空調空気が生成されて車室内へ送風される。この送風空気の温度は、全開位置にて得られる最高温度と、全閉位置にて得られる最低温度との範囲内で、上記混合比に応じて無段階に調節可能となっている。
【0038】
上記空調装置1は、更に、内外気切換ダンパ54を駆動する内外気切換モータ69と、モード切換ダンパ58,59,60を駆動する吹出モード切換モータ70と、車両の車室内の前端部に配設されたインストルメントパネルに設けられ、空調条件を乗員が操作して設定するための操作部73とを備えている。
【0039】
上記操作部73には、乗員により操作される各種スイッチ類、例えば、空調装置1の作動及び非作動を切り換える空調オン/オフスイッチ73a、車室内温度(車室内への送風空気の温度)を乗員が要求する要求値に設定する車室内温度設定スイッチ73b、内外気の導入割合を設定する内外気切換スイッチ73c、空調空気の吹出口を選択する吹出モード切換スイッチ73d、冷房及び暖房を切り換える冷暖房切換スイッチ73e、吹出口からの吹出風量(車室内への送風空気の風量)を、乗員が要求する要求値に設定する風量切換スイッチ73f等が設けられている。乗員は、風量切換スイッチ73fにより、乗員の要求値とは関係なく後述の如く自動的に決定される自動モードを選択することも可能である。また、上記操作部73には、上記乗員が視認可能でかつ該乗員の要求値である車室内温度及び吹出口からの吹出風量を表示する表示手段としての表示部81が設けられている。
【0040】
上記車室内温度設定スイッチ73bは、車室内温度の要求値を18℃〜32℃の範囲内で設定できるように構成されている。また、空調オン/オフスイッチ73aにより空調装置1の作動が停止されると、コンプレッサ65及び送風機61のブロアモータ61aが停止状態となる。
【0041】
上記空調制御ユニット40内には、操作部73からのスイッチ信号が入力されて、その入力に応じて、上記各モータ69,70,71の作動状態及び送風機61の送風量を制御する空調制御部40cが設けられている(図1参照)。この空調制御部40cは、乗員による操作部73の操作に対応して、内外気切換モータ69及び吹出モード切換モータ70を作動させて空調モードを切り換えるとともに、エアミックスダンパモータ71を作動させてエアミックスダンパ63の開度を調節するように構成されている。また、空調制御部40cは、乗員による空調オン/オフスイッチ73aの操作に応じて、送風機61のブロアモータ61aの作動及び停止を制御するとともに、風量切換スイッチ73fの操作に応じて、ブロアモータ61aに対する印加電圧を制御することにより、送風機61の送風量を調節して空調装置1の吹出風量を制御する。さらに、空調制御部40cは、室内温度設定スイッチ73b及び風量切換スイッチ73fの操作に応じて、上記表示部81に表示させる車室内温度及び吹出風量の表示を制御する。
【0042】
上記空調装置1は、更に、上記インストルメントパネルの下部に設置されて車室内温度を検出する内気温センサ74と、車両周囲の外気温度を検出する外気温センサ75とを備え、これら各センサの検出信号が空調制御ユニット40に入力されるようになっている。
【0043】
そして、空調制御ユニット40の空調制御部40cは、車室内温度設定スイッチ73bによる車室内温度の要求値から、内気温センサ74により検出された車室内温度を引いた値ΔTに基づいて、エアミックスダンパ63の開度及び送風機61の送風量を決定する(送風機61の送風量を決定するのは、上記自動モードの場合である)。具体的には、図3及び図4のマップに示すように、ΔTが大きくなるに連れてエアミックスダンパ63の開度及び送風機61の送風量を大きくする。但し、エアミックスダンパ63の開度は、水温センサ76により検出されたエンジン冷却水の温度Twに応じて補正され、その補正量は、図5のマップに示すように、エンジン冷却水の温度Twが大きくなるに連れて小さくなる。
【0044】
