説明

車両用空調装置

【課題】蒸発器近傍の湿度を最適なタイミングで適切に制御できるようにし、カビの繁殖を抑制するとともに、除菌も可能とした車両用空調装置を提供する。
【解決手段】熱交換器としての蒸発器近傍の湿度を取得する熱交換器近傍湿度取得手段と、取得された湿度を記憶する湿度記憶手段と、現在の熱交換器近傍湿度と予め設定された重み係数により重み付けされた過去の熱交換器近傍湿度に基づいて履歴参照湿度を算出する履歴参照湿度算出手段と、該履歴参照湿度と予め設定された所定値Aとを比較することにより熱交換器の濡れ状態を判定する第1熱交換器状態判定手段とを有し、空調オフ時または車両駐車時に、第1熱交換器状態判定手段による判定結果に基づいて、熱交換器を乾燥させる熱交換器乾燥手段、熱交換器近傍のカビ、細菌などを除菌するための熱交換器除菌手段のうち少なくとも一つの運転を実行することを特徴とする車両用空調装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載される熱交換器としての蒸発器近傍のカビの繁殖を防ぎ、車室内へ吹き出される空気を清浄化して乗員の快適性を向上するようにした車両用空調装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、諸条件に基づいて内外気を自動的に切り換える技術が広く知られており、たとえば特許文献1では外気汚染度に対応してこれを行なっている。これは、外気の汚染度が高い場合には、自動的に内気循環モードにすることにより乗員の快適性を向上しようとするものである。
【0003】
ところで、車両用空調装置の場合、冷凍回路内に設けられ車室内へと通じる空気通路内に配置された蒸発器が湿ることにより、蒸発器表面や蒸発器近傍にカビや細菌が付着し、これらカビや細菌が原因となって悪臭が発生するおそれがある。カビの繁殖を抑えるには、カビが繁殖するのに必要な水分を乾燥により低く抑えなければいけない。したがって、外気の汚染度のみならず、蒸発器の湿り度合いによっても内外気切替制御およびブロワ風量制御を適切に行う必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−72353号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本発明の課題は、上記のような要求を満たすために、蒸発器近傍の湿度を最適なタイミングで適切に制御できるようにし、カビの繁殖を抑制するとともに、除菌も可能とした車両用空調装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明では、空気通路内に配置される熱交換器としての蒸発器近傍の湿度を湿度センサもしくは外気空気温湿度、蒸発器出口空気温度などを用いて予測し、その湿度を例えば一定間隔で記憶装置に記憶し、記憶された複数の過去の湿度とリアルタイムで測定された湿度を用いて、内外気切替制御することで車室内を換気し、カビや細菌が原因となって発生する悪臭を抑制するようにしている。
【0007】
すなわち、本発明に係る車両用空調装置は、車室外空気の取り入れと車室内空気の取り入れとを切り換える切換手段と、車室内に吹き出す空気を冷却する熱交換器とを備えた車両用空調装置において、
前記熱交換器近傍の湿度を検知または推定する熱交換器近傍湿度取得手段と、該熱交換器近傍湿度取得手段によって取得された湿度を記憶する湿度記憶手段と、現在の熱交換器近傍湿度と予め設定された重み係数により重み付けされた過去の熱交換器近傍湿度に基づいて履歴参照湿度を算出する履歴参照湿度算出手段と、該参照湿度算出手段により産出された履歴参照湿度と予め設定された所定値Aとを比較することにより前記熱交換器の濡れ状態を判定する第1熱交換器状態判定手段とを有し、
空調オフ時または車両駐車時に、前記第1熱交換器状態判定手段による判定結果に基づいて、前記熱交換器および熱交換器周囲を乾燥させる熱交換器乾燥手段、熱交換器近傍のカビ、細菌などを除菌するための熱交換器除菌手段のうち少なくとも一つの運転を実行することを特徴とするものからなる。上記熱交換器としては、とくに、冷凍回路内に設けられ車室内へと通じる空気通路内に配置された蒸発器が挙げられる。
