説明

車両用空調装置

【課題】空調運転における圧縮機の運転時間を低減することにより省動力化を図る車両用空調装置を提供する。
【解決手段】車両用空調装置100は、車室内に送風される空気が通る空気通路10aを内部に含む空調ケース10と、空調ケース10内に設けられて、内部を流れる冷媒の吸熱作用により空気通路10aを流れる空気を冷却する蒸発器7と、蒸発器7に対して空気を送風する室内用ブロワ14と、蒸発器7へ冷媒を供給する圧縮機2の作動及び室内用ブロワ14の作動を制御するエアコンECU50と、を備える。エアコンECU50は、蒸発器7の乾燥度合いを判定することができ、イグニッションスイッチがオンである場合の自動空調運転時に、蒸発器7が臭気を感じにくいレベルまで乾燥している乾燥状態であると判定すると、圧縮機2を運転しない制御を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷凍サイクルの構成部品である蒸発器での冷媒の吸熱作用を用いて空気調和を行う車両用空調装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の車両用空調装置の一例として、蒸発器表面での凝縮水が起因する臭気を防止するために、蒸発器の吹出温度と臭気強度との関係に着目して臭気発生防止を図る技術がある(例えば、特許文献1参照)。この特許文献1では、蒸発器吹出温度が11℃(停止制御温度)まで低下すると圧縮機を停止し、23℃まで上昇すると圧縮機を再起動させるという圧縮機の断続制御を行った場合に、蒸発器吹出温度の変動パターンと吹出し空気の臭気強度との関係から蒸発器吹出空気に臭気が発生するタイミングに着目し、このようなタイミングを回避することで臭気発生を回避するものである。
【0003】
具体的には、当該従来の車両用空調装置は、圧縮機の停止時に、蒸発器の冷却度合が高温側へ上昇する過程において、蒸発器表面の凝縮水が乾ききる直前に生じる、蒸発器吹出温度の一時的な低下が生じると、これを判定して、圧縮機を再起動させる。この再起動により、蒸発器の冷媒蒸発潜熱による冷却作用が再開されて、当該吹出温度の一時的低下の開始直後に凝縮水が再度発生し、蒸発器のフィン表面を濡らすようになる。この結果、蒸発器のフィン表面から付着の臭い成分が離脱することを未然に防止でき、吹出し空気への臭気発生を阻止できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−13247号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の車両用空調装置においては、圧縮機を運転する必要がない駐車時等に、蒸発器吹出温度を監視し続け、蒸発器吹出温度のサンプリングの平均値が所定値以上低くなった場合に一時的な温度低下状態であると判定し、圧縮機を起動する。圧縮機の起動によって蒸発器吹出温度は低下し続け、そして、所定の停止制御温度以下に低下すると圧縮機の運転を停止する。このような制御が常に実行されるため、上記従来の車両用空調装置は、圧縮機が高頻度で断続的に動作することによって空調運転における圧縮機の稼動率が結果的に高くなってしまう。このような稼働率の高さは、車両に要求される省動力化の妨げになるという問題がある。
【0006】
そこで、本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、空調運転における圧縮機の運転時間を低減することにより省動力化を図る車両用空調装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記目的を達成するために以下の技術的手段を採用する。なお、特許請求の範囲および下記各手段に記載の括弧内の符号は、ひとつの態様として後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す。
【0008】
請求項1に記載の車両用空調装置に係る発明は、車室内に送風される空気が通る空気通路(10a)を内部に含む空調ケース(10)と、空調ケース内に設けられて、内部を流れる冷媒の吸熱作用により空気通路を流れる空気を冷却する蒸発器(7)と、蒸発器に対して空気を送風する送風手段(14)と、蒸発器へ冷媒を供給する圧縮機(2)の作動及び送風手段の作動を制御する制御装置(50)と、を備え、
当該制御装置は、蒸発器の乾燥度合いを判定し、自動空調運転時に、蒸発器が臭気を感じにくいレベルまで乾燥している乾燥状態であると判定すると、圧縮機を運転しないことを特徴とする。
【0009】
この発明によれば、蒸発器の乾燥度合いの判定に基づいて自動空調運転における蒸発器の当該乾燥状態を認識すると、圧縮機を運転しないことにより、空調運転中で圧縮機を運転する必要のない状況であって当該乾燥状態を満たす場合には強制的に圧縮機を停止するため、圧縮機の稼働率を抑えることができ、圧縮機の運転による消費エネルギーを低減することができる。例えば、冷房や窓曇り防止のための空調運転をあまり必要としないような季節環境では、圧縮機の稼働率を低減できる効果が顕著であり、一層の消費エネルギーの低減が図れる。したがって、省動力化が図れ、さらに当該省動力化による車両全体のエネルギー効率の向上に貢献する車両用空調装置を提供できる。
【0010】
請求項2に記載の発明によると、制御装置は、車両の窓が曇る可能性を判定し、窓曇りの可能性が高いと判定すると車室外の外気を車室内に導入し、その後、さらに窓曇りの可能性が高まると圧縮機を運転することを特徴とする。
【0011】
この発明によれば、窓曇りの可能性が高いと判定した場合は車室内に外気を導入することにより車室内の湿度を低下させて防曇効果を得ることができ、それでもまだ窓曇りの可能性が高まるような場合は、圧縮機を運転することにより速やかに湿度を低下することができる。これにより、防曇を行う必要のあるときでも、まず外気を導入することで、圧縮機の運転時間を抑制するため、窓曇り防止と省動力化の両方を満たす車両用空調装置が得られる。
【0012】
請求項3に記載の発明によると、制御装置は、自動空調運転時に目標吹出温度を算出し、当該算出した目標吹出温度に基づいて冷房運転の要否を判定し、冷房運転が必要であると判定した場合に、車室外の外気を前記車室内に導入し、その後、冷房運転に要する冷房能力がさらに高まると圧縮機を運転することを特徴とする。
【0013】
この発明によれば、冷房運転が必要であると判定した場合は車室内に外気を導入することにより車室内の湿度を低下させて防曇効果を得ることができ、それでもまだ冷房能力を要する場合は、圧縮機を運転することにより速やかに冷房能力を確保することができる。これにより、冷房運転を行う必要のあるときでも、まず外気を導入することで、圧縮機の運転時間を抑制するため、冷房能力確保と省動力化の両方を満たす車両用空調装置が得られる。
【0014】
請求項4に記載の発明によると、空調運転が行われているときに、運転中であることを示す運転表示状態になるエアコン動作表示部(51a)を備え、制御装置は、蒸発器が乾燥状態であると判定して圧縮機を運転しないときには、当該エアコン動作表示部を運転中でないことを示す非運転表示状態にすることを特徴とする。
【0015】
この発明によれば、空調運転中で圧縮機が運転していないときに、当該エアコン動作表示部を非運転表示状態にすることにより、乗員は圧縮機が停止していて除湿効果の低い空調運転の状態であることを認識することができる。このため、乗員は、例えば湿気感を解消したい感じるときには、マニュアル操作によって強制的に圧縮機を運転して除湿効果を得ることができる。したがって、車両全体のエネルギー効率の向上に貢献するとともに乗員にとって使い勝手のよい車両用空調装置を提供できる。
【0016】
請求項5に記載の発明によると、制御装置は、駐車中に送風手段の作動を制御して蒸発器に対して送風を行うことにより、蒸発器が乾燥状態であると判定すると、自動空調運転開始時に圧縮機を運転しないことを特徴とする。
【0017】
この発明によれば、駐車中の蒸発器の乾燥運転により、自動空調運転の開始時に蒸発器をさらに確実に乾燥状態をすることができる。このため、不要な圧縮機の運転を行うことなく、空調運転をスタートさせることができる。したがって、冷房、防曇等のために必要になるまで圧縮機2を停止して、空調に使用するエネルギーの低減が図れるので、省動力化の効果がより大きい車両用空調装置が得られる。
【0018】
請求項6に記載の発明によると、制御装置は、前回の空調運転の終了前に圧縮機が所定の停止時間を超えて停止し、駐車中に送風手段により蒸発器に送風が行われていた場合には、自動空調運転開始時に圧縮機を運転しないことを特徴とする。
【0019】