また、空調制御部40cは、車室内温度設定スイッチ73bにより車室内温度の要求値が変更された場合や、風量切換スイッチ73fにより吹出口からの吹出風量の要求値が変更された場合(自動モードからの変更を含む)には、その変更された要求値に対応して(該要求値を車室内温度や吹出風量の目標値として)空調装置1の作動、つまりエアミックスダンパ63の開度及び送風機61の送風量を制御する。すなわち、車室内温度の要求値が変更された場合には、内気温センサ74により検出される車室内温度が該要求値に近付くようにエアミックスダンパ63の開度を変更し、吹出風量の要求値が変更された場合には、送風機61の送風量が該要求値に近付くようにブロアモータ61aに対する印加電圧を変更する。上記空調制御部40cによる空調装置1の作動制御(乗員の要求値に対応する制御)は、エンジン68の運転中だけでなく、エンジン68の自動停止中にも行われる。
【0045】
上記車室内温度設定スイッチ73bは、乗員が車室内への送風空気の温度を該乗員の要求値に設定操作可能とする操作手段を構成し、上記風量切換スイッチ73fは、乗員が車室内への送風空気の風量を該乗員の要求値に設定操作可能とする操作手段を構成し、上記空調制御部40cは、エンジン68の自動停止中に、車室内への送風空気の温度又は風量が上記操作手段による乗員の要求値に近付くように上記空調装置1の作動を制御する要求制御手段を構成することになる。
【0046】
また、本実施形態では、上記空調制御ユニット40内に、エンジン68の自動停止中に、上記ヒータコア64内におけるエンジン冷却水の温度を推定する温度推定部40aが設けられている。この温度推定部40aは、空調制御部40cによる上記空調装置1の作動状態(エアミックスダンパ63の作動状態(開度)や、車室内への送風空気の風量、乗員が操作により要求する車室内温度等)、上記外気温センサ75の検出値、及び、上記水温センサ76の検出値のうちの少なくとも1つに基づいて、ヒータコア64内におけるエンジン冷却水の温度を推定する。すなわち、推定温度は、エンジン68の停止からの時間経過に伴って変化(低下)するが、その変化の様子を、空調装置1の作動状態、外気温センサ75の検出値、水温センサ76の検出値と対応させて予め調べてあり、エンジン68の停止直後及び停止中に空調装置1の作動状態等に基づいて、エンジン68の停止からの時間を考慮して、ヒータコア64内におけるエンジン冷却水の温度を推定する。実際のヒータコア64内におけるエンジン冷却水の温度は、ヒータコア64の部位によって大きく異なっているが、上記推定温度はヒータコア64内全体のエンジン冷却水の平均的な温度と見做すことができる。尚、ヒータコア64内におけるエンジン冷却水の温度を推定する代わりに、ヒータコア64の近傍におけるエンジン冷却水の温度を推定するようにしてもよい。
【0047】
さらに、上記空調制御ユニット40内には、エンジン68の自動停止中に、上記温度推定部40aにより推定された推定温度に基づいて、上記エンジン制御ユニット20によるエンジン68の再始動の開始時期を制御する再始動制御部40bが設けられている。具体的には、再始動制御部40bは、上記所定のエンジン再始動条件が成立しない状態で、上記推定温度が所定の下限温度を下回った場合に、該下限温度を下回った時点から所定時間が経過した時点で、エンジン制御ユニット20に対しエンジン再始動信号を出力する。以下、エンジン68の自動停止開始から上記推定温度が上記下限温度を下回った時期(所定時期に相当)までの期間を特定期間という。
【0048】
上記所定の下限温度は、上記推定温度が該下限温度を下回った場合に空調性能が低下しすぎて乗員に不快感を与えるような値に設定しておく。また、上記所定時間は、上記推定温度が所定の下限温度を下回った時点で乗員に不快感を与えたとしても、乗員が或る程度我慢できるような時間(例えば0を超え20秒以下)に設定する。この所定時間は、外気温センサ75の検出値に応じて変更するようにしてもよい。つまり、外気温度が低いほど所定時間を短くする。
【0049】
ここで、空調制御部40cは、上述の如く、エンジン68の自動停止中においても、車室内温度又は吹出口からの吹出風量を、車室内温度設定スイッチ73b又は風量切換スイッチ73fによる要求値に近付けるように空調装置1の作動制御を行うが、上記特定時期を過ぎると(上記推定温度が上記下限温度を下回ると)、空調性能の低下により乗員の要求値に近付けることは困難になる。このため、乗員は、車室内温度設定スイッチ73b又は風量切換スイッチ73fにより車室内温度又は吹出口からの吹出風量を変更操作する可能性が高くなる。