【0008】
また、本発明は、車室外空気の取り入れと車室内空気の取り入れとを切り換える切換手段と、車室内に吹き出す空気を冷却する熱交換器とを備えた車両用空調装置において、
車室外空気である外気の温度、湿度を取得する外気温湿度取得手段と、車室内空気である内気の温度、湿度を取得する内気温湿度取得手段と、内外気導入モードに応じ外気温湿度取得手段または内気温湿度取得手段の情報に基づいて吸い込み空気の露点温度を推定する吸い込み空気露点温度推定手段と、前記熱交換器の出口空気の温度を検知する熱交換器出口空気温度検知手段と、少なくとも前記吸い込み空気露点温度推定手段により推定された吸い込み空気露点温度と前記熱交換器出口空気温度検知手段により検知された熱交換器出口空気温度とを比較することにより前記熱交換器の濡れ状態を判定する第2熱交換器状態判定手段とを有し、
空調オフ時または車両駐車時に、前記第2熱交換器状態判定手段による判定結果に基づいて、前記熱交換器および熱交換器周囲を乾燥させる熱交換器乾燥手段、熱交換器近傍のカビ、細菌などを除菌するための熱交換器除菌手段のうち少なくとも一つの運転を実行することを特徴とする車両用空調装置も提供する。
【0009】
前述の第1熱交換器状態判定手段を有する本発明に係る車両用空調装置においては、さらに、車室外空気である外気の温度、湿度を取得する外気温湿度取得手段と、車室内空気である内気の温度、湿度を取得する内気温湿度取得手段と、内外気導入モードに応じ外気温湿度取得手段または内気温湿度取得手段の情報に基づいて吸い込み空気の露点温度を推定する吸い込み空気露点温度推定手段と、前記熱交換器の出口空気の温度を検知する熱交換器出口空気温度検知手段と、少なくとも前記吸い込み空気露点温度推定手段により推定された吸い込み空気露点温度と前記熱交換器出口空気温度検知手段により検知された熱交換器出口空気温度とを比較することにより前記熱交換器の濡れ状態を判定する第2熱交換器状態判定手段とを有するとともに、
前記第1熱交換器状態判定手段および前記第2熱交換器状態判定手段の双方の手段による判定結果を比較することにより前記熱交換器の濡れ状態を判定する第3熱交換器状態判定手段を有し、
空調オフ時または車両駐車時に、前記第3熱交換器状態判定手段による判定結果に基づいて、前記熱交換器および熱交換器周囲を乾燥させる熱交換器乾燥手段、熱交換器近傍のカビ、細菌などを除菌するための熱交換器除菌手段のうち少なくとも一つの運転を実行することを特徴とする構成を採用できる。
【0010】
このような本発明に係る車両用空調装置においては、現在の熱交換器近傍湿度と予め設定された重み係数により重み付けされた過去の熱交換器近傍湿度に基づいて算出された履歴参照湿度と、予め設定された所定値Aとが、第1熱交換器状態判定手段により比較されて熱交換器の濡れ状態が判定される。また、上記第2熱交換器状態判定手段によっても熱交換器の濡れ状態を判定することができる。さらに、第1熱交換器状態判定手段および第2熱交換器状態判定手段の双方の手段による判定結果を比較する第3熱交換器状態判定手段によっても熱交換器の濡れ状態を判定することができる。そして、この判定結果に基づいて、空調オフ時または車両駐車時の最適なタイミングにて、熱交換器乾燥手段、熱交換器除菌手段のうち少なくとも一つの運転が実行される。熱交換器乾燥手段の運転実行により熱交換器および熱交換器周囲が乾燥されてカビの繁殖が抑制され、熱交換器除菌手段の運転実行により除菌も可能となる。カビの繁殖抑制、除菌により、それらが原因となって発生する悪臭が抑制される。
【0011】
上記熱交換器乾燥手段および上記熱交換器除菌手段のうち少なくとも一つの運転は、乾燥時間判定手段または除菌時間判定手段により判定された適切な時間だけ実行するようにすることができる。
【0012】
例えば、熱交換器乾燥手段および熱交換器除菌手段のうち少なくとも一つの運転を、少なくとも上記履歴参照湿度が上記所定値Aよりも低い所定値B以下になるまで、あるいは予め定められた一定時間、実行するようにすることができる。あるいは、熱交換器乾燥手段および熱交換器除菌手段のうち少なくとも一つの運転を、少なくとも上記熱交換器出口空気温度が上記吸い込み空気露点温度よりも高い温度になるまで、あるいは予め定められた一定時間、実行するようにすることができる。所定値Bは、環境条件、例えば季節による平均温湿度に応じて設定することが可能である。また、一定の実行時間は、車種や空調ユニットのサイズに応じて変更することが可能である。