この発明によれば、駐車中の蒸発器の乾燥運転、及び前回の空調運転の終了前の圧縮機の停止により、次回の自動空調運転の開始時に蒸発器をさらに確実に乾燥状態をすることができる。このため、不要な圧縮機の運転を行うことなく、空調運転をスタートさせることができる。したがって、冷房、防曇等のために必要になるまで圧縮機2を停止して、空調に使用するエネルギーの低減が図れるので、省動力化の効果がより大きい車両用空調装置が得られる。
【0020】
請求項7に記載の発明によると、制御装置は、自動空調運転時の圧縮機の起動後、所定の初期時間内は、吹出口モードをフットモードにすることを特徴とする。この発明によれば、自動空調運転時の圧縮機の起動時に、一時的にフットモードにすることにより、たとえ蒸発器からの臭気成分を含んだ空気が車室内に吹き出されたとしても、乗員に足元付近に噴出されるため、乗員は臭いを感じにくい。これにより、不測の臭気発生が起こったとしても、乗員に対して不快感を与えにくい空調を提供することができる。
【0021】
なお、特許請求の範囲及び上記各手段に記載の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す一例である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】第1実施形態の車両用空調装置100の概略構成を示す模式図である。
【図2】車両用空調装置100の制御に係る構成を示すブロック図である。
【図3】車両用空調装置100のエアコンECU50による基本的な空調制御処理を示したフローチャートである。
【図4】上記空調制御処理における室内用ブロワ電圧決定の処理(ステップ6)を示すフローチャートである。
【図5】上記空調制御処理における吸込口モード決定の処理(ステップ7)を示すフローチャートである。
【図6】上記空調制御処理における吹出口モード決定の処理(ステップ8)を示すフローチャートである。
【図7】上記空調制御処理における圧縮機回転数決定の処理(ステップ9)を示すフローチャートである。
【図8】図7のステップ910でΔfCを求めるための偏差Enと偏差変化率EDOTとの関係を示すマップである。
【図9】上記空調制御処理におけるウォータポンプ作動決定の処理(ステップ10)を示すフローチャートである。
【図10】第2実施形態の室内用ブロワ電圧決定の処理(ステップ6)を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、図面を参照しながら本発明を実施するための複数の形態を説明する。各形態において先行する形態で説明した事項に対応する部分には同一の参照符号を付して重複する説明を省略する場合がある。各形態において構成の一部のみを説明している場合は、構成の他の部分については先行して説明した他の形態を適用することができる。各実施形態で具体的に組み合わせが可能であることを明示している部分同士の組み合わせばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、明示していなくても実施形態同士を部分的に組み合せることも可能である。
【0024】
(第1実施形態)
以下、第1実施形態について図1〜図9を用いて説明する。第1実施形態では、車両用空調装置100をハイブリッド自動車用の空調装置に適用した例について説明する。図1は車両用空調装置100の概略構成を示す模式図である。図2は車両用空調装置100の制御に係る構成を示すブロック図である。
【0025】
ハイブリッド自動車は、ガソリン等の液体燃料を爆発燃焼させて動力を発生させる走行用内燃機関をなすエンジン30、走行補助用電動機機能及び発電機機能を備える走行補助用の電動発電機、エンジン30への燃料供給量や点火時期等を制御するエンジン用電子制御装置(以下、エンジンECU60ともいう)、電動発電機やエンジンECU60等に動力を供給する電池、電動発電機の制御及び無断変速機や電磁クラッチの制御を行うと共にエンジンECU60に制御信号を出力するハイブリッド電子制御装置(以下、ハイブリッドECU70ともいう)を備えている。ハイブリッドECU70は、電動発電機及びエンジン30のいずれの駆動力を駆動輪に伝達するかの駆動切替を制御する機能、及び電池の充放電を制御する機能を備えている。
【0026】
また電池は、車室内空調、走行等によって消費した動力を充電するための充電装置を備えており、充電装置には例えばニッケル水素蓄電池、リチウムイオン電池等が用いられる。この充電装置は、電力供給源としての電気スタンドや商業用電源(家庭用電源)に接続されるコンセントを備えており、このコンセントに電源供給源を接続することにより、電池の充電を行うこともできる。
【0027】
具体的には、以下のような制御を行う。
(1)車両が停止しているときは、基本的にエンジン30を停止させる。
(2)走行中は、減速時を除き、エンジン30で発生した駆動力を駆動輪に伝達する。なお、減速時は、エンジン30を停止させて電動発電機にて発電して電池に充電する(電気走行モード)。
(3)発進時、加速時、登坂時及び高速走行時等の走行負荷が大きいときには、電動発電機を電動モータとして機能させてエンジン30で発生した駆動力に加えて、電動発電機に発生した駆動力を駆動輪に伝達する(ハイブリッド走行モード)。
(4)電池の充電残量が充電開始目標値以下になったときには、エンジン30の動力を電動発電機に伝達して電動発電機を発電機として作動させて電池の充電を行う。
(5)車両が停止しているときに電池の充電残量が充電開始目標値以下になったときには、エンジンECU60に対してエンジン30を始動する指令を発するとともに、エンジン30の動力を電動発電機に伝達する。
【0028】
なお、本願発明は、ハイブリッド自動車の空調装置に限定するものではなく、例えば、軽油、ガソリン等の液体燃料を爆発燃焼させて動力を発生させる走行用内燃機関により駆動される車両、電気自動車等にも適用可能である。
【0029】
車両用空調装置100は、車室内空調運転の実施可能な装置であり、駐車中、例えば乗員の乗車前に室内用ブロワ14を駆動して送風することも可能である。車両用空調装置100は、図1に示すように、車室内に空調空気を導く空気通路10aを形成する空調ケース10、空調ケース10内において空気流を発生させる送風手段としての室内用ブロワ14、空調ケース10内を流れる空気を冷却するための冷凍サイクル1、及び空調ケース10内を流れる空気を加熱するための冷却水回路31、エアコン電子制御装置(以下、エアコンECU50ともいう)等を備える。
【0030】
空調ケース10は、ハイブリッド自動車の車室内の前方付近に設けられている。空調ケース10の最も上流側には、内外気切替箱を構成する部分であり、車室内の空気(以下、内気ともいう)を取り入れる内気吸込口11、及び車室外の空気(以下、外気ともいう)を取り入れる外気吸込口12が形成されている。
【0031】
内気吸込口11及び外気吸込口12の内側には、内外気切替ドア13が回動自在に設けられている。この内外気切替ドア13は、サーボモータ等のアクチュエータにより駆動されて、吸込口モードを内気循環モード、外気導入モード等に切り替えることが可能である。
【0032】
空調ケース10の最も下流側には、吹出口切替箱を構成する部分であり、デフロスタ開口部、フェイス開口部およびフット開口部が形成されている。そして、デフロスタ開口部には、デフロスタダクト23が接続されて、このデフロスタダクト23の最下流端には、車両のフロント窓ガラスの内面に向かって主に温風を吹き出すデフロスタ吹出口18が開口されている。フェイス開口部には、フェイスダクト24が接続されて、このフェイスダクト24の最下流端には、乗員の頭胸部に向かって主に冷風を吹き出すフェイス吹出口19が開口されている。さらに、フット開口部には、フットダクト25が接続されて、このフットダクト25の最下流端には、乗員の足元部に向かって主に温風を吹き出すフット吹出口20が開口されている。
【0033】
各吹出口18,19,20の内側には、2個の吹出口切替ドア21,22が回動自在に取り付けられている。2個の吹出口切替ドア21,22は、サーボモータ等のアクチュエータによりそれぞれ駆動されて、吹出口モードをフェイスモード、バイレベルモード、フットモード、フットデフロスタモードまたはデフロスタモードのいずれに切り替えることが可能である。
【0034】
室内用ブロワ14は、ブロワケース、ファン16、モータ15から構成され、このモータ15への印加電圧に応じて、モータ15の回転速度が決定される。モータ15への印加電圧がエアコンECU50からの制御信号に基づいて制御されることにより、室内用ブロワ14の送風量は制御される。
【0035】