【0050】
このように上記特定期間を過ぎて変更操作されかつ該変更操作後にエンジン68が再始動した場合、空調制御部40cは、車室内温度又は吹出口からの吹出風量を、該変更操作された乗員の要求値ではなくて、エンジン自動停止直前における乗員の要求値に近付くように空調装置1の作動制御を変更する。すなわち、車室内温度又は吹出風量の目標値を、上記変更操作された乗員の要求値からエンジン自動停止直前における乗員の要求値に変更する。このことで、空調制御部40cは、エンジン68の自動停止中に上記変更操作がありかつ該変更操作後にエンジン68が再始動した場合に、車室内への送風空気の温度又は風量が、エンジン自動停止直前における乗員の要求値に近付くように空調装置1の作動制御を変更する変更制御手段を構成することになる。尚、車室内温度又は吹出風量が、エンジン再始動直前における乗員の要求値とエンジン自動停止直前における乗員の要求値との間の値に近付くように空調装置1の作動制御を変更する(車室内温度又は吹出風量の目標値を、エンジン再始動直前における乗員の要求値とエンジン自動停止直前における乗員の要求値との間の値に変更する)ようにしてもよい。例えば上記特定期間においても変更操作があった場合には、その変更操作された乗員の要求値が、エンジン再始動直前における乗員の要求値とエンジン自動停止直前における乗員の要求値との間の値である場合(そのようなることが多い)には、その特定期間に変更操作された乗員の要求値に近付くように空調装置1の作動制御を変更するようにしてもよい。
【0051】
上記空調制御部40cは、エンジン68が再始動した場合において上記空調装置1の作動制御を変更したときには、上記表示部81による表示を、該空調装置1の作動制御の変更に対応して変更する。すなわち、空調制御部40cは、表示部81による表示を、上記変更操作された乗員の要求値から、エンジン自動停止直前における乗員の要求値に変更する。このことで、空調制御部40cは、表示部81による表示を、上記変更制御手段による変更に対応して変更する表示変更手段を構成することになる。
【0052】
一方、エンジン68の自動停止中において上記特定期間のみに上記変更操作がありかつ該変更操作後にエンジン68が再始動した場合には、上記空調制御部40cによる上記空調装置1の作動制御の変更が、空調制御ユニット40内に設けた規制部40dにより規制されるようになっている。このことで、規制部40dは、エンジン68の自動停止中において上記特定期間のみに上記変更操作がありかつ該変更操作後にエンジン68が再始動した場合に、上記変更制御手段による上記空調装置1の作動制御の変更を規制する規制手段を構成することになる。
【0053】
このようにエンジン68の自動停止中において上記特定期間のみに上記変更操作がありかつ該変更操作後にエンジン68が再始動した場合には、空調制御部40cは、車室内温度又は吹出風量が該変更操作された乗員の要求値に近付くように空調装置1の作動を制御することになる。つまり、エンジン68が再始動しても、車室内温度又は吹出風量の目標値を、上記変更操作された乗員の要求値にしたままにする。
【0054】
ここで、上記特定期間は、空調性能が乗員に不快感を与える程度に低下していない期間であるため、特定期間における変更操作は、空調性能の低下に起因したものではなく、空調性能が十分であったとしても乗員が変更したかった温度又は風量であると考えられる。したがって、特定期間のみに変更操作があった場合には、規制部40dにより空調装置1の作動制御の変更を規制して、車室内温度又は吹出風量を乗員が真に要求する温度又は風量に近付けるようにする。
【0055】
一方、特定期間を過ぎて変更操作があった場合には、この変更操作は、空調性能の低下により乗員が不快感を感じたことに起因して行われた可能性が高く、このことから、エンジン68の再始動により空調性能が復帰した状態で、車室内温度又は吹出風量が、特定期間を過ぎてからの乗員の要求値に近付くように空調装置1の作動を制御すると、空調が効きすぎて、乗員は再変更操作を行う必要が生じる。しかし、本実施形態では、車室内温度又は吹出風量が、エンジン自動停止直前における乗員の要求値に近付くように空調装置1の作動を制御するので、空調の効きすぎにより乗員に不快感を与えるようなことはない。