【0013】
上記熱交換器乾燥手段としては、単にブロワをオンにして熱交換器に風を送るだけの手段に構成することもできるし、外気および車室内空気のうちより湿度が低く乾燥した空気を選択的に熱交換器に供給することにより該熱交換器を乾燥させる手段から構成することもできる。あるいは、上記熱交換器乾燥手段として、熱交換器を加熱することにより該熱交換器を乾燥させるから構成することもできる。加熱については、圧縮機吐出冷媒ガス(ホットガス)やヒートポンプを利用して、熱交換器としての蒸発器を直接加熱することで乾燥することもできるし、蒸発器の下流側に配置されているヒータコアの熱を利用して、蒸発器を加熱することで乾燥することもできる。
【0014】
上記熱交換器除菌手段では、上記熱交換器を加熱することにより、あるいはオゾン、イオン、光触媒、紫外線の少なくとも一つを用いて上記熱交換器を除菌するようにできる。例えば、ホットガス、ヒータコアの熱を利用して熱交換器としての蒸発器を高温に加熱し、除菌することができる。また、オゾン洗浄装置により蒸発器を除菌することもできる。また、イオン空気浄化装置により蒸発器を除菌することもできる。また、光触媒を含んだ蒸発器もしくは、光触媒を蒸発器に噴霧し、紫外線を照射することで除菌することもできる。さらに、紫外線を直接、蒸発器に照射することで除菌することもできる。
【0015】
また、空調オフ時か否かまたは車両駐車時か否かは、例えば、車両エンジンのオン、オフまたは空調装置のオン、オフによって判断することができる。
【0016】
また、上記吸い込み空気露点温度を推定するために必要な外気湿度は、外気湿度センサによって検知するようにしてもよいし、車両に搭載された外部情報受信装置を介して車両外部から取得するするようにすることも可能である。外部情報としては、車両に搭載された受信装置を介して気象衛星、気象庁、電力会社などから取得できる気象データ(降水量、各地域の気温、湿度など)を参照することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る車両用空調装置によれば、熱交換器近傍の履歴参照湿度または/および吸い込み空気露点温度と熱交換器出口空気温度によって熱交換器の湿り具合を判定し、乾燥モードまたは/および除菌モードの運転を空調オフ時または車両駐車時に実行することで、熱交換器近傍のカビ、細菌の発生、繁殖を抑制することができる。それにより、今まで課題となっていたカビ、細菌が原因で発生する悪臭を防ぐことができ、空調装置使用時に乗員の快適性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施態様に係る車両用空調装置の要部概略構成図である。
【図2】図1の装置の制御の一例を示すフローチャートである。
【図3】図1の装置の制御の別の一例を示すフローチャートである。
【図4】図1の装置の制御のさらに別の一例を示すフローチャートである。
【図5】図1の装置の制御の一例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明の実施の形態例について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の一実施態様に係る車両用空調装置の要部における、主として機械的な構成部分を示しており、この車両用空調装置は、車室内へと温調空気を送る空気通路1と冷媒が循環される冷凍回路2(蒸気圧縮式冷凍サイクル)とを有している。冷凍回路2には、駆動源としての車両のエンジン(図示略、但し、電動モータ等、他の駆動源も可能である)により電磁クラッチ3等を介して駆動され、冷媒を圧縮する可変容量圧縮機4、圧縮機4から吐出される高温、高圧の冷媒と外部空気との熱交換により冷媒を冷却する放熱器5(例えば、凝縮器)と、放熱器5から流出した冷媒を断熱膨張させる膨張手段6(膨張弁)と、膨張手段6からの冷媒を蒸発させ、空気通路1内に配置されて、送られてくる空調風を冷却する熱交換器としての蒸発器7とを備えており、蒸発器7から流出した冷媒は、圧縮機4に送られて再び圧縮される。