冷凍サイクル1は、インバータ80により回転数制御されて冷媒を圧縮する圧縮機2、圧縮された冷媒を凝縮液化させる凝縮器3、凝縮液化された冷媒を気液分離して液冷媒を下流に流す気液分離器5、液冷媒を減圧膨張させる膨張弁6、減圧膨張された冷媒を蒸発気化させる蒸発器7、及びこれらを環状に接続する冷媒配管等から構成されている。
【0036】
室内用ブロワ14よりも送風空気の下流側における空調ケース10内の空気通路10aには、上流側から下流側に進むにしたがい順に、蒸発器7(冷却用の熱交換器の一例)、エアミックスドア17、ヒータコア34が配置されている。
【0037】
圧縮機2は、内蔵された電動モータにより駆動され、回転数制御が可能であり、回転数に応じて冷媒吐出流量が可変である。圧縮機2はインバータ80により周波数が調整された交流電圧が印加されてその電動モータの回転速度が制御される。インバータ80は車載電池から直流電源の供給を受け、エアコンECU50により制御される。
【0038】
凝縮器3は、エンジンコンパートメント等の車両が走行する際に生じる走行風を受け易い場所に設けられ、内部を流れる冷媒と室外ファン4により送風される外気および走行風とを熱交換する室外熱交換器である。冷却水回路31は、電動のウォータポンプ32によってエンジン30のウォータジャケットで暖められた冷却水を循環させる回路であり、ラジエータ、サーモスタット(いずれも図示せず)及びヒータコア34を有している。このヒータコア34は、内部にエンジン30を冷却する冷却水が流れ、この冷却水を暖房用熱源として空調ケース10を流れる空気を再加熱する。また、水温センサ33は、冷却水回路31を流れる冷却水の水温TWを検出する温度検出手段である。水温センサ33によって検出された信号はエアコンECU50に入力される。
【0039】
蒸発器7は、室内用ブロワ14直後の通路全体を横断するように配置されており、室内用ブロワ14から吹き出された空気全部が通過するようになっている。蒸発器7は、内部を流れる冷媒と空気通路10aを流れる空気との間で熱交換が行われて当該空気を冷却する空気冷却作用及び自身を通過する空気を除湿する空気除湿作用を行う室内熱交換器である。
【0040】
蒸発器7よりも下流側であってヒータコア34よりも上流側の通風路には、蒸発器7を通過した空気を、ヒータコア34を通る空気とヒータコア34を迂回する空気の風量比率を調整できるエアミックスドア17が設けられている。エアミックスドア17は、アクチュエータ等によりそのドア本体の位置を変化させて、空調ケース10内の蒸発器7よりも下流の通路の一部を塞ぐことで、車室内へ吹き出す空気の吹出温度を調整する温度調整手段である。
【0041】
冷媒圧力センサ43は、冷凍サイクル1の高圧側の流路に設けられ、凝縮器3よりも上流の冷媒の高圧圧力、すなわち圧縮機2の吐出圧力Preを検出する。蒸発器温度センサ44は、蒸発器7における所定箇所の温度(本実施形態ではフィン温度)である蒸発器温度TE(蒸発器7に関する温度情報の一つ)を検出する温度検出手段である。蒸発器前空気温度センサ45は、空気通路10aを流れる空気の蒸発器7よりも上流における空気温度である蒸発器前温度TU(蒸発器7に関する温度情報の一つ)を検出する温度検出手段である。蒸発器後空気温度センサ46は、空気通路10aを流れる空気の蒸発器7よりも下流における空気温度である蒸発器後温度TL(蒸発器7に関する温度情報の一つ)を検出する温度検出手段である。蒸発器温度センサ44、蒸発器前空気温度センサ45、蒸発器後空気温度センサ46のそれぞれによって検出された信号はエアコンECU50に入力される。
【0042】
車室内のフロント窓の内面付近には、フロント窓の内面付近の空気の代表的な湿度と温度を検出できる湿度センサ47と温度センサ48が設けられている。湿度センサ47は、感湿膜の誘電率が空気の相対湿度に応じて変化し、それにより、静電容量が空気の相対湿度に応じて変化する容量変化型のものである。温度センサ48は温度に応じて抵抗値が変化するサーミスタである。
【0043】
エアコンECU50は、湿度センサ47の出力値に基づいて、フロント窓付近の車室内空気の相対湿度RHを演算する。すなわち、エアコンECU50は、湿度センサ47の出力値を相対湿度RHに変換するための所定の演算式が予め記憶しており、この演算式に湿度センサ47の出力値を適用することにより、相対湿度RHを演算する。下記の式1は、この湿度演算式の具体例である。
(式1)
RH=αV+β
但し、αは制御係数で、βは定数である。
【0044】
次に、エアコンECU50は、温度センサ48の出力値を予め記憶されている所定の演算式に適用することにより、フロント窓付近の車室内空気温度を演算する。さらに、エアコンECU50は、窓温度センサ49の出力値を予め設定された所定の演算式に適用することにより、窓の温度(窓の室内側表面温度)を演算する。さらに、エアコンECU50は、相対湿度RH、空気温度および窓の温度に基づいて、窓表面相対湿度(窓の室内側表面の相対湿度)RHWを演算する。すなわち、湿り空気線図を用いることにより、相対湿度RHと空気温度と窓の温度とから窓表面相対湿度RHWを演算する。
【0045】
エアコンECU50は、車室内の空調運転を制御するエアコン電子制御装置であり、マイクロコンピュータと、車室内前方に設けられた操作パネル51上の各種スイッチからの信号や、内気センサ40、外気センサ41、日射センサ42、冷媒圧力センサ43、蒸発器温度センサ44、蒸発器前空気温度センサ45、蒸発器後空気温度センサ46、水温センサ33、湿度センサ47、温度センサ48、窓温度センサ49等からセンサ信号が入力される入力回路と、各種アクチュエータに出力信号を送る出力回路と、を備えている。マイクロコンピュータは、ROM(読み込み専用記憶装置)、RAM(読み込み書き込み可能記憶装置)等のメモリおよびCPU(中央演算装置)等から構成されており、操作パネル51等から送信された運転命令に基づいた演算に使用される各種プログラムを有している。
【0046】
また、操作パネル51には、車両用空調装置100が動作しているときに表示状態になるエアコン動作表示部としてのエアコンインジケータ51aが設けられており、エアコンインジケータ51aは、エアコンECU50からの命令信号によって表示状態(例えば点灯状態)または非表示状態(例えば非点灯状態)に制御される。
【0047】
エアコンECU50は、空調運転時に、エアコン環境情報、エアコン運転条件情報及び車両環境情報を受信してこれらを演算し、圧縮機2の設定すべき容量等を算出する。そして、エアコンECU50は、演算結果に基づいてインバータ80に対して制御信号を出力し、インバータ80によって圧縮機2の出力量は制御される。このように乗員による操作パネル51の操作によって、空調装置の運転・停止および設定温度などの操作信号などがエアコンECU50に入力されて各種センサの検出信号が入力されると、エアコンECU50は、エンジンECU60、ハイブリッドECU70等と通信し、各種の演算結果に基づいて、圧縮機2、室内用ブロワ14、室外ファン4、エアミックスドア17、ウォータポンプ32、内外気切替ドア13、吹出口切替ドア21,22等の各機器の運転を制御する。
【0048】
図3は、エアコンECU50による基本的な空調制御処理を示したフローチャートである。図3の基本的な空調制御処理がスタートすると、エアコンECU50は以降の各ステップに係る処理を実行していく。なお、ステップ2からステップ9の処理は250msに1回行われる。
【0049】
(イニシャライズ)
まず、ステップ1でエアコンECU50内のRAM等の記憶されている各パラメータ等を初期化する。
【0050】
(スイッチ信号読み込み)
次に、ステップ2で操作パネル51等からの各種スイッチ信号等を読み込む。
【0051】
(センサ信号読み込み)
次に、ステップ3で上記の各種センサからの信号を読み込む。
【0052】
(TAO算出基本制御)
次に、ステップ4で、ROMに記憶された下記の式2を用いて、車室内に吹き出す空気の目標吹出温度TAOを算出する。
【0053】
(式2)
TAO=Kset×Tset−Kr×Tr−Kam×Tam−Ks×Ts+C
ここで、Tsetは、温度設定スイッチにて設定された設定温度、Trは内気センサ40にて検出された内気温度、Tamは外気センサ41にて検出された外気温度、Tsは日射センサ42にて検出された日射量である。また、Kset,Kr,Kam及びKsは各ゲインであり、Cは全体にかかる補正用の定数である。そして、このTAO及び上記各種センサからの信号により、エアミックスドア17のアクチュエータの制御値及びウォータポンプ32の回転数の制御値等を算出する。
【0054】
(エアミックスドア開度決定)
次に、ステップ5で、ROMに記憶された下記の式3を用いて、エアミックスドア17の開度決定を実行する。