【0056】
ここで、エンジン68の自動停止中において上記特定期間に車室内温度又は吹出口からの吹出風量が変更操作された場合には、温度推定部40aは、該変更操作後において、上記空調制御ユニット40の空調制御部40cによる該変更操作後の上記乗員の要求値に対応した上記空調装置1の作動状態(特にエアミックスダンパ63の作動状態(開度))に基づいて、ヒータコア64内におけるエンジン冷却水の温度を推定する。そして、再始動制御部40bは、変更操作がなかった場合と同様に、上記推定温度が上記所定の下限温度を下回った場合に、該下限温度を下回った時点から上記所定時間が経過した時点で、エンジン制御ユニット20に対しエンジン再始動信号を出力する。
【0057】
次に、上記エンジン制御ユニット20及び空調制御ユニット40の一連の制御動作を、図6のフローチャートに基づいて説明する。
【0058】
最初のステップS1で、各種センサやスイッチ等からデータを入力し、ステップS2で、エンジン停止条件が成立したか否かを判定する。このステップS2の判定がYESである場合には、ステップS3に進んで、エンジン68を停止させ、次のステップS4で、ヒータコア64内におけるエンジン冷却水の温度を推定する。
【0059】
上記ステップS4の後は、ステップS5で、上記推定温度が上記所定の下限温度を下回ったか否か(特定期間を過ぎたか否か)を判定する。このステップS5の判定がNOである場合には、ステップS6に進んで、車室内温度又は吹出口からの吹出風量の変更操作が有ったか否かを判定する。
【0060】
上記ステップS6の判定がYESである場合には、ステップS7に進んで、フラグFを1にセットし、しかる後にステップS10に進む。このフラグFは、変更操作があったか否かを示すとともに、変更操作があった場合、変更操作が特定期間にあったのか、又は特定期間を過ぎてからあったのかを示すものであり、特定期間に1回でも変更操作があれば1にセットされ、特定期間を過ぎてから1回でも変更操作があれば2にセットされる(特定期間に1にセットされていても、特定期間を過ぎてから変更操作があれば、1から2に変更される)。
【0061】
一方、ステップS6の判定がNOである場合には、ステップS8に進み、フラグFが1であるか否かを判定し、このステップS8の判定がYESである場合には、そのままステップS10に進む一方、ステップS8の判定がNOである場合には、ステップS9に進んで、フラグFを0にセットし、しかる後にステップS10に進む。
【0062】
上記ステップS10では、乗員の要求値に対応して空調制御を行う。つまり、車室内への送風空気の温度又は風量が乗員の要求値に近付くように、エアミックスダンパ63の開度及び送風機61の送風量を制御する。尚、エンジン68の運転中及び自動停止中に関係なく、車室内温度又は吹出口からの吹出風量の変更操作が有った場合には、該変更操作後の乗員の要求値に対応した空調制御を行う。このステップS10の後はリターンする。
【0063】
一方、上記ステップS5の判定がYESである場合には、ステップS11に進んで、車室内温度又は吹出口からの吹出風量の変更操作が有ったか否かを判定する。このステップS11の判定がYESである場合には、ステップS12に進んで、フラグFを2にセットし、しかる後にステップS10に進む。一方、ステップS11の判定がNOである場合には、そのままステップS10に進む。つまり、特定期間を過ぎて変更操作がない場合には、フラグFは、現在セットされている値が維持される(特定期間に変更操作がなかった場合には0のままとされ、特定期間に変更操作があった場合には1のままとされ、特定期間を過ぎてから一度でも変更操作があってフラグFが2にセットされていた場合には、2のままとされる)。
【0064】
尚、図6のフローチャートでは省略しているが、ステップS5の判定がYESになると、別途、上記所定時間をカウントするタイマーがセットされてタイマーカウントが始まり、そのタイマーカウントが終了すると、空調制御ユニット40からエンジン制御ユニット20に対しエンジン再始動信号が出力され、エンジン停止条件が成立しなくなる。