空気通路1の入口側には、取り入れ空気を、外気導入口8側から導入される車室外空気(外気)9と内気導入口10側から導入される車室内空気(内気)11とに切り換える切換手段としての内外気切換ダンパ12が設けられている。導入される空気は、ブロワ13によって吸い込まれ、蒸発器7に向けて供給され、蒸発器7による冷媒との熱交換により冷却される。蒸発器7を通過した空気は、必要に応じてヒータコア(図示略)を通過あるいはバイパスされ、温調空気が、選択された吹出口を通して車室内へと送られる。
【0020】
本実施態様では、蒸発器7の出口側に、蒸発器出口空気温湿度センサ14が設けられており、蒸発器出口空気温湿度センサ14によって取得された湿度データは湿度記憶手段によって記憶されるようになっており、湿度記憶手段は空調制御装置15内に組み込まれている。本実施態様では、蒸発器近傍湿度は、蒸発器出口空気温湿度センサ14の湿度センサ機能を介して取得されるようになっているが、湿度センサレスの場合には、蒸発器近傍の湿度を推定する手段により湿度を取得することが可能である。蒸発器近傍の湿度を推定するためには、例えば、以下の環境情報を取得する。
(1)車両側情報 (外気温度、車室内温度、吸入空気温度など)
(2)外部情報(降水量、各地域気温・湿度など)
取得した蒸発器近傍湿度は、一時的に湿度データを記憶できる湿度記憶手段に記憶される。記憶した複数の過去の湿度とリアルタイムで取得した湿度を用いて、後述の如く履歴参照湿度を推定し、熱交換器乾燥制御手段または/および熱交換器除菌手段の運転実行を行う。
【0021】
なお、上記実施態様では、蒸気圧縮式冷凍サイクルはフロン系冷媒を適用しているが、二酸化炭素冷媒としてもよい。また、上記蒸気圧縮式冷凍サイクルでは、圧縮機の駆動をコントロールできるクラッチを装備しているが、クラッチレスとしてもよい。また、上記圧縮式冷凍サイクルの膨張手段としては、機械式膨張弁の他、電子膨張弁あるいは温度式膨張弁あるいは差圧式膨張弁などを用いてもよい。また、上記の蒸気圧縮式冷凍サイクルでは、外部制御信号により圧縮機の容量を変化させることのできる外部可変容量圧縮機としているが、固定容量圧縮機であってもよい。また、蒸気圧縮式冷凍サイクルの圧縮機として、エンジンにより駆動するもの、あるいは電動モータにより駆動するもの、さらには両駆動源により選択的にあるいは同時に駆動可能なハイブリッド式圧縮機であってもよい。さらに、湿度を推定するための外部情報には、車両に搭載された受信装置を介して気象衛星、気象庁、電力会社などから取得できる気象データ(降水量、各地域の気温、湿度など)を参照することができる。
【0022】
次に、本実施態様における制御について、図2〜図4に示した各制御フロー図、図5に示した制御ブロック図も参照しながら説明する。
【0023】
履歴参照湿度算出手段(蒸発器近傍に湿度センサを有する場合)
車両用空調装置より得られる情報として、現在の蒸発器近傍湿度(Hn)と記憶手段15に記憶された複数の過去の蒸発器近傍湿度(Hn-1、Hn-2、・・・、H1 のうち少なくとも1つ)を参照して、蒸発器の履歴参照湿度(He)を算出する。
He=f(Hn,Hn-1,H n-2,・・・,H1
上式の詳細を下記数1に示す。
【0024】
【数1】

【0025】
上記数1において、aは重み付けのための重み係数を示しており、重み係数aは、1>an >an-1 >an-2 >・・・>0を満たす。
【0026】
このように本発明において蒸発器近傍湿度の履歴を参照する目的は、過去の湿度を考慮することで過去に蒸発器近傍、蒸発器を含む空調ユニット内に蓄積された湿度を予測するためである。
【0027】
履歴参照湿度算出手段(蒸発器近傍に湿度センサ無しの場合)
車両用空調装置より得られる情報として、外気温度(Tamb)、車室内温度(Tin)、蒸発器出口空気温度(Teva)と、車両に搭載した受信装置より外部から得られる情報として、外気湿度(Hamb)を参照して、蒸発器近傍湿度(Hn)を推定し、蒸発器近傍の履歴参照湿度(He)を算出する。