【0055】
(式3)
開度=((TAO−TE)/(TW−TE))×100(%)
式3において、TEは蒸発器温度センサ44が検出する蒸発器温度、TWは水温センサ33が検出する冷却水温度である。
【0056】
(ブロワ電圧決定)
次に、ステップ6のブロワ電圧決定の処理を実施する。このステップ6は、具体的には、図4にしたがって実行し、蒸発器7に対して乾燥を行う乾燥制御の要否により、ブロワ電圧を決定するステップである。図4は、図3のステップ6におけるブロワ電圧決定処理の詳細を示すフローチャートである。このブロワ電圧は、電池の動力により駆動される室内用ブロワ14に印加される電圧である。
【0057】
図4に示すように、本制御がスタートすると、ステップ600で、車両の走行を許可する車両スイッチであるイグニッションスイッチ(以下、IGスイッチと記載することがある)がOFF状態であるか否かを判定する。この車両スイッチは、車両を駆動する駆動手段(エンジン、電動機等)の起動を許可するスイッチである。ステップ600では、IGスイッチがOFF状態であれば駐車中であると判定し、ON状態であれば駐車中以外の状態であると判定するものである。このときIGスイッチがON状態であり、駐車中でないと判定すると、乗員が乗車中の空調運転が行われる可能性が高く、ブロワ電圧は、ステップ605に示すように、予めROMに記憶されている、目標吹出温度TAOとブロワ電圧との関係を表したマップにしたがって決定される。そして、ステップ6のブロワ電圧決定を終了する。このマップによれば、目標吹出温度TAOに対する適正なブロワ電圧を考慮して決定することができる。
【0058】
ステップ600でIGスイッチがOFF状態であると判定すると、さらにステップ610で車両のドアが一旦開いてから閉められた後所定時間(ここでは5分)が経過しているか否かを判定する。この判定により、ドアの開閉動作があることで車内に人がいない可能性が高く、さらに閉じてから5分経過を確認することで乗員がいないことを確実に検出できる。このため、この後、蒸発器7を乾燥する途中で発生する臭いが車内に流出したとしても、人に不快感を与えることがない。この判定は、当該所定時間が経過していると判定するまで繰り返される。
【0059】
そして、当該所定時間が経過していると判定すると、ステップ615で、蒸発器7の乾燥フラグが0であるか否かを判定する。この判定は、駐車前に蒸発器7が結露した可能性があるかを判定する処理であり、前回の処理で、例えば圧縮機2が動作していて当該乾燥フラグを0にする処理が行われていれば、蒸発器7は非乾燥状態であると判定し、逆に圧縮機2が所定の停止時間停止していたり、室内用ブロワ14により蒸発器7に対する乾燥制御が実行されていたりして当該乾燥フラグを1にする処理が行われていれば、蒸発器7は乾燥状態であると判定することになる。ステップ615で当該乾燥フラグが0でないと判定すると、蒸発器7は乾燥状態であると判定し、ステップ650に進み蒸発器7の乾燥フラグを維持し、さらにステップ655でブロワ電圧を0Vに決定してブロワ電圧決定の処理を終了する。この場合は、室内用ブロワ14を運転せず蒸発器7の乾燥運転を行わないため、車両の動力消費を抑制することができる。
【0060】
ステップ615で当該乾燥フラグが0であると判定すると、蒸発器7は非乾燥状態であると判定し、次にステップ620でコンセント等の外部電源からの電力供給があるか(例えばプラグインによる充電状態)否かを判定する。ステップ620で外部からの電力供給がないと判定すると、バッテリあがり等の動力不足を考慮し、ステップ650に進み蒸発器7の乾燥フラグを維持し、さらにステップ655でブロワ電圧を0Vに決定してブロワ電圧決定の処理を終了する。この場合も、室内用ブロワ14を運転せず蒸発器7の乾燥運転を行わない。
【0061】
一方、ステップ620で外部からの電力供給があると判定すると、上記の動力不足を心配することがないため、ステップ625でブロワ電圧を6Vに決定し、室内用ブロワ14のモータ15に6Vを印加する。室内用ブロワ14は6Vに相当する中レベルの風量の送風を蒸発器7に提供し乾燥運転が開始される。なお、車両に対して急速充電が行われている場合は、乗員が短時間で運転動作を再開する可能性が高いため、蒸発器7の乾燥運転を行うと、蒸発器7から発生する臭いが車室内に残ったり、外気の取入れにより車室内温度が低下したりするので、蒸発器7の乾燥運転は行わないようにしてもよい。
【0062】
そしてステップ630で、蒸発器7よりも下流における空気の湿度が80%未満であるか否かを判定する。この空気の湿度は、前述のとおり、湿度センサ47の出力値と上記の式1を用いて算出するフロント窓付近の車室内空気の相対湿度RHと、温度センサ48の出力値と所定の演算式によって演算したフロント窓付近の車室内空気温度と、窓温度センサ49の出力値と所定の演算式によって演算した窓の室内側表面温度と、に基づいて演算される窓表面相対湿度RHWである。このように求めた窓表面相対湿度RHWが80%以上であると判定すると、蒸発器7の結露水がまだ空気中に蒸発しており蒸発器7はまだ乾燥途中であり乾燥しきっていないと判断できるので、ステップ645に進み、乾燥運転開始から所定の乾燥運転時間(例えば1時間)が経過するまで乾燥運転を継続する。そして、所定の乾燥運転時間の乾燥運転が終了すると、ステップ650に進み蒸発器7の乾燥フラグを維持し、さらにステップ655でブロワ電圧を0Vに決定してブロワ電圧決定の処理を終了する。
【0063】
一方、ステップ630で窓表面相対湿度RHWが80%未満であると判定すると、蒸発器7は乾燥状態であると判断できる。このように蒸発器7の下流の空気湿度を乾燥終了の判断材料とするのは、蒸発器7からの結露水の蒸発が終わり、乾燥状態に近づくと、蒸発器7の下流の空気湿度は上流の空気湿度とほぼ同じまで低下するからである。さらに、確実を期して、ステップ635で、蒸発器前温度TUから蒸発器後温度TLを減じた温度差が3℃(第一の所定値)未満であるか否かを判定する。
【0064】
ステップ635の判定処理は、以下の特性に基づくものである。蒸発器7の乾燥が進むに連れて蒸発する水分が少なくなるため、蒸発器7の下流の空気温度は上流の空気温度に近くなる。すなわち、乾燥終了状態に近づくと乾燥度合いが高くなって水分が少なくなり気化熱も奪わなくなるため、蒸発器7の下流の空気温度は蒸発器7の上流の空気温度にほぼ等しくなるように上昇する。したがって、蒸発器7の上流における蒸発器前温度TUと、蒸発器7の下流における蒸発器後温度TLとの温度差が実験データから求められる所定温度差よりも小さくなると、乾燥状態に到達したと判断できるのである。
【0065】
ステップ635で、上記の温度差が第一の所定値未満であると判定すると、蒸発器7の乾燥が完了したとしてステップ640で蒸発器7の乾燥フラグを1にする処理を実行する。さらにステップ655に進みブロワ電圧を0Vに決定して蒸発器7の乾燥運転を終了し、ブロワ電圧決定の処理を終了する。なお、ステップ635で当該温度差が第一の所定値未満であると判定した後、さらに外気を取入れつつ室内用ブロワ14の運転を5分程度継続してから、すなわち車室内の換気をしてから、ステップ640に進むようにしてもよい。このようにすれば、乾燥運転とともに車室内に送られた湿気を車室外に排出でき、乗員に対して車室内の臭い軽減したり、湿気による不快感を回避したりすることができる。
【0066】
一方、ステップ635で上記の温度差が第一の所定値以上であると判定すると、ステップ645に進み、所定の乾燥運転時間の乾燥運転が終了するまで乾燥運転を継続し、ステップ650で蒸発器7の乾燥フラグを維持し、さらにステップ655でブロワ電圧を0Vに決定してブロワ電圧決定の処理を終了する。このように蒸発器7の乾燥運転開始から所定の乾燥運転時間(ここでは1時間)が経過すると、強制的に乾燥運転を終了することにより、消費電力の低減と、室内用ブロワ14のモータ15の運転時間に起因する耐久性の確保とを図ることができる。
【0067】
以上のように、エアコンECU50は、駐車中に、蒸発器7が非乾燥状態である(臭気を感じにくいレベルまで乾燥していない)ときに室内用ブロワ14の作動を制御して蒸発器7に対して送風を行う。この乾燥運転制御により、蒸発器7が乾燥状態であると判定すると、自動空調運転開始のときに圧縮機2を運転しない(後述するステップ9)ようにする。
【0068】
(吸込口モード決定)
次に、ステップ7の吸込口モード決定処理を実施する。このステップ7は、具体的には、図5にしたがって実行する。図5は、図3のステップ7における吸込口モード決定処理の詳細を示すフローチャートである。
【0069】