【0065】
上記エンジン停止条件が成立しないで上記ステップS2の判定がNOである場合(空調制御ユニット40からエンジン制御ユニット20へエンジン再始動信号が出力された場合を含む)には、ステップS13に進んで、エンジン運転を許可し、しかる後にステップS14に進んで、フラグFが0であるか否かを判定する。
【0066】
上記ステップS14の判定がYESである場合には、そのままステップS10に進む一方、ステップS14の判定がNOである場合には、ステップS15に進んで、フラグFが1であるか否かを判定する。
【0067】
上記ステップS15の判定がNOである場合(つまりフラグF=2の場合であって、上記特定期間を過ぎてから車室内温度又は吹出風量の変更操作が1回でもあった場合)には、ステップS16に進んで、車室内温度又は吹出風量を、エンジン自動停止直前における乗員の要求値に近付くように空調装置1の作動制御を変更するとともに、表示部81による表示を、該空調装置1の作動制御の変更に対応して変更する。そして、ステップS17で、フラグFを0にセットし、しかる後にステップS10に進む。一方、ステップS15の判定がYESである場合には、上記ステップS17に進み、しかる後にステップS10に進む。
【0068】
上記の制御動作により、エンジン68が自動停止すると、温度推定部40aにて、ヒータコア64内におけるエンジン冷却水の温度が推定される。この推定温度は、図7に示すように、エンジン68の停止からの時間経過に伴って低下していく。そして、上記所定の再始動条件が成立しない状態で、上記推定温度が所定の下限温度Tw1を下回ると、該下回った時点(A点)から所定時間t1が経過した時点で、エンジン68が再始動する。これにより、推定温度が所定の下限温度Tw1を下回って乗員に不快感を与えるような温度になったときには、そのときから所定時間t1が経過した時点で、エンジン68が再始動する。
【0069】
そして、上記推定温度が所定の下限温度Tw1を下回ってから所定時間t1が経過するまでの間に、乗員は車室内温度又は吹出口からの吹出風量の変更操作を行う可能性があり、このような変更操作が有った場合には、車室内温度又は吹出風量が、その変更操作された乗員の要求値に近付くように空調装置1の作動制御が行われる。その後、エンジン68が再始動すると、車室内温度又は吹出風量が、上記変更操作された乗員の要求値ではなくて、エンジン自動停止直前における乗員の要求値に近付くように空調装置1の作動制御が変更されるとともに、表示部81による表示が該空調装置1の作動制御の変更に対応して変更される。例えば、エンジン自動停止直前の車室内温度の要求値が25℃(表示部81による表示も25℃)であり、変更操作により30℃に変更された(表示部81による表示も30℃に変更される)場合において、エンジン68が再始動すると、車室内温度の目標値が30℃ではなくて25℃とされる(表示部81による表示も25℃とされる)。乗員が30℃に変更したのは、空調性能(暖房能力)の低下が要因である可能性が高く、エンジン68の再始動後において目標値を30℃にしたままでは、今度は空調が効きすぎて、乗員は再操作をしなければならなくなるが、本実施形態では、元の25℃にするので、空調の効きすぎにより乗員に不快感を与えることがなく、乗員に再操作の手間をかけさせないようにすることができる。
【0070】
一方、エンジン68の停止中において上記特定期間に車室内温度又は吹出口からの吹出風量の変更操作が有った場合には、車室内温度又は吹出風量が、その変更操作された乗員の要求値に近付くように空調装置1の作動制御が行われる。また、この空調装置1の作動状態に基づいて、ヒータコア64内におけるエンジン冷却水の温度が推定される。ここで、乗員が寒さを感じて車室内温度を上げると、エアミックスダンパ63の開度が大きくなってヒータコア64を通過する空気量が多くなるので、図7に一点鎖線で示すように、変更操作が無かった場合に比べて推定温度が低くなり、これにより、特定期間の終了時点は、A点からB点となり、このB点から所定時間t1が経過した時点で、エンジン68が再始動することになる。