Hn=f(Teva,Tamb,Tin,Hamb)
He=f(Hn,Hn-1,H n-2,・・・,H1)
【0028】
露点温度推定手段
外気温度(Tamb)、外気湿度(Hamb)、車室内温度(Tin)、車室内湿度(Hin)、インテーク信号(IS)により、吸い込み空気露点温度(Tdew)を推定する。
外気導入モードのときは、外気温度(Tamb)と外気湿度(Hamb)により吸い込み空気露点温度を推定する。
・Tdew=f(Tamb,Hamb)
内気導入モードのときは、車室内温度(Tin)と車室内湿度(Hin)により吸い込み空気露点温度を推定する。
・Tdew=f(Tin,Hin)
【0029】
蒸発器出口空気温度検知手段
例えば、蒸発器表面に設けられたフィンセンサより、蒸発器出口空気温度(Teva)を検知する。
【0030】
車両および空調装置状態判定手段
エンジンがオンもしくはオフであることより、駐車しているのか否かを判定する。
また、空調装置のオンもしくはオフであることより、空調を使用しているのか否かを判定する。
このようなエンジンないし空調装置のオンオフは、イグニッションスイッチの操作やエアコンスイッチの操作の他に、ワイヤレスリモコン等からの外部信号により行なわれる場合もある。
【0031】
第1熱交換器状態判定手段
履歴参照湿度算出手段により算出した履歴参照湿度(He)が所定値A以上のとき(He≧Aのとき)、熱交換器除菌手段を実行する。また、履歴参照湿度(He)が所定値A未満B以上のとき(A>He≧Bのとき)、熱交換器乾燥手段を実行する。さらに、熱交換器乾燥手段を実行している状態において、履歴参照湿度(He)が所定値A以上になったとき(He≧Aになったとき)、併せて熱交換器除菌手段も実行する。
【0032】
第2熱交換器状態判定手段
露点温度推定手段と蒸発器出口空気温度検知手段によって得られる、吸い込み空気露点温度(Tdew)と蒸発器出口空気温度(Teva)より下記条件のときに蒸発器が濡れているのか、乾燥しているのかを判断する。ここで、Xは正の所定値であり、エンジンオフ時または空調装置オフ時に、TdewとTevaの温度差が一定以上になったら熱交換器除菌手段および/または熱交換器乾燥手段を実行する為の最適値(例えばX=5)とする。
・Tdew≧Teva、かつTdew−Teva<X、かつ吸い込み空気湿度(外気導入モードの場合はHamb、内気導入モードの場合は Hin)が前記所定値A未満のとき、熱交換器除菌手段を実行する。
・Tdew≧Teva、かつTdew−Teva<X、かつ吸い込み空気湿度(外気導入モードの場合はHamb、内気導入モードの場合は Hin)が前記所定値A以上のとき、熱交換器乾燥手段を実行する。
・Tdew≧Teva、かつTdew−Teva≧Xのとき、熱交換器除菌手段および熱交換器乾燥手段を実行する。
【0033】
第3熱交換器状態判定手段
第3熱交換器状態判定手段では、第1、第2熱交換器状態判定手段より得られた結果を空調制御装置から取得し、それに基づいて熱交換器除菌手段、熱交換器乾燥手段、またはこれら双方を実行する。
・第1熱交換器状態判定手段でHe≧A、第2熱交換器状態判定手段でTdew<Tevaの場合、熱交換器除菌手段を実行する。
・第1熱交換器状態判定手段でHe<A、第2熱交換器状態判定手段でTdew≧Tevaの場合、熱交換器乾燥手段を実行する。
・第1熱交換器状態判定手段でHe≧A、第2熱交換器状態判定手段でTdew≧Tevaの場合、熱交換器除菌手段および熱交換器乾燥手段の双方を実行する。
【0034】
熱交換器乾燥手段
第1、第2熱交換器状態判定手段により、蒸発器が濡れていると判断し、空調がオフの時または駐車中のときに、以下のいずれかの方法で蒸発器を乾燥する。
(1)ブロワ13をオンにして、蒸発器に風を供給することで乾燥する。
(2)外気と内気でどちらが乾燥しているのか判断して、より乾燥している方の空気を選択的に蒸発器に供給することで乾燥する。
(3)圧縮機吐出冷媒ガス(ホットガス)やヒートポンプを利用して、蒸発器を直接加熱することで乾燥する。
(4)ヒータコアの熱を利用して、蒸発器を加熱することで乾燥する。
【0035】