図5に示すように、ステップ7がスタートすると、ステップ700でIGスイッチがON状態であるか否かを判定する。このときIGスイッチがOFF状態であり、駐車中であると判定すると、ステップ705で吸込口モードを外気導入率100%の外気導入モードに決定し、ステップ7を終了する。このように駐車中に外気導入モードにすることで、車室内に残った湿気が車外に排出され易くなる。例えば、室内用ブロワ14の運転を停止して蒸発器7の乾燥運転を行わない場合でも、外気導入モードを実施することで車室内に湿気がこもらないようにできる。
【0070】
ステップ700でIGスイッチがON状態であると判定すると、次にステップ710でオート運転が設定されているか否かを判定する。ステップ710でオート運転が設定されず、マニュアル運転であると判定すると、ステップ715でマニュアル設定に準じ、内気循環モードの場合は外気導入率0%に決定し、外気導入モードの場合は外気導入率100%に決定して、ステップ7を終了する。
【0071】
ステップ710でオート運転が設定されていると判定すると、ステップ720で圧縮機ONモードであるか否かを判定する。ここでいう圧縮機ONモードとは、蒸発器温度TEが目標温度になるように圧縮機2が制御されている状態のモードであり、実際に圧縮機2が動作しているモードのことではない。例えば、蒸発器温度TEが目標温度を下回っている場合は、圧縮機2は停止しているが、蒸発器温度TEが上昇すれば圧縮機2は起動するため、このような場合は圧縮機ONモードと判定する。
【0072】
ステップ720で圧縮機ONモードであると判定すると、ステップ725でROMに記憶されたマップから目標吹出温度TAOに対応する吸込口モードを決定する。このマップにしたがえば、目標吹出温度TAOが低い温度から高い温度にかけて、内気循環モード、内気と外気の両方を吸い込む内外気導入モード、外気を吸い込む外気導入モードとなるように決定される。
【0073】
ステップ720で圧縮機ONモードでないと判定すると、ステップ730でROMに記憶されたマップから前述の窓表面相対湿度RHWに対応する仮の外気導入率f(RHW)を決定する。つまり、ステップ730では、窓曇りの発生しやすさ(窓表面相対湿度RHW)に応じて、防曇要因での仮の外気導入率(以下、第一の仮の外気導入率ともいう)を演算する。この第一の仮の外気導入率は、窓曇りの可能性が高いほど(RHWが大きいほど)、大きな値に演算されて外気を車室内に多く取入れるように決定される。例えば、ステップ730のマップに示すように、第一の仮の外気導入率f(RHW)は、RHWが80〜90%の間でその増加と共に0から100へ増大する値として求められ、RHWが90%以上では一定値100として求められる。このように、RHWが大きいと、すなわち窓曇りの可能性が高いと、車室内に外気を多く取り入れることになって換気が進むため、車室内温度や湿度が下がる傾向になり、窓曇りの可能性が低減するようになる。ステップ730は、車両の窓が曇る可能性を判定して、窓曇りの可能性があると車室内に外気を導入する処理を行うステップである。
【0074】
なお、外気導入率を高くするため条件は、圧縮機2を運転する条件よりも、満たしやすい条件に設定すれば、防曇のために圧縮機2を運転する頻度を少なくできるので、圧縮機2の稼働率低減による省動力化を図ることができる。
【0075】
ステップ730の後には、外気温度が目標吹出温度TAOより高いか否かを判定する(ステップ735)。外気温度がTAO以下であると判定すると、ステップ740で、ROMに記憶されたマップから蒸発器温度TEとTAOとの温度差に対応して、外気を考慮した外気導入の補正量(外気補正量)を決定する。このマップにより、TEがTAOよりも大きくなるにつれて外気補正量を大きく決定してステップ741の第二の仮の外気導入率f(外気補正)を高くすることができる。このようにして外気補正量を算出して吹出し温度を形成することにより、冷房のために圧縮機2を運転する頻度を少なくできるので、圧縮機2の稼働率低減による省動力化を図ることができる。
【0076】
次にステップ741で、冷房要因での仮の外気導入率(第二の仮の外気導入率f(外気補正))を演算する。第二の仮の外気導入率f(外気補正)は、「先回求められた外気導入率」と「ステップ740で算出した外気補正量」とを足し算して算出される。さらに、ステップ730で算出した「第一の仮の外気導入率f(RHW)」と、ステップ741で算出した「第二の仮の外気導入率f(外気補正)」とを比較し、このうち大きい値の方を今回の外気導入率に決定し(ステップ742)、吸込口モード決定処理を終了する。なお、このステップ741は、4秒に1回更新されるものである。
【0077】
一方、ステップ735で、外気温度がTAOよりも高いと判定すると、ステップ736で、マニュアル操作で圧縮機2が停止しているか否かを判定する。マニュアル操作で圧縮機2が停止していない場合は、ステップ737で外気導入率0%の内気循環モードに決定する。この内気循環モードに決定する処理は、外気温度がTAOよりも高いため、外気導入率を最大限に大きくしても目標吹出温度TAOを作り出すことができないから、後述するステップ9で圧縮機2が動作するように回転数が制御されることに加えて内気循環モードにすることで、圧縮機の吸い込み温度を低減して冷房効率を向上可能とする。
【0078】
マニュアル操作で圧縮機2が停止している場合は、ステップ738で外気導入率100%の外気導入モードに決定する。この外気導入モードに決定する処理は、吹出し温度はTAOよりも高くなるけれども、外気導入率を最大限にすることにより吹出し温度を少しでも低下させることができるものである。
【0079】
以上のように、ステップ7の吸込口モード決定処理は、防曇要因での第一の仮の外気導入率f(RHW)と冷房要因での第二の仮の外気導入率f(外気補正)とを比較し、高い方を選択して外気導入率を決定するため、窓曇り防止及び冷房要求の両方を充足する内外気制御を実現するものである。
【0080】
(吹出口モード決定)
次に、ステップ8の吹出口モード決定処理を実施する。このステップ8は、具体的には、図6にしたがって実行する。図6は、図3のステップ8における吹出口モード決定処理の詳細を示すフローチャートである。
【0081】
図6に示すように、ステップ8がスタートすると、ステップ80でIGスイッチがOFF状態であるか否かを判定する。このときIGスイッチがOFF状態であり、駐車中であると判定すると、ステップ81で吹出口モードをデフロスタモードに決定し、ステップ8を終了する。ステップ700でIGスイッチがON状態であると判定すると、次にステップ82でオート運転が設定されているか否かを判定する。ステップ82でオート運転が設定されず、マニュアル運転であると判定すると、ステップ83でマニュアル設定に準じた吹出口モードに決定して、ステップ8を終了する。
【0082】
ステップ82でオート運転が設定されていると判定すると、ステップ84で圧縮機2がOFFからONになって起動してから所定の初期時間(ここでは15秒)が経過したか否かを判定する。ステップ84で当該所定の初期時間が経過していると判定すると、ステップ86でROMに記憶されたマップから目標吹出温度TAOに対応する吹出口モードを決定して、ステップ8を終了する。このマップにしたがえば、目標吹出温度TAOが低い温度から高い温度にかけて、フェイスモード、バイレベルモード、フットモード、フット/デフロスタモードとなるように決定される。
【0083】
ステップ84で起動後間もなく、当該所定の初期時間がまだ経過していないと判定すると、ステップ85で吹出口モードをフットモードに決定して、ステップ8を終了する。このように圧縮機2の起動から所定の初期時間内に、吹出口モードをフットモードにすることで、蒸発器7の結露等により発生した臭気が車室内に放出された場合でも、乗員の足元付近に臭気は放出されるため、乗員が臭気を感じにくい状況にできる。
【0084】
(圧縮機回転数決定)
次に、ステップ9で圧縮機回転数等の決定を実行する。このステップ9は、圧縮機2の回転数の決定と共に、自動空調運転時に蒸発器7が臭気を感じにくいレベルまで乾燥している乾燥状態であるか否かの判定を行うものである。
【0085】
図7は、図3のステップ9における圧縮機回転数の決定を行うステップを説明するフローチャートである。まず、エアコンECU50は、ステップ9がスタートすると、ステップ900でIGスイッチがOFF状態であるか否かを判定する。このときIGスイッチがON状態であると判定すると、ステップ901で今回の圧縮機2の回転数を0(停止)に決定してステップ9を終了する。
【0086】