【0071】
上記特定期間の変更操作後において、上記特定期間を過ぎて(B点を過ぎて)再度の変更操作が有りかつ該再変更操作後にエンジン68が再始動した場合には、上記と同様に空調装置1の作動制御が変更される。一方、上記変更操作後における特定期間にエンジン68が再始動した場合、又は、特定期間を過ぎても再度の変更操作がなく、そのままエンジン68が再始動した場合には、空調装置1の作動制御の変更が規制され、上記特定期間に変更操作された乗員の要求値に近付くように空調装置1の作動制御が行われる。これにより、車室内温度又は吹出風量を乗員が真に要求する温度又は風量に近付けるようにすることができる。
【0072】
尚、上記実施形態では、エンジン68の自動停止中において特定期間のみに車室内温度又は吹出口からの吹出風量の変更操作が有りかつ該変更操作後にエンジン68が再始動した場合には、空調装置1の作動制御の変更を規制するようにしたが、特定期間のみに車室内温度又は吹出風量の変更操作が有りかつ該変更操作後にエンジン68が再始動した場合でも、車室内温度又は吹出口からの吹出風量を、エンジン自動停止直前における乗員の要求値、又は、エンジン再始動直前における乗員の要求値とエンジン自動停止直前における乗員の要求値との間の値(例えば、特定期間に2回の変更操作があって次第に車室内温度や吹出風量が大きくされた場合には、1回目の変更操作による要求値)に近付くように上記空調装置の作動制御を変更するようにしてもよい。
【0073】
また、上記実施形態では、温度推定部40aが、ヒータコア64内におけるエンジン冷却水の温度を推定するようにしたが、エバポレータ62内又はその近傍における冷媒の温度を推定するようにしてもよい。この推定は、空調装置1の作動状態、外気温センサ75の検出値、及び、コンプレッサ65の冷媒吐出口の近傍における冷媒の温度を検出する冷媒温度センサの検出値のうちの少なくとも1つに基づいて行えばよい。そして、再始動制御部40bが、上記冷媒の推定温度に基づいて、エンジン制御ユニット20によるエンジン68の再始動を開始させるようにする。
【0074】
ここで、ヒータコア64内又はその近傍におけるエンジン冷却水の温度は、エンジン68の自動停止中に時間経過に伴って低下するが、エバポレータ62内又はその近傍における冷媒の温度は、エンジン68の自動停止中に時間経過に伴って上昇するので、上記冷媒の推定温度が所定の上限温度を上回った場合に、該上限温度を上回った時点から所定時間(外気温センサ75の検出値に応じて変更してもよい)が経過した時点で、エンジン68の再始動を開始させるようにする。
【0075】
さらに、空調制御ユニット40からエンジン制御ユニット20へのエンジン再始動信号の出力は、エンジン冷却水や冷媒の推定温度によらずに、例えばエンジン68の自動停止開始からの経過時間で行うようにしてもよい。或いは、ヒータコア64やエバポレータ62の下流側に空気の温度を検出する温度センサを配設して、その温度センサによる検出値に基づいて、エンジン再始動信号を出力するようにしてもよい。或いは、空調制御ユニット40からエンジン制御ユニット20へのエンジン再始動信号を出力しないものであっても本発明を適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明は、所定のエンジン停止条件が成立したときにエンジンを自動停止させるとともに、その後に所定のエンジン再始動条件が成立したときに、該自動停止させたエンジンを自動で再始動させるようにした車両に搭載された空調装置の作動を制御する車両用空調制御装置に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明の実施形態に係る車両用空調制御装置としての空調制御ユニットを含むアイドルストップシステムの構成を示すブロック図である。
【図2】車両用空調制御装置が制御する空調装置の構成を示す概略図である。
【図3】エアミックスダンパの開度と、車室内温度設定スイッチによる車室内温度の要求値から、内気温センサにより検出された車室内温度を引いた値ΔTとの関係を示すマップである。