熱交換器除菌手段
熱交換器状態判定手段により、蒸発器が濡れていると判断し、空調がオフの時または駐車中のときに、以下のいずれかの方法で蒸発器を除菌する。
(1)ホットガス、ヒータコアの熱を利用して蒸発器を高温に加熱し、除菌する。
(2)オゾン洗浄装置により蒸発器を除菌する。
(3)イオン空気浄化装置により蒸発器を除菌する。
(4)光触媒を含んだ蒸発器もしくは、光触媒を蒸発器に噴霧し、紫外線を照射することで除菌する。
(5)紫外線を直接、蒸発器に照射することで除菌する。
【0036】
乾燥時間判定手段および除菌時間判定手段
熱交換器乾燥手段または熱交換器除菌手段の実行時間を判定する。
実行時間の判定方法は、下記の方法のうち少なくとも一つを用いる。
(1)履歴参照湿度が所定値B(ただし、Bは前記所定値Aよりも小さい値)以下になるまで実行する。
(2)蒸発器出口空気温度が内外気露点温度より高い温度になるまで実行する。
(3)予め設定した一定時間(例えば、15分間程度)、実行する。この時間は、車両ごとの空調ユニットのサイズに応じて任意に設定できる。電気自動車など蓄電機能が搭載されているものは、使用電力量を数パーセント以内で実行できる時間に限ることが好ましい。
(4)電気自動車など電力を蓄えることのできる車両において、エンジン停止後または、乗車直前においても、上記(1)または(2)の判定条件で実施する。
なお、上記(1)における所定値Bは環境条件により変化させてもよい。例えば季節ごとの平均温湿度により設定できるものとする(例えば、冬季より夏季は所定値Bを低く設定する)。
【0037】
図2に制御フローの一例を示す。
・ステップS1:車両及び空調装置状態判定手段により、駐車中もしくは、空調を使用しているかどうかを判定する。
・ステップS2:ステップS1で駐車時もしくは空調オフ時と判定された場合、車両および外部よりデータ(Tamb、Hamb、Teva、Heva、H n 、H n-1、H n-2、・・・、H1、Tin、Hin)を読込む。
・ステップS3:履歴参照湿度算出手段により履歴参照湿度(He)を算出する。
・ステップS4:第1熱交換器状態判定手段により、蒸発器が結露しているのか否かを判定する。
・ステップS5、S6、S7:ステップS4で結露していると判定された場合、熱交換器乾燥手段もしくは熱交換器除菌手段の少なくとも一つの運転を行う。また、熱交換器乾燥手段、熱交換器除菌手段を実行する時間を乾燥時間判定手段および除菌時間判定手段により判定し、決定する。ステップS4で結露していないと判定された場合、ステップS1に戻る。
【0038】
図3に制御フローの別の一例を示す。
・ステップS11:車両及び空調装置状態判定手段により、駐車中もしくは、空調を使用しているかどうかを判定する。
・ステップS12:ステップS11で駐車時もしくは空調オフ時と判定された場合、車両および外部よりデータ(Tamb、Hamb、Tin、Hin、IS)を読込む。
・ステップS13:露点温度推定手段により吸い込み空気の露点温度(Tdew)を算出する。
・ステップS14:第2熱交換器状態判定手段により、蒸発器が結露しているのか否かを判定する。
・ステップS15、S16、S17:ステップS14で結露していると判定された場合、熱交換器乾燥手段もしくは熱交換器除菌手段の少なくとも一つの運転を行う。また、熱交換器乾燥手段、熱交換器除菌手段を実行する時間を乾燥時間判定手段および除菌時間判定手段により判定し、決定する。ステップS14で結露していないと判定された場合、ステップS11に戻る。
【0039】
図4に制御フローのさらに別の一例を示す。
・ステップS21:車両及び空調装置状態判定手段により、駐車中もしくは、空調を使用しているかどうかを判定する。
・ステップS22:ステップS21で駐車時もしくは空調オフ時と判定された場合、車両および外部よりデータ(Tamb、Hamb、Teva、Heva、H n 、H n-1、H n-2、・・・、H1、Tin、Hin、A、IS)を読込む。
・ステップS23:履歴参照湿度算出手段により履歴参照湿度(He)を算出する。
・ステップS24:第1熱交換器状態判定手段により、蒸発器が結露しているのか否かを判定する。