ステップ900でIGスイッチがOFF状態であると判定すると、次にステップ902で、蒸発器7の乾燥フラグが1であるか否かを判定する。この判定は、蒸発器7が臭気を感じにくいレベルまで乾燥している乾燥状態であるか否かを判定する処理であり、前回の処理で、当該乾燥フラグを0にする処理が行われていれば蒸発器7は非乾燥状態であると判定し、逆に当該乾燥フラグを1にする処理が行われていれば蒸発器7は乾燥状態であると判定することになる。ステップ902で当該乾燥フラグが1でないと判定すると、蒸発器7は非乾燥状態であると判定し、乗員に臭気を感じられてしまう可能性があるため、ステップ907に進み、エアコンインジケータ51aをONして表示状態にするとともに、f(蒸発器乾燥)=10000(rpm)にして圧縮機2の運転を許可する処理を実行する。
【0087】
ステップ902で当該乾燥フラグが1であると判定すると、蒸発器7は乾燥状態であると判定し、次にステップ903で窓表面相対湿度RHWが95%を超えているか否かを判定する。ステップ903で窓表面相対湿度RHWが95%を超えていると判定すると、ステップ907に進み上記の処理を実行する。
【0088】
ステップ903で窓表面相対湿度RHWが95%以下であると判定すると、窓曇りの可能性が高くないと判断して、次に外気温度が目標吹出温度TAOよりも高いか否かを判定する(ステップ904)。ステップ904は、冷房運転の要否(冷房運転が必要であるか否か)を判定するステップである。外気温度がTAOを超えていると判定すると、外気導入率を最大限にしたとしてもTAOよりも高い吹出し温度しか作り出せないため、冷房運転が必要であると判断し、前述のステップ907で圧縮機2の運転を許可する処理を実行し、圧縮機2を起動するモードに移行する。ステップ904で外気温度がTAO以下であると判定すると、冷房運転が必要でないと判断し、ステップ905でf(蒸発器乾燥)=0(rpm)にして圧縮機2の運転を許可しない処理を実行する。さらにステップ906でエアコンインジケータ51aをOFFして非表示状態にする処理を実行し、ステップ910に進む。
【0089】
このように、ステップ903は、車両の窓が曇る可能性を判定して窓曇りの可能性が非常に高いことを判定するステップであり、ステップ907は窓曇りの可能性が高まると圧縮機2を運転するステップである。また、ステップ904は、目標吹出温度TAOに基づいて冷房運転の要否を判定し、ステップ907は、冷房運転に要する冷房能力がさらに高まると圧縮機2を運転するステップである。
【0090】
ステップ907に続いて、ステップ908で圧縮機2起動時における初回目標回転数の設定が必要であるか否かを判定する。ステップ908の処理が初回である場合は、ステップ909で前回の圧縮機2の回転数を3000(rpm)に設定する処理を実行する。一方、ステップ908の処理が初回でない場合で初回目標回転数の設定が不要であると判定すると、ステップ910に進む。
【0091】
次にステップ910では、各種センサの検出信号を用いて算出した目標蒸発器温度TEOと、実際の蒸発器温度TEとの温度偏差Enを以下の数式4を用いて演算する。
【0092】
(数式4)
En=TEO−TE
さらに、以下の数式5を用いて偏差変化率EDOTを演算する。
【0093】
(数式5)
EDOT=En−En-1
ここで、Enは1秒に1回更新されるため、En-1はEnに対して1秒前の値となる。
【0094】
さらに、エアコンECU50は、算出したEn及びEDOTと、図8に示すマップとを用いて、1秒前の圧縮機2の「回転数変化量ΔfC」を算出する。図8に示すマップは、偏差Enと偏差変化率EDOTとの関係を示すマップであり、予めROMに記憶されている。
【0095】
次にステップ911では、「前回の圧縮機回転数」とステップ910で算出した「回転数変化量ΔfC」との和、及びステップ905またはステップ907で決定した「f(蒸発器乾燥)」を比較し、このうち小さい値の方を、今回の圧縮機の回転数に決定する。すなわち、ステップ902,903,904の各条件を満たし、ステップ905でf(蒸発器乾燥)=0(rpm)と決定した場合には、今回の圧縮機の回転数は0(rpm)になるため、圧縮機2は停止制御されることになる。
【0096】
なお、このステップ911は、1秒に1回更新されるものである。また、この温度偏差En及び偏差変化率EDOTにおける回転数変化量ΔfCは、ROMに記憶された所定のメンバーシップ関数及びルールに基づいて、ファジー制御にて求めるようにしてもよい。
【0097】
次にステップ912では、ステップ911で求めた今回の圧縮機回転数が0であるか否かを判定する。ステップ912は、圧縮機2が停止していて蒸発器7の結露量が増加しない状態か否かを判定するステップであり、ステップ912〜ステップ917では、次回の蒸発器7の乾燥状態を判定するステップ902に影響する重要な処理が行われる。ステップ912で今回の圧縮機回転数が0でないと判定すると、蒸発器7の結露が増加し蒸発器7に対して送風が行われると臭気が発生する可能性が高いと判断して、ステップ913で蒸発器7の乾燥フラグを0にする処理を実行し、圧縮機回転数決定の処理を終了する。
【0098】
一方、今回の圧縮機回転数が0である場合には、蒸発器7の結露が増加しないと判断して、ステップ914で室内用ブロワ14の電圧設定が0(V)よりも大きいか否か、つまり室内用ブロワ14によって蒸発器7に送風が行われているか否かを判定する。室内用ブロワ14の電圧設定が0(V)であれば、蒸発器7の結露はほとんど乾かないと判断して、ステップ916に進み蒸発器7の乾燥フラグを維持し、圧縮機回転数決定の処理を終了する。
【0099】
室内用ブロワ14の電圧設定が0(V)でなく蒸発器7に送風が行われている場合には、次に、ステップ915で圧縮機2の停止状態が所定の停止時間(ここでは15分)以上継続しているか否かを判定する。ステップ915で圧縮機2の停止状態が所定の停止時間継続していないと判定するとステップ916で蒸発器7の乾燥フラグを維持し、圧縮機回転数決定の処理を終了する。圧縮機2の停止状態が所定の停止時間以上継続している場合はと判定すると、蒸発器7に対して送風が行われても、乗員が臭気を感じにくいレベルまで乾燥していると判断してステップ917で蒸発器7の乾燥フラグを1にする処理を実行し、圧縮機回転数決定の処理を終了する。このステップ917の処理により、次回のステップ902での判定は圧縮機2を停止制御し得る処理になる。
【0100】
なお、圧縮機2が乗員のマニュアル操作により、停止設定されている場合は、本ステップ9の処理に関わらず、圧縮機2は強制的に停止することになる。
【0101】
また、車両用空調装置100に用いられる冷凍サイクルが冷媒の流れ方向を切換弁等で切り換えることによって暖房運転サイクル及び冷房運転サイクルに切り換えることが可能なサイクル構成であって、暖房運転サイクルとして機能するように冷媒が循環している場合は、圧縮機2が運転していても蒸発器7の結露は増加しない。したがって、この場合にはステップ912での判定は、必ずYESと判定するものとする。
【0102】
(ウォータポンプ作動決定)
次に、図3のステップ10のウォータポンプ作動決定処理を実施する。このステップ10は、具体的には、図9にしたがって実行する。図9は、図3のステップ10におけるウォータポンプ作動決定処理の詳細を示すフローチャートである。
【0103】
図9に示すように、ステップ10がスタートすると、ステップ100で水温センサ33によって検出される冷却水の水温TWが蒸発器温度TEより高いか否かを判定する。水温TWが蒸発器温度TE以下であると判定すると、ステップ101でウォータポンプ32をOFFする要求を決定し、ステップ10を終了する。
【0104】
ステップ100で水温TWが蒸発器温度TEよりも高いと判定すると、次にステップ102で室内用ブロワ14をON(運転)する状態であるか否かを判定する。室内用ブロワ14をONしない状態であれば、ステップ101に進み、ウォータポンプ32をOFFする要求を決定し、ステップ10を終了する。室内用ブロワ14をONする状態であれば、ステップ103に進み、ウォータポンプ32をONする要求を決定し、ステップ10を終了する。このように、エアコンECU50は、冷却水の水温と室内用ブロワ14の運転及び停止に応じて、電動のウォータポンプ32の作動を決定する。
【0105】
(制御信号出力)
次に、図3のステップ11において、上記各ステップ2〜9で算出または決定された各制御状態が得られるように、インバータ80、各種アクチュエータ等に対して制御信号を出力する。そして、図3のステップ12において所定時間の経過を待って、ステップ2に戻り、継続して各ステップが実行される。
【0106】