【図4】送風機の送風量と、車室内温度設定スイッチによる車室内温度の要求値から、内気温センサにより検出された車室内温度を引いた値ΔTとの関係を示すマップである。
【図5】エアミックスダンパの開度の補正量と、水温センサにより検出されたエンジン冷却水の温度との関係を示すマップである。
【図6】エンジン制御ユニット及び空調制御ユニットの一連の制御動作を示すフローチャートである。
【図7】エンジン停止後におけるヒータコア内のエンジン冷却水の推定温度の変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0078】
1 空調装置
20 エンジン制御ユニット(アイドルストップ制御手段)
31 ウォータポンプ(熱伝達媒体供給手段)
40 空調制御ユニット(車両用空調制御装置)
40c 空調制御部(要求制御手段)(変更制御手段)(表示変更手段)
40d 規制部(規制手段)
62 エバポレータ(冷却用熱交換器)
64 ヒータコア(加熱用熱交換器)
65 コンプレッサ(熱伝達媒体供給手段)
68 エンジン
73b 車室内温度設定スイッチ(操作手段)
73f 風量切換スイッチ(操作手段)
81 表示部(表示手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、所定のエンジン停止条件が成立したときに該エンジンを自動停止させるとともに、その後に所定のエンジン再始動条件が成立したときに、該自動停止させたエンジンを自動で再始動させるアイドルストップ制御手段とを備えた車両に搭載された空調装置の作動を制御する車両用空調制御装置であって、
上記空調装置は、熱伝達媒体が流れる熱交換器と、上記エンジンにより駆動されて該熱伝達媒体を該熱交換器へ供給する熱伝達媒体供給手段とを有していて、該熱交換器を通過する空気を、該熱交換器へ供給された熱伝達媒体との熱交換によって加熱又は冷却して上記車両の車室内へ送風することで該車室内の空調を行うように構成されているとともに、上記車両の乗員が上記送風空気の温度又は風量を該乗員の要求値に設定操作可能とする操作手段を更に有し、
上記エンジンの自動停止中に、上記送風空気の温度又は風量が上記操作手段による乗員の要求値に近付くように上記空調装置の作動を制御する要求制御手段と、
上記エンジンの自動停止中に上記操作手段により上記送風空気の温度又は風量の変更操作がありかつ該変更操作後に上記アイドルストップ制御手段によりエンジンが再始動した場合に、上記送風空気の温度又は風量が、上記エンジン自動停止直前における上記乗員の要求値、又は、上記エンジン再始動直前における上記乗員の要求値と上記エンジン自動停止直前における上記乗員の要求値との間の値に近付くように上記空調装置の作動制御を変更する変更制御手段とを備えていることを特徴とする車両用空調制御装置。
【請求項2】
請求項1記載の車両用空調制御装置において、
上記エンジンの自動停止中において該エンジン自動停止開始から所定時期までの特定期間のみに上記変更操作がありかつ該変更操作後に上記アイドルストップ制御手段によりエンジンが再始動した場合に、上記変更制御手段による上記空調装置の作動制御の変更を規制する規制手段を更に備えていることを特徴とする車両用空調制御装置。
【請求項3】
請求項1記載の車両用空調制御装置において、
上記空調装置は、車室内に設けられた、上記操作手段による乗員の要求値を表示する表示手段を更に有し、
上記エンジンが再始動した場合において、上記変更制御手段により上記空調装置の作動制御が変更されたときに、上記表示手段による表示を、該変更制御手段による変更に対応して変更する表示変更手段を更に備えていることを特徴とする車両用空調制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−299960(P2009−299960A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−153290(P2008−153290)
【出願日】平成20年6月11日(2008.6.11)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】