・ステップS25、S26:ステップS24で結露していないと判定された場合(He<A)、結露していると判定された場合(He≧A)、各状態判定結果をそれぞれ記憶手段に保存する。
・ステップS27、S28:露点温度推定手段により吸い込み空気の露点温度(Tdew)を算出する。
・ステップS29、S30:ステップS27、S28で算出されたデータ(Tdew)と、Tevaを読み込む。
・ステップS31、S32:第2熱交換器状態判定手段により、蒸発器が結露しているのか否かを判定する。
・ステップS33、S34、S35:ステップS31、S32での状態判定結果をそれぞれ記憶手段に保存する。このとき、ステップS31で結露していないと判定された場合、つまり、ステップS24で第1熱交換器状態判定手段により結露していないと判定され、かつ、ステップS31で第2熱交換器状態判定手段により結露していないと判定された場合、ステップS21に戻る。
・ステップS36:ステップS33、S34、S35で保存された状態判定結果を読み込む。
・ステップS37:第3熱交換器状態判定手段により、蒸発器の濡れ状態を判定する。
・ステップS38、S39、S40:ステップS37での状態判定結果に応じて、熱交換器乾燥手段もしくは熱交換器除菌手段、あるいはそれらの両方の運転を行う。また、熱交換器乾燥手段、熱交換器除菌手段を実行する時間を乾燥時間判定手段および除菌時間判定手段により判定し、決定する。図示例では、He≧A、Tdew<Tevaの場合、ステップS38で熱交換器除菌手段を実行し、He<A、Tdew≧Tevaの場合、ステップS39で熱交換器乾燥手段を実行し、He≧A、Tdew≧Tevaの場合、ステップS40で熱交換器乾燥手段と熱交換器除菌手段の両方の運転を実行する。その後、ステップS21に戻る。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、車室内に通じる空気通路内に蒸発器を配置したあらゆる車両用空調装置に適用できる。
【符号の説明】
【0041】
1 空気通路
2 冷凍回路
3 電磁クラッチ
4 圧縮機
5 放熱器
6 膨張手段
7 熱交換器としての蒸発器
8 外気導入口
9 車室外空気
10 内気導入口
11 車室内空気
12 切換手段としての内外気切換ダンパ
13 ブロワ
14 蒸発器出口空気温湿度センサ
15 空調制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車室外空気の取り入れと車室内空気の取り入れとを切り換える切換手段と、車室内に吹き出す空気を冷却する熱交換器とを備えた車両用空調装置において、
前記熱交換器近傍の湿度を検知または推定する熱交換器近傍湿度取得手段と、該熱交換器近傍湿度取得手段によって取得された湿度を記憶する湿度記憶手段と、現在の熱交換器近傍湿度と予め設定された重み係数により重み付けされた過去の熱交換器近傍湿度に基づいて履歴参照湿度を算出する履歴参照湿度算出手段と、該参照湿度算出手段により産出された履歴参照湿度と予め設定された所定値Aとを比較することにより前記熱交換器の濡れ状態を判定する第1熱交換器状態判定手段とを有し、
空調オフ時または車両駐車時に、前記第1熱交換器状態判定手段による判定結果に基づいて、前記熱交換器および熱交換器周囲を乾燥させる熱交換器乾燥手段、熱交換器近傍のカビ、細菌などを除菌するための熱交換器除菌手段のうち少なくとも一つの運転を実行することを特徴とする車両用空調装置。
【請求項2】
車室外空気の取り入れと車室内空気の取り入れとを切り換える切換手段と、車室内に吹き出す空気を冷却する熱交換器とを備えた車両用空調装置において、
車室外空気である外気の温度、湿度を取得する外気温湿度取得手段と、車室内空気である内気の温度、湿度を取得する内気温湿度取得手段と、内外気導入モードに応じ外気温湿度取得手段または内気温湿度取得手段の情報に基づいて吸い込み空気の露点温度を推定する吸い込み空気露点温度推定手段と、前記熱交換器の出口空気の温度を検知する熱交換器出口空気温度検知手段と、少なくとも前記吸い込み空気露点温度推定手段により推定された吸い込み空気露点温度と前記熱交換器出口空気温度検知手段により検知された熱交換器出口空気温度とを比較することにより前記熱交換器の濡れ状態を判定する第2熱交換器状態判定手段とを有し、