本実施形態の車両用空調装置100がもたらす効果を以下に述べる。車両用空調装置100は、車室内に送風される空気が通る空気通路10aを内部に含む空調ケース10と、空調ケース10内に設けられて、内部を流れる冷媒の吸熱作用により空気通路10aを流れる空気を冷却する蒸発器7と、蒸発器7に対して空気を送風する室内用ブロワ14と、蒸発器7へ冷媒を供給する圧縮機2の作動及び室内用ブロワ14の作動を制御するエアコンECU50と、を備える。エアコンECU50は、蒸発器7の乾燥度合いを判定することができ、車両の走行を許可する車両スイッチ(例えば、ハイブリッド自動車、その他の軽油、ガソリン等の液体燃料を使用して駆動力を得る車両の場合にはイグニッションスイッチ)がオンである場合等の自動空調運転時に、蒸発器7が臭気を感じにくいレベルまで乾燥している乾燥状態であると判定すると(ステップ902)、圧縮機2を運転しない制御を行う(ステップ905,911)。
【0107】
これによれば、蒸発器7の乾燥度合いの判定に基づいて自動空調運転における蒸発器7の乾燥状態を認識すると圧縮機2を運転しないことによって、空調運転中で圧縮機2を運転する必要のない状況であって当該乾燥状態を満たす場合には、強制的に圧縮機2を停止するため、圧縮機2の稼働率を抑えて、圧縮機2の運転による消費エネルギーを低減できる。例えば、冷房や窓曇り防止のための空調運転をあまり必要としない季節の空調では、圧縮機2の稼働率を低減できる効果が顕著であり、一層の消費エネルギーの低減が期待できる。また、蒸発器7よりも空気流れの下流に冷却水の熱によって空気を加熱可能な熱交換器(例えばヒータコア)が設けられている場合には、蒸発器7による空気からの吸熱を抑え、ヒータコア入口での空気温度を無駄に下げることがないため、冷却水温度の低下を抑えることができる。これによって、エンジンを運転させる頻度が低下するので、燃料消費を抑えて燃費の向上に貢献できる。したがって、省動力化及び燃費向上によって車両全体のエネルギー効率の向上に貢献する車両用空調装置を提供できる。
【0108】
また、エアコンECU50は、車両の窓が曇る可能性を判定し、窓曇りの可能性が高いと判定すると外気を車室内に導入し(ステップ730)、その後、さらに窓曇りの可能性が高まると圧縮機を運転する制御を実施する(ステップ903,907)。
【0109】
これによれば、空調運転時に窓曇りの可能性が高いと判定した場合は車室内に外気を導入することにより車室内の湿度を低下させて防曇効果を得ることができる。それでもまだ窓曇りの可能性が高まるような場合に圧縮機2を運転することにより、速やかに湿度を低下させる。これにより、防曇を行う必要のあるときでも、まず外気を導入することで、圧縮機2を停止状態にして圧縮機2の運転時間を抑制するため、窓曇り防止と省動力化を両立する空調を提供できる。
【0110】
また、エアコンECU50は、自動空調運転時に算出した目標吹出温度TAOに基づいて冷房運転の要否を判定し(ステップ735,904)、冷房運転が必要であると判定した場合に、外気を前記車室内に導入し(ステップ740〜742)、その後、冷房運転に要する冷房能力がさらに高まると圧縮機を運転する制御を実施する(ステップ907)。
【0111】
これによれば、空調運転時に冷房運転が必要であると判定した場合は車室内に外気を導入することにより車室内の湿度を低下させて防曇効果を得ることができる。それでもまだ冷房能力を要する場合に圧縮機2を運転することにより、冷媒の吸熱作用によって冷房能力を確保する。これにより、冷房運転を行う必要のあるときでも、まず外気を導入することで、圧縮機2を停止状態にして圧縮機2の運転時間を抑制するため、冷房能力確保と省動力化を両立する空調を提供できる。
【0112】
また、車両用空調装置100は、空調運転が行われているときに運転中であることを示す運転表示状態(例えば点灯状態)になるエアコンインジケータ51aを備える。エアコンECU50は、蒸発器7が乾燥状態であると判定して圧縮機2を運転しないときには、エアコンインジケータ51aを運転中でないことを示す非運転表示状態(例えば非点灯状態)にする(ステップ905,906)。
【0113】
これによれば、空調運転中で圧縮機2が運転していないときに、エアコンインジケータ51aが非点灯状態になるので、乗員は圧縮機2が停止していて除湿効果の低い空調運転の状態であることを認識できる。このため、乗員は、例えば、湿気感を解消したいとき、冷房感を得たいとき等には、操作パネル51をマニュアル操作することにより強制的に圧縮機2を運転し、除湿効果、冷房効果等を獲得すればよい。このように、上記の車両全体のエネルギー効率の向上とともに、乗員の好みに応じた使い勝手のよい空調運転を提供することができる。
【0114】
また、エアコンECU50は、駐車中に室内用ブロワ14の作動を制御して蒸発器7に対して送風を行うことにより(ステップ625,640)、蒸発器7が乾燥状態であると判定すると、自動空調運転開始時に圧縮機を運転しないように制御する(ステップ902,905)。
【0115】
これによれば、駐車中の蒸発器7の乾燥運転により、自動空調運転の開始時に蒸発器7の乾燥状態をさらに確実に実現できるため、圧縮機2を運転させないで空調運転を開始することができる。したがって、冷房または防曇のために必要になるまで圧縮機2を停止できるので、省動力化の効果及び省動力化による燃費向上の効果をより大きなものにできる。
【0116】
また、エアコンECU50は、前回の空調運転の終了前に圧縮機2が所定の停止時間を超えて停止し(ステップ915,917)、駐車中に室内用ブロワ14により蒸発器7に送風が行われていた場合(ステップ625,640)には、自動空調運転の開始時に圧縮機2を運転しないように制御する(ステップ902,905)。
【0117】
これによれば、駐車中の蒸発器7の乾燥運転、及び前回の空調運転の終了前の圧縮機2が所定の停止時間以上の停止により、次回の自動空調運転の開始時に蒸発器7の乾燥状態をさらに確実に実現できるため、圧縮機2を運転させないで空調運転を開始することができる。したがって、冷房または防曇のために必要になるまで圧縮機2を停止できるので、省動力化の効果及び省動力化による燃費向上の効果をより大きなものにできる。
【0118】
また、車両用空調装置100では、蒸発器7が乾燥状態でない場合は、駐車中に蒸発器7に対して冷媒供給の停止及び送風を行う(ステップ615,625)。これにより、乗車時の空調運転を行う前に、臭気成分を含む水分を飛ばして蒸発器7を乾燥状態に維持することができるため、乗車時に行われる空調運転開始直後に吹き出される車室内への送風に臭気成分を含んだ水分が混じって車室内に供給されてしまうことを防止できる。したがって、乗車中の空調開始時に臭気を含んだ空調風が車室内に供給されることを抑止し、乗員の不快感を低減することができる。また、駐車中に蒸発器7を乾燥状態に維持して蒸発器7での細菌の繁殖を抑制することができる。これにより、蒸発器7の汚れ、腐食を抑制することができ、その耐久性向上が図れる。
【0119】
また、エアコンECU50は、蒸発器7よりも上流における蒸発器前温度TUと蒸発器7よりも下流における蒸発器後温度TLとの差が第一の所定値未満であるとき蒸発器7が乾燥状態であると判定する(ステップ635,640)。
【0120】
これによれば、上記のように、蒸発器7が乾燥しているときに、上流の蒸発器前温度TUと下流の蒸発器後温度TLとの温度差が所定範囲の小さな値になることに着目し、乾燥運転完了の判断材料とすることにより、乾燥状態の確保と無駄が少なく効率的な運転との両方を実現することができる。
【0121】
(第2実施形態)
第2実施形態では、第1実施形態の基本制御のメインルーチンにおけるブロワ電圧決定処理の第一の他の例を図10にしたがって説明する。
【0122】
本実施形態で説明する処理のフローは、第1実施形態で図4にしたがって説明したフローに対して、ステップ615A及びステップ635Aの各処理が異なっている。その他のステップは第1実施形態と同様である。なお、その他の各構成部品及びこれらの作動、他の制御処理手順については、第1実施形態と同様である。以下に、異なる処理について説明する。
【0123】
図10に示すように、エアコンECU50は、第1実施形態で説明したステップ610でYESと判定すると、次にステップ615Aで、直近のIGがON状態での圧縮機のON時間が所定の運転時間(ここでは5分)を超えているか否かを判定する。この判定により、駐車前に蒸発器7が結露した可能性があるか否かを判定することができる。ステップ615Aで5分以内であると判定すると、ステップ650に進み蒸発器7の乾燥フラグを維持し、さらにステップ655でブロワ電圧を0Vに決定してブロワ電圧決定の処理を終了する。この場合は、室内用ブロワ14を運転せず蒸発器7の乾燥運転を行わないため、車両の動力消費を抑制することができる。
【0124】
室内用ブロワ14の電圧を6(V)に決定した後、ステップ630で窓表面相対湿度RHWが80%未満であると判定すると、蒸発器7は乾燥状態であると判断できる。さらに、確実を期して、ステップ635Aでは、蒸発器前温度TUから蒸発器後温度TLを減じた温度差が3℃(第一の所定値)未満であるか否かを判定する。
【0125】
ステップ635Aの判定処理は、以下の特性に基づくものである。蒸発器7の乾燥が進むに連れて蒸発する水分が少なくなるため、蒸発器7の下流の空気温度は上流の空気温度に近くなる。すなわち、乾燥終了状態に近づくと乾燥度合いが高くなって水分が少なくなり気化熱も奪わなくなるため、蒸発器7の下流の空気温度は蒸発器7の上流の空気温度にほぼ等しくなるように上昇する。したがって、蒸発器7の上流における蒸発器前温度TUと、蒸発器7の下流における蒸発器後温度TLとの温度差が実験データから求められる所定温度差よりも小さくなると、乾燥状態に到達したと判断できるのである。
【0126】
ステップ635Aで、上記の温度差が第一の所定値未満であると判定すると、蒸発器7の乾燥が完了したとしてステップ640で蒸発器7の乾燥フラグを1にする処理を実行する。さらにステップ655に進みブロワ電圧を0Vに決定して蒸発器7の乾燥運転を終了し、ブロワ電圧決定の処理を終了する。なお、ステップ635Aで当該温度差が第一の所定値未満であると判定した後、さらに外気を取入れつつ室内用ブロワ14の運転を5分程度継続してから、すなわち車室内の換気をしてから、ステップ640に進むようにしてもよい。このようにすれば、乾燥運転とともに車室内に送られた湿気を車室外に排出でき、乗員に対して車室内の臭い軽減したり、湿気による不快感を回避したりすることができる。
【0127】
一方、ステップ635Aで上記の温度差が第一の所定値以上であると判定すると、ステップ645に進み、所定の乾燥運転時間の乾燥運転が終了するまで乾燥運転を継続し、ステップ650で蒸発器7の乾燥フラグを維持し、さらにステップ655でブロワ電圧を0Vに決定してブロワ電圧決定の処理を終了する。このように蒸発器7の乾燥運転開始から所定の乾燥運転時間(ここでは1時間)が経過すると、強制的に乾燥運転を終了することにより、消費電力の低減と、室内用ブロワ14のモータ15の運転時間に起因する耐久性の確保とを図ることができる。
【0128】
本実施形態の車両用空調装置100がもたらす効果を以下に述べる。車両用空調装置100のエアコンECU50は、蒸発器7よりも上流における蒸発器前温度TUと蒸発器7の所定箇所の温度である蒸発器温度TEとの差が第一の所定値未満であるとき蒸発器7が乾燥状態であると判定する。
【0129】
これによれば、上記のように、蒸発器7が乾燥しているときに、上流の蒸発器前温度TUと蒸発器温度TEとの温度差が所定範囲の小さな値になることに着目し、乾燥運転完了の判断材料とすることにより、乾燥状態の確保と無駄が少なく効率的な運転との両方を実現することができる。
【0130】
(他の実施形態)
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に何ら制限されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲において種々変形して実施することが可能である。
【0131】
上記実施形態の圧縮機2の回転数は、インバータ80により制御される構成であるが、これに限定されるものではない。例えば、圧縮機2は、エンジン30にベルト駆動されて冷媒を圧縮するものであってもよい。この場合、圧縮機2には、エンジン30から圧縮機2への回転動力の伝達を断続するクラッチ手段としての電磁クラッチが連結されており、この電磁クラッチは、クラッチ駆動回路等により制御される。電磁クラッチが通電された時に、エンジン30の回転動力が圧縮機2に伝達されて、蒸発器7による空気冷却作用が行われ、電磁クラッチの通電が停止した時に、エンジン30と圧縮機2とが遮断され、蒸発器7による空気冷却作用が停止するようになる。
【0132】
また、上記実施形態において、ステップ620の判定処理は、「車両に搭載のバッテリの充電容量が所定量以上か?」に置き換えてもよい。すなわち、当該バッテリの充電容量が所定量以上であると判定するとステップ625に進み、当該バッテリの充電容量が所定量未満であると判定すると、ステップ650に進むことになる。この判定処理は、プラグイン充電タイプのハイブリッド自動車以外の車両について適用可能である。
【0133】
また、上記実施形態のヒータコア34の後方にさらに空気を加熱できる電気式補助熱源としてPTCヒータ(positive temperature coefficient)を設けるようにしてもよい。このPTCヒータは、通電発熱素子部を備え、通電発熱素子部に通電されることによって発熱し、周囲の空気を暖めることができる。この通電発熱素子部は、耐熱性を有する樹脂材料(例えば、66ナイロンやポリブタジエンテレフタレートなど)で成形された樹脂枠の中に複数個のPTC素子を嵌め込むことにより構成したものである。
【符号の説明】
【0134】
2…圧縮機
7…蒸発器
10…空調ケース
10a…空気通路
14…室内用ブロワ(送風手段)
50…エアコンECU(制御装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車室内に送風される空気が通る空気通路(10a)を内部に含む空調ケース(10)と、前記空調ケース内に設けられて、内部を流れる冷媒の吸熱作用により前記空気通路を流れる前記空気を冷却する蒸発器(7)と、前記蒸発器に対して空気を送風する送風手段(14)と、前記蒸発器へ冷媒を供給する圧縮機(2)の作動及び前記送風手段の作動を制御する制御装置(50)と、を備え、
前記制御装置は、
前記蒸発器の乾燥度合いを判定し、
自動空調運転時に、前記蒸発器が臭気を感じにくいレベルまで乾燥している乾燥状態であると判定すると、前記圧縮機を運転しないことを特徴とする車両用空調装置。
【請求項2】
前記制御装置は、
車両の窓が曇る可能性を判定し、
前記窓曇りの可能性が高いと判定すると前記車室外の外気を前記車室内に導入し、その後、さらに前記窓曇りの可能性が高まると前記圧縮機を運転することを特徴とする請求項1に記載の車両用空調装置。
【請求項3】
前記制御装置は、
自動空調運転時に目標吹出温度を算出し、当該算出した目標吹出温度に基づいて冷房運転の要否を判定し、
前記冷房運転が必要であると判定した場合に、前記車室外の外気を前記車室内に導入し、その後、前記冷房運転に要する冷房能力がさらに高まると前記圧縮機を運転することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の車両用空調装置。
【請求項4】
空調運転が行われているときに、運転中であることを示す運転表示状態になるエアコン動作表示部(51a)を備え、
前記制御装置は、前記蒸発器が前記乾燥状態であると判定して前記圧縮機を運転しないときには、前記エアコン動作表示部を運転中でないことを示す非運転表示状態にすることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の車両用空調装置。
【請求項5】
前記制御装置は、駐車中に前記送風手段の作動を制御して前記蒸発器に対して送風を行うことにより、前記蒸発器が前記乾燥状態であると判定すると、自動空調運転開始時に前記圧縮機を運転しないことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の車両用空調装置。
【請求項6】
前記制御装置は、前回の空調運転の終了前に前記圧縮機が所定の停止時間を超えて停止し、駐車中に前記送風手段により前記蒸発器に送風が行われていた場合には、自動空調運転開始時に前記圧縮機を運転しないことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の車両用空調装置。
【請求項7】
前記制御装置は、自動空調運転時の前記圧縮機の起動後、所定の初期時間内は、吹出口モードをフットモードにすることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の車両用空調装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−63251(P2011−63251A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−218237(P2009−218237)
【出願日】平成21年9月21日(2009.9.21)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】