空調オフ時または車両駐車時に、前記第2熱交換器状態判定手段による判定結果に基づいて、前記熱交換器および熱交換器周囲を乾燥させる熱交換器乾燥手段、熱交換器近傍のカビ、細菌などを除菌するための熱交換器除菌手段のうち少なくとも一つの運転を実行することを特徴とする車両用空調装置。
【請求項3】
さらに、車室外空気である外気の温度、湿度を取得する外気温湿度取得手段と、車室内空気である内気の温度、湿度を取得する内気温湿度取得手段と、内外気導入モードに応じ外気温湿度取得手段または内気温湿度取得手段の情報に基づいて吸い込み空気の露点温度を推定する吸い込み空気露点温度推定手段と、前記熱交換器の出口空気の温度を検知する熱交換器出口空気温度検知手段と、少なくとも前記吸い込み空気露点温度推定手段により推定された吸い込み空気露点温度と前記熱交換器出口空気温度検知手段により検知された熱交換器出口空気温度とを比較することにより前記熱交換器の濡れ状態を判定する第2熱交換器状態判定手段とを有するとともに、
前記第1熱交換器状態判定手段および前記第2熱交換器状態判定手段の双方の手段による判定結果を比較することにより前記熱交換器の濡れ状態を判定する第3熱交換器状態判定手段を有し、
空調オフ時または車両駐車時に、前記第3熱交換器状態判定手段による判定結果に基づいて、前記熱交換器および熱交換器周囲を乾燥させる熱交換器乾燥手段、熱交換器近傍のカビ、細菌などを除菌するための熱交換器除菌手段のうち少なくとも一つの運転を実行することを特徴とする、請求項1に記載の車両用空調装置。
【請求項4】
前記熱交換器乾燥手段および前記熱交換器除菌手段のうち少なくとも一つの運転を、乾燥時間判定手段または除菌時間判定手段により判定された時間実行する、請求項1〜3のいずれかに記載の車両用空調装置。
【請求項5】
前記熱交換器乾燥手段および前記熱交換器除菌手段のうち少なくとも一つの運転を、少なくとも前記履歴参照湿度が前記所定値Aよりも低い所定値B以下になるまで、あるいは予め定められた一定時間、実行する、請求項1、3、4のいずれかに記載の車両用空調装置。
【請求項6】
前記熱交換器乾燥手段および前記熱交換器除菌手段のうち少なくとも一つの運転を、少なくとも前記熱交換器出口空気温度が前記吸い込み空気露点温度よりも高い温度になるまで、あるいは予め定められた一定時間、実行する、請求項2〜4のいずれかに記載の車両用空調装置。
【請求項7】
前記熱交換器乾燥手段は、外気および車室内空気のうちより湿度が低く乾燥した空気を選択的に前記熱交換器に供給することにより該熱交換器を乾燥させる、請求項1〜6のいずれかに記載の車両用空調装置。
【請求項8】
前記熱交換器乾燥手段は、前記熱交換器を加熱することにより該熱交換器を乾燥させる、請求項1〜6のいずれかに記載の車両用空調装置。
【請求項9】
前記熱交換器除菌手段は、前記熱交換器を加熱することにより、あるいはオゾン、イオン、光触媒、紫外線の少なくとも一つを用いて前記熱交換器を除菌する、請求項1〜8のいずれかに記載の車両用空調装置。
【請求項10】
空調オフ時か否かまたは車両駐車時か否かは、車両エンジンのオン、オフまたは空調装置のオン、オフによって判断する、請求項1〜9のいずれかに記載の車両用空調装置。
【請求項11】
前記吸い込み空気露点温度を推定するために必要な外気湿度は、外気湿度センサによって検知する、請求項2〜4、6〜10のいずれかに記載の車両用空調装置。
【請求項12】
前記吸い込み空気露点温度を推定するために必要な外気湿度は、車両に搭載された外部情報受信装置を介して車両外部から取得する、請求項2〜4、6〜10のいずれかに記載の車両用空調装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−179798(P2010−179798A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−25791(P2009−25791)
【出願日】平成21年2月6日(2009.2.6)
【出願人】(000001845)サンデン株式会社 (1,791)
【Fターム(参考)】